特許異議申立
2025-700666
宇宙船推進システム及び操作方法
- 審判番号
- 2025-700666
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-522957
- 登録番号
- 7607761
- 請求日
- 2025年06月26日
- 審決日
- 2026年06月04日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】アイサイ オサケユキチュア
- 【権利者代理人】▲吉▼田 和彦
- 【権利者代理人】須田 洋之
- 【権利者代理人】山崎 一夫
- 【権利者代理人】山本 泰史
- 【権利者代理人】鈴木 博子
- 【権利者代理人】渡邊 誠
- 【異議申立人】佐藤 義光
- 審判長/審判官
- 審判長 田村 耕作
- 審判官 草野 顕子
- 審判官 高橋 学
- 分類
- P1651.113-YAA(B64G) / P1651.121-YAA(B64G) / P1651.537-YAA(B64G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7607761号発明「宇宙船推進システム及び操作方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7607761号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
特許第7607761号の請求項1~14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7607761号(以下「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)10月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2020年10月15日、英国(GB))を国際出願日とする出願であって、令和6年12月19日にその特許権の設定登録がされ、同年12月27日に特許掲載公報が発行された。
その後、特許異議申立人佐藤義光(以下「申立人」という。)による特許異議の申立てがされた。
本件特許についての申立人による本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和7年 6月26日 :特許異議の申立て(請求項1~14)の提出
同年 8月28日 :特許異議申立書に対する手続補正書(方式)の提出
同年11月20日付け:取消理由通知書
令和8年 2月24日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 4月 9日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和8年2月24日提出の訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記電子源をオフ状態からオン状態に漸進的にランプアップする」と記載されていたのを、
「前記電子源をオフ状態からオン状態に、前記電子源が、制御されることなく通常スイッチオンするのにかかる時間よりも長い時間をかけて漸進的にランプアップする」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~14も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記電子源をオン状態からオフ状態に漸進的にランプダウンする」と記載されていたのを、
「前記電子源をオン状態からオフ状態に、前記電子源が、制御されることなく通常スイッチオフするのにかかる時間よりも長い時間をかけて漸進的にランプダウンする」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~14も同様に訂正する。)。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1における「前記電子源をオフ状態からオン状態に漸進的にランプアップする」ことに関して、「ランプアップする」のに要する時間が、「電子源が、制御されることなく通常スイッチオンするのにかかる時間よりも長い時間」であることを特定するものである。
そうすると、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項1は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)における段落【0049】~【0053】、【0064】、及び図9の記載に基づくものであり、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を行うものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、本件訂正前の請求項1における「前記電子源をオン状態からオフ状態に漸進的にランプダウンする」ことに関して、「ランプダウンする」のに要する時間が、「電子源が、制御されることなく通常スイッチオフするのにかかる時間よりも長い時間」であることを特定するものである。
そうすると、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項2は、本件明細書等における段落【0049】~【0054】、【0064】、及び図9の記載に基づくものであり、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を行うものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
3 一群の請求項
本件訂正前の請求項1~14について、請求項2~14は、それぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正前の請求項1~14に対応する本件訂正後の請求項1~14は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
4 小括
以上のとおり、訂正事項1及び2に係る本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。さらに、訂正事項1及び2に係る本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正後の発明
前記第2で説示したように本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1~14に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などという。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも1基のスラスタを備えた宇宙船推進システムの操作方法であって、前記少なくとも1基のスラスタは、前記宇宙船を推進するためのイオン流を生成するためのイオン源と、電子を放出するための電子源とを備え、前記方法は、前記電子源を制御して電子の生成を抑制し、前記電子源をオフ状態からオン状態に、前記電子源が、制御されることなく通常スイッチオンするのにかかる時間よりも長い時間をかけて漸進的にランプアップする及び/又は前記電子源をオン状態からオフ状態に、前記電子源が、制御されることなく通常スイッチオフするのにかかる時間よりも長い時間をかけて漸進的にランプダウンすることで前記少なくとも1基のスラスタを操作することを含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1基のスラスタの前記イオン源を制御して、前記電子源がオン状態になった後にイオン生成を開始すること、及び/又は前記電子源を制御して、前記イオン源がオフ状態になった後にランプダウンを開始することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イオン源を制御して、前記イオン源のオフ状態からオン状態に漸進的にランプアップする及び/又は前記イオン源のオン状態からオフ状態に漸進的にランプダウンするために前記イオン生成を抑制することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ランプアップ及び/又は前記ランプダウンが、1秒より長い、任意には5秒又は10秒より長い期間を有する、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記ランプアップ及び/又は前記ランプダウンが、10分より短い、任意には2分又は1分より短い期間を有する、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記推進システムが複数基のスラスタを備え、各々は前記宇宙船を推進するイオンを供給するためのイオン源と、少なくとも1基の電子源を備え、前記方法は、請求項1から5のいずれか1つに記載の方法に従って各スラスタを操作することを含む、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記イオン源の前記操作を制御して、全ての前記スラスタの前記電子源がオン状態になった後に開始することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記各スラスタの前記イオン源を制御して、1つずつ、任意に1台がオン状態に達した後に操作を開始することを含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記各スラスタの前記電子源を制御して、1つずつ、任意に1台がオン状態に達した後に操作を開始することを含む、請求項6、7又は8に記載の方法。
【請求項10】
全ての前記スラスタを駆動するための前記電子源を制御して、全ての前記イオン源を操作し終わった後、任意に1つずつ操作が終了した後に操作を継続することを含む、請求項6から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記各スラスタの前記イオン源を制御して、1つずつ、任意に1台がオフ状態に達した後に操作を終了することを含む、請求項6から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
イオンでなく電子を生成するために追加のスラスタを操作し、前記追加のスラスタの前記電子源を操作して、前記スラスタを駆動するためにいずれかの前記イオン源又は前記電子源の前記操作前に開始する、及び/又は前記スラスタを駆動するために全ての前記イオン源又は全ての前記電子源の操作終了後に終了することを含む、請求項6から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1基のスラスタを備える宇宙船推進システムであって、前記少なくとも1基のスラスタは、前記宇宙船を推進するイオン流を生成するためのイオン源、及び少なくとも1基の電子源、並びに請求項1から12のいずれか1つに記載の方法に従って前記推進システムを操作するように構成されたコントローラを備える、システム。
【請求項14】
宇宙船推進システムコントローラ内のプロセッサ内に実装された場合、請求項1から12のいずれか1つに記載の方法に従って前記推進システムを操作する命令を含むコンピュータ読み取り可能媒体。」
第4 取消理由通知書で通知した取消理由について
本件訂正前の本件特許に対して、当審において令和7年11月20日付けの取消理由通知書で特許権者に通知した取消理由は、次のとおりである。
1.(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2.(新規性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
3.(進歩性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
1 引用文献一覧
甲第1号証:David Krejci et al,”Recent flight data from IFM Nano Thrusters in a low earth orbit”,IEPC-2019-A724,the 36th International Electric Propulsion Conference,September 15-20,2019,p1-11
以下、申立人の提出した甲第○号証を甲○といい、請求項○に係る発明を本件発明○という。
2 取消理由、請求項、及び引用文献の関係
(1)理由1(サポート要件)
本件発明1には、電子源をスイッチオンするのにかかる時間でランプアップするものや、電子源をスイッチオフするのにかかる時間でランプダウンするものも含まれているといえるので、本件発明1は、課題を解決しないものも含まれていると認められる。
したがって、請求項1には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、同様に、本件発明1を引用する本件発明2~14も、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(2)理由2(新規性)及び理由3(進歩性)
・請求項 1~5、13、14
引用文献 甲1
(3)理由3(進歩性)
・請求項 6、13、14
引用文献 甲1
第5 当審の判断
1 理由1(サポート要件)について
本件明細書等の段落【0004】及び【0038】から、本件特許の解決しようとする課題は、「多量の負に帯電した電子を放出すること」による「宇宙船の急速な帯電」に起因する、「軌道を周回する衛星」の「操作中のコンポーネントへの損傷を最小化すること」であると認められるところ、本件明細書等の段落【0049】~【0054】及び【0064】の記載から、前述の課題の解決には、「電子源」が「オフ状態からオン状態に漸進的にランプアップするように電子生成を抑制するように制御」すること、又は「電子源」が「オン状態からオフ状態に漸進的にランプダウンするよう」に制御すること、かつ、「ランプアップ」及び「ランプダウン」の期間が「電子源をスイッチオンするのにかかる時間より長く、」「電子源のハードウェアの制約を超えて電子生成」が「抑制される」ことが必要であると認められる。
一方、本件発明1は、「前記方法は、前記電子源を制御して電子の生成を抑制し、前記電子源をオフ状態からオン状態に、前記電子源が、制御されることなく通常スイッチオンするのにかかる時間よりも長い時間をかけて漸進的にランプアップする」「ことで前記少なくとも1基のスラスタを操作することを含む」との発明特定事項を有すものである。
ここで、該発明特定事項における「制御されることなく通常スイッチオンする」との事項から、「通常スイッチオン」が「制御されることなく」行われることが理解できるので、この「制御」は、「通常」の「スイッチオン」を行うような制御を含むものではないことが理解できる。
そして、本件発明1において、「制御」に関しては、「前記電子源を制御して電子の生成を抑制し」との事項が特定されているだけであるので、「制御されることなく通常スイッチオンする」との事項における「制御」も、「前記電子源を制御して電子の生成を抑制し」との事項における「制御」と同じものを意味していると解するのが相当である。
そうすると、前記発明特定事項は、「前記方法は、前記電子源を制御して電子の生成を抑制し、前記電子源をオフ状態からオン状態に」「漸進的にランプアップする」「ことで前記少なくとも1基のスラスタを操作することを含」み、また、「漸進的にランプアップする」ことは、「前記電子源を制御して電子の生成を抑制」することなく「前記電子源が、」「通常スイッチオンするのにかかる時間よりも長い時間をかけて漸進的にランプアップする」ことを示していると理解することができる。
また、このような理解は、本件発明1の「前記方法は、」「前記電子源をオン状態からオフ状態に、前記電子源が、制御されることなく通常スイッチオフするのにかかる時間よりも長い時間をかけて漸進的にランプダウンすることで前記少なくとも1基のスラスタを操作することを含む」との発明特定事項についても同様である。
そして、このような本件発明1の解釈は、本件明細書等の段落【0049】~【0054】、【0064】、及び図9の記載と矛盾するものでもない。
したがって、本件発明1は、単に、電子源をスイッチオンするのにかかる時間でランプアップするものや、単に、電子源をスイッチオフするのにかかる時間でランプダウンするものを含むものではなく、前述の課題を解決するための手段が反映されたものであると認められる。
以上のとおりであるから、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~14は、発明の詳細な説明に記載したものである。
2 理由2(新規性)及び理由3(進歩性)について
(1)甲1について
ア 認定事項
甲1の2ページ1~9行、17~28行、4ページ10~16行、7ページ1~7行、表2、並びに図9及び10から、甲1には、以下の事項が示されていると認められる。なお、括弧内は、申立人が提出した翻訳文の参照箇所を示す。
(ア)2ページ1~9行(3ページ1行~11行)及び4ページ9~15行(7ページ7行~8ページ3行)の記載から、ICEYE X2衛星に搭載された4基のIFMナノスラスタは、イオンを放出して推力を得る液体金属システムである。
(イ)2ページ1~9行(3ページ1行~11行)、2ページ17~28行(4ページ1行~11行)、4ページ9~15行(7ページ7行~8ページ3行)及び表2、並びに7ページ1~7行(13ページ1~7行)の記載から、各IFMナノスラスタは、インジウムイオンを静電的に引き出して高速度で加速し、推力を生成するイオンエミッタと、衛星の帯電を抑えるためのニュートラライザと、パワープロセッシングユニットと、を備える。
(ウ)7ページ1~7行(13ページ1~7行)及び図10の記載から、4基のIFMナノスラスタのうちのIFMナノスラスタ06.02の電流制御モードでの3回連続噴射試験方法において、ニュートラライザビーム電流は、ニュートラライザビーム電流リファレンスに沿うように制御され、0mAの状態から設定値である5mAの状態まで、約50秒をかけて漸増する。
(エ)2ページ17~28行(4ページ1行~11行)、7ページ1~7行(13ページ1~7行)及び図9の記載から、図9のエミッタ電流は、IFMナノスラスタ06.02のイオンエミッタ電流であるといえる。
そうすると、図9及び10の記載から、ニュートラライザビーム電流が5mAに上昇してから、イオンエミッタの通電を開始することが看取できる。
(オ)前記(エ)及び図9から、イオンエミッタ電流は、0mAの状態から、約200秒かけて3mAまで漸増した後、設定値の2mAの状態まで段階的に減少する。
イ 甲1に記載された発明
前記アから、甲1には、以下の各発明(以下「甲1発明1」などという。また、各発明を総称して「甲1発明」という。)が記載されていると認められる(括弧内に、根拠箇所を示した。)。
(ア)甲1発明1
「ICEYE X2衛星に搭載された4基のIFMナノスラスタは、イオンを放出して推力を得る液体金属システムであり(前記ア(ア))、
前記各IFMナノスラスタは、インジウムイオンを静電的に引き出して高速度で加速し、推力を生成するイオンエミッタと、衛星の帯電を抑えるためのニュートラライザと、を備え(前記ア(イ))、
前記4基のIFMナノスラスタのうちのIFMナノスラスタ06.02の電流制御モードでの3回連続噴射試験方法において、ニュートラライザビーム電流は、ニュートラライザビーム電流リファレンスに沿うように制御され、0mAの状態から設定値である5mAの状態まで、約50秒をかけて漸増し、前記ニュートラライザビーム電流が5mAに上昇してから、前記イオンエミッタの通電を開始する(前記ア(ウ)、(エ))、方法。」
(イ)甲1発明3
甲1発明1を含み、更に、次の事項を備えた甲1発明3。
「前記方法において、前記イオンエミッタ電流は、0mAの状態から、約200秒かけて3mAまで漸増した後、設定値の2mAの状態まで段階的に減少する(前記ア(オ))。」
(ウ)甲1発明13
甲1発明1及び3を含み、更に、次の事項を備えた甲1発明13。
「イオンを放出して推力を得る液体金属システムであり、前記ICEYE X2衛星に搭載された4基の前記IFMナノスラスタであって、
前記各IFMナノスラスタは、インジウムイオンを静電的に引き出して高速度で加速し、推力を生成する前記イオンエミッタと、衛星の帯電を抑えるための前記ニュートラライザと、パワープロセッシングユニットと、を備え、前記方法が行われるシステム(前記ア(イ))。」
(エ)甲1発明14
甲1発明1、3、及び13を含み、更に、次の事項を備えた甲1発明14。
「前記方法が行われる前記IFMナノスラスタが備えるパワープロセッシングユニット(前記ア(イ))。」
(2)本件発明1について(理由2及び3)
ア 対比
本件発明1と甲1発明1を対比する。
(ア)後者の「IFMナノスラスタ」は、前者の「スラスタ」に相当し、後者の「ICEYE X2衛星」は、前者の「宇宙船」に相当する。
そして、後者の「4基のIFMナノスラスタ」を「搭載」した「ICEYE X2衛星」は、前者の「少なくとも1基のスラスタを備えた宇宙船」に相当し、後者の「イオンを放出して推力を得る液体金属システムであ」る「4基のIFMナノスラスタ」は、前者の「少なくとも1基のスラスタを備えた」「推進システム」に相当する。
そうすると、後者の「イオンを放出して推力を得る液体金属システムであ」る「ICEYE X2衛星に搭載された4基のIFMナノスラスタ」は、前者の「少なくとも1基のスラスタを備えた宇宙船推進システム」に相当する。
(イ)後者の「前記各IFMナノスラスタ」は、前者の「前記少なくとも1基のスラスタ」に相当する。
(ウ)後者の「インジウムイオンを静電的に引き出して高速度で加速し、推力を生成する」ことは、前者の「前記宇宙船を推進するためのイオン流を生成する」ことに相当するので、後者の「インジウムイオンを静電的に引き出して高速度で加速し、推力を生成するイオンエミッタ」は、前者の「前記宇宙船を推進するためのイオン流を生成するためのイオン源」に相当する。
(エ)後者の「衛星の帯電を抑えるためのニュートラライザ」は、正イオンである「インジウムイオン」の放出によって、「衛星の」負の「帯電を抑えるため」に電子を放出することが明らかなので、前者の「電子を放出するための電子源」に相当する。
(オ)後者の「電流制御モードでの」「ニュートラライザビーム電流は、ニュートラライザビーム電流リファレンスに沿うように制御され」ることは、「IFMナノスラスタ」の「ニュートラライザ」を操作していることは明らかなので、前者の「前記電子源を制御し」、「前記少なくとも1基のスラスタを操作すること」に相当する。
そして、後者の「漸増」することは、前者の「漸進的にランプアップする」ことに相当し、後者の「ニュートラライザビーム電流」の「0mAの状態から設定値である5mAの状態」は、前者の「前記電子源」の「オフ状態からオン状態」に相当する。
そうすると、後者の「電流制御モードでの」「ニュートラライザビーム電流は、ニュートラライザビーム電流リファレンスに沿うように制御され、0mAの状態から設定値である5mAの状態まで、約50秒をかけて漸増」することと、前者の「前記電子源を制御して電子の生成を抑制し、前記電子源をオフ状態からオン状態に、前記電子源が、制御されることなく通常スイッチオンするのにかかる時間よりも長い時間をかけて漸進的にランプアップする及び/又は前記電子源をオン状態からオフ状態に、前記電子源が、制御されることなく通常スイッチオフするのにかかる時間よりも長い時間をかけて漸進的にランプダウンすること」は、「前記電子源を制御し、前記電子源をオフ状態からオン状態に漸進的にランプアップする及び/又は前記電子源をオン状態からオフ状態に漸進的にランプダウンすることで前記少なくとも1基のスラスタを操作すること」で共通する。
(カ)以上の限りにおいて、後者の「前記4基のIFMナノスラスタのうちのIFMナノスラスタ06.02の電流制御モードでの3回連続噴射試験方法」は、前者の「少なくとも1基のスラスタを備えた宇宙船推進システムの操作方法」、「方法」、及び「前記方法」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、
「少なくとも1基のスラスタを備えた宇宙船推進システムの操作方法であって、前記少なくとも1基のスラスタは、前記宇宙船を推進するためのイオン流を生成するためのイオン源と、電子を放出するための電子源とを備え、前記方法は、前記電子源を制御し、前記電子源をオフ状態からオン状態に漸進的にランプアップする及び/又は前記電子源をオン状態からオフ状態に漸進的にランプダウンすることで前記少なくとも1基のスラスタを操作することを含む、方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
電子源の制御に関して、本件発明1は、前記電子源を制御して「電子の生成を抑制」するのものであり、それゆえに、前記電子源が、「制御されることなく通常スイッチオンするのにかかる時間よりも長い時間をかけて」漸進的にランプアップし、「及び/又は」、前記電子源が、「制御されることなく通常スイッチオフするのにかかる時間よりも長い時間をかけて」漸進的にランプダウンするのに対して、甲1発明1は、電流制御モードでのニュートラライザビーム電流の制御であり、ニュートラライザビーム電流の漸増に要する時間について、かかる特定がされていない点。
イ 相違点についての検討
相違点1は、実質的な相違点であるので、本件発明1は、甲1発明1ではない。
そして、本件発明1における「漸進的にランプアップする」ことの解釈については、前記1で述べたとおりである。
一方、甲1には、電流制御モードにおいて、ニュートラライザビーム電流が0mAから5mAまで約50秒かけて漸増することに関して、この漸増に要する時間が、ニュートラライザに対して電子の生成を抑制するための制御が行われたことによって生じるものであり、また、電子の生成を抑制する制御を行わない場合における電流制御モードでのニュートラライザビーム電流の0mAから5mAまで増加するのに要する時間よりも長い時間である、ということを理解できるような記載や示唆はない。
そうすると、甲1発明1において、電流制御モードにおけるニュートラライザビーム電流の0mAから5mAまでの漸増に要する時間は、電流制御モードにおいて、ニュートラライザビームに電流を流した場合において、自然に発生するものであると解するのが妥当である。
また、申立人が提出した他の証拠(甲2)においても、宇宙船のスラスタの制御において、電子源に対する電子の生成を抑制するための制御によって、電子源が制御されることなく通常スイッチオンするのにかかる時間よりも長い時間をかけて漸進的にランプアップ及びランプダウンすることについては、記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明1において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
よって、本件発明1は、甲1発明1ではなく、また、本件発明1は、甲1発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~6、13、及び14について(理由2及び3)
本件発明2~6、13、及び14は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を付加したものである。
そうすると、前記(2)イと同様の理由により、本件発明2は、甲1発明1ではなく、また、甲1発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明3~5は、甲1発明3ではなく、また、本件発明3~6は、甲1発明3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、そして、本件発明13は、甲1発明13ではなく、また、甲1発明13に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、更に、本件発明14は、甲1発明14ではなく、甲1発明14に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 意見書について
(1)令和8年2月24日提出の特許権者の意見書(以下「意見書(特許権者)」という。)について
特許権者は、意見書(特許権者)において、甲1発明の認定に関して、図10のテレメトリは、ステップ(iii)においてビーム電流が5mAに達したことが確認された後になって、初めて記録され始めていることが本件発明者によって確認されている。従って、ニュートラライザ電流を5mAに設定してから約50秒の間(時刻t1からt2の間)の図10のグラフの黄色線は、単に、時刻t1と時刻t2の2点の間を線形補間したものであり、実際に測定された電流値を示すものではない。従って、図10のグラフの黄色線を電子源が漸進的にランプアップしたことを表すと解釈することは誤りであり、時刻t1~t2の間に電流が実際にどう変化していたかは示されていない旨、及び証拠に示された図面から数値を読み取ったとしても、その数値が証拠に開示されているとは取り扱わないことが、審判手続等における一般的なプラクティスである旨を主張する。
しかしながら、甲1には、図10において、時刻t1~t2の間を線形補間したという旨の記載はない。
したがって、意見書(特許権者)における特許権者の主張を採用することはできない。
(2)令和8年4月9日提出の申立人の意見書(以下「意見書(申立人)という。」)について
申立人の、意見書(申立人)における主張の概要は、以下のとおりである。
ア 本件訂正後の請求項1における「電子源が、制御されることなく通常スイッチオンするのにかかる時間よりも長い時間をかけて漸進的にランプアップする」も、RC時定数回路による遅延、基準電圧のランプ生成(オペアンプ積分器)、専用のパワーマネジメントICと行うハードウェアで実現可能であり、依然として、ハードウェア構成による手段も包含するから、特許異議申立書42頁27~34行に記載した取消理由4(サポート要件)について依然として解消されていない。
イ 本件訂正後の請求項1の「制御されることなく通常スイッチオンするのにかかる時間よりも長い時間」という記載について、本件明細書の段落【0066】の記載、及び請求項4及び5の記載を参酌すると、「制御されることなく通常スイッチオンするのにかかる時間よりも長い時間」は、「1秒よりも長い、任意には5秒又は10秒よりも長い期間」であり、「10分よりも短い、任意には2分又は1分よりも短い期間」であれば、該当すると考えられる。そのため、甲1発明における「ニュートラライザビーム電流は、」「0mAの状態から設定値である5mAの状態まで、約50秒かけて漸増」することは、訂正発明1の「制御されることなく通常スイッチオンするのにかかる時間よりも長い時間」に相当する。
また、宇宙船推進システムを構成する電子源としても使用される汎用品の熱電子放出型の電子源において、電子源を制御して電子の生成を抑制し、電子源をオフ状態 からオン状態に、電子源が、制御されることなく通常スイッチオンするのにかかる時間よりも長い時間をかけて漸進的にランプアップすることは、電子源に関する業界誌やユーザマニュアルに発表されており、例を示すまでもなく周知技術である。
前記各主張について検討するに、前記主張アについては、前記1で述べたように、本件発明1は、本件特許における課題を解決するための手段が反映されたものであり、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~14は、発明の詳細な説明に記載したものであると認められる。
また、前記主張イについてであるが、本件発明1における「制御されることなく通常スイッチオンするのにかかる時間よりも長い時間」の解釈については、前記1で述べたとおりであるところ、前記2(2)イで述べたとおり、甲1発明1における0mAから5mAまで約50秒かかるニュートラライザビーム電流の漸増は、電流制御モードにおいて、自然に発生するものであり、電子の生成を抑制するための制御が行われたことによるものではないと解するのが妥当である。
そうすると、甲1発明1は、本件発明1の「前記電子源を制御して電子の生成を抑制し、前記電子源をオフ状態からオン状態に、前記電子源が、制御されることなく通常スイッチオンするのにかかる時間よりも長い時間をかけて漸進的にランプアップする」との発明特定事項を有するものではない。
そして、宇宙船推進システムを構成する電子源としても使用される汎用品の熱電子放出型の電子源において、電子源を制御して電子の生成を抑制し、電子源をオフ状態からオン状態に、電子源が、制御されることなく通常スイッチオンするのにかかる時間よりも長い時間をかけて漸進的にランプアップすることが周知技術であると認められる程の証拠はない。
以上のとおりであるから、申立人の主張を採用することはできない。
4 小括
以上のとおり、本件発明1~14は、発明の詳細な説明に記載したものであり、本件特許にかかる出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
したがって、取消理由通知で通知した取消理由1によって、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件発明1~5、13、及び14は、甲1発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、請求項1~5、13、及び14に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
したがって、取消理由通知で通知した取消理由2によって、本件特許の請求項1~5、13、及び14に係る特許を取り消すことはできない。
そして、本件発明1~6、13、及び14は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないので、請求項1~6、13、及び14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
したがって、取消理由通知で通知した取消理由3によって、本件特許の請求項1~6、13、及び14に係る特許を取り消すことはできない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由などについて
申立人は、令和7年8月28日提出の手続補正書により補正された特許異議申立書(以下「異議申立書」という。)において、前記第4の引用文献一覧で示した証拠(甲1)に加え、次の証拠を提出し、以下の特許異議申立理由(以下「申立理由」という。)を主張している。
<甲号証一覧>
甲2:J. D. Williams et al,”FAST STARTING HOLLOW CATHODES FOR SOUNDING ROCKET-BASED TETHER EXPERIMENTS”,[online],[text],JANNAF Conference, Denver,May 2007,
URL <https://projects-web.engr.colostate.edu/ionstand/publications/
papers/JANNAF-2007%20Fast%20Starting%20Cathode.pdf>
甲2-1:J. D. Williamsの職務経歴書(甲2の作成年月日を証明するための補助証拠)
URL <https://web.archive.org/web/20250619035607/https://www.
engr.colostate.edu/me/wp-content/uploads/2025/02/williams-john_cv_7075641.pdf>
甲2-2:コロラド州立大学Electric Propulsion & Plasma Engineering(CEPPE)研究室インターネットサイト(甲2の作成年月日を証明するための補助証拠)
URL <https://projects-web.engr.colostate.edu/ionstand/publications/
publications.php>
1 申立理由の概要
(1)本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~14の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)本件発明6は、甲1発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)本件発明4、5、及び13は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項4及び5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由の検討
(1)申立理由(1)について
ア 申立理由(1)の概要
申立理由(1)の概要は、異議申立書42ページ~43ページの「(イ)明確性」の記載から、以下のとおりであると認められる。
(ア)請求項1記載の「ランプアップ」及び「ランプダウン」という用語には、 矩形波のような傾きがないアップ/ダウンを除いた全てのアップ/ダウンが含まれ得るが、通常の制御で電子源をスイッチオン/オフするのにかかる時間よりも短くなるような傾きの「ランプアップ」及び「ランプダウン」を包含することは不合理である。加えて、「ランプアップ」、「ランプダウン」を広く解釈すると、 ごく当たり前の自然現象まで包含することになる。これらのことからすると、「ランプアップ」、「ランプダウン」の概念は一義的でないから、請求項1及び該請求項1を引用する請求項2~14に係る発明は、請求項1に記載の「ランプアップ」、「ランプダウン」という用語の外延が把握できないため、発明が不明確である。
(イ)請求項4には、「前記ランプアップ及び/又は前記ランプダウンが、1秒より長い、任意には5秒又は10秒より長い期間を有する」との記載があり、請求項5には、「前記ランプアップ及び/又は前記ランプダウンが、10分より短い、任意には2分又は1分より短い期間を有する」との記載がある。これらの記載は、ランプアップ及び/又はランプダウンの期間の数値範囲を択一的に複数の範囲で特定しているため、請求項4又は5を引用する請求項に係る発明が不明確になっている。
イ 申立理由(1)の検討
(ア)前記ア(ア)について
本件発明1における「ランプアップ」及び「ランプダウン」については、前記第5の1で述べたとおりであるところ、本件発明1における「前記方法は、前記電子源を制御して電子の生成を抑制し、前記電子源をオフ状態からオン状態に、前記電子源が、制御されることなく通常スイッチオンするのにかかる時間よりも長い時間をかけて漸進的にランプアップする」「ことで前記少なくとも1基のスラスタを操作することを含む」との発明特定事項については、「前記方法は、前記電子源を制御して電子の生成を抑制し、前記電子源をオフ状態からオン状態に」「漸進的にランプアップする」「ことで前記少なくとも1基のスラスタを操作することを含」み、また、「漸進的にランプアップする」ことは、「前記電子源を制御して電子の生成を抑制」することなく「前記電子源が、」「通常スイッチオンするのにかかる時間よりも長い時間をかけて漸進的にランプアップする」ことを示していると理解することができ、本件発明1の「前記方法は、」「前記電子源をオン状態からオフ状態に、前記電子源が、制御されることなく通常スイッチオフするのにかかる時間よりも長い時間をかけて漸進的にランプダウンすることで前記少なくとも1基のスラスタを操作することを含む」との発明特定事項についても同様に理解できるものである。
そうすると、本件発明1における「ランプアップ」及び「ランプダウン」が、通常、電子源がスイッチオン/オフする際の「ランプアップ」及び「ランプダウン」や、ごく当たり前の自然現象といえる「ランプアップ」及び「ランプダウン」を包含しないことは明らかであり、その外縁は明確である。
したがって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~14は、明確である。
(イ)前記ア(イ)について
請求項4の記載から、「前記ランプアップ及び/又は前記ランプダウン」の期間の下限が1秒より長い期間であること、請求項5の記載から、「前記ランプアップ及び/又は前記ランプダウン」の期間の上限が10分未満の期間であることは、明確である。
したがって、本件発明4及び5、並びに本件発明4及び5を引用する本件発明6~14は、明確である。
(2)申立理由(2)について
本件発明6は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を付加したものであるので、本件発明6と、甲1発明3は、少なくとも、前記第5の2(2)アで示した、相違点1で相違するところ、相違点1は、前記第5の2(2)イにおいて述べたとおり、実質的な相違点である。
したがって、本件発明6は、甲1発明3ではない。
(3)申立理由(3)について
ア 甲2に記載された事項
甲2の1ページの「INTRODUCTION」、5ページの1~11行、Figure 5、10ページ22行~12ページ11行、Figure14及び15、並びにTable 1の記載から、甲2には、以下の各事項(以下「甲2記載事項1」などという。また、各記載事項を総称して「甲2記載事項」という。)が記載されていると認められる。
[甲2記載事項1]
「プラズマベースの電子源として宇宙船の推進システムに使用されるホローカソードの昇温時の放出電流プロファイルにおいて、電子放出電流が10μA以上に上昇するのに必要な期間は、約200秒の期間であること。」
[甲2記載事項2]
「プラズマコンタクタシステムの迅速な軌道と運用に必要なサブシステムが、キセノンタンク、高圧トランスデューサ、減圧レギュレータ、給・排バルブ、ソレノイドバルブ、DC-DCコンバータ、及びカソードアセンブリを備え、ガス供給コンポーネントの操作と監視は、サブアセンブリ内に組み込まれたマイクロコントローラによって実行され、DC-DCコンバータは、ソレノイドバルブを作動させ、マイクロコントローラに電力を供給すること。」
イ 本件発明4、5、及び13について
本件発明4及び5のそれぞれは、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を付加したものであるので、本件発明4及び5のそれぞれと、甲1発明3は、少なくとも、前記第5の2(2)アで示した、相違点1で相違し、同様に、本件発明13も、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を付加したものであるので、本件発明13と甲1発明13は、少なくとも、前記第5の2(2)アで示した、相違点1で相違するところ、相違点1については、前記第5の2(2)イにおいて述べたとおりである。
そして、甲2にも、宇宙船のスラスタの制御において、電子源に対する電子の生成を抑制するための制御によって、電子源が制御されることなく通常スイッチオンするのにかかる時間よりも長い時間をかけて漸進的にランプアップ及びランプダウンすることについては、記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明4、5、及び13は、甲1発明、並びに甲2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができものではない。
3 意見書(申立人)について
申立人は、意見書(申立人)において、本件発明1~14に対して、新たな明確性要件として、以下の点を主張する。
本件発明1における「制御されることなく通常スイッチオンするのにかかる時間」、「制御されることなく通常スイッチオフするのにかかる時間」の記載は、どのような条件(ハードウェア構成、 環境等)下でスイッチオン/オフするのにかかる時間が「通常」であるのか、請求項の記載から特定することはできないし、発明の詳細な説明を参酌しても何ら把握できない。
また、「制御されることなく」という記載も、そもそもスイッチオン/オフの指示をすること自体何らかの制御が働いているのであるから、「制御されることなく」が、何に対してどのような制御が行われないことを意味するものか不明確である。
前記主張について検討するに、本件発明1における「前記方法は、前記電子源を制御して電子の生成を抑制し、前記電子源をオフ状態からオン状態に、前記電子源が、制御されることなく通常スイッチオンするのにかかる時間よりも長い時間をかけて漸進的にランプアップする」「ことで前記少なくとも1基のスラスタを操作することを含む」との発明特定事項については、前記第5の1で述べたとおりであり、「制御されることなく」は、「前記電子源を制御して電子の生成を抑制」する状態でないことを意味し、「制御されることなく通常スイッチオンするのにかかる時間」は、「前記電子源を制御して電子の生成を抑制」する状態でないときに、「前記電子源が、」「通常スイッチオンするのにかかる時間」を意味すると理解することができる。
そして、この点は、本件発明1の「前記方法は、」「前記電子源をオン状態からオフ状態に、前記電子源が、制御されることなく通常スイッチオフするのにかかる時間よりも長い時間をかけて漸進的にランプダウンすることで前記少なくとも1基のスラスタを操作することを含む」との発明特定事項についても同様である。
したがって、本件発明1は、明確であるので、申立人の主張を採用することはできない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件発明1~14は、明確であり、本件特許にかかる出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。
したがって、申立理由(1)によって、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件発明6は、甲1発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、請求項6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
したがって、申立理由(2)によって、本件特許の請求項6に係る特許を取り消すことはできない。
そして、本件発明4、5、及び13は、甲1発明及び甲2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、請求項4、5、及び13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
したがって、申立理由(3)によって、本件特許の請求項4、5、及び13に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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