特許異議申立
2025-700352
フェノキシ樹脂組成物および樹脂材料
- 審判番号
- 2025-700352
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-104736
- 登録番号
- 7559370
- 請求日
- 2025年03月27日
- 審決日
- 2025年06月30日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】住友ベークライト株式会社
- 【権利者代理人】速水 進治
- 【異議申立人】小黒 平二
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 浩子
- 審判官 岸 智之
- 審判官 辰己 雅夫
- 分類
- P1651.113-Y (C08G) / P1651.121-Y (C08G) / P1651.537-Y (C08G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7559370号発明「フェノキシ樹脂組成物および樹脂材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7559370号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7559370号(以下、「本件特許」という。)に係る特許は、令和2年6月17日(優先日 令和1年6月17日 日本国(JP))に出願された特願2020-104736号に係る特許であって、令和6年9月24日に特許権の設定登録(請求項の数12)がされ、同年10月2日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和7年3月27日に、本件特許の請求項1~12に係る特許に対して、特許異議申立人である小黒平二(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~12に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、請求項1~12に係る発明を、請求項の番号に従い「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ともいう。また、本件特許の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。)。
「【請求項1】
分子内にメソゲン構造を有するフェノキシ樹脂と、
重量平均分子量Mwが1,000以下の低分子量成分と、
を含む、フェノキシ樹脂組成物であって、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで得られる当該フェノキシ樹脂組成物の分子量分布において、前記低分子量成分のピーク面積が、全ピーク面積100%に対して、7.0%以上50.0%以下であり、
前記低分子量成分は、前記フェノキシ樹脂に含まれる未反応のモノマー成分および前記モノマー成分の重合物である、フェノキシ樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のフェノキシ樹脂組成物であって、
前記メソゲン構造が、下記一般式(1)で表される構造を有するものである、フェノキシ樹脂組成物。
-A1-x-A2- (1)
(上記一般式(1)中、A1およびA2は、各々独立して、芳香族基、縮合芳香族基、脂環基、または脂環式複素環基を表し、xは、直接結合、または-O-、-SO2-、-C=C-、-C≡C-、-CO-、-CO-O-、-CO-NH-、-CH=N-、-CH=N-N=CH-、-N=N-および-N(O)=N-からなる群から選択される2価の結合基を示す。)
【請求項3】
請求項1または2に記載のフェノキシ樹脂組成物であって、
前記分子内にメソゲン構造を有するフェノキシ樹脂が、
分子内に2個以上のヒドロキシ基を有する多官能フェノール化合物由来の構造単位、および分子内に2個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物由来の構造単位を有しており、
前記多官能フェノール化合物および前記多官能エポキシ化合物の少なくとも一方が、分子中に前記メソゲン構造を有するものである、フェノキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のフェノキシ樹脂組成物であって、
前記分子内にメソゲン構造を有するフェノキシ樹脂が、下記一般式(A)で表される多官能フェノール化合物と、下記一般式(B)で表される多官能エポキシ化合物との反応により得られ、
前記メソゲン構造が、下記一般式(1)で表される構造を有するものである、フェノキシ樹脂組成物。
【化1】
[図:0001425801000001.jpg]
(一般式(A)中、R1およびR3は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基を表し、R2およびR4は、それぞれ独立に、炭素数1~6の鎖状もしくは環状アルキル基、フェニル基およびハロゲン原子から選択される1種を表し、aおよびcはそれぞれ1~3の整数であり、bおよびdはそれぞれ0~2の整数である。ただし、a+bおよびc+dは、それぞれ1~3のいずれかである。Rは、前記一般式(1)で表されるメソゲン構造を表す。nは0または1である。nが0の場合、2つのベンゼン環により縮合環を形成してもよい。)
【化2】
[図:0001425801000002.jpg]
(一般式(B)中、R5およびR7は、それぞれ独立に、グリシジルエーテル基を表し、R6およびR8は、それぞれ独立に、炭素数1~6の鎖状もしくは環状アルキル基、フェニル基およびハロゲン原子から選択される1種を表し、eおよびgはそれぞれ1~3の整数であり、fおよびhはそれぞれ0~2の整数である。ただし、e+fおよびg+hは、それぞれ1~3のいずれかである。Rは、前記一般式(1)で表されるメソゲン構造を表す。nは0または1である。nが0の場合、2つのベンゼン環により縮合環を形成してもよい。)
-A1-x-A2- (1)
(上記一般式(1)中、A1およびA2は、各々独立して、芳香族基、縮合芳香族基、脂環基、または脂環式複素環基を表し、xは、直接結合、または-O-、-SO2-、-C=C-、-C≡C-、-CO-、-CO-O-、-CO-NH-、-CH=N-、-CH=N-N=CH-、-N=N-および-N(O)=N-からなる群から選択される2価の結合基を示す。)
【請求項5】
請求項4に記載のフェノキシ樹脂組成物であって、
前記分子内にメソゲン構造を有するフェノキシ樹脂が、下記一般式(b)で表される繰り返し単位を含む、フェノキシ樹脂組成物。
【化3】
[図:0001425801000003.jpg]
(一般式(b)中、b、d、R、n、R2およびR4は一般式(A)と同義であり、f、h、R 6およびR8は一般式(B)と同義である。*は結合手を表す。)
【請求項6】
請求項4に記載のフェノキシ樹脂組成物であって、
前記分子内にメソゲン構造を有するフェノキシ樹脂が、下記一般式(c)で表される繰り返し単位を含む、フェノキシ樹脂組成物。
【化4】
[図:0001425801000004.jpg]
(一般式(c)中、b、d、R、n、R2およびR4は一般式(A)と同義であり、f、h、R6およびR8は一般式(B)と同義である。*は結合手を表す。)
【請求項7】
請求項3~6のいずれかに記載のフェノキシ樹脂組成物であって、
前記フェノキシ樹脂は、前記多官能フェノール化合物と前記多官能エポキシ化合物との反応により得られる、フェノキシ樹脂組成物。
【請求項8】
請求項3~7のいずれか一項に記載のフェノキシ樹脂組成物であって、
当該フェノキシ樹脂組成物の分子量分布において、全ピーク面積100%に対する、モノマー成分を含まない前記低分子量成分のピーク面積が、2.0%以上25.0%以下を満たす、フェノキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のフェノキシ樹脂組成物であって、
Mwが1,000超えの高分子量成分のMwが1,000を超え200,000以下である、フェノキシ樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のフェノキシ樹脂組成物であって、
Mwが1,000超えの高分子量成分の分子量分布(Mw/Mn)が1.00以上5.00以下である、フェノキシ樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のフェノキシ樹脂組成物であって、
熱伝導性樹脂組成物に用いる、フェノキシ樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のフェノキシ樹脂組成物を含む、樹脂材料。」
第3 特許異議申立書に記載された申立理由の概要及び証拠方法
申立人は、証拠方法として甲第1号証~甲第4号証(以下、「甲1」などという。)を提出し、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において、概要、以下の申立理由を主張する。
1 申立理由1(甲1による新規性)
本件発明1~12は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件発明1~12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲1を主引例とする進歩性)
本件発明1~12は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び甲1~4に記載された事項に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(明確性要件)
本件発明1~12に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
4 申立書に添付して提出された証拠方法
甲1 特開平9-227654号公報
甲2 エポキシ樹脂技術協会編、総説エポキシ樹脂 基礎編I、エポキシ樹脂技術協会発行、第1巻第69頁
甲3 三菱ケミカル株式会社 製品案内 エポキシ樹脂 http://www.mcc-epoxy.jp/products/epoxy_jer.html#07
甲4 高分子、1975、Vol.24、7月号、第459~464頁
第4 当審の判断
1 申立理由1(甲1による新規性)について
(1)本件発明1について
ア 甲1に記載された事項及び発明
(ア)甲1には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】式(I):
【化1】
[図:0001425801000005.jpg]
(式中、R1 ~R4 は互いに同一又は異なる基であり、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、またはアルケニル基を表し、且つx、yは0以上の整数を示し、且つAは式(II):
【化2】
[図:0001425801000006.jpg]
(式中、B、Cはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~5のアルキル基を表わし、b、cは互いにb+c=4を満たす整数を示す。)または、式(III):
【化3】
[図:0001425801000007.jpg]
或いは、式(IV):
【化4】
[図:0001425801000008.jpg]
からなる群から選ばれた構造を示す。)で表される数平均分子量330以上5000以下の新規エポキシ樹脂。」
(イ)上記(ア)の請求項1に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「式(I):
【化1】
[図:0001425801000009.jpg]
(式中、R1 ~R4 は互いに同一又は異なる基であり、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、またはアルケニル基を表し、且つx、yは0以上の整数を示し、且つAは式(II):
【化2】
[図:0001425801000010.jpg]
(式中、B、Cはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~5のアルキル基を表わし、b、cは互いにb+c=4を満たす整数を示す。)または、式(III):
【化3】
[図:0001425801000011.jpg]
或いは、式(IV):
【化4】
[図:0001425801000012.jpg]
からなる群から選ばれた構造を示す。)で表される数平均分子量330以上5000以下のエポキシ樹脂。」(以下、「甲1発明」という。)
イ 甲2に記載された事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
「一般に,式(1)で表されるBPA型エポキシ樹脂は重合度nの数により液状樹脂から固形樹脂までさまざまなグレードに分類される。明確な定義はないが,nが40程度より大きくなるとエポキシ樹脂とは異なり熱可塑性を示すため特に区別してフェノキシ樹脂,あるいはポリヒドロキシエーテルとよばれる。即ちフェノキシ樹脂とはBPA型エポキシ樹脂の直鎖状高分子量重合体をいい,n=0および末端基を無視して式(2)のように示すことが多い。
[図:0001425801000013.jpg]
」(第69頁)
ウ 甲3に記載された事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001425801000014.jpg]
」
エ 甲4に記載された事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
「試料の分子量の不均一度は,重量平均分子量に対する数平均分子量の比(Mw/Mn)に反映する.この比は単分散では1となり,多分散性が増加するに従って大きくなる.ある種の高分子についてはアニオン重合法によってこの比が1.1以下の極めて分布の狭い試料が合成できるようになったが,一般的な重合方法ではこの比は2以上になる.しかし,この比では詳細な分布の形がわからない.現在の高分子物性研究の進歩は決してこれら平均分子量の測定のみで満足できる段階ではなく,不均一性すなわち分子量分布の詳細を知らなければならない状況に達している.」(第460頁右欄第15~25行目)
オ 対比・判断
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
まず、甲1発明の「式(I)」のエポキシ樹脂は、ベンゼン環が直接結合した構造を有するから、本件明細書【0031】、【0032】を参照すると、当該ベンゼン環が直接結合した構造はメソゲン構造といえる。
そうすると、甲1発明の「式(I)」で表される「エポキシ樹脂」は、本件発明1の「分子内にメソゲン構造を有するフェノキシ樹脂」と、「分子内にメソゲン構造を有する」「樹脂」である限りにおいて一致する。
そうすると、両者は
「分子内にメソゲン構造を有する樹脂。」
である点において一致し、以下のa、bの点において一応相違し、cの点において相違する。
<一応の相違点>
a 分子内にメソゲン構造を有する樹脂が、本件発明1は「フェノキシ樹脂」であるのに対し、甲1発明は「エポキシ樹脂」である点
b 本件発明1はフェノキシ樹脂「組成物」であるのに対し、甲1発明は「組成物」であることが特定されていない点
<相違点>
c 本件発明1は「フェノキシ樹脂組成物」が「分子内にメソゲン構造を有するフェノキシ樹脂と、重量平均分子量Mwが1,000以下の低分子量成分と、を含」むものであり、「前記フェノキシ樹脂に含まれる未反応のモノマー成分および前記モノマー成分の重合物である」「低分子量成分」について、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで得られる当該フェノキシ樹脂組成物の分子量分布において、前記低分子量成分のピーク面積が、全ピーク面積100%に対して、7.0%以上50.0%以下」であることを特定しているのに対し、甲1発明はそのような特定がない点
(イ)一応の相違点及び相違点についての判断
a 一応の相違点a及びbについて
事案に鑑み、一応の相違点a及びbをまとめて検討する。
まず、上記イに記載のとおり、甲2には、明確な定義はないものの、BPA型エポキシ樹脂の重合度nが40より大きくなると熱可塑性を示すため、特に区別してフェノキシ樹脂とよぶことが記載され、BPA型エポキシ樹脂とフェノキシ樹脂は、両者の分子構造の違いではなく、同じ構造の重合度の違い、すなわち分子量の違いによる呼称の違いということができる。
一方、本件明細書【0030】には「上記フェノキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、通常500~200,000である。」と記載され、フェノキシ樹脂は重量平均分子量でみたときに、500程度のものから20万程度の幅広い範囲のものを包含することが記載されている。
また、フェノキシ樹脂の重量平均分子量について、特開2017-52907号公報の【請求項3】「請求項1に記載のフェノキシ樹脂組成物のフェノキシ樹脂の重量平均分子量が、2,000から200,000である・・・」、特開2014-208747号公報の【請求項5】「前記フェノキシ樹脂の重量平均分子量が5000以上、100000以下である、・・・」、特開2013-40276号公報の【請求項3】「前記フェノキシ樹脂は、フェノキシ樹脂または変性フェノキシ樹脂であり、重量平均分子量が、1,000~500,000であることを特徴とする・・・」、特開2012-21114号公報の【0073】「また、フェノキシ樹脂の重量平均分子量は、一般的に5000以上である。」、特開2008-255308号公報の【0054】「本発明のフェノキシ樹脂の重量平均分子量は、例えば、1000~200000程度の範囲から選択でき、・・・」の記載を参照すると、当業者であれば、その重量平均分子量が1000程度のものから「フェノキシ樹脂」と認識できるといえる。
ここで、上記エの記載も参照すると、一般に、高分子の分野においては、分子量の広がりを示すものとして分子量分布が知られているところ、分子量分布は重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)で表され、その値は1以上となることが技術常識である。
そうすると、甲1発明のエポキシ樹脂は、その分子量分布は不明なるも、数平均分子量が330~5000であるから、重量平均分子量は330~5000の範囲内の数値以上となり、当業者にとって知られるフェノキシ樹脂の重量平均分子量と重複する範囲にあるといえるから、甲1発明の「エポキシ樹脂」も「フェノキシ樹脂」であるといえる。
そして、甲1発明における「エポキシ樹脂」も一定の数値範囲にある分子量の広がりをもち、異なる複数の分子量を有する高分子の集合体であるといえるから、甲1発明における「エポキシ樹脂」は、異なる複数の分子量を有する高分子の集合体からなる「組成物」といえる。
以上のことから、上記一応の相違点a及びbは実質的な相違点とはならない。
b 相違点cについて
上記aで述べたとおり、高分子は一般に分子量の広がりを有することが技術常識であるが、甲1には「低分子量成分」に関する記載も示唆もないこと、また、エポキシ樹脂の分子量分布及び重量平均分子量に関する記載も示唆もないことから、「エポキシ樹脂」中にその具体的な値として重量平均分子量が1,000以下の、いわゆる「低分子量成分」が存在するか否か、仮に存在するのであればどの程度の割合を組成物において占めるか、を甲1発明の数平均分子量の値から推測することは困難である。
また、一般に、高分子の製造においては、出発物質の違いはもとより、反応温度、反応時間、反応雰囲気などの違いにより、得られる高分子の分子量、構造、分子量分布は様々に異なることが当業者にとっての技術常識であるところ、仮に、出発物質が同じであったとしても類似の製造方法というだけでは、同じ分子量分布等を有する高分子が得られるとはいえない。
そして、甲1の【0016】~【0018】に記載される新規エポキシ樹脂の製造方法と本件明細書の【0026】、実施例、表1に記載される「フェノキシ樹脂」の製造方法からでは、両者が同じ出発物質を用い、かつ、同じ方法で製造しているとまではいえないから、甲1発明の「エポキシ樹脂」が本件発明1の「フェノキシ樹脂組成物」と同じ組成となっている蓋然性が高いとも認められない。
したがって、上記相違点cは実質的な相違点である。
カ 申立人の主張について
申立人は、申立理由1に関して以下の点を主張する。
・本件発明1は「Mwが1,000以下の低分子量成分」を所定量含む樹脂組成物であると規定し、甲1の【0016】~【0018】に記載される甲1発明のエポキシ樹脂の製造条件と、本件明細書【0026】、実施例、表1に記載の本件発明のフェノキシ樹脂の製造条件を比較すると、原料モル比、触媒、温度条件などで共通し、そもそも、本件発明も本件明細書【0026】に「公知の手法で製造できる」と記載されている。よって、甲1発明と本件発明とは製造条件が共通するから、甲1発明においても本件発明1で規定する「Mwが1,000以下の低分子量成分」を所定量含むエポキシ樹脂である蓋然性が高い。
この点については、上記オ(イ)bで述べたように、両者が同じ出発物質を用い、かつ、同じ方法で製造しているとまではいえないから、甲1発明の「エポキシ樹脂」が本件発明1の「フェノキシ樹脂組成物」と同じ組成となっている蓋然性が高いとは認められない。
したがって、申立人の上記主張は採用することはできない。
キ 小括
上記オ(イ)bで述べたとおり、甲1発明と本件発明1とは、上記相違点cで実質的に相違するから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。
(2)本件発明2~12について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~12も同様に、甲1に記載された発明ではない。
(3)まとめ
以上のとおり、本件発明1~12は、甲1に記載された発明ではないから、本件発明1~12に係る特許は、申立理由1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由2(甲1を主引例とする進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 甲1に記載された事項及び発明並びに対比、一応の相違点及び相違点についての判断は、上記1(1)ア及びオのとおりである。
そこで、上記相違点cに係る構成の容易想到性について検討する。
上記1(1)オ(イ)bで述べたとおり、甲1には、得ようとするエポキシ樹脂の数平均分子量は記載されているものの、分子量分布は不明であり、Mwが1000以下の低分子量成分の含有量を調節するという技術思想に関する記載はなく、示唆もされていない。
さらに、甲1には、本件発明1で規定する「Mwが1,000以下の低分子量成分」によって、樹脂組成物の熱伝導性及び流動性を向上できるという効果についての記載も示唆もない。
また、上記1(1)イ~エに記載したとおり、甲2~4からも、相違点Cに係る本件発明1の構成並びに上記技術思想及び効果を確認することはできない。
そうすると、当業者といえども、樹脂組成物の熱伝導性や流動性を向上させるために、甲1発明において樹脂組成物中の低分子量成分の含有割合を、相違点cの所定の数値に調節することは容易に想到することができたとはいえない。
よって、本件発明1は、甲1発明及び甲1~4に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到できたものではない。
イ 申立人の主張について
申立人は、申立理由2に関して、以下の点を主張する。
・甲1発明において、仮に低分子量成分の量が外れていたとしても、当業者が公知の手法によって、適宜合成条件を変更することにより、容易になし得ることであり、何ら格別な事項でなく、一般に分子量分布が正規分布のような広がりをもち、高分子量成分だけでなく、一定割合の低分子量成分を含むことは当然であり、当業者にとって通常の事項に過ぎないから、甲1発明において、仮に低分子量成分の量が外れていたとしても、当業者が公知の手法によって、適宜合成条件を変更することにより、相違点cの構成を有するものとすることは容易になし得ることである。
この点について、上記アで述べたとおり、甲1には、Mwが1000以下の低分子量成分とその作用効果に関する記載はなく、当該低分子量成分の含有量を調節するという技術思想が記載されていない以上、高分子材料は一定割合の低分子量成分を含むことが当然であるというだけでは、甲1発明において、相違点cに係る所定の低分子量成分の含有量とすることが、当業者において容易に想到することができたとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 小括
上記アで述べたとおり、本件発明1は、甲1発明及び甲1~4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~12について
本件発明2~12は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲1発明及び甲1~4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件発明2~12についても、甲1発明及び甲1~4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)まとめ
以上のとおり、本件発明1~12は、甲1発明及び甲1~4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1~12に係る特許は、申立理由2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由3(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、本件明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)申立人の主張について
申立人の主張は以下のア及びイのとおりである。
ア 一般に「フェノキシ樹脂」は分子量が10,000を超え、エポキシ樹脂とは異なって熱可塑性を示すものであることが当業者にとっての技術常識である。しかしながら、請求項1において用語として「フェノキシ樹脂」と表現しているものは、本件明細書の実施例によれば重量平均分子量が2817~8231の範囲のものであるうえ、硬化促進剤の2-メチルイミダゾールを添加して熱硬化によって樹脂成形体を得ている。そうすると、本件発明の「フェノキシ樹脂」は当業者の技術常識とは異なるから、用語「フェノキシ樹脂」は不明確である。
また、本件発明は用語「フェノキシ樹脂」を用いているが、その重量平均分子量又は数平均分子量が規定されていないから、本件発明で特定しようとする樹脂がフェノキシ樹脂であるのかエポキシ樹脂であるのかが不明である。
イ 請求項4に記載される「Rは、前記一般式(1)で表されるメソゲン構造を表す。」旨の規定は、一般式(A)及び一般式(B)との関係で意味不明である。
(3)明確性要件の判断
ア 請求項1の「フェノキシ樹脂」について
低分子量のものをエポキシ樹脂、重量平均分子量が10,000を超えるものをフェノキシ樹脂という場合が多いものの(甲2、甲3)、上記1(1)オ(イ)aで述べたように、文献によっては、重量平均分子量が1000程度のものをフェノキシ樹脂という場合もあり、当業界において、エポキシ樹脂とフェノキシ樹脂との分子量の境界線は明確に定義されているものではない。
そして、本件明細書【0030】には「上記フェノキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、通常500~200,000である。」と記載されており、請求項1の「フェノキシ樹脂」には、重量平均分子量500程度のものから20万程度の幅広い範囲のものが包含されることは明らかであり、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
また、本件明細書の実施例において、硬化促進剤の2-メチルイミダゾールを添加してフェノキシ樹脂を熱硬化によって樹脂成形体を得ているが、そのことだけで、請求項1の「フェノキシ樹脂」に何が含まれるのかが、不明確となるものではない。
したがって、請求項1の「フェノキシ樹脂」は、明確である。
イ 請求項4の「Rは、前記一般式(1)で表されるメソゲン構造を表す。」について
本件特許の請求項4には、
「請求項3に記載のフェノキシ樹脂組成物であって、
前記分子内にメソゲン構造を有するフェノキシ樹脂が、下記一般式(A)で表される多官能フェノール化合物と、下記一般式(B)で表される多官能エポキシ化合物との反応により得られ、
前記メソゲン構造が、下記一般式(1)で表される構造を有するものである、フェノキシ樹脂組成物。
【化1】
[図:0001425801000015.jpg]
(一般式(A)中・・・Rは、前記一般式(1)で表されるメソゲン構造を表す。・・・)
【化2】
[図:0001425801000016.jpg]
(一般式(B)中、・・・Rは、前記一般式(1)で表されるメソゲン構造を表す。・・・)
-A1-x-A2- (1)
(上記一般式(1)中、・・・からなる群から選択される2価の結合基を示す。)」
と記載されている。
一般式(A)及び(B)における「R」は、「一般式(1)」である「-A1-x-A2-」を指し示すことは明確であるし、本件明細書【0042】の「また、上記一般式(A)および一般式(B)中のRは、それぞれ、上記の「-A1-x-A2-、-x-A1-x-、または-x-を表すものである。」の記載とも整合する。
したがって、請求項4における、「Rは、前記一般式(1)で表されるメソゲン構造を表す。」との記載は、一般式(A)及び一般式(B)との関係において、明確である。
ウ そのほかに、請求項1~12において不明確な記載は見いだせず、請求項1~12の記載は明確である。
(4)まとめ
以上によれば、本件発明1~12は、明確であるから、本件発明1~12に係る特許は、申立理由3によっては取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由1~3によっては、本件発明1~12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700352