特許異議申立
2025-700304
電気化学セル装置
- 審判番号
- 2025-700304
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-515207
- 登録番号
- 7552687
- 請求日
- 2025年03月13日
- 審決日
- 2025年06月25日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】住友電気工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人深見特許事務所
- 【異議申立人】西内 大生
- 審判長/審判官
- 審判長 岩間 直純
- 審判官 ▲吉▼澤 雅博
- 審判官 畑中 博幸
- 分類
- P1652.113-Y (H01M) / P1652.121-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7552687号発明「電気化学セル装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7552687号の請求項1、8及び12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7552687号の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、令和 3年 1月19日に出願され、令和 6年 9月 9日にその特許権の設定登録がされ、令和 6年 9月18日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許対し、令和 7年 3月13日に特許異議申立人西内 大生(以下、「特許異議申立人」という。)は特許異議の申立を行った。
第2 本件発明
特許第7552687号の請求項1ないし13に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明13」という。また、「本件発明1」ないし「本件発明13」をまとめて、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
第1主面と、前記第1主面の反対面である第2主面とを有するセルと、
前記第1主面と対向している第3主面を有する第1集電体と、
前記第2主面と対向している第4主面を有する第2集電体とを備え、
前記セルは、前記第2主面から前記第1主面に向かって凸に反っており、
前記第3主面は、前記第1主面の中央部と対向している位置に凹部を含み、
前記第4主面は、前記第2主面の中央部と対向している位置に凸部を含み、
前記第1集電体及び前記第2集電体の各々は、三次元網目構造の骨格を有する金属多孔体からなる少なくとも1枚の金属多孔体シートにより構成されており、
前記第1主面の中央部は、前記第2主面が平坦な基準面と対向するように前記セルを前記基準面上に配置した際に前記基準面からの距離が最も大きくなる前記第1主面の部分を含んでおり、
前記第2主面の中央部は、前記第2主面が前記基準面と対向するように前記セルを前記基準面上に配置した際に前記基準面からの距離が最も大きくなる前記第2主面の部分を含んでいる、電気化学セル装置。
【請求項2】
前記第1集電体を構成している前記少なくとも1枚の金属多孔体シートは、第1金属多孔体シート及び第2金属多孔体シートであり、
前記第1金属多孔体シート及び前記第2金属多孔体シートは、前記第1集電体の厚さ方向に直交している面内において並べて配置されており、
前記第2金属多孔体シートには、前記凹部に対応する位置において、前記第2金属多孔体シートを厚さ方向に貫通する第1貫通穴が形成されており、
前記第1金属多孔体シートは、前記第1貫通穴内に配置されており、
前記第2金属多孔体シートの厚さは、前記第1金属多孔体シートの厚さよりも大きく、
前記凹部は、前記第1貫通穴の内周面及び前記第1金属多孔体シートの主面により画されている、請求項1に記載の電気化学セル装置。
【請求項3】
前記第2金属多孔体シートの厚さから前記第1金属多孔体シートの厚さを減じた値は、前記セルの反り量に等しい、請求項2に記載の電気化学セル装置。
【請求項4】
前記第1集電体を構成している前記少なくとも1枚の金属多孔体シートは、第1金属多孔体シート及び第2金属多孔体シートであり、
前記第1金属多孔体シート及び前記第2金属多孔体シートは、前記第1集電体の厚さ方向において、前記第2金属多孔体シートが前記第3主面側に位置するように重ねて配置されており、
前記第2金属多孔体シートには、前記凹部に対応する位置において、前記第2金属多孔体シートを厚さ方向に貫通する第1貫通穴が形成されている、請求項1に記載の電気化学セル装置。
【請求項5】
前記第2集電体を構成している前記少なくとも1枚の金属多孔体シートは、第3金属多孔体シート及び第4金属多孔体シートであり、
前記第3金属多孔体シート及び前記第4金属多孔体シートは、前記第2集電体の厚さ方向に直交している面内において並べて配置されており、
前記第4金属多孔体シートには、前記凸部に対応する位置において、前記第4金属多孔体シートを厚さ方向に貫通する第2貫通穴が形成されており、
前記第3金属多孔体シートは、前記第2貫通穴内に配置されており、
前記第3金属多孔体シートの厚さは、前記第4金属多孔体シートの厚さよりも大きい、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電気化学セル装置。
【請求項6】
前記第3金属多孔体シートの厚さから前記第4金属多孔体シートの厚さを減じた値は、前記セルの反り量に等しい、請求項5に記載の電気化学セル装置。
【請求項7】
前記第2集電体を構成している前記少なくとも1枚の金属多孔体シートは、第3金属多孔体シート及び第4金属多孔体シートであり、
前記第3金属多孔体シート及び前記第4金属多孔体シートは、前記第2集電体の厚さ方向において、前記第4金属多孔体シートが前記第4主面側に位置するように重ねて配置されており、
前記第4金属多孔体シートは、前記凸部を構成している、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電気化学セル装置。
【請求項8】
前記第1集電体は、カソード側集電体であり、
前記第2集電体は、アノード側集電体である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の電気化学セル装置。
【請求項9】
前記第1集電体を構成している前記少なくとも1枚の金属多孔体シートの各々の前記骨格は、ニッケル及びコバルトを含有しており、
前記第1集電体を構成している前記少なくとも1枚の金属多孔体シートの各々の目付量は、900g/m2以下である、請求項8に記載の電気化学セル装置。
【請求項10】
前記第2集電体を構成している前記少なくとも1枚の金属多孔体シートの各々の前記骨格は、ニッケルを含有しており、
前記第2集電体を構成している前記少なくとも1枚の金属多孔体シートの各々の目付量は、1000g/m2以下である、請求項8又は請求項9に記載の電気化学セル装置。
【請求項11】
前記セルの反り量を平面視における前記セルの最大幅で除した値は、1/1000以上である、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の電気化学セル装置。
【請求項12】
固体酸化物形燃料電池である、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の電気化学セル装置。
【請求項13】
固体酸化物形電解セルである、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の電気化学セル装置。」
第3 申立理由の概要
特許異議申立書の記載からみて、特許異議申立人がする特許異議の申立の理由の概要は、以下のとおりである。
1 特許法第29条第1項第3号違反
請求項1、8及び12に係る特許は、特開2005-56816号公報(以下「甲第2号証」という。)に記載された発明であり、特許法第29条1項3号の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである。
2 特許法第29条第2項違反
請求項1、8及び12に係る特許は、国際公開第2013/001777号(以下「甲第1号証」という。)に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである。
第4 各文献の記載
(1)甲第1号証及び甲第1発明
ア 甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
「[発明の効果]
[0029] 本発明によれば、大量生産が容易で、かつ燃料電池セル本体が変形した場合でも、電極の接触箇所における電気導通の確保が容易な固体酸化物形燃料電池およびインターコネクタを提供できる。」
「[0032](第1の実施の形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る固体酸化物形燃料電池(固体酸化物形燃料電池スタック)10を表す斜視図である。図2は、固体酸化物形燃料電池10をX方向に切断した状態を表す断面図である。図3は、インターコネクタ130の正面図である。
[0033] 固体酸化物形燃料電池10は、略直方体形状をなし、上面11、底面12、支燃性ガス流路21、23、燃料ガス流路22、24、貫通孔25~28を有し、連結部材(締結具であるボルト41~48、ナット51~58)が取り付けられる。
[0034] 上面11に、支燃性ガス流路21、23、燃料ガス流路22、24と対応して、部材61、63、62、64が配置される。部材61、63、62、64はそれぞれ、支燃性ガス流路21、23、燃料ガス流路22、24と連通する貫通孔を有する。部材61~64にボルト41~44が挿通され、ナット51~54がねじ込まれる。
[0035] 部材61~64の貫通孔の径より、ボルト41~44の軸の径が小さいことで、部材61~64の貫通孔とボルト41~44の軸間をガス(支燃性ガス(空気)、発電後の残余の燃料ガス、発電後の残余の支燃性ガス、燃料ガス)が通過する。即ち、支燃性ガス(空気)、燃料ガスがそれぞれ部材61、62から固体酸化物形燃料電池10内に流入する。発電後の残余の支燃性ガス(空気)、発電後の残余の燃料ガスが固体酸化物形燃料電池10から部材63、64へと流出する。
[0036] 固体酸化物形燃料電池10は、発電単位である平板形の固体酸化物形燃料電池セル100が複数個積層されて構成される。複数個の固体酸化物形燃料電池セル100(100(1)~100(3))が電気的に直列に接続される。なお、見易さのために、図2での固体酸化物形燃料電池セル100の個数を3としている。多くの場合、より多く(例えば、20個)の固体酸化物形燃料電池セル100が積層されて固体酸化物形燃料電池10が構成される。
[0037] 固体酸化物形燃料電池セル100は、直方体形状をなし、積層体(燃料電池セル本体)110を有する。積層体110は、燃料電極111、固体電解質体112、および空気電極113が、順次積層されてなる。燃料電極111は、燃料ガス(例えば水素)に接する。固体電解質体112は、酸化物から構成され、酸素イオン導電性を有する。空気電極113は、支燃性ガス(例えば空気(詳しくは空気中の酸素))に接触する。
[0038] 尚、本実施形態では、燃料電極111が支持基体となるいわゆる支持膜式の固体酸化物形燃料電池セル100を例に挙げているが、それに限定されるものではない。
[0039] また、積層体110の側方の周囲には四角形の枠体150が設けられ、積層体110の上下方向には、インターコネクタ130、集電体140が設けられている。
[0040] 前記枠体150は、マイカ(雲母)からなる絶縁性枠体151、152と、その間に配置された例えばSUS430からなる金属フレーム153、154、セル内セパレータ155とから構成されている。
[0041] このセル内セパレータ155は、固体電解質体112の上面の外周にて全周にわたって接合されたものである。セル内セパレータ155によって、固体酸化物形燃料電池セル100の内部の空間が、燃料ガスが供給される燃料室115と支燃性ガスが供給される空気室116とに分離されている。燃料室115内のY方向に燃料ガスが流通する。空気室116内のX方向に支燃性ガスが流通する。
[0042] 枠体150には、枠体150を同図の上下方向に貫通する支燃性ガス流路21、23、燃料ガス流路22、24が設けられている。
[0043] インターコネクタ130は、空気電極113に接して電気的導通を得るように設けられたものである。インターコネクタ130は、外周部131、基台部132、および突出部133を有し、例えば、Crofer22合金、またはZMG232L合金から一体的に構成される。
[0044] 外周部131は、インターコネクタ130の外周に配置される。尚、外周部131には、X方向に支燃性ガス流路21、23が設けられ、Y方向に燃料ガス流路22、24が設けられており、外周部131にはボルト45~48が貫通する貫通孔25~28が設けられている。
[0045] 基台部132は、外周部131内に配置される、四角形の領域である。なお、基台部132は、外周部131と共に一つの平面を構成している。即ち、基台部132、外周部131は明確には区分されない。このため、外周部131と基台部132の境界を破線で表している。
[0046] 基台部132が平坦であると、基台部132と集電体140の電気的接続が良好となる(接触抵抗が低くなる)。その結果、接触抵抗に起因する加熱により、積層体110(燃料電池セル本体)等が、劣化することを抑制できる。また、基台部132が平坦形状を有することは、固体酸化物形燃料電池セル100内での応力集中を緩和することとなり、製作時等に集電体140が破損することを抑制できる。但し、基台部132は、必ずしも平坦でなくても良い。基台部132が、例えば、多少の凹凸を有することが許容される。
[0047] 突出部133は、基台部132から突出し、その先端が空気電極113の表面に接触するドーム形状の領域である。
[0048] インターコネクタ130(2)、130(3)はそれぞれ、固体酸化物形燃料電池セル100(1)、100(2)、固体酸化物形燃料電池セル100(2)、100(3)で共用される。
[0049] また、固体酸化物形燃料電池セル100(2)の燃料電極111は、集電体140、インターコネクタ130により固体酸化物形燃料電池セル100(3)の空気電極113に電気的に接続される。固体酸化物形燃料電池セル100(2)の空気電極113は、インターコネクタ130、集電体140、により固体酸化物形燃料電池セル100(1)の燃料電極111に電気的に接続されている。尚、固体酸化物形燃料電池セル100の個数が4以上でも、最上部、最下部の固体酸化物形燃料電池セル100を除き、接続関係は同様である。
[0050] 集電体140は、ニッケル(Ni)等の金属から構成できる。集電体140の形状として、板状、メッシュ(網目)状、多孔質状(セルメット)、フェルト状などを用いることができる。メッシュ(網目)状には、エキスパンドメタルのように、金属の板に複数の切れ込みを入れ、引き伸ばして網目状としたものも含まれる。」
「[0072] 既述のように、突出部133は、支燃性ガスの流れに沿って配置される(突出部133の長手方向が支燃性ガスの流れの方向と対応する)。これによって、インターコネクタ130の強度はXY軸で異なる。突出部133を正方形や円形とすることも可能であるが、ガス拡散や、集電面積の減少につながるため、形状の最適化が必要となる。
[0073] 突出部133の長手方向の強度が高く、スタック組み付け時及び発電時に、インターコネクタ130の変形量は列ごとに異なってくる。発電時、インターコネクタ130に加わる力は、次が挙げられる。
1.各部材の熱膨張差に起因する力
2.燃料電極111と空気電極113の差圧に起因する力
3.積層体110の反りに起因する力
[0074] インターコネクタ130をプレス化するとともに、薄肉化(例えば、1tから0.3tへの変更)し、弾性をもって、インターコネクタ130の反りへの追従性を上げる。突出部133の各列でのばらつきを均等に最適化する。
[0075] 図7のようにプレスによって、インターコネクタ130全体に歪みが発生したとする。この場合、スタックの組み付け時に、積層体110との平行が保たれず、組み付けが困難となる。また、インターコネクタ130の突出部133の角部から積層体110に接することとなり、応力集中が発生し、積層体110の割れの要因ともなる。併せて、突出部133の角部での接触となると集電面積の減少にもつながる。
[0076] インターコネクタ130の突出部133の先端が大円弧形状となっている。この場合、一定の歪み(インターコネクタ130の傾き)までは、大円弧の範囲を超えなければ、突出部133の先端から接触することとなり、応力集中が緩和される。また、突出部133の弾性範囲内では、接触面積が増加し、集電効果の増加が期待される。」
「
[図:0001424622000001.jpg]
」
イ 上記記載について検討する。
(ア)甲第1号証の段落[0037]には、「固体酸化物形燃料電池セル100」が「燃料電極111、固体電解質体112、および空気電極113が、順次積層されてなる」「積層体(燃料電池セル本体)110」を有することが記載されている。
また、甲第1号証の段落[0039]には、「積層体110の上下方向には、インターコネクタ130、集電体140が設けられている」ことが記載されている。
ここで、甲第1号証の[図2]を参照すると、「積層体110」は「インターコネクタ130」と対向している「空気電極113側の面」と、「集電体140」と対向している「空気電極113側の面」と反対面の「燃料電極111側の面」を有するものと認められる。
(イ)甲第1号証の段落[0043]には、「インターコネクタ130は、空気電極113に接して電気的導通を得るように設けられたものであ」り、「外周部131、基台部132、および突出部133を有し、」「Crofer22合金、またはZMG232L合金から一体的に構成される」ことが記載されている。
ここで、甲第1号証の段落[0047]には、「インターコネクタ130」について、「突出部133」「の先端が空気電極113の表面に接触する」点が記載されており、甲第1号証の[図2]を参照すると、「突出部133」において、「積層体110」の「空気電極113側の面と対向している面」を有することは明らかである。
(ウ)甲第1号証の段落[0050]には、「集電体140」が「ニッケル(Ni)等の金属から構成」され、「多孔質状(セルメット)」「を用いる」点が記載されている。
ここで、甲第1号証の[図2]を参照すると、「集電体140」は「積層体110」の「燃料電極111側の面と対向している面」を有することは明らかである。
(エ)甲第1号証の段落[0029]には「燃料電池セル本体が変形」することが記載されており、ここで、甲第1号証の[図2]を参照すると、「積層体110」はその中央部を頂点として「燃料電極111側の面から空気電極113側の面に向かって凸に反って」おり、また、「前記空気電極113側の面の中央部は、前記燃料電極111側の面が平坦な基準面と対向するように前記積層体110を前記基準面上に配置した際に前記基準面からの距離が最も大きくなる前記空気電極113側の面の部分を含んでおり」、「前記燃料電極111側の面の中央部は、前記燃料電極111側の面が前記基準面と対向するように前記積層体110を前記基準面上に配置した際に前記基準面からの距離が最も大きくなる前記燃料電極111側の面の部分を含んでいる」ものと認められる。
(オ)甲第1号証の段落[0074]の「弾性をもって、インターコネクタ130の反りへの追従性を上げる」旨の記載や、甲第1号証の[図2]を参照すると、「インターコネクタ130」の「空気電極113側の面と対向している面」は、「積層体110」の「空気電極113側の面」の中央部と対向している位置に「凹部」を含むものと認められる。
また、甲第1号証の[図2]を参照すると、「集電体140」の「燃料電極111側の面と対向している面」は、「積層体110」の「燃料電極111側の面」の中央部と対向している位置に「凸部」を含むものと認められる。
ウ 上記イの記載において、特に[図10]の態様に基づくと、甲第1号証には「固体酸化物形燃料電池セル100」について、次の発明(以下「甲第1発明」という。)が記載されている。
「燃料電極111、固体電解質体112、および空気電極113が、順次積層されてなり、空気電極113側の面と、前記空気電極113側の面と反対面の燃料電極111側の面を有する積層体110と、
外周部131、基台部132、および突出部133を有し、突出部133の先端が空気電極113の表面に接触し電気的導通を得るように設けられ、前記空気電極113側の面と対向している面を有するインターコネクタ130と
前記燃料電極111側の面と対向している面を有する集電体140とを備え、
前記積層体110は、前記燃料電極111側の面から前記空気電極113側の面に向かって凸に反っており、
前記空気電極113側の面と対向している面は、前記空気電極113側の面の中央部と対向している位置に凹部を含み、
前記燃料電極111側の面と対向している面は、前記燃料電極111側の面の中央部と対向している位置に凸部を含み、
前記インターコネクタ130は、外周部131、基台部132、および突出部133を有し、Crofer22合金、またはZMG232L合金から一体的に構成され、
前記集電体140は、ニッケル(Ni)等の金属から構成され多孔質状(セルメット)を用い、
前記空気電極113側の面の中央部は、前記燃料電極111側の面が平坦な基準面と対向するように前記積層体110を前記基準面上に配置した際に前記基準面からの距離が最も大きくなる前記空気電極113側の面の部分を含んでおり、
前記燃料電極111側の面の中央部は、前記燃料電極111側の面が前記基準面と対向するように前記積層体110を前記基準面上に配置した際に前記基準面からの距離が最も大きくなる前記燃料電極111側の面の部分を含んでいる、固体酸化物形燃料電池セル100。」
(2)甲第2号証及び甲第2発明
ア 甲第2号証(特開2005-56816号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0003】
・・・(前略)・・・平板型固体電解質燃料電池100は、イットリアなどをドープしたジルコニア焼結体(YSZ)からなる平板型固体電解質層102の両面に、それぞれ(La、Sr)MnO3の空気極104と、NiO-YSZサーメットの燃料極106とを配置した平板型単電池108と、隣接する平板型単電池108同士を電気的に直列に接続し、且つ平板型単電池108に燃料ガスと酸化剤ガスとを分配するセパレータ110を有する。また、メッシュ状の金属115をセパレータ110と燃料極106との間に配置し、セパレータ110と空気極104との間に接続層117を配置し、セパレータ110と燃料極106及び空気極104とを導通させ、また、側面にシール材119を設け閉鎖させている。・・・(後略)・・・
【0004】
しかし、従来から、セパレータ110の集電面は、機械加工等により平面に形成しているが、平板型単電池108は、製作時に生じた反りや歪みを有し、その歪みは平板型単電池108の材質等の関係から機械的な加工を行なって完全な平面に修正することが困難であった。そのため、セパレータ110を平板型単電池108に取り付けた場合、平板型単電池108がセパレータ110の集電面と面全体で接触するのではなく、多くとも3点の点接触となって良好な電気的な接続状態が得られないことがあった。
また、平板型単電池108を複数積層した際、締め付けの荷重がセラミック製のセパレータ110を介して平板型単電池108にかかる構造であり、温度変動により締め付け力が変化し荷重が過大になったときセパレータ110や平板型単電池108が破壊してしまうこともあった。更に、変形に対処するため平板型単電池108を電気的に接続させる導通用の金属115を強固にしなければならず、これによっても平板型単電池108に荷重がかかってしまい、熱応力等により平板型単電池108の破損等を引き起こすことが考えられる。このように、導電性セラミック等を用いたリジッドな集電方法では、スタックの熱分布による応力によりセルが破損するという問題点があった。」
「【0011】
上述の如く、本発明の燃料電池用集電構造は、平板型の固体電解質を燃料極及び空気極で挟持して成る燃料電池セル(単セル)に、集電体及びセパレータを積層した固体酸化物形燃料電池に採用される。具体的には、上記集電体として表面に複数の開口を有する多孔質導電体を用い、上記燃料電池セル、上記セパレータのいずれか一方又は双方の表面に複数の導電性の突起を設ける。そして、燃料電池セル、集電体及びセパレータは、当該開口に当該突起が入り込み、接触するように配設される。例えば、図2に示すような構成となる。
このように、多孔質導電体と導電性突起の表面(側面又は頭部)を接触させることで、相互間の導電性が良好になる。また、従来品の金属薄板や導電性フェルト等の集電体をセルに強く押し付ける方法(弾性接触)に比べて、燃料電池セルにかかる応力負担が軽減される。更に、燃料電池セルを薄く軽く設計でき、スタックの軽量化、小型化が可能となる。更にまた、燃料電池セルやセパレータ等のスタック構成部品の歪みや、多孔質導電体(例えば上述の導電性フェルト)の緻密化、変形により燃料電池セルと集電体がずれたとしても導電性突起と集電体が3次元的に接触しているため電気的導通が保持される。また、燃料電池セルの電極部に電子伝導性材料より成る導電性突起を埋設できるので電極の電気抵抗が低下しセルの出力が向上する。」
「【0014】
一方、上記多孔質導電体としては、例えば、金属細線から成るものを使用できる(図5の(1))。この場合は、燃料電池セル同士を相互に傷つけることなく電気的に接触できる。例えば、弾力性を有する金属細線を複雑に絡み合わせたもの、具体的には、太さ100μm以下の金属細線で形成された、いわゆる金属フェルトなどの形態で使用できる。なお、多孔質導電体は多くの隙間を含み比重の軽いものが望ましい。
また、上記多孔質導電体としては、材質の異なる複数の金属細線を混紡したものを使用できる(図5の(2))。このときは、複数種の金属又は合金から成る金属細線を適宜組合せて混紡することにより、固溶したり収縮して多孔性が低下する(へたる)ことを防止できる。例えば、かかる金属細線の太さを100μm以下とし、これを複雑に入り組ませ、複数の材料を均一に混紡して、気孔率20~98%である多孔質導電体を形成できる。
更に、上記多孔質導電体としては、材質の異なる複数の金属細線を接合したものを使用できる(図5の(3))。このときは、複数種の金属又は合金から成る金属細線を適宜組合せ、互いを接合することにより、金属細線がバラけにくくなり、また、多孔質導電体が解けてやせるのを防止できる。
更にまた、上記多孔質導電体としては、連続空孔を有する発泡金属を使用できる。このときは、燃料電池セル同士を相互に傷つけることなく電気的に接触できる。例えば、図6に示すように、気孔率20~98%のものを使用できる。」
「【0017】
次に、本発明の固体酸化物形燃料電池スタックについて詳細に説明する。
本発明の固体酸化物型燃料電池スタックは、上述の燃料電池用集電構造を有する。この集電構造は、燃料電池セルを連結してスタック化する際に、各燃料電池セル間に採用される。なお、燃料電池セルは燃料極層及び空気極層で固体電解質層を挟持して成る。
このように、多孔質導電体と導電性突起を組み合わせた集電構造を採用することで、燃料電池セルの強度が小さくてもスタック化可能となる。また、固体電解質層を薄く設計でき、更には出力を向上しつつ、従来の燃料電池スタックよりも軽量化できる。更に、各燃料電池セルの両面(各電極層の表面)に、上述の集電構造を形成することで燃料電池セルを強く押さえつけることなく(弾性接触させずに)集電できる。言い換えれば、燃料電池セルに負担をかけずに良好な導通が得られるので、燃料電池セルに歪みが生じたときの接触不良を防止できる。また、導電性突起が多孔質導電体の凹部内に入り込むことで、多孔質集電体が面方向にズレない(中で踊ってしまわない)ようになり、また双方が接触していることで良好な電導性が保持される。この際、針状のように先細りの構造である突起を、針の断面直径より小さい平均開口径の多孔質集電体とを組合せ、突起の先端部のみ(全体ではなく)が多孔質集電体の開口部に入り込んで接触する形態でも良い。この形態の一例を図8に示す。
なお、上記「スタック」とは、ガス導入機構を有する発電要素をいい、例えば図9に示すような構成が挙げられる。また、上記「多孔質導電体」について、開口の大きさや凹部の形状は、ガス透過性及びガス拡散性を発揮できれば特に制限はなく、例えば、電気伝導性に優れる金属フェルトや発泡金属などで形成できる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0019】
(実施例1)
図10に、本例の燃料電池用集電構造を構成する燃料電池セル(a、b)及びこれに配設する集電体(c)を示す。なお、このセルは電解質層を支持基板とする電解質支持型である。
この燃料電池セル1は、電解質層3の両面を空気極層2と燃料極層4で挟持して成る。 電解質層3は、12cm角程度の大きさで厚さ100μmの8mol%イットリアを添加した安定化ジルコニア(以下「8YSZ」という)から成る。また、電解質層3は、電極が形成され他の燃料電池セルとスタック化した際に当該セルを支えるとともにガスシール部やガス流路が形成されている支持部3aを含む。
空気極層2と燃料極層4は10cm角程度であり、厚さ100μm程度の厚さに焼き付けられている。燃料極層4はNiO-YSZを主成分とし、空気極層2はLSMを主成分として成る。また、両電極層の表面には導電性突起5として、耐熱性、耐酸化雰囲気及び耐還元雰囲気に優れるPtファイバーが5%程度、電極層の形成とともに焼き付けられている。このファイバー5は太さ50μm程度、長さ2~4mm前後の針状である。なお、望ましくは、複数の屈曲、カール、らせん状の形状を有し、更には先端と末端(根元)とで大きさや重量が異なる形状であり、電極層表面から突起状に張り出した構造をとり易いものがよい。
一方、かかる燃料電池セル1には、集電体として耐熱金属からなる数十μm太さの金属繊維を編みこんだ金属フェルト6が重ねられ、3次元的な接触が図られている。
【0020】
ここで、図11(a)に燃料電池セル1の作製フローを示す。
まず電解質材料として、8YSZのスラリーを用いドクターブレード法によりグリーンシートを作製し、所定の大きさに切り出すとともに、穴あけ加工を行い電解質層の仮成型体を作製した。また、燃料極材料として、NiO-YSZのスラリーにPtファイバーを5%加え、撹拌した後スリップキャスト法により燃料極のグリーンシートを作製し、所定の大きさに切り出して燃料極シートを作製した。
次いで、電解質、燃料極のシートをそれぞれ重ね1400℃程度の熱処理を行い焼結し、半燃料電池セルとした。
更に、空気極材料として、LSMのスラリーに再び5%のPtファイバーを加え、燃料極と同様に空気極シートを作製した。
最後に半燃料電池セルに空気極シートを貼り付け1000℃程度で熱処理を行い燃料電池セルを完成させた。
【0021】
図12に、図10で示した燃料電池セル及び集電体に配設するセパレータ(a)、並びにこれらを用いた集電構造を有する燃料電池スタック(b、c)を示す。
セパレータ(a)は耐熱金属から成る。厚さ4.5mmで、一方の面上に深さ2mmの空気流路、他方の面上に同様に2mm深さの燃料流路が形成され、外周部の燃料電池セル支持部3aと重なる部分にはガス供給・排気の4つのマニホールド7、8が形成されている。このセパレータと燃料電池セルを集電体を介して交互に積層することにより燃料電池スタックが形成される。
また、図12の(b)、(c)に示すように、空気極層側には空気、燃料極層側には空気が供給、排気される。また、各燃料電池セルは、この集電構造及びセパレータを介して直列に接続される。」
「【図10】
[図:0001424622000002.jpg]
」
イ 上記記載について検討する。
(ア)甲第2号証の段落【0011】の記載を参照すると、甲第2号証には「平板型の固体電解質を燃料極及び空気極で挟持して成る燃料電池セル(単セル)に、集電体及びセパレータを積層した固体酸化物形燃料電池に採用される」「燃料電池用集電構造」において、「集電体として表面に複数の開口を有する多孔質導電体を用い」、「上記燃料電池セル、上記セパレータのいずれか一方又は双方の表面に複数の導電性の突起を設け」「燃料電池セル、集電体及びセパレータは、当該開口に当該突起が入り込み、接触するように配設」することにより「相互間の導電性が良好になる」点が記載されている。
(イ)甲第2号証の段落【0014】には、集電体の「多孔質導電体」として、「太さ100μm以下の金属細線で形成された、いわゆる金属フェルト」を使用できることが記載されており、甲第2号証の段落【0019】の、「集電体として耐熱金属からなる数十μm太さの金属繊維を編みこんだ金属フェルト6が重ねられ、3次元的な接触が図られている」旨の記載も参照すると、「金属フェルト6」は「集電体」であることは明らかである。
(ウ)甲第2号証の段落【0017】及び図10には、「電解質層3の両面を空気極層2と燃料極層4で挟持して成る」「燃料電池セル1」は、「空気極層2と燃料極層4」の表面に「導電性突起5」が設けられることが記載されている。
ここで、「燃料電池セル1」は、例えば「空気極層2側の面」と、「空気極層2側の面の反対面である燃料極層4側の面」を有していると認められるから、「一方の面」と「一方の面と反対面である他方の面」を有していることは明らかである。
そして、図10を参照すると、「金属フェルト6」は「燃料電池セル1」の「一方の面」と「他方の面」のそれぞれに「金属フェルト6」を備えているものと認められる。
(エ)甲第2号証の段落【0003】、【0004】には、「固体電解質層」の両面に、それぞれ「空気極」と、「燃料極」とを配置した「平板型単電池」は、「製作時に生じた反りや歪みを有」することが記載されている。
ここで、甲第2号証の段落【0011】の「平板型の固体電解質を燃料極及び空気極で挟持して成る燃料電池セル(単セル)」との記載を参酌すると、甲第2号証において、「燃料電池セル(単セル)」と「平板型単電池」は同じものを指し示していることは明らかであり、また、甲第2号証の段落【0017】の「燃料電池セルに歪みが生じ」る旨の記載も参照すると、甲第2号証には、「燃料電池セル1」が「製作時に生じた反りや歪みを有」することが記載されていると認められる。
(オ)甲第2号証の図10を参照すると、「燃料電池セル1」の「一方の面」、例えば「空気極層2」側の「金属フェルト6」が「前記一方の面と対向している面」を有し、「他方の面」、例えば「燃料極層4」側の「金属フェルト6」が「前記他方の面と対向している面」を有していることは明らかである。
ウ 上記イの記載において、特に「多孔質導電体」として「金属フェルト6」が用いられた態様に基づくと、甲第2号証には「燃料電池用集電構造」について、次の発明(以下「甲第2発明」という。)が記載されている。
「一方の面と、前記一方の面の反対面である他方の面とを有する燃料電池セル1と、
前記一方の面と対向している面を有する集電体としての金属フェルト6と、
前記他方の面と対向している面を有する集電体としての金属フェルト6とを備え、
前記燃料電池セル1は、製作時に生じた反りや歪みを有し、
前記金属フェルト6は、多孔質導電体であり、
上記燃料電池セル1の表面に複数の導電性突起5を設け、金属フェルト6の開口に当該突起が入り込み、接触するように配設する燃料電池用集電構造。」
エ また、上記イの記載において、集電体に関して着目すると、甲第2号証には「燃料電池用集電構造に関して、集電体を金属多孔体とする」点が記載されている。
第5 当審の判断
1 特許法第29条第1項第3号違反について
1-1 本件発明1について
(1)対比・判断
本件発明1と甲第2発明とを対比する。
ア 甲第2発明の「一方の面」及び「前記一方の面の反対面である他方の面」は、それぞれ本件発明1の「第1主面」及び「前記第1主面の反対面である第2主面」に相当するから、甲第2発明の「一方の面と、前記一方の面の反対面である他方の面とを有する燃料電池セル1」は、本件発明1と「第1主面と、前記第1主面の反対面である第2主面とを有するセル」である点で一致する。
また、甲第2発明の「燃料電池用集電構造」は、本件発明1の「電気化学セル装置」である点で一致する。
イ 甲第2発明の「前記一方の面と対向している面」及び「前記他方の面と対向している面」は、本件発明1の「前記第1主面と対向している第3主面」及び「前記第2主面と対向している第4主面」にそれぞれ相当するから、甲第2発明の「前記一方の面と対向している面を有する集電体としての金属フェルト6」及び「前記他方の面と対向している面を有する集電体としての金属フェルト6」は、本件発明1と「前記第1主面と対向している第3主面を有する第1集電体」及び「前記第2主面と対向している第4主面を有する第2集電体」である点で一致する。
ウ 甲第2発明における「金属フェルト6」は、「多孔質導電体」であり、また[図10]も参照するとシート状であることは明らかであるから、本件発明1の「三次元網目構造の骨格を有する金属多孔体からなる少なくとも1枚の金属多孔体シートにより構成されて」いる点で一致する。
一方、甲第2発明において「金属フェルト6」の「一方の面と対向している面」及び「他方の面と対向してる面」の形状は特定されておらず、甲第2発明と本件発明1とでは、第1集電体の「前記第3主面は、前記第1主面の中央部と対向している位置に凹部を含み」、第2集電体の「前記第4主面は、前記第2主面の中央部と対向している位置に凸部を含み」と特定されていない点で相違する。
エ 甲第2発明の「燃料電池セル1」は「製作時に生じた反りや歪みを有」するから、「前記他方の面から前記一方の面に向かって凸に」なる反りを有するものと認められ、本件発明1の「セル」と、「前記第2主面から前記第1主面に向かって凸に反って」いる点で一致する。
一方、甲第2発明の「燃料電池セル1」は「歪み」も有するから、「前記基準面からの距離が最も大きくなる前記一方の面の部分」及び「前記基準面からの距離が最も大きくなる前記他方の面の部分」の位置は「歪み」の状態により変化することは明らかである。
すると、甲第2発明の「前記燃料電池セル1は、製作時に生じた反りや歪みを有」する点は、本件発明1と「前記第1主面」「は、前記第2主面が平坦な基準面と対向するように前記セルを前記基準面上に配置した際に前記基準面からの距離が最も大きくなる前記第1主面の部分を含んでおり」、「前記第2主面」「は、前記第2主面が前記基準面と対向するように前記セルを前記基準面上に配置した際に前記基準面からの距離が最も大きくなる前記第2主面の部分を含んでいる」点で一致する一方、「前記基準面からの距離が最も大きくなる前記第1主面の部分」が「前記第1主面の中央部」、「前記基準面からの距離が最も大きくなる前記第2主面の部分」が「前記第2主面の中央部」と特定されていない点で相違する。
エ 以上のことから、本件発明1と甲第2発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「 第1主面と、前記第1主面の反対面である第2主面とを有するセルと、
前記第1主面と対向している第3主面を有する第1集電体と、
前記第2主面と対向している第4主面を有する第2集電体とを備え、
前記セルは、前記第2主面から前記第1主面に向かって凸に反っており、
前記第1集電体及び前記第2集電体の各々は、三次元網目構造の骨格を有する金属多孔体からなる少なくとも1枚の金属多孔体シートにより構成されており、
前記第1主面は、前記第2主面が平坦な基準面と対向するように前記セルを前記基準面上に配置した際に前記基準面からの距離が最も大きくなる前記第1主面の部分を含んでおり、
前記第2主面は、前記第2主面が前記基準面と対向するように前記セルを前記基準面上に配置した際に前記基準面からの距離が最も大きくなる前記第2主面の部分を含んでいる、電気化学セル装置。」
<相違点>
相違点1 本件発明1は、第1集電体の「前記第3主面は、前記第1主面の中央部と対向している位置に凹部を含み」、第2集電体の「前記第4主面は、前記第2主面の中央部と対向している位置に凸部を含み、」と特定されているのに対し、甲第2発明は、「一方の面と対向している面」及び「他方の面と対向してる面」の形状についてそのように特定されていない点。
相違点2 本件発明1は、「前記第2主面が平坦な基準面と対向するように前記セルを前記基準面上に配置した際に前記基準面からの距離が最も大きくなる前記第1主面の部分」が「第1主面の中央部」、「前記第2主面が前記基準面と対向するように前記セルを前記基準面上に配置した際に前記基準面からの距離が最も大きくなる前記第2主面の部分」が「第2主面の中央部」と特定されているのに対し、甲第2発明の「燃料電池セル1」は、その位置が特定されていない点。
オ すると、本件発明1と甲第2発明とは、上記相違点1及び2により相違するから、甲第2号証に記載された発明ではない。
(2)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人は「上記記載より、燃料電池セル1は反りや歪みを有していることから、燃料電池セル1を平坦面に配置した際に、その上面の中央部は上方へ向かって凸に反る、又は下方へ向かって凸に反ることが想定される。そうすると、図10において、燃料電池セル1は、図10の紙面上下方向の上方又は下方へ向かって凸に反っていることが認められる。そして、このような燃料電池セル1を、上方へ向かって凸に反る向きで平坦な基準面に配置した際には、燃料電池セル1の上面及び下面の中央部は、該基準面からの距離が最も大きくなる部分を含む。」と主張(特許異議申立書第14頁第8~14行)している。
イ 上記「(1)エ」において検討したように、甲第2発明における「燃料電池セル1」は「歪み」も有するから、「前記基準面からの距離が最も大きくなる前記一方の面の部分」が「前記一方の面の中央部」であるとも、「前記基準面からの距離が最も大きくなる前記他方の面の部分」が「前記他方の面の中央部」であるともいえない。
すると、特許異議申立人の主張は採用出来ず、本件発明1と甲第2発明とは、上記相違点2において相違するものと認められる。
ウ また、特許異議申立人は「また、燃料電池スタックでは、燃料電池セル1と集電体等との導通を図るために、燃料電池スタックの上端及び下端に配置される部材によつて、燃料電池セル1等が積層方向に沿つて押圧されていることが技術常識である。そうすると、反りを有する燃料電池セル1と接触する多孔質導電体は、燃料電池セル1の反りに追従して変形するものと認められる。燃料電池セル1の上面及び下面の中央部は、該基準面からの距離が最も大きくなる部分を含むのであるから、多孔質導電体の面のうち、燃料電池セル1の上面及び下面の中央部と対向する位置には、凹部又は凸部が含まれることが認められる。」とも主張(特許異議申立書第14頁第15~22行)している。
エ 甲第2号証の段落【0019】の「この燃料電池セル1は、電解質層3の両面を空気極層2と燃料極層4で挟持して成る。電解質層3は、12cm角程度の大きさで厚さ100μmの8mol%イットリアを添加した安定化ジルコニア(以下「8YSZ」という)から成る。」旨の記載、「空気極層2と燃料極層4は10cm角程度であり、厚さ100μm程度の厚さに焼き付けられている。」旨の記載から、「燃料電池セル1」はそれぞれ厚さ100μm程度の電解質層3、空気極層2、燃料極層4からなり、合計で300μm程度の厚さであること、及び、両電極層の表面の「導電性突起5」は電極層の厚さよりも十分長い「長さ2~4mm前後の針状」のものであることが記載されている。
ここで、甲第2号証の段落【0011】には、「上記燃料電池セル、上記セパレータのいずれか一方又は双方の表面に複数の導電性の突起を設ける」ことにより、「燃料電池セル、集電体及びセパレータは、当該開口に当該突起が入り込み、接触するように配設される」ものであり、それにより「従来品の金属薄板や導電性フェルト等の集電体をセルに強く押し付ける方法(弾性接触)に比べて、燃料電池セルにかかる応力負担が軽減される」ことが記載されている。
そして、甲第2号証の図10を参酌すると、金属フェルト6はその一部の繊維が電極層に接する部分があるとは認められるものの、面として電極層に接しているとは認められない。加えて、甲第2号証に金属フェルト6が燃料電池セル1の反りや歪みに追従して変形する点について、何ら記載も示唆もない。
上記記載事項を総合勘案すると、甲第2発明は、「上記燃料電池セル1の表面に複数の導電性突起5を設け、金属フェルト6の開口に当該突起が入り込み、接触するように配設する」ものであり、金属フェルト6の表面が直接電極層の表面に接触するものではないと解されるから、金属フェルト6が燃料電池セル1の反りに追従して変形するものとは認められない。
すると、特許異議申立人の主張は採用出来ず、本件発明1と甲第2発明とは、上記相違点1においても相違するものと認められる。
1-2 本件発明8及び12について
本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明8及び12は、同様に上記相違点1及び2を有するから、同様に甲第2号証に記載された発明ではない。
2 特許法第29条第2項違反について
2-1 本件発明1について
(1)対比・判断
本件発明1と甲第1発明とを対比する。
ア 甲第1発明の「空気電極113側の面」、「前記空気電極113側と反対面の燃料電極111側の面」は、それぞれ、本件発明1の「記第1主面」、「前記第1主面の反対面である第2主面」に相当し、甲第1発明の「積層体110」は、本件発明1の「セル」に対応する。
すると、甲第1発明における「燃料電極111、固体電解質体112、および空気電極113が、順次積層されてなり、空気電極113側の面と、前記空気電極113側の面と反対面の燃料電極111側の面を有する積層体110」は、本件発明1と「第1主面と、前記第1主面の反対面である第2主面とを有するセル」である点で一致する。
そして、甲第1発明の「積層体110」は、「前記燃料電極111側の面から前記空気電極113側の面に向かって凸に反って」いるから、本件発明の「セル」と、「前記第2主面から前記第1主面に向かって凸に反って」いる点で一致する。
また、甲第1発明の「固体酸化物形燃料電池セル100」は、本件発明1の「電気化学セル装置」である点で一致する。
イ 甲第1発明の「空気電極113側の面と対向している面」が本件発明1の「第1主面と対向している第3主面」に相当し、甲第1発明の「インターコネクタ130」が、本件発明1の「第1集電体」に対応する。
すると、甲第1発明の「外周部131、基台部132、および突出部133を有し、突出部133の先端が空気電極113の表面に接触し電気的導通を得るように設けられ、前記空気電極113側の面と対向している面を有するインターコネクタ130」は、本件発明1と「前記第1主面と対向している第3主面を有する第1集電体」である点で一致する。
また、甲第1発明は「前記空気電極113側の面と対向している面は、前記空気電極113側の面の中央部と対向している位置に凹部を含」むから、本件発明1と「前記第3主面は、前記第1主面の中央部と対向している位置に凹部を含」む点で一致する。
そして、甲第1発明における「インターコネクタ130」は、「外周部131、基台部132、および突出部133を有し、Crofer22合金、またはZMG232L合金から一体的に構成され」ており、[図2]の記載も参酌すると、シートにより構成されていると認められるから、本件発明1の「第1集電体」と、「少なくとも1枚の金属」「シートにより構成されて」いる点で一致する。
一方、甲第1発明は「インターコネクタ130」が、「三次元網目構造の骨格を有する」「多孔体」により構成されていると特定されていない点で相違する。
ウ 甲第1発明の「燃料電極111側の面と対向している面」が、本件発明1の「第2主面と対向している第4主面」に相当し、甲第1発明の「集電体140」が、本件発明1の「第2集電体」に対応する。
すると、甲第1発明の「前記燃料電極111側の面と対向している面を有する集電体140」は、本件発明1と「前記第2主面と対向している第4主面を有する第2集電体」である点で一致する。
また、甲第1発明は、「前記燃料電極111側の面と対向している面は、前記第2主面の中央部と対向している位置に凸部を含」から、本件発明1と、「前記第4主面は、前記第2主面の中央部と対向している位置に凸部を含」む点で一致する。
そして、甲第1発明における「集電体140」は、「ニッケル(Ni)等の金属から構成され多孔質状(セルメット)を用い」ているから、本件発明1の「第2集電体」と、「三次元網目構造の骨格を有する金属多孔体からなる」「金属多孔体」「により構成されて」いる点で一致する。
一方、甲第1発明は「集電体140」がシートにより構成されているとは特定されておらず、[図2]の記載を参酌しても、シートにより構成されているか不明であるから、本件発明2の「第2集電体」と、「少なくとも1枚の」「シート」により構成されていると特定されていない点で相違する。
エ 甲第1発明は、「前記空気電極113側の面の中央部は、前記燃料電極111側の面が平坦な基準面と対向するように前記積層体110を前記基準面上に配置した際に前記基準面からの距離が最も大きくなる前記空気電極113側の面の部分を含んでおり」、「前記燃料電極111側の面の中央部は、前記燃料電極111側の面が前記基準面と対向するように前記積層体110を前記基準面上に配置した際に前記基準面からの距離が最も大きくなる前記燃料電極111側の面の部分を含んでいる」から、本件発明1と、「前記第1主面の中央部は、前記第2主面が平坦な基準面と対向するように前記セルを前記基準面上に配置した際に前記基準面からの距離が最も大きくなる前記第1主面の部分を含んでおり」、「前記第2主面の中央部は、前記第2主面が前記基準面と対向するように前記セルを前記基準面上に配置した際に前記基準面からの距離が最も大きくなる前記第2主面の部分を含んでいる」点で一致する。
オ 以上のことから、本件発明1と甲第1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「 第1主面と、前記第1主面の反対面である第2主面とを有するセルと、
前記第1主面と対向している第3主面を有する第1集電体と、
前記第2主面と対向している第4主面を有する第2集電体とを備え、
前記セルは、前記第2主面から前記第1主面に向かって凸に反っており、
前記第3主面は、前記第1主面の中央部と対向している位置に凹部を含み、
前記第4主面は、前記第2主面の中央部と対向している位置に凸部を含み、
前記第1集電体は、少なくとも1枚の金属シートにより構成されており、
前記第2集電体は、三次元網目構造の骨格を有する金属多孔体からなる金属多孔体により構成されており、
前記第1主面の中央部は、前記第2主面が平坦な基準面と対向するように前記セルを前記基準面上に配置した際に前記基準面からの距離が最も大きくなる前記第1主面の部分を含んでおり、
前記第2主面の中央部は、前記第2主面が前記基準面と対向するように前記セルを前記基準面上に配置した際に前記基準面からの距離が最も大きくなる前記第2主面の部分を含んでいる、電気化学セル装置。」
<相違点>
相違点3 本件発明1は、「第1集電体」が、「三次元網目構造の骨格を有する金属多孔体からなる少なくとも1枚の金属多孔体シート」により構成されている一方、甲第1発明における「インターコネクタ130」は、「金属」「シート」ではあるものの、「三次元網目構造の骨格を有する」「多孔体」により構成されていると特定されていない点。
相違点4 本件発明1は、「第2集電体」が、「少なくとも1枚の金属多孔体シート」により構成されている一方、甲第1発明における「集電体140」は、「金属多孔体」ではあるものの、「少なくとも1枚の」「シート」により構成されていると特定されていない点。
カ 事案に鑑み、上記相違点3について検討する。
甲第1号証の段落[0048]には、「インターコネクタ130」は「固体酸化物形燃料電池セル100(1)、100(2)、固体酸化物形燃料電池セル100(2)、100(3)で共用される」ものであることが記載されている。
そして、甲第1号証の[0036]及び[図2]の記載も参照すると、「インターコネクタ130」は、固体酸化物形燃料電池セルが複数個積層されて構成される「固体酸化物形燃料電池10」において、例えば「固体酸化物形燃料電池セル100(1)」の「支燃性ガスが供給される空気室116」と、「固体酸化物形燃料電池セル100(2)」の「燃料ガスが供給される燃料室115」とを分離するものであると認められる。
ここで、甲第1発明の「インターコネクタ130」を、「三次元網目構造の骨格を有する」「多孔体」とすると、「固体酸化物形燃料電池セル100(1)」の「支燃性ガスが供給される空気室116」と、「固体酸化物形燃料電池セル100(2)」の「燃料ガスが供給される燃料室115」とを分離することができなくなり、固体酸化物形燃料電池10としての性能が大幅に低下することは明らかである。
また、甲第1号証に、「インターコネクタ130」を多孔体とすることについて何ら記載も示唆もない。
すると、甲第2号証に「燃料電池用集電構造に関して、集電体を金属多孔体とする」点が記載されていたとしても、甲第1発明に適用し、甲第1発明の「インターコネクタ130」に代えて甲第2号証に記載された「金属多孔体」を採用する動機はなく、むしろ、阻害要因があるといえる。
以上から、本件発明1は、甲第1発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。
(2)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人は「甲1発明と甲2発明とは、共に燃料電池セルに関する発明であり、技術分野が共通する。また、甲1発明及び甲2発明は、いずれも電極の接触箇所における接続不良を抑制し、良好な導電性を確保することを目的としているため、これらの課題は共通する。さらに、甲1発明のインターコネクタ130は空気電極113に電気的に接続し、積層体110への応力集中の緩和と、空気電極113とインターコネクタ130との接触面積の増加とを図ったものであり、甲2発明の多孔質導電体は電極に3次元的に接触して電気的導通を保持するものであることから、これらの作用・機能は共通する。
したがって、甲1発明のインターコネクタ130に代えて甲2発明の多孔質導電体を採用すること、又はインターコネクタ130と空気電極113との間に甲2発明の多孔質導電体を設けることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。なお、甲1発明に採用した多孔質導電体の空気電極113側の面は、インターコネクタ130と同様に積層体110の反りに追従することが当然に想定されるため、多孔質導電体の空気電極113側の面は、積層体110のインターコネクタ130側の面の中央部と対向している位置に凹部を含むものと認められる。」と主張(特許異議申立書第18頁第4~18行)している。
イ 上記「(1)カ」において検討したように、甲第1発明の「インターコネクタ130」に代えて甲第2号証に記載された「金属多孔体」を採用することには動機がなく、むしろ阻害要因があるといえる。
ウ また、甲第1号証に「インターコネクタ130」と「セル」の「空気電極113」との間に、何らかの部材を設けることについて記載も示唆もない。
そして、甲第1発明は「インターコネクタ130」の「突出部133の先端が空気電極113の表面に接触し電気的導通を得る」ものであり、甲第1号証の[0076]を参照すると、甲第1発明はそれにより、「突出部133の先端から接触することとなり、応力集中が緩和され」、「また、突出部133の弾性範囲内では、接触面積が増加し、集電効果の増加が期待される」ものであるから、甲第1発明の「インターコネクタ130」と「セル」との間に、甲第2号証に記載された「金属多孔体」を採用する動機もない。
加えて、「インターコネクタ130」と「セル」との間に何らかの部材を設けることは、「インターコネクタ130」と「セル」との間の電気抵抗を増加させることになることは明らかであり、むしろ、阻害要因があるといえる。
エ 以上から、特許異議申立人の主張を採用することはできず、本件発明1は、甲第1発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。
2-2 本件発明8及び12について
本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明8及び12は、同様に上記相違点3を有するから、同様に甲第1発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1、8及び12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、8及び12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2025-700304