特許異議申立
2025-700214
バッテリー用クッション材
- 審判番号
- 2025-700214
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-035820
- 登録番号
- 7542299
- 請求日
- 2025年02月20日
- 審決日
- 2025年04月28日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】積水化学工業株式会社
- 【権利者代理人】田口 昌浩
- 【異議申立人】弁理士法人 朝日奈特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 松本 陶子
- 審判官 加藤 友也
- 分類
- P1651.121-Y (C08J) / P1651.536-Y (C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7542299号発明「バッテリー用クッション材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7542299号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7542299号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成31年2月28日に出願されたものであって、令和6年8月22日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月30日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和7年2月20日に特許異議申立人 弁理士法人 朝日奈特許事務所(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
樹脂発泡層を備えるバッテリー用クッション材であって、
前記樹脂発泡層の剪断方向へ1mm変形時の剪断強度が0.1~5.0MPaであり、
前記樹脂発泡層を構成する樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であり、
前記樹脂発泡層における発泡体の独立気泡率が80%以上であり、
前記樹脂発泡層の見掛け密度が34~300kg/m3である、バッテリー用クッション材。
【請求項2】
前記樹脂発泡層の最大剪断強度が1.0~10.0MPaである、請求項1に記載のバッテリー用クッション材。
【請求項3】
前記樹脂発泡層の50%圧縮応力が50~1,000kPaである、請求項1又は2に記載のバッテリー用クッション材。
【請求項4】
前記樹脂発泡層における発泡体の発泡倍率が8.0~21.0倍である、請求項1又は2に記載のバッテリー用クッション材。
【請求項5】
前記樹脂発泡層の表層の少なくとも一部に接着層を備える、請求項1又は2に記載のバッテリー用クッション材。」
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由の概要等
令和7年2月20日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。なお、判断の便宜上、当審において証拠毎に特許異議申立ての理由を整理した。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1及び3ないし5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び3ないし5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許発明1及び3ないし5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び3ないし5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(甲第3号証に基づく進歩性)
本件特許発明1、3及び4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、3及び4に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由4(甲第4号証に基づく進歩性)
本件特許発明1及び3ないし5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基づいてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び3ないし5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 申立理由5(実施可能要件)
本件特許の請求項2ないし5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許発明2は、「前記樹脂発泡層の最大剪断強度が1.0~10.0MPaである。」という構成要件を必須の発明特定事項とする。
しかしながら、このような本件特許発明2は、以下のとおり、発明の詳細な説明に基づいて実施可能ではない。
すなわち、本件特許明細書には、上記構成要件に規定された最大剪断強度を測定する方法に関して、以下のとおり開示がある。
[0059]
<最大剪断強度>
実施例及び比較例で得られたバッテリー用クッション材(樹脂発泡層)を幅30mm、長さ30mmにカットして試験片を作製した。この試験片を試料よりも大きな面積のポリエステル板に接着剤で貼り合わせて放置した。1時間後試験片を元の厚さの50%まで圧縮させながら、万能材料試験機(株式会社エー・アンド・デイ製、テンシロン万能材料試験機、RTF-1310)で把持し、引張り速度50.0±0.2mm/分で引張り試験機を動かして、バッテリー用クッション材(樹脂発泡層)を破断させ、その際の最大剪断強度を測定した。
このように、最大剪断強度は、試験片を元の厚さの50%まで圧縮させながら、株式会社エー・アンド・デイ製のRTF-1310で引張測定をしたとのことである。
ここで、甲第10号証(RTFシリーズテンシロンのカタログ、(株)エー・アンド・デイ、2014年9月発行)と、甲第11号証(玉井好美、引張・圧縮万能材料試験機「テンシロンシリーズ」、塗装技術、コーテック(株)、2016年8月発行、第61頁~第64頁)を、参考資料として参照する。
甲第10号証および甲第11号証を参照しても、「試験片を圧縮しながら引張試験を行う機能」は紹介されておらず、また、付属機器あるいは応用試験治具としても、そのような引張試験を行い得る治具等は開示も示唆もない。
なお、以下の図は、甲第11号証に記載された“写真-3 剥離評価の方法せん断引張法”を参考として作成した、通常のポリオレフィン樹脂発泡体の剪断強度の測定方法を示す概略図である。
[図:0001422497000001.jpg]
参照符号18はポリオレフィン樹脂発泡体、19は貼付け基板を示し、上向きの矢印はテンシロンによる引張方向を示す。
そこで、このようなテンシロンの基本的な構成を参照しつつ、本件特許明細書の上記[0059]の開示をもとに、最大剪断強度を測定する方法を示す概略図を検討したところ、以下のとおりである。
[図:0001422497000002.jpg]
参照符号1は試験に供する樹脂発泡層(幅30mm、長さ30mm)であり、2は大きな面積のポリエステル板であり、3aおよび3bは樹脂発泡層の厚さを50%まで圧縮させるための基材(圧縮基材)である。
樹脂発泡層1とポリエステル板2とは接着剤で貼り合わせられている。
上向きの矢印はテンシロンによる引張方向を示し、内向きの矢印は圧縮基材3aおよび3bの圧縮方向を示す。
ここで、仮に圧縮基材3aおよび3bが固定され、樹脂発泡層1との位置関係が変わらない場合、ポリエステル板2と圧縮基材3aおよび3bとの間に摩擦力が発生することは自明である。この場合、上向き矢印(テンシロンに記録される応力)は、「樹脂発泡体層で発生する剪断力」だけではなく、「ポリエステル板2と圧縮基材3aおよび3bとの間に発生する摩擦力」との和となる。
しかしながら、本件特許明細書には、「ポリエステル板2と圧縮基材3aおよび3bとの間に発生する摩擦力」をどのように測定し、「テンシロンに記録される応力」から、差し引けばよいかについて、何ら開示も示唆もない。
また、仮に何らかの方法によって、ポリエステル板2と圧縮基材3aおよび3bとの位置関係を変えずに測定する場合は、「ポリエステル板2と圧縮基材3との間に発生する摩擦力」が発生せず、テンシロンに、剪断力のみが記録されることとなる。
しかしながら、圧縮基材3aおよび3bの圧縮力(内向き矢印)をどのように発生する装置であるのかについて、本件特許明細書には何ら開示も示唆もない。
さらに、実際は、「テンシロンに記録される応力」には、種々の誤差が全体の誤差として検出され得る。しかしながら、本件特許明細書には、このような全体の誤差を排除するための方策について、何ら開示も示唆もない。
加えて、本件特許発明2において採用されているような剪断引張法の場合、発泡体を引っ張り始めると、測定の過程において、発泡体の厚みが変動し得る(通常、横から加圧しつつ、上下に引っ張ると、厚みは薄くなることが自明である)。このような場合において、圧縮力の大きさをどのように変化させれば、試験片の厚さを、元の厚さの50%に維持したままで測定し得るのかについても、何ら開示も示唆もない。
以上より、いかに当業者であっても、本件特許明細書を参照して、上記構成要件に規定された最大剪断強度を正確に測定するには、過度の試行錯誤を要する。
したがって、本件特許発明2は、発明の詳細な説明に基づいて実施可能ではない。
本件特許発明2に従属する本件特許発明3~5についても同様である。
6 証拠方法
甲第1号証:特開2017-66403号公報
甲第2号証:特開2017-66404号公報
甲第3号証:特開2016-160300号公報
甲第4号証:国際公開第2017/094723号
甲第5号証:特開2017-201710号公報
甲第6号証:特開2004-103415号公報
甲第7号証:特開平4-296467号公報
甲第8号証:令和5年6月22日起案の拒絶理由通知書、2023年6月22日(起案日)、特許庁
甲第9号証:令和5年10月17日提出の意見書、2023年10月17日、積水化学工業株式会社
甲第10号証:RTFシリーズ テンシロンのカタログ、2014年9月、(株)エー・アンド・デイ
甲第11号証:玉井好美、引張・圧縮万能材料試験機「テンシロンシリーズ」、塗装技術、第61頁~第64頁、2016年8月、コーテック(株)
証拠の表記は、特許異議申立書及び証拠説明書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
1 甲1に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項
甲1には、「ポリオレフィン系樹脂発泡シート及び粘着テープ」に関しておおむね次の事項が記載されている。下線は当審で付したものである。他の証拠についても同様。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に複数の気泡を有するポリオレフィン系樹脂発泡シートであって、
熱伝導率が0.050W/(m・K)以下であるとともに、MD伸び率が400%以下、TD伸び率が200%以下であるポリオレフィン系樹脂発泡シート。」
・「【請求項7】
独立気泡率が70~100%である、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂発泡シート。」
・「【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載されたポリオレフィン系樹脂発泡シートと、前記ポリオレフィン系樹脂発泡シートの少なくとも一方の面に設けた粘着剤層とを備える粘着テープ。」
・「【0006】
しかし、従来のポリオレフィン系樹脂発泡シートでは、断熱性を高く維持しつつも、柔軟性及び衝撃吸収性を十分に良好にすることが難しい。
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、断熱性を高くしつつ、厚さ方向における柔軟性、及び衝撃吸収性を良好にするポリオレフィン系樹脂発泡シートを提供することである。」
・「【0048】
[実施例1]
ポリオレフィン系樹脂としての直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製「カーネルKF370」、密度:0.905g/cm3、融点(DSC法)Tm:97℃)100質量部、熱分解型発泡剤としてのアゾジカルボンアミド10質量部、分解温度調整剤としての酸化亜鉛1.0質量部、及び酸化防止剤としての2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール0.5質量部を押出機に供給して130℃で溶融混練し、厚さ約0.3mmの長尺シート状のポリオレフィン系樹脂組成物を押出した。
次に、上記長尺シート状のポリオレフィン系樹脂組成物を、その両面に加速電圧500kVの電子線を5.0Mrad照射して架橋した後、熱風及び赤外線ヒーターにより250℃に保持された発泡炉内に連続的に送り込んで加熱して発泡させると共に、発泡させながらMDの延伸倍率を3.0倍、TDの延伸倍率を2.0倍として延伸させることにより、厚さ0.22mmの発泡シートを得た。得られた発泡シートの評価結果を表1に示す。
【0049】
[実施例2]
熱分解型発泡剤の配合量を14質量部に、MD,TDの延伸倍率を2.5倍、1.5倍と変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。
【0050】
[実施例3]
直鎖状低密度ポリエチレンの配合量を30質量部に変更するとともに、ポリオレフィン系樹脂としてエチレン-酢酸ビニル共重合体(東ソー株式会社製「ウルトラセン636」、酢酸ビニル含有率19質量%)を70質量部さらに配合した点を除いて実施例2と同様に実施した。
【0051】
[実施例4]
直鎖状低密度ポリエチレンの配合量を30質量部に変更するとともに、ポリオレフィン系樹脂としてエチレン-酢酸ビニル共重合体(東ソー株式会社製「ウルトラセン636」、酢酸ビニル含有率19質量%)を70質量部さらに配合した点を除いて実施例1と同様に実施した。
【0052】
[比較例1]
熱分解型発泡剤の配合量を4質量部に、電子線の照射量を4.5Mradに、MD,TDの延伸倍率を2.0倍、1.5倍と変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。
【0053】
[比較例2]
熱分解型発泡剤の配合量を4質量部に、電子線の照射量を4.5Mradに、MD,TDの延伸倍率を1.8倍、1.2倍と変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。
【0054】
[比較例3]
熱分解型発泡剤の配合量を6質量部に、電子線の照射量を4.5Mradに、MD,TDの延伸倍率を2.0倍、1.5倍と変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。
【0055】
【表1】
[図:0001422497000003.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に実施例1又は2に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「ポリオレフィン系樹脂としての直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製「カーネルKF370」、密度:0.905g/cm3、融点(DSC法)Tm:97℃)100質量部、熱分解型発泡剤としてのアゾジカルボンアミド10質量部又は14質量部、分解温度調整剤としての酸化亜鉛1.0質量部、及び酸化防止剤としての2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール0.5質量部を押出機に供給して130℃で溶融混練し、厚さ約0.3mmの長尺シート状のポリオレフィン系樹脂組成物を押出し、次に、上記長尺シート状のポリオレフィン系樹脂組成物を、その両面に加速電圧500kVの電子線を5.0Mrad照射して架橋した後、熱風及び赤外線ヒーターにより250℃に保持された発泡炉内に連続的に送り込んで加熱して発泡させると共に、発泡させながら延伸させることにより得た、独立気泡率90%、見掛け密度0.08g/cm3又は0.06g/cm3の発泡シート。」
2 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「発泡シート」は「発泡させながら延伸させることにより得た」ものであるから、本件特許発明1における「樹脂発泡層を備える」という発明特定事項を有するとともに、同「バッテリー用クッション材」と「材」という限りにおいて一致する。
甲1発明における「ポリオレフィン系樹脂としての直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製「カーネルKF370」、密度:0.905g/cm3、融点(DSC法)Tm:97℃)」は本件特許発明1における「前記樹脂発泡層を構成する」「ポリオレフィン系樹脂」に相当する。
甲1発明における「発泡シート」は「独立気泡率90%」であるから、甲1発明は本件特許発明1における「前記樹脂発泡層における発泡体の独立気泡率が80%以上であり」という発明特定事項を有する。
甲1発明における「発泡シート」は「見掛け密度0.08g/cm3又は0.06g/cm3」(0.08g/cm3=80kg/m3、0.06g/cm3=60kg/m3)であるから、甲1発明は本件特許発明1における「前記樹脂発泡層の見掛け密度が34~300kg/m3である」という発明特定事項を有する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「樹脂発泡層を備える材であって、
前記樹脂発泡層を構成する樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であり、
前記樹脂発泡層における発泡体の独立気泡率が80%以上であり、
前記樹脂発泡層の見掛け密度が34~300kg/m3である、材。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-1>
「材」に関して、本件特許発明1においては「バッテリー用クッション材」と特定されているのに対し、甲1発明においては「シート」と特定されている点。
<相違点1-2>
本件特許発明1においては「前記樹脂発泡層の剪断方向へ1mm変形時の剪断強度が0.1~5.0MPaであり」と特定されているのに対し、甲1発明においてはそのようには特定されていない点。
(2)判断
事案に鑑み、相違点1-2について検討する。
甲1には、甲1発明において、相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲1発明において、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「バッテリー内に配置されたセルの膨張及び収縮に追従することができ、かつセルがバッテリーの筺体内に移動しないように固定することができるバッテリー用クッション材を提供することができる。」(本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0007】)という効果は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
(3)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、特許異議申立書において、相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項に関して、おおむね次の主張をしている。なお、摘記に際し、空白行等は適宜省略した。以下、同様。
「これに対し、本件特許権者は、甲第9号証に示されるように、「しかし、本明細書に記載の実施例に用いられる樹脂組成物の成分は低密度ポリエチレン樹脂及び添加剤のみの単純なものであるところ、発泡倍率、独立気泡率、見掛け密度(発泡倍率に連動して変動)などの主に発泡体の物性を調整することで、「剪断方向へ1mm変形時の剪断強度が0.1~5.0MPa」であることを満足する樹脂発泡層を製造できると当業者が認識することは明らかです。そうすると、樹脂の種類に加えて、見掛け密度、及び独立気泡率を限定した補正後の請求項1に係る発明において、「剪断方向へ1mm変形時の剪断強度が0.1~5.0MPa」であることを満足する樹脂発泡層を製造するために、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤が必要となることはないと考えます。」と述べている。
すなわち、本件特許権者は、「樹脂の種類に加えて、見掛け密度、及び独立気泡率を限定した」ことにより、本願発明は、「剪断方向へ1mm変形時の剪断強度が0.1~5.0MPa」であることを満足する樹脂発泡層を製造することができる、と自認している。
ここで、樹脂の種類、独立気泡率、見掛け密度は、それぞれ、構成要件1C、構成要件1Dおよび構成要件1Eにあたる。これら構成要件1C、1D、1Eは、上記のとおり、甲1発明も具備している。
さらに、上記のとおり、甲1発明は、本件特許発明1と、原材料が共通している(構成要件1A)。
そうすると、本件特許権者も自認するとおり、樹脂の種類、独立気泡率、見掛け密度(発泡倍率に連動して変動)といった発泡体の物性が本件特許発明と同様である甲1発明は、「剪断方向へ1mm変形時の剪断強度が0.1~5.0MPa」であることを満足する樹脂発泡層を有しているか、有している蓋然性が極めて高い。」(特許異議申立書第36及び37ページ)
イ 判断
そこで、上記主張について検討する。
特許権者の甲9における主張は、発泡倍率、独立気泡率、見掛け密度(発泡倍率に連動して変動)などの主に発泡体の物性を調整することで、「剪断方向へ1mm変形時の剪断強度が0.1~5.0MPa」であることを満足する樹脂発泡層を製造できると述べているに過ぎず、発泡倍率、独立気泡率、見掛け密度(発泡倍率に連動して変動)が、本件特許発明1で特定される範囲にあれば必ず「剪断方向へ1mm変形時の剪断強度が0.1~5.0MPa」になるというものではない。
また、甲1発明の認定の根拠となった甲1の実施例1又は2は、発明の詳細な説明に記載された実施例とは、原料や製造条件が異なるものであり、さらに、独立気泡率や見掛け密度といった発泡体の物性も異なるものである。
したがって、甲1発明が「剪断方向へ1mm変形時の剪断強度が0.1~5.0MPa」であることを満足する樹脂発泡層を有しているとはいえないし、有している蓋然性が極めて高いともいえない。
よって、上記主張は採用できない。
(4)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 本件特許発明3ないし5について
本件特許発明3ないし5のいずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
4 申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1及び3ないし5は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1及び3ないし5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由1によっては取り消すことはできない。
第5 申立理由2(甲2に基づく進歩性)について
1 甲2に記載された事項等
(1)甲2に記載された事項
甲2には、「ポリオレフィン系樹脂発泡シート及び粘着テープ」に関しておおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
内部に複数の気泡を有するポリオレフィン系樹脂発泡シートであって、
熱伝導率が0.050W/(m・K)以下であるとともに、MD伸び率が400%以下、TD伸び率が200%以下であるポリオレフィン系樹脂発泡シート。」
・「【請求項6】
見掛け倍率が9.0cm3/g以上24.0cm3/g以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂発泡シート。
【請求項7】
独立気泡率が70~100%である、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂発泡シート。」
・「【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載されたポリオレフィン系樹脂発泡シートと、前記ポリオレフィン系樹脂発泡シートの少なくとも一方の面に設けた粘着剤層とを備える粘着テープ。」
・「【0006】
しかし、従来のポリオレフィン系樹脂発泡シートでは、断熱性を高く維持しつつも、柔軟性及び衝撃吸収性を十分に良好にすることが難しい。
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、断熱性を高くしつつ、厚さ方向における柔軟性、及び衝撃吸収性を良好にするポリオレフィン系樹脂発泡シートを提供することである。」
・「【0047】
[実施例1]
ポリオレフィン系樹脂としての直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製「カーネルKF370」、密度:0.905g/cm3、融点(DSC法)Tm:97℃)100質量部、熱分解型発泡剤としてのアゾジカルボンアミド10質量部、分解温度調整剤としての酸化亜鉛1.0質量部、及び酸化防止剤としての2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール0.5質量部を押出機に供給して130℃で溶融混練し、厚さ約0.3mmの長尺シート状のポリオレフィン系樹脂組成物を押出した。
次に、上記長尺シート状のポリオレフィン系樹脂組成物を、その両面に加速電圧500kVの電子線を5.0Mrad照射して架橋した後、熱風及び赤外線ヒーターにより250℃に保持された発泡炉内に連続的に送り込んで加熱して発泡させると共に、発泡させながらMDの延伸倍率を3.0倍、TDの延伸倍率を2.0倍として延伸させることにより、厚さ0.22mmの発泡シートを得た。得られた発泡シートの評価結果を表1に示す。
【0048】
[実施例2]
熱分解型発泡剤の配合量を14質量部に、MD,TDの延伸倍率を2.5倍、1.5倍と変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。」
・「【0054】
【表1】
[図:0001422497000004.jpg]
」
(2)甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を、特に実施例1又は2に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2発明>
「ポリオレフィン系樹脂としての直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製「カーネルKF370」、密度:0.905g/cm3、融点(DSC法)Tm:97℃)100質量部、熱分解型発泡剤としてのアゾジカルボンアミド10質量部又は14質量部、分解温度調整剤としての酸化亜鉛1.0質量部、及び酸化防止剤としての2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール0.5質量部を押出機に供給して130℃で溶融混練し、厚さ約0.3mmの長尺シート状のポリオレフィン系樹脂組成物を押出し、次に、上記長尺シート状のポリオレフィン系樹脂組成物を、その両面に加速電圧500kVの電子線を5.0Mrad照射して架橋した後、熱風及び赤外線ヒーターにより250℃に保持された発泡炉内に連続的に送り込んで加熱して発泡させると共に、発泡させながら延伸させることにより得た、独立気泡率90%、見掛け密度0.08g/cm3又は0.06g/cm3の発泡シート。」
2 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明を対比・判断する。
甲2発明は甲1発明と同じであるから、その対比・判断も同じである。
すなわち、本件特許発明1は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 本件特許発明3ないし5について
本件特許発明3ないし5のいずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
4 申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1及び3ないし5は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1及び3ないし5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由2によっては取り消すことはできない。
第6 申立理由3(甲3に基づく進歩性)について
1 甲3に記載された事項等
(1)甲3に記載された事項
甲3には、「架橋ポリエチレン系樹脂発泡粒子、及び発泡粒子成形体」に関しておおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
密度910kg/m3を超え940kg/m3以下のポリエチレン系樹脂45~85質量%と、熱可塑性エラストマー10~40質量%と、鉱物性油1~20質量%とを含む樹脂組成物(ただし、前記ポリエチレン系樹脂と熱可塑性エラストマーと鉱物性油の合計は100質量%である)を基材樹脂とする発泡粒子であって、前記発泡粒子のキシレン不溶分が発泡粒子の全質量に対して30質量%以上である、架橋ポリエチレン系樹脂発泡粒子。」
・「【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の架橋ポリエチレン系樹脂発泡粒子を型内成形してなる発泡粒子成形体。」
・「【0005】
本発明は、柔軟性と回復性に富むうえ、耐久性にも優れる発泡粒子成形体、および該発泡粒子成形体が得られる発泡粒子を提供することを目的とする。」
・「【0041】
前記発泡粒子により得られる発泡粒子成形体は、密度が20~150kg/m3であることがより好ましく、25~100kg/m3であることが更に好ましい。上記範囲内であれば、柔軟性に優れると共に、耐久性にも優れるので、特に、シートクッション材やスポーツパッド材として好適に用いることができる。」
・「【0048】
[原料]
ポリエチレン系樹脂1(PE1):低密度ポリエチレン、曲げ弾性率180MPa、融点112℃、MFR5.2g/10分(190℃、荷重2.16kg)、密度924kg/m3。
エチレン-αオレフィン共重合体:ダウケミカル社製エンゲージ8480:曲げ弾性率82MPa、融点96℃、MFR1g/10分(190℃、荷重2.16kg)、密度902kg/m3。
ポリプロピレン系樹脂(PP):エチレンプロピレンランダムコポリマー、エチレンコンテント2.7質量%、曲げ弾性率1000MPa、融点143℃、MFR5g/10分(230℃、荷重2.16kg)、密度900kg/m3。
熱可塑性エラストマー(TPE):スチレン系熱可塑性エラストマー(スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンのブロック共重合体;SEEPS)、グレード名セプトン4055、密度910kg/m3。
鉱物性油:パラフィン系プロセス油、出光興産株式会社製ダイナオイルPW90
架橋剤:ジクミルパーオキサイド、日油株式会社製、商品名パークミルD、分子量270、融点38℃、1時間半減期温度136℃。
【0049】
実施例1
ポリエチレン系樹脂(PE1)と、熱可塑性エラストマーと、鉱物性油との樹脂組成物を基材樹脂として、表1に示す配合で押出機で溶融混練された樹脂溶融物をφ2mmのダイからストランド状に押し出し、水中で冷却してからペレタイザーにて粒子質量約5mgとなるようにカットして造粒し、樹脂粒子を得た。
得られた樹脂粒子1kgを分散媒である水3リットル、分散剤としてカオリンを3g、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを0.04g、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを樹脂粒子100質量部に対して1質量部、発泡剤として二酸化炭素(ドライアイス)3質量部を容積5Lの密閉容器内に仕込み、撹拌下で架橋・発泡温度である160℃まで昇温し、蒸気圧3MPa(G)で、30分保持した後、内容物を大気圧下に放出して発泡粒子を得た。
得られた発泡粒子の見かけ密度、独立気泡率、及びキシレン不溶分(ゲル分率)を測定した結果を表1に示す。
【0050】
得られた発泡粒子を密閉容器に投入し、0.2MPa(G)の圧縮空気で12時間加圧して発泡粒子内に0.13MPa(G)の内圧を付与し、取り出した後、縦250mm、横200mm、厚み50mmの平板形状の金型に該発泡粒子を充填し、水蒸気で加熱後、冷却して型より成形体を取り出す型内成形を行い、さらに該発泡粒子成形体を80℃に調整されたオーブン内で12時間加熱乾燥養生した後取り出し、発泡粒子成形体を得た。
得られた成形体について、密度、50%圧縮応力、圧縮永久歪、最大引張応力、引張破断伸びを測定し、表面性、融着性及び成形時の収縮の評価を行った。
【0051】
実施例2~5
表1に記載の条件に変えた以外は実施例1と同様にして、発泡粒子、成形体を製造した。得られた成形体について、実施例1と同様にして評価を行った。
以上から、実施例1~5において得られた成形体は柔軟であり、圧縮永久歪は小さく、引張破断伸びが大きいことから、耐久性に優れ、例えば、靴底のソール材として使用した場合には製品使用時における屈曲においても割れ裂けし難い製品となる。」
・「【0056】
【表1】
[図:0001422497000005.jpg]
」
(2)甲3に記載された発明
甲3に記載された事項を、特に実施例1又は2に関して整理すると、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。
<甲3発明>
「ポリエチレン系樹脂(PE1)と、熱可塑性エラストマーと、鉱物性油との樹脂組成物を基材樹脂として、表1の実施例1又は2の欄に示す配合で押出機で溶融混練された樹脂溶融物をφ2mmのダイからストランド状に押し出し、水中で冷却してからペレタイザーにて粒子質量約5mgとなるようにカットして造粒し、樹脂粒子を得、得られた樹脂粒子1kgを分散媒である水3リットル、分散剤としてカオリンを3g、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを0.04g、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを樹脂粒子100質量部に対して1質量部、発泡剤として二酸化炭素(ドライアイス)3質量部を容積5Lの密閉容器内に仕込み、撹拌下で架橋・発泡温度である160℃まで昇温し、蒸気圧3MPa(G)で、30分保持した後、内容物を大気圧下に放出して発泡粒子を得、得られた発泡粒子を密閉容器に投入し、0.2MPa(G)の圧縮空気で12時間加圧して発泡粒子内に0.13MPa(G)の内圧を付与し、取り出した後、縦250mm、横200mm、厚み50mmの平板形状の金型に該発泡粒子を充填し、水蒸気で加熱後、冷却して型より成形体を取り出す型内成形を行い、さらに該発泡粒子成形体を80℃に調整されたオーブン内で12時間加熱乾燥養生した後取り出し、得た独立気泡率86%又は84%、成形体密度67kg/m3又は72kg/m3の発泡粒子成形体。」(当審注:「表1の実施例1又は2の欄」については上記(1)参照。)
2 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明における「発泡粒子成形体」は「発泡剤として二酸化炭素(ドライアイス)3質量部を容積5Lの密閉容器内に仕込み、撹拌下で架橋・発泡温度である160℃まで昇温し、蒸気圧3MPa(G)で、30分保持した後、内容物を大気圧下に放出して」得たものであるから、本件特許発明1における「樹脂発泡層を備える」という発明特定事項を有するとともに、同「バッテリー用クッション材」と「材」という限りにおいて一致する。
甲3発明における「ポリエチレン系樹脂(PE1)」は本件特許発明1における「前記樹脂発泡層を構成する」「ポリオレフィン系樹脂」に相当する。
甲3発明における「発泡粒子成形体」は「独立気泡率86%又は84%」であるから、甲3発明は本件特許発明1における「前記樹脂発泡層における発泡体の独立気泡率が80%以上であり」という発明特定事項を有する。
甲3発明における「発泡粒子成形体」は「成形体密度67kg/m3又は72kg/m3」であるから、甲3発明は本件特許発明1における「前記樹脂発泡層の見掛け密度が34~300kg/m3である」という発明特定事項を有する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「樹脂発泡層を備える材であって、
前記樹脂発泡層を構成する樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であり、
前記樹脂発泡層における発泡体の独立気泡率が80%以上であり、
前記樹脂発泡層の見掛け密度が34~300kg/m3である、材。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3-1>
「材」に関して、本件特許発明1においては「バッテリー用クッション材」と特定されているのに対し、甲3発明においては「シート」と特定されている点。
<相違点3-2>
本件特許発明1においては「前記樹脂発泡層の剪断方向へ1mm変形時の剪断強度が0.1~5.0MPaであり」と特定されているのに対し、甲3発明においてはそのようには特定されていない点。
(2)判断
事案に鑑み、相違点3-2について検討する。
甲3には、甲3発明において、相違点3-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲3発明において、甲3及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点3-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「バッテリー内に配置されたセルの膨張及び収縮に追従することができ、かつセルがバッテリーの筺体内に移動しないように固定することができるバッテリー用クッション材を提供することができる。」という効果は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
(3)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、特許異議申立書において、相違点3-2に係る本件特許発明1の発明特定事項に関して、おおむね次の主張をしている。
「(ア-1)甲第1号証を主たる証拠とする進歩性欠如について」において上記したとおり、本件特許の出願経過(特に甲第8号証および甲第9号証)を参照すると、本件特許権者も自認しているように、本件特許発明1では、樹脂の種類、独立気泡率、見掛け密度(発泡倍率に連動して変動)といった発泡体の物性を調整することで、「剪断方向へ1mm変形時の剪断強度が0.1~5.0MPa」であることを満足する樹脂発泡層を製造できる。
ここで、樹脂の種類、独立気泡率、見掛け密度は、それぞれ、構成要件1C、構成要件1Dおよび構成要件1Eにあたる。これら構成要件1C、1D、1Eは、上記のとおり、甲3発明も具備している。
さらに、上記のとおり、甲3発明は、本件特許発明1と、原材料が共通している(構成要件1A)。
そうすると、本件特許権者も自認するとおり、樹脂の種類、独立気泡率、見掛け密度(発泡倍率に連動して変動)といった発泡体の物性が本件特許発明と同様である甲1発明は、「剪断方向へ1mm変形時の剪断強度が0.1~5.0MPa」であることを満足する樹脂発泡層を有しているか、有している蓋然性が極めて高い。」(特許異議申立書第43及び44ページ)
イ 判断
そこで、上記主張について検討するに、上記主張は上記第4 2(3)アと同様であるから、その判断も上記第4 2(3)イと同様である。
すなわち、特許権者の甲9における主張は、発泡倍率、独立気泡率、見掛け密度(発泡倍率に連動して変動)が、本件特許発明1で特定される範囲にあれば必ず「剪断方向へ1mm変形時の剪断強度が0.1~5.0MPa」になるというものではない。
また、甲3発明の認定の根拠となった甲3の実施例1又は2は、発明の詳細な説明に記載された実施例とは、原料や製造条件が異なるものであり、さらに、独立気泡率や見掛け密度といった発泡体の物性も異なるものである。
したがって、甲3発明が「剪断方向へ1mm変形時の剪断強度が0.1~5.0MPa」であることを満足する樹脂発泡層を有しているとはいえないし、有している蓋然性が極めて高いともいえない。
よって、上記主張は採用できない。
(4)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
3 本件特許発明3及び4について
本件特許発明3及び4のいずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
4 申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許発明1、3及び4は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1、3及び4に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由3によっては取り消すことはできない。
第7 申立理由4(甲4に基づく進歩性)について
1 甲4に記載された事項等
(1)甲4に記載された事項
甲4には、「ポリオレフィン系樹脂発泡シート及び粘着テープ」に関しておおむね次の事項が記載されている。
・「[0002] スマートフォンやノート型パソコン等の表示画面を有する電子機器においては、表示画面を保護するパネルと筐体との間に、衝撃を吸収し表示画面を保護するための緩衝材が設けられている(例えば、特許文献1)。そして、前記電子機器は表示画面を鉛直方向に立てた状態で使用することが多いため、前記緩衝材は優れたせん断強度を有することが求められている。更に前記電子機器は、高密度に集積された電子部品が大量の熱を発生するため電子機器の内部が高温になりやすく、また、前記電子機器自体が気温の高い屋外で使用されることがあるため、前記緩衝材は高温下においても優れたせん断強度を有することが望まれている。」
・「[0004] 発泡シートのせん断強度を高くしようとする場合、発泡シートを厚くする必要があるため小型の電子機器に用いることが困難であった。
本発明は、上記従来の事情を鑑みてなされたものであって、薄厚でも優れたせん断強度を有するポリオレフィン系樹脂発泡シート、及びこれを用いた粘着テープを提供することを目的とする。」
・「[0052]実施例1
ポリオレフィン系樹脂としての直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)(エクソンケミカル社製「Exact3027」、密度:0.900g/cm3)100質量部、熱分解型発泡剤としてのアゾジカルボンアミド2.0質量部、分解温度調整剤としての酸化亜鉛1質量部、及び酸化防止剤としての2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール0.5質量部を押出機に供給して130℃で溶融混練し、厚み約0.3mmの長尺シート状のポリオレフィン系樹脂組成物を押出した。
次に、上記長尺シート状のポリオレフィン系樹脂組成物を、その両面に加速電圧500kVの電子線を4.5Mrad照射して架橋した後、熱風及び赤外線ヒーターにより250℃に保持された発泡炉内に連続的に送り込んで加熱して発泡させると共に、発泡させながらMDの延伸倍率を1.5倍、TDの延伸倍率を1.7倍として延伸させることにより、厚み0.06mmの発泡シートを得た。得られた発泡シートの評価結果を表1に示す。
[0053]実施例2~9、比較例1~8
ポリオレフィン系樹脂組成物の配合を表1及び2に示すように変更すると共に、架橋時の線量を表1及び2のゲル分率(架橋度)となるように調整した点、TDの延伸倍率を1.2倍~3.5倍に調整した点を除いて実施例1と同様に実施した。」
・「[0054]
[表1]
[図:0001422497000006.jpg]
」
(2)甲4に記載された発明
甲4に記載された事項を、特に実施例7に関して整理すると、甲4には次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認める。
<甲4発明>
「ポリオレフィン系樹脂としての直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)(エクソンケミカル社製「Exact3027」、密度:0.900g/cm3)100質量部、熱分解型発泡剤としてのアゾジカルボンアミド14.0質量部、分解温度調整剤としての酸化亜鉛1質量部、及び酸化防止剤としての2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール0.5質量部を押出機に供給して130℃で溶融混練し、厚み約0.3mmの長尺シート状のポリオレフィン系樹脂組成物を押出し、次に、上記長尺シート状のポリオレフィン系樹脂組成物を、その両面に加速電圧500kVの電子線を4.5Mrad照射して架橋した後、熱風及び赤外線ヒーターにより250℃に保持された発泡炉内に連続的に送り込んで加熱して発泡させると共に、発泡させながらMDの延伸倍率を2.5倍、TDの延伸倍率を1.2倍として延伸させることにより、得た密度0.06g/cm3、独立気泡率90%の発泡シート。」
2 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲4発明を対比する。
甲4発明における「発泡シート」は「発泡させながらMDの延伸倍率を2.5倍、TDの延伸倍率を1.2倍として延伸させることにより、得た」ものであるから、本件特許発明1における「樹脂発泡層を備える」という発明特定事項を有するとともに、同「バッテリー用クッション材」と「材」という限りにおいて一致する。
甲4発明における「ポリオレフィン系樹脂としての直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)(エクソンケミカル社製「Exact3027」、密度:0.900g/cm3)」は本件特許発明1における「前記樹脂発泡層を構成する」「ポリオレフィン系樹脂」に相当する。
甲4発明における「発泡シート」は「独立気泡率90%」であるから、甲4発明は本件特許発明1における「前記樹脂発泡層における発泡体の独立気泡率が80%以上であり」という発明特定事項を有する。
甲4発明における「発泡シート」は「密度0.06g/cm3」(0.06g/cm3=60kg/m3)であるから、甲4発明は本件特許発明1における「前記樹脂発泡層の見掛け密度が34~300kg/m3である」という発明特定事項を有する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「樹脂発泡層を備える材であって、
前記樹脂発泡層を構成する樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であり、
前記樹脂発泡層における発泡体の独立気泡率が80%以上であり、
前記樹脂発泡層の見掛け密度が34~300kg/m3である、材。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点4-1>
「材」に関して、本件特許発明1においては「バッテリー用クッション材」と特定されているのに対し、甲4発明においては「シート」と特定されている点。
<相違点4-2>
本件特許発明1においては「前記樹脂発泡層の剪断方向へ1mm変形時の剪断強度が0.1~5.0MPaであり」と特定されているのに対し、甲4発明においてはそのようには特定されていない点。
(2)判断
事案に鑑み、相違点4-2について検討する。
甲4には、甲4発明において、相違点4-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲4発明において、甲4及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点4-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「バッテリー内に配置されたセルの膨張及び収縮に追従することができ、かつセルがバッテリーの筺体内に移動しないように固定することができるバッテリー用クッション材を提供することができる。」という効果は、甲4発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
(3)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、特許異議申立書において、相違点4-2に係る本件特許発明1の発明特定事項に関して、おおむね次の主張をしている。
「(ア-1)甲第1号証を主たる証拠とする進歩性欠如について」において上記したとおり、本件特許の出願経過(特に甲第8号証および甲第9号証)を参照すると、本件特許権者も自認しているように、本件特許発明1では、樹脂の種類、独立気泡率、見掛け密度(発泡倍率に連動して変動)といった発泡体の物性を調整することで、「剪断方向へ1mm変形時の剪断強度が0.1~5.0MPa」であることを満足する樹脂発泡層を製造できる。
ここで、樹脂の種類、独立気泡率、見掛け密度は、それぞれ、構成要件1C、構成要件1Dおよび構成要件1Eにあたる。これら構成要件1C、1D、1Eは、上記のとおり、甲4発明も具備している。
さらに、上記のとおり、甲4発明は、本件特許発明1と、原材料が共通している(構成要件1A)。
そうすると、本件特許権者も自認するとおり、樹脂の種類、独立気泡率、見掛け密度(発泡倍率に連動して変動)といった発泡体の物性が本件特許発明と同様である甲4発明は、「剪断方向へ1mm変形時の剪断強度が0.1~5.0MPa」であることを満足する樹脂発泡層を有しているか、有している蓋然性が極めて高い。」(特許異議申立書第46及び47ページ)
イ 判断
そこで、上記主張について検討するに、上記主張は上記第4 2(3)アと同様であるから、その判断も上記第4 2(3)イと同様である。
すなわち、特許権者の甲9における主張は、発泡倍率、独立気泡率、見掛け密度(発泡倍率に連動して変動)が、本件特許発明1で特定される範囲にあれば必ず「剪断方向へ1mm変形時の剪断強度が0.1~5.0MPa」になるというものではない。
また、甲4発明の認定の根拠となった甲4の実施例7は、発明の詳細な説明に記載された実施例とは、原料や製造条件が異なるものであり、さらに、独立気泡率や見掛け密度といった発泡体の物性も異なるものである。
したがって、甲4発明が「剪断方向へ1mm変形時の剪断強度が0.1~5.0MPa」であることを満足する樹脂発泡層を有しているとはいえないし、有している蓋然性が極めて高いともいえない。
よって、上記主張は採用できない。
(4)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲4発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
3 本件特許発明3ないし5について
本件特許発明3ないし5のいずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲4発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
4 申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許発明1及び3ないし5は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1及び3ないし5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由4によっては取り消すことはできない。
第8 申立理由5(実施可能要件)について
1 実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件特許発明2ないし5は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
2 実施可能要件の判断
発明の詳細な説明の【0009】ないし【0046】には本件特許発明1の発明特定事項を含め、本件特許発明2ないし5の各発明特定事項について具体的に記載されている。
発明の詳細な説明の【0047】ないし【0051】には本件特許発明1の製造方法を含め、本件特許発明2ないし5の製造方法について具体的に記載されている。
発明の詳細な説明の【0053】ないし【0064】には本件特許発明1の実施例を含め、本件特許発明2ないし5の実施例について具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明2ないし5を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明2ないし5に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
3 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 5の主張について検討する。
仮に、特許異議申立人が主張するように、発明の詳細な説明の【0059】に記載された最大剪断強度の測定方法では、「樹脂発泡体層で発生する剪断力」だけではなく、「ポリエステル板2と圧縮基材3aおよび3bとの間に発生する摩擦力」との和を測定することになるとしても、また、種々の誤差が全体の誤差として検出され得ることになるとしても、同【0012】には「なお、樹脂発泡層の最大剪断強度は、実施例に記載の方法で測定することができる。」と記載されているのであるから、本件特許発明2の「前記樹脂発泡層の最大剪断強度が1.0~10MPaである」という発明特定事項に関しては、実施例に関する記載である同【0059】に記載された最大剪断強度の測定方法で測定したものを最大剪断強度であると当業者は理解する。
そうすると、上記主張は実施可能要件の判断を左右するものではない。
したがって、上記主張を採用することはできない。
4 申立理由5についてのむすび
したがって、本件特許の請求項2ないし5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由5によっては取り消すことはできない。
第9 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700214