特許異議申立
2023-701347
透明導電性フィルム用基材および透明導電性フィルム
- 審判番号
- 2023-701347
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-016209
- 登録番号
- 7294819
- 請求日
- 2023年12月20日
- 審決日
- 2025年06月16日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】日東電工株式会社
- 【権利者代理人】籾井 孝文
- 【異議申立人】高山 敏男
- 審判長/審判官
- 審判長 柴田 昌弘
- 審判官 天野 宏樹
- 審判官 松本 陶子
- 分類
- P1651.536-ZB (C08J) / P1651.537-ZB (C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7294819号発明「透明導電性フィルム用基材および透明導電性フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7294819号の請求項1~7に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7294819号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成31年1月31日を出願日とする出願であって、令和5年6月12日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月20日に特許異議申立人 高山 敏男(以下「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、令和6年3月22日付けで取消理由が通知され、これに対し、同年5月24日に特許権者 日東電工株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正請求がされるとともに意見書の提出がされ、同年6月28日に特許権者より手続補正書が提出され、同年8月2日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされた。
そして、同年9月4日に特許異議申立人により意見書の提出がされ、同年11月15日付けで訂正拒絶理由が通知され、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが特許権者からの応答はなく、令和7年1月30日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対し、同年4月2日に訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年同月18日付けで訂正拒絶理由が通知され、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが特許権者からの応答はなかったものである。
上記のとおり、特許権者から令和7年4月2日に訂正請求がされたので、令和6年5月24日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
以下、令和7年4月2日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。
第2 本件訂正請求について
1 本件訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7294819号の明細書を、本訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める。」というものであり、本件訂正の内容は、次のとおりである。
・訂正事項
明細書の【0052】における「(A1)原料を15mol%、(A2)原料を50mol%、(A3)原料を55mol%」という記載を、「(A1)原料を15部、(A2)原料を50部、(A3)原料を55部」とする訂正を行う。
2 当審の判断
(1)訂正事項について
ア 新規事項の有無について
訂正事項において、「(A1)原料を15部、(A2)原料を50部、(A3)原料を55部」であると特定したことは、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲(以下「本件明細書等」という。)に記載も示唆もされておらず、自明とも言えないことから、訂正事項に係る訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正ではない。
よって、訂正事項に係る訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条第5項の規定に適合するものではない。
イ 特許権者の主張について
訂正事項に係る訂正の根拠に関し、特許権者は令和7年4月2日に提出された意見書(以下、「本件意見書」という。)において、
「本件特許発明の範囲を鑑みると、訂正直前の明細書の段落[0052]における「(A1)原料を15mol%、(A2)原料を50mol%、(A3)原料を55mol%」という記載に、なんらかの誤りが存在することは明らかであ」り(本件意見書の第3頁第25~28行)、
また、「審判官殿の合議体では、要するに、ガラス転移温度が8℃も異なるにも関わらず、原料の添加割合が同じであることは、当業者にとって想定できないと、ご判断されたと思料」され(本件意見書の第4頁第13~15行)、
さらに、「訂正直前の明細書の段落[0050]には、「なお、特に明記しない限り、実施例における「部」および「%」は重量基準である」と、記載されており、実施例における処方の単位として、「部」および「%」が示されて」いるから(本件意見書の第5頁第20~22行)、
「訂正直前の明細書の段落[0052]において、(A1)原料、(A2)原料および(A3)原料の単位「mol%」が、「部」の誤りであることは、訂正直前の明細書および特許請求の範囲の記載全体から、自明な事項として定まるものであり、当該訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない」(本件意見書の第6頁第1~4行)旨を主張している。
上記主張に基づくと、本件明細書【0052】のポリエステル系樹脂に含有される原料割合を示す記載において、(A1)原料、(A2)原料及び(A3)原料の割合を示す単位としては「部」を採用し、併記されている(B1)原料及び(B2)原料の割合を示す単位としては「mol%」の単位を採用するということになる。
しかしながら、例え、本件明細書【0050】に実施例における処方の単位として「部」および「%」が例示されていたとしても、「mol%」と明記されていた「%」までもが重量基準の誤記であったとは解しがたいし、(A1)~(A3)と(B1)~(B3)とが併記されている材料の含有割合の一方の単位のみを誤記とする解釈では、(A1)~(A3)に基づく原料の量と(B1)~(B3)に基づく原料の量とを通算することができず、反応容器に投入された原料の比率を把握することができないから、実施例1を再現することもできないこととなり、当業者にとって一般的な解釈ではなく、自明な誤記であるとはいえないし、また、特許権者は、「(A1)原料を15部、(A2)原料を50部、(A3)原料を55部」及び「(B1)原料を10mol%、および(B2)原料を90mol%の割合」で含有したポリエステル系樹脂のガラス転移温度が155℃となることを実験成績証明書などで示したものでもない。
そうすると、当該訂正事項について、明らかな誤記の訂正であるとは認められず、新たな実施例を追加するものであるが、当該実施例は、本件明細書等には記載されておらず、また、本願出願時の技術常識からも自明であるとは認められない。
したがって、上記特許権者の主張について考慮しても、訂正事項に係る訂正における新規事項の追加の有無について、上記アの判断を変更すべき事情は見いだせない。
ウ 小括
上記ア及びイのとおりであるから、訂正事項は、特許法120条の5第9項において準用する同法126条第5項の規定に適合するものではない。
(2)訂正の単位(一群の請求項)について
本件訂正前において、請求項2~7は請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1~7は一群の請求項である。本訂正事項によって、実施例1および2が請求項1~7で特定される範囲内であることが明確とされるから、本件訂正は一群の請求項をなす請求項1~7全てについて行うものである。
よって、訂正前の請求項1~7に対応する訂正後の請求項1~7は特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正請求のまとめ
本件訂正は、上記2(2)のとおり、一群の請求項1~7についてするものであるところ、上記2(1)のとおり、訂正事項は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条第5項の規定に適合するものではないから、他の要件について検討するまでもなく、本件訂正は認められない。
したがって、一群の請求項1~7についてする本件訂正は、認めることができない。
第3 本件発明
1 本件特許発明について
本件特許の請求項1~7に係る発明(以下「本件特許発明1」~「本件特許発明7」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ポリエステル系樹脂を含み、
145℃での寸法収縮率が第1の方向および該第1の方向に直交する第2の方向においてそれぞれ0.1%以下であり、
耐皮脂性試験において白化およびクラックが抑制され、
面内位相差Re(550)が5nm以下であり、
前記ポリエステル系樹脂が、(A)酸成分と(B)アルコール成分との重合体を含み、
該(A)成分が、(A1)単環式芳香族ポリカルボン酸成分と、(A2)多環式芳香族ポリカルボン酸成分と、(A3)フルオレン系ポリカルボン酸成分と、
を含み、
該(B)成分が、(B1)脂肪族ポリオール成分と、(B2)フルオレン系ポリオール成分と、を含み、
該(A)成分の総量に対して、該(A1)成分の含有率が5mol%以上30mol%未満であり、該(A3)成分の含有率が5mol%以上50mol%以下であり、
該(B2)成分が9,9-ビス(アリール-ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分を実質量含まず、
厚みが10μm~25μmである、透明導電性フィルム用基材。
【請求項2】
前記(B2)成分が、水酸基を有する置換基が9位に2つ導入された第1のフルオレン成分を含む、請求項1に記載の透明導電性フィルム用基材。
【請求項3】
前記(B1)成分が1,2-プロパンジオール成分を含み、前記(B2)成分が9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分を含む、請求項1または2に記載の透明導電性フィルム用基材。
【請求項4】
前記(A3)成分が、カルボキシ基および/またはエステル基を有する置換基が9位に2つ導入された第2のフルオレン成分を含む、請求項1から3のいずれかに記載の透明導電性フィルム用基材。
【請求項5】
前記(A1)成分がテレフタル酸成分を含み、前記(A2)成分が2,6-ナフタレンジカルボン酸成分を含み、前記(A3)成分が9,9-ビス(カルボキシエチル)フルオレン成分を含む、請求項1から4のいずれかに記載の透明導電性フィルム用基材。
【請求項6】
ガラス転移温度(Tg)が145℃以上である、請求項1から5のいずれかに記載の透明導電性フィルム用基材。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の透明導電性フィルム用基材と導電層とを含む、透明導電性フィルム。」
2 本件明細書について
上記第2のとおり本件訂正は認められないから、本件特許の願書に添付した明細書には次の事項が記載されている。
「【0052】
<実施例1>
1-1.ポリエステル系樹脂の重合
単環式芳香族ポリカルボン酸成分(A1)の原料としてテレフタル酸ジメチルを用い;多環式芳香族ポリカルボン酸成分(A2)の原料として、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチルを用い;フルオレン系ポリカルボン酸成分(A3)の原料として、9,9-ジ(メトキシカルボニルエチル)フルオレンを用い;脂肪族ポリオール成分(B1)の原料として、1,2-プロパンジオールを用い;フルオレン系ポリオール成分(B2)の原料として、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを用いた。容量30リットルのステンレス製反応容器に、(A1)原料を15mol%、(A2)原料を50mol%、(A3)原料を55mol%、(B1)原料を10mol%、および(B2)原料を90mol%の割合で投入し、反応容器内を窒素置換した後150℃で原料を溶解させた。次に、エステル交換触媒として酢酸マンガン・4水和物および酢酸カルシウム・1水和物を投入し、240℃まで4時間かけて徐々に昇温し、さらに240℃に保持したまま1時間反応を継続した。副生物の留出が無くなり、かつ所定の副生物が留出したことを確認した。次に、トリメチルホスフェートおよび二酸化ゲルマニウムの水溶液として添加した。そして、徐々に昇温と減圧を開始し、90分後には270℃かつ0.13kPaとし、この状態で重縮合反応を行い、所定のトルクに到達するまで反応を継続した。所定のトルクに到達したら、窒素で反応容器内を加圧にし、樹脂を冷却水中にストランド状に押し出し、カッティングしてポリエステル系樹脂のペレットを得た。得られたポリエステル系樹脂のガラス転移温度は155℃であった。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和5年12月20日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1~7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第3号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1~7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(甲第4号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1~7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第4号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由4(実施可能要件)
本件特許の請求項1~7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
5 申立理由5(サポート要件)
本件特許の請求項1~7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
6 申立理由6(明確性)
本件特許の請求項1~7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
7 証拠方法
甲第1号証:特開2018-168210号公報
甲第2号証:特開2005-164632号公報
甲第3号証:特開2007-308675号公報
甲第4号証:特開2011-168722号公報
なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。
第5 取消理由通知書<決定の予告>の取消理由の概要
令和7年1月30日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
1 取消理由1(実施可能要件)
本件特許の請求項1~7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
2 取消理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1~7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
第6 当審の判断
1 取消理由1(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件特許発明1~7は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
本件特許明細書には、ポリエステル系樹脂の(A)成分について、「(A1)原料を15mol%、(A2)原料を50mol%、(A3)原料を55mol%」とした実施例のみが記載されている(【0052】)。
しかしながら、当該実施例の「(A3)原料を55mol%」は、本件特許発明1の「該(A3)成分の含有率が5mol%以上50mol%以下であり」との特定事項を満たすものではない。
本件特許明細書の【0024】には、「ポリエステル系樹脂の詳細は、例えば特開2018-168210号公報に記載されている。当該公報の記載は、本明細書に参考として援用される。」と記載されており、本件特許明細書において援用される特開2018-168210号公報(当審注:特許異議申立人の提出する甲第1号証と同じである。以下甲第1号証とする。)によると、(A3)原料を含む、各原料の含有率によってガラス転移温度が大きく影響を受けることが理解される(甲第1号証【表1】【表2】参照のこと。) 。
また、本件特許明細書には、ガラス転移温度を基準として設定される延伸温度の僅か5℃の差のみによって、「面内位相差Re(550)」及び「寸法変化率(MD/TD)」が変化すること、特に、「寸法変化率(MD/TD)」については、本件特許発明1に規定される数値範囲を満たさなくなることが示されている(本件特許明細書【0062】【表1】)。
そうすると、発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づいて、当業者は、本件特許発明1の「145℃での寸法収縮率が第1の方向および該第1の方向に直交する第2の方向においてそれぞれ0.1%以下であり、 耐皮脂性試験において白化およびクラックが抑制され、面内位相差Re(550)が5nm以下であり」との特定事項を全て満たすものを得られるとは理解できず、過度の試行錯誤を要するものであるといえる。
請求項1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2ないし7についても同様である。
よって、本件特許発明1~7について、発明の詳細な説明は、実施可能要件を充足していない。
(3)取消理由1についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1~7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
2 取消理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
本件特許明細書の【0004】によると、本件特許発明が解決しようとする課題は、カール、白化およびクラックが抑制され、かつ、面内位相差が小さい透明導電性フィルムを実現し得る透明導電性フィルム用基材を提供することである。
本件特許明細書には、ポリエステル系樹脂の(A)成分について、「(A1)原料を15mol%、(A2)原料を50mol%、(A3)原料を55mol%」とした実施例のみが記載されている(【0052】)。
しかしながら、当該実施例の「(A3)原料を55mol%」は、本件特許発明1の「該(A3)成分の含有率が5mol%以上50mol%以下であり」との特定事項を満たすものではない。
本件特許明細書の【0024】には、「ポリエステル系樹脂の詳細は、例えば特開2018-168210号公報に記載されている。当該公報の記載は、本明細書に参考として援用される。」と記載されており、本件特許明細書において援用される特開2018-168210号公報(当審注:甲第1号証と同じである。)によると、(A3)原料を含む、各原料の含有率によってガラス転移温度が大きく影響を受けることが理解される(甲第1号証【表1】【表2】参照のこと。)。
また、本件特許明細書には、ガラス転移温度を基準として設定される延伸温度の僅か5℃の差のみによって、「面内位相差Re(550)」及び「寸法変化率(MD/TD)」が変化すること、特に、「寸法変化率(MD/TD)」については、本件特許発明1に規定される数値範囲を満たさなくなることが示されている(本件特許明細書【0062】【表1】)。
そうすると、当業者は、実施例とは異なる成分からなる本件特許発明1で特定されるポリエステル系樹脂によって、「145℃での寸法収縮率が第1の方向および該第1の方向に直交する第2の方向においてそれぞれ0.1%以下であり、耐皮脂性試験において白化およびクラックが抑制され、面内位相差Re(550)が5nm以下であ」る「透明導電性フィルム用基材」を例示できるとは理解できず、したがって、上記課題を解決できるとは認識できない。また、出願時の技術常識に照らし、本件特許発明1が上記課題を解決できると認識することもできない。
請求項1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2~7についても同様である。
よって、本件特許発明1~7は、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(3)取消理由2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1~7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1~7に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
本件特許発明1~7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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