特許異議申立
2023-700184
表面保護フィルム
- 審判番号
- 2023-700184
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-174595
- 登録番号
- 7121785
- 請求日
- 2023年02月17日
- 審決日
- 2023年05月24日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日東電工株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人G-chemical
- 【異議申立人】高山 敏男
- 審判長/審判官
- 審判長 亀ヶ谷 明久
- 審判官 関根 裕
- 審判官 門前 浩一
- 分類
- P1651.121-Y (C09J) / P1651.536-Y (C09J) / P1651.537-Y (C09J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7121785号発明「表面保護フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7121785号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7121785号(以下「本件特許」ともいう。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成28年7月5日(以下「遡及日」という。)に出願した特願2016-133099号の一部を令和2年10月16日に新たな特許出願としたものであって、令和4年8月9日にその特許権の設定登録がされ、同月18日に特許掲載公報が発行された。その後、その全請求項に係る特許に対し、令和5年2月17日に特許異議申立人である高山敏男(以下「申立人」という。)によって、特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件特許の特許請求の範囲及び明細書の記載
1 特許請求の範囲
本件特許の請求項1~7に係る発明(以下、請求項の項番により「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
透明基材と粘着剤層とを含む積層構造を有する表面保護フィルムであって、
前記透明基材は、基材幅方向一軸延伸ポリエステル系基材であり、面内位相差が6000nm以上であり且つ75μm以上の厚さを有し、
前記粘着剤層が、アクリル系ポリマーにおける、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来のモノマーユニットの割合が50重量%以上、窒素原子含有モノマー由来のモノマーユニットの割合が1重量%以上30重量%以下であるアクリル系粘着剤を含む粘着剤層であり、
基材幅方向における表面保護フィルムのエルメンドルフ引裂強度が0.5N以下であり、且つ、基材機械方向における表面保護フィルムのエルメンドルフ引裂強度が1N以上である、表面保護フィルム。
【請求項2】
前記粘着剤層が、アクリル系ポリマーにおける水酸基含有モノマー由来のモノマーユニットの割合が1重量%以上20重量%以下であるアクリル系粘着剤を含む粘着剤層である、請求項1に記載の表面保護フィルム。
【請求項3】
前記粘着剤層が、アクリル系ポリマーにおける多官能(メタ)アクリレート由来のモノマーユニットの割合が0.01~1重量部であるアクリル系粘着剤を含む粘着剤層である、請求項1又は2に記載の表面保護フィルム。
【請求項4】
前記粘着剤層がシランカップリング剤を含有し、前記シランカップリング剤の含有量が、前記アクリル系ポリマー100重量部に対して、0.01~1重量部である、請求項1~3の何れか1項に記載の表面保護フィルム。
【請求項5】
前記粘着剤層の厚さは5μm以上である、請求項1~4の何れか1項に記載の表面保護フィルム。
【請求項6】
ヘーズが3%以下である、請求項1~5の何れか1項に記載の表面保護フィルム。
【請求項7】
基材機械方向が長手方向となるようにロール状に券回された形態である、請求項1~6の何れか1項に記載の表面保護フィルム。」
2 明細書
本件特許の明細書(以下「本件明細書」ともいう。)には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、光透過性を有する表面保護フィルムに関する。」
「【0006】
本発明は、以上のような事情のもとで考え出されたものであって、ポリエステル系基材を有しつつ良好な手切れ性と高いリワーク性とを併せて実現するのに適した表面保護フィルムを提供することを、目的とする。」
「【0009】
また、本表面保護フィルムの有する透明基材は、上述のように、厚さ75μm以上の幅方向一軸延伸ポリエステル系基材である。表面保護フィルムにおけるエルメンドルフ引裂強度等の引裂強度は基材の機械的特性に強く支配されるところ、このような構成は、本表面保護フィルムにおいて、基材幅方向のエルメンドルフ引裂強度が0.5N以下であって基材機械方向のエルメンドルフ引裂強度が1N以上であるという上記構成を、実現するのに適する。
【0010】
加えて、本表面保護フィルムは、上述のように、基材幅方向のエルメンドルフ引裂強度が0.5N以下であり、且つ、基材機械方向のエルメンドルフ引裂強度が1N以上である。このような構成は、本表面保護フィルムにおいて、エルメンドルフ引裂強度が0.5N以下と相対的に有意に低い基材幅方向への良好な手切れ性を実現するのに適する。これとともに、エルメンドルフ引裂強度が基材機械方向では基材幅方向の2倍以上の1N以上であるという構成は、本表面保護フィルムにおいて、基材幅方向への引裂きに関してその指向性を高めるのに好適である。そのため、当該構成は、本表面保護フィルムが被着体に貼り合わせられた状態にある場合において、当該フィルムの基材機械方向に剥離力を作用させて被着体から当該フィルムを裂かずに適切に剥離させるのに好適である。具体的には、被着体に対して本表面保護フィルムを貼り合わせた後に一旦剥離して再び貼り合わせる作業(リワーク作業)にあたり、当該フィルムの基材機械方向に剥離力を作用させて被着体から当該フィルムを裂かずに適切に剥離させるのに好適である。基材幅方向に加えて基材機械方向にも引き裂かれやすい表面保護フィルムは、リワーク作業における剥離時に、裂けやすく、被着体から適切に剥離することが困難な傾向にある。裂けが生じた表面保護フィルムは、再度の貼合わせに用いることができない。これに対し、本表面保護フィルムは、基材幅方向への良好な手切れ性の実現に適した基材幅方向エルメンドルフ引裂強度に比して充分に大きな基材機械方向エルメンドルフ引裂強度を有するので、リワーク作業にあたり、裂かずに適切に被着体から剥離させるのに適するのである。」
「【0025】
上記アクリル系ポリマーにおける、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来のモノマーユニットの割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。すなわち、当該アクリル系ポリマーを形成するための原料のモノマー成分組成における(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。このような(メタ)アクリル酸アルキルエステル割合を伴うモノマー成分組成に由来するモノマーユニット構成を、上記アクリル系ポリマーは有することとなる。直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合に関する当該構成は、アクリル系粘着剤たるアクリル系ポリマーの粘着性等の基本特性を、当該アクリル系ポリマーを含んで形成される粘着剤層にて適切に発現させるうえで好適である。」
「【0033】
上記アクリル系ポリマーにおける、窒素原子含有モノマー由来のモノマーユニットの割合は、当該アクリル系ポリマーを含んで形成される粘着剤層において、適度な硬さや、接着性、透明性を実現するという観点から、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上である。また、上記アクリル系ポリマーにおける、窒素原子含有モノマー由来のモノマーユニットの割合は、当該アクリル系ポリマーを含んで形成される粘着剤層において、充分な透明性を実現するという観点や、硬くなり過ぎることを抑制して良好な接着信頼性を実現するという観点から、好ましくは30重量%以下、より好ましくは25重量%以下である。」
「【0092】
〔実施例1〕
厚さ80μmの第1のポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名「コスモシャイン SRF」,面内位相差8400,東洋紡株式会社製)の両面にコロナ処理を施して得たフィルム(フィルムF1)の上に、上記のアクリル系粘着剤組成物C1を塗布し、粘着剤組成物層を形成した。次に、ポリエチレンテレフタレート(PET)系剥離ライナー(厚さ125μm,日東電工株式会社製)を当該粘着剤組成物層上に積層し、当該粘着剤組成物層を被覆して酸素を遮断した。このようにして、[剥離ライナー/粘着剤組成物層/フィルムF1]の積層構成を有する積層体を得た。次に、この積層体に対し、剥離ライナーの側から、ブラックライト(株式会社東芝製)を使用して照度3mW/cm2の紫外線を300秒間照射した。これによって積層体の粘着剤組成物層を硬化させて粘着剤層とした。この粘着剤層の厚さは100μmである。以上のようにして、[剥離ライナー/粘着剤層(厚さ100μm)/基材たるフィルムF1(厚さ80μm)]の積層構成を有する実施例1の表面保護フィルムを作製した。
【0093】
〔実施例2〕
厚さ80μmの第2のポリエチレンテレフタレートフィルムの両面にコロナ処理を施して得たフィルム(フィルムF2)の上に、上記のアクリル系粘着剤組成物C2を塗布し、粘着剤組成物層を形成した。第2のポリエチレンテレフタレートフィルムは、第1のポリエチレンテレフタレートフィルムたる「コスモシャイン SRF」の易接着処理層をハードコート用途の易接着処理層に替えた、東洋紡株式会社製のフィルムである。次に、この粘着剤組成物層を130℃で60秒間加熱して乾燥および硬化させ、フィルムF2上に粘着剤層を形成した。この粘着剤層の厚さは21μmである。そして、この粘着剤層の表面にPET系剥離ライナー(厚さ25μm,日東電工株式会社製)を貼り合わせた。以上のようにして、[剥離ライナー/粘着剤層(厚さ21μm)/基材たるフィルムF2(厚さ80μm)]の積層構成を有する実施例2の表面保護フィルムを作製した。
【0094】
〔比較例1〕
表面保護フィルムの基材として、厚さ75μmの第3のポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名「XD500P」,面内位相差3000,東レ株式会社製)の両面にコロナ処理を施して得たフィルム(フィルムF3)をフィルムF1の代わりに用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の表面保護フィルムを作製した。
【0095】
〔比較例2〕
表面保護フィルムの基材としてフィルムF2に代えてフィルムF3を用いたこと以外は実施例2と同様にして、比較例2の表面保護フィルムを作製した。
【0096】
〈エルメンドルフ引裂強度〉
実施例および比較例の表面保護フィルムから切り出された各サンプル片(60mm×75mm)について、エルメンドルフ引裂強度測定装置(商品名「エルメンドルフ引裂度試験機」,テスター産業株式会社製)を使用して、テープ基材の幅方向(TD)のエルメンドルフ引裂強度(N)とテープ基材の機械方向(MD)におけるエルメンドルフ引裂強度(N)とを、それぞれ測定した。本測定は、JIS K 7128-2に準拠して行った。測定に付されたサンプル片には、その端から測定方向(TDまたはMD)に延びる長さ20mmの切込みが予め設けられている。本測定では、当該切込みが更に伸びるように装置によってサンプル片に付与される引裂負荷に対する抵抗力が、測定される。また、本測定に使用した上記装置の計測最大値は1Nである。本測定の結果を表1に掲げる。
【0097】
〈手切れ性〉
実施例および比較例の各表面保護フィルムについて、その基材幅方向の手切れ性を調べた。具体的には、剥離ライナーが剥離された表面保護フィルムについて、その基材幅方向への手作業による引裂きを試みた。当該手作業検査において、容易に引き裂くことが出来た場合を手切れ性は良好(○)と評価し、引き裂くことが出来なかった場合を手切れ性は不良(×)と評価した。その結果を表1に掲げる。
【0098】
〈ヘーズ〉
実施例および比較例の各表面保護フィルムについて、ヘーズメーター HM-150型(株式会社村上色彩技術研究所製)を使用して、JIS K 7136に規定の方法に準拠してヘーズ(%)を測定した。本測定は、剥離ライナーが剥離され且つスライドガラス(商品名「スライドグラス S1112」,厚さ1.0~1.2mm,松波硝子工業株式会社製)に貼り付けられた状態にある表面保護フィルムについて行った。その結果を表1に掲げる。
【0099】
[評価]
本発明の構成を具備する実施例1,2の表面保護フィルムにおいては、いずれも、良好な手切れ性が実現された。これに対し、比較例1,2の表面保護フィルムにおいては、いずれも、基材幅方向に手で引き裂くことが出来ず、良好な手切れ性が実現されなかった。
【0100】
【表1】
[図:0001398313000001.jpg]
」
第3 特許異議申立ての理由及び証拠方法
1 申立人は、下記2の申立理由1~3を主張し、その証拠方法として下記3の甲第1号証~甲第4号証(以下「甲1」等という。)を提出した。
2 申立理由
(1)申立理由1(進歩性)
本件発明1~7は、下記3の甲1に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明1~7に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1~7の記載は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、本件発明1~7に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(委任省令要件)及び申立理由4(実施可能要件)
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令で定めるところにより、当業者が本件発明1~7のその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、本件発明1~7に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
3 証拠方法
甲1:国際公開第00/044841号
甲2:特開2016-113625号公報
甲3:国際公開2014/098119号
甲4:特開2015-218297号公報
なお、申立人の提出した甲1は再公表公報であったため、当審において、対応する国際公開公報を引用した。
第4 甲号証の記載
1 本件特許の遡及日前に公知となった甲1には、次の記載がある。
(1)1頁3~6行
「技術分野
本発明は、合成樹脂板などの表面保護、特に、偏光板や位相差板などの液晶表示装置の構成部材のプロテクトフィルムやセパレーターとして好適に用いられる表面保護フィルムに関するものである。」
(2)5頁9~28行
「本発明における表面保護フィルムは、高分子フィルムの片面に粘着剤層あるいは離型層が積層された表面保護フィルムであって、前記高分子フィルムの配向主軸の最大歪みが10度以下である表面保護フィルムである。これらの表面保護フィルムは、次の方法によって製造することができる。但し、この方法に限定されるものではない。
本発明における高分子フィルムとは、有機高分子を溶融押出し又は溶液押出しをして、必要に応じ、長手方向、または、幅方向に延伸、冷却、熱固定を施したフィルムであり、有機高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート・・・が好ましく用いられる。これらの中でも、特にポリエチレンテレフ夕レートは、不純物が少なく透明性、機械的性質、表面平滑性、耐溶剤性、耐スクラッチ性、非透湿性、コストなどの総合性能から最も好適に用いられる。
(3)6頁20~25行
「高分子フィルムは、常法により製膜することにより得ることができる。なかでも、ホモポリマーあるいはコポリマーの融液あるいは溶液を、押出法、カレンダー法や流延法などによりフィルム状に成形し、次いで、ロール法、テンター法、チューブラー法などにより縦あるいは横方向に一軸延伸する方法が好適である。しかしながら、本発明に記載したフィルム特性の範囲を満足すれば、二軸延伸してもかまわない。」
(4)7頁6~8頁2行
「また、高分子フィルムのリターデーション値は1000nm以上であることが好ましく、特に好ましくは5000nm以上である。リターデーション値が1000nm以上であれば検査上問題とならない。また、5000nm以上であれば可視光領域において干渉縞の間隔が十分広がるため、光学的に等方であるのと同様となりさらに好ましい。しかし、1000nm未満の場合には、視角により干渉が表れ易く、検査精度が低下するため好ましくない。また可視光線透過率は、75%以上のものが用いられる。ここで、リターデーション値とは、フィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(ΔΝ=|Nx-Ny|)とフィルム厚みd(nm)との積(ΔΝ×d)と定義されるパラメーターであり、光学的等方性、異方性を示す尺度である。光学的等方性の場合、NxとNyはほぼ同じ値となるので、ΔΝはゼロに近づく。すなわち、リターデーション値はゼロに近づく。
リターデーション値を大きくするには、上記定義より、二軸の屈折率の異方性(ΔΝ)を大きくするか、フィルム厚み(d)を大きくすることが必要である。高分子フィルムの厚さは、特に限定するものではないが、用途や作業性を考慮すると、300nm以下に設定するのが適当である。厚さが300nmを越える厚さの場合、薄いという高分子フィルムの利点がなくなる。また、高分子フィルムは、単層のみならず、複層であってもよい。
したがって、薄いという高分子フィルムの利点を維持し、かつリターデーション値を大きくするには、二軸の屈折率の異方性(ΔΝ)を大きくすればよい。そのためには、一軸方向のみに延伸することが好ましい。一軸方向のみに延伸すると、その方向の屈折率(NyまたはNx)は大きくなり、直行方向の屈折率(NxまたはNy)は殆ど変化しないため、二軸の屈折率の異方性(ΔΝ)は大きくなる。また、二軸延伸の場合には、一軸のみ延伸を強化したテンシライズドフィルムが好ましい。延伸条件としては、一軸方向の延伸張力を他の直行方向の軸よりも高めるよう延伸倍率を高くする、あるいは延伸温度を低くすることにより、二軸の屈折率の異方性(ΔΝ)を大きくすることができる。」
(5)9頁7~9行
「高分子フィルムのヘイズは10%以下が好ましい。さらに好ましくは5%以下であり、特に好ましくは1%以下である。ヘイズが10%より大きいと、高分子フィルムを光が透過する際に光が散乱し、コントラストを低下させるため好ましくない。」
(6)10頁15行~11頁4行
「粘着性樹脂層としては、光学用部材に対して粘着性を有する層、例えば、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリアミド系等の感熱接着樹脂層、アクリル系、ポリエステル系、ウレタン系、ポリエーテル系、ゴム系等の感圧接着樹脂層、飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリブタジエンポリオール、ポリオレフィンポリオール、官能基含有アクリル共重合体等の官能基を有する樹脂に硬化剤を配合して製膜し、部分架橋または不完全架橋させたフィルム、ポリ塩化ビニルに可塑剤を例えば20重量%以上配合した軟質ポリ塩化ビニルフィルム、飽和ポリエステル樹脂フィルム、アクリル系共重合体フィルム、ブチルゴム、ウレタンゴム、ブタジエン系ゴム(ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体等)、スチレン-イソプレン-スチレンゴムなどの合成ゴムを製膜して得られたフィルム、低分子量ポリエチレン、アタクチックポリプロピレン、塩素化ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂を製膜して得られたフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体などのエチレン系共重合体を製膜して得られたフィルムなどが挙げられる。
リワーク(rework)性が求められる場合には、粘着性樹脂層は可剥性を有するものを選択し、永久接着が求められる場合には強い接着力または粘着力が得られる物を選択する。粘着性樹脂層の厚さは、1~50μm程度に設定することが多い。」
(7)17頁20行~18頁13行
「実施例1
ポリエチレンテレフタレートを、水冷却した回転急冷ドラム上にフィルム形成ダイを通して溶融押出しし、未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを幅方向に90℃で3.7倍延伸した後、120℃で10秒間アニール処理を行った。テンターを出た後、フィルムの両端部を端から20mmの位置でトリミングし、熱収縮量の小さい部位を切除した。続いて、セラミックロールによりフィルムを100℃に加熱し、更に表面温度が700℃の赤外線ヒーターを4本用い加熱しながら、縦方向に3%弛緩処理を行った。続いて、セラミックロールでフィルムを160℃に加熱しながら、2%弛緩処理を行った。その後、フィルムの両端部をクリップで把持し、235℃で熱固定処理を施し、更に180℃から120℃に冷却しながら、幅方向に3%弛緩処理を行った。このようにして、厚み46μmの一軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。
得られた一軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの、配向主軸の最大歪みは5度、コントラストの最低値は94、120℃における熱収縮率は0.7%、ヘイズは0.1%、全光線透過率は90%、リターデーション値は5100nmであった。
この厚み46nmの一軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに、エチレン-酢酸ビニル系接着剤100重量部に対して溶剤としてトルエン400重量部を加えた塗布液を、乾燥後の膜厚が10nmになるように塗布して乾燥固化させ、片面に粘着剤層を積層した表面保護フィルムを得た。
この表面保護フィルムのコントラストを評価したところ、サンプルを挿入した場合と挿入しない場合における光の透過光量の変化はほとんどなく良好であった。」
(8)18頁14~24行
「実施例2
実施例1において、一軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みのみを46から110nmに変更した以外は実施例1と同様に実施し、表面保護フィルムを得た。
得られた一軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの、配向主軸の最大歪みは7度、コントラストの最低値は60、120℃における熱収縮率は1.0%、ヘイズは0.1%、全光線透過率は90%、リターデーション値は11000nmであった。
実施例1と同様に、片面に粘着剤層を積層した表面保護フィルムを得た。この表面保護フィルムのコントラストを評価したところ、コントラス卜の差が若干見られたが、実用上使用可能であった。」
(9)29~30頁の請求の範囲1、3、6、7、16
「1.高分子フィルムの片面に粘着剤層が積層された表面保護フィルムであって、前記高分子フィルムの配向主軸の最大歪みが10度以下であることを特徴とする表面保護フィル厶。
・・・
3.前記高分子フィルムのリターデーション値が1000nm以上であることを特徴とする請求項1または2記載の表面保護フィルム。
・・・
6.高分子フィルムのヘイズが10%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の表面保護フイルム。
7.前記高分子フィルムがポリエステルフィルムであることを特徴とする請求項1または2記載の表面保護フィルム。
・・・
16.前記高分子フィルムが一軸延伸高分子フィルムであることを特徴とする請求項1または2記載の表面保護フィルム。」
2 本件特許の遡及日より前に公知となった甲2には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、液晶ディスプレイの製造工程に利用される表面保護フィルムに関するものである。さらに詳しくは、液晶ディスプレイを構成する偏光板、位相差板などの光学部材の表面に貼着することにより、偏光板、位相差板などの光学部材の表面を保護するために使用される表面保護フィルム用の粘着剤組成物、及びそれを用いた表面保護フィルムに関するものである。」
「【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、優れた帯電防止性能を備え、低速の剥離速度、及び高速の剥離速度において、粘着力のバランスが優れ、さらに、耐久性能、及びリワーク性能にも優れた粘着剤組成物及び表面保護フィルムを提供することを課題とする。」
「【0013】
前記課題を解決するため、本発明は、(A)アルキル基の炭素数がC4~C10の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、(B)水酸基を含有する共重合可能なモノマーと、(C)カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーと、(D)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、(E)水酸基を含有しない窒素含有ビニルモノマーまたはアルコキシ基含有アルキル(メタ)アクリレートモノマーの少なくとも一種と、を含む共重合体のアクリル系ポリマーからなり、さらに、(F)3官能以上のイソシアネート化合物と、(G)架橋遅延剤と、(H)架橋触媒と、(I)帯電防止剤と、(J)ポリエーテル変性シロキサン化合物とを含有し、前記アクリル系ポリマーの酸価が0.01~8.0であることを特徴とする粘着剤組成物を提供する。・・・」
「【0041】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0042】
<アクリル共重合体の製造>
[実施例1]
撹拌機、温度計、還流冷却器及び窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを導入して、反応装置内の空気を窒素ガスで置換した。その後、反応装置に2-エチルヘキシルアクリレート100重量部、8-ヒドロキシオクチルアクリレート0.9重量部、アクリル酸0.5重量部、ポリエチレングリコールモノアクリレート3重量部、N-ビニルピロリドン5重量部とともに溶剤(酢酸エチル)を60重量部加えた。その後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1重量部を2時間かけて滴下させ、65℃で6時間反応させ、重量平均分子量50万の、実施例1に用いるアクリル共重合体溶液1を得た。アクリル共重合体の一部を採取し、後述する酸価の測定試料として用いた。
[実施例2~9及び比較例1~9]
単量体の組成を各々、表1の(A)~(E)及び(I-2)の記載のようにする以外は、上記の実施例1に用いるアクリル共重合体溶液1と同様にして、実施例2~9及び比較例1~9に用いるアクリル共重合体溶液を得た。
【0043】
【表1】
[図:0001398313000002.jpg]
【0044】
<粘着剤組成物及び表面保護フィルムの製造>
[実施例1]
上記のとおり製造した実施例1のアクリル共重合体溶液1に対して、1-オクチルピリジニウム 六フッ化リン酸塩1.5重量部、KF-351A(HLB=12のポリエーテル変性シロキサン化合物)0.2重量部、アセチルアセトン2.5重量部を加え撹拌したのち、コロネートHX(ヘキサメチレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体)1.5重量部、ジオクチル錫ジラウレート0.02重量部を加えて撹拌混合して実施例1の粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物をシリコーン樹脂コートされたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムからなる剥離フィルムの上に塗布後、90℃で乾燥することによって溶剤を除去し、粘着剤層の厚さが25μmである粘着シートを得た。
その後、一方の面に帯電防止及び防汚処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの帯電防止及び防汚処理された面とは反対の面に粘着シートを転写させ、「帯電防止及び防汚処理されたPETフィルム/粘着剤層/剥離フィルム(シリコーン樹脂コートされたPETフィルム)」の積層構成を有する実施例1の表面保護フィルムを得た。
[実施例2~9及び比較例1~9]
添加剤の組成を各々、表2の(F)~(J)の記載のようにする以外は、上記の実施例1の表面保護フィルムと同様にして、実施例2~9及び比較例1~9の表面保護フィルムを得た。」
「【0047】
【表3】
[図:0001398313000003.jpg]
」
3 本件特許の遡及日より前に公知となった甲3には、次の記載がある。
「[0006] 本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、表示装置組み立ての際に不具合が生じて表示体に貼り合わせた光学機能材料を剥離してリワークする場合、表示体に硬化物の糊残りが少ない光学機能材料用アクリル系粘着剤組成物、及び当該組成物を硬化して得られた粘着剤シートや粘着剤を用いて製造された表示装置を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0007] [1]主鎖中に(メタ)アクリル系単量体由来の繰り返し単位を含み、側鎖中に二重結合を含み、二重結合当量が10,000~150,000g/molであり、重量平均分子量(Mw)が25,000~2,000,000である反応性ポリマー(A成分)、重合性二重結合をただ一つ含み、アミド基を含まない単量体(B成分)、アミド基含有単量体(C成分)、及び光重合開始剤(D成分)を含有する光学機能材料用アクリル系粘着剤組成物(以下、本組成物1という)。」
「[0101]・・・
[製造例1]
冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた2リットルの四つ口フラスコに、トルエン(400g)を仕込んだ。2-エチルヘキシルアクリレート(390g)、ヒドロキシエチルアクリレート(0.9g)及びAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)(5g)の混合液を、滴下ロートに仕込み、2時間かけて100~110℃に保持したフラスコ内に滴下し、さらに100~110℃で6時間重合反応を行った。次いで2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工社製、商品名:カレンズAOI 1.1g)、ハイドロキノン(0.16g)及びジブチルスズラウレート(0.16g)をフラスコ内に加え、同温度にて付加反応を開始した。反応はイソシアネート価測定による反応率が99%以上となった時点である8時間後に終了した。次にトルエンの残留量が1%以下になるまでトルエンを系外に除去し、反応性ポリマー(A-1)を得た。反応性ポリマー(A-1)は、2-エチルヘキシルアクリレートとヒドロキシエチルアクリレート由来の繰り返し単位を含む主鎖と、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート由来の二重結合を含む側鎖を有していた。反応性ポリマー(A-1)の重量平均分子量は570,000(GPC:ポリスチレン換算)、二重結合当量は、50932g/molであった。
[0102] [実施例1]
反応性ポリマー(A-1)(100g)に、2-エチルヘキシルアクリレート(B-1)(333g)、イソボルニルアクリレート(B-2)(100g)、アクリロイルモルホリン(C-1)(133g)、及び1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(D-1)(2g)を混合してアクリル系粘着剤組成物を得た。この組成物の粘度は、2800mPa・s/25℃であった。この組成物を用いて粘着剤シートを作製し、粘着力、被着体への糊残り、ITO腐食性を評価した。結果を表1に示す。」
「[0118]
[表1]
[図:0001398313000004.jpg]
」
4 本件特許の遡及日より前に公知となった甲4には、次の記載がある。
「【請求項1】
基材層と粘着剤層とを有する表面保護フィルムの製造方法であって、
基材層と粘着剤層とを含む積層体であって該粘着剤層が最外層である積層体を製造し、
該粘着剤層の該基材層と反対側の表面に、イオン性液体、イオン伝導ポリマー、イオン伝導フィラー、電気伝導ポリマーから選ばれる少なくとも1種の化合物(A)を含むセパレーターを貼り合わせ、
その後にセパレーターを剥離する、
表面保護フィルムの製造方法。」
「【請求項6】
前記粘着剤層が、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ゴム系粘着剤から選ばれる少なくとも1種の粘着剤を含む、請求項1から5までのいずれかに記載の表面保護フィルムの製造方法。」
「【0179】
本発明の表面保護フィルムは、透明性が高いことが好ましい。本発明の表面保護フィルムの透明性が高いことにより、光学部材や電子部材の表面に貼着した状態で正確に検査などを行うことが可能となる。本発明の表面保護フィルムは、ヘイズが、好ましくは5%以下であり、より好ましくは4%以下であり、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは2%以下であり、最も好ましくは1%以下である。」
第5 当審の判断
1 申立理由1について
(1)甲1に記載された発明
ア 甲1の17頁20行~18頁13行(前記第4の1(7)参照。)には、実施例2として、「実施例1において、一軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みのみを46から110nmに変更した以外は実施例1と同様に実施し」た「表面保護フィルム」であって、「得られた一軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの、配向主軸の最大歪みは7度、コントラストの最低値は60、120℃における熱収縮率は1.0%、ヘイズは0.1%、全光線透過率は90%、リターデーション値は11000nmであ」り、「実施例1と同様に、片面に粘着剤層を積層した表面保護フィルム」が記載されている。
イ 同18頁14~24行(前記第4の1(8)参照。)には、前記実施例1の「粘着剤層」について、「ポリエチレンテレフタレート」「の未延伸フィルムを幅方向に90℃で3.7倍延伸した」ものであること、及び「一軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに、エチレン-酢酸ビニル系接着剤100重量部に対して溶剤としてトルエン400重量部を加えた塗布液を、乾燥後の膜厚が10nmになるように塗布して乾燥固化させ」たものであることが記載されている。
ウ そうすると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲1発明)
「一軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に粘着剤層を積層した表面保護フィルムであって、
一軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、ポリエチレンテレフタレートの未延伸フィルムを幅方向に延伸したものであり、厚みが110nm、配向主軸の最大歪みは7度、コントラストの最低値は60、120℃における熱収縮率は1.0%、ヘイズは0.1%、全光線透過率は90%、リターデーション値は11000nmであり、
粘着剤層は、一軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに、エチレン-酢酸ビニル系接着剤100重量部に対して溶剤としてトルエン400重量部を加えた塗布液を、乾燥後の膜厚が10nmになるように塗布して乾燥固化させたものである、表面保護フィルム」
(2)対比・判断
ア 本件発明1
(ア)本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「一軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は、「全光線透過率は90%」であるから、本件発明1の「透明基材」に相当する。
(イ)甲1発明の「一軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に粘着剤層を積層した表面保護フィルム」は、本件発明1の「透明基材と粘着剤層とを含む積層構造を有する表面保護フィルム」に相当する。
(ウ)甲1発明の「一軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は、「ポリエチレンテレフタレートの未延伸フィルムを幅方向に延伸したものであり、厚みが110nm」、「リターデーション値は11000nm」であって、リタデーション値と面内位相差とはその定義が同じであるから、本件発明1の「透明基材は、基材幅方向一軸延伸ポリエステル系基材であり、面内位相差が6000nm以上であり且つ75μm以上の厚さを有し」を充足する。
(エ)そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「透明基材と粘着剤層とを含む積層構造を有する表面保護フィルムであって、
前記透明基材は、基材幅方向一軸延伸ポリエステル系基材であり、面内位相差が6000nm以上であり且つ75μm以上の厚さを有する、表面保護フィルム」
<相違点1>
粘着剤層が、本件発明1は「アクリル系ポリマーにおける、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来のモノマーユニットの割合が50重量%以上、窒素原子含有モノマー由来のモノマーユニットの割合が1重量%以上30重量%以下であるアクリル系粘着剤を含む粘着剤層」であるのに対し、甲1発明は「エチレン-酢酸ビニル系接着剤」を「乾燥固化させたもの」である点。
<相違点2>
表面保護フィルムの引裂強度が、本件発明1は「基材幅方向における表面保護フィルムのエルメンドルフ引裂強度が0.5N以下であり、且つ、基材機械方向における表面保護フィルムのエルメンドルフ引裂強度が1N以上」であるのに対し、甲1発明は定かでない点。
(オ)事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。前記(ア)~(ウ)で検討したとおり、甲1発明の「表面保護フィルム」は、その「一軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」が「厚みが110nm」かつ「リターデーション値は11000nm」である点で、本件発明1の「表面保護フィルム」と共通している。
しかしながら、申立人は、面内位相差(リターデーション値)とエルメンドルフ引裂強度との相関関係等について何ら資料を示しておらず、甲1発明の「表面保護フィルム」が前記したような属性を備えているからといって、その「基材幅方向における表面保護フィルムのエルメンドルフ引裂強度が0.5N以下であり、且つ、基材機械方向における表面保護フィルムのエルメンドルフ引裂強度が1N以上」という特性を示すとは限らないから、甲1発明の「表面保護フィルム」の引裂強度が、本件発明1で特定される条件を満たすとはいえない。
(カ)また、甲1には、「リターデーション値が」「5000nm以上であれば可視光領域において干渉縞の間隔が十分広がるため、光学的に等方であるのと同様となりさらに好ましい。」(前記第4の1(4)参照。)、「実施例1」の「表面保護フィルムのコントラストを評価したところ、サンプルを挿入した場合と挿入しない場合における光の透過光量の変化はほとんどなく良好であった。」(前記第4の1(7)参照。)、及び「実施例2」の「表面保護フィルムのコントラストを評価したところ、コントラス卜の差が若干見られたが、実用上使用可能であった。」(前記第4の1(8)参照。)と記載され、リターデーション値(面内位相差)と光学的等方性の関係についての記載はあるものの、引裂強度との関係については、記載も示唆もない。
そうすると、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて、甲1発明の「表面保護フィルム」の引裂強度を、本件発明1で特定される条件を満たすようにすることが容易ともいえない。
(キ)甲2(前記第4の2参照。)の【0044】には、PETフィルム/粘着剤層/剥離フィルムの積層構成を有する実施例1~9の表面保護フィルムが記載され、同【0043】の【表1】及び【0047】の【表3】を合わせ見れば、実施例1~5として、その粘着剤層に含まれるアクリル共重合体が、(A)群(本件発明1の「(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来のモノマーユニット」に対応)の割合が50重量%以上、(E)群の(E-1)~(E-4)(本件発明1の「窒素原子含有モノマー由来のモノマーユニット」の割合が1重量%以上30重量%以下のものが記載され、甲3(前記第4の3参照。)の[0118]の[表1]には、実施例1~4として、B成分(本件発明1の「(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来のモノマーユニット」に対応)の割合が50重量%以上、C成分(本件発明1の「窒素原子含有モノマー由来のモノマーユニット」の割合が1重量%以上30重量%以下のアクリル系粘着剤が記載され、甲4(前記第4の4参照。)の【請求項1】及び【請求項6】には、基材層と粘着剤層とを有する表面保護フィルムにおいて、粘着剤層がアクリル系粘着剤を含み得ることが記載され、同【0179】には、その表面保護フィルムのヘイズについて、最も好ましくは1%以下であることが記載されているものの、表面保護フィルムの引裂強度については何ら記載がない。
(ク)そして、良好な手切れ性と高いリワーク性とを併せて実現するという効果は、甲1~4のいずれの記載からも予測し得ないものである。
(ケ)してみると、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲1~4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
イ 本件発明2~7
本件発明2~7は、いずれも本件発明1を全て包含し、それぞれ個別の技術事項を追加したものである。よって、本件発明2~7は、前記アに示した理由と同様の理由により、甲1発明及び甲1~4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(3)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の33頁1行~34頁20行において、甲1発明の表面保護フィルムは、厚さ75μm以上の幅方向一軸延伸ポリエステル系基材であり、その「厚みが110nm」及び「リターデーション値は11000nm」から計算される屈折率差が0.100であるのに対し、本件発明1に包含される本件特許の明細書に記載された実施例1及び2(前記第2の2の【0092】及び【0093】参照。)では、「厚さ80μm」及び「面内位相差8400」から計算される屈折率差が0.105であるから、いずれも一軸方向に強く配向したフィルムであることを根拠として、甲1発明のエルメンドルフ引裂強度が本件発明1で特定する範囲を満たす蓋然性が高いと主張する。
しかしながら、前記屈折率差からエルメンドルフ引裂強度を算出できるとの技術常識は知られておらず、また、申立人が前記屈折率差とエルメンドルフ引裂強度との相関等に関する資料を何ら提出していないことも考慮すれば、甲1発明のエルメンドルフ引裂強度が本件発明1で特定する範囲を満たすと認めるに足りる証拠はない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1)申立理由2の概要は、本件明細書において、手切れ性については実施例においても良好な手切れ性を有することが記載されているものの、リワーク性については、表面保護フィルムが如何なる物性を備えることにより、どのような機構で優れたリワーク性を実現できるのかが説明されておらず、実施例においてもリワーク性の評価がなされていないから、当業者が本件発明の課題を解決できると認識することは不可能であり、サポート要件を満たしていない、というものである。
(2)本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書(前記第2の2参照。)の【0006】の記載によれば、「ポリエステル系基材を有しつつ良好な手切れ性と高いリワーク性とを併せて実現するのに適した表面保護フィルムを提供すること」であると認められる。
(3)前記リワーク性について、本件明細書(前記第2の2参照。)の【0010】には「・・・エルメンドルフ引裂強度が基材機械方向では基材幅方向の2倍以上の1N以上であるという構成は、本表面保護フィルムにおいて、基材幅方向への引裂きに関してその指向性を高めるのに好適である。そのため、当該構成は、本表面保護フィルムが被着体に貼り合わせられた状態にある場合において、当該フィルムの基材機械方向に剥離力を作用させて被着体から当該フィルムを裂かずに適切に剥離させるのに好適である。具体的には、被着体に対して本表面保護フィルムを貼り合わせた後に一旦剥離して再び貼り合わせる作業(リワーク作業)にあたり、当該フィルムの基材機械方向に剥離力を作用させて被着体から当該フィルムを裂かずに適切に剥離させるのに好適である。基材幅方向に加えて基材機械方向にも引き裂かれやすい表面保護フィルムは、リワーク作業における剥離時に、裂けやすく、被着体から適切に剥離することが困難な傾向にある。裂けが生じた表面保護フィルムは、再度の貼合わせに用いることができない。これに対し、本表面保護フィルムは、基材幅方向への良好な手切れ性の実現に適した基材幅方向エルメンドルフ引裂強度に比して充分に大きな基材機械方向エルメンドルフ引裂強度を有するので、リワーク作業にあたり、裂かずに適切に被着体から剥離させるのに適するのである。」と記載され、本件発明の表面保護フィルムは、エルメンドルフ引裂強度が基材機械方向では基材幅方向の2倍以上の1N以上であるという物性を備えることにより、良好な手切れ性とリワーク性を兼ね備えることができることが記載されている。
(4)そうすると、当業者は、本件明細書の記載に基づいて、本件発明が解決しようとする課題を解決できることを認識できるから、本件発明がサポート要件を満たしていないということはできない。
3 申立理由3(委任省令要件)について
(1)申立理由3の概要は、本件明細書において、表面保護フィルムが如何なる機序により高いリワーク性が達成できるのかに関する十分な説明がなく、実施例においてもリワーク性の評価すらされていないから、当業者といえども、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から本件発明を規定する複数のパラメータと解決すべき課題との関係を理解することができず、本件明細書の記載は委任省令要件違反である、というものである。
(2)しかしながら、前記2(3)で述べたとおり、本件発明の表面保護フィルムは、エルメンドルフ引裂強度が基材機械方向では基材幅方向の2倍以上の1N以上であるという物性を備えることにより、良好な手切れ性とリワーク性を兼ね備えることができることが記載されているから、本件明細書の記載は委任省令要件違反とはいえない。
4 申立理由4(実施可能要件)について
(1)申立理由4の概要は、本件特許の出願人が審査の過程で提出した令和4年2月18日付けの意見書において、表面保護フィルムの幅方向及び機械方向のエルメンドルフ引裂強度は、基材である一軸延伸ポリエステル系フィルムの物性だけで定まるものではなく、本件発明1で特定されたような特定のモノマーユニットからなるアクリル系粘着剤を含む粘着剤層と基材を組み合わせることによって全体として得られる物性であるという趣旨の主張をしたことに対し、本件明細書には、粘着剤層をどのように調整することにより、本件発明が規定するエルメンドルフ引裂強度が得られるのかが全く記載されていないから、本件明細書の記載は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、実施可能要件を満たしていない、というものである。
(2)たしかに、本件明細書(前記第2の2参照。)の【0009】には「・・・表面保護フィルムにおけるエルメンドルフ引裂強度等の引裂強度は基材の機械的特性に強く支配される・・・」と記載され、粘着剤層のエルメンドルフ引裂強度への寄与は大きくないとも考えられる。
(3)しかしながら、本件明細書に触れた当業者であれば、本件明細書に記載された粘着剤層と基材の組み合わせ並びに出願時の技術常識に基づいて、本件発明を実施できるのであるから、本件明細書の記載が実施可能要件を満たしていないとはいえない。
(4)のみならず、本件発明1の「直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来のモノマーユニット」の技術的意味について、本件明細書(前記第2の2参照。)の【0025】には「上記アクリル系ポリマーにおける、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来のモノマーユニットの割合は、好ましくは50重量%以上・・・である。・・・直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合に関する当該構成は、アクリル系粘着剤たるアクリル系ポリマーの粘着性等の基本特性を、当該アクリル系ポリマーを含んで形成される粘着剤層にて適切に発現させるうえで好適である。」と記載され、また、本件発明1の「窒素原子含有モノマー由来のモノマーユニット」の技術的意味について、同【0033】には「上記アクリル系ポリマーにおける、窒素原子含有モノマー由来のモノマーユニットの割合は、当該アクリル系ポリマーを含んで形成される粘着剤層において、適度な硬さや、接着性、透明性を実現するという観点から、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上である。また、上記アクリル系ポリマーにおける、窒素原子含有モノマー由来のモノマーユニットの割合は、当該アクリル系ポリマーを含んで形成される粘着剤層において、充分な透明性を実現するという観点や、硬くなり過ぎることを抑制して良好な接着信頼性を実現するという観点から、好ましくは30重量%以下、より好ましくは25重量%以下である。」と記載されており、本件発明1で特定されたような特定のモノマーユニットからなるアクリル系粘着剤を含む粘着剤層が、「粘着性等の基本特性を・・・適切に発現させる」、「適度な硬さや、接着性・・・を実現する」及び「硬くなり過ぎることを抑制して良好な接着信頼性を実現する」ものであることを理解できる。
(5)そうすると、本件発明1で特定されたような特定のモノマーユニットからなるアクリル系粘着剤を含む粘着剤層は、基材との適度な接着性を発揮することにより、本件発明が課題とする、良好な手切れ性と高いリワーク性とを併せて実現することに資するものであることを理解できるから、本件明細書は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないものとはいえない。
5 小括
前記1~4のとおり、申立理由1~4は、いずれも理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、異議申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700184