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特許異議申立

2025-700088

方向性電磁鋼板

審判番号
2025-700088
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2024-516644
登録番号
7522384
請求日
2025年01月20日
審決日
2025年04月22日
公報発行日
2025年05月30日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】日本製鉄株式会社
  • 【権利者代理人】青木 篤
  • 【権利者代理人】三橋 真二
  • 【権利者代理人】福地 律生
  • 【権利者代理人】齋藤 学
  • 【権利者代理人】木村 健治
  • 【権利者代理人】堂垣 泰雄
  • 【異議申立人】前田 洋志
審判長/審判官
  • 審判長 粟野 正明
  • 審判官 井上 猛
  • 審判官 佐藤 陽一
分類
P1651.537-Y (C22C) / P1651.536-Y (C22C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条、特許法第113条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7522384号発明「方向性電磁鋼板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7522384号の請求項1に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7522384号(請求項の数1。以下、「本件特許」という。)は、2023年(令和5年)11月22日(優先権主張:令和4年11月22日)を国際出願日とする出願(特願2024-516644号)に係るものであって、令和6年7月17日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和6年7月25日である。)。 その後、令和7年1月20日に、本件特許の請求項1に係る特許に対して、特許異議申立人である前田洋志(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、「本件発明1」という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。 【請求項1】 質量%で、Si:2.50~4.50%、Mn:0.01~0.15%を含有し、残部がFeおよび不純物であり、圧延直角方向と0~30°の角度をなす方向に延在する線状の溝が、2~10mmの間隔で形成された、鋼板表面を有する鋼板を備える方向性電磁鋼板であって、 前記溝の深さDが10~40μmであり、 前記溝の幅Wが20~200μmであり、 前記溝内部の底面の表面粗さのSa底値が5.0μm超であり、 前記溝内部の側面の表面粗さのSa側面値が1.0~5.0μmである方向性電磁鋼板。 第3 特許異議の申立ての理由の概要 本件特許の請求項1に係る特許は、下記1~3のとおり、特許法113条4号に該当する(証拠方法は下記4を参照。以下、甲第1号証等を単に「甲1」等という。)。 1 申立理由1(明確性要件) 本件発明1については、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法113条4号に該当する。 2 申立理由2(サポート要件) 本件発明1については、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法113条4号に該当する。 3 申立理由3(実施可能要件) 本件発明1については、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法113条4号に該当する。 4 証拠方法 ・甲1 国際公開第2019/164012号 ・甲2 佐藤圭司 外2名、「耐熱型磁区細分化方向性電磁鋼板」、川崎製鉄技報、1997年、Vol.29、No.3、p.153-158 ・甲3 特開平11-243005号公報 ・甲4 国際公開第2020/012666号 第4 当審の判断 以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 1 申立理由1(明確性要件) (1)本件発明1について 請求項1の記載は、上記第2のとおりのものであるところ、請求項1の記載に不明確なところはなく、その意味は明確であるから、本件発明1は明確である。 (2)申立人の主張について ア 申立人は、請求項1には、「前記溝内部の底面の表面粗さのSa底値が5.0μm超」、「前記溝内部の側面の表面粗さのSa側面値が1.0~5.0μm」と記載されているところ、本件明細書には、「溝の形状の測定は最終製品から酸洗等により少なくとも溝内部のグラス被膜および絶縁被膜を除去して行う」(【0028】)ことが記載されているものの、グラス被膜及び絶縁被膜を除去するための酸洗条件は記載されておらず、また、申立人が行った実験1、2によれば、酸洗条件によって、測定される表面粗さSaの値が変化するから、溝内部の表面粗さSaは一義的に定まらないと主張する。 イ(ア)しかしながら、本件明細書には、上記のとおり、溝内部の表面粗さSaの測定に先だって、最終製品である方向性電磁鋼板から酸洗等によりグラス被膜及び絶縁被膜を除去することが記載されているから、酸洗等が、方向性電磁鋼板からグラス被膜及び絶縁被膜を除去できる条件で行われていることは明らかであり、また、方向性電磁鋼板を構成する鋼板の表面状態に影響を及ぼさない条件で行われていることも明らかである。 (イ)a そして、本件明細書で引用されている特許文献2(国際公開2016-171130号公報)には、以下の記載がある。 「なお、方向性電磁鋼板1のグラス皮膜3および絶縁皮膜4は、例えば、次の方法によって除去することができる。グラス皮膜3または絶縁皮膜4を有する方向性電磁鋼板1を、NaOH:10質量%+H2O:90質量%の水酸化ナトリウム水溶液に、80℃で15分間、浸漬する。次いで、H2SO4:10質量%+H2O:90質量%の硫酸水溶液に、80℃で3分間、浸漬する。その後、HNO3:10質量%+H2O:90質量%の硝酸水溶液によって、常温で1分間弱、浸漬して洗浄する。最後に、温風のブロアーで1分間弱、乾燥させる。なお、上記の方法によって方向性電磁鋼板1からグラス皮膜3または絶縁皮膜4を除去した場合、鋼板2の溝5の形状や粗さは、グラス皮膜3または絶縁皮膜4を形成する前と同等であることが確認されている。」([0028]) b 特許文献2の上記aの記載を踏まえると、上記aの方法等の所定の方法によって、方向性電磁鋼板からグラス被膜及び絶縁被膜を除去できること、また、当該除去によっても方向性電磁鋼板を構成する鋼板の表面状態に影響を及ぼさないことは、技術常識と認められる。 (ウ)以上によれば、本件発明1における「溝内部の底面の表面粗さのSa底値」、「溝内部の側面の表面粗さのSa側面値」の測定は、上記(イ)bの技術常識に照らして、方向性電磁鋼板からグラス被膜及び絶縁被膜を除去するための通常の方法(例えば、上記(イ)aの方法)によって、方向性電磁鋼板を構成する鋼板の表面状態に影響を及ぼさずに、最終製品である方向性電磁鋼板からグラス被膜及び絶縁被膜を除去して行われるものと解される。そうすると、本件明細書に、最終製品である方向性電磁鋼板からグラス被膜及び絶縁被膜を除去するための酸洗条件が記載されていないからといって、溝内部の表面粗さSaが一義的に定まらないとはいえない。 また、申立人が行った実験1、2は、試験片の「溝内部に被膜がないことを確認した」ものであるとしても、試験片が過剰に酸洗されていないかどうか(すなわち、酸洗によって試験片の表面状態が変化していないかどうか)は不明であるから、採用の限りではない。 (エ)よって、申立人の主張は採用できない。 (3)まとめ したがって、申立理由1(明確性要件)によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由2(サポート要件) (1)本件発明1について ア 本件明細書の記載(【0002】~【0010】)によれば、本件発明1が解決しようとする課題は、鉄損を低減し、併せて更なる低騒音化を実現した方向性電磁鋼板を提供することであると認められる。 イ 本件明細書の記載及び図面(【0011】~【0019】、【0022】~【0040】、【0072】~【0087】、表1、図1)によれば、上記アの課題は、「質量%で、Si:2.50~4.50%、Mn:0.01~0.15%を含有し、残部がFeおよび不純物であり、圧延直角方向と0~30°の角度をなす方向に延在する線状の溝が、2~10mmの間隔で形成された、鋼板表面を有する鋼板を備える方向性電磁鋼板」において、「前記溝の深さD」を「10~40μm」とし、「前記溝の幅W」を「20~200μm」とし、「前記溝内部の底面の表面粗さのSa底値」を「5.0μm超」とし、「前記溝内部の側面の表面粗さのSa側面値」を「1.0~5.0μm」とする、との各要件を備えることによって、解決できることが理解できる。 ウ 以上のとおり、本件明細書の記載を総合すれば、上記イの各要件を備えた本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により上記アの課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。 したがって、本件発明1については、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。 (2)申立人の主張について ア 申立人は、 (ア)本件明細書には、「グラス皮膜が形成された鋼板の表面に対してレーザーを照射して、鋼板の表面に、圧延方向に交差する方向に延びる複数の溝を、圧延方向に沿って所定間隔で形成した」(【0076】)ことが記載されているから、甲1の記載([0030])を踏まえると、本件明細書に具体的に記載されているのは、溝内部にグラス皮膜を有さない方向性電磁鋼板のみである、 との主張を前提として、 (イ)溝が冷延板の段階で形成された場合、その後、脱炭焼鈍や最終仕上焼鈍が実施され、溝の底部にはアンカー(甲2)が多く形成されるが、アンカーが存在すると、磁壁の移動が阻害される(甲3)から、本件発明1の溝内部の表面粗さSaを満足していても、グラス皮膜に起因するアンカーが形成されている場合には、「磁壁の移動がスムーズでなくなり、ヒステリシス損が増加し、十分な鉄損低減効果が得られない」(【0036】)ため、「鉄損を低減する」(【0010】)という課題は解決されない蓋然性が高いところ、本件明細書に具体的に記載されているのは、上記(ア)のとおり、溝内部にグラス皮膜を有さない方向性電磁鋼板のみ(溝内部にグラス皮膜に起因するアンカーを有さないもののみ)であるから、溝内部にグラス皮膜を有するものを含む本件発明1は、当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである、 と主張する。 イ しかしながら、溝内部にグラス皮膜を有するか否かにかかわらず、また、溝の底部にアンカーが形成されているか否かにかかわらず、上記(1)イの各要件を備えた本件発明1については、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであることは、上記(1)のとおりである。そして、申立人が指摘するように、溝の底部に形成されたアンカーによって程度に差はあるとしても、上記(1)イの各要件を備えたものは、同各要件を備えないものと比較して、鉄損を一定程度は低減できることが理解できる。 よって、申立人の主張は採用できない。 ウ なお、申立人は、溝内部にグラス皮膜(アンカー)が形成される場合、本件明細書に記載された酸洗(【0028】)によってグラス皮膜を除去する際、アンカーも含めて除去することになるが、アンカーに挟まれた鋼板(地鉄)部分もともに除去されるから、溝内部の形状を正確に把握することはできないとも述べるが、上記1(2)イで述べたとおり、酸洗は、方向性電磁鋼板を構成する鋼板の表面状態に影響を及ぼさない条件で行われていると解される。 (3)まとめ したがって、申立理由2(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由3(実施可能要件) (1)申立人の主張について ア 申立人は、本件明細書の記載(【0037】、【0065】、【0067】)を踏まえると、溝をレーザー照射等の熱源によって形成することで、熱が均等に伝わり、所定の表面粗さSaが得られるが、アシストガスやブロワーガス等のわずかな条件の変化によって、溝内部の表面粗さSaも変化してしまうから、酸洗後の熱延鋼板(又は熱延焼鈍板)の表層の状態を引き継ぐ冷延鋼板の表面に、レーザー照射を実施して溝を形成するとともに、溝内部の表面粗さSaを適正範囲に調整できたとしても、その後の脱炭焼鈍や最終仕上焼鈍によってグラス皮膜が形成された場合は、溝内部の表面性状が変化してしまう蓋然性が高いところ、本件発明1は、溝内部にグラス皮膜を有する方向性電磁鋼板を含むものであり、そのような方向性電磁鋼板について、いかにして所定の表面粗さSaが得られるのか、本件明細書の記載をみても明らかではないと主張する。 イ 申立人の主張は、その後の脱炭焼鈍や最終仕上焼鈍によってグラス皮膜が形成された場合に、溝内部の表面性状が変化してしまうことを前提とするものと解されるが、そのようなことを示す具体的な根拠は見当たらない。 仮に、その後の脱炭焼鈍や最終仕上焼鈍によってグラス皮膜が形成され、溝内部の表面性状がある程度変化することがあったとしても、当業者であれば、そのような変化も考慮して、あらかじめ溝内部の表面粗さSaを調整しておく(例えば、グラス被膜の形成により溝内部の表面粗さSaが大きくなるのであれば、あらかじめ溝内部の表面粗さSaを小さくしておく)ことで、過度の試行錯誤を要することなく、溝内部の表面粗さSaを適正範囲に維持できるといえる。 よって、いずれにしろ申立人の主張は採用できない。 (2)まとめ したがって、申立理由3(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700088

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