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特許異議申立

2025-700074

窒化ホウ素凝集粉末、放熱シート及び半導体デバイス

審判番号
2025-700074
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-502200
登録番号
7517323
請求日
2025年01月16日
審決日
2025年04月24日
公報発行日
2025年05月30日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】三菱ケミカル株式会社
  • 【権利者代理人】田▲崎▼ 聡
  • 【権利者代理人】君塚 哲也
  • 【権利者代理人】大浪 一徳
  • 【権利者代理人】重野 剛
  • 【権利者代理人】重野 隆之
  • 【異議申立人】浅川 哲
審判長/審判官
  • 審判長 深草 祐一
  • 審判官 三崎 仁
  • 審判官 塩谷 領大
分類
P1651.113-Y (C01B) / P1651.121-Y (C01B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第113条第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7517323号発明「窒化ホウ素凝集粉末、放熱シート及び半導体デバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7517323号の請求項1~6に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7517323号の請求項1~6に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)年2月21日(優先権主張 平成31年2月27日)を国際出願日とするに出願であって、令和6年7月8日にその特許権の設定登録がされ、同年同月17日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1~6に係る特許に対し、令和7年1月16日に特許異議申立人浅川哲(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。 第2 本件発明及び本件明細書 1 本件発明について 特許第7517323号の請求項1~6の特許に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 タップ密度が0.6g/ml以上0.8g/ml未満であり、粒子間隙容積が0.5ml/g以上0.9ml/g以下である窒化ホウ素凝集粉末。 【請求項2】 前記窒化ホウ素凝集粉末の平均粒子径が、20μm以上200μm以下である、請求項1記載の窒化ホウ素凝集粉末。 【請求項3】 前記窒化ホウ素凝集粉末に含まれるBN凝集粒子の粒子内空隙率が40%以上60%以下である、請求項1又は2に記載の窒化ホウ素凝集粉末。 【請求項4】 前記窒化ホウ素凝集粉末がカードハウス構造である、請求項1~3のいずれか1項に記載の窒化ホウ素凝集粉末。 【請求項5】 請求項1~4のいずれか1項に記載の窒化ホウ素凝集粉末を含む放熱シート。 【請求項6】 請求項5に記載の放熱シートを用いた半導体デバイス。」 2 本件明細書について 願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には、以下の事項が記載されている。下線は当審が付与した(以下同様)。 (本ア)「【0010】 本発明は、放熱シートの熱伝導性を向上させると同時に耐電圧特性も良好なものとすることができる窒化ホウ素凝集粉末と、この窒化ホウ素凝集粉末を含む放熱シート、及びこの放熱シートを用いた半導体デバイスを提供することを課題とする。」 (本イ)「【0022】 〔窒化ホウ素凝集粉末〕 本発明において窒化ホウ素凝集粉末とは、窒化ホウ素凝集粒子(以下、単に「BN凝集粒子」と称す場合がある。)の集合である粉末を表す。 【0023】 [メカニズム] 本発明のBN凝集粉末により熱伝導性及び耐電圧特性に優れた放熱シートを得ることができるメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推定される。 【0024】 タップ密度が0.6g/mlより小さい場合、BN凝集粉末中の粒子間の空隙率(粒子間隙容積)が大きくなる傾向にある。粒子間の空隙率が大きくなりすぎると樹脂が充填されない領域が発生する確率も高くなる。BN凝集粉末を含む樹脂シートを作製し、電圧をかけると、この樹脂未充填領域で電流がリークし、耐電圧性が悪化する。 タップ密度が0.8g/ml以上の場合、BN凝集粉末中の粒子間の空隙率は小さくなるが、粒子間の空隙率が小さくなりすぎると樹脂が充填されにくくなる。このためBN凝集粉末内に微細な空隙が残りやすくなり、BN凝集粉末を含む樹脂シートを作製し電圧をかけると、この樹脂未充填領域で電流がリークし、耐電圧性が悪化する。 本発明において、タップ密度は、BN凝集粒子を構成するBN一次粒子の成長や成長様式とも関連し、気孔率では表現できないBN凝集粒子内の閉気孔の量をも含む概念である。 【0025】 粒子間隙容積が0.5ml/gより小さいBN凝集粉末を用いてBN凝集粉末を含有する樹脂シートを作製する場合、粒子間隙容積に対して樹脂成分が多くなり、樹脂中に残存するボイドの除去が難しくなる。このため、得られた樹脂シートに電圧をかけるとボイド部分で電流がリークし、耐電圧性が悪化する。 【0026】 本発明は、BN凝集粒子の空隙率、粒径分布、粒子の形状、粒子の強度、一次粒子の大きさ、閉気孔の量などの物性の総合的な指標としてタップ密度をとらえ、BN凝集粉末のタップ密度が0.6g/ml以上0.8g/ml未満という非常に狭い範囲にあり、さらに、粒子間隙容積が0.5ml/g以上であるものが、放熱シートとしたときの熱伝導性及び耐電圧特性に優れることを見出すことにより達成された。 【0027】 本発明におけるタップ密度は、後掲の実施例の項に示される方法で測定される、測定容器にタップして充填した紛体の密度である。このタップ密度は、特許文献1,2に記載される凝集粒子の空隙率と一見関係するように考えられるが、凝集粒子の空隙率だけではなく、粒径分布、粒子の形状、粒子の強度、一次粒子の大きさ、閉気孔の量などによってもタップ密度は変わるものである。 【0028】 本発明における粒子間隙容積は、水銀圧入測定において、粒子細孔径2μm以上の分割径での積算容積、すなわち粒子を充填した際の粒子間にできる隙間の量を表す。粒子間隙容積は、後掲の実施例の項に示される方法で測定される。」 (本ウ)【0035】 (粒子間隙容積) 本発明のBN凝集粉末は粒子間隙容積が0.5ml/g以上であることを特徴とする。粒子間隙容積が上記下限以上であることで、熱伝導性及び耐電圧特性の向上が得られる。 【0036】 本発明のBN凝集粉末の粒子間隙容積は、0.5ml/g以上であり、好ましくは0.55ml/g以上であり、より好ましくは0.58ml/g以上であり、さらに好ましくは0.6ml/g以上である。また、好ましくは0.9ml/g以下であり、より好ましくは0.8ml/g以下である。粒子間隙容積が上記範囲であることで、シート化した際のBN凝集粒子間の樹脂量が適切となり、シート内の空隙(ボイド)が抑制され、熱伝導性及び耐電圧特性がより向上する傾向にある。 (本エ)「【0088】 また、BN凝集粉末のタップ密度と粒子間隙容積は、BN一次粒子の成長とBN凝集粒子の形状などにより変化するが、BN一次粒子の粒子成長やBN凝集粒子の形状はBN原料に含まれる酸素濃度で変化する。このため、酸素濃度を制御しながら加熱処理することで、タップ密度と粒子間隙容積を本発明の規定範囲内に調整することができる。具体的には、還元剤として炭素共存下で加熱することや、減圧下で酸素濃度を調整する方法などが挙げられる。 (本オ)「【0193】 <BN凝集粉末のタップ密度> 加熱焼成後の試料を風力分級し、体積平均粒子径で100μm未満の粉末試料を準備した。この試料を10mlメスシリンダーに入れ、試料体積が一定になるまで、手動にてタッピングを行い、試料の重量をタッピング後の体積で除すことにより、タップ密度を算出した。上記方法は10mlメスシリンダーを用いる以外はJIS R1628に準じる方法で行った。 【0194】 <BN凝集粉末の粒子間隙容積,BN凝集粒子の粒子内空隙率> 水銀ポロシメーターを用いた水銀圧入測定から求めた。マイクロメリテックス社製・オートポアIVを用いて、試料を減圧下(50μmHg以下)で10分間減圧処理をした後、粉密度、全細孔容積を求め、また、水銀圧入退出曲線を測定した。細孔を円筒と仮定して、その細孔径2.0μm以上の領域(分割径)の細孔容積を粒子間隙容積として算出した。 全細孔容積から粒子間隙容積を差し引いて粒子内細孔容積を求め、粉の体積(1/粉密度)に対する粒子内細孔容積の割合を粒子内空隙率とした。 なお、水銀圧入測定はJIS R1655に準拠した方法で実施し、BNの表面張力485dyn/cm2、接触角140°、測定温度は23~26℃とした。」 (本カ)「【0199】 <BNスラリーの調製> (原料) 原料h-BN粉末(粉末X線回折測定により得られる(002)面ピークの半値幅が2θ=0.67°、全酸素濃度=7.5重量%、比表面積116m2/g、全細孔容積0.754cm3/g):10000gバインダー(多木化学(株)製「タキセラムM160L」、固形分濃度21重量%):11496g界面活性剤(花王(株)製界面活性剤「アンモニウムラウリルサルフェート」、固形分濃度14重量%):250g 【0200】 (スラリーの調製) 原料h-BN粉末を樹脂製のボトルに所定量計量し、次いでバインダーを所定量添加した。さらに、界面活性剤を所定量添加した後、ジルコニア製のセラミックボールを添加して、ポットミル回転台で1時間撹拌し、スラリーを調製した。 【0201】 <造粒> BNスラリーからの造粒は、株式会社プリス社製スプレードライヤーP260を用いて、ディスク回転数15000~20000rpm、乾燥温度85℃で実施した。 【0202】 <BN凝集粒子の作製> 上記BN造粒粉末を、蓋付き黒鉛ルツボに入れ、窒素ガスを導入しながら2000℃まで63℃/時で昇温し、2000℃到達後、そのままの温度を維持し、窒素ガスを導入しながら5時間保持した。その後、室温まで冷却し、加熱処理済みの試料を得た。 黒鉛ルツボ内の加熱済み試料を、黒鉛ルツボ内壁面側(上層、側周層、下層)から、1cmの外部分をサンプル(A)、サンプル(A)部分よりも1cm内層部分をサンプル(B)、サンプル(B)部分からさらに1cmの内層部分をサンプル(C)として、それぞれを分割して取り分けた。サンプル(C)は、黒鉛ルツボ内壁面側(上層、側周層、下層)から2cm内側の部分である。 【0203】 <分級> 上記分割して取り分けた加熱処理済みのBN凝集粉末を、風力分級した。風力分級は、日清エンジニアリング(株)製AC-15を用いて行い、各分割サンプル(A),(B)、(C)それぞれについて、100μm未満の粒子と100μm以上の粒子に分級した。 【0204】 <評価> 分級後、100μm未満の粒子について、上記方法に従い、タップ密度、粒子間隙容積、粒子内空隙率及び圧縮破壊強度の測定を行った。また、平均粒子径を測定した。各分割サンプル(A),(B)、(C)をそれぞれサンプルNo.(A)-1~(A)-2、(B)-1、(C)-1~(C)-5とし、測定結果を表1に示す。 【表1】 [図:0001422481000001.jpg] 【0206】 なお、サンプルNo.(A)-1~(A)-2、(B)-1及び(C)-1~(C)-5のBN凝集粉末は、いずれもカードハウス構造を有することを、SEM観察により確認した。 【0207】 [シート状成形体の作製と評価] 以下の実施例及び比較例では、上記で得られた(A)-1~(A)-2、(B)-1、(C)-1~(C)-5のBN凝集粉末をそれぞれ無機フィラーとして用いて、以下の方法でBN凝集粉末含有樹脂組成物を調製し、シート状成形体を製造した。」 (本キ)「【0212】 <無機フィラー成分> 無機フィラー1:BN凝集粉末(C)-1~(C)-5 無機フィラー2:BN凝集粉末(B)-1 無機フィラー3:BN凝集粉末(A)-1~(A)-2 無機フィラー4:アドマテックス社製、球状アルミナ粒子 新モース硬度:9 体積平均粒子径:6.5μm 熱伝導率:20~30W/m・K」 「【0214】 得られたシート状成形体の熱伝導率と耐電圧特性を測定し、結果を表2に示した。 【0215】 <実施例2~6、比較例1~2> 実施例1の方法に準拠し、表2に示す組成にて、それぞれシート状成形体を作製し、その評価を行った。結果を表2に示した。 【0216】 【表2】 [図:0001422481000002.jpg] 【0217】 表2より、タップ密度及び粒子間隙容積が特定の範囲の本発明のBN凝集粉末を用いることにより、熱伝導性と耐電圧特性に優れた放熱シートを実現できることが分かる。」 第3 特許異議申立書における申立理由の概要 申立人は、特許異議申立書で証拠方法として以下の甲第1号証~甲第14号証を提示して、以下の申立理由1又は2により、本件発明1~6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものであることを主張している。 1 申立理由1 本件発明1~6は、甲第1号証に記載された発明、又は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、本件発明1~6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 2 申立理由2 本件発明1~6は、甲第1号証に記載された発明、又は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 そして、甲第3号証~甲第14号証については、上記申立理由1及び2を判断するうえで、必要に応じて、技術常識を示すものとして適宜参照されるものとされている。 <証拠方法> 甲第1号証:特開2011-98882号公報 甲第2号証:特表2007-502770号公報 甲第3号証:「厚生労働省告示第425号」平成21年9月30日 甲第4号証:浅川哲作成書類「タップ密度測定方法の比較結果」2024年11月27日 甲第5号証:実験化学講座4「熱・圧力」第4版、社団法人日本化学会、平成4年2月5日、p.490頁 甲第6号証:実験化学講座16「無機化合物」第4版、社団法人日本化学会、平成5年1月20日、p.278 甲第7号証:本件特許出願に対する令和6年3月12日付け拒絶理由通知書(特許情報プラットフォームからの出力物) 甲第8号証:特開2018-20932号公報 甲第9号証:トピックス「カードハウス構造を有する窒化ホウ素凝集粒子」セラミックス51(2016)No.10、p.717 甲第10号証:「ALC(軽量気泡コンクリート)(1963年~現在)」セラミックス43(2008)No.2、pp.126~129 甲第11号証:https://member.ceramic.or.jp/journal/vol_no/43/02/43_02.html(ウェッブ出力物) 甲第12号証:特表2006-514737号公報 甲第13号証:特開2018-188350号公報 甲第14号証:https://www.sptj.jp/powderpedia/words/11333/(ウェッブ出力物) (以下「甲第○号証」は「甲○」という。) 第4 甲号証の記載 1 甲1について (1)記載事項 甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した(以下同様)。 (甲1ア)「【請求項1】 一次粒子の長径と厚みの比が平均で5~10で、一次粒子の凝集体の大きさが平均粒径(D50)で2μm以上200μm以下で、嵩密度が0.5~1.0g/cm3であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末。 【請求項2】 前記凝集体の平均粒径(D50)が20μm以上80μm以下で、かつ空隙率が50%以下であることを特徴とする請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。」 (甲1イ)「【発明が解決しようとする課題】 【0008】 特許文献2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末の開発により、充填性が向上し、熱伝導性が改善された。 本発明は、上掲した特許文献2に記載された六方晶窒化ホウ素粉末の改良に係り、凝集体の形状を一層球状化して充填性を高めると共に、粉末強度の向上を図り、さらには高純度化により、当該粉末を充填した伝熱シート等の絶縁性の向上および耐電圧の安定化を達成した六方晶窒化ホウ素粉末を提案することを目的とする。 また、本発明は、六方晶窒化ホウ素粉末中に、不純物として残留するFeの形状を制御する、具体的には球状形とすることにより、残留するFeの許容量を従来よりも緩和させた六方晶窒化ホウ素粉末を提案することを目的とする。」 (甲1ウ)「【発明の効果】 【0019】 本発明によれば、h-BN粉末の凝集体の形状をより緻密化かつ球状化することができるので、粉末強度の向上と共に、充填性ひいては熱伝導性を高めることができ、併せて誘電率を安定化することができる。 また、本発明によれば、h-BN粉末中に残留するFeを効果的に除去できるだけでなく、たとえ粉末中にFeが残留していてもその形状を球状にして無害化できるので、絶縁性の向上を図ることができる。さらに、耐電圧を悪化させるFeを球状化してその最大寸法を小さくすることは、耐電圧の安定化に一層貢献する。」 (甲1エ)「【0023】 一次粒子の凝集体の大きさ:平均粒径D50で2μm以上200μm以下 一次粒子の凝集体の大きさが平均粒径D50で2μm未満では、一次粒子まで粉砕されるので、この過程で凝集粒を維持できず鱗片状の形状となる。一方200μmを超えると形状の維持が難しく、ハンドリング時に磨砕され易くなり粒度が変動するので、一次粒子の凝集体の大きさは平均粒径D50で2μm以上200μm以下の範囲に限定した。好ましくは平均粒径D50で5~100μmの範囲である。 さらに好ましくは平均粒径D50で20~80μmの範囲であり、この好適粒径範囲を満足すると空隙率が50%以下となって、凝集体は格段に緻密化する。なお、空隙率の下限については特に制限はないが、h-BNは結晶粒の成長に異方性を有するため空隙を完全に消滅させることは難しく、下限としては10%程度が実際的である。 なお、凝集体の空隙率は、水銀ポロシメーターにより細孔体積を測定することによって求めることができる。」 (甲1オ)「【0033】 B4C粉末中には、図2(a)に示すような状態で不純物としてFeが存在している。ここで、例えば窒化工程においてかかるFeを除去する場合について説明すると、この場合は、B4CがNと反応を始める時期に減圧処理を施してFeを蒸発除去することが好ましい。温度は1800~2000℃程度である。また、ガス気流はFe蒸気の排出を促進させるので有効である。 【0034】 上記の窒化処理時に、B4C粉末中にN2ガスが浸透し、BN粒子の生成が始まると、図2(b)に示すように、BN粒子間に空隙ができ、その空隙に不純物であるFeが存在する状態となる。なお、BN粒子の周りに点々で示したものはCである。 【0035】 上記のような状態のときに減圧処理を施すと、図2(c)に示すように、BN粒子間に存在するFeは、粒子間空隙を通して効果的に蒸発除去される。 また、上記の減圧処理によっても除去されずBN粒子間にFeが残留したとしても、かかる残留Feは減圧処理によって球状化されるので、BNとしての絶縁性は保持される。また、耐電圧も安定化する。」 (甲1カ)「【0046】 なお、各特性の評価方法は次のとおりである。 (1)嵩密度 試料を105℃で恒量になるまで乾燥し、3.0gを正確に量り、これを20ml目盛つき試験管に入れ蓋つきのホルダーにセットし、高さ45mmの位置から2秒間に1回の速さで400回落下させた後、その容積を読み取って、嵩密度を求めた。」 (甲1キ)実施例の結果をまとめた表として、以下の表1及び3が記載されている。 【表1】 [図:0001422481000003.jpg] 【表3】 [図:0001422481000004.jpg] (2)甲1発明について ア (甲1ア)における「凝集体の」「嵩密度」とは、(甲1カ)によれば「試料を105℃で恒量になるまで乾燥し、3.0gを正確に量り、これを20ml目盛つき試験管に入れ蓋つきのホルダーにセットし、高さ45mmの位置から2秒間に1回の速さで400回落下させた後、その容積を読み取って」「求めた」ものである。 また、(甲1ア)における「凝集体の」「空隙率」とは、(甲1エ)記載の「凝集体の空隙率は、水銀ポロシメーターにより細孔体積を測定することによって求める」ものである。 そして、(甲1オ)には、凝集体のBN粒子間の空隙に存在するFeが減圧処理によって球状化されることによって耐電圧が安定化することが記載されている。 イ そうすると、(甲1ア)で摘記した請求項1及び2の記載に着目し、上記アの事項を踏まえて、甲1に記載された発明を認定すると、以下のとおりである。 「一次粒子の長径と厚みの比が平均で5~10で、一次粒子の凝集体の大きさが平均粒径(D50)が20μm以上80μm以下で、嵩密度が0.5~1.0g/cm3であり、かつ空隙率が50%以下である六方晶窒化ホウ素粉末であって、 上記嵩密度が、試料を105℃で恒量になるまで乾燥し、3.0gを正確に量り、これを20ml目盛つき試験管に入れ蓋つきのホルダーにセットし、高さ45mmの位置から2秒間に1回の速さで400回落下させた後、その容積を読み取って求めたものであり、 上記空隙率が、水銀ポロシメーターにより細孔体積を測定することによって求めるものであり、 そして、凝集体のBN粒子間の空隙に存在するFeが減圧処理によって球状化されることによって耐電圧が安定化した、六方晶窒化ホウ素粉末。」(以下「甲1発明」という。) 2 甲2について (1)記載事項 (甲2ア)「【請求項1】 タップ密度に対する凝集体破壊強さの比が約11 MPa・cc/g以上であることを特徴とする窒化ホウ素凝集粉末。」 (甲2イ)「【0006】 改善された熱伝導性充填剤材料、及びこのような材料を形成する方法が今なお必要である。具体的には、このような材料を経済的にそして大きな容積で製造することができると共に、最終生成物の特性をより良好に制御できるような方法が今なお必要である。加えて、制御された密度の粉末、例えば半導体分野のような用途における取り扱い及び配備のために十分な強度を維持する低密度及び中密度の粉末を含む、改善された窒化ホウ素粉末も依然として必要である。 (甲2ウ)「【0038】 最終の凝集済の窒化ホウ素生成物は、典型的には、特にそのエンベロープ密度(実際の凝集体密度)及び/又は粉末タップ密度(粉末の嵩密度)に関して、比較的高い破壊強さを有する。例えば、1実施態様の場合、タップ密度に対する破壊強さの比は、約11MPa・cc/g以上、例えば約12MPa・cc/g以上、約13MPa・cc/g以上、さらには約14MPa・cc/g以上である。エンベロープ密度に関しては、このような比は、典型的には6.5MPa・cc/g以上、例えば6.7MPa・cc/g以上、又は6.9MPa・cc/g以上である。」 (甲2エ)「【実施例】 【0048】 実施例1。 粒子サイズが約5 μm以下の微細な結晶からなる、ほぼ50lbsの供給原料窒化ホウ素粉末を、アイソスタティック・プレスを用いて20ksiで圧縮した。次いで、得られた材料を、ジョー・クラッシャーを使用し、次いでロール型クラッシャーを使用して破砕した。次いで、得られた粉末をスクリーニングすることにより、細かい凝集体と粗い凝集体とを分離した。粗い凝集体は、この実施例の目的上、150ミクロンを上回り、細かい凝集体は、40ミクロンを下回った。スクリーニングは、120及び200 TBC(Tensile Bolting Cloth:引張り篩絹)スクリーンを備えたスクリーナーを利用して行った。得られた、60%が74ミクロンを上回る8lbsの材料を、ほぼ1900℃で12時間にわたって熱処理することにより、高純度の窒化ホウ素ケークを生成した。その後、ジョー・クラッシャー、次いでロール型クラッシャーを使用して、このケークを粉砕した。次いで、その結果得られた粉末をスクリーニングすることにより、細かい凝集体と粗い凝集体とを分離した。粗い凝集体は、この実施例の目的上、150ミクロンを上回り、細かい凝集体は、150ミクロンを下回った。サイズが150ミクロンを上回る凝集体を、目標凝集体サイズ範囲内、すなわちこの実施例では150ミクロン未満になるまで再破砕した。得られた2lbsのスクリーニング済材料は、95%が150ミクロンと74ミクロンとの間にあり、そのタップ密度はほぼ0.50g/ccであった。選択された直径125ミクロンの粒子の強度は、8.2MPaであった。」 「【0051】 上記プロセス・フローに従って、実施例5~7として、下記の表2に示されるタップ密度の範囲を有する付加的な試料を調製した。加えて、比較例1、2及び3を、比較試験のために調製した。比較例は、上記実施例1~3と同様に調製したが、著しい違いは、本発明の実施態様との関連において上述したような、凝集された粉末形態ではなく、ログ又はブリケット形態で材料を熱処理することに基づいて比較例が形成されたことである。図3に示された試験装置を利用することにより、全ての試料に凝集体強さ試験を施した。」 「【0056】 40 Kpsiの圧力下でHg液を浸透させることにより、Hgポロシメトリーによって、エンベロープ密度を測定した。エンベロープ密度は、バルク密度測定であるタップ密度とは異なり、試料の凝集体の平均密度を表す。 【0057】 【表2】 [図:0001422481000005.jpg] 」 (2)甲2発明について ア (甲2エ)で摘記した表2における「E」及び「CE」は、一般に「Example(実施例)」及び「Comparative Example(比較例)」の略称であり、(甲2エ)の【0051】に「実施例5~7として、下記の表2に示される」及び「加えて、比較例1、2及び3」と記載されていることから、「E1」、「E2」、「E3」、CE1」、「CE2」、「CE3」は、順に「実施例5」、「実施例6」、「実施例7」、「比較例1」、「比較例2」、「比較例3」に対応するものといえる。 ここで、表2の「CE2」すなわち「比較例2」に着目すると、タップ密度が0.68g/cc、エンベロープ密度が1.078g/ccのものが記載されており、比較例については、(甲2ウ)に「凝集された粉末形態ではなく、ログ又はブリケット形態で材料を熱処理することに基づいて比較例が形成された」と記載されている また、タップ密度及びエンベロープ密度については、(甲2ウ)に「エンベロープ密度(実際の凝集体密度)及び/又は粉末タップ密度(粉末の嵩密度)」と記載されており、さらに、エンベロープ密度については、(甲2エ)の【0056】に「Hgポロシメトリーによって、エンベロープ密度を測定した。エンベロープ密度は、バルク密度測定であるタップ密度とは異なり、試料の凝集体の平均密度を表す。」と記載されている。 イ そうすると、(甲1エ)で摘記した表2の「CE2」に着目し、上記アの事項を踏まえて、甲2に記載された発明を認定すると、以下のとおりである。 なお、「CE3」に着目して、甲2に記載された発明を認定したとしても、タップ密度が0.71g/cc、エンベロープ密度が1.396g/ccとなるだけであり、その余の事項は同じように認定されることから、それに基づく当審の判断は、以下の第5の2で述べることと同様になる。 「凝集された粉末形態ではなく、ログ又はブリケット形態で材料を熱処理することで形成された窒化ホウ素粉末であって、 タップ密度が0.68g/cc、エンベロープ密度が1.078g/ccであり、 前記タップ密度は、嵩密度であり、 前記エンベロープ密度は、Hgポロシメトリーによって測定したものであり、凝集体の平均密度を表すものである、 窒化ホウ素粉末。」(以下「甲2発明」という。) 3 必要に応じ参照される甲号証について (1)甲3について 甲3には、かさ密度及びタップ密度の測定法について、以下の事項が記載されている。 「3.01 かさ密度及びタップ密度測定法 本試験法は,三薬局方での調和合意に基づき規定した試験法である. なお,三薬局方で調和されていない部分は「◆ ◆」で囲むことにより示す. ◆かさ密度及びかさ密度及びタップ密度測定法は,それぞれ粉末状医薬品の疎充てん時及びタップ充てん時におけるみかけの密度を測定する方法である.疎充てんとは,容器中に粉体を圧密せずにゆるやかに充てんすることであり,タップ充てんとは,粉体を充てんした容器を一定高さより一定速度で繰り返し落下させ,容器中の粉体のかさ体積がほぼ一定となるまで密に充てんすることである.◆ かさ密度 粉体のかさ密度は,タップしない(ゆるみ)状態での粉体試料の質量と粒子間空隙容積の因子を含んだ粉体の体積との比である.したがって,かさ密度は粉体の粒子密度と粉体層内での粒子の空間的配列に依存するかさ密度は,国際単位系ではkg/m3(1g/mL=1000kg/m3)であるが,メスシリンダーを用いて測定するのでg/mLで表される.なお、これはg/cm3で表してもよい. 粉体のかさ特性は,試料の調製法,処理法や保存法,すなわち,粉体がどのように取り扱われたかに依存する.粒子は,一連のかさ密度を持つように充てんすることができ,また,粉体層をごくわずか乱すだけでもかさ密度は変化する.このように,粉体のかさ密度を再現性よく測定するのは極めて難しいので,結果を記録する際には,どのようにして測定したかを明記しておくことが重要である. 粉体のかさ密度は,ふるいを通してメスシリンダーに入れた既知質量の粉体試料の体積を測定する(第1法)か,又はボリュメーターを通して容器内に入れた既知体積の粉体試料の質量を測定する(第2法)か,若しくは測定用容器(第3法)を用いることによって求める.これらの中で第1法及び第3法を用いるのが望ましい.」(8一般試験方法の右欄3~35行) (2)甲4について 甲4は、特許7517323号(本件特許)に記載の方法で測定したタップ密度と、特開2011-98882号公報(甲1)に記載の方法で測定したタップ密度とを比較して、両者がほぼ同じ測定結果になることを実験で確かめたものである。 以下では、本件特許を「三菱化学(特許7517323号)」、甲1を「水島合金鉄(特許4750220号)」(甲1対応の特許公報)と記載している。 「 [図:0001422481000006.jpg] [図:0001422481000007.jpg] 」 (3)甲5及び甲6について 甲5には、2枚周期層状六方晶窒化ホウ素の理論密度が2.270g cm-3であることが、甲6には、六方晶系窒化ホウ素の理論密度が2.270g cm-3であることが記載されている。 (4)甲7について 甲7は、本件特許出願に対する令和6年3月12日付け拒絶理由通知書であり、以下の事項が記載されている。 「また、この点は、次に示すような概算からも推認することができる。 六方晶窒化ホウ素一次粒子凝集体の粉体1gが占める体積(かさ密度ρb(bulk density)の逆数)は、粒子間隙容積Vi(ml/g)、粒子内細孔容積Vg(ml/g)、及び、六方晶窒化ホウ素の固体部が占める体積1/ρt(ml/g)の総和に等しい。すなわち、 1/ρb=Vi+Vg+1/ρt が成り立つ。ここで、ρtは六方晶窒化ホウ素の真密度であり、2.34(g/ml)である(引用文献1(段落0042)参照)。また、引用文献1(段落0042)に記載されているように、凝集粒子の空隙率εg(%)は、 εg=Vg/(Vg+1/ρt)×100 である。 さらに、一般に、タップ密度ρTAP(g/ml)は、かさ密度ρb(g/ml)と同程度又はそれ以上の値をとるものであるから、 ρTAP≧ρb が成り立つといえる。 上記3式から、粒子内細孔容積Vg(ml/g)について、 Vg≧(1/ρTAP)-1/[ρ{1-(εg/100)}] の関係式が導かれる。」 (5)甲8について 甲8の【0042】には、以下の事項が記載されている。 「<空隙率> 作製した実施例1の六方晶窒化ホウ素一次粒子凝集体の空隙率は、水銀ポロシメーター(PASCAL 140-440、FISONS INSTRUMENTS社製)を用いて細孔体積を測定することにより求めた値である。前記空隙率をεg(%)とすると、εg=Vg/(Vg+1/ρt)×100の式から算出することができる。Vgは、水銀ポロシメーターで測定された全細孔体積から、粒子間空隙体積を差し引いた値(cm3/g)である。なお粒子間空隙体積は、水銀ポロシメーターによる細孔体積の積算分布曲線における変曲点の積算容積とした。またρtは、六方晶窒化ホウ素一次粒子の真比重であり、2.34(g/cm3)とした。」 (6)甲9について 甲9は「カードハウス構造を有する窒化ホウ素」について記載されており、「カードハウス構造を有するBN凝集粒子は,樹脂と複合化した際の形状保持性も良く,比較的高い粒子強度を有するため,高放熱性樹脂材料用フィラーの他,熱をマネージメントするさまざまな用途に応用が期待される.」(上欄の右欄11~15行)と記載されている。 (7)甲10について 甲10は、「オートクレーブ養生によって生成するトバモライトは板状・笹葉状の結晶であり、結晶が組み合わさってカードハウス構造を呈する.」(図3の下)とが記載されている。 (8)甲11について 協会誌「セラミックス」の発行者を示したものである。 (9)甲12について 甲12の【0024】には、以下の事項が記載されている。 「「エンベロープ密度」とは、個別粒子の重量対体積比を意味し、各粒子タイプ内で実質的に均一である。」 (10)甲13について 甲13には、以下の事項が記載されている。 「【0012】 本発明の目的は、熱伝導性及び耐電圧性の双方を高めることができる窒化ホウ素粒子の凝集体を提供することである。また、本発明は、上記窒化ホウ素粒子の凝集体を用いた熱硬化性材料を提供することも目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0013】 本発明の広い局面によれば、複数の窒化ホウ素粒子が凝集した凝集体であり、自動ガス吸着量測定装置を用いて、前記凝集体を一定容積のセルに入れてアンモニアガスを導入したときに、導入前後の圧力変動を下記式(1)によって換算することで算出されるアンモニアガスの吸着量が、5.0×10-6mol/m2以上、1.0×10-3mol/m2以下であり、窒化ホウ素粒子の凝集体の空隙率が65%以下である、窒化ホウ素粒子の凝集体が提供される。 【0014】 【数1】 [図:0001422481000008.jpg] 【0015】 前記式(1)において、P0:アンモニアの飽和蒸気圧、P:吸着平衡における圧力、V:吸着平衡における吸着量、Vm:単分子吸着量、C:定数である。」 (11)甲14について 甲14には「タップ密度」について「かさ密度測定の一つで,一般には測定容器に粉粒体試料を入れ,容器を硬い台上に落下させてタッピングを行い試料の表高さが変化しなくなったときのかさ密度(嵩密度)をいう。種々の分野のISO規格やJIS規格で使用されていて,規格ごとに容器の詳細およびタッピングの掛け方が規定されている。英語では“tapped density”ということもある。」 第5 当審の判断 上記第3で述べた申立理由1及び2は、本件発明1~6は、(甲1を主引例とした場合)甲1発明であるか、もしくは甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか、又は、(甲2を主引例とした場合)甲2発明であるか、もしくは甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか、ということと同じであるから、以下、このような場合に分けて検討する。 1 甲1を主引例とした場合 (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)本件発明1の「窒化ホウ素凝集粉末」とは、上記本件明細書の【0022】に「本発明において窒化ホウ素凝集粉末とは、窒化ホウ素凝集粒子(以下、単に「BN凝集粒子」と称す場合がある。)の集合である粉末を表す。」と記載されるものであるから、甲1発明の「一次粒子の凝集体」「である六方晶窒化ホウ素粉末」に相当する。 (イ)申立人が提出した上記甲4の試験結果を参照すると、上記本件明細書の【0193】に測定方法が記載されている「タップ密度」と、甲1発明の「試料を105℃で恒量になるまで乾燥し、3.0gを正確に量り、これを20ml目盛つき試験管に入れ蓋つきのホルダーにセットし、高さ45mmの位置から2秒間に1回の速さで400回落下させた後、その容積を読み取って求めた」「嵩密度」とは、ほぼ同じ測定値を示すものといえる。 そうすると、甲1発明の「嵩密度が0.5~1.0g/cm3」は、具体的には(甲キ)の表1及び表3に「0.6~0.8g/cm3」を満たすものが少なからず記載されており、「g/cm3」と「g/ml」は同じ単位であることから、本件発明1の「タップ密度が0.6g/ml以上0.8g/ml未満」を満たすものといえる。 (ウ)一致点・相違点 したがって、本件発明1と甲1発明とは、 (一致点) 「タップ密度が0.6g/ml以上0.8g/ml未満である窒化ホウ素凝集粉末。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 窒化ホウ素凝集粉末において、本件発明1では、「粒子間隙容積が0.5ml/g以上0.9ml/g以下」であると特定されているのに対し、甲1発明では、「水銀ポロシメーターにより細孔体積を測定することによって求める」「空隙率が50%以下」であると特定されている点。 イ 相違点の判断 (ア)まず、甲1発明における「水銀ポロシメーターにより細孔体積を測定することによって求める」「空隙率」について検討するに、水銀ポロシメーターとは、一般に、水銀の表面張力が大きいことを利用して、試料の細孔に水銀を浸入させるために圧力を加え、圧力と圧入された水銀量から試料の空隙率等を得ることができるものであるから、粒子凝集体において、水銀が粒子内空隙のみに侵入し、粒子間空隙には侵入しないということは技術的に想定されず、水銀は粒子内空隙及び粒子間空隙の両方に侵入するものと理解するのが自然である。このことは、例えば、上記甲8に「Vgは、水銀ポロシメーターで測定された全細孔体積から、粒子間空隙体積を差し引いた値(cm3/g)である」と記載されているように、水銀ポロシメーターは全細孔体積、すなわち(粒子内空隙体積(Vg)+粒子間空隙体積)を測定するものであることが示されている。 そうすると、甲1発明の「一次粒子の凝集体」「である六方晶窒化ホウ素粉末」において、「水銀ポロシメーターにより細孔体積を測定することによって求」まるものは、全細孔体積(粒子間空隙体積+粒子内空隙体積)であるから、「一次粒子の凝集体の」「空隙率」とは、「一次粒子」間の空隙率ではなく、その「凝集体」における「一次粒子」間と「一次粒子」内の空隙を合わせた「空隙率」と解するのが相当である。 したがって、甲1発明の「一次粒子の凝集体の」「空隙率」は、本件発明1の「粒子間隙容積」に対応するものではなく、さらに、「一次粒子の凝集体の」「空隙率」から即座に「粒子間隙容積」が求まるものともいえない。 (イ)一方、本件発明1における「粒子間隙容積」とは、上記本件明細書の【0028】に「本発明における粒子間隙容積は、水銀圧入測定において、粒子細孔径2μm以上の分割径での積算容積、すなわち粒子を充填した際の粒子間にできる隙間の量を表す。粒子間隙容積は、後掲の実施例の項に示される方法で測定される。」と記載され、そして、【0194】に「<BN凝集粉末の粒子間隙容積,BN凝集粒子の粒子内空隙率>水銀ポロシメーターを用いた水銀圧入測定から求めた。マイクロメリテックス社製・オートポアIVを用いて、試料を減圧下(50μmHg以下)で10分間減圧処理をした後、粉密度、全細孔容積を求め、また、水銀圧入退出曲線を測定した。細孔を円筒と仮定して、その細孔径2.0μm以上の領域(分割径)の細孔容積を粒子間隙容積として算出した。全細孔容積から粒子間隙容積を差し引いて粒子内細孔容積を求め、粉の体積(1/粉密度)に対する粒子内細孔容積の割合を粒子内空隙率とした。なお、水銀圧入測定はJIS R1655に準拠した方法で実施し、BNの表面張力485dyn/cm2、接触角140°、測定温度は23~26℃とした。」と記載されているものであり、水銀ポロシメーターを用い全細孔容積を求め、水銀圧入退出曲線を作成し、細孔を円筒と仮定し、その細孔径2.0μm以上の分割径での積算容積を「粒子間隙容積」としたものといえる。 (ウ)そうすると、甲1発明の「一次粒子の凝集体の」「空隙率」は、本件発明1の「粒子間隙容積」に対応するものではなく、「一次粒子の凝集体の」「空隙率」から即座に「粒子間隙容積」が求まるものともいえないことは上記(ア)で述べたとおりであるが、仮に、甲1発明において、「水銀ポロシメーターを用い全細孔容積を求め」、場合によっては「水銀圧入退出曲線」を作成することまでは可能であるとしても、あえて「細孔径2.0μm以上の分割径での積算容積」を「粒子間隙容積」とする理由はない。 したがって、甲1発明の「一次粒子の凝集体の」「空隙率」から、水銀ポロシメーターを用い全細孔容積を求め、水銀圧入退出曲線を作成し、細孔を円筒と仮定し、その細孔径2.0μm以上の分割径での積算容積を「粒子間隙容積」とすることが導出されることはない。 (エ)よって、「水銀ポロシメーターにより細孔体積を測定することによって求める」「空隙率が50%以下」は、「粒子間隙容積が0.5ml/g以上0.9ml/g以下」であるとはいえず、そして、「水銀ポロシメーターにより細孔体積を測定することによって求める」「空隙率が50%以下」を「粒子間隙容積が0.5ml/g以上0.9ml/g以下」とすることは当業者が容易になし得たことともいえない。 (オ)加えて、本件発明1は上記本件明細書の(本イ)、(本ウ)及び(本キ)の【0217】に記載されているようにタップ密度と「粒子間隙容積」を特定の範囲とすることにより耐電圧を向上させるものであるのに対し、甲1発明は、「凝集体のBN粒子間の空隙に存在するFeが減圧処理によって球状化されることによって耐電圧が安定化」するものであり、両者は耐電圧を向上又は安定化させるための機序が異なるものであるから、甲1発明において、耐電圧が安定化又は向上させるために、「粒子間隙容積が0.5ml/g以上0.9ml/g以下」にすることはない。 この点、他の甲3~14には、タップ密度と「粒子間隙容積」を特定の範囲とすることにより耐電圧を向上させることが記載されたものはないことから、甲3~14の記載を参照しても、甲1発明において、「粒子間隙容積が0.5ml/g以上0.9ml/g以下」にすることにはならない。 (カ)以上のことから、相違点1は実質的な相違点であり、そして、甲1発明において、さらには甲3~14の記載を参照しても、当業者が容易になし得たことではない。 ウ 相違点1に対する申立人の主張について (ア)上記相違点1について、申立人は、特許異議申立書で、以下の主張をしている。 a 「上記甲第7号証、第8号証に記載されているように、水銀ポロシメーターを用いて測定した細孔体積は、「粒子内空隙率」に相当するものと理解できるから、甲1発明1における「BN凝集粒子の水銀ポロシメーターを用いて測定した細孔体積から算出される空隙率が47%、41%、又は43%である」は、「BN凝集粒子の粒子内空隙率が47%、41%、又は43%」であることを意味していると理解できる。」 上記から本件明細書(表1) のサンプルNo.(C)-2、No.(C)-3と、甲1発明1とを対比すると、両者は、「タップ密度」、及び「粒子内空隙率」のいずれも同程度であるから、「粒子間隙容積」も同程度であると容易に推認できる。つまり、甲1発明1の粒子間隙容積も、0.64~0.67ml/g程度である。 したがって、甲1発明1は、「粒子間隙容積が0.5ml/g以上0.9ml/gである」(構成B) を満たす蓋然性が高い。」(29頁3~15行) b 「窒化ホウ素粒子の凝集体の空隙率を小さくすることで熱伝導性及び耐電圧性を高めることができることは本件出願時の技術常識である(必要であれば、甲第1号証の図8、甲第13号証の【0035】を参照)。 したがって、当業者は、甲1発明1において、熱伝導率及び耐電圧性を高めるために、凝集粉末の空隙率を調整する動機づけがあり、空隙率を調整するために、所定の粒子内空隙率を有するBN粉末凝集体を所定のタップ密度となるように充填する。それにより粒子間隙容積は容易に決定される。」(29頁19行~30頁1行) c 「甲第7号証において審査官が用いた関係式を使って甲1発明1の粒子間隙容積Viを算出すると、以下のとおりとなる。 甲第7号証には、以下の3式が記載されている。 ・1/ρb/=Vi+Vg+1/ρt ・空隙率εg(%)=Vg/(Vg+1/ρt)×100 ・ρTAP≧ρb ・・・ 上式から粒子間隙容積Viは以下の関係式で算出できる。 Vi≧1/ρTAP-εg/ρt)×(100-εg)-1/ρt ≧1/ρTAP-εg/2.34)×(100-εg)-1/2.34 上記関係式から甲1発明1の粒子間隙容積Viを算出すると、 ・・・ εg(凝集粒子の空隙率)は、47%(No.13)、41%(No.15)、又は43%(No.18) であるから、 ・・・ と算出され、粒子間隙容積Viはいずれも少なくとも下限値が「粒子間隙容積が0.5ml/g以上0.9ml/g」(構成B)の範囲内となる。」(30頁3~31頁5行) d 「本件発明1は、BN凝集粉末のタップ密度を調整した結果得られる凝集粉末の粒子間隙容積を規定しているに過ぎず、タップ密度を調整したこと以外に新しい効果を与えるものではない。また、本件明細書には粒子間隙容積の効果について臨界的な意義も示されていない。したがって、構成Bを備えることによって得られる効果は当業者が予測する範囲を超えるものではない。」(31頁最下行~32頁6行) (イ)申立人の主張に対する当審の判断 aの主張について 上記イ(ア)で述べたように、水銀ポロシメーターを用いて測定した細孔体積は「全細孔体積(粒子間空隙体積+粒子内空隙体積)であるから、「水銀ポロシメーターを用いて測定した細孔体積は、「粒子内空隙率」に相当する」との主張は技術的に正当なものではないから、「「タップ密度」、及び「粒子内空隙率」のいずれも同程度であるから、「粒子間隙容積」も同程度であると容易に推認できる」との主張も、その前提において誤りである。 そうすると、「甲1発明1は、「粒子間隙容積が0.5ml/g以上0.9ml/gである」(構成B) を満たす蓋然性が高い」との上記(ア)aの主張は受け入れられない。 bの主張について 上記イ(オ)で述べたように、甲1発明は、「凝集体のBN粒子間の空隙に存在するFeが減圧処理によって球状化されることによって耐電圧が安定化」するものであり、本件発明1とは、耐電圧を向上又は安定化させる機序が異なるものであるから、甲1発明において、耐電圧が安定化又は向上させるために、「粒子間隙容積」を調整する動機があるとはいえず、「粒子間隙容積は容易に決定される」ものではない。 よって、上記(ア)bの主張は受け入れられない。 cの主張について 仮に、申立人の導いた「Vi≧1/ρTAP-εg/2.34)×(100-εg)-1/2.34」の式が正しいとしても、「εg」は「空隙率εg(%)=Vg/(Vg+1/ρt)×100」で表される「粒子内の空隙率」である。一方、上記イ(ア)で述べたように、甲1における「空隙率」は「粒子内の空隙率」とはいえないことから、甲1記載の「47%」(No.13)、「41%」(No.15)、「43%」(No.18)を、そのままεgに代入することはできず、粒子間隙容積Viの下限値が求まることはない。 よって、上記(ア)cの主張は受け入れられない。 dの主張について 上記本件明細書の表1においてタップ密度の値と粒子間隙容積との値に着目すると、タップ密度と粒子間隙容積の値の間に相関関係は見いだせず、「タップ密度を調整した結果得られる凝集粉末の粒子間隙容積を規定している」とはいえない。さらに、表2の熱伝導率及び耐電圧の値を参照すると、「タップ密度を調整したこと以外に新しい効果を与えるものではない」とはいえない。 上記(ア)dの主張は受け入れられない。 e 小括 よって、申立人の上記アの主張はいずれも受け入れられるものではないから、申立人の主張によって、上記イ及びウの判断が覆ることはない。 エ 小括 したがって、本件発明1は、甲1発明ではなく、そして、甲1発明に基づいて、さらには、甲3~14の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2~6について 本件発明2~6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明1と同様に、甲1発明ではなく、そして、甲1発明に基づいて、さらには、甲3~14の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 甲2を主引例とした場合 (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲2発明とを対比する。 (ア)甲2発明の「凝集された粉末形態ではなく、ログ又はブリケット形態で材料を熱処理することで形成された窒化ホウ素粉末」と本件発明1の「窒化ホウ素凝集粉末」とは、「窒化ホウ素粉末」という点で共通する。 (イ)本件発明1の「タップ密度」は、上記本件明細書の【0193】において「<BN凝集粉末のタップ密度>加熱焼成後の試料を風力分級し、体積平均粒子径で100μm未満の粉末試料を準備した。この試料を10mlメスシリンダーに入れ、試料体積が一定になるまで、手動にてタッピングを行い、試料の重量をタッピング後の体積で除すことにより、タップ密度を算出した。上記方法は10mlメスシリンダーを用いる以外はJIS R1628に準じる方法で行った。」と定義されるものである。 それに対し、甲2発明の「タップ密度」は「嵩密度」と記載されるのみで、具体的なタップ方法について記載なく、甲3の「粉体のかさ特性は,試料の調製法,処理法や保存法,すなわち,粉体がどのように取り扱われたかに依存する.粒子は,一連のかさ密度を持つように充てんすることができ,また,粉体層をごくわずか乱すだけでもかさ密度は変化する.このように,粉体のかさ密度を再現性よく測定するのは極めて難しいので,結果を記録する際には,どのようにして測定したかを明記しておくことが重要である」との記載、さらには、甲4をみると、同じ凝集粉末でもタップの条件によってタップ密度はわずかではあるが異なっていることを踏まえると、甲2発明の「タップ密度」が、即座に本件発明1の上記「タップ密度」と同じものであるとはいえない。 そして、甲2発明において「凝集体の平均密度を表す」「エンベロープ密度」が「1.078g/cc」であるのに対し、「嵩密度」である「タップ密度」が「0.68g/cc」と小さいことを鑑みると、甲2発明における「タップ密度」は、本件発明1における「タップ密度」のように、試料体積が一定になるまで十分にタッピングしたものとも推認できない。 そうすると、甲2発明の「嵩密度」である「タップ密度」と本件発明1の「タップ密度」の定義が同じものとはいえず、単純には比較できないものであるから、甲2発明の「タップ密度が0.68g/cc」(「g/cc」は「g/ml」である)が、即座に本件発明1の「タップ密度が0.6g/ml以上0.8g/ml未満」を満たすものであるともいえない。 (ウ)一致点・相違点 したがって、本件発明1と甲2発明とは、 (一致点) 「窒化ホウ素粉末。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点2) 窒化ホウ素粉末が、本件発明1では「凝集」粉末であるのに対し、甲2発明では「凝集された粉末形態ではなく、ログ又はブリケット形態で材料を熱処理することで形成された」粉末である点。 (相違点3) 窒化ホウ素粉末が、本件発明1では「タップ密度が0.6g/ml以上0.8g/ml未満であり、粒子間隙容積が0.5ml/g以上0.9ml/g以下」であるのに対し、甲2発明では、「タップ密度が0.68g/cc、エンベロープ密度が1.078g/cc」と記載されているものの、「タップ密度」が本件発明1の定義と同じものとはいえず、かつ、粒子間隙容積も不明であるから、「タップ密度が0.6g/ml以上0.8g/ml未満であり、粒子間隙容積が0.5ml/g以上0.9ml/g以下」を満たすものとはいえない点。 イ 相違点の判断 事案に鑑み、相違点2について検討する。 (ア)甲2発明は、「凝集された粉末形態ではなく、ログ又はブリケット形態で材料を熱処理することで形成された」ものであり、「ログ又はブリケット形態」とは、一般に、「ログ」には丸太という意味があり、また「ブリケット形態」とは押し固めてブロック状にしたものという意味があることから、「凝集された粉末形態ではなく」と記載されているとおり、凝集された粉末形態(凝集粉末)ではない。この点、(甲2エ)で摘記した表2を参照しても、比較例(CE1、CE2、CE3)の密度(タップ密度及びエンベロープ密度とも)は、実施例(E1、E2、E3)よりも大きくなっていることからも、実施例が「凝集された粉末形態」であるのに対し、比較例は「ログ又はブリケット形態」であることが理解できる。 そして、甲2発明は、上記第5の2(2)で記載したとおり「比較例2」に基づくもので「凝集された粉末形態ではない」ものであるから、これを「凝集された粉末形態」すなわち「凝集粉末」(実施例)にすることはない。 (イ)加えて、本件発明1は上記本件明細書の(本ア)に記載されているように「熱伝導性を向上させると同時に耐電圧特性も良好なものとすることができる窒化ホウ素凝集粉末」を得ることを課題としているのに対し、甲2は「耐電圧」に着目するものではなく、(甲2イ)に記載されているように、「十分な強度を維持する低密度及び中密度の粉末を含む、改善された窒化ホウ素粉末」を得ることを課題としているものであり、両者の課題も異なるものである。そうすると、甲2発明において「熱伝導性を向上させると同時に耐電圧特性も良好なものとする」ために「凝集粉末」にすることはない。 さらに、他の甲3~14を参照しても、甲2発明において、「熱伝導性を向上させると同時に耐電圧特性も良好なものとする」ために「凝集粉末」にすることはない。 (ウ)以上のことから、相違点2は実質的な相違点であり、そして、甲2発明において、さらには甲3~14の記載を参照しても、当業者が容易になし得たことではない。 ウ 小括 したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明ではなく、そして、甲2発明に基づいて、さらには、甲3~14の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 相違点3に対する申立人の主張について (ア)申立人は、上記相違点2について看過しており、当審では相違点2によって、本件発明1は、甲2発明ではなく、そして、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないと判断したことから、相違点3に対する申立人の主張については、もはや検討する必要のないことではあるが、一応、以下に申立人の主張を記載し、それに対する当審の見解を示しておく。 a 「甲第7号証において審査官が用いた関係式を用いて、甲2発明1の粒子間隙容積Viを算出する。 まず、甲2発明1は、エンベロープ密度が「1.078g/cc」である。甲第12号証に記載されているように、エンベロープ密度は、個別粒子の重量対体積比を意味する。そして、六方晶窒化ホウ素の理論密度は、甲第5号証、甲第6号証から「2.270g/cm3」であるから、甲2発明1の個別粒子中の六方晶窒化ホウ素が占める割合は、 1.078/2.27=0.475 と算出される。よって、甲2発明1の空隙率εg(%)は、 (1-0.475)×100=53% と算出できる。 次いで、・・・甲2発明1の粒子間隙容積Viは、以下の関係式から算出できる。 Vi≧1/ρTAP-εg/ρt×(100-εg)-1/ρt ≧1/ρTAP-εg/2.34×(100-εg)-1/2.34 上記関係式から甲2発明1の粒子間隙容積Viを算出すると、 ・・・ 0.56ml/g以上 と算出される。 よって、甲2発明1は、「粒子間隙容積が0.5ml/g以上0.9ml/g以下である」(構成B) を満たす蓋然性が高い。」(36頁8行~37頁7行) b 「甲第13号証に記載されているように窒化ホウ素粒子の凝集体の空隙率を小さくすることで熱伝導性及び耐電圧性を高めることができることは、本件出願時の技術常識であるから、甲2発明1において、熱伝導率及び耐電圧性を高めるために粒子間隙容積を調整することは当業者が通常行う最適化に過ぎず、それによる効果も当業者が予測する範囲を超えるものではない。」(37頁11~16行) (イ)申立人の主張に対する当審の見解 aの主張について 申立人は、甲2発明の「エンベロープ密度」について、「甲第12号証に記載されているように、エンベロープ密度は、個別粒子の重量対体積比を意味する。」と主張しているが、甲2発明の「エンベロープ密度」は「Hgポロシメトリーによって測定したものであり、凝集体の平均密度を表すもの」と特定されているから、甲2発明における定義を変えて他の証拠(甲第12号証)の定義を採用することは失当である。 そうすると、申立人は、εg(%)=Vg/(Vg+1/ρt)×100で表される粒子内空隙率について、甲2発明1ではεg(%)が53%と算出しているが、甲2発明の「エンベロープ密度」は「個別粒子の重量対体積比」ではなく、「Hgポロシメトリーによって測定したものであり、凝集体の平均密度」(上記1(1)イ(ア)で述べたように、水銀ポロシメーターを用いて測定した細孔体積は全細孔体積(粒子間空隙体積+粒子内空隙体積)である)から、上記算出は正当なものではない。 したがって、仮に、申立人の導いた「Vi≧1/ρTAP-εg/2.34×(100-εg)-1/2.34」の式が正しいとしても、「εg」が正当に算出されたものではないから、粒子間隙容積Viは0.56ml/g以上とはいえない。 よって、上記(ア)aの主張は受け入れられない。 bの主張について 上記イ(イ)で述べたように、甲2発明は、「十分な強度を維持する低密度及び中密度の粉末を含む、改善された窒化ホウ素粉末」を得ることを課題としているものであり、「耐電圧性」に着目したものではないから、耐電圧性を高めるために、強度にも寄与するであろう粒子間隙容積を調整することはなく、粒子間隙容積をある範囲に調整することにより耐電圧性を高めることができるという効果も当業者が予期し得るものではない。 c 小括 よって、申立人の上記アの主張はいずれも受け入れられるものではなく、そもそも、当審では相違点2によって、本件発明1は、甲2発明ではなく、そして、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないと判断したことから、相違点3に対する申立人の主張をもって、上記ウの結論が覆ることはない。 (2)本件発明2~6について 本件発明2~6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明1と同様に、甲2発明ではなく、そして、甲2発明に基づいて、さらには、甲3~14の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 なお、特許異議申立書では、本件発明4について、甲2発明からの新規性違反及び進歩性違反について主張されていないが、申立対象請求項の発明であるから、合わせて判断している。 3 まとめ 上記1及び2で述べたとおり、本件発明1~6は、甲1発明又は甲2発明ではなく、そして、甲1発明又は甲2発明に基づいて、さらには、甲3~14の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではないことから、申立理由1又は申立理由2によって、本件発明1~6に係る特許を取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由によっては、本件発明1~6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1~6係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700074

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