特許異議申立
2024-700638
ウエットシート
- 審判番号
- 2024-700638
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-545968
- 登録番号
- 7419245
- 請求日
- 2024年07月08日
- 審決日
- 2025年03月28日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社 資生堂
- 【権利者代理人】宮嶋 学
- 【権利者代理人】浅野 真理
- 【権利者代理人】前川 英明
- 【権利者代理人】小島 一真
- 【異議申立人】金田 綾香
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 典之
- 審判官 小石 真弓
- 審判官 関 美祝
- 分類
- P1651.113-YAA(A61K) / P1651.121-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K) / P1651.536-YAA(A61K) / P1651.851-YAA(A61K) / P1651.852-YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7419245号発明「ウエットシート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7419245号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7419245号の請求項1~4及び6に係る特許を維持する。
特許第7419245号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7419245号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願(特願2020-545968号)は、2019年(令和元年)9月5日(優先権主張 平成30年9月12日)を国際出願日とする特許出願であって、令和6年1月12日にその特許権の設定登録がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和6年7月8日に特許異議申立人 金田 綾香 (以下「申立人」という。)により、本件特許の請求項1~6(全請求項)に係る特許に対し、特許異議の申立てがされ、同年11月15日付けで当審合議体は特許権者に対して取消理由を通知し、その指定期間内である令和7年1月17日に特許権者から意見書及び訂正請求書が提出され、同年2月3日付けで当審合議体は申立人に対して期間を指定して特許法第120条の5第5項の規定に基づく訂正請求があった旨の通知をしたが、申立人からは何らの応答もなかったものである。
第2 訂正の請求について
1 訂正の請求の趣旨
令和7年1月17日提出の訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)による訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)の趣旨は、
「特許第7419245号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める。」
というものである。
2 訂正の内容
本件訂正の内容は、本件訂正請求書の記載及び本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の記載からみて、次の訂正事項1~4からなるものであると認められる。下線は、訂正による記載の変更箇所を示す。
なお、訂正前の請求項1~6について、請求項2~6は、いずれも請求項1の記載を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~6にそれぞれ対応する訂正後の請求項1~6に係る本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。
(1)訂正事項1
訂正事項1は、次の訂正事項1-1及び訂正事項1-2からなるものである。
ア 訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1に
「フェノールスルホン酸亜鉛、塩化マグネシウムおよびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の、レーヨンに起因する硫黄臭を抑制する硫黄臭低減物質」
と記載されているのを、
「フェノールスルホン酸亜鉛およびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の、レーヨンに起因する硫黄臭を抑制する硫黄臭低減物質」
に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~6も同様に訂正する。
イ 訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1に
「前記液状組成物の全量に対して1×10-6~2×10-2mol/L含有する」
と記載されているのを、
「前記液状組成物の全量に対して1×10-5~2×10-3mol/L含有する」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~6も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「1×106mol/L以上」
と記載されているのを、
「1×10-6mol/L以上」
に訂正する。
請求項2の記載を引用する請求項3~6も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に
「請求項1~5いずれか1項記載」
と記載されているのを、
「請求項1~4いずれか1項記載」
に訂正する。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否についての判断
訂正事項1~4についての訂正要件の判断は、以下のとおりである。
なお、下線は、訂正による記載の変更箇所を示すもののほか、当審合議体が便宜のために付したものである。また、「・・・」は摘記の省略を示す。
(1)訂正事項1について
訂正事項1のうち、訂正事項1-1による訂正は、訂正前の請求項1に記載のウエットシートに含浸される液状組成物に含まれる硫黄臭低減物質の選択肢から「塩化マグネシム」を削除して硫黄臭低減物質を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項1のうち、訂正事項1-2による訂正は、訂正前の請求項1に記載のウエットシートに含浸される液状組成物の全量に対する硫黄臭低減物質の含有量の範囲を「1×10-6~2×10-2mol/L」から「1×10-5~2×10-3mol/L」に減縮して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項1-1による訂正は、選択肢の1つを削除するものにすぎず、訂正事項1-2による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」といい、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲と併せて「本件明細書等」という。)の【0025】に、
「上記硫黄臭低減物質は、液状組成物の全量に対して1×10-6~2×10-2mol/L含有し、好ましくは1×10-5~1×10-2mol/L、より好ましくは1×10-5~2×10-3mol/L、特には5×10-5~2×10-4mol/Lである。」
と記載されているから、いずれも、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1-1及び訂正事項1-2による訂正は、上記のとおり、いずれも、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正で、本件明細書等に記載事項の範囲内においてするものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項2に記載された硫黄臭低減物質の25℃における水への溶解性に関する「1×106mol/L以上」との記載を「1×10-6mol/L以上」とするものである。
ここで、一般に、ある物質の特定温度における水への溶解性は、その物質が固有に有する性質であるところ、硫黄臭低減物質の選択肢のうち最も分子量が小さい塩化マグネシウムであっても、その分子量は95g/mol程度であり、モル濃度の「1×106mol/L」は、質量濃度に換算すると、「95,000,000g/L」になるから、1Lの水に95t以上の塩化マグネシウムが溶けることになり、技術常識に照らしてあり得ない状態になるので、「1×106mol/L以上」という記載に誤記が存在することは明らかである。
そして、本件明細書の【0011】に、
「硫黄臭低減物質は、25℃における水への溶解性が1×10-6mol/L以上であることが好ましい。」
と記載されているから、上記「1×106mol/L以上」の正しい記載が「1×10-6mol/L以上」であることが自明な事項として定まるものといえる。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」のうち「誤記の訂正」を目的とするものである。
そして、本件特許の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件当初明細書等」という。)における明細書の【0011】にも、
「硫黄臭低減物質は、25℃における水への溶解性が1×10-6mol/L以上であることが好ましい。」
と記載されており、本件当初明細書等における請求項2にも、
「前記硫黄臭低減物質が、25℃における水への溶解性が1×10-6mol/L以上である請求項1記載のウエットシート。」
と記載されているから、訂正事項2による訂正は、本件当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、記載を引用する請求項から、請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(5)独立特許要件について
本件特許異議申立事件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~6に係る特許に対して特許異議の申立てがされているから、訂正事項1及び3~4による訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであるが、訂正後の請求項1~6に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(「独立特許要件」)は課されない。
4 訂正の請求についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正後の本件特許の請求項1~6(以下、請求項の番号順に「本件訂正請求項1」等ということがある。)の記載は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載されたとおりのものである。
本件訂正により請求項5が削除されたので、本件訂正後の請求項1~4及び6に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4及び6に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである(以下、請求項の番号順に「本件訂正発明1」などといい、これらをまとめて「本件訂正発明」ということがある。)。
「【請求項1】
レーヨンを含むシートと、該シートに含浸される液状組成物とを含むウエットシートであって、前記液状組成物がフェノールスルホン酸亜鉛およびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の、レーヨンに起因する硫黄臭を抑制する硫黄臭低減物質を、前記液状組成物の全量に対して1×10-5~2×10-3mol/L含有するウエットシート。
【請求項2】
前記硫黄臭低減物質が、25℃における水への溶解性が1×10-6mol/L以上である請求項1記載のウエットシート。
【請求項3】
前記シートが不織布である請求項1または2記載のウエットシート。
【請求項4】
前記シートのレーヨン含有量が50質量%以上である請求項1、2または3記載のウエットシート。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
ウエットシートが清拭用である請求項1~4いずれか1項記載のウエットシート。」
第4 特許異議の申立ての理由及び当審合議体が通知した取消理由の概要
1 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、特許異議申立書(以下「申立書」という。)に添付して下記(6)に示す甲第1号証~甲第10号証(以下、それぞれ番号順に「甲1」~「甲10」ともいう。)を提出し、申立書の全体の記載からみて、本件訂正前の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由として、下記(1)~(5)に概要を示す特許異議の申立ての理由(以下「申立理由」という。)を主張しているものと認められる。
(1)申立理由1(新規性欠如)
ア 甲1~甲4のいずれかに基づく新規性欠如
本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1、甲2、甲3又は甲4に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 甲5に基づく新規性欠如
本件特許の請求項1~5に係る発明は、甲6~甲10に記載された事項を参酌すれば、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲5に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性欠如)
ア 甲1~甲4のいずれかを主引例とする進歩性欠如
本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1、甲2、甲3又は甲4に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 甲5を主引例とする進歩性欠如
本件特許の請求項1~5に係る発明は、甲6~甲10に記載された事項を参酌すれば、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲5に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、請求項1~6に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(実施可能要件違反)
本件特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、請求項1~6に係る特許は、同法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)申立理由5(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の請求項2の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、請求項2に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(6)証拠方法
甲1:特開2012-87117号公報
甲2:特開2010-159513号公報
甲3:特開2002-255737号公報
甲4:特開平10-57268号公報
甲5:特表2004-529093号公報
甲6:特表2008-519864号公報
甲7:特表2005-535677号公報
甲8:特表2008-519671号公報
甲9:特表2008-507525号公報
甲10:特開2011-126862号公報
2 当審合議体が通知した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~6に係る特許について、当審合議体が令和6年11月15日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
なお、取消理由1及び3は、順に、上記1(5)の申立理由5、同(2)の申立理由2ア~イと同旨であり、取消理由2は、同(1)の申立理由1ア~イと同旨の理由を含むものである。
(1)取消理由1(明確性要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、請求項2の記載が明確でないため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)取消理由2(新規性欠如)
本件特許の請求項1~2、4及び6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明(取消理由2-1)、
本件特許の請求項1~3及び5~6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明(取消理由2-2)、
本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明(取消理由2-3)、
本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4に記載された発明(取消理由2-4)、又は、
本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲5に記載された発明(取消理由2-5)
であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(3)取消理由3(進歩性欠如)
本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明(取消理由3-1)、
本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲2に記載された発明(取消理由3-2)、
本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲3に記載された発明(取消理由3-3)、
本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲4に記載された発明(取消理由3-4)、又は、
本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲5に記載された発明(取消理由3-5)
に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
第5 当審合議体の判断
当審合議体は、本件特許の請求項1~4及び6に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び申立人が申し立てた申立理由によっては、取り消すことはできないものと判断する。その理由は以下のとおりである。
1 取消理由1(明確性要件違反)について
本件訂正前の請求項2には、
「前記硫黄臭低減物質が、25℃における水への溶解性が1×106mol/L以上である請求項1記載のウエットシート。」
と記載されていたのに対し、本件明細書の【0011】には、「硫黄臭低減物質は、25℃における水への溶解性が1×10-6mol/L以上であることが好ましい。」と記載されており、これらの記載が整合していないため、不明確であったところ、本件訂正請求項2の記載は、
「前記硫黄臭低減物質が、25℃における水への溶解性が1×10-6mol/L以上である請求項1記載のウエットシート。」
であり、本件明細書の記載との不整合はなく、明確である。
本件訂正請求項2の記載を引用する本件訂正請求項3、4及び6の記載についても、同様に明確である。
したがって、本件訂正発明1~4及び6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、取消理由1(明確性要件違反)は、解消している。
2 取消理由2(新規性欠如)及び取消理由3(進歩性欠如)について
(1)甲各号証の記載
上記第4の1(6)に示した申立人が提出した甲1~甲10のうち、取消理由及び/又は申立理由の判断に必要なものについて、それぞれ記載事項を以下に示す。
なお、以下の記載事項の摘記において、下線は当審合議体が付したものであり、「・・・」は摘記の省略を示す。また、証拠の記載事項の摘記は、全て全角で表記する。本決定全体についても同様である。
ア 甲1の記載事項
甲1には、次の事項が記載されている。
(甲1a)
「【請求項1】
シート状基材と、前記シート状基材に含浸された液組成物とを含むシート状化粧料であって、
前記シート状基材における親水性繊維の含有量が50質量%以上であり、
前記液組成物が、
(A)親水性粉体と、
(B)HLBが5~10である側鎖型ポリエーテル変性シリコーンと、
(C)エタノール15質量%~60質量%とを含有し、
前記(A)親水性粉体が、
(A1)タルク、マイカ、セルロース、シルク、及びヒドロキシアパタイトから選択される少なくとも1種の粉体と、
(A2)シリカ粉体とからなることを特徴とするシート状化粧料。」
(甲1b)
「【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の例において、実施例及び比較例に記載の成分量は全て純分換算である。
・・・
【0048】
(実施例37)
-身体用デオドラントシート-
・パラフェノールスルホン酸亜鉛 0.5質量%
・多孔質中空シリカ 1質量%
(平均円形度≧0.9、平均粒子径2μm、平均中空径1.5μm、
ゴッドボールB-6C)
・タルク 6質量%
・側鎖型ポリエーテル変性シリコーン(HLB=8、SH3773M)
0.3質量%
・イソプロピルメチルフェノール 0.1質量%
・塩化ベンザルコニウム 0.1質量%
・香料 0.3質量%
・L-メントール 0.1質量%
・エタノール 35.0質量%
・精製水 56.6質量%
合計 100質量%
シート基材:レーヨン/ポリプロピレン/レーヨン=(35g/m2)/(20g/m2)/(35g/m2)(90g/m2)(78質量%親水性)(ダイワボウ株式会社製)
・・・
シート状基材に調製した液組成物を3倍量含浸させて、身体用デオドラントシートを作製した。」
イ 甲2の記載事項
甲2には、次の事項が記載されている。
(甲2a)
「【請求項1】
親水性繊維を50質量%以上含有する2つの外層の間に、熱結合不織布からなる内層を有し、各層が水流交絡されてなる3層のウエットシート用基材であって、層間の剥離強度が0.5~5N/50mmであり、切り分け線を有することを特徴とするウエットシート用基材。
【請求項2】
熱結合不織布が、ポイントボンド不織布、エアスルー不織布又はスパンボンド不織布である請求項1記載のウエットシート用基材。
・・・
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載のウエットシート用基材に液状組成物を含浸させてなるウエットシート。」
(甲2b)
「【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において特に明記のない場合は、組成の「%」は質量%を示し、表中の各成分の量は純分換算した量である。
【0029】
[実施例1~18、比較例1~6]
表1~4記載の内層不織布を表に記載の方法で作製した。2つの外層繊維ウエッブの間に、内層を挟み、高圧水流の水圧を調整して当て、スパンレース不織布の基材シートを作製した。得られた基材シート(寸法:160mm×100mm、100mmが繊維方向)を、切り羽のついたロールで繊維の方向に切り分け線を1つ設けた(切り分け線は、160mmを2分割する80mm間隔で設ける)。その後以下の含浸液(液状組成物)を、基材シートの乾燥質量1質量部に対して、3質量部となるようスプレー噴霧し、ウエットシートを得た。得られたウエットシートについて、下記評価を行った。結果を表中に併記する。
・・・
【0031】
<含浸液2:身体用デオドラント液>
各成分を下記手順でパドル式攪拌機を用いて混合し、含浸液2を得た。
エタノール20%に、イソプロピルメチルフェノール0.1%、香料0.1%、1,3-ブチレングリコール1%、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60EO.)0.8%を入れ混合した。この混合物とトレハロース3%、パラフェノールスルホン酸亜鉛0.3%を精製水74.7%に入れて、混合した。なお、混合はパドル式攪拌機を用いて混合した。
・・・
【0038】
【表3】
[図:0001424587000001.jpg]
」
ウ 甲3の記載事項
甲3には、次の事項が記載されている。
(甲3a)
「【請求項1】 厚さが0.1~0.3mmで、かつ、縦方向及び横方向の曲げ硬さが1.0~10.0mN・cmであるシート状基材に、水性媒体を含浸させてなることを特徴とするシート状化粧料。
・・・
【請求項11】 前記請求項1~9のいずれかに記載のシート状化粧料からなる皮膚洗浄用シート状化粧料。」
(甲3b)
「【0036】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。尚、配合量は重量%である。
【0037】(試験例1:シート状基材の物性)表1に記す市販の不織布A~Hのそれぞれについて、後述する方法により、シート状基材の厚さ、曲げ硬さ、及び最大含浸率を測定した。
・・・
【0041】
【表1】
[図:0001424587000002.jpg]
・・・
【0062】(実施例12)7.5cm×10cmの前記シート状基材Cの1重量部に対し、下記処方の水性媒体2.0重量部を含浸させて、デオドラント用シート状化粧料を得た。
エタノール 30.0
イソプロピルアルコール 20.0
メントール 1.0
ノナン酸イソノニル 1.0
トリクロサン 0.1
スルホ石炭酸亜鉛 0.2
クエン酸 0.1
香料 0.3
精製水 残分
合計 100.0重量%
得られたデオドラント用シート状化粧料は、皮脂や汗などの汚垢除去効果に優れ、使用後はさっぱりとした実感を付与することができ、制汗・防臭作用に優れ、しかも50枚積層して包装容器に収納しても携帯性に優れていた。」
エ 甲4の記載事項
甲4には、次の事項が記載されている。
(甲4a)
「【請求項1】 水分を保持可能で且つ柔軟なシート状の担体に清浄用の薬液が含浸されて成るウエットシートにおいて、前記薬液中にはピロリドンカルボン酸ソーダおよびミネラル成分が含まれていることを特徴とするウエットシート。」
(甲4b)
「【0029】
【実施例】前記ウエットシートを使用して拭き取り試験を行い、その効果を調べた。以下にこの拭き取り試験の方法および結果を説明する。以下の表1は拭き取り試験に使用した本発明のウエットシートの実施例、および比較例の薬液の構成成分および担体を示すものである。
【0030】
【表1】
[図:0001424587000003.jpg]
【0031】表1に示されているように、実施例は、薬液中にPCA-Naおよびミネラル成分が含まれているものである。ミネラル成分としては、塩化ナトリウムが35wt%,塩化マグネシウム35wt%、硫酸ナトリウム25wt%、塩化カリウム5wt%から成る混合物を使用した。また、比較例1は薬液中にPCA-Naを含まずミネラル成分を含み、比較例2は薬液中にミネラル成分を含まずPCA-Naを含み、比較例3はPCA-Naおよびミネラル成分を含まず、アロエエキスである1,3-ブチレングリコール抽出物が含まれている。」
オ 甲5の記載事項
甲5には、次の事項が記載されている。
(甲5a)
「【請求項1】
(1)水不溶性基材;及び
(2)液体組成物を含み、前記液体組成物が:
(a)皮膚の色調変化顔料、反射微粒子物質及びこれらの混合物から成る群から選択される、皮膚の色調変化剤であって、少なくとも約100nmの粒径を有する前記皮膚の色調変化剤;
(b)前記液体組成物に、約1000mPa・s~約600,000mPa・sの粘度をもたらす水溶性増粘剤;及び
(c)水性キャリアを含む、マスク組成物。」
(甲5b)
「【0020】
(水不溶性基材)
本発明のマスク組成物は水不溶性基材を含む。「水不溶性」とは、基材を水に浸しても、溶解したり又は容易に分解したりしないことを意味する。水不溶性基材は、液体組成物を皮膚に送り届けるための手段又は媒体である。
・・・
【0037】
・・・基材(20)は、ポリマーフィルム(21)で積層され、閉塞側面(22)を形成する。ポリマーフィルム(21)は、詳細を示すために大幅に誇張されている。閉塞側面(22)は、使用中は皮膚表面(23)とは反対向きに設置される。閉塞側面(22)は、約5分~約45分の典型的な使用期間中に、水分が大気中に逃げるのを制限し、従って改善された、皮膚に潤いを与える効果をもたらす。基材(20)の皮膚に面する側面(24)は、好ましくは空気透過性を制限するいかなる物質も含有しない。
【0038】
・・・更に、本発明のマスク組成物は、皮膚に面する側面上の強い接着性より、むしろ水の張力を利用して皮膚表面に接着する。・・・
・・・
【0047】
・・・本発明のマスク組成物は、水不溶性基材が液体組成物で飽和されたままであるように、好ましくは液体組成物で飽和されている。その所望する結果のために、液体組成物は、好ましくは水不溶性基材の約100重量%~約2000重量%、より好ましくは約200重量%~約1500重量%に相当する。」
(甲5c)
「【0143】
(実施例9)
実施例9のマスク組成物は、約2.5gのダイワボウ(Daiwabo)より入手可能な基材RFP-90から製造されており、図1に従って切断及び成形され、基材はポリエチレンシートにより、図2に示されるように積層される。マスク組成物は次に、下記に指定される液体組成物30gに浸される。マスク組成物はまた、上に指定された基材の代わりに、3.5gの綿の基材からも製造することができる。
【0144】
【表3】
[図:0001424587000004.jpg]
」
(2)取消理由2-1(甲1に基づく新規性欠如)及び取消理由3-1(甲1を主引例とする進歩性欠如)について
ア 甲1に記載された発明
甲1において、請求項1に記載された、シート状基材と、前記シート状基材に含浸された液組成物とを含むシート状化粧料(甲1a)の具体例を示したものである、実施例37(甲1b)の記載からみて、甲1には、次の「甲1発明」が記載されていると認める。
甲1発明:
「下記のシート状基材と、前記シート状基材に3倍量含浸された下記の液組成物とを含む、身体用デオドラントシート。
[シート状基材]
レーヨン/ポリプロピレン/レーヨン=(35g/m2)/(20g/m2)/(35g/m2)(90g/m2)(78質量%親水性)(ダイワボウ株式会社製)
[液組成物]
(質量%)
パラフェノールスルホン酸亜鉛 0.5
多孔質中空シリカ 1
タルク 6
側鎖型ポリエーテル変性シリコーン 0.3
イソプロピルメチルフェノール 0.1
塩化ベンザルコニウム 0.1
香料 0.3
L-メントール 0.1
エタノール 35.0
精製水 56.6
合計 100 」
イ 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明における「シート状基材」である「レーヨン/ポリプロピレン/レーヨン=(35g/m2)/(20g/m2)/(35g/m2)(90g/m2)(78質量%親水性)(ダイワボウ株式会社製)」は、本件訂正発明1における「レーヨンを含むシート」に相当する。
b 甲1発明における「シート状基材」に含浸させる「液組成物」は、本件訂正発明1における「該シートに含浸される液状組成物」に相当する。
c 甲1発明において「液組成物」が「パラフェノールスルホン酸亜鉛」を含有することは、本件訂正発明1において「前記液状組成物がフェノールスルホン酸亜鉛およびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種」を含有することに相当する。
d 甲1発明における「身体用デオドラントシート」は、「シート状基材」に「液組成物」を3倍量含浸させたものであって、湿った状態であるといえるから、本件訂正発明1における「ウエットシート」に相当する。
e 甲1発明は、さらに「多孔質中空シリカ」、「タルク」、「側鎖型ポリエーテル変性シリコーン」、「イソプロピルメチルフェノール」、「塩化ベンザルコニウム」、「香料」、「L-メントール」、「エタノール」及び「精製水」を含むが、本件訂正発明1は、「液状組成物がフェノールスルホン酸亜鉛およびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種」を「含有」するものであって、ほかの成分を含んでよいものであり、本件明細書の【0027】に、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分を必要に応じて適宜配合することができると記載されているから、この点は、本件訂正発明1との対比において、相違点とはならない。
f そうすると、両発明は、次の一致点及び相違点1-1及び相違点1-2を有するものと認められる。
一致点:
「レーヨンを含むシートと、該シートに含浸される液状組成物とを含むウエットシートであって、前記液状組成物がフェノールスルホン酸亜鉛およびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を含有するウエットシート。」
である点。
相違点1-1:
本件訂正発明1は、「フェノールスルホン酸亜鉛およびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種」について、「レーヨンに起因する硫黄臭を抑制する硫黄臭低減物質」であると特定しているのに対し、
甲1発明は、「パラフェノールスルホン酸亜鉛」について、そのように特定していない点。
相違点1-2:
本件訂正発明1は、「フェノールスルホン酸亜鉛およびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種」を「前記液状組成物の全量に対して1×10-5~2×10-3mol/L」含有するものであるのに対し、
甲1発明は、「パラフェノールスルホン酸亜鉛」を「液組成物」に「0.5(質量%)」含有するものである点。
(イ)判断
a 取消理由2-1(甲1に基づく新規性欠如)について
事案に鑑み、まず相違点1-2について検討する。
甲1発明は、「液組成物」に「パラフェノールスルホン酸亜鉛」を0.5質量%の量で含むものであるが、その量について「mol/L」では特定されていない。
そこで、甲1発明における「液組成物」の全量に対する「パラフェノールスルホン酸亜鉛」の含有量を、本件訂正発明1で特定する「mol/L」に換算する。
甲1発明における「液組成物」は、エタノールを35.0質量%と精製水を56.6質量%の量で含むところ、その合計は91.6質量%であり、エタノール及び水に不溶な成分である多孔質中空シリカ及びタルクの合計7質量%を除外した93質量%の殆どを占めるから、甲1発明における「液組成物」の全量の体積をエタノール及び精製水の量から換算する。
甲1における実施例の成分量は全て純分換算とされているので(甲1b)、水の密度が1.00g/cm3、エタノールの密度が0.79g/cm3(必要ならば、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」のエタノールに関する安全データシート<https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/64-17-5.html>を参照。なお、当該ウェブサイトの改訂日は2014年3月31日であるが、化合物の固有の物性に関する事実の参照のための証拠については、特段の事情がなければ、公知日の特定は要しないものと解する。以下同様。)であり、パラフェノールスルホン酸亜鉛の分子量が411.7であるから、エタノール35.0g及び精製水56.6gの混合液中にパラフェノールスルホン酸亜鉛0.5gが含まれているとすると、次のように換算される。
エタノールの体積:35.0/0.79(cm3)≒44.3(cm3)=0.0443(L)
精製水の体積:56.6/1.00(cm3)=56.6(cm3)=0.0566(L)
パラフェノールスルホン酸亜鉛のモル数:0.5/411.7≒0.0012(mol)
エタノール及び精製水の合計量に対するパラフェノールスルホン酸亜鉛の含有量:0.0012/(0.0443+0.0566)=0.0012/0.1009≒0.0119(mol/L)=1.19×10-2(mol/L)
そうすると、甲1発明は、パラフェノールスルホン酸亜鉛を液組成物の全量に対して、およそ「1.19×10-2mol/L」含有するといえるところ、その量は、本件訂正発明1で特定する「1×10-5~2×10-3mol/L」の上限値である「2×10-3mol/L」を超えており、その範囲外である。
したがって、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明ではない。
b 取消理由3-1(甲1を主引例とする進歩性欠如)について
甲1は、(A1)タルク、マイカ、セルロース、シルク、及びヒドロキシアパタイトから選択される少なくとも1種の粉体と、(A2)シリカ粉体とからなる(A)親水性粉体と、(B)HLBが5~10である側鎖型ポリエーテル変性シリコーンと、(C)エタノール15質量%~60質量%とを含有する液組成物が含浸されたシート状化粧料に関するものであるところ(甲1a)、これらの成分に甲1発明が有する「パラフェノールスルホン酸亜鉛」の記載はなく、「パラフェノールスルホン酸亜鉛」は実施例37に配合されているだけである(甲1b)。
したがって、甲1発明について、「パラフェノールスルホン酸亜鉛」に着目して、その含有量を変更して本件訂正発明1の範囲内の量とする動機付けがあるとはいえない。
そして、本件訂正発明1は、レーヨンを含むウエットシートに含浸させる液状組成物に、パラフェノールスルホン酸亜鉛及びリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を、レーヨンに起因する硫黄臭を抑制する硫黄臭低減物質として、液状組成物の全量に対して1×10-5~2×10-3mol/Lの範囲の量で含有させることにより、ウエットシートの硫黄臭を効果的に抑制することができるものであり(本件明細書の【0016】、【0025】、【0033】~【0038】を参照。)、甲1の記載から予測し得ない格別顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点1-1について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件訂正発明2~4及び6について
本件訂正発明2~4及び6は、いずれも本件訂正発明1のウエットシートの特定事項を全て備え、さらに限定したものである。
すなわち、本件訂正発明2は、本件訂正発明1について「硫黄臭低減物質が、25℃における水への溶解性が1×10-6mol/L以上である」と特定したものであり、本件訂正発明3は、本件訂正発明1又は2について「シートが不織布である」と特定したものであり、本件訂正発明4は、本件訂正発明1~3について「シートのレーヨン含有量が50質量%以上である」と特定したものであり、本件訂正発明6は、本件訂正発明1~4について「ウエットシートが清拭用である」と特定したものである。
そうすると、本件訂正発明1の発明特定事項を全て備え、さらに限定した本件訂正発明2~4及び6についても、上記イ(イ)で検討したのと同様の理由により、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 取消理由2-1(甲1に基づく新規性欠如)及び取消理由3-1(甲1を主引例とする進歩性欠如)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1~4及び6に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものではなく、取消理由2-1(甲1に基づく新規性欠如)及び取消理由3-1(甲1を主引例とする進歩性欠如)には、理由がない。
(3)取消理由2-2(甲2に基づく新規性欠如)及び取消理由3-2(甲2を主引例とする進歩性欠如)について
ア 甲2に記載された発明
甲2において、請求項5に記載された、ウエットシート用基材に液状組成物を含浸させてなるウエットシート(甲2a)の具体例を示したものである、実施例16(甲2b)の記載からみて、甲2には、次の「甲2発明」が記載されていると認める。
甲2発明:
「2つの外層繊維ウエッブ(レーヨン100質量%)の間に、ポイントボンド不織布(ポリプロピレン)からなる内層を挟んで作製した、目付が70g/m2であるスパンレース不織布の基材シートと、前記基材シートの乾燥質量1質量部に対して、3質量部となるようにスプレー噴霧される、下記の組成の含浸液2(身体用デオドラント液)とを含む、ウエットシート。
(質量%)
エタノール 20
イソプロピルメチルフェノール 0.1
香料 0.1
1,3-ブチレングリコール 1
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60EO.) 0.8
トレハロース 3
パラフェノールスルホン酸亜鉛 0.3
精製水 74.7
合計 100 」
イ 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲2発明とを対比する。
a 甲2発明における「2つの外層繊維ウエッブ(レーヨン100質量%)の間に、ポイントボンド不織布(ポリプロピレン)からなる内層を挟んで作製した、目付が70g/m2であるスパンレース不織布の基材シート」は、本件訂正発明1における「レーヨンを含むシート」に相当する。
b 甲2発明における「基材シート」にスプレー噴霧される「含浸液2(身体用デオドラント液)」は、本件訂正発明1における「該シートに含浸される液状組成物」に相当する。
c 甲2発明において「含浸液2(身体用デオドラント液)」が「パラフェノールスルホン酸亜鉛」を含有することは、本件訂正発明1において「前記液状組成物がフェノールスルホン酸亜鉛およびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種」を含有することに相当する。
d 甲2発明における「ウエットシート」は、本件訂正発明1における「ウエットシート」に相当する。
e 甲2発明は、さらに「エタノール」、「イソプロピルメチルフェノール」、「香料」、「1,3-ブチレングリコール」、「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60EO.)」、「トレハロース」及び「精製水」を含むが、上記(2)イ(ア)eで述べたのと同様の理由により、この点は、本件訂正発明1との対比において、相違点とはならない。
f そうすると、両発明は、次の一致点及び相違点2-1及び相違点2-2を有するものと認められる。
一致点:
「レーヨンを含むシートと、該シートに含浸される液状組成物とを含むウエットシートであって、前記液状組成物がフェノールスルホン酸亜鉛およびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を含有するウエットシート。」
である点。
相違点2-1:
本件訂正発明1は、「フェノールスルホン酸亜鉛およびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種」について、「レーヨンに起因する硫黄臭を抑制する硫黄臭低減物質」であると特定しているのに対し、
甲2発明は、「パラフェノールスルホン酸亜鉛」について、そのように特定していない点。
相違点2-2:
本件訂正発明1は、「フェノールスルホン酸亜鉛およびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種」を「前記液状組成物の全量に対して1×10-5~2×10-3mol/L」含有するものであるのに対し、
甲2発明は、「パラフェノールスルホン酸亜鉛」を「含浸液2(身体用デオドラント液)」に「0.3(質量%)」含有するものである点。
(イ)判断
a 取消理由2-2(甲2に基づく新規性欠如)について
事案に鑑み、まず相違点2-2について検討する。
甲2発明は、「含浸液2(身体用デオドラント液)」に「パラフェノールスルホン酸亜鉛」を0.3質量%の量で含むものであるが、その量について「mol/L」では特定されていない。
そこで、甲2発明における「含浸液2(身体用デオドラント液)」の全量に対する「パラフェノールスルホン酸亜鉛」の含有量を、本件訂正発明1で特定する「mol/L」に換算する。
甲2発明における「含浸液2(身体用デオドラント液)」は、エタノールを20質量%と精製水を74.7質量%の量で含むところ、その合計は94.7質量%であり、含浸液の殆どを占めるから、甲2発明における「含浸液2(身体用デオドラント液)」の全量の体積をエタノール及び精製水の量から換算する。
甲2における実施例の成分量は全て純分換算とされているので(甲2b)、水の密度が1.00g/cm3、エタノールの密度が0.79g/cm3であり、パラフェノールスルホン酸亜鉛の分子量が411.7であるから、エタノール20g及び精製水74.7gの混合液中にパラフェノールスルホン酸亜鉛0.3gが含まれているとすると、次のように換算される。
エタノールの体積:20.0/0.79(cm3)≒25.3(cm3)=0.0253(L)
精製水の体積:74.7/1.00(cm3)=74.7(cm3)=0.0747(L)
パラフェノールスルホン酸亜鉛のモル数:0.3/411.7≒0.00073(mol)
エタノール及び精製水の合計量に対するパラフェノールスルホン酸亜鉛の含有量:0.00073/(0.0253+0.0747)=0.00073/0.1000=0.0073(mol/L)=7.3×10-3(mol/L)
そうすると、甲2発明は、パラフェノールスルホン酸亜鉛を含浸液2(身体用デオドラント液)に対して、およそ「7.3×10-3mol/L」含有するといえるところ、その量は、本件訂正発明1で特定する「1×10-5~2×10-3mol/L」の上限値である「2×10-3mol/L」を超えており、その範囲外である。
したがって、本件訂正発明1は、甲2に記載された発明ではない。
b 取消理由3-2(甲2を主引例とする進歩性欠如)について
甲2は、切り分け線を有することに特徴とするウエットシート用基材に関するものであり(甲2a)、甲2の【0026】に「身体用デオドラント用シートにする場合、液状組成物にトレハロース及び/又はパラフェノールスルホン酸亜鉛を配合することが好ましい。」との記載はあるものの、その含有量に関する記載はなく、「パラフェノールスルホン酸亜鉛」は実施例の含浸液2に配合されているだけである(甲2b)。
したがって、甲2発明について、「パラフェノールスルホン酸亜鉛」に着目して、その含有量を変更して本件訂正発明1の範囲内の量とする動機付けがあるとはいえない。
そして、本件訂正発明1は、レーヨンを含むウエットシートに含浸させる液状組成物に、パラフェノールスルホン酸亜鉛及びリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を、レーヨンに起因する硫黄臭を抑制する硫黄臭低減物質として、液状組成物の全量に対して1×10-5~2×10-3mol/Lの範囲の量で含有させることにより、ウエットシートの硫黄臭を効果的に抑制することができるものであり(本件明細書の【0016】、【0025】、【0033】~【0038】を参照。)、甲2の記載から予測し得ない格別顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点2-1について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件訂正発明2~4及び6について
本件訂正発明2~4及び6は、上記(2)ウに示したとおりのものであるところ、本件訂正発明1の発明特定事項を全て備え、さらに限定した本件訂正発明2~4及び6についても、上記イ(イ)で検討したのと同様の理由により、甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 取消理由2-2(甲2に基づく新規性欠如)及び取消理由3-2(甲2を主引例とする進歩性欠如)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1~4及び6に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものではなく、取消理由2-2(甲2に基づく新規性欠如)及び取消理由3-2(甲2を主引例とする進歩性欠如)には、理由がない。
なお、甲2に記載された実施例17又は実施例18は、甲2発明とは、それぞれ、基材シートを構成する内層が、エアスルー不織布(ポリプロピレン)又はスパンボンド不織布(ポリプロピレン)であることのみで相違するものであるから(甲2b)、これらの実施例から甲2発明を認定した場合も、上記イ及びウで述べたのと同様に甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)取消理由2-3(甲3に基づく新規性欠如)及び取消理由3-3(甲3を主引例とする進歩性欠如)について
ア 甲3に記載された発明
甲3において、請求項11に記載された、シート状基材に、水性媒体を含浸させてなる皮膚洗浄用シート状化粧料(甲3a)の具体例を示したものである実施例12は、シート状基材Cを用いているところ、シート状基材Cは、「(試験例1:シート状基材の物性)表1に記す市販の不織布A~H」のうちの不織布Cといえるから(甲3b)、実施例12の記載からみて、甲3には、次の「甲3発明」が記載されていると認める。
甲3発明:
「レーヨン100重量%である不織布シート状基材Cと、前記シート状基材Cの1重量部に対し含浸される下記処方の水性媒体2.0重量部とを含む、デオドラント用シート状化粧料。
(重量%)
エタノール 30.0
イソプロピルアルコール 20.0
メントール 1.0
ノナン酸イソノニル 1.0
トリクロサン 0.1
スルホ石炭酸亜鉛 0.2
クエン酸 0.1
香料 0.3
精製水 残分
合計 100.0」
イ 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲3発明とを対比する。
a 甲3発明における「レーヨン100重量%である不織布シート状基材C」は、本件訂正発明1における「レーヨンを含むシート」に相当する。
b 甲3発明における「シート状基材C」に含浸される「水性媒体」は、本件訂正発明1における「該シートに含浸される液状組成物」に相当する。
c 甲3発明において「水性媒体」が「スルホ石炭酸亜鉛」すなわち「パラフェノールスルホン酸亜鉛」を含有することは、本件訂正発明1において「前記液状組成物がフェノールスルホン酸亜鉛およびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種」を含有することに相当する。
d 甲3発明における「デオドラント用シート状化粧料」は、「シート状基材C」1重部に「水性媒体」を2重量部含浸させたものであって、湿った状態であるといえるから、本件訂正発明1の「ウエットシート」に相当する。
e 甲3発明は、さらに「エタノール」、「イソプロピルアルコール」、「メントール」、「ノナン酸イソノニル」、「トリクロサン」、「クエン酸」、「香料」及び「精製水」を含むが、上記(2)イ(ア)eで述べたのと同様の理由により、この点は、本件訂正発明1との対比において、相違点とはならない。
f そうすると、両発明は、次の一致点及び相違点3-1及び相違点3-2を有するものと認められる。
一致点:
「レーヨンを含むシートと、該シートに含浸される液状組成物とを含むウエットシートであって、前記液状組成物がフェノールスルホン酸亜鉛およびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を含有するウエットシート。」
である点。
相違点3-1:
本件訂正発明1は、「フェノールスルホン酸亜鉛およびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種」について、「レーヨンに起因する硫黄臭を抑制する硫黄臭低減物質」であると特定しているのに対し、
甲3発明は、「スルホ石炭酸亜鉛」について、そのように特定していない点。
相違点3-2:
本件訂正発明1は、「フェノールスルホン酸亜鉛およびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種」を「前記液状組成物の全量に対して1×10-5~2×10-3mol/L」含有するものであるのに対し、
甲3発明は、「スルホ石炭酸亜鉛」を「水性媒体」に「0.2(重量%)」含有するものである点。
(イ)判断
a 取消理由2-3(甲3に基づく新規性欠如)について
事案に鑑み、まず相違点3-2について検討する。
甲3発明は、「水性媒体」に「スルホ石炭酸亜鉛」を0.2重量%の量で含むものであるが、その量について「mol/L」では特定されていない。
そこで、甲3発明における「水性媒体」の全量に対する「スルホ石炭酸亜鉛」の含有量を、本件訂正発明1で特定する「mol/L」に換算する。
甲3発明における「水性媒体」は、エタノールを30.0重量%、イソプロピルアルコールを20.0重量%及び精製水を残部(47.3重量%)の量で含むところ、その合計は97.3質量%であり、含浸液の殆どを占めるから、甲3発明における「水性媒体」の全量の体積をエタノール、イソプロピルアルコール及び精製水の量から換算する。
水の密度が1.00g/cm3、エタノールの密度が0.79g/cm3、イソプロピルアルコールの密度が0.79g/cm3(必要ならば、「Chemical Book」のイソプロピルアルコール<https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB8854102.htm>を参照。)であり、スルホ石炭酸亜鉛の分子量が411.7であるから、エタノール30.0g、イソプロピルアルコール20.0g及び精製水47.3gの混合液中にスルホ石炭酸亜鉛0.2gが含まれているとすると、次のように換算される。
エタノールの体積:30.0/0.79(cm3)≒38.0(cm3)=0.0380(L)
イソプロピルアルコールの体積:20.0/0.79(cm3)≒25.3(cm3)=0.0253(L)
精製水の体積:47.3/1.00(cm3)=47.3(cm3)=0.0473(L)
スルホ石炭酸亜鉛のモル数:0.2/411.7≒0.00049(mol)
エタノール、イソプロピルアルコール及び精製水の合計量に対するスルホ石炭酸亜鉛の含有量:0.00049/(0.0380+0.0253+0.0473)=0.00049/0.1106≒0.00443(mol/L)=4.43×10-3(mol/L)
そうすると、甲3発明は、スルホ石炭酸亜鉛を水性媒体の全量に対して、およそ「4.43×10-3mol/L」含有するといえるところ、その量は、本件訂正発明1で特定する「1×10-5~2×10-3mol/L」の上限値である「2×10-3mol/L」を超えており、その範囲外である。
したがって、本件訂正発明1は、甲3に記載された発明ではない。
b 取消理由3-3(甲3を主引例とする進歩性欠如)について
甲3は、水性媒体を含浸させてなるシート状化粧料に関するものであり(甲3a)、甲3の【0014】に「水性媒体には、薬用成分、例えば、殺菌剤、抗炎症剤、収斂剤等を配合することもできる。」こと、同【0016】に、「収斂剤としては、・・・スルホ石炭酸亜鉛などの金属塩、・・・等を例示することができる。」こと、同【0017】に、「薬用成分の配合量は、水性媒体中0.01~5.0重量%とするのが好まし」いことが記載されているが、甲3発明を認定した実施例12には、スルホ石炭酸亜鉛を0.2重量%含有する水性媒体を含浸させて得られたデオドラント用シート状化粧料について、「皮脂や汗などの汚垢除去効果に優れ、使用後はさっぱりとした実感を付与することができ、制汗・防臭作用に優れ」ていたことが記載されている。
そうすると、甲3発明について、優れた結果が得られている水性媒体について、配合されている「スルホ石炭酸亜鉛」に着目して、その含有量を変更して本件訂正発明1の範囲内の量とする動機付けがあるとはいえない。
そして、本件訂正発明1は、レーヨンを含むウエットシートに含浸させる液状組成物に、パラフェノールスルホン酸亜鉛及びリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を、レーヨンに起因する硫黄臭を抑制する硫黄臭低減物質として、液状組成物の全量に対して1×10-5~2×10-3mol/Lの範囲の量で含有させることにより、ウエットシートの硫黄臭を効果的に抑制することができるものであり(本件明細書の【0016】、【0025】、【0033】~【0038】を参照。)、甲3の記載から予測し得ない格別顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点3-1について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件訂正発明2~4及び6について
本件訂正発明2~4及び6は、上記(2)ウに示したとおりのものであるところ、本件訂正発明1の発明特定事項を全て備え、さらに限定した本件訂正発明2~4及び6についても、上記イ(イ)で検討したのと同様の理由により、甲3に記載された発明ではなく、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 取消理由2-3(甲3に基づく新規性欠如)及び取消理由3-3(甲3を主引例とする進歩性欠如)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1~4及び6に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものではなく、取消理由2-3(甲3に基づく新規性欠如)及び取消理由3-3(甲3を主引例とする進歩性欠如)には、理由がない。
(5)取消理由2-4(甲4に基づく新規性欠如)及び取消理由3-4(甲4を主引例とする進歩性欠如)について
ア 甲4に記載された発明
甲4において、請求項1に記載された、シート状の担体に清浄用の薬剤が含浸されて成るウエットシート(甲4a)の具体例を示したものである、実施例は、表1にウエットシートの薬液の構成成分と担体が示され、さらに【0031】に薬液中のミネラル成分の組成が示されていることから(甲4b)、実施例の記載からみて、甲4には、次の「甲4発明」が記載されていると認める。
甲4発明:
「レーヨン不織布からなるシート状の担体と、前記シート状の担体に、担体:薬液の重量比1:2で含浸される下記の組成の薬液とを含む、ウエットシート。
(wt%)
ピロリドンカルボン酸ソーダ(PCA-Na) 0.30
ミネラル成分 0.05
(塩化ナトリウム 35wt%
塩化マグネシウム 35wt%
硫酸ナトリウム 25wt%
塩化カリウム 5wt%から成る混合物)
プロピレングリコール 5.00
パラベン類 0.20
精製水 94.45」
イ 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲4発明とを対比する。
a 甲4発明における「レーヨン不織布からなるシート状の担体」は、本件訂正発明1における「レーヨンを含むシート」に相当する。
b 甲4発明における「シート状の担体」に含浸される「薬液」は、本件訂正発明1における「該シートに含浸される液状組成物」に相当する。
c 甲4発明における「ウエットシート」は、本件訂正発明1における「ウエットシート」に相当する。
d 甲4発明は、さらに「ピロリドンカルボン酸ソーダ(PCA-Na)」、「ミネラル成分」を構成する混合物中の「塩化ナトリウム」、「塩化マグネシム」、「硫酸ナトリウム」及び「塩化カリウム」、「プロピレングリコール」、「パラベン類」並びに「精製水」を含むが、上記(2)イ(ア)eで述べたのと同様の理由により、この点は、本件訂正発明1との対比において、相違点とはならない。
e そうすると、両発明は、次の一致点及び相違点4-1を有するものと認められる。
一致点:
「レーヨンを含むシートと、該シートに含浸される液状組成物とを含むウエットシート。」
である点。
相違点4-1:
本件訂正発明1は、「液状組成物がフェノールスルホン酸亜鉛およびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の、レーヨンに起因する硫黄臭を抑制する硫黄臭低減物質を、前記液状組成物の全量に対して1×10-5~2×10-3mol/L」含有するものであるのに対し、
甲4発明は、薬液がそのような成分を含有しない点。
(イ)判断
a 取消理由2-4(甲4に基づく新規性欠如)について
相違点4-1は、液状組成物に含有される成分に関するものであるから、実質的な相違点である。
したがって、本件訂正発明1は、甲4に記載された発明ではない。
b 取消理由3-4(甲4を主引例とする進歩性欠如)について
甲4は、ピロリドンカルボン鎖ソーダ及びミネラル成分が含まれている薬液が含浸されたウエットシートに関するものであるところ(甲4a)、甲4には、薬液に含まれる成分として「フェノールスルホン酸亜鉛」も「リン酸アスコルビルマグネシウム」も記載されていないから、甲4発明に、これら成分を含有させた上で、本件訂正発明1の範囲内の量とする動機付けがあるとはいえない。
そして、本件訂正発明1は、レーヨンを含むウエットシートに含浸させる液状組成物に、パラフェノールスルホン酸亜鉛及びリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を、レーヨンに起因する硫黄臭を抑制する硫黄臭低減物質として、液状組成物の全量に対して1×10-5~2×10-3mol/Lの範囲の量で含有させることにより、ウエットシートの硫黄臭を効果的に抑制することができるものであり(本件明細書の【0016】、【0025】、【0033】~【0038】を参照。)、甲4の記載から予測し得ない格別顕著な効果を奏するものである。
よって、本件訂正発明1は、甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件訂正発明2~4及び6について
本件訂正発明2~4及び6は、上記(2)ウに示したとおりのものであるところ、本件訂正発明1の発明特定事項を全て備え、さらに限定した本件訂正発明2~4及び6についても、上記イ(イ)で検討したのと同様の理由により、甲4に記載された発明ではなく、甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 取消理由2-4(甲4に基づく新規性欠如)及び取消理由3-4(甲4を主引例とする進歩性欠如)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1~4及び6に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものではなく、取消理由2-4(甲4に基づく新規性欠如)及び取消理由3-4(甲4を主引例とする進歩性欠如)には、理由がない。
(6)取消理由2-5(甲5に基づく新規性欠如)及び取消理由3-5(甲5を主引例とする進歩性欠如)について
ア 甲5に記載された発明
甲5において、請求項1に記載されたマスク組成物は、水不溶性基材と、液体組成物を含むものであり(甲5a)、水不溶性基材は、液体組成物を皮膚に送り届けるための手段又は媒体であること、基材は、ポリマーフィルムで積層され、閉塞側面を形成し、閉塞側面は皮膚とは反対向きに設置されることが記載されている(甲5b)。
そして、請求項1に記載されたマスク組成物の具体例を示した実施例9には、「マスク組成物は、・・・ダイワボウ(Daiwabo)より入手可能な基材RFP-90から製造されており、・・・基材はポリエチレンシートにより、・・・積層される。マスク組成物は次に、・・・液体組成物30gに浸される。」と記載されており、その記載からすると、液体組成物を含浸させる前のものがマスク組成物であるとも解されるが(甲5c)、上記のとおり、マスク組成物は、水不溶性基材と液体組成物を含むものであり、水不溶性基材は、液体組成物を皮膚に送り届けるための手段又は媒体であり、ポリマーフィルムは閉塞側面を形成するためのものであるから、水不溶性基材に液体組成物が浸されたものがマスク組成物であると解するのが自然である。
したがって、実施例9の記載からみて、甲5には、次の「甲5発明」が記載されていると認める。
なお、実施例9には、液体組成物の構成成分の組成を示した表の数値について単位が示されていないが、総計で100.000であること、液体組成物は30gであることが記載され、甲5には、「液体組成物は、好ましくは水不溶性基材の約100重量%~約2000重量%」と記載されていることから(甲5b)、その単位は重量%であると認める。
甲5発明:
「ポリエチレンシートに積層された約2.5gの基材RFP-90(ダイワボウ製)と、前記基材に浸される下記の液体組成物30gとを含む、マスク組成物。
[液体組成物]
(重量%)
処理水 83.543
キサンタンガム 0.600
ナイアシンアミド 3.500
1,3ブチレングリコール 10.000
サリチル酸ナトリウム 0.500
メチルパラベン 0.100
ベンジルアルコール 0.150
クワ抽出物/水/ブチレングリコール 0.500
EDTA二ナトリウム 0.100
リン酸二ナトリウム 2・H2O 0.150
リン酸ナトリウム H2O 0.115
ポリソルベート20 0.300
香料 0.020
二酸化チタン 0.272
アスコルビン酸リン酸マグネシウム 0.140
天然抽出物 0.010
無水亜硫酸ナトリウム 0.100
総計 100.000」
イ 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲5発明とを対比する。
a 甲5発明における「基材RFP-90(ダイワボウ製)」は、ポリエチレンシートに積層されるものであるから、シート状といえ、本件訂正発明1における「レーヨンを含むシート」と、「シート」である点で共通する。
b 甲5発明における「基材」に浸される「液体組成物」は、本件訂正発明1における「該シートに含浸される液状組成物」に相当する。
c 甲5発明において「液体組成物」が「アスコルビン酸リン酸マグネシウム」、すなわち「リン酸アスコルビルマグネシウム」を含有することは、本件訂正発明1において「前記液状組成物がフェノールスルホン酸亜鉛およびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種」を含有することに相当する。
d 甲5発明における「マスク組成物」は、約2.5gの「基材」に30gの「液体組成物」を含浸させたものであり、水の張力を利用して皮膚表面に接着するから(甲5b)、本件訂正発明1における「ウエットシート」に相当する。
e 甲5発明は、さらに「処理水」、「キサンタンガム」、「ナイアシンアミド」、「1,3ブチレングリコール」、「サリチル酸ナトリウム」、「メチルパラベン」、「ベンジルアルコール」、「クワ抽出物/水/ブチレングリコール」、「EDTA二ナトリウム」、「リン酸二ナトリウム 2・H2O」、「リン酸ナトリウム H2O」、「ポリソルベート20」、「香料」、「二酸化チタン」、「天然抽出物」及び「無水亜硫酸ナトリウム」を含むが、上記(2)イ(ア)eで述べたのと同様の理由により、この点は、本件訂正発明1との対比において、相違点とはならない。
f そうすると、両発明は、次の一致点及び相違点5-1~相違点5-3を有するものと認められる。
一致点:
「シートと、該シートに含浸される液状組成物とを含むウエットシートであって、前記液状組成物がフェノールスルホン酸亜鉛およびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を含有するウエットシート。」
である点。
相違点5-1:
レーヨンを含むシートについて、
本件訂正発明1では、「レーヨンを含むシート」と特定しているのに対し、
甲5発明では、「基材RFP-90(ダイワボウ製)」である点。
相違点5-2:
本件訂正発明1は、「フェノールスルホン酸亜鉛およびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種」について、「レーヨンに起因する硫黄臭を抑制する硫黄臭低減物質」であると特定しているのに対し、
甲5発明は、「アスコルビン酸リン酸マグネシウム」について、そのように特定していない点。
相違点5-3:
本件訂正発明1は、「フェノールスルホン酸亜鉛およびリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種」を「前記液状組成物の全量に対して1×10-5~2×10-3mol/L」含有するものであるのに対し、
甲5発明は、「アスコルビン酸リン酸マグネシウム」を「液体組成物」に「0.140(重量%)」含有するものである点。
(イ)判断
a 取消理由2-5(甲5に基づく新規性欠如)について
事案に鑑み、まず相違点5-3について検討する。
甲5発明は、「液体組成物」に「アスコルビン酸リン酸マグネシウム」を0.140重量%で含むものであるが、その量について「mol/L」では特定されていない。
そこで、甲5発明における「液体組成物」の全量に対する「アスコルビン酸リン酸マグネシウム」の含有量を、本件訂正発明1で特定する「mol/L」に換算する。
甲5発明における「液体組成物」は、処理水を83.543重量%と1,3ブチレングリコールを10.000重量%の量で含むところ、その合計は93.543重量%であり、水及び1,3ブチレングリコールに不要な成分である二酸化チタンの0.272重量%を除外した99.728重量%の殆どを占める。
また、仮に、「クワ抽出物/水/ブチレングリコール」及び「天然抽出物」の合計0.510重量%の殆どが水及びブチレングリコールからなるとしても、誤差範囲であるといえるから、甲5発明における「液体組成物」の全量の体積を前記処理水及び1,3ブチレングリコールの量から換算する。
水の密度が1.00g/cm3、1,3ブチレングリコールの密度が1.01g/cm3(必要ならば、「Chemical Book」の1,3ブチレングリコール<https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB7758265.htm>を参照。)であり、アスコルビン酸リン酸マグネシウムの分子量が579.1であるから、処理水83.54g及び1,3ブチレングリコール10.00gの混合液中にアスコルビン酸リン酸マグネシウム0.14gが含まれているとすると、次のように換算される。
処理水の体積:83.54/1.00(cm3)=83.54(cm3)=0.0835(L)
1,3ブチレングリコールの体積:10.00/1.01(cm3)≒9.9(cm3)=0.0099(L)
アスコルビン酸リン酸マグネシウムのモル数:0.14/579.1≒0.00024(mol)
処理水及び1,3ブチレングリコールの合計量に対するアスコルビン酸リン酸マグネシウムの含有量:0.00024/(0.0835+0.0099)=0.00024/0.0934≒0.00257(mol/L)=2.57×10-3(mol/L)
そうすると、甲5発明は、アスコルビン酸リン酸マグネシウムを液体組成物の全量に対して、およそ「2.57×10-3mol/L」含有するといえるところ、その量は、本件訂正発明1で特定する「1×10-5~2×10-3mol/L」の上限値である「2×10-3mol/L」を超えており、その範囲外である。
したがって、本件訂正発明1は、甲5に記載された発明ではない。
b 取消理由3-5(甲5を主引例とする進歩性欠如)について
甲5は、皮膚の色調変化剤を含む液体組成物を有するマスク組成物に関するものであり(甲5a)、甲5の【0083】に「液体組成物は更に長期持続美白剤を含有してもよい。・・・長期持続美白剤は、液体組成物の、好ましくは約0.001重量%~約10重量%、より好ましくは約0.1重量%~約5重量%の濃度で含まれてもよい。」こと、同【0084】に「本明細書で有用な長期持続美白剤には、アスコルビン酸化合物・・・が挙げられる。」こと、同【0094】に「・・・L-アスコルビン酸リン酸マグネシウム・・・のようなL-アスコルビン酸リン酸エステル塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。」ことが記載されているが、甲5発明を認定した実施例9には「アスコルビン酸リン酸マグネシウム」が「0.140重量%」含まれている。
したがって、甲5発明について、「アスコルビン酸リン酸マグネシウム」に着目して、より好ましいとされている約0.1重量%よりも少なくなるように変更して本件訂正発明1の範囲内の量とする動機付けがあるとはいえない。
また、甲5発明のダイワボウ製基材に関する甲6~甲10の記載を参酌しても、「アスコルビン酸リン酸マグネシウム」の含有量を本件訂正発明1の範囲内の量とする動機付けがあるとはいえない。
そして、本件訂正発明1は、レーヨンを含むウエットシートに含浸させる液状組成物に、パラフェノールスルホン酸亜鉛及びリン酸アスコルビルマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を、レーヨンに起因する硫黄臭を抑制する硫黄臭低減物質として、液状組成物の全量に対して1×10-5~2×10-3mol/Lの範囲の量で含有させることにより、ウエットシートの硫黄臭を効果的に抑制することができるものであり(本件明細書の【0016】、【0025】、【0033】~【0038】を参照。)、甲5の記載から予測し得ない格別顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点5-1及び相違点5-2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件訂正発明2~4について
本件訂正発明2~4は、上記(2)ウに示したとおりのものであるところ、本件訂正発明1の発明特定事項を全て備え、さらに限定した本件訂正発明2~4についても、上記イ(イ)で検討したのと同様の理由により、甲5に記載された発明ではなく、甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 取消理由2-5(甲5に基づく新規性欠如)及び取消理由3-5(甲5を主引例とする進歩性欠如)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1~4に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものではなく、取消理由2-5(甲5に基づく新規性欠如)及び取消理由3-5(甲5を主引例とする進歩性欠如)には、理由がない。
3 取消理由で採用しなかった申立理由について
(1)申立理由1(新規性欠如)について
申立人は、甲1に基づく本件訂正前の請求項3に係る発明の新規性欠如及び甲2に基づく本件訂正前の請求項4に係る発明の新規性欠如について、特許異議の申立てをしているが、上記2(2)ウ及び2(3)ウで述べたのと同様の理由により、本件訂正発明3は、甲1に記載された発明ではなく、本件訂正発明4は、甲2に記載された発明ではない。
よって、申立理由1(新規性欠如)は、理由がない。
(2)申立理由3(サポート要件違反)及び申立理由4(実施可能要件違反)について
ア 本件訂正発明の解決しようとする課題
本件明細書の記載、特に【0009】の記載からみて、本件訂正発明の解決しようとする課題は、
「レーヨンを含むシートに液状組成物を含浸させたウエットシートにおいて、硫黄臭が抑制されたウエットシート」
を提供することにあると認める。
イ 検討
(ア)従来技術、解決課題とその解決手段及び効果に関する記載について
本件明細書の【0002】~【0005】、【0008】及び【0016】には、シート状の不織布等に液状組成物を含浸させたウエットシートは、皮膚等を拭くもの等として広く使用されており、液状組成物を含浸させる不織布等としてレーヨンが用いられる場合があるが、レーヨンの製造工程において残留する硫化物は水が存在すると硫黄由来の火薬臭い臭気が発生するという問題があるため、特定の物質を含有させることなどが知られているが、硫黄臭低減効果が必ずしも充分とは言えないなどの問題があったところ、有機亜鉛化合物、有機マグネシウム化合物及び無機マグネシウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の硫黄臭低減物質を特定量含有する液状組成物を含浸させたことで、ウエットシートの硫黄臭を効果的に抑制することができるとともに、製造工程において分散性、均一性を確保することが可能となったことが記載されている。
(イ)実施例以外の一般記載について
本件明細書の【0018】~【0022】において、レーヨンを含むシートの形状、厚み、レーヨンの含有量、他の材質や市販品を用いることができることに関する記載があり、【0023】~【0026】において、液状組成物における硫黄臭低減物質の水への溶解性及び含有量について、粉末の凝集と製造性の観点や、硫黄臭の効果的な低減、他成分との不溶性物質の生成防止、香料との関係の観点と関連した好ましい範囲が記載され、液状組成物のシートへの含浸量、ほかに配合できる成分や、ウエットシートの製造方法及び使用形態について記載されている。
(ウ)実施例の記載について
本件明細書の【0033】~【0040】において、実施例として、8.5×10-4mol/L、1.8×10-4mol/L、1.8×10-5mol/L又は1.8×10-3mol/Lのフェノールスルホン酸亜鉛又は2.8×10-4mol/Lのリン酸アスコルビルマグネシウムを含む液状組成物を、レーヨンを80%含む不織布に、不織布質量の約3倍量含浸させたウエットシートについて、硫黄臭低減効果及び粉末の分散安定性を評価した記載がある。
そして、フェノールスルホン酸亜鉛又はリン酸アスコルビルマグネシウムを含まない比較例1~6又は1.8×10-2mol/Lのフェノールスルホン酸亜鉛を含む実施例7のウエットシートに比べて、本件訂正発明1~4及び6の発明特定事項を全て備えた実施例1及び3~6のウエットシートが、硫黄臭低減効果が良好で、粉末の分散安定性もよく、製造性にも優れるという効果を奏することが具体的に示されている。
ウ 申立理由3(サポート要件違反)について
上記イ(ア)~(ウ)の実施例を含めた本件明細書の発明の詳細な説明の記載全体を考慮すれば、本件訂正発明のウエットシートとすることによって、上記アの本件訂正発明の課題を解決できることを当業者は理解できるといえる。
したがって、本件訂正発明1~4及び6は、本件明細書の発明の詳細な説明において、その課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものであるから、本件特許の請求項1~4及び6の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
エ 申立理由4(実施可能要件違反)について
上記イ(ア)~(ウ)の実施例を含めた本件明細書の発明の詳細な説明の記載全体を考慮すれば、本件訂正発明のウエットシートを製造し使用できることを当業者は理解できるといえる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正発明1~4及び6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
オ 申立人の主張について
(ア)レーヨンの含有率について
申立人は、本件明細書において、硫黄臭低減効果を確認している全ての実施例において使用されているのは、レーヨンを80%含む不織布のみであるが、本件訂正前の請求項1に係る発明は、いかなるレーヨン含有量のシートをも包含するものであるため、レーヨン含有量が低く、そもそも硫黄由来の臭気の問題が存在するとは考えられないシートを含むウエットシートをも包含し得るから、本件訂正前の請求項1~6に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである旨主張する。
申立人は、さらに、当業者は、本件明細書の実施例に開示のレーヨンを80%含むシートを含むウエットシート以外、どのように本件訂正前の請求項1に係る発明のウエットシートを製造するかを理解できないため、本件明細書の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正前の請求項1~6に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない旨主張する。
しかしながら、レーヨンの含有量が80%未満であっても、臭気の問題が全く存在しないとはいえないし、仮に、レーヨンの含有量が低いため、硫黄由来の臭気の問題が存在しないシートを用いたウエットシートがあったとしても、そのことは、サポート要件に違反する理由にはならず、上記イ(イ)のとおり、本件明細書には、シートにおけるレーヨンの含有量や市販品を用い得ることの説明や、ウエットシートの製造方法に関する記載があり、当業者であれば、レーヨンを80%含む不織布以外のレーヨンを含むシートを用いたウエットシートであっても、課題を解決できることを認識でき、製造できるといえることは、上記ウ及びエで述べたとおりである。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(イ)硫黄臭低減物質の含有量について
申立人は、本件明細書の実施例7は、フェノールスルホン酸亜鉛の濃度が1.8×10-2mol/Lであり、硫黄臭の評価がCとなっているため、本件訂正前の請求項1~6に係る発明の課題が解決できていないといえ、硫黄臭低減物質のうち、「塩化マグネシウム」及び「リン酸アスコルビルマグネシウム」は、それぞれ1点しか実施例が存在しないのに、本件訂正前の請求項1に係る発明のウエットシートに含まれる液状組成物は、硫黄臭低減物質の含有量が、1×10-6~2×10-2mol/Lである広範囲の液状組成物を包含するものであるため、本件訂正前の請求項1~6に係る発明は、硫黄臭低減物質の含有量の数値範囲全般に関して、サポート要件を満たすとはいえず、また実施可能であるともいえない旨主張する。
しかしながら、本件訂正発明は、硫黄臭低減物質の含有量が、1×10-5~2×10-3mol/Lであるから、実施例7は本件訂正発明に該当しない参考例であって、その評価が低いことは、サポート要件に違反する理由にはならない。
そして、上記イ(イ)及び(ウ)のとおり、本件明細書には、硫黄臭の効果的な低減、他成分との不溶性物質の生成防止、香料との関係の観点と関連した好ましい範囲として1×10-5~2×10-3mol/Lが記載され、実施例において、1.8×10-5mol/L~1.8×10-3mol/Lのフェノールスルホン酸亜鉛や2.8×10-4mol/Lのリン酸アスコルビルマグネシウムを含む液状組成物を用いて、硫黄臭低減効果が良好であるという効果を奏することが具体的に示されている。
よって、申立人の上記主張は採用できない
(3)申立理由3(サポート要件違反)及び取消理由4(実施可能要件違反)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1~4及び6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号又は同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願にされたものではなく、申立理由3(サポート要件違反)及び申立理由4(実施可能要件違反)には、理由がない。
第6 むすび
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
そして、取消理由通知書に記載した取消理由及び証拠、並びに、申立人の特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~4及び6に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに請求項1~4及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件訂正により、請求項5は削除されたため、申立人の請求項5に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったので、請求項5に係る特許についての特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8において準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700638