特許無効審判
2021-800096
次亜塩素酸水、次亜塩素酸水を調製するための組成物、及び次亜塩素酸水の判定用の試験紙
- 審判番号
- 2021-800096
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2020-205074
- 登録番号
- 6871663
- 請求日
- 2021年11月18日
- 審決日
- 2022年09月27日
- 公報発行日
- 2023年02月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】アジアJライン 株式会社
- 【請求人代理人】赤尾 直人
- 【被請求人】和日庵 株式会社
- 【被請求人代理人】辻田 朋子
- 【被請求人代理人】村松 大輔
- 審判長/審判官
- 審判長 日比野 隆治
- 審判官 金 公彦
- 審判官 山田 倍司
- 分類
- P1123.121-YAA(A01N) / P1123.536-YAA(A01N) / P1123.851-YAA(A01N) / P1123.852-YAA(A01N) / P1123.857-YAA(A01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第1項、特許法第134条の2第9項、特許法第36条第4号、特許法第134条の2第3項、特許法第2条第3項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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上記当事者間の特許第6871663号発明「次亜塩素酸水、次亜塩素酸水を調製するための組成物、及び次亜塩素酸水の判定用の試験紙」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第6871663号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3、6〕、4、5について訂正することを認める。
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 本件特許の出願から設定登録に至るまでの経緯
本件特許無効審判事件に係る特許第6871663号(以下、「本件特許」という。)は、和日庵株式会社(以下、「被請求人」という。)が保有するものであり、令和2年12月10日(優先権主張 令和2年5月27日、令和2年8月7日)に出願され、特願2020-205074号として審査され、令和3年4月20日に特許権の設定登録がされたものである(請求項の数は「6」、発明の名称は「次亜塩素酸水、次亜塩素酸水を調製するための組成物、及び次亜塩素酸水の判定用の試験紙」)。
2 本件特許無効審判事件における経緯
本件特許無効審判事件は、アジアJライン株式会社(以下、「請求人」という。)により請求されたものであって、別件無効審判2021-800059号事件において令和3年9月15日にされた特許請求の範囲の訂正請求を踏まえて、本件特許のうち、その請求項4及び5に係る特許を対象とするものである。
そして、本件特許無効審判事件における手続の経緯(提出書類等)は、概略、以下のとおりである。
令和3年11月18日 審判請求書及び上申書の提出(請求人)
同年12月17日 手続補正書の提出(請求人)
令和4年 3月10日 審判事件答弁書、訂正請求書及び上申書の提
出(被請求人)
同年 5月12日付け 審理事項通知
同年 5月30日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
同年 6月13日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
同年 6月17日 手続補正書の提出(被請求人)
同年 6月28日 第1回口頭審理
同年 7月11日 上申書の提出(請求人)
同年 7月26日 上申書の提出(被請求人)
同年 8月 5日 上申書の提出(請求人)
第2 両当事者の主張
1 請求の趣旨及び理由
(1) 請求の趣旨は、「特許第6871663号発明の特許請求の範囲の請求項4、5に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」というものである。
(2) 請求の理由(無効理由)は、無効理由1(実施可能要件違反)及び無効理由2(公然実施発明に基づく進歩性欠如)であり、更に、無効理由1は、請求項4に係る特許を対象とし、遊離塩素分子の濃度の測定方法に関連する無効理由(以下、「無効理由1-1」という。)と、請求項4、5に係る特許を対象とし、有効塩素濃度の測定方法に関連する無効理由(以下、「無効理由1-2」という。)に大別することができる。
そして、これらの無効理由の根拠となる事実として請求人が具体的に特定している事項(前提事項)及び無効理由の論旨は、審判請求書の記載などからみて、審理事項通知書の2(3)及び調書に記載したとおり、以下のように整理することができる。
なお、請求人が提出した証拠方法については、後記エに挙示した。
ア 無効理由1-1(実施可能要件違反)について
(ア) 請求人が実施可能要件違反を根拠付けるために前提としている事項とそれを立証する証拠等について
<前提事項1-1a> 請求項4には、遊離塩素分子の濃度の測定方法(決定方法)につき、「遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定されるものであること」と記載されているところ、本件特許明細書の段落【0011】の記載によれば、この測定方法(決定方法)については、同【0011】中の「非特許文献2」、すなわち、「甲第4号証の1」に掲載されているとされていること。
その証拠等は、以下のとおり。
・本件特許明細書の段落【0011】には、「【0011】・・・また、シリングアルダジンもこれらの塩素に呈色反応を示すことが知られている(非特許文献2を参照)。シリングアルダジンは、分子状の塩素と非電離状態の次亜塩素酸のような分子に結合した塩素の両方に反応し、且つ、両者との反応性に差があり、まず、分子状の塩素に対して発色し、次いで、結合型の塩素に反応し発色する。具体的には、1~2秒程度で分子状の塩素に対して発色し、次いで3秒以上で結合型の塩素に反応する。言い換えれば、接触後2秒以内の発色により、分子状の塩素濃度を知ることができる。」と記載されていること。
<前提事項1-1b> 当該「非特許文献2」、すなわち、「甲第4号証の1」には、当該測定方法(決定方法)について掲載されていないこと。
その証拠等は、以下のとおり。
・「甲第4号証の1」の記載内容。
<前提事項1-1c> シリングアルダジンを試薬として、水中の遊離塩素分子の濃度を測定する場合、2秒以内において客観的に有効な測定値を検出することは不可能であること。
その証拠等は、以下のとおり。
・「甲第4号証の2」の記載内容。
<前提事項1-1d> 実際に前記測定方法(決定方法)を用いた測定は行われていないこと。
その証拠等は、以下のとおり。
・審判請求書に説明なし。
(イ) 実施可能要件違反とする論旨
前記(ア)の前提事項に基づいて、請求人が実施可能要件違反を主張する論旨は、以下のとおり。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、前記測定方法(決定方法)は「非特許文献2」(甲第4号証の1)に掲載されているとされているが(前提事項1-1a)、そこに掲載はない(前提事項1-1b)。その上、そのような測定方法(決定方法)により決定することは客観的に不可能であって(前提事項1-1c)、現に当該決定は行われていない(前提事項1-1d)。
したがって、当業者は、請求項4に係る発明における前記測定方法(決定方法)により遊離塩素分子の濃度を決定することはできないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
イ 無効理由1-2(実施可能要件違反)について
(ア) 請求人が実施可能要件違反を根拠付けるために前提としている事項とそれを立証する証拠等について
<前提事項1-2a> 請求項4及び5に係る発明は、「次亜塩素酸の濃度が50~500ppm」であることを規定しているところ、この濃度は、DPD法によって測定されるものであること。
その証拠等は、以下のとおり。
・本件特許明細書の段落【0011】、【0060】の記載内容。
<前提事項1-2b> DPD法によって有効塩素濃度を測定した場合、「非電離型次亜塩素酸」だけではなく、「次亜塩素酸イオン」及び「遊離塩素分子」も測定対象となること。
その証拠等は、以下のとおり。
・甲第5号証の2の「2.3」、「2.4.1」、甲第5号証の1の記載内容。
<前提事項1-2c> 本件発明の「次亜塩素酸の濃度が50~500ppm」という規定における「次亜塩素酸の濃度」とは、「非電離型次亜塩素酸の濃度」のことであること。
その証拠等は、以下のとおり。
・審判請求書に説明なし。なお、本件特許に係る別件の無効審判請求事件である無効2021-800059号事件の審判請求書7頁では、本件特許明細書の段落【0037】、【0055】が挙げられている。
(イ) 実施可能要件違反とする論旨
前記(ア)の前提事項に基づいて、請求人が実施可能要件違反を主張する論旨は、以下のとおり。
請求項4及び5に係る発明は、「次亜塩素酸の濃度が50~500ppm」であることを規定し、また、当該「次亜塩素酸の濃度」とは、「非電離型次亜塩素酸の濃度」のことであって、「次亜塩素酸イオンの濃度」及び「遊離塩素分子の濃度」は捨象するものであるところ(前提事項1-2c)、当該「次亜塩素酸の濃度」は、DPD法により測定されるものであって(前提事項1-2a)、「次亜塩素酸イオンの濃度」も合わせて測定されてしまうため(前提事項1-2b)、当該規定に係る「次亜塩素酸の濃度」、すなわち「非電離型次亜塩素酸の濃度」の客観的な測定は不可能である。
したがって、当業者は、請求項4及び5に係る発明における「次亜塩素酸の濃度」を測定することはできないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
ウ 無効理由2(公然実施発明に基づく進歩性欠如)について
(ア) 請求人が公然実施発明に基づく進歩性欠如の根拠となる事実としている事項(前提事項)とそれを立証する証拠等について
<前提事項2a> 請求項4に係る発明における「前記遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定されるものであること」という発明特定事項は、「前記遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触による比色で決定されるものであること」と解する以外にないし、請求項4及び5に係る発明における「次亜塩素酸の濃度が50~500ppm」であるという発明特定事項は、「有効塩素濃度が50~500ppm」であると解する以外にないこと。
その証拠等は、以下のとおり。
・無効理由1の存在(無効理由1を度外視した場合の本件発明の認定)。
<前提事項2b> 商品名を「ジアグリーンタブレット500」とする錠剤は、本件特許に係る優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされたこと。
その証拠等は、以下のとおり。
・甲第1号証の1~甲第3号証の2の記載内容。
<前提事項2c> 前記錠剤は、その成分組成、及び、これを水によって希釈した場合の次亜塩素酸水の成分濃度などにつき、本件発明の規定を充足するものであること。
その証拠等は、以下のとおり。
・甲第2号証、甲第3号証の1、甲第5号証の2の記載内容。
<前提事項2d> シリングアルダジン試薬との接触による比色で遊離塩素分子の濃度を測定すること、及びDPD法またはSBT法で有効塩素濃度を測定することは、いずれも本件優先日前に公知であること。
その証拠等は、以下のとおり。
・甲第4号証の2、甲第5号証の1、甲第5号証の2の記載内容。
(イ) 公然実施発明に基づく進歩性欠如とする論旨
前記(ア)の前提事項に基づいて、請求人が公然実施発明に基づく進歩性欠如を主張する論旨は、以下のとおり。
請求項4及び5に係る発明の特許には、前記無効理由1-1及び無効理由1-2が存するが、仮に、前記無効理由1-1及び無効理由1-2に理由がないとした場合、請求項4に係る発明における「前記遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定されるものであること」という発明特定事項は、「前記遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触による比色で決定されるものであること」と、また、請求項4及び5に係る発明における「次亜塩素酸の濃度が50~500ppm」であるという発明特定事項は、「有効塩素濃度が50~500ppm」であると、それぞれ解して、これらの発明の要旨認定をするほかない(前提事項2a)。
このような発明の要旨認定を前提にすれば、請求項4及び5に係る発明は、商品名を「ジアグリーンタブレット500」とする錠剤と構成上差異はないし(前提事項2c)、当該錠剤は、本件特許に係る優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされたものであるから(前提事項2b)、請求項4及び5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然実施された発明及び公知の測定法(前提事項2d)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 証拠方法
甲第1号証の1:株式会社グリーンウエル,アジアJライン株式会社宛「御請求書」,2020年5月31日
甲第1号証の2:アジアJライン株式会社,TAKASHIMAYA TRANSCOSMOS INTERNATIONAL COMMERCE PTE. LTD.宛「売上伝票」,「納品書」,「受領書」,令和2年5月13日
甲第2号証:株式会社グリーンウエル,株式会社ジアグリーン,「JIAGREEN ジアグリーンタブレット500製品仕様書」,2020年7月28日
甲第3号証の1:足立康也,「陳述書(1)」,令和3年11月12日
甲第3号証の2:大場茂人,「陳述書(2)」,令和3年11月17日
甲第4号証の1:Lin Deng et al.,「Impact of tryptophan on the formation of TCNM in the process of UV/chlorine disinfection」,Environmental Science and Pollution Research, 2018年6月4日,No.25,p.23227~23235及びその抄訳文
甲第4号証の2:Robert Bauer et al.,「Use of Syringaldazine in Photometric Method for Estimating “Free” Chlorine in Water」, ANALYTICAL CHEMISTRY,1971年3月, Vol.43 No.3,p.421-425及びその抄訳文
甲第5号証の1:赤井仁志ら,「浴槽水でのDPD法とSBT法による遊離残留塩素濃度測定法に関する研究」,空気調和・衛生工学会論文集,2007年5月,No.122,p.1-7
甲第5号証の2:福崎智司著,「次亜塩素酸の科学-基礎と応用-」,第2刷,2015年7月3日,米田出版,p.16-25(当審注:「崎」は「山」に「立」に「可」と記載されている。)
甲第6号証の1:本件特許の審査過程で令和3年3月15日に特許権者により提出された意見書
甲第6号証の2:甲第6号証の1に添付された実験成績証明書(1)
甲第7号証の1:吉村壽次編集代表,「化学事典(第2版)」,第2版第1刷,2009年12月16日,森北出版株式会社,p.312
甲第7号証の2の1:請求人代理人 赤尾直人,「次亜塩素酸水 自分で作ってじゃぶじゃぶ使おう」,[online],令和3年10月25日,インターネット<URL:https://www.solmind.com/hclo/top.htm>
甲第7号証の2の2:請求人代理人 赤尾直人,「殺菌システム〈7つのメリット〉」,[online],令和3年10月26日,インターネット<URL:https://www.a-creo.co.jp/solution/sterilization/merits/>
甲第8号証:愛知県衛生研究所,「ジエチル-p-フェニレンジアミン(DPD)法による水中の残留塩素測定について」,「室内空気化学物質の測定法について」,「岡崎定点の中核市移行に伴う花粉定点の見直しについて」,愛知衛研技術情報,2002年12月9日,Vol.26 No.4,p.1-11
ここで、甲第1号証~甲第7号証の2の2は、審判請求書に添付して、甲第8号証は、令和4年5月30日提出の口頭審理陳述要領書に添付して、それぞれ提出されたものである。
2 答弁の趣旨及び理由
(1) 答弁の趣旨は、「特許第6871663号の特許請求の範囲の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを認める、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」というものである。
(2) 答弁の理由は、審判事件答弁書及び令和4年6月13日提出の口頭審理陳述要領書の記載からみて、概略、次のとおり整理することができる。
なお、被請求人が提出した証拠方法については、後記ウに挙示した。
ア 無効理由1(無効理由1-1、1-2)について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、訂正後の請求項4、5に係る発明の物を作れ、かつ、使用することができるような十分な記載を備えており、特許法第36条第4号第1号に規定する要件を満たしているので、無効理由1には理由がない。
イ 無効理由2について
請求人による発明の要旨認定及び引用発明の認定には誤りがあるので、無効理由2には理由がない。
ウ 証拠方法
乙第1号証:宮田善之,「実験成績証明書」,2022年2月10日
乙第2号証:被請求人代理人 辻田知子ら,「安全データシート 塩素」,[online],令和4年3月4日,インターネット<URL:https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/GHS_MSD_DET.aspx>
乙第3号証:宮田善之,「実験成績証明書」,2022年2月10日
乙第4号証:宮田善之,「実験成績証明書(乙1)補足書」,2022年5月20日
乙第5号証:宮田善之,「実験成績証明書(2)」,2022年5月24日
乙第6号証:中村伸吾ら,「細菌・ウイルス等微生物に対する次亜塩素酸水の効果とその活用」,防医大誌,2017年3月,第42巻第1号,p.8-14
乙第7号証:小野朋子ら,「弱酸性次亜塩素酸水溶液のアンモニアに対する消臭効果」,岡山実験動物研究会報,2018年4月,第34巻,p.36-39
乙第7号証-1:被請求人代理人 辻田知子ら,乙第7号証の出版情報が掲載されたウエブページ,[online],令和4年6月9日,インターネット<URL:https://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/ja/list/recent_additions/item/56031>
乙第8号証:中藤誉子ら,「次亜塩素酸水生成装置の標準化:JIS B 8701の制定」,機能水研究,2018年,Vol.13 No.2,p.19-26
乙第8号証-1:被請求人代理人 辻田知子ら,乙第8号証の出版情報が掲載されたウエブページ,[online],令和4年6月9日,インターネット<URL:www.fwf.or.public_g.html>
乙第9号証:厚生労働省,「次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムの同類性に関する資料」,厚生労働省 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会乳肉水産食品部会配付資料,平成21年8月19日,p.1~4
乙第9号証-1:被請求人代理人 辻田知子ら,乙第9号証の配布情報が掲載されたウエブページ,[online],令和4年6月9日,インターネット<URL:https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/08/s0819-8.html>
乙第10号証:堀田国元,「Hypochlorous Acid(HOCl) Water(HAW) A new disinfectant 次亜塩素酸水:電解製殺菌料」,Seminar at OIST,2017年10月12日
乙第11号証:Jim Huntley et al.,「Amperometric Probes or DPD Analyzers : Which Is Best For On-Line Chlorine Monitoring?」, Water World, 2009年及びその抄訳文
乙第12号証:Nikesh B. Samarth et al.,「Degradation of Polymer & Elastomer Exposed to Chlorinated Water-A Review」, Open Journal of Organic Polymer Materials, 2021年1月28日,p.1-50及びその抄訳文
乙第13号証:株式会社ジアグリーン,「経産省、厚労省、消費者庁合同発表要旨(2020年6月26日)」,作成日不明
ここで、乙第1号証~乙第2号証は、令和4年3月10日提出の審判事件答弁書に添付して、乙第3号証~乙第13号証は、令和4年6月13日提出の口頭審理陳述要領書に添付して、それぞれ提出されたものである。
第3 訂正請求についての当審の判断
1 訂正の内容
令和4年3月10日にされた訂正の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の具体的内容(訂正事項)は以下のとおりである(当審注:下線部は訂正箇所である。)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に
「前記遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定されるものであることを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載の組成物。」
と記載されているのを、
「水性媒体によって希釈したとき、pH5~7.5であり、次亜塩素酸の濃度が50~500ppmであり、遊離塩素分子の濃度が有効塩素濃度に比して少なく、前記遊離塩素分子の濃度が20ppm以下であり、有効成分が非電離型次亜塩素酸である、次亜塩素酸水を調製できる組成物であって、
1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含み、
前記遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定されるものであることを特徴とする、組成物(但し、前記水性媒体と前記組成物の何れにもアルカリ金属又はアルカリ土類金属の亜塩素酸塩が含まれない。)。」
に訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に
「前記有効塩素濃度が、DPD法による試験法またはSMT法による試験片で定量されるものであることを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載の組成物。」
と記載されているのを、
「水性媒体によって希釈したとき、pH5~7.5であり、次亜塩素酸の濃度が50~500ppmであり、遊離塩素分子の濃度が有効塩素濃度に比して少なく、前記遊離塩素分子の濃度が20ppm以下であり、有効成分が非電離型次亜塩素酸である、次亜塩素酸水を調製できる組成物であって、
1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含み、
前記有効塩素濃度が、DPD法による試験法またはSBT法による試験片で定量されるものであることを特徴とする、組成物(但し、前記水性媒体と前記組成物の何れにもアルカリ金属又はアルカリ土類金属の亜塩素酸塩が含まれない。)。」
に訂正する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(7) 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~6は、本件訂正前の請求項1を引用し、これら請求項1~6は一群の請求項を構成するものであるから、前記訂正事項1~6に係る本件訂正の請求は、特許法第134条の2第3項の規定に従い、この一群の請求項〔1~6〕を訂正の単位として請求されたものである。
そして、被請求人は、本件訂正後の請求項4及び5について、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項のほかの請求項とは別の訂正単位とすることを求めている。
2 訂正の適否についての検討
(1) 訂正事項1~3、6について
ア 訂正の目的について
訂正事項1~3、6に係る訂正はそれぞれ請求項1~3、6を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
イ 実質上の特許請求の範囲の拡張、又は変更の有無、新規事項の追加の有無について
前記アに記載のとおり、訂正事項1~3、6に係る訂正は請求項1~3、6を削除するものであるので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(2) 訂正事項4について
ア 訂正の目的について
訂正事項4に係る訂正は、本件訂正前の請求項4において請求項1~3のいずれか一項を引用していたのを、請求項1を引用するものについて独立形式に改めるものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮、及び、同第4号に掲げる、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
イ 実質上の特許請求の範囲の拡張、又は変更の有無、新規事項の追加の有無について
前記アに記載のとおり、訂正事項4に係る訂正は、本件訂正前の請求項4において請求項1~3のいずれか一項を引用していたのを、請求項1を引用するものについて独立形式に改めるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3) 訂正事項5について
ア 訂正の目的について
訂正事項5に係る訂正は、本件訂正前の請求項5において請求項1~4のいずれか一項を引用していたのを、請求項1を引用するものについて独立形式に改めるものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮、及び、同第4号に掲げる、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
また、訂正事項5に係る訂正は、「有効塩素濃度」の測定方法について、本件訂正前は「SMT法」と誤って記載されていたのを、「SBT法」に正すものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第2号に掲げる、誤記又は誤訳の訂正を目的とする訂正である。
イ 実質上の特許請求の範囲の拡張、又は変更の有無、新規事項の追加の有無について
前記アに記載のとおり、訂正事項5に係る前者の訂正は、単に本件訂正前の請求項5において請求項1~4のいずれか一項を引用していたのを、請求項1を引用するものについて独立形式に改めるものであり、後者の訂正は、願書に最初に添付した明細書の段落【0011】、【0016】、【0060】及び【0069】には、「有効塩素濃度」の測定方法が「SBT法」であることにつき正しく記載されているので、訂正事項5に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した(後者の訂正については願書に最初に添付した)明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(4) 独立特許要件について
本件特許無効審判の請求は、請求項4、5についてされているので、本件訂正後の請求項4、5に係る発明に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項所定の独立特許要件は課されない。
3 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、第2号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
そして、被請求人は、本件訂正後の請求項4及び5について、別の訂正単位とすることを求めているので、訂正後の請求項〔1~3、6〕、4、5について訂正することを認める。
第4 本件発明
本件訂正が認められたことにより、本件特許の請求項4及び5に係る発明(以下「本件発明4」、「本件発明5」といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項4及び5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
水性媒体によって希釈したとき、pH5~7.5であり、次亜塩素酸の濃度が50~500ppmであり、遊離塩素分子の濃度が有効塩素濃度に比して少なく、前記遊離塩素分子の濃度が20ppm以下であり、有効成分が非電離型次亜塩素酸である、次亜塩素酸水を調製できる組成物であって、
1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含み、
前記遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定されるものであることを特徴とする、組成物(但し、前記水性媒体と前記組成物の何れにもアルカリ金属又はアルカリ土類金属の亜塩素酸塩が含まれない。)。
【請求項5】
水性媒体によって希釈したとき、pH5~7.5であり、次亜塩素酸の濃度が50~500ppmであり、遊離塩素分子の濃度が有効塩素濃度に比して少なく、前記遊離塩素分子の濃度が20ppm以下であり、有効成分が非電離型次亜塩素酸である、次亜塩素酸水を調製できる組成物であって、
1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含み、
前記有効塩素濃度が、DPD法による試験法またはSBT法による試験片で定量されるものであることを特徴とする、組成物(但し、前記水性媒体と前記組成物の何れにもアルカリ金属又はアルカリ土類金属の亜塩素酸塩が含まれない。)。
【請求項6】
(削除)」
第5 無効理由についての当審の判断
当審は、前記第2の1(2)ア~ウのとおり整理した、無効理由1-1、無効理由1-2及び無効理由2について検討したところ、各無効理由の前提事項自体に誤認があり、このような前提事項に基づく各無効理由の論旨は、その前提を欠くものといわざるを得ないから、いずれの無効理由も理由がない、と判断する。
以下、そのように判断した理由について詳述する。
なお、請求人が主張する無効理由の骨子は、上述のとおり整理したものであって、第1回口頭審理において請求人も承諾したところであるため、本来、当該骨子から外れる請求人の主張等については子細な検討を要しないが、念のため、請求人が口頭審理陳述要領書や上申書においてるる主張する点についても併せて検討するとともに、無効理由1-1及び無効理由1-2については、実施可能要件についての一般的な判断基準に照らした場合の検討を、更に、無効理由2については、請求人の論旨とは別に進歩性についての精緻な検討を加えることとした。
1 無効理由1-1及び1-2(実施可能要件違反)について
(1) 実施可能要件の一般的な判断基準
明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かという観点から判断されるべきであると解される(知財高裁平成29年(行ケ)第10138号)。
また、物の発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為であるから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について前記実施可能要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明において、当業者が、明細書の発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、かつ、使用することができる程度の記載があることを要すると解される(知財高裁平成26年(行ケ)第10238号、平成29年(行ケ)第10143号、平成27年(行ケ)第10249号など)。
(2) 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載事項
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。)。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス除染用の次亜塩素酸水及び組成物に関し、更に詳細には、保存安定性にすぐれるウイルス除染用の組成物に関する。本発明は、病原体除去用の組成物である次亜塩素酸の効果と毒性とを的確に判別する試験紙に関し、更に詳細には、該試験紙によって証明された有効且つ安全な次亜塩素酸組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスなどの病原体の除染は病原体による感染症の予後措置及び予防措置上重要な技術であり、これまで消毒用エタノールや、ホルマリン燻蒸、次亜塩素酸塩を主成分とする汎用殺菌剤などで行われてきている。しかしながら、室内全体を安全に殺菌する方法はこれまで知られておらず、わずかに、電解次亜塩素酸を噴霧する方法が知られているが、非電離型次亜塩素酸については、塩化ナトリウム水溶液の電気分解により生じるが、この様に生成した非電離型次亜塩素酸水は、一時的にしか存在せず、すぐに塩素と水に分解することも知られている。この為、塩素による毒性発現が問題となっていた。
【0003】
そのほかには、次亜塩素酸乃至はその塩の毒性があまり発現せず、殺菌作用にすぐれる非電解非電離型次亜塩素酸を使用時に発生させる、トリクロロイソシアヌル酸を利用した錠剤と、それを水に溶かすによって生じる液をドライミスト化し、広域空間の殺菌に用いる方法が開発されている(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。また、トリクロロイソシアヌル酸については、殺菌剤への応用は既に知られている(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6を参照)。さらに、ジクロロイソシアヌル酸を中心とする塩化イソシアヌル酸類に消臭・殺菌作用があることも知られている(特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11を参照)。
【0004】
新型コロナウイルスに代表される、コロナウイルス科のウイルスは、エアゾール感染を起こし、且つ、壁面などの表面上に長時間生存することがわかっており、この様な住空間滞在性の高い病原ウイルスの有効な除去手段が、新型コロナウイルス感染のアウトブレーク後、求められるようになってきた。特に、安全性を必要とする空間除染においては、この様な素材が強く望まれている。
【0005】
また、非電離型次亜塩素酸については、塩化ナトリウム水溶液の電気分解により生じることが知られているが、この様に生成した非電離型次亜塩素酸水は、一時的にしか存在せず、すぐに塩素と水に分解することも知られている。この為、塩素による毒性発現が問題となっていた。それであっても、NITEの発表では35ppmで、コロナ属のウイルスの抑制に有効とされている。
・・・
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】赤井仁志ら「空気・衛生工学論文集」122巻、2007、1-6
【非特許文献2】Lin Deng et.al.Environ Sci Pollut Res Int. 2018 Aug;25(23):23227-23235
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況下為されたものであり、この様な住空間滞在性の高い病原ウイルスの有効で安全な除去手段を提供することを目的とする。また、本発明は、そのような有効で安全な除去手段を判別する手段を提供することを目的とする。」
イ 「【課題を解決するための手段】
【0009】
このような状況に鑑みて住空間滞在性の高い病原ウイルスの有効な除去手段を求めて鋭意研究努力を重ねた結果、本発明者らは、トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選択される1種乃至は2種以上を、緩衝塩の存在下、水性担体に溶解せしめて発生させた非電離型次亜塩素酸が、ウイルスを、人の存在下、有効に除去できることを見出した。
【0010】
このような非電離型次亜塩素酸が、毒性を示さずに、有効な除菌効果を示すのは、除菌効果が非電離型次亜塩素酸そのものにあり、これが分解してできる塩素分子に依存しないためである。非電離型次亜塩素酸は、緩衝塩によって水素イオンが電離しない形に安定化されており、かかる次亜塩素酸における水素原子は酸としての性格よりも、酸素原子とともに水酸基に近い性質を示すことになる。この様な次亜塩素酸については、塩素分子の生成量が少ないと言うことを本発明者らは見出している。
加えて、病原体に対する除染効果も、塩素分子を有効成分とする、次亜塩素酸ナトリウムや電解次亜塩素酸水よりも高いことを本発明者らは見出しているし、生体に対する毒性と、病原体に対する毒性の差が大きいことも見出している。
【0011】
従って、次亜塩素酸類の使用に際しては、この様な非電離型次亜塩素酸が、塩素分子に対してどれだけ多く存在しているかが、安全に効果が高く使えるかの指標になるが、この点について言究した公表資料は存在しない。それ故、非電離型次亜塩素酸量と塩素分子量とを同時に判別する方法は存在しない。次亜塩素酸由来の塩素と、塩素分子に由来する塩素を測定する方法としては、DPD(N,Nージエチルフェニレンジアミン)法やSBT法が知られている(非特許文献1を参照)。また、シリングアルダジンもこれらの塩素に呈色反応を示すことが知られている(非特許文献2を参照)。シリングアルダジンは、分子状の塩素と非電離状態の次亜塩素酸のような分子に結合した塩素の両方に反応し、且つ、両者との反応性に差があり、まず、分子状の塩素に対して発色し、次いで、結合型の塩素に反応し発色する。具体的には、1~2秒程度で分子状の塩素に対して発色し、次いで3秒以上で結合型の塩素に反応する。言い換えれば、接触後2秒以内の発色により、分子状の塩素濃度を知ることができる。
【0012】
このような状況に鑑みて住空間滞在性の高い病原ウイルスの有効な除去手段を求めて鋭意研究努力を重ねた結果、非電離型次亜塩素酸を主成分とし、塩素分子の含有量が少ない次亜塩素酸水を鑑別し用いることにより、この様な目的が達成されることを見出した。」
ウ 「【発明の効果】
【0015】
本発明の次亜塩素水及び組成物によれば、安全で、住空間滞在性の高い病原ウイルスなどの病原体の有効な除去手段を提供することができる。また、本発明の試験紙によれば、そのような有効で安全な除去手段を判別する手段を提供することができる。」
エ 「【発明を実施するための形態】
【0017】
<次亜塩素酸水>
本発明の次亜塩素酸水はpH5~7.5である。より好ましくはpH6以上、さらに好ましくはpH6.3以上である。また、本発明の次亜塩素酸は、好ましくはpH7.3以下であり、より好ましくはpH7以下である。pHの値は通常市販されているpH測定計またはpH試験紙により測定することができる。
【0018】
本発明の次亜塩素酸の遊離塩素分子の濃度は、有効塩素濃度に比し低く、具体的には20ppm以下であり、・・・さらに好ましくは1ppm以下である。本発明の次亜塩素酸の遊離塩素分子の濃度は0ppmであってもよい。これは従来次亜塩素酸の有効成分が遊離の塩素分子であったところ、本願発明の次亜塩素酸では、非電離型の次亜塩素酸そのものであるためである。
【0019】
遊離の塩素分子の濃度は、シリングアルダジン試薬により測定することができる。シリングアルダジンは、分子状の塩素と非電離状態の次亜塩素酸のような分子に結合した塩素の両方に反応し、且つ、両者との反応性に差があり、まず、分子状の塩素に対して発色し、次いで、結合型の塩素に反応し発色する。具体的には、1~2秒程度で分子状の塩素に対して発色し、次いで3秒以上で結合型の塩素に反応する。言い換えれば、接触後2秒以内の発色により、次亜塩素酸水における分子状の塩素濃度を知ることができる。
・・・
【0024】
本発明の好ましい実施の形態では、本発明の次亜塩素酸水は緩衝塩を含む。緩衝塩としては、ジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸が分解して出来るイソシアヌル酸や、炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウムのような炭酸水素塩、クエン酸、クエン酸ナトリウムのようなクエン酸塩、リン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素1ナトリウムのようなリン酸塩、ホウ酸、乳酸、乳酸ナトリウムのような乳酸塩などが好適に例示できる。硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウムなどの強酸強塩基の塩も系を安定させるので緩衝塩に分類される。」
オ 「【0029】
<組成物>
本発明は次亜塩素酸水を調製することができる組成物にも関する。
本発明の一つの実施形態は、1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む、組成物である。
【0030】
また、本発明の一つの実施形態では、水性媒体によって希釈したときに、上述した本発明の次亜塩素酸水を調製できる組成物である。具体的には、本発明は、1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む組成物であって、3)水性媒体で希釈したときのpHが5~7.5であり、4)遊離の塩素濃度が10ppm以下である、組成物にも関する。
【0031】
上記水性媒体としては、水又は水溶液を例示することができ、水溶液としては酸性水溶液を好適に例示することができる。また、水性媒体による希釈率は、好ましくは100質量倍以上、より好ましくは200質量倍以上、さらに好ましくは500質量倍以上とすることができる。また、水性媒体による希釈率は、好ましくは10000倍以下、より好ましくは8000倍以下、さらに好ましくは6000質量倍以下、さらに好ましくは4000質量倍以下、さらに好ましくは2000質量倍以下、さらに好ましくは1000質量倍以下とすることができる。
【0032】
一つの実施形態として、1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む組成物であって、3)500質量倍の水を加えたときのpHが6~7.5であり、4)遊離の塩素濃度が10ppm以下である、ウイルス除染用の組成物が挙げられる。
【0033】
本発明の主旨は、前述のごとく、安定で、使用しやすく、安全性の高い抗ウイルス所専用の組成物を提供することにある。この実現方法として、トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩の1種乃至は2種以上を、緩衝塩とともに製剤化し、必要に応じて、用時に水で溶解し、非電離型次亜塩素酸を発生せしめることが好ましい。
【0034】
このように発生せしめた次亜塩素酸は非電離型の水溶液として、ウイルス除染に適用される。このような水溶液の持つべき要件は、以下の(i)及び(ii)の2点である。
【0035】
(i)pH5~7.5である。
好ましくはpH6以上、さらに好ましくはpH6.3以上である。また、好ましくはpH7.3以下であり、より好ましくはpH7以下である。
【0036】
(ii)遊離の塩素分子の濃度が20ppm以下の域であれば、10ppm以下である。
遊離の塩素分子の濃度は、好ましくは9ppm以下、・・・さらに好ましくは1ppm以下である。また、遊離塩素分子の濃度は0ppmであってもよい。
また、有効塩素濃度との関係においては、有効塩素濃度に対して10%以下が好ましく、5%以下が更に好ましい。
後述の本発明の製造法によれば、遊離の塩素は0.1乃至は0.5ppm程度に抑えることができる。
【0037】
さらには、以下の(iii)の要件を満たすことが好ましい。
(iii)有効塩素量が10ppm以上である。
有効塩素量は、好ましくは20ppm以上、・・・さらに好ましくは150ppm以上である。また、有効塩素量は、好ましくは1000ppm以下、・・・さらに好ましくは500ppm以下である。
【0038】
このような数値範囲に本発明の組成物を収めることにより、水素イオンと、次亜塩素酸イオンに電離しない、非電離型次亜塩素酸を形成せしめ、ウイルス除去効果と、安全性を高めることが出来る。このような効果をもたらす理由は、ウイルスに対して、塩素分子が作用するのではなく、次亜塩素酸が直接作用するためと考えられる。
【0039】
このような組成物は、水溶液の形態も取ることができるし、粉末組成物或いは錠剤のような固形製剤組成物とし、用時に水性担体に溶解させて使用することもできる。例えば、固形製剤を仮定した場合であって、1Lの水性担体に溶解させて使用する使用形態を考えれば、200ppm程度の次亜塩素酸を生成せしめるには、200~300mgのトリクロロイソシアヌル酸、乃至は、300~500mgのジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが必要となる。
【0040】
組成物におけるジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸及びこれらの塩の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である。
また、組成物におけるジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸及びこれらの塩の含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは65質量%以下である。
上記含有量の数値は、好ましくは組成物に含まれる水以外の成分の総量に対する含有量である。
【0041】
ジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸及びこれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上を用いて、この様な非電離型次亜塩素酸を生成するためには、これらに対して0.1~5当量の緩衝塩を用いることが好ましい。緩衝塩としては、分解して出来るイソシアヌル酸、炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウムのような炭酸水素塩、クエン酸、クエン酸ナトリウムのようなクエン酸塩、リン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素1ナトリウムのようなリン酸塩、ホウ酸、乳酸、乳酸ナトリウムのような乳酸塩などが好適に例示できる。硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウムなどの強酸強塩基の塩も系を安定させるので緩衝塩に分類される。かかる成分は、常法に従い処理し、粉末、顆粒、錠剤に加工される。本発明の固形組成物としては、これらのいずれもが利用できる。
・・・
【0044】
これらの成分は、常法にしたがって処理することにより、顆粒、錠剤などの固形製剤、希釈して用いる濃縮タイプの液剤などに加工することができる。
本発明の好ましい実施の形態では、1)ジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸及びこれらの塩と、2)緩衝塩を含む処方成分を好ましくは5分以上、より好ましくは6分以上、さらに好ましくは7分以上、さらに好ましくは8分以上、さらに好ましくは9分以上、攪拌混合することで組成物を調製することができる。好ましくは、当該攪拌混合の工程においては、水を添加しない。また、当該攪拌混合は、公知の何れの手段で実施してもよいが、ヘンシェルミキサーによる攪拌混合を好適に例示することができる。
上記の時間範囲にて攪拌混合を行うことによって、組成物を水性媒体に溶解したときに生じる遊離の塩素分子の濃度を低減することができる。
【0045】
このようにして製剤化された本発明の組成物を、水性媒体で溶解或いは希釈することにより発生する非電離型次亜塩素酸は、次亜塩素酸塩と異なり、滅菌性は維持するものの、生体に対する毒性は大きく軽減し、錠剤そのもののLD50値はマウスに対して1g/匹(推定100g/Kg)を越える。次亜塩素酸ソーダのような電解型では1g/Kgであること(http://www.jsia.gr.jp/data/naclo.pdf)に比べて、格段に低いことがわかる。また、液性は中性(pH6~7)であるため、アルカリによる腐食性も存しない。
・・・
【0047】
前記、トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸を水に溶かしたときに、電離型ではなく非電離型の次亜塩素酸にとどめる作用は、前記緩衝塩による。」
カ 「【0048】
<試験紙>
本発明は、次亜塩素酸の効果と毒性の判別のための試験紙であって、有効塩素濃度を測定する試験片、pHを測定する試験片及び遊離塩素分子濃度を測定する試験片とを独立に備えた、試験紙にも関する。
【0049】
ここで「試験片」とは少なくとも呈色部を含む試験紙及びその一部を意味する。有効塩素濃度を測定する試験紙の呈色部と、pHを測定する試験紙の呈色部と、遊離塩素分子濃度を測定する試験紙の呈色部が、同一の試験紙上に設けられた試験紙(図1参照)も、本発明の範囲に含まれる。また、上記3つの試験紙を互いに独立して備える試験紙のセットも本発明の範囲に含まれる。
・・・
【0057】
(i)pHを測定する手段については、通常市販されているpH試験紙を用いることもできるし、チモールブルーなどの試薬をアルコールなどに溶解し、紙上に噴霧コートし調製した試験紙を用いることもできる。
【0058】
(ii)遊離の塩素濃度を測定する手段としては、シリングアルダジンを呈色薬に用いることが好ましく、シリングアルダジンを呈色試薬としてコートした試験紙を用いることもできる。試験紙は、シリングアルダジンを溶剤に溶解し、紙上に噴霧し試験紙を調製することもできる。
【0059】
シリングアルダジンは低濃度の有効塩素濃度を測定する呈色であるが、次亜塩素酸由来の塩素に対する呈色反応の速度と、遊離の塩素分子に対する呈色反応の速度が異なり、接触後3秒以内に比色すると遊離の塩素分子の濃度が測定できる。市販の試験紙(日産化学工業株式会社製、「残留塩素試験紙 アクアチェック3」)においては、上限は10ppmである。これを越えると黒み帯びた色になり、濃度の上昇に応じた変化を示さない。
【0060】
(iii)有効塩素量を測定する手段については、DPDあるいはSBTといった試薬が知られている。これらを試験紙に加工した製品も販売されており、これを用いることもできるし、これらの試薬をアルコールに溶解し、紙媒体にコートすることもできる。
【0061】
これらの試験紙を、市販品であれば、呈色部を2~6mm×2~6mmの小片に切り出し、2~10mm×30~100mmの紙小片に順次両面テープなどで貼付することにより鑑別試験紙が製造できる。試験紙については、呈色程度とこれらの数値を照らし合わせる基準色票を添付することが好ましい(図2)。」
キ 「【0068】
以下、実施例を示して、本発明について更に詳細に説明を加える。
【実施例1】
【0069】
<試験紙の作成>
6mm×50mmの紙片に、市販のSBT法の有効塩素試験片6mm×6mm、市販の万能試験片6mm×6mm、シリングアルダジン1mgを1mlのジメチルホルムアミドに溶解し、これを10mlのメタノールで希釈した液をA4の画用紙に均一に噴霧し、溶剤を揮散させ、試験紙を作成し、これから6mm×6mmの紙片を切り出し、これらを順次両面テープで貼付し、本発明の試験紙を作成した。
【実施例2】
【0070】
<トリクロロイソシアヌル酸錠の作成>
以下に示す処方に従って、即ち、処方成分をヘンシェルミキサーで10分間、混合した後、1gを秤量し、打錠機で打錠して錠剤を得た。この錠剤を水道水5lで溶かしたところ、直ちに溶解し、溶液について、実施例1の試験紙で判別を行ったところ、pHは6.5で次亜塩素酸の濃度は100ppmで、溶解直後の遊離塩素分子濃度は0.2ppmあった。このものは異臭がほとんどなかった。
【0071】
【表1】
[図:0001393730000001.jpg]
【実施例3】
【0072】
実施例2の錠剤調整において、混合時間を3分とし、それ以外は実施例2と同様に操作し、溶液について実施例1の試験紙で測定したところ、pHは7.5で有効塩素濃度は100ppm、遊離の塩素分子は10ppmを越えてスケールオーバーしていた。希釈してスケール内に比色をおさめ測定したところ、20ppmであり、このものは刺激臭が強かった。
【実施例4】
【0073】
実施例2と同様に、表2の成分を処理し、粉末製剤の組成物を得た。このもの1.3gを秤量し、これに水2Lを加え、実使用液を調整した。この液に実施例1の試験紙を接触させて、標準と比色したところ。pHは6であり、有効塩素濃度は200ppmであり、遊離の塩素分子の濃度は10ppmであった。このものは多少の異臭はするものの、刺激を感じるには至らなかった。
【0074】
【表2】
[図:0001393730000002.jpg]
【実施例5】
【0075】
実施例2と同様に表3にしたがって、粉末を作成し、このもの1.17gを秤量し、0.13mgのクエン酸を溶かした2Lの水に溶かした。このものに実施例1の試験紙を接触させ、標準色票と比色したところ、pH6.0であり、有効塩素濃度は200ppmであり、遊離の塩素分子濃度は5ppmであった。異臭は極めて軽度であった。刺激はほとんど感じなかった。これより、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを用いる場合には、酸性の水性媒体に溶解せしめて実用液を製造することが好ましいことがわかる。
【0076】
【表3】
[図:0001393730000003.jpg]
【実施例6】
【0077】
実施例2の100ppmの実使用液について、豚コロナウイルスに対する作用を調べた。ベロ細胞に豚コロナウイルスを感染させ、予め計測した実使用液のTCIDの検出限界値で10分処理した場合としなかった場合でのウイルス減少率を算出した。接種後 10 分で<10 0.5 TCID50 / mL(検出限界未満)であり、ウイルスの減少率は99.999%を上回ることがわかった。これより、本発明の組成物はコロナウイルスの除染に用いることができることがわかる。また、遊離の塩素分子濃度が低いことから活性本体は次亜塩素酸そのものであることもわかる。NITEによれば次亜塩素酸のコロナ属のウイルスに対する有効濃度は有効塩素量として35ppmであり、この製剤はその数値を遙かにしのぐものである。このように非電離型次亜塩素酸と、通常の電離可能な次亜塩素酸において差異があることは、これを的確に鑑別できる技術が必要であり、本発明の試験紙はその必要性を充足するものであることがわかる。故に、本発明の試験紙で効果と安全性が確認された次亜塩素酸水はいままで全く概念として存在せず、その効果と安全性は著しく、従来知られている次亜塩素酸水とは全く異なるものである。
【0078】
<実施例のまとめ>
実施例2~5についてまとめると、表4のようになる。すなわち、次亜塩素酸の発生源は、トリクロロイソシアヌル酸(TCCA)でも、ジクロロイソシアヌル酸あるいはその塩(DCCN)でも良く、同じ処方であっても製法により遊離の塩素分子の質量は変わり、それにより刺激の強さも変わる。遊離の塩素量は20ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましい。これは、本発明の試験紙のシリングアルダジンの呈色反応により知ることが出来る。
【0079】
【表4】
[図:0001393730000004.jpg]
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明はコロナウイルスなどのウイルスや病原体の除染に適用できる。」
ク 「【図1】
[図:0001393730000005.jpg]
【図2】
[図:0001393730000006.jpg]
」
(3) 本件特許明細書における用語の意味
ここで、本件特許明細書(さらには本件特許請求の範囲)において使用されている用語の意味について、あらかじめ整理をしておく。
本件特許明細書において用いられている、次のア~オの用語の意味は、審理事項通知書の2(5)に記載した、以下のとおりの内容と理解されるものである。
なお、以下に示す用語の意味の解釈については、両当事者間に争いはない。
ア 有効塩素:HClO、ClO-、Cl2の総称
イ 非電離型次亜塩素酸:溶液中で電離していない次亜塩素酸(HClO)
ウ 電離型次亜塩素酸、次亜塩素酸イオン:溶液中で電離している次亜塩素酸(ClO-)
エ 塩素分子、遊離塩素分子、遊離の塩素分子:溶液中に溶解して存在している塩素分子(Cl2)
オ 次亜塩素酸:非電離型次亜塩素酸(HClO)と電離型次亜塩素酸(ClO-)の総称
(4) 無効理由1-1について
ア 請求人の論旨等に沿った検討
始めに、前記第2の1(2)ア(ア)の前提事項1-1a~前提事項1-1dに基づいた、同(イ)の実施可能要件違反とする論旨に沿って検討する。
まず、前提事項1-1aにおいて請求人が着目している、本件特許明細書の段落【0011】(前記(2)イ)をみると、そこには、「シリングアルダジンは、分子状の塩素と非電離状態の次亜塩素酸のような分子に結合した塩素の両方に反応し、且つ、両者との反応性に差があり、まず、分子状の塩素に対して発色し、次いで、結合型の塩素に反応し発色する。具体的には、1~2秒程度で分子状の塩素に対して発色し、次いで3秒以上で結合型の塩素に反応する。言い換えれば、接触後2秒以内の発色により、分子状の塩素濃度を知ることができる。」との記載がある。また、同段落【0019】(前記(2)エ)には、「具体的には、1~2秒程度で分子状の塩素に対して発色し、次いで3秒以上で結合型の塩素に反応する。言い換えれば、接触後2秒以内の発色により、次亜塩素酸水における分子状の塩素濃度を知ることができる。」と記載されている。これらの記載によれば、分子状の塩素すなわち「遊離塩素分子」と、結合型の塩素すなわち「次亜塩素酸」の両方に反応するシリングアルダジン試薬は、接触後1~2秒程度で「遊離塩素分子」に対して発色し、次いで3秒以上で「次亜塩素酸」に反応するような特性を有していることが分かる。
ここで、前記の段落の記載は、シリングアルダジン試薬による呈色反応につき、接触後1~2秒程度で「遊離塩素分子」に対して発色し、3秒以上で「次亜塩素酸」に反応する、としているが、例えば、接触後2秒あるいは3秒を境にして、「遊離塩素分子」と「次亜塩素酸」とがしゅん別された反応が生じること、すなわち、接触後2秒以前は「遊離塩素分子」のみが反応し、接触後3秒以後は「次亜塩素酸」のみが反応することは、技術常識からみて考え難い。この点は、後述の請求人の指摘のとおりと解される。その上、前記「1~2秒程度で分子状の塩素に対して発色し、次いで3秒以上で結合型の塩素に反応する」との記載からみれば、少なくとも接触後2秒程度から3秒の間は、必ずしも「遊離塩素分子」と「次亜塩素酸」とがしゅん別されて反応しているとは解されないことから、当該段落の記載は、結局、本件特許の優先日当時の技術常識に照らすと、シリングアルダジン試薬と主体的に反応する対象について、おおよその傾向(シリングアルダジン試薬のおおよその特性)を教示したものと理解するのが合理的である。
そうである以上、本件発明4においては、そのようなシリングアルダジン試薬の特性を利用して、「遊離塩素分子の濃度」が決定されるものであることから、この決定方法は、実際に「遊離塩素分子」及び「次亜塩素酸」のいずれが反応しているかに拘泥するものではなく、単に、接触後2秒以内の発色を「遊離塩素分子の濃度」とみなして測定するものと解するのが相当であるし、前記技術常識からみて、そのように解するほかない。そして、本件発明4における「遊離塩素分子の濃度」の決定方法は、当該濃度を擬制した測定方法である以上、この測定方法自体が実際の遊離塩素分子の濃度を正確に測定し得るものであるか否かを問題にする必要はないが、当該測定方法がおおむね妥当であることは、前記(2)キ(段落【0078】~【0079】)の記載によって裏付けられている。すなわち、同段落の記載によれば、当該測定方法によって測定された「遊離塩素分子の濃度」が低ければ水溶液の刺激臭が弱く、高ければ水溶液の刺激臭が強くなることが看取されるから、前記「遊離塩素分子の濃度」は、実際の遊離塩素分子の濃度を色濃く反映していることが推認できるものである。
以上をまとめると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明4における「遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定されるものである」という測定方法(決定方法)とは、シリングアルダジン試薬の特性を利用して、当該濃度を擬制する、便宜的な測定手法(当該濃度と便宜的にみなす測定手法)と理解するのが合理的である。
一方、前提事項1-1a~前提事項1-1dは、総じて、本件発明4における測定方法(決定方法)を、実際の遊離塩素分子の濃度を正確に測定するものと解した上で、そのような正確な測定は不可能であることをいうものである。
確かに、前記技術常識に照らすと、本件発明4のようなシリングアルダジン試薬による測定方法によって、実際の遊離塩素分子の濃度の正確な値を測定することは不可能であるかもしれない。しかしながら、本件発明4は、前記便宜的な測定手法を採用したものであって、実際の遊離塩素分子の濃度の正確な値を測定するものではないから、前提事項1-1a~前提事項1-1dには、本件発明4における「遊離塩素分子の濃度」の測定方法(決定方法)についての誤認があるというべきである。
したがって、前提事項1-1a~前提事項1-1dは、本件発明4についての実施可能要件を論ずるための根拠事実として妥当でないので、これらの前提事項に基づく前記論旨を採用して、請求人が主張する実施要件違反に係る無効理由1-1に理由があるということはできない。
イ 請求人の種々の主張についての検討
次に、請求人が、無効理由1-1に関し、口頭審理陳述要領書などにおいてるる主張する点について、ここで検討しておく。
(ア) 請求人は、口頭審理陳述要領書において、概略、以下の旨を主張している。
a 本件発明4は、全遊離塩素分子が2秒以内にシリングアルダジンと反応し、そのほかの有効塩素(非電離型次亜塩素酸、電離型次亜塩素酸)は、当該2秒間にシリングアルダジンと反応せずに、2秒後の段階で反応する、という反応状況を必要不可欠とするが、本件特許明細書には、段落【0011】を含めて、このような反応状況が成立する根拠を全く説明していない。
また、前記反応状況を確認するには、シリングアルダジンとの呈色反応において、「遊離塩素分子」とそのほかの有効塩素の反応による色がしゅん別可能でなければならないが、これらの色が相違することはあり得ないので、シリングアルダジンとの呈色反応により「遊離塩素分子の濃度」を測定することは不可能であり、このことは、甲第4号証の2のFig.2の記載からも裏付けられるものである(3ページ11行~7ページ4行)。
b 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からは、前記aの反応状況が成立することも、「遊離塩素分子」とそのほかの有効塩素の反応による色がしゅん別可能であることも、確認することができないから、前記発明の詳細な説明の記載は、知的財産高等裁判所平成29年(行ケ)第10138号事件判決の基準を充足しない(7ページ5行~8ページ4行)。
c 甲第4号証の1には、シリングアルダジンに関する記載はなく、前記aの反応状況が成立することも、「遊離塩素分子」とそのほかの有効塩素の反応による色がしゅん別可能であることも確認できないし、甲第4号証の2の記載からも、「遊離塩素分子の濃度」を2秒以内に検出することは不可能であり、本件発明4が実施不可能であることが裏付けられるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たさない(8ページ5行~10ページ12行)。
d 本件特許明細書の段落【0011】及び【0019】は、単に「1~2秒程度で分子状の塩素に対して発色」という断定を行っているに過ぎず、前記aの反応状況の根拠を明らかにしていないし、本件特許明細書は、実施例2~5に記載の「遊離塩素分子の濃度」が2秒以内に測定されたことを明らかにしていない上、実施例2~5によっても、また、「遊離塩素分子の濃度」と刺激臭が対応関係にあることが技術常識であるとしても、前記aの反応状況の根拠が不明であることに変わりはないので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たさない(10ページ13行~11ページ15行)。
e 乙第1号証の実験により、シリングアルダジンによる2秒後の測定値が「遊離塩素分子の濃度」を反映しているとしても、2秒間の間にほかの有効塩素がシリングアルダジンと反応していないことを裏付けたことにはならず、前記aの反応状況を裏付けていないから、乙第1号証の実験によっても、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たさないことに変わりはない(11ページ16行~12ページ15行)。
(イ) そこで、以下、前記(ア)の主張について検討する。
確かに請求人が前記(ア)aにおいて指摘するように、シリングアルダジン試薬との呈色反応において、「遊離塩素分子」の反応色のみをしゅん別することは困難であると考えるのが妥当である。しかし、そうであるからこそ、前記アにおいて説示したとおり、本件特許明細書の記載は、シリングアルダジン試薬のおおよその特性を教示したものに過ぎないし、本件発明4における測定方法(決定方法)は、実際に「遊離塩素分子」及び「次亜塩素酸」のいずれが反応しているかに拘泥したものではなく、接触後2秒以内の発色を「遊離塩素分子の濃度」とみなして測定する便宜的な手法に過ぎないと理解すべきなのである。そのため、本件発明4において、前記(ア)aの反応状況の成立が必要不可欠であるわけではないし、前記(ア)aの反応色がしゅん別可能でなければならないわけでもない。そして、このことは、甲第4号証の2のFig.2の記載(後記2(3)イ(4-2b))などに左右されるものでもないから、前記(ア)a~eの主張は、いずれもその前提において誤りがあるといわざるを得ない。
また、前記(2)キの記載によれば、実施例2~5は、実施例1のシリングアルダジン試験片を用いて「遊離塩素分子の濃度」を測定しているのであり、前記(2)イ、エの段落【0011】及び【0019】の記載からみれば、実施例2~5における「遊離塩素分子の濃度」の測定は、前記便宜的測定手法により行われたものと解するのが合理的である。
してみれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明4に関して実施可能要件に適合するというべきであるので、前記(ア)a~eの主張はいずれも採用できない。
(ウ) 請求人は、令和4年7月11日提出の上申書において、概略、以下の旨を主張している。
a 本件特許明細書においては、どうして分子状の塩素がシリングアルダジンと接触した2秒以内に、発色反応を終了するかの理論上または実験上の根拠が全く明らかにされておらず、甲第4号証の2のFig.2は、本件特許明細書の段落【0011】及び【0019】に記載された、塩素分子とシリングアルダジンとの接触による呈色反応が2秒以内に実現され、3秒以降に結合型の塩素によって実現されるという呈色反応が成立しないことを裏付けているから、本件発明4が実施不可能であることを裏付けているし、本件特許明細書の実施例2及び3は実施可能要件違反を覆す理由にはならない(3ページ3行~7ページ16行、9ページ16行~10ページ10行)。
b 本件発明4の「前記遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定されるものである」との発明特定事項は、シリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色の数値が、「遊離塩素分子の濃度」に該当することを意味しており、前記比色の数値が「遊離塩素分子の濃度」以外の結合型の塩素の濃度をも含むとしても、「遊離塩素分子の濃度」とみなすことまで特定しているわけではないし、発明の詳細な説明にもこのことを裏付ける記載はないから、本件発明4において、「遊離塩素分子の濃度」について、シリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色によって決定した数値を「遊離塩素分子の」濃度として擬制していることを導出することは不可能である。
また、本件特許明細書の実施例2~5も、前記擬制を裏付けているわけではないし、前記擬制に基づく口頭審理陳述要領書(25ページ下から3行~26ページ12行)の被請求人の主張は空論、暴論に過ぎないから、前記擬制に立脚した被請求人の主張は採用され得ない(7ページ20行~9ページ15行、10ページ11行~11ページ7行)。
c 本件発明4の「次亜塩素酸の濃度」は、「有効塩素」の濃度から「遊離塩素分子の濃度」を差し引くことによって算出可能であることが確認されたが(調書、令和4年6月13日提出の口頭審理陳述要領書17ページ1行~8行。)、「遊離塩素分子の濃度」の測定が実施不可能である以上、「次亜塩素酸の濃度」の測定も実施不可能であるから、本件発明4は実施不可能であることに変わりはない(11ページ8行~14行)。
(エ) そこで、以下、前記(ウ)の主張について検討する。
前記(イ)に記載したとおりの、本件発明4における測定方法(決定方法)の理解によれば、本件特許明細書において、どうして分子状の塩素がシリングアルダジンと接触した2秒以内に、発色反応を終了するのかという、発色反応の理論上または実験上の根拠を明らかにする必要はないし、このことは、甲第4号証の2のFig.2の記載などに左右されるものでもない。
また、請求人も自認する前記技術常識や本件特許明細書の記載からみて、本件発明4においては、シリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色によって決定した数値を「遊離塩素分子の濃度」として擬制していると解するのが相当であることは、前記アにおいて説示したとおりであるから、当該技術常識を熟知する当業者は、本件特許明細書の記載に基づいて、当該濃度の擬制を理解し、これを導出することができるものである。
そうすると、当業者であれば、「DPD法」又は「SBT法」で定量された「有効塩素濃度」から、前記のとおり擬制して決定された「遊離塩素分子の濃度」を差し引くことで、「次亜塩素酸の濃度」を算出できるものと理解するのが合理的であり、このことは、当事者間に争いのない前記(3)の用語の意味からして当然の帰結ともいえることから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明4に関して実施可能要件に適合するというべきであるので、前記(ウ)a~cのいずれの主張も、採用できない。
(オ) 請求人は、令和4年8月5日提出の上申書において、概略、以下の旨を主張している。
a (i)本件発明4の、「遊離塩素分子の濃度」の上限値である「20ppm」は、次亜塩素酸の濃度と同列に扱われていること、(ii)本件訂正前の「20ppm」の上限値は、本件訂正前の請求項1の要件であるのに対し、本件発明4におけるシリングアルダジン試薬によって決定される要件は、本件訂正前の従属請求項である請求項4に立脚していることを考慮するならば、本件訂正前の請求項1の上限値である「20ppm」は、本件発明4の測定に限定され得ないこと、(iii)本件訂正前の請求項3は、遊離塩素分子の濃度が次亜塩素酸の濃度に対し0.1以下であることを要件としているが、当該要件は、遊離塩素分子の濃度が次亜塩素酸の濃度と同様に、客観的な数値であることを裏付けていること、及び、(iv)甲第5号証の2によれば、「遊離塩素分子の濃度」は客観的な測定値として測定できることからすると、本件発明4及び5における「遊離塩素分子の濃度」の上限値である「20ppm」は、客観的な測定値であることを前提としており、本件訂正前の請求項4におけるシリングアルダジン試薬との比色による測定方法のみに限定される訳ではない(3ページ3行~5ページ2行)。
b 本件発明4においては、前記上限値である「20ppm」がシリングアルダジン試薬との比色反応によって実現されねばならない。なぜならば、前記上限値である「20ppm」が客観的な測定値に立脚している以上、当該測定値の対比の対象となる本件発明4の比色反応における測定値もまた必然的に客観的な数値でなければ客観的な対比が不可能と化すからである(5ページ3行~11行)。
c 被請求人の主張によれば、遊離塩素分子(Cl2)の上限値「20ppm」もまた“擬制”による数値に該当することに帰するが、このような帰結は、前記aの論拠と相反しており、もとより成立する余地がなく、本件発明4におけるシリングアルダジン試薬との比色反応における遊離塩素分子(Cl2)の濃度もまた、20ppmの上限値と同様に、客観的な数値であって、前記“擬制”は成立し得ない。本件特許明細書の段落【0011】及び【0019】の記載も、前記“擬制”を否定している(5ページ12行~7ページ3行)。
d 「20ppm」の上限値は、客観的な測定に立脚している以上、「シリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定される」遊離塩素分子濃度もまた上記上限値に対応して、客観的な測定値であることを必要不可欠とするが、その場合、
(a)2秒間に非電離型次亜塩素酸(HOCl)及び次亜塩素酸イオン(ClO-)の各濃度が無視し得る程度に少なく、かつ2秒以後に測定される塩素分子の濃度が無視し得る程度に少ないこと、又は、
(b)たとえ測定開始後2秒以内及び2秒を経た後において、遊離塩素分子(Cl2)、非電離型次亜塩素酸(HOCl)及び次亜塩素酸イオン(ClO-)の各濃度が測定されたとしても、2秒以内の測定値を遊離塩素分子(Cl2)の測定値と見做すことができるようなデータの蓄積又は経験則が存在すること、
の要件が必要不可欠であることに変わりはないのに、本件特許明細書の段落【0079】【表4】に基づく被請求人の主張は、前記要件に到底対抗することができない(7ページ4行~9ページ4行)。
e 被請求人は、前記d(a)、(b)の要件の構成が必要であるという請求人の立論は、口頭審理における陳述を覆し、審理を混乱させる以上、審理の対象とすべきではないと主張しているが、前記被請求人の主張は、単なる逃げ口上に過ぎず、被請求人の“擬制”に関する主張は、何れも失当かつ無意味である。(9ページ5行~17行)。
f 前記甲4号証の2のFig.2は、本特許明細書の段落【0011】、【0019】記載のようなシリングアルダジンとの接触時間1~2秒にて分子状の塩素に対し発色し、3秒以上にて結合型の塩素に反応するという状態が成立しないことを明瞭に裏付けており、前記Fig.2においても、前記d(a)、(b)の測定要件が成立しない以上、前記Fig.2から被請求人主張の“擬制”を導出することはもとより不可能であるから、本件発明4及び5につき、実施可能要件違反が成立するという結論に変わりはない(9ページ18行~11ページ6行)。
(カ) そこで、以下、前記(オ)の主張について検討する。
前記(オ)の主張は、いずれも、本件発明4における「遊離塩素分子の濃度」の上限値である「20ppm」が客観的な測定値であることに立脚するもの、すなわち、前記「遊離塩素分子の濃度」が、その正確な値を測定する手法により測定されたものであることを前提として、当該濃度の正確な値を測定することは不可能であるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件違反となることをいうものといえるが、この前提自体に誤りがあることは、前記アにて説示したとおりである。
したがって、前記(オ)a~fのいずれの主張も採用できない。
ウ 一般的な実施可能要件の判断基準に沿った検討
最後に、念のため、前記(1)の判断基準に当てはめて、無効理由1-1について検討をする。
(ア) まず、前記(2)キ(段落【0068】~【0072】)の実施例3に注目すると(別件無効審判2021-800059号事件において当該実施例3が取り上げられていることを考慮した。)、前記実施例3は、トリクロロイソシアヌル酸52.7質量%、炭酸ナトリウム13.6質量、炭酸水素ナトリウム27.3質量%、ホウ酸1.9質量%、硫酸ナトリウム4.5質量%の処方成分をヘンシェルミキサーで3分間混合した後、1gを秤量し、打錠機で打錠して錠剤を得て、この錠剤を水道水5lで溶かして溶解し、この溶液について、6mm×50mmの紙片に、(i)市販のSBT法の有効塩素試験片6mm×6mm(SBT試験片)、(ii)市販の万能試験片6mm×6mm(pH試験片)、(iii)シリングアルダジン1mgを1mlのジメチルホルムアミドに溶解し、これを10mlのメタノールで希釈した液をA4の画用紙に均一に噴霧し、溶剤を揮散させ、試験紙を作成し、これから6mm×6mmの紙片を切り出したもの(シリングアルダジン試験片)、を順次両面テープで貼付して作成した試験紙で判別を行ったところ、pHは7.5で、有効塩素濃度は100ppm、遊離の塩素分子濃度は、20ppmであったものであることが分かる。
(イ) そして、前記実施例3に係る錠剤は、水道水5lで溶かして溶解したとき、pHが7.5となるものであるから、本件発明4における、「水性媒体によって希釈したとき、pH5~7.5であ」る「組成物」に相当し、前記実施例3において遊離の塩素分子の濃度が20ppmであることは、本件発明4における、「前記遊離塩素分子の濃度が20ppm以下であ」る、との発明特定事項を満たしている。
また、前記(3)ア、エ及びオのとおり、「有効塩素」がHClO、ClO-、Cl2の総称を意味し、「遊離塩素分子」が溶液中に溶解して存在している塩素分子(Cl2)を意味し、「次亜塩素酸」が非電離型次亜塩素酸(HClO)と電離型次亜塩素酸(ClO-)の総称を意味することからみれば、「次亜塩素酸の濃度」が、「有効塩素濃度」から「遊離塩素分子の濃度」を差し引くことにより求められることは当然の帰結というべきであるから、「有効塩素濃度」が100ppm、「遊離塩素分子の濃度」が20ppmである実施例3の「次亜塩素酸の濃度」は、80ppm(=100ppm-20ppm)と算出できるので、前記実施例3の「次亜塩素酸の濃度」は、本件発明4における、「次亜塩素酸の濃度が50~500ppmであ」ると、の発明特定事項を満たし、「有効塩素濃度」が100ppm、「遊離塩素分子の濃度」が20ppmである前記実施例3は、本件発明4における、「遊離塩素分子の濃度が有効塩素濃度に比して少な」い、との発明特定事項を満たすものである。
更に、前記実施例3に係る錠剤は、処方成分として「トリクロロイソシアヌル酸」を含み、前記(2)エ(段落【0024】)、オ(段落【0041】)によれば、前記処方成分のうち少なくとも炭酸水素ナトリウム、ホウ酸及び硫酸ナトリウムは「緩衝塩」といえるから、前記実施例3に係る錠剤は、本件発明4における、「1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含」む、との発明特定事項を満たすし、前記(2)オ(段落【0038】、【0047】)によれば、前記「緩衝塩」は「非電離型次亜塩素酸」を形成せしめるものであって、当該「非電離型次亜塩素酸」は、ウイルス除去効果と安全性を高める「有効成分」といえると共に、前記処方成分及び水道水は、いずれも「アルカリ金属又はアルカリ土類金属の亜塩素酸塩」を含まないから、前記実施例3に係る錠剤は、本件発明4における、「有効成分が非電離型次亜塩素酸である、次亜塩素酸水を調製できる」「組成物(但し、前記水性媒体と前記組成物の何れにもアルカリ金属又はアルカリ土類金属の亜塩素酸塩が含まれない。)」、との発明特定事項を満たすものである。
そして、前記実施例3は、シリングアルダジン試験片により「遊離塩素分子の濃度」を測定するものであり、このことと前記(2)エ(段落【0019】)の「遊離の塩素分子の濃度は、シリングアルダジン試薬により測定することができる。」、「接触後2秒以内の発色により、分子状の塩素濃度を知ることができる。」との記載を併せてみれば、前記実施例3における「遊離塩素分子の濃度」は、「シリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定」されるものといえ、これは、本件発明4における、「遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定される」、との発明特定事項を満たすものである。
(ウ) 前記(イ)によれば、前記実施例3は、本件発明4の発明特定事項を全て満たすものである。そして、このことは、前記(2)キに記載された他の実施例2、4、5についても同様であるから、当業者は、これらの実施例に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明4に係る組成物を生産することができるといえる。
(エ) また、当該組成物は、前記実施例4や前記(2)オの段落【0045】などに記載されるように水性媒体で溶解あるいは希釈した実使用液として使用するものであることは明らかであるから、これらの実施例に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明4に係る組成物を使用することもできるということができる。
(オ) 加えて、水性媒体の種類や希釈量、錠剤調製時の攪拌混合時間などにより、当該組成物により調製した次亜塩素酸水のpH、次亜塩素酸の濃度及び遊離塩素分子の濃度を調整することができることも、前記実施例や前記(2)オの段落【0044】などからうかがい知ることができるから、前記実施例とは異なるpHや諸濃度への調製についても過度の試行錯誤を要することはないといえる。
もとより、発明の詳細な説明の実施例以外の記載をみると、前記(2)オの段落【0039】~【0044】などには、本件発明4に係る組成物の成分組成及びその調製方法に関する記載があり、当該組成物の構成やその生産の指針となり得る記載を認めることができる。
(カ) 以上のことを前記(1)の判断基準に当てはめると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明4に関して、実施可能要件に適合するというべきである。
(5) 無効理由1-2について
ア 請求人の論旨等に沿った検討
始めに、前記第2の1(2)イ(ア)の前提事項1-2a~前提事項1-2cに基づいた、同(イ)の実施可能要件違反とする論旨に沿って検討する。
まず、事案にかんがみ、前提事項1-2c自体、あるいは、この前提事項に基づく論旨について考えてみる。
本件発明4及び5は、「次亜塩素酸の濃度が50~500ppmであ」る、との発明特定事項を有するものであるところ、前提事項1-2cは、この「次亜塩素酸の濃度が50~500ppm」という規定における「次亜塩素酸の濃度」とは、「非電離型次亜塩素酸の濃度」のことであるとするものである。
他方、前記(3)オによれば、「次亜塩素酸」とは、「非電離型次亜塩素酸」と「電離型次亜塩素酸」の総称のことであるから、本件発明4及び5における「次亜塩素酸の濃度」は、「非電離型次亜塩素酸の濃度」と「電離型次亜塩素酸の濃度」を合わせた濃度をいうものであって、「電離型次亜塩素酸の濃度」を捨象した、「非電離型次亜塩素酸の濃度」のことをいうものではない。
そうすると、前記前提事項1-2cは、それ自体既に誤りであるというほかないから、係る誤った前提事項に基づいた前記論旨を採用して、無効理由1-2に理由があるとすることはできない。
イ 請求人の種々の主張についての検討
次に、請求人が無効理由1-2についてるる主張する点についても触れておく。
(ア) 請求人は、口頭審理陳述要領書において、概略、以下の旨を主張している。
a 本件特許明細書の段落【0021】、【0023】の記載から、本件発明における「次亜塩素酸の濃度」は、「電離型次亜塩素酸」及び「非電離型次亜塩素酸」の双方の濃度を指すように見えるが、その場合、甲第5号証の2の18ページのグラフによれば、pHを7.5、「次亜塩素酸」の濃度を50ppmとした場合、時間の経過と共に「次亜塩素酸」の濃度が低下して、濃度の最低値である50ppmを維持できなくなる、という矛盾に至るから、本件発明における「次亜塩素酸」の濃度は「非電離型次亜塩素酸」の濃度と解するべきである(13ページ1行~14ページ24行)。
b 仮に、「次亜塩素酸の濃度」が「非電離型次亜塩素酸」に加えて「電離型次亜塩素酸」を包摂するとしても、DPD法、SBT法及びシリングアルダジン法による測定は、いずれも、「非電離型次亜塩素酸」、「電離型次亜塩素酸」に加えて「遊離塩素分子」の濃度も測定するものであり、純然たる「遊離塩素分子の濃度」を測定することは不可能であるから、DPD法、SBT法及びシリングアルダジン法による測定により、「遊離塩素分子」を含まない状態の「次亜塩素酸」の濃度、すなわち「非電離型次亜塩素酸」及び「電離型次亜塩素酸」の濃度を測定することは不可能であるので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない。
また、このことから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、知的財産高等裁判所平成29年(行ケ)第10138号事件判決の基準を充足しない(14ページ25行~18ページ4行)。
c 被請求人の答弁書の18ページ27行~31行の主張は、請求人の主張を正解していないから、反論に値しないし、請求人の主張を理解することができない旨の被請求人の答弁書における主張は、反論不可能の趣旨にほかならない(18ページ5行~19ページ14行)。
(イ) そこで、以下、前記(ア)の主張について検討する。
本件発明は、「水性媒体によって希釈したとき、pH5~7.5であり、次亜塩素酸の濃度が50~500ppmであ」る「組成物」に係る発明であって、次亜塩素酸の濃度は、「組成物」を「水性媒体によって希釈したとき」に、「次亜塩素酸の濃度が50~500ppm」であることが特定されるものに過ぎない。
すると、仮に、本件発明における「次亜塩素酸」の濃度が「電離型次亜塩素酸」及び「非電離型次亜塩素酸」の双方の濃度を指すとき、甲第5号証の2のグラフ(後記2(3)エ(5-2a))から、希釈後、時間の経過と共に「次亜塩素酸の濃度」が低下することがわかるとしても、「水性媒体によって希釈したとき」の「次亜塩素酸の濃度が50~500ppm」でありさえすればよいことに変わりはないのであるから、「次亜塩素酸の濃度」を「電離型次亜塩素酸」及び「非電離型次亜塩素酸」の双方の濃度と解することに何ら矛盾は生じない。そうである以上、本件発明における「次亜塩素酸の濃度」を「非電離型次亜塩素酸の濃度」と解するべき理由はないから、前記(ア)aの主張は採用できない。
また、本件発明において「遊離塩素分子の濃度」を擬制して導出することについては、前記(4)アにおいて説示したとおりであるから、実際の遊離塩素分子の濃度の正確な値を測定することは不可能であることを前提とした前記(ア)bの主張は採用できない。
そして、これらのことは被請求人の答弁書における主張に左右されるものでもないから、前記(ア)cの主張も採用できない。
ウ 一般的な実施可能要件の判断基準に沿った検討
最後に、念のため、無効理由1-2についても、前記(1)の判断基準に当てはめて検討しておく。
前記(4)ウ(ア)に記載したとおり、前記実施例3においては、SBT試験片により「有効塩素濃度」を測定しているから、前記実施例3における「有効塩素濃度」は、「DPD法による試験法またはSBT法による試験片で定量」されるものであり、これは、本件発明5における、「有効塩素濃度が、DPD法による試験法またはSBT法による試験片で定量される」との発明特定事項を満たすものである。
そのほかの事情は、前記(4)ウに記載したことと変わりはないから、このことを前記(1)の判断基準に当てはめると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明4に加え、本件発明5に関しても、実施可能要件に適合するというべきである。
(6) 無効理由1についてのまとめ
以上の検討のとおり、請求人の主張する無効理由1についての論旨は採用することができず、また、一般的な実施可能要件の判断基準に照らしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号所定の規定(実施可能要件)に適合するので、前記第2の1(2)ア及びイの無効理由1-1及び1-2には理由がない。
2 無効理由2(公然実施発明に基づく進歩性欠如)について
(1) 請求人の論旨等に沿った検討
始めに、前記第2の1(2)ウ(ア)の前提事項2a~前提事項2dに基づいた、同(イ)の公然実施発明に基づく進歩性欠如に係る主張について検討する。
まず、事案にかんがみ、前提事項2aについて考えてみる。
前記前提事項2aは、要するに、請求項4に係る発明における「前記遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定されるものであること」という発明特定事項は、「前記遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触による比色で決定されるものであること」と、また、請求項4及び5に係る発明における「次亜塩素酸の濃度が50~500ppm」であるという発明特定事項は、「有効塩素濃度が50~500ppm」であると、それぞれ置き換えて、これらの発明の要旨を認定すべきであるとするものである。
しかしながら、前記1において、無効理由1(実施可能要件違反)について検討した際、このように置き換えて当該発明の要旨を認定しなければならない事情が生じたわけではないし、本件特許明細書の記載及び図面を考慮しても、そのように置き換えて用語の意義を解釈しなければならない事情も見当たらない。また、ほかに、このように要旨認定をしなければならないことを認めるに足りる証拠もない。
そうすると、当該発明の要旨は、当該発明に係る請求項4、5の記載に即して認定するのが相当であって、前記の置き換えが妥当であるとは到底いえないから、前提事項2aには誤りがあるといわざるを得ない。
そうである以上、係る誤った前提事項に基づいた前記論旨によって、無効理由2に理由があるとすることはできない。
(2) 請求人の種々の主張についての検討
次に、無効理由2に関する請求人の種々の主張についても触れておく。
ア 請求人は、口頭審理陳述要領書において、概略、以下の旨を主張している。
(ア) 仮に、無効理由1-1が成立しないのであれば、本件発明4における「前記遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定されるものであること」という実施不可能な発明特定事項は必要不可欠な要件ではなく、無視してもよいものであり、これを無視した場合には、前記発明特定事項は、「前記遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触による比色で決定されるものであること」という要件として残存し得るに過ぎない。
また、仮に、無効理由1-2が成立しないのであれば、本件発明4及び5における「次亜塩素酸の濃度が50~500ppm」であるという実施不可能な発明特定事項は無視してもよいものであり、これを無視した場合には、前記発明特定事項は、「有効塩素濃度が50~500ppm」という要件として残存し得るに過ぎないので、本件発明4における「前記遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定されるものであること」という発明特定事項は、「前記遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触による比色で決定されるものであること」と解するべきであり、本件発明4及び5における「次亜塩素酸の濃度が50~500ppm」であるという発明特定事項は、「有効塩素濃度が50~500ppm」であると解するべきである(19ページ18行~21ページ18行)。
(イ) 答弁書における被請求人の「リパーゼ事件(昭和62年(行ツ)第3号、最高裁平成3年3月8日第2小法廷判決)」の最高裁判例を引用した主張は、失当かつ無意味であり、被請求人の理解状況に関わらず、また、甲第5号証の2の図2.4(後記(3)エ(5-2a))についての被請求人の主張に関わらず、甲2発明が「20ppm以下」という「遊離塩素分子の濃度」の要件を充足していることに変わりはないので、無効理由2は成立する(21ページ19行~26ページ3行)。
イ そこで、以下、前記アの主張について検討する。
前記(1)において説示したとおり、前記1において、無効理由1(実施可能要件違反)に理由がないと判断するにあたり、請求人が主張するような用語の置き換えが必要となるような状況は生じていないのであるから、前記ア(ア)の主張は採用できない。
そして、後記甲2発明において、「遊離塩素分子の濃度」が「20ppm以下」であるとはいえないことは、後記(3)オ(ア)cに記載のとおりであって、このことは被請求人の主張に左右されるものでもないから、前記ア(イ)の主張も採用できない。
(3) 公然実施発明に基づく進歩性欠如についての詳細な検討
最後に、念のため、請求人が主張する論旨は措いて、公然実施発明に基づく本件発明4、5の進歩性欠如の当否について改めて検討をする。
ただし、本来であれば、甲第2号証に記載されている製品「ジアグリーンタブレット500」が、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされたものであるか否か(公然実施要件)の検討を要するが、以下に示すとおり、この公然実施要件について検討するまでもなく、当該甲第2号証記載の「ジアグリーンタブレット500」(ここでは「甲第2号証に記載された発明」ないし「甲2発明」としている。)に基づいて検討しても本件発明4、5の進歩性が欠如するとはいえないため、ここでの公然実施要件の検討は割愛した。
ア 甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明
(ア) 甲第2号証には、以下の記載がある。
(2a)「
[図:0001393730000007.jpg]
」(1ページ目)
(2b)「
[図:0001393730000008.jpg]
」(2ページ目)
(イ) 前記(ア)(2a)~(2b)によれば、甲第2号証には、「ジアグリーンタブレット500」が記載されており、当該「ジアグリーンタブレット500」は、成分がトリクロロイソシアヌル酸(有効塩素生成主成分)/炭酸ナトリウム(かんすい)/炭酸水素ナトリウム(重曹)/ホウ酸/無水硫酸ナトリウムからなるものであって、その使用方法は、容量350mlの水に「ジアグリーンタブレット500」を1錠投入することで、有効塩素濃度200ppmの非電離型微酸性次亜塩素酸水溶液が生成できるものであり、非電離型微酸性次亜塩素酸水溶液の液性は、pH値=5.5~6.9であるものであり、溶媒に純水を使用した状態で、pH値=6.0となるように含有成分を調整しているものである。
(ウ) 前記(イ)によれば、甲第2号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「成分がトリクロロイソシアヌル酸(有効塩素生成主成分)/炭酸ナトリウム(かんすい)/炭酸水素ナトリウム(重曹)/ホウ酸/無水硫酸ナトリウムからなるものであって、
その使用方法は、容量350mlの水にジアグリーンタブレット500を1錠投入することで、有効塩素濃度200ppmの非電離型微酸性次亜塩素酸水溶液が生成できるものであり、
非電離型微酸性次亜塩素酸水溶液の液性は、pH値=5.5~6.9であり、
溶媒に純水を使用した状態で、pH値=6.0となるように含有成分を調整している、ジアグリーンタブレット500。」(以下、「甲2発明」という。)
イ 甲第4号証の2の記載事項
甲第4号証の2には、以下の記載がある。
(4-2a)「A colorimetric method for estimating “free” chlorine (hypochlorous acid, hypochlorite ion) in water has been developed using syringaldazine buffered at pH7 as the chromophoric agent. The reagent is sensitive to hypochlorite but is insensitive to bound chlorine such as chloramines, thus making it an important reagent for free chlorine in the presence of chloramines. Syringaldazine reacts with chlorine on a mole for mole basis. Under these conditions, the molar absorptivity (ε) for the reaction is about 65,000 at λ = 530nm. The developing color does not follow strictly Beer's law, but in dilute solutions of syringaldazine and chlorine, the standard curve (absorbance vs. chlorine concentration) is a straight line deviating only slightly from the origin.」(421ページ左下欄1行~15行)
(当審訳:発色剤としてpH7に緩衝したシリングアルダジンを使用して、水中の「遊離」塩素(次亜塩素酸、次亜塩素酸イオン)を推定するための比色法が開発された。この試薬は次亜塩素酸に対して敏感であるが、クロラミンのような結合塩素に対しては感度がないため、クロラミンの存在下での遊離塩素のための重要な試薬となる。シリングアルダジンはモル基準で1モルの塩素と反応する。このような条件下で、反応のモル吸光度(ε)はλ=530nmで約65,000である。発色はベールの法則に厳密には従わないが、シリングアルダジンと塩素の希薄な溶液では、検量線(吸光度対塩素濃度)は原点から僅かにずれた直線となる。)
(4-2b)「
[図:0001393730000009.jpg]
」(422ページ右欄)
(Figure2.脚注の当審訳:図2.0.025Mリン酸緩衝液中のシリングアルダジン-塩素反応により生成される退色の速度)
ウ 甲第5号証の1の記載事項
甲第5号証の1には、以下の記載がある。
(5-1a)「
[図:0001393730000010.jpg]
」(2ページ)
(5-1b)「
[図:0001393730000011.jpg]
」(2ページ)
(5-1c)「2.3 遊離残留塩素選択性
DPDやSBTは、遊離塩素濃度を測定することを目的とした試薬であるが、発色後の溶液にヨウ化カリウムを添加することで、総残留塩素と結合残留塩素を測定できる。」(3ページ左欄9行~12行)
エ 甲第5号証の2の記載事項
甲第5号証の2には、以下の記載がある。
(5-2a)「
[図:0001393730000012.jpg]
」(18ページ)
(5-2b)「2.3 遊離有効塩素と結合有効塩素
HOClの解離平衡成分であるHOCl、OCl-、Cl2はいずれも殺菌効力を有しており、これらを総称して遊離有効塩素(Free Available chlorine;FAC)(あるいは遊離残留塩素)という。遊離有効塩素成分のうち、Cl2は飛散して消失する速度が速く不安定なため、次亜塩素酸水溶液の利用はHOClとOCl-が主体となるpH領域に限定されている。」(18ページ8行~13行)
(5-2c)「2.4 残留(有効)塩素の測定法
残留塩素の濃度は、試料1lあたりのmg数(mgCl/l)で表される(=ppm)。残留塩素の分析は、回分的な手分析と連続的な機器分析に大別される。
2.4.1 手分析
残留塩素の定量は、濃度が比較的高い場合(0.1~7.0mg/l)はよう素滴定法を適用し、濃度が低い場合(0.05~2.0mg/l)にはDPD(ジエチルーp-フェニレンジアミン)比色法を適用する13)。」(19ページ8行~14行)
オ 対比・判断
(ア) 本件発明4について
a 本件発明4と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「水」は、本件発明4における「水性媒体」に相当し、甲2発明において、「容量350mlの水にジアグリーンタブレット500を1錠投入することで、有効塩素濃度200ppmの非電離型微酸性次亜塩素酸水溶液が生成」され、「非電離型微酸性次亜塩素酸水溶液の液性」が「pH値=5.5~6.9であ」ることは、本件発明4において「水性媒体によって希釈したとき、pH5~7.5であり」、「有効成分が非電離型次亜塩素酸である次亜塩素酸水を調製」することに相当し、甲2発明における「ジアグリーンタブレット500」は、本件発明4における「組成物」に相当する。
また、甲2発明における「トリクロロイソシアヌル酸(有効塩素生成主成分)」は、本件発明4における「1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上」に相当し、甲2発明における「炭酸水素ナトリウム(重曹)/ホウ酸/無水硫酸ナトリウム」は、前記1(2)エ(段落【0024】)、オ(段落【0041】)によれば、本件発明4における「2)緩衝塩」に相当し、甲2発明における「ジアグリーンタブレット500」及び「水」は、本件発明4における、「何れにもアルカリ金属又はアルカリ土類金属の亜塩素酸塩が含まれない」との発明特定事項を満たすものである。
b 前記aによれば、本件発明4と甲2発明とは、
「水性媒体によって希釈したとき、pH5~7.5であり、有効成分が非電離型次亜塩素酸である、次亜塩素酸水を調製できる組成物であって、
1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む、
組成物(但し、前記水性媒体と前記組成物の何れにもアルカリ金属又はアルカリ土類金属の亜塩素酸塩が含まれない。)。」の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:本件発明4は、「組成物」が、「水性媒体によって希釈したとき」、「次亜塩素酸の濃度が50~500ppmであり、遊離塩素分子の濃度が有効塩素濃度に比して少なく、前記遊離塩素分子の濃度が20ppm以下であ」り、「前記遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定されるものである」、との発明特定事項を有するのに対して、甲2発明は、「組成物」が、「水性媒体によって希釈したとき」、「有効塩素濃度200ppm」である点。
c 以下、前記bの相違点1について検討すると、前記1(3)アによれば、「有効塩素」はHClO、ClO-、Cl2の総称を意味するから、甲2発明に係る「組成物」は、その希釈時の「有効塩素濃度」すなわちHClO、ClO-、Cl2の合計の濃度が「200ppm」なのであって、Cl2単独の濃度、すなわち「遊離塩素分子の濃度」は明らかでない。また、本件発明4における「遊離塩素分子の濃度」は、前記1(4)アの便宜的な測定手法によるものであって、甲第5号証の2の図2.4(前記エ(5-2a))から直接算出できるものでもないから、甲2発明の希釈時の「遊離塩素分子の濃度」が、本件発明4のように「20ppm以下」であるとただちにいうことはできない。
d そして、前記イ~エの甲第4号証の2~甲第5号証の2の記載をみても、DPD法などについての記載は認められるものの、当該便宜的な測定手法については記載も示唆もされていない。
e そうすると、当業者は、甲2発明において、「シリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定される」「遊離塩素分子の濃度」を「20ppm以下」とするには至らないので、甲2発明において、前記相違点1に係る本件発明4の発明特定事項を備えるものとすることは、公知の測定法に基づいて当業者が容易になし得るものではない。
したがって、本件発明4は、甲2発明及び公知の測定法に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ) 本件発明5について
a 前記(ア)aと同様にして本件発明5と甲2発明とを対比すると、本件発明5と甲2発明とは、
「水性媒体によって希釈したとき、pH5~7.5であり、有効成分が非電離型次亜塩素酸である、次亜塩素酸水を調製できる組成物であって、
1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む、
組成物(但し、前記水性媒体と前記組成物の何れにもアルカリ金属又はアルカリ土類金属の亜塩素酸塩が含まれない。)。」の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点2:本件発明4は、「組成物」が、「水性媒体によって希釈したとき」、「次亜塩素酸の濃度が50~500ppmであり、遊離塩素分子の濃度が有効塩素濃度に比して少なく、前記遊離塩素分子の濃度が20ppm以下であ」り、「前記有効塩素濃度が、DPD法による試験法またはSBT法による試験片で定量されるものである」、との発明特定事項を有するのに対して、甲2発明は、「組成物」が、「水性媒体によって希釈したとき」、「有効塩素濃度200ppm」である点。
b 以下、前記aの相違点2について検討すると、前記(ア)cに記載したのと同様の理由により、甲2発明において、「遊離塩素分子の濃度」が「20ppm以下」であるとはいえない。
c ここで、甲5発明においては、「遊離塩素分子の濃度」の決定方法は特定されていないが、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明4と同様、シリングアルダジン試薬の接触後2秒以内の発色により「遊離塩素分子の濃度」を決定する便宜的な測定方法のことであると理解するのが合理的であるから、前記(ア)eに記載したのと同様の理由により、本件発明5も、甲2発明及び公知の測定法に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)無効理由2についてのまとめ
以上の検討のとおり、請求人の主張する無効理由2についての論旨は採用することができず、また、進歩性について精緻に検討しても、本件発明4及び5は、甲第2号証に記載された発明、ひいては公然実施発明及び公知の測定法に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、前記第2の1(2)ウの無効理由2(公然実施発明に基づく進歩性欠如)は理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件請求項4及び5に係る発明の特許を無効とすることはできない。
そして、審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-800096