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特許異議申立

2024-700605

ウイルス不活性化剤

審判番号
2024-700605
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-185012
登録番号
7406226
請求日
2024年06月25日
審決日
2025年02月21日
公報発行日
2025年06月27日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】フマキラー株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人前田特許事務所
  • 【異議申立人】平居 博美
審判長/審判官
  • 審判長 阪野 誠司
  • 審判官 瀬良 聡機
  • 審判官 齊藤 真由美
分類
P1651.113-YAA(A01N) / P1651.121-YAA(A01N) / P1651.537-YAA(A01N) / P1651.016-YAA(A01N) / P1651.851-YAA(A01N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条の2、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第41条第3項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7406226号発明「ウイルス不活性化剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7406226号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。 特許第7406226号の請求項1~3及び6に係る特許を維持する。 特許第7406226号の請求項4及び5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7406226号の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和元年10月8日の出願であって、令和5年12月19日に特許権の設定登録がされ、同年同月27日にその特許掲載公報が発行され、その後、令和6年6月25日に、その請求項1~6に係る発明の特許に対し、特許異議申立人 平居 博美(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。 そして、令和6年8月19日付けで当審合議体から取消理由が通知され、同年10月21日に訂正請求書及び意見書が提出され、同年11月21日に該訂正請求書の手続補正書が提出され、同年12月6日付けで当審合議体から特許法120条の5第5項に基づく通知書が出され、特許異議申立人から令和7年1月10日に、意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 令和6年10月21日に提出され、同年11月21日に提出された手続補正書により補正された訂正請求書による訂正請求について 令和6年10月21日に提出され、同年11月21日に補正された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書により特許権者が行った訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。 2 訂正の趣旨 本件訂正の「請求の趣旨」は、「特許第7406226号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める。」ものであり、その内容は以下の訂正事項1~4のとおりである。 3 訂正の内容 本件訂正の内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)。 (1)訂正事項1 請求項1について、訂正前に「グレープフルーツ種子抽出物の水溶液に緩衝剤が含有され、pH8以上に調整されている」とあるのを、「グレープフルーツ種子抽出物の水溶液に緩衝剤が含有され、pH10.0以上に調整されている」に訂正する。 (2)訂正事項2 訂正前の請求項4を削除する。 (3)訂正事項3 訂正前の請求項5を削除する。 (4)訂正事項4 請求項6について、訂正前に「請求項1から5のいずれか1つに記載の」とあるのを、「請求項1から3のいずれか1つに記載の」に訂正する。 4 判断 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的の適否について 本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1における「ウイルス不活性化剤」のpHの範囲を「8以上」と特定されていたのを、「10.0以上」に限定した訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項について 本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)の請求項5、段落【0025】及び段落【0035】の記載に基づき、訂正したものであり、明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。 したがって、本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、明細書等に記載された事項の範囲内で行われるものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項の規定に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて 上記訂正は、特許請求の範囲を減縮した訂正であって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第6項の規定に適合するものである。 エ したがって、本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (2)訂正事項2及び3について ア 訂正事項2及び3は、それぞれ訂正前の請求項4及び5を削除する訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ また、本件訂正の訂正事項2及び3に係る訂正は、請求項4及び5を削除する訂正であるから、明細書等に記載された事項の範囲内で行われるものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないのは明らかである。 ウ したがって、本件訂正の訂正事項2及び3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (3)訂正事項4について ア 訂正の目的の適否について 本件訂正の訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項6における「請求項1から5のいずれか1つに記載の」との引用請求項の範囲を「請求項1から3のいずれか1つに記載の」と限定した訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項について 本件訂正の訂正事項4に係る訂正は、明細書等の記載に基づき、訂正したものであり、明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。 したがって、本件訂正の訂正事項4に係る訂正は、明細書等に記載された事項の範囲内で行われるものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項の規定に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて 上記訂正は、特許請求の範囲を減縮した訂正であって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第6項の規定に適合するものである。 エ したがって、本件訂正の訂正事項4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 なお、独立特許要件について、特許異議申立人による特許異議の申立ては、本件訂正前のすべての請求項に対してされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 (4)一群の請求項について 訂正事項1~4に係る訂正前の請求項1~6について、請求項2は請求項1を引用しており、請求項3は請求項1又は請求項2を引用しており、請求項4は、請求項1~3を引用しており、請求項5は、請求項4を引用しており、請求項6は、請求項1~5を引用しているので、訂正前の請求項2~6は、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正される(請求項4及び5は、訂正事項2及び3によっても訂正され、請求項6は、訂正事項4によっても訂正されている。)。 したがって、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6に係る本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。 5 訂正請求についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正を認める。 第3 特許請求の範囲の記載 上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1~3及び6に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明3」及び「本件特許発明6」という。また、これらをまとめて「本件特許発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~3及び6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 グレープフルーツ種子抽出物の水溶液に緩衝剤が含有され、pH10.0以上に調整されていることを特徴とするウイルス不活性化剤。 【請求項2】 請求項1に記載のウイルス不活性化剤において、 前記緩衝剤は、炭酸ナトリウムを含有することを特徴とするウイルス不活性化剤。 【請求項3】 請求項1または2に記載のウイルス不活性化剤において、 前記緩衝剤は、炭酸水素ナトリウムを含有することを特徴とするウイルス不活性化剤。 【請求項4】(削除) 【請求項5】(削除) 【請求項6】 請求項1から3のいずれか1つに記載のウイルス不活性化剤において、 pH11.0以下に調整されていることを特徴とするウイルス不活性化剤。」 第4 特許異議申立人が申し立てた理由及び取消理由通知で通知した取消理由 1 特許異議申立人が申し立てた理由 (1)異議申立理由1(新規性) 請求項1、4及び6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証及び甲第4号証を参照すれば、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、4及び6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (2)異義申立理由2(明確性要件) 本件特許発明の「緩衝剤」との用語は技術的に曖昧で、本件明細書に「緩衝剤」の明確な定義がないので、炭酸水素ナトリウム単体が緩衝剤であるか否かの記載はなく、請求項1~6に係る発明は明確ではなく、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないので、請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 特許異議申立人は、下記の甲第2号証、甲第3号証及び甲第5号証を明確性要件の申立理由に関連する証拠として提出している。 (3)異義申立理由3(拡大先願) 請求項1~6に係る発明は、下記の甲第2、3、7及び8号証を参照すると、本件特許出願の日前の出願であって、その出願後に国際公開(甲第6号証参照)がされたとみなされた甲第5号証の出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである(同法第184条の13及び同法第41条第3項参照)。 (4)異義申立理由4(サポート要件) 請求項1~3に係る特許に関して、「緩衝剤」を含有することが規定されているところ、「炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムとの組み合わせ」以外の「緩衝剤」は一切記載されておらず、それらの場合のウイルス不活性化剤が課題を解決できるものであるか否か確認されていないから、請求項1~3に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものではなく、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、請求項1~3に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (5)異義申立理由5(進歩性) 請求項1及び4~6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第9号証に記載された発明、甲第10号証に記載された技術的事項、甲第2号証及び甲第4号証に記載された技術常識に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び4~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 甲第1号証:中国特許出願公開第106691944号明細書 甲第2号証:長倉三郎 外5名編、岩波 理化学辞典 第5版、1998年2月20日、株式会社 岩波書店、284~285頁 甲第3号証:第十五改正 日本薬局方解説書 医薬品各条【た行】~【わ行】、2006年、東京 廣川書店、C-2376~C-2380頁、炭酸水素ナトリウムの項目 甲第4号証:食品添加物・乳酸製剤 カンショウ乳酸のパンフレット、2006年2月、株式会社武蔵野化学研究所 甲第5号証:特願2019-139338号の明細書及び特許請求の範囲 甲第6号証:国際公開第2020/174980号(日本語特許出願の国際公開公報) 甲第7号証:第十二改正 日本薬局方解説書 第一部医薬品各条、1991年、東京 廣川書店、C-887~C-889頁、クエン酸ナトリウムの項目 甲第8号証:「くえん酸三カリウムー水和物」の製品情報、富士フィルム和光純薬株式会社のホームページ[online]、インターネット、<URL:https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/WOlW0116-0358.html>[令和6年5月9日検索] 甲第9号証:特開2011-42579号公報 甲第10号証:四方英四郎、煙草モザイク病ウイルスに対するpHの影響、北海道大學農學部邦文紀要、3(1)、154~161頁 なお、特許異議申立人は、令和7年1月10日に意見書と同時に、以下の参考資料1及び2を拡大先願及び進歩性欠如に関する資料として提出している。 参考資料1:「pH曲線とアルカリ度-水浄化フォーラム-科学と技術-」、村上定瞭(水浄化フォーラム)、[online]、[令和7年1月9日検索]、インターネット<URL:http://water-so1utions.jp/tech_basic-2/neutra1izing/a1kalinity/>) 参考資料2:特開2009-292736号公報 2 取消理由の概要 請求項1、3、4及び6に係る発明の特許に対して、当審合議体が令和6年8月19日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。 なお、請求項4に係る発明については、本件訂正により削除されている。 理由1:(新規性)請求項1、4及び6に係る発明は、引用文献4を参照すると、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、4及び6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 理由2:(拡大先願)請求項1、3、4及び6に係る発明は、引用文献2、3、7及び8を参照すると、本件特許出願の日前の出願であって、その出願後に国際公開がされた(引用明細書6参照)とみなされた引用明細書5の出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、請求項1、3、4及び6に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである(同法第184条の13及び同法第41条第3項参照)。 引用文献1:中国特許出願公開第106691944号明細書(特許異議申立人の提出した甲第1号証) 引用文献2:長倉三郎 外5名編、岩波 理化学辞典 第5版、1998年2月20日、株式会社 岩波書店、284~285頁(特許異議申立人の提出した甲第2号証) 引用文献3:第十五改正 日本薬局方解説書 医薬品各条【た行】~【わ行】、2006年、東京 廣川書店、C-2376~C-2380頁、炭酸水素ナトリウムの項目(特許異議申立人の提出した甲第3号証) 引用文献4:食品添加物・乳酸製剤 カンショウ乳酸のパンフレット、2006年2月、株式会社武蔵野化学研究所(特許異議申立人の提出した甲第4号証) 引用明細書5:特願2019-139338号の明細書及び特許請求の範囲(特許異議申立人の提出した甲第5号証) 引用明細書6:国際公開第2020/174980号(日本語特許出願の国際公開公報)(特許異議申立人の提出した甲第6号証) 引用文献7:第十二改正 日本薬局方解説書 第一部医薬品各条、1991年、東京 廣川書店、C-887~C-889頁、クエン酸ナトリウムの項目(特許異議申立人の提出した甲第7号証) 引用文献8:「くえん酸三カリウムー水和物」の製品情報、富士フィルム和光純薬株式会社のホームページ[online]、インターネット、<URL:https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/WOlW0116-0358.html>[令和6年5月9日検索](特許異議申立人の提出した甲第8号証) 第5 当審合議体の判断 当審合議体は、当審合議体の通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由によっては、取り消すことはできないと判断する。 その理由は以下のI及びIIのとおりである。以下では、請求項4及び5が本件訂正により削除されたため、訂正後の請求項1~3及び6に係る発明(本件特許発明1~3及び6)ついての判断を述べる。 I 取消理由について 1 理由1(新規性)について(請求項1及び6について) (1)引用文献1及び技術常識を示す文献の記載 ア 引用文献1の記載 訳文にて示す。 (1a)「特許請求の範囲 1.ε-ポリリジン又はε-ポリリジン塩酸塩を0.02~1質量%、グレープフルーツ種子抽出物を0.01~0.2質量%含有することを特徴とする抗菌・抗ウイルスの組成物。」(特許請求の範囲 請求項1) (1b)「[0005]先行技術における上記の一連の欠陥に対応して、本発明の第一の目的は、抗菌及び抗ウイルス組成物を提供することであり、前記組成物は、0.02~1質量%の濃度のε-ポリリジン又はε-ポリリジン塩酸塩と、0.01~0.2質量%の濃度のグレープフルーツ種子抽出物とを含む。 ・・・ [0009]本発明の一実施形態において、前記方法は、前記混合物を酸性エタノール水溶液に溶解することであり、前記酸性エタノール水溶液は、20~70体積%のエタノール濃度を有する。 [0010]本発明の一実施形態において、前記酸性エタノール水溶液は、3.5~6.0のpHを有する。」 (1c)「具体的な実施方法 [0017]本発明で用いる評価方法は以下の通りである。 [0018](1)抗菌・抗ウイルス組成物安定性評価 [0019]抗菌・抗ウイルス組成物を20g採取し、それぞれ4度、20度、45度にそれぞれ1日、1か月、6か月、12か月置き、沈殿の有無を観察する。 [0020](2)抗菌性能の測定 ・・・ [0022]抗菌活性=対数開始生存コロニー数/mL(置床5分前のコロニー数)-対数阻害後生存コロニー数/mL(置床5分後のコロニー数) [0023]抗菌活性の値が2以上であれば、良好な抗ウイルス効果を反映していると考えられる。 [0024](3)抗ウイルス性能の測定 [0025]ノロウイルスの代用として、培養法が確立されているネコキュピポックスを用いて試験を行った。抗ウイルス効果は、50%細胞感染濃度法(TCID50法)を用いて抗ウイルス効果を評価した。 ・・・ [0026]抗ウイルス性活性=logTCID50/mL(5分間静置前のウィルス混合液の感染力)-logTCID50/mL(5分間静置後のウィルス混合液の感染力)であり、抗ウイルス活性が3以上であれば、良好な抗ウイルス効果を反映している考えられる。 [0027]以下実施形態に関連して本発明をさらに説明する。 [0028]実施形態におけるグレープフルーツ種子抽出物は米国バイエル性化学研究所から購入した。グレープフルーツ種子抽出物の他の市販の供給源を使用することもできる。 [0029]実施例1 [0030]以下の手順にしたがって、抗菌・抗ウイルス組成物の調製及び評価を行った。 [0031](1)0.2%のε-ポリリジン又はε-ポリリジン塩酸塩0.2%、グレープフルーツ種子抽出物0.1%、アルコール55%の成分に従って、質量%で、抗菌・抗ウイルス組成物を配合した。 [0032](2)抗菌・抗ウイルス組成物のpHは、実験群番号A1~A9の順に、それぞれ乳酸及び乳酸ナトリウムを添加することによって、2.0、3.0、3.5、4.0、5、0、6.0、7.0、8.0、9.0に調整した。 [0033](3)抗菌・抗ウイルス組成物を室温で1か月、3か月、12か月放置し、沈殿の有無を観察した。 [0034](4)抗菌・抗ウイルス組成物の抗菌性、抗ウイルス性の測定 [0035]製剤化した抗菌・抗ウイルス組成物はpHに3.5~9.0の範囲で安定であり、pHが3.5未満では、長期保存時に組成物が析出した。 [0036]抗菌・抗ウイルス組成物の安定性実験の結果を表1に示す。 [0037]表1抗菌・抗ウイルス組成物の安定性結果※ ・・・ [0039]※はい:沈殿あり、いいえ:沈殿無し [0040]製剤化した抗菌・抗ウイルス組成物を3ケ月保存後の抗菌・抗ウイルス活性を測定し、結果を表2に示した。組成物A3~A6の効果は高い効果を示し、長期保存後も安定であった。 [0041]表2 抗菌・抗ウイルス組成物の抗菌・抗ウイルス活性※ ・・・ [0043]※菌懸濁液に対する抗菌・抗ウイルス組成物の最終質量濃度は1%であった。」 イ 引用文献4の記載 (4a)「食品添加物・乳酸製剤 カンショウ乳酸 カンショウ乳酸は 乳酸と乳酸ナトリウムを配合した製剤です。 ●おだやかな酸味を持ち、酸臭のほとんどない乳酸を主剤としたpH調整剤です。 ●有機酸単独での使用と比べ、対象とするpH領域にあわせる能力が優れています。 ●酸性側で働く酸化防止剤、保存剤などの作用を、効果的に増強します。 ・・・ ■乳酸・乳酸ナトリウム製剤の緩衝性 *乳酸-乳酸ナトリウムの配合割合により、様々な食品の製造に適したpH域への調整が可能です。 ・・・」(「カンショウ乳酸は」及び「乳酸・乳酸ナトリウム製剤の緩衝性」の項目) ウ 特許異議申立人提出の参考資料2(特開2009-292736号公報)の記載 「【請求項1】 アルカリ電解水を含有すると共に、その全体のpHを8~14としたことを特徴とする抗ノロウイルス組成物。 【請求項2】 グレープフルーツ種子抽出物を含有すると共に、このグレープフルーツ種子抽出物の含有量を0.5重量%以上10.0%重量以下としたことを特徴とする請求項1記載の抗ノロウイルス組成物。 【発明の詳細な説明] 【技術分野] 【0001】 本発明は、人に対して感染性胃腸炎や食中毒を起こさせるノロウイルスの感染を防止するための抗ノロウイルス組成物に関する。」 「【0018】 このような抗ノロウイルス組成物にあっては、アルカリ電解水を含有しつつ、そこにアルコールを混合して、全体のpHを8~14とする、さらには、このアルカリ電解水を含有しつつ、そこにアルコールを混合して、全体のpHを8~14としたものに、グレープフルーツ種子抽出物を混合して、その全体のpHを8~14とすることで、ノロウイルスを極めて容易にかつ10秒という短時間で確実に不活化させることができ、その感染を抑えるようにすることができると共に、このノロウイルス組成物にあっては、アルコールにアルカリ電解水、あるいは、グレープフルーツ種子抽出物を含有させたものであるため、使用時において人に対して無害であり、安全性が極めて高く、また、塩素などを含んでいないため、腐食や脱色などの問題をなくし、特に手を洗う場合、手が荒れてしまうといった問題を解消することができる。」 (2)引用文献1記載の発明 ア 引用文献1は、グレープフルーツ種子抽出物を含む抗菌・抗ウイルス組成物に関する文献であって(摘記(1a))、摘記(1b)には、請求項1に係る発明に対応した実施例1として、 ε-ポリリジン又はε-ポリリジン塩酸塩0.2%、グレープフルーツ種子抽出物0.1%、アルコール55%の成分に従って、質量%で、抗菌・抗ウイルス組成物を配合し、抗菌・抗ウイルス組成物のpHを、乳酸及び乳酸ナトリウムを添加することによって、8.0、9.0に調整したことが記載されている(摘記(1c)[0018]~[0035])。 イ したがって、引用文献1から、実施例1に係る発明として、以下の発明が認定できるといえる。 「ε-ポリリジン又はε-ポリリジン塩酸塩0.2質量%、グレープフルーツ種子抽出物0.1質量%、アルコール55質量%配合し、乳酸及び乳酸ナトリウムを添加することでpH8.0~9.0に調整した抗菌・抗ウイルス組成物」(以下「引用文献1発明」という。) (3)本件特許発明1について ア 引用文献1発明との対比 引用文献1発明の「乳酸及び乳酸ナトリウム」は、本件特許出願時の技術常識を示す文献である引用文献4を参照すると、乳酸-乳酸ナトリウムの配合割合によってpH調整ができるpH調整剤であり、緩衝作用(緩衝性)を有するものである。また、弱酸及び弱酸の塩の混合液は、典型的な緩衝剤であることも考慮すると、引用文献1発明の「乳酸及び乳酸ナトリウム」は、本件特許発明1の「緩衝剤」に相当するといえる。 また、引用文献1発明は、「pH8.0~9.0に調整した」ものであるから、本件特許発明1の「pH10.0以上に調整されている」ことと、「pH調整されている」点で共通する。 さらに、引用文献1発明の「抗菌・抗ウイルス組成物」は、本件特許発明1の「ウイルス不活性化剤」に相当するといえる。 イ 一致点・相違点の認定 以上のことから、本件特許発明1と引用文献1発明は、 「グレープフルーツ種子抽出物に緩衝剤が含有され、pH調整されているウイルス不活性化剤。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 相違点1:本件特許発明1は、「グレープフルーツ種子抽出物の水溶液」との特定事項を有しているのに対して、引用文献1発明は、「ε-ポリリジン又はε-ポリリジン塩酸塩0.2質量%、グレープフルーツ種子抽出物0.1質量%、アルコール55質量%配合し、乳酸及び乳酸ナトリウムを添加すること」が特定されているものの、「水溶液」であることが特定されていない点。 相違点2:本件特許発明1は、「pH10.0以上に調整されている」のに対して、引用文献1発明は、「pH8.0~9.0に調整した」ものである点。 ウ 相違点1の判断 (ア)引用文献1の摘記(1b)には、「先行技術における上記の一連の欠陥に対応して、本発明の第一の目的は、抗菌及び抗ウイルス組成物を提供することであり、前記組成物は、0.02~1質量%の濃度のε-ポリリジン又はε-ポリリジン塩酸塩と、0.01~0.2質量%の濃度のグレープフルーツ種子抽出物とを含む。 ・・・本発明の一実施形態において、前記方法は、前記混合物を酸性エタノール水溶液に溶解することであり、前記酸性エタノール水溶液は、20~70体積%のエタノール濃度を有する。」との記載があり、実施例1に記載された55質量%のアルコールを添加した組成物は、水溶液中の20~70体積%というエタノール濃度に該当していることや、含有量からみて組成物の全成分を明らかにしていないことからみて、引用文献1発明の組成物は、エタノール水溶液であることは、記載されているに等しい事項である。 (イ)したがって、相違点1は、実質的な相違点とはいえない。 エ 相違点2の判断 (ア)引用文献1には、抗菌・抗ウイルス組成物のpHを、乳酸及び乳酸ナトリウムを添加することによって、8.0、9.0に調整したことが記載されており、pH10.0以上に調整することの記載はない。また、乳酸と乳酸ナトリウムを配合した製剤である緩衝乳酸に関する引用文献4を含めた、その他の引用文献の記載を参照しても、引用文献1発明の抗菌・抗ウイルス組成物のpHが10.0以上であることが、本件特許の優先日時における技術常識であるとはいえない。 それゆえ、相違点2は、実質的な相違点である。 オ 小括 本件特許発明1は、引用文献4に記載された事項等のその他の技術常識を参照しても、引用文献1に記載された発明であるとはいえない。 (4)本件特許発明6について ア 引用文献1発明との対比 本件特許発明6は、本件特許発明1~3において、「pH11.0以下に調整されていること」を特定したものであるが、本件特許発明6と引用文献1発明とは、少なくとも以下の相違点2-6を有する。 相違点2-6:本件特許発明6は、「pH10.0以上11.0以下に調整されている」のに対して、引用文献1発明は、「pH8.0~9.0に調整した」ものである点。 イ 小括 上記(3)で検討したのと同様に、本件特許発明6は、引用文献4に記載された事項等の技術常識を参照しても、引用文献1に記載された発明とはいえない。 (5)特許異議申立人の意見書における引用文献1に関する主張について ア 特許異議申立人は意見書5~8頁において、本件特許発明1は、本件訂正によってpHが「10.0以上」に調整されると特定されても、本件特許明細書において記載された特許文献3の公開公報である参考資料2を参照すると、引用文献1に記載された発明に基いて進歩性を欠如している旨主張している。 イ しかしながら、特許異議申立人の引用文献1(甲第1号証)に関する申立理由1は、新規性欠如であり、上記進歩性欠如の主張は、実質的に新たな理由を提示するものであり、かつ訂正前の請求項5に係る発明(pHが「10.0以上」に調整されることが特定されている。)について、本件訂正前にも主張できたものであるから、採用しない。 念のため検討しても、特許異義申立人は、特許権者が従来技術として認識し、1ヶ月程度でpHが大幅低下すると認識している(本件特許明細書【0012】)特許文献3の公開公報(参考資料2)には、本件特許出願時の特許請求の範囲にpH領域が重複する部分があったことを述べているにすぎない。そして、参考資料2は、アルカリ電解水を用いた技術に関するものであり、グレープフルーツ種子抽出物を用いた本件特許発明とは直接の関係はないので、上記特許異議申立人の主張を採用することはできない。 (6)理由1のまとめ 以上のとおり、本件特許発明1及び6は、引用文献1に記載された発明とはいえないから、取消理由1は解消している。 2 理由2(拡大先願)について(請求項1、3及び6について) (1)国内優先権主張を伴う日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明について 本件特許出願の日前の国内優先権主張を伴う日本語特許出願であって、その出願後に国際公開された、国内優先権主張を伴う日本語特許出願であるPCT/JP2020/002958(国内移行時の出願番号:特願2020-506286号)の優先日は、国内優先権主張の基礎とする出願である特願2019-139338号(出願日:2019年(令和元年)7月30日)の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲(引用明細書5)に、請求項10~14のウイルス不活性化剤組成物が記載され、実施例3のウイルス不活性化効果の確認試験や、表6及び7のウイルス不活性化剤のpHやウイルス感染価の測定結果が記載されているので(下記(2)で詳述する。)、2019年(令和元年)7月30日であると認める。 したがって、特許法第29条の2の規定は、特願2019-139338号(出願日:2019年7月30日)が本件特許に係る出願(出願日:令和元年10月8日)前に出願され、その出願後に出願公開されたものとみなして判断する(特許法第41条第3項)。 (2)引用明細書5及び技術常識を示す文献の記載 ア 引用明細書5の記載 本件特許の出願日前の国内優先権主張の基礎出願であり、特許法第41条第1項の規定により優先権の主張の基礎となり、同法第184条の15第2項の規定により読み替えて適用される同法第41条第3項の規定により、国際公開されたものとみなされる特願2019-139338号の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲(引用明細書5)には、次の記載がある。 (ア1)「技術分野 【0001】 本発明は、殺菌、ウイルス不活性化成分を水溶液中に配合して成る殺菌、ウイルス不活性化剤組成物、および殺菌、ウイルス不活性化剤組成物の殺菌、ウイルス不活性化効力増強方法に関する。」 (イ1)「発明が解決しようとする課題 【0010】 しかしながら、特許文献1のアルコール製剤は、エタノールを含有するため引火性やエタノールによる刺激性の問題があった。また、pHが2.5以上6.0以下と酸性であるため、 酸による刺激性の問題もあった。特許文献2の洗浄ならびに除菌用組成物は強アルカリ性であるため、アルカリによる刺激性の問題があった。 【0011】 また、特許文献3のウイルス不活性化剤は、銀系抗菌剤を含有するため、銀イオンによる樹脂の変色、着色という問題点があった。 【0012】 本発明は、上記問題点に鑑み、殺菌成分として次亜塩素酸やアルコールを含まず、ウイルス不活性化成分として銀系抗菌剤を含まない殺菌、ウイルス不活性化剤組成物、および殺菌、 ウイルス不活性化効力増強方法を提供することを目的とする。」 (ウ1)「【実施例1】 【0072】 [試験液の調製] (A)グレープフルーツ種子抽出物(エービーシーテクノ社製)、(B)炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウムニ水和物、安息香酸ナトリウム、炭酸ナトリウムー水和物、クエン酸三カリウムー水和物、酢酸ナトリウム、リン酸水素ニナトリウム(以上、和光純薬工業社製)、コハク酸ニナトリ ウム、ソルビン酸カリウム、亜硫酸ナトリウム(以上、ナカライテスク社製)・・・を表1、表2、表6に示す配合割合(質量%)で配合し、精製水を加えて100重量%として試験液(本発明1~38)を得た。」 (エ1)「【実施例3】 【0091】 [ウイルス不活性化効果の確認試験(Feline calicivirus)] (試験ウイルス液の調製) MEM培地(ナカライテスク社製)に牛胎仔血清を10%加えた細胞増殖培地を用いてCRFK細胞(JCRB細胞バンク)を組織培養シャーレ内に単層培養した。単層培養シャーレ内から細胞増殖培地を除去し、ネコカリシウイルス(Feline calicivirus F-9 ATCC VR-782)を接種した。 次に、MEM培地に牛胎仔血清を2%加えた細胞維持培地を加えて37±1℃の炭酸ガスインキュベーター(CO2濃度5%)内で1~5日間培養した。ネコカリシウイルスはノンエンべロープウイルスの一種であり、細胞培養できないノロウイルスの代替ウイルスとして広く使用されている。 【0092】 培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態を観察し、細胞に形態変化(細胞変性効果)が起こっていることを確認した。次に、培養液を1000rpm/分遠心分離し、得られた上澄み液を限外ろ過して試験ウイルス液とした。 【0093】 実施例1で調製した本発明27~38、比較例33~39の試験液0.9mLに、試験ウイルス液0.1mLを添加混合し、作用液とした。5分後に作用液をMEM培地で100倍希釈し、10倍希釈系列を作製した。なお、精製水に試験ウイルス液を添加したものを対照として同様の操作を行った。 【0094】 (ウイルス感染価の測定) 細胞増殖培地を用い、使用細胞を組織培養用マイクロプレート(96穴)内で単層培養した後、細胞増殖培地を除去して細胞維持培地を0.1mLずつ加えた。次に、作用液の10倍希釈系列0.1mLをそれぞれ4穴ずつに接種し、37±1℃の炭酸ガスインキュベーター(CO2濃度5%)内で4~7日間培養した。培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態変化(細胞変性効果)の有無を観察し、Reed-Muench法により50%細胞培養感染量(TCID50)を算出して作用液1mL当たりの感染価に換算し、対照とした精製水の感染価と比較して、感染価対数減少値を算出した。ウイルス感染価の測定結果を試験液の配合、pHと併せて表6、表7に示す。 【0095】 【表6】 [図:0001423508000001.jpg] 【0096】 【表7】 [図:0001423508000002.jpg] 【0097】 表6に示すように、(A)グレープフルーツ種子抽出物と、(B)炭酸水素ナトリウム、 クエン酸三ナトリウムニ水和物、クエン酸三カリウムー水和物のいずれかとを配合した本発明27~38では、ネコカリシウイルス・・・に対して感染価対数減少値が1以上となり、ウイルス不活性化効果を有することが確認された。」 イ 国際公開第2020/174980号として国際公開されたPCT/JP2020/002958の日本語国際出願の願書に最初に添付した明細書及び請求の範囲(引用明細書6)には、次の事項が記載されている。 (ア2)「技術分野 [0001] 本発明は、殺菌、ウイルス不活性化成分を水溶液中に配合して成る殺菌、ウイルス不活性化剤組成物、および殺菌、ウイルス不活性化剤組成物の殺菌、ウイルス不活性化効力増強方法に関する。」 (イ2)「発明が解決しようとする課題 [0010] しかしながら、特許文献1のアルコール製剤は、エタノールを含有するため引火性やエタノールによる刺激性の問題があった。また、pHが2.5以上6.0以下と酸性であるため、 酸による刺激性の問題もあった。特許文献2の洗浄ならびに除菌用組成物は強アルカリ性であるため、アルカリによる刺激性の問題があった。 [0011] また、特許文献3のウイルス不活性化剤は、銀系抗菌剤を含有するため、銀イオンによる樹脂の変色、着色という問題点があった。 [0012] 本発明は、上記問題点に鑑み、殺菌成分として次亜塩素酸やアルコールを含まず、ウイルス不活性化成分として銀系抗菌剤を含まない殺菌、ウイルス不活性化剤組成物、および殺菌、 ウイルス不活性化効力増強方法を提供することを目的とする。」 (ウ2)「実施例 1 [0067] [試験液の調製] (A)グレープフルーツ種子抽出物(エービーシーテクノ社製)、(B)炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウムニ水和物、安息香酸ナトリウム、炭酸ナトリウムー水和物、クエン酸三カリウムー水和物、酢酸ナトリウム、リン酸水素ニナトリウム(以上、和光純薬工業社製)、コハク酸ニナトリ ウム、ソルビン酸カリウム、亜硫酸ナトリウム(以上、ナカライテスク社製)・・・を表1、表2、表6に示す配合割合(質量%)で配合し、に精製水を加えて100重量%として試験液(本発明1~38)を得た。」 (エ2)「実施例3 [0086] [ウイルス不活性化効果の確認試験(Feline calicivirus)] (試験ウイルス液の調製) MEM培地(ナカライテスク社製)に牛胎仔血清を10%加えた細胞増殖培地を用いてCRFK細胞(JCRB細胞バンク)を組織培養シャーレ内に単層培養した。単層培養シャーレ内から細胞増殖培地を除去し、ネコカリシウイルス(Feline calicivirus F-9 ATCC VR-782)を接種した。 次に、MEM培地に牛胎仔血清を2%加えた細胞維持培地を加えて37±1℃の炭酸ガスインキュベーター(CO2濃度5%)内で1~5日間培養した。ネコカリシウイルスはノンエンべロープウイルスの一種であり、細胞培養できないノロウイルスの代替ウイルスとして広く使用されている。 [0087] 培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態を観察し、細胞に形態変化(細胞変性効果)が起こっていることを確認した。次に、培養液を1000rpm/分遠心分離し、得られた上澄み液を限外ろ過して試験ウイルス液とした。 [0088] 実施例1で調製した本発明27~38、比較例33~39の試験液0.9mLに、試験ウイルス液0.1mLを添加混合し、作用液とした。5分後に作用液をMEM培地で100倍希釈し、10倍希釈系列を作製した。なお、精製水に試験ウイルス液を添加したものを対照として同様の操作を行った。 [0089](ウイルス感染価の測定) 細胞増殖培地を用い、使用細胞を組織培養用マイクロプレート(96穴)内で単層培養した後、細胞増殖培地を除去して細胞維持培地を0.1mLずつ加えた。次に、作用液の10倍希釈系列0.1mLをそれぞれ4穴ずつに接種し、37±1℃の炭酸ガスインキュベーター(CO2濃度5%)内で4~7日間培養した。培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態変化(細胞変性効果)の有無を観察し、Reed-Muench法により50%細胞培養感染量(TCID50)を算出して作用液1mL当たりの感染価に換算し、対照とした精製水の感染価と比較して、感染価対数減少値を算出した。ウイルス感染価の測定結果を試験液の配合、pHと併せて表6、表7に示す。 [図:0001423508000003.jpg] [図:0001423508000004.jpg] [0092] 表6に示すように、(A)グレープフルーツ種子抽出物と、(B)炭酸水素ナトリウム、 クエン酸三ナトリウムニ水和物、クエン酸三カリウムー水和物のいずれかとを配合した本発明27~38では、ネコカリシウイルス・・・に対して感染価対数減少値が1以上となり、ウイルス不活性化効果を有することが確認された。」 上記引用明細書5の摘記(ア1)の記載は、日本語国際出願の国際公開第2020/174980号の引用明細書6の段落[0001]に(摘記(ア2))、摘記(イ1)の記載は、引用明細書6の段落[0010]、[0011]及び[0012](摘記(イ2))に、摘記(ウ1)の記載は、引用明細書6の段落[0072]に(摘記(ウ2))、摘記(エ1)の記載は、引用明細書6の段落[0086]~[0092]に(摘記(エ2))、それぞれ記載され、国際公開されている。 ウ 引用文献2の記載 (2a)「緩衝液・・・ 浴液中のある成分濃度の変化に対する作用*が大きい溶液.特に水素イオン指数(pH)に対する緩衝液を指すことが多い。」(「緩衝液」の項目) (2b)「緩衝作用・・・ 溶液に酸または塩基を加えた場合におこる水素イオン濃度の変化を小さくする作用.たとえば水素イオン指数pHの変化が純水の場合よりも小さい溶液は緩衝作用をもつという.一般に弱酸(または弱塩基)とそれらの塩との混合溶液は緩衝作用が大きい.」(「緩衝作用」の項目) エ 引用文献3の記載 (3a)「炭酸水素ナトリウム ・・・ 重曹 重炭酸ナトリウム NaHCO3:84.01 ・・・ 本質・・・・緩衝剤」(「炭酸水素ナトリウム」の項目) オ 引用文献7の記載 (7a)「クエン酸ナトリウム ・・・ C6H5Na3O7・2H2O:294.10 trisodium 2-hydroxy-l, 2, 3-propanetricarboxylate dihydrate [6132-04-3] ・・・ 本質・・・・緩衝剤」(「クエン酸ナトリウム」の項目) カ 引用文献8の記載 (8a)「くえん酸三カリウム一水和物 ・・・ 概要・使用例 用途・・・・緩衝剤 」(1/2~2/2の「くえん酸三カリウム一水和物」の「概要・使用例」「用途」の項目) キ 特許異議申立人提出の参考資料1(「pH曲線とアルカリ度-水浄化フォーラム-科学と技術-」、村上定瞭(水浄化フォーラム)、[online]、[令和7年1月9日検索]、インターネット<URL:http://water-so1utions.jp/tech_basic-2/neutra1izing/a1kalinity/>)の記載 [図:0001423508000005.jpg] [図:0001423508000006.jpg] [図:0001423508000007.jpg] [図:0001423508000008.jpg] [図:0001423508000009.jpg] 」(2/9頁~3/9頁) 「 [図:0001423508000010.jpg] 」(6/9頁) (3)引用明細書5に記載された発明について 引用明細書5は、ウイルス不活性化成分を水溶液中に配合して成るウイルス不活性化剤組成物に関するものである(摘記(ア1))。 そして、摘記(ウ1)の【表6】には、本発明27、28、29、30のウイルス不活化剤として、それぞれ、グレープフルーツ種子抽出物を、0.50質量%、0.20質量%、0.50質量%、0.20質量%、炭酸水素Naを、0.50質量%、0.20質量%、0.10質量%、0.10質量%、精製水が残部であって、pHが、8.51、8.42、8.33、8.40であることが示されている。 さらに、摘記(ウ1)の【表6】には、本発明32、33のウイルス不活化剤として、それぞれ、 グレープフルーツ種子抽出物を、0.10質量%、0.05質量% クエン酸3Na・2水和物を、 0.20質量%、0.20質量% 精製水が残部であって、 pHが、8.16、8.17が示されている。 また、摘記(ウ1)の【表6】には、本発明38のウイルス不活化剤として、 グレープフルーツ種子抽出物を、0.20質量% クエン酸3K・1水和物を、 0.10質量% 精製水が残部であって、 pHが、7.51が示されている。 そうすると、引用明細書5には、次の発明(以下、「引用発明5-1」、「引用発明5-2」、「引用発明5-3」、「引用発明5-4」、「引用発明5-5」、「引用発明5-6」、及び「引用発明5-7」、という。)が記載されていると認められる。 引用発明5-1:「グレープフルーツ種子抽出物0.50質量%、炭酸水素Na0.50質量%、残部精製水で、pH8.51のウイルス不活化剤」 引用発明5-2:「グレープフルーツ種子抽出物0.20質量%、炭酸水素Na0.20質量%、残部精製水で、pHが、8.42のウイルス不活化剤」 引用発明5-3:「グレープフルーツ種子抽出物0.50質量%、炭酸水素Na0.10質量%、残部精製水で、pHが、8.33のウイルス不活化剤」 引用発明5-4:「グレープフルーツ種子抽出物0.20質量%、炭酸水素Na0.10質量%、残部精製水で、pHが、8.40のウイルス不活化剤」 引用発明5-5:「グレープフルーツ種子抽出物0.10質量%、クエン酸3Na・2水和物0.20質量%、残部精製水で、pHが、8.16のウイルス不活化剤」 引用発明5-6:「グレープフルーツ種子抽出物0.05質量%、クエン酸3Na・2水和物0.20質量%、残部精製水で、pHが、8.17のウイルス不活化剤」 引用発明5-7:「グレープフルーツ種子抽出物0.20質量%、クエン酸3K・1水和物0.10質量%、残部精製水で、pHが、7.51のウイルス不活化剤」 (4)本件特許発明1について ア 引用発明5-1との対比 引用発明5-1の「グレープフルーツ種子抽出物」及び「残部精製水」は、本件特許発明1の「グレープフルーツ種子抽出物水溶液」に相当する。 そして、引用発明5-1の「炭酸水素Na」は、炭酸水素ナトリウムが緩衝剤であることは技術常識であり(引用文献3参照)、水素イオン指数pHの変化が純水の場合よりも小さい溶液は緩衝作用をもつといえ、緩衝液とは、浴液中のある成分濃度の変化に対する緩衝作用が大きい溶液であり、特に水素イオン指数(pH)に対する緩衝液を意味することが技術常識であること(引用文献2参照)も考慮すれば炭酸水素ナトリウムは、緩衝作用を有する緩衝液を形成するものであり、本件特許発明1の「緩衝剤」に相当するといえる。 そして、引用発明5-1の「pH8.51のウイルス不活化剤」は、本件特許発明1の「pH10.0以上に調整されている」「ウイルス不活性化剤」と、「pH調整されている」「ウイルス不活性化剤」である点で共通する。 イ 一致点・相違点の認定 以上のことから、本件特許発明1と引用発明5-1は、 「グレープフルーツ種子抽出物に緩衝剤が含有され、pH調整されているウイルス不活性化剤。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 相違点3:本件特許発明1は、「pH10.0以上に調整されている」のに対して、引用発明5-1は、「pH8.51」である点。 ウ 相違点3の判断 (ア)引用明細書5には、引用発明5-1のウイルス不活性化剤は、pHを、pH8.51という特定の値としていることが記載されており、pH10.0以上に調整することの記載はない。また緩衝液や緩衝作用の用語の解説の記載のある引用文献2の記載、炭酸水素ナトリウムが緩衝剤であることが記載された引用文献3の記載、乳酸と乳酸ナトリウムを配合した製剤である緩衝乳酸に関する引用文献4を含めた、その他の引用文献の記載を参照しても、引用発明5-1のウイルス不活性化剤のpHが10.0以上であることが、本件特許の優先日時における技術常識であるとはいえない。 それゆえ、相違点3は、実質的な相違点である。 (イ)また、引用明細書5の【0041】や請求項2に「pHが6~11である」との記載が単独で存在していても、引用発明5-1のウイルス不活性化剤についての記載は、pH値とともに実施例として確立したものであるから、引用発明5-1のウイルス不活性化剤を、理由無く「pH10.0以上に調整されている」との構成とすることは、周知慣用技術の付加・転換であるとはいえないし、課題解決のための具体化手段における微差ともいえない。 それゆえ、両発明は、実質的に同一の発明であるとはいえない。 エ 本件特許発明1と引用発明5-2~引用発明5-7の対比・判断においても、引用発明5-2~引用発明5-7のいずれの発明も、pHが8.51~7.51であり、上記イと同様に、実質的な相違点である相違点3を有している(引用発明5-2、5-3、5-4、5-5、5-6、5-6では、それぞれ、pHが8.42、8.33、8.40、8.16、8.17、7.51である点で、本件特許発明1と相違する。)。 オ そして、上記相違点3は、上記ウと同様に、周知慣用技術の付加・転換であるとはいえないし、課題解決のための具体化手段における微差ともいえない。 それゆえ、両発明は、実質的に同一の発明であるとはいえない。 カ 小括 本件特許発明1は、引用文献2~4に記載された事項等のその他の技術常識を参照しても、引用明細書5に記載された発明と同一であるとはいえない。 (5)本件特許発明3について ア 引用発明5-1~引用発明5-4との対比 本件特許発明3は、本件特許発明1において、「緩衝剤は、炭酸水素ナトリウムを含有すること」を特定したものであるが、引用発明5-1~引用発明5-4は、炭酸水素ナトリウムを含有しているので、本件特許発明3と引用発明5-1~5-4とは、新たな相違点は存在せず、上記相違点3を有する。 イ 上記(4)で検討したのと同様に、本件特許発明3は、引用文献2及び引用文献3等の技術常識を参照しても、引用発明5-1~引用発明5-4と同一であるとはいえない。 (6)本件特許発明6について ア 引用発明5-1~5-7との対比 本件特許発明6は、本件特許発明1及び3において、「pH11.0以下に調整されていること」を特定したものであるが、引用発明5-1~5-7は、いずれも、pH11.0以下であるので、本件特許発明6と引用発明5-1~5-7とは、新たな相違点は存在せず、上記相違点3を有する。 イ 上記(4)で検討したのと同様に、本件特許発明6は、引用文献2、引用文献3、引用文献7及び引用文献8等の技術常識を参照しても、引用発明5-1~引用発明5-7と同一であるとはいえない。 (7)特許異議申立人の意見書における引用明細書5に関する主張について ア 特許異議申立人は意見書1~5頁において、引用明細書5の請求項1、請求項10、請求項12、【0049】、【0072】、【0074】、【0081】、【0091】、【0097】、試験例1~38を指摘し、参考資料1の図2をさらに指摘して、炭酸ナトリウムは単独で緩衝作用を示すことは周知であることを前提に、本件特許発明は、引用明細書5に記載されている旨主張している。 イ しかしながら、特許異議申立人の上記主張は、引用明細書5の多くの記載を都合良く寄せ集めて、引用明細書5に、炭酸ナトリウム水溶液を緩衝剤として、pH10.0以上に調整したウイルス不活性化剤が記載されているというものであり、引用明細書5に実際に具体的pH値(pH8.51など)と共に示された試験例のように、ひとまとまりの技術的思想として認識できる記載に基づくものではない。また、参考資料1の図2は、炭酸ナトリウム水溶液を強酸で中和した場合のpH依存性について示したもので、そのような強酸で中和した場合には、炭酸水素イオンが生成し共存していることで、pH緩衝作用を生じる領域が存在することを示しているにすぎず、炭酸ナトリウム水溶液を強酸で中和することの記載のない引用明細書5には、上記参考資料1を参酌しても、本件特許発明が、引用明細書5に記載されている発明であるとはいえない。 それゆえ、上記特許異議申立人の主張を採用することはできない。 (8)理由2のまとめ 以上のとおり、本件特許発明1、3及び6は、引用明細書5に記載された発明と同一とはいえないから、取消理由2は解消している。 3 取消理由の判断のまとめ 以上のとおり、取消理由通知で通知した取消理由1及び2は、いずれも本件訂正及び意見書による主張により解消しており、理由がない。 II 取消理由に採用しなかった特許異議申立人が申し立てた理由について 特許異議申立人の申し立てた理由のうち、異議申立理由1(新規性)については、令和6年8月19日付け取消理由通知で通知した理由1として採用されている。また、異義申立理由3(拡大先願)についても、同じく取消理由通知で通知した理由2として、請求項2に係る発明を除いて採用されている。 請求項2に係る発明についての異議申立理由3は、前記「I 取消理由 2」で検討したのと同様に理由とならないから、異議申立理由1及び3には理由がない。 以下に、取消理由に採用しなかった異議申立理由2(明確性要件)、異議申立理由4(サポート要件)、及び異議申立理由5(進歩性)について述べる。 1 異議申立理由2(明確性要件)について 請求項1~3及び6について (1)特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)の判断の前提 明確性要件に適合するか否かは、第三者の不測の不利益を生じるほどに不明確かどうかで判断すべきであるとされている。 (2)判断 ア 本件特許発明の「緩衝剤」との用語が技術的に曖昧で、本件特許明細書に「緩衝剤」の明確な定義がなく、炭酸水素ナトリウム単体が緩衝剤であるか否かの記載はないことから、「緩衝剤」を発明特定事項とする本件特許発明が不明確であるというのが、異議申立理由2の内容である。 イ しかしながら、本件特許明細書全体の記載及び本件の出願時の技術常識を参酌すれば、本件特許発明の「緩衝剤」とは、甲第2号証にも記載される緩衝作用を有する剤であって、使用したウイルス不活性化剤中でpHの変化を抑制して実質的な緩衝作用を機能し得るものであると理解できる。 したがって、本件特許発明の「緩衝剤」との用語が、第三者の不測の不利益を生じるほどに不明確であるとはいえない。 ウ 特許異議申立人は、「緩衝液」の説明に緩衝作用の具体的基準の記載がないことから、炭酸水素ナトリウム単体が緩衝剤に含まれるのかどうかが不明確である旨主張しているが、甲第2号証には、「緩衝液」とは、緩衝作用が大きい溶液との説明の記載があるように、本件特許発明の「緩衝剤」は、緩衝作用を有する剤であって、使用したウイルス不活性化剤中でpHの変化を抑制して実質的な緩衝作用を機能し得るものといえるし、甲第5号証に記載されるように、炭酸水素ナトリウム単体も緩衝剤であることは明らかである。 したがって、異義申立人の上記主張は採用できない。 (3)まとめ 以上のとおり、請求項1~3及び6に係る特許を受けようとする発明は明確であり、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1項第4号の規定により取消されるべきものではない。 したがって、明確性要件に関する異義申立理由2には、理由がない。 2 異議申立理由4(サポート要件)について 請求項1~3について (1)サポート要件の判断の前提 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲の記載は、第3に記載のとおりであり、請求項1には、「グレープフルーツ種子抽出物の水溶液に緩衝剤が含有され」ていること、及び「pH10.0以上に調整されていること」が特定された「ウイルス不活性化剤」の発明が記載され、請求項2には、請求項1に記載のウイルス不活性化剤において、「前記緩衝剤は、炭酸ナトリウムを含有すること」を特定した「ウイルス不活性化剤」の発明が記載され、請求項3には、請求項1または2において、「前記緩衝剤は、炭酸水素ナトリウムを含有すること」を特定した「ウイルス不活性化剤」が記載されている。 (3)発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明には、特許請求の範囲の記載の実質的な繰り返し記載を除いて以下の記載がある。 【0010】~【0019】には、背景技術、本件特許発明の課題、本件特許発明の課題の解決手段、本件特許発明の作用に関して記載があり、【0024】~【0029】には、本件特許発明の効果の記載があり、【0032】~【0057】には、グレープフルーツ種子抽出物水溶液の製造やpH範囲を含めた緩衝剤に関する説明と長期間に亘ってウイルス不活化剤が安定している理由の記載、緩衝剤として、炭酸水素ナトリウム単体でpH調整する場合や炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムを含有している場合の経時安定性に関する説明の記載がある。 そして、実施例1~5及び比較例1~4を用いたpH安定性試験、抗ウイルス試験、抗菌試験、汚染性の試験の結果と考察の記載がある。 (4)判断 ア 本件特許発明の課題について 本件特許明細書の前記(3)の【0016】の記載、特許請求の範囲の記載、前記(2)の発明特定事項及び本件特許明細書全体の記載を参酌して、本件特許発明の課題は、高い安全性及び安定性を持たせながら、除菌効果だけでなく、ノンエンベロープウイルス等に対する効力も十分に高めたウイルス不活性化剤を提供することにあると認める。 イ サポート要件の判断 (ア)上記(2)に記載のように、請求項1においては、ウイルス不活性化剤として、グレープフルーツ種子抽出物の水溶液に緩衝剤が含有されていることと、そのpHが10.0以上に調整されている物の発明が記載されている。 本件特許明細書の上記(3)の【0019】及び【0024】には、グレープフルーツ種子抽出物の除菌効果と、アルカリ性を維持することによる抗ウイルス効果の作用効果の一般的説明があり、【0032】~【0034】には、グレープフルーツ種子抽出物の水溶液の具体的内容に関して記載があり、【0035】~【0057】には、緩衝剤の例示として炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムを含有させることで、pHを10.0以上に調整する手段、好ましいpHの上限及び緩衝剤として働く理論的機構の記載がある。 そして、本件特許発明1の構成に対応した実施例1及び5のような実施例も存在する。 したがって、緩衝剤として働く系において、初期pHを10.0以上に調整することで、高い安全性及び安定性を持たせながら、除菌効果だけでなく、ノンエンベロープウイルス等に対する効力も十分に高めたウイルス不活性化剤を一定程度提供できることは理解できるといえ、本件特許発明1の構成によって、当業者であれば上記本件特許発明1の課題を解決できることを認識できるといえる。 (イ)本件特許発明2、3及び6に関して 本件特許発明2、3及び6に関しても、上記(3)の【0016】の発明が解決しようとする課題の記載、【0017】~【0025】の課題を解決するための手段及び発明の作用の記載、【0029】の発明の効果の記載、【0035】~【0052】の緩衝剤や緩衝剤としての炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムに関する記載、並びに上限の技術的意義を含めたpH領域に関する記載についても併せて考慮すれば、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2、3及び6の構成によって、当業者であれば上記本件特許発明の課題を解決できることを認識できるといえる。 (ウ)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書14~16頁において、本件特許発明1~3は、緩衝剤の種類が特定されていないか、又は炭酸ナトリウムを含有することや炭酸水素ナトリウムを含有することが記載されているだけであるのに対して、本件特許明細書の実施例は、炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムとの組み合わせ」以外の緩衝剤が記載されていないので、それ以外の場合に本件特許発明の課題を解決できると認識できず、本件特許発明1~3は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない旨主張している。 しかしながら、上記本件特許発明1~3は、本件訂正によって、「グレープフルーツ種子抽出物の水溶液に緩衝剤が含有」していること、「pH10.0以上に調整されていること」が特定されており、上述のとおり、実施例1及び実施例5のように具体例を伴って本件特許発明の課題が解決できた結果が示され、発明特定事項に対応した理論的説明もされているのであるから、当業者であれば、炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムとの組み合わせ以外の緩衝剤の場合も具体的実験の明示がなくとも一定程度課題が解決できると認識できるといえる。 したがって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。 (5)まとめ 以上のとおり、請求項1~3に係る特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1項第4号の規定により取消されるべきものではない。 したがって、サポート要件に関する異義申立理由4には、理由がない。 3 異議申立理由5(進歩性)について 請求項1~6について (1)甲第9号証及び甲第10号証の記載 ア 甲第9号証 (9a)「【請求項1】 グレープフルーツ種子抽出物を含有することを特徴とする抗ウイルス剤。 ・・・ 【請求項9】 アルコール、水、乳酸、乳酸ナトリウム、ハトムギエキス、L-アスコルビン酸、ソルビトール、コハク酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、ベタイン、砂糖、食品素材、食塩、還元澱粉糖化物、アジピン酸、キトサン、フィチン酸およびカゼインからなる群より選択される1以上の成分をさらに含むことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤。」 (9b)「【0014】 本発明の抗ウイルス剤は、グレープフルーツ種子抽出物以外に溶媒を含んでいてもよい。抗ウイルス剤を構成する溶媒は、抽出時に用いた溶媒と同一であっても異なっていてもよい。好ましいのは、水やアルコールである。アルコールの中ではエタノールが好ましい。また、本発明の抗ウイルス剤は、さらに添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、本発明の抗ウイルス剤の使用目的や使用態様に応じて適宜選択することができる。例えば、アルコール、水、乳酸、乳酸ナトリウム、ハトムギエキス、L-アスコルビン酸、ソルビトール(例えばD-ソルビットなど)、コハク酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、ベタイン、砂糖、食品素材、食塩、還元澱粉糖化物、アジピン酸、キトサン、フィチン酸およびカゼインからなる群より選択される1以上の成分を好ましく例示することができる。 ・・・ 【0020】 本発明の抗ウイルス剤を医薬品として用いる場合には、必要に応じて薬理学的および製剤学的に許容しうる添加物を添加することができる。例えば、賦形剤、崩壊剤または崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤または溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、粘着剤、湿潤剤などを使用することができる。また、他の生理活性成分(例えば、他の抗ウイルス剤や抗菌剤など)を添加してもよい。これらの添加剤を適宜組み合わせて使用することによって、本発明の抗ウイルス剤にさまざまな付加的機能を持たせることができる。」 イ 甲第10号証 (10a)「以上の如くして精製したTMVを原液の1/10量の燐酸緩衝液に分散させ冷室中に保存して実験に用いた。各pH価のウイルス溶液の調製は,精製ウイルス液を蒸溜水で10倍に薄めたものを供試液とし,それに各pH価の溶液を加えて更に10倍とした。pHは BECKMANNのpH meter, (model-G)を用いて測定した。pH0.5は1NのHClを徐々に滴下してpH meterで測定しながら目盛りがpH0.5に至って中止したものである。pH1.0は1/10N.HCl,pH2.0は1/100N.HCl, pH3.0~10.0は1/10N酪酸と酷酸ソーダ及び1/10N塩化アンモンとアンモニア水よりなるMICHAELIS bufferを用いた。pH11.0は1/100N NaOH, pH12は1/10N NaOHの溶液を用いた。」(155頁左欄19~32行) (10b)「 [図:0001423508000011.jpg] [図:0001423508000012.jpg] [図:0001423508000013.jpg] 」(155頁右欄13行~156頁左欄6行及び第2表) (2)甲第9号証に記載された発明 甲第9号証は、抗ウイルス剤に関する特許文献であって、請求項1を引用する請求項9に係る発明(摘記(1a))として、以下の発明(以下「甲9発明」という。)が認定できる。 「グレープフルーツ種子抽出物を含有し、アルコール、水、乳酸、乳酸ナトリウム、ハトムギエキス、L-アスコルビン酸、ソルビトール、コハク酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、ベタイン、砂糖、食品素材、食塩、還元澱粉糖化物、アジピン酸、キトサン、フィチン酸およびカゼインからなる群より選択される1以上の成分をさらに含する抗ウイルス剤」 (3)本件特許発明と甲9発明の対比・判断 ア 本件特許発明1との対比・判断 (ア) 対比 甲9発明と本件特許発明1を対比すると、甲9発明の「抗ウイルス剤」は、本件特許発明1の「ウイルス不活性化剤」に相当する。 また、甲9発明の「グレープフルーツ種子抽出物を含有」することは、本件特許発明1の「グレープフルーツ種子抽出物」「が含有され」ていることに相当する。 したがって、本件特許発明1と甲9発明とは、「グレープフルーツ種子抽出物を含有するウイルス不活性化剤」という点で一致しており、以下の点で相違する。 相違点4:本件特許発明1は、「グレープフルーツ種子抽出物の水溶液」との特定事項を有しているのに対して、甲9発明は、「アルコール、水、乳酸、乳酸ナトリウム、ハトムギエキス、L-アスコルビン酸、ソルビトール、コハク酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、ベタイン、砂糖、食品素材、食塩、還元澱粉糖化物、アジピン酸、キトサン、フィチン酸およびカゼインからなる群より選択される1以上の成分をさらに含有する」ことは特定されているものの、「水溶液」であることが特定されていない点。 相違点5:本件特許発明1は、「緩衝剤が含有され、pH10.0以上に調整されている」のに対して、甲9発明は、「緩衝剤が含有」することも、「pH10.0以上に調整されていること」も特定されていない点。 (イ)相違点の判断 a 相違点5について 事案に鑑み、本件特許発明の課題に関連した相違点5に関してはじめに検討する。 b 甲9発明の抗ウイルス剤は、摘記(9a)に記載されるように、グレープフルーツ種子抽出物を含有させることによって抗ウイルス剤とすることを目的としたものであって、本件特許発明において問題点として認識されている長期間保存によるpHの大幅低下の問題点を認識しておらず、甲第9号証に、甲9発明の抗ウイルス剤をわざわざ緩衝剤によってpH10.0以上に調整することについては記載も示唆もないし、さらに含有する成分として乳酸やクエン酸が多くの選択肢の一つとして記載されているものの技術常識からみてpH10.0以上に調整される緩衝剤とはいえない。 また、摘記(9b)には、添加剤として可能性のある多くの選択肢の中にpH調整剤が記載されているものの、pH10.0以上に調整される緩衝剤であることを動機付けるものとはいえない。 そして、甲第10号証には、摘記(10a)及び摘記(1b)に記載されるように、pHをHCl、酪酸と酷酸ソーダ、塩化アンモンとアンモニア水、NaOHを用いて変化させたときの煙草モザイク病ウイルス(TMV)の感染力の変化の実験結果が示され、強酸性領域や強アルカリ領域で感染力が低下したことが示されているだけで、緩衝剤によってpH10.0以上に調整することについては記載も示唆もない。 したがって、甲9発明において、甲第10号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがないとともに、適用したとしても緩衝剤によってpH10.0以上に調整するという本件特許発明1の構成をなすことは当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 c 本件特許発明1の効果について 本件特許発明1においては、実施例及び比較例の記載、並びに表1、図1及び図2で結果が示され、本件特許明細書【0029】に記載されるように、本件特許発明1の構成全体により、高い安全性及び安定性を持たせながら、除菌効果だけでなく、ノンエンベロープウイルス等に対する効力も十分に高めることができるという予測できない、かつ顕著な効果を奏しているといえる。 (ウ)小括 本件特許発明1は、相違点4を検討するまでもなく、甲9発明及び甲第10号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件特許発明2、3及び6について 本件特許発明2、3及び6は、本件特許発明1をさらに、それぞれ、技術的に限定したウイルス賦活剤であるから、上記アで検討したのと同様に、本件特許発明2、3及び6と甲9発明との対比において、少なくとも相違点5を有し、本件特許発明2、3及び6は、甲第9号証に記載された発明及び甲第10号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)異議申立理由5(進歩性)のまとめ 以上のとおり、本件特許発明1~3は、甲第9号証に記載された発明及び甲第10号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、異議申立理由5(進歩性)には理由がない。 第6 むすび 以上のとおり、本件請求項1~3及び6に係る発明の特許は、取消理由通知で通知した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、取り消されるべきものとはいえない。 そして、請求項4及び5に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項4及び5に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 また、ほかに本件請求項1~3及び6に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700605

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