特許異議申立
2024-701188
繊維用サイジング剤及びその用途
- 審判番号
- 2024-701188
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-515326
- 登録番号
- 7502579
- 請求日
- 2024年12月11日
- 審決日
- 2025年02月06日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】松本油脂製薬株式会社
- 【異議申立人】犬塚 直樹
- 審判長/審判官
- 審判長 田口 傑
- 審判官 武市 匡紘
- 審判官 長谷川 一郎
- 分類
- P1651.121-Y (D06M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7502579号発明「繊維用サイジング剤及びその用途」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7502579号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7502579号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和5年11月13日(優先権主張令和4年12月14日)の出願であって、令和6年6月10日にその特許権の設定登録がされ、令和6年6月18日に特許掲載公報が発行された。その後、令和6年12月11日に特許異議申立人犬塚直樹(以下「申立人」という。)により、その請求項1~10に係る特許に対して本件特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許
特許第7502579号の請求項1~10の特許に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
化合物(A)及び硫黄原子と窒素原子とを含む5員環構造を有する化合物(B)を含有し、前記化合物(A)が、下記熱硬化性樹脂(A1)、下記熱可塑性樹脂(A2)及びゴム(A3)から選ばれる少なくとも1種である、炭素繊維用サイジング剤。
熱硬化性樹脂(A1):エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びフェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種
熱可塑性樹脂(A2):ポリウレタン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、及びポリエーテルエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種
【請求項2】
前記化合物(B)が、下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【化1】
[図:0001420374000001.jpg]
(式(1)中、R1は、炭素数1~12のアルキル基、アラルキル基又は水素原子であり、X及びYは独立して水素原子又はハロゲン原子である。)
【化2】
[図:0001420374000002.jpg]
(式(2)中、R2は、炭素数1~8のアルキル基又は水素原子である。)
【請求項3】
前記繊維用サイジング剤の不揮発分に占める前記化合物(B)の重量割合が、5ppm~10000ppmである、請求項1又は2に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項4】
親水性溶媒(D)をさらに含有し、前記親水性溶媒(D)が下記一般式(4)で表される化合物及び非プロトン性含窒素有機化合物から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【化3】
[図:0001420374000003.jpg]
(式(4)中、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、nは1~3の整数である。)
【請求項5】
前記エポキシ樹脂が芳香族エポキシ樹脂であり、前記ビニルエステル樹脂がオキシアルキレン基及びアリール基から選ばれる少なくとも1種を有し、前記不飽和ポリエステル樹脂が芳香族系不飽和ポリエステル樹脂であり、前記飽和ポリエステル樹脂が芳香族ポリエステル樹脂である、請求項1又は2に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項6】
界面活性剤(C)をさらに含有し、前記繊維用サイジング剤の不揮発分に占める、前記界面活性剤(C)の重量割合が1重量%~50重量%である、請求項1又は2に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項7】
前記繊維用サイジング剤の不揮発分に占める、前記化合物(A)の重量割合が20重量%~99重量%である、請求項1又は2に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の繊維用サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程を含む、サイジング剤付着炭素繊維の製造方法。
【請求項9】
繊維ストランドに対して、請求項1又は2に記載の炭素繊維用サイジング剤を付着させた、サイジング剤付着炭素繊維ストランド。
【請求項10】
マトリックス樹脂と、請求項9に記載のサイジング剤付着炭素繊維ストランドとを含む、炭素繊維強化複合材料。」
第3 申立理由の概要
申立人は、本件特許異議申立書に添付して、以下の甲第1号証~甲第5号証(以下「甲1」等という。)を提出して、大要、次の取消理由を主張している。
1 申立理由(進歩性)
本件発明1~10は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の甲1、甲4、甲5に記載された発明及び甲2、甲3に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
[証拠方法]
甲第1号証:特開2001-64872号公報
甲第2号証:特開平11-71211号公報
甲第3号証:特開2016-84291号公報
甲第4号証:特開平8-188968号公報
甲第5号証:特開平2-307979号公報
第4 当審の判断
1 申立理由(進歩性)について
(1)甲1に記載された事項・発明
ア 甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与し、「・・・」は記載の省略を表す。
・「【請求項1】 環状エーテル基含有化合物(a)の環を構成するエーテル酸素が下記一般式(1)
-Y-C(=X)-Z- (1)
[式中、X、Y、Zはそれぞれ独立にOまたはSを表し、Y、Zのうちの少なくとも1つはOである。]で示される基で置き換わった構造を有するヘテロ環化合物(A)を含有することを特徴とする繊維用集束剤。
・・・
【請求項7】 請求項1~6いずれか記載の繊維用集束剤で処理されたポリアミド、アラミド、ケブラー、ポリエチレン、ポリエステル、ガラス、炭素繊維およびその他の無機繊維からなる群から選ばれる繊維。
【請求項8】 請求項7記載の繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化複合材料。」
・「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記繊維用集束剤では、加工工程中の繊維の糸切れや毛羽を少なくする上で未だ不十分である。」
・「【0007】本発明におけるヘテロ環化合物(A)を構成する環状エーテル基含有化合物(a)としては、環内に酸素原子を1個有するものならば特に限定されず、例えば分子内に環状エーテル基を1~20個有する化合物が挙げられる。環状エーテル基含有化合物(a)の例としては、後述するエポキシ基含有化合物(I)、およびオキセタン化合物(J)が挙げられ、好ましくは、エポキシ基含有化合物(I)である。・・・」
・「【0023】本発明の繊維用集束剤には、必要に応じて、第三成分として、柔軟剤(例えば、ポリオキシステアリン酸アミド、ポリオキシステアリルエステル等)、希釈剤(例えば、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、フェニルグリシジルエーテル、等の反応性希釈剤やノニルフェノール、トリクレジルフォスフェート等の非反応性希釈剤)、酸化防止剤(ヒンダードアミン類、ハイドロキノン類、ヒンダードフェノール類、硫黄含有化合物等)、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、サリチル酸エステル類、金属錯塩類等)、ワックス類(例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、重合ワックス、密ロウ、鯨ロウ低分子量ポリオレフィン等)、可塑剤(例えば、フタル酸エステル、リン酸エステル、脂肪酸エステル、エポキシ化大豆油、ひまし油、流動パラフィンアルキル多環芳香族炭化水素等の可塑剤等)、熱可塑性樹脂(ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等)、消泡剤、平滑剤(例えば、シリコーン系平滑剤、ポリエチレングリコール等)、帯電防止剤、抗菌剤、防かび剤、粘度調整剤、香料、難燃剤等を含ませることができる。これら第三成分の添加量は、コンポジット物性の観点から、第三成分添加前の繊維用集束剤の重量に基づいて、柔軟剤は1~20重量%、酸化防止剤は0.1~10重量%、紫外線吸収剤は0.1~10重量%、ワックス類は1~20重量%、可塑剤は1~20重量%、熱可塑性樹脂は1~60%、消泡剤は0.1~5重量%、平滑剤は1~20重量%、帯電防止剤は0.1~5重量%、抗菌剤は0.01~5重量%、防かび剤は0.01~5重量%、粘度調整剤は0.1~5重量%、香料は0.1~5重量%、難燃剤は0.1~10重量%が好ましい。」
イ 甲1に記載された発明
以上より、特に【請求項1】、【請求項7】、【請求項8】、段落【0007】に着目すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「エポキシ基含有化合物(I)が好ましい環状エーテル基含有化合物(a)の環を構成するエーテル酸素が下記一般式(1)
-Y-C(=X)-Z- (1)
[式中、X、Y、Zはそれぞれ独立にOまたはSを表し、Y、Zのうちの少なくとも1つはOである。]で示される基で置き換わった構造を有するヘテロ環化合物(A)を含有する繊維用集束剤であって、
繊維用集束剤で処理された炭素繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化複合材料に用いられる、
繊維用集束剤。」
(2)甲4に記載された事項・発明
ア 甲4には、次の事項が記載されている。
・「【請求項1】 ハロゲンを含有する、エポキシ化合物、ポリエステル化合物、ポリイミド化合物、ビスマレイミド化合物あるいはポリウレタン化合物のいずれかの化合物、またはこれら化合物の混合物がサイジングされてなる炭素繊維。」
・「【0021】なお、本発明において、サイジング剤には油化シェルエポキシ社製エピコート828、エピコート834といった臭素を含まないビスフェノール型エポキシ化合物、芳香環を含まない直鎖状エポキシ化合物、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、ポリエステルあるいは界面活性剤などの他の成分を、粘度調整、耐擦過性向上、耐毛羽性向上、収束性向上、高次加工性向上等の目的で加えてもよい。」
・「【0029】本発明に係る炭素繊維を用いて繊維強化複合材料とする際に用いられるマトリックス樹脂には、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が用いられる。これらマトリックス樹脂は特に限定されないが、熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどが用いられる。」
イ 甲4に記載された発明
以上より、特に【請求項1】、段落【0021】に着目すると、甲4には以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「ハロゲンを含有する、エポキシ化合物、ポリエステル化合物、ポリイミド化合物、ビスマレイミド化合物あるいはポリウレタン化合物のいずれかの化合物、またはこれら化合物の混合物がサイジングされてなる炭素繊維に用いられるサイジング剤。」
(3)甲5に記載された事項・発明
ア 甲5には、次の事項が記載されている。
・「特許請求の範囲
1.下記の(1)及び(6)を必須成分として、(1)~(6)から選ばれた少なくとも3種の化合物からなる混合物であり、25℃の粘度が30ポイズ以上且つ50℃の粘度が1000ポイズ以下であることを特徴とする炭素繊維用サイジング剤
(1) 25℃の粘度が30ポイズ以上のビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂
(2) 25℃の粘度が50ポイズ以下の長鎖脂肪族エポキシ樹脂
(3) 25℃の粘度が50ポイズ以下の環状脂肪族エポキシ樹脂
(4) 2-オキサゾリン誘導体
(5) 下記式で示されるジメタアクリル酸又はアクリル酸のアルキレンオキサイド付加物
[図:0001420374000004.jpg]
(6) 不飽和脂肪酸グリセライドのエチレンオキサイド付加物またはポリエチレンオキサイドスチリルフェニルエーテルの乳化剤」
イ 甲5に記載された発明
以上より、特に請求項1に着目すると、甲5には以下の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
「下記の(1)及び(6)を必須成分とする混合物であり、25℃の粘度が30ポイズ以上且つ50℃の粘度が1000ポイズ以下であることを特徴とする炭素繊維用サイジング剤。
(1) 25℃の粘度が30ポイズ以上のビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂
(6) 不飽和脂肪酸グリセライドのエチレンオキサイド付加物またはポリエチレンオキサイドスチリルフェニルエーテルの乳化剤」
(4)甲2、甲3に記載された事項
ア 甲2には、次の事項が記載されている。
・「【請求項1】 ベンゾイソチアゾリン系化合物と、第4級アンモニウム塩とを含有することを特徴とする工業用殺菌剤。」
・「【0002】
【従来の技術】従来より、紙、パルプ工業における抄紙工程水、各種工業用の冷却水、洗浄水などの工業水、また、例えば、切削油、金属加工油剤、繊維油剤、泥水剤、塗料、防汚塗料、紙塗工液、接着剤、ラテックス、樹脂エマルジョン、ロジンエマルジョン、炭酸カルシウムスラリー、澱粉スラリー、糊剤、リグニン液などの各種工業製品においては、細菌や真菌による腐敗や汚染が発生し、品質の低下や生産効率の低下を招いている。そのため、これら有害微生物の発生を抑制し、ないしは防除することを目的として、数多くの工業用殺菌剤が用いられている。」
・「【0009】
【発明の実施の形態】本発明において用いられるベンズイソチアゾリン系化合物は、一般式
【0010】
【化1】
[図:0001420374000005.jpg]
【0011】(式中、Rは水素原子またはアルキル基を示す。)で表わされる化合物である。式中、Rで表されるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、sec-オクチル、tert-オクチル等の炭素数1~8のアルキル基などが挙げられる。Rとして好ましくは、水素原子、およびメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチルなどの炭素数1~4の低級アルキル基が挙げられ、さらに、好ましくは、水素原子およびn-ブチルが挙げられる。」
イ 甲3には、次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
オルトフタルアルデヒドと2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン及び2,4,4’-トリクロロ-2’-ヒドロキシジフェニルエ-テルを含有することを特徴とする工業用防腐、殺菌剤。」
・「【0045】
本発明の工業用防腐、殺菌剤は、金属加工油、繊維油剤、ペイント、ラテックス、塗料、製紙用塗工液、糊剤、澱粉スラリー、炭カルスラリー等の填料、サイズ剤、歩留剤、ラテックス、樹脂エマルジョン、リグニン等の各種工業製品に使用できる。」
ウ 甲2、甲3の記載から、以下の事項が把握される(以下「甲2、3に記載された事項」という。)。
「硫黄原子と窒素原子とを含む5員環構造を有する化合物である工業用殺菌剤。」
(5)本件発明1について
ア 甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
甲1発明の「炭素繊維」を処理する「繊維用集束剤」は、本件発明1の「炭素繊維用サイジング剤」に相当する。
甲1発明の「エポキシ基含有化合物(I)が好ましい環状エーテル基含有化合物(a)」は、本件発明1の「熱硬化性樹脂(A1):エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びフェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種」に相当する。また、甲1発明の「エポキシ基含有化合物(I)が好ましい環状エーテル基含有化合物(a)」は、本件発明1の「下記熱硬化性樹脂(A1)、下記熱可塑性樹脂(A2)及びゴム(A3)から選ばれる少なくとも1種である」「化合物(A)」にも相当する。
以上のことから、本件発明1と、甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点A]
「化合物(A)を含有し、前記化合物(A)が、下記熱硬化性樹脂(A1)、下記熱可塑性樹脂(A2)及びゴム(A3)から選ばれる少なくとも1種である、炭素繊維用サイジング剤。
熱硬化性樹脂(A1):エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びフェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種
熱可塑性樹脂(A2):ポリウレタン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、及びポリエーテルエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種」
[相違点A]
化合物(B)について、本件発明1が「硫黄原子と窒素原子とを含む5員環構造を有する化合物(B)」を含有するのに対し、甲1発明は、そのような特定がなされていない点。
イ 甲4発明との対比
本件発明1と甲4発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
甲4発明の「炭素繊維に用いられるサイジング剤」は、本件発明1の「炭素繊維用サイジング剤」に相当する。
甲4発明の「エポキシ化合物」は、本件発明1の「熱硬化性樹脂(A1):エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びフェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種」に相当する。また、甲4発明の「ポリイミド化合物」及び「ポリウレタン樹脂」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂(A2):ポリウレタン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、及びポリエーテルエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種」にそれぞれ相当する。
したがって、甲4発明の「ハロゲンを含有する、エポキシ化合物、ポリエステル化合物、ポリイミド化合物、ビスマレイミド化合物あるいはポリウレタン化合物のいずれかの化合物、またはこれら化合物の混合物」は、本件発明1の「下記熱硬化性樹脂(A1)、下記熱可塑性樹脂(A2)及びゴム(A3)から選ばれる少なくとも1種である」「化合物(A)」に相当する。
以上のことから、本件発明1と、甲4発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点B]
「化合物(A)を含有し、前記化合物(A)が、下記熱硬化性樹脂(A1)、下記熱可塑性樹脂(A2)及びゴム(A3)から選ばれる少なくとも1種である、炭素繊維用サイジング剤。
熱硬化性樹脂(A1):エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びフェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種
熱可塑性樹脂(A2):ポリウレタン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、及びポリエーテルエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種」
[相違点B]
化合物(B)について、本件発明1が「硫黄原子と窒素原子とを含む5員環構造を有する化合物(B)」を含有するのに対し、甲4発明は、そのような特定がなされていない点。
ウ 甲5発明との対比
本件発明1と甲5発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
甲5発明の「炭素繊維用サイジング剤」は、本件発明1の「炭素繊維用サイジング剤」に相当する。
甲5発明の「ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂」は、本件発明1の「熱硬化性樹脂(A1):エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びフェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種」に相当する。また、甲5発明の「ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂」は、本件発明1の「下記熱硬化性樹脂(A1)、下記熱可塑性樹脂(A2)及びゴム(A3)から選ばれる少なくとも1種である」「化合物(A)」にも相当する。
以上のことから、本件発明1と、甲5発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点C]
「化合物(A)を含有し、前記化合物(A)が、下記熱硬化性樹脂(A1)、下記熱可塑性樹脂(A2)及びゴム(A3)から選ばれる少なくとも1種である、炭素繊維用サイジング剤。
熱硬化性樹脂(A1):エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びフェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種
熱可塑性樹脂(A2):ポリウレタン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、及びポリエーテルエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種」
[相違点C]
化合物(B)について、本件発明1が「硫黄原子と窒素原子とを含む5員環構造を有する化合物(B)」を含有するのに対し、甲5発明は、そのような特定がなされていない点。
エ 判断
(ア)相違点Aについて
甲1の段落【0023】には、「本発明の繊維用集束剤には、必要に応じて、第三成分として、・・・抗菌剤、・・・を含ませることができる」ことが記載されている。
また、甲2、甲3には、硫黄原子と窒素原子とを含む5員環構造を有する化合物である工業用殺菌剤が記載され、工業用殺菌剤の用途として、繊維油剤も例示されている(甲2の段落【0002】、甲3の段落【0045】)。
しかしながら、甲1において、抗菌剤は繊維用集束剤の第三成分として、多数列記されたものの内の一つにすぎず、第三成分として多数列記された複数のものの中から抗菌剤を積極的に採用する動機付けはない。
また、本件発明の出願時及び優先日の技術水準を踏まえると、工業用殺菌剤として、様々な化合物が知られており、工業用殺菌剤として、「硫黄原子と窒素原子とを含む5員環構造を有する化合物」を選択する動機付けはない。
したがって、甲1に接した当業者が甲1発明において、第三成分として抗菌剤を添加することを想到したとしても、さらに抗菌剤として「硫黄原子と窒素原子とを含む5員環構造を有する化合物」を選択する動機付けはない。
(イ)相違点B、Cについて
甲4、甲5には、サイジング剤に殺菌剤を含ませることは記載も示唆もされておらず、甲4発明及び甲5発明において、「硫黄原子と窒素原子とを含む5員環構造を有する化合物」をさらに含ませるようにする動機付けはない。
(ウ)申立人は、(a)「甲1発明に1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン等のベンゾイソチアゾリン系化合物又は2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系化合物を配合することに何ら困難性、阻害要因は認められず、本件特許発明1の構成に対する動機付けはあるものと認められる。」、(b)「本件特許発明は、単に甲1発明の繊維用集束剤において、一般的に工業用殺菌剤として広く用いられているベンゾイソチアゾリン系化合物又はイソチアゾリン系化合物を好ましい配合量で配合しただけの従来構成であると認められる。かかる繊維用集束剤の従来構成において、抗菌作用とは異なる新たな作用効果を見出したにすぎず、新たな発明の創作とは認められない。」と主張する(異議申立書第19ページ第13行~第16行、同ページ第29行~第20ページ第4行)。
しかしながら、(a)について、進歩性を判断するに際し、阻害要因があることは進歩性が肯定される方向に働く要素の一つであるが、阻害要因がないことを根拠とし、進歩性を否定する事情があると判断するものではない。
また、(b)について、本件発明は、化合物(B)を好ましい配合量でサイジング剤に配合することで、化合物(B)がサイジング剤とマトリックス樹脂の界面に存在し、サイジング剤成分とマトリックス樹脂との相溶性や反応性を高めるとの考え(段落【0042】)に基づき、特定の化合物(A)及び特定の化合物(B)を含む繊維用サイジング剤であれば、マトリックス樹脂と繊維との接着性が不十分であるとの課題を解決できることを見出したものである(段落【0006】、【0007】)。これは、化合物(B)(ベンゾイソチアゾリン系化合物又はイソチアゾリン系化合物)について、甲2、3に記載された事項の有する殺菌効果とは異質な効果であり、この効果は本件発明の出願時及び優先日の技術水準から当業者が予測することができたものではなく、進歩性が肯定される方向に働く要素の一つである引用発明と比較した有利な効果を有するといえる。
よって、上記申立人の主張(a)、(b)は採用できない。
オ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明、甲4発明、甲5発明、及び甲2、3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)本件発明2~10について
本件発明2~10は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記「(5)エ」で検討したものと同じ理由により、本件発明2~10は、甲1発明、甲4発明、甲5発明、及び甲2、3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(7)申立理由についてのむすび
以上のとおりであるから、申立理由には理由がない。
2 まとめ
したがって、本件発明1~10は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。
第5 むすび
申立人が提出した特許異議の申立の理由及び証拠によっては、請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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