特許異議申立
2024-701102
金属線
- 審判番号
- 2024-701102
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-225280
- 登録番号
- 7482411
- 請求日
- 2024年11月14日
- 審決日
- 2025年03月28日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】パナソニックIPマネジメント株式会社
- 【権利者代理人】新居 広守
- 【権利者代理人】寺谷 英作
- 【権利者代理人】道坂 伸一
- 【異議申立人】本田 仁志
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 土屋 知久
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1651.113-Y (C23G) / P1651.121-Y (C23G) / P1651.537-Y (C23G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7482411号発明「金属線」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7482411号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7482411号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和 1年12月13日の出願(特願2019-225280号。以下「本願」という。)であって、令和 6年 5月 2日にその特許権の設定登録がなされ、同年 5月14日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和 6年11月14日に、請求項1~6(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である本田 仁志(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~6に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項1~6に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明6」といい、これらを総称して「本件発明」という。また、本願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
「【請求項1】
タングステン線又はタングステン合金線である金属線であって、
前記金属線の表面に存在するアルカリ金属の量は、前記金属線1g中2.0μg以下であり、
前記金属線は、ソーワイヤーの線材として用いられる
金属線。
【請求項2】
タングステン線又はタングステン合金線である金属線であって、
前記金属線の表面に存在するアルカリ金属の量は、前記金属線1g中2.0μg以下であり、
前記金属線は、スクリーンメッシュの線材として用いられる
金属線。
【請求項3】
前記金属線の表面に存在するアルカリ金属の量は、前記金属線1g中1.0μg以下である
請求項1又は2に記載の金属線。
【請求項4】
前記金属線の表面に存在するアルカリ金属の量は、前記金属線1g中0.5μg以下である
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属線。
【請求項5】
前記金属線の線径は、40μm以下である
請求項1~4のいずれか1項に記載の金属線。
【請求項6】
前記金属線の線径は、13μm以下である
請求項1~5のいずれか1項に記載の金属線。」
第3 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証~甲第18号証を提出し、以下の申立理由1~3により、本件特許の請求項1~6に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
1 申立理由1(新規性、進歩性)
(1)本件発明1、3、4は、甲第1号証に記載された発明である。
(2)本件発明5、6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。
以上のとおり、これらの発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(新規性、進歩性)
(1)本件発明1、3、4は、甲第2号証に記載された発明である。
(2)本件発明5、6は、甲第2号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
以上のとおり、これらの発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(進歩性)
(1)本件発明1は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件発明2は、甲第3号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件発明3~6は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1、2、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
以上のとおり、これらの発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
4 申立理由4(進歩性)
(1)本件発明1は、甲第3号証に記載された発明、甲第1、2号証に記載された事項及び甲第7~13号証に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件発明2は、甲第3号証に記載された発明、甲第6号証に記載された事項及び甲第7~13号証に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件発明3~6は、甲第3号証に記載された発明、甲第1、2、6号証に記載された事項及び甲第7~13号証に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
以上のとおり、これらの発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
5 申立理由5(進歩性)
(1)本件発明1は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件発明2は、甲第4号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件発明3~6は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1、2、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
以上のとおり、これらの発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
6 申立理由6(進歩性)
(1)本件発明1は、甲第5号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件発明2は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件発明3~6は、甲第5号証に記載された発明及び甲第1、2、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
以上のとおり、これらの発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
7 申立理由7(新規性)
(1)本件発明2~6は、甲第6号証に記載された発明である。
以上のとおり、これらの発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
8 申立理由8(サポート要件)
本件発明1~6については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
9 証拠方法
・甲第1号証:特公昭52-14873号公報
・甲第2号証:特開昭61-121817号公報
・甲第3号証:米国特許第3287238号明細書
・甲第4号証:「タングステン・モリブデン技術資料」、改定第3版、タングステン・モリブデン工業会、平成21年 2月25日、p.32、116、117、132、133
・甲第5号証:中国実用新案第203393253号明細書
・甲第6号証:特開2018-1434号公報
・甲第7号証:Maryana I. NAVE et al., "Complexity of Products of Tungsten Corrosion: Comparison of the 3D Pourbaix Diagrams with the Experimental Data", Metallurgical and Materials Transactions A, 22 December 2016
<URL:DOI:10.1007/s11661-016-3888-6>
・甲第8号証:竹野直人、Eh-pH図アトラス 熱力学データベースの相互比較 地質調査総合センター研究資料集No.419、2005年 5月、p.1~14、212、213、274、275
・甲第9号証:山本洋一、外1名、「水酸化ナトリウム水溶液中における金属の電極電位」、防蝕技術、発行日:1955年 6月 5日、公開日:2009年11月25日、第4巻、第3号、p.29
<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcorr1954/4/3/4_3_129/_article/-char/ja/>
・甲第10号証:化学大辞典5、共立出版株式会社、昭和54年11月10日、p.20~23、32、33、946、947
・甲第11号証:化学大辞典7、共立出版株式会社、昭和54年11月10日、p.802、803、974
・甲第12号証:化学大辞典4、共立出版株式会社、2006年 9月15日、p.346、347
・甲第13号証:H16年度特別教育「予防・警防講座」 ≪特殊物質の基礎知識(ナトリウム編)≫、核燃料サイクル開発機構国際技術センター、平成16年 7月、p.1~39
・甲第14号証:佐藤幸弘、「金属材料の腐食とその防止」、大阪府立産業技術総合研究所報告、大阪府立産業技術総合研究所、1997.7、No.10、p.36~44
<URL: https://orist.jp/kouhou/others/laboratory_report_list/syoho10.html>
・甲第15号証:「酸化還元反応の方向」、[online]、最終更新日 2023年12月30日、[2024年10月16日検索],インターネット
<URL: https://chemist-eyes.com/lecture/redox_redpot01>
・甲第16号証:岩波理化学辞典第3版増補版、株式会社岩波書店、1985年、 2月15日、p.872~875
・甲第17号証:化学便覧基礎編 改訂3版、丸善株式会社、昭和59年 6月25日、p.I-28、I-29
・甲第18号証:化学大辞典3、共立出版株式会社、昭和54年11月10日、p.946-949
第4 当審における判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(新規性、進歩性)
(1)甲第1号証に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲第1号証には、「ワイヤーソー用ワイヤー」(発明の名称)に関する記載があり、その特許請求の範囲1の記載を前提とし、特に、タングステン線の態様に着目すると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
<甲1発明>
タングステン線のごとき金属ワイヤーを送給移送すると共に、カーボランダムのごとき砥粒を併用しつつ前記ワイヤーに適宜の往復運動を与えるようにしてなるワイヤーソーにおいて、前記ワイヤーに銅、ニツケルあるいは半田のごとき比較的軟かい物質のコーティングを施こしたワイヤーソー用ワイヤー。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における「タングステン線のごとき金属ワイヤー」は、本件発明1における「タングステン線又はタングステン合金線である金属線」に相当する。
(イ)甲1発明における「タングステン線のごとき金属ワイヤー」は、その表面に、銅、ニツケルあるいは半田のごとき比較的軟かい物質のコーティングが施され、ワイヤーソーに用いられるものであるから、本件発明1における「前記金属線は、ソーワイヤーの線材として用いられる金属線」に相当する。
(ウ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「タングステン線又はタングステン合金線である金属線であって、
前記金属線は、ソーワイヤーの線材として用いられる
金属線。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1の金属線は、「前記金属線の表面に存在するアルカリ金属の量は、前記金属線1g中2.0μg以下」であるのに対し、甲1発明のワイヤーソー用ワイヤーは、「タングステン線のごとき金属ワイヤー」の表面に存在するアルカリ金属の量が、前記金属ワイヤー1g中2.0μg以下であるのか不明である点。
イ 判断
(ア)相違点1について
a 相違点1が実質的な相違点であるかについて
(a)甲第1号証には、甲1発明のワイヤーソー用ワイヤーにおける、「タングステン線のごとき金属ワイヤー」の表面に存在するアルカリ金属の量の具体的な値が記載されていないから、「タングステン線のごとき金属ワイヤー」の表面に存在するアルカリ金属の量は不明である。また、技術常識を考慮しても、「タングステン線のごとき金属ワイヤー」の表面に存在するアルカリ金属の量が、「金属ワイヤー1g中2.0μg以下」であるかは不明である。
よって、相違点1は、実質的な相違点である。
(b)申立人は、特許異議申立書の第33ページ第13~22行において、「甲1発明に係るワイヤーソー用のタングステン線は、電解研磨処理を行わない方法で製造され、その表面が銅、ニッケルあるいは半田のごとき比較的軟かい物質により厚さ2~5ミクロン程度コーティングされている。
ここで、本件特許明細書(特許第7482411号)の【0018】の「アルカリ金属は、金属線の製造時に用いた溶液に含まれていた残留元素である」との記載、【0046】の「電解研磨に用いられる電解液は、アルカリ金属元素を含む溶液である」との記載を鑑みれば、上記の通り、甲1発明は、電解研磨処理を行っておらず、その表面が銅、ニッケルあるいは半田のごとき比較的軟かい物質でコーティングされているから、表面に存在するアルカリ金属の量は、タングステン線1g中0μgである蓋然性が高い。」と主張する。
しかしながら、甲第1号証には、「タングステン線のごとき金属ワイヤー」の製造方法が記載されておらず、その製造工程において、電解研磨処理を行っていないとまではいえないから、金属ワイヤーの表面に存在するアルカリ金属の量が、金属ワイヤー1g中0μgである蓋然性が高いとはいえない。また、金属ワイヤーの表面に、銅、ニツケルあるいは半田のごとき比較的軟かい物質のコーティングを施こしたからといって、コーティング前の金属ワイヤーの表面に存在するアルカリ金属の量が、金属ワイヤー1g中0μgである蓋然性が高いとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
b 相違点1の容易想到性について
甲第1号証には、「タングステン線のごとき金属ワイヤー」の表面に存在するアルカリ金属の量に係る事項が何ら記載されていないから、甲1発明のワイヤーソー用ワイヤーにおいて、「タングステン線のごとき金属ワイヤー」の表面に存在するアルカリ金属の量を、「金属ワイヤー1g中2.0μg以下」とすることが、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
よって、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件特許の請求項1の記載を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明3、4についても同様に、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明5、6について
甲第6号証には、「金属メッシュ(スクリーンメッシュ)に用いられる、表面粗さRaが0.10μm以下であるタングステン線」(請求項1、5)において、「タングステン線100は、極細の金属細線(金属繊維)であり、タングステン線100の線径(直径)(図1及び図2に示す線径d)は、例えば、22μm以下である。例えば、タングステン線100の線径は、18μm、16μm、13μm、9μm又は5μm以下などでもよい。」ことが記載されている(段落【0026】)。
一方、本件発明5、6は、本件特許の請求項1の記載を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、上記甲第6号証の記載を考慮しても、本件発明5、6についても同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)申立理由1(新規性、進歩性)のまとめ
以上のとおり、本件発明1、3、4は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明5、6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由1(新規性、進歩性)によっては、本件特許の請求項1、3~6に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(新規性、進歩性)
(1)甲第2号証に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲第2号証には、「ワイヤーソー用ワイヤー」(発明の名称)に関する記載があり、その特許請求の範囲(1)の記載を前提とし、特に、金属線がタングステン線である態様に着目すると、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
<甲2発明>
タングステン線の表面にクラック溝を有する金属の被覆層を有するワイヤーソー用ワイヤー。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明における「タングステン線」は、本件発明1における「タングステン線又はタングステン合金線である金属線」に相当する。
(イ)甲2発明における「タングステン線」は、その表面に、クラック溝を有する金属の被覆層を有し、ワイヤーソーに用いられるものであるから、本件発明1における「前記金属線は、ソーワイヤーの線材として用いられる金属線」に相当する。
(ウ)そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「タングステン線又はタングステン合金線である金属線であって、
前記金属線は、ソーワイヤーの線材として用いられる
金属線。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2>
本件発明1の金属線は、「前記金属線の表面に存在するアルカリ金属の量は、前記金属線1g中2.0μg以下」であるのに対し、甲2発明のワイヤーソー用ワイヤーは、「タングステン線」の表面に存在するアルカリ金属の量が、前記タングステン線1g中2.0μg以下であるのか不明である点。
イ 判断
(ア)相違点2について
a 相違点2が実質的な相違点であるかについて
(a)甲第2号証には、甲2発明のワイヤーソー用ワイヤーにおける、「タングステン線」の表面に存在するアルカリ金属の量の具体的な値が記載されていないから、「タングステン線」の表面に存在するアルカリ金属の量は不明である。また、技術常識を考慮しても、「タングステン線」の表面に存在するアルカリ金属の量が、「タングステン線1g中2.0μg以下」であるかは不明である。
よって、相違点2は、実質的な相違点である。
(b)申立人は、特許異議申立書の第34ページ第6~12行において、「甲2発明に係るワイヤーソー用のタングステン線は、電解研磨処理を行わない方法で製造されている。
本件特許明細書の【0018】の「アルカリ金属は、金属線の製造時に用いた溶液に含まれていた残留元素である」との記載、【0046】の「電解研磨に用いられる電解液は、アルカリ金属元素を含む溶液である」との記載を鑑みれば、上記の通り、甲2発明は、電解研磨処理を行っていないので、表面に存在するアルカリ金属の量は、タングステン線1g中0μgである蓋然性が高い。」と主張する。
しかしながら、甲第2号証には、「タングステン線」の製造方法が記載されておらず、その製造工程において、電解研磨処理を行っていないとまではいえないから、タングステン線の表面に存在するアルカリ金属の量が、タングステン線1g中0μgである蓋然性が高いとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
b 相違点2の容易想到性について
甲第2号証には、「タングステン線」の表面に存在するアルカリ金属の量に係る事項が何ら記載されていないから、甲2発明のワイヤーソー用ワイヤーにおいて、「タングステン線」の表面に存在するアルカリ金属の量を、「タングステン線1g中2.0μg以下」とすることが、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
よって、本件発明1は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件特許の請求項1の記載を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲第2号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明3、4についても同様に、甲第2号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明5、6について
甲第6号証には、上記1(4)に摘記した事項が記載されている。
一方、本件発明5、6は、本件特許の請求項1の記載を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、上記甲第6号証の記載を考慮しても、本件発明5、6についても同様に、甲第2号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)申立理由2(新規性、進歩性)のまとめ
以上のとおり、本件発明1、3、4は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明5、6は、甲第2号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由2(新規性、進歩性)によっては、本件特許の請求項1、3~6に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(進歩性)
(1)甲第3号証の記載事項(なお、以下の記載事項は当合議体による仮訳であり、下線は強調ため付与した。)
本願の出願前に公知となった甲第3号証には、「タングステンワイヤーの電解研磨方法」(発明の名称)に関し、以下の事項が記載されている。
ア 「この発明は電解研磨に関するもので、特にタングステンワイヤーの電解研磨方法およびその結果得られる製品に関するものである。
タングステンワイヤーは引き抜き後、表面に炭化物やグラファイトなどの不純物が付着している。また、ワイヤーの表面は傷がついていたり、切り込みが入っていたり、その他の物理的欠陥が見られる。このようなワイヤーを白熱電球のフィラメントとして使用する前に、表面の不純物や物理的欠陥をほぼ完全に除去し、高い光沢と均一な直径を持たせることが望ましい。
この発明の一般的な目的は、タングステンワイヤーを電解研磨する方法を提供し、ワイヤーを徹底的に清掃し、均一な直径と高い光沢または鏡面の外観を持つ表面を提供することである。
別の目的は、均一な直径と高い光沢を持つタングステンワイヤーを提供することであり、このワイヤーは改良された方法に従って電解研磨されている。」(第1欄第11~30行)
イ 「前述の発明の目的、および説明が進むにつれて明らかになる他の目的は、清掃されるワイヤーを所定の速度で、選択された電解質の所定の濃度を含む電解浴を通過させることによって達成される。この電解質はタングステン酸化物と反応(またはキレート)して、電解質に溶解可能なタングステン化合物を形成する。最初に電解浴を通過する際、ワイヤーは陰極とされ、これによりワイヤー表面で原子水素が生成され、表面の不純物が除去される。その後、ワイヤーは浴中で陽極とされ、原子酸素がワイヤー表面で放出され、生成された酸化物の酸化とキレート化を通じてワイヤー表面に反応生成物の膜が形成される。ワイヤー表面の物理的欠陥による電流密度の違いのため、形成された反応生成物の膜は、ワイヤーの表面の凹部でより厚く、表面の突出部では薄くなる。これにより、電解研磨の速度に差が生じ、ワイヤーの突出部が凹部よりも迅速に電解研磨される。電解研磨後、ワイヤーはほぼ均一な直径になる。
その後、ワイヤー表面に残った反応生成物の残留膜は洗い流され、ワイヤーは乾燥され、さらに処理または使用の前にスプールされる。」(第1欄第31~53行)
ウ 「多セル電解研磨タンク16には、ステンレス鋼メッシュ電極18および20が浸漬されており、これらの電極は整流器22の正極および負極に接続されている。タンク16のワイヤー出口側には、水洗い装置24が設けられており、ワイヤーから残留する電解質を除去し、その後、ワイヤーを乾燥させるための赤外線ヒーター26が続き、従来のワイヤースプーリング装置28が設けられている。」(第1欄第69行~第2欄第5行)
エ 「請求の範囲
1.タングステンワイヤーの電解研磨方法であり、物理的表面の不規則性および表面不純物を除去し、ワイヤーに高い光沢を持つ滑らかな表面を提供する方法であって、次のステップを含む:
(a)清掃されるワイヤーを、重量比で5%から25%の水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムの少なくとも1つと、重量比で10%から40%の酒石酸ナトリウムおよび酒石酸カリウムの少なくとも1つを含む水性電解浴を所定の速度で通過させる;
(b)最初に、ワイヤーが電解浴を通過する際に、所定の時間、ワイヤーを陰極とし、ワイヤー表面で原子水素を生成し、表面不純物を除去する;
(c)その後、ワイヤーを陽極とし、電解浴を通過させ、ワイヤー表面の酸化および生成された酸化物と電解質との反応を通じて、ワイヤー表面に反応生成物の膜を形成し、形成された反応生成物の膜がワイヤーの表面の凹部でより厚く、突出部では薄くなる;
(d)ワイヤーがほぼ均一な表面を持つまで、ワイヤーを陽極として電解浴を通過させ続ける;
(e)電解研磨後、ワイヤー表面に残る反応生成物の残留膜を除去する。」(第3欄第44~74行)
(2)甲第3号証に記載された発明
ア 甲第3号証には、上記(1)エに摘記した、「タングステンワイヤーの電解研磨方法」が記載されている。
イ 上記(1)イ、ウに摘記した事項によれば、上記(1)エのステップ(e)において、電解研磨後、ワイヤー表面に残る反応生成物の残留膜を、水洗い装置で洗い流し除去するものと認められる。
ウ また、上記(1)アに摘記した事項によれば、甲第3号証において、タングステンワイヤーは、白熱電球のフィラメントとして使用されるものである。
エ そして、上記(1)アに摘記した事項によれば、甲第3号証に記載される発明は、タングステンワイヤーの電解研磨方法およびその結果得られる製品(タングステンワイヤー)を提供することを目的とするものであるから、甲第3号証には、タングステンワイヤーの電解研磨方法の結果得られるタングステンワイヤーとして、以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲3発明>
タングステンワイヤーの電解研磨方法の結果得られる、白熱電球のフィラメントとして使用されるタングステンワイヤーであって、
前記タングステンワイヤーの電解研磨方法は、以下の方法である、タングステンワイヤー。
タングステンワイヤーの電解研磨方法であり、物理的表面の不規則性および表面不純物を除去し、ワイヤーに高い光沢を持つ滑らかな表面を提供する方法であって、次のステップを含む:
(a)清掃されるワイヤーを、重量比で5%から25%の水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムの少なくとも1つと、重量比で10%から40%の酒石酸ナトリウムおよび酒石酸カリウムの少なくとも1つを含む水性電解浴を所定の速度で通過させる;
(b)最初に、ワイヤーが電解浴を通過する際に、所定の時間、ワイヤーを陰極とし、ワイヤー表面で原子水素を生成し、表面不純物を除去する;
(c)その後、ワイヤーを陽極とし、電解浴を通過させ、ワイヤー表面の酸化および生成された酸化物と電解質との反応を通じて、ワイヤー表面に反応生成物の膜を形成し、形成された反応生成物の膜がワイヤーの表面の凹部でより厚く、突出部では薄くなる;
(d)ワイヤーがほぼ均一な表面を持つまで、ワイヤーを陽極として電解浴を通過させ続ける;
(e)電解研磨後、ワイヤー表面に残る反応生成物の残留膜は、水洗い装置で洗い流し除去する。
(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
(ア)甲3発明における「タングステンワイヤー」は、本件発明1における「タングステン線又はタングステン合金線である金属線」に相当する。
(イ)そうすると、本件発明1と甲3発明とは、
「タングステン線又はタングステン合金線である金属線。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3-1>
本件発明1の金属線は、「前記金属線の表面に存在するアルカリ金属の量は、前記金属線1g中2.0μg以下」であるのに対し、甲3発明の「タングステンワイヤー」は、タングステンワイヤーの表面に存在するアルカリ金属の量が、前記タングステンワイヤー1g中2.0μg以下であるのか不明である点。
<相違点3-2>
本件発明1の金属線は、「ワイヤーソーの線材として用いられる」のに対し、甲3発明のタングステンワイヤーは、「白熱電球のフィラメントとして使用される」点。
イ 判断
(ア)相違点3-1について
a 相違点3-1が実質的な相違点であるかについて
(a)甲3発明の「タングステンワイヤー」は、ステップ(a)~(d)において、アルカリ金属(ナトリウム、カリウム)を含む電解浴を通過し、電解研磨後のステップ(e)において、ワイヤー表面に残る反応生成物の残留膜が、水洗い装置で洗い流し除去されるものである。
そうすると、甲3発明の「タングステンワイヤー」の表面に残る反応生成物の残留膜とともに、アルカリ金属も水洗い装置で洗い流されているため、タングステンワイヤーの表面に存在するアルカリ金属の量は微量であると解される。
(b)しかしながら、甲第3号証には、甲3発明の「タングステンワイヤー」の表面に存在するアルカリ金属の量の具体的な値が記載されていないから、「タングステンワイヤー」の表面に存在するアルカリ金属の量は不明である。また、技術常識を考慮しても、「タングステンワイヤー」の表面に存在するアルカリ金属の量が、「タングステンワイヤー1g中2.0μg以下」であるかは不明である。
よって、相違点3-1は、実質的な相違点である。
(c)申立人は、特許異議申立書の第34ページ第23行~第35ページ第3行において、「甲3発明に係るタングステンワイヤーは、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムからなる群の少なくとも1つを5重量%~25重量%を含む水溶液を用いて電解研磨して物理的な表面の凹凸および表面不純物を除去した後、ワイヤー表面の残留電解材料をワイヤーから水洗により除去することにより作製されている。本件特許明細書の【0021】に記載されるとおり、アルカリ金属の量を「完全に0にすることは困難である」から、甲3発明に係るタングステンワイヤーの表面に存在するアルカリ金属の量は、タングステンワイヤー1g中2.0μg以下である蓋然性が高い。」と主張する。
しかしながら、本件明細書には、タングステン線又はタングステン合金線の洗浄について、以下の記載がある。
「【0047】
表面処理の後、タングステン線又はタングステン合金線の表面を洗浄する(S14)。表面の洗浄を行うことで、タングステン線又はタングステン合金線の表面に存在する、表面処理(S13)の残留物を流し落とす。具体的には、表面処理後のタングステン線又はタングステン合金線を洗浄水に所定期間浸すことにより、タングステン線又はタングステン合金線の洗浄が行われる。」
「【0049】
洗浄水は、例えば、バブル又はマイクロバブル又はナノバブルを含む純水(以下、バブル水と記載)である。マイクロバブル又はナノバブルは、マイクロバブル又はナノバブル発生器によって純水中に発生させることができる。マイクロバブル及びナノバブルのいずれも含まない純水に比べて、バブル水は洗浄力が高い。このため、タングステン線又はタングステン合金線の表面の残留物の量を減らすことができる。
【0050】
バブルの強度(具体的には、バブル水の単位体積当たりのバブルの量)を調整することで、金属線の表面に残留するアルカリ金属の量を調整することができる。具体的には、バブルの量を多くすることで洗浄力が高くなり、表面に残留するアルカリ金属の量を少なくすることができる。例えば、図1に示される実施例1~3は、この順でバブルの量を多くすることにより得られた金属線である。なお、比較例は、バブルを含まない純水を洗浄水として用いて洗浄を行うことにより得られた金属線である。比較例及び実施例1~3は、洗浄(S14)のみが互いに異なっており、洗浄以外の工程は、互いに同じ工程を経て製造された金属線である。」
「【0053】
また、洗浄(S14)では、超音波洗浄が行われてもよい。具体的には、超音波発生器によって超音波を発生させた洗浄水(以下、超音波洗浄水)に、表面処理後のタングステン線又はタングステン合金線を浸してもよい。例えば、超音波の振動数又は振幅を大きくすることにより、洗浄力が高くなり、表面に残留するアルカリ金属の量を少なくすることができる。」
「【図1】
[図:0001422459000001.jpg]
」
上記記載によれば、比較例は、バブルを含まない純水を洗浄水として用いて洗浄を行うことにより得られた金属線であって、タングステン線の表面に存在するアルカリ金属の量が、タングステン線1g中4.0μgである例であり、実施例1~3は、バブルの量を多くすることで洗浄力が高くし、表面に残留するアルカリ金属の量を少なくした例であると認められる。
そうすると、単に、純水を洗浄水として用いて洗浄を行うだけで、タングステン線の表面に存在するアルカリ金属の量を十分に低減できるかは不明である。
一方、甲3発明の「タングステンワイヤー」は、タングステンワイヤーの表面に残る反応生成物の残留膜とともに、アルカリ金属も水洗い装置で洗い流されていると解されるものの、甲第3号証には、水洗い装置でバブル水を用いたことや、超音波洗浄を行ったことが記載されていないから、甲3発明の「タングステンワイヤー」の表面に存在するアルカリ金属の量が、タングステン線1g中2.0μg以下である蓋然性が高いとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
b 相違点3-1の容易想到性について
甲第3号証には、「タングステンワイヤー」の表面に存在するアルカリ金属の量に係る事項が何ら記載されていないから、甲3発明の「タングステンワイヤー」において、「タングステンワイヤー」の表面に存在するアルカリ金属の量を、「タングステンワイヤー1g中2.0μg以下」とすることが、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
よって、相違点3-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。この点、甲第1、2号証に、タングステンワイヤーの用途として「ソーワイヤー」が記載されていても変わるものではない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲3発明とを対比すると、上記相違点3-1に加え、以下の点で相違する。
<相違点3-3>
本件発明2の金属線は、「スクリーンメッシュの線材として用いられる」のに対し、甲3発明のタングステンワイヤーは、「白熱電球のフィラメントとして使用される」点。
イ 判断
(ア)相違点3-1について
相違点3-1についての判断は、上記(3)イ(ア)で述べたとおりである。
よって、相違点3-3について検討するまでもなく、本件発明2は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。この点、甲第6号証に、タングステンワイヤーの用途として「スクリーンメッシュ」が記載されていても変わるものではない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明2は、甲第3号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件特許の請求項1又は2の記載を引用するものであり、本件発明1又は2の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(3)、(4)で述べたとおり、本件発明1が、甲第3号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、本件発明2が、甲第3号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明3、4についても同様に、甲第3号証に記載された発明及び甲第1、2、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(6)本件発明5、6について
甲第6号証には、上記1(4)に摘記した事項が記載されている。
一方、本件発明5、6は、本件特許の請求項1又は2の記載を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(3)、(4)で述べたとおり、本件発明1が、甲第3号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、本件発明2が、甲第3号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、上記甲第6号証の記載を考慮しても、本件発明5、6についても同様に、甲第3号証に記載された発明及び甲第1、2、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)申立理由3(進歩性)のまとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。また、本件発明2は、甲第3号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。さらに、本件発明3~6は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1、2、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由3(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由4(進歩性)
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、上記相違点3-1、相違点3-2の点で相違する。
イ 判断
(ア)相違点3-1について
a 甲第7~13号証には、以下の事項が記載されている。
(a)甲第7号証の記載事項(申立人による翻訳文)
「室温での水溶液中のタングステンの3D Eh-pH-C図の作成に成功した。これは、pH14の電解質では、タングステンは、電位がEh<-1.2V未満に設定されている場合に腐食の影響を受けないままであることが分かる。この臨界電位を超えると、タングステンは腐食して、水溶性のタングステン酸WO42-(aq)イオンを生成し得る。これは、すべてのタングステンが最終的にタングステン酸イオンに変換されることを意味する。」(VI. CONCLUSIONS)
(b)甲第8号証の記載事項
「
[図:0001422459000002.jpg]
」(第275ページ左上)
上記Eh-pH図から、W(s)すなわちタングステンは、水溶液のpHが9.5以上で、電位Ehが-0.8V以上になると、酸化されてWO42-に変化することが看取される。
(c)甲第9号証の記載事項
「
[図:0001422459000003.jpg]
」(第29ページ左欄)
上記表1から、水酸化ナトリウム水溶液中のタングステンの電極電位が、水酸化ナトリウムの濃度が高くなるとともに低くなることが看取される。
(d)甲第10号証の記載事項
「水酸化カリウム …(途中省略)…潮解性で水に溶けるとき多量の熱を発生する.…(途中省略)…化学的性質 水酸化ナトリウムとほとんど同じである.水溶液は水酸化ナトリウムより腐食性が強く,水分および二酸化炭素を吸収する性質も水酸化ナトリウムより強い.」(第21~22ページ)
「水酸化ナトリウム …(途中省略)…潮解性で水に溶けやすく,その際に多量の熱を出す.…(途中省略)…溶解度 水0°,42g/100g,100°,347g/100g,…(途中省略)…化学的性質 空気中で水分および二酸化炭素を吸収し炭酸塩を生ずる.」(第32ページ)
「潮解 …(途中省略)…固体が大気中にさらされている場合に,大気中の水蒸気を捕えてその水に溶ける現象をいう.」(第946ページ)
(e)甲第11号証の記載事項
「腐食…(途中省略)…金属が純化学的反応または電気化学的反応によって変質破壊される現象.腐食現象は水分の存在する場合と比較的高温で起こる場合とに大別し,前者を湿食といい後者を乾食という.」(第802ページ)
(f)甲第12号証の記載事項
「湿食…(途中省略)…水分の存在のもとに起こる腐食。」(第346ページ)
(g)甲第13号証の記載事項
「
[図:0001422459000004.jpg]
」(第20ページ)
上記図から、ナトリウムが、空気中において酸素と結合してNa2O(酸化ナトリウム)を形成し、さらに、空気中の水分を吸湿してNaOH(水酸化ナトリウム)が形成されることが看取される。
b 上記甲第7~10号証の記載から、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどの水酸化アルカリの水溶液においてタングステンがある一定のpHと電位の下で酸化(腐食)し、水酸化アルカリ水溶液におけるタングステンの電位がアルカリ金属濃度に依存することが認められる。ここで、上記甲第11、12号証の記載のとおり、水の存在下で腐食(酸化)する反応は、湿食とも呼ばれる。
他方、上記甲第10号証には、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが潮解性(大気中の水蒸気を捕えてその水に溶ける現象)を有することが記載され、また、上記甲第13号証には、ナトリウムが、空気中において酸素と結合してNa2O(酸化ナトリウム)を形成し、さらに、空気中の水分を吸湿してNaOH(水酸化ナトリウム)が形成されることが記載されている。
そうすると、仮に、甲3発明の「タングステンワイヤー」の表面に電解浴に含まれ得る水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが残留していたとすると、これらが潮解現象によって水分を吸収し、吸収(付着)した水分とタングステンとが反応することにより湿食(腐食)で酸化することがあり得るとはいえる。
c しかしながら、甲第3号証には、タングステンワイヤーの腐食抑制に関する事項が記載されていないから、甲第7~13号証の記載された技術常識を考慮しても、甲3発明の「タングステンワイヤー」において、腐食抑制のために、その表面に存在するアルカリ金属の量を、タングステンワイヤー1g中2.0μg以下とすることが動機付けられるとはいえず、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
よって、相違点3-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び甲第7~13号証の記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。この点、甲第1、2号証に、タングステンワイヤーの用途として「ソーワイヤー」が記載されていても変わるものではない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明、甲第1、2号証に記載された事項及び甲第7~13号証に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲3発明とを対比すると、上記相違点3-1に加え、以下の点で相違する。
<相違点3-3>
本件発明2の金属線は、「スクリーンメッシュの線材として用いられる」のに対し、甲3発明のタングステンワイヤーは、「白熱電球のフィラメントとして使用される」点。
イ 判断
(ア)相違点3-1について
相違点3-1についての判断は、上記(1)イ(ア)で述べたとおりである。
よって、相違点3-3について検討するまでもなく、本件発明2は、甲3発明及び甲第7~13号証の記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。この点、甲第6号証に、タングステンワイヤーの用途として「スクリーンメッシュ」が記載されていても変わるものではない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明2は、甲第3号証に記載された発明、甲第6号証に記載された事項及び甲第7~13号証に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件特許の請求項1又は2の記載を引用するものであり、本件発明1又は2の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(1)、(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲第3号証に記載され発明、甲第1、2号証に記載された事項及び甲第7~13号証に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、本件発明2が、甲第3号証に記載された発明、甲第6号証に記載された事項及び甲第7~13号証に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明3、4についても同様に、甲第3号証に記載された発明、甲第1、2、6号証に記載された事項及び甲第7~13号証に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明5、6について
甲第6号証には、上記1(4)に摘記した事項が記載されている。
一方、本件発明5、6は、本件特許の請求項1又は2の記載を引用するものであり、本件発明1又は2の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(1)、(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲第3号証に記載された発明、甲第1、2号証に記載された事項及び甲第7~13号証に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、本件発明2が、甲第3号証に記載された発明、甲第6号証に記載された事項及び甲第7~13号証に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明5、6についても同様に、甲第3号証に記載された発明、甲第1、2、6号証に記載された事項及び甲第7~13号証に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)申立理由4(進歩性)のまとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明、甲第1、2号証に記載された事項及び甲第7~13号証に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。また、本件発明2は、甲第3号証に記載された発明、甲第6号証に記載された事項及び甲第7~13号証に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。さらに、本件発明3~6は、甲第3号証に記載された発明、甲第1、2、6号証に記載された事項及び甲第7~13号証に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由4(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由5(進歩性)
(1)甲第4号証に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲第4号証には、「タングステン製品製造工程図」に関する記載があり、製品としての「細線」及び「極細線」に着目すると、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。
<甲4発明>
タングステン線であって、中線を線引きした細線、又は前記細線をさらに線引きした極細線。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
(ア)甲4発明における「タングステン線であって、中線を線引きした細線、又は前記細線をさらに線引きした極細線」は、本件発明1における「タングステン線又はタングステン合金線である金属線」に相当する。
(イ)そうすると、本件発明1と甲4発明とは、
「タングステン線又はタングステン合金線である金属線。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点4-1>
本件発明1の金属線は、「前記金属線の表面に存在するアルカリ金属の量は、前記金属線1g中2.0μg以下」であるのに対し、甲4発明の「タングステン線」は、タングステン線の表面に存在するアルカリ金属の量が、前記タングステン線1g中2.0μg以下であるのか不明である点。
<相違点4-2>
本件発明1の金属線は、「ワイヤーソーの線材として用いられる」のに対し、甲4発明の「タングステン線」は、その用途が不明である点。
イ 判断
(ア)相違点4-1について
a 相違点4-1が実質的な相違点であるかについて
(a)甲第4号証には、甲4発明の「タングステン線」における、タングステン線の表面に存在するアルカリ金属の量の具体的な値が記載されていないから、「タングステン線」の表面に存在するアルカリ金属の量は不明である。また、技術常識を考慮しても、「タングステン線」の表面に存在するアルカリ金属の量が、「タングステン線1g中2.0μg以下」であるかは不明である。
よって、相違点4-1は、実質的な相違点である。
(b)申立人は、特許異議申立書の第38ページ第19~24行において、「甲4発明に係るタングステン線は、電解研磨工程を実施しない方法で作製されている。本件特許明細書の【0018】の「アルカリ金属は、金属線の製造時に用いた溶液に含まれていた残留元素である」との記載、【0046】の「電解研磨に用いられる電解液は、アルカリ金属元素を含む溶液である」との記載を鑑みれば、タングステン線表面に存在するアルカリ金属の量はタングステン線1g中0μgである蓋然性が高い。」と主張する。
しかしながら、甲第4号証には、申立人が述べるとおり、電解研磨工程を実施しないで、極細線を製造することも記載されているものの、上記(a)で述べたとおり、電解研磨を実施するか否かに関わらずタングステン線の表面に存在するアルカリ金属の量は不明であるから、甲4発明の「タングステン線」の表面に存在するアルカリ金属の量はタングステン線1g中0μgである蓋然性が高いとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
b 相違点4-1の容易想到性について
甲第4号証には、「タングステン線」の表面に存在するアルカリ金属の量に係る事項が何ら記載されていないから、甲4発明の「タングステン線」において、タングステン線の表面に存在するアルカリ金属の量を、タングステン線1g中2.0μg以下とすることが、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
よって、相違点4-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。この点、甲第1、2号証に、タングステンワイヤーの用途として「ソーワイヤー」が記載されていても変わるものではない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲4発明とを対比すると、上記相違点4-1に加え、以下の点で相違する。
<相違点4-3>
本件発明2の金属線は、「スクリーンメッシュの線材として用いられる」のに対し、甲4発明のタングステンワイヤーは、その用途が不明である点。
イ 判断
(ア)相違点4-1について
相違点4-1についての判断は、上記(2)イ(ア)で述べたとおりである。
よって、相違点4-3について検討するまでもなく、本件発明2は、甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。この点、甲第6号証に、タングステンワイヤーの用途として「スクリーンメッシュ」が記載されていても変わるものではない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明2は、甲第4号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件特許の請求項1又は2の記載を引用するものであり、本件発明1又は2の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)、(3)で述べたとおり、本件発明1が、甲第4号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、本件発明2が、甲第4号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明3、4についても同様に、甲第4号証に記載された発明及び甲第1、2、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)本件発明5、6について
甲第6号証には、上記1(4)に摘記した事項が記載されている。
一方、本件発明5、6は、本件特許の請求項1又は2の記載を引用するものであり、本件発明1又は2の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)、(3)で述べたとおり、本件発明1が、甲第4号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、本件発明2が、甲第4号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明5、6についても同様に、甲第4号証に記載された発明及び甲第1、2、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(6)申立理由5(進歩性)のまとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。また、本件発明2は、甲第4号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。さらに、本件発明3~6は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1、2、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由5(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
6 申立理由6(進歩性)
(1)甲第5号証に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲第5号証には、「金属線材の連続電解研磨装置」(実用新案の名称)に関する記載があり、その実用新案登録請求の範囲の請求項1の記載に着目すると、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されているものと認められる(なお、甲第5号証の記載事項は当合議体による仮訳である。)。
<甲5発明>
連続電解研磨された金属線材。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲5発明とを対比する。
(ア)甲5発明の「金属線材」と、本件発明1の「タングステン線又はタングステン合金線である金属線」とは、「金属線」である限りにおいて共通する。
(イ)そうすると、本件発明1と甲5発明とは、
「金属線。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点5-1>
本件発明1の金属線は、「タングステン線又はタングステン合金線である金属線であって、」「前記金属線は、ワイヤーソーの線材として用いられる」のに対し、甲5発明の「金属線材」は、その素材及び用途が不明である点。
<相違点5-2>
本件発明1の金属線は、「前記金属線の表面に存在するアルカリ金属の量は、前記金属線1g中2.0μg以下」であるのに対し、甲5発明の「金属線材」は、金属線材の表面に存在するアルカリ金属の量が、前記金属線材1g中2.0μg以下であるのか不明である点。
イ 判断
(ア)相違点5-1について
a 相違点5-1が実質的な相違点であるかについて
(a)甲第5号証には、電気めっき前に、難溶金属(タングステン、レニウム、モリブデン、タンタルなど)の線材に対し、連続電解研磨を行うことが有効である旨が記載されているものの(段落[0003]、[0026])、甲5発明の「金属線材」の素材が、難溶金属として列記される中の「タングステン」に限られることは記載されておらず、また、技術常識を考慮しても、甲5発明の「金属線材」の素材が当然に「タングステン又はタングステン合金」であるといえるかは不明である。
(b)甲第5号証には、甲5発明の「金属線材」の用途が記載されていないから、甲5発明の「金属線材」が、「ワイヤーソーの線材として用いられる」のか不明である。また、技術常識を考慮しても、甲5発明の「金属線材」の用途が「ワイヤーソー」であるかは不明である。
よって、相違点5-1は、実質的な相違点である。
b 相違点5-1の容易想到性について
(a)甲第5号証には、金属線材の連続電解研磨装置における金属線材の通過孔の直径を0.2mm~1.5mmとすることが記載されている(段落[0016])。
そして、通過孔の直径を0.2mm~1.5mmとした理由は、「通過孔での電解液の漏れ量が少なく、電解液が電解槽に満たされやすく、金属線材との激しい摩擦を防ぎ、研磨中の線材の断裂を防ぐ」ためである(段落[0025])。
ここで、通過孔の直径が線径よりも大きいと、電解液の漏れが懸念され、通過孔の直径が線径よりも小さいと、過度の摩擦が懸念されるから、甲5発明の「金属線材」の直径は、通過孔の直径と同程度であり、0.2mm~1.5mm程度であると推認される。
(b)一方、甲第2号証には、ピアノ線の表面にクラック溝を有するニッケルメッキ被覆層を有するワイヤーソー用ワイヤーとして、直径0.16mmのものが記載されている(第2ページ右上欄第19行~左下欄第4行)。また、甲第1号証には、磁器などの切断方法に用いられる従来のワイヤーソー用ワイヤーとして、直径0.14~0.16mmのピアノ線またはタングステン線などが記載されている。
しかしながら、仮に、甲第5号証の記載に基づき、甲5発明の「金属線材」の素材を「タングステン」とする動機があったとしても、甲第2号証には、ワイヤーソー用ワイヤーとしてのタングステン線の直径が記載されておらず、どの程度の直径であれば、タングステン線をワイヤーソー用ワイヤーに適用できるのかが不明である。また、甲第1号証に記載される従来のワイヤーソー用ワイヤーとしてのタングステン線は、直径0.14~0.16mmのものであるから、直径が0.2mm~1.5mm程度であると推認される甲5発明の「金属線材」(タングステン線材)を、ワイヤーソー用ワイヤーに適用することが動機付けられるとはいえない。
(c)そうすると、仮に、甲第5号証の記載に基づき、甲5発明の「金属線材」の素材を「タングステン」とする動機があったとしても、甲5発明の「金属線材」をワイヤーソー用ワイヤーとすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
(d)よって、相違点5-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第5証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第5号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲5発明とを対比すると、上記相違点5-2に加え、以下の点で相違する。
<相違点5-3>
本件発明2の金属線は、「タングステン線又はタングステン合金線である金属線であって、」「前記金属線は、スクリーンメッシュの線材として用いられる」のに対し、甲5発明の「金属線材」は、その素材及び用途が不明である点。
イ 判断
(ア)相違点5-3について
a 相違点5-3が実質的な相違点であるかについて
(a)甲第5号証には、電気めっき前に、難溶金属(タングステン、レニウム、モリブデン、タンタルなど)の線材に対し、連続電解研磨を行うことが有効である旨が記載されているものの(段落[0003]、[0026])、甲5発明の「金属線材」の素材が、難溶金属として列記される中の「タングステン」に限られることは記載されておらず、また、技術常識を考慮しても、甲5発明の「金属線材」の素材が当然に「タングステン又はタングステン合金」であるといえるかは不明である。
(b)甲第5号証には、甲5発明の「金属線材」の用途が記載されていないから、甲5発明の「金属線材」が、「スクリーンメッシュの線材として用いられる」のか不明である。また、技術常識を考慮しても、甲5発明の「金属線材」の用途が「スクリーンメッシュ」であるかは不明である。
よって、相違点5-3は、実質的な相違点である。
b 相違点5-3の容易想到性について
(a)甲第6号証には、上記1(4)に摘記した事項が記載されている。
(b)ここで、上記(1)イ(ア)b(a)で述べたとおり、甲5発明の「金属線材」の直径は、0.2mm~1.5mm程度であると推認できる。
(c)そして、甲第6号証のスクリーンメッシュに用いられるタングステン線の直径(22μm以下)と甲5発明の「金属線材」の直径(0.2mm~1.5mm程度)とは、大きく異なることから、甲5発明の「金属線材」を「スクリーンメッシュ」に適用することが動機付けられるとはいえず、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
(d)よって、相違点5-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第5証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明2は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件特許の請求項1又は2の記載を引用するものであり、本件発明1又は2の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)、(3)で述べたとおり、本件発明1が、甲第5号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、本件発明2が、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明3、4についても同様に、甲第5号証に記載された発明及び甲第1、2、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)本件発明5、6について
甲第6号証には、上記1(4)に摘記した事項が記載されている。
一方、本件発明5、6は、本件特許の請求項1又は2の記載を引用するものであり、本件発明1又は2の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)、(3)で述べたとおり、本件発明1が、甲第5号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、本件発明2が、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明5、6についても同様に、甲第5号証に記載された発明及び甲第1、2、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(6)申立理由6(進歩性)のまとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲第5証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。また、本件発明2は、甲第5証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。さらに、本件発明3~6は、甲第5号証に記載された発明及び甲第1、2、6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由6(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
7 申立理由7(新規性)
(1)甲第6号証に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲第6号証には、「スクリーンメッシュ」(発明の名称)に関する記載があり、その請求項1、5、段落【0031】、【0032】の記載に着目すると、次の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されているものと認められる。
<甲6発明>
粒径5μmのタングステン粉末をプレス成型して焼結してインゴット化し、次に、インゴット化したタングステン塊に対して、周囲から鍛造圧縮して伸展するスエージング加工を施すことによりワイヤ状にし、その後、孔径を漸次小さくした複数の伸線ダイスを用いた線引き(伸線)を繰り返し行い、線引き後に電解研磨などを適宜行ってもよい、方法で製造された、スクリーンメッシュに用いられる、表面粗さRaが0.10μm以下であるタングステン線。
(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲6発明とを対比する。
(ア)甲6発明における「粒径5μmのタングステン粉末をプレス成型して焼結してインゴット化し、次に、インゴット化したタングステン塊に対して、周囲から鍛造圧縮して伸展するスエージング加工を施すことによりワイヤ状にし、その後、孔径を漸次小さくした複数の伸線ダイスを用いた線引き(伸線)を繰り返し行い、線引き後に電解研磨などを適宜行ってもよい、方法で製造された」「表面粗さRaが0.10μm以下であるタングステン線。」は、本件発明2における「タングステン線又はタングステン合金線である金属線」に相当する。
(イ)甲6発明における「表面粗さRaが0.10μm以下であるタングステン線」は、「スクリーンメッシュに用いられる」から、本件発明1における「前記金属線は、スクリーンメッシュの線材として用いられる」に相当する。
(ウ)そうすると、本件発明2と甲6発明とは、
「タングステン線又はタングステン合金線である金属線であって、
前記金属線は、スクリーンメッシュの線材として用いられる
金属線。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点6>
本件発明2の金属線は、「前記金属線の表面に存在するアルカリ金属の量は、前記金属線1g中2.0μg以下」であるのに対し、甲6発明の「タングステン線」は、タングステン線の表面に存在するアルカリ金属の量が、前記タングステン線1g中2.0μg以下であるのか不明である点。
イ 判断
(ア)相違点6について
a 相違点6が実質的な相違点であるかについて
(a)甲第6号証には、甲6発明の「タングステン線」の表面に存在するアルカリ金属の量の具体的な値が記載されていないから、「タングステン線」の表面に存在するアルカリ金属の量は不明である。また、技術常識を考慮しても、「タングステン線」の表面に存在するアルカリ金属の量が、「タングステン線1g中2.0μg以下」であるかは不明である。
よって、相違点6は、実質的な相違点である。
(b)申立人は、特許異議申立書の第40ページ第19~25行において、「甲6発明に係るスクリーンメッシュ用のタングステン線は、電解研磨処理を行わない方法で製造されている。本件特許明細書の【0018】の「アルカリ金属は、金属線の製造時に用いた溶液に含まれていた残留元素である」との記載、【0046】の「電解研磨に用いられる電解液は、アルカリ金属元素を含む溶液である」との記載を鑑みれば、上記の通り、甲6発明は、電解研磨処理を行っていないので、表面に存在するアルカリ金属の量は、タングステン線1g中0μgである蓋然性が高い。」と主張する。
しかしながら、甲6発明において、「電解研磨」は「行ってもよい」ものであり、任意の工程ではあるものの、上記(a)で述べたとおり、電解研磨を実施するか否かに関わらずタングステン線の表面に存在するアルカリ金属の量は不明であるから、甲6発明のタングステン線の表面に存在するアルカリ金属の量はタングステン線1g中0μgである蓋然性が高いとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明2は、甲第6号証に記載された発明であるとはいえない。
(3)本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件特許の請求項2の記載を引用するものであり、本件発明2の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明2が、甲第6号証に記載された発明であるとはいえない以上、本件発明3、4についても同様に、甲第6号証に記載された発明であるとはいえない。
(4)本件発明5、6について
甲第6号証には、上記1(4)に摘記した事項が記載されている。
一方、本件発明5、6は、本件特許の請求項2の記載を引用するものであり、本件発明2の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明2が、甲第6号証に記載された発明であるとはいえない以上、上記甲第6号証の記載を考慮しても、本件発明5、6についても同様に、甲第6号証に記載された発明であるとはいえない。
(5)申立理由7(新規性)のまとめ
以上のとおり、本件発明2~6は、甲第6号証に記載された発明であるとはいえない。
したがって、申立理由7(新規性)によっては、本件特許の請求項2~6に係る特許を取り消すことはできない。
8 申立理由8(サポート要件)
(1)金属線の組成が特定されていない点
申立人は、特許異議申立書の第47ページ第11~20行において、「純金属とその合金では酸化され易さが異なり、また、タングステンとレニウムタングステン線などの合金線では、酸化のされ易さが異なる。このような技術常識に基づけば、本件特許発明に係るタングステン合金線は、合金に用いられる元素の種類と合金元素の含有量により酸化のされ易さが変動することは明白である。タングステン合金線の合金元素(例えばレニウム)の含有量が極端に高い場合、60ppmのカリウムがドープされたドープタングステン線の実施例1-3とは酸化され易さが異なることは明らかなため、金属線の表面に存在するアルカリ金属の量が金属線1g中2.0μg(又は1.0μg若しくは0.5μg)以下であっても本件特許発明の課題(ワイヤーの線グセ及び断線が発生しにくい金属線を提供する)を解決できない蓋然性が高い。」と主張する。
しかしながら、申立人が述べるとおり、金属線の組成が異なれば、金属線の酸化のし易さも異なるものと認められるものの、実施例1~3と異なる組成の合金線であったとしても、アルカリ金属による酸化の機序は、実施例1~3の場合と同様であると認められるから、実施例1~3と異なる組成の金属線の表面に存在するアルカリ金属の量を、前記金属線1g中2.0μg以下とすれば、同じ組成の金属線の表面に存在するアルカリ金属の量が金属線1g中2.0μg超の金属線と比べて、金属線の表面の酸化が抑制され、ワイヤーの線グセ及び断線が発生しにくい金属線が提供できると認められる。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(2)金属線の線径が特定されていない点
申立人は、特許異議申立書の第49ページ第2~16行において、「アルカリ金属は、金属線の表面の酸化に影響を及ぼすものであるから、その表面積と相関があることは自明である。一方、同じ組成のドープタングステン線の線径が変わった場合、金属線1g中2.0μgの場合について、表面の単位面積当たりのアルカリ金属の量を換算すると、下表のようになる。例えば、線径が0.1mm(100μm)の場合、金属線の単位面積あたりのアルカリ金属の量は、線径が16μmの時を1.0とすると、これの6.3倍の量存在することになり、0.2mm(200μm)の場合は、線径が16μmの時の12.5倍の量存在することになる。本件特許明細書の【0036】に「図2に示されるように、金属線1g中のアルカリ金属の量が4.0μgの場合(比較例)は、2.0μgの場合(実施例1)に対してアルカリ金属の量が2倍になっており、3ヶ月後、6ヶ月後及び12ヶ月後の各経過時点において、酸化膜の膜厚も約2倍になっている。」と記載されている。この記載を踏まえると、金属線の単位面積あたりのアルカリ金属の量が本件特許明細書の実施例1よりも多い場合、本件特許発明の課題(ワイヤーの線グセ及び断線が発生しにくい金属線を提供する)を解決できない蓋然性が高い。」と主張する。
しかしながら、申立人が述べるとおり、金属線の線径が異なれば、金属線の単位面積あたりのアルカリ金属の量も異なり、金属線の酸化のし易さも異なるものと認められるものの、線径が異なる合金線であったとしても、アルカリ金属による酸化の機序は、線径によらず同様であると認められるから、実施例1~3と異なる線径の金属線の表面に存在するアルカリ金属の量を、前記金属線1g中2.0μg以下とすれば、同じ線径の金属線の表面に存在するアルカリ金属の量が金属線1g中2.0μg超の金属線と比べて、金属線の表面の酸化が抑制され、ワイヤーの線グセ及び断線が発生しにくい金属線が提供できると認められる。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(3)申立理由8(サポート要件)のまとめ
以上のとおり、本件発明1~6について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。
したがって、申立理由8(サポート要件)によっては、本件特許の請求項2~6に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-701102