特許異議申立
2023-700670
艶消物品
- 審判番号
- 2023-700670
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-141637
- 登録番号
- 7196969
- 請求日
- 2023年06月27日
- 審決日
- 2026年03月25日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人大谷特許事務所
- 【異議申立人】本田 仁志
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 松田 成正
- 審判官 天野 宏樹
- 分類
- P1651.121-Y (C08J) / P1651.536-Y (C08J) / P1651.537-Y (C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7196969号発明「艶消物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7196969号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7196969号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、令和3年8月31日(優先権主張 令和2年9月14日)の出願であって、令和4年12月19日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、令和5年6月27日に特許異議申立人本田仁志(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象:全請求項)がされたものである。
その他の手続の経緯は以下のとおりである。
令和5年12月12日:上申書(申立人)
第2 本件発明について
本件特許の請求項1~9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明9」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。
「[請求項1]
基材、装飾層及び艶消層を有し、
前記装飾層を前記基材と前記艶消層との間に有し、
表面の少なくとも一部に、ISO25178-2:2012に規定されるSsk(スキューネス)が0.00未満であり、ISO25178-2:2012に規定されるSku(クルトシス)が3.00以上であり、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の高さ方向のパラメータであるRa(算術平均粗さ)が0.10μm以上2.00μm以下である表面形状を有し、
前記表面形状が前記艶消層の表面により形成され、前記艶消層の表面が、不規則なシワにより構成される凹凸形状を有する艶消物品。
[請求項2]
前記表面形状の、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の横方向のパラメータであるRsm(曲線要素の平均長さ)が、100.00μm以下である請求項1に記載の艶消物品。
[請求項3]
前記表面形状の、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の山及び高さパラメータであるRz(最大高さ)が、3.00μm以上である請求項1又は2に記載の艶消物品。
[請求項4]
前記不規則なシワが、複数の線条突起部により形成する複数の凸部と、前記複数の線条突起部により囲まれて形成する凹部とにより構成される、請求項1~3のいずれか1項に記載の艶消物品。
[請求項5]
前記艶消層が、樹脂及びシワ形成安定剤を含む樹脂組成物の硬化物により構成され、前記シワ形成安定剤が前記艶消層の厚さの100%以下及び30μm以下のいずれか小さい方を上限とする平均粒子径を有し、前記シワ形成安定剤を、前記樹脂100質量部に対して0.5質量部以上で含むものである請求項1~4のいずれか1項に記載の艶消物品。
[請求項6]
前記基材がシート状である請求1~5のいずれか1項に記載の艶消物品。
[請求項7]
前記艶消層が、前記基材の一方の面の全面にわたって設けられる請求項6に記載の艶消物品。
[請求項8]
前記表面形状の60°グロス値が、10.0以下である請求項1~7のいずれか1項に記載の艶消物品。
[請求項9]
JIS K7361-1:1997に準拠して測定した全光線透過率が、20%以下である請求項1~8のいずれか1項に記載の艶消物品。」
なお、以下においては、「ISO25178-2:2012に規定されるSsk(スキューネス)」、「ISO25178-2:2012に規定されるSku(クルトシス)」及び「JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の高さ方向のパラメータであるRa(算術平均粗さ)」を、それぞれ「Ssk」、「Sku」及び「Ra」と省略して記載することがある。
第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記2.に示す甲第1号証~甲第7号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲7」という。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。なお、特許異議申立理由の番号は当審が仮に付与した。
1.特許異議申立理由
(1)理由1(甲1に基づく進歩性欠如)
本件発明1~9は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)理由2(実施可能要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、本件発明1~9についての特許は同号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件発明1~9に係る艶消物品を実施するための具体的な材料が不明であるから、発明の詳細な説明は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
すなわち、本件明細書の発明の詳細な説明には実施例1、2及び比較例1~11が表1~3とともに記載されているが、これら記載には、次に述べるように、本件発明1~9を実施するための具体的技術手段が開示されているとはいえない。
ア 樹脂組成物について
実施例1、2の「多官能ウレタンアクリレートオリゴマー」は単一の物質を表記したものではなく、NCO基を有するイソシアネートとOH基を有するポリオールの重合体(オリゴマー)にアクリロイル基を複数付加したという、構造的特徴(材料種別)を表記したものである。そして、イソシアネートやポリオールはその骨格の違いにより多数の種類が存在することから、実施例1として記載されている「多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(4官能、平均分子量:1800)」との記載のみからは、当業者といえども具体的な樹脂材料を特定することはできない。
しかも、スキューネスSsk、クルトシスSku、算術平均粗さRaは表面の形状を特定するための特殊なパラメータであり、当業者といえども、本件発明1で特定されたこれらパラメータ値に基づいて多官能ウレタンアクリレートオリゴマーの具体的な材料が特定されるものでもない。
また、実施例1、2の「多官能アクリレートモノマー」も単一の物質を表記したものではなく、構造的特徴(材料種別)を表記したものであり、具体的には該当する多くの樹脂が存在することから、上記と同様に、当業者といえども、具体的な樹脂材料を特定することはできない。
以上のとおり、発明の詳細な説明の記載では、当業者といえども本件発明1~9を実施するために採用すべき具体的な樹脂を特定することができない。
イ 製造方法について
実施例1の製造方法と比較例6の製造方法を比較すると、両者に違いは一切ない。してみると、実施例1と比較例6との唯一の違いは、樹脂材料として、実施例1が多官能ウレタンアクリレートオリゴマーを用いるのに対して、比較例6が多官能ウレタンアクリレートオリゴマー1を用いることのみであるが、多官能ウレタンアクリレートオリゴマーと多官能ウレタンアクリレートオリゴマー1との具体的な違いが不明であることは、上記「ア 樹脂材料について」で述べたとおりである。
よって、実施例1と比較例6についての発明の詳細な説明の記載は、本件発明を実施するための具体的な製造方法が不明である。
次に、実施例1の製造方法と比較例3の製造方法を比較すると、比較例3においては、「LEDから構成されるUV照射装置を用いて紫外線を照射し(波長:395nm、紫外線量:6W/cm2)」との工程が付加されている(※当審注:申立人の誤認であり、この工程は実施例1に付加されている。)ことを除き、両者は同一である。実施例1として記載された製造方法は、エキシマ光照射に先立ってUV照射装置により紫外線を照射するとの任意な工程を欠く(※当審注:有する、の誤認と解される。)点のみで比較例3と異なるものであり、この任意な工程を省略(※当審注:付加、の誤認と解される。)したことのみで、スキューネス、クルトシス、及びRaのパラメータについて、本件発明1に規定する所望のパラメータ値が得られることにはならない。しかも、艶消層を構成する樹脂材料は、実施例1と比較例3とで違いがない。
よって、実施例1と比較例3についての発明の詳細な説明の記載は、本件発明を実施するための具体的な製造方法が不明である。
また、発明の詳細な説明の段落0173によれば、実施例2は、樹脂材料を構成する基材について、多官能ウレタンアクリレートオリゴマーと多官能アクリレートモノマーの構成比を変更した点を除き実施例1と同一としている。
よって、本件発明に対応する実施例1、2について、その具体的な製造方法は不明である。
ウ 審査基準について
審査基準の実施可能要件(甲7)を、本件特許についてみると、上述したように、本件発明に対応する実施例について、樹脂材料及び添加剤が実施例と比較例とで相違しておらず、したがって、採用すべき具体的な樹脂材料は不明であり、しかも、その製造方法を見ても、実施例と比較例とで両者に特段の違いがない。
よって、当業者といえども、スキューネス、クルトシス、Raのパラメータ値を本件発明に係る特定の範囲とするために採用すべき肝心の樹脂材料を見出すことはできないし、艶消層のスキューネス、クルトシス、Raのパラメータ値を本件発明に係る特定の範囲とするための具体的な製造方法を見出すこともできない。
したがって、上記ア、イの点で、発明の詳細な説明は当業者が本件発明1~9の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
(3)理由3(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明1~9についての特許は同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
申立理由2で述べたように、発明の詳細な説明に記載された実施例は、比較例と比べて、艶消層を構成する樹脂材料及び添加剤に特段の違いがなく、しかも艶消層の製造方法にも特段の違いがない。したがって、発明の詳細な説明は本件発明1~9を実現するための具体的な技術手段を欠いており、請求項において発明の課題を解決するための手段が反映されているとはいえない。
しかも、スキューネスSsk、クルトシスSku、算術平均粗さRaは、ISOやJISには規定されているものの、いずれも特殊なパラメータであって、当業者といえども、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるともいえない。
よって、本件発明1~9は発明の詳細な説明に記載したものでない。
2.証拠方法
甲1:韓国公開特許第10-2020-0031282号公報
甲2:特開2017-213881号公報
甲3:ISO25178-2:2012(E),First edition,一般社団法人日本規格協会,2012.4.1,目次,p.1-21,46,47
甲4:JIS B 0601,平成25年3月21日改正,一般社団法人日本規格協会,2013年,目次,p.1-16
甲5:特開2003-266623号公報
甲6:特開2012-213929号公報
甲7:特許庁,特許・実用新案審査基準,平成27年9月,第II部第1章第1節実施可能要件,p.1-9,第II部第2章第2節サポート要件,p.1-5
第4 当審の判断
当審は、申立人が申し立てたいずれの特許異議申立理由によっても、本件発明1~9についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおりである。
1.理由1(甲1に基づく進歩性欠如)について
(1)甲1に記載された事項
甲1には以下の事項が記載されている。甲1は外国語文献であるが、日本語訳のみ示す。日本語訳は申立人の提出した翻訳文及び当審による。
(1-1)「特許請求の範囲
請求項1
基材層と、表面に一点を中心として中心から周縁に延在する放射状湾曲構造であるデンドライト形状を有するアクリル樹脂組成物の硬化層と、を含み、前記放射状湾曲構造は表面の単位面積(1mm×1mm)当たり30~200個存在し、4.5kgf/垂直抗力条件下での動摩擦係数が0.3以下である積層フィルム。
・・・
請求項3
硬化層の平均表面粗さ(Rz)が平均1μm以上10μm以下である請求項1に記載の積層フィルム。
請求項4
グロス60°条件下での表面光沢度が6以下である請求項1に記載の積層フィルム。
・・・
請求項6
硬化層の平均厚さが5μm~50μmである請求項1に記載の積層フィルム。
請求項7
不活性ガス条件下で、基層上に塗布されたアクリル樹脂組成物に300nm未満の波長の光を照射することにより、組成物を活性化する第1光照射工程と、活性化された組成物に、空気条件下で波長200nm~400nmの光を照射して組成物を硬化させる第2光照射工程と、を備え、前記第1光照射工程は、酸素(O2)濃度が100ppm~4000ppmである窒素(N2)条件下で行われる積層フィルムの製造方法。
・・・
請求項10
前記アクリル樹脂組成物は、シリカ、アルミナ、ガラスビーズ及び有機ビーズからなる群から選択される少なくとも1種のフィラーをさらに含む請求項7に記載の積層フィルムの製造方法。
請求項11
フィラーの平均粒径が1μm~10μmである請求項10に記載の積層フィルムの製造方法。
請求項12
フィラーの添加量がアクリル樹脂組成物100重量部に対して8重量部以下である請求項10に記載の積層フィルムの製造方法。
・・・
請求項14
請求項1に記載の積層フィルムを含む化粧シート。」
(1-2)「[技術分野]
[0001]本発明は、肌ざわりに優れた低光沢化粧シートに関し、詳しくは、表面に一定の表面粗さを有する放射状湾曲構造を誘導することにより触感及び耐汚染性に優れ、過剰の艶消剤なしで低光沢度が実現される化粧シート及びその製造方法に関する。
[背景技術]
[0003]家具や家電製品の外装材として使用される化粧シートは、消費者の嗜好に合わせて差別化及び高級化が進む中で、様々な物性を満足する化粧シートに対する需要が増加している。例えば、表面の汚染物質を容易に除去できるようにするか除去するため、及び美的な高級感を付与するために、光沢が低く、シルキーな触感を示す物性が要求されている。
・・・
[発明が解決しようとする課題]
[0009]本発明の目的は、過剰な量の艶消剤を用いずに化粧シートの前記光沢を実現し、汚染物質が化粧シート表面に容易に付着しないように耐汚染性を改善し、かつ肌ざわりに優れてユーザの満足度の高い化粧シートを提供することにある。」
(1-3)「[0033]本発明において、"表面粗さ(surface profile)"とは、表面に存在する微細な凹凸の度合いを示すものであり、"Rz"と表記される場合がある。ここで、"Rz"は、その表面の断面曲線として基準長さLをとり、その部分の平均線に平行で断面曲線を水平に切断しない直線から、屈曲部の高い方から5番目までの山、及び深い方から5番目までの谷との間の間隔を測定し、その偏差を示したもので、"十点平均粗さ(ten point average roughness)"ともいう。
・・・
[0039]本発明に係る積層フィルムは、最も外側の層である硬化層に一定の大きさのデンドライト形状を有する放射状湾曲構造を一定頻度で誘導することができ、それにより過剰な量の艶消剤を用いずに表面光沢を著しく低下させることができるだけでなく、汚染物質の表面接触面積が改善されて耐汚染性が向上し、かつ肌ざわりに優れるためユーザの満足度が優れ、これを含む化粧シートは家具、家電製品等、様々な分野で有用に使用することができる。
・・・
[0047]本発明の積層フィルムは、その構造の最外層に、基材層上のアクリル系オリゴマーを含有する組成物の硬化層を含み、前記硬化層は、その表面に特定形状を有する湾曲構造を有する。具体的には、積層フィルムは、最外表面に微細な湾曲構造を有する硬化層を備え、湾曲構造は、硬化層表面に存在する任意の一点を中心とし、該中心から周縁に延在して中心から周縁に行くほど高さが低くなる放射状の凹凸がランダムに分散された構造を有する。例えば、前記放射状湾曲構造は、硬化層表面の任意の一点を中心とする樹枝状構造(arborescence structure)又はデンドライト構造(dendrite structure)がランダムに分散された構造を含むことができる。
・・・
[0049]さらに、前記硬化層は、一定の表面粗さを有するように表面上に放射状湾曲構造を有していても良い。具体的には、前記硬化層は、表面に存在する放射状湾曲構造の表面粗さ"Rz"の平均値が、10μm以下であることができ、より具体的には上限が9.0μm以下、8.5μm以下、8.0μm以下、7.5μm以下、7.0μm以下、6.5μm以下、6.0μm以下であり、下限が0.1μm以上、1.0μm以上、2.0μm以上、2.5μm以上、3.0μm以上、3.5μm以上、4.0μm以上、又は4.5μm以上であってもよい。例えば、前記放射状湾曲構造の表面粗さ(Rz)は、0.1μm~10μm、1μm~8μm、2μm~6μm、4μm~6μm、4.5μm~6.5μm、5μm~10μm、6μm~9μm、3μm~7μm、2μm~5μm、5.5μm~6.5μm、4.8μm~5.4μm、7μm~9μm、又は4.7μm~5.9μmである。」
(1-4)「[0053]1つの例として、本発明に係る積層フィルムは、硬化層の表面に形成された放射状湾曲構造を介してその表面に入射する光の散乱を誘導することで、硬化層100重量部(例えば、アクリル樹脂組成物の総重量)に対して、10重量部未満、より具体的には9重量部以下、8重量部以下、7重量部以下、6重量部以下、5重量部以下、4質量部以下、又は4重量部未満であり、それにより、艶消剤を含まなくても、顕著に低い光沢を実現することができる。具体的には、前記積層フィルムは、光沢計(Gloss Meter)を用いた60°光沢度(グロス60°条件)を測定したとき、表面光沢度が6以下であってよく、具体的には、上限値が5.5以下、5以下、4.5以下、5以下、3.5以下、3以下、2.5以下、2以下又は1.5以下であり、下限値が0.1以上、0.5以上、1以上、1.5以上、2以上、2.5以上又は3以上であってもよい。一例として、上記積層フィルムの表面光沢度は、0.5~6、0.5~5.5、2~5、3~5、4~5、1~4、1~3、1~2、2~4、1.5~3.5、1.8~2.2、2.8~4.3、1.2~1.9、3.2~4.7又は0.5~1.2である。」
(1-5)「[0059]一方、本発明に係る積層フィルムに備えられる基材層は、積層フィルムのベースとなる層であり、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びグリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)からなる群から選択される1種以上から構成されるシートを含むことができる。」
(1-6)「[0068]具体的には、第1の光照射工程は、基材層上に塗布されたアクリル樹脂組成物に光を照射する第1の工程であり、照射された光によって発生したエキシマ(excimer)が塗布された組成物及び/又は硬化層の表面を収縮させてしわを形成することによって、表面に入射される光の散乱率を増加させる工程である。本発明は、エキシマを用いてアクリル樹脂組成物及び/又は硬化層の表面を上述した放射状の屈曲した構造に収縮させることによって光の散乱率を増加させることができ、そのため、艶消剤を用いることなく硬化層の光沢度を減少させることができる。この目的を達成するために、前記第1の光照射ステップは、高エネルギーを有する300nm未満、具体的には100~200nm又は150nm~195nmの波長の光を用いて酸素(O2)を少量含む窒素(N2)雰囲気中で行うことができる。具体的には、第1の光照射工程における窒素(N2)に含まれる酸素(O2)の濃度は100~4,000ppmであることができ、具体的には100~3,500ppm,100~3,000ppm,100~2,500ppm,100~1,300ppm,100~1,000ppm,1,000~2,000ppm,1,000~1,500ppm,1,500~2,000ppm,2,000~3,000ppm,2,000~2,500ppm,2,500~3,000ppm,3,000~3,500ppm,3,500~4,000ppm,2,000~4,000ppm,1,500~3,000ppm,100~200ppm,150~250ppm,200~300ppm,300~400ppm,400~500ppm,500~600ppm,600~700ppm,700~800ppm,800~900ppm,900~1,000ppm,100~2,000ppm,100~500ppm,100~300ppm,700~2,500ppm,500~1,800ppm,1,100~1,600ppm,1,400~1,900ppm,1,200~1,700ppm,1,700~2,800ppm,1,900~2,600ppm,2,200~3,100ppm,2,300~2,800ppm,2,400~3,500ppm又は2,400~2,600ppmであることができる。」
(1-7)「[0090]さらに、本発明に係る組成物は、硬化層表面に形成されたデンドライト形状のシード(seed)の役割を一部演じながら、耐久性を向上させるために硬度の高いフィラーをさらに含むことができる。例えば、フィラーとしては、組成物の硬化後、硬化層の光沢に影響を与えることなく、表面硬度を向上させることができるものを使用することができる。具体的には、上記フィラーとして、コロイダルシリカ、アルミナ、ガラスビーズ、有機ビーズ(高分子粒子等)を使用することができ、それらの平均粒径は1μm~10μm、具体的には3μm~7μmであることができる。本発明においては、フィラーの平均粒径を上記範囲に制御することにより、樹脂組成物中の過剰なフィラーにより粘度が高くなり作業性が低下することを防止することができる。さらに、硬化層の光沢に影響を与えることなく硬化層のクラック発生を防止することができ、耐久性を向上させるために硬化層と他の層との間の接着力を増大させることができる。
[0091]また、前記フィラーは硬化層の光沢度と耐汚染性を阻害しないように組成物100重量部に対して8重量部以下の量含まれることが好ましい。例えば、フィラーは、組成物100重量部に対して7.5重量部以下を含むことができ、より具体的には、前記フィラーの含有量は、上限が7重量部以下、6.5重量部以下、6重量部以下、5.5重量部以下、5重量部以下、4.5重量部以下、4重量部以下、3.5重量部、3重量部、2.5重量部以下又は2重量部以下であってよく、下限が0.01重量部以上、0.05重量部以上、0.1重量部以上、0.5重量部以上又は1重量部以上であってよい。例えば、前記フィラーは0.1~7.5重量部、0.1~6重量部、1~5.5重量部、4~8重量部、5~7重量部、2~4重量部、0.1~4重量部、0.1~3重量部、0.1~2.5重量部、0.5~2.5重量部、1~3重量部、1.5~3重量部、2.5~3重量部、2.5~4重量部、3重量部~4.8重量部、4.0~4.5重量部、1.5~3.5重量部、2.2~3.3重量部又は2.9~3.2重量部である。」
(1-8)「[0094]装飾シート
[0095]本発明は、一実施形態において、本発明に係る積層フィルムを含む化粧シートを提供する。
[0096]
本発明に係る化粧シートは、最外層である硬化層表面にデンドライト形状の放射状偏向構造が誘導された本発明に係る積層フィルムを含み、それによって、過剰量の艶消剤を用いることなく表面光沢を著しく低減する。汚染物質の表面接触面積が狭いため、耐汚染性に優れ、また、動摩擦係数が小さいため触感に優れる。さらに、前記化粧シートはトレードオフ(trade-off)の関係にある表面硬度と伸びとを同時に向上させることができ、作業性と耐久性に優れるため、家具、家電製品等、様々な分野で有用に使用することができる。」
(2)甲1に記載された発明
甲1の特許請求の範囲(摘記1-1)には、「基材層と、表面に一点を中心として中心から周縁に延在する放射状湾曲構造であるデンドライト形状を有するアクリル樹脂組成物の硬化層と、を含み、前記放射状湾曲構造は表面の単位面積(1mm×1mm)当たり30~200個存在し、4.5kgf/垂直抗力条件下での動摩擦係数が0.3以下である積層フィルム。」(請求項1)、「硬化層の平均表面粗さ(Rz)が平均1μm以上10μm以下である請求項1に記載の積層フィルム。」(請求項3)、「グロス60°条件下での表面光沢度が6以下である請求項1に記載の積層フィルム。」(請求項4)、「硬化層の平均厚さが5μm~50μmである請求項1に記載の積層フィルム。」(請求項6)、「不活性ガス条件下で、基層上に塗布されたアクリル樹脂組成物に300nm未満の波長の光を照射することにより、組成物を活性化する第1光照射工程と、活性化された組成物に、空気条件下で波長200nm~400nmの光を照射して組成物を硬化させる第2光照射工程と、を備え、前記第1光照射工程は、酸素(O2)濃度が100ppm~4000ppmである窒素(N2)条件下で行われる積層フィルムの製造方法。」(請求項7)、「前記アクリル樹脂組成物は、シリカ、アルミナ、ガラスビーズ及び有機ビーズからなる群から選択される少なくとも1種のフィラーをさらに含む請求項7に記載の積層フィルムの製造方法。」(請求項10)、「フィラーの平均粒径が1μm~10μmである請求項10に記載の積層フィルムの製造方法。」(請求項11)、「フィラーの添加量がアクリル樹脂組成物100重量部に対して8重量部以下である請求項10に記載の積層フィルムの製造方法。」(請求項12)、「請求項1に記載の積層フィルムを含む化粧シート。」(請求項14)が記載されており、[0094]~[0096](摘記1-8)には、上記「積層フィルムを含む化粧シート」が「家具、家電製品等」に有用に使用することができるものであることが記載され、[0001]~[0003]及び[0009](摘記1-2)には、甲1に記載された発明が「肌ざわりに優れた低光沢化粧シート」に関し、「表面に一定の表面粗さを有する放射状湾曲構造を誘導することにより触感及び耐汚染性に優れ」るという性質がもたらされるものであり、「過剰な量の艶消剤を用いずに化粧シートの前記光沢を実現し、汚染物質が化粧シート表面に容易に付着しないように耐汚染性を改善し、かつ肌ざわりに優れてユーザの満足度の高い化粧シートを提供すること」を目的とするものであることが記載されている。また、積層フィルムの表面粗さ(Rz)については[0033]及び[0049](摘記1-3)に定義及び好ましい数値範囲が記載され、表面光沢度については[0053](摘記1-4)に測定方法及び好ましい数値範囲が記載され、基材層については[0059](摘記1-5)に「シート」であることが記載され、請求項7及び10~12に記載された積層フィルムの製造方法に関しては、[0068](摘記1-6)及び[0090]~[0091](摘記1-7)に、使用するアクリル樹脂組成物の材料及び硬化条件が具体的に記載され、当該製造方法により請求項1及び[0047](摘記1-3)等に記載された「放射状湾曲構造」が形成されることが読み取れる。
そうすると、甲1には、特許請求の範囲の記載等に基づいて以下の化粧シートの発明が記載されている。
「基材層と、表面に一点を中心として中心から周縁に延在する放射状湾曲構造であるデンドライト形状を有するアクリル樹脂組成物の硬化層と、を含み、前記放射状湾曲構造は表面の単位面積(1mm×1mm)当たり30~200個存在し、4.5kgf/垂直抗力条件下での動摩擦係数が0.3以下である積層フィルムを含む、肌ざわりに優れた低光沢化粧シートであって、
前記硬化層の平均表面粗さ(Rz)が平均1μm以上10μm以下であり、
グロス60°条件下での表面光沢度が6以下であり、
前記硬化層の平均厚さが5μm~50μmであり、
前記アクリル樹脂組成物は、シリカ、アルミナ、ガラスビーズ及び有機ビーズからなる群から選択される少なくとも1種のフィラーをさらに含み、
前記フィラーの平均粒径が1μm~10μmであり、
前記フィラーの添加量がアクリル樹脂組成物100重量部に対して8重量部以下である、
低光沢化粧シート。」(以下、「甲1発明」という。)
(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「基材層」は、本件発明1における「基材」に相当する。また、甲1発明における「表面に一点を中心として中心から周縁に延在する放射状湾曲構造であるデンドライト形状を有するアクリル樹脂組成物の硬化層」は、甲1の[0039]及び[0047](摘記1-3)に、「最も外側の層である硬化層に一定の大きさのデンドライト形状を有する放射状湾曲構造を一定頻度で誘導することができ、それにより過剰な量の艶消剤を用いずに表面光沢を著しく低下させることができる」及び「最外表面に微細な湾曲構造を有する硬化層を備え、湾曲構造は、硬化層表面に存在する任意の一点を中心とし、該中心から周縁に延在して中心から周縁に行くほど高さが低くなる放射状の凹凸がランダムに分散された構造を有する」と記載されており、「グロス60°条件下での表面光沢度が6以下」の表面をもたらす層であることからみて、本件発明1における「艶消層」に相当し、本件発明1における「前記表面形状が前記艶消層の表面により形成され、前記艶消層の表面が、不規則なシワにより構成される凹凸形状を有する」を満たし、さらに、甲1発明における「低光沢化粧シート」は、本件発明1における「艶消物品」に相当する。加えて、甲1発明において上記硬化層における湾曲構造の数及び平均表面粗さRzが特定されている点は、本件発明1において表面形状(Ssk、Sku及びRa)が特定されていることと、「表面形状」の特定を有する限りにおいて一致する。
そうすると、両者は、
「基材及び艶消層を有し、
表面形状の特定を有し、
前記表面形状が前記艶消層の表面により形成され、前記艶消層の表面が、不規則なシワにより構成される凹凸形状を有する艶消物品。」
の点で一致し、
相違点1:本件発明1は「装飾層」を有し、「前記装飾層を前記基材と前記艶消層との間に有」すると特定されるのに対し、甲1発明はそのように特定されない点
相違点2:本件発明1は「表面の少なくとも一部に、ISO25178-2:2012に規定されるSsk(スキューネス)が0.00未満であり、ISO25178-2:2012に規定されるSku(クルトシス)が3.00以上であり、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の高さ方向のパラメータであるRa(算術平均粗さ)が0.10μm以上2.00μm以下である」と特定するのに対し、甲1発明は「表面に一点を中心として中心から周縁に延在する放射状湾曲構造であるデンドライト形状を有」し、「前記放射状湾曲構造は表面の単位面積(1mm×1mm)当たり30~200個存在」し、「硬化層の平均表面粗さ(Rz)が平均1μm以上10μm以下」と特定する点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
イ 相違点2について
甲1には、低光沢化粧シートの表面の形状を「ISO25178-2:2012に規定されるSsk」及び「ISO25178-2:2012に規定されるSku」並びに「JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の高さ方向のパラメータであるRa」の組み合わせで表面形状を特定することは記載されていない。また、甲1発明における「一点を中心として中心から周縁に延在する放射状湾曲構造であるデンドライト形状」は、形状の特徴を述べるものにすぎず、その詳細な三次元形状及び大きさには幅があることに鑑みれば、甲1発明における「表面に一点を中心として中心から周縁に延在する放射状湾曲構造であるデンドライト形状を有」し、「前記放射状湾曲構造は表面の単位面積(1mm×1mm)当たり30~200個存在」し、「硬化層の平均表面粗さ(Rz)が平均1μm以上10μm以下」という表面形状の特定が、本件発明1における「表面の少なくとも一部に、ISO25178-2:2012に規定されるSsk(スキューネス)が0.00未満であり、ISO25178-2:2012に規定されるSku(クルトシス)が3.00以上であり、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の高さ方向のパラメータであるRa(算術平均粗さ)が0.10μm以上2.00μm以下である」を満たすものとはいえない。さらに、甲1発明は、表面の形状に関連すると思われる「動摩擦係数が0.3以下」、「グロス60°条件下での表面光沢度が6以下」及び「肌ざわりに優れた」という特定事項を有するが、これらを合わせても甲1発明における表面形状が上記した本件発明1におけるSsk、Sku及びRaの特定の数値範囲を満たすものとはいえない。そして、甲1におけるその他の記載及び他の全ての証拠の記載を参照しても、甲1発明における表面の形状を、相違点2に係るSsk、Sku及びRaの特定の数値範囲を満たすものとする動機は見いだせない。しかも、本件発明1が発揮する「優れた艶消効果の視認性及び質感を有し、かつしっとりした触感に優れる艶消物品を提供することができる」([0010])という効果は、本件発明1の構成から当業者が予測することができない顕著なものである。
よって、相違点2に係る本件発明1の特定事項は、甲1及び他の全ての証拠の記載を参酌しても当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は特許異議申立書の15~19頁において、甲2を引用し、甲2には「触感の観点から、印刷層のスキューネス粗さRskを-1以上1以下とし、クルトシス粗さRkuを1以上30以下とし、算術平均粗さRaを0.5~5μmとし、ざらつきと指すべり性の観点から平均長さ粗さRsmを0.3~10μmとし、最大高さ粗さRzを0.5~10μmとした印刷層付き板を、建築用内装部材や建築用外装部材に用いること。」(甲2発明)が記載されていると主張している。
また、甲2におけるRsk及びRkuは、算出式の平均を取る範囲は違うが、得られた数値は本件発明1におけるSsk及びSkuの数値と違いはないこと、甲2におけるRaは本件発明1のRaと0.5以上2μm以下の数値範囲において一致すること、甲1発明は化粧板に関するものであるところ、甲2発明は建築用内装部材や建築用外装部材に適用可能なものであること、及び甲1発明は肌ざわりに優れた低光沢化粧板を提供することを発明の課題とするところ、甲2発明も触感の観点から、触感に関する特定のパラメータを有する印刷層を加えたものであるから、甲1発明に甲2発明を適用し、本件発明1のようにSsk、Sku及びRaの数値範囲を設定することは、所望の触感となるように適宜に設定し得る程度のことであり、当業者が容易に想到し得たことであると主張している。
しかし、甲2に記載された印刷層付き板は、主に表示装置に用いられるものであり([0001]等)、好ましくは印刷層を形成しない面に防眩処理層、反射防止処理層、防汚処理層、防曇処理層などの表面処理層が形成されるところ([0079])、外界に面するのは表面処理層が形成された面であって、印刷層は使用時には指で触れられない層であると解される(例えば、[0090]には、「防眩処理層41表面は・・・クルトシス粗さRkuが触感の観点で1~3が好ましい。スキューネス粗さRskが視認性、触感などの均一性の観点から-1~1が好ましい。」と記載され、[0093]には、「防眩処理層41の凹凸によるタッチ感」と記載され、[0102]には、「防汚処理層43とは表面への有機物、無機物の付着を抑制する層、または、表面に有機物、無機物が付着した場合においても、ふき取り等のクリーニングにより付着物が容易に除去できる効果をもたらす層のことである。」と記載され、[0111]には、「防汚処理層43を形成した最表面の静止摩擦係数は1以下が好ましく・・・人間の指が印刷層付き板1の最表面に触れる際に指滑り性がよい。・・・動摩擦係数が0.02以下であれば、人間の指が第1面の屈曲部に触れる際に指滑り性がよい。」と記載されている。)。よって、申立人の主張は、印刷層のRsk及びRkuを「触感の観点から」特定されたもののように主張する点で、前提において誤っているため、採用することができない。
また、本件発明1における三次元粗さSsk及びSkuと甲2に記載された線粗さRsk及びRkuとは、定義が異なり数値には対応関係はないから、甲2に記載されたRsk及びRkuの数値に基づいて、三次元粗さSsk及びSkuが相違点2に係る特定の数値範囲を満たしているとする主張は、根拠に欠けるものである。
さらに、甲1には、甲1発明の表面形状が、基材層上に塗布されたアクリル樹脂組成物に光を照射し、発生したエキシマが組成物及び/又は硬化層の表面を収縮させてしわを形成することによって製造されることが記載されている([0068](摘記1-6)など)のに対し、甲2における印刷層及び表面処理層は、静電塗装([0039]、[0086])、スピンコート([0104])などで製造されることが記載されているから、甲1発明の表面形状を、甲1とは異なる甲2に記載された方法で調整することの動機付けがあるとはいえず、この点でも申立人の主張は採用することができない。
よって、申立人の主張はいずれも採用することができない。
エ 本件発明1についてのまとめ
以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明2~9について
本件発明2~9は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し特定するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て備え、更に限定した発明である。そうすると、上記(3)で検討した本件発明1と同様の理由により、本件発明2~9は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)理由1(甲1に基づく進歩性欠如)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~9は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、理由1(甲1に基づく進歩性欠如)により本件発明1~9についての特許を取り消すことはできない。
2.理由2(実施可能要件違反)について
(1)実施可能要件の判断手法
物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2)本件明細書の記載について
本件明細書の[0008]には、発明が解決しようとする課題が「優れた艶消効果の視認性及び質感を有し、かつしっとりした触感に優れる艶消物品を提供すること」にあることが記載されており、[0014]~[0026]には、「しっとり」した触感についての説明、Ssk及びSkuの指標の意味と好ましい数値範囲並びにそれらの規定による表面形状の特徴がしっとりした触感及び艶消効果につながる機序が記載されている。また、[0027]~[0033]には、艶消物品の表面形状において、特定の数値範囲のSsk及びSkuとし、好ましくはRsm、Rz及びRaを特定の数値範囲とするためには、「(1)艶消層の表面に微小なシワ構造を形成する」ことが好ましく、「さらに、(2)艶消層形成用の樹脂組成物の組成配合、特に重合性モノマー及び重合性オリゴマーの種類、官能基数、分子量、シワ形成安定剤の有無、シワ形成安定剤を使用する場合はシワ形成剤の粒径及び含有量を適正化する、(3)艶消形成用の樹脂組成物の照射条件、特に艶消層の表面部分を硬化収縮させ得る100nm以上380nm以下の波長光の波長、積算考量、紫外線出力密度等を適正化する、(4)上記の他、基材の種類及び厚さ、艶消層の厚さ等を適正化する、ことが好ましい。」ことが記載されており、Rsm、Rz及びRaの好ましい数値範囲が記載されている。
さらに、[0036]~[0054]には、基材について記載され、[0055]~[0097]には、艶消層について、シワ形成安定剤とその使用により形成されるシワの形状、及び電離放射線硬化性樹脂等の材料について記載され、[0098]~[0102]には、60°グロス及び「艶消」の定義について記載され、[0123]~[0136]には、艶消物品の第一の製造方法について、上記段落に記載されたシワ形成安定剤及び電離放射線硬化性樹脂組成物等を含む「艶消層形成用の樹脂組成物を所定の厚さで塗布した塗布層に低波長の紫外線を照射すると、紫外線のエネルギーが表面部分のみに浸透し、それより下層にはエネルギーが到達しないことにより、樹脂組成物の表面部分だけが硬化をはじめる。そのため、表面だけが硬化収縮を生じることとなり、シワが形成するものと考えられる。」こと、照射する光は「エキシマ光」が好ましいこと、及びしっとりした触感を向上させるために好ましい波長及び積算光量等について記載され、[0137]~[0144]には、単一層からなる艶消物品を、離型層を有する支持体シートを用いて製造する第二の製造方法について記載され、[0145]~[0148]には、単一層からなる艶消物品を、エンボス版、賦形シート等を用いてエンボス加工を施して製造する第三の製造方法について記載されている。
加えて、[0104]~[0119]には、装飾層を含むその他の層について記載され、[0149]~[0165]には、化粧部材等の用途について記載されている。
そして、[0166]~[0187]には、実施例及び比較例が記載され、艶消層形成用の樹脂組成物(多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと多官能アクリレートモノマーの組合せ又は多官能ウレタンアクリレートオリゴマーと単官能アクリレートモノマーの組合せからなる樹脂、シワ形成安定剤1及び2、並びに光重合開始剤を含有)を用い、LEDから構成されるUV照射装置を用いて紫外線を照射し、次いでエキシマ光照射装置を用いて紫外線を照射し、次いで更に高圧水銀灯を用いて紫外線を照射する方法で製造された実施例1(賦形シートによる賦形物)及び実施例2の艶消物品は、Sskが-1.26~-0.50、Skuが3.17~4.95、Raが0.85~1.79であり、60°グロス値が1.5~1.6であり、「質感(面状態の均一性)」の評価がA(18人以上が、面状態が均一であり、艶消効果の視認性が高いと評価した。)であり、「しっとりした触感」の評価がA(18人以上が、基準(シルク(絹)生地)に近い触感であり、しっとりした触感であると評価した。)であり、「艶消効果の視認性に極めて優れた物品であり、質感にも優れるものであることが確認された。また、しっとりした触感にも優れたものであることも確認された。」のに対し、シワ形成安定剤を使用しなかった比較例1及びシワ形成安定剤を含有せず艶消剤を含有する樹脂組成物を用いた比較例2は「その表面にはシワが若干発生していたものの、安定的に艶消効果の視認性が得られず、部分的にグロス値が実施例と同じ部分は存在したが、部分的に高艶な部分があり面状態が不安定であり(均一でなく)、質感に優れるものとはいえないものであった。また、比較例1及び2の物品は、いずれもしっとりした触感に乏しく、むしろざらざらした触感となった。」こと、実施例とは異なる樹脂組成物を用い、実施例とは異なる紫外線照射工程を用いた比較例3~5は「艶消効果の視認性に極めて優れた物品であり、質感にも優れるものであることが確認された。しかし、しっとりした触感がなく、むしろざらざらした触感であった。」ことが記載され、実施例とは異なる樹脂組成物を用い、実施例と同様の紫外線照射工程を用いた比較例6~11は「艶消効果の視認性に極めて優れた物品であり、質感にも優れるものであることが確認された。しかし、しっとりした触感がなく、むしろさらさらした触感であった。」ことが記載されている。
(3)実施可能要件についての判断
本件明細書の記載に接した当業者は、[0086]~[0094]に記載された電離放射線硬化性樹脂及び[0057]~[0068]に記載されたシワ形成安定剤を含有する艶消層形成用組成物を用い、[0027]の(1)~(4)の記載及び実施例の記載を参考にして、「艶消層形成用の樹脂組成物の組成配合、特に重合性モノマー及び重合性オリゴマーの種類、官能基数、分子量、シワ形成安定剤の有無、シワ形成安定剤を使用する場合はシワ形成剤の粒径及び含有量を適正化する」、「艶消形成用の樹脂組成物の照射条件、特に艶消層の表面部分を硬化収縮させ得る100nm以上380nm以下の波長光の波長、積算光量、紫外線出力密度等を適正化する」、「上記の他、基材の種類及び厚さ、艶消層の厚さ等を適正化する」ことにより、「艶消層の表面に微小なシワ構造を形成する」ことができ、それにより、表面形状の指標となるSsk及びSkuが[0017]~[0026]に記載された好ましい数値にあり、Raが[0032]~[0033]に記載された好ましい数値範囲にある硬化物層を形成することができ、また、用途に応じて[0114]~[0119]に記載された装飾層を設けることにより、本件発明1に相当する艶消物品を製造することができると理解することができる。また、製造された艶消物品は、「優れた艶消効果の視認性及び質感を有し、かつしっとりした触感に優れる」ことにより、[0149]~[0165]に記載された化粧部材等として使用することができるものと理解することができる。
そうすると、本件明細書には本件発明1の発明特定事項に対応した説明の記載や実施例の記載があり、当業者が本件発明1を生産することができ、かつ、本件発明1を使用することができる程度に具体的な記載があるといえる。請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する本件発明2~9についても同様の記載があるといえる。
(4)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書の22~29頁において上記第3 1.(2)のように主張しているが、以下のとおり申立人の主張を採用することはできない。
ア 樹脂組成物について
本件明細書の[0055]~[0056]には、請求項1に特定されるSsk及びSkuを有する艶消層は、「樹脂組成物の硬化物、好ましくは硬化物樹脂を含む硬化性樹脂組成物の硬化物により構成される層であることが好ましい」こと、及び上記樹脂組成物としては「樹脂及びシワ形成安定剤を含む樹脂組成物」が好ましいことが記載されており、[0057]~[0068]にはシワ形成安定剤の材料、形状及び配合割合について具体的に記載され、[0086]~[0097]には、樹脂としては「電離放射線硬化性樹脂」が好ましいこと、「具体的には、従来電離放射線硬化性樹脂として慣用されている重合性モノマー、重合性オリゴマーの中から適宜選択して用いることができる」こと、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレート系モノマー及びオリゴマーの具体例、好ましい官能基数、重量平均分子量及び配合割合が具体的に記載され、樹脂組成物に添加される光重合開始剤等の添加剤についても具体的に記載されている。
また、[0123]~[0148]には、艶消物品の製造方法に関し、上記の樹脂及びシワ形成安定剤を含む艶消層形成用の樹脂組成物の層を、少なくとも100nm以上380nm以下の波長光で照射して艶消層を形成する工程を備える製造方法が記載されており、[0124]~[0130]には、当該工程により艶消層の少なくとも一方の表面においてシワが形成し、艶消効果及びしっとりした触感が発現する機構について、「紫外線のエネルギーが表面部分のみに浸透し、それより下層にはエネルギーが到達しないことにより、樹脂組成物の表面部分だけが硬化をはじめる。そのため、表面だけが硬化収縮を生じることでシワの形成が安定し、樹脂組成物表層は硬化物となり、艶消層を構成するものとなる。そして、かかる後、硬化の進行が遅い表面近傍部分から深さ方向に離れた深奥部分への硬化が進み、樹脂組成物の層は硬化物となり、もって樹脂組成物の全厚さにわたり硬化し、かつ表面に光拡散効果を発現し、しっとりした触感を発現するシワを有する艶消層を構成するものとなる。」こと、及び「本開示の艶消物品がシワを安定的に有することで艶消効果及びしっとりした触感を発現するには、シワ形成安定剤が含まれることが必要不可欠である。」ことが記載され、[0134]には、「既述の表面部分と表面から深さ方向に離れた深奥部分の硬化の進行度合いの違いによるシワの形成を安定させ、かつ深奥部分への硬化の進行を促進させるため、例えば380nmを超える波長光、好ましくは385nm以上400nm以下程度の波長光で予め照射して艶消層形成用の樹脂組成物を全体的に予備硬化させた後に、100nm以上380nm以下の波長光で照射してもよいし、また100nm以上380nm以下の波長光での照射後に、樹脂組成物を更に硬化させるために後硬化を行ってもよい。」と記載されている。
さらに、[0069]~[0085]には、シワの発現により、特定の数値範囲内にあるSsk、好ましくはSsk及びSku、さらにその他のRsm、Rz、Raを有する表面形状を有するものものとなるため、「シワ形成安定剤により形成が安定し、安定的に艶消効果を発現し、かつしっとりした触感をも発現することとなる」こと、及びシワの具体的な形状が記載されている。
これらの記載に接した当業者は、「従来電離放射線硬化性樹脂として慣用されている重合性モノマー、重合性オリゴマー」の中から適宜選択した樹脂とシワ形成安定剤とを含有する樹脂組成物によって層を形成し、必要に応じて予備硬化を行った後、「100nm以上380nm以下の波長光で照射する」工程を行うことにより、「紫外線のエネルギーが表面部分のみに浸透し、それより下層にはエネルギーが到達しないことにより、樹脂組成物の表面部分だけが硬化をはじめる。そのため、表面だけが硬化収縮を生じることでシワの形成が安定し、樹脂組成物表層は硬化物となり、艶消層を構成するものとなる。」という共通の機序により「シワの発現」が起こり、本件発明1に特定されるSsk、Sku及びRaを有する表面形状を有する艶消層を製造することができると理解することができる。
そうすると、当業者は、実施例1及び2における「多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(4官能、平均分子量:1800)」及び「多官能アクリレートモノマー(2官能、分子量:400)」という記載が、「従来電離放射線硬化性樹脂として慣用されている重合性モノマー、重合性オリゴマー」を特定したものであり、それらとシワ形成安定剤等を含有する樹脂組成物を用いることにより、所定の表面形状を有する艶消層を製造することができると理解することができるから、本件明細書における実施例の記載が、「本件発明1~9を実施するために採用すべき具体的な樹脂を特定することができない」ものであるとはいえない。
イ 製造方法について
(ア)比較例6の製造方法について
実施例1の製造方法と比較例6の製造方法は、樹脂材料として、実施例1が「多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(4官能、平均分子量:1800)」を用いるのに対して、比較例6が「多官能ウレタンアクリレートオリゴマー1(4官能、平均分子量:1800)」を用いる点で相違しており、アクリル酸エステルはメタクリル酸エステル系モノマーに比べ重合速度が速いという技術常識(もし必要であれば、蒲池幹治、遠藤剛監修,「ラジカル重合ハンドブック-基礎から新展開まで-」,初版第1刷,株式会社エヌ・ティー・エス,1999年8月10日,p.565の「1.はじめに」を参照。)に鑑みれば、当業者は、実施例1と比較例6についての発明の詳細な説明の記載は、「従来電離放射線硬化性樹脂として慣用されている重合性モノマー、重合性オリゴマー」の選択により艶消層の表面形状を調整し得ることを示すものと理解することができるから、当該記載は「本件発明を実施するための具体的な製造方法が不明である」ことの根拠にはならない。実施例1の製造方法と「多官能ウレタンアクリレートオリゴマー:90質量部、単官能アクリレートモノマー:10質量部」を用いる点のみで相違している実施例2の製造方法についても同様のことがいえる。
(イ)比較例3の製造方法について
また、実施例1の製造方法と比較例3の製造方法とは、比較例3が、エキシマ光照射に先立つ「LEDから構成されるUV照射装置を用いて紫外線を照射し(波長:395nm、紫外線量:6W/cm2)」との工程を欠く点で相違しているところ、「エキシマ光照射に先立ってUV照射装置により紫外線を照射する」工程を欠く比較例3が「しっとりした触感がなく、むしろざらざらした触感であった」([0185])ことについては、当業者は、[0125]~[0130]におけるしっとりした触感が発現する機構の記載及び[0134]における「既述の表面部分と表面から深さ方向に離れた深奥部分の硬化の進行度合いの違いによるシワの形成を安定させ、かつ深奥部分への硬化の進行を促進させるため、例えば380nmを超える波長光、好ましくは385nm以上400nm以下程度の波長光で予め照射して艶消層形成用の樹脂組成物を全体的に予備硬化させた後に、100nm以上380nm以下の波長光で照射してもよい」との記載を裏付けるものであると理解することができるから、上記「エキシマ光照射に先立ってUV照射装置により紫外線を照射する」工程の有無によって「スキューネス、クルトシス、及びRaのパラメータについて、本件発明1に規定する所望のパラメータ値が得られることにはならない」とする申立人の主張は、本件明細書の記載に基づかないものであり、失当である。なお、実施例1と比較例3とは、実施例1が「多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(4官能、平均分子量:1800)」を用いるのに対して、比較例3が「多官能ウレタンアクリレートオリゴマー(4官能、平均分子量:1800)」を用いる点でも相違するから、「艶消層を構成する樹脂材料は、実施例1と比較例3とで違いがない」との申立人の主張も、本件明細書の記載に基づかないものである。
よって、実施例1と比較例3についての発明の詳細な説明の記載は、「本件発明を実施するための具体的な製造方法が不明である」ことの根拠にはならない。実施例2についても同様のことがいえる。
(5)理由2(実施可能要件違反)についてのまとめ
以上のことから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は同号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、理由2(実施可能要件違反)により本件発明1~9についての特許を取り消すことはできない。
3.理由3(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の課題について
本件明細書の[0008]等の記載から見て、本件発明1~9の課題は「優れた艶消効果の視認性及び質感を有し、かつしっとりした触感に優れる艶消物品を提供すること」にあるものと認められる。
(3)本件明細書の記載について
本件明細書には、上記2.(2)に記載した事項が記載されている。
(4)サポート要件についての判断
本件明細書の[0017]~[0021]及び図1には、Ssk(スキューネス)について、「平均面からの高さ分布の偏りの度合いを示す指標」であり、「Sskが0未満となると平均面に対して表面形状が上側・・・に偏っていて、凸部の頂部近傍が鈍く太くなる傾向にあると把握できる」こと、及び「0.00未満であるということは、・・・高さに対する幅が広く、アスペクト比が低めである断面形状が矩形(台形)に近い形状の凸部が多く存在し、当該凸部が密接して分布するような形状を有しているといえ」、「表面形状がこのような形状を有することにより、指の腹で触れた際に接触面積が多いことから、ひっかかりを感じることとなり、これが湿り気のある滑らかな面を触れた際に感じる触感につながるものと考えられる。また、そのような凸部が存在することで、相対的に凸部と凸部との間に凹部を有することとなるため、艶消効果も得られているものと考えられる」ことが記載されており、[0022]~[0024]及び図2には、Sku(クルトシス)について、「平均面からの高さ分布の尖りの度合いを示す指標」であり、「Skuが3を超えると高さ分布が尖った形状を有・・・する傾向にあると把握できる」こと、「3.00以上であるということは、・・・平均高さ前後の高さの部分が最も多く、平均高さよりも高さが大きく突出する部分及び平均高さより高さが大きく下落する部分ともに少ないような高さ分布」となり、「高さに対する幅が広い低アスペクト比の形状となる凸部の領域上において先端形状の突起部及び底部がつぼまった(鋭角な)凹陥部が少数で散在することとなる。そのため、指の腹で触れた際の接触面積が単純な平面(鏡面)のように全面に広域に広がることがない。また、散在する突起部及び凹陥部によって適度に分断されて小さくなることにより、指の腹のひっかかり具合が適度な範囲になる。その結果、しっとりした触感が向上し、また艶消効果も向上する」ことが記載されている。
また、[0026]には、「好ましくは特定の数値範囲内のSsk(スキューネス)及びSku(クルトシス)等を有する」ことにより、「しっとりとした感触とともに艶消効果が向上することとなる。」と記載されている。
さらに、[0166]~[0187]には実施例及び比較例が記載されており、Sskが-1.26~-0.50、Skuが4.95~3.17である実施例1及び2は「60°グロス値」が1.5~1.6であり、「質感(面状態の均一性)」の評価がA(18人以上が、面状態が均一であり、艶消効果の視認性が高いと評価した。)であり、「しっとりした触感」の評価がA(18人以上が、基準に近い触感であり、しっとりした触感であると評価した。)であったことから、「艶消効果の視認性に極めて優れた物品であり、質感にも優れるものであることが確認された、また、しっとりした触感にも優れたものであることも確認された。」([0182])と記載されているのに対し、シワ形成安定剤及び艶消剤を含まない比較例1並びに艶消剤を含む比較例2は「いずれもしっとりした触感に乏しく、むしろざらざらした触感となった」こと、及び「比較例1・・・その表面にはシワが若干発生しており、部分的に実施例と同様のシワを有する領域はあるものの、シワの形成が不安定であり(均一でなく)、シワがない領域と混在していることが分かる。また、比較例2・・・実施例の艶消物品のようなシワは確認されず、艶消剤の輪郭形状に対応した凸形状が確認されており、面状態が不安定であり(均一でなく)、質感に優れるものとはいえないものであった。」([0182]~[0183])こと、並びに、Sskが[0018]に記載された「0.00未満」という好ましい範囲にはない比較例3~11は、いずれも「艶消効果の視認性に極めて優れた物品であり、質感にも優れるものであることが確認された。」が、「しっとりした触感がなく、むしろざらざらした感触であった。」([0185])又は「しっとりした触感がなく、むしろさらさらした感触であった。」([0187])と記載されている。
以上の記載に接した当業者は、上記[0017]~[0026]に記載されたSsk及びSkuの数値範囲と艶消効果及び触感との関係が、Ssk及びSkuの定義式に照らして技術的に妥当な説明になっており、実施例及び比較例によって裏付けられてもいることを理解することができ、したがって、「表面の少なくとも一部に、Sskが0.00未満であり、かつSkuが3.00以上である表面形状を有する艶消し物品」は、「優れた艶消効果の視認性及び質感を有し、かつしっとりした触感に優れる艶消物品を提供する」という課題を解決し得るものと理解することができる。
そして、本件発明1は、当業者が発明の課題を解決できると認識することができる上記艶消物品を更に限定した発明であるから、当業者が発明の課題を解決することができると認識することができるものといえる。また、本件発明2~9は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し特定するものであって、本件発明1の発明特定事項を全て備え、更に限定した発明であるから、同様の理由により、当業者が発明の課題を解決することができると認識することができるものといえる。
(5)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書の29~30頁において上記第3 1.(3)のように主張している。
しかし、申立理由2で検討したことを踏まえると、実施例と比較例との間で「艶消層を構成する樹脂材料及び添加剤に特段の違いがなく、しかも艶消層の製造方法にも特段の違いがない」とはいえず、発明の詳細な説明の記載が本件発明1~9を実現するための具体的な技術手段を欠いているともいえないから、これらを理由として本件発明1~9がサポート要件を満たしていないとする申立人の主張は根拠がない。
さらに、スキューネスSsk、クルトシスSku、算術平均粗さRaは、ISOやJISに定義が規定されているから特殊なパラメータとまではいえず、本件特許の発明の詳細な説明には、それらの数値範囲が特定の範囲にあることと本件発明の課題解決との関係を理解することができる記載もあるから、当業者は請求項に係る発明の全範囲において、発明の課題を解決することができると理解することができる。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
(6)理由3(サポート要件違反)についてのまとめ
以上のことから、特許請求の範囲の記載は明細書のサポート要件に適合するものといえるので、本件発明1~9はいずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、理由3(サポート要件違反)により本件発明1~9についての特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本件発明1~9についての特許は、上記のいずれの特許異議申立理由によっても取り消すことはできない。
また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700670