特許異議申立
2024-701048
シリカ粉末
- 審判番号
- 2024-701048
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-137030
- 登録番号
- 7473726
- 請求日
- 2024年10月23日
- 審決日
- 2025年11月14日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】デンカ株式会社
- 【権利者代理人】速水 進治
- 【異議申立人】田中 都子
- 審判長/審判官
- 審判長 深草 祐一
- 審判官 河本 充雄
- 審判官 塩谷 領大
- 分類
- P1651.113-YAA(C01B) / P1651.121-YAA(C01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7473726号発明「シリカ粉末」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7473726号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3、6について訂正することを認める。
特許第7473726号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7473726号の請求項1~9に係る特許(以下、「本件特許」ともいう。)についての出願は、令和5年8月25日の出願あって、令和6年4月15日にその特許権の設定登録がされ、同年同月23日に特許掲載公報が発行された。
本件特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和6年10月23日 :特許異議申立人 田中 都子(以下、「申立人」という。)による請求項1~9に係る特許に対する特許異議の申立て
令和7年 1月10日付け:取消理由通知
同年 3月14日 :特許権者による意見書、訂正請求書の提出
同年 5月20日付け:申立人への審尋
同年 7月22日 :申立人による回答書の提出
同年 8月20日 :申立人による手続補正書(方式)の提出
第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
令和7年3月14日にされた訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すため当審が付与した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項6に
「累積体積が10%、50%、100%となるそれぞれの点の粒子径をD10、D50、D90としたとき、(D90-D10)/D50が10以下である」と記載されているのを、
「累積体積が10%、50%、90%となるそれぞれの点の粒子径をD10、D50、D90としたとき、(D90-D10)/D50が10以下である」に訂正する。
(2)訂正事項2
本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0009】に「累積体積が10%、50%、100%となるそれぞれの点の粒子径をD10、D50、D90としたとき、(D90-D10)/D50が10以下である」と記載されているのを、
「累積体積が10%、50%、90%となるそれぞれの点の粒子径をD10、D50、D90としたとき、(D90-D10)/D50が10以下である」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「Dm/Sが0.6以上である、」と記載されているのを、
「Dm/Sが0.6以上である、シリカ粉末。」に訂正する。
(4)訂正事項4
本件明細書の【0009】に
「Dm/Sが0.6以上である、」と記載されているのを、
「Dm/Sが0.6以上である、シリカ粉末。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
本件明細書の【0032】の「シリカ粒子の体積頻度粒度分布における小粒子側からの累積体積が10%、50%、90%となるそれぞれの点の粒子径をD10、D50、D90とする。」、同【0034】の「(D90-D10)/D50の上限が、例えば、10以下、好ましくは5以下、より好ましくは3.0以下である。」との記載から、訂正前の「累積体積が10%、50%、100%となるそれぞれの点の粒子径をD10、D50、D90としたとき、(D90-D10)/D50が10以下である」の「100%」は、「90%」の誤記であるといえるから、訂正事項1による訂正は、誤記の訂正を目的とするものである。
そして、訂正事項1による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の【0032】、【0034】の記載に基づくものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1による訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正の内容は、訂正事項1による訂正の内容と同じであるから、訂正事項2による訂正は、訂正事項1による訂正と同様に、誤記の訂正を目的とし、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正前の請求項3「Dm/Sが0.6以上である、」は、「Dm/Sが0.6以上である、シリカ粉末。」の明らかな誤記であるから、訂正事項3による訂正は、誤記の訂正を目的とし、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4による訂正の内容は、訂正事項3による訂正の内容と同じであるから、訂正事項3による訂正と同様に、誤記の訂正を目的とし、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 まとめ
本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3、6について訂正を認める。
第3 本件発明
本件訂正の請求により訂正された請求項1~9の特許に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明9」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(当審注:請求項1の分説の符号A~Mは、当審で付したものであり、これらの構成を、以下、「構成A」~「構成M」ともいう。)。
「【請求項1】
A 下記の手順に従って測定される樹脂シートサンプルの40GHz時の誘電正接が2.0×10-3以下であるシリカ粉末であって、
B 湿式でのレーザー回折散乱法で測定される粒子径頻度分布における最大ピークの頻度が10%以下、
C カールフィッシャー法により測定される、200℃になるまでに発生した水分量が500ppm以下、
D 窒素ガス吸着によるBET1点法により測定される比表面積が0.2m2/g以上5.4m2/g以下、および、
E 湿式でのレーザー回折散乱法で測定される体積頻度粒度分布における小粒子側からの累積体積が90%となる点の粒子径をD90としたとき、D90が3.0μm以上75μm以下である、
シリカ粉末。
(手順)
当該シリカ粉末を充填量が40体積%となるようにポリエチレン粉末と混合し、得られた混合粉末を用いて前記樹脂シートサンプルを成形する。得られた前記樹脂シートサンプルを用いて、共振法により、40GHz時の誘電正接を測定する。
【請求項2】
請求項1に記載のシリカ粉末であって、
F 湿式でのレーザー回折散乱法で測定される粒子径頻度分布における最頻径が2.5μm以上40μm以下である、シリカ粉末。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシリカ粉末であって、
G 湿式でのレーザー回折散乱法で測定される粒子径頻度分布における最頻径の値をDm(μm)、前記比表面積の値をS(m2/g)としたとき、Dm/Sが0.6以上である、シリカ粉末。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のシリカ粉末であって、
H 湿式でのレーザー回折散乱法で測定される粒子径頻度分布における15.7μm以上の粒子径の粒子の頻度が50%以下である、シリカ粉末。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のシリカ粉末であって、
I 湿式でのレーザー回折散乱法で測定される粒子径頻度分布における0.5μm未満の粒子径の粒子の頻度が15%以下である、シリカ粉末。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のシリカ粉末であって、
J 湿式でのレーザー回折散乱法で測定される体積頻度粒度分布における小粒子側からの累積体積が10%、50%、90%となるそれぞれの点の粒子径をD10、D50、D90としたとき、(D90-D10)/D50が10以下である、シリカ粉末。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のシリカ粉末であって、
K 平均球形度が0.85以上である、シリカ粉末。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のシリカ粉末であって、
L 非晶質率が95.0%以上である、シリカ粉末。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のシリカ粉末であって、
M ウラン元素およびトリウム元素の含有率が20ppb以下である、シリカ粉末。」
第4 申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証~甲第6号証(以下、「甲1」~「甲6」という。)を提出し、以下の理由により、請求項1~9に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由1(新規性)
請求項1~9に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2 申立理由2(進歩性)
請求項1~9に係る発明は、甲1~甲3に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
[証拠方法]
甲1:中国特許出願公開第107828358号明細書
甲2:国際公開第2023/112281号
甲3:特開2017-193690号公報
甲4:実験成績証明書、申立人、令和6年10月18日
甲5:サンプル送付案内、株式会社アドマテックス、令和6年6月4日
甲6:誘電率測定結果、株式会社エーイーティー、2024年10月9日
第5 取消理由の概要
当審において、令和7年1月10日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1 取消理由1(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由2(新規性)
請求項1~9に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件請求項1~9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
第6 取消理由1(明確性)について
1 訂正前の請求項6に記載の「累積体積が10%、50%、90%となるそれぞれの点の粒子径をD10、D50、D100としたとき」の「D100」は、「D90」の誤記であったところ、本件訂正により、「D90」に訂正されたから、取消理由1は解消した。
2 まとめ
以上によれば、取消理由1(明確性)には理由がない。
第7 取消理由2(新規性)、申立理由1(新規性)について
1 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明
(1)甲1(中国特許出願公開第107828358号明細書)
ア 甲1には、以下の記載がある。なお、甲1の記載は、当審の訳文で示す。
「[0023] 実施例1
1)水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂YS-GF015(南京遠州製薬)310g、中空ガラスビーズ8054(米国ポッター)120g、球状シリカ微粉末FE920A-SQ(日本アドマテックス)240g、テトラヒドロフタル酸メチルジグリシジルエステルXY-813(安徽信源)50g、コアシェルゴムエポキシ樹脂BPF-307(日本触媒)90g、シランカップリング剤KH-560(天津試薬廠)3g、消泡剤AFCONA-2038(マレーシアEfkona)3g、黒色ペースト(アメリカPENNCOLOR)4gを反応釜に入れ、回転数800rpm、3時間撹拌し、よく混合する;
・・・
[0027] 実施例5
1)多環芳香族エポキシ樹脂HP-4032D(日本DIC)180g、ビフェニル型エポキシ樹脂YL6121H(日本三菱)140g、中空ガラスビーズG400(3M)50g、球状シリカ微粉末FE920A-SQ(日本アドマテックス)310g、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルXY-630(安徽信源)40gを秤量する。コアシェルゴムエポキシ樹脂BPA-328(日本触媒)70g、シランカップリング剤KH-560(天津試薬廠)3g、消泡剤AFCONA-2270(マレーシアEfkona)3g、黒色ペースト(アメリカPENNCOLOR)4g、反応釜に入れ、回転速度800rpm、2時間撹拌し、よく混合する;・・・」
イ 甲1に記載された発明
(ア)上記アには、「球状シリカ微粉末FE920A-SQ(日本アドマテックス)」、すなわち、アドマテックス社製FE920A-SQの球状シリカ微粉末が記載されている。
(イ)したがって、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「アドマテックス社製FE920A-SQの球状シリカ微粉末。」
ウ 申立人の主張について
(ア)特許異議申立書の主張について
a 申立人は、特許異議申立書の6ページ下から8行~9ページ下から4行において、甲1の【0001】、【0004】、【請求項1】、【請求項3】、【0010】、実施例1及び5には、アンダーフィル接着剤の誘電率を低下するために、株式会社アドマテックス製のFE920A-SQ(サンプル4)である甲1発明を採用することに加えて、甲1発明について平均粒径を0.1μm~10μmの範囲で変更することができることが開示されているといえ、ここで平均粒径を変更できるということは、粒径に関わる他のパラメータであるD10、D90などの粒度分布そのものについても変更できることを意味し、更には粒径が変わることで比表面積も変更できることを意味すし、FE920A-SQについて、株式会社アドマテックスよりサンプルとして取得し、実験成績証明書(甲4)にて説明している具体的な実験方法で、本件明細書に基づいて各値を算出した結果、以下の表Aに示すとおり、本件発明の構成要素A~Mを充足するから、甲1発明には、本件発明の構成A~Mが開示されており、また、甲1の記載を参照すれば、甲1発明について、誘電正接の値を小さくするなどの電気的特性を向上する目的のために、平均粒径、更には粒度分布や比表面積についても変更できることが開示されている旨主張している。
b しかし、甲1発明の「アドマテックス社製FE920A-SQ」は、甲1の出願日である平成29年(2017年)10月12日より前のものであるのに対し、甲4(以下の(2)参照)のFE920A-SQ(サンプル4)は、甲5(以下の(3)参照)によれば、2024年6月4日に株式会社アドマテックスから取り寄せたものである。
そうすると、甲1発明の「アドマテックス社製FE920A-SQの球状シリカ微粉末」は、平成29年(2017年)10月12日より前に製造されたものであるのに対し、甲4のFE920A-SQ(サンプル4)は、2024年頃に製造されたものであるから、両者の製造時期は約7年異なっているといえる。
c ここで、特許権者が提出した乙第1号証(再公表特許WO2017/014067号。以下、「乙1」という。)には、以下の記載がある。
「【0049】
【表2】
[図:0001432052000001.jpg]
・・・
【0054】
試料No.8は、(株)アドマテックス製シリカビーズ(FE920A-SQ)を用いた。
・・・
【0063】
なお、粒度分布および平均粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製 SALD-7500)を使用して測定した。
・・・
【0066】
また、比表面積は、比表面積測定装置((株)マウンテック製 Macsorb HM model-1201)を使用して測定した。」
d 上記cの記載によれば、乙1には、(株)アドマテックス製シリカビーズ(FE920A-SQ)は、レーザー回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製 SALD-7500)を使用して測定した平均粒子径D50が6.16μmであり、比表面積測定装置((株)マウンテック製 Macsorb HM model-1201)を使用して測定した比表面積が1.83m2/gであることが記載されている。
また、乙1の優先日は平成27年(2015年)7月23日であるから、乙1の(株)アドマテックス製シリカビーズ(FE920A-SQ)は、平成27年(2015年)7月23日より前に製造されたものであるのに対し、上記bで検討したとおり、甲4のFE920A-SQ(サンプル4)は、2024年頃に製造されたものである。
そうすると、乙1の(株)アドマテックス製シリカビーズ(FE920A-SQ)と、甲4のFE920A-SQ(サンプル4)とは、製造時期が約9年異なっているといえる。
e 一方、甲5には、株式会社アドマテックスの商品名が「FE920A-SQ」について、ロット番号が「TGF243-3」であり、平均粒径が6.3μm、比表面積が2.3m2/gであることが記載されている。
そして、甲4には、甲5における「FE920A-SQ」(サンプル4)は、マルバーン・パナリティカル社製のレーザ回折式粒子サイズ分析装置(マスターサイザー3000)で測定した平均粒径が5.57μm、マウンテック社のマックソープで測定した比表面積が2.31m2/gであることが記載されている。
f 上記d及びeの各FE920A-SQの平均粒径及び比表面積について以下の表Bに示す。
表B
[図:0001432052000002.jpg]
g 上記表Bにおける、甲4、乙1に記載されたFE920A-SQの平均粒子径及び比表面積の値を比較すると、甲4の値と、乙1の値とは、いずれも大きく相違しているから、同じ「FE920A-SQ」という同じ商品名の製品であっても、平均粒径及び比表面積は、製造時期によって相違することがあり得るといえる。
そうすると、本件発明1で特定されている「湿式でのレーザー回折散乱法で測定される粒子径頻度分布における最大ピークの頻度」、「カールフィッシャー法により測定される、200℃になるまでに発生した水分量」、「窒素ガス吸着によるBET1点法により測定される比表面積」、「湿式でのレーザー回折散乱法で測定される体積頻度粒度分布における小粒子側からの累積体積が90%となる点の粒子径をD90としたとき」の「D90」の各特性(以下、まとめて「本件各特性」という。)についても、製造時期が約7年異なっている、甲1発明の「アドマテックス社製FE920A-SQ」と、甲4のFE920A-SQ(サンプル4)とは、いずれも異なることがあり得るといえる。
したがって、甲1発明の「アドマテックス社製FE920A-SQ」の本件各特性は、甲4の上記表Aに記載されているFE920A-SQ(サンプル4)の本件各特性と同じ特性を有しているとはいえない。
また、甲1発明の「アドマテックス社製FE920A-SQ」の本件各特性が、甲4の上記表Aに記載されているFE920A-SQ(サンプル4)の本件各特性と同じであることを認めるに足りる証拠はない。
h 以上から、甲4の測定結果を根拠として、甲1発明が、本件発明1の構成A~Eを備えているとはいえない。
したがって、申立人の上記aの主張は採用できない。
(イ)回答書の主張について
a 申立人は、回答書に対する手続補正書(方式)の3ページ下から9行~4ページ下から7行において、以下のとおり主張している。
「一般的に化学材料を上市する企業は、同一の型番を付した製品は同一の性状をもつものであることを保証しています。ここで同一の性状とはばらつきを考慮して一定の幅が設定されることが一般的です。
更に、同一の性状をもつ製品であっても別個の原料や製造方法を採用した場合、原料や製造方法が異なることに由来する予期できない製品の相違点が生じうるため別個の型番を付することが当業者の常識であると考えます。
なお、特許権者(デンカ株式会社)は、上記意見書の(6.2.1)の3段落目において「シリカのような工業製品は、製造時の技術トレンド等を踏まえて特性の調整が行われることが通常であるところ、このような長期に渡る期間、FE920A-SQが同一の粉体特性を維持してきたと認めるに足る証拠は提出されていない。」と主張していますが、異議申立人の委託元の企業を含め、製品に責任をもつ企業においては同一の型番を付した製品は可能な限り同一な性状をもつように調製し、性状が異なるようになるような微調整などを行う場合には型番を変更する対応を行うことが一般的であると考えます。
つまり、一般的な企業は、同一の型番を付した場合には、各性状についてはばらつきを考慮した一定の幅を持たせたもの、製造方法・原料などについては完全に同一のものを提供するものと考えます。
ここで、甲4、甲5、乙1に記載の「FE920A-SQ」について平均粒径や比表面積の値が異なっている原因については、製造メーカーである株式会社アドマテックスが設定した各性状のばらつきにあるのか、甲4、甲5、乙1における測定方法の問題にあるのかは分かりません。
しかしながら、型番が同一で有る限り同一の原料・製造方法により得られたものであり、甲第1号証が開示されたときから現在に至るまで同一の製造方法・原料を用いて、一定の幅をもった同一の性状になるように製造されたものであることが合理的に推察できます。
つまり、今回甲4~甲6にて評価した「FE920A-SQ」は甲第1号証が開示された時点で上市されている製品であり、製品のばらつきを考慮した上で、甲第1号証が開示された時点で存在しうる「FE920A-SQ」であると考えます。
このように、甲4~甲6に記載の発明(FE920A-SQ)は、甲第1号証に記載の発明(FE920A-SQ)と同一であると言えます。」
b しかし、申立人の上記aの主張は、いずれも申立人の考えや意見をいうものであって、証拠に基づくものではない。
また、甲5に記載されているFE920A-SQの「平均粒径:1.9μm」及び「比表面積:2.3m2/g」が、製造者である株式会社アドマテックスが保証する特性値であるとしても、製造時期が異なるFE920A-SQについて、本件各特性が全て同じであることを認めるに足りる証拠はない。
したがって、申立人の上記aの主張は採用できない。
(2)甲4(実験成績証明書、令和6年10月18日、申立人)
甲4には、以下の記載がある。
「
[図:0001432052000003.jpg]
[図:0001432052000004.jpg]
[図:0001432052000005.jpg]
[図:0001432052000006.jpg]
[図:0001432052000007.jpg]
」
(3)甲5(サンプル送付案内、令和6年6月4日、申立人)
甲5には、以下の記載がある。
「
[図:0001432052000008.jpg]
」
(4)甲6(誘電率測定結果、株式会社エーイーティー、2024年10月9日)
甲6には、以下の記載がある。
「
[図:0001432052000009.jpg]
[図:0001432052000010.jpg]
[図:0001432052000011.jpg]
[図:0001432052000012.jpg]
[図:0001432052000013.jpg]
[図:0001432052000014.jpg]
[図:0001432052000015.jpg]
[図:0001432052000016.jpg]
[図:0001432052000017.jpg]
」
2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「球状シリカ微粉末」は、本件発明1の「シリカ粉末」に相当する。
イ 以上から、本件発明1と甲1発明との一致点、相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「シリカ粉末。」
<相違点>
相違点1:本件発明1は、「本件手順に従って測定される樹脂シートサンプルの40GHz時の誘電正接が2.0×10-3以下である」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
相違点2:本件発明1は、「湿式でのレーザー回折散乱法で測定される粒子径頻度分布における最大ピークの頻度が10%以下、
カールフィッシャー法により測定される、200℃になるまでに発生した水分量が500ppm以下、
窒素ガス吸着によるBET1点法により測定される比表面積が0.2m2/g以上5.4m2/g以下、および、
湿式でのレーザー回折散乱法で測定される体積頻度粒度分布における小粒子側からの累積体積が90%となる点の粒子径をD90としたとき、D90が3.0μm以上75μm以下である」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
(2)相違点についての判断
事案に鑑み相違点2から検討する。
上記1(1)ウ(ア)b~hで検討したとおり、甲4の測定結果を根拠として、甲1発明が、本件発明1の構成A~Eを備えているとはいえないから、甲1発明は、相違点2に係る本件発明1の構成を備えているとはいえない。
また、甲1発明が、相違点2に係る本件発明1の構成を備えていることが、本件特許の出願時において技術常識であるともいえない。
したがって、相違点2は実質的な相違点である。
(3)小括
以上から、相違点1について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではない。
3 本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1の全ての構成を有するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明ではない。
4 まとめ
以上によれば、取消理由2(新規性)、申立理由1(新規性)には理由がない。
第8 申立理由2(進歩性)
1 甲号証の記載
(1)甲2(国際公開第2023/112281号)
甲2には、以下の記載がある。
「[0015] 本実施形態の電子材料用フィラーは、D50が0.2μm以上7.0μm以下である。D50は、LA750 500モード(堀場製作所)により測定した値である。D50としては、下限値が0.3μm、0.5μm、1.0μmであることが好ましく、上限値が5.0μm、3.5μm、2.5μmであることが好ましい。これらの下限値及び上限値は任意に組み合わせ可能である。粒径はレーザー散乱法にて測定できる。シリカ粒子材料は、以下の要件1及び2のうちの少なくとも一方を満たし、好ましくは要件1及び2の双方を満たす。」
「[0018] 比表面積係数が、1より大きい場合には、小粒径の粒子を除去することで1に近づけることができ、1より小さい場合には、粗大粒子を除去することで1に近づけることができる。」
「[0056](試料の調製)
・試験例1、10(D10:1.7μm、D50:2.5μm)
VMC法により製造したシリカを原料シリカ粒子材料とした(原料シリカ粒子材料調製工程)。原料シリカ粒子材料は、D50が1.9μm、D10が1.0μmであった。この原料シリカ粒子材料を気流分級により粒径が大きい分画を分級した。(分級工程)。得られた粒径が大きい分画に含まれるシリカ粒子材料に対してシラン化合物としてのビニルトリメトキシシランを反応させた(第1表面処理工程)。ヘキサメチルジシラザンを反応させて本試験例の試験試料とした(第2表面処理工程)。このシリカ粒子材料の比表面積は、1.1m2/gであった。表面処理工程を行わないものを試験例10の試験試料とした。」
「[請求項1] D50が0.2μm以上7.0μm以下、
(BET比表面積)/(D50から算出される理論比表面積)が0.85以上1.2以下であり、且つ、D10/D50が0.55以上0.75以下であり、
BET比表面積に基づく単位表面積(1m2)当たりの25℃から200℃まで加熱したときに発生する水分量が90ppm以下、
BET比表面積に基づく単位表面積(1m2)当たりの200℃から550°まで加熱したときに発生する水分量が150ppm以下である、
乾式法にて製造されたシリカ粒子材料を有する電子材料用フィラー。」
(2)甲3(特開2017-193690号公報)
甲3には、以下の記載がある。
「【0201】
表1の成分について以下に示す。
・・・
[無機充填材]
・SO-C2:株式会社アドマテックス製のシリカ「SO-C2」(商品名、平均粒径;0.5μm)の表面をアミノシランカップリング剤で処理し、さらに、MEK溶剤中に分散させたシリカ(固形分濃度70質量%)
・SO-C6:株式会社アドマテックス製のシリカ「SO-C6」(商品名、平均粒径;2.2μm)の表面をアミノシランカップリング剤で処理し、さらに、MEK溶剤中に分散させたシリカ(固形分濃度70質量%)
・・・」
2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明との一致点、相違点は、上記第7 2(1)イに示したとおりであり、相違点を再掲すると以下のとおりである。
<相違点>
相違点1:本件発明1は、「本件手順に従って測定される樹脂シートサンプルの40GHz時の誘電正接が2.0×10-3以下である」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
相違点2:本件発明1は、「湿式でのレーザー回折散乱法で測定される粒子径頻度分布における最大ピークの頻度が10%以下、
カールフィッシャー法により測定される、200℃になるまでに発生した水分量が500ppm以下、
窒素ガス吸着によるBET1点法により測定される比表面積が0.2m2/g以上5.4m2/g以下、および、
湿式でのレーザー回折散乱法で測定される体積頻度粒度分布における小粒子側からの累積体積が90%となる点の粒子径をD90としたとき、D90が3.0μm以上75μm以下である」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
(2)相違点についての判断
事案に鑑み相違点2から検討する。
上記1(1)ウ(ア)b~hで検討したとおり、甲4の測定結果を根拠として、甲1発明が、本件発明1の構成A~Eを備えているとはいえないから、甲1発明は、相違点2に係る本件発明1の構成を備えているとはいえない。
また、甲2及び甲3には、相違点2に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明1は、甲1発明、甲2及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
3 本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1の全ての構成を有するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明、甲2及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
4 申立人の主張について
(1)申立人は、特許異議申立書の12ページ下から3行~13ページ11行において、甲1にはフィラーについて平均粒径を変更しても良いこと及び変化できる粒径の範囲、更にはそれに伴い粒度分布や比表面積が変更できることが記載され、また、甲2には誘電率や誘電正接の値を低くするために粒径が小さい粒子を除去することについての言及があり、そのために平均粒径などの粒度分布を変更することについての記載があるから、甲1発明について、甲2や甲3の記載を考慮すると、誘電正接の値などの電気的特性を向上するために粒度分布を変更する動機づけがあるといえ、粒度分布を変化させるということは平均粒径だけが変化するのではなく、D10、D90、D 100、最頻径なども変化すること、粒度分布が変化すれば比表面積も変化することは技術常識であるため、甲1発明について甲2や甲3の記載に基づいて粒度分布や比表面積の値を変化させることは当業者であれば当然に想到し得るものである旨主張している。
(2)しかし、甲2には、本件各特性について、相違点2に係る本件発明1の範囲とすることは記載されていないし、また、甲3に記載されているSO-C6の本件各特性についても、上記1(1)ウ(ア)b~hでの検討と同様に、相違点2に係る本件発明1の構成を備えているとはいえないから、甲1発明において、甲2及び甲3に記載された事項に基づいて、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得るものであるとはいえない。
したがって、申立人の上記(1)の主張は採用できない。
5 まとめ
以上によれば、申立理由2(進歩性)には理由がない。
第9 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-701048