特許異議申立
2024-701047
シリカ粉末
- 審判番号
- 2024-701047
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-137028
- 登録番号
- 7473725
- 請求日
- 2024年10月23日
- 審決日
- 2025年11月07日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】デンカ株式会社
- 【権利者代理人】速水 進治
- 【異議申立人】田中 都子
- 審判長/審判官
- 審判長 深草 祐一
- 審判官 河本 充雄
- 審判官 塩谷 領大
- 分類
- P1651.113-Y (C01B) / P1651.121-Y (C01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7473725号発明「シリカ粉末」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7473725号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7473725号の請求項1~8に係る特許(以下、「本件特許」ともいう。)についての出願は、令和5年8月25日の出願であって、令和6年4月15日にその特許権の設定登録がされ、同年同月23日に特許掲載公報が発行された。
本件特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和6年10月23日 :特許異議申立人 田中 都子(以下、「申立人」という。)による請求項1~8に係る特許に対する特許異議の申立て
令和7年 1月10日付け:取消理由通知
同年 3月14日 :特許権者による意見書の提出
同年 5月20日付け:申立人への審尋
同年 7月22日 :申立人による回答書の提出
同年 8月20日 :申立人による手続補正書(方式)の提出
第2 本件発明
本件特許の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明8」といい、まとめて、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである(当審注:請求項1の分説の符号A~Mは、当審で付したものであり、これらの構成を、以下、「構成A」~「構成M」ともいう。)
「【請求項1】
A 下記の手順に従って測定される樹脂シートサンプルの40GHz時の誘電正接が2.0×10-3以下であるシリカ粉末であって、
B 湿式でのレーザー回折散乱法で測定される体積頻度粒度分布における小粒子側からの累積体積が90%となる点の粒子径をDとしたとき、Dが3.0μm以上25.0μm以下、
C 湿式でのレーザー回折散乱法で測定される粒子径頻度分布における最大ピークの頻度が5.5%以上、
D 前記粒子径頻度分布における20.7μm以上の粒子径の粒子の頻度が6.0%以下、
E 窒素ガス吸着によるBET1点法により測定される比表面積が0.2m2/g以上5.0m2/g以下、および
F 前記粒子径頻度分布における最頻径の値をDm(μm)、前記比表面積の値をS(m2/g)としたとき、Dm/Sが1.50以上である、
シリカ粉末。
(手順)
当該シリカ粉末を充填量が40体積%となるようにポリエチレン粉末と混合し、得られた混合粉末を用いて前記樹脂シートサンプルを成形する。得られた前記樹脂シートサンプルを用いて、共振法により、40GHz時の誘電正接を測定する。
【請求項2】
請求項1に記載のシリカ粉末であって、
G 前記最頻径が1.0μm以上15.0μm以下である、シリカ粉末。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシリカ粉末であって、
H 前記粒子径頻度分布における2.01μm以下の粒子径の粒子の頻度が2.0%以下である、シリカ粉末。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のシリカ粉末であって、
I 湿式でのレーザー回折散乱法で測定される体積頻度粒度分布における小粒子側からの累積体積が10%、50%、100%となるそれぞれの点の粒子径をD10、D50、D100としたとき、(D100-D10)/D50が5.0以下である、シリカ粉末。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のシリカ粉末であって、
J カールフィッシャー法により測定される、200℃になるまでに発生した水分量が700ppm以下である、シリカ粉末。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のシリカ粉末であって、
K 平均球形度が0.85以上である、シリカ粉末。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のシリカ粉末であって、
L 非晶質率が95.0%以上である、シリカ粉末。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のシリカ粉末であって、
M ウラン元素およびトリウム元素の含有率が20ppb以下である、シリカ粉末。」
なお、請求項1の「以下の手順」である「(手順)
当該シリカ粉末を充填量が40体積%となるようにポリエチレン粉末と混合し、得られた混合粉末を用いて前記樹脂シートサンプルを成形する。得られた前記樹脂シートサンプルを用いて、共振法により、40GHz時の誘電正接を測定する。」を、以下、「本件手順」という。
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証~甲第6号証(以下、「甲1」~「甲6」という。)を提出し、以下の理由により、本件特許を取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由1-1(新規性)
本件発明1~8は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2 申立理由1-2(新規性)
本件発明1~8は、甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
3 申立理由2(進歩性)
本件発明1~7は、甲1及び甲2に記載された発明に基いて、本件発明8は、甲1、甲2及び甲3に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
[証拠方法]
甲1:特開2017-193690号公報
甲2:国際公開第2023/112281号
甲3:中国特許出願公開第107828358号明細書
甲4:実験成績証明書、申立人、令和6年10月18日
甲5:サンプル送付案内、株式会社アドマテックス、令和6年6月4日
甲6:誘電率測定結果、株式会社エーイーティー、2024年10月9日
第4 取消理由の概要
当審において、令和7年1月10日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1 取消理由1(新規性)
請求項1、2、4~8に係る発明は、甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2、4~8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
第5 取消理由1(新規性)、申立理由1-2(新規性)について
1 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明
(1)甲3(中国特許出願公開第107828358号明細書)
ア 甲3には、以下の記載がある。なお、甲3の記載は、当審の訳文で示す。
「[0023] 実施例1
1)水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂YS-GF015(南京遠州製薬)310g、中空ガラスビーズ8054(米国ポッター)120g、球状シリカ微粉末FE920A-SQ(日本アドマテックス)240g、テトラヒドロフタル酸メチルジグリシジルエステルXY-813(安徽信源)50g、コアシェルゴムエポキシ樹脂BPF-307(日本触媒)90g、シランカップリング剤KH-560(天津試薬廠)3g、消泡剤AFCONA-2038(マレーシアEfkona)3g、黒色ペースト(アメリカPENNCOLOR)4gを反応釜に入れ、回転数800rpm、3時間撹拌し、よく混合する;
・・・
[0027] 実施例5
1)多環芳香族エポキシ樹脂HP-4032D(日本DIC)180g、ビフェニル型エポキシ樹脂YL6121H(日本三菱)140g、中空ガラスビーズG400(3M)50g、球状シリカ微粉末FE920A-SQ(日本アドマテックス)310g、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルXY-630(安徽信源)40gを秤量する。コアシェルゴムエポキシ樹脂BPA-328(日本触媒)70g、シランカップリング剤KH-560(天津試薬廠)3g、消泡剤AFCONA-2270(マレーシアEfkona)3g、黒色ペースト(アメリカPENNCOLOR)4g、反応釜に入れ、回転速度800rpm、2時間撹拌し、よく混合する;・・・」
イ 甲3に記載された発明
(ア)上記アには、「球状シリカ微粉末FE920A-SQ(日本アドマテックス)」、すなわち、アドマテックス社製FE920A-SQの球状シリカ微粉末が記載されている。
(イ)したがって、甲3には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
「アドマテックス社製FE920A-SQの球状シリカ微粉末。」
ウ 申立人の主張について
(ア)特許異議申立書の主張について
a 申立人は、特許異議申立書の10ページ14行~11ページ7行において、甲3の【0001】、【0004】、【請求項1】、【請求項3】、【0010】、実施例1及び5には、アンダーフィル接着剤の誘電率を低下するために、株式会社アドマテックス製のFE920A-SQ(サンプル4)である甲3発明を採用することに加えて、甲3発明について平均粒径を0.1μm~10μmの範囲で変更することができることが開示されているといえ、サンプル4についてもサンプル1と同様に評価試験を行っており、その結果、以下の表Aに示すとおり、本件発明の構成A~G、I~Mを充足するから、甲3発明は、本件発明の構成A~G、I~Mを有しているといえると共に、誘電正接の値を小さくするために平均粒径を変更できることが開示されている旨主張している。
なお、上記サンプル1については、特許異議申立書の6ページ下から4行~9ページ4行において、甲1に開示されている株式会社アドマテックス製のSO-C6について、株式会社アドマテックスよりサンプルとして取得し、本件発明1~8と比較した結果を示す表Aでは、SO-C6はサンプル1と記載し、具体的な実験方法については実験成績証明書(甲4)にて説明しており、これらの値の算出方法については本件明細書に基づいて行ったことが記載されている。
表A
[図:0001430003000001.jpg]
b しかし、甲3発明の「アドマテックス社製FE920A-SQ」は、甲3の出願日である平成29年(2017年)10月12日より前のものであるのに対し、甲4(以下の(2)参照)のFE920A-SQ(サンプル4)は、甲5(以下の(3)参照)によれば、2024年6月4日に株式会社アドマテックスから取り寄せたものである。
そうすると、甲3発明の「アドマテックス社製FE920A-SQの球状シリカ微粉末」は、平成29年(2017年)10月12日より前に製造されたものであるのに対し、甲4のFE920A-SQ(サンプル4)は、2024年頃に製造されたものであるから、両者の製造時期は約7年異なっているといえる。
c ここで、特許権者が提出した乙第1号証(再公表特許WO2017/014067号。以下、「乙1」という。)には、以下の記載がある。
「【0049】
【表2】
[図:0001430003000002.jpg]
・・・
【0054】
試料No.8は、(株)アドマテックス製シリカビーズ(FE920A-SQ)を用いた。
・・・
【0063】
なお、粒度分布および平均粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製 SALD-7500)を使用して測定した。
・・・
【0066】
また、比表面積は、比表面積測定装置((株)マウンテック製 Macsorb HM model-1201)を使用して測定した。」
d 上記cの記載によれば、乙1には、(株)アドマテックス製シリカビーズ(FE920A-SQ)は、レーザー回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製 SALD-7500)を使用して測定した平均粒子径D50が6.16μmであり、比表面積測定装置((株)マウンテック製 Macsorb HM model-1201)を使用して測定した比表面積が1.83m2/gであることが記載されている。
また、乙1の優先日は平成27年(2015年)7月23日であるから、乙1の(株)アドマテックス製シリカビーズ(FE920A-SQ)は、平成27年(2015年)7月23日より前に製造されたものであるのに対し、上記bで検討したとおり、甲4のFE920A-SQ(サンプル4)は、2024年頃に製造されたものである。
そうすると、乙1の(株)アドマテックス製シリカビーズ(FE920A-SQ)と、甲4のFE920A-SQ(サンプル4)とは、製造時期が約9年異なっているといえる。
e 一方、甲5には、株式会社アドマテックスの商品名が「FE920A-SQ」について、ロット番号が「TGF243-3」であり、平均粒径が6.3μm、比表面積が2.3m2/gであることが記載されている。
そして、甲4には、甲5における「FE920A-SQ」(サンプル4)は、マルバーン・パナリティカル社製のレーザ回折式粒子サイズ分析装置(マスターサイザー3000)で測定した平均粒径が5.57μm、マウンテック社のマックソープで測定した比表面積が2.31m2/gであることが記載されている。
f 上記d及びeの各FE920A-SQの平均粒径及び比表面積について以下の表Bに示す。
表B
[図:0001430003000003.jpg]
g 上記表Bにおける、甲4、乙1に記載されたFE920A-SQの平均粒子径及び比表面積の値を比較すると、甲4の値と、乙1の値とは、いずれも大きく相違しているから、同じ「FE920A-SQ」という同じ商品名の製品であっても、平均粒径及び比表面積は、製造時期によって相違することがあり得るといえる。
そうすると、本件発明1で特定されている「湿式でのレーザー回折散乱法で測定される体積頻度粒度分布における小粒子側からの累積体積が90%となる点の粒子径」である「D」、「湿式でのレーザー回折散乱法で測定される粒子径頻度分布における最大ピークの頻度」、「前記粒子径頻度分布における20.7μm以上の粒子径の粒子の頻度」、「窒素ガス吸着によるBET1点法により測定される比表面積」、及び、「前記粒子径頻度分布における最頻径の値をDm(μm)、前記比表面積の値をS(m2/g)としたとき」の「Dm/S」の各特性(以下、まとめて「本件各特性」という。)についても、製造時期が約7年異なっている、甲3発明の「アドマテックス社製FE920A-SQ」と、甲4のFE920A-SQ(サンプル4)とは、いずれも異なることがあり得るといえる。
したがって、甲3発明の「アドマテックス社製FE920A-SQ」の本件各特性は、甲4の上記表Aに記載されているFE920A-SQ(サンプル4)の本件各特性と同じ特性を有しているとはいえない。
また、甲3発明の「アドマテックス社製FE920A-SQ」の本件各特性が、甲4の上記表Aに記載されているFE920A-SQ(サンプル4)の本件各特性と同じであることを認めるに足りる証拠はない。
h 以上から、甲4の測定結果を根拠として、甲3発明が、本件発明1の構成A~Fを備えているとはいえない。
したがって、申立人の上記aの主張は採用できない。
(イ)回答書の主張について
a 申立人は、回答書に対する手続補正書(方式)の3ページ下から9行~4ページ下から7行において、以下のとおり主張している。
「一般的に化学材料を上市する企業は、同一の型番を付した製品は同一の性状をもつものであることを保証しています。ここで同一の性状とはばらつきを考慮して一定の幅が設定されることが一般的です。
更に、同一の性状をもつ製品であっても別個の原料や製造方法を採用した場合、原料や製造方法が異なることに由来する予期できない製品の相違点が生じうるため別個の型番を付することが当業者の常識であると考えます。
なお、特許権者(デンカ株式会社)は、上記意見書の(4.2.1)の3段落目において「シリカのような工業製品は、製造時の技術トレンド等を踏まえて特性の調整が行われることが通常であるところ、このような長期に渡る期間、FE920A-SQが同一の粉体特性を維持してきたと認めるに足る証拠は提出されていない。」と主張していますが、異議申立人の委託元の企業を含め、製品に責任をもつ企業においては同一の型番を付した製品は可能な限り同一な性状をもつように調製し、性状が異なるようになるような微調整などを行う場合には型番を変更する対応を行うことが一般的であると考えます。
つまり、一般的な企業は、同一の型番を付した場合には、各性状についてはばらつきを考慮した一定の幅を持たせたもの、製造方法・原料などについては完全に同一のものを提供するものと考えます。
ここで、甲4、甲5、乙1に記載の「FE920A-SQ」について平均粒径や比表面積の値が異なっている原因については、製造メーカーである株式会社アドマテックスが設定した各性状のばらつきにあるのか、甲4、甲5、乙1における測定方法の問題にあるのかは分かりません。
しかしながら、型番が同一で有る限り同一の原料・製造方法により得られたものであり、甲第3号証が開示されたときから現在に至るまで同一の製造方法・原料を用いて、一定の幅をもった同一の性状になるように製造されたものであることが合理的に推察できます。
つまり、今回甲4~甲6にて評価した「FE920A-SQ」は甲第3号証が開示された時点で上市されている製品であり、製品のばらつきを考慮した上で、甲第3号証が開示された時点で存在しうる「FE920A-SQ」であると考えます。
このように、甲4~甲6に記載の発明(FE920A-SQ)は、甲第3号証に記載の発明(FE920A-SQ)と同一であると言えます。」
b しかし、申立人の上記aの主張は、いずれも申立人の考えや意見をいうものであって、証拠に基づくものではない。
また、甲5に記載されているFE920A-SQの「平均粒径:1.9μm」及び「比表面積:2.3m2/g」が、製造者である株式会社アドマテックスが保証する特性値であるとしても、製造時期が異なるFE920A-SQについて、本件各特性が全て同じであることを認めるに足りる証拠はない。
したがって、申立人の上記aの主張は採用できない。
(2)甲4(実験成績証明書、令和6年10月18日、申立人)
甲4には、以下の記載がある。
「
[図:0001430003000004.jpg]
[図:0001430003000005.jpg]
[図:0001430003000006.jpg]
[図:0001430003000007.jpg]
[図:0001430003000008.jpg]
」
(3)甲5(サンプル送付案内、令和6年6月4日、申立人)
甲5には、以下の記載がある。
「
[図:0001430003000009.jpg]
」
(4)甲6(誘電率測定結果、株式会社エーイーティー、2024年10月9日)
甲6には、以下の記載がある。
「
[図:0001430003000010.jpg]
[図:0001430003000011.jpg]
[図:0001430003000012.jpg]
[図:0001430003000013.jpg]
[図:0001430003000014.jpg]
[図:0001430003000015.jpg]
[図:0001430003000016.jpg]
[図:0001430003000017.jpg]
[図:0001430003000018.jpg]
」
2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
ア 甲3発明の「球状シリカ微粉末」は、本件発明1の「シリカ粉末」に相当する。
イ 以上から、本件発明1と甲3発明との一致点、相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「シリカ粉末。」
<相違点>
相違点1-1:本件発明1は、「本件手順に従って測定される樹脂シートサンプルの40GHz時の誘電正接が2.0×10-3以下である」のに対し、甲3発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
相違点1-2:本件発明1は、「湿式でのレーザー回折散乱法で測定される体積頻度粒度分布における小粒子側からの累積体積が90%となる点の粒子径をDとしたとき、Dが3.0μm以上25.0μm以下、
湿式でのレーザー回折散乱法で測定される粒子径頻度分布における最大ピークの頻度が5.5%以上、
前記粒子径頻度分布における20.7μm以上の粒子径の粒子の頻度が6.0%以下、
窒素ガス吸着によるBET1点法により測定される比表面積が0.2m2/g以上5.0m2/g以下、および
前記粒子径頻度分布における最頻径の値をDm(μm)、前記比表面積の値をS(m2/g)としたとき、Dm/Sが1.50以上である」のに対し、甲3発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
(2)相違点についての判断
事案に鑑み相違点1-2から検討する。
上記1(1)ウ(ア)b~hで検討したとおり、甲4の測定結果を根拠として、甲3発明が、本件発明1の構成A~Fを備えているとはいえないから、甲3発明は、相違点1-2に係る本件発明1の構成を備えているとはいえない。
また、甲3発明が、相違点1-2に係る本件発明1の構成を備えていることが、本件特許の出願時において技術常識であるともいえない。
したがって、相違点1-2は実質的な相違点である。
(3)小括
以上から、相違点1-1について判断するまでもなく、本件発明1は、甲3発明ではない。
3 本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1の全ての構成を有するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲3発明ではない。
4 まとめ
以上によれば、取消理由1(新規性)、申立理由1-2(新規性)には理由がない。
第6 申立理由1-1(新規性)について
1 甲2(国際公開第2023/112281号)の記載及び甲2に記載された発明
(1)甲2には、以下の記載がある。
「[0056](試料の調製)
・試験例1、10(D10:1.7μm、D50:2.5μm)
VMC法により製造したシリカを原料シリカ粒子材料とした(原料シリカ粒子材料調製工程)。原料シリカ粒子材料は、D50が1.9μm、D10が1.0μmであった。この原料シリカ粒子材料を気流分級により粒径が大きい分画を分級した。(分級工程)。得られた粒径が大きい分画に含まれるシリカ粒子材料に対してシラン化合物としてのビニルトリメトキシシランを反応させた(第1表面処理工程)。ヘキサメチルジシラザンを反応させて本試験例の試験試料とした(第2表面処理工程)。このシリカ粒子材料の比表面積は、1.1m2/gであった。表面処理工程を行わないものを試験例10の試験試料とした。
・・・
[0067](試験)
各試験例の試験試料について、D10、D50を堀場製作所社製LA-750により測定し、比表面積を窒素ガスを用いたBET法により測定し、発生水量200℃及び発生水量550℃をカールフィッシャー法にて測定し単位表面積あたりに換算し、それぞれ表に示した。
・・・
[0070]
[表2]
[図:0001430003000019.jpg]
」
(2)甲2に記載された発明
上記(1)の試験例10の記載に注目すると、甲2には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
「D10が1.7μm、D50が2.5μm、窒素ガスを用いたBET法により測定した比表面積が1.1m2/gである、シリカ粒子。」
(3)申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書の9ページ10行~10ページ7行において、甲2の【請求項1】、【0015】、【0018】の記載によれば、甲2には、誘電正接の値を小さくするために、D50を変化させることができることと、D10、D90を変化させることができること、比表面積を変化させることができることが開示され、甲2の試験例10の試験試料(以下、「サンプル2」と称する)については、上述したサンプル1について分級工程を行って粒径が大きい分画を取り出したものであり、サンプル2については、上記表Aに示すとおり、本件発明の構成A~G、I~Lを充足するから、甲2発明には、本件発明の構成A~G、I~Lを有していると共に、誘電正接の値を小さくするためにD50、D10、D90、比表面積を変更できることが開示されている旨主張している。
イ ここで、甲4の1ページ下から24~25行、下から9~7行には、「サンプル2については、取り寄せたサンプル1に対してWO 2023/22382の試験例10の記載に従い、調整した試料を使用した。」、「甲2発明の出願人である株式会社アドマテックスの製品のうち、D50が1.9μm、D10が1.0μm、VMC法により製造された粒子材料は、サンプル1として取り寄せたSO-C6が該当する」と記載されている。
そして、甲2には、「VMC法により製造したシリカを原料シリカ粒子材料とした(原料シリカ粒子材料調製工程)。原料シリカ粒子材料は、D50が1.9μm、D10が1.0μmであった」と記載されている。
そうすると、甲2の原料シリカ粒子材料と、甲1のサンプル1とは、D50が1.9μm、D10が1.0μmである点で共通している。
しかし、甲1のサンプル1であるSO-C6がVMC法により製造されたものであることを立証する証拠は提示されていない。
したがって、甲2発明の出願人である株式会社アドマテックスの製品のうち、D50が1.9μm、D10が1.0μm、VMC法により製造された粒子材料は、サンプル1であるSO-C6が該当するとはいえない。
ウ 次に、申立人が主張するとおり、「甲2発明の出願人である株式会社アドマテックスの製品のうち、D50が1.9μm、D10が1.0μm、VMC法により製造された粒子材料は、サンプル1として取り寄せたSO-C6が該当する」として、更に検討する。
甲2の国際出願日は2021年12月16日であるから、甲2の原料シリカ粒子材料は、2021年12月16日より前に製造されたものであるのに対し、上記第5 1(1)ウ(ア)bで検討したとおり、甲4のSO-C6(サンプル1)は、2024年頃に製造されたものである。
そうすると、甲2の原料シリカ粒子材料と、甲4のSO-C6(サンプル1)とは、製造時期が約3年異なっているといえる。
ここで、上記第5 1(1)ウ(ア)b~gの検討を参酌すると、同じ商品名の製品であっても、製造時期によってその特性は相違することがあり得るといえる。
そうすると、甲2の原料シリカ粒子材料の本件各特性と、甲4の上記表Aに記載されているサンプル1の本件各特性とは、いずれも異なることがあり得るといえる。
そして、甲2発明の「シリカ粒子」は、上記原料シリカ粒子材料を原料として製造されるものであり、甲4のサンプル2は、サンプル1を原料として、甲2の試験例10の記載に従い、調整したものであるから、甲2発明の「シリカ粒子」の本件各特性と、甲4のサンプル2の本件各特性とは、いずれも異なることがあり得るといえる。
したがって、甲2発明の「シリカ粒子」の本件各特性は、甲4の上記表Aに記載されているサンプル2の本件各特性と同じ特性を有しているとはいえない。
また、甲2発明の「シリカ粒子」の本件各特性が、甲4のサンプル2の本件各特性と同じであることを認めるに足りる証拠はない。
エ 以上から、甲4の測定結果を根拠として、甲2発明が、本件発明1の構成A~Fを備えているとはいえない。
したがって、申立人の上記アの主張は採用できない。
2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
ア 甲2発明の「窒素ガスを用いたBET法」は、「窒素ガス吸着によるBET1点法」に相当し、甲2発明の「窒素ガスを用いたBET法により測定した比表面積」である「1.1m2/g」は、本件発明1の「窒素ガス吸着によるBET1点法により測定される比表面積」である「0.2m2/g以上5.0m2/g以下」の範囲内である。
したがって、甲2発明の「窒素ガスを用いたBET法により測定した比表面積が、1.1m2/gである」ことは、本件発明1の「窒素ガス吸着によるBET1点法により測定される比表面積が0.2m2/g以上5.0m2/g以下」であることに相当する。
イ 以上から、本件発明1と甲2発明との一致点、相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「窒素ガス吸着によるBET1点法により測定される比表面積が0.2m2/g以上5.0m2/g以下である、シリカ粉末。」
<相違点>
相違点2-1:本件発明1は、「本件手順に従って測定される樹脂シートサンプルの40GHz時の誘電正接が2.0×10-3以下である」のに対し、甲2発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
相違点2-2:本件発明1は、「湿式でのレーザー回折散乱法で測定される体積頻度粒度分布における小粒子側からの累積体積が90%となる点の粒子径をDとしたとき、Dが3.0μm以上25.0μm以下、
湿式でのレーザー回折散乱法で測定される粒子径頻度分布における最大ピークの頻度が5.5%以上、
前記粒子径頻度分布における20.7μm以上の粒子径の粒子の頻度が6.0%以下、」「および
前記粒子径頻度分布における最頻径の値をDm(μm)、前記比表面積の値をS(m2/g)としたとき、Dm/Sが1.50以上である」のに対し、甲2発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
(2)相違点についての判断
事案に鑑み相違点2-2から検討する。
上記1(3)イ~エで検討したとおり、甲4の測定結果を根拠として、甲2発明が、本件発明1の構成A~Fを備えているとはいえないから、甲2発明は、相違点2-2に係る本件発明1の構成を備えているとはいえない。
また、甲2発明が、相違点2-2に係る本件発明1の構成を備えていることが、本件特許の出願時において技術常識であるともいえない。
したがって、相違点2-2は実質的な相違点である。
(3)小括
以上から、相違点2-1について判断するまでもなく、本件発明1は、甲2発明ではない。
3 本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1の全ての構成を有するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲2発明ではない。
4 まとめ
以上によれば、申立理由1-1(新規性)には理由がない。
第7 申立理由2(進歩性)について
1 甲1(特開2017-193690号公報)の記載及び甲1に記載された発明
(1)甲1には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。
「【0201】
表1の成分について以下に示す。
・・・
[無機充填材]
・SO-C2:株式会社アドマテックス製のシリカ「SO-C2」(商品名、平均粒径;0.5μm)の表面をアミノシランカップリング剤で処理し、さらに、MEK溶剤中に分散させたシリカ(固形分濃度70質量%)
・SO-C6:株式会社アドマテックス製のシリカ「SO-C6」(商品名、平均粒径;2.2μm)の表面をアミノシランカップリング剤で処理し、さらに、MEK溶剤中に分散させたシリカ(固形分濃度70質量%)
・・・」
(2)甲1に記載された発明
ア 上記(1)には、「株式会社アドマテックス製のシリカ「SO-C6」(商品名、平均粒径;2.2μm)」と記載されているから、株式会社アドマテックス製SO-C6は、シリカ粉末であって、平均粒径が2.2μmであるといえる。
イ したがって、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「株式会社アドマテックス製SO-C6のシリカ粉末であって、平均粒径が2.2μmであるシリカ粉末。」
(3)申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書の6ページ下から4行~9ページ4行において、甲1に開示されている株式会社アドマテックス製のSO-C6について、株式会社アドマテックスよりサンプルとして取得し、本件発明1~8と比較した結果を示す上記表Aでは、SO-C6はサンプル1と記載し、具体的な実験方法については実験成績証明書(甲4)にて説明しており、これらの値の算出方法については本件明細書に基づいて行っており、この表より明らかなように、サンプル1は、本件特許発明の構成A~E、G及びI~Lを充足するから、甲1発明は、本件発明の構成A~E、G及びI~Lを備えている旨主張している。
イ しかし、甲1の出願日は平成28年(2016年)4月22日であるから、甲1発明の「株式会社アドマテックス製SO-C6のシリカ粉末」は、平成28年(2016年)4月22日より前に製造されたものであるのに対し、上記第5 1(1)ウ(ア)bで検討したとおり、甲4のSO-C6(サンプル1)は、平成28年(2016年)4月22日より前に製造されたものである。
そうすると、甲1発明の「株式会社アドマテックス製SO-C6のシリカ粉末」と、甲4のSO-C6(サンプル1)とは、製造時期が約8年異なっているといえる。
ウ ここで、上記第5 1(1)ウ(ア)b~gの検討を参酌すると、同じ商品名の製品であっても、製造時期によってその特性は相違することがあり得るといえる。
そして、上記イで検討したとおり、甲1発明の「株式会社アドマテックス製SO-C6のシリカ粉末」と、甲4のSO-C6(サンプル1)とは、製造時期が約8年異なっているから、甲1発明の「株式会社アドマテックス製SO-C6のシリカ粉末」の特性と、甲4のSO-C6(サンプル1)の特性とは、いずれも異なることがあり得るといえる。
そうすると、本件各特性についても、製造時期が異なっている、甲1発明の「株式会社アドマテックス製SO-C6のシリカ粉末」と、と甲4の甲4のSO-C6(サンプル1)は、いずれも異なることがあり得るといえる。
したがって、甲1発明の「株式会社アドマテックス製SO-C6のシリカ粉末」の本件各特性は、甲4の以下の表Aに記載されているSO-C6(サンプル1)の本件各特性と同じ特性を有しているとはいえない。
また、甲1発明の「株式会社アドマテックス製SO-C6のシリカ粉末」の本件各特性が、甲4の以下の表Aに記載されているSO-C6(サンプル1)の本件各特性と同じであることを認めるに足りる証拠はない。
エ 以上から、甲4の測定結果を根拠として、甲1発明が、本件発明1の構成A~Eを備えているとはいえない。
したがって、申立人の上記アの主張は採用できない。
2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「平均粒径が2.2μmであるシリカ粉末」は、シリカ粒子であるといえるから、本件発明1の「シリカ粒子」に相当する。
イ 以上から、本件発明1と甲1発明との一致点、相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「シリカ粉末。」
<相違点>
相違点3-1:本件発明1は、「本件手順に従って測定される樹脂シートサンプルの40GHz時の誘電正接が2.0×10-3以下である」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
相違点3-2:本件発明1は、「湿式でのレーザー回折散乱法で測定される体積頻度粒度分布における小粒子側からの累積体積が90%となる点の粒子径をDとしたとき、Dが3.0μm以上25.0μm以下、
湿式でのレーザー回折散乱法で測定される粒子径頻度分布における最大ピークの頻度が5.5%以上、
前記粒子径頻度分布における20.7μm以上の粒子径の粒子の頻度が6.0%以下、
窒素ガス吸着によるBET1点法により測定される比表面積が0.2m2/g以上5.0m2/g以下、および
前記粒子径頻度分布における最頻径の値をDm(μm)、前記比表面積の値をS(m2/g)としたとき、Dm/Sが1.50以上である」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
(2)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点3-2から検討する。
上記1(3)イ~エで検討したとおり、甲4の測定結果を根拠として、甲1発明が、本件発明1の構成A~Eを備えているとはいえないから、甲1発明は、相違点3-2に係る本件発明1の構成を備えているとはいえない。
また、上記第6 1(3)イ~エ、及び、上記第5 1(1)ウ(ア)b~hの検討を参酌すると、甲2発明及び甲3発明も、相違点3-2に係る本件発明1の構成を備えているとはいえない。
したがって、甲1発明に甲2発明及び甲3発明を適用しても、相違点3-2に係る本件発明1の構成は得られない。
よって、甲1発明において、相違点3-2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(3)小括
以上から、相違点3-1について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲2発明及び甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1の全ての構成を有するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明、甲2発明及び甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
4 まとめ
以上によれば、申立理由2(進歩性)には理由がない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-701047