特許異議申立
2024-700334
焼鈍分離剤の製造方法及び焼鈍分離剤並びに方向性電磁鋼板
- 審判番号
- 2024-700334
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-534836
- 登録番号
- 7362930
- 請求日
- 2024年04月11日
- 審決日
- 2025年03月28日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】セトラスホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】小野田 浩之
- 【権利者代理人】奥野 剛規
- 【権利者代理人】藤本 健治
- 【異議申立人】合同会社 SAS
- 【異議申立人】前田 洋志
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 相澤 啓祐
- 審判官 土屋 知久
- 分類
- P1652.121-Y (C23C) / P1652.536-Y (C23C) / P1652.537-Y (C23C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7362930号発明「焼鈍分離剤の製造方法及び焼鈍分離剤並びに方向性電磁鋼板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7362930号の請求項6~11、13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7362930号の請求項1~13に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、2021年(令和3年)9月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2021年6月18日 (CN)中国)を国際出願日とする出願であって、令和5年10月6日にその特許権の設定登録がなされ、同年10月17日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、令和6年4月11日に特許異議申立人合同会社SAS(以下、「申立人1」という。)より請求項6~11、13に係る特許に対して、また、同年4月17日に特許異議申立人前田洋志(以下、「申立人2」という。)より請求項6~11、13に係る特許に対して、それぞれなされた特許異議申立事件であって、令和6年8月26日付けで取消理由が通知され、これに対して、同年10月28日に意見書(以下、「意見書1」という。)が提出され、その後、同年12月13日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対して、令和7年2月13日に意見書(以下、「意見書2」という。)が提出され、その間、令和6年12月16日に申立人2より上申書(以下、「上申書1」という。)が提出され、さらに、令和7年3月24日に申立人2より上申書(以下、「上申書2」という。)が提出されたものである。
第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~13に係る発明(以下、これらを「本件発明1」などという。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち、請求項6~11、13に係る発明は、次のとおりのものである。
「【請求項6】
Na含有量が20~50ppmであり、
沈降係数Sが0.90以上であり、
鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上であって、
主に酸化マグネシウムを含む、焼鈍分離剤。
【請求項7】
前記焼鈍分離剤の平均細孔径が45~100nmである、請求項6に記載の焼鈍分離剤。
【請求項8】
前記焼鈍分離剤の30℃の水溶液のCAA70%/CAA40%の比が1.8~4.0の範囲である、請求項6又は7に記載の焼鈍分離剤。
【請求項9】
前記酸化マグネシウムの重量に基づいて、下記の少なくともいずれかを更に含有する、請求項6~8のいずれか一項に記載の焼鈍分離剤。
B:500~1300ppm;
Cl:100~350ppm;
CaO:0.2~0.6wt%;
SiO2:0.2~5.0wt%;
二酸化チタン:0wt%超~10.0wt%;又は
不活性酸化マグネシウム:0wt%超~25.0wt%。
【請求項10】
前記焼鈍分離剤の粒子の平均粒径が0.5~5.0μmである、請求項7~9のいずれか一項に記載の焼鈍分離剤。
【請求項11】
請求項7~10のいずれか一項に記載の焼鈍分離剤を利用して得られるフォルステライト層を表面に有する方向性電磁鋼鈑。」
「【請求項13】
Na含有量が20~50ppmであり、
沈降係数Sが0.90以上であり、
鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上であり、
平均細孔径が45~100nmであって、
主に酸化マグネシウムを含む、焼鈍分離剤。」
第3 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 申立人1による特許異議申立理由の概要
申立人1は、証拠方法として次の甲第1~4号証を提出し、以下の特許異議申立理由により、請求項6~11、13に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
(証拠方法)
甲第1号証:特開2019-173173号公報
甲第2号証:特開2005-171387号公報
甲第3号証:特開平10-46259号公報
甲第4号証:特開2003-27251号公報
なお、以下、上記甲第1~4号証を、それぞれ「甲1-1」~「甲1-4」という。
1-1 申立理由1-1(実施可能要件)
本件特許の請求項6~11、13に係る発明における、「沈降係数Sが0.90以上」及び「鋼鈑表面に塗布後の密着強度が80%以上」は、発明者が設定した独自のパラメータであり、また、課題を数値化しただけの達成すべき結果であるところ、このような独自のパラメータ及び達成すべき結果を満たす焼鈍分離剤を得るための具体的な手段が不明であるため、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要となり、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、本件の請求項6~11、13に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由に不採用)。
1-2 申立理由1-2(サポート要件)
次の(1)及び(2)の理由により、本件の請求項6~11、13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(1)助剤、不活性酸化マグネシウム及び二酸化チタンを含有しない請求項6~11、13の焼鈍分離剤は、本件発明の課題を解決し得るとはいえない(取消理由に不採用)。
(2)平均細孔径、CAA70%/CAA40%比及び平均粒径が特定されていない請求項6~11、13の焼鈍分離剤は、本件発明の課題を解決し得るかが不明である(取消理由に不採用)。
1-3 申立理由1-3(明確性要件)
次の(1)及び(2)の理由により、本件の請求項9~11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(1)請求項9の「不活性酸化マグネシウム」は、願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の記載を参酌しても、反応活性がどの程度のものを「不活性」というかが定義されていないから、明確でない(取消理由に不採用)。
(2)請求項10の「焼鈍分離剤の粒子の平均粒径」の測定方法や平均の定義が不明である(取消理由に採用)。
1-4 申立理由1-4(進歩性)
本件特許の請求項6に係る発明(以下、請求項の項番に応じて「本件発明6」などという。)は、甲1-1に記載された発明及び甲1-2に記載された事項に基いて、本件発明7は、甲1-1に記載された発明及び甲1-2~1-3に記載された事項に基いて、本件発明8~11、13は、甲1-1に記載された発明及び甲1-2~1-4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるため、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由に不採用)。
2 申立人2による特許異議申立理由の概要
申立人2は、証拠方法として次の甲第1~24号証を提出し、以下の特許異議申立理由により、請求項6~11、13に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
(証拠方法)
甲第1号証:特開2005-171387号公報
甲第2号証:特開2016-145419号公報
甲第3号証:特開2019-173172号公報
甲第4号証:特開昭61-79781号公報
甲第5号証:特開平8-283866号公報
甲第6号証:特開2005-2362号公報
甲第7号証:特開2009-7642号公報
甲第8号証:特開昭62-139880号公報
甲第9号証:特開2002-309378号公報
甲第10号証:「分析お困りごと解決セミナー「蛍光X線分析」編」,JASIS2016,株式会社堀場製作所,2016年9月7日,1~14頁
甲第11号証:上本道久,「入門講座 検出限界と定量下限の考え方」,ぶんせき,公益社団法人日本分析化学会,2010年5月,216~221頁
甲第12号証:特開2008-164547号公報
甲第13号証:特開2017-62204号公報
甲第14号証:特開2009-29728号公報
甲第15号証:「ZSX PrimusIVの分析性能について」,株式会社リガク大阪支店,2024年3月6日
甲第16号証:「成績報告書」(受付番号:5資源第295-2号),高知県工業技術センター所長,令和6年3月11日
甲第17号証:「成績報告書」(受付番号:5資源第295-1号),高知県工業技術センター所長,令和6年3月11日
甲第18号証:「分析結果報告書 ナトリウムの定量分析」,株式会社日東分析センター,2024年3月22日
甲第19号証:「分析結果報告書」(第S-13-230872-1-R1号),イビデンエンジニアリング株式会社,2024年3月13日
甲第20号証:「分析結果報告書」(第S-13-230872-2-R1号),イビデンエンジニアリング株式会社,2024年3月13日
甲第21号証:「分析結果報告書」(第S-13-230872-3-R1号),イビデンエンジニアリング株式会社,2024年3月13日
甲第22号証:「海砂,300~600μm(30~50mesh)」,富士フイルム和光純薬株式会社,令和6年4月8日検索,インターネット<https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/W01W0119-1595.html>
甲第23号証:「海砂,425~850μm(20~35mesh)」,富士フイルム和光純薬株式会社,令和6年4月8日検索,インターネット<https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/W01W0119-0817.html>
甲第24号証:「海砂,850~1400μm(14~20mesh)」,富士フイルム和光純薬株式会社,令和6年4月8日検索,インターネット<https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/W01W0119-1140.html>
なお、以下、上記甲第1~24号証を、それぞれ「甲2-1」~「甲2-24」という。
2-1 申立理由2-1(進歩性)
本件発明6は、甲2-2に記載された発明及び甲2-1、甲2-3~甲2-9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるため、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由に不採用)。
なお、申立人2が提出した特許異議申立書(以下、「申立書2」という。)には、「ウ 本件特許発明6と甲1発明との対比」(第26頁第2行)と記載されているが、申立人2が主張する「甲1発明」が不明であるし、また、「例えば、甲第2号証を主引例とした場合を考えると、」(第30頁第4行)とも記載されているので、甲2-1及び甲2-2の記載事項を考慮して、合議体の判断により、甲2-1ではなく、甲2-2を主たる引例とした。
2-2 申立理由2-2(明確性要件)
次の(1)~(3)の理由により、本件の請求項6~11、13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(1)請求項6、13の「Na含有量が20~50ppmであ」るとの記載は、本件明細書に記載された「X線蛍光分光計」によるNaの定量下限より小さい検出限界(検出下限)を下回るものであり、「X線蛍光分光計」では検出または定量できないレベルの微量であるから、技術的な不備が存在するため、明確であるとはいえない(取消理由に採用)。
(2)請求項6、13の「鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上であ」るとの記載は、本件明細書に焼鈍分離剤の塗布量が記載されていないため、「密着強度」が一義的に定まらないから、明確であるとはいえない(取消理由に採用)。
(3)請求項6、13の「鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上であ」るとの記載は、本件明細書に海砂の粒径が記載されていないため、「密着強度」が一義的に定まらないから、明確であるとはいえない(取消理由に採用)。
3 令和6年8月26日付けで通知した取消理由の概要
令和6年8月26日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
3-1 取消理由1(明確性要件)
次の(1)の理由により、本件の請求項10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(1)請求項10の「焼鈍分離剤の粒子の平均粒径」の測定方法や平均の定義が不明である(申立理由1-3の(2))。
3-2 取消理由2(明確性要件)
次の(1)~(3)の理由により、本件の請求項6~11、13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(1)請求項6、13の「Na含有量が20~50ppmであ」るとの記載は、本件明細書に記載された「X線蛍光分光計」によるNaの定量下限より小さい検出限界(検出下限)を下回るものであり、「X線蛍光分光計」では検出または定量できないレベルの微量であるから、技術的な不備が存在するため、明確であるとはいえない(申立理由2-2の(1))。
(2)請求項6、13の「鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上であ」るとの記載は、本件明細書に焼鈍分離剤の塗布量が記載されていないため、「密着強度」が一義的に定まらないから、明確であるとはいえない(申立理由2-2の(2))。
(3)請求項6、13の「鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上であ」るとの記載は、本件明細書に海砂の粒径が記載されていないため、「密着強度」が一義的に定まらないから、明確であるとはいえない(申立理由2-2の(3))。
4 令和6年12月13日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
令和6年12月13日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
4-1 取消理由3(明確性要件)
次の理由により、本件の請求項6~11、13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(1)請求項6、13の「鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上であ」るとの記載は、本件明細書に焼鈍分離剤の塗布量が記載されていないため、「密着強度」が一義的に定まらないから、明確であるとはいえない(申立理由2-2の(2)、取消理由2の(2))。
5 特許権者が提出した証拠方法
特許権者は、証拠方法として、次の乙第1~9号証を提出した。
なお、乙第1~6号証は、意見書1とともに提出されたものであり、また、乙第7~9号証は、意見書2とともに提出されたものである。
(証拠方法)
乙第1号証:特開2004-52084号公報
乙第2号証:特開2019-173172号公報
乙第3号証:特開2019-173173号公報
乙第4号証:電子メール「RE:MgOのXRF」(件名)、2024年10月25日
乙第5号証:特開2017-64669号公報
乙第6号証:特開2016-199460号公報
乙第7号証:実験成績証明書、セトラスホールディングス株式会社作成、令和7年2月4日
乙第8号証:国際公開第2020/145319号
乙第9号証:国際公開第2015/040799号
なお、以下、上記乙第1~9号証を、それぞれ「乙1」~「乙9」という。
第4 当合議体の判断
当合議体は、以下に示すとおり、上記第3の特許異議申立理由及び取消理由によっては、本件請求項6~11、13に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 取消理由3の(1)、取消理由2の(2)、申立理由2-2の(2)(明確性要件)について
(1)塗布量について
ア 請求項6、13には、「鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上であ」ることが記載されている。
イ そして、本件明細書には、密着強度の算出方法について、次の記載がある。なお、下線は当審で付した。以下、同じ。
「【0067】
密着強度=[(研磨後の鋼板重量-塗布前の鋼板重量)/研磨前の鋼板重量-塗布前の鋼板重量]×100%
【0068】
・・・(略)・・・密着強度のより具体的な測定方法は、実施例部分を参照することができる。」
「【0092】
3.密着強度の測定
厚さを0.5mmとしたこと以外は、下記の「5.フォルステライト被膜の評価」部分における評価用鋼板と同様にして鋼板を製造し、サイズが150mm×80mm×0.5mmの鋼板の重量を正確に秤量した。20gの乾燥した下記実施例及び比較例で調製された焼鈍分離剤を正確に称量して、20℃の150mlの水に入れ、IKA RW20 digital撹拌器(ドイツIKA社製)を用いて、2000rpmで1分間激しく撹拌分散し、塗布液を得た。該塗布液を、上記の既知の重量の鋼板にロール塗布機を用いて塗布した。次に、塗布後の鋼板を500℃のマッフル炉に入れて30秒間焼結し、冷却して秤量した後、鋼板を振動回転機(日本株式会社飯田製作所製の回転ハンマー型振動器)に置いた。さらに、鋼板に400gの海砂を置いた後、30秒振動回転処理(研磨)をした(回転数60Hz/290rpm)。処理後の鋼板重量を秤量し、下記式に従って密着強度を算出した。四枚の鋼板を測定し、その平均値を取得して密着強度とした。
密着強度=[(研磨後の鋼板重量-塗布前の鋼板重量)/研磨前の鋼板重量-塗布前の鋼板重量]×100%」
(当審注:【0067】及び【0092】の「[(研磨後の鋼板重量-塗布前の鋼板重量)/研磨前の鋼板重量-塗布前の鋼板重量]」は、「[(研磨後の鋼板重量-塗布前の鋼板重量)/(研磨前の鋼板重量-塗布前の鋼板重量)]」の明らかな誤記である。)
ウ 上記ア、イによれば、上記アの「密着強度」は、上記イの【0092】の方法で算出したものであると解される。
エ ここで、上記イの【0092】の式において、分母である「(研磨前の鋼板重量-塗布前の鋼板重量)」は、「塗布された焼鈍分離剤の量」を意味し、分子である「(研磨後の鋼板重量-塗布前の鋼板重量)」は、「塗布された焼鈍分離剤のうち、研磨後に残った焼鈍分離剤の量」を意味することは明らかである。
オ そうすると、上記イの【0092】の式は、次のように書き換えることができる。
密着強度=(塗布された焼鈍分離剤のうち、研磨後に残った焼鈍分離剤の量)/(塗布された焼鈍分離剤の量)×100%
カ また、上記イの【0092】の記載によれば、「密着強度」の測定にあたり、サイズが150mm×80mm×0.5mmの鋼板の重量を正確に秤量し、20gの乾燥した焼鈍分離剤を正確に称量して、20℃の150mlの水に入れ塗布液を得て、該塗布液を、既知の重量の鋼板にロール塗布機を用いて塗布し、次に、塗布後の鋼板を500℃のマッフル炉に入れて30秒間焼結、冷却して秤量した後、鋼板を振動回転機に置き、さらに、鋼板に400gの海砂を置き、30秒振動回転処理(研磨)をした(回転数60Hz/290rpm)とのことである。さらに、その後、鋼板重量を秤量し、上記イの【0092】の式(上記オの式)に従って密着強度を算出し、四枚の鋼板を測定し、その平均値を取得して密着強度としたとのことである。
キ すなわち、上記イの【0092】の方法は、鋼板に塗布した焼鈍分離剤の塗布量が不明である(すなわち、鋼板に焼鈍分離剤をどの程度の厚さで塗布したかが不明である)が、鋼板に400gの海砂を置き、回転数60Hz/290rpmで30秒振動回転処理(研磨)をしたとのことであるから、研磨される焼鈍分離剤の厚みは一定である。
ク そこで、まず、鋼板に塗布した焼鈍分離剤の塗布量が異なり(すなわち、鋼板に塗布した焼鈍分離剤の厚さが異なり)、研磨される焼鈍分離剤の厚みが一定である次の(ア)~(ウ)の場合の密着強度について検討する。
(ア)「80」の量の焼鈍分離剤を塗布し、「20」の量の焼鈍分離剤が研磨される場合
上記オの式は次の式のとおりとなるので、密着強度は75%である。
{(80-20)/80}×100=75%
(イ)「100」の量の焼鈍分離剤を塗布し、「20」の量の焼鈍分離剤が研磨される場合
上記オの式は次の式のとおりとなるので、密着強度は80%である。
{(100-20)/100}×100=80%
(ウ)「200」の量の焼鈍分離剤を塗布し、「20」の量の焼鈍分離剤が研磨される場合
上記オの式は次の式のとおりとなるので、密着強度は90%である。
{(200-20)/200}×100=90%
ケ 上記クの検討より、上記イの【0092】のとおりに密着強度を算出したとしても、鋼板に塗布した焼鈍分離剤の塗布量が異なると(すなわち、鋼板に塗布した焼鈍分離剤の厚さが異なると)、密着強度が変化する。すなわち、同一の焼鈍分離剤であっても、塗布量により密着強度が異なることとなる。
コ しかしながら、「密着強度」は、鋼板に塗布された焼鈍分離剤の厚みが表面側からどの程度削られるかで示されるような指標ではなく、焼鈍分離剤と鋼板との界面の密着性に着目した、鋼板に塗布された焼鈍分離剤の剥がれ落ちにくさを示す指標(本件明細書【0068】)であり、鋼板に塗布された焼鈍分離剤の厚み(塗布量)によって実質的な差異が生じるような指標ではない。また、上記クの検討は、研磨される焼鈍分離剤の厚みが一定であることを前提とするものであって、剥がれ落ちることを考慮したものではなく、また、一般的に行われているレベルでの焼鈍分離剤の塗布量や本件明細書【0092】に記載された研磨方法により実際に研磨されたり剥がれ落ちたりする量を考慮したものではないから、妥当なものとはいえない。
サ 現に、乙7の実験成績証明書によれば、一般的に行われている焼鈍分離剤の塗布量(乙8によれば2~10g/m2([0058])、乙9によれば、4~12g/m2([請求項5]))レベルでは、塗布量が変化しても(変動係数0.276)密着強度にほとんど差異が生じない(変動係数0.034)といえる(乙7の「5.実験結果」参照。)。
シ さらに、申立人2による検証(申立書2第38頁第7行~第39頁)は、市販の電磁鋼板を用いたものであって、焼鈍分離剤の塗布及び焼成を行った後の市販の電磁鋼板に対し、さらに焼鈍分離剤の塗布及び焼成を行ったものであるところ、その測定方法が上記カの方法とは異なるから、採用できるものではない。
ス 以上のとおり、上記アの「密着強度」は、焼鈍分離剤と鋼板との界面の密着性に着目した、鋼板に塗布された焼鈍分離剤の剥がれ落ちにくさを示す指標であって、一般的に行われている焼鈍分離剤の塗布量レベルでは、塗布量が変化してもほとんど差異が生じないものであり、サンプルごとにばらつきがあることも考慮すると、第三者に不測の不利益を及ぼすものではない。
セ よって、請求項6、13及び請求項6を引用する請求項7~11の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
(2)申立人2の主張について
ア 申立人2は、上申書1において、上記(1)のシの検証は、申立書2には、「本件特許明細書(【0092】)の記載に従って、鋼板に焼鈍分離剤を塗布し、その後に研磨する試験を実施して、密着強度を求めた」と記載されているから、「脱炭焼鈍」後であって、かつ、「仕上げ焼鈍」前の鋼板を用いたことは明らかであると主張している(第8頁21行~第9頁第9行)。
イ しかしながら、申立書2には、「・鋼板:市販の電磁鋼板」(第38頁第11行)と記載されており、上記アの記載も合わせ読むと、上記アの「本件特許明細書(【0092】)の記載に従って、」との文言は、「鋼板に焼鈍分離剤を塗布し、その後に研磨する試験を実施して、密着強度を求めた」に係ると解するのが相当であって、鋼板の製造について「本件特許明細書(【0092】)の記載に従って」いると解することはできない。
また、上記アの記載の「鋼板に焼鈍分離剤を塗布し、」の「鋼板」は、「市販の電磁鋼板」であるから、焼鈍分離剤の塗布及び焼成を行った後の市販の電磁鋼板に対し、さらに焼鈍分離剤の塗布及び焼成を行ったものであると解するのが自然である。
ウ また、申立人2は、上申書2において次の主張をしている(第4頁第17行~第5頁第15行)。
焼鈍分離剤の塗布量について、乙8では、「2g/m2以上10g/m2以下」であり、また、乙9では、「4~12g/m2」であるのに対し、本件明細書の実施例では、「15g/m2」(【0095】)であるから、乙7の「5.00~9.17g/m2」が一般的なものとはいえない。
エ しかしながら、本件明細書には、「鋼板の両面の乾燥後の塗布量を15g/m2とした」(【0095】)と記載されており、乙8、乙9や技術常識を考慮すると、この塗布量である「15g/m2」は鋼板の両面の塗布量を合計したものであると解される。
オ そうすると、本件明細書【0095】に記載された焼鈍分離剤の塗布量は、乙8、乙9に記載された塗布量と同程度であるから、これらの焼鈍分離剤の塗布量は全て一般的な塗布量であるといえる。
カ したがって、乙7における焼鈍分離剤の塗布量も一般的なものである。
キ よって、申立人2の主張は採用できない。
2 取消理由1、申立理由1-3の(2)(明確性要件)について
(1)請求項10には、「焼鈍分離剤の粒子の平均粒径が0.5~5.0μmである」と記載されている。
(2)そして、本件明細書の実施例の欄には、次の記載がある。
「【0089】
1.平均粒径の測定
80mlのエタノールを100mlのビーカーに入れ、次に、0.8gの乾燥した下記実施例及び比較例で調製された焼鈍分離剤を入れ、超音波で4分間分散させた後、レーザー回折散乱粒度分布装置(商品名:MT3000、日機装社製)を用いて、焼鈍分離剤の平均粒径を測定した。」
(3)すなわち、上記(1)の「平均粒径」は、上記(2)の方法、すなわち、レーザー回折散乱粒度分布装置(商品名:MT3000、日機装社製)で測定した平均粒径であると解される。
(4)一方、意見書1において、特許権者は次の釈明をしている。
「取消理由通知書に記載された参考文献(「粒度分布における体積基準と個数基準について」、株式会社島津製作所、インターネット<https://www.an.shimadzu.co.jp/service-support/technical-support/analysis-basics/powder/lecture/practice/p01/lesson17/index.html>)に、「レーザ回折式粒度分布測定装置では、粒度分布を体積基準で測定しています。ただし、必要に応じて体積基準から計算によって個数基準の粒度分布として測定結果を出力することもできます。一般に粒度分布測定装置と呼ばれる装置の場合、体積基準で粒度分布を測定している装置が多いように思います。」と記載されているように、粒度分布は、一般的には体積基準で測定し、特殊な場合には体積基準から個数基準の粒度分布を算出することもあるというものです。本件特許発明の焼鈍分離剤の平均粒径は、本件明細書の【0089】において、個数基準について記載していないことからも明らかなとおり、このような特殊な場合に該当するものではないため、一般的な体積基準で測定するものとなります。」(第4頁第2~15行)
(5)そして、本件発明の焼鈍分離剤の平均粒径について、一般的な体積基準で測定するという上記(4)の釈明は、本件明細書の記載及び技術常識(乙1~乙3)からみて妥当なものである。
(6)よって、請求項10及び請求項10を引用する請求項11の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
3 取消理由2の(1)及び(3)、申立理由2-2の(1)及び(3)(明確性要件)について
(1)Na含有量について
ア 請求項6、13には、「Na含有量が20~50ppmであり、」と記載されている。
イ そして、本件明細書の実施例の欄には、次の記載がある。
「【0093】
4.元素の定量分析
関連する元素の定量分析を、日本のRIGAKU INDUSTRIAL社製のZSX PrimusII X線蛍光分光計を用いて行った。」
ウ そうすると、上記アの「Na含有量」は、上記イの「日本のRIGAKU INDUSTRIAL社製のZSX PrimusII X線蛍光分光計」を用いて測定した値であると解される。そして、本件明細書には、実際にNa含有量を測定したことが記載されている(【0109】等、表1)。
エ したがって、上記イの記載からすると、X線蛍光分光計において測定されるNa含有量に、検出限界や誤差があったとしても、本件発明においては、上記イの「日本のRIGAKU INDUSTRIAL社製のZSX PrimusII X線蛍光分光計」を用いて「Na含有量」を測定した値が、上記アの「Na含有量」であるから、第三者に不測の不利益を及ぼすことはない。
オ よって、請求項6、13及び請求項6を引用する請求項7~11の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
(2)海砂の粒径について
ア 請求項6、13には、「鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上であ」ることが記載されている。
イ そして、本件明細書には、密着強度の算出方法について、上記1の(1)のイの【0092】の記載があり、当該記載によれば、上記1の(1)のカのとおり、鋼板に400gの海砂を置き、回転数60Hz/290rpmで30秒振動回転処理(研磨)をしたとのことであるところ、海砂の粒径が異なると研磨されたり剥がれ落ちたりする焼鈍分離剤の量が異なると考えられるから、同一の焼鈍分離剤であっても密着強度が異なることとなる。
ウ しかしながら、本件明細書には、上記1の(1)のカの「海砂」の粒径が記載されていない。
エ 一方、意見書1において、特許権者は次の(ア)、(イ)の釈明をしている(第7頁第10~28行)。
(ア)請求項6、13の「密着強度」は、本件明細書【0092】に記載の測定方法に従って測定することができること。
(イ)乙6の記載を考慮すれば、本件明細書【0092】に記載された海砂は、425~850μmの粒度のものであることが理解できること。
オ そして、上記エの釈明は本件明細書の記載に整合し妥当なものであるから、本件明細書【0092】に記載された海砂は、425~850μmの粒度のものであると考えられる。
カ そうすると、請求項6、13の「密着強度」は、一義的に定まらないとはいえないから、第三者に不測の不利益を及ぼすものではない。
キ よって、請求項6、13及び請求項6を引用する請求項7~11の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
ク なお、申立人2は、上申書1において次の主張をしている。
(ア)本件明細書【0092】に記載された海砂の粒径が、乙6に記載された粒径と同じであるという確証はないこと(第10頁21行~第11頁第3行)。
(イ)申立人2の検証によって、海砂の粒径範囲の違いにより、密着強度に差が生じる傾向が確認されているから、たとえ試験に供される鋼板に差異があったとしてもこの傾向は変わらないこと(第11頁第23行~第12頁第12行)。
ケ しかしながら、上記クの(ア)の主張については、特許権者の上記エの釈明により、本件明細書に記載された実施例において、密着強度の測定には425~850μmの粒度のものを用いたと考えられるし、また、乙6の記載によれば、方向性電磁鋼板におけるフォルステライト被膜層の密着性評価において、425~850μmの粒度の海砂を用いている。
コ そうすると、本件明細書【0092】に記載された海砂も、425~850μmの粒度のものである蓋然性が高い。
サ また、上記クの(イ)の主張については、申立人2による検証(申立書2第41頁第2行~最後から2行)は、市販の電磁鋼板を用いたものであって、焼鈍分離剤の塗布及び焼成を行った後の市販の電磁鋼板に対し、さらに焼鈍分離剤の塗布及び焼成を行ったものであるところ、その測定方法が本件発明と異なるから、採用できるものではない。
シ よって、申立人2の主張は採用できない。
4 申立理由1-1(実施可能要件)について
(1)「沈降係数S」及び「密着強度」について
ア 本件発明6、13は、「沈降係数Sが0.90以上であり、鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上であ」るとの発明特定事項を含む焼鈍分離剤に関するものである。
イ(ア)本件明細書には、酸化マグネシウム(【0053】、【0061】)、Na含有量(【0053】、【0062】)、沈降係数S(【0063】~【0065】)、鋼鈑表面に塗付後の密着強度(【0066】~【0068】)、平均細孔径(【0069】)の各事項について具体的な説明がなされており、さらに、焼鈍分離剤の30℃の水溶液のCAA70%/CAA40%の比(【0070】)、微量含有物等(【0072】~【0081】)、焼鈍分離剤の粒子の平均粒径(【0071】)の各事項についても具体的な説明がなされている。
(イ)また、本件明細書には、焼鈍分離剤の製造方法について、酸化マグネシウムとアンモニウム塩溶液とを混合・反応して、マグネシウム塩溶液とアンモニアとを調製し、次に、精製されたマグネシウム塩溶液とアンモニアとを反応させて水酸化マグネシウムを得て、得られた水酸化マグネシウムの一部を155~230℃で高温熟成させ、且つ得られた水酸化マグネシウムの他の一部を10~100℃で低温熟成させ、上記各条件で熟成させた水酸化マグネシウムを混合して、焼成し、酸化マグネシウムを得て、焼鈍分離剤に用いることと記載されており(【0032】)、さらに、上記の焼鈍分離剤の製造方法における各条件等についても具体的な説明がなされている(【0034】~【0058】)。
そして、本件明細書には、上記の焼鈍分離剤の製造方法により、純度が高く、分散性(懸濁性)及び密着強度に優れ、方向性電磁鋼板の表面に均一な緻密なフォルステライト層を形成することができる焼鈍分離剤を得ることができ、また、優れた絶縁性及び電磁特性を有する方向性電磁鋼板を製造できることが記載されている(【0033】)。
(ウ)ここで、本件明細書には、沈降係数Sは分散性(懸濁性)と関連することが記載されているところ(【0063】~【0065】)、上記の製造方法により製造された焼鈍分離剤は「分散性(懸濁性)及び密着強度に優れ」たものである以上、当業者であれば、上記の焼鈍分離剤の製造方法により、本件発明6、13の「沈降係数Sが0.90以上であり、鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上であ」るとの発明特定事項を満たす焼鈍分離剤を製造できることが理解できるといえる。
ウ そして、本件明細書に記載された実施例1~6において、「形成されるフォルステライト絶縁層と基板との結合力をより強固にする」「不活性酸化マグネシウム」(以上、【0081】)を含有するものの、少なくとも密着強度が90%に近い実施例1~4では、上記アの発明特定事項を満たす本件発明6、13の「焼鈍分離剤」が得られている蓋然性が高い。また、「不活性酸化マグネシウム」は、焼鈍分離剤にさらに良好な性質を発現させることができる任意成分であるから(【0056】、【0079】)、上記イの検討を踏まえると、当業者であれば、少なくとも実施例1~4においては、「不活性酸化マグネシウム」を含有させなくても、上記アの発明特定事項を満たす本件発明6、13の「焼鈍分離剤」が得られることが理解できる。
エ また、実施例1~4において、低温熟成が70℃150分、高温熟成が160℃150分行うことが記載(【0106】)されており、技術常識からみて、これらの条件において、温度を低温に変化させれば時間を増加させ、高温に変化させれば時間を減少させればよいことも理解できる。
オ さらに、焼成の条件も940℃25分(合成例2~6、【0110】、【0112】、【0114】、【0116】、【0118】参照。)が示されており、上記ウと同様に温度や時間を変化させることが可能であると理解できる。
カ また、低温熟成と高温熟成との混合比(表1参照。)は、合成例2~6のように変化させれば、沈降係数S、密着強度が表3のように変化することも示されている。
キ そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項6、13に係る発明について、当業者がその実施をする際に過度の試行錯誤を必要とするものとはいえない。
ク よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項6、13及び請求項6を引用する請求項7~11に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
(2)達成すべき結果によって物を特定しようとする記載について
ア 申立人1が主張するように、確かに、特許・実用新案審査基準には、「請求項が達成すべき結果によって物を特定しようとする記載を含んでおり、発明の詳細な説明に特定の実施の形態のみが実施可能に記載されている場合であって、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識(実験や分析の方法等も含まれる点に留意。)を考慮しても、請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないとする十分な理由があるときには、実施可能要件違反となる。」(第II部の第1章の第1節の5.2)と記載されている。
イ しかしながら、上記(1)で検討したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項6、13及び請求項6を引用する請求項7~11に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、申立人1が主張するような、上記アの「請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないとする十分な理由があるとき」に該当しない。
ウ したがって、上記アのように「実施可能要件違反」とはならない。
エ よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項6、13及び請求項6を引用する請求項7~11に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
5 申立理由1-2の(1)及び(2)(サポート要件)について
(1)サポート要件について
ア 本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の記載からみて、「純度が高く、分散性(懸濁性)及び密着強度に優れ、方向性電磁鋼板の表面に均一で緻密なフォルステライト層を形成することができる」「焼鈍分離剤」(【0014】)を提供することであると認められる。
イ そして、本件明細書には、次の記載がある。
「【0062】
以上のように、本発明の焼鈍分離剤は、純度が高い。具体的には、本発明の焼鈍分離剤は、不純物含有量が低く、特にナトリウム(Na)の含有量が低く、例えばナトリウム含有量が20~50ppmであってもよい。上記のように、低ナトリウム含有量は、本発明の特徴の一つである。適量のナトリウムが存在すると、酸化物の融点を低下させることができる。これにより、固相反応を促進することができるので、フォルステライト層の形成に有利となる。ナトリウム含有量が20ppmより低い場合は、反応促進効果が著しくなく、ナトリウム含有量が50ppmより高い場合は、反応速度が速くなりすぎ、緻密なフォルステライト絶縁層の形成に不利となる。ナトリウム含有量は、好ましくは25~50ppmであり、より好ましくは35~45ppmである。本発明の焼鈍分離剤中のナトリウムは、主に原料に含まれる不純物と反応過程で導入される不純物に由来する。低ナトリウム含有量は、本発明の焼鈍分離剤の純度の指標とすることもできる。
【0063】
また、本発明の焼鈍分離剤は、下記式で定義される沈降係数Sが0.90以上である。
S=(100-V)/100
ここで、Vは、100mlの10wt%の焼鈍分離剤分散液を1時間静置した後の上澄みの体積(単位ml)を示す。例えば上澄みの体積が15mlである場合、15となる。
【0064】
該沈降係数の具体的な測定方法は、例えば以下のとおりであってもよい。
10wt%の焼鈍分離剤分散液を配置して均一に分散した後、直ちに100mlの該分散液を取り出して、100mlのメスシリンダーに入れ、所定時間静置する。次に、上記式に従って沈降係数を求める。
【0065】
上記範囲内の沈降係数を有することにより、本発明の焼鈍分離剤は、良好で安定した分散性及び沈降性を有し、非常に安定した状態で存在し、凝集しにくい。本発明の焼鈍分離剤は、塗布液として塗布する際に、塗布に適した良好な分散状態を長時間保持することができ、得られる塗布層の塗布ムラを低減し、フォルステライト層の均一性を向上させることができる。
【0066】
また、本発明の焼鈍分離剤は、鋼板表面に塗布した後の下記式で定義される密着強度が80%以上である。
【0067】
密着強度=[(研磨後の鋼板重量-塗布前の鋼板重量)/研磨前の鋼板重量-塗布前の鋼板重量]×100%
【0068】
上記密着強度を有することにより、本発明の焼鈍分離剤は、密着強度が高く、鋼板との結合性が高いので、鋼板から離脱しにくく、それにより方向性電磁鋼板の製造過程において良好な反応を促進するという効果を果たすことができる。密着強度が80%より低い場合は、仕上げの焼鈍処理後に形成されるフォルステライト層が不均一になるという現象が発生する可能性があり、方向性電磁鋼板の品質や外観に影響を与える。該密着強度は、好ましくは85%以上であり、より好ましくは88%以上である。密着強度のより具体的な測定方法は、実施例部分を参照することができる。」
ウ 上記イの【0062】の記載から、「本発明の焼鈍分離剤は、純度が高い。」「特にナトリウム(Na)の含有量が低く、例えばナトリウム含有量が20~50ppmであってもよい。」「ナトリウム含有量が50ppmより高い場合は、反応速度が速くなりすぎ、緻密なフォルステライト絶縁層の形成に不利となる」ことが理解できる。
エ また、上記イの【0063】~【0065】の記載から、「沈降係数Sが0.90以上である」ことにより、「良好で安定した分散性及び沈降性を有し、非常に安定した状態で存在し、凝集しにく」く、「塗布液として塗布する際に、塗布に適した良好な分散状態を長時間保持することができ、得られる塗布層の塗布ムラを低減し、フォルステライト層の均一性を向上させることができる」ことが理解できる。
オ さらに、上記イの【0066】~【0068】の記載から、「密着強度が80%以上である」ことにより、「焼鈍分離剤は、密着強度が高く、鋼板との結合性が高いので、鋼板から離脱しにくく、それにより方向性電磁鋼板の製造過程において良好な反応を促進するという効果を果たすことができる」ことが理解できる。
カ 一方、本件発明6、13は上記第2で示したとおりのものである。
キ そうすると、上記ウに照らせば、本件発明6、13の「Na含有量が20~50ppmであ」る発明特定事項により、「焼鈍分離剤は、純度が高」いものが得られ、「ナトリウム含有量が50ppmより」低いことにより、「緻密なフォルステライト絶縁層」を形成できることが理解できる。
ク また、上記エに照らせば、本件発明6、13の「沈降係数Sが0.90以上であ」る発明特定事項により、「良好で安定した分散性」「を有し、」「フォルステライト層の均一性を向上させることができる」ことが理解できる。
ケ さらに、上記オに照らせば、本件発明6、13の「鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上であ」る発明特定事項により、「焼鈍分離剤は、密着強度が高」いことが理解できる。
コ したがって、上記キ~ケより、本件発明6、13は上記アの課題を解決し得るものといえる。
サ よって、請求項6、13及び請求項6を引用する請求項7~11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
(2)申立人1の主張について
ア 他の成分の存在について
(ア)申立人1は、本件明細書に記載されたすべての実施例において、助剤、不活性マグネシウム及び二酸化チタンを添加しているし、特に、不活性マグネシウムは本件明細書【0081】に、本件発明6、13の「密着強度」を満たす上で必須成分である可能性が示唆されており、これらの成分は必須成分であると主張している(申立人1が提出した特許異議申立書(以下、「申立書1」という。)第16頁第8行~第17頁第19行)。
(イ)しかしながら、上記(1)で検討したとおり、実施例における結果にかかわらず、本件発明6、13は上記(1)のアの課題を解決し得るものであるし、不活性マグネシウムを添加することで密着強度が向上したとしても、上記(1)の検討を考慮すると、不活性マグネシウムの添加は、より密着強度が向上する事項であると解され、他の成分についても任意成分と解される(本件明細書【0055】、【0056】、【0072】~【0076】、【0079】~【0081】)から、申立人1の主張は採用できない。
イ 平均細孔径、CAA及び平均粒径について
(ア)申立人1は、本件明細書【0069】~【0071】には、平均細孔径、CAA70%/CAA40%比及び平均粒径が、被膜の特性に影響を与えることが記載されており、また、本件明細書に記載されたすべての実施例において、これらのパラメ-タの全てが特定の範囲に制限されているから、当該特定の範囲から外れたものが、本件発明の課題を解決し得るかは不明であると主張している(申立書1第17頁第21行~第18頁第17行)。
(イ)しかしながら、上記(1)で検討したとおり、実施例における結果にかかわらず、本件発明6、13は上記(1)のアの課題を解決し得るものであるから、申立人1の主張は採用できない。
6 申立理由1-3の(1)(明確性要件)について
(1)不活性酸化マグネシウムについて
ア 請求項9には、「前記酸化マグネシウムの重量に基づいて、下記の少なくともいずれかを更に含有する、請求項6~8のいずれか一項に記載の焼鈍分離剤。」
「不活性酸化マグネシウム:0wt%超~25.0wt%」と記載されている。
イ そして、本件明細書には、次の記載がある。
「【0049】
本発明の製造方法では、次に、高温熟成させた水酸化マグネシウムと低温熟成させた水酸化マグネシウムとを混合し、混合物を焼成する。」
「【0051】
該焼成の温度は、820~1150℃であってもよく、好ましくは840~1100℃であり、より好ましくは860~1050℃である。」
「【0056】
・・・(略)・・・不活性酸化マグネシウムとは、上記の本発明の範囲を超える温度で高温焼成された酸化マグネシウムである。その焼成温度が高すぎるため、少なくとも部分的に反応活性を失う。」
ウ すなわち、上記イの【0056】より、「不活性酸化マグネシウムとは、上記の本発明の範囲を超える温度で高温焼成された酸化マグネシウムであ」り、また、上記イの【0051】より、焼成の温度の上限は1150℃であるから、請求項9の「不活性酸化マグネシウム」とは、1150℃を超える温度で高温焼成された酸化マグネシウムであることは明らかである。
以上によれば、請求項9の「不活性酸化マグネシウム」について、反応活性がどの程度のものを「不活性」というかが定義されていないとしても、当業者であれば、具体的にどのようなものを意味しているのか理解できる。
エ よって、請求項9及びそれを引用する請求項10、11の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
7 申立理由1-4(進歩性)について
(1)甲1-1に記載された発明
ア 甲1-1には、「本発明の酸化マグネシウムは、酸化マグネシウムを主体とし、・・・(略)・・・方向性電磁鋼板の焼鈍分離剤として使用される」(【0015】)と記載されている。すなわち、上記「本発明の酸化マグネシウム」は焼鈍分離剤である。
イ そして、甲1-1の実施例1の酸化マグネシウム粉末である焼鈍分離剤に注目すると、甲1-1(【0015】、【0045】~【0048】参照。)には次の発明(以下、「甲1-1発明」)が記載されていると認められる。
「塩化マグネシウム(試薬特級)を純水に溶解させ塩化マグネシウム水溶液を作製し、次に水酸化カルシウム(試薬特級)を純水に入れ、水酸化カルシウム分散液を作製し、これらの塩化マグネシウム水溶液及び水酸化カルシウム分散液をMgCl2/Ca(OH)2=1.1のモル比で混合し、混合液を得た後、ホウ酸(特級)、硫酸マグネシウム(特級)、塩化ナトリウム(特級)、リン酸マグネシウム(一級)を適量混合液に投入し、反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得て、その後、水酸化マグネシウムスラリーを濾過し、得られた水酸化マグネシウムをその質量の100倍の質量の純水で洗浄し、乾燥して、水酸化マグネシウム粉末を得て、得られた水酸化マグネシウム粉末に、塩化マグネシウム六水和物(特級)を適量混合した後、電気炉で焼成して得た、酸化マグネシウム粉末である焼鈍分離剤であって、
B含有量が830ppmであり、
Na含有量が10ppmであり、
SO3含有量が0.10%であり、
P含有量が197ppmであり、
Cl含有量が164ppmであり、
D10が1.06μmである、
酸化マグネシウム粉末である焼鈍分離剤。」
(2)対比
ア 本件発明6の「焼鈍分離剤」は、「主に酸化マグネシウムを含む」ものであるから、本件明細書【0061】の記載に照らせば、酸化マグネシウムの他は、「不可避的不純物(例えば、Na)である。」
一方、甲1-1発明の「酸化マグネシウム粉末」は、「塩化マグネシウム(試薬特級)を純水に溶解させの塩化マグネシウム水溶液を作製し、次に水酸化カルシウム(試薬特級)を純水に入れ、水酸化カルシウム分散液を作製し、これらの塩化マグネシウム水溶液及び水酸化カルシウム分散液をMgCl2/Ca(OH)2=1.1のモル比で混合し、混合液を得た後、ホウ酸(特級)、硫酸マグネシウム(特級)、塩化ナトリウム(特級)、リン酸マグネシウム(一級)を適量混合液に投入し、反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得て、その後、水酸化マグネシウムスラリーを濾過し、得られた水酸化マグネシウムをその質量の100倍の質量の純水で洗浄し、乾燥して、水酸化マグネシウム粉末を得て、得られた水酸化マグネシウム粉末に、塩化マグネシウム六水和物(特級)を適量混合した後、電気炉で焼成して得た、酸化マグネシウムであって、B含有量が830ppmであり、Na含有量が10ppmであり、SO3含有量が0.10%であり、P含有量が197ppmであり、Cl含有量が164ppmであ」って、「ホウ酸(特級)、硫酸マグネシウム(特級)、塩化ナトリウム(特級)、リン酸マグネシウム(一級)を適量混合液に投入」するものであるから、本件発明6の「主に酸化マグシウムを含む」との発明特定事項を有するものとはいえない。
イ 上記アより、上記3の(1)の検討も踏まえると、本件発明6と甲1-1発明とは、
「焼鈍分離剤。」である点で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点1-1)
本件発明6は、「日本のRIGAKU INDUSTRIAL社製のZSX PrimusII X線蛍光分光計を用いて」「定量分析」(【0093】)を行った結果、「Na含有量が20~50ppmであ」るのに対し、甲1-1発明は、「日立偏光ゼーマン原子吸光光度計(Z-2300 株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて」「測定した」(【0034】)、「Na含有量が10ppmであ」る点。
(相違点1-2)
本件発明6は、「沈降係数Sが0.90以上であ」るのに対し、甲1-1発明は、沈降係数が不明である点。
(相違点1-3)
本件発明6は、「鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上であ」るのに対し、甲1-1発明は、鋼鈑表面に塗付後の密着強度が不明である点。
(相違点1-4)
本件発明6は、「主に酸化マグネシウムを含む」のに対し、甲1-1発明は、製造時に「ホウ酸(特級)、硫酸マグネシウム(特級)、塩化ナトリウム(特級)、リン酸マグネシウム(一級)を適量混合液に投入」するものである点。
(3)相違点についての検討
ア 事案に鑑み、まず、上記相違点1-2について検討する。
イ 甲1-1には、「沈降係数S」や焼鈍分離剤についての分散性について何ら記載も示唆もされていない。
ウ そうすると、甲1-1には、「沈降係数Sが0.90以上であ」るとの発明特定事項が記載されているとはいえないし、甲1-1発明において、当該発明特定事項を得る動機も見当たらない。
エ この結論は、甲1-2を参酌しても変わらない。
オ よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲1-1発明及び甲1-2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
カ また、本件発明7~11、13は、本件発明6の発明特定事項を全て含むものであるから、甲1-1発明とは少なくとも上記相違点1-2で相違し、上記相違点1-2については上記で検討したとおりである。
キ この結論は、甲1-2~甲1-4を参酌しても変わらない。
ク よって、本件発明7は、甲1-1に記載された発明及び甲1-2~1-3に記載された事項に基いて、本件発明8~11、13は、甲1-1に記載された発明及び甲1-2~1-4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)申立人1の主張について
ア 申立人1は、申立書1(第26頁第8~14行)において、甲1-1発明は、外観及び密着性に優れるフォルステライト被膜を形成できたとされているから、十分に優れた「沈降係数S」を有していると判断され、本件発明の「沈降係数Sが0.90以上であ」る蓋然性が高いと主張している。
イ しかしながら、甲1-1には、「ホウ素成分とナトリウム成分の総モル数を考慮し、塩素成分及び硫黄成分を制限しつつ、焼鈍分離剤中のホウ素とナトリウムの含有総モル数に対する塩素及び硫黄の含有総モル数を所定の比率に制限すると、」「被膜の密着性」「に優れたフォルステライト被膜を形成することができる」(【0013】)と、「リンを100~1000質量ppm含有することにより、更に」「被膜の外観」「に優れたフォルステライト被膜を形成することができる」(【0014】)と、「酸化マグネシウムのCAA40%が50秒未満であれば、」「フォルステライト被膜の(b)被膜外観」「が悪くなる」(【0025】)とそれぞれ記載されている。
ウ すなわち、甲1-1発明は、焼鈍分離剤の添加元素や酸化マグネシウムのCAA40%を調整して、被膜の密着性や外観を良好にしたものであって、甲1-1には、被膜の密着性や外観が、「沈降係数S」と関係することは記載も示唆もされていないし、「沈降係数Sが0.90以上」という数値も何ら記載されていない。
エ そうすると、甲1-1発明の「焼鈍分離剤」について、「沈降係数Sが0.90以上」であるとはいえないし、甲1-1発明の「焼鈍分離剤」において、「沈降係数S」を「0.90以上」とすることは、当業者が容易になしえたこととはいえない。
オ よって、申立人1の主張は採用できない。
8 申立理由2-1(進歩性)について
(1)甲2-2に記載された発明
ア 甲2-2の実施例1のNo.4の鋼板の処理に用いた焼鈍分離剤に注目すると、甲2-2(【0055】、表1参照。)には、次の発明が記載されていると認められる。
「MgOを主剤とし、添加剤として焼鈍分離剤全体に対して、TiO2をTi換算で2mass%添加し、さらに、硫酸Naを添加して、焼鈍分離剤全体に対するNaおよびBaの含有量をそれぞれ30massppm、10massppmとした焼鈍分離剤。」
(2)対比
ア 上記7の(2)のアに照らせば、甲2-2発明は、「TiO2をTi換算で2mass%添加し、さらに、硫酸Naを添加」するものであるから、本件発明6の「主に酸化マグシウムを含む」との発明特定事項を有するものとはいえない。
イ 上記アより、上記3の(1)の検討も踏まえると、本件発明6と甲2-2発明とは、
「焼鈍分離剤。」である点で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点2-1)
本件発明6は、「日本のRIGAKU INDUSTRIAL社製のZSX PrimusII X線蛍光分光計を用いて」「定量分析」(【0093】)を行った結果、「Na含有量が20~50ppmであ」るのに対し、甲2-2発明は、「焼鈍分離剤全体に対するNa」「の含有量を」「30massppm」「とした」ものの、その測定方法が不明である点。
(相違点2-2)
本件発明6は、「沈降係数Sが0.90以上であ」るのに対し、甲2-2発明は、「沈降係数S」が不明である点。
(相違点2-3)
本件発明6は、「鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上であ」るのに対し、甲2-2発明は、鋼鈑表面に塗付後の密着強度が不明である点。
(相違点2-4)
本件発明6は、「主に酸化マグネシウムを含む」のに対し、甲2-2発明は、「TiO2をTi換算で2mass%添加し、さらに、硫酸Naを添加」するものである点。
(3)相違点についての検討
ア 事案に鑑み、まず、上記相違点2-2について検討する。
イ 甲2-2には、「沈降係数S」や焼鈍分離剤についての分散性について何ら記載されていない。
ウ 一方、甲2-4には、焼鈍分離剤スラリーにおいて、「本発明のコロイド状のTiO2を使用した場合、凝集、沈降は全く起こらず、完全に分散して極めて均一なスラリーとなる」(第3頁右下欄第10~13行)と、甲2-5には、焼鈍分離剤スラリーにおいて、「通常、方向性珪素鋼に用いられるMgO粒子は微細で重量の影響を受けにくくスラリーにしたときの粒子沈降速度は小さいが、この粗大粒は沈降速度が早いため容易に沈降して鋼板上に付着する。鋼板上に付着した粗大MgO粒子はそのまま鋼板上に持ち込まれ、そのまま仕上げ焼鈍が行われる。仕上げ焼鈍時には鋼板の熱膨張により鋼板同士は強く圧迫され、このとき粗大 MgO粒子が押し傷を作る。このような押し傷は、磁束の流れを妨げるとともに占積率も低下させるために磁気特性が低下する」(【0012】)と、甲2-6には、焼鈍分離剤スラリーにおいて、「粒径2μm程度のマグネシア粉末は水スラリーを調製し、静置しても、その粒径が小さいが故に沈降速度がおそく、短時間のうちに沈殿を生じる事はなく、また、配管内で堆積し、管の閉塞を起こす事もない。更には、ロールコーターを使って鋼板に塗布する事も容易である」(【0015】)と、甲2-7には、「焼鈍分離剤粒子の粒径は、特に限定されるものではないが、0.05μm~500μm程度であることが好ましく、より好ましくは0.1μm~200μmの範囲内である。・・・(略)・・・粒径が上記範囲を超える場合には、スラリーの調製の際に焼鈍分離剤粒子が沈降し易くなり、冷間圧延鋼板の表面にスラリーを安定して均一に塗布することが困難になる場合があるからである」(【0064】)と、それぞれ記載されている。
エ しかしながら、甲2-2発明は、「脱炭焼鈍後の鋼板表層の酸素目付量を適正化するとともに、MgOを主剤とする焼鈍分離剤中に、添加剤として、Tiに加えてNaを極微量適正範囲で添加し、さらにMgOまたは添加物中にBaを適正量含有させることで、フォルステライト被膜-地鉄界面の凹凸を適正化し、被膜密着性を改善しつつヒステリシス損を低減できることを見出し」(【0010】)たものであって、上記イのとおり、「沈降係数S」や焼鈍分離剤についての分散性について何ら記載されていないから、甲2-2発明において、上記ウの各文献に記載された事項を適用する動機がない。
また、仮に、適用する動機があったとしても、甲2-4~2-7には、「沈降係数S」自体や、「沈降係数Sが0.90以上であ」るという具体的な数値については何ら記載も示唆もないから、甲2-2発明において、上記相違点2-2に係る本件発明6の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
オ この結論は、甲2-1、2-3、2-8、2-9を参酌しても変わらない。
カ よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲2-2発明及び甲2-1、2-3~2-9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)申立人2の主張について
ア 申立人2は、申立書2において、甲2-4~2-7の記載を踏まえると、「沈降係数Sが0.90以上であ」ることは、本件の出願時の技術常識であり、甲2-4~2-7の記載事項から、当業者が容易に想到できた事項であると主張している(申立書2第28頁第16行~第29頁第4行)。
イ しかしながら、甲2-4~2-7には、いずれも焼鈍分離剤スラリーにおける沈降について記載されているものの、「沈降係数S」自体については記載されておらず、また、その沈降の程度が不明であるから、「沈降係数Sが0.90以上であ」ることが記載されているとはいえない。
ウ したがって、本件発明6の「沈降係数Sが0.90以上であ」ることは、本件の出願時の技術常識であることに足り得る証拠が提示されているとはいえない。
エ よって、申立人2の主張は採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、本件の請求項6~11、13に係る特許は、令和6年12月13日付けで通知した取消理由(決定の予告)、同年8月26日付けで通知した取消理由、並びに、申立人1が提出した特許異議申立書、及び、申立人2が提出した特許異議申立書にそれぞれ記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項6~11、13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700334