特許異議申立
2024-700925
保持装置
- 審判番号
- 2024-700925
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-150178
- 登録番号
- 7458354
- 請求日
- 2024年09月25日
- 審決日
- 2024年12月09日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本特殊陶業株式会社
- 【権利者代理人】田邊 淳也
- 【権利者代理人】川上 みな
- 【異議申立人】清水 朋子
- 審判長/審判官
- 審判長 恩田 春香
- 審判官 中野 浩昌
- 審判官 梶尾 誠哉
- 分類
- P1651.113-Y (H01L) / P1651.121-Y (H01L) / P1651.537-Y (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7458354号発明「保持装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7458354号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許7458354号の請求項1~5に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和3年9月15日に出願され、令和6年3月21日にその特許権の設定登録がされ、令和6年3月29日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許に対し令和6年9月25日に特許異議申立人 清水朋子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明5」という。)は、それぞれ願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
対象物を保持する保持装置であって、
板状に形成される板状部と、
前記板状部を支持し、前記板状部を主に形成する材料の熱膨張率と異なる熱膨張率を有する材料を主とし、冷却機能を有し、板状に形成されるベース部と、
前記板状部と前記ベース部との間に配置され、接着剤を含み、前記板状部と前記ベース部とを接合する接合部と、
を備え、
前記接合部の熱抵抗は、5.0×10-4(m2K/W)以下であり、
前記接合部の最大せん断応力時ひずみ量は、0.5mm以上であり、
前記接合部は、前記接着剤と無機フィラーとを含む複合物により構成され、
前記無機フィラーを断面視したときの内接円の半径をR1とし、外接円の半径をR2とすると、R2/R1の値の平均値が1.10以上であることを特徴とする
保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載の保持装置であって、
前記接合部は、該接合部について引張試験を行い、せん断力による変形の長さが0.5mmになるときのせん断応力が、0.1MPa以上、3.5MPa以下であることを特徴とする
保持装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の保持装置であって、
前記接合部の剛性率が0.03MPa以上、2.0MPa以下であることを特徴とする
保持装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記接合部は、前記接着剤を含む樹脂層と、前記樹脂層内において前記接合部の面方向に広がるように形成されて、無機材料によって構成される無機シートと、を備えることを特徴とする
保持装置。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記板状部は、セラミックを主成分とし、前記対象物を保持するための吸着電極を含み、前記対象物を加熱するためのヒータ電極を含まないことを特徴とする
保持装置。
第3 特許異議申立書に記載された申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証~甲第3号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲3」という。)を提出し、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、以下の理由により、請求項1~5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由1(新規性)
本件発明1~3、5は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許の請求項1~3、5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。(以下「申立理由1」という。)
2 申立理由2(進歩性)
本件発明1~3、5は、甲1に記載された発明に基づいて、又は甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、その発明の技術分野に属する通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、本件発明4は、甲1に記載された発明に基づいて、又は甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基づいて、又は甲1に記載された発明及び甲2、甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(以下「申立理由2」という。)
3 申立理由3(明確性)
本件発明1~5は、明確でないから、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていない。(以下「申立理由3」という。)
4 申立理由4(サポート要件)
本件発明1~5は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない。(以下「申立理由4」という。)
[証拠方法]
甲1:特開2008-218992号公報
甲2:特開2011-222978号公報
甲3:特開2020-68219号公報
第4 甲各号証
1 甲1の記載と甲1発明
(1)甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。(強調のため当審が下線を付した。)
「【0001】
本発明は、静電チャック又はヒータ付静電チャック等の半導体製造装置用サセプターと冷却板を接合する接合剤及びこの接合剤により接合された半導体製造装置用サセプターと冷却板を備える半導体支持装置に関する。」
「【0008】
本発明に係る接合剤は、付加硬化型シリコーン粘着剤からなる硬化シートにより形成され、付加硬化型シリコーン粘着剤は、1分子に2個以上のビニル基を含有するオルガノポリシロキサンと、R3SiO1/2(Rは脂肪族不飽和結合を有しない炭素数1~6の1価炭化水素基)で表される単位(以下Mと表記)とSiO4/2で表される単位(以下Qと表記)とをR3SiO1/2単位/SiO4/2単位のモル比(M/Q比)が0.6以上1.6以下の範囲内になる割合で含むオルガノポリシロキサンレジンと、ケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、白金触媒と、20[vol%]以上50[vol%]以下の含有率を有する熱伝導性フィラーとを含有する。」
「【0020】
熱伝導性フィラーは、平均粒径が1[μm]以下の微細粒子と平均粒径が10[μm]以上30[μm]以下の数値範囲内にある粗粒子とを重量比が3:7以上1:9以下の範囲内になるように混合した粒子により形成されていることが望ましい。これにより、微細粒子が粗粒子の間に充填され、熱伝導性が安定化する。また最密充填化が図れることにより、接合剤の低弾性を維持しつつ半導体製造装置用サセプター及び冷却板との密着性を向上させることができる。なお、熱伝導性フィラーの平均粒径が30[μm]以上になると接合剤表面の平滑性が低下することによって粘着性が低下しやすくなる。
【0021】
接合剤と半導体製造装置用サセプター及び冷却板の接合面には予めシランカップリング系プライマーを塗布しておくことが望ましい。また半導体製造装置用サセプターは、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ホウ素(BN)、イットリアのうちのいずれかにより形成され、冷却板は、アルミニウム合金、真鍮のうちのいずれかにより形成されていることが望ましい。」
「【0028】
本発明に係る接合剤は、例えば図1に示すような、半導体ウェハ1を支持する半導体製造装置用サセプター2と、冷却媒体供給路3aに供給された冷却媒体によって半導体製造装置用サセプター2を冷却することにより半導体ウェハ1の温度を制御する冷却板3とを備える半導体支持装置における、半導体製造装置用サセプター2と冷却板3を接合するための接合剤4に適用することができる。なお、図1に示す半導体支持装置では、半導体製造装置用サセプター2,冷却板3,及び接合剤4には、半導体ウェハ1と半導体製造装置用サセプター2の間にガスを供給するためのガスチャンネル5と、リフトピンを挿入して半導体製造装置用サセプター2から半導体ウェハ1を取り外すためのリフトピン穴6が形成されている。
【0029】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0030】
〔実施例1〕
実施例1では、始めに、分子鎖両末端にビニル基を含有するオルガノポリシロキサンを100質量部、R3SiO1/2(Rは脂肪族不飽和結合を有しない炭素数1~6の1価炭化水素基)で表される単位(以下Mと表記)とSiO4/2で表される単位(以下Qと表記)とをR3SiO1/2単位/SiO4/2単位のモル比(M/Q比)が1.1になる割合で含むオルガノポリシロキサンレジンを180質量部、ケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンをビニル基を含有するオルガノポリシロキサンのビニル基に対する成分中のSiH基のモル比が15となる量、白金触媒、及び20[vol%]の含有率を有し、平均粒径0.7[μm]の酸化アルミニウム(微細粒子)と平均粒径20[μm]の酸化アルミニウム(粗粒子)とを重量比10:90の割合で混合した熱伝導性フィラーからなる混合物をトルエンに溶解させた付加硬化型シリコーン粘着剤をPET離型フィルムに塗工し、100[℃]の熱風循環式乾燥機内にて10分間硬化後、硬化物をPET離型フィルムから剥離することにより厚さ120[μm]の実施例1の接合剤を得た。次に、本接合剤を種々の形状のアルミニウム(Al)角板と窒化アルミニウム(AlN)角板に100[℃],1.4[MPa]で10分間加熱加圧接合することにより実施例1の接合体を得た。
・・・(中略)・・・
【0034】
〔実施例5〕
実施例5では、熱伝導性フィラーの含有率を33[vol%]とした以外は実施例1と同じ条件で製造することにより、実施例5の接合体を得た。
【0035】
〔実施例6〕
実施例6では、微細粒子と粗粒子の重量比を20:80とした以外は実施例5と同じ条件で製造することにより、実施例6の接合体を得た。
【0036】
〔実施例7〕
実施例7では、AlとAlNの接合面に予めシランカップリング系プライマーを塗布した以外は実施例6と同じ条件で製造することにより、実施例7の接合体を得た。
・・・(中略)・・・
【0043】
〔実施例14〕
実施例14では、熱伝導性フィラーの材質を窒化アルミニウム(AlN)とした以外は実施例7と同じ条件で製造することにより、実施例14の接合体を得た。」
「【0056】
[せん断剥離試験]
幅25[mm]×長さ35[mm]×厚さ10[mm]のAlN製角板11とAl製角板12の間に、上記実施例1~15及び比較例1~8の各接合剤を25×25[mm]の大きさに切り出したものを挟み、100[℃],14[atm]で加熱加圧して接合体を作製した。そして図2に示すようなせん断剥離試験装置を用いて、室温及び150[℃]における各接合体のせん断剥離強度とせん断伸びを測定した。測定結果を以下の表1に示す。なお、φ300mmサイズの実体接合体においては、接合界面の気密性を保持するために、せん断剥離強度が室温で0.5[MPa]以上、150[℃]で0.2[MPa]以上、またせん断伸びについては室温,150[℃]共に0.04以上を目標値とすることが経験的にわかっている。
【0057】
・・・(中略)・・・
【表1】
[図:0001418272000001.jpg]
」
「【0058】
[熱伝導率の熱劣化試験]
φ10×t1[mm]のAlN製円板とφ10×t2[mm]のAl製円板の間に実施
例1,5~9及び比較例1,4,7~11の各接合剤を25×25[mm]の大きさに切り出したものを挟み、100[℃],14[atm]で加熱加圧して接合体を作製した。そして、150[℃]の状態に500時間保持する耐久試験を行った後の各接合体の熱伝導率をレーザーフラッシュ法により測定し、熱伝導率の熱劣化を測定した。そして、測定された接合体全体の熱伝導率から既知であるAlN(90[W/mK])及びAl(160[W/mK])の熱伝導率を除くことにより接合剤単体及び接合界面の熱抵抗を加味した接合層の熱伝導率を算出した。測定結果を以下の表2に示す。熱伝導率の目標値は0.30[W/mK]以下(当審注:【表1】の実施例1~15の熱伝導率λの値からみて、「以下」は「以上」の誤記と認める。)である。
【0059】
比較例1,4,7~11の接合体では、接合剤の熱伝導率が耐久試験後に低下するのに対して、実施例1,5~9,11~15の接合体では、耐久試験前後で接合剤の熱伝導率の低下は認められなかった。
・・・(中略)・・・
【表2】
[図:0001418272000002.jpg]
」
「【図1】
[図:0001418272000003.jpg]
」
(2)甲1発明
上記(1)の記載によれば、甲1には、実施例14の接合体を接合剤4とする半導体支持装置についての次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。(括弧内は、甲1の引用箇所を示す。)
[甲1発明]
「半導体ウェハ1を支持する半導体製造装置用サセプター2と、
冷却媒体供給路3aに供給された冷却媒体によって半導体製造装置用サセプター2を冷却することにより半導体ウェハ1の温度を制御する冷却板3と、
半導体製造装置用サセプター2と冷却板3を接合するための接合剤4と
を備える半導体支持装置(【0028】)であって、
半導体製造装置用サセプター2は、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ホウ素(BN)、イットリアのうちのいずれかにより形成され、冷却板3は、アルミニウム合金、真鍮のうちのいずれかにより形成されており、(【0021】)
接合剤4は、熱伝導性フィラーを含有する付加硬化型シリコーン粘着剤であり、(【0008】)
熱伝導性フィラーは、平均粒径0.7[μm]の窒化アルミニウム(AlN)(微細粒子)と平均粒径20[μm]の窒化アルミニウム(AlN)(粗粒子)とを重量比20:80の割合で混合したものであり、(【0030】、【0035】、【0043】、【表1】)
接合剤4は、
厚さ120[μm]で、25×25[mm]の接合剤4を加熱加圧して作製した接合体の熱伝導率λは、0.65[W/mK](耐久試験前)及び0.64[W/mK](耐久試験後)であり、(【0030】、【0058】、【表2】
25×25[mm]の接合剤4を加熱加圧して作製した接合体のせん断伸びは、0.062(室温)及び0.049(150℃)である、(【0056】、【表1】)
半導体支持装置。」
2 甲2の記載と甲2記載事項
(1)甲2の記載
甲2には、以下の記載がある。
「【0071】
(接合剤)
接合剤とは、セラミック板と温調プレート、セラミック板とヒータとを接着する接合剤である。
・・・(中略)・・・
【0072】
(無定形フィラー)
無定形フィラーは、接合剤の熱伝導率の増加を図るための添加材である。このため、その形状は、無定形であることが好ましい。接合剤の主剤と無定形フィラーを混合分散させた接合剤では、主剤のみの接合剤に比べ、熱伝導率が高くなる。例えば、接合剤の主剤単体では、熱伝導率が0.2(W/mK)程度であったのに対して、シリコーン主剤とアルミナ無定形フィラーを混合した場合、熱伝導率が0.8~1.7(W/mK)まで増加する。また、接合剤の主剤への充填率を向上するため、2種類以上の平均径の無定形フィラーを混合分散させてもよい。無定形フィラーの材質は、無機材料である。具体的な材質としては、例えば、アルミナ、窒化アルミニウム、シリカ等が該当する。無定形フィラーと接合剤の主剤との親和性を高めるために、無定形フィラー表面を処理する場合もある。無定形フィラーの重量濃度は、接合剤の主剤に対し、70~80(wt%)である。
【0073】
(球形フィラー)
球形フィラーは、接合剤の厚みを制御するための添加材である。接合剤の厚さをコントロールするためは、その形状は球形であることが好ましい。球形フィラーの材質は無機材料である。但し、球形フィラーの材質と無定形フィラーの材質とは異なる。球形フィラーの材質は、例えば、ガラス等が該当する。フィラー形状が球形になると、接合剤への混合分散が容易になる。さらに、接着時において、球形フィラーと、セラミック板との間に無定形フィラーが存在しても、球形フィラーの形状が球形であるために、無定形フィラーが接合剤中で動き易くなる。球形フィラーの形状は、真球形に近く、かつ、直径の分布が狭い方が好ましい。これにより、接合剤の厚さをより正確にコントロールできる。また、無定形フィラーよりも球形フィラーの径が大きいことが、接合剤をコントロールする上でより好ましい。
【0074】
球形フィラーの「球形」とは、真球状のみならず、真球状に近似した形状、すなわち、全体の90%以上の粒子が形状因子1.0~1.4の範囲にあるものをいう。ここで、形状因子とは、顕微鏡で拡大し観察した数百個(例えば、200個)の粒子の長径と、長径に直交する短径の比の平均値より算出される。したがって、完全な球形粒子のみであれば形状因子は1.0であり、この形状因子が1.0から外れるほど非球形となる。また、ここでいう無定形とは、この形状因子1.4を超えるものをいう。」
(2)甲2記載事項
上記(1)の「無定形フィラーは、接合剤の熱伝導率の増加を図るための添加材である。」(【0072】)、及び「形状因子とは、顕微鏡で拡大し観察した数百個(例えば、200個)の粒子の長径と、長径に直交する短径の比の平均値より算出される。・・・(中略)・・・ここでいう無定形とは、この形状因子1.4を超えるものをいう。」(【0074】)との記載によれば、甲2には、「接合剤の熱伝導率の増加を図るため、形状因子が1.4を超える無定形フィラーを添加すること。」(以下、「甲2記載事項」という。)が記載されているといえる。
3 甲3の記載
甲3には、以下の記載がある。
「【0009】
本保持装置では、前記接合部は、少なくとも第1の接合層と第2の接合層とを含んでいる。第1の接合層は、金属および無機材料の少なくとも一種により形成された繊維を含有し、かつ、断熱性が第2の接合層の断熱性より高い。このため、第1の接合層により、板状部材から第2の接合層への放熱が抑制され、例えば、第2の接合層の熱による劣化を抑制することができる。また、第2の接合層は、第1の接合層とベース部材との間に配置され、柔軟性が第1の接合層の柔軟性より高い。このため、第2の接合層により、板状部材とベース部材との間の熱膨張差による応力を緩和することができる。従って、本保持装置によれば、接合部における応力緩和性を確保しつつ、接合部全体としての耐熱性を向上させることができる。」
「【0030】
(第1の接合層31):
図4は、接合部30における第1の接合層31と第2の接合層32との境界部分の構成を模式的に示す説明図である。第1の接合層31は、金属および無機材料の少なくとも一種により形成された繊維321を含有する。また、第1の接合層31の断熱性は、第2の接合層32の断熱性より高い。・・・」
「【0058】
また、接合部30の各部分(第1の接合層31、第2の接合層32、各保護部62~66)を形成するためのシート状接着剤を作製する。具体的には、第1の接合層31は、繊維321を積層しプレスするなどしてシート状に成形した繊維シートを使用する。・・・」
「【図2】
[図:0001418272000004.jpg]
」
第5 申立理由についての当審の判断
1 申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「半導体支持装置」は、「半導体ウェハ1を支持する半導体製造装置用サセプター2」を備えるところ、「半導体ウェハ1」は、本件発明1の「対象物」に相当し、「半導体製造用サセプター2」は、半導体製造に用いられるから、支持した半導体ウェハ1を保持する必要があることは明らかである。そうすると、甲1発明の「半導体支持装置」は、本件発明1の「対象物を保持する保持装置」に相当する。
(イ)甲1発明の「半導体ウェハ1を支持する半導体製造装置用サセプター2」は、板状であることが明らかである半導体ウェハ1を支持するものであり、甲1の【図1】からみても、板状に形成されたものであるといえるから、本件発明1の「板状に形成される板状部」に相当する。
(ウ)甲1発明の「冷却媒体供給路3aに供給された冷却媒体によって半導体製造装置用サセプター2を冷却することにより半導体ウェハ1の温度を制御する冷却板3」について、冷却板3は、甲1の【図1】からみて、半導体製造装置用サセプター2を下から支持しているといえる。
また、甲1発明の「半導体製造装置用サセプター2は、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ホウ素(BN)、イットリアのうちのいずれかにより形成され、冷却板は、アルミニウム合金、真鍮のうちのいずれかにより形成されて」おり、半導体製造用サセプター2は、セラミック製であるといえ、冷却板3は金属製であるといえるから、両者は主として熱膨張率の異なる材料で形成されているといえる。
また、冷却板3の「冷却媒体供給路3aに供給された冷却媒体によって半導体製造装置用サセプター2を冷却すること」は、冷却機能といえる。
また、冷却板3は、上記のとおり、板状に形成された半導体製造装置用サセプター2を支持するものであり、甲1の【図1】からみても、板状に形成されたものであるといえる。
したがって、甲1発明の「冷却媒体供給路3aに供給された冷却媒体によって半導体製造装置用サセプター2を冷却することにより半導体ウェハ1の温度を制御する冷却板3」は、本件発明1の「前記板状部を支持し、前記板状部を主に形成する材料の熱膨張率と異なる熱膨張率を有する材料を主とし、冷却機能を有し、板状に形成されるベース部」に相当する。
(エ)甲1発明の「半導体製造装置用サセプター2と冷却板3を接合するための接合剤4」について、接合剤4は、半導体製造装置用サセプター2と冷却板3の間に配置されているといえる。
したがって、甲1発明の「半導体製造装置用サセプター2と冷却板3を接合するための接合剤4」と、本件発明1の「前記板状部と前記ベース部との間に配置され、接着剤を含み、前記板状部と前記ベース部とを接合する接合部」は、「前記板状部と前記ベース部との間に配置され、」「前記板状部と前記ベース部とを接合する接合部」である点で共通する。
(オ)甲1発明の接合剤4は、厚さ120[μm]で、加熱加圧して作製した接合体の熱伝導率λが0.65[W/mK](耐久試験前)及び0.64[W/mK](耐久試験後)である。ここで、熱抵抗[m2K/W]は、厚さ[m]を熱伝導率[W/mK]で割った値であるから、甲1発明の接合剤4の熱抵抗[m2K/W]は、
120×10-6[m]÷0.64[W/mK]=1.9×10-4[m2K/W](耐久試験前)
120×10-6[m]÷0.65[W/mK]=1.8×10-4[m2K/W](耐久試験後)
となり、いずれも本件発明1の「前記接合部の熱抵抗は、5.0×10-4(m2K/W)以下」であることに相当する。
(カ)甲1発明の接合剤4は、25×25[mm]で、加熱加圧して作製した接合体の「せん断伸び」が0.062(室温)及び0.049(150℃)であるから、「最大せん断応力時ひずみ量」[mm]は、
25[mm]×0.062=1.55[mm](室温)
25[mm]×0.049=1.23[mm](150℃)
となり、いずれも本件発明1の「前記接合部の最大せん断応力時ひずみ量は、0.5mm以上」であることに相当する。
(キ)甲1発明の「熱伝導性フィラー」は、「平均粒径0.7[μm]の窒化アルミニウム(AlN)(微細粒子)と平均粒径20[μm]の窒化アルミニウム(AlN)(粗粒子)とを重量比20:80の割合で混合したもの」であるから無機フィラーといえる。
そうすると、上記(エ)の検討も考慮すれば、甲1発明の「接合剤4は、熱伝導性フィラーを含有する付加硬化型シリコーン粘着剤」であることと、本件発明1の「前記接合部は、前記接着剤と無機フィラーとを含む複合物により構成され」ることは、「前記接合部は、」「無機フィラー」「を含む複合物により構成され」る点で共通する。
(ク)以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
[一致点]
「対象物を保持する保持装置であって、
板状に形成される板状部と、
前記板状部を支持し、前記板状部を主に形成する材料の熱膨張率と異なる熱膨張率を有する材料を主とし、冷却機能を有し、板状に形成されるベース部と、
前記板状部と前記ベース部との間に配置され、前記板状部と前記ベース部とを接合する接合部と、
を備え、
前記接合部の熱抵抗は、5.0×10-4(m2K/W)以下であり、
前記接合部の最大せん断応力時ひずみ量は、0.5mm以上であり、
前記接合部は、無機フィラーを含む複合物により構成される
保持装置。」
[相違点]
<相違点1>
本件発明1は、「前記無機フィラーを断面視したときの内接円の半径をR1とし、外接円の半径をR2とすると、R2/R1の値の平均値が1.10以上である」と特定されているのに対し、甲1発明には、このような特定がなされていない点。
<相違点2>
本件発明1の接合部は、接着剤を含むのに対し、甲1発明の接合剤4は、粘着剤である点。
イ 判断
(ア)新規性について
本件発明1と甲1発明とは、上記相違点を有するから、本件発明1は、甲1発明ではない。
(イ)進歩性について
相違点1について検討する。
a 甲1には、相違点1に係る構成について、記載も示唆もされていないから、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
b また、甲1の【0020】には、「熱伝導性フィラーは、平均粒径が1[μm]以下の微細粒子と平均粒径が10[μm]以上30[μm]以下の数値範囲内にある粗粒子とを重量比が3:7以上1:9以下の範囲内になるように混合した粒子により形成されていることが望ましい。これにより、微細粒子が粗粒子の間に充填され、熱伝導性が安定化する。また最密充填化が図れることにより、接合剤の低弾性を維持しつつ半導体製造装置用サセプター及び冷却板との密着性を向上させることができる。」と記載されているところ、甲1発明の「熱伝導性フィラーは、平均粒径0.7[μm]の窒化アルミニウム(AlN)(微細粒子)と平均粒径20[μm]の窒化アルミニウム(AlN)(粗粒子)とを重量比20:80の割合で混合したもの」であるから、甲1発明は、微細粒子が粗粒子の間に充填され、熱伝導性が安定化しており、最密充填化も達成している。
加えて、甲1発明の接合剤4の熱伝導率(0.65[W/mK](耐久試験前)及び0.64[W/mK](耐久試験後))は、熱伝導率の目標値である0.3[W/mK]を超えているから、甲1発明の微細粒子及び粗粒子を混合した粒子により形成された熱伝導性フィラーに対して、さらに、接合剤4の熱伝導率の増加を図るための上記第4の2(2)の甲2記載事項における無定形フィラーの構成を採用する動機付けがない。
したがって、当業者であっても、甲1発明及び甲2記載事項に基づいて、相違点1に係る本件発明1の構成を想到することができたとはいえない。
よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張の概要
申立人は、申立書において、本件発明1と申立人が認定した甲1発明との相違点1を、
「本件特許発明1が、「D4.前記無機フィラーを断面視したときの内接円の半径をR1とし、外接円の半径をR2とすると、R2/R1の値の平均値が1.10以上である」のに対し、
甲1発明は、d3.接合剤4は、粘着剤材質としてシリコーンと、フィラー材質としてAlNを33vol%含み、d4.接合剤4は、フィラー平均粒子径が20μmの粗粒と0.7μmの細粒とを80:20の混合比で含むものの、フィラー材質であるAlNのR2/R1の値の平均値が明確ではない点」(申立書20頁2~9行)
とした上で、以下のとおり主張している。
a 申立人は、申立書21頁(4)オの項において、「通常、無機フィラーは真空ではなく、ある程度の歪みを持って成形される(甲2号証)。このため、甲1発明におけるAlN(窒化アルミニウム)フィラーも、R2/R1の平均値が1.1以上であると考えられる。すると、相違点1は、甲1号証に実質的に記載されているといえる。よって、相違点1は、実質的なものではない。」と主張している。(以下「主張a」という。)
b 申立人は、申立書21頁(4)カの項において、「当業者にとって、AlN(窒化アルミニウム)フィラーとして真球のものを用いる動機付けはない。すると、甲1発明に接した当業者であれば、R2/R1の平均値が1.1以上のものを用いることに容易に想到し得る。」と主張している。(以下「主張b」という。)
c 申立人は、申立書21頁(4)キ~コの項において、「甲2号証には、無機フィラーには無定形フィラーと球形フィラーが存在し、接合剤の熱伝導率の増加を図るためには、無定形フィラーが好ましい点(甲2号証 段落[0072])、球形フィラーであっても全体の90%におけるR2/R1が1.0~1.4の範囲内にある(したがって、球形フィラーであっても10%のR2/R1が1.4を超える無定形フィラーを含む)ことが記載されている(甲2号証 段落[0074])」(キの項)とした上で、「仮に、甲1発明における微細粒子及び粗粒子が、球形フィラーであったとしても、その90%におけるR2/R1が1.0~1.4の範囲内にあるのであるから、R2/R1の平均値は、1.1以上であると考えられる」(クの項)こと、及び「甲1発明における微細粒子及び粗粒子が好ましいとされる無定形フィラーを含まないことは、想定しにくい。すると、甲1発明における微細粒子及び粗粒子についてのR2/R1の平均値は、1.1以上であると考えられる」(ケの項)から、「本件特許発明1は、甲1発明と実質的に同一であるか、当業者が、甲1発明に基づいて容易に発明できたものである」(コの項)と主張している。(以下「主張c」という。)
d 申立人は、申立書22~23頁の(5)ア~キの項において、「本件特許発明1は、当業者が、甲1発明における無機フィラーとして、甲2記載事項である無定形フィラーを採用することで、容易に発明できたものである。」と主張する。(以下「主張d」という。)
(イ)申立人の主張についての判断
a 主張aについて検討するに、甲2には、「通常、無機フィラーは、真球ではなく、ある程度の歪みをもって成形される」ことは記載されていない。また、他に、AlN(窒化アルミニウム)で形成された無機フィラーのR2/R1の平均値が1.1以上であることが技術常識であることを示す証拠は、提示されていない。
したがって、相違点1は甲1号証に実質的に記載されているとはいえないから、主張aは採用できない。
b 主張bについて検討するに、甲1には、そもそも相違点1のとおり無機フィラーのR2/R1の平均値についての記載はなく、R2/R1の平均値が1.1以上のものを用いる動機付けはないから、R2/R1の平均値が1.1以上のものを用いることに容易に想到し得るということはできない。
したがって、主張bは採用できない。
c 主張cについて検討するに、甲2に記載された「球形フィラー」といえる範囲は、甲2において定義されたものであって、「球形フィラー」についての技術常識を示すものではない。また、上記bで述べたように、甲1には、無機フィラーのR2/R1の平均値について記載がない。
したがって、甲1の記載から、甲1発明の微細粒子及び粗粒子についてのR2/R1の平均値が1.1以上であるとはいえないから、主張cは採用できない。
d 主張dについて検討するに、上記イ(イ)bで述べたとおり、甲1発明の微細粒子及び粗粒子を混合した粒子により形成された熱伝導性フィラーに対して、さらに、接合剤4の熱伝導率の増加を図るための甲2記載事項における無定形フィラーの構成を採用する動機付けがないから、主張dは採用できない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1についての申立理由1及び申立理由2は、理由がない。
(2)本件発明2~5について
本件発明2~5は、上記(1)アで述べた相違点に係る本件発明1の構成を備えるものである。また、甲3には、上記構成について、記載も示唆もされていない。
したがって、上記(1)イ(ア)と同様に、本件発明2、3及び5は、甲1発明ではなく、また、同(イ)で述べたとおり、本件発明2、3及び5は、甲1発明に基づいて、又は甲1発明及び甲2記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもなく、さらに本件発明4は、甲1発明、甲2記載事項及び甲3の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
よって、本件発明2~5についての申立理由1及び申立理由2は、理由がない。
2 申立理由3(明確性)について
申立人は、申立書25~27頁の「5.明確性要件」の項において、本件発明1の「前記無機フィラーを断面視したときの内接円の半径をR1とし、外接円の半径をR2とすると、R2/R1の値の平均値が1.10以上であること」における「無機フィラーを断面視したとき」の記載について、無機フィラーのどのような断面についてのものであるか明確でない旨主張している。
しかしながら、本件発明1の記載は、無機フィラーの断面形状における内接円の半径R1と外接円の半径R2についてのR2/R1の平均値を特定するものであることが明確であり、無機フィラーの粒子を断面視したときの「R2/R1」の求め方は、願書に添付した明細書の段落0027及び図3に示されるとおりであるから、本件発明1は明確である。
ここで、申立書25頁下から2行目~26頁5行の「無機フィラーがバナナのような形状を有する場合」についての主張、及び申立書26頁7~31行の本件発明1の「前記無機フィラーを断面視したとき」を接合部のある断面を視認したときであるように解釈することに基づく主張は、無機フィラーがバナナのような形状を有すること、及び接合部のある断面を視認することは本件発明1に記載された事項ではないから、これらの事項に基づく明確性不備の主張は採用できない。
そして、本件発明2~5についても同様である。
よって、申立理由3は、理由がない。
3 申立理由4(サポート要件)について
申立人は、申立書27~28頁の「6.サポート要件」の項において、本件発明1は、無機フィラーとして、熱伝導性フィラー以外のものも含むもの(申立書27頁17~18行)、及び無機フィラーの含有量が全く特定されていないため、接合部に無機フィラーが本当にわずかしか含まれないものを含むもの(申立書27頁下から2行目~28頁4行)を含み、そのような発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない旨主張している。
しかしながら、本件発明1は、無機フィラーを含む接合部について、「前記接合部の熱抵抗は、5.0×10-4(m2K/W)以下」であること、及び「前記接合部の最大せん断応力時ひずみ量は、0.5mm以上」であることが特定されているから、接合部が前記熱抵抗の範囲及び最大せん断応力時ひずみ量の範囲となるような含有量の熱伝導性フィラーを含むことが特定されているといえる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
そして、本件発明2~5についても同様である。
よって、申立理由4は、理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及びその証拠によっては、特許7458354号の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に特許7458354号の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700925