特許異議申立
2023-701313
シアン含有水の処理方法及び処理設備
- 審判番号
- 2023-701313
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-152639
- 登録番号
- 7290511
- 請求日
- 2023年12月13日
- 審決日
- 2024年03月26日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日鉄環境株式会社
- 【権利者代理人】近藤 利英子
- 【権利者代理人】菅野 重慶
- 【権利者代理人】竹山 圭太
- 【権利者代理人】岡田 薫
- 【異議申立人】松山 徳子
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.131-Y (C02F) / P1651.112-Y (C02F) / P1651.536-Y (C02F) / P1651.537-Y (C02F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7290511号発明「シアン含有水の処理方法及び処理設備」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7290511号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7290511号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~13に係る特許についての出願は、令和1年8月23日(優先権主張 平成30年8月24日)を出願日とする特許出願であって、令和5年6月5日に特許権の設定登録がされ、同年同月13日に特許掲載公報が発行された。
その後、その全請求項に係る特許に対し、令和5年12月13日に特許異議申立人である松山徳子(以下、「申立人」という)により、特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~13に係る発明(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有し、シアン化物イオン濃度に比べて鉄シアノ錯体濃度が高い被処理水に、過酸化水素を添加して反応させる工程(A)と、
前記工程(A)で得られた、前記被処理水への前記過酸化水素の添加及び反応後の反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度を測定する工程(B1)と、
前記工程(A)で得られた前記反応液に、銅(I)化合物を添加して反応させる工程(C)と、
前記工程(C)で得られた反応液を固液分離処理する工程(D)と、を含み、
前記工程(A)における前記被処理水への前記過酸化水素の添加量を、前記工程(B1)で測定される過酸化水素濃度の値が10mg-H2O2/L以下となる量に制御し、
前記工程(C)において、前記工程(A)で得られた前記反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度が10mg-H2O2/L以下の前記反応液に、前記銅(I)化合物を添加して反応させる、シアン含有水の処理方法。
【請求項2】
前記工程(A)における前記被処理水への前記過酸化水素の添加量を、前記工程(B1)で測定される前記過酸化水素濃度の値が5mg-H2O2/L以下となる量に制御し、
前記工程(C)において、前記工程(A)で得られた前記反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度が5mg-H2O2/L以下の前記反応液に、前記銅(I)化合物を添加して反応させる請求項1に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項3】
前記工程(B1)で測定される前記過酸化水素濃度の値を監視しながら、前記工程(A)における前記被処理水への前記過酸化水素の添加を行う請求項1又は2に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項4】
前記工程(B1)で測定される前記過酸化水素濃度の値の監視は、前記工程(B1)において、前記工程(A)で得られた前記反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度を、連続式で測定すること、又はバッチ式で間歇的に測定することにより行う請求項3に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項5】
前記工程(A)において、前記被処理水中の前記シアン化物イオンを前記過酸化水素により分解し、
前記工程(C)において、前記銅(I)化合物によって、前記工程(C)で得られる前記反応液中に前記鉄シアノ錯体の難溶化物を生成し、
前記工程(D)において、前記難溶化物を分離除去する請求項1~4のいずれか1項に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項6】
前記被処理水は、懸濁物質を含む排出ガスを湿式集塵処理して得られた集塵水から前記懸濁物質を除去するための固液分離処理がなされた、排出ガスの洗浄廃水であり、
前記工程(D)で液分とは分離された固形分を含むスラリーについて、濃縮処理及び脱水処理のいずれか一方又は両方を行う工程(E)と、
前記工程(E)で得られた分離水を、前記排出ガスの洗浄廃水を得るための前記固液分離処理に送る工程(F)と、をさらに含む請求項1~5のいずれか1項に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項7】
前記工程(A)における前記過酸化水素を添加する対象となる前記被処理水、及び前記工程(C)における前記銅(I)化合物を添加する対象となる前記反応液のいずれか一方又は両方に、さらに還元剤を添加する請求項1~6のいずれか1項に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項8】
前記工程(C)における前記銅(I)化合物を添加する対象となる前記反応液に、さらに第4級アンモニウム化合物を添加する請求項1~7のいずれか1項に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項9】
前記工程(A)と前記工程(C)とを別々の反応槽にて行う請求項1~8のいずれか1項に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項10】
前記鉄シアノ錯体は、フェロシアン化物イオン及びフェリシアン化物イオンのいずれか一方又は両方を含むとともに、[Fe(CN)5(CO)]3-及び[Fe(CN)4(CO)2]2-のいずれか一方又は両方を含む請求項1~9のいずれか1項に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項11】
シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有し、シアン化物イオン濃度に比べて鉄シアノ錯体濃度が高い被処理水に、過酸化水素を添加して反応させる反応槽(a)と、
前記反応槽(a)で得られた、前記被処理水への前記過酸化水素の添加及び反応後の反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度を測定する測定装置(b1)と、
前記反応槽(a)で得られた前記反応液に、銅(I)化合物を添加して反応させる反応槽(c)と、
前記反応槽(c)で得られた反応液を固液分離する固液分離装置(d)と、
前記反応槽(a)における前記被処理水への前記過酸化水素の添加量を、前記測定装置(b1)で測定される過酸化水素濃度の値が10mg-H2O2/L以下となる量に制御する制御部と、
を備え、
前記反応槽(c)において、前記反応槽(a)で得られた前記反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度が10mg-H2O2/L以下の前記反応液に、前記銅(I)化合物を添加して反応させる、シアン含有水の処理設備。
【請求項12】
前記測定装置(b1)は、バッチ式の測定装置、又は連続式の測定装置である請求項11に記載のシアン含有水の処理設備。
【請求項13】
前記制御部は、前記測定装置(b1)、及び前記反応槽(a)に設けられる過酸化水素添加装置に協働する請求項11又は12に記載のシアン含有水の処理設備。」
第3 特許異議申立理由について
1 特許異議申立の概要
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証:特開2017-80699号公報
甲第2号証:特開2006-26496号公報
甲第3号証:特開昭56-130294号公報
甲第4号証:米谷紀嗣ら,“酸化銅触媒を用いた水熱酸化法による有機塩素系汚染水の高度処理”, 2015年, Japanese J. Multiphase Flow, Vol.29, No.4, 302~308頁
甲第5号証:特開2018-69227号公報
甲第6号証:横須賀太志ら,“チオ硫酸ナトリウム水溶液の過酸化水素酸化および次亜塩素酸ナトリウム酸化”,1975年,日本化学会誌,No.11,1901~1909頁
甲第7号証:特開2001-62467号公報
甲第8号証:特開2017-136539号公報
甲第9号証:栗田工業 薬品ハンドブック,第4版,平成13年,栗田工業 薬品ハンドブック編集委員会編,栗田工業株式会社発行,354頁
甲第10号証:兼森伸幸ら,“鉄鋼廃水処理における生物処理技術”,2016年,新日鉄住金技報,第405号,130~138頁
甲第11号証:勝見俊三ら,“鉄鋼業における排水処理”,1978年,燃料協会誌,第57巻,第612号,227~234頁
甲第12号証:“ダスト精錬炉及び関連施設等からのシアン化合物の飛散・流出防止対策について”,JFEスチール(株)東日本製鉄所,2005年,1~44頁
(以下、「甲第1号証」~「甲第12号証」は、「甲1」~「甲12」という。)
(1)申立理由1(甲1を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
本件発明1、3、5、10は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3項に該当し、本件発明1~13は、甲1に記載された発明及び甲2~12に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(実施可能要件違反)
本件の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には、過酸化水素を用いる工程(A)と、銅(I)化合物を用いる工程(C)とを、共通の反応槽で行う場合、過酸化水素の反応が完了していることを確認する方法は何ら記載も示唆もされておらず、被処理水への過酸化水素の添加後、どのようなタイミングで測定した測定結果を、「過酸化水素の添加及び反応後の反応溶液中に残留する過酸化水素の濃度」とするのか不明であるし、過酸化水素がどのような状態であれば反応液と判断できるのかも不明である。したがって、本件明細書は、本件発明1~10を当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されていない。
本件発明11~13についても同様である。
よって、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)申立理由3(サポート要件違反)
ア 本件発明の課題は、「処理対象となる被処理水中のシアン化物イオンの濃度及び鉄シアノ錯体の濃度が様々な場合においても、被処理水からのシアン成分の除去処理を安定して十分に行うことが可能なシアン含有水の処理方法を提供する」ことである。そして、本件明細書に、銅(I)化合物の添加量についての記載はなく、実施例では、銅(I)化合物の添加濃度がいずれも20mg/L以上である。これらのことを勘案すると、本件発明の課題を解決するためには、銅(I)化合物の添加濃度を20mg/L以上とすることが必須であると考えられるが、本件発明1にそのような特定はない。したがって、本件発明1及び本件発明2~10は課題を解決できると認識できる範囲のものではない。
本件発明11~13についても同様である。
イ 本件発明の課題は、「処理対象となる被処理水中のシアン化物イオンの濃度及び鉄シアノ錯体の濃度が様々な場合においても、被処理水からのシアン成分の除去処理を安定して十分に行うことが可能なシアン含有水の処理方法を提供する」ことである。ここで、本件発明1には、「シアン化物イオン濃度が2.5mg/Lであり鉄シアノ錯体濃度が2.51mg/L」である場合も含まれるが、このような被処理水は甲1記載の方法でシアン成分の除去が可能であると予測される。そして、本件発明の課題が、従来の技術では解決できなかったことを意味するのであれば、前記本件発明の課題の、処理水中のシアン化物イオンの濃度及び鉄シアノ錯体の濃度が様々な場合とはどのような場合であるのか不明であり、シアン化物イオンに比べて鉄シアノ錯体濃度がどれだけ高いシアン含有廃水を対象としているのか不明である。したがって、本件発明1及び本件発明2~10は本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではない。
本件発明11~13についても同様である。
よって、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)申立理由4(明確性要件違反)
ア 本件発明1~10において、被処理水への過酸化水素の添加後、どのようなタイミングで測定した測定結果を「過酸化水素の添加及び反応後の反応溶液中に残留する過酸化水素の濃度」とするのか不明であるし、過酸化水素がどのような状態であれば反応液と判断できるのかも不明である。
本件発明11~13についても同様である。
イ 本件発明1~10において、「シアン化物イオン濃度に比べて鉄シアノ錯体濃度が高い」被処理水とは、具体的にどのような濃度範囲のシアン化物イオン濃度、鉄シアノ錯体濃度であることを意味するのか不明である。
本件発明11~13についても同様である。
よって、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第4 当審の判断
1 各甲号証について
(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
(ア)「【請求項1】
錯シアン含有廃水に、該廃水をpH6~9の条件下で第一銅化合物および過酸化水素を共存させるか、またはpH6~8の条件下で第二銅化合物および過酸化水素を共存させ、該廃水中の錯シアンを処理することを特徴とする錯シアン含有廃水の処理方法。」
(イ)「【0001】
本発明は、錯シアン含有廃水から、簡便な操作で安全かつ安価に、廃水中の錯シアンを効率的に除去し得る錯シアン含有廃水の処理方法およびそれに用いる錯シアン含有廃水の処理剤に関する。
本発明では、各種形態で廃水中に含有するシアン、すなわち難分解性シアン錯体、易分解性シアン錯体およびシアン化物イオンの中でも、特に難分解性および易分解性のシアン錯体(錯シアン)を簡便な操作で処理することができる。」
(ウ)「【0016】
本発明において「第一銅化合物または第二銅化合物と過酸化水素とを共存させる」とは、第一銅化合物または第二銅化合物(以下、両者を合わせて「銅化合物」ともいう)と過酸化水素とを錯シアン含有廃水中に存在させることを意味する。その共存は、銅化合物と過酸化水素との添加によっても、後述するように、錯シアン含有廃水中での生成によってもよく、添加の場合その順序は特に限定されず、同時であっても別々であってもよい。」
(エ)「【実施例】
・・・
【0035】
(試験例1)全シアンの除去効果確認試験
試験例1では、次のようにして調製した、表1に示す水質を有するシアン含有水をシアン含有廃水として用いた。
シアン含有水は、フェロシアン化カリウム水溶液、シアン化カリウム水溶液、塩化カルシウム2水和物水溶液、塩化ナトリウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液および炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて調製した。
【0036】
【表1】
[図:0001409172000001.jpg]
【0037】
試験例1では、次のような水溶液を添加薬剤として用いた。
第一銅水溶液:35%塩酸70g(特級試薬、キシダ化学株式会社製)と塩化第一銅20g(特級試薬、キシダ化学株式会社製)と水10gとの割合で溶解し、調製した水溶液を使用
・・・
過酸化水素水溶液:過酸化水素(30%、試薬、キシダ化学株式会社製)を使用
【0038】
容量200mLのビーカーに、それぞれシアン含有廃水を200mL分注し、表2に示す濃度になるように無機銅化合物水溶液および過酸化水素水溶液をそれぞれ添加し、さらに硫酸水溶液(2%)または水酸化ナトリウム水溶液(2%または24%)を添加して試験水のpHが表9(※当審注:表2の誤記と認められる)に示す値になるように調整し、各試験水を得た。
・・・
次いで、得られた試験水を、撹拌装置(株式会社宮本製作所製、ジャーテスター(試水凝集反応装置)、型式:MJS-6、撹拌翼形状:2枚羽根、撹拌翼最大径60mm)を用いて回転数120rpmで60分間撹拌した。
撹拌後に、試験水をNo.5Cの濾紙でろ過し、ろ過水中の全シアン濃度(T-CN)をJIS K0102、38項に準拠して測定し、各試験水におけるシアンの除去効果を評価した。
この試験においては、無機銅化合物水溶液および過酸化水素水溶液を添加しないブランク試験(比較例1)を同時に行った。
得られた結果を、添加化合物とその添加量および試験水のpHと共に表2に示す。
【表2】
[図:0001409172000002.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
前記ア(エ)によれば、【0035】には、フェロシアン化カリウム水溶液、シアン化カリウム水溶液、塩化カルシウム2水和物水溶液、塩化ナトリウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液および炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて表1のシアン含有水が調製されたことが記載されており、【0036】の表1には、シアン含有水が、フリーシアンを2.5mg/L、錯シアンを2.5mg/Lの濃度で含有するシアン含有廃水であることが記載されている。そして、【0038】には、シアン含有廃水に、表2に示す濃度になるように無機銅化合物水溶液および過酸化水素水溶液をそれぞれ添加したことが記載され、表2には、実施例8の行の、「薬剤とその添加量」の「過酸化水素H2O2」の「シアン廃水中の濃度(mg/L)」の列に「7」と記載され、「薬剤とその添加量」の「第一銅化合物Cu+」の「シアン廃水中の濃度(mg/L)」の列に「1.0」と記載されており、実施例8では、シアン含有廃水に、過酸化水素を7mg/L、第一銅化合物を1.0mg/Lの濃度になるように添加したことがわかる。
また、【0038】には、得られた試験水を60分間撹拌し、撹拌後に、試験水を濾紙でろ過し、ろ過水中の全シアン濃度を測定し、各試験水におけるシアンの除去効果を評価したことが記載されている。
そうすると、前記実施例8に着目して整理すると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。)。
「フェロシアン化カリウム水溶液、シアン化カリウム水溶液、塩化カルシウム2水和物水溶液、塩化ナトリウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液及び炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて、フリーシアンを2.5mg/L、錯シアンを2.5mg/Lの濃度で含有するシアン含有廃水を調製し、このシアン含有廃水に第一銅化合物が1.0mg/L、過酸化水素が7mg/Lの濃度になるように無機銅化合物水溶液及び過酸化水素水溶液をそれぞれ添加し、60分間撹拌し、ろ過する、シアン含有廃水の処理方法。」
(2)甲2の記載事項
ア 「【0001】
本発明はシアン化物含有廃水の処理方法およびその処理設備に関する。」
イ 「【0017】
本発明では、化学工場、石油工場、ガス工場、メッキ工場、コークス工場および金属表面処理工場等で発生したシアン化物含有廃水を処理の対象としている。
【0018】
このシアンは、(1)遊離シアン(シアン化物ともいう)、(2)亜鉛、銅、カドミウム等のシアン錯体、(3)鉄、ニッケル、コバルトまたは金、銀等のシアン錯体の形態をとることがある。錯体として、例えば、鉄シアン化合物が例示される。」
ウ 「【0031】
シアン錯体含有廃水を用いて、処理を行った。
【0032】
使用した廃水の水質:
pH9.0
T-CN:30mg/L
CNイオン:10mg/L
T-Fe:50mg/L
この廃水を試料水として容積1リットルのビーカーに分注し、表1に示すような薬剤を添加した。次亜塩素酸ソーダを添加し、5分間攪拌した。残留塩素計を用いて残留塩素が検出された場合は、重亜硫酸ソーダを添加して残留塩素を消耗させた。次に、ホルムアルデヒドおよび重亜硫酸ソーダを添加し、更に5分間攪拌した。最後にこの試料水をNo.5ろ紙でろ過し、次いで全シアン濃度および遊離シアン濃度を分析した。全シアン濃度-遊離シアン濃度=シアン錯体濃度として算出した。」
(3)甲3の記載事項
ア 「1.発明の名称
鉄シアン錯イオン含有廃水の処理法
2.特許請求の範囲
1.鉄シアン錯イオン含有廃水をpH6.0以上に調整し、これにマンガ
ン化合物を添加して水不溶性の鉄シアン錯化合物のマンガン塩を生成させ
、廃水系から除去することを特徴とする鉄シアン錯イオン含有廃水の処理
法。
3.発明の詳細な説明
この発明は化学工場、メッキ工場、コークス製造工場及び金属表面処理工場等から排出される鉄シアン化合物を含む廃水の処理法に関するものである。
従来からシアン化合物を含む工業廃水を化学処理して排水無害化する方法については多くの提案があるが、このうち鉄シアン錯イオンを含有する廃水については、一般に紺青法が周知である。
・・・
一般に、前記の各製造工場から排出される廃水にはほとんどの場合、フエロシアン、フエリシアンのような鉄シアン錯イオンを主成分とし、その他の金属との錯イオン及び青酸、アルカリ金属シアン等の単純シアンイオンを含有している。」(1ページ左欄1行~右欄下から5行)
イ 「実施例
某メッキ工場のメッキ廃水量はほぼ9トン/時間であり、その水質は下記の通りであり、この廃水中のシアン成分はそのほとんどが、鉄シアン錯イオンとして存在している。
[図:0001409172000003.jpg]
」
(4頁左欄1行~11行)
(4)甲4の記載事項
「
[図:0001409172000004.jpg]
[図:0001409172000005.jpg]
」
(304頁左欄3行~右欄8行)
(5)甲5の記載事項
ア 「【請求項1】
遊離シアン、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体のうちの少なくとも1種を含有するとともに鉄シアノ錯体を含有する廃水に、過酸化水素、銅塩、及び還元剤を添加して反応させた後、その反応液を固液分離し、前記反応液中に生じた難溶性シアン化合物を分離除去する廃水の処理方法。」
イ 「【0026】
本発明の一実施形態の方法では、廃水への過酸化水素の添加を、廃水への銅塩の添加前又はその添加と同時期に、かつ、廃水への還元剤の添加前又はその添加と同時期に、行うことが好ましい。換言すれば、銅塩及び還元剤を、廃水への過酸化水素の添加後、又は過酸化水素の添加と同時期に、廃水に添加することが好ましい。廃水に銅塩や還元剤を添加する前に、又はそれらと同時期に、過酸化水素を添加することで、廃水に含有されている可能性のある遊離シアン、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体等を十分に分解することが可能になると考えられる。上記「同時期」とは、厳密な同時を意味するものではなく、ほぼ同時であることや同じタイミングであることを意味する。過酸化水素と還元剤の添加を例にとると、それら両方を同時に添加する場合や、過酸化水素の添加時間と還元剤の添加時間とが完全又は一部重なっている場合はもちろん、それらのうちの一方を先に添加した後に直ちに他方を添加する場合も「同時期」に含まれる。」
ウ 「【0060】
<実施例1>
300mL容量の容器に上記廃水を300mL入れ、その廃水に過酸化水素水を廃水中の過酸化水素としての濃度が40mg(H2O2)/Lとなる量にて添加し、マグネティックスターラーを用いて30分間撹拌した。次いで、塩化銅(I)を廃水中のCuとしての濃度が20mg(Cu)/Lとなる量にて添加し、また、チオ硫酸ナトリウムを廃水中の濃度が20mg/Lとなる量にて添加し、マグネティックスターラーを用いて30分間撹拌した。」
エ 「【0072】
<比較例2>
比較例2では、実施例1における塩化銅(I)を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で上記廃水を処理し、処理水を得た。」
(6)甲6の記載事項
「
[図:0001409172000006.jpg]
[図:0001409172000007.jpg]
[図:0001409172000008.jpg]
[図:0001409172000009.jpg]
」
(1901頁1行目~1902頁左欄11行)
(7)甲7の記載事項
ア 「【請求項1】 高炉集塵水または転炉集塵水の循環再利用経路において、集塵水に過酸化水素を添加して集塵水中に溶解している塩類を不溶性の塩類として析出させ、次いで高分子凝集剤を添加して集塵水中の懸濁物を凝集沈殿除去させ、処理された集塵水を循環利用することを特徴とする集塵水の処理方法。」
イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、集塵水の処理方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、高炉集塵水または転炉集塵水の循環再利用経路における集塵水の処理方法に関する。」
ウ 「【0003】湿式集塵器で除塵に用いられた水、すなわち集塵水には鉄鉱石、コークスおよび石灰石などの製銑原料に由来する微粉(ダスト)やカルシウム、鉄、亜鉛およびマグネシウムなどの塩類が溶解・懸濁している。これらの溶解・懸濁物は沈殿池で沈殿除去するだけでは清浄化できず、このような集塵水を放流することは環境保全上好ましくないため、集塵水は通常、完全循環方式で用いられている。」
エ 「【0019】本発明の方法において用いられる高分子凝集剤としては、カチオン系、アニオン系およびノニオン系のいずれであってもよいが、凝集効果の点ではカチオン系凝集剤が好ましく、工業的に最も汎用されているポリアクリル酸エステル系の高分子凝集剤がより好ましい。
【0020】その他のカチオン系高分子凝集剤としては、水溶性アニリン樹脂塩酸塩、ポリエチレンイミン、ポリアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、キトサンおよびヘキサメチレンジアミン・エピクロロヒドリン重縮合物などの中重合度(分子量数千~数万)のもの、ならびにポリビニルイミダゾリン、ポリアルキルアミノアクリレート、ポリアルキルアミノメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル系およびポリアクリルアミドのマンニッヒ変性物などの高重合度(分子量数十万~数千万)のものが挙げられる。」
(8)甲8の記載事項
「【0001】
本発明は、高炉集塵水などの高炉排水の処理方法及び処理装置に関するものであり、詳しくは、高炉排水中の遊離シアンのみならず、鉄シアノ錯体等の各種のシアノ錯体をも効率的に凝集沈澱処理することができる高炉排水の処理方法に関する。
・・・
【0005】
高炉排水や、化学工場、メッキ工場、コークス製造工場、金属表面処理工場等から排出されるシアン含有廃水の処理方法としては、アルカリ塩素法や全シアン処理法が行われている。」
(9)甲9の記載事項
「
[図:0001409172000010.jpg]
」(354頁)
(10)甲10の記載事項
「例えばコークス製造工程では原料炭から留出した成分を含むコークス炉ガス液(安水),高炉や転炉工程では高炉ガスや転炉ガスの洗浄により発生する集塵排水,圧延工程では鉄粉を含む圧延排水,冷間圧延・めっき工程では含油排水,酸排水,アルカリ排水,めっき排水が発生する。」(130頁左欄5~10行)
(11)甲11の記載事項
「
[図:0001409172000011.jpg]
」(229頁 図3)
(12)甲12の記載事項
ア 「
[図:0001409172000012.jpg]
」(32頁)
イ 「
[図:0001409172000013.jpg]
」(44頁)
2 申立理由1(新規性・進歩性欠如)について
(1)本件発明1について
ア 甲1発明との対比、判断
本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)本件明細書に、「鉄シアノ錯体とは、Fe及びCNを含む錯体をいう。鉄シアノ錯体としては、フェロシアン化物イオン・・・並びに鉄カルボニルシアノ錯体・・等が挙げられる。」(【0015】)と記載されているところ、フェロシアン化物イオン」を含む甲1発明の「フェロシアン化カリウム」は、本件発明1の「鉄シアノ錯体」に相当する。
(イ)甲1発明の「シアン化カリウム」は、水中でシアン化物イオンとカリウムイオンに電離するイオン結晶であるから、甲1発明の「シアン化カリウム水溶液を含有する」「廃水」は本件発明1の「シアン化物イオン」を含有する「シアン含有水」に相当する。
(ウ)甲1発明の「第一銅化合物が1.0mg/L」「の濃度になるように無機銅化合物水溶液」を「添加」することは、本件発明1の「銅(I)化合物を添加して反応させる工程」に相当する。
(エ)甲1発明の「ろ過する」工程は、本件発明1の「固液分離する」工程に相当する。
(オ)甲1発明の「シアン含有廃水」は、処理される廃水であるため、本件発明1の「被処理水」に相当する。
(カ)そうすると、本件発明1と甲1発明は、以下の一致点、相違点を有する。
<一致点>
「シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有する被処理水に、過酸化水素及び銅(I)化合物を添加して反応させる工程、
固液分離する工程と、を含む
シアン含有水の処理方法。」
<相違点1>
被処理水が、本件発明1では「シアン化物イオン濃度に比べて鉄シアノ錯体濃度が高い」ものであるのに対し、甲1発明では「フリーシアンを2.5mg/L、錯シアンを2.5mg/Lの濃度で含有する」ものである点。
<相違点2>
本件発明1は、「過酸化水素を添加して反応させる工程(A)と、前記工程(A)で得られた、前記被処理水への前記過酸化水素の添加及び反応後の反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度を測定する工程(B1)と、前記工程(A)で得られた前記反応液に、銅(I)化合物を添加して反応させる工程(C)と、を含み、工程(A)における前記被処理水への前記過酸化水素の添加量を、前記工程(B1)で測定される過酸化水素濃度の値が10mg-H2O2/L以下となる量に制御し、工程(C)において、前記工程(A)で得られた前記反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度が10mg-H2O2/L以下の前記反応液に、前記銅(I)化合物を添加」するのに対し、甲1発明は「第一銅化合物が1.0mg/L、過酸化水素が7mg/Lの濃度になるように無機銅化合物水溶液及び過酸化水素水溶液をそれぞれ添加」する点。
イ 相違点の検討
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲1発明の「第一銅化合物が1.0mg/L、過酸化水素が7mg/Lの濃度になるように無機銅化合物水溶液及び過酸化水素水溶液をそれぞれ添加」する工程では、第一銅化合物と過酸化水素水溶液の添加順序は特定されていない。そして、前記1(1)ア(ウ)に、「添加の順序は特に限定されず、同時であっても別々であってもよい」と記載されていることと併せて考えると、無機銅化合物水溶液と過酸化水素水は、ほぼ同時に添加されている、あるいは、仮に順序付けて添加するとしても、意図的な時間差をおかずに添加していると理解するのが相当である。そして、そのような添加方法において、「過酸化水素が7mg/Lの濃度になるように」の「7mg/L」は、過酸化水素をシアン含有廃水に添加して反応させた後のシアン含有廃水における過酸化水素の残留濃度ではなく、添加する過酸化水素の量から計算したシアン含有廃水における過酸化水素の濃度であると解される。したがって、甲1に、本件発明1のように過酸化水素を添加し、反応させる時間をとり、残留する過酸化水素の濃度が10mg-H2O2/L以下となったことを確認した上で、銅(I)化合物を添加することが記載されているとはいえない。
したがって、前記相違点2は実質的な相違点である。
次に相違点2の容易想到性について検討する。
本件発明1は、
「シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有し、それらの濃度が異なる様々な被処理水に、過酸化水素及び銅(I)化合物を共存させて処理するビーカー試験を行ったところ、被処理水によっては、シアン成分を十分に除去できない場合がある」(【0005】)という問題を発見し、
「被処理水に銅(I)化合物を添加する際に、被処理水中に過酸化水素が比較的多めに残っていると、被処理水からのシアン成分の除去性能が低下しやすい」(【0007】)という知見を得て、
「被処理水に過酸化水素を添加して反応させた後の反応液に銅(I)化合物を添加する際、反応液中の残留過酸化水素の濃度が十分に低い値となるようにするか、残留過酸化水素をほぼなくすことができれば、上述の問題を解決できる」(【0008】)との考えのもと、
「過酸化水素を添加して反応させる工程(A)と、前記工程(A)で得られた、前記被処理水への前記過酸化水素の添加及び反応後の反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度を測定する工程(B1)と、前記工程(A)で得られた前記反応液に、銅(I)化合物を添加して反応させる工程(C)と、を含み、工程(C)において、前記工程(A)で得られた前記反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度が10mg-H2O2/L以下の前記反応液に、前記銅(I)化合物を添加」するという構成を採用することによって、
「処理対象となる被処理水中のシアン化物イオンの濃度及び鉄シアノ錯体の濃度が様々な場合においても、被処理水からのシアン成分の除去処理を安定して十分に行うことが可能なシアン含有水の処理方法を提供する」という、本願発明の課題を解決するものである。
これに対して、甲1発明は、過酸化水素と銅の添加順序、ましてや、過酸化水素を銅に先立ち添加した後の過酸化水素添加、反応後の残留過酸化水素濃度についてなんら着目するものではないから、甲1には、相違点2に係る構成を採用する動機付けはない。また、甲2~12には、前記相違点2に係る事項は記載されていない。
そうすると、前記相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるといえないし、また、甲1発明及び甲2~12に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
(2)本件発明2~10について
本件発明2~10は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記(1)で検討したのと同様の理由により、本件発明3、5、10は甲1発明ではないし、本件発明2~10は、甲1発明及び甲2~12に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(3)本件発明11~13について
本件発明11は、実質的には、本件発明1における「過酸化水素を添加して反応させる」工程、「被処理水への前記過酸化水素の添加及び反応後の反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度を測定する」工程、「前記反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度が10mg-H2O2/L以下の」「前記反応液に、銅(I)化合物を添加して反応させる」工程を行うための装置の発明であるといえる。
そうすると、甲1発明のシアン含有廃水の処理方法を、その方法を行うための装置の発明に認定し直して本件発明11と対比したとしても、前記2(1)ア(カ)で述べた相違点1及び相違点2と同様の相違点が抽出されることとなる。
そして、その相違点に対する判断は前記2(1)イで述べたとおりであるから、本件発明11は、甲1発明及び甲2~12に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
本件発明12、13は本件発明11の全ての特定事項を含むものであるから、同様の理由により、甲1発明及び甲2~12に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(4)申立理由1のまとめ
以上のとおりであるから、申立理由1には理由がない。
3 申立理由2(実施可能要件違反)について
本件明細書には、過酸化水素を添加する工程(A)について、「被処理水」に「過酸化水素を添加して反応させる工程(A)を行う。これによって、過酸化水素が、被処理水中のシアン化物イオン(CN-)と酸化反応し、シアン化物イオンを分解することができる。被処理水に、CN-に加えて、例えば、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体等の易分解性のシアノ錯体が含有されている場合には、そのようなシアノ錯体も工程(A)によって分解することが期待できる。」(【0022】)と記載されている。
以上の記載によれば、過酸化水素は、シアン化物イオンや易分解性のシアノ錯体と反応することでこれらを分解するのであるから、反応中は過酸化水素濃度が低下していき、反応が完了すれば過酸化水素濃度は変化しなくなるものであると理解できる。そうすると、過酸化水素濃度が変化しなくなれば反応は完了しているといえる。
そして、本件明細書には、「工程(A)における反応時間は、3~60分であることが好ましく、5~30分であることがより好ましい。」(【0022】)ことが記載されている。また、実施例では、「被処理水500mLをビーカーにとり、35質量%過酸化水素水を添加し、撹拌しながら、15分間反応させ、反応液を得た(工程(A))」(【0073】)とされており、その反応時間は3~60分の範囲内の15分となっている。
そうすると、反応時間は、3~60分程度で、過酸化水素濃度が変化しなくなる時間を採用すればよいことが理解できる。
したがって、発明の詳細な説明は、本件発明1~13を当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されている。
以上のとおりであるから、申立理由2には理由がない。
4 申立理由3(サポート要件違反)について
(1)本件発明は、「シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有し、それらの濃度が異なる様々な被処理水」について、「被処理水によってはシアン成分を十分に除去できない場合があった」という問題点があったところ、「処理対象となる被処理水中のシアン化物イオンの濃度及び鉄シアノ錯体の濃度が様々な場合においても、被処理水からのシアン成分の除去処理を安定して十分に行うことが可能なシアン含有水の処理方法を提供する」(【0006】)ことを解決すべき課題とするものである。
そして、本件明細書には「被処理水に銅(I)化合物を添加する際に、被処理水中に過酸化水素が比較的多めに残っていると、被処理水からのシアン成分の除去性能が低下しやすいことが分かった。」「このような知見から、本発明者らは、被処理水に過酸化水素を添加して反応させた後の反応液に銅(I)化合物を添加する際、反応液中の残留過酸化水素の濃度が十分に低い値とするか、残留過酸化水素をほぼなくすことができれば、上述の問題を解決できると考え、本発明を完成するに至った。」ことが記載されている(【0007】~【0008】)。
そうすると、本件発明において、前記課題は、「被処理水に過酸化水素を添加して反応させた後の反応液に銅(I)化合物を添加する際、反応液中の残留過酸化水素の濃度が十分に低い値とするか、残留過酸化水素をほぼなくす」という課題解決手段によって解決されるものであるといえる。
そして、本件発明1には「被処理水に過酸化水素を添加して反応させる工程(A)」「で得られた」「反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度が10mg-H2O2/L以下の前記反応液に、前記銅(I)化合物を添加して反応させる」ことが特定されており、前記課題解決手段が反映されているため、本件発明1は課題を解決しうるものである。
本件発明2~10、11~13についても同様である。
(2)特許異議申立書における前記第3の1(3)のサポート要件違反の根拠事由ア、イについて
アについて
本件明細書によれば、銅は「被処理水から存在していた鉄シアノ錯体を難溶化し」、「反応液中に鉄シアノ錯体の難溶化物を生成」させ、難溶化物を「固液分離する工程(D)によって分離除去する」ことで、鉄シアノ錯体を除去するものである(【0023】~【0024】)。
そうすると、銅は、鉄シアノ錯体を難溶化し、反応液中に鉄シアノ錯体の難溶化物を生成することができる量を添加すればよく、20mg/L以上の量で添加することが必要であるとはいえない。
したがって、申立人の前記主張は採用できない。
イについて
本件発明の課題は、従来の技術で未解決であった範囲に限定されるものではないから、甲1の実施例8での例によって、本件発明の課題にある、様々な濃度の範囲が不明確になるものではない。なお、銅を添加する時点で、H2O2が10mg/L超の量で残留していてはシアン化物を除去できないのであるから、「シアン化物イオン濃度が2.5mg/Lであり鉄シアノ錯体濃度が2.51mg/L」という場合であっても、甲1に記載の技術で、銅を添加する時点で、H2O2が10mg/L超の量で残留している被処理水のシアン化物を除去できるとまではいえない。
そうすると、本件発明1においては、請求項1に記載されたとおり、「シアン化物イオン濃度に比べて鉄シアノ錯体濃度が高い」被処理水であればよく、廃水に通常含まれる程度のシアン化物イオン濃度、鉄シアノ錯体濃度を有するものであって、シアン化物イオン濃度に比べて鉄シアノ錯体濃度の高いものと理解されるため、本件発明1において、被処理水がどのようなものであるかは明確である。本件発明2~13についても同様である。
したがって、前記ア及びイの根拠事由は妥当なものではない。
ウ 申立理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1~13は発明の詳細な説明に記載されたものであり、申立理由3には理由がない。
5 申立理由4(明確性要件違反)について
ア 前記3で検討したとおり、反応が完了した時間及び反応液とはどのようなものかは明確である。したがって、この点において、本件発明1~13は明確である。
イ 前記4(2)のイについて、で検討したとおり、「シアン化物イオン濃度に比べて鉄シアノ錯体濃度が高い被処理水」がどのようなものを意味するのかは明確である。したがって、この点において、本件発明1~13は明確である。
ウ 申立理由4についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由4には理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~13に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-701313