特許異議申立
2024-700912
積層体
- 審判番号
- 2024-700912
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-098332
- 登録番号
- 7475820
- 請求日
- 2024年09月20日
- 審決日
- 2025年04月22日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三井化学株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人エスエス国際特許事務所
- 【異議申立人】平居 博美
- 審判長/審判官
- 審判長 田口 傑
- 審判官 金丸 治之
- 審判官 武市 匡紘
- 分類
- P1651.121-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7475820号発明「積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7475820号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
特許第7475820号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7475820号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和元年5月27日の出願であって、令和6年4月19日にその特許権の設定登録がされ、令和6年4月30日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。
令和6年 9月20日 :特許異議申立人平居博美(以下「申立人」という。)による本件特許に対する特許異議の申立て
令和6年12月10日付け:取消理由通知書
令和7年 2月10日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
なお、当審から令和7年2月14日付けで申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を、期間を指定して行ったが、当該期間内に申立人からは応答がなかった。
第2 本件訂正
1 本件訂正の内容
令和7年2月10日の訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)により、特許権者が求める訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記シーラントフィルムと基材フィルムとの質量の合計を100質量%としたときに、プロピレン(共)重合体及び/または1-ブテン(共)重合体を70質量%以上含む積層体。」と記載されているのを、「前記シーラントフィルムと基材フィルムとの質量の合計を100質量%としたときに、プロピレン(共)重合体を70質量%以上含む積層体。」に訂正する。(請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「(1)前記シーラントフィルムは、融点が75℃以上、120℃未満であるオレフィン系(共)重合体(a-2)を含む熱融着層を少なくとも有し、」と記載されているのを、「(1)前記シーラントフィルムは、融点が75℃以上、100℃以下であるオレフィン系(共)重合体(a-2)を含む熱融着層を少なくとも有し、」に訂正する。(請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「前記オレフィン系(共)重合体(a-2)は、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体、および、1-ブテンと炭素数5以上のα-オレフィンとの共重合体から選ばれる少なくとも一つである。」と記載されているのを、「前記オレフィン系(共)重合体(a-2)は、プロピレン・エチレン共重合体、および、プロピレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体から選ばれる少なくとも一つである。」に訂正する。(請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。)
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1~6について、請求項2~6は、それぞれ請求項1を引用する関係にあるから、本件訂正は一群の請求項〔1-6〕について請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載の「積層体」について、「プロピレン(共)重合体及び/または1-ブテン(共)重合体を70質量%以上含む」とあるものを「プロピレン(共)重合体を70質量%以上含む」と択一的記載の要素を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1は、択一的記載の要素を削除するものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載の「シーラントフィルム」について、「融点が75℃以上、120℃未満である」との事項を「融点が75℃以上、100℃以下である」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記事項は、本件特許明細書の段落【0012】に基づく訂正であるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項1に記載の「オレフィン系(共)重合体(a-2)」について、「プロピレン・エチレン共重合体、プロピレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体、および、1-ブテンと炭素数5以上のα-オレフィンとの共重合体から選ばれる少なくとも一つである。」との事項を「プロピレン・エチレン共重合体、および、プロピレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体から選ばれる少なくとも一つである。」と択一的記載の要素を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3は、択一的記載の要素を削除するものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(4)小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正後の本件発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次の事項により特定されるものである。
「【請求項1】
下記要件(1)~(3)を満たすシーラントフィルムと、要件(4)を満たす基材フィルムとを含み、前記シーラントフィルムと基材フィルムとの質量の合計を100質量%としたときに、プロピレン(共)重合体を70質量%以上含む積層体。
(1)前記シーラントフィルムは、融点が75℃以上、100℃以下であるオレフィン系(共)重合体(a-2)を含む熱融着層を少なくとも有し、前記オレフィン系(共)重合体(a-2)は、プロピレン・エチレン共重合体、および、プロピレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体から選ばれる少なくとも一つである。
(2)前記熱融着層同士を接着した場合の100℃におけるヒートシール強度が15N/15mm以上である。
(3)前記シーラントフィルムは無延伸フィルムである。
(4)前記基材フィルムは無延伸ポリプロピレンフィルムおよび二軸延伸ポリプロピレンフィルムから選ばれる少なくとも一種である。
【請求項2】
前記熱融着層は、前記オレフィン系(共)重合体(a-2)に加え、融点が120℃以上、170℃以下であるオレフィン系(共)重合体(a-1)を含む請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記オレフィン系(共)重合体(a―1)はプロピレン(共)重合体である請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記シーラントフィルムおよび基材フィルムから選ばれる少なくとも一つのフィルムが、印刷層、バリア層およびエンボス加工層から選ばれる少なくとも一つの層を含む請求項1~3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記シーラントフィルムおよび基材フィルムから選ばれる少なくとも一つのフィルムがバリア層を含む請求項1~4のいずれかに記載の積層体の製造方法であって、前記バリア層を金属蒸着、コーティング法または共押出法によって前記シーラントフィルムまたは基材フィルム中の一層として形成する工程および前記シーラントフィルムと基材フィルムとを積層する工程を含む積層体の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の積層体により形成された包装体。」
第4 取消理由の概要
当審が通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
1 取消理由1(サポート要件)
本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)発明の詳細な説明には、積層体及びオレフィン系(共)重合体(a-2)として、「1-ブテンと炭素数5以上のα-オレフィン」を採用したものは記載されていない。
(2)シーラントフィルムが融点が100℃以上120℃未満のオレフィン系(共)重合体(a-2)のみを含む場合、どのように100℃におけるヒートシール強度を15N/15mm以上としているのか不明であり、本件発明の課題である「低温ヒートシール性に優れた材料を提供する」ことができない。
2 取消理由2(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
シーラントフィルムが融点が100℃以上120℃未満のオレフィン系(共)重合体(a-2)のみを含む場合、どのように100℃におけるヒートシール強度を15N/15mm以上としているのか不明である。
第5 取消理由についての当審の判断
1 取消理由1(サポート要件)
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下検討する。
(1)本件発明が解決しようとする課題
積層体について、本件発明が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、「エチレン系共重合体は低温シール性優れる(審判注:原文の記載のとおり)が、環境問題の面からリサイクル性を考慮し、できるだけ単一素材であることが好ましい。このため、プロピレン系共重合体を主成分とし、上記エチレン系共重体と同等以上のシール特性を有する材料が求められていた。
本発明は、プロピレン系共重合体を主成分とし、低温ヒートシール性に優れた材料を提供すること」である(段落【0005】)。
(2)本件課題を解決できると認識できるか否かについて
発明の詳細な説明の段落【0005】の上記記載を参酌すると、本件課題を解決するためには、積層体について、環境問題の面からリサイクル性を考慮し、できるだけ単一素材であること、そして、プロピレン系共重合体を主成分とする必要があるといえる。
そして、発明の詳細な説明の段落【0045】~【0051】では、実施例として実施例1~16が示され、ヒートシール強度の優れた積層体について説明されている。ここで、実施例1~16は、基材層として無延伸ポリプロピレンフィルム(rPP-1)、シーラントフィルムとして、プロピレン・エチレン共重合体(PER-1)、及びプロピレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体(BPR-1、BPR-2、PBR-1、PBR-2)を選択しており、これは、単一素材であり、プロピレン系共重合体を主成分とするものに該当する。また、実施例2~11、14~16は、「融点が75℃以上、100℃以下であるオレフィン系(共)重合体(a-2)を含む熱融着層を少なくとも有」するものに該当し、実施例1~2、4~15は「前記熱融着層同士を接着した場合の100℃におけるヒートシール強度が15N/15mm以上である」ものに該当するものである。そうすると、実施例2、4~15を踏まえると、低温ヒートシール強度が優れている点について「前記シーラントフィルムは、融点が75℃以上、100℃以下であるオレフィン系(共)重合体(a-2)を含む熱融着層を少なくとも有」し、「前記熱融着層同士を接着した場合の100℃におけるヒートシール強度が15N/15mm以上である」と規定し、リサイクル性について「前記基材フィルムは無延伸ポリプロピレンフィルムおよび二軸延伸ポリプロピレンフィルムから選ばれる少なくとも一種である」及び「前記シーラントフィルムは、」「前記オレフィン系(共)重合体(a-2)は、プロピレン・エチレン共重合体、および、プロピレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体から選ばれる少なくとも一つである」と規定する本件特許の請求項1の記載より、発明の課題を解決できると認識できるものである。
請求項1を引用する請求項2~6も同様である。
(3)取消理由で通知したサポート要件についての判断
ア 上記第4 1(1)について
本件訂正により、積層体及びオレフィン系(共)重合体(a-2)として、「1-ブテン(共重合体)」及び「1-ブテンと炭素数5以上のα-オレフィン」を採用したものは削除されたことより、上記第4 1(1)の取消理由は解消した。
イ 上記第4 1(2)について
本件訂正により、請求項1において「融点が75℃以上、100℃以下であるオレフィン系(共)重合体(a-2)を含む熱融着層」と規定したことにより、上記第4 1(2)の取消理由は解消した。
(4)取消理由1についてのまとめ
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものである。
2 取消理由2(実施可能要件)
物の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を作り、使用をすることができる程度のものでなければならない。
(1)実施可能要件を満たすか否かについて
本件発明は、本件特許の請求項1に記載のとおりのものであるところ、段落【0045】~【0051】には、実施例が示され、本件発明の発明特定事項を有する実施例2、4~15が段落【0005】の記載から把握できる、本件特許に係る発明が解決しようとする課題を解決するものとして記載されている。
これらの記載を参照することにより、当業者が、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明を実施できるものである。
(2)取消理由で通知した実施可能要件についての判断
本件訂正により、請求項1において「融点が75℃以上、100℃以下であるオレフィン系(共)重合体(a-2)を含む熱融着層」と規定したことにより、上記第4 2の取消理由は解消した。
第6 取消理由で採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
(1)申立理由1(サポート要件)
本件特許は、請求項1~6の記載が発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当するので、取り消すべきものである。
ア 本件発明のシーラントフィルムとして、発明の詳細な説明に記載された比較例のPER-2を含むものであるが、PER-2を含む比較例4、7では100℃におけるヒートシール強度を15N/15mmとすることができず、本件発明の範囲まで拡張ないし一般化できない。
イ 発明の詳細な説明の実施例1~16で用いられるオレフィン系(共)重合体(a-2)は、いずれもMFR(190℃、2.16kg荷重)が3~4g/10minという非常に狭い範囲であるが、本件発明ではMFRについて特定されておらず、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できない。
(2)申立理由2(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が次の点で、当業者が請求項1~6に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当するので、取り消すべきものである。
ア 甲第4号証に記載されたrPP-1は本件発明の発明の詳細な説明の実施例のrPP-1と同じものである。本件発明の発明の詳細な説明の実施例3は甲第4号証の比較例6と同じ積層体であるが、本件発明の発明の詳細な説明の実施例3は100℃におけるヒートシール強度は12.9N/15mmであるのに対し、甲第4号証の比較例6の100℃におけるヒートシール強度は0.1N/15mmである。そのため、同じ積層体を作成した場合であってもヒートシール強度が著しく異なることとなり、どのようにすれば本件発明を実施することができるのか不明である。
(3)申立理由3(進歩性)
本件特許の請求項1~6に係る発明は甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するので、取り消すべきものである。
証拠方法
甲第1号証:特開2002-210898号公報(以下「甲1」という。)
2 当審の判断
(1)申立理由1(サポート要件)について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かの判断については、上記第5 1に示したとおりである。
ア 本件訂正により、請求項1において「融点が75℃以上、100℃以下であるオレフィン系(共)重合体(a-2)を含む熱融着層」と規定したことにより、本件発明1はPER-2を含まないものとなった。
イ 本件発明の実施例で用いられたオレフィン系(共)重合体(a-2)のMFRは3~4g/10minの範囲のものであるが、オレフィン系(共)重合体(a-2)のMFRがこの範囲外であったとしても、本件発明1で特定される、融点が、75℃以上、100℃以下であるオレフィン系(共)重合体(a-2)を用いることにより、本件課題を解決することができるといえる。
ウ したがって、本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものである。
(2)申立理由2(実施可能要件)について
発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かの判断については、上記第5 2に示したとおりである。
上記第5 2で述べたように、本件訂正により、本件発明1は「融点が、75℃以上、100℃以下であるオレフィン系(共)重合体(a-2)を含む熱融着層」と規定したことで、シーラントフィルムの100℃におけるヒートシール強度を15N/15mm以上としており、当業者が本件発明1に係る積層体を作ることができるといえる。
ここで、甲第4号証の比較例6では、シーラントフィルムにスリップ防止剤としてシリカ粒子(平均粒子径3μm)およびエルカ酸アミドを含有している(段落【0056】)。
すると、本件発明の発明の詳細な説明の実施例3の積層体と甲第4号証の比較例6の積層体は、スリップ防止剤を含有するか否かの点で同じものとはいえない。また、甲第4号証の比較例6では、シーラントフィルムにスリップ防止剤としてシリカ粒子(平均粒子径3μm)およびエルカ酸アミドを含有していることで、ヒートシール強度が低下している可能性があり、同じ積層体を作成した場合であってもヒートシール強度が著しく異なることがあるとの申立人の主張を採用することはできない。
(3)申立理由3(進歩性)について
ア 甲1に記載された事項、発明
(ア)甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、低温熱融着性及び易開封性に優れた包装用、中でもパン包装用に好適なポリオレフィン積層フィルム及びそれを用いた包装体に関する。」
・「【0022】
【実施例】次に本発明を、実施例を通して説明するが、本発明はそれら実施例によって限定されるものではない。
【0023】特性値は以下の方法で測定した。
(1) ヒートシール強度(N/15mm):熱融着層面を重ね合せ、表記載の温度、幅5mmのシールバーにより、0.2MPaの圧力で1秒間シールした後放冷した。これから15mm幅の試験片を切り取りクロスヘッド速度500mm/minでヒートシール部を剥離し、その強度をヒートシール強度とした。又、剥離面を観察し、界面剥離したものを○、若干伸び剥離したものあるいは凝集剥離したものを△及びエッジ切れを起こしたものを×とした。・・・なお、本実施例及び比較例で使用した原料は次の通りである。
(1)エチレン・α-オレフィンランダム共重合体(EBR)
エチレン・1-ブテンランダム共重合体、エチレン含有量:80.2重量%、密度:0.866g/cm2、融点69℃、MFR4g/10分
(2)プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(R-PP-2)
エチレン含有量:2.7重量%、ブテン-1含有量:1.5重量%、融点138℃、MFR7g/10分
(3)プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(R-PP-3)
エチレン含有量:3.1重量%、ブテン-1含有量:2.5重量%、融点131℃、MFR7g/10分
(4)プロピレン単独重合体(PP)、融点163℃、MFR7g/10分
(5)プロピレン・α-オレフィン共重合体(PBC)
プロピレン・1-ブテンランダム共重合体、プロピレン含有量:65.0重量%、結晶融解熱量:50Joule/g、融点:110℃、MFR7.0g/10分
(6)プロピレン重合体(B-PP-1)
エチレン含有量:7.6重量%、非晶性エチレン・プロピレンランダム共重合体量:7.6重量%、MFR6.5g/10分
(7)プロピレン重合体(B-PP-2)
エチレン含有量:26.1重量%、非晶性エチレン・プロピレンランダム共重合体量:8.4重量%、MFR4.5g/10分
【0024】実施例1
R-PP-2:30重量%、PBC:35重量%及びEBR:35重量%とをドライブレンドした熱融着層を形成するポリオレフィン組成物と、B-PP-1:75重量%とR-PP-2:25重量%とドライブレンドした中間層を形成するポリオレフィン組成物及びB-PP-2:48.5重量%とB-PP-1:51.5重量%とドライブレンドした被印刷層を形成するポリオレフィン組成物とを別々の押出機に供給し、Tダイ法によって熱融着層/中間層/被印刷層からなる構成の3層共押出フイルムを得た。フィルムの総厚は30μmで、各層の厚みは熱融着層:中間層:被印刷層=4.5μm:21μm:4.5μmであった。」
・「【0036】
【表1】
[図:0001424598000001.jpg]
」
(イ)甲1から把握される事項
・甲1の実施例1では、熱融着層として、融点138℃のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(R-PP-2)と、融点110℃のプロピレン・1-ブテンランダム共重合体を含むプロピレン・α-オレフィン共重合体(PBC)、および融点69℃のエチレン・α-オレフィンランダム共重合体(EBR)をドライブレンドしたポリオレフィン組成物を用いている。
・甲1の実施例1では、中間層として、プロピレン重合体(B-PP-1)と、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(R-PP-2)をドライブレンドしたポリオレフィン組成物を用いている。
・甲1の実施例1では、被印刷層として、プロピレン重合体(B-PP-2)と、プロピレン重合体(B-PP-1)をドライブレンドしたポリオレフィン組成物を用いている。
・段落【0036】【表1】より、実施例1のヒートシール温度が100℃でのヒートシール強度は8.7N/15mmである。
(ウ)甲1発明
上記(ア)、(イ)より特に実施例1に着目すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「融点138℃のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(R-PP-2)30重量%、融点110℃のプロピレン・1-ブテンランダム共重合体を含むプロピレン・α-オレフィン共重合体(PBC)35重量%及び融点69℃のエチレン・α-オレフィンランダム共重合体(EBR)35重量%とをドライブレンドした熱融着層を形成するポリオレフィン組成物と、プロピレン重合体(B-PP-1)75重量%とプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(R-PP-2)25重量%とをドライブレンドした中間層を形成するポリオレフィン組成物及びプロピレン重合体(B-PP-2)48.5重量%とプロピレン重合体(B-PP-1)51.5重量%とをドライブレンドした被印刷層を形成するポリオレフィン組成物とを別々の押出機に供給し、Tダイ法によって熱融着層/中間層/被印刷層からなる構成の3層共押出フイルムを得て、
フィルムの総厚は30μmで、各層の厚みは熱融着層:中間層:被印刷層=4.5μm:21μm:4.5μmであり、
ヒートシール温度が100℃でのヒートシール強度が8.7N/15mmである3層共押出フイルム。」
イ 対比
本件発明1と甲1発明を、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・甲1発明の「熱融着層」は、本件発明1の「シーラントフィルム」に相当し、以下同様に、
「中間層」は「基材フィルム」に、
「熱融着層」と「中間層」を含む「3層共押出フイルム」は「シーラントフィルム」と「基材フィルム」とを含む「積層体」にそれぞれ相当する。
・甲1発明の「熱融着層」は「プロピレン・1-ブテンランダム共重合体を含むプロピレン・α-オレフィン共重合体(PBC)」を含むものであり、「プロピレン・α-オレフィン共重合体(PBC)」は、プロピレン(共)重合体である。すると、甲1発明の「熱融着層/中間層/被印刷層からなる構成の3層共押出フイルム」と、本件発明1の「前記シーラントフィルムと基材フィルムとの質量の合計を100質量%としたときに、プロピレン(共)重合体を70質量%以上含む積層体」とは、「前記シーラントフィルムと基材フィルムを合わせたものは、プロピレン(共)重合体を含む積層体」の限りで一致する。
また、甲1発明の「融点138℃のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(R-PP-2)30重量%、融点110℃のプロピレン・1-ブテンランダム共重合体を含むプロピレン・α-オレフィン共重合体(PBC)35重量%及び融点69℃のエチレン・α-オレフィンランダム共重合体(EBR)35重量%とをドライブレンドした熱融着層」は、プロピレンと炭素数4のオレフィンであるブテンとの共重合体を含むものであるから、本件発明1の「オレフィン系(共)重合体(a-2)」及び「プロピレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体」に相当する。そして、甲1発明の「熱融着層」と、本件発明1の「融点が75℃以上、100℃以下であるオレフィン系(共)重合体を含む熱融着層を少なくとも有し、前記オレフィン系(共)重合体(a-2)は、プロピレン・エチレン共重合体、および、プロピレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体から選ばれる少なくとも一つである」「シーラントフィルム」とは、「オレフィン系(共)重合体(a-2)を含む熱融着層を少なくとも有し、前記オレフィン系(共)重合体(a-2)は、プロピレン・エチレン共重合体、および、プロピレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体から選ばれる少なくとも一つである」「シーラントフィルム」の限りで一致する。
・甲1発明の「中間層」は「プロピレン重合体(B-PP-1)75重量%とプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(R-PP-2)25重量%とをドライブレンドした」ものであるから、本件発明1の「(4)前記基材フィルムは無延伸ポリプロピレンフィルムおよび二軸延伸ポリプロピレンフィルムから選ばれる少なくとも一種である」とは、「(4)前記基材フィルムはポリプロピレンフィルムである」限りで一致する。
以上のことから、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「下記要件(1)を満たすシーラントフィルムと要件(4)を満たす基材フィルムとを含み、前記シーラントフィルムと基材フィルムを合わせたものはプロピレン(共)重合体を含む積層体。
(1)前記シーラントフィルムは、オレフィン系(共)重合体(a-2)を含む熱融着層を少なくとも有し、前記オレフィン系(共)重合体(a-2)は、プロピレン・エチレン共重合体、および、プロピレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体から選ばれる少なくとも一つである。
(4)前記基材フィルムはポリプロピレンフィルムである。」
[相違点1]シーラントフィルムに関し、本件発明1は「(1)前記シーラントフィルムは、融点が75℃以上、100℃以下であるオレフィン系(共)重合体(a-2)を含む熱融着層を少なくとも有」するのに対し、甲1発明の熱融着層は、「融点138℃のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(R-PP-2)30重量%、融点110℃のプロピレン・1-ブテンランダム共重合体を含むプロピレン・α-オレフィン共重合体(PBC)35重量%及び融点69℃のエチレン・α-オレフィンランダム共重合体(EBR)35重量%とをドライブレンドした」ものである点。
[相違点2]シーラントフィルムに関し、本件発明1は「(2)前記熱融着層同士を接着した場合の100℃におけるヒートシール強度が15N/15mm以上である」のに対し、甲1発明の熱融着層は、「ヒートシール温度が100℃でのヒートシール強度が8.7N/15mmである」点。
[相違点3]シーラントフィルムに関し、本件発明1は「(3)前記シーラントフィルムは無延伸フィルムである」のに対し、甲1発明の熱融着層は無延伸フィルムであるか不明な点。
[相違点4]基材フィルムに関し、本件発明1は「(4)前記基材フィルムは無延伸ポリプロピレンフィルムおよび二軸延伸ポリプロピレンフィルムから選ばれる少なくとも一種である」のに対し、甲1発明の中間層は、延伸したものであるかどうか不明な点。
ウ 判断
上記相違点1について検討する。
甲1発明は、熱融着層として、「融点138℃のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(R-PP-2)30重量%、融点110℃のプロピレン・1-ブテンランダム共重合体を含むプロピレン・α-オレフィン共重合体(PBC)35重量%及び融点69℃のエチレン・α-オレフィンランダム共重合体(EBR)35重量%とをドライブレンドした」ものを用いており、熱融着層に含まれるこれらの原料は、融点が75℃以上、100℃以下のオレフィン系(共)重合体ではない。
また甲1の他の実施例(段落【0023】、【0024】参照)についても、熱融着層として、融点が75℃以上、100℃以下のオレフィン系(共)重合体を用いるものは記載されていない。
そして、申立人が提出した甲2~甲4にも熱融着層として融点が75℃以上、100℃以下のオレフィン系(共)重合体を用いることについては記載されていない。
さらに、甲1発明において、熱融着層に融点が75℃以上、100℃以下のオレフィン系(共)重合体を用いる動機付けはない。
よって、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、上記ウで判断したように、本件発明2~6は、当業者が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び申立人が提出した特許異議の申立理由によっては、請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700912