特許異議申立
2024-700707
接着剤および積層体
- 審判番号
- 2024-700707
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-531731
- 登録番号
- 7423778
- 請求日
- 2024年07月26日
- 審決日
- 2025年12月24日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三井化学株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人エスエス国際特許事務所
- 【異議申立人】齊藤 恵美子
- 審判長/審判官
- 審判長 古屋野 浩志
- 審判官 高松 大
- 審判官 宮澤 浩
- 分類
- P1651.121-YAA(C09J) / P1651.537-YAA(C09J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第36条、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7423778号発明「接着剤および積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7423778号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを認める。
特許第7423778号の請求項1、3、7~10に係る特許を維持する。
特許第7423778号の請求項2、4~6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7423778号の請求項1~10に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2022-531731号)は、2021年(令和3年)6月10日(先の出願に基づく優先権主張 2020年(令和2年)6月15日)を国際出願日とする出願であって、令和6年1月19日にその特許権の設定の登録がされ、令和6年1月29日に特許掲載公報が発行された。本件特許について、その特許掲載公報発行の日から6月以内である令和6年7月26日に、特許異議申立人 齊藤 恵美子(以下「申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和6年10月29日付け:取消理由通知書
同年12月24日提出:訂正請求書、意見書(特許権者)
令和7年 4月 7日提出:意見書(申立人)
同年 5月27日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年 7月25日提出:訂正請求書、意見書(特許権者)
同年 8月 8日付け:手続補正指令書
同年 9月 1日提出:手続補正書(特許権者)
なお、令和6年12月24日に提出された訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
また、令和7年7月25日の訂正の請求における訂正事項は、令和6年12月24日の訂正の請求における訂正事項に、実質的にすべて含まれるものであって、その令和6年12月24日の訂正の請求については、申立人に訂正の請求があった旨の通知を送付して意見書を提出する機会を与えているから、令和7年7月25日の訂正の請求については、特許法第120条の5第5項ただし書に規定する特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別な事情があるときに該当すると認められるため、申立人に意見書を提出する機会を与えなかった。
第2 本件訂正請求について
1 訂正請求の趣旨
令和7年7月25日に提出され、同年9月1日の手続補正書で補正された訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は、特許第7423778号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求める、というものである。
なお、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」、本件訂正前又は本件訂正後を、単に「訂正前」又は「訂正後」ということがある。また、下線は訂正箇所を示す。
2 訂正の内容
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を
「 熱可塑性樹脂バインダー(A)、変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)及び有機溶媒を含み、乾燥塗膜の水接触角が110°以上であり、
前記熱可塑性樹脂バインダー(A)がオレフィン系樹脂(a-1)またはスチレン系樹脂(a-2)であり、前記熱可塑性バインダー(A)と変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)との固形分質量比率((A)/(B))が80/20~10/90である、接着剤。」に訂正する。
(請求項1の記載を直接または間接的に引用する請求項3、7~10も同様に訂正する。)
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を
「 前記変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)の体積基準の累積50%粒子径(D50)が1~1000μmであり、前記変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)の融点(Tm)が100~160℃である、請求項1に記載の接着剤。」と訂正する。
(請求項3の記載を直接または間接的に引用する請求項7~10も同様に訂正する。)
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「基材と、前記基材の少なくとも一方の表面に積層される接着剤層とを備え、前記基材が樹脂または金属であり、前記接着剤層が、請求項1~6のいずれか一項に記載の接着剤から得られる層である、積層体。」とあるのを、「基材と、前記基材の少なくとも一方の表面に積層される接着剤層とを備え、前記基材が樹脂または金属であり、前記接着剤層が、請求項1または3に記載の接着剤から得られる層である、積層体。」に訂正する。
3 訂正の適否についての判断
(1) 一群の請求項について
訂正前の請求項1および請求項3~10について、請求項3~10は、請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。また、訂正前の請求項2および請求項3~10について、請求項3~10は、請求項2を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~10に対応する訂正後の請求項1~10は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2) 訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「熱可塑性樹脂バインダー(A)」について、その下位概念である「オレフィン樹脂(a-1)またはスチレン系樹脂(a-2)」へと限定したものである。また、訂正事項1は、「熱可塑性バインダー(A)と変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)との固形分質量比率((A)/(B))」を「80/20~10/90」に限定したものである。
そうすると、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項1による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1の「熱可塑性樹脂バインダー(A)」について、その下位概念である「オレフィン樹脂(a-1)またはスチレン系樹脂(a-2)」へと限定する訂正は、本件明細書の段落【0018】の「熱可塑性樹脂バインダー(A)としては、例えば、オレフィン系樹脂(a-1)、スチレン系樹脂(a-2) などが挙げられる。」との記載に基づく。また、訂正事項1の「熱可塑性バインダー(A)と変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)との固形分質量比率((A)/(B))」を「80/20~10/90」に限定する訂正は、本件明細書の段落【0111】の「本発明の接着剤において、熱可塑性バインダー(A)と変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)との固形分質重量比率(A/B)は、80/20~5/95であることが好ましく、70/30~10/90であることがより好ましく、60/40~10/90であることがさらに好ましい。」との記載に基づく。そうしてみると、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の全ての請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
オ その他
上記ア~エにおける検討事項は、請求項3、7~10についても、同様である。
(3) 訂正事項2について
ア 訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の請求項2を削除する訂正である。
そうすると、訂正事項2による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とする訂正に該当する。
イ 上記アのとおりであるから、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、訂正事項2による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4) 訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項3の「変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)」について、「融点(Tm)が100~160℃」であることに限定し、さらに、訂正事項2により訂正前の請求項2が削除されたことに伴い、請求項2を引用しないものとしたものである。
そうすると、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号及び3号(明瞭でない記載の釈明)に掲げる事項を目的とする訂正に該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項3による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項3による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3の「変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)」について、「融点(Tm)が100~160℃」であることに限定する訂正は、本件明細書の段落【0108】の「変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)の融点(Tm)は、・・・(略)・・・、さらに好ましくは100~160℃である。」との記載に基づく。そうしてみると、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の全ての請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
オ その他
上記ア~エにおける検討事項は、請求項7~10についても、同様である。
(5) 訂正事項4について
ア 訂正事項4による訂正は、特許請求の範囲の請求項4を削除する訂正である。
そうすると、訂正事項2による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とする訂正に該当する。
イ 上記アのとおりであるから、訂正事項4による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、訂正事項4による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6) 訂正事項5について
ア 訂正事項5による訂正は、特許請求の範囲の請求項5を削除する訂正である。
そうすると、訂正事項5による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とする訂正に該当する。
イ 上記アのとおりであるから、訂正事項5による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、訂正事項5による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(7) 訂正事項6について
ア 訂正事項6による訂正は、特許請求の範囲の請求項6を削除する訂正である。
そうすると、訂正事項6による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とする訂正に該当する。
イ 上記アのとおりであるから、訂正事項6による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、訂正事項6による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(8) 訂正事項7について
ア 訂正の目的
訂正事項7は、訂正事項2により訂正前の請求項2が削除されたことに伴い、請求項2を引用しないものとしたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更する訂正ではないこと
訂正事項7は、訂正事項2により訂正前の請求項2が削除されたことに伴い、当該削除された請求項2、4~6を引用しないものとしたものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項7は、訂正事項2により訂正前の請求項2が削除されたことに伴い、請求項4~6を引用しないものとしたものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(9) 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件では、訂正前の全ての請求項1~10について特許異議の申立てがされている。したがって、訂正事項1~7に関しては、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件が課されない。
4 本件訂正請求についてのまとめ
上記3によれば、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同条第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、結論に記載のとおり、特許第7423778号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり、訂正後の請求項1~10のとおり訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
そうしてみると、特許異議の申立ての対象となっている、請求項1~10に係る発明は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
なお、各請求項に係る訂正後の特許発明をその請求項の番号に基づいて、「本件特許発明1」などといい、全ての請求項に係る特許発明を総称して、「本件特許発明」ということがある。
「【請求項1】
熱可塑性樹脂バインダー(A)、変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)及び有機溶媒を含み、乾燥塗膜の水接触角が110°以上であり、
前記熱可塑性樹脂バインダー(A)がオレフィン系樹脂(a-1)またはスチレン系樹脂(a-2)であり、前記熱可塑性バインダー(A)と変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)との固形分質量比率((A)/(B))が80/20~10/90である、接着剤。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)の体積基準の累積50%粒子径(D50)が1~1000μmであり、前記変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)の融点(Tm)が100~160℃である、請求項1に記載の接着剤。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
基材と、前記基材の少なくとも一方の表面に積層される接着剤層とを備え、前記基材が樹脂または金属であり、前記接着剤層が、請求項1または3に記載の接着剤から得られる層である、積層体。
【請求項8】
前記接着剤層の水接触角が110°以上である、請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記接着剤層がヒートシール層である、請求項7または8に記載の積層体。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか一項に記載の積層体を含む包装材料。」
第4 申立人が提出した証拠方法及び申立理由
1 証拠方法
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)とともに証拠方法として、以下に示す甲第1号証を提出した。
甲第1号証:特開平3-227382号公報(以下「甲1」という。)
2 申立理由の概要
申立人は、概略、下記(1)~(4)の特許異議申立理由を主張している。申立理由の番号は当合議体が付与したものである。
(1) 進歩性欠如
本件特許発明1~5及び7~10は、甲1に記載の発明から容易に想到できた発明である(申立7~15ページ)。
(2) サポート要件違反
本件特許発明1~10は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない(申立書15~18ページ)。
第5 当合議体が通知した取消しの理由
令和7年5月27日付け取消理由通知書により通知した取消しの理由は、以下のとおりである。
理由1(進歩性)請求項2、3、7、9及び10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
理由2(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の請求項2、3、6、7、9及び10の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
第6 当合議体の判断
取消理由通知の対象であった、訂正前の請求項2に係る発明は、本件訂正により削除されたから、訂正前の請求項2及び請求項2を引用する請求項3、7、9及び10に係る発明について、当該取消しの理由1は解消された。
取消理由通知の対象であった、訂正前の請求項6に係る発明は、本件訂正により削除されたから、訂正前の請求項6に係る発明について、当該取消しの理由2は解消された。
第7 取消理由通知書で採用しなかった特許異議申立ての理由について
1 理由1(進歩性)について
(1) 甲1
ア 甲1の記載事項
特許異議申立人が甲1として引用し、令和6年10月29日付けで、特許権者に通知した取消しの理由で引用した甲1は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であるところ、以下の記載事項がある。(当合議体注:下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。)
(ア) 「 (1)塗膜形成性樹脂溶液の連続相と該連続相中に分散した変性オレフィン系樹脂粒子の分散相とから成るオレフィン系樹脂接着用塗料において、
全固形分100重量部当り0.03乃至5重量部の熱安定剤を含有することを特徴とする耐熱性に優れたオレフィン系樹脂接着用塗料。
(2)熱安定剤の大部分が塗膜形成性樹脂溶液の連続相中に存在する請求項1記載の塗料。
(3)熱安定剤が立体障害性フェノール類である請求項1記載の塗料。
(4)塗膜形成性樹脂と変性オレフィン系樹脂とが99.2:0.8乃至50:50の重量比で存在する請求項1記載の塗料。」(特許請求の範囲)
(イ) 「(従来の技術)
金属とオレフィン系樹脂との接着構造物は、種々の包装の分野、例えば容器やキャップの分野で広く使用されている。例えば、金属箔シートの絞り成形で形成されたフランジ付容器本体と蓋体とをフランジ部でヒートシールして成る容器や、金属製キャップ殻体の内面側にオレフィン系樹脂ライナーを設けたライナー付キャップ等が知られている。
前者のヒートシール容器におけるヒートシール内面材としてはオレフィン系樹脂が適している。従って、これら何れの場合にも、金属を被覆保護する塗膜とオレフィン系樹脂とを接着することが必要となる。
・・・(略)・・・
(発明が解決しようとする問題点)
上記先行技術によると、塗膜とオレフィン系樹脂層との間に強固な接着結合を導入し得るという利点が達成されるが、この塗膜が高温に賦される場合には、オレフィン系樹脂層との接着強度が著しく低下したり、また接着力が安定していないという欠点が認められる。
・・・(略)・・・
従って、本発明の目的は、従来のオレフィン系樹脂接着用塗料における上記欠点を解消し、塗料が高温に賦された場合にも、オレフィン系樹脂との接着強度が安定に高いレベルに維持される耐熱性に優れたオレフィン系樹脂接着用塗料を提供するにある。
本発明の他の目的は、金属素材の被覆保護とオレフィン系樹脂との接着との両方の目的に使用することができ、しかも形成される塗膜自体が優れた耐熱性と共に内容物に対する耐抽出性にも優れているオレフィン系樹脂接着用塗料を提供するにある。」(1頁右欄7行~2頁左下欄6行)
(ウ) 「(発明の好適態様)
本発明に用いる塗料は、塗膜形成性樹脂溶液中に変性オレフィン系樹脂粒子を分散させてなる。
・・・(略)・・・
本発明において、変性オレフィン樹脂としては、それ自体公知の極性基含有エチレン系不飽和単量体をグラフト共重合、ブロック共重合、ランダム共重合或いは末端処理等の手段でオレフィン樹脂の主鎖又は側鎖に導入したものの内、前記条件を満足するものが使用される。
極性基含有エチレン系不飽和単量体としては、カルボン酸、カルボン酸塩、カルボン酸無水物、・・・(略)・・・の1種又は2種以上の組合せを使用することができ、その適当な例は次の通りである。
・・・(略)・・・
本発明においては、上述した単量体の内でも、エチレン系不飽和カルボン酸或いはエチレン系不飽和無水カルボン酸が特に好適であり、これらの単量体は単独で、或いはその他の単量体との組合せでオレフィン樹脂の変性に使用される。
・・・(略)・・・
変性オレフィン系樹脂がグラフト重合体である場合、幹ポリマーとしては、低-、中-或いは高-密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン-1、ポリベンテン-1、エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-1共重合体等が使用される。
・・・(略)・・・
また、変性オレフィン系樹脂の粒径は、体積基準のメジアン径が0.3乃至50μm、特に1.0乃至20μmの範囲にあることが、塗料中での分散性と接着性との見地から望ましい。この変性オレフィン系樹脂の粒子は単分散或いはそれに近い粒度分布を有することが望ましく、粒度の標準偏差(σ)は平均粒径の1/3以内にあることが特に望ましい。このような粒子は、変性オレフィン系樹脂を、熱時キシレン等の芳香族溶媒に溶解し、これを冷却するか或いはこの溶液に脂肪族炭化水素或いはその誘導体のような負溶媒を添加して、変性オレフィン系樹脂を析出させることにより製造される。
塗膜形成性樹脂(以下ベース樹脂とも呼ぶ)としては、塗膜形成能を有する樹脂が何れも使用されるが、変性オレフィン系樹脂の密度よりも0.1g/cc以上密度の大きいものを使用するのが接着性の向上の点で望ましい。また、ベース樹脂中の水酸基やカルボニル基の官能基の濃度を1meq/g以上とするこにとより、プライマー層の金属基体への密着性や、耐腐食性を一層高めることが可能となる。
本発明において、塗膜形成用のベース樹脂においては、水酸基はアルコール性水酸基或いはフェノール性水酸基或はその組合せの形で重合体の主鎖または側鎖に含有されていてもよく、またカルボニル基は、カルボン酸、カルホン酸塩、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド、ケトン、イミド、ウリヤ或いはウレタンの形で重合体の主鎖又は側鎖に含有されていてもよい。
用いるベース樹脂は、塗装の分野で広く使用されている熱硬化性或いは熱可塑性の樹脂ビヒクルの内、上述した要件を満足するものであればよく、例えばフェノール・ホルムアルデヒド樹脂、尿素・ホルムアルデヒド樹脂、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、ウレタン樹脂の単独又は2種以上の組合せから成る熱硬化性樹脂、或いはアクリル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニルマレイン酸共重合体、ビニルブチラール樹脂等のビニル樹脂、スチレン-ブタジエン-アクリル酸エステル共重合体、ポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂の内、上述した要件を満足するものが何れも本発明に使用し得る。
・・・(略)・・・
上述した塗膜形成性樹脂(A)と変性オレフィン系樹脂(B)とは、
A:B=99.2:0.8~50:50
の重量比で組合せて使用する。
・・・(略)・・・
本発明の塗料における有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類;ジアセトンアルコール、n-ブタノール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のアルコール類;トルエン、キシレン、デカリン等の芳香族炭化水素類等が単独又は2種以上の組合せで使用される。」(3頁右下欄13行~7頁右上欄6行)
(エ) 「 接着構造物を製造するには、まず金属基体に上記塗料を塗布し、次いで焼付して被覆金属基体とする。
・・・(略)・・・
これらの金属基体は、その防食の目的で、予め表面に、フェノール・エポキシ、エポキシ・ウリア等のエポキシ・アミノ樹脂、フェノール-エポキシ-ビニル、エポキシ-ビニル等の公知のプライマーを塗布されていてもよい。
金属基体の表面にプライマー層を形成させるに当っては、金属基体の表面を所望により、それ自体公知の手段で脱脂洗浄し、この表面に前述した液体被覆組成物を施こす。
・・・(略)・・・
塗装後の金属基体を焼付けて、変性オレフィン系樹脂が上層に分布した乾燥乃至硬化塗膜とする。焼付温度としては、180乃至300℃の温度を用いることができるが、250℃以上のような高温での焼付を行っても、オレフィン系樹脂との間に十分に高い接着力が得られることが本発明の利点である。
・・・(略)・・・
これらのポリオレフィンには、それ自体公知の処方に従って、フェノール系、有機硫黄系、有機窒素系、有機リン系等の酸化防止剤乃至は熱安定剤や、金属石ケンや他の脂肪酸誘導体等の滑剤、炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、チタンホワイト、炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、カーボンブラック、各種クレイ等の充填剤或いは他の着色料等の配合剤を配合することができる。
本発明に使用するオレフィン樹脂には、また架橋剤或いは発泡剤を単独又は組合せで配合して、架橋、発泡或いは架橋発泡されたオレフィン樹脂層とすることができる。例えば、金属基質上に耐熱性や耐久性或いは弾性等の機械的性質に優れたオレフィン樹脂の被覆を形成する場合には、樹脂中に架橋剤を含有せしめるのがよく、一方パッキング、シーラント等に必要なクッション性を有する被覆を形成する場合には、樹脂中に発泡剤を必要により架橋剤と共に含有せしめるのがよい。
・・・(略)・・・
これらのオレフィン樹脂層は、前述した変性オレフィン樹脂(A)の融点及び前記オレフィン樹脂の融点の内、高い方の融点よりも少なくとも10℃高い温度、一般には120乃至300℃、特に150乃至230℃の温度において、前記プライマー層を介して金属基体に熱接着させる。
・・・(略)・・・
また、別法として、オレフィン樹脂の熔融物を、予めプライマー層を設けた金属基体上に上記温度で押出し、オレフィン樹脂層をプライマー層を介して金属基体に融着させることができる。」(7頁右上欄20行~9頁右上欄3行)
(オ) 「(実施例1)
<<変性オレフィン樹脂塗料溶液の作成>>融点165℃の無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン樹脂(MFR200、平均カルボニル基濃度150meq/100g重合体)を石油ナフサ系溶剤(ソルベッソ150)中に加熱溶解させた後に、シクロヘキサノン中に攪拌下混合して樹脂粒子を析出させることにより、樹脂固形分約10%メジアン粒子径約10.5μmの変性ポリプロピレン粒子分散塗料を作成した。ここで、加熱溶解時に熱安定剤としてテトラキス[メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシナメート)]メタン(日本チバガイギー社、イルガノックス1010)をそれぞれ樹脂固形分に対し0.3部(P0)、3.3部(P1)を添加した2種の塗料溶液を得た。
<<熱硬化性樹脂塗料溶液の作成>>市販のエポキシ樹脂(エピコート1010)をブチルセロソルブ、キシレン混合溶媒に溶解し、次いで硬化剤として市販のベンゾグアナミン樹脂溶液を双方の樹脂の固形分換算比率が90:10となるように混合し、固形分約35%の熱硬化性樹脂塗料溶液(T1)を得た。
上記各種塗料溶液を用いて、変性オレフィン樹脂粒子が熱硬化性樹脂固形分100部に対し10部分散した総固形分26%の各種の変性オレフィン樹脂粒子分散熱硬化性樹脂塗料を作成した。すなわち、溶液P1とT1、そして希釈溶剤を混合し総固形分100部当り0.3部の熱安定剤を含有する塗料を作成した(本発明1)。
・・・(略)・・・
(実施例5)
両面にクロメート表面処理層を有する厚さ75μmの圧延鋼箔の一方の容器外面となる面にこげ茶色に着色されたエポキシフェノール系塗料を塗布量120mg/dm2で塗布した。次にもう一方の容器内面となる面に樹脂分100部に対してチタン系白色顔料60部含有するエポキシ・フェノール系塗料を塗布量120mg/dm2で塗布し、それぞれ200℃で30秒間乾燥した。次いで、同じ面に先の実施例1で用いた各種の変性オレフィン樹脂粒子分散エポキシ・ベンゾグアナミン塗料を塗布量80mg/dm2にて塗布し270℃で30秒間焼付を行ない内外面の熱硬化性樹脂を十分に硬化させた。
かくして得られた各材料をブランク径φ135mmのブランクに打抜き、弾性体パンチを用いた絞り成形法により、高さ25mm、外径83mm、内径70mm、コーナーR25mmで、フランジ部が外側にカールされた角型容器を成形した。
一方、蓋材として12μmPET/15μm2軸延伸ナイロン/20μmアルミ箔のラミネート基材と厚さ30μmのエチレン-プロピレン共重合体サポート層と厚さ5μmのポリプロピレン70wt%と低密度ポリエチレン30wt%のブレンド層からなる共押出フィルムとの間に10μmエチレン-プロピレン共重合体15μm無水マレイン酸変性ポリプロピレン(変性PPがアルミ箔側)の樹脂を2層共押出することによりサンドラミネーションを行なった後、オーブンで熱処理を行うことにより、PP-LDPEブレンド層をシール層とする積層体を得た。この積層体からコーナー部に開封用つまみ部を有する85mm×85mmの大きさの蓋材を打抜いた。
次に前記角型成形容器(各材料につき50ケ)の中にマカロニグラタンを充填し前記蓋材をヒートシールした。この密封容器を120℃で30分間レトルト殺菌処理を行なった。表5には、このレトルト殺菌におけるシール不良の発生状況及び殺菌後の容器本体と1体とのヒートシール強度(各容器6点、容器数5ヶ合計30点の平均値)を示した。この結果は、ほぼ実施例1の結果と対応しており、比較例1、2の塗料を用いた場合には、シール強度が著しく低くまたレトルト時に密封不良が多く発生した。」(9頁左下欄14行~12頁右上欄1行)
イ 甲1-1発明
甲1には、次の発明が記載されているものと認める。
「 塗膜形成性樹脂溶液中に変性オレフィン系樹脂粒子を分散させてなり、
変性オレフィン系樹脂の粒径は、体積基準のメジアン径が1.0乃至20μmの範囲にあり、
変性オレフィン系樹脂の粒子は単分散或いはそれに近い粒度分布を有することが望ましく、粒度の標準偏差(σ)は平均粒径の1/3以内にあり、
塗膜形成性樹脂(以下ベース樹脂とも呼ぶ)としては、塗膜形成能を有する樹脂が使用され、
ベース樹脂は、スチレン-ブタジエン-アクリル酸エステル共重合体の熱可塑性樹脂が使用し得、
塗膜形成性樹脂(A)と変性オレフィン系樹脂(B)とは、
A:B=99.2:0.8~50:50
の重量比で組合せて使用され、
有機溶媒が単独又は2種以上の組合せで使用される、
オレフィン系樹脂接着用塗料。」(以下「甲1-1発明」という。)
ウ 甲1-2発明
甲1には、次の発明が記載されているものと認める。
「 金属基体に上記塗料を塗布し、次いで焼付し、
変性オレフィン系樹脂が上層に分布した乾燥乃至硬化塗膜とする、
ヒートシール容器で使用されている接着構造物。」(以下「甲1-2発明」という。)
(2) 特開2014-96407号公報の記載事項
当合議体が職権調査により発見した特開2014-96407号公報(以下「引用文献A」という。)は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であるところ、以下の記載事項がある。
「【0068】
続いて、表面エネルギーの観点から説明する。
図6は、アクリルの側鎖の炭素数における水の接触角を表すグラフ図である。
図6には、ポリnヘキシルメタクリレート(PnHMA)、ポリスチレン(PS)、ポリnブチルメタクリレート(PnBMA)、ポリnプロピルメタクリレート(PnPMA)、およびポリメチルメタクリレート(PMMA)のそれぞれの水に対する接触角が表されている。水の接触角を表面エネルギーの指標とした。水の接触角が大きくなると表面エネルギーが小さくなる。一方、水の接触角が小さくなると表面エネルギーが大きくなる。
・・・(略)・・・
【図6】
[図:0001434113000001.jpg]
」
(3) 国際公開第2016/035625号の記載事項
当合議体が職権調査により発見した国際公開第2016/035625号(以下「引用文献B」という。)は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であるところ、以下の記載事項がある。
「【0049】
なお、親水性・疎水性を示す指標として、接触角が広く用いられている。すなわち、接触角が小さいほど親水性が高く、接触角が大きいほど疎水性が高い。例えば、ポリマー24の例として挙げたものの接触角は、スチレン系ポリマーは約90度、(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーは約70度、ビニル系ポリマーは約90度、ウレア系ポリマーは約80度、イミド系ポリマーは75~90度、アミド系ポリマーは50~70度、ウレタン系ポリマーは80~95度、エポキシ系ポリマーは約90度、ベンゾシクロブテンは約90度である。」
(4) 特開2003-238619号公報の記載事項
当合議体が職権調査により発見した特開2003-238619号公報(以下「引用文献C」という。)は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であるところ、以下の記載事項がある。
「【0074】(2)ポリプロピレンヘの無水マレイン酸の導入
前記の重合により得られたポリプロピレン2gに対して、ヘプタン20gを添加し、撹拌機でポリプロピレンが完全に溶解するまで撹拌した。その後、そのヘプタン溶液に、窒素を20分間バブリングした。窒素雰囲気下で、無水マレイン酸1.0gと、ラジカル反応開始剤としてt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.05gとを加え、2分間混合した後、オイルバスを用いて反応系を93℃まで上昇させ、系内温度が93℃到達後、3時間撹拌を続けた。その後、オイルバスを下げ、直ちに室温のヘプタンを50ml加えた。そのヘプタン溶液を600mlのメタノールに注ぎ、ポリマーを沈殿させた後、当該ポリマーを取り出し150mlのヘプタンに溶解した。そのヘプタン溶液を分液ロートに移し50mlのメタノールを加えて、分液ロートをよく振り、静置、分液を行った。この操作を3回繰り返した後、ヘプタン層のみを回収し、十分乾燥することにより、ポリマーを得た。
【0075】得られたポリマーをIR測定したところ、1860cm-1付近と1780cm-1付近にジカルボン酸無水物に由来する吸収ピークが観測された。その吸収強度から、ポリプロピレンヘのジカルボン酸無水物の導入量を求めたところ、1.0個/鎖であることが明らかとなった。また、1H-NMRを測定したところ、3ppm付近にコハク酸のメチレンに由来するピークが観測された。これらのNMR、IR分析の結果から、無水マレイン酸がポリプロピレン鎖に導入されていることが確認された。このポリプロピレンヘの無水マレイン酸の導入(変性)条件と得られたポリマーの分析結果を表2に示す。
【0076】
【表2】
[図:0001434113000002.jpg]
【0077】(3)変性ポリプロピレンの評価
前記で得られた無水マレイン酸変性ポリプロピレンについて、極性を有する樹脂との親和性と溶媒への溶解性、及び熱安定性を評価した。これらの評価結果を表3に示す。尚、極性を有する樹脂との親和性は、水との接触角を測定することにより評価した。その測定方法は、ポリプロピレン板の上に、得られた無水マレイン酸変性ポリプロピレンを塗布し、25℃において、水との接触角を測定し、接触角≦30°:○、30°<接触角≦60°:△、60°<接触角≦90°:×とした。
・・・(略)・・・
【0078】
【表3】
[図:0001434113000003.jpg]
」
(5) 特開2013-202535号公報の記載事項
当合議体が職権調査により発見した特開2013-202535号公報(以下「引用文献D」という。)は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であるところ、以下の記載事項がある。
「【0005】
そこで、接触角150°以上の超撥水表面を得るための技術が鋭意研究されており、そのひとつとして、表面に微細な凹凸構造を形成する技術が提唱されている。これは、凹凸構造をとることで、空気と水との接触角180°を利用して表面の接触角を大きくし、水との接触角が150°以上の表面を得ることが可能となるものである。
・・・(略)・・・
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記のような課題を解決するために成されたもので、第1の発明に係る超撥水表面の形成方法は、基材の表面に、発泡マイクロカプセルを含む塗液を塗布し、前記塗液が塗布された前記基材を加熱乾燥させることで前記発泡マイクロカプセルを発泡させて表面に凹凸構造を形成することを特徴とする。
・・・(略)・・・
【実施例】
【0033】
(実施例1)
厚さ12μmの延伸ポリエステルフィルムをベースフィルムとして、その上に厚さ30μmのポリプロピレンフィルムをドライラミネーションにより貼り合せ、さらにその上にポリオレフィン系のバインダー樹脂を主成分とし有機系の溶剤からなる塗工液に、粒径5~10μmの発泡マイクロカプセルを25重量パーセント添加して、グラビア印刷法で乾燥後の膜厚10μmとなるよう塗工し、80~90℃のオーブンを通して加熱乾燥させることで表面に微細凹凸構造を有する超撥水面を形成し、超撥水面を持つ包装材フィルムを作製した。塗工液に添加した発泡マイクロカプセルは、発泡開始温度70~80℃で、シェル成分がアクリルニトリル系、コア成分が低沸点炭化水素の発泡マイクロカプセルを用いた。
【0034】
形成した超撥水面を顕微鏡で観察したところ、平均的な周期で10~20μm、凹部の平均的な径で5~10μm程度のランダムな凹凸構造が形成されていた。この超撥水面の水の接触角を測定したところ、140~150°の接触角を示した。また、このフィルムの超撥水面同士をヒートシールしたところ、ヒートシール可能であり、10N程度のヒートシール強度が得られた。」
(6) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1-1発明とを対比する。
(ア) 熱可塑性樹脂バインダー(A)
甲1-1発明の「スチレン-ブタジエン-アクリル酸エステル共重合体」は、「熱可塑性樹脂」であるから、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂」に相当する。また、甲1-1発明の「スチレン-ブタジエン-アクリル酸エステル共重合体」は、「塗膜形成性」の「樹脂」であるから、技術常識からみて、本件特許発明1の「バインダー」に相当する。そうしてみると、甲1-1発明の「スチレン-ブタジエン-アクリル酸エステル共重合体」は、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂バインダー(A)」に相当する。
(イ) 変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)
甲1-1発明の「変性オレフィン系樹脂の粒子」は、技術常識からみて、本件特許発明1の「変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)」に相当する。
(ウ) 有機溶媒
甲1-1発明の「有機溶媒」は、本件特許発明1の「有機溶媒」に相当する。
(エ) 熱可塑性バインダー(A)がオレフィン樹脂(a-1)またはスチレン系樹脂(a-2)であること
甲1-1発明の「スチレン-ブタジエン-アクリル酸エステル共重合体」は、その名のとおり、「スチレン」と「ブタジエン」と「アクリル酸エステル」を共重合してなる樹脂であるから、本件特許発明1の「熱可塑性バインダー(A)がオレフィン樹脂(a-1)またはスチレン系樹脂(a-2)であ」るという要件を満たす。
(オ) 接着剤
甲1-1発明の「オレフィン系樹脂接着用塗料」は、その名のとおり、「接着用」の「塗料」であるから、本件特許発明2の「接着剤」に相当する。
イ 一致点及び相違点
本件特許発明1と甲1-1発明は、以下の点(ア)で一致し、以下の点(イ)で相違する。
(ア) 一致点
「 熱可塑性樹脂バインダー(A)、変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)及び有機溶媒を含み、
前記熱可塑性バインダー(A)がオレフィン樹脂(a-1)またはスチレン系樹脂(a-2)である、接着剤。」
(イ) 相違点
(相違点1)
乾燥塗膜の水接触角が、本件特許発明1は、「110°以上」であるのに対し、甲1-1発明は、そのように特定されていない点。
(相違点2)
本件特許発明1は、「熱可塑性バインダー(A)と変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)との固形分質量比率((A)/(B))が80/20~10/90」であるのに対し、甲1-1発明は、「塗膜形成性樹脂(A)と変性オレフィン系樹脂(B)とは」、「A:B=99.2:0.8~50:50」「の重量比で組合せて使用され」る点。
ウ 判断
上記相違点1について検討する。
(ア) 甲1には、甲1-1発明の「接着剤」を乾燥させた塗膜の水接触角を「110°以上」とすることが、記載も示唆もされていない。
(イ) 引用文献Aの段落【0068】及び【図6】に、アクリルの側鎖の炭素数が増加すると、アクリレートの接触角が増加すること、引用文献Bの段落【0049】に、「接触角は、スチレン系ポリマーは約90度、(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーは約70度、ビニル系ポリマーは約90度、ウレア系ポリマーは約80度、イミド系ポリマーは75~90度、アミド系ポリマーは50~70度、ウレタン系ポリマーは80~95度、エポキシ系ポリマーは約90度、ベンゾシクロブテンは約90度である」こと、引用文献Cの段落【0074】~【0078】【表3】に、無水マレイン酸変性ポリプロピレンの接触角は、変性条件により変化することが記載されているとおり、樹脂の材料組成が「水接触角」に依存することは技術常識である。一方、甲1には、「スチレン-ブタジエン-アクリル酸エステル共重合体」及び「変性オレフィン系樹脂」の材料組成が具体的に記載されていない。
(ウ) 引用文献Dの段落【0005】に、「超撥水表面を得るため」に、「表面に微細な凹凸構造を形成する」こと、段落【0034】に、「平均的な周期で10~20μm、凹部の平均的な径で5~10μm程度のランダムな凹凸構造が形成」することが記載されているとおり、微細な凹凸構造の存在が、表面の「水接触角」に当然依存する撥水性に寄与することは技術常識である。一方、甲1には、「変性オレフィン系樹脂」の粒径が、「体積基準のメジアン径が1.0乃至20μmの範囲にあ」ることが記載されるにとどまり、甲1-1発明の「接着剤」が乾燥した際に、「変性オレフィン系樹脂」に起因する凹凸構造がどの程度存在するのかが記載されていない。
(エ) 上記(イ)で述べたとおり、甲1には、「スチレン-ブタジエン-アクリル酸エステル共重合体」及び「変性オレフィン系樹脂」の材料組成が記載されていないため、「スチレン-ブタジエン-アクリル酸エステル共重合体」に対する「変性オレフィン系樹脂」の相溶性の程度が不明であり、「変性オレフィン系樹脂」が凹凸構造を構成しうるともいえない。
(オ) そうしてみると、上記(イ)~(エ)で検討した事項を総合すれば、甲1-1発明の「接着剤」を乾燥させて得られる塗膜の「水接触角」が、「110°以上」となる蓋然性が高いともいえない。
(カ) そして、甲1及び引用文献A~Dの記載からは、甲1-1発明の「接着剤」に含有させる「スチレン-ブタジエン-アクリル酸エステル共重合体」及び「変性オレフィン系樹脂」の材料組成や、甲1-1発明の「接着剤」を乾燥させた塗膜における表面の状態を調整して、甲1-1発明の「接着剤」を乾燥させた塗膜の水接触角の下限を「110°」にする動機付けも存在しない。
(キ) そうしてみると、上記相違点2を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(7) 本件特許発明3、7~10について
「第2 3」の(4)及び(8)の記載を踏まえると、本件特許発明3、7~10は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記(2)のとおり、本件特許発明1が、甲1-1発明及び周知技術に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明3、7~10も、甲1-1発明に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(8) 申立人の主張について
ア 申立人は、申立書(7~15ページ)において、本件特許発明は、甲1に記載の塗料は変性オレフィン樹脂粒子を含有するから、形成される乾燥塗膜の水接触角が110°以上となる蓋然性が高い旨、及び、甲1実施例に記載の接着剤におけるエポキシ樹脂に代えて、熱可塑性樹脂を用いることは当業者が適宜なし得た旨主張している。
イ しかしながら、上記(6)で述べたとおり、甲1-1発明の「接着剤」を乾燥させて得られる塗膜の「水接触角」が、「110°以上」となる蓋然性が高いとはいえない。また、甲1-1発明において、乾燥塗膜の水接触角を「110°以上」とすることは、当業者が容易に想到できたものでもない。
ウ 加えて、上記(7)で述べたとおり、本件特許発明3、7~10も、甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ したがって、申立人の主張は採用しない。
2 理由2(サポート要件)について
(1) 本件特許発明1について
ア 判断基準
特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項1号に記載する要件(いわゆる、サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
これを本件特許発明についてみると、以下のとおりとなる。
イ 本件特許発明における課題解決手段の認定
本件明細書の段落【0011】の記載によると、本件特許発明の課題は、「撥水性が高く、金属や樹脂等に対して高い接着性を有する接着剤、および該接着剤を用いた積層体を提供すること」と認められる。
そして、発明の詳細な説明には、上記課題を解決するための方法として、本件明細書の段落【0014】に、「本発明の接着剤においては、接着剤に含まれるバインダー成分をすべて接着性樹脂にすることができるので、高い接着力を実現することができ」、「接着剤に含まれる変性ポリオレフィン樹脂粒子は、撥水性と接着性との二元効果を有するので、複合的に他の成分を配合しなくても、撥水性および接着性を実現することができる」こと、段落【0015】に、「本発明の接着剤は、熱可塑性樹脂バインダー(A)、変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)及び有機溶媒を含む」こと、段落【0016】に、「熱可塑性樹脂バインダー(A)は、本発明の接着剤に接着性を付与する成分である」こと、段落【0065】に、「変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)は、本発明の接着剤に撥水性および接着性を付与する成分である」こと、段落【0076】に、「本発明の接着剤が極性基含有単量体でグラフト変性されて得られる変性ポリオレフィン樹脂粒子を含むことにより、金属や樹脂からなる基材に対する密着力が向上する」こと、及び段落【0117】に、「本発明の接着剤においては、該接着剤から形成される乾燥塗膜における水接触角が110°以上であることが好ましく」、「本発明の接着剤は、前記水接触角が110°以上であることにより、撥水性に優れる」と記載されている。
そうしてみると、本件特許発明における課題解決手段は、「接着剤」に、「熱可塑性樹脂バインダー(A)、変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)及び有機溶媒を含」ませ、「接着剤から形成される乾燥塗膜における水接触角」を「110°以上」とすることにより、「撥水性および接着性を実現する」ことと認められる。
ウ 判断
上記イで認定した課題解決手段に基づいて、本件特許発明が本件課題を解決することができる範囲のものと当業者が認識することができるかについて検討する。
本件特許発明1は「熱可塑性樹脂バインダー(A)、変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)及び有機溶媒を含み、乾燥塗膜の水接触角が110°以上であり、
前記熱可塑性樹脂バインダー(A)がオレフィン系樹脂(a-1)またはスチレン系樹脂(a-2)であり、前記熱可塑性バインダー(A)と変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)との固形分質量比率((A)/(B))が80/20~10/90である、接着剤。」であって、「撥水性および接着性を実現する」が発揮できると解されるから、上記課題解決手段が反映されていることは明らかである。
したがって、本件特許発明1は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である。
(2) 本件特許発明3、7~10について
本件特許発明3、7~10は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記(1)のとおり、本件特許発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である以上、本件特許発明3、7~10も、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である。
(3) 申立人の主張について
ア 申立人は、申立書(15~18ページ)において、「変性ポリオレフィン粒子の量が多すぎると、接着剤により形成される塗膜の表面から変性ポリオレフィン粒子が突出し、変性ポリオレフィン粒子が安置ブロッキング剤のように機能するため接着性が低下する」し、「変性ポリオレフィン粒子の量が多すぎることで変性ポリオレフィン粒子が塗膜の表面に集中すると、AL箔と接触するのが変性ポリオレフィン粒子となるため」、「接着性が不十分になる」ため、本件特許発明1は、課題を解決できない態様を含むものである旨主張している。
イ しかしながら、本件明細書の段落【0014】に、「接着剤に含まれる変性ポリオレフィン樹脂粒子は、撥水性と接着性との二元効果を有するので、複合的に他の成分を配合しなくても、撥水性および接着性を実現することができる」と記載されているとおり、本件特許発明1は、「撥水性および接着性」を発揮させる程度に、接着剤に「変性ポリオレフィン樹脂粒子」を含有させることが前提となっている。したがって、上記(1)イで述べた本件明細書の記載からみて、本件特許発明1は、「接着剤」に、「熱可塑性樹脂バインダー(A)、変性ポリオレフィン樹脂粒子(B)及び有機溶媒を含」ませ、「接着剤から形成される乾燥塗膜における水接触角」を「110°以上」とすることにより、当業者であれば十分に、本件特許発明が本件課題を解決することができる範囲のものと認識できるといえる。
ウ したがって、申立人の主張は採用しない。
第8 むすび
本件特許発明1、3、7~10は、取消しの理由及び申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては、取り消すことができない。また、他に本件特許発明1、3、7~10を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項2、4~6に係る特許に対する申立ては、本件訂正により請求項2、4~6が削除されたため却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700707