特許異議申立
2024-700863
制振建物
- 審判番号
- 2024-700863
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-179030
- 登録番号
- 7492899
- 請求日
- 2024年09月10日
- 審決日
- 2025年01月22日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社竹中工務店
- 【権利者代理人】弁理士法人太陽国際特許事務所
- 【異議申立人】竹内 一喜
- 審判長/審判官
- 審判長 渋谷 知子
- 審判官 長井 真一
- 審判官 三橋 健二
- 分類
- P1651.121-Y (E04H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7492899号発明「制振建物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7492899号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7492899号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、令和2年10月26日に出願され、令和6年5月22日にその特許権の設定登録がされ、同年5月30日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~3に係る特許について、同年9月10日に特許異議申立人 竹内一喜(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
第2 特許異議の申立てについて
1 本件特許発明
本件特許の請求項1~3に係る発明(以下「本件特許発明1」などという。)は、特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
複数階層に亘って形成された柱梁架構と、
上側の梁に一端が連結され、下側の梁に他端が連結され、水平方向に対して傾斜して設置されると共に、設置された階層によって傾斜角度が異なっているダンパーと、
を備えた制振建物。
【請求項2】
前記ダンパーは、上階層のダンパーが下階層のダンパーより鉛直方向寄りに傾斜している、請求項1に記載の制振建物。
【請求項3】
前記ダンパーが連結される前記梁が縁切りされている、請求項1又は請求項2に記載の制振建物。」
2 特許異議申立ての理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、本件特許に対し、下記の証拠を提出し、次の理由を申し立てている。
・請求項1について
本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第2号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができた発明であり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(特許法第113条第2号)。
・請求項2について
本件特許発明2は、甲第1号証及び甲第2号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができた発明であり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(特許法第113条第2号)。
・請求項3について
本件特許発明3は、甲第1号証及び甲第2号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができた発明であり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(特許法第113条第2号)。
・証拠方法
(1)甲第1号証:特開2002-194917号公報
(2)甲第2号証:特開2011-149249号公報
(3)甲第3号証:特開2016-84701号公報
(4)甲第4号証:特開2002-309680号公報
(5)甲第5号証:特開2007-231718号公報
以下、甲第1号証~甲第5号証を、「甲1」などと略すことがある。
第3 当審の判断
1 各甲号証の記載
(1)甲1
ア 記載事項
甲1には、以下の記載がある(下線は合議体が付した。以下同じ。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、建物におけるフレームの耐震構造、特に、複数の階層にわたって上下に伸びるいわゆる連層耐震壁とこの両側に位置する2つの柱とを含むフレームの耐震構造に関する。
・・・
【0014】
【発明の実施の形態】図1を参照すると、複数の階層を有する建物のフレーム10と、これに適用された本発明の耐震構造12とが概略的に示されている。
【0015】フレーム10は、床スラブ18により規定された複数の階層にわたって上下に伸びる鉄筋コンクリート製のいわゆる連層耐震壁(第1の垂直部材)14と、該連層耐震壁の両側にこれと間隔をおいて配置された2つの柱(第2の垂直部材)16とを有する。
・・・
【0018】耐震構造12は、連層耐震壁(以下、単に「耐震壁」という。)14から水平に伸びる片持ち梁(第1の片持ち梁)20および各柱16から水平に伸びる片持ち梁(第2の片持ち梁)22であって互いに上下に部分的に重なり合う第1の片持ち梁および第2の片持ち梁と、第1および第2の両片持ち梁20,22を相互に連結する速度比例減衰型のダンパー24と、各第2の垂直部材16と各第2の片持ち梁22とを相互に連結する履歴減衰型のダンパー26(図2参照)とを含む。
【0019】したがって、耐震壁14と一方(図1で見て左方)の柱16とが1組の構成部材(第1の片持ち梁20,第2の片持ち梁22、速度比例減衰型のダンパー24および履歴減衰型のダンパー26)により互いに接続され、また、耐震壁14と他方(図1で見て右方)の柱16とが他の1組の構成部材20~26により互いに接続されている。
・・・
【0023】速度比例減衰型のダンパー24は、第1および第2の両片持ち梁20,22をこれらが相対移動可能であるように連結している。連結箇所は任意に定めることができる。図示の例では両片持ち梁20,22の互いに重なり合う先端部同士が互いに連結されている。
【0024】速度比例減衰型のダンパー24は、例えば粘弾性ダンパー(図3参照)からなる。
【0025】粘弾性ダンパー24は、水平方向へ互いに間隔をおいて配置された一対の平行な鋼板部材28と、両鋼板部材28間にこれらと平行に配置された鋼板部材30と、2つの鋼板部材28,30間にそれぞれ配置された軟らかいゴムのような剛性の低い板状の粘弾性体32とからなるサンドイッチ構造を有し、両粘弾性体32はそれぞれ両鋼板部材28に接しかつ接着されており、また、鋼板部材30の両面に接しかつ接着されている。したがって、鋼板部材30は両粘弾性体32および両鋼板部材28に対して相対的に移動可能である。
【0026】粘弾性ダンパー24は、両鋼板部材28において、第1の片持ち梁20の先端面に固定されており、また、鋼板部材30において、第2の片持ち梁22の先端部の頂面に固定されている。
【0027】他方、履歴減衰型のダンパー26は、例えば、超弾性合金製の複数の線材からなる。線材26は、各第2の片持ち梁22内をその伸長方向へ伸び、かつ、第2の片持ち梁22に対して伸縮可能である部分を有する。
【0028】図示の例では、線材26が第2の片持ち梁22の引張り側主筋である上端筋として用いられている。各上端筋の一端部34は各柱16に埋め込まれかつ固定され、その他端部36は固定金具38を介して第2の片持ち梁22の先端部の端面に固定され、また、両端部34,36間の中間部40は第2の片持ち梁22内に埋め込まれその長手方向へ伸びるシース管内を貫通している。この例では、中間部40が第2の片持ち梁22に対して伸縮可能な部分である。
・・・
【0033】第1および第2の両片持ち梁20,22の相対移動のため、これらの梁が一体であれば該梁を介して互いに及ぼし合うであろう耐震壁14および柱16の相互作用と、該相互作用に基づく軸力の増大、すなわち、耐震壁14の一方の側部(前記傾斜方向と反対の側の側部)における下方向軸力42(図9参照)および柱16の上方向軸力44増大とを防止することができる。
・・・
【0036】第1の片持ち梁20と、その押圧力を受けながら折れ曲がり動作をする第2の片持ち梁22とを介して、耐震壁14および他方の柱16は相互作用を及ぼし合う。この相互作用により、耐震壁14の他方の側部における下方向の軸力46および柱16の上方向の軸力48の増大が図られる(図9参照)。
【0037】その結果、耐震壁14に働く上方向軸力46がこれに働く下方向軸力42を上回り、耐震壁14は引き上げ力を受け、耐震壁14の脚部の圧縮力が集中するコーナー部分50(図9)が受ける下方向力(圧縮力)が低減され、その損壊が防止される。
【0038】履歴減衰型ダンパーである線材26は、第2の片持ち梁22の折れ曲がりに伴って引き延ばされるときに地震エネルギを吸収する。このとき、片持ち梁20,22を連結している粘弾性ダンパー24は、その鋼板部材30が両鋼板部材28に対して回転運動を行うため、該回転運動に伴う地震エネルギの吸収に寄与する。
・・・
【0042】速度比例減衰型のダンパー24として、図2・・・に示す前記粘弾性ダンパーに代えて、図6~図8に示すような粘性ダンパーを用いることができる。
【0043】図6~図8に示す例では、第1および第2の片持ち梁20,22の互いに上下に重なり合う先端部相互間に粘性ダンパー24の配置空間を確保するため、両片持ち梁20,22がこれらの間により大きい上下方向間隔が存するように配置され、また、第1の片持ち梁20はこれから第2の片持ち梁22に向けて下方へ伸びかつ該第2の片持ち梁22に接する垂直部54を有する。粘性ダンパー24は斜めに配置され、両片持ち梁20,22の前記相対移動を可能とすべく、その両端部が第1および第2の両片持ち梁20,22の先端部にそれぞれ枢着されている。
【0044】この例によれば、図7に示すように、地震によるフレーム10の変形のために耐震壁14および両柱16が傾くとき、一方(図6で見て左方)の柱16の側において、粘性ダンパー24が、第1の片持ち梁20の垂直部54が第2の片持ち梁22から離れることを許す。このときに伸長動作する粘性ダンパ24は、前記粘弾性ダンパーと同様、地震エネルギの吸収作用もなす。
【0045】また、図8に示すように、他方(右方)の柱16の側において、第1の片持ち梁20がその垂直部54において、第2の片持ち梁22の先端部を下方に向けて押圧し、これにより、第2の片持ち梁22がその基部端において折れ曲がる。このとき、他方の柱16の側の粘性ダンパ24は枢動する。」
「
[図:0001420343000001.jpg]
[図:0001420343000002.jpg]
」
イ 甲1発明
上記アによれば、甲1には、以下の発明が記載されている。
(甲1発明)
複数の階層を有する建物のフレーム10の耐震構造12であって(【0014】)、フレーム10は、床スラブ18により規定された複数の階層にわたって上下に伸びる鉄筋コンクリート製の連層耐震壁14と、該連層耐震壁の両側にこれと間隔をおいて配置された2つの柱16とを有し(【0001】、【0015】)、
耐震構造12は、連層耐震壁14から水平に伸びる片持ち梁20および各柱16から水平に伸びる片持ち梁22(【0018】)の互いに上下に重なり合う先端部相互間に粘性ダンパー24の配置空間を確保するため、両片持ち梁20,22がこれらの間に上下方向間隔が存するように配置され、第1の片持ち梁20はこれから第2の片持ち梁22に向けて下方へ伸びかつ該第2の片持ち梁22に接する垂直部54を有し、粘性ダンパー24は斜めに配置され、両片持ち梁20,22の相対移動を可能とすべく、その両端部が第1および第2の両片持ち梁20,22の先端部にそれぞれ枢着されている(【0043】)、
耐震構造(【0014】)。
(2)甲2
甲2には、以下の記載がある。
「【0004】
そこで、本出願人は、先に下記特許文献1において、超高層ビル等の建物を耐震改修するに際して、上記制震ダンパとして、層間変位に依存して減衰力が減少するオイルダンパを用いた建物の耐震補強方法を提案した。
【0005】
図9および図10は、上記耐震補強方法によって耐震改修された建物の構造を示すもので、建物1における既存骨組構造体の相対向する既存柱2とこれらの既存柱2間に横架される上下の既存梁3とによって囲まれた架構内に、オイルダンパ4を備えた補強骨組部5によって構成された制震構造部を配設したものである。そして、オイルダンパ4は、所定の減衰力・減少開始変形点とストロ-クエンドとの間の変形領域において、変形が増加するにつれて減衰力が所定の減衰力・減少勾配で漸減するダンパ復元力を有する構造を有している。
【0006】
このような建物の耐震補強方法によれば、地震時に、制震構造部5が連結している既存柱2に作用する柱付加軸力を軽減することによって、耐震補強後においても、既存柱2の下部2aに生じる柱付加軸力が、補強前の柱付加軸力を超えないようすることができ、よって当該柱2を無・柱耐力補強構造とすることができるという利点がある。」
「
[図:0001420343000003.jpg]
[図:0001420343000004.jpg]
」
(3)甲3
甲3には、以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、塔状比の高い建物に適した制振建物に関する。
・・・
【0019】
[第一実施形態]
・・・
図1に示すように、建物(制振建物)1の躯体は、基礎構造たる下部構造10と、上部構造20と、を備えている。
・・・
【0023】
図1、図2に示すように、上部構造20は、例えば鉄骨造により形成されている。上部構造20は、上部構造20の外周部に沿って設けられた複数の柱21と、間口方向Xにおいて互いに隣接する柱21,21間に架設された梁(連結部材)22と、奥行方向Yにおいて互いに隣接する柱21,21間に架設された梁23と、を主として備えている。
・・・
【0033】
図6は、図2のA-A断面図であり、上部構造に設けた制振架構部材の一例を示す立断面図である。・・・
上部構造20には、通し壁柱30とは奥行方向Yにおいて異なる位置に、間口方向Xにおける上部構造20の水平方向の変位を減衰する制振架構部材39A,39Bが設けられている。ここで、制振架構部材39Aは、上部構造20において奥行方向Yの一端側に設けられ、制振架構部材39Bは、上部構造20において奥行方向Yの他端側に設けられている。
【0034】
図6に示すように、制振架構部材39Aは、例えば、間口方向Xに沿って隣接する柱21,21間に斜めに架設された鋼管ブレース40と、ブレースダンパー41と、を備え、鋼管ブレース40に入力された軸方向の変位をブレースダンパー41によって減衰する。」
「
[図:0001420343000005.jpg]
[図:0001420343000006.jpg]
[図:0001420343000007.jpg]
」
(4)甲4
甲4には、以下の記載がある。
「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明では架構の耐震性能を着脱自在なブレースによって確保すると共に、架構の隣接する柱を含む任意の単位フレーム内にブレースを着脱自在に架設可能にすることにより、水平二方向に一定間隔をおいて配置されるべき柱を省略することなく、将来的な間取り割りの変更に対応しながら、その変更に伴う耐震要素の配置換えに追従して耐震性能を確保する。
・・・
【0025】
【発明の実施の形態】この発明は図1,図3に示すように隣接する柱1,1を含む単位フレームを構成する柱1,1と、上下の梁2,2、もしくは上下のスラブに、ブレース3の端部が接続される柱用ガセットプレート4と梁用ガセットプレート5を接合するための柱用接合金物6と梁用接合金物7が定着され、いずれかの単位フレーム内に選択的にブレース3が着脱自在に架設可能とされた鉄筋コンクリート造架構である。
・・・
【0028】図1,図3ではまた、梁2が鉄筋コンクリート造である場合に、ブレース3の抵抗力により躯体が損傷することを防止する上で、ブレース3の抵抗力を緩和させるためにブレース3としてブレース本体31にダンパー32を組み込んだブレース型ダンパーを使用しているが、躯体の損傷を防止する対策が施されているか、損傷の可能性が少ないような場合にはダンパー32を持たないブレース3を使用することもある。
【0029】ブレース型ダンパーは軸方向に相対移動自在なブレース本体31,31と、一方のブレース本体31に内蔵されるダンパー32からなり、ブレース本体31,31がその両端間に作用する引張力と圧縮力によって相対移動するときにダンパー32が減衰力を発生することにより架構の揺れを抑制しながら、躯体への抵抗力を低減する。ダンパー32には粘性流体を用いたオイルダンパーの他、摩擦ダンパー等、軸方向の相対移動によって減衰力を発生する形式のダンパーが使用される。
・・・
【0043】図1,図3は単位フレーム内へのブレース3の4通りの架設パターンを示す。左側の2層の単位フレームには2本のブレース3,3をV型に同一面内に架設した場合で、上側の単位フレームにおいてはその全面に架設した場合、下側の単位フレームにおいては中央部に架設し、両側に開口部を残した場合である。上側の単位フレームでは両側の柱1,1の柱用接合金物6,6と下側の梁2の梁用接合金物7が使用され、下側の単位フレームでは上下の梁2,2の梁用接合金物7,7が使用される。
【0044】図1,図3中、右側の2層の単位フレームにはブレース3,3をX型に交差させて架設した場合で、上側の単位フレームにおいては単位フレームの両側に寄せて配置し、中央部に開口部を確保した場合、下側の単位フレームにおいては単位フレームの全面に架設した場合を示す。上側の単位フレームでは両側の柱1,1の柱用接合金物6,6と上下の梁2,2の梁用接合金物7,7が使用され、下側の単位フレームでは両側の柱1,1の柱用接合金物6,6のみが使用されている。
・・・
【0047】間取り割りの変更によりブレース3の配置換えの必要が生じたとき、ブレース3はガセットプレート4,5と共に、もしくはガセットプレート4,5を残して柱用接合金物6や梁用接合金物7から切り離され、他の単位フレームに新たに組み込まれる。または同一の単位フレームにおいて組み込み直され、改めて柱用接合金物6や梁用接合金物7に接続される。」
「【図1】
[図:0001420343000008.jpg]
」
(5)甲5
甲5には、以下の記載がある。
「【0032】
[第1の実施の形態]
まず、本発明に係る多層構造物の第1の実施の形態について説明する。
【0033】
図8は第1の実施の形態における多層構造物を模式的に表した図である。
図8に示すように、第1の実施の形態における多層構造物は、複数層の塔状構造物であり、各層間に、鉛直下向きに凸の円弧軌道Aに沿って円弧運動する後述する凹型アイソレータ機構1がそれぞれ設置された構成からなる。・・・また、上記した「円弧運動」水平方向と鉛直方向とを各1軸とする面で切断した場合の運動であって一般の3次元では球面運動を意味し、本発明における「円弧軌道」は、一般の3次元では鉛直下向きに凸の球面を意味する。
【0034】
図9は凹型アイソレータ機構1が設置された層間部分の拡大図である。
図9に示すように、多層構造物のn階と(n+1)階の間に設置された凹型アイソレータ機構1は、斜め方向に運動するアイソレータ2と、上層部である(n+1)階の部分を支持するとともに円弧軌道Aの方向の動きを許容する可動支承3と、水平方向に運動する水平積層ゴム4とから構成されている。
【0035】
アイソレータ2は、円弧軌道Aに沿って運動するように斜めにセットされた積層ゴム5からなり、鉛直下向きに凸の円弧軌道Aに沿って運動するように、n階と(n+1)階の間に装着されている。積層ゴム5(アイソレータ2)は、構造物の端部に配置されている。・・・
【0036】
可動支承3は、円弧軌道A’に沿って転がる複数の転動体6からなり、各アイソレータ2の近傍にそれぞれ配置されている。・・・
【0037】
水平積層ゴム4は、水平にセットされた積層ゴムからなり、構造物の中央に配置されている。・・・
【0038】
・・・
図8・・・に示すように、各層におけるアイソレータ2の取り付け角度(運動方向の傾斜角度)θは、上層にいくに従い非減少的に増加するように順次変化されている。
・・・
【0087】
次に、本発明の他の実施の形態について説明する。
図37は凹型アイソレータ機構1が設置された層間部分の拡大図である。
上記した実施の形態では、図9に示すように、多層構造物のn階と(n+1)階の間には、アイソレータ2と可動支承3と水平積層ゴム4とが設置されているだけであるが、図37に示すように、n階と(n+1)階の間に、円弧軌道A”の方向の振動エネルギーを吸収するダンパー7が設置されていてもよい。」
「
[図:0001420343000009.jpg]
[図:0001420343000010.jpg]
」
2 本件特許発明1について
(1)甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明における「複数の階層を有する建物」は、「複数の階層にわたって上下に伸びる鉄筋コンクリート製の連層耐震壁14と、該連層耐震壁の両側にこれと間隔をおいて配置された2つの柱16」からなるものであって、本件特許発明1のように「柱梁架構」によるものではない。
また、甲1発明において、「粘性ダンパー24」が配置される「両片持ち梁20,22」は、「上側の梁」と「下側の梁」とはいえるが、本件特許発明1のように「柱梁架構」を構成する「上側の梁」と「下側の梁」に相当するものではない。
さらに、甲1発明において「斜め」に配置される「粘性ダンパー24」について、本件特許発明1のように「設置された階層によって」その傾斜角度を異ならせるものではない。
したがって、本件特許発明1と甲1発明は、少なくとも以下の相違点を有する。
【相違点1】
各階層に水平方向に対して傾斜して設置されるダンパーについて、
本件特許発明1では、建物を構成する柱梁架構の上側の梁と下側の梁に連結され、設置される階層によって傾斜角度が異なるのに対し、
甲1発明では、建物を構成する柱梁架構の梁に連結されるものではなく、設置される階層によって傾斜角度が異なるものではない点。
イ 申立人の主張について
申立人は、申立書において、甲1発明における「片持ち梁20」と「片持ち梁22」が、それぞれ、本件特許発明1における「上側の梁」と「下側の梁」に相当するとしているが、上記のとおり、甲1発明における「片持ち梁20」と「片持ち梁22」は、建物を構成する「柱梁架構」における「梁」ではないから、上記主張は採用することができない。
(2)相違点についての判断
相違点1に係る構成が、申立人が提出した甲2~甲5に記載ないし示唆されているかにつき、以下、検討する。
ア 甲2について
甲2に記載の構造物は、相対向する柱とこれらの間に横架される上下の梁とからなるものであり、「柱梁架構」によるものといえるが、オイルダンパは、架構内に配設される補強骨組部に取り付けられるものであって、「柱梁架構」を構成する上下の梁に取り付けられるものではない。
また、甲2の図9には、建物の1階とそれより上層階とでオイルダンパの傾斜角度が異なって配置されることが看取されるが、1階以外では傾斜角度は同じであるから、本件特許発明1にいう「設置される階層によって傾斜角度が異なる」という技術思想が示されているとはいえない。
したがって、甲2には、相違点1に係る構成が記載されていないし、甲1と組み合わされることで、相違点1に係る構成を容易に想到し得ると判断できるような技術的事項が開示ないし示唆されているとも認められない。
イ 甲3について
甲3に記載の建物は、隣接する柱の間に架設された梁を備えるものであり、「柱梁架構」によるものといえるが、図6に示される「制振架構部材39A」において「隣接する柱21,21間に斜めに架設された鋼管ブレース40と、ブレースダンパー41」は、複数階を跨いで設置されるものであり、そもそも本件特許発明1のように「階層」ごとに設置されるものではないし、梁に取り付けられるのかも定かではない。
また、申立人は、申立書において、以下の図を示して、設置された階層によって傾斜角度が異なっているブレースダンパー41が示されていると主張するが、上記のとおり、「階層」ごとに設置されるものではなく、梁に取り付けられるものであるのかも定かではないうえ、その図示からは、傾斜角度を異ならせる技術的意義も理解できない。
したがって、甲3には、相違点1に係る構成が記載されていないし、甲1と組み合わされることで、相違点1に係る構成を容易に想到し得ると判断できるような技術的事項が開示ないし示唆されているとも認められない。
[図:0001420343000011.jpg]
ウ 甲4について
甲4に記載の建物は、隣接する柱と、上下の梁から構成されるものであり、「柱梁架構」によるものといえ、また、図1には、上下の梁にブレース型ダンパーを傾斜して配置することが示され、傾斜角度が異なるものが図示されているといえる。
しかしながら、甲4は、将来的な間取り割りの変更に対応するために架構の隣接する柱を含む任意の単位フレーム内にブレースを着脱自在に架設可能にするもので、同じ階層であってもブレース型ダンパーを異なる傾斜角度で配置することを当然に想定するものであるから、本件特許発明1にいう「設置される階層によって傾斜角度が異なる」という技術思想を示すものではない。
したがって、甲4には、相違点1に係る構成が記載されていないし、甲1と組み合わされることで、相違点1に係る構成を容易に想到し得ると判断できるような技術的事項が開示ないし示唆されているとも認められない。
エ 甲5について
甲5には、【0087】や図37に「ダンパー7」に関する記載があり、図8により、「ダンパー7」が異なる傾斜角度で配置することが示されているといえるが、甲5に記載の多層構造物は、本件特許発明1のように「柱梁架構」によるものではなく、甲5に記載のダンパー7は、各層間に設置されるもので、階層を構成する上下の梁に連結されるものでもないし、各層間に鉛直下向きに凸の円弧軌道に沿って円弧運動する凹型アイソレータ機構とともに用いられるもので、本件特許発明1における「ダンパー」とは、その設置環境や目的が全く異なるものである。
したがって、甲5には、相違点1に係る構成が記載されていないし、甲1と組み合わされることで、相違点1に係る構成を容易に想到し得ると判断できるような技術的事項が開示ないし示唆されているとも認められない。
(3)小括
以上によれば、本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第2号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとは認められない。
3 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、本件特許発明1の構成を備えているから、上記2で説示したのと同様の理由により、本件特許発明2及び3は、甲第1号証及び甲第2号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとは認められない。
第4 むすび
以上のことから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700863