特許異議申立
2024-700962
跳ね出しスラブの施工方法
- 審判番号
- 2024-700962
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-078163
- 登録番号
- 7478018
- 請求日
- 2024年10月02日
- 審決日
- 2025年03月13日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社竹中工務店
- 【権利者代理人】宮地 正浩
- 【異議申立人】▲高▼尾 亜希子
- 審判長/審判官
- 審判長 居島 一仁
- 審判官 西田 秀彦
- 審判官 津熊 哲朗
- 分類
- P1651.121-Y (E04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7478018号発明「跳ね出しスラブの施工方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7478018号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7478018号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和2年4月27日に出願され、令和6年4月23日にその特許権の設定登録がされ、同年5月2日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1~5に係る特許に対し、令和6年10月2日に特許異議申立人高尾 亜希子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
スラブ部材を構造物から外方側に跳ね出した跳ね出し状態で構造物に固定する跳ね出しスラブの施工方法において、
前記スラブ部材の基端側部位には、上方側に延びる立ち上がり部が備えられ、
前記スラブ部材の基端側部位を構造物側の支持部材に載置させた状態で、前記スラブ部材の前記立ち上がり部と前記支持部材から構造物の内方側に延びる延設部材とを連結材にて連結して前記スラブ部材を構造物に仮固定する仮固定工程と、
コンクリートの打設により仮固定された前記スラブ部材と構造物側とを接合して前記スラブ部材を本固定する本固定工程とを行う跳ね出しスラブの施工方法。
【請求項2】
前記連結材は、その長さを調整自在に構成されている請求項1に記載の跳ね出しスラブの施工方法。
【請求項3】
構造物の内方側には、前記支持部材と並ぶ状態で配設された梁と、前記支持部材と前記梁とに亘って剛接合された補強部材とが備えられ、
その補強部材は、前記延設部材として備えられ、前記連結材が接続されている請求項1又は2に記載の跳ね出しスラブの施工方法。
【請求項4】
前記スラブ部材は、前記支持部材の長さ方向に隣接して並ぶ状態で複数備えられ、
前記延設部材は、隣接する前記スラブ部材の境界部分に相当する位置に配設され、隣接する前記スラブ部材の夫々における立ち上がり部に接続された2つの前記連結材が接続されている請求項1~3の何れか1項に記載の跳ね出しスラブの施工方法。
【請求項5】
前記支持部材には、前記スラブ部材の配設予定位置に被係合部材が備えられ、前記スラブ部材の基端側部位には、その前記被係合部材に係合自在な係合部材が備えられ、
前記仮固定工程では、前記支持部材の前記被係合部材に前記スラブ部材の前記係合部材を係合させて、前記スラブ部材の基端側部位を前記支持部材に載置させている請求項1~4の何れか1項に記載の跳ね出しスラブの施工方法。」
第3 申立理由及び証拠方法
1 申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、概ね以下の申立理由を主張するとともに、証拠方法として以下に示す各甲号証を提出している。
(1)申立理由1(特許法第29条第2項)
本件特許発明1、2は、甲第1号証に記載された発明、甲第2、3号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明3、4は、甲第1号証に記載された発明、甲第2~4号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明5は、甲第1号証に記載された発明、甲第1~4号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 証拠方法
申立人により提出された証拠は、以下のとおりである。
(「甲第1号証」等は、以下、その数字にしたがって、「甲1」等と称することがある。)
甲第1号証:特開2005-105549号公報
甲第2号証:特開2008-208690号公報
甲第3号証:特開平6-93674号公報
甲第4号証:特開2008-266897号公報
第4 当審の判断
1 証拠の記載事項
(1)甲1
ア 甲1に記載された事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲1には、次の記載がある。
(ア)【0001】~【0002】
「【0001】
本発明はプレキャストコンクリート立上げ壁の取付構造に係り、特に外階段の外周に取り付けられる手摺板やバルコニーの外壁のような立上げ壁構造部分の階段やバルコニー等の床スラブへの取付け作業を安全に行え、意匠的にも優れたプレキャストコンクリート立上げ壁の取付構造に関する。
【0002】
近年、鉄筋コンクリート構造の集合住宅に付帯する屋外階段としてプレキャストコンクリート(以下、PCaと記す。)階段ユニットを、建物躯体に連接させたタイプが増えてきている。この種のPCa階段ユニットは建物躯体と一体化したデザインを実現でき、鉄骨階段等に比べメンテナンスフリーの点が高く評価されている。また意匠上の高級感を出すため外周壁を構成するPCa立上げ壁で手摺を構成することも多い。」
(イ)【0013】
「【0013】
図1は本発明のプレキャストコンクリート(PCa)立上げ壁の取付構造1の概要を示した部分断面図である。本実施例では、PCa立上げ壁の取付構造の一例として、PCa手摺板10(以下、単に手摺板10と記す。)を階段床スラブ20の側面への取付構造を、図1以下に示している。そしてこの手摺板を床スラブ20の側面に取り付けるために、床スラブ20の側端面にはスラブの長手方向に沿って所定間隔をあけてアンカーブロックが埋設されている。このアンカーブロック30の定着プレート32aに、手摺板10に埋設されたアンカーボルト11の頭部11aが定着され、手摺板10と床スラブ20との一体化が図られている。」
(ウ)【0014】
「【0014】
手摺板10は、図1,図5に示したように、手摺板取付固定用のアンカーボルト11が側面から水平方向に突出するように埋設されたプレキャストコンクリート製の工場製品で、本実施例では、アンカーボルト11は、一端が手摺板10内の補強筋12に支持プレート13を介して支持され埋設されている。また、後述する床スラブ20のアンカーブロック30の対向する手摺板10の表面には、後工程でシアコッター14が形成される凹所15が設けられている。」
(エ)【0018】
「【0018】
次に、手摺板10の仮受け治具および仮受け治具を用いた手摺板10の床スラブ20への取り付け方法について、図3~図5を参照して説明する。
仮受け治具40は、図3に示したように、ホールインアンカー等の後施工アンカー41で手摺板10側面に固定された山形鋼ピース42を本体として、下面フランジ42bに支点ボルト43が螺着された手摺板の仮設支持部材である。支点ボルト43は、図3に示したように、手摺板10の設置時に先端43aが床スラブ20の端部のスラブ面上に載置される。このとき支点ボルト43のねじ込み長(脚長)を調整することで仮受け治具40の高さ、すなわち手摺板10の設置高さを上下方向に微調整することができる。各仮受け治具40は、図4に示したように、手摺板10のアンカーボルト11の近くに取り付けられ、床スラブ20の端部におけるアンカーブロック30の貫通孔位置の高さ微調整を行い、アンカーボルト11がアンカーブロック30に確実に定着できるようにする役割を果たしている。」
(オ)【0019】
「【0019】
ここで、手摺板10の床スラブ20の端部への取り付け手順について、図5を参照して説明する。図5には、ハーフプレキャストコンクリート板からなる床スラブ20が仮設パイプ支柱2(サポート)により所定位置に支持された状態が示されている。また、同図には、床スラブ20の側面に取り付けられる手摺板10の吊持された状態と仮支持状態とが、説明のために合わせて図示されている。手摺板10の頂部には吊り金物3が、内側側面上部には起立保持サポート4の取付金物5が、内側側面下部には上述の仮受け金物40が、図示しない固定ボルトにより固着されている。手摺板10は、図示しないクレーン等の揚重機のワイヤ6により吊り金物3位置で吊り上げられ、床スラブ20位置まで搬入される。そして、仮受け金物40の支点ボルト43を床スラブ20の端部に載置すると同時に、アンカーボルト11のネジ部をアンカーブロック30の定着プレート32aの貫通孔に挿入し、ナット31による仮止めを行うとともに、手摺板10の転倒防止のために、起立保持サポート4の上端を取付金物5に連結する。アンカーボルト11の本締めの後、シアコッター14(図1参照)形成のためにシーリングされた範囲、アンカーブロック30のネジ定着部の箱抜き部35内をグラウト充てんし、床スラブ20と手摺板10との最終的な一体化を図る。所定の養生期間の後、起立保持サポート4及び仮受け治具40等の仮設治具を撤去し、床スラブ20の場所打ちコンクリート部分の施工を行う。」
(カ)【図5】
「
[図:0001421375000001.jpg]
」
イ 甲1発明
以上を総合すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
<甲1発明>
「建物躯体に連接させた外階段の外周に取り付けられる手摺板の取付方法において(【0001】~【0002】)、
手摺板10は、PCa立上げ壁であり(【0013】)、
手摺板10は、手摺板取付固定用のアンカーボルト11が側面から水平方向に突出するように埋設され、手摺板を床スラブ20の側面に取り付けるために、床スラブ20の側端面にはスラブの長手方向に沿って所定間隔をあけてアンカーブロックが埋設され(【0013】)、
仮受け治具40は、ホールインアンカー等の後施工アンカー41で手摺板10側面に固定された山形鋼ピース42を本体として、下面フランジ42bに支点ボルト43が螺着された手摺板の仮設支持部材であり、支点ボルト43は、手摺板10の設置時に先端43aが床スラブ20の端部のスラブ面上に載置されるものであり、(【0018】)、
手摺板10の内側側面上部には起立保持サポート4の取付金物5が、内側側面下部には上述の仮受け金物40が、固定ボルトにより固着されており(【0019】)、
手摺板10は、クレーン等の揚重機のワイヤ6により吊り金物3位置で吊り上げられ、床スラブ20位置まで搬入され、仮受け金物40の支点ボルト43を床スラブ20の端部に載置すると同時に、アンカーボルト11のネジ部をアンカーブロック30の定着プレート32aの貫通孔に挿入し、ナット31による仮止めを行うとともに、手摺板10の転倒防止のために、起立保持サポート4の上端を取付金物5に連結する工程と(【0019】)、
アンカーボルト11の本締めの後、シアコッター14形成のためにシーリングされた範囲、アンカーブロック30のネジ定着部の箱抜き部35内をグラウト充てんし、床スラブ20と手摺板10との最終的な一体化を図り、所定の養生期間の後、起立保持サポート4及び仮受け治具40等の仮設治具を撤去し、床スラブ20の場所打ちコンクリート部分の施工を行う工程とを行う(【0019】)、
手摺板10の取付方法(【0013】)。」
(2)甲2
ア 甲2に記載された事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲2には、次の記載がある。
(ア)【0009】
「【0009】
図1はこの工法で使用する外壁プレキャストコンクリートとプレキャストコンクリート床版との概観を示したものである。1.外壁プレキャストコンクリートの上部に3.排煙開口と4.庇が一体化されたものである。また、2.プレキャストコンクリート床版は壁の内側で止まる形状よりも、外側にはみ出した形のほうが雨などの止水防止を付加し、3.排煙開口間の強度を確保することができる。
図2は施工する場合の概要を示したものであり、図3はその断面図である。図2の5.片持ち梁を6.柱から出し、その片持ち梁と7.柱間の梁に2.床プレキャストコンクリートを載せる。この時、片持ち梁及び柱間の梁とは、丸型ダボピン等を用いて床板の移動を防ぐと共に、数箇所の高さ調整ボルト等を用いて、床プレキャストコンクリートを水平に据える。
次に、この2.床プレキャストコンクリートの上に、1.外壁プレキャストコンクリートを載せ、外壁プレキャストコンクリート下部は丸鋼製のダボピン及び高さ調整ボルトにて支持し、床プレキャストコンクリート上部は柱から出ている持ち出し梁の先端に、山型鋼或いは平鋼の金物及び固定ボルトを用いて支持する。この時、この支持金物には、躯体の層間変位に追従可能な機能を持たせる事とし、地震等における安全性を確保する。庇を付けることにより、構造上の強度を確保すると同時に、庇による日よけ効果もあり夏季の空調負荷を低減できる。
このようなワンフロア毎の工法を、上の階に床プレキャストコンクリートを据え付け繰り返すことにより、外周の床と外壁とを完成させて行く。
また、内装仕上げ的には、8.天井の一部にスリット状のルーバー等を用いた開口を設け、その天井のルーバー開口と外壁の排煙開口とを9.排煙ダクトで接続し、排煙ルートの確保を行う。この時、ダクト及びルーバーで明かり取りダクトとして有効なデザインを行う事により、室内に多くの自然光を取り組むことが可能である。」
(イ)【図1】
「
[図:0001421375000002.jpg]
」
イ 甲2記載技術
以上を総合すると、甲2には次の技術的事項(以下「甲2記載技術」という。)が記載されているものと認められる。
<甲2記載技術>
「外壁プレキャストコンクリートにおいて(【0009】)、
外壁プレキャストコンクリートの上部に庇を一体化すること(【0009】)。」
(3)甲3
ア 甲3に記載された事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲3には、次の記載がある。
(ア)【0009】
「【0009】本実施例では、予め製作したプレキャストコンクリート板1を使用する。プレキャストコンクリート板1の裏面には凹部2及び型枠取付金具用の溝3を設け、上端面4及び下端面5に階段状の段差6を設け、周縁部にボルト取付孔7を設けている。建築物躯体の外壁部にプレキャストコンクリート板1を複数枚配列し、ボルト取付孔7にボルト8を通して締め付け、隣接するプレキャストコンクリート板1同士を接合して垂直壁を形成する。ボルト取付孔7に上端を係止した支持部材9の下端部を同建築物躯体の水平部材10に係止している。プレキャストコンクリート板1の裏面の凹部2には発泡ウレタン11を塗着し、さらに同裏面全体に仕上板材12を取り付け外壁13を構成している。」
(イ)【0011】
「【0011】プレキャストコンクリート板1同士の接合部には、成型シーリング材16を挟持させ、高強度モルタル17を注入し、外側にはシーリング18を施しているのでシール性も優れている。接合部には調整ナット20を設けているので出入りの調整も手軽にできる。また支持部材9にもターンバックル19を用いているので垂直調整も容易に行うことができる。」
(ウ)【図6】
「
[図:0001421375000003.jpg]
」
イ 甲3記載技術
以上を総合すると、甲3には次の技術的事項(以下「甲3記載技術」という。)が記載されているものと認められる。
<甲3記載技術>
「外壁13において(【0009】)、
プレキャストコンクリート板1の裏面には凹部2及び型枠取付金具用の溝3を設け、上端面4及び下端面5に階段状の段差6を設け、周縁部にボルト取付孔7を設け、建築物躯体の外壁部にプレキャストコンクリート板1を複数枚配列し、ボルト取付孔7にボルト8を通して締め付け、隣接するプレキャストコンクリート板1同士を接合して垂直壁を形成し、ボルト取付孔7に上端を係止した支持部材9の下端部を同建築物躯体の水平部材10に係止し、プレキャストコンクリート板1の裏面の凹部2には発泡ウレタン11を塗着し、さらに同裏面全体に仕上板材12を取り付け外壁13を構成し(【0009】)、
接合部には調整ナット20を設けて、出入りの調整を行い、支持部材9にもターンバックル19を用いて、垂直調整を行うこと(【0011】)。」
(4)甲4
ア 甲4に記載された事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲4には、次の記載がある。
(ア)【0027】
「【0027】
免震建物Aは、2階の外周部分に1階よりも持ち出された形状に構成されており、該持ち出し部分15の下側に軒天井16が構成されている。即ち、柱10から上部片持ち梁9が持ち出され、該上部片持ち梁9の鼻先で上部鼻先梁12が両端を支持され、該上部片持ち梁9の中間部で1階外壁パネルの上端部を固定するための上部壁固定梁8が両端を支持され、夫々モジュールライン上に取り付けられることで、片持ち状の持ち出し部分15が構成されている。」
(イ)【0033】
「【0033】
上記持ち出し部分15の外周に対応する部位に配置された上部鼻先梁12には、上フランジ12aの上面側に外壁パネル17を支持すると共に外壁パネル17の下端部の厚さ方向の位置を規定する受け金具18が固定されると共に下面側に垂れ壁パネル19の厚さ方向の位置を規定する取付金物20aが固定され、下フランジ12bには垂れ壁パネル19の重量を支持すると共に垂れ壁パネル19下端の厚さ方向の位置を規定する支持金物20bが固定されている。」
イ 甲4記載技術
以上を総合すると、甲4には次の技術的事項(以下「甲4記載技術」という。)が記載されているものと認められる。
<甲4記載技術>
「2階の外周部分に1階よりも持ち出された形状に構成されており、該持ち出し部分15の下側に軒天井16が構成されている免震建物Aにおいて(【0027】)、
柱10から上部片持ち梁9が持ち出され、該上部片持ち梁9の鼻先で上部鼻先梁12が両端を支持され、該上部片持ち梁9の中間部で1階外壁パネルの上端部を固定するための上部壁固定梁8が両端を支持され、夫々モジュールライン上に取り付けられることで、片持ち状の持ち出し部分15が構成され(【0027】)、
上記持ち出し部分15の外周に対応する部位に配置された上部鼻先梁12には、上フランジ12aの上面側に外壁パネル17を支持すると共に外壁パネル17の下端部の厚さ方向の位置を規定する受け金具18が固定されること(【0033】)。」
2 申立理由1(特許法第29条第2項)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「外階段」を「連接」した「建物躯体」は、本件特許発明1の「構造物」に相当する。
そして、甲1発明の「手摺板10」が「PCa」(プレキャストコンクリート)製であるところ、「スラブ」とは、通常鉄筋コンクリート造の建物に使われる床材や屋根材を意味することを踏まえると、甲1発明の「PCa立上げ壁である手摺板10を」「建物躯体に連接させた外階段の外周に取り付ける手摺板の取付方法」と、本件特許発明1の「スラブ部材を」「構造物に固定する跳ね出しスラブの施工方法」は、コンクリート部材を「構造物に固定する」「施工方法」である点で一致する。
(イ)甲1発明の「PCa立上げ壁であ」る「手摺板10」が上方側に延びる部材であることは明らかであるから、甲1発明の上方側に延びる部材である「手摺板10」と、本件特許発明1の「スラブ部材」は、「上方側に延びる立ち上がり部」を備える点で一致する。
(ウ)甲1発明において、「手摺板10」に「固着」した「仮受け金物40の支点ボルト43を床スラブ20の端部に載置する」ところ、「床スラブ20の端部」が「手摺板10」を支持することが明らかであるから、甲1発明の「階段床スラブ20」は、本件特許発明1の「構造物の支持部材」に相当する。
そして、甲1発明の「手摺板10」に「固着」した「仮受け金物40の支点ボルト43を床スラブ20の端部に載置する」ことと、本件特許発明1の「前記スラブ部材の基端側部位を構造物側の支持部材に載置させ」ることは、コンクリート部材を「構造物側の支持部材に載置させ」る点で一致する。
(エ)甲1発明において、「手摺板10」には「起立保持サポート4の取付金物5が」「固着されており」、「起立保持サポート4の上端を取付金物5に連結する」ことで「手摺板10の転倒」を「防止」するところ、「起立保持サポート4」の他端は、「起立保持サポート4」の上端の位置が変わらないように階段における所定箇所と連結固定されていることが明らかであることから、甲1発明の「起立保持サポート4」の上端が「手摺板10の内側側面上部」に連結され、他端が階段における所定箇所と連結されることと、本件特許発明1の「連結材」が「前記スラブ部材の前記立ち上がり部と前記支持部材から構造物の内方側に延びる延設部材とを」「連結」することは、「連結材」が「前記立ち上がり部と」「構造物」の所定箇所とを「連結」する点で一致する。
(オ)甲1発明の「手摺板10」の「アンカーボルト11のネジ部」を「床スラブ20」の「アンカーブロック30の定着プレート32aの貫通孔に挿入し、ナット31による仮止めを行うとともに」、「起立保持サポート4の上端を」「手摺板10」の「取付金物5に連結する」ことと、本件特許発明1の「連結材にて連結して前記スラブ部材を構造物に仮固定する」ことは、「連結材にて連結して」コンクリート部材を「構造物に仮固定する」点で一致する。
(カ)甲1発明において、「床スラブ20」の「アンカーブロック30のネジ定着部の箱抜き部35内をグラウト充てんし、床スラブ20と手摺板10との最終的な一体化を図り、所定の養生期間」を有するところ、「所定の養生期間」に、グラウトが硬化して、「床スラブ20と手摺板10との最終的な一体化」が行われることが明らかであるから、甲1発明の「床スラブ20」の「アンカーブロック30のネジ定着部の箱抜き部35内をグラウト充てんし、床スラブ20と手摺板10との最終的な一体化」を行うことと、本件特許発明1の「コンクリートの打設により仮固定された前記スラブ部材と構造物側とを接合して前記スラブ部材を本固定する」ことは、「コンクリートの打設により仮固定された」コンクリート部材と「構造物側とを接合して」コンクリート部材を「本固定する」点で一致する。
(キ)以上を総合すると、本件特許発明1は、甲1発明と、次の一致点で一致し、相違点1、相違点1-1、相違点1-2、相違点1-3、相違点2で相違する。
<一致点>
「コンクリート部材を構造物に固定する施工方法において、
コンクリート部材には、上方側に延びる立ち上がり部が備えられ、
コンクリート部材を構造物側の支持部材に載置させた状態で、前記立ち上がり部と構造物の所定箇所とを連結材にて連結してコンクリート部材を構造物に仮固定する仮固定工程と、
コンクリートの打設により仮固定されたコンクリート部材と構造物側とを接合してコンクリート部材を本固定する本固定工程とを行う跳ね出しスラブの施工方法。」
<相違点1>
本件特許発明1は、「スラブ部材を構造物から外方側に跳ね出した跳ね出し状態で構造物に固定する」のに対し、甲1発明は、コンクリート製の「手摺板10」を取り付けるのであって、「スラブ部材を構造物から外方側に跳ね出した跳ね出し状態で構造物に固定する」ことが特定されていない点。
<相違点1-1>
本件特許発明1は、「前記スラブ部材の基端側部位には、上方側に延びる立ち上がり部が備えられ」るのに対し、甲1発明は、「手摺板10」が上方側に延びる部材であるが、鉄筋コンクリート造の建物に使われる床材や屋根材を意味するスラブではない点。
<相違点2>
本件特許発明1は、「連結材」が「前記スラブ部材の前記立ち上がり部と前記支持部材から構造物の内方側に延びる延設部材とを」「連結」するのに対し、甲1発明は、「起立保持サポート4」の上端が「手摺板10の内側側面上部」に連結され、他端が階段における所定箇所と連結されるが、「連結材」が「前記支持部材から構造物の内方側に延びる延設部材」と「連結」することが特定されていない点。
<相違点1-2>
本件特許発明1は、「前記スラブ部材」を構造物に仮固定するのに対し、甲1発明は、「PCa」製の「手摺板10」を階段の床スラブ20に仮止めを行うが、「前記スラブ部材」を構造物に仮固定することが特定されていない点。
<相違点1-3>
本件特許発明1は、コンクリートの打設により仮固定された「前記スラブ部材」と構造物側とを接合して「前記スラブ部材」を本固定するのに対し、甲1発明は、床スラブ20のアンカーブロック30のネジ定着部の箱抜き部35内をグラウト充てんし、床スラブ20と「手摺板10」との最終的な一体化を行うが、コンクリートの打設により仮固定された「前記スラブ部材」と構造物側とを接合して「前記スラブ部材」を本固定することが特定されていない点。
イ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)相違点1、相違点1-1、相違点1-2及び相違点1-3について
甲2には、上記1(2)で示したとおり、外壁プレキャストコンクリートの上部に庇を一体化することが記載されている。
しかしながら、庇は窓や玄関の上に取り付けられる小さな屋根であり、階段の手摺板に庇を設けることが本件特許の出願前において公知であったとはいえないため、甲1発明に甲2記載技術を適用して、階段の「手摺板10」に庇を設ける動機付けはない。
また、甲3、4にも、「スラブ部材の基端側部位には、上方側に延びる立ち上がり部が備えられ」る構成が記載されておらず、示唆するものでもない。
したがって、甲1発明に、甲2~4記載技術を適用しても、相違点1、相違点1-1、相違点1-2及び相違点1-3に係る本件特許発明1の構成とすることができない。
(イ)相違点2について
甲3には、上記1(3)で示したとおり、プレキャストコンクリート板1のボルト取付孔7に上端を係止した支持部材9の下端部を同建築物躯体の水平部材10に係止することが記載されているが、「連結材」を「前記支持部材から構造物の内方側に延びる延設部材」に「連結」する構成が記載されておらず、示唆するものでもない。
また、甲4には、上記1(4)で示したとおり、柱10から上部片持ち梁9が持ち出され、該上部片持ち梁9の鼻先で上部鼻先梁12が両端を支持されることが記載されているが、「連結材」を上部片持ち梁9に連結する構成が記載されておらず、示唆するものでもない。
そして、甲2にも、「連結材」を「前記支持部材から構造物の内方側に延びる延設部材」に「連結」する構成が記載されておらず、示唆するものでもない。
したがって、甲1発明に、甲2~4記載技術を適用しても、相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることができない。
ウ 申立人の主張について
(ア)スラブ部材について
申立人は、スラブ部材について、次のとおり主張している。
「これらの記載によれば、甲1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「a.手摺板10をスラブ20に取り付ける取り付け方法であって、・・・(以下略)。」」(申立書7頁14~22行)
「甲1発明の要件aと本件特許発明の要件Aとは、立ち上がり部を構造物に取り付ける点で一致するが、立ち上がり部(手摺板10)にスラブ部材が設けられていない点で相違する。(相違点1)
そこで、相違点1について検討する。
甲第2号証には、外壁プレキャストコンクリート1に庇4が一体化されたものが記載されている(以下、「甲2記載事項a」という。)甲2記載事項aの「庇」は、本件特許発明の「スラブ部材」に相当する。よって、甲2記載事項aには、立ち上がり部にスラブ部材を設ける構成が示されているといえる。
甲1発明と甲2記載事項aとは技術分野が同一であるから、甲1発明に甲2記載事項aを適用して、手摺板10にスラブ部材(庇)を設けることは、当業者が容易に想到し得るものである。
また、本件特許発明は、スラブ部材に立ち上がり部を設ける構造であるが、この構造は、実質的には、立ち上がり部(手摺板)にスラブ部材(庇)に設ける構造と同一である。」(申立書10頁15行~11頁1行)
(イ)延設部材について
申立人は、延設部材について、次のとおり主張している。
「c.手摺板10の下端側のアンカーボルト11をスラブ20のアンカーブロック30に仮止めを行うとともに、手摺板10の上端側を起立保持サポート4で仮固定する仮固定工程と、」(申立書7頁17~19行)
「甲1発明の要件cの「起立保持サポート4」は、本件特許発明の要件Cの「連結材」に相当し、甲1発明の要件cの「スラブ20」は、本件特許発明の要件Cの「延設部材」に相当する。
甲1発明の要件cと本件特許発明の要件Cとは、立ち上がり部を連結材で支持する点で一致するが、甲1発明では、連結材(起立保持サポート4)で延設部材(スラブ20)に連結されるか否かは明らかではない。(相違点2)
そこで、相違点2について検討する。
甲第3号証には、プレキャストコンクリート板1の上端側と建築物躯体の水平部材10とを支持部材9で連結することが記載されている(以下、「甲3記載事項a」という)。
甲3記載事項aの「プレキャストコンクリート板1」、「水平部材10」、「支持部材9」は、本件特許発明の「立ち上がり部」、「延設部材」、「連結材」に相当する。よって、甲3記載事項aには、連結材を延設部材に連結する構成が示されているといえる。
甲3記載事項aと甲1発明とは技術分野が同一であるから、甲1発明に甲3記載事項aを適用して、起立保持サポート4をスラブ20に連結することは、当事者容易に想到し得るものである。」(申立書11頁3~20行)
エ 申立人の主張についての判断
(ア)スラブ部材について
上記イで示したとおり、庇は窓や玄関の上に取り付けられる小さな屋根であり、階段の手摺板に庇を設けることが本件特許の出願前において公知であったとはいえないため、甲1発明に甲2記載技術を適用して、階段の「手摺板10」に庇を設ける動機付けはない。
(イ)延設部材について
上記ア(ウ)で示したとおり、甲1発明の「床スラブ20」は、本件特許発明1の「構造物の支持部材」に相当するものであるが、「支持部材から構造物の内方側に延びる延設部材」であるとはいえない。
そして、上記イ(イ)で示したとおり、甲3には、プレキャストコンクリート板1のボルト取付孔7に上端を係止した支持部材9の下端部を建築物躯体の水平部材10に係止することが記載されているが、「連結材」を「前記支持部材から構造物の内方側に延びる延設部材」に「連結」する構成が記載されておらず、示唆するものでもない。
また、甲2、4についても、「連結材」を「前記支持部材から構造物の内方側に延びる延設部材」に「連結」する構成が記載されておらず、示唆するものでもない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
オ 小括
以上のとおり、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2~4記載技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件特許発明2~5について
本件特許発明2~5は、本件特許発明1を全て含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記(1)で検討した理由と同じ理由により、甲1発明及び甲2~4記載技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700962