特許異議申立
2024-700856
ビールテイスト飲料及びその製造方法、並びにビールテイスト飲料の香味を向上させる方法
- 審判番号
- 2024-700856
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-203995外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7445409
- 請求日
- 2024年09月09日
- 審決日
- 2024年12月19日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サッポロビール株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人はるか国際特許事務所
- 【異議申立人】竹口 美穂
- 分類
- P1651.113-Y (C12C) / P1651.121-Y (C12C) / P1651.537-Y (C12C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7445409号発明「ビールテイスト飲料及びその製造方法、並びにビールテイスト飲料の香味を向上させる方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7445409号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7445409号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~13に係る特許についての出願は、令和元年11月11日の出願であって、令和6年2月28日にその特許権の設定登録(請求項の数13)がされ、同年3月7日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、令和6年9月9日に特許異議申立人竹口美穂(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~13)がされたものである。
第2 本件発明について
本件特許の請求項1~13に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明13」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
原料と水とを混合して調製された原料液を加熱することと、
加熱後の前記原料液を冷却することと、
ホップと酸性の処理液とを混合して煮沸することなくホップ懸濁液を調製することと、
前記ホップ懸濁液から上清を取得することと、
前記原料液の前記冷却後に、前記上清を添加することと、
を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項2】
前記原料液の前記調製後に、前記ホップ懸濁液から前記上清を取得する、
請求項1に記載のビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項3】
前記ホップ懸濁液からの前記上清の取得と、前記冷却後の前記原料液への前記上清の添加とを並行して行う、
請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項4】
底部に排出口を有する容器内で前記ホップ懸濁液を保持し、
前記容器の底部に沈降した前記ホップ懸濁液の固形分を前記排出口から排出することを含む操作により、前記ホップ懸濁液から前記上清を取得する、
請求項1乃至3のいずれかに記載のビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項5】
ろ過器が配置された配管に接続された容器内に前記ホップ懸濁液を保持し、
前記容器から前記配管に前記ホップ懸濁液を流通させて、前記ホップ懸濁液を前記ろ過器でろ過することを含む操作により、前記ホップ懸濁液から前記上清を取得する、
請求項1乃至4のいずれかに記載のビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項6】
遠心分離機を用いることを含む操作により、前記ホップ懸濁液から前記上清を取得する、
請求項1乃至5のいずれかに記載のビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項7】
デカンテーションを含む操作により、前記ホップ懸濁液から前記上清を取得する、
請求項1乃至6のいずれかに記載のビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項8】
前記処理液のpHは、6.0以下である、
請求項1乃至7のいずれかに記載のビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項9】
下記(I)及び/又は(II):
(I)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ゲラン酸の含有量(μg/L)とネリン酸の含有量(μg/L)との合計の比が、3.0以下;、
(II)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ミルセンの含有量(μg/L)とリナロールの含有量(μg/L)とβ-シトロネロールの含有量(μg/L)とゲラニオールの含有量(μg/L)との合計の比が、5.0以下;
の特性を有する前記ビールテイスト飲料を製造する、
請求項1乃至8のいずれかに記載のビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項10】
α酸の含有量(ppm)に対する、イソα酸の含有量(ppm)の比が10.0以上である前記ビールテイスト飲料を製造する、
請求項1乃至9のいずれかに記載のビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項11】
原料と水とを混合して調製された原料液を加熱することと、加熱後の前記原料液を冷却することとを含むビールテイスト飲料の製造において、
ホップと酸性の処理液とを混合して煮沸することなくホップ懸濁液を調製し、
前記ホップ懸濁液から上清を取得し、
前記原料液の前記冷却後に、前記上清を添加することにより、
前記ビールテイスト飲料の香味を向上させる方法。
【請求項12】
下記(I)及び/又は(II):
(I)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ゲラン酸の含有量(μg/L)とネリン酸の含有量(μg/L)との合計の比が、3.0以下;、
(II)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ミルセンの含有量(μg/L)とリナロールの含有量(μg/L)とβ-シトロネロールの含有量(μg/L)とゲラニオールの含有量(μg/L)との合計の比が、5.0以下;
の特性を有する、ビールテイスト飲料。
【請求項13】
α酸の含有量(ppm)に対する、イソα酸の含有量(ppm)の比が10.0以上である、請求項12に記載のビールテイスト飲料。」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記2に示す甲第1号証~甲第15号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲15」のようにいう。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。なお、特許異議申立理由の番号は当審が仮に付与した。
1 特許異議申立理由
(1)理由1(甲1を主引例とする新規性・進歩性)
本件発明1~3、8~13は、本件特許の出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件発明1~13は、甲1に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、これらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)理由2(甲7を主引例とする新規性・進歩性)
本件発明1、8~13は、本件特許の出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲7に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件発明1~13は、甲7に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、これらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)理由3(甲2を主引例とする新規性・進歩性)
本件発明12、13は、本件特許の出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件発明1~13は、甲2に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、これらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(4)理由4(甲9又は甲10を主引例とする新規性・進歩性)
本件発明12、13は、本件特許の出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲9又は甲10に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件発明1~13は、甲9又は甲10に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、これらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(5)理由5(甲11を主引例とする新規性・進歩性)
本件発明12、13は、本件特許の出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲11に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件発明1~13は、甲11に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、これらの発明についての特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(6)理由6(サポート要件)
本件特許の請求項1~13に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
ア 本件特許の実施例には、ホップ懸濁液を調製する際のpHや、酸性の処理液による処理温度、また、ホップの処理時間について、本件発明1、11に記載の全範囲における実施例がある訳ではないので、本件発明1、11は、その全範囲において解決すべき課題を解決できると認められないから、サポート要件違反の取消理由を有する。本件特許発明2~10についても同様である。
イ 本件特許の実施例には、請求項9、12の(I)、(II)のどちらか一方だけを満たす場合や、(I)、(II)に規定する全ての範囲においてデータがある訳ではなく、また、ゲラン酸、ネリン酸、n-プロピルアルコール、イソブチルアルコールの含有量が、一部のデータしかないので、(I)、(II)の比が同じでも濃度がより高い場合や、より低い場合のデータはなく、本件発明9、12の全範囲において課題を解決できるとはいえない。請求項9、12を引用する請求項10、13も同様であり、本件発明9、10、12、13は、サポート要件違反の取消理由を有する。
ウ 本件発明9、12の(I)、(II)では、数値範囲の上限値だけが規定されているため、比が0である場合も含まれるが、比が0である場合にも本件発明の効果が得られるのか不明である。請求項9、12を引用する請求項10、13も同様であり、本件発明9、10、12、13は、サポート要件違反の取消理由を有する。
2 証拠方法
甲1:Acta Innovations, 2016年10月, no.21, pp81-88
甲2:特開2017-153419号公報
甲3:BRAUTECHNISCHE ANALYSENMETHODEN Band II, 2002年, 90-92頁
甲4:醸造物の成分, 平成11年12月10日, 206, 250頁
甲5:Journal of Agricultural and Food Chemistry, 2018年10月26日, 66, pp12285-12295
甲6:Journal of Agricultural and Food Chemistry, 2005年5月13日, 53, pp4701-4707
甲7:特開2018-93775号公報
甲8:化学大辞典, 1989年10月20日, 2014頁
甲9:特開2013-132275号公報
甲10:特開2013-132272号公報
甲11:特開2015-107078号公報
甲12:ビールの基本技術, 2002年3月15日, 44-45頁
甲13:麦酒醸造学, 昭和45年3月2日, 315-317頁
甲14:Die Birebrauerei Band 2:Die Technologie der Wurzebereitung Achte, 2009年, 675-715頁
甲15:Technology Brewing and Malting (4th updated Edition), 2010年, 462頁
なお、証拠の表示は当審による。
第4 当審の判断
当審は、申立人が申し立てたいずれの特許異議申立理由によっても、本件発明1~13についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおり。
1 理由1(甲1を主引例とする新規性・進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「新しいホッピングの方法」に関して、次の事項が記載されている。なお、甲1は外国語文献のため、原文及び訳文を摘記する。
[図:0001419369000001.jpg]
[図:0001419369000002.jpg]
イ 甲1に記載された発明
ホップティーホッピングに関する記載を中心にまとめると、甲1には次の発明が記載されていると認められる。
「ホップを水又は麦汁の一部で抽出し、その抽出液を最終ビールに添加する、ビール製造方法。」(以下、「甲1製法発明A」という。)
「ホップを水又は麦汁の一部で抽出し、その抽出液を最終ビールに添加して、並外れたホップの風味を得る方法。」(以下、「甲1製法発明B」という。)
「ホップを水又は麦汁の一部で抽出し、その抽出液を最終ビールに添加する、ビール製造方法により製造されたビール。」(以下、「甲1ビール発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1製法発明Aとの対比
両者を対比すると、甲1製法発明Aの「水又は麦汁」は、本件発明1の「処理液」に相当し、甲1製法発明Aの「ビール」は、本件発明1の「ビールテイスト飲料」に相当するから、一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「ホップと処理液とを混合し、添加するビールテイスト飲料の製造方法。」
(相違点)
・相違点1
原料液について、本件発明1は「原料と水とを混合して調製された原料液を加熱することと、加熱後の前記原料液を冷却することと」を含むが、甲1製法発明Aにはそのような特定がない点。
・相違点2
ホップの処理について、本件発明1はホップと「酸性の処理液」とを混合して」いるが、甲1製法発明Aはホップを「水又は麦汁の一部」で抽出している点。
・相違点3
ホップの処理について、本件発明1は、煮沸することなくホップ懸濁液を調製しているが、甲1製法発明Aは、煮沸することなくホップを抽出しているか不明な点。
・相違点4
ホップ懸濁液及び上清について、本件発明1は「ホップ懸濁液から上清を取得」し、「原料液の冷却後に、上清を添加する」が、甲1製法発明Aは「その抽出液を最終ビールに添加する」としか特定されていない点。
(イ)相違点4について
事案に鑑み、相違点4について検討すると、上記のとおり、甲1製法発明Aは「ホップを水又は麦汁の一部で抽出し」、「その抽出液」を添加するという特定しかなく、本件発明1のように、「ホップ懸濁液」を調製し、その「上清」を取得して添加する点についての特定はない。また、甲1製法発明Aの「抽出液」が、本件発明1の「ホップ懸濁液」に対応するものか、「上清」に対応するものか、甲1の記載からは明らかではないが、仮に、甲1製法発明Aの「抽出液」が「ホップ懸濁液」に対応するものとすると、甲1製法発明Aにはその抽出液から「上清」を取得するという工程がなく、また、甲1製法発明Aの「抽出液」が「上清」に対応するものとすると、甲1製法発明Aには「ホップ懸濁液」を調製するという工程がないから、いずれにせよ両者は相違する。そして、最終ビールに添加するための、ホップを水又は麦汁の一部で抽出した抽出液が、調製されたホップ懸濁液から取得した上清であるということが、本件特許出願時の技術常識であるともいえない。よって、相違点4は実質的な相違点である。
また、甲1及び他の証拠の記載を参照しても、甲1製法発明Aの「抽出液」を、調製されたホップ懸濁液から取得した上清とする動機付けとなる記載はないから、甲1製法発明Aにおいて相違点4に係る方法を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
以上まとめると、相違点4は実質的な相違点であって、甲1及びいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書46頁において、上記相違点4に係る本件発明特定事項を構成要件1D及び1Eとして、「・・・ホップティーホッピング法では、ホップを水又は麦汁の一部で抽出し、得られる抽出液を最終ビールに添加する。上記のように、本件特許発明1における「原料液」には、麦汁、ビールが含まれると解されることから、ホップティーホッピング法を用いるビールの製造方法は、本件特許発明1の構成要件1D及び1Eを満たす」と主張している。
確かに、甲1には、ホップティーホッピング法として、ホップを水又は麦汁の一部で抽出し、得られる抽出液を最終ビールに添加することが記載されているが、上記(ア)、(イ)で検討したとおり、この方法は、調製されたホップ懸濁液から上清を取得して添加するものではないから、本件発明1と甲1製法発明Aとは相違点4において相違するものであって、申立人の当該主張は採用できない。
また、申立人は、特許異議申立書47頁において、「仮に新規性があるとしても、甲第1号証に記載されるようにホップを麦汁やビール(いずれも酸性であることは周知)と煮沸せずに混合してビールに苦味や香りを付与することは従来から広く行われており、ホップの香味成分を抽出した麦汁やビールを、ビールの製造においてビールや麦汁に添加することは当業者が容易になし得ることである。従って、本件特許発明1は、甲第1号証から進歩性がない発明である。」と主張する。
しかしながら、甲1には、「ホップを麦汁やビール(いずれも酸性であることは周知)と煮沸せずに混合してビールに苦味や香りを付与すること」までが記載されているとは認められないし、また、仮に記載されていると認められるとしても、調製されたホップ懸濁液から上清を取得して添加するという相違点4に係る方法は、上記記載からも見いだせない。さらに、「ホップの香味成分を抽出した麦汁やビールを、ビールの製造においてビールや麦汁に添加することは当業者が容易になし得る」という点も、容易になし得るとするその根拠は示されておらず、仮に、「ホップの香味成分を抽出した麦汁やビールを、ビールの製造においてビールや麦汁に添加する」ことが容易であるとしても、調製されたホップ懸濁液から上清を取得して添加するという相違点4に係る方法が容易であるということにはならないから、「本件特許発明1は、甲第1号証から進歩性がない発明である」とする当該主張も採用できない。
(エ)本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点1ないし3について検討するまでもなく、本件発明1は甲1製法発明Aではなく、また、本件発明1は甲1製法発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2~10について
本件発明2~10は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2、3、8~10は甲1製法発明Aではなく、また、本件発明2~10は、甲1製法発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明11について
(ア)本件発明11と甲1製法発明Bとの対比
両者を対比すると、甲1製法発明Bの「水又は麦汁」は、本件発明11の「処理液」に相当し、甲1製法発明Bの「ビール」は、本件発明11の「ビールテイスト飲料」に相当する。また、甲1製法発明Bの「並外れたホップの風味を得る方法」は本件発明11の「香味を向上させる方法」に相当するから、一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「ホップと処理液とを混合し、原料液の冷却後に添加する、ビールテイスト飲料の香味を向上させる方法。」
(相違点)
・相違点1
原料液について、本件発明11は「原料と水とを混合して調製された原料液を加熱することと、加熱後の前記原料液を冷却することと」を含むが、甲1製法発明Bにはそのような特定がない点。
・相違点2
ホップの処理について、本件発明11は「ホップと酸性の処理液とを混合して」いるが、甲1製法発明Bは「ホップを水又は麦汁の一部で抽出し」ている点。
・相違点3
ホップの処理について、本件発明11は、煮沸することなくホップ懸濁液を調製しているが、甲1製法発明Bは、煮沸することなくホップを抽出しているか不明な点。
・相違点4
ホップ懸濁液及び上清について、本件発明11は「ホップ懸濁液から上清を取得」し、「原料液の冷却後に、上清を添加する」が、甲1製法発明Bは「その抽出液を最終ビールに添加する」としか特定されていない点。
(イ) 相違点4について
事案に鑑み、相違点4について検討すると、上記1(2)ア(イ)における相違点4の検討において記載したとおりの理由から、当該相違点4は実質的な相違点であって、また、甲1及びいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。
(ウ)本件発明11についてのまとめ
よって、相違点1ないし3について検討するまでもなく、本件発明11は甲1製法発明Bではなく、また、本件発明11は甲1製法発明Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明12について
(ア)本件発明12と甲1ビール発明との対比
両者を対比すると、甲1ビール発明の「ビール」は本件発明12の「ビールテイスト飲料」に相当するから、一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「ビールテイスト飲料。」
(相違点)
・相違点1
本件発明12のビールテイスト飲料は、「(I)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ゲラン酸の含有量(μg/L)とネリン酸の含有量(μg/L)との合計の比が、3.0以下」という特定事項を有するが、甲1ビール発明のビールはそのような特定がない点。
・相違点2
本件発明12のビールテイスト飲料は、「(II)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ミルセンの含有量(μg/L)とリナロールの含有量(μg/L)とβ-シトロネロールの含有量(μg/L)とゲラニオールの含有量(μg/L)との合計の比が、5.0以下」という特定事項を有するが、甲1ビール発明のビールはそのような特定がない点。
(イ) 相違点1について
相違点1について検討すると、相違点1に係る構成については、甲1ビール発明には特定がなく、また、当該構成が、本件特許出願時の技術常識であるともいえないから、相違点1は実質的な相違点である。
また、甲1及び他の証拠の記載を参照しても、上記相違点1に係る構成についての記載、すなわち、n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ゲラン酸の含有量(μg/L)とネリン酸の含有量(μg/L)との合計の比に着目して、この比を3.0以下とする記載や示唆はないから、甲1ビール発明において相違点1に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書54頁において、上記相違点1に係る本件発明特定事項を構成要件12Aとして、「n-プロピルアルコール、イソブチルアルコールがビールテイスト飲料に含まれる成分であることは周知である(甲第4号証206頁第1表)。また、甲第5号証の記載を参照すると、ソラチエース以外のホップを使用したビールにはゲラン酸及びネリン酸が含まれないため、一般的なビールは本件特許発明12の構成要件12Aを満たす蓋然性が高いといえる。よって、本件特許発明12は、甲第1号証に記載された発明と同じであり、新規性がない。」と主張する。
確かに、甲5には、ソラチエースホップ以外のホップを使用したビールにはゲラン酸が含まれなかった旨の記載があるが、甲1ビール発明が、ソラチエースホップ以外のホップを使用したビールである根拠はないから、申立人の当該主張は採用できない。
また、続いて申立人は、同頁において、「また、甲第5号証には、ゲラン酸がホップ由来の他の香気成分の増強剤であることが記載されているから(要約)、当業者であれば、ビールの香味を向上させる目的で、ビールテイスト飲料中のゲラン酸の含有量を調整してみる動機付けがある。甲第5号証には、ゲラン酸及びネリン酸をビールに添加して含有量を調整したことが記載されているから(Table 6)、ゲラン酸及びネリン酸の含有量を調整することは容易である。さらに、ビールテイスト飲料が本件特許発明12の構成要件12Aを満たすことで、予想外の顕著な効果が得られることも認められない。」と主張する。
ここで、申立人の主張のとおり、甲1ビール発明において、甲5に基づいて、ビールテイスト飲料中のゲラン酸の含有量を調整してみる動機付けが仮にあるとしても、甲5には、n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ゲラン酸の含有量(μg/L)とネリン酸の含有量(μg/L)との合計の比を3.0以下とする記載はないから、仮に甲1ビール発明に甲5を組み合わせたとしても、相違点1に係る構成は見いだせず、甲1ビール発明と甲5に基づいて本件発明12を容易に想到し得たということはできない。
(エ)相違点1についてのまとめ
以上まとめると、相違点1は実質的な相違点であって、甲1及びいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。
(オ)本件発明12についてのまとめ
以上のことから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明12は甲1ビール発明ではなく、また、本件発明12は甲1ビール発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明13について
本件発明13は、請求項12を引用し、本件発明12の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件発明12と同様の理由により、本件発明13は、甲1ビール発明ではなく、甲1ビール発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 理由2(甲7を主引例とする新規性・進歩性)について
(1) 甲7に記載された事項等
ア 甲7に記載された事項
甲7には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。
(7-1)「【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、ホップ原料からの苦味成分の移行率を向上させるとともに、飲料の香味をも向上させる飲料の製造方法、及びホップ原料から飲料への苦味成分の移行率及び飲料の香味を向上させる方法を提供することをその目的の一つとする。」
(7-2)「【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ホップ原料からの苦味成分の移行率を向上させるとともに、飲料の香味をも向上させる飲料の製造方法、及びホップ原料から飲料への苦味成分の移行率及び飲料の香味を向上させる方法が提供される。」
(7-3)「【0033】
ホップ液は、ホップ原料液を90℃以上の温度で加熱して調製される。ホップ原料液を加熱する温度は、90℃以上であれば特に限られないが、例えば、91℃以上であることとしてもよく、95℃以上であってもよく、98℃以上であってもよい。ホップ原料液を加熱する温度は、例えば、100℃以下であることとしてもよい。
【0034】
ホップ液は、ホップ原料液を煮沸して調製されることとしてもよい。ホップエキスに加えてホップペレット及び/又はホップパウダーを含むホップ原料液を煮沸してホップ液を調製する場合、ホップ原料液が当該ホップエキスを含み当該ホップペレット及びホップパウダーを含まない場合に比べて、突沸の発生を効果的に抑制することができる。」
(7-4)「【実施例1】
【0068】
まずホップ原料を含むホップ原料液を調製した。すなわち、例1-1~例1-7においては、ホップエキスと、ホップペレットと、水とを混合して、ホップ原料液を調製した。このホップ原料液の調製には、α酸含有量基準で、99重量部のホップエキスと、1重量部のホップペレットとを使用した。なお、使用されたホップエキスは、44.9重量%のα酸を含み、使用されたホップペレットは、2.6重量%のα酸を含んでいた。
【0069】
次に、ホップ原料液を煮沸してホップ液を調製した。すなわち、ホップ原料液を加熱して90分間煮沸し、煮沸後の上清を、ホップ液として得た。
【0070】
一方、麦芽及びホップ原料を使用して原料液を調製した。すなわち、まず大麦麦芽と水とを混合して得られた混合液の糖化を行った。次いで、糖化後の混合液にホップペレットを添加して90分間煮沸を行った。煮沸後の混合液を冷却して原料液(いわゆる麦汁)を得た。
【0071】
そして、原料液に酵母を添加することにより、アルコール発酵を開始した。その後、例1-1、例1-2、例1-3、例1-4、例1-5、例1-6及び例1-7において、アルコール発酵の開始から所定の時間が経過した時点で、原料液100体積部に対して、それぞれ81.8体積部、50.0体積部、33.3体積部、25.0体積部、16.7体積部、14.3体積部及び11.1体積部のホップ液を発酵液に添加した。なお、原料液に添加された酵母の体積は、当該原料液の体積とホップ液の体積との合計(2500mL)に対して無視し得る程度に小さかった。
【0072】
アルコール発酵後には、さらに熟成を行った。そして、熟成後の発酵液を遠心分離し、さらにカーボネーションタンクを用いてガス付けを行った。こうして、アルコール含有量が約5体積%の発泡性アルコール飲料(ビール)を得た。」
イ 甲7に記載された発明
甲7の実施例1の記載を整理すると、甲7には次の発明が記載されていると認める。
「大麦麦芽と水とを混合して得られた混合液を90分間煮沸し、煮沸後の混合液を冷却して原料液を得ることと、ホップエキスと、ホップペレットと、水とを混合してホップ原料液を調製し、ホップ原料液を加熱して90分間煮沸し、煮沸後の上清をホップ液として得ることと、原料液のアルコール発酵の開始から所定の時間が経過した時点で、ホップ液を添加することと、を含む発泡性アルコール飲料(ビール)を得る方法。」(以下、「甲7製法発明A」という。)
「大麦麦芽と水とを混合して得られた混合液を90分間煮沸し、煮沸後の混合液を冷却して原料液を得ることと、ホップエキスと、ホップペレットと、水とを混合してホップ原料液を調製し、ホップ原料液を加熱して90分間煮沸し、煮沸後の上清をホップ液として得ることと、原料液のアルコール発酵の開始から所定の時間が経過した時点で、ホップ液を添加することと、を含む飲料の香味を向上させる方法」(以下、「甲7製法発明B」という。)
「大麦麦芽と水とを混合して得られた混合液を90分間煮沸し、煮沸後の混合液を冷却して原料液を得ることと、ホップエキスと、ホップペレットと、水とを混合してホップ原料液を調製し、ホップ原料液を加熱して90分間煮沸し、煮沸後の上清をホップ液として得ることと、原料液のアルコール発酵の開始から所定の時間が経過した時点で、ホップ液を添加することと、を含む方法により製造された発泡性アルコール飲料(ビール)。」(以下、「甲7飲料発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲7製法発明Aとの対比
両者を対比すると、甲7製法発明Aの「大麦麦芽」は、本件発明1の「原料」に相当する。また、甲7製法発明Aの「ホップエキス」及び「ホップペレット」は、本件発明1の「ホップ」に相当し、甲7製法発明Aの「ホップ原料液」は、本件発明1の「ホップ懸濁液」に相当するから、一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「原料と水とを混合して調製された原料液を加熱することと、加熱後の前記原料液を冷却することと、ホップ懸濁液から上清を取得することと、前記原料液の前記冷却後に、前記上清を添加することと、を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。」
(相違点1)
ホップ懸濁液について、本件発明1は「ホップと酸性の処理液とを混合して煮沸することなくホップ懸濁液を調製することと」を含むが、甲7製法発明Aは、ホップエキスとホップペレットと水とを混合したホップ原料液を煮沸して調製している点。
(イ) 相違点1について
上記のとおり、甲7製法発明Aは、ホップエキスとホップペレットと「水」とを混合するものであり、本件発明1のように、ホップと「酸性の処理液」とを混合するものではない。また、甲7製法発明Aは、ホップ原料液を「煮沸して」調製しているが、本件発明1は、「煮沸することなく」ホップ懸濁液を調製するものである。そうすると、相違点1は実質的な相違点といえる。
また、甲7の段落【0033】には、「ホップ液は、ホップ原料液を90℃以上の温度で加熱して調製される。ホップ原料液を加熱する温度は、90℃以上であれば特に限られないが、例えば、91℃以上であることとしてもよく、95℃以上であってもよく、98℃以上であってもよい。ホップ原料液を加熱する温度は、例えば、100℃以下であることとしてもよい。」と記載され、ホップ液を100℃以下で調製することが許容されているものの、100℃以下とすることを好ましいとする記載や示唆は、甲7には存在せず、90℃以上という高温で調製を行うことや、実施例1~3では全て「煮沸」を行っていることからも、甲7製法発明Aにおいて、ホップ懸濁液の調製法を「煮沸することなく」行うものに変更する動機付けがあるとはいえない。
そして、他の証拠の記載を参照しても、甲7製法発明Aの「ホップ原料液」を煮沸することなく調製するという動機付けとなる記載はないから、甲7製法発明Aにおいて相違点1に係る方法を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書第56頁において、相違点1について、「甲第7号証では、ホップ原料液の加熱温度は90℃以上、100℃以下であって良いが(【0033】)、ホップを加えた溶液は不揮発性溶質を含むため、沸点上昇によって100℃では煮沸されない。これは技術常識である(甲第8号証)。甲第7号証には、ホップ原料液が酸性であることは明記されていないが、ホップを添加した水が酸性になることは、当業者には技術常識である。」と主張する。
確かに、申立人の主張のとおり、ホップを加えた溶液の沸点が沸点上昇により、100℃よりわずかに上昇する可能性は認められるが、その値はわずかと考えられ、甲7の「100℃以下であることとしてもよい」という記載から、「煮沸することなくホップ懸濁液を調製する」という本件発明1と同じ技術的思想を見出すことはできない(上記(イ)も参照)。また、甲7製法発明Aのホップ原料液の調製を、煮沸しないように変える動機付けもない。
そして、申立人の主張のとおり、仮に、ホップを添加した水が酸性になることが技術常識だとしても、甲7製法発明Aは、「ホップエキスと、ホップペレットと、水とを混合してホップ原料液を調製」するから、ホップエキス及びホップペレットと混合するのは「水」であって、本件発明1のようにホップと「酸性の処理液」とを混合するものではないし、また、その「水」を「酸性の処理液」に変える動機付けもない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(エ)本件発明1についてのまとめ
以上のことから、本件発明1は甲7製法発明Aではなく、また、本件発明1は甲1製法発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2~10について
本件発明2~10は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明8~10は、甲7製法発明Aではなく、また、本件発明2~10は、いずれも甲7製法発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明11について
(ア)本件発明11と甲7製法発明Bとの対比
両者を対比すると、一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「原料と水とを混合して調製された原料液を加熱することと、加熱後の前記原料液を冷却することと、ホップ懸濁液から上清を取得することと、前記原料液の前記冷却後に、前記上清を添加することと、を含む飲料の香味を向上させる方法。」
(相違点1)
ホップ懸濁液について、本件発明11は「ホップと酸性の処理液とを混合して煮沸することなくホップ懸濁液を調製することと」を含むが、甲7製法発明Bは、ホップエキスとホップペレットと水とを混合したホップ原料液を煮沸して調製している点。
(イ) 相違点1について
上記ア(イ)で示した本件発明1と甲7製法発明Bとの相違点1と同様の理由から、当該相違点1は実質的な相違点であり、また、甲7及びいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。
(ウ)本件発明11についてのまとめ
よって、本件発明11は甲7製法発明Bではなく、また、本件発明11は甲7製法発明Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明12について
(ア)本件発明12と甲7飲料発明との対比
両者を対比すると、一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「ビールテイスト飲料。」
(相違点)
・相違点1
本件発明12のビールテイスト飲料は、「(I)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ゲラン酸の含有量(μg/L)とネリン酸の含有量(μg/L)との合計の比が、3.0以下」の特定事項を有するが、甲7飲料発明はそのような特定事項について特定がない点。
・相違点2
本件発明12のビールテイスト飲料は、「(II)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ミルセンの含有量(μg/L)とリナロールの含有量(μg/L)とβ-シトロネロールの含有量(μg/L)とゲラニオールの含有量(μg/L)との合計の比が、5.0以下」の特定事項を有するが、甲7飲料発明はそのような特定事項について特定がない点。
(イ) 相違点1について
本件発明12と甲1ビール発明との検討のとおり、相違点1は、実質的な相違点であり、また、甲7及びいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。
(ウ)本件発明12についてのまとめ
よって、本件発明12は甲7飲料発明ではなく、また、本件発明12は甲7飲料発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明13について
本件発明13は、請求項12を引用し、本件発明12の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件発明12と同様の理由により、本件発明13は、甲7飲料発明ではなく、また、甲7飲料発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 理由3(甲2を主引例とする新規性・進歩性)について
(1) 甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。
(2-1)「【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、好ましくない香りの付与が抑制される飲料の製造方法及び飲料の香味向上方法を提供することをその目的の一つとする。」
(2-2)「【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、好ましくない香りの付与が抑制される飲料の製造方法及び飲料の香味向上方法を提供することができる。」
(2-3)「【実施例1】
【0077】
まず、大麦麦芽、ホップ及び水を含む原料を使用し、煮沸後に冷却された原料液(冷麦汁)を調製した。具体的に、ホップを除く原料を混合して得られた混合液を65℃で維持することにより、糖化を行った。さらに、糖化後の混合液にホップを添加して煮沸を行った。煮沸後の混合液を冷却して約20℃の原料液を得た。
【0078】
一方、ホップの酸処理を行った。酸処理の対象とするホップとしては、原料液の調製に使用したホップとは異なる品種であるカスケード種のホップペレットを使用した。まず醸造用水に乳酸を添加して、乳酸濃度が異なることによりpHが異なる複数の処理液を調製した。次いで、各処理液に、ホップペレットを2g/L添加し、浸漬した。ホップペレットを含む各処理液を常温で30分保持することにより、酸処理を行った。酸処理後の各処理液は、吸水してほぐれたホップペレットを含むスラリー状の組成物であった。
【0079】
その後、アルコール発酵の開始直前に、上記酸処理が施されたホップペレットを添加し、ドライホッピングを行った。すなわち、まず上記冷却された原料液に、上記ホップペレットを含む酸処理後の処理液を添加した。その後、EBC発酵管を使用して、約2.5Lスケールでアルコール発酵を行った。すなわち、酸処理が施されたホップペレットを含む原料液に、上面発酵ビール酵母を添加することにより、アルコール発酵を開始した。アルコール発酵後には、さらに熟成を行った。
【0080】
そして、熟成後の発酵液をろ過し、アルコール含有量が約5.5体積%のアルコール飲料(ビール)を得た。また、比較のため、処理水に代えて、乳酸を添加していない醸造用水をそのまま使用したこと以外は同様にしてビールを製造した。」
イ 甲2に記載された発明
甲2の実施例1の記載を中心に整理すると、甲2には次の発明が記載されていると認める。
「大麦麦芽と水を含む原料を煮沸後に冷却された原料液(冷麦汁)を調製し、醸造用水に乳酸を添加して調製した処理液にホップペレットを添加し、常温で30分保持して酸処理を行い、冷却された原料液に、上記酸処理が施されたホップペレットを含む酸処理後の処理液を添加することを含む、アルコール飲料(ビール)を得る方法。」(以下、「甲2製法発明A」という。)
「大麦麦芽と水を含む原料を煮沸後に冷却された原料液(冷麦汁)を調製し、醸造用水に乳酸を添加して調製した処理液にホップペレットを添加し、常温で30分保持して酸処理を行い、冷却された原料液に、上記酸処理が施されたホップペレットを含む酸処理後の処理液を添加することを含む、飲料の香味向上方法」(以下、「甲2製法発明B」という。)
「大麦麦芽と水を含む原料を煮沸後に冷却された原料液(冷麦汁)を調製し、醸造用水に乳酸を添加して調製した処理液にホップペレットを添加し、常温で30分保持して酸処理を行い、冷却された原料液に、上記酸処理が施されたホップペレットを含む酸処理後の処理液を添加することを含む方法により製造された発泡性アルコール飲料(ビール)。」(以下、「甲2飲料発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2製法発明Aとの対比
両者を対比すると、甲2製法発明Aの「大麦麦芽」は、本件発明1の「原料」に相当する。また、甲2製法発明Aの「ホップペレット」は、本件発明1の「ホップ」に相当し、甲2製法発明Aの「醸造用水に乳酸を添加して調製した処理液」は、本件発明1の「酸性の処理液」に相当する。そして、甲2製法発明Aの「酸処理後の処理液」は、本件発明1の「ホップ懸濁液」に相当する。
また、甲2製法発明Aの「酸処理後の処理液」は、「常温で30分保持して酸処理を行」っているので、本件発明1のように、「煮沸することなくホップ懸濁液を調製する」ものである。
そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「原料と水とを混合して調製された原料液を加熱することと、加熱後の前記原料液を冷却することと、ホップと酸性の処理液とを混合して煮沸することなくホップ懸濁液を調製することと、を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。」
(相違点1)
ホップ懸濁液について、本件発明1は「ホップ懸濁液から上清を取得することと、前記原料液の前記冷却後に、前記上清を添加することと」を含むが、甲2製法発明Aは、ホップペレットを含む酸処理後の処理液を冷却後の原料液に添加している点。
(イ) 相違点1について
上記のとおり、甲2製法発明Aは、ホップペレットを含む酸処理後の処理液を冷却後の原料液に添加しており、本件発明1のように、ホップ懸濁液の「上清」を取得してその「上清」を添加するものではなく、相違点1において両者は明らかに異なる方法だから、相違点1は実質的な相違点である。
ここで、甲7の実施例1~3には、ホップ原料液(本件発明1の「ホップ懸濁液」に相当)の上清を取得して添加することについて記載があるが(段落【0069】)、実施例1~3は、ホップ原料液を煮沸して上清を取得するものであり、本件発明1のように、煮沸せずに調製したホップ懸濁液から上清を取得するものではない。よって、甲2製法発明Aにおいて、甲7の記載を参酌しても、常温で30分保持して酸処理を行った処理液(本件発明1の「ホップ懸濁液」に相当)について、その上清を取得して、冷却された原料液に添加しようという動機付けは見いだせない。
そして、他の証拠の記載を参照しても、甲2製法発明Aの処理液の上清を取得して添加するという動機付けとなる記載はないから、甲2製法発明Aにおいて相違点1に係る方法を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書第61頁において、相違点1について、「本件特許発明1の構成要件1Dについて、甲第2号証には、「ホップ懸濁液から上清を取得すること」は明記されていないが、ホップを酸処理することでホップの成分が処理液中に抽出されるから、ホップを酸性の溶液で処理する場合、香味向上のためにその上清を使用することは当業者であれば容易に想到し得る事項である。」と主張する。しかしながら、当業者であれば、香味向上のためには、むしろ上清だけでなく、処理液中のホップも含めて使用する方が、処理液中に抽出されたホップ成分だけでなく、ホップ中に残るホップ成分も香味向上に寄与して好ましいと考えることが自然であり、甲2の実施例1~6(【0079】等を参照)においても、「ホップペレットを含む酸処理後の処理液」を添加していて、その上清を添加するような動機付けは見いだせない。そうすると、「香味向上のためにその上清を使用することは当業者であれば容易に想到し得る」とする申立人の当該主張は採用できない。
また、申立人は、特許異議申立書第61~62頁において、「甲第2号証の【0048】~【0049】には、酸処理が施されたホップやホップペレットを原料液に添加する場合、当該ホップやホップペレットを含む酸処理後の処理液の少なくとも一部を、加熱後の冷却を経て調製された原料液に添加することとしてもよい旨も記載されている。甲第2号証の実施例1~6においても、ホップの酸処理を行い、酸処理後の処理液(吸水してほぐれたホップペレットを含むスラリー状の組成物)を原料液に添加してビールを製造したことが記載されている(【0077】~【0121】)。また、甲第2号証には、酸処理の時間が短くなるほど、ホップに由来する好ましくない香りの付与が効果的に抑制されることが記載されており(【0025】)、この記載からも、酸処理後のホップ懸濁液からホップ残渣を除き、上清を取得する動機づけがある。また、甲第7号証には、ホップ原料を水系溶媒中で加熱したホップ液を、原料液に添加してビール等の飲料の香味を向上させる方法に関する発明が記載され(請求項1、6、【0005】、【0009】、【0030】等)、【0036】には、ホップ液の上清を用いることが好ましいことが記載されている。従って、本件特許発明1の構成要件1Dについて、甲第2号証に記載の発明において、ホップを酸処理した上清を取得し、使用することは当業者であれば容易になし得る程度のことである。」とも主張する。
しかしながら、「ホップやホップペレットを含む酸処理後の処理液の少なくとも一部」が、ホップやホップペレットを含む酸処理後の処理液の「上清」である根拠はないし、また、「酸処理の時間が短くなるほど、ホップに由来する好ましくない香りの付与が効果的に抑制されること」という記載は、「酸処理の時間」と「好ましくない香りの付与」との関係を言及しているに過ぎず、この記載があるからといって、ホップやホップペレットを含む酸処理後の処理液の「上清」を取得する動機付けがあるとはいえない。そして、甲7には、確かに、ホップ液の上清を用いることが好ましいことが記載されているが、甲2製法発明Aに対して、甲7の上記一部だけを適用する動機付けはない。言い換えると、甲7の実施例1~3はホップ原料液を煮沸して上清を取得するものであって、甲2製法発明Aに対して、甲7の上記技術的事項を組み合わせる際に、ホップ原料液を煮沸する部分を適用せず、上清を取得する部分のみを適用するようにする動機付けはない。よって、申立人の上記主張を採用することはできない。
(エ)本件発明1についてのまとめ
以上のことから、本件発明1は甲2製法発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2~10について
本件発明2~10は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~10は、いずれも甲2製法発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明11について
(ア)本件発明11と甲2製法発明Bとの対比
両者を対比すると、一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「原料と水とを混合して調製された原料液を加熱することと、加熱後の前記原料液を冷却することと、ホップと酸性の処理液とを混合して煮沸することなくホップ懸濁液を調製することと、を含む、ビールテイスト飲料の香味を向上させる方法。」
(相違点1)
ホップ懸濁液の上清について、本件発明11は「ホップ懸濁液から上清を取得することと、前記原料液の前記冷却後に、前記上清を添加することと」を含むが、甲2製法発明Bは、ホップペレットを含む酸処理後の処理液を冷却後の原料液に添加している点。
(イ) 相違点1について
上記ア(イ)で示した本件発明1と甲2製法発明Bとの相違点1と同様の理由から、当該相違点1は実質的な相違点であり、また、甲2及びいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。
(ウ)本件発明11についてのまとめ
よって、本件発明11は甲2製法発明Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明12について
(ア)本件発明12と甲2飲料発明との対比
両者を対比すると、一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「ビールテイスト飲料。」
(相違点)
・相違点1
本件発明12のビールテイスト飲料は、「(I)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ゲラン酸の含有量(μg/L)とネリン酸の含有量(μg/L)との合計の比が、3.0以下」の特定事項を有するが、甲2飲料発明はそのような特定事項がない点。
・相違点2
本件発明12のビールテイスト飲料は、「(II)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ミルセンの含有量(μg/L)とリナロールの含有量(μg/L)とβ-シトロネロールの含有量(μg/L)とゲラニオールの含有量(μg/L)との合計の比が、5.0以下」の特定事項を有するが、甲2飲料発明はそのような特定事項がない点。
(イ) 相違点1について
本件発明12と甲1ビール発明との検討のとおり、相違点1は、実質的な相違点であり、また、甲2及びいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。
(ウ)本件発明12についてのまとめ
よって、本件発明1は甲2飲料発明ではなく、また、本件発明12は甲2飲料発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明13について
本件発明13は、請求項12を引用し、本件発明12の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件発明12と同様の理由により、本件発明13は甲2飲料発明ではなく、甲2飲料発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 理由4(甲9又は甲10を主引例とする新規性・進歩性)について
(1) 甲9及び甲10に記載された事項等
ア 甲9に記載された事項
甲9には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。
(9-1)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、「ドライホッピング」によるホップ香気の強調、ならびに荒々しさの少ない「ケトルホッピング」の長所を合わせ持つ発酵麦芽飲料の製法を提供することを目的とする。」
(9-2)「【0024】
実施例1:ビール製造におけるホップの熱処理条件の予備的検討
本実施例では、予め熱処理を加えたホップを用いて製造したビールについて官能評価を行い、ホップの適切な熱処理条件を検討した。
【0025】
(1)各種試飲サンプルの調製
仕込時の麦芽使用比率を67%とし、副原料(米、コーングリッツおよびコーンスターチ)を使用比率33%として調製した麦汁糖度10度の仕込麦汁を調製した。電気ヒーターを用いて一定強度で60分間煮沸を行ったところ、蒸発率は10%であった。その後、麦汁を90℃で60分間静置させた。濾紙により濾過を行った後に、氷水中で麦汁を冷却した。その後、発酵前液にビール酵母を添加して1週間主発酵を行い、その後さらに4日間後発酵を行うことにより、試験区1~7の試飲サンプルを得た。
【0026】
ホップとしては、アメリカ産のカスケード種(Barth社製)を用いた。ホップは、50倍量の蒸留水中に添加した後、表2に記載の加熱条件で熱処理を行った。得られたホップは、試験区1を除き、表2に記載の時期に1g/Lの濃度となるように添加した。」
(9-3)「【表2】
[図:0001419369000003.jpg]
」(【0029】)
イ 甲9に記載された発明
甲9の実施例1の記載から、試験区3、4について整理すると、甲9には次の発明が記載されていると認められる。
「麦芽使用比率67%、副原料使用比率33%の仕込麦汁に煮沸を行い、その後、冷却し、ビール酵母を添加することと、ホップを蒸留水中に添加した後、65℃で熱処理を行い、酵母添加時に、得られたホップを麦汁に添加する発酵麦芽飲料製造方法。」(以下、「甲9製法発明A」という。)
「麦芽使用比率67%、副原料使用比率33%の仕込麦汁に煮沸を行い、その後、冷却し、ビール酵母を添加することと、ホップを蒸留水中に添加した後、65℃で熱処理を行い、酵母添加時に、得られたホップを麦汁に添加する、「ドライホッピング」によるホップ香気の強調、ならびに荒々しさの少ない「ケトルホッピング」の長所を合わせ持つ発酵麦芽飲料の製法。」(以下、「甲9製法発明B」という。)
「麦芽使用比率67%、副原料使用比率33%の仕込麦汁に煮沸を行い、その後、冷却し、ビール酵母を添加することと、ホップを蒸留水中に添加した後、65℃で熱処理を行い、酵母添加時に、得られたホップを麦汁に添加する発酵麦芽飲料製造方法により製造された発酵麦芽飲料。」(以下、「甲9飲料発明」という。)
ウ 甲10に記載された事項
甲10には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。
(10-1)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、「ドライホッピング」によるフルーティーなホップ香気が強調され、同時に、荒々しさの少ない「ケトルホッピング」の長所を合わせ持つ発酵麦芽飲料を提供することを目的とする。」
(10-2)「【0029】
実施例1:醸造例
本実施例では、予め熱処理を加えたホップを用いて試飲サンプルを製造し、この試飲サンプルについて官能評価および成分分析を行った。
【0030】
(1)各種試飲サンプルの調製
仕込時の麦芽使用比率を67%とし、副原料(米、コーングリッツおよびコーンスターチ)を使用比率33%として調製した仕込麦汁(麦汁糖度10度)を調製した。電気ヒーターを用いて一定強度で60分間煮沸を行ったところ、蒸発率は10%であった。その後、麦汁を90℃で60分間静置させた。濾紙により濾過を行った後に、氷水中で麦汁を冷却した。その後、発酵前液にビール酵母を添加して1週間主発酵を行い、その後さらに4日間後発酵を行うことにより、試飲サンプルを得た。ホップとしては、アメリカ産カスケード種(Barth社より購入)、および国産ホップ品種であるキリン2号を使用し、試験区1~12の試飲サンプルを用意した。各試験区におけるホップの添加量、品種、添加時期および加熱処理については、下記の表2および表3に示す。」
(10-3)「【表2】
[図:0001419369000004.jpg]
」(【0033】)
(10-4)「【0034】
試験区1~6および試験区8~12において、ホップは、添加前に加熱処理した。具体的には、ホップを50倍量の蒸留水中に添加した後、恒温水槽中、表に記載の温度および時間で処理し、直ちに氷水中で冷却し、25℃まで低下した後、室温に放置した。
【0035】
ホップの添加時期は、上述のとおり処理したホップを添加する時期を示し、例えば「煮沸終了時」は、ホップを添加した後、直ちにヒーターの電源をオフにしたことを示す。「ワールプール静置時」は、ヒーターの電源をオフした後、発泡が収まった時点で添加したことを示す。「主発酵中、酵母添加と同時」は、酵母添加の直前にホップを添加したことを示す。」
エ 甲10に記載された発明
甲10の実施例1の記載から、試験区4、5、6について整理すると、甲10には次の発明が記載されていると認められる。
「麦芽使用比率67%、副原料使用比率33%の仕込麦汁に煮沸を行い、その後、冷却し、ビール酵母を添加することと、ホップを蒸留水中に添加した後、70℃で熱処理を行い、酵母添加と同時に、処理したホップを麦汁に添加する発酵麦芽飲料製造方法。」(以下、「甲10製法発明A」という。)
「麦芽使用比率67%、副原料使用比率33%の仕込麦汁に煮沸を行い、その後、冷却し、ビール酵母を添加することと、ホップを蒸留水中に添加した後、70℃で熱処理を行い、酵母添加と同時に、処理したホップを麦汁に添加する、「ドライホッピング」によるフルーティーなホップ香気が強調され、同時に、荒々しさの少ない「ケトルホッピング」の長所を合わせ持つ発酵麦芽飲料を提供する方法。」(以下、「甲10製法発明B」という。)
「麦芽使用比率67%、副原料使用比率33%の仕込麦汁に煮沸を行い、その後、冷却し、ビール酵母を添加することと、ホップを蒸留水中に添加した後、70℃で熱処理を行い、酵母添加と同時に、処理したホップを麦汁に添加する発酵麦芽飲料製造方法により製造された発酵麦芽飲料。」(以下、「甲10飲料発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲9製法発明A及び甲10製法発明Aとの対比
本件発明1と、甲9製法発明A及び甲10製法発明Aとを対比すると、甲9製法発明A及び甲10製法発明Aの「麦芽」、「副原料」は、本件発明1の「原料」に相当する。また、甲9製法発明A及び甲10製法発明Aの「麦汁」は、本件発明1の「原料液」に相当する。ここで、「麦汁」は原料と醸造用水とを混合して得られるという技術常識に基づくと、甲9製法発明A及び甲10製法発明Aの「麦汁」が麦芽と副原料と水とを混合して得られることは明らかである。そして、甲9製法発明Aの「65℃で熱処理」や甲10製法発明Aの「70℃で熱処理」は、本件発明1のように「煮沸することなく」調製することに相当する。
以上を踏まえ、本件発明1と、甲9製法発明A及び甲10製法発明Aとの一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「原料と水とを混合して調製された原料液を加熱することと、加熱後の前記原料液を冷却することと、ホップと処理液とを混合して煮沸することなくホップ懸濁液を調製することと、を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。」
(相違点1)
処理液について、本件発明1はホップと「酸性の処理液」とを混合しているが、甲9製法発明A及び甲10製法発明Aは、ホップを「蒸留水」に添加している点。
(相違点2)
ホップ懸濁液の上清について、本件発明1は、「ホップ懸濁液から上清を取得」し、「前記上清を添加する」が、甲9製法発明A及び甲10製法発明Aは、「処理したホップを麦汁に添加」している点。
(イ) 相違点2について
事案に鑑み、相違点2について検討すると、甲9製法発明A及び甲10製法発明Aは、熱処理したホップを麦汁に添加しており、本件発明1のように、ホップ懸濁液の「上清」を取得してその「上清」を添加するものではなく、すなわち、相違点2において両者は明らかに異なる方法だから、相違点2は実質的な相違点である。
そして、甲9製法発明A及び甲10製法発明Aは、熱処理したホップ自体を麦汁に添加するものと解され、本件発明1のように、ホップ懸濁液から上清を取得し添加するという動機付けは見いだせない。
また、甲7の実施例1~3には、ホップ原料液(本件発明1の「ホップ懸濁液」に相当)の上清を取得して添加することについて記載があるが(段落【0069】等)、上記したとおり、甲9製法発明A及び甲10製法発明Aは、熱処理したホップ自体を麦汁に添加するものだから、甲9製法発明A及び甲10製法発明Aにおいて、甲7の記載を参酌しても、65℃や70℃で熱処理されたホップについて、その処理液の上清を取得して、冷却された麦汁に添加しようという動機付けを見いだすことはできない。
そして、他の証拠の記載を参照しても、甲9製法発明A及び甲10製法発明Aのホップについて、その処理液の上清を取得して添加するという動機付けとなる記載はないから、甲9製法発明A及び甲10製法発明Aにおいて相違点2に係る方法を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書第67頁において、相違点2について、「本件特許発明1の構成要件1Dについて、甲第9号証及び甲10号証には、「ホップ懸濁液から上清を取得すること」は明記されていないが、ホップを酸処理することでホップの成分が処理液中に抽出されるから、ホップを酸性の溶液で処理する場合、香味向上のためにその上清を使用することは当業者であれば容易に想到し得る事項である。」と主張するが、理由3においての検討と同様に、当業者であれば、香味向上のためには、むしろ上清だけでなく、処理液中のホップも含めて使用する方が、処理液中に抽出されたホップ成分だけでなく、ホップ中に残るホップ成分も香味向上に寄与して好ましいと考えるのが自然であるし、そもそも、甲9及び甲10の実施例1において、ホップの添加量がg/Lで示されているように(【表2】)、甲9製法発明A及び甲10製法発明Aは、熱処理したホップ自体を添加するものと解される。そうすると、「香味向上のためにその上清を使用することは当業者であれば容易に想到し得る」とする申立人の当該主張は採用できない。
また、同頁において、申立人は、「構成要件1Dについて、上記(4-3-2-1)に記載したように、甲第7号証には、ホップ原料を水系溶媒中で加熱したホップ液を、原料液に添加してビール等の飲料の香味を向上させる方法に関する発明が記載され(請求項1、6、【0005】、【0009】、【0030】等)、【0036】には、ホップ液の上清を用いることが好ましいことが記載されている。甲2号証にも、ホップを酸処理した処理液を原料液に添加したことが記載されている(実施例1~6)。従って、甲第9号証又は甲第10号証に記載の発明において、ホップを加熱した上清を取得し、使用することは当業者であれば容易になし得る程度のことである。」とも主張する。
しかしながら、上記したとおり、甲9製法発明A及び甲10製法発明Aは、熱処理したホップ自体を麦汁に添加するものと解されるから、甲7に、ホップ液の上清を用いることが好ましいことが記載されていても、熱処理したホップ自体を麦汁に添加する甲9製法発明A及び甲10製法発明Aに基づいて、これを熱処理したホップの処理液の上清を取得するように変えることは当業者といえども容易とはいえず、申立人の上記主張を採用することはできない。
(エ)相違点2についてのまとめ
以上まとめると、相違点2は実質的な相違点であって、甲9及び甲10、その他いずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。
(オ)本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は甲9製法発明A又は甲10製法発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2~10について
本件発明2~10は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~10は、いずれも甲9製法発明A又は甲10製法発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明11について
(ア)本件発明11と甲9製法発明B及び甲10製法発明Bとの対比
両者を対比すると、甲9製法発明Bの「「ドライホッピング」によるホップ香気の強調、ならびに荒々しさの少ない「ケトルホッピング」の長所を合わせ持つ発酵麦芽飲料の製法」や、甲10製法発明Bの「「ドライホッピング」によるフルーティーなホップ香気が強調され、同時に、荒々しさの少ない「ケトルホッピング」の長所を合わせ持つ発酵麦芽飲料を提供する方法」は、いずれも発酵麦芽飲料の香味を向上させる方法を意味すると認められるから、本件発明11の「ビールテイスト飲料の香味を向上させる方法」に相当する。
そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「原料と水とを混合して調製された原料液を加熱することと、加熱後の前記原料液を冷却することと、ホップと処理液とを混合して煮沸することなくホップ懸濁液を調製することと、を含む、ビールテイスト飲料の香味を向上させる方法。」
(相違点1)
処理液について、本件発明11はホップと「酸性の処理液」とを混合しているが、甲9製法発明B及び甲10製法発明Bは、ホップを「蒸留水」に添加している点。
(相違点2)
ホップ懸濁液の上清について、本件発明11は、「ホップ懸濁液から上清を取得」し、「前記上清を添加する」が、甲9製法発明B及び甲10製法発明Bは、「処理したホップを麦汁に添加」している点。
(イ) 相違点2について
本件発明1と甲9製法発明A及び甲10製法発明Aとの相違点2と同様の理由から、当該相違点2は実質的な相違点であり、また、甲9及び甲10、その他いずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。
(ウ)本件発明11についてのまとめ
よって、本件発明11は甲9製法発明B又は甲10製法発明Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明12について
(ア)本件発明12と甲9飲料発明及び甲10飲料発明との対比
両者を対比すると、一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「ビールテイスト飲料。」
(相違点)
・相違点1
本件発明12のビールテイスト飲料は、「(I)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ゲラン酸の含有量(μg/L)とネリン酸の含有量(μg/L)との合計の比が、3.0以下」の特定事項を有するが、甲9飲料発明及び甲10飲料発明はそのような特定事項がない点。
・相違点2
本件発明12のビールテイスト飲料は、「(II)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ミルセンの含有量(μg/L)とリナロールの含有量(μg/L)とβ-シトロネロールの含有量(μg/L)とゲラニオールの含有量(μg/L)との合計の比が、5.0以下」の特定事項を有するが、甲9飲料発明及び甲10飲料発明はそのような特定事項がない点。
(イ) 相違点1について
本件発明12と甲1ビール発明との検討のとおり、相違点1は、実質的な相違点であり、また、甲9及び甲10、その他いずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。
(ウ)本件発明12についてのまとめ
よって、本件発明12は甲9飲料発明又は甲10飲料発明ではなく、また、本件発明12は甲9飲料発明又は甲10飲料発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明13について
本件発明13は、請求項12を引用し、本件発明12の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件発明12と同様の理由により、本件発明13は甲9飲料発明又は甲10飲料発明ではなく、また、甲9飲料発明又は甲10飲料発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
5 理由5(甲11を主引例とする新規性・進歩性)について
(1) 甲11に記載された事項等
ア 甲11に記載された事項
甲11には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。
(11-1)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ホップ香気が強調され、かつ渋味が低減された発酵麦芽飲料、およびその製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ホップを酵母の存在下において加熱処理した後、得られるホップを冷却後の原料混合物に添加することにより、ホップ香気が強調され、かつ渋味が低減された発酵麦芽飲料が得られることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。」
(11-2)「【0035】
実施例1:ビール製造におけるホップの処理条件の検討
本実施例では、ホップに酵母を添加して加熱処理を加え、得られたホップを用いて製造したビールについて官能評価を行い、ホップの適切な前処理条件を検討した。
【0036】
(1)各種試飲サンプルの調製
仕込時の麦芽使用比率を67%とし、副原料(米、コーングリッツおよびコーンスターチ)を使用比率33%として調製した麦汁糖度12~14度の仕込麦汁を調製した。電気ヒーターを用いて一定強度で60分間煮沸を行ったところ、蒸発率は10%であった。その後、麦汁を90℃で60分間静置させた。濾紙により濾過を行った後に、氷水中で麦汁を冷却した。その後、得られた発酵前液にビール酵母を添加して1週間主発酵を行い、その後さらに4日間後発酵を行うことにより、試飲サンプルを得た。
【0037】
ホップは、次のように前処理し、上記発酵前液に添加した。ホップの品種は、アメリカ産ブラボー種(Steiner社より購入)を使用した。ホップは、20倍量の蒸留水中に添加した後、そこに食用乾燥酵母またはビール回収酵母を添加し、65℃で10分間、恒温水槽で処理し、直ちに氷水中で50℃まで冷却した。その後、50℃で20分間保持した後、15℃まで冷却した。ホップの添加時期は、酵母添加の直前とした。また、ブラボー種以外のホップ品種として、マンダリアバーバリア種(HVG社製)、ヒュールメロン種(HVG社製)、ハラタウブラン種(HVG社製)、アメリカ産のシトラ種(Barthグループ社製)、オーストラリア産ギャラクシー種(Barthグループ社製)を用いた。得られたホップは、2~4g/Lの濃度となるように添加した。
【0038】
食用乾燥酵母(以下、単に「乾燥酵母」という)としては、キリン協和フーズ株式会社製の乾燥酵母を用いた。使用量は、ホップ3gに対して1gとした。
【0039】
ビール回収酵母(以下、単に「回収酵母」という)としては、通常のビール製造で得られる主発酵タンクまたは貯蔵タンクから回収した酵母を使用した。タンクから回収した酵母は、100倍量の65℃の水で10分間洗浄し、室温まで冷却した後に回収された沈殿を回収酵母として用いた。使用量は、ホップ3gに対して1gとした。」
イ 甲11に記載された発明
特に甲11の実施例1の記載を中心に整理すると、甲11には次の発明が記載されていると認められる。
「麦芽使用比率67%、副原料使用比率33%の仕込麦汁を煮沸を行い、その後、冷却し、発酵前液を得ることと、ホップを蒸留水中に添加した後、65℃で恒温水槽で処理し、直ちに氷水中で50℃まで冷却し、その後、50℃で20分間保持した後、15℃まで冷却することと、発酵前液に、処理したホップを添加することとを含む、発酵麦芽飲料製造方法。」(以下、「甲11製法発明A」という。)
「麦芽使用比率67%、副原料使用比率33%の仕込麦汁を煮沸を行い、その後、冷却し、発酵前液を得ることと、ホップを蒸留水中に添加した後、65℃で恒温水槽で処理し、直ちに氷水中で50℃まで冷却し、その後、50℃で20分間保持した後、15℃まで冷却することと、発酵前液に、処理したホップを添加することとを含む、ホップ香気が強調され、かつ渋味が低減された発酵麦芽飲料の製法。」(以下、「甲11製法発明B」という。)
「麦芽使用比率67%、副原料使用比率33%の仕込麦汁を煮沸を行い、その後、冷却し、発酵前液を得ることと、ホップを蒸留水中に添加した後、65℃で恒温水槽で処理し、直ちに氷水中で50℃まで冷却し、その後、50℃で20分間保持した後、15℃まで冷却することと、発酵前液に、処理したホップを添加することとを含む、発酵麦芽飲料製造方法により製造された発酵麦芽飲料。」(以下、「甲11飲料発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲11製法発明Aとの対比
両者を対比すると、甲11製法発明Aの「麦芽」、「副原料」は、本件発明1の「原料」に相当する。また、甲11製法発明Aの「麦汁」は、本件発明1の「原料液」に相当し、甲11製法発明Aの「発酵前液」は、本件発明1における冷却後の「原料液」に相当する。ここで、「麦汁」は原料と醸造用水とを混合して得られるという技術常識に基づくと、甲11製法発明Aの「麦汁」が麦芽と副原料と水とを混合して得られることは明らかである。そして、甲11製法発明Aが、ホップを蒸留水中に添加した後、「65℃で恒温水槽で処理し、直ちに氷水中で50℃まで冷却し、その後、50℃で20分間保持した後、15℃まで冷却すること」は、本件発明1の「煮沸することなくホップ懸濁液を調製すること」に相当する。
そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「原料と水とを混合して調製された原料液を加熱することと、加熱後の前記原料液を冷却することと、ホップと処理液とを混合して煮沸することなくホップ懸濁液を調製することと、を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。」
(相違点1)
処理液について、本件発明1はホップと「酸性の処理液」とを混合しているが、甲11製法発明Aは、ホップを「蒸留水」に添加している点。
(相違点2)
ホップ懸濁液の上清について、本件発明1は、「ホップ懸濁液から上清を取得」し、「前記上清を添加する」が、甲11製法発明Aは、「処理したホップ」を「発酵前液」に添加している点。
(イ) 相違点2について
事案に鑑み、相違点2について検討すると、甲11製法発明Aは、熱処理したホップを麦汁に添加しており、本件発明1のように、ホップ懸濁液の「上清」を取得してその「上清」を添加するものではなく、すなわち、相違点2において両者は明らかに異なる方法だから、相違点2は実質的な相違点である。
そして、甲11製法発明Aは、甲9製法発明Aや甲10製法発明Aと同様に、熱処理したホップ自体を添加するものと解され、本件発明1のように、ホップ懸濁液から上清を取得し添加するという動機付けは見いだせない。
また、甲7の実施例1~3には、ホップ原料液(本件発明1の「ホップ懸濁液」に相当)の上清を取得して添加することについて記載があるが(段落【0069】等)、上記したとおり、甲11製法発明Aは、熱処理したホップ自体を発酵前液に添加するものだから、甲11製法発明Aにおいて、甲7の記載を参酌しても、65℃で恒温水槽で処理し、直ちに氷水中で50℃まで冷却し、その後、50℃で20分間保持した後、15℃まで冷却されたホップに対して、その処理液の上清を取得して、発酵前液に添加しようという動機付けを見いだすことはできない。
そして、他の証拠の記載を参照しても、甲11製法発明Aのホップについて、その処理液の上清を取得して添加するという動機付けとなる記載はないから、甲11製法発明Aにおいて相違点2に係る方法を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書第73頁において、相違点2について、「本件特許発明1の構成要件1Dについて、甲第11号証には、「ホップ懸濁液から上清を取得すること」は明記されていないが、ホップを酸処理することでホップの成分が処理液中に抽出されるから、ホップを酸性の溶液で処理する場合、香味向上のためにその上清を使用することは当業者であれば容易に想到し得る事項である。」と主張するが、理由3及び理由4においての検討と同様に、当業者であれば、香味向上のためには、むしろ上清だけでなく、処理液中のホップも含めて使用する方が、処理液中に抽出されたホップ成分だけでなく、ホップ中に残るホップ成分も香味向上に寄与して好ましいと考えるのが自然であるし、そもそも、甲11製法発明Aは、熱処理したホップ自体を添加するものと解されるから、「香味向上のためにその上清を使用することは当業者であれば容易に想到し得る」とする申立人の当該主張は採用できない。
また、申立人は、同頁において、「構成要件1Dについて、上記(4-3-2-1)に記載したように、甲第7号証には、ホップ原料を水系溶媒中で加熱したホップ液を、原料液に添加してビール等の飲料の香味を向上させる方法に関する発明が記載され(請求項1、6、【0005】、【0009】、【0030】等)、【0036】には、ホップ液の上清を用いることが好ましいことが記載されている。甲2号証にも、ホップを酸処理した処理液を原料液に添加したことが記載されている(実施例1~6)。」とも主張するが、上記したとおり、甲11製法発明Aは、処理したホップ自体を発酵前液に添加するものと解されるから、甲7に、ホップ液の上清を用いることが好ましいことが記載されていても、処理したホップ自体を発酵前液に添加する甲11製法発明Aに基づいては、甲7の記載を参酌しても、処理したホップの処理液の上清を取得するように変えることは当業者といえども容易とはいえず、申立人の上記主張を採用することはできない。
(エ)相違点2についてのまとめ
以上まとめると、相違点2は実質的な相違点であって、甲11及びいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。
(オ)本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は甲11製法発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2~10について
本件発明2~10は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~10は、いずれも甲11製法発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明11について
(ア)本件発明11と甲11製法発明Bとの対比
両者を対比すると、甲11製法発明Bの「ホップ香気が強調され、かつ渋味が低減された発酵麦芽飲料の製法」は、発酵麦芽飲料の香味を向上させる方法を意味すると認められるから、本件発明11の「ビールテイスト飲料の香味を向上させる方法」に相当する。
そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「原料と水とを混合して調製された原料液を加熱することと、加熱後の前記原料液を冷却することと、ホップと処理液とを混合して煮沸することなくホップ懸濁液を調製することと、を含む、ビールテイスト飲料の香味を向上させる方法。」
(相違点1)
処理液について、本件発明11はホップと「酸性の処理液」とを混合しているが、甲11製法発明Bは、ホップを「蒸留水」に添加している点。
(相違点2)
ホップ懸濁液の上清について、本件発明11は、「ホップ懸濁液から上清を取得」し、「前記上清を添加する」が、甲11製法発明Bは、「処理したホップ」を「発酵前液」に添加している点。
(イ) 相違点2について
本件発明1と甲11製法発明Aとの相違点2と同様の理由から、当該相違点2は実質的な相違点であり、また、甲11及びいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。
(ウ)本件発明11についてのまとめ
よって、本件発明11は甲11製法発明Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明12について
(ア)本件発明12と甲11飲料発明との対比
両者を対比すると、一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「ビールテイスト飲料。」
(相違点)
・相違点1
本件発明12のビールテイスト飲料は、「(I)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ゲラン酸の含有量(μg/L)とネリン酸の含有量(μg/L)との合計の比が、3.0以下」の特定事項を有するが、甲11飲料発明はそのような特定事項がない点。
・相違点2
本件発明12のビールテイスト飲料は、「(II)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ミルセンの含有量(μg/L)とリナロールの含有量(μg/L)とβ-シトロネロールの含有量(μg/L)とゲラニオールの含有量(μg/L)との合計の比が、5.0以下」の特定事項を有するが、甲11飲料発明はそのような特定事項がない点。
(イ) 相違点1について
本件発明12と甲1ビール発明との検討のとおり、相違点1は、実質的な相違点であり、また、甲11及びいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。
(ウ)本件発明12についてのまとめ
よって、本件発明12は甲11飲料発明ではなく、また、本件発明12は甲11飲料発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明13について
本件発明13は、請求項12を引用し、本件発明12の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件発明12と同様の理由により、本件発明13は甲11飲料発明ではなく、甲11飲料発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
6 理由6(サポート要件)
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件明細書の記載について
本件明細書には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。
ア「【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、香味が効果的に向上したビールテイスト飲料及びその製造方法、並びにビールテイスト飲料の香味を効果的に向上させる方法を提供することをその目的の一つとする。」
イ「【0018】
図1には、本実施形態に係る方法(以下、「本方法」という。)の一例に含まれる工程を示す。図1に示すように、本方法の一側面は、原料と水とを混合して調製された原料液を加熱すること(S10)と、加熱後の当該原料液を冷却すること(S11)と、ホップと酸性の処理液とを混合してホップ懸濁液を調製すること(S20)と、当該ホップ懸濁液から上清を取得すること(S21)と、当該原料液の当該冷却後に、当該上清を添加すること(S12)と、を含む、ビールテイスト飲料を製造する(S13)方法である。
【0019】
上述のとおり、本発明の発明者らは、ホップを用いて従来にない香味をビールテイスト飲料に付与するという課題を解決するための技術的手段について鋭意検討を重ねた結果、意外にも、ホップと酸性の処理液とを混合して調製されたホップ懸濁液の上清を添加することにより、ビールテイスト飲料に、当該上清に特有の優れた香味を効果的に付与することができることを独自に見出し、本発明を完成するに至った。」
ウ「【0035】
処理液は、酸性であってホップを懸濁できる溶媒であれば特に限られないが、例えば、酸を含む水溶液(すなわち、酸の添加によりpHを低下させた水溶液)であることが好ましい。処理液に含まれる酸は、添加により水溶液のpHを低下させるものであれば特に限られないが、例えば、乳酸、りん酸、りんご酸、無水亜硫酸、酒石酸、酢酸及びクエン酸からなる選択される1以上であることが好ましい。
【0036】
処理液のpHは、酸性の範囲(例えば、6.9以下)であれば特に限られないが、例えば、6.0以下であってもよく、5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.5以下であることが特に好ましい。処理液のpHの下限値は特に限られないが、例えば、1.0以上であることとしてもよい。」
エ「【0041】
ホップ懸濁液の調製は、ホップを酸性の処理液中に浸漬して保持する、当該ホップの酸処理である。ホップ懸濁液を保持する時間(すなわち、ホップを酸性の処理液中に浸漬して保持する時間)は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に限られないが、例えば、3分以上であってもよく、30分以上であることが好ましく、50分以上であることがより好ましく、90分以上であることがより一層好ましく、150分以上であることが特に好ましい。
【0042】
ホップ懸濁液を保持する時間の上限値は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に限られないが、当該時間は、例えば、30時間以下であることとしてもよく、20時間以下であることが好ましい。ホップ懸濁液を保持する時間は、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。」
オ「【0043】
ホップ懸濁液を保持する温度(すなわち、ホップを酸性の処理液中に浸漬して保持する温度)は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に限られないが、例えば、1℃以上、100℃以下であってもよい。」
カ「【0088】
本飲料は、例えば、下記(I)及び/又は(II):(I)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ゲラン酸の含有量(μg/L)とネリン酸の含有量(μg/L)との合計の比が、3.0以下;、(II)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ミルセンの含有量(μg/L)とリナロールの含有量(μg/L)とβ-シトロネロールの含有量(μg/L)とゲラニオールの含有量(μg/L)との合計の比が、5.0以下;の特性を有する。」
キ「【0089】
本飲料の上記(I)の比は、例えば、2.5以下であることとしてもよく、2.0以下であることとしてもよい。本飲料の上記(I)の比の下限値は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に限られないが、当該比は、例えば、1.0以上であってもよい。
【0090】
本飲料の上記(II)の比は、例えば、4.5以下であることとしてもよく、4.0以下であることとしてもよく、3.5以下であることとしてもよく、3.0以下であることとしてもよく、2.5以下であることとしてもよい。本飲料の上記(II)の比の下限値は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に限られないが、当該比は、例えば、1.0以上であってもよい。」
ク「【0115】
[実施例1-1]
まず醸造用水に乳酸を添加して、pHが約2.7の酸性水溶液である処理液を調製した。次いで、ホップ処理用容器内で、ソラチエース品種のホップ(具体的には、ホップペレット)と、当該ホップの重量の10倍の重量の処理液(約10℃)とを混合して、pHが3.5~4.0程度のホップ懸濁液を調製した。このホップ懸濁液を約10℃で1時間、穏やかに撹拌し続けた。その後、ホップ懸濁液を1時間静置して、固形分を沈降させた。
【0116】
一方、大麦麦芽と水とを混合して混合液を調製し、加熱して糖化を行った。次いで、糖化後の混合液に、ソラチエース品種とは異なる品種のホップを添加し、さらに加熱して煮沸を行った。煮沸後の混合液を冷却して約18℃の原料液を得た。
【0117】
そして、上述のようにして1時間静置したホップ懸濁液から、デカンテーションにより、上清(約20℃)を採取し、冷却された原料液と、当該上清と、ビール酵母とを混合し、アルコール発酵を開始した。なお、ホップ懸濁液の上清は、ホップ処理用容器の底部に固形分が沈降した当該ホップ懸濁液から、当該固形分が舞い上がらないように注意しながら静かに採取した。
【0118】
アルコール発酵後には、さらに熟成を行った。熟成後の原料液にろ過処理を施し、ビールテイスト飲料を得た。製造されたビールテイスト飲料は、アルコール含有量が5.7体積%~5.8体積%の発泡性アルコール飲料(ビール)であった。
【0119】
[実施例1-2]
ホップ懸濁液の撹拌を24時間行ったこと以外は上述の実施例1-1と同様にして、ビールテイスト飲料を製造した。
【0120】
[実施例1-3]
ホップと、当該ホップの重量の20倍の重量の処理液とを混合して、ホップ懸濁液を調製したこと以外は上述の実施例1-1と同様にして、ビールテイスト飲料を製造した。
【0121】
[比較例1]
ホップ懸濁液の上清に代えて、上清及び固形分を含むホップ懸濁液の全部を添加したこと以外は上述の実施例1-1と同様にして、ビールテイスト飲料を製造した。
【0122】
[実施例2-1]
ホップ懸濁液の撹拌を、65℃で10分行ったこと以外は上述の実施例1-1と同様にして、ビールテイスト飲料を製造した。
【0123】
[比較例2]
ホップ懸濁液の上清に代えて、上清及び固形分を含むホップ懸濁液の全量を添加した以外は上述の実施例2-1と同様にして、ビールテイスト飲料を製造した。」
ケ「【0132】
[結果]
図4には、各例について、ホップ処理の条件、ビールテイスト飲料の成分の分析結果、及び官能検査結果を示す。なお、図4において「対比較例比」欄には、比較例1の測定値に対する、実施例1-1、実施例1-2又は実施例1-3の測定値の比、及び、比較例2の測定値に対する、実施例2-1の測定値の比を示す。
【0133】
「イソα酸/α酸比」欄は、α酸の含有量(ppm)に対するイソα酸の含有量(ppm)の比を示す。「B/A比」欄には、n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計(A)に対する、ゲラン酸の含有量(μg/L)とネリン酸の含有量(μg/L)との合計(B)の比を示す。「C/A比」欄には、n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計(A)に対する、ミルセンの含有量(μg/L)とリナロールの含有量(μg/L)とβ-シトロネロールの含有量(μg/L)とゲラニオールの含有量(μg/L)との合計(C)の比を示す。
【0134】
図4に示すように、官能検査においては、上清及び固形分を含むホップ懸濁液の全部を添加した比較例1及び比較例2のビールテイスト飲料に比べて、当該上清のみを添加した実施例1-1、実施例1-2、実施例1-3及び実施例2-1のビールテイスト飲料について、おだやかなレモン香、白ワイン的な口当たり、及びふくらみのある後味の全ての項目で顕著に高い点数が付与された。」
コ「【図4】
[図:0001419369000005.jpg]
」
(3)サポート要件についての判断
ア 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第2のとおりである。
イ 判断
上記(2)アから、本件発明1~13の課題(以下、「発明の課題」という)は「香味が効果的に向上したビールテイスト飲料及びその製造方法、並びにビールテイスト飲料の香味を効果的に向上させる方法を提供する」ことにあるものと認められる。
そして、上記(2)イには、本件発明1、11に対応する記載が認められ、(2)ウ~オには、処理液のpHなどの具体例が、その範囲が特に限定されていないことと共に記載され、(2)カには、本件発明12に対応する記載が認められ、(2)キには、「(I)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ゲラン酸の含有量(μg/L)とネリン酸の含有量(μg/L)との合計の比」や「(II)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ミルセンの含有量(μg/L)とリナロールの含有量(μg/L)とβ-シトロネロールの含有量(μg/L)とゲラニオールの含有量(μg/L)との合計の比」についての具体例が、その範囲が特に限定されていないことと共に記載され、(2)ク~コには本件発明1、11の方法で製造された実施例、かつ、本件発明12の特定事項を満たす実施例として実施例1-1~1-3、2-1が記載され、満たさない比較例として比較例1、2が記載されている。
そして、上記(2)イの記載及び処理液のpHの数値などの具体例を示す(2)ウの記載並びにその記載を裏付ける実施例である(2)ク~コに基づけば、「原料と水とを混合して調製された原料液を加熱すること」と「加熱後の当該原料液を冷却すること」とにより調製された原料液に対して、「ホップと酸性の処理液とを混合してホップ懸濁液」から「上清を取得」して、「原料液の冷却後に、当該上清を添加すること」で、発明の課題を解決することができると当業者は把握することができる。
そうすると、発明の詳細な説明の記載から、「原料と水とを混合して調製された原料液を加熱することと、加熱後の前記原料液を冷却することと、ホップと酸性の処理液とを混合して煮沸することなくホップ懸濁液を調製することと、前記ホップ懸濁液から上清を取得することと、前記原料液の前記冷却後に、前記上清を添加することと、を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。」及び「原料と水とを混合して調製された原料液を加熱することと、加熱後の前記原料液を冷却することとを含むビールテイスト飲料の製造において、ホップと酸性の処理液とを混合して煮沸することなくホップ懸濁液を調製し、前記ホップ懸濁液から上清を取得し、前記原料液の前記冷却後に、前記上清を添加することにより、前記ビールテイスト飲料の香味を向上させる方法。」は発明の課題を解決できると当業者は認識できる。
そして、本件発明1は発明の課題を解決すると認識できる「原料と水とを混合して調製された原料液を加熱することと、加熱後の前記原料液を冷却することと、ホップと酸性の処理液とを混合して煮沸することなくホップ懸濁液を調製することと、前記ホップ懸濁液から上清を取得することと、前記原料液の前記冷却後に、前記上清を添加することと、を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。」であり、本件発明2~10はそれをさらに限定したものである。また、本件発明11は、発明の課題を解決すると認識できる「原料と水とを混合して調製された原料液を加熱することと、加熱後の前記原料液を冷却することとを含むビールテイスト飲料の製造において、ホップと酸性の処理液とを混合して煮沸することなくホップ懸濁液を調製し、前記ホップ懸濁液から上清を取得し、前記原料液の前記冷却後に、前記上清を添加することにより、前記ビールテイスト飲料の香味を向上させる方法。」である。
また、上記(2)カの記載及び「(I)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ゲラン酸の含有量(μg/L)とネリン酸の含有量(μg/L)との合計の比」や「(II)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ミルセンの含有量(μg/L)とリナロールの含有量(μg/L)とβ-シトロネロールの含有量(μg/L)とゲラニオールの含有量(μg/L)との合計の比」の具体例を示す(2)キの記載並びにその記載を裏付ける実施例である(2)ク~コに基づけば、「(I)及び/又は(II):(I)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ゲラン酸の含有量(μg/L)とネリン酸の含有量(μg/L)との合計の比が、3.0以下;、(II)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ミルセンの含有量(μg/L)とリナロールの含有量(μg/L)とβ-シトロネロールの含有量(μg/L)とゲラニオールの含有量(μg/L)との合計の比が、5.0以下;の特性を有する」飲料は、発明の課題を解決できると当業者は認識できる。そして、本件発明12は、発明の課題を解決できると認識できる「下記(I)及び/又は(II): (I)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ゲラン酸の含有量(μg/L)とネリン酸の含有量(μg/L)との合計の比が、3.0以下;、 (II)n-プロピルアルコール(mg/L)の含有量とイソブチルアルコールの含有量(mg/L)の合計に対する、ミルセンの含有量(μg/L)とリナロールの含有量(μg/L)とβ-シトロネロールの含有量(μg/L)とゲラニオールの含有量(μg/L)との合計の比が、5.0以下; の特性を有する、ビールテイスト飲料。」であり、本件発明13は、それをさらに限定したものである。
よって、本件発明1~13は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は明細書のサポート要件に適合する。したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしている。
(4)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書77頁において、上記第3 1(6)ア~ウに記載したように、要するに、発明の詳細な説明には、限定的な数値範囲の実施例しかなく、本件発明1~13の全範囲において課題を解決できるとはいえないから、サポート要件違反の取消理由を有する旨を主張するが、上記(3)に記載したとおり、発明の詳細な説明には実施例以外に、処理液のpHなど、本件発明1~13の特定事項の数値について、具体例と共に言及されており、当業者であれば、実施例の記載とも合わせて、本件発明1~13の記載の範囲であれば、実施例と同様の作用効果が得られ、発明の課題を解決し得るものと認識することができる。また、本件発明1~13の記載の範囲内であるが、実施例に示された数値の範囲外となる場合に発明の課題を解決しないという具体的な証拠は提出されていない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、請求項1~13に係る特許は、特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に、請求項1~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700856