特許異議申立
2022-701043
発泡性飲料及び発泡性飲料の泡持ち特性を向上させる方法
- 審判番号
- 2022-701043
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-193304
- 登録番号
- 7058098
- 請求日
- 2022年10月21日
- 審決日
- 2023年09月21日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】サッポロビール株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人はるか国際特許事務所
- 【異議申立人】竹口 美穂
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 三上 晶子
- 分類
- P1651.113-YAA(C12C) / P1651.121-YAA(C12C) / P1651.537-YAA(C12C) / P1651.536-YAA(C12C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7058098号発明「発泡性飲料及び発泡性飲料の泡持ち特性を向上させる方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7058098号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし9〕について訂正することを認める。
特許第7058098号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7058098号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成29年10月3日の出願であって、令和4年4月13日にその特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年10月21日に特許異議申立人 竹口 美穂(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし10)がされ、令和5年1月13日付けで取消理由が通知され、同年3月1日に特許権者 サッポロビール株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出され、同年同月17日付けで特許異議申立人に対し審尋がされ、同年4月6日に特許異議申立人から回答書が提出され、同年5月11日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年7月5日に特許権者から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年同月12日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年8月10日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和5年7月5日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
・訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「総タンパク質含有量(μg/mL)に対する、25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分の大麦又は大麦麦芽由来タンパク質含有量(μg/mL)の割合が、1.10%以上であり」と記載されているのを、「総タンパク質含有量(μg/mL)に対する、25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分の大麦又は大麦麦芽由来タンパク質含有量(μg/mL)の割合が、1.10%以上、1.55%以下であり」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する他の請求項も同様に訂正する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「総タンパク質含有量(μg/mL)に対する、25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分の大麦又は大麦麦芽由来タンパク質含有量(μg/mL)の割合」の上限が特定されていなかったのを特定して、その範囲をより狭く限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項2ないし9についての訂正について
訂正事項1による請求項2ないし9についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項2ないし9についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和5年8月10日に提出された意見書において、「本件明細書には、総タンパク質含有量がそれぞれ4459μg/mL、4498μg/mLであり、かつ、25%HMV画分のタンパク質割合が1.28%、1.55%である実施例1及び2が記載されているのみであり、総タンパク質含有量に関係なく25%HMV画分のタンパク質割合が1.28%、1.55%であるという技術的事項が開示されているわけではない。そのため、総タンパク質含有量を特定せずに25%HMV画分のタンパク質割合だけを1.10%以上、1.55%以下とする訂正は新たな技術的事項を追加するものであり、訂正は認められるべきではない。また、実施例1及び2を訂正の根拠にする場合、明細書に記載された技術的事項である、「25%HMW画分のタンパク質割合が1.28%以上、1.55%以下、かつ、総タンパク質含有量が4459μg/mL以上、4498μg/mL以下」の範囲に特定されるべきである。このような特定がされない限り、訂正は新規事項の追加に該当し、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合しないので認められるべきではない。」(上記意見書第11及び12ページ。なお、主張の摘記に際し、改行及び空白行は省略した。以下同様。)旨主張する。
そこで、上記主張について検討する。
訂正が新規事項の追加に該当するかどうかは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)によって、本件特許の願書に添付した明細書又は図面等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、訂正が新たな技術的事項を導入するものであるかどうかで判断されるところ、上記(1)及び(2)のとおり、本件訂正は、「総タンパク質含有量(μg/mL)に対する、25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分の大麦又は大麦麦芽由来タンパク質含有量(μg/mL)の割合」の上限が特定されていなかったのを特定して、その範囲をより狭く限定するだけであるから、本件特許の願書に添付した明細書又は図面等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項1による請求項1ないし9についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1による請求項1ないし9についての訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1ないし9は一群の請求項に該当するものである。
そして、訂正事項1による請求項1ないし9についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし10に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし9〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
総タンパク質含有量(μg/mL)に対する、25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分の大麦又は大麦麦芽由来タンパク質含有量(μg/mL)の割合が、1.10%以上、1.55%以下であり、
前記総タンパク質含有量が500μg/mL以上である、発泡性飲料。
【請求項2】
前記総タンパク質含有量が15000μg/mL以下である、請求項1に記載の発泡性飲料。
【請求項3】
仮性エキスが5.0重量%以下である、請求項1又は2に記載の発泡性飲料。
【請求項4】
苦味価が200以下である、請求項1乃至3のいずれかに記載の発泡性飲料。
【請求項5】
20℃における粘度が2.0mPa・s以下である、請求項1乃至4のいずれか記載の発泡性飲料。
【請求項6】
β-グルカン含有量が500mg/L以下である、請求項1乃至5のいずれか記載の発泡性飲料。
【請求項7】
pHが2.8以上、5.1以下である、請求項1乃至6のいずれか記載の発泡性飲料。
【請求項8】
アルコール含有量が20体積%以下である、請求項1乃至7のいずれか記載の発泡性飲料。
【請求項9】
麦芽飲料である、請求項1乃至8のいずれか記載の発泡性飲料。
【請求項10】
総タンパク質含有量が500μg/mL以上である発泡性飲料の前記総タンパク質含有量(μg/mL)に対する、25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分の大麦又は大麦麦芽由来タンパク質含有量(μg/mL)の割合を、1.10%以上とすることにより、前記発泡性飲料の泡持ち特性を向上させる方法。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年10月21日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2及び3号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2及び3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、下記(1)ないし(3)の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)本件特許発明1において、「総タンパク質含有量(μg/mL)に対する、25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分の大麦又は大麦麦芽由来タンパク質含有量(μg/mL)の割合が、1.10%以上」という範囲が規定されているが、その上限値が定められていない。実施例において効果を有することが示されているのが、実施例1の1.28%、実施例2の1.55%の2点のみであり、1.10%以上の全ての範囲において本件特許発明1の効果が奏されることが示されていないので、本件特許発明1は明細書においてサポートされていない。
請求項1を引用して特定する本件特許発明2ないし9及び本件特許発明1と同様の発明特定事項を有する本件特許発明10についても同様である。
(2)本件特許発明1において、「総タンパク質含有量が500μg/mL以上である」と規定され、本件特許発明2において、「総タンパク質含有量が15000μg/mL以下である」と規定されている。
しかしながら、実施例において効果を有することが示されているのが、実施例1の4459μg/mL、実施例2の4498μg/mLの2点のみである。
総タンパク質含有量(μg/mL)が500μg/mL以上、15000μg/mL以下である範囲のうちの極めて狭い範囲においてしか、本件特許発明1及び2の効果が奏されることが示されていないので、本件特許発明1及び2は明細書においてサポートされていない。
請求項1又は2を引用して特定する本件特許発明3ないし9及び本件特許発明1と同様の発明特定事項を有する本件特許発明10についても同様である。
(3)本件特許発明3ないし8において規定するパラメータを満たすことにより特定の効果を奏することが、明細書には示されていない。また、仮に特定の効果を奏するとしてもその効果が当該パラメータを満たす全ての範囲において奏されることは明細書には示されていない。そのため、本件特許発明3ないし8は明細書においてサポートされていない。
4 証拠方法
甲第1号証:特開2016-123400号公報
甲第2号証:TECHNOLOGY BREWING AND MALTING Translated by Sue Pratt,Berlin 4th updated edition,2010
甲第3号証:Die Bierbrauerei Band 1:Die Technologie der Malzbereitung, WILEY-VCH, 2012
甲第4号証:ビール醸造技術、p351、株式会社食品産業新聞社、宮地秀夫、1999
甲第5号証:Vliv vysokomolekularnich latek extraktu na viskozitu piva,Kvasny Prum.1987;33(6):165-169
甲第6号証:醸造物の成分、p191、財団法人日本醸造協会、1999
甲第7号証:醸造物の成分、財団法人日本醸造協会、1999、p273-274
甲第8号証:鈴木渉、ビールの泡-生まれてから消えるまで-、醸協、1996、第91巻第1号、p8-14
甲第9号証:蛸井潔、ビールの泡-基礎研究から応用開発まで-、醸協、2016、第111巻第4号、p195-203
甲第7ないし9号証は令和5年8月10日に提出された意見書に添付されたものである。証拠の表記は、特許異議申立書及び上記意見書の記載におおむね従った。外国語の特殊記号は省略した。以下、順に「甲1」のようにいう。
第5 取消理由(決定の予告)の概要
令和5年5月11日付けで通知された取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要はおおむね次のとおりである。
・(甲1に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由(決定の予告)は申立理由1とおおむね同旨である。
第6 取消理由(決定の予告)についての当審の判断
1 甲1に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項
甲1には、「ビールテイストアルコール飲料およびその製造方法」に関しておおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料であって、分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド濃度が0.15mg/ml以上である、ビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項2】
麦芽使用比率が3分の2未満である、請求項1に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項3】
全タンパク量に対する分子量10~20kDaのペプチド量の比率が3.6%よりも大きい、請求項1または2に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。」
・「【0005】
本発明は、雑味が抑制され、ビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーがあり、調和のとれた味わいがあるビールテイストアルコール飲料とその製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、ビールテイストアルコール飲料の風味改善剤と風味改善方法を提供することも目的とする。」
・「【0026】
本発明のビールテイストアルコール飲料における分子量10~20kDaのペプチド濃度は0.15mg/ml以上とすることができ、好ましくは0.19mg/ml以上、より好ましくは0.20mg/ml以上である。該ペプチド濃度は味の調和の観点から上限を設けることができ、例えば、0.45mg/mlを上限とすることができる。また、全タンパク量に対する分子量10~20kDaのペプチド量の比率は3.6%よりも大きくすることができ、好ましくは3.7%以上、より好ましくは4.0%以上である。」
・「【0070】
また、麦芽使用比率67%以上の市販品(ビール)をサンプル1~3として、麦芽使用比率50%以下の市販品(発泡酒)をサンプル4~6として、麦芽使用比率25%以下の市販品(新ジャンル系アルコール飲料)をサンプル11~13および19として、それぞれ分析試験に供した。」
・「【0084】
(オ)10~20kDaペプチドの定量
10~20kDaペプチド濃度は、上記HPLCゲル濾過分画における、検量線から決定した分子量10~20kDaの範囲である画分3に含まれるタンパク濃度を、製品相当ペプチド濃度(mg/ml)に換算して求めた。また、10~20kDaペプチド量が全タンパク量の中に占める比率、すなわち10~20kDaのペプチド比率は、以下の算出式にて求めた。
10~20kDaのペプチド比率(%)=10~20kDaペプチド量(mg/製品ml)/全タンパク量(mg/製品ml)×100
【0085】
結果は表9に示される通りであった。
【表9】
[図:0001405796000001.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特にサンプルNo.1の市販のビールに関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1サンプルNo.1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1サンプルNo.1発明>
「分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド濃度(mg/ml)が0.24、全タンパク量に対する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド比率(%)が5.2である、麦芽使用比率67%以上のビール。」
2 対比・判断
(1)本件特許発明1について
甲1の【0084】を考慮すると、甲1サンプルNo.1発明における「総タンパク質含有量(μg/mL)」は、以下のように求められる。
総タンパク質含有量(μg/mL)=[10~20kDaのペプチド濃度(mg/ml)/分子量10~20kDaのペプチド比率(%)]×100×1000=0.24/5.2×100×1000=4615(μg/mL)
これを踏まえて、本件特許発明1と甲1サンプルNo.1発明を対比する。
甲1サンプルNo.1発明における「全タンパク量に対する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド比率(%)」は「5.2」であるから、本件特許発明1における「総タンパク質含有量(μg/mL)に対する、25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分の大麦又は大麦麦芽由来タンパク質含有量(μg/mL)の割合が、1.10%以上」の条件を満たす。
甲1サンプルNo.1発明における「総タンパク質含有量(μg/mL)」は、上記のとおり、「4615(μg/mL)」と求められるから、本件特許発明1における「前記総タンパク質含有量が500μg/mL以上」の条件を満たす。
甲1サンプルNo.1発明における「ビール」は本件特許発明1における「発泡性飲料」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「総タンパク質含有量(μg/mL)に対する、25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分の大麦又は大麦麦芽由来タンパク質含有量(μg/mL)の割合が、1.10%以上であり、
前記総タンパク質含有量が500μg/mL以上である、発泡性飲料。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1>
本件特許発明1においては、「総タンパク質含有量(μg/mL)に対する、25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分の大麦又は大麦麦芽由来タンパク質含有量(μg/mL)の割合」が「1.55%以下であり」と特定されているのに対し、甲1サンプルNo.1発明においては、そのようには特定されていない点。
相違点1について判断する。
甲1サンプルNo.1発明における「全タンパク量に対する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド比率(%)」は「5.2」であるから、本件特許発明1における「総タンパク質含有量(μg/mL)に対する、25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分の大麦又は大麦麦芽由来タンパク質含有量(μg/mL)の割合」の「1.55%以下」という条件を満たすものではないことは明らかである。
すなわち、相違点1は実質的なものであるから、本件特許発明1は甲1サンプルNo.1発明であるとはいえない。
また、甲1の【請求項3】の「全タンパク量に対する分子量10~20kDaのペプチド量の比率が3.6%よりも大きい」及び【0026】の「全タンパク量に対する分子量10~20kDaのペプチド量の比率は3.6%よりも大きくすることができ、好ましくは3.7%以上、より好ましくは4.0%以上である。」という記載からみて、甲1には、甲1サンプルNo.1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載があるとはいえないし、他の証拠にもない。
したがって、甲1サンプルNo.1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「泡持ち特性が効果的に向上した発泡性飲料」が提供される(本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0009】)という効果は、甲1サンプルNo.1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、本件特許発明1は甲1サンプルNo.1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、特許異議申立人は、令和5年8月10日に提出された意見書において、「上記(ア)の点で甲1発明と本件特許発明1に相違点が存在するとしても、上記(カ)で主張する格別の効果は存在せず、当該効果の存在を根拠に本件特許発明1に進歩性があるとする特許権者の主張は失当であり、本件特許発明1は進歩性を有さない」(上記意見書第2ページ)及び「本件特許明細書の実施例においては、下記の図1に示すように発泡性飲料の25%HMWタンパク質割合(%)と発泡性飲料のNIBEM値の関係が示されている。ここで、実施例2の25%HMWタンパク質割合(%)が1.55%であり、このNIBEM値が他の例よりも高いことをもって泡持ち性が良好という判断がされている。しかしながら、25%HMWタンパク質割合(%)が1.55%を超える例がなく、1.55%を超えた場合に泡持ちが低下するといった結果が示されていないことから、1.55%という上限値に数値限定による臨界的意義があることは示されていないといえる。・・・(略)・・・また、本件特許明細書の[0019]には以下のように記載されている。・・・(略)・・・この記載からは、25%HMWタンパク質割合(%)の上限値として1.55%という値を認識していたとはいえず、上限値を1.55%と定めることに何らかの技術的意義、数値限定の臨界的意義があることは本件特許明細書には記載されていないといえる。本件特許出願時には5.00%という数値に上限値としての意義があることが認識されていた可能性はあるが、本件特許発明1では上限値は1.55%とされていて、その値は異なっている。そして、甲第7号証~甲第9号証に記載されている通り、本件特許出願時において、分子量が5000以上であるタンパク質(具体例として、分子量40,000のProteinZや分子量10,000のLTP1)が泡持ちに寄与することが知られている。甲第9号証によれば多くの研究者が泡持ちという特性とProteinZやLTP1といったタンパク質の関係に着目していることから、泡持ちの向上という課題を解決するために分子量が5000以上であるタンパク質に着目することに何ら困難性はない。さらに、甲第8号証の第14図には40kDa蛋白質含量が多いほど泡持ちが向上することが示されている。すなわち、当業者は、泡持ちを向上させるために分子量5000以上のタンパク質である40kDa蛋白質を含有させる動機づけを有する。また、本件特許発明1で定めるタンパク質含有量の割合の上限値である1.55%という値には何ら臨界的意義がないので、この上限値を明示する公知文献が存在しないとしても、泡持ちを向上させるために分子量5000以上のタンパク質を含有させたうえでその割合を1.10%以上、1.55%以下の範囲に定めることは設計事項に過ぎず、困難性がない。」(上記意見書第7ないし9ページ)旨主張する。
そこで、上記主張について検討する。
上記のとおり、甲1には、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はない。
そうすると、他に、甲1サンプルNo.1発明において、「25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分の大麦又は大麦麦芽由来タンパク質含有量(μg/mL)の割合」に着目し、その値を「1.10%以上、1.55%以下」の範囲に調整する動機付けがあることを示す具体的な証拠がない以上、甲1サンプルNo.1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、「1.55%」という上限値に臨界的意義があるかどうか及び「格別の効果」が存在するかどうかにかかわらず、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
本件特許発明1と甲1に記載された事項をサンプルNo.2ないし19に関して整理した発明(以下、順に「甲1サンプルNo.2発明」ないし「甲2サンプルNo.19発明」という。)との対比・判断についても同様である。
すなわち、本件特許発明1は甲1サンプルNo.2発明ないし甲1サンプルNo.19発明のいずれかであるとはいえない。
また、本件特許発明1は甲1サンプルNo.2発明ないし甲1サンプルNo.19発明のいずれか並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
以下、「甲1サンプルNo.1発明」ないし「甲1サンプルNo.19発明」を総称して「甲1発明」という。
(2)本件特許発明2ないし9について
本件特許発明2ないし9は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
3 取消理由(決定の予告)についての当審の判断のむすび
したがって、本件特許発明1ないし9は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由(決定の予告)によっては取り消すことはできない。
第7 取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について
取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由2(甲2及び3に基づく進歩性)及び申立理由3(サポート要件)である。
以下、順に検討する。
1 申立理由2(甲2及び3に基づく進歩性)について
(1)甲3に記載された発明
甲3に記載された事項を、第663ページのTab 8.7の「Spitmalz」に関して整理すると、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。
なお、特許異議申立人は、申立理由2(甲2及び3に基づく進歩性)の主張に際して、甲2及び3のいずれを主引用文献としているのかを明確にせず、また、具体的な発明を認定しなかったので、本件特許発明1ないし9と対比・判断する発明として、当審で適切と考える発明を認定した。
<甲3発明>
「総タンパク質11.1%(内、水溶性タンパク質22.2%)の小さな根の麦芽を10~20%の割合で仕込み原料として加工して得た飲料。」
(2)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「飲料。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3a>
本件特許発明1においては、「総タンパク質含有量(μg/mL)に対する、25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分の大麦又は大麦麦芽由来タンパク質含有量(μg/mL)の割合が1.10%以上、1.55%以下であり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点3b>
本件特許発明1においては、「総タンパク質含有量が500μg/mL以上である」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点3c>
「飲料」に関して、本件特許発明1においては、「発泡性」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。
相違点3aについて判断する。
甲3には、甲3発明において、相違点3aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、甲2を含め他の証拠にもない。
したがって、甲3発明において、甲3及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点3aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「泡持ち特性が効果的に向上した発泡性飲料」が提供されるという効果は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、他の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明1は甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、「甲第2号証には、発芽時間が短い麦芽を使用することが、泡の安定性に寄与することが記載されている。また、甲第3号証には、第一麦芽に相当する、発芽時間が短い麦芽が、ビールの原料として使用されることが記載されているといえる。また、第一麦芽に相当する麦芽の使用量が10~20%であり、実施例で使用されている第一麦芽の使用割合15重量%(【0065】)と一致する。以上のことから、泡の安定性を向上させることを期待して、甲第3号証に記載された、発芽時間が短くSN含有量が0.394%の麦芽を使用することの動機づけがあり、その使用割合を甲第3号証の記載に基づき10~20%とすることの動機づけもある。本件明細書に記載された実施例1では、発芽時間が短くSN含有量が0.408重量%である第一麦芽を15重量%使用した場合に、発泡性飲料の25%HMWタンパク質割合が1.28%となり、総タンパク質含有量が4459μg/mLとなることが示されている。このことから、甲第3号証に記載された、発芽時間が短くSN含有量が0.394%の麦芽を10~20%使用した場合に、発泡性飲料の25%HMWタンパク質割合が1.10%以上となり、総タンパク質含有量が500μg/mL以上、15000μg/mL以下となる蓋然性が高い。従って、甲第2号証及び甲第3号証の記載に基づいて得られた発泡性飲料は、本件特許発明1及び2に記載された発泡性飲料と同等の構成となる蒸然性が高く、泡持ち特性が効果的に向上した発泡性飲料となる。従って、本件特許発明1及び2に係る発明は、甲第2号証及び甲第3号証に基づき、当業者が容易になしえた発明であり、進歩性がない。」(特許異議申立書第20ページ)及び「また、甲第1号証には、サンプルNo.1の市販のビールが本件特許発明1及び2の構成要件A、B及びDを満たすことが記載されており、構成要件A、B及びDは、市販のビールにおいて満たされている要件であるため、構成要件A、B及びDを満たすようにすることに困難性はない。そして、発芽時間が短く、甲第3号証に記載されたSN含有量が0.394%の麦芽を、甲第3号証の記載に基づき10~20%使用して得られた発泡性飲料は、構成要件A、B及びDを満たす蓋然性が高い。従って、本件特許発明1及び2に係る発明は、甲第2号証及び甲第3号証、並びに甲第1号証に基づき、当業者が容易になしえた発明であり、進歩性がない。」(当審注:「構成要件A」、「構成要件B」及び「構成要件D」は、それぞれ、「総タンパク質含有量(μg/mL)に対する、25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分の大麦又は大麦麦芽由来タンパク質含有量(μg/mL)の割合が、1.10%以上であり」、「前記総タンパク質含有量が500μg/mL以上である」及び「前記総タンパク質含有量が15000μg/mL以下である、請求項1に記載の発泡性飲料。」のことである。)(同第21ページ)旨主張する。
そこで、上記主張について検討する。
仮に、甲3に、本件特許発明1を製造する際に使用される「第一麦芽」に相当する麦芽が、ビールの原料として使用されることが記載されているといえたとしても、本件特許発明1を製造する際に使用される「第二麦芽」に相当する麦芽については、何ら記載されていないことから、甲3発明が「発泡性飲料の25%HMWタンパク質割合が1.10%以上となり、総タンパク質含有量が500μg/mL以上、15000μg/mL以下となる蓋然性が高い」とはいえない。
したがって、「本件特許発明1及び2に係る発明は、甲第2号証及び甲第3号証に基づき、当業者が容易になしえた発明であり、進歩性がない。」とはいえない。
また、甲1には、上記第6 2(1)のとおり、本件特許発明1は記載されていないから、「構成要件A、B及びDは、市販のビールにおいて満たされている要件であるため、構成要件A、B及びDを満たすようにすることに困難性はない。」とはいえないし、甲3には、本件特許発明1を製造する際に使用される「第二麦芽」に相当する麦芽については、何ら記載されていないことから、「甲第3号証の記載に基づき10~20%使用して得られた発泡性飲料は、構成要件A、B及びDを満たす蓋然性が高い。」ともいえない。
したがって、「本件特許発明1及び2に係る発明は、甲第2号証及び甲第3号証、並びに甲第1号証に基づき、当業者が容易になしえた発明であり、進歩性がない。」とはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(3)本件特許発明2ないし9について
本件特許発明2ないし9は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明10について
甲3には、「発泡性飲料の泡持ち特性を向上させる方法」について何ら記載も示唆もない。そうすると、甲3に記載された事項からは、本件特許発明10と対比・判断することができる発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明10は甲3に記載された発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし10は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
2 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
(3)サポート要件の判断
発明の詳細な説明の【0005】によると、本件特許発明1ないし9の解決しようとする課題は「泡持ち特性が効果的に向上した発泡性飲料を提供すること」であり、本件特許発明10の解決しようとする課題は「発泡性飲料の泡持ち特性を効果的に向上させる方法を提供すること」である(以下、総称して、「発明の課題」という。)。
そして、発明の詳細な説明の【0006】には「上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る発泡性飲料は、総タンパク質含有量(μg/mL)に対する、25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分のタンパク質含有量(μg/mL)の割合が、1.10%以上である。本発明によれば、泡持ち特性が効果的に向上した発泡性飲料が提供される。」と記載され、同【0008】には「上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る方法は、発泡性飲料の総タンパク質含有量(μg/mL)に対する、25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分のタンパク質含有量(μg/mL)の割合を、1.10%以上とすることにより、前記発泡性飲料の泡持ち特性を向上させる方法である。本発明によれば、発泡性飲料の泡持ち特性を効果的に向上させる方法が提供される。」と記載され、同【0013】には「本発明の発明者は、発泡性飲料の泡持ち特性を向上させる技術的手段について鋭意検討を行った結果、当該発泡性飲料の総タンパク質含有量(μg/mL)に対する、25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分のタンパク質含有量(μg/mL)の割合が所定値(%)以上である場合に、当該発泡性飲料が優れた泡持ち特性を有することを独自に見出し、本発明を完成するに至った。」と記載されている。
また、発明の詳細な説明の【0007】、【0012】、【0019】ないし【0021】、【0023】、【0025】、【0028】、【0031】、【0033】、【0040】、【0044】及び【0050】ないし【0058】には、本件特許発明1ないし10に対応する事項及び本件特許発明1ないし9の製造方法が具体的に記載されている。
さらに、発明の詳細な説明の【0060】ないし【0081】には、本件特許発明1ないし9の実施例について、その製造方法を含め具体的に記載され、「総タンパク質含有量(μg/mL)に対する、25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分のタンパク質含有量(μg/mL)の割合が、1.10%以上である」という条件を満たす「発泡性飲料」である実施例1及び2が、上記条件を満たさない「発泡性飲料」である対照例1及び2並びに対照例3-1ないし3-9に比して、泡持ち特性の指標であるNIBEM値が顕著に大きいことを確認する記載もある。
そうすると、当業者は、「総タンパク質含有量(μg/mL)に対する、25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分のタンパク質含有量(μg/mL)の割合が、1.10%以上である発泡性飲料」及び「発泡性飲料の前記総タンパク質含有量(μg/mL)に対する、25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分の大麦又は大麦麦芽由来タンパク質含有量(μg/mL)の割合を、1.10%以上とすることにより、前記発泡性飲料の泡持ち特性を向上させる方法」は発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし9は発明の課題を解決できると認識できる上記「発泡性飲料」をさらに限定したものであり、本件特許発明10は発明の課題を解決できると認識できる上記「方法」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし10は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし10に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の申立理由3における主張について検討する。
ア 申立理由3の(1)について
上記(3)のとおり、本件特許発明1ないし10に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
なお、「総タンパク質含有量(μg/mL)に対する、25%飽和硫酸アンモニウム沈殿の分子量5000以上の画分のタンパク質含有量(μg/mL)の割合」が、1.28%の実施例1及び1.55%の実施例2しか、発明の課題を解決できないという具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、申立理由3の(1)の主張は採用できない。
イ 申立理由3の(2)について
上記(3)のとおり、本件特許発明1ないし10に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
なお、「総タンパク質含有量」が変わると、「分子量5000以上の画分のタンパク質含有量(μg/mL)の割合」による効果が影響を受けるという具体的な証拠が特許異議申立人から示されている訳でもないことから、「総タンパク質含有量」に関する規定は、発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるかどうかとは関係がなく、サポート要件の判断を左右するものではない。
したがって、申立理由3の(2)の主張は採用できない。
ウ 申立理由3の(3)について
本件特許発明1が発明の課題を解決するものである以上、本件特許発明1をさらに限定する本件特許発明3ないし8は当然発明の課題を解決するものである。
なお、本件特許発明3ないし8に規定するパラメータを満たすことにより特定の効果を奏することが発明の詳細な説明に示されているかどうかは、本件特許発明3ないし8が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるかどうかとは関係がなく、サポート要件の判断を左右するものではない。
したがって、申立理由3の(3)の主張は採用できない。
(5)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。
第8 特許異議申立人が主張する新たな取消理由について
1 特許異議申立人が主張する新たな取消理由の概要
特許異議申立人は、令和5年8月10日に提出された意見書において、次のとおりの実施可能要件違反及び明確性要件違反の取消理由を主張している。
(1)実施可能要件違反
「本件特許発明1では、タンパク質含有量(μg/mL)の割合が1.10~1.55%と定められており、その範囲は0.45%である。このような範囲を定めるからには、0.45%という範囲が誤差範囲ではなく正確に測定できることが必要になるが、タンパク質含有量の測定は誤差が大きく、0.45%という精度での測定は不可能である。また、本件特許明細書には、タンパク質含有量を0.45%の範囲内に精度よく制御して発泡性飲料を製造する方法は記載されていない。従って、当業者は本件特許発明1を実施することができないので、実施可能要件違反の取消理由を有しており、本件特許発明1は取り消されるべきである。」(上記意見書第10及び11ページ)
(2)明確性要件違反
「発泡性飲料を製造し、タンパク質含有量を測定した際に測定誤差が大きいことから、タンパク質含有量の割合を1.10~1.55%の範囲に定めようとして製造した同一の飲料であってもタンパク質含有量の割合が1.10~1.55%の範囲に入る場合と入らない場合が生じる。そのため、第三者が、自身が製造した飲料が本件特許発明1の実施に該当するのかを判断できない。このように、第三者が自己の行為が特許発明の実施に該当するのかを判断できないパラメータによって規定された発明は不明確であると言わざるを得ず、明確性要件違反の取消理由を有しているので、本件特許発明1は取り消されるべきである。」(上記意見書第11ページ)
2 検討
そこで、上記主張について、順に検討する。
(1)実施可能要件違反の主張について
ア 実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件特許発明1ないし9は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
本件特許発明10は方法の発明であるところ、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
イ 実施可能要件の判断
発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし10の各発明特定事項について具体的に記載され、本件特許発明1ないし9の実施例についてもその製造方法を含め具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし9を生産し、使用をすることができる程度の記載があるといえるし、本件特許発明10の使用をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし10に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。
なお、特許異議申立人の実施可能要件違反の主張は、何ら具体的な証拠を伴うものではないから、「当業者は本件特許発明1を実施することができない」とはいえない。
ウ 実施可能要件違反の主張についてのまとめ
したがって、特許異議申立人の実施可能要件違反の主張は採用できない。
(2)明確性要件違反の主張について
ア 明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
イ 明確性要件の判断
本件特許の請求項1ないし10の記載は、上記第3のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。
したがって、本件特許発明1ないし10に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
なお、特許異議申立人の明確性要件違反の主張は、何ら具体的な証拠を伴うものではないから、「第三者が、自身が製造した飲料が本件特許発明1の実施に該当するのかを判断できない。」とはいえない。
ウ 明確性要件違反の主張についてのまとめ
したがって、特許異議申立人の明確性要件違反の主張は採用できない。
第9 結語
以上のとおり、本件特許発明1ないし10に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701043