特許異議申立
2024-700799
可撓性ハードコート
- 審判番号
- 2024-700799
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-531100
- 登録番号
- 7438110
- 請求日
- 2024年08月26日
- 審決日
- 2025年03月24日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
- 【権利者代理人】藤井 憲
- 【権利者代理人】赤澤 太朗
- 【権利者代理人】野村 和歌子
- 【権利者代理人】佃 誠玄
- 【権利者代理人】浅村 敬一
- 【異議申立人】日向 ヨシ子
- 審判長/審判官
- 審判長 神谷 健一
- 審判官 河原 正
- 審判官 橿本 英吾
- 分類
- P1651.537-YAA(G02B) / P1651.121-YAA(G02B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7438110号発明「可撓性ハードコート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7438110号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、8~15〕について訂正することを認める。
特許第7438110号の請求項2~15に係る特許を維持する。
特許第7438110号の請求項1に係る特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7438110号(以下「本件特許」という。)の請求項1~15に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)12月6日(優先権主張 2017年(平成29年)12月8日)を国際出願日とする出願であって、令和6年2月15日にその特許権の設定登録がされ、同年2月26日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~15(全請求項)に係る特許について、令和6年8月26日に特許異議申立人である日向ヨシ子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和6年11月15日付けで取消理由を通知した。これに対して、特許権者は、その指定期間内である令和7年2月14日に意見書と訂正請求書(以下「本件訂正請求書」といい、当該請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)を提出した。
なお、下記第2で述べるとおり、本件訂正請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)は、一部の請求項の削除と当該削除に伴う請求項の引用関係の訂正のみである。そして、訂正によって削除されなかった請求項についての主張は、既に、特許異議申立書でされており、特許異議申立人に改めて意見を聴くまでもないことが明らかであるから、特許法第120条の5第5項ただし書に規定される、「特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるとき」に該当すると認められる。よって、申立人に意見書を提出する機会を与えないこととした。
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨、及び、訂正の内容
(1)請求の趣旨
本件訂正請求は、特許第7438110号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の1、8~15について訂正を求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正した箇所を表す。
(2)訂正の内容
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7のいずれか一項に記載のハードコート組成物。」と記載されているのを「請求項2~7のいずれか一項に記載のハードコート組成物。」に訂正する。
請求項8の記載を引用する請求項9~15についても同様に訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~8のいずれか一項に記載のハードコート組成物の反応生成物を含む」と記載されているのを、「請求項2~8のいずれか一項に記載のハードコート組成物の反応生成物を含む」に訂正する。
請求項9の記載を引用する請求項10~15についても同様に訂正する。
2 本件訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しており、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1の削除に伴い、訂正前の請求項8における請求項1の引用を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる特許請求の範囲の減縮ないし明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、請求項8における請求項1の引用の削除が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
請求項8の記載を引用する請求項9~15についても同様である。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項1の削除に伴い、訂正前の請求項9における請求項1の引用を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる特許請求の範囲の減縮ないし明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、請求項9における請求項1の引用の削除が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
請求項9の記載を引用する請求項10~15についても同様である。
(4)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、全請求項(請求項1~15)を対象に申し立てられたものであるから、本件訂正には、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件は課されない。
(5)一群の請求項について
請求項1に係る訂正事項1によって、本件訂正前の請求項1を直接ないし間接的に引用する請求項8~15が連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項1、8~15は一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、上記一群の請求項についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1、8~5〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。
3 訂正の適否のまとめ
以上のとおりであるから、令和 7年 2月14日に特許権者によって請求された本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、8~15〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~15は、訂正特許請求の範囲の請求項2~15に記載された次のとおりのものである。なお、以下において、本件特許の請求項2~15に係る発明を「本件特許発明2」~「本件特許発明15」といい、総称して「本件特許発明」ということがある。
「【請求項2】
1種以上の多官能性(メタ)アクリレートモノマーと、
前記1種以上の多官能性(メタ)アクリレートモノマー内に分散されたナノ粒子混合物と、
を含むハードコート組成物であって、前記ナノ粒子混合物が、
1%~50%の、5nm~60nmの範囲の平均粒径を有する、反応性ナノ粒子の第1の集団、及び
99%~50%の、5nm~60nmの範囲の平均粒径を有する、非反応性ナノ粒子の第2の集団
を含み、前記非反応性ナノ粒子が、一般式R-SiR’m(OR”)3-m(式中、Rはメチル又はエチルであり、R’は(C1~C4)アルキルであり、R”は(C1~C4)アルキルであり、mは0~2の整数である)を有する化合物による非反応性表面処理を有する、ハードコート組成物。
【請求項3】
前記非反応性表面処理化合物が、式R-SiR’m(OR”)3-m(式中、Rはメチルであり、R’は(C1~C2)アルキルであり、R”は(C1~C2)アルキルであり、mは0~2の整数である)を有する、請求項2に記載のハードコート組成物。
【請求項4】
前記非反応性表面処理化合物が、式R-SiR’m(OR”)3-m(式中、Rはメチルであり、mは0であり、R”はメチルである)を有する、請求項2に記載のハードコート組成物。
【請求項5】
前記反応性ナノ粒子が、一般式X’-L’-SiR’m(OR”)3-m(式中、X’はフリーラジカル重合性基であり、L’は(C1~C12)アルキレンであり、R’は(C1~C4)アルキルであり、R”は(C1~C4)アルキルであり、mは0~2の整数である)を有する化合物による反応性表面処理を有する、請求項2~4のいずれか一項に記載のハードコート組成物。
【請求項6】
前記反応性表面処理化合物が、一般式X’-L’-SiR’m(OR”)3-m(式中、X’は(メタ)アクリル基又はビニル基であり、L’は(C3)アルキレンであり、mは0であり、R”は(C1)アルキルである)を有する、請求項5に記載のハードコート組成物。
【請求項7】
前記ナノ粒子混合物が、
1%~25%の反応性ナノ粒子の第1の集団と、
99%~75%の非反応性ナノ粒子の第2の集団と、
を含む、請求項2~6のいずれか一項に記載のハードコート組成物。
【請求項8】
前記ナノ粒子混合物が、
1%~10%の反応性ナノ粒子の第1の集団と、
99%~90%の非反応性ナノ粒子の第2の集団と、
を含む、請求項2~7のいずれか一項に記載のハードコート組成物。
【請求項9】
請求項2~8のいずれか一項に記載のハードコート組成物の反応生成物を含む、ハードコート。
【請求項10】
1~10マイクロメートルの範囲内の均一な厚さを有する、請求項9に記載のハードコート。
【請求項11】
透明基材と、
前記透明基材上に配置された請求項9又は10に記載のハードコートと、
を備える、ハードコートフィルム。
【請求項12】
前記基材が75マイクロメートル厚のPETであり、平行な枢動軸を有する2つの同一平面プレートを有し、両方のプレートが90°回転して8mmの間隙で互いに対向するように構成され、モータ駆動装置が30回の折り畳み/分の折り畳み速度で両方のプレートを同時にゼロから90°に回転する、二重枢動動的折り畳み試験機を用いて、3セットの7インチ(17.8cm)×1.0インチ(2.5cm)のサンプルをハードコート層を下にして、1.0インチ(2.5cm)幅の両面テープによりプレートに取り付けて試験した場合に、前記ハードコートフィルムが、引張における少なくとも200,000回の動的折り畳みサイクル後に、ひびが入らない、ひび割れしない又は層間剥離しない、請求項11に記載のハードコートフィルム。
【請求項13】
平坦な基部を有する直径3.2cmの円筒のスタイラスに接着された#0000のスチールウールである研磨剤をハードコートにわたって振動させる機械的装置を使用して、3.0kgの重量で、コーティング方向に対して垂直に、210mm/秒の速度で60mm幅のスイープ幅にわたって振動させ、試験した場合に、少なくとも500回の引っかきサイクル後に、目視可能な引っかきを呈さない、請求項12に記載のハードコートフィルム。
【請求項14】
引張若しくは圧縮において、又は引張と圧縮との両方において、3mm以下の曲げ半径でひびが入らない、ひび割れしない又は層間剥離しない、請求項11~13のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。
【請求項15】
光学ディスプレイと、
請求項11~14のいずれか一項に記載のハードコートフィルムと、
前記ハードコートフィルムと前記光学ディスプレイとの間の光学接着層と、
を備える、物品。」
第4 申立て理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証~甲第7号証を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~15に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。なお、下記1~4における「本件特許発明」との記載は、異議申立時のものであるから、上記第3で記載された本件訂正後のものではなく、本件訂正前のものを意味している(下記第5においても同様。)。
1 申立理由1及び理由2(新規性及び進歩性、一部を取消理由として採用)
本件特許発明1、8~11、14、15は、甲第1号証及び甲第2号証にそれぞれ記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
また、本件特許発明1、8~15は、甲第1号証~甲第4号証に記載された発明と、甲第1号証から甲第5号証に記載の事項に基づいて、その技術の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由3(明確性)
(1)反応性ナノ粒子及び非反応性粒子の割合について
反応性ナノ粒子と非反応性ナノ粒子の割合を示す「%」は、質量%、体積%等によって特定されていない。そのため、本件特許発明1は、反応性ナノ粒子及び非反応性ナノ粒子の割合を一義的に導き出すことができず、不明確である。
(2)反応性ナノ粒子及び非反応性ナノ粒子の平均粒径の範囲について
反応性ナノ粒子と非反応性ナノ粒子の平均粒径は、算術平均値、モード径、メジアン径等によって特定されていない。また、反応性ナノ粒子と非反応性ナノ粒子の平均粒径は、算出平均値、粒度分布からの体積換算平均値、数換算平均値等によって特定されていない。また、反応性ナノ粒子と非反応性ナノ粒子の平均粒径は、測定領域及び測定数によって特定されていない。そのため、本件特許発明1は、反応性ナノ粒子及び非反応性ナノ粒子の平均粒径を一義的に導き出すことができず、不明確である。
(3)反応性ナノ粒子及び非反応性ナノ粒子が含まれる範囲について
本件特許発明1は、反応性ナノ粒子及び非反応性ナノ粒子に含まれる範囲を一義的に導き出すことができず、不明確である。
(4)ハードコートが均一な厚さを有することについて
ハードコートが均一な厚さを有するという構成において、均一が示す程度が不明である。また、本件明細書にはハードコートの厚さの測定方法について具体的に記載されていない。そのため、本件特許発明10は、ハードコートの厚さ及び均一の程度を一義的に導き出すことができず、不明確である。
(5)他の本件特許発明
本件特許発明1と同様の記載によって特定される本件特許発明2の記載は明確性要件を満たさない。
本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明8~15の記載、及び本件特許発明2を直接又は間接的に引用する本件特許発明3~15に記載もそれぞれ、明確性要件を満たさない。
3 申立理由4(サポート要件)
(1)本件特許発明が解決しようとする課題
本件特許発明が解決しようとする課題は「本開示は、ディスプレイウィンドウを保護し、屈曲又は折り畳み試験に耐える可撓性ハードコート又は可撓性ハードコート物品に関する。可撓性ハードコート又は可撓性ハードコート物品は、ディスプレイに引っかき耐性をもたらす一方で、ディスプレイフィルムの光学特性を維持する。」(【0004】)ことを課題とし、「摩耗及び折り畳み試験に耐え得る可撓性ハードコート」(【0024】)を提供しようとする発明である。
(2)本件明細書の具体例
本件明細書で具体的に特定される本件特許発明は、3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレートを用いて改質された20nmのSiO2粒子を2~50w%含み、メチルトリメトキシシランを用いて改質された20nmのSiO2を50~98w%含むことで、摩耗及び折り畳み試験に耐え得る可撓性ハードコートを提供しようとするものである。
本件明細書の記載では、反応性ナノ粒子及び非反応性ナノ粒子がともにシリカであり、少なくとも一方がシリカでない場合まで、或いは本件明細書に記載のシラン化合物を用いない方法で表面処理する場合まで、本件特許発明1の課題を解決し得るのか不明である。
(3)非反応性表面処理及び反応性表面処理
本件特許発明2、5及び6には、非反応性表面処理及び反応性表面処理が規定されているが、その具体的な化学構造まで特定されていないこと、及びナノ粒子がシリカに特定されていないことから、上記課題を解決し得ると当業者が認識する範囲を超えてなされたものである。
(4)平均粒径
平均粒径を特定する意義について記載されていないことから、本件特許発明1の平均粒径に係る構成によって、どのような作用機序で上記課題が解決されるのか不明である。
(5)1種以上の多官能性(メタ)アクリレートモノマー
1種以上の多官能性(メタ)アクリレートモノマーの種類を特定することなく、本件特許発明1が上記課題を解決し得るのか不明である。
(6)小括
本件特許発明1及び本件特許発明2、並びにこれらを直接又は間接的に引用する本件特許発明3~15は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、サポート要件を満たさない。
4 申立人が提示した証拠方法
甲第1号証:特開2008-50480号公報(甲1)
甲第2号証:特開2008-19414号公報(甲2)
甲第3号証:特表2017-508828号公報(甲3)
甲第4号証:特開2014-16608号公報(甲4)
甲第5号証:国際公開第2015/068682号
甲第6号証:特開2017-179081号公報
甲第7号証:製品検索結果詳細(製品名:MEK-ST),[online],日産化学株式会社,[令和6年8月15日検索],インターネット
<URL:https://db.nissanchem.co.jp/db/detail.cgi?id=169>(甲7)
第5 取消理由の概要
当審は、上記第4の各申立理由のうち、申立理由1及び申立理由2の一部を採用し、以下の取消理由1(新規性)、2(進歩性)を通知した。
1 甲1を主引用例とする新規性・進歩性について
本件特許発明1、8~11、14は、甲1に記載された発明である。また、本件特許発明1、8~15は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 甲2を主引用例とする新規性・進歩性について
本件特許発明1、8~11、14は、甲2に記載された発明である。また、本件特許発明1、8~15は、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 まとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1、8~15に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 当審の判断
1 取消理由について
本件訂正によって、取消理由1及び2の対象となった本件特許に係る請求項1は削除され、本件特許に係る請求項8~15は、削除された請求項1を直接にも間接的にも引用しないものとなったので、新規性・進歩性に係る取消理由1及び2は解消した。
2 申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)について
本件訂正によって、本件特許に係る請求項1及び当該請求項1を直接又は間接的に引用した本件特許に係る請求項8~15は削除されたので、申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)は、対象が存在しないものとなった。
3 取消理由通知書により通知しなかった申立理由3(明確性)について
(1)反応性ナノ粒子及び非反応性ナノ粒子の割合について
本件特許明細書の【0108】【表4】及び【0111】【表5】では、反応性ナノ粒子及び非反応性ナノ粒子の量について「(w%)」と表しており、両者を加算すると100となることから、本件特許発明における反応性ナノ粒子と非反応性ナノ粒子の割合を示す「%」は、「重量%」であると解するのが自然である。
よって、この点が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確とはいえない。
(2)反応性ナノ粒子及び非反応性ナノ粒子の平均粒径の範囲について
反応性ナノ粒子及び非反応性ナノ粒子の粒径に関して、本件特許明細書には「無機酸化物粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡を用い、所与の直径の無機酸化物粒子を計数して測定することができる」(【0032】)との記載があり、実施例では「Nalco Chemical Co.(Naperville,IL)」の製品のカタログスペックの粒径をそのまま用いていることから、当業者が製品スペックを測定する際の通常用いる定義を用いていると推測される。
また、「反応性ナノ粒子の第1の集団及び非反応性ナノ粒子の第2の集団は、ハードコートに機械的強度及び耐久性を付加する表面改質無機酸化物粒子である。これらのナノ粒子は、実質的に球状の形状であり、サイズが比較的均一である。これらのナノ粒子は、実質的に単分散のサイズ分布を有し得る」(【0030】)との記載があることから、体積換算平均値か数換算平均値かで大きく値は変わらないことを前提としていると推測される。
そして、数値限定の数値が5nm~60nmと広いことから、本件特許発明が想定する「ナノ粒子」の大きさをより明確にするために規定しているものであると解される。
したがって、平均粒径の算出方法が具体的に定義されていない点が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確とはいえない。
(3)非反応性表面処理及び反応性表面処理
本件特許明細書には、「「反応性ナノ粒子」は、シランの有機基が、ハードコートのマトリックス樹脂と化学反応することができる化学的部分を提示する、有機表面基(例えば、シリカの場合では、オルガノトリアルコキシシランとシリカ粒子の表面との反応生成物)で表面改質されている、無機酸化物ナノ粒子、例えばシリカである。」(【0021】)との記載、「「非反応性ナノ粒子」は、シランの有機基が、ハードコートのマトリックス樹脂と化学反応することができない化学的部分を提示する、有機表面基(例えば、シリカの場合では、オルガノトリアルコキシシランとシリカ粒子の表面との反応生成物)で表面改質されている、無機酸化物ナノ粒子、例えばシリカである。」(【0022】)との記載、「「部分的に反応性のナノ粒子」は、オルガノシランの有機部分のうちの少なくとも1つがハードコートのマトリックス樹脂と化学反応することができる化学的部分を提示し、かつオルガノシランの有機部分のうちの少なくとも1つがハードコートのマトリックス樹脂と化学反応することができない化学的部分を提示する、1つ以上の有機表面基(例えば、シリカの場合では、複数のオルガノトリアルコキシシランとシリカ粒子の表面との反応生成物)で表面改質されている、無機酸化物ナノ粒子、例えばシリカである。」(【0023】)との記載、「ハードコート組成物は、ハードコート又はハードコートフィルムを形成するために硬化又は反応させてもよい。硬化は、多官能性(メタ)アクリレートモノマーとの結合を形成することによって反応性ナノ粒子との反応を開始することができ、同時に、硬化は、非反応性ナノ粒子と多官能性(メタ)アクリレートモノマーとの反応を開始しない場合がある。」(【0026】)との記載等から、「反応性ナノ粒子」及び「非反応性ナノ粒子」の用語の意義は、本件特許明細書の記載を考慮して解釈可能であり、ハードコート組成物に含まれる複数種類の粒子について、反応性ナノ粒子なのか非反応性ナノ粒子なのかの区別が、第三者にとって不測の不利益を及ぼすほどに不明確とはいえない。
(4)ハードコートが均一な厚さを有することについて
「1~10マイクロメートルの範囲内で均一な厚さ」との構成について、本件特許発明10は光学ディスプレイに適用される(【請求項15】、【0001】、【0004】)のであるから、ハードコートフィルムの厚みの「均一」性とは、光学ディスプレイに適用されるハードコートフィルムとして求められる程度の厚みの「均一」性と解される。また、ハードコートフィルムの厚さは、常法により、そのような厚み「均一」性とされたハードコートフィルムの(平均)厚みを測定すればよい。
例えば、本件特許明細書の段落【0106】には、
「 ハードコートフィルム
ハードコートフィルム:EX1~10及びCE1~4
ハードコート配合物HC1~10及び比較のハードコート配合物CHC1~4を、3milのプライム処理したPETフィルム上に、連続ロールツーロール法でコーティングした。・・・中略・・・硬化ハードコートの厚さを表4に示す。」
と記載され、表4において、実施例EX1の厚さは「5.123(um)」と記載されている。
ここで「均一」とは「すべてに通じて一様なこと。等しいこと。」(広辞苑 第7版)を意味するから、実施例EX1において「均一の厚さを有する」場合、実施例EX1の厚さが全体にわたって「5.123(um)」であるということを意味すると理解できる。同様に、他の実施例においても、「均一の厚さを有する」場合、「厚さ」の列に記載されている厚さで一様であることが理解できる。
そうしてみると、「均一」性の程度が不明、厚さの測定方法が不明であるからといって、「均一の厚さ」が第三者にとって不測の不利益を及ぼすほどに不明確とはいえない。
(5)申立理由3(明確性)についてのまとめ
以上のことから、本件特許発明2~15は、いずれも特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益をもたらすほど不明確であるとはいえないから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願にされたものである。
よって、申立理由3(明確性)により本件特許発明2~15について特許を取り消すことはできない。
4 取消理由通知書により通知しなかった申立理由4について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件特許発明が解決しようとする課題
本件特許発明が解決しようとする課題は「本開示は、ディスプレイウィンドウを保護し、屈曲又は折り畳み試験に耐える可撓性ハードコート又は可撓性ハードコート物品に関する。可撓性ハードコート又は可撓性ハードコート物品は、ディスプレイに引っかき耐性をもたらす一方で、ディスプレイフィルムの光学特性を維持する。」(【0004】)ことを課題とし、「ディスプレイを保護し、摩耗及び折り畳み試験に耐え得る可撓性ハードコート又は可撓性ハードコート物品に関する。可撓性ハードコートは、ディスプレイに優れた可撓性及び引っかき耐性を提供しながら、ディスプレイフィルムの光学特性を維持する。」(【0024】)を提供しようとする発明である。加えて、【0027】に「非反応性ナノ粒子に対する反応性ナノ粒子の相対数を低減することは、驚くべきことに、ハードコート又はハードコートフィルムの耐摩耗性を維持しながら、可撓性を改善する。」との記載がある。
ここで、本件特許発明の構成を満たす場合に、摩耗及び折り畳み試験結果が、本件特許発明の構成を満たさない場合に比して良好であることが理解されればサポート要件を満たすと考えられる。
(3)本件明細書の具体例
申立人は、本件特許明細書の記載では、反応性ナノ粒子及び非反応性ナノ粒子がともにシリカであり、少なくとも一方がシリカでない場合まで、或いは本件特許明細書に記載のシラン化合物を用いない方法で表面処理する場合まで、本件特許発明1の課題を解決し得るのか不明である旨主張する。
しかし、粒子がシリカでないとして、粒子の材料が同じ場合を比較して、例えば反応性及び非反応性となる表面処理をしない場合に比べて、本件特許発明の構成を充足する場合に摩耗及び折り畳み試験の結果が劣るとする技術常識もないし、そのような具体例も想定されない。
シラン化合物を用いない場合も同様で、例えば反応性及び非反応性となる表面処理をしない場合に比べて、本件特許発明の構成を充足する場合に摩耗及び折り畳み試験の結果が劣るとする技術常識や具体例が想定されない。
(4)非反応性表面処理及び反応性表面処理
上記(3)と同様である。
(5)平均粒径
上記3(2)に判断したとおり、数値限定の数値が5nm~60nmと広いことから、本件特許発明が想定する「ナノ粒子」の大きさをより明確にするために規定しているものであると解されることから、平均粒径の作用機序が開示されないことをもって、サポート要件を満たさないとは解されない。
また、申立人は、異議申立書において「例えば、平均粒径が小さい場合は耐摩耗性が低下し得るし、平均粒径が過大である場合は折り畳み耐性が低下し得る」(106頁下から2行から107頁1行)と主張しているが、上記(3)の判断と同様に、そのような平均粒径を想定しても、例えば反応性及び非反応性となる表面処理をしない場合に比べて、本件特許発明の構成を充足する場合に摩耗及び折り畳み試験の結果が劣るとする技術常識や具体例が想定されない。
(6)1種以上の多官能性(メタ)アクリレートモノマー
申立人は、異議申立書において、(実施例において課題を解決する反応性が高いアクリレートモノマー)「より反応性が低下し、当該技術分野で使用が好まれないメタクリレートモノマーを用いた場合にまで本件発明1の課題が解決し得るかは不明である」(108頁下から3行から1行)旨主張している。
しかし、特許請求の範囲の効果の有無を推定する際の特許請求の範囲の構成の解釈として、当該技術分野で使用が好まれないものまで包含することは妥当性に欠く。
また、実施例に記載のアクリレートモノマーよりも反応性が低いアクリレートモノマーを使うことを想定しても、上記(3)と同様に、例えば粒子に反応性及び非反応性となる表面処理をしない場合に比べて、本件特許発明の構成を充足する場合に摩耗及び折り畳み試験の結果が劣るとする技術常識や具体例が想定されない。
(7)申立理由4(サポート要件)についてのまとめ
以上のことから、本件特許発明2~15は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、申立理由4(サポート要件違反)により本件特許発明2~15についての特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件特許発明2~15についての特許を取り消すことはできない。また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1は本件訂正により削除され、本件特許発明1についての特許に係る特許異議の申立ては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700799