特許異議申立
2024-700777
延伸複合繊維、不織布及び延伸複合繊維の製造方法
- 審判番号
- 2024-700777
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-068001
- 登録番号
- 7432994
- 請求日
- 2024年08月19日
- 審決日
- 2025年03月04日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】宇部エクシモ株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人シエル国際特許事務所
- 【権利者代理人】大森 桂子
- 【異議申立人】柏木 里実
- 審判長/審判官
- 審判長 神山 茂樹
- 審判官 八木 誠
- 審判官 筑波 茂樹
- 分類
- P1651.113-Y (D01F) / P1651.121-Y (D01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7432994号発明「延伸複合繊維、不織布及び延伸複合繊維の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7432994号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続きの経緯
特許第7432994号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成31年3月29日に出願され、令和6年2月8日にその特許権の設定登録がなされ、同年2月19日に特許掲載公報が発行された。そして、同年8月19日に、特許異議申立人 柏木 里実(以下「申立人」という。)により、本件特許の請求項1~6に係る特許に対する特許異議の申立てが行われた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~6に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明6」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂を芯材とし、前記芯材よりも融点が低いオレフィン系重合体を主成分とする樹脂を鞘材とする鞘芯構造の延伸複合繊維であって、
繊度が0.2~0.6dtexであり、
前記芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが10~30g/10分であり、
前記鞘材と前記芯材の断面積比(鞘材/芯材)が50/50~10/90であり、
単糸弾性率が70cN/dtex以上、
単糸強度が6cN/dtex以上、
120℃におけるトウ熱収縮率が8%以下である延伸複合繊維。
【請求項2】
前記芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートと、前記鞘材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートの比(芯材/鞘材)が、0.3~1である請求項1に記載の延伸複合繊維。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の延伸複合繊維を用いて形成された不織布。
【請求項4】
紡糸工程と延伸工程を連続して行うスピンドロー法により延伸複合繊維を製造する方法であって、
溶融紡糸により、主成分が結晶性プロピレン系重合体で、230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが10~30g/10分である樹脂を芯材とし、前記芯材よりも融点が低いオレフィン系重合体を主成分とする樹脂を鞘材とし、繊度が0.35~4.0dtex、前記鞘材と前記芯材の断面積比(鞘材/芯材)が50/50~10/90である鞘芯構造の未延伸繊維を得る紡糸工程と、
排気による冷却処理を行わず、前記紡糸工程から連続して、前記未延伸繊維を常圧蒸気中で延伸処理して繊度が0.2~0.6dtex、単糸弾性率が70cN/dtex以上、単糸強度が6cN/dtex以上、120℃におけるトウ熱収縮率が8%以下である延伸複合繊維を得る延伸工程と、
を有する延伸複合繊維の製造方法。
【請求項5】
前記芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートと、前記鞘材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートの比(芯材/鞘材)が、0.3~1である請求項4に記載の延伸複合繊維の製造方法。
【請求項6】
前記延伸工程は、2~7倍の延伸倍率で前記未延伸繊維を延伸する請求項4又は5に記載の延伸複合繊維の製造方法。」
第3 特許異議の申立ての理由
申立人が主張する特許異議の申立ての理由及び証拠方法は次のとおりである。
1 申立ての理由
本件特許の請求項1~6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、同法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
2 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2015/012281号(以下「甲1」という。)
第4 当審の判断
1 甲号証の記載事項等
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
なお、下線は当審において付与したものであり、「・・・」は摘記の省略を示す。
「技術分野
[0001] 本発明は、延伸複合繊維の製造方法及び延伸複合繊維に関する。より詳しくは、鞘芯構造の未延伸糸を延伸処理して延伸複合繊維を製造する方法及びこの方法で製造された延伸複合繊維に関する。」
「発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0006] ・・・
[0007] そこで、本発明は、高強度で細繊度の複合繊維を製造することが可能な延伸複合繊維の製造方法及び延伸複合繊維を提供することを主目的とする。
[0008] 本発明者は、前述した課題を解決するために未延伸糸の細繊度化を目指し、鋭意実験検討を行った。その結果、紡糸口金から吐出された芯材のMFR及び紡糸口金から吐出された芯材のMFRと鞘材のMFRとの比(=芯材MFR/鞘材MFR)が特定の範囲になるよう調整することにより、溶融張力が制御でき、繊度が1.5dTex以下の未延伸糸を安定して紡糸可能となり、更に、この未延伸糸を高倍率で延伸することにより、細繊度の延伸複合繊維が得られることを見出し、本発明に至った。
[0009] 即ち、本発明に係る延伸複合繊維の製造方法は、溶融紡糸により、結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂を芯材とし、前記芯材よりも融点が低いエチレン系重合体を主成分とする樹脂を鞘材とする鞘芯構造の未延伸糸を得る紡糸工程と、前記未延伸糸を延伸処理する延伸工程と、を有し、前記未延伸糸の繊度を1.5dTex以下とし、前記紡糸工程では、紡糸口金から吐出された芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートを70~170g/10分とし、かつ前記紡糸口金から吐出された芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートと、紡糸口金から吐出された鞘材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートとの比を1~2.2とする。・・・」
「[0016](芯材:結晶性プロピレン)
芯材の主成分である結晶性プロピレン系重合体としては、例えば結晶性を有するアイソタクチックプロピレン単独重合体、・・・などが挙げられる。これらの中でも、延伸性、繊維物性及び熱収縮抑制の観点から、アイソタクチックポリプロピレンが好適である。」
「[0026](MFR)
紡糸口金から吐出された芯材のMFRが70g/10分未満の場合、溶融樹脂の溶融張力が高くなり、繊度が1.5dTex以下の未延伸糸を得ることが難しくなる。一方、紡糸口金から吐出された芯材のMFRが170g/10分を超えると、溶融樹脂の溶融張力が低くなり過ぎるため、未延伸糸の繊度斑が大きくなると共に、紡糸性が著しく低下する傾向にある。よって、紡糸口金から吐出された芯材のMFRは、70~170g/10分の範囲とする。」
「 実施例
[0043] ・・・
[0044][原料]
(1)芯材
・・・
B:株式会社プライムポリマー製 アイソタクチックポリプロピレン 「Y2000GV」 (MFR=18g/10分、Q値=3.0)
・・・
[0045](2)鞘材
a:旭化成ケミカルズ株式会社製 高密度ポリエチレン 「J302」 (MFR=38g/10分、Q値=4.3)
・・・
[0046](3)添加剤
・・・
II:BASFジャパン株式会社製 ヒドロキシアミンエステル系ラジカル発生剤 「IRGATEC CR76」
・・・」
「[0048](2)MFR
原料ペレット及び紡糸口金から吐出された鞘芯それぞれの繊維状物について、JIS K 7210のA法により、MFRを測定した。その際の測定条件を以下に示す。
・ポリプロピレン樹脂原料:試験温度230℃、試験荷重21.18N(条件M)。
・ポリエチレン樹脂原料:試験温度190℃、試験荷重21.18N(条件D)。
・紡糸口金吐出後の繊維状物:試験温度230℃、試験荷重21.18N(条件M)。
・ポリプロピレン樹脂原料のブレンド物:下記数式1及び数式2から求めた。なお、下記数式1,2におけるwiは構成成分iの質量分画、MFRiは構成要素iのメルトフローレート、nはブレンド中の構成成分の総数である。」
「[0051](3)延伸倍率
単糸切れ、延伸切れ及びローラー巻き付きがなく、安定して延伸可能な最大延伸倍率を調べた。
(4)単糸強伸度ヤング率
JIS L 1015に準じて測定した。
(5)乾熱収縮率
JIS L 1015に準じて測定した。その際、熱処理温度は120℃とし、熱処理時間は10分間とした。」
「[0057]<実施例1>
・・・
[0058](2)延伸複合繊維の作製
3台のローラー間に予備延伸槽(一段目、温水)及び本延伸槽(二段目、加圧飽和水蒸気)が連続して配置された二段延伸装置を用意した。そして、先ず、紡糸工程で得た未延伸糸400本(約54万dTex)が準備できた後、直ちに、まとめたトウを、予備延伸槽にて、導入ローラー(G1ローラー)速度10m/分、予備延伸送出しローラー(G2ローラー)速度29m/分の条件で、93℃の温水で予備延伸処理した。その後、連続して延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)の速度を増加させて、124℃の加圧飽和水蒸気中で二段目の本延伸を行った。」
「[0080]<実施例8>
(1)鞘芯型複合未延伸糸の作製
芯材Bに、添加剤IIを0.5質量%配合した樹脂原料と、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸糸を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は40/60となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を255℃、鞘材の押出機シリンダー温度を255℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を600m/分として、繊度が0.67dTexの未延伸糸を紡糸した。紡糸口金から吐出された芯材のMFRは140.5g/10分、鞘材のMFRは69.9g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は2.01であった。
[0081](2)延伸複合繊維の作製
紡糸工程で得た未延伸糸400本(約54万dTex)が準備できた後、直ちに、まとめたトウを、実施例1と同様の方法及び条件で予備延伸処理した後、連続して本延伸を行った。
[0082] 本実施例では、実施例5~7で使用している芯材Aに比べてMFRが小さい芯材Bを用いているが、実施例5~7よりも添加剤IIの配合量を多くしているため、紡糸口金から吐出される芯材のMFRを大きくし、本発明の範囲内にすることができた。その結果、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は55m/分、全延伸倍率は5.5倍となった。また、得られた延伸複合繊維の繊度は0.13dTexであり、十分な繊維物性を有していた。」
「[0146][表1]
[図:0001421368000001.jpg]
[0147][表2]
[図:0001421368000002.jpg]
」
(2)甲1の記載から認められる事項
ア 実施例8の延伸複合繊維について
(ア)段落[0080]、[0081]の記載から、実施例8の延伸複合繊維は、芯材は芯材Bに添加剤IIを0.5質量%配合した樹脂原料を用いて、鞘材は鞘材aを用いて、作成される。当該延伸複合繊維が、鞘芯構造であることは、明らかである。
(イ)段落[0044]~[0046]の記載から、芯材B、添加剤II、鞘材aは、次のとおりである。
芯材B:株式会社プライムポリマー製 アイソタクチックポリプロピレン 「Y2000GV」(MFR=18g/10分)
添加剤II:BASFジャパン株式会社製 ヒドロキシアミンエステル系ラジカル発生剤 「IRGATEC CR76」
鞘材a:旭化成ケミカルズ株式会社製 高密度ポリエチレン 「J302」
(ウ)段落[0009]及び[0016]の記載から、芯材Bは結晶性プロピレン系重合体と認められる。
(エ)段落[0009]の記載及びポリエステルはポリプロピレンよりも融点が低いことが技術常識であることを踏まえると、鞘材は芯材よりも融点が低いと認められる。
(オ)段落[0080]の記載から、実施例8において、未延伸糸の鞘芯の断面積比(鞘/芯)は40/60であり、紡糸口金から吐出された芯材のMFRは140.5g/10分である。
(カ)段落[0051]の「単糸強伸度ヤング率」との記載を踏まえると、[表2]の強度及びヤング率は、単糸強度及び単糸ヤング率と認められる。そうすると、[表2]から、実施例8の延伸複合繊維は、延伸糸繊度が0.13dtex、単糸強度が7.3cN/dTex、単糸ヤング率が72.3cN/dTex、120℃における熱収縮率が4.6%であると認められる。
(キ)芯材BのMFRの測定条件及び紡糸口金から吐出された芯材のMFRの測定条件は、段落[0048]の記載から、いずれも試験温度230℃、試験荷重21.18Nと認められる。
イ 実施例8の延伸複合繊維の製造方法について
上記ア(ア)~(キ)に加えて、次のことが認められる。
(ア)段落[0080]、[0081]に記載された実施例8の製造工程は、段落[0009]に記載されるように、溶融紡糸により、結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂を芯材とし、芯材よりも融点が低いエチレン系重合体を主成分とする樹脂を鞘材とする鞘芯構造の未延伸糸を得る紡糸工程と、前記未延伸糸を延伸処理する延伸工程と、を有するものと認められる。
(イ)[表2]の紡糸・延伸方法の欄の記載から、実施例8の紡糸工程と延伸工程は、別工程である。
(ウ)段落[0080]の記載から、実施例8の紡糸工程で得られる未延伸糸の繊度は0.67dTexである。
(エ)段落[0081]の記載から、実施例8の延伸処理は、実施例1と同様の方法であるから、段落[0058]の記載から、予備延伸槽(一段目、温水)及び本延伸槽(二段目、加圧飽和水蒸気)を用いるものと認められる。
(3)甲1に記載された発明
以上を踏まえると、甲1には、実施例8の延伸複合繊維に係る次の発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されていると認められる。
「結晶性プロピレン系重合体である芯材B(株式会社プライムポリマー製 アイソタクチックポリプロピレン 「Y2000GV」 MFR=18g/10分)に添加剤II(BASFジャパン株式会社製 ヒドロキシアミンエステル系ラジカル発生剤 「IRGATEC CR76」)を0.5質量%配合した樹脂原料を芯材とし、芯材よりも融点が低い鞘材a(旭化成ケミカルズ株式会社製 高密度ポリエチレン 「J302」)を鞘材とした鞘芯構造の延伸複合繊維であって、
延伸糸繊度が0.13dtexであり、
紡糸口金から吐出された芯材のMFRは140.5g/10分であり、
未延伸糸の鞘芯の断面積比(鞘/芯)は40/60であり、
単糸ヤング率が72.3cN/dTex、
単糸強度が7.3cN/dTex、
120℃における熱収縮率が4.6%である延伸複合繊維。
(ここで、芯材BのMFRの測定条件及び紡糸口金から吐出された芯材のMFRの測定条件は、試験温度230℃、試験荷重21.18N)」
また、甲1には、実施例8の延伸複合繊維の製造方法に係る次の発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。
「溶融紡糸により、結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂を芯材とし、芯材よりも融点が低いエチレン系重合体を主成分とする樹脂を鞘材とする鞘芯構造の未延伸糸を得る紡糸工程と、未延伸糸を延伸処理する延伸工程と、を有する延伸複合繊維の製造方法であって、
紡糸工程と延伸工程は、別工程であり、
紡糸工程は、結晶性プロピレン系重合体である芯材B(株式会社プライムポリマー製 アイソタクチックポリプロピレン 「Y2000GV」 MFR=18g/10分)に添加剤II(BASFジャパン株式会社製 ヒドロキシアミンエステル系ラジカル発生剤 「IRGATEC CR76」)を0.5質量%配合した樹脂原料を芯材とし、芯材よりも融点が低い鞘材a(旭化成ケミカルズ株式会社製 高密度ポリエチレン 「J302」)を鞘材とし、繊度が0.67dTex、鞘芯の断面積比(鞘/芯)が40/60である未延伸糸を得る工程であり、
延伸工程は、予備延伸槽(一段目、温水)及び本延伸槽(二段目、加圧飽和水蒸気)を用いて延伸処理して、延伸糸繊度が0.13dtex、単糸ヤング率が72.3cN/dTex、単糸強度が7.3cN/dTex、120℃における熱収縮率が4.6%である延伸複合繊維を得る工程である、
延伸複合繊維の製造方法。
(ここで、芯材BのMFRの測定条件及び紡糸口金から吐出された芯材のMFRの測定条件は、試験温度230℃、試験荷重21.18N)」
2 新規性・進歩性についての検討
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明1を対比する。
(ア)全体構成について
甲1発明1の「芯材」は本件発明1の「芯材」に相当し、以下同様に、「鞘材」は「鞘材」に、「鞘芯構造」は「鞘芯構造」に、「延伸複合繊維」は「延伸複合繊維」に、それぞれ相当する。
(イ)芯材について
甲1発明1の「結晶性プロピレン系重合体である芯材B(株式会社プライムポリマー製 アイソタクチックポリプロピレン 「Y2000GV」 MFR=18g/10分)に添加剤II(BASFジャパン株式会社製 ヒドロキシアミンエステル系ラジカル発生剤 「IRGATEC CR76」)を0.5質量%配合した樹脂原料を芯材とし」の構成は、その配合比からみて、芯材の主成分は、結晶性プロピレン系重合体である芯材Bであることを踏まえると、本件発明1の「結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂を芯材とし」の構成に相当する。
(ウ)鞘材について
甲1発明1の「芯材よりも融点が低い鞘材a(旭化成ケミカルズ株式会社製 高密度ポリエチレン 「J302」)を鞘材とした」構成は、高密度ポリエチレンがオレフィン系重合体であることを踏まえると、本件発明1の「前記芯材よりも融点が低いオレフィン系重合体を主成分とする樹脂を鞘材とする」構成に相当する。
(エ)繊度について
甲1発明1の「延伸糸繊度が0.13dtexであ」る構成は、本件発明1の「繊度が0.2~0.6dtexであ」る構成と、「繊度が0.6dtex以下であ」る限りで一致する。
(オ)芯材のメルトフローレートについて
甲1発明1の「紡糸口金から吐出された芯材のMFRは140.5g/10分であ」る構成は、その測定条件が「試験温度230℃、試験荷重21.18N」であることを踏まえると、本件発明1の「前記芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが10~30g/10分であ」る構成と、「前記芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが所定値であ」る限りで一致する。
(カ)鞘材と芯材の断面積比について
甲1発明1の「未延伸糸の鞘芯の断面積比(鞘/芯)は40/60であ」る構成は、未延伸糸の鞘芯の断面積比ではあるものの、延伸処理においても鞘芯が同時に一体的に延伸されることを踏まえると、延伸複合繊維としても鞘芯の断面積比自体は変わらないと考えられるから、本件発明1の「前記鞘材と前記芯材の断面積比(鞘材/芯材)が50/50~10/90であ」る構成に相当する。
(キ)単糸弾性率について
甲1発明1の「単糸ヤング率が72.3cN/dTex」であることは、本件発明1の「単糸弾性率が70cN/dtex以上」であることに相当する。
(ク)単糸強度について
甲1発明1の「単糸強度が7.3cN/dTex」であることは、本件発明1の「単糸強度が6cN/dtex以上」であることに相当する。
(ケ)トウ熱収縮率について
甲1発明1の「120℃における熱収縮率が4.6%である」ことは、本件発明1の「120℃におけるトウ熱収縮率が8%以下である」ことと、「120℃における熱収縮率が所定値である」限りで一致する。
(コ)一致点及び相違点
以上を総合すると、本件発明1と甲1発明1との一致点は、以下のとおりである。
「結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂を芯材とし、前記芯材よりも融点が低いオレフィン系重合体を主成分とする樹脂を鞘材とする鞘芯構造の延伸複合繊維であって、
繊度が0.6dtex以下であり、
前記芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが所定値であり、
前記鞘材と前記芯材の断面積比(鞘材/芯材)が50/50~10/90であり、
単糸弾性率が70cN/dtex以上、
単糸強度が6cN/dtex以上、
120℃における熱収縮率が所定値である延伸複合繊維。」
そして、両者は以下の点で相違する。
・相違点1
繊度について、本件発明1は「0.2~0.6dtex」であるのに対し、甲1発明1は「0.13dtex」である点
・相違点2
芯材のメルトフローレートについて、本件発明1は「10~30g/10分」であるのに対し、甲1発明1は「140.5g/10分」である点。
・相違点3
120℃における熱収縮率について、本件発明1は「トウ熱収縮率」であって、その数値は「8%以下である」のに対し、甲1発明1では、熱収縮率が「トウ熱収縮率」であるか不明であり、したがって、トウ熱収縮率が「8%以下である」か不明である点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点2から検討する。
(ア)相違点2の検討
甲1の段落[0007]~[0009]の記載から、甲1における発明が解決しようとする課題は、高強度で細繊度の延伸複合繊維を提供することであり、甲1には、そのために紡糸口金から吐出された芯材のMFRを特定の範囲になるよう調整することが記載され、具体的には、紡糸工程における紡糸口金から吐出された芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートを70~170g/10分とするものである。
そうすると、甲1に接した当業者は、紡糸口金から吐出された芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートを70~170g/10分の範囲に調整しようとするのであって、相違点2に係る本件発明1のように「10~30g/10分」とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
そして、甲1のその余の記載を参酌しても、甲1発明1の芯材のメルトフローレートを、相違点2に係る本件発明1の範囲とすることは、記載も示唆もされてない。
したがって、甲1発明1において、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
(イ)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書の6ページ等において、甲1の実施例8及び実施例11の芯材のメルトフローレートは18g/10分であると主張する。
しかしながら、甲1の実施例8は、芯材Bに添加剤IIを0.5質量%配合した樹脂原料を芯材としており([0080]、[表1])、樹脂原料に配合される成分のひとつある芯材Bのメルトフローレートが18g/10分であるにすぎない。実施例8における芯材Bに添加剤IIを0.5質量%配合した樹脂原料のメルトフローレート、すなわち芯材のメルトフローレートは140.5g/10分であって([0080]、[表1])、18g/10分ではない。
むしろ、甲1の段落[0082]の記載によれば、添加剤IIの配合量を多くすることで、芯材Bのメルトフローレートよりも樹脂原料のメルトフローレートを意図的に大きくして、段落[0009]に記載される70~170g/10分の範囲内に調整しているものと認められる。
実施例11についても同様に、芯材Bに添加剤I及び添加剤IIを配合することで樹脂原料、すなわち芯材のメルトフローレートを、70~170g/10分の範囲内である148.7g/10分に調整しているものと認められ、芯材のメルトフローレートは18g/10分ではない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 小括
以上によれば、相違点1及び3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1ではなく、また、甲1発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付加したものである。
そして、本件発明1が、甲1発明1ではなく、また、甲1発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2、3も、甲1発明1ではなく、また、甲1発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明4について
ア 対比
本件発明4と甲1発明2を対比する。
(ア)全体構成について
上記(1)ア(ア)の相当関係と同様のことが、本件発明4と甲1発明2との対比においてもいえる。
(イ)製造方法について
甲1発明2の「紡糸工程と」、「延伸工程と、を有する延伸複合繊維の製造方法」は、「紡糸工程と延伸工程は、別工程であ」ることを踏まえると、本件発明4の「紡糸工程と延伸工程を連続して行うスピンドロー法により延伸複合繊維を製造する方法」と「紡糸工程と延伸工程を行う延伸複合繊維を製造する方法」の限りで一致する。
(ウ)紡糸工程について
甲1発明2の「繊度が0.67dTex、鞘芯の断面積比(鞘/芯)が40/60である未延伸糸を得る」ことは、本件発明4の「繊度が0.35~4.0dtex、前記鞘材と前記芯材の断面積比(鞘材/芯材)が50/50~10/90である鞘芯構造の未延伸繊維を得る」ことに相当する。
また、芯材、鞘材、芯材のメルトフローレートについて、上記(1)ア(イ)、(ウ)、(オ)の相当関係と同様のことが、本件発明4と甲1発明2との対比においてもいえる。
これを踏まえると、甲1発明2の「紡糸工程は、結晶性プロピレン系重合体である芯材B(株式会社プライムポリマー製 アイソタクチックポリプロピレン 「Y2000GV」 MFR=18g/10分)に添加剤II(BASFジャパン株式会社製 ヒドロキシアミンエステル系ラジカル発生剤 「IRGATEC CR76」)を0.5質量%配合した樹脂原料を芯材とし、芯材よりも融点が低い鞘材a(旭化成ケミカルズ株式会社製 高密度ポリエチレン 「J302」)を鞘材とし、繊度が0.67dTex、鞘芯の断面積比(鞘/芯)が40/60である未延伸糸を得る工程であり」の構成は、甲1発明4の「溶融紡糸により、主成分が結晶性プロピレン系重合体で、230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが10~30g/10分である樹脂を芯材とし、前記芯材よりも融点が低いオレフィン系重合体を主成分とする樹脂を鞘材とし、繊度が0.35~4.0dtex、前記鞘材と前記芯材の断面積比(鞘材/芯材)が50/50~10/90である鞘芯構造の未延伸繊維を得る紡糸工程」と、「溶融紡糸により、主成分が結晶性プロピレン系重合体で、230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが所定値である樹脂を芯材とし、前記芯材よりも融点が低いオレフィン系重合体を主成分とする樹脂を鞘材とし、繊度が0.35~4.0dtex、前記鞘材と前記芯材の断面積比(鞘材/芯材)が50/50~10/90である鞘芯構造の未延伸繊維を得る紡糸工程」の限りで一致する。
(エ)延伸工程について
繊度、単糸弾性率、単糸強度、トウ熱収縮率について、上記(1)ア(エ)、(キ)~(ケ)の相当関係と同様のことが、本件発明4と甲1発明2との対比においてもいえる。
これを踏まえると、甲1発明2の「延伸工程は、予備延伸槽(一段目、温水)及び本延伸槽(二段目、加圧飽和水蒸気)を用いて延伸処理して、延伸糸繊度が0.13dtex、単糸ヤング率が72.3cN/dTex、単糸強度が7.3cN/dTex、120℃における熱収縮率が4.6%である延伸複合繊維を得る工程」は、本件発明4の「排気による冷却処理を行わず、前記紡糸工程から連続して、前記未延伸繊維を常圧蒸気中で延伸処理して繊度が0.2~0.6dtex、単糸弾性率が70cN/dtex以上、単糸強度が6cN/dtex以上、120℃におけるトウ熱収縮率が8%以下である延伸複合繊維を得る延伸工程」と、「前記紡糸工程から、前記未延伸繊維を延伸処理して繊度が0.2~0.6dtex、単糸弾性率が70cN/dtex以上、単糸強度が6cN/dtex以上、120℃における熱収縮率が所定値である延伸複合繊維を得る延伸工程」の限りで一致する。
(オ)一致点及び相違点
以上を総合すると、本件発明4と甲1発明2の一致点は、以下のとおりである。
「紡糸工程と延伸工程を行う延伸複合繊維を製造する方法であって、
溶融紡糸により、主成分が結晶性プロピレン系重合体で、230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが所定値である樹脂を芯材とし、前記芯材よりも融点が低いオレフィン系重合体を主成分とする樹脂を鞘材とし、繊度が0.35~4.0dtex、前記鞘材と前記芯材の断面積比(鞘材/芯材)が50/50~10/90である鞘芯構造の未延伸繊維を得る紡糸工程と、
前記紡糸工程から、前記未延伸繊維を延伸処理して繊度が0.2~0.6dtex、単糸弾性率が70cN/dtex以上、単糸強度が6cN/dtex以上、120℃における熱収縮率が所定値である延伸複合繊維を得る延伸工程と
を有する延伸複合繊維の製造方法。」
そして、両者は以下の点で相違する。
・相違点4
延伸複合繊維を製造する際の紡糸工程と延伸工程について、本件発明4では「紡糸工程と延伸工程を連続して行うスピンドロー法により」製造されるのに対し、甲1発明2は、紡糸工程と延伸工程は、別工程である点。
・相違点5
芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートについて、本件発明4は「10~30g/10分」であるのに対し、甲1発明2は「140.5g/10分」である点。
・相違点6
延伸工程について、本件発明4は「排気による冷却処理を行わず」、紡糸工程から「連続して、」未延伸繊維を「常圧蒸気中」で延伸処理するのに対し、甲1発明は「予備延伸槽(一段目、温水)及び本延伸槽(二段目、加圧飽和水蒸気)を用いて」延伸処理する点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点5から検討する。
相違点5は、相違点2と実質的に同じであるから、相違点2について検討したのと同様に(上記(1)イ参照)、甲1発明2において、相違点5に係る本件発明4の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
ウ 小括
以上によれば、相違点4及び6について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1発明2ではなく、また、甲1発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明5、6について
本件発明5、6は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付加したものである。
そうすると、本件発明4が、甲1発明2ではなく、また、甲1発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明5、6も、甲1発明2ではなく、また、甲1発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 むすび
以上検討したとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700777