特許異議申立
2025-700322
熱伝導性シリコーン組成物
- 審判番号
- 2025-700322
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-172352
- 登録番号
- 7577046
- 請求日
- 2025年03月19日
- 審決日
- 2025年07月29日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】信越化学工業株式会社
- 【権利者代理人】好宮 幹夫
- 【権利者代理人】小林 俊弘
- 【権利者代理人】大塚 徹
- 【異議申立人】柏木 里実
- 審判長/審判官
- 審判長 辰己 雅夫
- 審判官 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 岡谷 祐哉
- 分類
- P1651.113-Y (C08L) / P1651.121-Y (C08L) / P1651.537-Y (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7577046号発明「熱伝導性シリコーン組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7577046号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7577046号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、令和3年10月21を出願日とする出願であって、令和6年10月24日にその特許権の設定登録(請求項の数12)がされ、同年11月1日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許に対し、令和7年3月19日に特許異議申立人 柏木 里実(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~12)がされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~12に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明12」といい、これらを総称して「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
熱伝導性シリコーン組成物であって、
(C)平均粒子径4μm以上50μm未満の不定形、丸み状、及び多面体状から選ばれる1種以上の窒化アルミニウム粒子、
(D)平均粒子径50μm以上150μm以下の不定形、丸み状、及び多面体状から選ばれる1種以上の窒化アルミニウム粒子、
及び、
(E)平均粒子径0.1μm以上4.0μm未満の 窒化アルミニウム粒子、及び酸化亜鉛粒子から選ばれる1種以上
を含有し、
前記(C)成分と前記(D)成分の合計量が、前記組成物全体の20質量%以上80質量%未満であり、
前記(E)成分の配合量が、前記組成物全体の20質量%以上50質量%未満であり、前記(C)成分と前記(D)成分の合計量に対する前記(D)成分の割合が、5質量%以上50質量%未満であることを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項2】
前記(C)成分が、丸み状の窒化アルミニウム粒子であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項3】
前記(C)成分が、該(C)成分150質量部と25℃での動粘度1,000mm2/sのジメチルポリシロキサン100質量部とを混合してなるペーストを厚み300μmから25℃、0.1MPaで60分間加圧したときの厚みが、10μm以上100μm以下となるものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項4】
前記(E)成分が、不定形酸化亜鉛粒子であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項5】
さらに、(A)25℃での動粘度が10~100,000mm2/sであるオルガノポリシロキサンを含有するものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項6】
前記(A)成分が、1分子中にケイ素原子に結合した脂肪族不飽和炭化水素基を1個以上有するオルガノポリシロキサンであることを特徴とする請求項5に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項7】
さらに、
(F)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(G)白金族金属触媒、
及び、
(H)反応制御剤
を含有するものであることを特徴とする請求項6に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項8】
前記(A)成分と前記(F)成分のヒドロシリル化反応物を含有するものであることを特徴とする請求項7に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項9】
前記(A)成分中の1分子中にケイ素原子と結合した脂肪族不飽和炭化水素基1個に対し、前記(F)成分中の1分子中にケイ素原子に結合した水素原子が4.0個~20.0個であることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項10】
さらに、(I)有機過酸化物を含有するものであることを特徴とする請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項11】
さらに、(B)アルコキシシリル基を含有する加水分解性オルガノポリシロキサンを含有するものであることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項12】
さらに、(J)縮合触媒を含有するものであることを特徴とする請求項11に記載の熱伝導性シリコーン組成物。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法
令和7年3月19日に申立人が提出した特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証を主引例とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、2、4~9、11及び12に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1~12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1~12に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件発明1~12は組成物の発明であるが、明細書にはグリースしか記載がなく、明細書に比べて特許請求の範囲が著しく広い。
3 証拠方法
・甲第1号証:国際公開第2020/262449号
・甲第2号証:特開2017-210518号公報
以下、「甲第1号証」及び「甲第2号証」を、「甲1」及び「甲2」という。
第4 当審の判断
以下に述べるとおり、申立書に記載した申立ての理由によっては、請求項1~12に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(甲1を主引例とする新規性・進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
甲1には、[0097]~[0111]、[0117]及び[0119]の[表1]の記載を基に、実施例2の熱伝導性ポリシロキサン組成物に着目すると、以下の発明が記載されていると認める。
なお、甲1の明細書の記載から、実施例2の熱伝導性ポリシロキサン組成物における各成分の含有量は質量基準であると解される。
「(A-1)平均粒子径60μmの不定形状の窒化アルミニウム粒子26.71質量部、(A-2)平均粒子径20μmの丸み状の窒化アルミニウム粒子17.81質量部、(A-3a)平均粒子径5.0μmの多角形状のアルミナ粒子31.06質量部、(A-3b)平均粒子径0.4μmの多角形状のアルミナ粒子18.12質量部、(B-1)下記[化8]のトリアルコキシ基含有ポリオルガノシロキサン1.50質量部、(C)両末端ビニル基ジメチルポリシロキサン:MviD70Mvi(粘度:130mPa・s)0.69質量部、(C)片末端ビニル基ジメチルポリシロキサン:MD30Mvi(粘度:25mPa・s)3.48質量部、(D)ポリオルガノハイドロジェンシロキサン:MHDH8D42MH(粘度:45mPa・s)0.63質量部、(E)白金量2%ビニルテトラマー錯体0.025質量部、(E-2)1-エチニル-1-シクロヘキサノール0.003質量部からなる、熱伝導性ポリシロキサン組成物。
[化8]
[図:0001425796000001.jpg]
」(以下、「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「(A-1)平均粒子径60μmの不定形状の窒化アルミニウム粒子」は、甲1の[0028]には、「平均粒子径の測定値は、レーザー回折・散乱光により測定したメジアン径(d50)である。」と記載されているところ、本件明細書の【0042】には、「平均粒子径はレーザー回折散乱法による体積基準の粒度分布における累積平均径D50(メディアン径)であり」と記載されており、本件発明1と甲1発明の「平均粒子径」の測定方法は同じといえるから、本件発明1の「(D)平均粒子径50μm以上150μm以下の不定形、丸み状、及び多面体状から選ばれる1種以上の窒化アルミニウム粒子」に相当する。
甲1発明の「(A-2)平均粒子径20μmの丸み状の窒化アルミニウム粒子」は、上述のとおり、本件発明1と甲1発明の「平均粒子径」の測定方法は同じといえるから、本件発明1の「(C)平均粒子径4μm以上50μm未満の不定形、丸み状、及び多面体状から選ばれる1種以上の窒化アルミニウム粒子」に相当する。
甲1発明の「熱伝導性ポリシロキサン組成物」は、当該組成物に含有している(C)成分及び(D)成分がシリコーン化合物であることは明らかであるから、本件発明1の「熱伝導性シリコーン組成物」に相当する。
甲1発明は、(A-1)成分と(A-2)成分の合計量が44.52質量%(=(26.71+17.81)÷100.0)であるから、本件発明1の「前記(C)成分と前記(D)成分の合計量が、前記組成物全体の20質量%以上80質量%未満」との特定事項を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
「熱伝導性シリコーン組成物であって、
(C)平均粒子径4μm以上50μm未満の不定形、丸み状、及び多面体状から選ばれる1種以上の窒化アルミニウム粒子、
(D)平均粒子径50μm以上150μm以下の不定形、丸み状、及び多面体状から選ばれる1種以上の窒化アルミニウム粒子、
を含有し、
前記(C)成分と前記(D)成分の合計量が、前記組成物全体の20質量%以上80質量%未満である、熱伝導性シリコーン組成物。」
そして、両者は次の点で相違する。
・相違点1
本件発明1は、「(E)平均粒子径0.1μm以上4.0μm未満の窒化アルミニウム粒子、及び酸化亜鉛粒子から選ばれる1種以上を含有し、前記(E)成分の配合量が、前記組成物全体の20質量%以上50質量%未満」であるのに対し、甲1発明はそのような特定がない点
・相違点2
本件発明1は、「前記(C)成分と前記(D)成分の合計量に対する前記(D)成分の割合が、5質量%以上50質量%未満である」のに対し、甲1発明はそのような特定がない点
イ 判断
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
甲1発明において、(A-1)成分と(A-2)成分の合計量に対する本件発明1の(D)成分に相当する(A-1)成分の割合は、甲1の[0119][表1]の「(A-1)成分:(A-2)成分」の行の記載からみて、60質量%(=26.71÷(26.71+17.81)×100)である。
したがって、本件発明1の「(C)成分と前記(D)成分の合計量に対する前記(D)成分の割合が、5質量%以上50質量%未満」の範囲外であることから、相違点2は実質的な相違点である。
また、甲1は、「吐出性が高いため作業効率に優れ、熱伝導性の高い熱伝導性ポリシロキサン組成物、及びそれを使用した放熱材料を提供すること」([0007])を発明が解決しようとする課題とするものであり、甲1の請求項1には、熱伝導性ポリシロキサン組成物が「(A-1)成分と(A-2)成分の含有比率が質量基準で50:50~95:5である」との特定事項を有することが記載され、甲1の[0034]には、「(A-1)成分と(A-2)成分の含有比率が50:50より小さいと、熱伝導性ポリシロキサン組成物の熱伝導性に劣る。」と記載され、さらに、「(A-1)成分:(A-2)成分」が「40:60」である以外は甲1発明と同じ熱伝導性ポリシロキサン組成物である比較例2は、熱伝導率の評価が「×」であり、上記課題を解決しないことが記載されている([0119][表1])。
そうすると、甲1には、甲1発明の(A-1)成分と(A-2)成分の合計量に対する(A-1)成分の割合を「60質量%」から「5質量%以上50質量%未満」に調整する動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1発明において、相違点2に係る特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は申立書の6~7頁において、「g 甲1[表1]実施例2:(A-1)の配合量26.71gと(A-2)の配合量17.81gの合計量44.52gに対する(A-1)の割合は38.6質量%である。」ことを根拠として、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明である旨、主張している。
しかしながら、上記「38.6質量%」がどのように算出されたのかが、申立書の記載をみても把握できず、上記(A-1)の割合は、上記イで検討したとおりであるから、上記「38.6質量%」は誤りである。
したがって、上記根拠を前提とした上記主張は採用できない。
エ 本件発明1についてのまとめ
上記ア~ウのとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明2~12について
本件発明2~12は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、上記(2)で本件発明1について検討したのと同様の理由により、本件発明2、4~9、11及び12は甲1発明ではないし、本件発明2~12は甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)申立理由1についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由1はその理由がない。
2 申立理由2(サポート要件)について
申立人は、上記第3の2のとおり主張する。
しかしながら、本件発明は「高い熱伝導率と耐ズレ性とを両立する、熱伝導性シリコーン組成物を提供すること」(【0006】)が発明が解決しようとする課題であり、本件明細書の【0040】~【0087】には、上記課題を解決するための熱伝導性ポリシロキサン組成物が記載され、同【0094】~【0110】には、実施例1~14の熱伝導性ポリシロキサン組成物が上記課題を解決することを確認する記載もあることから、本件発明の熱伝導性ポリシロキサン組成物であれば、特定の用途に限らず上記課題を解決すると当業者は認識するところ、本件明細書には、熱伝導性ポリシロキサン組成物が「グリース」の用途でしか上記課題を解決しないことについての記載はないし、熱伝導性ポリシロキサン組成物が「グリース」の用途でしか上記課題を解決しないと解釈すべき特段の事情があるともいえない。
そして、申立人は、「明細書にはグリースしか記載がなく、明細書に比べて特許請求の範囲が著しく広い」ことのみをサポート要件違反の根拠としており、上記特段の事情について何ら具体的な技術的根拠を示していない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
よって、申立理由2はその理由がない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1~12に係る特許は、申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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