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特許異議申立

2023-701279

改変フィブロイン繊維及びその製造方法

審判番号
2023-701279
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-144127
登録番号
7287621
請求日
2023年12月05日
審決日
2024年11月29日
公報発行日
2025年03月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】Spiber株式会社
  • 【権利者代理人】長谷川 芳樹
  • 【権利者代理人】清水 義憲
  • 【権利者代理人】坂西 俊明
  • 【権利者代理人】福島 直樹
  • 【権利者】小島プレス工業株式会社
  • 【権利者代理人】長谷川 芳樹
  • 【権利者代理人】清水 義憲
  • 【権利者代理人】坂西 俊明
  • 【権利者代理人】福島 直樹
  • 【異議申立人】三原 舞緒
審判長/審判官
  • 審判長 金丸 治之
  • 審判官 長谷川 一郎
  • 審判官 藤井 眞吾
分類
P1652.113-YAA(D01F) / P1652.121-YAA(D01F) / P1652.161-YAA(D01F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7287621号発明「改変フィブロイン繊維及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7287621号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2~6〕について訂正することを認める。 特許第7287621号の請求項3、5、6に係る特許を維持する。 特許第7287621号の請求項1に係る特許についての特許異議申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7287621号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成30年7月31日に出願され、令和5年5月29日にその特許権の設定登録(特許掲載公報令和5年6月6日発行)がされ、令和5年12月5日に、請求項1、3、5、6に係る特許について特許異議申立人三原舞緒(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和6年5月17日付けで取消理由が通知され、令和6年7月22日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされた。なお、本件訂正請求について、申立人から意見書は提出されなかった。 第2 本件訂正請求について 1.訂正の内容 本件訂正請求は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、下線は、訂正箇所に当審が付したものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に 「前記緻密化工程が、前記第一の延伸工程を経た前記原料繊維に含まれるボイドに存在する水分を除去すると共に、該ボイドを扁平化する工程である、請求項1に記載の改変フィブロイン繊維の製造方法」とあるのを、 「(a)改変フィブロインを含む原料繊維を水浴中で延伸する第一の延伸工程と、 (b)前記第一の延伸工程を経た前記原料繊維を加熱して、乾燥させると共に、径方向に熱収縮させる緻密化工程と、 (c)前記緻密化工程を経た前記原料繊維を延伸する第二の延伸工程と、 を備え、 前記緻密化工程が、前記第一の延伸工程を経た前記原料繊維に含まれるボイドに存在する水分を除去すると共に、該ボイドを扁平化する工程である、改変フィブロイン繊維の製造方法」に訂正する。(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~6も同様に訂正する。) (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2」とあるのを、「請求項2」に訂正する。(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4~6も同様に訂正する。) (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか一項」とあるのを、「請求項2又は3」に訂正する。(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5、6も同様に訂正する。) (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4」とあるのを、「請求項2~4」に訂正する。(請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。) (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5」とあるのを、「請求項2~5」に訂正する。 (7)一群の請求項、別の訂正単位とする求め 訂正前の請求項2~6は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。 また、訂正請求書において、特許権者は、上記(1)~(6)の訂正が認められた場合は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項2~6についての訂正を、別の訂正単位として扱うよう求めている。 2.訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び新規事項追加の有無 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載された事項の範囲内においてするものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項2が請求項1の記載を引用するものであるところ、請求項間の引用関係を解消するため、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2を独立形式請求項として書き下す訂正であって、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。 また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、本件明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。 (3)訂正事項3~6について 訂正事項3~6は、訂正前の請求項3~6の各々が引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、本件明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。 3.独立特許要件 訂正前の請求項4について、本件特許異議の申立てはされていない。 そして、請求項4に係る訂正事項3、4による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、訂正後の請求項4に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件が課されることになる。 そこで、独立特許要件について検討すると、訂正後の請求項4に係る発明は、発明特定事項として、引用する請求項2の「ボイドを扁平化する」緻密化工程に係る事項を備えるものであり、後述(「第5 当審の判断」の1(2)イ及びウ)のとおり、この事項について記載する証拠はなく、訂正後の請求項4に係る発明は、新規性、進歩性を有するものといえる。 よって、訂正後の請求項4に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであり、独立特許要件を満たすものである。 4.訂正についてのまとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合する。 よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、請求項1、〔2~6〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 本件特許の特許異議の申立てに係る請求項3、5、6に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項3、5、6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、請求項3、5、6が引用する請求項2、4に係る発明も併せて記載する(以下、請求項2~6に係る発明をそれぞれ「本件発明2」のようにいう。)。 「【請求項2】 (a)改変フィブロインを含む原料繊維を水浴中で延伸する第一の延伸工程と、 (b)前記第一の延伸工程を経た前記原料繊維を加熱して、乾燥させると共に、径方向に熱収縮させる緻密化工程と、 (c)前記緻密化工程を経た前記原料繊維を延伸する第二の延伸工程と、 を備え、 前記緻密化工程が、前記第一の延伸工程を経た前記原料繊維に含まれるボイドに存在する水分を除去すると共に、該ボイドを扁平化する工程である、改変フィブロイン繊維の製造方法。 【請求項3】 前記水浴の温度が5~60℃である、請求項2に記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。 【請求項4】 前記第二の延伸工程が、スチーム延伸を行うことを含む、請求項2又は3に記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。 【請求項5】 前記第二の延伸工程が、乾熱延伸を行うことを含む、請求項2~4のいずれか一項に記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。 【請求項6】 前記改変フィブロインが改変クモ糸フィブロインである、請求項2~5のいずれか一項に記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。」 第4 取消理由の概要 本件訂正前の請求項3、5及び6に係る特許に対して、当審が令和6年5月17日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 (新規性)請求項3、5及び6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項3、5及び6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (進歩性)請求項3、5及び6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3、5及び6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 <引用刊行物> 甲第1号証:特許6337252号公報 以下、甲第1号証を「甲1」という。 第5 当審の判断 1.当審が通知した取消理由(新規性、進歩性)についての判断 (1)甲1に記載された事項、甲1に記載された発明 ア 甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与したものであり、「・・・」は文章の省略を表す。 (ア)「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、高収縮人造フィブロイン繊維及びその製造方法、並びに人造フィブロイン繊維の収縮方法に関する。 ・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 ・・・ 【0008】 本発明は、充分に高い収縮率を有し、肌触り性及び柔軟性に優れ、しかも安全に製造が可能な高収縮人造フィブロイン繊維、及びその製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、人造フィブロイン繊維を充分に高い収縮率で、安全に得ることができる、人造フィブロイン繊維の収縮方法を提供することも目的とする。」 (イ)「【発明を実施するための形態】 ・・・ 【0018】 本実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列に対し、例えば、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行うことで得ることができる。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。 ・・・ 【0025】 本実施形態に係る改変フィブロインは、改変絹フィブロイン(カイコが産生する絹タンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、改変クモ糸フィブロイン(クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよい。」 (ウ)「【0110】 <人造フィブロイン繊維の製造方法> 本実施形態に係る人造フィブロイン繊維は、公知の紡糸方法によって製造することができる。すなわち、例えば、改変フィブロインを主成分として含む人造フィブロイン繊維を製造する際には、まず、上述した方法に準じて製造した改変フィブロインをジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、又はヘキサフルオロイソプロノール(HFIP)等の溶媒に、溶解促進剤としての無機塩と共に添加し、溶解してドープ液を作製する。次いで、このドープ液を用いて、湿式紡糸、乾式紡糸、乾湿式紡糸又は溶融紡糸等の公知の紡糸方法により紡糸して、目的とする人造フィブロイン繊維を得ることができる。好ましい紡糸方法としては、湿式紡糸又は乾湿式紡糸を挙げることができる。 【0111】 図4は、人造フィブロイン繊維を製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。図4に示す紡糸装置10は、乾湿式紡糸用の紡糸装置の一例であり、押出し装置1と、未延伸糸製造装置2と、湿熱延伸装置3と、乾燥装置4とを有している。 【0112】 紡糸装置10を使用した紡糸方法を説明する。まず、貯槽7に貯蔵されたドープ液6が、ギアポンプ8により口金9から押し出される。ラボスケールにおいては、ドープ液をシリンダーに充填し、シリンジポンプを用いてノズルから押し出してもよい。次いで、押し出されたドープ液6は、エアギャップ19を経て、凝固液槽20の凝固液11内に供給され、溶媒が除去されて、改変フィブロインが凝固し、繊維状凝固体が形成される。次いで、繊維状凝固体が、延伸浴槽21内の温水12中に供給されて、延伸される。延伸倍率は供給ニップローラ13と引き取りニップローラ14との速度比によって決まる。その後、延伸された繊維状凝固体が、乾燥装置4に供給され、糸道22内で乾燥されて、人造フィブロイン繊維が、巻糸体5として得られる。18a~18gは糸ガイドである。 ・・・ 【0114】 なお、人造フィブロイン繊維を得る際に実施される延伸は、例えば、上記した凝固液槽20内で行う前延伸、及び延伸浴槽21内で行う湿熱延伸の他、乾熱延伸も採用される。 【0115】 湿熱延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中、スチーム加熱中で行うことができる。温度としては、例えば、50~90℃であってよく、75~85℃が好ましい。湿熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、1~10倍延伸することができ、2~8倍延伸することが好ましい。 【0116】 乾熱延伸は、電気管状炉、乾熱板等を使用して行うことができる。温度としては、例えば、140℃~270℃であってよく、160℃~230℃が好ましい。乾熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、0.5~8倍延伸することができ、1~4倍延伸することが好ましい。 【0117】 湿熱延伸及び乾熱延伸はそれぞれ単独で行ってもよく、またこれらを多段で、又は組み合わせて行ってもよい。すなわち、一段目延伸を湿熱延伸で行い、二段目延伸を乾熱延伸で行う、又は一段目延伸を湿熱延伸行い、二段目延伸を湿熱延伸行い、更に三段目延伸を乾熱延伸で行う等、湿熱延伸及び乾熱延伸を適宜組み合わせて行うことができる。 【0118】 最終的な延伸倍率は、その下限値が、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、好ましくは、1倍超、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上のうちのいずれかであり、上限値が、好ましくは40倍以下、30倍以下、20倍以下、15倍以下、14倍以下、13倍以下、12倍以下、11倍以下、10倍以下である。」 (エ)「【0122】 <高収縮人造フィブロイン繊維の製造方法> 本実施形態に係る高収縮人造フィブロイン繊維の製造方法は、改変フィブロインを含む人造フィブロイン繊維を、沸点未満の水と接触させて、収縮させる工程(以下、「収縮工程」ともいう。)を備える。 【0123】 収縮工程では、人造フィブロイン繊維を沸点未満の水と接触させる(以下、「接触ステップ」ともいう。)。これにより、外力によらずに人造フィブロイン繊維を収縮させることができる。接触ステップでの人造フィブロイン繊維の外力によらない収縮は、例えば、以下の理由により生ずると考えられる。すなわち、一つの理由は、人造フィブロインの二次構造や三次構造に起因すると考えられ、また別の一つの理由は、例えば、製造工程での延伸等によって残留応力を有する人造フィブロイン繊維において、水が繊維間又は繊維内へ浸入することにより、残留応力が緩和されることで生ずると考えられる。したがって、収縮工程での人造フィブロイン繊維の収縮率は、例えば、上記した人造フィブロイン繊維の製造過程での延伸倍率の大きさに応じて任意にコントロールすることもできると考えられる。 【0124】 接触ステップで人造フィブロイン繊維に接触させる水の温度は、沸点未満であればよい。これにより、取扱い性及び収縮工程の作業性等が向上する。また、収縮時間を充分に短縮するという観点からは、水の温度の下限値が、10℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることが更に好ましい。水の温度の上限値は90℃以下であることが好ましい。 【0125】 接触ステップにおいて、水を人造フィブロイン繊維に接触させる方法は、特に限定されない。当該方法として、例えば、人造フィブロイン繊維を水中に浸漬する方法、人造フィブロイン繊維に対して水を常温で又は加温したスチーム等の状態で噴霧する方法、及び人造フィブロイン繊維を水蒸気が充満した高湿度環境下に暴露する方法等が挙げられる。これらの方法の中でも、接触ステップにおいては、収縮時間の短縮化が効果的に図れると共に、加工設備の簡素化等が実現できることから、人造フィブロイン繊維を水中に浸漬する方法が好ましい。 【0126】 接触ステップにおいて、人造フィブロイン繊維を弛緩させた状態で水に接触させると、人造フィブロイン繊維が、単に収縮するだけでなく、波打つように縮れてしまうことがある。このような縮れの発生を防止するために、例えば、人造フィブロイン繊維を繊維軸方向に緊張させ(引っ張り)ながら沸点未満の水と接触させるなど、人造フィブロイン繊維を弛緩させない状態で接触ステップを実施してもよい。 【0127】 収縮工程は、接触ステップに加え、水との接触後の人造フィブロイン繊維を乾燥させること(以下、「乾燥ステップ」ともいう。)を更に含むものであってもよい。 【0128】 乾燥ステップは、接触ステップを経た人造フィブロイン繊維を乾燥するステップである。乾燥は、例えば、自然乾燥でもよく、乾燥設備を使用して強制的に乾燥させてもよい。乾燥設備としては、接触型又は非接触型の公知の乾燥設備がいずれも使用可能である。また、乾燥温度も、例えば、人造フィブロイン繊維に含まれるタンパク質が分解したり、人造フィブロイン繊維が熱的損傷を受けたりする温度よりも低い温度であれば何ら限定されるものではないが、一般には、20~150℃の範囲内の温度であり、50~100℃の範囲内の温度であることが好ましい。温度がこの範囲にあることにより、人造フィブロイン繊維の熱的損傷、又は人造フィブロイン繊維に含まれるタンパク質の分解が生ずることなく、人造フィブロイン繊維が、より迅速且つ効率的に乾燥される。乾燥時間は、乾燥温度等に応じて適宜に設定され、例えば、過乾燥による人造フィブロイン繊維の品質及び物性等への影響が可及的に排除され得る時間等が採用される。 【0129】 本実施形態に係る高収縮人造フィブロイン繊維の製造方法では、収縮工程(接触ステップ、及び必要に応じて乾燥ステップ)を経ることで、収縮率が7%を超える高収縮人造フィブロイン繊維を得ることができる。得られる高収縮人造フィブロイン繊維の収縮率は、15%以上であることが好ましく、25%超であることがより好ましく、32%以上であることが更に好ましく、40%以上であることが更により好ましく、48%以上であることが更によりまた好ましく、56%以上であることが特に好ましく、64%以上であることが特により好ましく、72%以上であることが最も好ましい。収縮率の上限は、通常、80%以下である。 【0130】 図5は、高収縮人造フィブロイン繊維を製造するための製造装置の一例を概略的に示す説明図である。図5に示す製造装置40は、人造フィブロイン繊維を送り出すフィードローラ42と、高収縮人造フィブロイン繊維38を巻き取るワインダー44と、接触ステップを実施するウォーターバス46と、乾燥ステップを実施する乾燥機48と、を有して構成されている。 【0131】 より詳細には、フィードローラ42は、人造フィブロイン繊維36の巻回物が装着可能とされており、図示しない電動モータ等の回転によって、人造フィブロイン繊維36の巻回物から人造フィブロイン繊維36を連続的且つ自動的に送り出し得るようになっている。ワインダー44は、フィードローラ42から送り出された後、接触ステップと乾燥ステップを経て製造される高収縮人造フィブロイン繊維38を、図示しない電動モータの回転によって連続的且つ自動的に巻き取り得るようになっている。なお、ここでは、フィードローラ42による人造フィブロイン繊維36の送出し速度と、ワインダー44による高収縮人造フィブロイン繊維38の巻取り速度とが、互いに独立して制御可能とされている。 【0132】 ウォーターバス46と乾燥機48は、フィードローラ42とワインダー44との間に、人造フィブロイン繊維36の送り方向の上流側と下流側にそれぞれ並んで配置されている。なお、図5に示す製造装置40は、フィードローラ42からワインダー44に向かって走行する人造フィブロイン繊維36を中継するリレーローラ50及び52を有している。 【0133】 ウォーターバス46はヒータ54を有し、このヒータ54にて加温された湯47が、ウォーターバス46内に収容されている。また、ウォーターバス46内には、テンションローラ56が、湯47中に浸漬された状態で設置されている。これにより、フィードローラ42から送り出された人造フィブロイン繊維36が、ウォーターバス46内を、テンションローラ56に巻き掛けられた状態で湯47中に浸漬されつつ、ワインダー44側に向かって走行するようになっている。なお、人造フィブロイン繊維36の湯47中への浸漬時間は、人造フィブロイン繊維36の走行速度に応じて適宜にコントロールされる。 【0134】 乾燥機48は、一対のホットローラ58を有している。一対のホットローラ58は、ウォーターバス46内から離脱してワインダー44側に向かって走行する人造フィブロイン繊維36が巻き掛け可能とされている。これにより、ウォーターバス46内で湯47に浸漬された人造フィブロイン繊維36が、乾燥機48内で一対のホットローラ58にて加熱され、乾燥させられた後、ワインダー44に向かって更に送り出されるようになっている。 【0135】 このような構造を有する製造装置40を用いて、高収縮人造フィブロイン繊維38を製造する際には、先ず、例えば、図4に示された紡糸装置10を用いて紡糸された人造フィブロイン繊維36の巻回物をフィードローラ42に装着する。次に、フィードローラ42から人造フィブロイン繊維36を連続的に送り出して、ウォーターバス46内で湯47に浸漬させる。このとき、例えば、ワインダー44の巻き取り速度をフィードローラ42の送り出し速度よりも遅くしておく。これにより、人造フィブロイン繊維36が、フィードローラ42とワインダー44との間で弛緩しないように緊張された状態で、湯47との接触により収縮するため、縮れの発生を防止することができる。 【0136】 次に、ウォーターバス46内の湯47中で収縮した人造フィブロイン繊維36を、乾燥機48の一対のホットローラ58により加熱する。これにより、収縮した人造フィブロイン繊維36を乾燥させて、高収縮人造フィブロイン繊維38とする。このとき、フィードローラ42の送出し速度とワインダー44の巻取り速度との比率をコントロールすることで、人造フィブロイン繊維36を更に収縮させることもできるし、長さを変化させないこともできる。そして、得られた高収縮人造フィブロイン繊維38をワインダー44にて巻き取って、高収縮人造フィブロイン繊維38の巻回物を得る。」 (オ)「 [図:0001420305000001.jpg] 」 (カ)接触ステップを経た人造フィブロイン繊維を乾燥させる乾燥ステップに関して、上記(エ)の段落【0136】には、「・・・フィードローラ42の送出し速度とワインダー44の巻取り速度との比率をコントロールすることで、人造フィブロイン繊維36を更に収縮させることもできるし、長さを変化させないこともできる。」と記載されている。これは、乾燥機の加熱により長さ方向に収縮する人造フィブロイン繊維を、フィードローラ42とワインダー44との回転速度差により張力を付与することで長さ方向に延伸させ、結果として長さが変化しないことを示すものであるから、当該乾燥ステップは人造フィブロイン繊維を乾燥させ延伸することを含む工程であるといえる。 なお、甲1に記載された乾燥ステップが、人造フィブロイン繊維を延伸しているかどうか不明であるとしても、本件明細書等の段落【0189】~【0190】には、第二の延伸工程の延伸倍率について、「第二延伸における湿熱延伸倍率は、緻密化工程を経た原料繊維に対して、1~10倍又は2~8倍であってよい。」、「第二延伸における乾熱延伸倍率は、緻密化工程を経た原料繊維に対して、例えば、0.5~8倍又は1~6倍であってよい。」と記載されることから、「第二の延伸工程」は、原料繊維を等倍またはそれ以下とすることを含むものであり、この点からも甲1に記載された乾燥ステップは、人造フィブロイン繊維を乾燥させ延伸する工程であるといえる。 イ 甲1に記載された発明 上記(ア)~(オ)の記載事項及び(カ)の認定事項を参酌すると、甲1には、次の「引用発明」が記載されていると認められる。 「高収縮人造フィブロイン繊維の製造方法であって、 改変フィブロインをジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、又はヘキサフルオロイソプロノール(HFIP)等の溶媒に、溶解促進剤としての無機塩と共に添加し、溶解してドープ液を作製して貯槽に貯蔵し、 当該貯槽に貯蔵されたドープ液をギアポンプにより口金から押し出し、押し出されたドープ液を凝固液槽の凝固液内に供給し、溶媒を除去して改変フィブロインが凝固した繊維状凝固体を形成し、 当該繊維状凝固体を、延伸浴槽内の温水中に供給して延伸し、 当該延伸された繊維状凝固体を乾燥装置に供給し、糸道内で乾燥して改変フィブロインを含む人造フィブロイン繊維を形成し、 当該改変フィブロインを含む人造フィブロイン繊維を、沸点未満の水と接触させることで収縮させる接触ステップと、当該接触ステップを経た人造フィブロイン繊維を乾燥させ延伸させる乾燥ステップとを有する、高伸縮人造フィブロイン繊維を製造する製造方法。」 (2)本件発明3について ア 本件発明3と、引用発明を対比する。 (ア)引用発明の「改変フィブロインが凝固した繊維状凝固体」は、改変フィブロインを溶媒に溶解してドープ液を作製し、当該ドープ液を凝固液により溶媒を除去して形成するものであるから、本件発明3の「改変フィブロインを含む原料繊維」に相当する。 (イ)引用発明の「繊維状凝固体を、延伸浴槽内の温水中に供給して延伸」する工程は、本件発明3の「(a)改変フィブロインを含む原料繊維を水浴中で延伸する第一の延伸工程」に相当する。 (ウ)引用発明の「延伸された繊維状凝固体を乾燥装置に供給し、糸道内で乾燥して改変フィブロインを含む人造フィブロイン繊維を形成」することと、 本件発明3の「(b)第一の延伸工程を経た原料繊維を加熱して、乾燥させると共に、径方向に熱収縮させる緻密化工程」であって、「前記緻密化工程が、前記第一の延伸工程を経た前記原料繊維に含まれるボイドに存在する水分を除去すると共に、該ボイドを扁平化する工程である」こととは、 「第一の延伸工程を経た原料繊維を加熱して、乾燥させる工程」である限りにおいて一致する。 (エ)引用発明の「当該改変フィブロインを含む人造フィブロイン繊維を、沸点未満の水と接触させることで収縮させる接触ステップと、当該接触ステップを経た人造フィブロイン繊維を乾燥させ延伸させる乾燥ステップ」のうち「人造フィブロイン繊維を乾燥させ延伸させる乾燥ステップ」は、本件発明3の「原料繊維を延伸する第二の延伸工程」に相当する。 そうすると、本件発明3と引用発明は、 「(a)改変フィブロインを含む原料繊維を水浴中で延伸する第一の延伸工程と、 (b)前記第一の延伸工程を経た前記原料繊維を加熱して、乾燥させる工程と、 (c)前記工程を経た前記原料繊維を延伸する第二の延伸工程と、 を備える、改変フィブロイン繊維の製造方法。」で一致し、次の相違点1及び相違点2で相違する。 《相違点1》 「第一の延伸工程を経た原料繊維を加熱して、乾燥させる工程」に関し、 本件発明3が、「(b)第一の延伸工程を経た原料繊維を加熱して、乾燥させると共に、径方向に熱収縮させる緻密化工程」であって、「前記緻密化工程が、前記第一の延伸工程を経た前記原料繊維に含まれるボイドに存在する水分を除去すると共に、該ボイドを扁平化する工程」であるのに対し、 引用発明は、「延伸された繊維状凝固体を乾燥装置に供給し、糸道内で乾燥して改変フィブロインを含む人造フィブロイン繊維を形成」するものである点。 《相違点2》 本件発明3が、「前記水浴の温度が5~60℃である」のに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。 イ 上記相違点1について検討する。 本件発明3の「緻密化工程」は、「原料繊維を加熱して、乾燥させる」とともに、「径方向に熱収縮させ」て「原料繊維に含まれるボイドに存在する水分を除去すると共に、該ボイドを扁平化する」ものである。ボイドを扁平化するために、本件明細書等には、「緻密化工程は、第一延伸糸にテンションをかけて長さ方向での収縮を防止した状態で実施することが好ましい。この場合、第一延伸糸が径方向の収縮量(縮径量)がより大きくなり、ボイドがより扁平化されることとなる。」(【0183】)と記載されている。 一方、引用発明の乾燥装置は、延伸浴槽内の温水中に供給して延伸した繊維状凝固体を、糸道内で乾燥させるものであるが、甲1には、繊維状凝固体を長さ方向に収縮しないように固定することは記載されていない。乾燥装置中で繊維状凝固体を固定していなければ、繊維状凝固体が長さ方向と径方向に収縮することは明らかであり、その場合、繊維状凝固体中のボイドは、径方向に収縮するとともに長さ方向にも収縮することとなってボイドは扁平化されない。 そうすると、引用発明の製造方法は、本件発明3の「ボイドを扁平化する工程」を備えるものではないから、上記相違点1は実質的な相違点である。 ウ また、申立人が提出した、次の甲第2号証及び甲第3号証(以下「甲2」及び「甲3」という。)にも、改変フィブロインを含む原料繊維を、加熱・乾燥させて、原料繊維中のボイドを扁平化する緻密化工程を備えることは、記載も示唆もされていない。さらに、申立人が提出した、本件特許出願の出願日前を出願日又は優先日とし、本件特許出願の出願日後に公開された特許出願である、次の甲第4号証及び甲第5号証(以下「甲4」及び「甲5」という。)にも、改変フィブロインを含む原料繊維を、加熱・乾燥させて、原料繊維中のボイドを扁平化する緻密化工程を備えることは、記載も示唆もされておらず、技術常識としても把握することはできない。 甲2:米国特許出願公開第2014/0058066号明細書 甲3:Zhengzhong Shao、他1名、「The effect of solvents on the contraction and mechanical properties of spider silk」、Polymer、Elsevier Science、Volume40、Issue7、1999年、p.1799-1806 甲4:特願2017-46526号(特開2020-97796号公報) 甲5:PCT/JP2019/014876号(国際公開第2019/194249号) よって、本件発明3の上記相違点1に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。 エ 以上より、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明3は引用発明ではなく、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明5、6について 本件発明2の発明特定事項を含む本件発明5と引用発明を対比すると、上記(2)で検討した相違点1で両者は少なくとも相違する。 上記(2)イで検討したように、上記相違点1は実質的な相違点であり、上記(2)ウで検討したように、上記相違点1に係る構成は当業者が容易に想到し得たものではない。 よって、本件発明5は引用発明ではなく、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 本件発明6も同様であり、引用発明ではなく、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2.取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について (1)申立理由 申立人は、取消理由通知に記載した取消理由のほか、次の理由を申し立てている。 ア 本件発明3、5、6に対する、甲1及び甲2に基づく進歩性欠如(特許異議申立書「3(4)ウ[ウ-1](オ)、(キ)」) イ 本件発明3、6に対する、甲2及び甲3に基づく進歩性欠如(特許異議申立書「3(4)ウ[ウ-1](カ)、(ク)」) ウ 本件発明3、5、6に対する、甲4に基づく拡大先願違反(特許異議申立書「3(4)ウ[ウ-2](ア)~(エ)」) エ 本件発明6に対する、甲5に基づく拡大先願違反(特許異議申立書「3(4)ウ[ウ-2](ア)、(エ)」) (2)判断 上記2.(2)で述べたように、申立人が提出した甲1~甲5のいずれにも、本件発明3、5、6が備える「ボイドを扁平化する」緻密化工程に係る事項が記載されていない。したがって、本件発明3、5、6は、甲1及び甲2に基いて、並びに、本件発明3、6は、甲2及び甲3に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。また、本件発明3、5、6は、甲4の出願に記載された発明と同一であるとはいえない。本件発明6は、甲5の出願に記載された発明と同一であるとはいえない。 よって、申立人の上記(1)ア~エのいずれの申立理由も、理由がない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議の申立ての理由によっては、請求項3、5、6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項3、5、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 請求項1に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-701279

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