特許異議申立
2024-700735
繊維強化複合材料成形品
- 審判番号
- 2024-700735
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-094433
- 登録番号
- 7427872
- 請求日
- 2024年08月06日
- 審決日
- 2025年11月28日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】宮崎 昭夫
- 【権利者代理人】緒方 雅昭
- 【異議申立人】伴 よし子
- 審判長/審判官
- 審判長 神山 茂樹
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 田口 傑
- 分類
- P1652.537-YAA(B32B) / P1652.113-YAA(B32B) / P1652.121-YAA(B32B) / P1652.14 -YAA(B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7427872号発明「繊維強化複合材料成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7427872号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第7427872号の請求項1、2、5に係る特許を維持する。
特許第7427872号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7427872号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和元年5月20日(優先日 平成31年3月26日)に出願され、令和6年1月29日に特許権の設定登録がされ、令和6年2月6日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和6年 8月 6日 :特許異議申立人伴よし子(以下「申立人」という。)による請求項1~3、5に係る特許に対する特許異議の申立て
令和6年12月26日付け:取消理由通知書
令和7年 2月27日 :申立人による上申書の提出
令和7年 3月 5日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和7年 5月13日 :申立人による意見書の提出
令和7年 7月 8日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和7年 9月 9日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
令和7年11月11日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正請求について
1 訂正の内容
訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に記載された
「表皮材と芯材とを含み、前記表皮材は、FRP(繊維強化プラスチック)およびプラスチックから選択される材質からなり、
前記芯材は、小さな空孔の集合により形成されるマイクロセルを有するマイクロセル形材料(発泡気泡材料)からなり、
式(1-1)を満たし:
式(1-1) γ’/γ≦0.90
γ:芯材の破断せん断ひずみ
γ’:芯材の成形品中のせん断ひずみ
厚み方向にせん断ひずみが生じた場合に、前記芯材のせん断破壊より先に前記表皮材の曲げ破壊に至ることを特徴とする繊維強化複合材料成形品。」を、
「表皮材と芯材とを含み、前記表皮材は、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)から選択される材質からなり、
前記CFRPに用いられるマトリックス樹脂は、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物であり、
前記CFRPは、クロスプリプレグからなり、
前記芯材は、小さな空孔の集合により形成される独立気泡形のマイクロセルを有するマイクロセル形材料(発泡気泡材料)からなり、
前記芯材の厚みに対する前記表皮材の厚みの比(表皮材厚み/芯材厚み)が0.3~0.8の範囲にあり、
式(1-1)を満たし:
式(1-1) γ’/γ≦0.90
γ:芯材の破断せん断ひずみ
γ’:芯材の成形品中のせん断ひずみ
厚み方向にせん断ひずみが生じた場合に、前記芯材のせん断破壊より先に前記表皮材の曲げ破壊に至ることを特徴とする繊維強化複合材料成形品。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、5~8も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項4を削除する。
(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項5に記載された
「請求項1~4のいずれか一項記載の繊維強化複合材料成形品」を、
「請求項1または2記載の繊維強化複合材料成形品」に訂正する(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6~8も同様に訂正する。)。
(5)訂正事項5
本件訂正前の請求項7に記載された
「請求項1~6のいずれか一項記載の繊維強化複合材料成形品」を、
「請求項1、2、5、6記載のいずれか一項記載の繊維強化複合材料成形品」に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8も同様に訂正する。)。
(6)訂正事項6
本件訂正前の請求項8に記載された
「請求項1~7のいずれか一項記載の繊維強化複合材料成形品」を、
「請求項1、2、5~7記載のいずれか一項記載の繊維強化複合材料成形品」に訂正する。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~8は、請求項2~8が、本件訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~8〕について請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記された「表皮材」の材質、「芯材」の「マイクロセル」、「厚み」について限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、本件特許の明細書の【0002】、【0021】、【0022】、【0025】、【0062】、【0067】、【0068】の記載に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
さらに、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2、3について
訂正事項2、3は、本件訂正前の請求項3、4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項4~6
訂正事項4~6は、本件訂正前の請求項5、7、8について、訂正事項2、3によって請求項3、4が削除されたことに伴い、引用する請求項の数を減少させ、また、訂正事項2、3によって削除された請求項3、4を引用しているという不明瞭な状態を解消させるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項4~6は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
4 独立特許要件について
本件訂正前の請求項4、6~8は特許異議の申立ての対象ではなく、請求項4、6~8についての訂正事項1、3~6に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、独立特許要件が課される。ただし、そのうちの請求項4については、訂正事項3により削除された。
しかしながら、下記第5の3、第6の2(4)のとおり、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由、及び特許異議の申立てにおいて提出された証拠等を検討しても、本件訂正後の請求項6~8について、特許出願の際に独立して特許を受けることができなかったとする理由を発見せず、また、他に特許出願の際に独立して特許を受けることができなかったとすべき理由がないから、独立特許要件を満たしている。
5 本件訂正の適否のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5~6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正請求が認められたことから、本件特許の請求項1、2、5~8に係る発明(以下「本件発明1」等という。またこれらを「本件発明」と総称することもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2、5~8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1、2、5~8の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
表皮材と芯材とを含み、前記表皮材は、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)から選択される材質からなり、
前記CFRPに用いられるマトリックス樹脂は、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物であり、
前記CFRPは、クロスプリプレグからなり、
前記芯材は、小さな空孔の集合により形成される独立気泡形のマイクロセルを有するマイクロセル形材料(発泡気泡材料)からなり、
前記芯材の厚みに対する前記表皮材の厚みの比(表皮材厚み/芯材厚み)が0.3~0.8の範囲にあり、
式(1-1)を満たし:
式(1-1) γ’/γ≦0.90
γ:芯材の破断せん断ひずみ
γ’:芯材の成形品中のせん断ひずみ
厚み方向にせん断ひずみが生じた場合に、前記芯材のせん断破壊より先に前記表皮材の曲げ破壊に至ることを特徴とする繊維強化複合材料成形品。
【請求項2】
前記芯材は、前記表皮材よりも密度が小さい、請求項1記載の繊維強化複合材料成形品。」
「【請求項5】
厚み方向に、表皮材、芯材および表皮材が、この順に積み重ねられている、請求項1または2記載の繊維強化複合材料成形品。
【請求項6】
一方の表皮材の厚みともう一方の表皮材の厚みが異なる、請求項5記載の繊維強化複合材料成形品。
【請求項7】
芯材が露出していないことを特徴とする、請求項1、2、5、6のいずれか一項記載の繊維強化複合材料成形品。
【請求項8】
請求項1、2、5~7のいずれか一項記載の繊維強化複合材料成形品を含むことを特徴とする自動車用ルーフ部材。」
第4 取消理由通知(決定の予告)の概要
請求項1~3、5に係る発明に対して、令和7年7月8日付けで当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由1(明確性要件)
請求項1に係る発明において、「表皮材」の材質として「プラスチック」が選択される場合、請求項1に係る発明の「繊維強化複合材料成形品」がどのような形態であるのか不明瞭であるから、請求項1~3、5に係る発明は明確でない。
したがって、請求項1~3、5に係る本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
取消理由2(サポート要件)
発明の詳細な説明の記載からは、請求項1に係る発明おける「表皮材」として、CFRPが用いられた場合、「γ’/γ≦0.90」を満たせば、芯材のせん断破壊より先に表皮材の曲げ破壊に至るようにできるメカニズムを、出願時の技術常識を考慮しても把握することができないから、請求項1~3、5に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものではない。
したがって、請求項1~3、5に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第5 当審の判断
1 取消理由1(明確性要件)について
本件訂正により、「表皮材」の材質の選択肢から「プラスチック」が削除されたため、取消理由1は解消した。
2 取消理由2(サポート要件)
(1)発明の課題
本件発明の解決しようとする課題は、「表皮材と芯材を含む繊維強化複合材料成形品において破壊の有無を容易に判断できる成形品を提供すること」(【0008】。以下「本件課題」という。)である。
(2)発明の詳細な説明の記載
本件課題を解決するための手段に関して、発明の詳細な説明には次の記載がある。
ア 「課題を解決するための手段」の記載
「本発明は、下記の態様を有する。
<1>表皮材と芯材とを含み、前記表皮材は、FRP(繊維強化プラスチック)およびプラスチックから選択される材質からなり、
前記芯材は、小さな空孔の集合により形成されるマイクロセルを有するマイクロセル形材料(発泡気泡材料)からなり、
式(1-1)を満たし:
式(1-1) γ’/γ≦0.90
γ:芯材の破断せん断ひずみ
γ’:芯材の成形品中のせん断ひずみ
厚み方向にせん断ひずみが生じた場合に、前記芯材のせん断破壊より先に前記表皮材の曲げ破壊に至ることを特徴とする繊維強化複合材料成形品。」(【0009】)
イ 繊維強化複合材料成形品の破壊の順番について
「<破壊の順番>
本発明に関しては、厚み方向にせん断ひずみが生じた場合に、特には成形品の破壊試験(ASTM D790に準じる3点曲げ試験)において、芯材のせん断破壊より先に表皮材の曲げ破壊に至ることが成形品の破壊有無の検知性の面で好ましい。」(【0033】)
ウ せん断ひずみについて
「γ‘は、曲げ試験における破壊したときの最大荷重値を用いて逆算し導き出される芯材の成形品中のせん断ひずみである。γ‘は、表皮材単体についてのASTM D790に準じた3点曲げ試験から得られる試験値と、成形品についてのASTM D790に準じた3点曲げ試験から得られる試験値とから求めることができる。γ‘は、具体的には後述のδl、l、P、Ef、tf1、tf2、tcから求めることができる。
γは芯材単体をASTM C273に規定される方法で試験した試験値から導き出される芯材単体の破断せん断ひずみである。ここでいうγを求めるための試験値は、具体的には後述のτcおよびGcである。」(【0039】)
「一般的に、芯材のせん断ひずみが破断せん断ひずみを超えると、せん断破壊に至る。しかし、上記記載の通り表皮材と芯材の厚み比が小さい場合は、曲げ応力とせん断応力の分布が変化し、また表皮材と芯材の界面の状態は樹脂の染み込みで変化していることが多い。式(1-1)の右辺にある値0.92はそれらを考慮して得た値であり、0.92は実際の試験から得られた値である。また、γ‘/γ比は、0.92以下が好ましく、0.90以下がさらに好ましい。この比が0.92未満であれば芯材がせん断破壊する前に表皮材の曲げ破壊に至るようにすることが容易であり、0.90以下であればより余裕を持って表皮材曲げ破壊へ導くことができる。」(【0040】)
(3)検討
上記(2)の発明の詳細な説明の記載から、「厚み方向にせん断ひずみが生じた場合に」「芯材のせん断破壊より先に表皮材の曲げ破壊に至る」ものとしたこと、また、「γ‘/γ比」を「0.90以下」としたことによって、本件課題が解決できることが理解できる。
そして、本件発明1は、「γ:芯材の破断せん断ひずみ」、「γ’:芯材の成形品中のせん断ひずみ」として、「式(1-1) γ’/γ≦0.90」「を満た」すこと、また、「厚み方向にせん断ひずみが生じた場合に、前記芯材のせん断破壊より先に前記表皮材の曲げ破壊に至ること」を発明特定事項としているから、本件課題を解決できると認識できる。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(4)芯材のせん断破壊より先に表皮材の曲げ破壊に至るメカニズムについて
理論的には、「γ’/γ<1」であれば、すなわち、「γ’:芯材の成形品中のせん断ひずみ」が「γ:芯材の破断せん断ひずみ」に達していなければ、表皮材が破壊した時点では芯材は破断していないこととなり、芯材よりも表皮材が先に破壊されることとなる。
本件発明は、「芯材は表皮材の樹脂が芯材表面に入り込むことで、実質的に芯材厚みが変化し、また発泡気泡のため場所による密度違いが発生する。したがって、成形品に組み込まれた芯材の機械的特性は、芯材単体の機械的特性とは異なってくるため、実際の特性と計算値の差が広まり、破壊を予想することが困難であった」(【0035】)ことを考慮して、「式(1-1) γ’/γ≦0.90」「を満た」すことを特定したものである。
上記のとおり、発明の詳細な説明の記載から、「γ’/γ≦0.90」を満たせば、芯材のせん断破壊より先に表皮材の曲げ破壊に至るようにできるメカニズムを理解できる。
(5)取消理由2のまとめ
よって、本件発明1、及び本件発明1を引用する本件発明2、5は、発明の詳細な説明に記載したものである。
3 本件発明6~8の独立特許要件(明確性、サポート要件)について
本件発明1を引用する本件発明6~8は独立特許要件が課されるが、上記1のとおり、本件訂正により取消理由1(明確性)が解消したため、本件発明6~8は明確である。
また、本件訂正において独立特許要件が課される本件発明6~8は、本件発明1を引用するから、発明の詳細な説明に記載したものである。
第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由の概要
取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
申立理由1(新規性・進歩性)
請求項1~3、5に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~3、5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、請求項1~3、5に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~3、5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
申立理由2(産業上の利用可能性)
請求項1に係る発明において、「表皮材」の材質として「プラスチック」が選択される場合、発明の名称である「繊維強化複合材料成形品」と請求項1に係る発明の「繊維強化複合材料成形品」とは矛盾が生じ、請求項1~3、5に係る発明は産業上利用することができないから、請求項1~3、5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
申立理由3(サポート要件)
発明の詳細な説明には、クロスプリプレグ以外の形態の強化繊維を使用した繊維強化プラスチックの表皮材とした場合、どのような繊維強化複合材料成形品となるのか記載されていないため、請求項1~3、5に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものではない。
したがって、請求項1~3、5に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
<証拠>
甲第1号証 竹村兼一、外2名、“サンドイッチ複合材料の曲げ特性に及ぼす表面材及び心材の影響”、日本機械学会論文集(A編)、社団法人日本機械学会、1999年2月、65巻630号、93~99ページ(以下「甲1」という。)
2 申立理由1(新規性・進歩性)についての当審の判断
(1)甲1に記載された発明等
ア 甲1の記載
甲1には次の記載がある。
(ア)93ページ右欄1行~94ページ左欄4行
「
[図:0001432033000001.jpg]
[図:0001432033000002.jpg]
」
(イ)94ページFig.1
「
[図:0001432033000003.jpg]
」
(ウ)94ページTable.2
「
[図:0001432033000004.jpg]
」
(エ)94ページ右欄18行~95ページ左欄4行
「
[図:0001432033000005.jpg]
[図:0001432033000006.jpg]
」
(オ)96ページ左欄下から7行~右欄14行
「
[図:0001432033000007.jpg]
[図:0001432033000008.jpg]
」
(カ)96ページ右欄下から16行~末行
「
[図:0001432033000009.jpg]
」
(キ)97ページFig.9
「
[図:0001432033000010.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
上記アにより、甲1には、平織りガラス布が4層のものに着目すると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「GFRPを表面材とし、硬質発泡ウレタンフォームを心材としたサンドイッチ複合材料であって、
GFRPの強化材には平織りガラス布を、母材にはビニルエステル樹脂を用い、(上記ア(ア))
心材の厚さは10mmであり、表面材の厚さtは1.5mmであり、(上記ア(ア)、(イ))
サンドイッチ複合材料の強度評価の指標に、はりの断面力(せん断力と曲げモーメント)を用いたときに、せん断力と曲げモーメントが同時に作用する場所でのサンドイッチ材の変形には、曲げ変形に心材のせん断変形が加わるので、心材のせん断剛性が高くなるとせん断変形量が減少し、はりのみかけの剛性が大きくなる(上記ア(エ))
サンドイッチ複合材料。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「表面材」は本件発明1の「表皮材」に相当し、同様に、「心材」は「芯材」に相当する。
甲1発明の「サンドイッチ複合材料」は、「GFRPを表面材とし」たものであるから、本件発明1の「繊維強化複合材料成形品」に相当する。
甲1発明の「GFRP」と本件発明1の「CFRP(炭素繊維強化プラスチック)」とは、FRP(繊維強化プラスチック)の限りで一致する。
甲1発明において「GFRPを表面材とし」たことと、本件発明1において「前記表皮材は、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)から選択される材質からな」ることとは、表皮材は、FRP(繊維強化プラスチック)から選択される材質からなる限りで一致する。
甲1発明において「GFRP」の「母材にはビニルエステル樹脂を用い」たことと、本件発明1において「前記CFRPに用いられるマトリックス樹脂は、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物であ」ることとは、FRPに用いられるマトリックス樹脂は、樹脂組成物である限りで一致する。
甲1発明において「GFRPの強化材には平織りガラス布を」「用い」たことと、本件発明1において「前記CFRPは、クロスプリプレグからな」ることとは、FRPは、クロスプリプレグからなる限りで一致する。
甲1発明において「心材の厚さは10mmであり、表面材の厚さtは1.5mmであ」ることは、心材の厚みに対する表面材の厚の比が、1.5×2/10=0.3と計算できるから、本件発明1において「前記芯材の厚みに対する前記表皮材の厚みの比(表皮材厚み/芯材厚み)が0.3~0.8の範囲にあ」ることに相当する。
そうすると、本願発明と引用発明は次の点で一致し、相違する。
[一致点]
表皮材と芯材とを含み、前記表皮材は、FRP(繊維強化プラスチック)から選択される材質からなり、
前記FRPに用いられるマトリックス樹脂は、樹脂組成物であり、
前記FRPは、クロスプリプレグからなり、
前記芯材の厚みに対する前記表皮材の厚みの比(表皮材厚み/芯材厚み)が0.3~0.8の範囲にある繊維強化複合材料成形品。
[相違点1]
FRP(繊維強化プラスチック)に関して、本件発明1は「CFRP(炭素繊維強化プラスチック)」であるのに対して、甲1発明は「GFRP」である点。
[相違点2]
FRPに用いられるマトリックス樹脂に関して、本件発明1は「前記CFRPに用いられるマトリックス樹脂は、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物であ」るのに対して、甲1発明は「GFRP」の「母材にはビニルエステル樹脂を用い」た点。
[相違点3]
本件発明1は「前記芯材は、小さな空孔の集合により形成される独立気泡形のマイクロセルを有するマイクロセル形材料(発泡気泡材料)からな」るのに対して、甲1発明は「硬質発泡ウレタンフォームを心材とした」点。
[相違点4]
本件発明1は「式(1-1)を満たし:
式(1-1) γ’/γ≦0.90
γ:芯材の破断せん断ひずみ
γ’:芯材の成形品中のせん断ひずみ
厚み方向にせん断ひずみが生じた場合に、前記芯材のせん断破壊より先に前記表皮材の曲げ破壊に至る」のに対して、甲1発明はそのようなものであるか不明である点。
イ 判断
事案に鑑み相違点4について検討する。
上記(1)ア(カ)のとおり、甲1には、「図(当審注:図9)より破壊モードは2種類存在することがわかる。一つは、P2W140、P4W140試験片に見られるような圧縮側表面材の圧縮破壊である。もう一つは圧縮側表面材と心材間のはく離によるものである。・・・これは、P2W140、P4W140以外の全ての試験片で生じているが、このはく離は圧縮側表面材の座屈による生じるものと考えられる。」と記載されている。
すなわち、甲1において、曲げ荷重を受けたサンドイッチ材料は、「圧縮側表面材」において、圧縮破壊又は座屈が生じることが記載されているものの、表面材の曲げ破壊と心材のせん断破壊の関係について記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明において、「γ:芯材の破断せん断ひずみ」、「γ’:芯材の成形品中のせん断ひずみ」として「式(1-1) γ’/γ≦0.90」を満たすものとすることや、「厚み方向にせん断ひずみが生じた場合に、前記芯材のせん断破壊より先に前記表皮材の曲げ破壊に至る」ものとすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
ウ 小括
よって、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2、5について
本件発明2、5は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(1)と同様の理由により、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明6~8の独立特許要件(新規性・進歩性)について
本件訂正において独立特許要件が課される本件発明6~8は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(2)と同様の理由により、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 申立理由2(産業上の利用可能性)についての当審の判断
本件訂正により、「表皮材」の材質の選択肢から「プラスチック」が削除されたため、申立理由2は当たらないものとなった。
4 申立理由3(サポート要件)についての当審の判断
本件訂正により、「表皮材」の「CFRP」が「クロスプリプレグからな」るものとなったため、申立理由3は当たらないものとなった。
第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由、及び特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、2、5に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項1、2、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項3に係る特許は、本件訂正により削除されたことにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項3に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700735