特許異議申立
2024-700716
抗線維化剤、及び抗線維化作用を有する細胞外小胞の製造方法
- 審判番号
- 2024-700716
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-571238
- 登録番号
- 7425092
- 請求日
- 2024年07月29日
- 審決日
- 2025年04月22日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】富士フイルム株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人特許事務所サイクス
- 【異議申立人】新井 誠一
- 審判長/審判官
- 審判長 松波 由美子
- 審判官 伊藤 幸司
- 審判官 吉田 佳代子
- 分類
- P1651.113-YAA(A61K) / P1651.121-YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
結論
結 論
特許第7425092号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔5~6〕について訂正することを認める。
特許第7425092号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 主な手続の経緯
本件特許第7425092号(以下「本件特許」という。)は、令和3年1月14日(優先権主張 令和2年1月15日)に国際出願され、令和6年1月22日に特許権の設定登録がされ、令和6年1月30日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和6年7月29日に特許異議申立人 新井誠一(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和6年10月8日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和6年12月9日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正」という。)を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、令和7年3月14日に意見書を提出した。
第2 訂正の請求の適否について
1 訂正の内容
本件訂正による訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項5において、「抗線維化作用を有する細胞外小胞の製造方法。」との記載を「抗線維化作用を有する前記細胞外小胞を有効成分とする抗線維化剤の製造方法。」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6において、「細胞外小胞の製造方法」との記載を「抗線維化剤の製造方法」に訂正する。
(3)一群の請求項について
訂正事項1~2に係る訂正前の請求項5及び6について、訂正前の請求項6は訂正前の請求項5を直接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項5に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項〔5~6〕について請求されたものである。
2 訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、物の製造方法である訂正前の請求項5に係る発明おいて、製造される「物」が、用途の特定されない「細胞外小胞」自体であったものを、訂正後の「前記細胞外小胞を有効成分とする抗線維化剤」という特定の用途に使用される「物」に限定するものである。
したがって、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更する訂正ではないことについて
前記アのとおり、訂正事項1は、特許請求の範囲を限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内であることについて
訂正後の請求項5における「間葉系幹細胞由来の細胞外小胞からTimタンパク質を用いる方法により」「得」られた「細胞外小胞」が、訂正事項1の「抗線維化剤」の「有効成分」となることについては、本件特許明細書の【0018】に「本発明が提供する抗線維化剤における有効成分である細胞外小胞(以下、「本発明に係る細胞外小胞」と略記する場合がある。)は、本発明に係るMSCに由来する細胞外小胞からホスファチジルセリンに対して親和性を有する物質を用いて単離、取得した細胞外小胞(以下、「PS陽性細胞外小胞」と略記する場合がある)・・・である。」と記載され、【0076】に、「PSアフィニティー法による細胞外小胞の取得」が説明されるとともに、【0086】に、「PSアフィニティー法により取得した細胞外小胞を用いることにより抑制されること(抗線維化作用を有すること)が判った。また、PSフィニティー法により取得した細胞外小胞(実施例2-4)は、超遠心法により取得した細胞外小胞(比較例2-4)よりも顕著に高い抗線維化作用(抗線維化効果)を有することが判った。」と記載されていることからみて、本件特許に係る発明は、間葉系幹細胞由来の特定の細胞外小胞が高い抗線維化作用を有することに着目してなされたものであって、間葉系幹細胞に由来する細胞外小胞からホスファチジルセリンに対して親和性を有する物質を用いて単離、取得した細胞外小胞を抗線維化剤としての用途に使用するという技術的思想に基づくものであることが、本件訂正前の明細書等に記載されていたといえる。
したがって、訂正事項1は、当業者によって本件訂正前の明細書等の記載により導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件訂正前の明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
よって、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、物の製造方法である訂正前の請求項6に係る発明おいて、製造される「物」が、用途の特定されない「細胞外小胞」であったものを、訂正後の「前記細胞外小胞を有効成分とする抗線維化剤」という特定の用途に使用される「物」に限定するものである。
したがって、当該訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更する訂正ではないことについて
前記アのとおり、訂正事項2は、特許請求の範囲を限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲であることについて
訂正後の請求項6において、「Tim4タンパク質、Tim3タンパク質及びTim1タンパク質から選択される」「Timタンパク質を用いる方法により」「得」られた「細胞外小胞」が、前記(1)ウで指摘した訂正後の請求項5における「細胞外小胞」と同じく、「抗線維化剤」の「有効成分」となることについては、前記(1)ウで指摘した本件特許明細書の【0018】、【0076】及び【0086】の記載に加え、【0020】には、「前記ホスファチジルセリンに対する親和性を有する物質(以下、「PS親和性物質」と略記する場合がある)としては、・・・Tim4タンパク質、Tim3タンパク質、及びTim1タンパク質から選択されるものがより好ましく、Tim4タンパク質、Tim1タンパク質がさらに好ましく、Tim4タンパク質が特に好ましい。」と記載されていることから、訂正事項2は、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
したがって、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(3)独立特許要件について
本件特許異議の申立てにおいては、訂正前の請求項1~6について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1及び2による訂正については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正の請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔5、6〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
前記第2のとおり本件訂正は認められたので、訂正後の特許請求の範囲の請求項1~6に係る発明(以下、「本件発明1~6」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、以下のとおりのものである。
【請求項1】
間葉系幹細胞に由来する細胞外小胞であって、ホスファチジルセリンが細胞外小胞の膜表面に露出しており、Timタンパク質が上記ホスファチジルセリンに対して特異的に結合することが可能な細胞外小胞を有効成分とする抗線維化剤。
【請求項2】
前記間葉系幹細胞が、iPS細胞に由来するもの、或いは臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、神経、皮膚、羊膜及び胎盤からなる群より選択される1種以上の組織に由来するものである、請求項1に記載の抗線維化剤。
【請求項3】
Timタンパク質が、Tim4タンパク質、Tim3タンパク質及びTim1タンパク質から選択されるものである、請求項1又は2に記載の抗線維化剤。
【請求項4】
前記抗線維化剤に含まれる前記細胞外小胞は、前記Timタンパク質と結合していない、請求項1に記載の抗線維化剤。
【請求項5】
間葉系幹細胞由来の細胞外小胞からTimタンパク質を用いる方法により細胞外小胞を得ることを含む、抗線維化作用を有する前記細胞外小胞を有効成分とする抗線維化剤の製造方法。
【請求項6】
Timタンパク質が、Tim4タンパク質、Tim3タンパク質及びTim1タンパク質から選択されるものである、請求項5に記載の抗線維化剤の製造方法。
第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由について
1 特許異議の申立ての理由の概要
申立人が、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~6に係る特許に対して申し立てた特許異議の申立ての理由は、概略、以下の(1)及び(2)のとおりであって、申立人は、特許異議申立書に添付して、証拠方法として、下記(3)の甲第1~22号証(枝番号を含む。以下、各甲号証については番号に従い、例えば「甲第1号証」については「甲1」、「甲第3号証の2」については「甲3の2」等という。)を提出した。
(1)申立理由1(新規性欠如)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲1~甲10に記載された発明とそれぞれ区別がつかないから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。よって、本件訂正前の請求項1~4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1~6に係る発明は、以下の甲号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、本件訂正前の請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
・請求項1~4に係る発明に対し、甲1及び甲17~甲22、甲2及び甲17~甲22、甲3及び甲17~甲22、甲4及び甲17~甲22、甲5及び甲17~甲22、甲6及び甲17~甲22、甲7及び甲17~甲22、甲8及び甲17~甲22、甲9及び甲17~甲22、甲10及び甲17~甲22、甲11及び甲13~甲22、甲12及び甲13~甲22、甲20及び甲22ならびに甲1~甲19、甲21及び甲1~甲19
・請求項5に係る発明に対し、甲20及び甲22並びに甲1~甲12、甲21及び甲22並びに甲1~甲12
・請求項6に係る発明に対し、甲20~甲22及び甲1~甲12
(3)甲号証
甲1:Scientific Reports、2017年、7:18052、DOI:10.1038/s41598-017-18288-9
甲2:Scientific Reports、2018年、8:1419、DOI:10.1038/s41598-018-19581-x
甲3:Journal of the American Heart Association、2016年、5:e002856、doi:10.1161/JAHA.115.002856
甲3の2:甲3の公開日を示すウェブページの印刷物、https://www.ncbi.nml/nih.gov/pmc/articles/PMC4859399/
甲4:International Journal of Nanomedicine、2018年、Vol.13、p.5257-5273
甲4の2:甲4の公開日を示すウェブページの印刷物、https://ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6136916/
甲5:Biomater.Sci.、2019年、Vol.7、p.2920-2933
甲5の2:甲5の公開日を示すウェブページの印刷物、https://pubs.rsc.org/en/journals/journalissues/bm#!issueid=bm007007&type=current&issnprint=2047-4830
甲6:American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine, 2018年, Vol.197, No.1, p.104-116
甲7:Stem Cells International、2018年、Vol.2018、Article ID6079642、https://doi.org/10.1155/2018/6079642
甲7の2:甲7の作成者を示すウェブページの印刷物、https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1155/2018/6079642
甲8:Am J Transl Res、2016年、Vol.8、No.10、p.4289-4299、
www.ajtr.org/ISSN:1943-8141/AJTR0032919
甲8の2:甲8の作成者を示すウェブページの印刷物、https://e-century.us/web/journal.php?journal=ajtr
甲9:BioMed Research International、2017年、Vol.2017、Article ID 5356760、https://doi.org/10.1155/2017/5356760
甲9の2:甲9の作成者を示すウェブページの印刷物、https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1155/2017/5356760
甲10:Immunity、2019年、Vol.50、p.992-1006
甲11:Journal of Cellular physiology、2018年、Vol.223、p.6832-6840
甲11の2:甲11の公開日を示すウェブページの印刷物、https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jcp.26436
甲12:Journal of Hematology & Oncology、2018年、11:135、https://doi.org/10.1186/s13045-018-0680-7
甲13:京都大学プレスリリース、https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2019-10-30-0
甲13の2:甲13の発行者を示すウェブページの印刷物、https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2019-10-30-0(甲13に同じ)
甲14:「看護学生のための病理学教室、第12回炎症論(11)(原文は丸囲いの「11」)」、Clinical Study、2013年、Vol.34、No.3、p.5-7
甲14の2:甲14の作成者を示すウェブページの印刷物、https://www.kanto-ctr-hsp.com/patient/department/byori_kyoshitsu.html
甲15:BMC Nephrology、2017年、18:225、DOI 10.1186/s12882-017-0630-6
甲16:Theranostics、2016年、Vol.6、Issue12、p.2052-2067、doi:10.7150/thno.16180
甲17:Journal of Trauma and Acute Care Surgery、2019年、Vol.81、No.1、Suppl.1、p.S74-S82、DOI:10.1097/TA.0000000000002225
甲18:Cells、2019年、8:258、doi:10.3990/cells8030258
甲19:Drug Delivery、2018年、Vol.25、No.1、p.1-11、hppts://doi.org/10.1080/10717544.2017.1399301
甲19の2:甲19の公開日を示すウェブページの印刷物、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6058669/
甲20:Scientific Reports、2016年、6:33935、DOI:10.1038/srep33935
甲20の2:甲20の作成者を示すウェブページの印刷物(甲20のオンライン公開版)
甲21:国際公開第2016/088689号
甲22:Biol.Pharm.Bull.、2018年、Vol.41、p.835-842
甲22の2:甲22の公開日と作成者を示すウェブページの印刷物、https://www.jstage.jst.go.jp/article/bpb/41/6/41_b18-00133/_html/-char/en
2 取消理由の概要
本件訂正前の請求項5及び6に係る特許に対して、当審が令和6年10月8日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。なお、甲1~甲9及び甲21は、異議申立理由の甲1~甲9及び甲21と同じ証拠である。
取消理由1(進歩性) 請求項5及び6に係る発明は、甲21に記載された発明及び甲1~甲9に記載される周知技術に基いて、当業者が容易に想到することができたものであるから、請求項5及び6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
第5 取消理由通知に記載した取消理由1(進歩性欠如)についての判断
1 甲号証の記載
(1) 甲21(国際公開第2016/088689号)に記載された事項及び発明
ア 甲21には以下の事項が記載されている。なお、下線は当審合議体が付したものを含む。以下、他の文献についても同様である。
(甲21-1)(請求の範囲)
「[請求項1]
T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子4(Tim4)タンパク質、T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子3(Tim3)タンパク質、及びT細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子1(Tim1)タンパク質から選ばれるタンパク質(Timタンパク質)が結合した担体(Tim担体)。
[請求項2]
細胞外膜小胞又はウイルスの捕捉用である、請求項1に記載のTim担体。
[請求項3]
Timタンパク質がIgVドメインを含むものである、請求項1に記載のTim担体。
[請求項4]
以下の工程を含むことを特徴とする試料中の細胞外膜小胞又はウイルスを取得する方法;
(1)カルシウムイオン存在下、担体に結合したTimタンパク質と試料中の細胞外膜小胞又はウイルスとの複合体を形成させる工程(複合体形成工程)
(2)当該複合体と試料とを分離する工程(複合体分離工程)
(3)当該複合体から細胞外膜小胞又はウイルスを分離し、細胞外膜小胞又はウイルスを取得する工程(取得工程)。」
(甲21-2)[0002]~[0004]
「 細胞外膜小胞は、その粒子内部にタンパク質やmicroRNA等の核酸が存在し、細胞間の物質伝達を担っていることが知られている。細胞外膜小胞は、血液等の体液中にも分泌されており、細胞外膜小胞中のタンパク質やmicroRNA等が疾患の診断マーカーとして注目されている。また、核酸医薬のデリバリーツールとしての応用も注目されている。
また、ウィルスには表面に膜状のエンベロープをまとったエンベロープウィルスが数多く存在している。エンベロープウィルスは、インフルエンザウィルスやヒト免疫不全ウィルスなど疾患を引き起こすものが多いため、研究対象として注目されている。また、エンベロープウィルスは無毒化してワクチンやベクターなどに利用され、疾患の予防や治療に応用されている。
このように細胞外膜小胞の診断や医薬品への利用、エンベロープウィルスのワクチンやベクターとしての利用、細胞外膜小胞やエンベロープウィルスの機能解析等の基礎研究等を行う上で、細胞外膜小胞やエンベロープウィルスを高純度に取得する工程は必要不可欠であり、簡便に高純度な細胞外膜小胞やエンベロープウィルスを取得できる手法が待ち望まれている。・・・」
(甲21-3)[0018]~[0020]
「 前記状況に鑑み、本発明者らは、鋭意研究の結果、Tim1タンパク質、Tim3タンパク質及びTim4タンパク質から選ばれる少なくとも1種のタンパク質を用いることにより、ホスファチジルセリンを表面に有する細胞外膜小胞又はウィルスを高純度で得られること、当該細胞外膜小胞又はウィルスをインタクトな状態で得られること、当該細胞外膜小胞又はウィルスを効率よく除去すること、これらを高感度に検出することができることを見出し、本発明を発明するに至った。
細胞外膜小胞の表面にはリン脂質のホスファチジルセリンが存在(露出)している。ホスファチジルセリンに対して結合能を有するタンパク質(以下、「ホスファチジルセリン結合タンパク質」「PSタンパク質」と略記する場合がある)としては、例えばAnnexin V、MFG-E8、Tim1(T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子1、T-cell immunoglobulin-mucin-domain 1)、Tim1(T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子1、T-cell immunoglobulin-mucin-domain 1)タンパク質、Tim3(T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子3、T-cell immunoglobulin-mucin-domain 3)タンパク質、Tim4(T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子4、T-cell immunoglobulin-mucin-domain 4)タンパク質等が知られている(The Journal of Biochemistry 265, 4923-4928 (25 March 1990)、Nature 417, 182-187 (9 May 2002)、Nature 450, 435-439 (15 November 2007)。
しかしながら、これらのPSタンパク質のうち、Tim1タンパク質、Tim3タンパク質及びTim4タンパク質以外のPSタンパク質を用いた場合には、細胞外膜小胞又はウィルスを取得、除去又は検出することは困難であることが判った。
発明の効果
本発明によれば、試料中に存在する細胞外膜小胞又はウイルスを高純度で、またインタクトな状態で簡便且つ効率的に取得、除去でき、高感度に検出できる。」
(甲21-4)[0022]-[0024]
「<1.本発明に係る細胞外膜小胞>
本発明に係る細胞外膜小胞としては、生体内の細胞又は培養細胞から分泌される、脂質二重膜で構成され、その膜表面にホスファチジルセリンを有する小型膜小胞である。当該小胞の直径は、通常20nmから1000nm、好ましくは50nmから500nm、より好ましくは50nmから200nmである。
本発明に係る細胞外膜小胞は、Nature Reviews Immunology 9, 581-593 (August 2009)、「肥満研究」Vol.13 No.2 2007 トピックス 青木直人等に記載の通り、その発生起源及び小型膜小胞の大きさ等により様々に分類されるものが挙げられる。具体的には、エクソソーム(Exosomes)、微小胞(microvesicle)、エクトソーム(Ectosomes)、膜粒子(Membrane particles)、エクソソーム様小胞(Exosome-like vesicles)、アポトーシス性小胞(Appototic vesicles)、アディボソーム(Adiposome)等が挙げられる。
エクソソームは、後期エンドソームに由来する、脂質二重膜で構成され、その膜表面にホスファチジルセリンを有する小型膜小胞である。当該小胞の直径は、通常50nmから200nm、好ましくは50nmから150nm、より好ましくは50nmから100nmである。エクソソームは、CD63やCD9等のテトラスパニン(tetraspanins)、Alix、TSG101、Lamp-1、Flotillin等のタンパク質を含むことが知られている。」
(甲21-5)[0252]~[0253]
「実施例1-8.本発明のTim4担体を用いた細胞外膜小胞の取得(本発明の取得方法)
以下のように本発明のTim4担体を調製し、これを用いて本発明に係る細胞外膜小胞の取得を行った。
<(1)カルシウムイオン含有培養上清サンプルの調製>
細胞外膜小胞を分泌するヒト慢性骨髄性白血病株K562細胞1×107細胞を80mLのX-VIVO15培地(Lonza社製)を用いて37℃、5%CO2条件下で3日間培養した後、遠心分離処理(300×g、5分間)して細胞を沈殿させ、上清を除去した。沈殿した細胞を、10μMモネンシンナトリウム(MP Biomedicals社製)含有X-VIVO15培地60mLで懸濁後、37℃、5%CO2条件下で24時間培養した。
その後、培養液を遠心分離処理(300×g、5分間)し、培養上清を回収した。回収した培養上清60mLをさらに3回遠心分離処理(1回目:300×g、3分間、2回目:1200×g、20分間、3回目:10000×g、20分間)して不純物を分離し、上清を得た。得られた上清に対して、Vivaspin(分画分子量30000、GE社製)を用いて6mL以下になるまで限外濾過を行い、濃縮液を得た。得られた濃縮液に10μMモネンシンナトリウム(MP Biomedicals社製)含有X-VIVO15培地を添加して液量を6mLに合わせ、10倍に濃縮したK562細胞培養濃縮液サンプル(以下、「培養上清サンプル」と略記する場合がある)を得た。
また、得られた培養上清サンプルに終濃度が2mMとなるようにCaCl2を添加し、2mMCaCl2含有K562細胞培養上清濃縮サンプル(以下、「カルシウムイオン含有培養上清サンプル」と略記する場合がある)を得た。」
(甲21-6)[0259]~[0263]
「<(6)本発明の取得方法による細胞外膜小胞の取得>
前記で得られた表1に記載の4種類のmTim4担体0.6mgをPBS500μLでそれぞれ3回洗浄操作した後、ペレット状態のそれぞれのmTim4担体に、前記(1)で調製したカルシウムイオン含有培養上清サンプル200μLを加え、8℃で3時間反応させた。
反応後のmTim4担体を、2mM CaCl2含有TBS-T(Tris buffer, 0.05% tween20, 2mM CaCl2)500μLでそれぞれ3回洗浄操作した。3回目の洗浄操作の時に、4種類のmTim4担体をそれぞれ250μLずつ1.5mLチューブ2本に分注した。
ペレット状態の4種類のmTim4担体各0.3mgに溶出液として1% SDS水溶液又は1mM EDTA水溶液を20μL添加した後、ボルテックスミキサーにより室温で10秒間混合し、スピンダウンした。1.5mLチューブをそれぞれマグネットスタンドに設置し、磁力を用いて管壁にmTim4担体を集合させ、上清(溶出液)を回収した。
・・・
図1より、実施例1-8の何れの場合においても、100kDa付近にエクソソームマーカーであるLamp-1のバンドが得られたことから、本発明の取得方法によれば、エクソソームを含む細胞外膜小胞を取得可能であることが判った(実施例1-8:レーン1-8)。」
(甲21-7)図1
「
[図:0001424593000001.jpg]
」
イ 甲21に記載された発明
前記アの記載事項に基づけば、甲21には、以下の発明(以下「引用発明21B」という。)が記載されているものと認める。
(引用発明21B)
「T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子4(Tim4)タンパク質、T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子3(Tim3)タンパク質、及びT細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子1(Tim1)タンパク質から選ばれるタンパク質(Timタンパク質)が結合した担体(Tim担体)を用いて試料中の細胞外膜小胞を取得する方法であって、
以下の工程を含むことを特徴とする方法;
(1)カルシウムイオン存在下、担体に結合したTimタンパク質と試料中の細胞外膜小胞との複合体を形成させる工程(複合体形成工程)
(2)当該複合体と試料とを分離する工程(複合体分離工程)
(3)当該複合体から細胞外膜小胞を分離し、細胞外膜小胞を取得する工程(取得工程)。」
(2)甲1(Scientific Reports、2017年、7:18052)の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。なお、甲1は外国語の文献であるため、当審合議体による翻訳文で示す。以下、他の文献についても同様である。
(甲1-1)(要約 1~3行)
「骨髄由来の間葉系幹細胞(MSC)は、複数の治療用途で推奨されている。MSCの多くの有益な効果は、細胞外膜小胞(EV)に依存する傍分泌(パラクリン)作用による。MSC由来のEV(mEV)が急性肺損傷や肺線維症に有益である・・・」
(3)甲2(Scientific Reports、2018年、8:1419)の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
(甲2-1)(要約 1~2行)
「間葉系幹細胞(MSC)由来のエクソソームは、虚血性心傷害、肝線維症、脳血管障害を含む様々な疾患において組織再生を仲介する。」
(4)甲3(Journal of the American Heart Association、2016年、5:e002856)の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
(甲3-1)(要約 1~2行)
「背景-間葉系幹細胞(MSC)由来のエクソソームは、細胞増殖と血管新生能を高めることが証明された。」
(5)甲4(International Journal of Nanomedicine、2018年、Vol.13、p.5257-5273)の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
(甲4-1)(要約 6~7行)
「方法:本研究では、ヒト臍帯間葉系幹細胞由来のエクソソームを含む新しい抗癒着バクテリアセルロース(BC)膜を開発した。」
(6)甲5(Biomater.Sci.、2019年、Vol.7、p.2920-2933)の記載事項
甲5には、以下の事項が記載されている。
(甲5-1)(要約 1行)
「幹細胞由来のエクソソームは心血管疾患の潜在的治療法として認識されている。」
(7)甲6(American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine、2018年、Vol.197、No.1、p.104-116)の記載事項
甲6には、以下の事項が記載されている。
(甲6-1)(要約 1~6行)
「根拠:間葉系幹/間質細胞(MSC)療法は、気管支肺異形成症(BPD)等の新生児医学に関連する病理の前臨床モデルで有望性を示している。MSCの治療能力はそのセクレトームにあり、MSCが産生するエクソソーム(MSC-exo)が治療ベクターであることを示した。」
(8)甲7(Stem Cells International、2018年、Vol.2018、Article ID6079642)の記載事項
甲7には、以下の事項が記載されている。
(甲7-1)(要約 1~3行)
「間葉系幹細胞(MSCs)の臨床応用が進んでいる。エクソソームは、様々な種類の細胞から放出される小さな(直径30-100nm)膜小胞であり、由来細胞と同様の機能を有している。ヒト臍帯MSC由来エクソソーム(hucMSC-Ex)は、肝臓修復において重要な役割を果たしている。」
(9)甲8(Am J Transl Res、2016年、Vol.8、No.10、p.4289-4299)の記載事項
甲8には、以下の事項が記載されている。
(甲8-1)(要約1~16行)
「背景:間葉系間質細胞(MSCs)由来の細胞外小胞(EVs)は、腎障害修復のための強力な培地とみなされ、血管新生は組織再生の重要なステップとみなされていた。しかし、虚血再灌流による腎障害におけるMSC-EVsの血管新生促進効果やその潜在的な機序については、まだ明らかにされていない。・・・
結論:ヒトMSC-EVは、HIF-1α非依存的に血管新生促進作用を介して虚血/再灌流障害による腎障害を防御することができ、血管新生に関連するVEGFの送達とRNAの両方がこの過程に関与していた。」
(10)甲9(BioMed Research International、2017年、Vol.2017、Article ID 5356760)の記載事項
甲9には、以下の事項が記載されている。
(甲9-1)(要約 1~11行)
「間葉系幹細胞(MSCs)によって分泌されるエクソソームは、いくつかの組織損傷疾患に対して修復効果を示している。本研究では、ヒト臍帯間葉系幹細胞(hucMSCs)から放出されたエクソソームがデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発性炎症性腸疾患(IBD)の治療に及ぼす影響を調査し、その基礎となるメカニズムを探ることを目的とした。・・・我々の発見は、hucMSCs由来エクソソームがDSS誘発IBDの軽減に著明な効果を持ち、その影響をマクロファージにおけるIL-7の発現調節を通じて発揮する可能性があることを示唆している。」
(11)甲17(Journal of Trauma and Acute Care Surgery、2019年、Vol.81、No.1、Suppl.1、p.S74-S82)に記載された事項
甲17には以下の事項が記載されている。
(甲17-1)概要 RESULT欄
「MSC細胞の種類と培養条件は、EVのサイズ分布に影響を与えなかった。表面にホスファチジルセリンと組織因子を発現している全群の細胞外小胞は機能的に血栓形成性があり、EVを含まない無血清培地の陰性対照と比較して凝固速度を増加させる傾向があった。平均して、EVは、細胞源や培養条件に関係なく、陰性対照よりも有意に大きく強い血栓を形成しなかった。さらに、EVは in vitroフローベースアッセイにおいて血小板の接着を阻害した。」
(甲17-2)概要 CONCLUSION欄
「脂肪由来EVは血栓形成性が高く、ホスファチジルセリンの発現量が多かった。我々の知見は、インタクトなMSCと同様に、EV間のソースのばらつきが、EVを潜在的な治療目的で考慮する際の重要な因子であることを示唆している。」
(甲17-3)S75頁左欄5~15行
「EVに関する研究は、主にそのタンパク質やRNAの組成、組織再生を促進する能力に焦点が当てられてきた。このことは、MSC由来EVの凝固特性が臨床的に使用できるかどうかに重大な影響を及ぼす可能性があることを考えると、特に重要である。ここでは、単層Ad由来EVs(MAd-EVs)、スフェロイドAd由来EVs(SAd-EVs)、単層BM由来EVs(MBM-EVs)、スフェロイドBM由来EVs(SBM-EVs)の凝固促進活性に対する影響について述べる。」
(甲17-4)S75頁右欄Flow Cytometryの項目
「フローサイトメトリー
フローサイトメーターの解像度が 200 nm であるため、EVの検出を容易にするために粒子径を大きくするために、ヒトCD81(Exo膜テトラスパニン)フロー検出(細胞培養由来)Dynabeads(10622D;Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて、小胞からの総タンパク質25μgを磁気ビーズに付着させて、200μLの分離バッファー(0.1%bovine serum albumin in PBS)に懸濁し、小胞の陽性コントロールとして以下の抗体で1時間染色した・・・。その後、サンプルをフローサイトメトリー(BD FACSCANTO II, BD Biosciences, San Jose, CA)にかけた。FlowJo ソフトウェア(FlowJo, Ashland, OR)を用いて解析するため、少なくとも5,000個のビーズ結合小胞イベントをトリプリケートで収集した。」
(甲17-5)S77頁右欄11行~S78頁右欄5行
「EVはその表面にホスファチジルセリンとTFを発現する
フローサイトメトリーで分析した細胞外小胞は、分析のために4つの異なるグループ(「フローグループ」と呼ぶ)を形成した(図3A):(1)Dynabeadsに結合していないEV(未結合EV)、(2)単一Dynabeadsに結合したEV(単一ビーズ)、(3)DynabeadsとEVの凝集体(凝集体 1)、(4)DynabeadsとEVのより大きな凝集体(凝集体 2)。さらなる分析(図 3B-D)のために、「未結合 EV」を2つのカテゴリーに分類した:700nm未満のEV(<700 nm)と、700~1,000nmのEV凝集体(>700nm)である。・・・PSのEV発現については、交互作用効果(p > 0.05)は検出されなかった(図 3C)。細胞タイプは、単一ビーズ、凝集体 1、凝集体 2 に結合したEVのAd-EV PS発現を、同じフローグループのBM-EVと比較して有意に増加させた(それぞれp<0.01、p<0.01、p<0.05)。SAd-EVは、単一ビーズ群および凝集体 1 フロー群ではMBM-EVよりもPSを多く発現した(p<0.05)。TF発現については、すべてのフロー群で交互作用や成分効果(p > 0.05)は認められず(図 3D)、EVのTF発現はEV群間で有意な差はなかった。全体として、TFはすべてのEVに存在するが、PSは特にAd-EVにおいてより多く存在し、Ad-EVにおいてより凝固促進性の表現型があることを示唆している。」
(甲17-6)図2
「
[図:0001424593000002.jpg]
図2. 全EVの(A)サイズ分布と(B)平均サイズ。(C)(左)エクソソームマーカーCD81(22-26 kDa)と(右)ER タンパク質カルネキシン(90 kDa)のウェスタンブロット。各ゲルのウェルあたり15マイクログラムのタンパク質をロードし、ゲルは非還元条件下(CD81)または還元条件下(カルネキシン)で行った。 ER は、小胞体の意。 」
(甲17-7)図3の抜粋
「
[図:0001424593000003.jpg]
・・・
図 3. (A)EV が形成するフローグループの代表図:(1)ダイナビーズに結合していない EV(未結合 EV)、(2)ダイナビーズに結合した EV(単一ビーズ)。(3)ダイナビーズと EV の凝集体(凝集体 1)、(4)ダイナビーズと EV の大きな凝集体(凝集体 2)。さらなる分析(B)のために、結合した EV は 2 つのカテゴリーに分類された: 700 nm 未満の EV(<700 nm)と 700~1,000 nm の EV 凝集体(>700 nm)。EV 表面における(B)CD63 発現、(C)PS 発現、(D)TF 発現の二元配置分散分析(n = 3)。棒グラフは、エラーバーは SD を表す。*p <0.05,p<0.01 」
(12)甲18(Cells、2019年、8:258、doi:10.3990/cells8030258)に記載された事項
甲18には以下の事項が記載されている。
(甲18-1)要旨
「要旨:間葉系幹細胞(MSC)は、免疫疾患を含む多くの疾患の治療において有力な治療手段として浮上している。しかし、MSCが血液凝固に及ぼす望ましくない効果が報告されており、我々は臍帯由来のヒトMSCの血栓形成特性を調査した。回転血栓弾性計測法および血栓動態試験を使用して、ヒト血液および血小板フリー血漿に対するMSCの強力な促進凝固効果を明らかにした。同様の凝固促進は、MSC由来の細胞外小胞(EVs)でも示された。望ましくない効果を回避するためのアプローチとして、我々はヘパリン補助剤がMSCの促進凝固特性に及ぼす影響を調査した。しかし、MSCは治療用量の未分画ヘパリンを受けている子供の血液に対しても促進凝固活性を保持していた。MSC/EVsの促進凝固効果のメカニズムの分析により、組織因子および凝固関連経路に関与する他のタンパク質の存在が明らかになった。また、一部のMSCおよびEVがアネキシンV陽性であり、これにより表面にホスファチジルセリンが存在することが示唆され、凝固形成を促進する可能性があることがわかった。このように、我々はホスファチジルセリンおよび組織因子の存在に関連するMSC/EVsの促進凝固活性を明らかにし、血栓リスクのある患者におけるMSC治療の有害効果を回避するためのさらなる分析が必要であることを示している。」
(甲18-2)2頁第1段落
「間葉系幹細胞(MSC)は、最小限の免疫原性を伴う免疫応答を調節する高い能力を持つ修復細胞技術の有力な治療手段として浮上している。MSCのこれら特定の免疫調節効果は、敗血症や他の炎症性疾患の治療に有益である可能性があると考えられている。これらおよび他のMSCの治療効果は、パラクリンメカニズムを介して実現され、細胞外小胞(EV)の確立された産生を伴うものであり、これがMSC自体と同様の免疫調節の可能性を促進する。現在、自家および同種ヒトMSCの両方が、世界中で約500件の臨床試験で広く試験されており、重篤な副作用はほとんど報告されていない。認識されている数少ない合併症の一つは、治療による血栓症のリスクであり、数人の患者に報告されている。最近の臨床試験では、同種脂肪由来MSCの静脈内投与が、ヒトエンドトキシン血症中に混合された抗炎症および促進凝固効果を発揮することが明らかにされた。促進凝固活性は、膵島や肝細胞などの他の種類の移植細胞でも観察されている。促進凝固活性は組織因子(TF)の発現と関連している可能性があることが判明している。特に、長期間のMSC培養は、細胞表面におけるTFの著しく高い発現をもたらし、血栓形成のリスクを増加させる可能性がある。TFに加えて、ホスファチジルセリンという他の促進凝固因子があり、これは細胞膜の内葉から外葉への移行後、トロンビン活性化複合体を構築するためのプラットフォームを作り出す。また、MSC条件培地から分離されたEVにはTFおよび/または外部ホスファチジルセリンが含まれ、したがって血液止血に影響を与える可能性があると推定される。」
(甲18-3)2頁セクション2.1~3頁セクション2.2
「2.1. MSC の一次培養
健康な 25~30 歳の女性(n = 6)から、V.I. Kulakov 国立産科婦人科学研究センターで帝王切開により健康な正期産児を出産した際に、新鮮なヒト臍帯を取得した。・・・出生後に取得した臍帯は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(Paneco, Moscow, Russia)で数回洗浄した。血管を取り除いた後、臍帯は 1cm3の断片に細かく刻み、さらに 1 - 2mm3の小片に均質化した。細胞は、7%胎牛血清(Biosera, Nuaille, France)、ペニシリン(100 IU/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)(Gibco, NY, USA)、および 2mM L-グルタミン(Paneco, Moscow, Russia)を含む Dulbecco改変イーグル培地(DMEM)/F12(Paneco, Moscow, Russia)(1:1)で培養し、37℃で 5%CO2 の湿潤雰囲気でインキュベートした。培養培地は、非付着細胞を除去するために 3~4 日ごとに交換した。細胞の成長と形態は、倒立顕微鏡で毎日観察した。実験には3回継代したMSCを使用した。細胞はトリプシン処理後、遠心分離(1600×gで 3 分間)し、PBSの10μL に再懸濁して直ちに使用した。細胞の生存率はトリパンブルー排除法で評価され(通常は95%以上)、本研究で使用したMSCは、間葉系幹細胞マーカー(CD73、CD90、CD105)に陽性であり、造血細胞マーカー(CD14、CD20、CD45、CD34)に陰性であった(補足図 S1)。
2.2. 分別遠心法による細胞外小胞の分離
分別遠心法を用いて、条件付き培地からEVを分離した[26]。80 - 90%のコンフルエント(~10 × 106細胞)の3回継代MSC培養の条件付き培地を24時間後に収集し(DMEM/F12に7%胎牛血清(FBS)、2mM L-グルタミン、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含む)、108,000×gで1.5時間遠心分離して、FBS由来のEVの可能性のある汚染を避けるために培地を使用前に遠心分離し、その後、上清を収集し、0.22μmの細孔サイズのボトルトップ真空フィルターシステム(Falcon, Corning, NY, USA)で濾過し、ベシクルフリーの培養培地として使用した。コンフルエント培養の条件付き培地(50mL)を収集し、細胞およびデブリを除去するために連続遠心分離(400×gで10分間、その後10,000×gで4°Cで30分間)した。上清は、108,000×gで1.5時間、4°Cで超遠心分離し(Avanti JXN-30 高速遠心機、Beckman Coulter Inc., Fullerton, CA, USA 使用)、PBSでペレットを洗浄し、タンパク質汚染を最小限に抑えるために再度 108,000×gで1.5時間遠心分離した。最終的なEVペレットは、濾過したPBSの10μLに再懸濁した。ベシクルサンプルは、-80°Cで保存した。全ての遠心分離を経た非条件付き培養培地の再懸濁ペレットを追加のコントロールサンプル(ブランクEV)として使用し、観察された効果がMSC由来のEVによるものであり、偶発的なナノ粒子の混入によるものでないことを確認した。」
(甲18-4)12頁セクション3.3
「3.3 MSCおよびEVによる凝固誘導に関与するメカニズムの解明
我々は、血液および血漿におけるMSCおよびMSC由来EVの促進凝固効果のメカニズムを調査した。多くの研究が、細胞膜の外表面にホスファチジルセリンが出現することが凝固カスケードの誘導に関与している可能性があることを示している(18)。フローサイトメトリーを使用して、MSC培養およびEV懸濁液中のホスファチジルセリンを露出した細胞および小胞の存在を評価した。EVの検出には、PKH26色素を用いてEVを染色し、全 PKH26陽性粒子のうち約3%がアネキシンV陽性であることを明らかにした (図 5A, B)。MSC集団では、約4%の細胞がアネキシンV陽性であることが示された(図 5C, D)。注目すべきは、ネイティブなMSCにおけるホスファチジルセリンの露出がアポトーシスと関連していないように見えることであり、アポトーシス細胞はより強い蛍光を示す領域に現れた (図 5E)。MSCおよびEVの促進凝固効果へのホスファチジルセリンの寄与を評価するために、アネキシンVを用いてホスファチジルセリンをマスキングする実験を行った。EVおよびMSCをアネキシンVと前処理することで、CT(合議体注:「凝固時間」の略語。)はそれぞれ25%および30%増加した(図 5F - I)。さらに、臍帯MSCおよびそのEVが表面に十分な量のTFを発現する可能性があると仮定した。TFの存在は、MSC条件培地から分離されたMSCおよびEVのウエスタンブロッティングによって分析された。MSCサンプルでは有意な量のTFタンパク質が検出されたが、EVサンプルでは検出されなかった (図 5J)。」
2 当審の判断
(1)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と引用発明21Bとを対比する。
本件発明5における「細胞外小胞(以下、「EV」と略記する場合がある。)」について、本件特許明細書【0014】を参照すると、「細胞に由来する、脂質二重膜で構成される小型膜小胞であ」り、「具体的には、エクソソーム、微小胞、エクトソーム、膜粒子、エクソソーム様小胞、アポトーシス小体、アディポソーム等が挙げられ、エクソソーム及び微小胞が好ましく、エクソソームがより好ましい。」と説明されているところ、引用発明21Bの「細胞外膜小胞」についても、甲21(前記1(1)(甲21-4))には同様の説明がされていることから、引用発明21Bにおける「細胞外膜小胞」は、本件発明5における「細胞外小胞」に相当する。
また、本件発明5の「細胞外小胞の製造方法」の原料として使用される「間葉系幹細胞由来の細胞外小胞」について、本件特許明細書【0021】には、「EVを含む」「MSCの細胞培養上清液」を用いることが説明されているところ、引用発明21Bにおける「試料」についても、甲21(前記1(1)(甲21-5))には「細胞培養上清サンプル」を用いることが記載されていることから、引用発明21Bにおける「試料中の細胞外膜小胞」と、本件発明5における「間葉系幹細胞由来の細胞外小胞」とは、細胞培養上清液中に含まれる「細胞由来の細胞外小胞」である限りにおいて一致する。
さらに、引用発明21Bにおける「タンパク質(Timタンパク質)が結合した担体(Tim担体)を用いて」「細胞外膜小胞を取得する方法」は、本件発明5における「Timタンパク質を用いる方法により細胞外小胞を得ることを含む」「製造方法」に相当する。
そうすると、本件発明5と引用発明21Bとは、以下の点で一致し、また相違する。
<一致点>
「細胞由来の細胞外小胞からTimタンパク質を用いる方法により細胞外小胞を得ることを含む、製造方法。」
<相違点1>
本件発明5では、「細胞外小胞」の由来が「間葉系幹細胞」に特定され、「抗線維化作用を有する細胞外小胞を有効成分とする抗線維化剤」を製造することが特定されているのに対し、引用発明21Bでは、そのような特定がされていない点。
イ 判断
上記相違点1について検討する。
前記1(1)(甲21-2)に記載されるように、引用発明21Bは、「細胞外膜小胞は、その粒子内部にタンパク質やmicroRNA等の核酸が存在し、細胞間の物質伝達を担って」おり、「核酸医薬のデリバリーツールとしての応用も注目されている」という背景のもと、「細胞外膜小胞の診断や医薬品への利用」のために「必要不可欠」な「簡便に高純度な細胞外膜小胞」「を取得できる手法」として考案された発明である。
一方、甲1~甲9(前記1(2)~(10))に記載されるように、間葉系幹細胞由来の細胞外小胞であるエクソソームが、線維症に対する治療効果、すなわち抗線維化作用を有することや、組織損傷や組織再生等の治療に使用できることは周知の技術的事項であった。
しかしながら、間葉系幹細胞由来の細胞外小胞がその膜表面にホスファチジルセリン(以下「PS」という。)を発現していることは甲17(前記1(11)(甲17-5)及び(甲17-7))に記載のとおりであり、引用発明21Bにおいて、Timタンパク質を用いる方法により細胞外小胞を得ることは、PS陽性細胞外小胞を濃縮する工程に他ならないところ、甲17及び甲18(前記1(11)及び(12))に記載されるように、PSを膜表面に露出しているPS陽性細胞外小胞は、医薬としての適用を想定した場合には、有害事象の原因ともなる「血液凝固活性」及び「血栓形成性」があることも知られていたことから、引用発明21Bにおいて、抗線維化剤に係る医薬用途に適用するために、間葉系幹細胞から、わざわざPS陽性の細胞外小胞を濃縮して得たものを有効成分とすること、すなわち、上記相違点1に係る構成を採用することには阻害要因があり、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
また、本件特許明細書の実施例では、本件発明5によって製造された「細胞外小胞を有効成分とする抗線維化剤」が、超遠心法で取得された細胞外小胞よりも、ヒト胎児肺由来線維芽細胞における線維化関連遺伝子(Collagen III、Collagen V及びα-SMA)の発現を抑制し、顕著に高い抗線維化作用を有することが確認されており、このような本件発明5の構成により奏される効果は、引用発明21B及び甲21の記載並びに甲1~甲9に記載される周知技術からは予測し得ない顕著な効果であるといえる。
そうすると、本件発明5は、引用発明21B及び甲21の記載並びに、周知技術(甲1~甲9)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明6について
前記(1)アを踏まえて本件発明6と引用発明21Bとを対比すると、本件発明6と引用発明21Bとは、前記相違点1に加えて新たな相違点を生ずるものではない。
そして、前記相違点1についての判断は、前記(1)イに説示したとおりである。
したがって、本件発明6は本件発明5と同様の理由により、引用発明21B及び甲21の記載並びに、周知技術(甲1~甲9)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 小括
以上のとおりであるから、本件発明5及び6は、甲21に記載された発明及び甲21の記載事項並びに周知技術(甲1~甲9)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、取消理由1には理由がない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由1(新規性)及び理由2(進歩性)についての判断
1 甲号証の記載
(1)甲1(Scientific Reports、2017年、7:18052)に記載された発明
甲1の概要、図1、2頁最終段落~3頁第1段落、6頁最終段落~7頁第4段落、及び7頁最終段落~8頁第1段落に記載された事項に基づけば、甲1には以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。
「ヒト骨髄由来の間葉系幹細胞(MSC)の培養上清を超遠心分離して得られたエクソソームを有効成分とする抗線維化剤。」
(2)甲2(Scientific Reports、2018年、8:1419)に記載された発明
甲2の概要、4頁最終段落、5頁39~57行、8頁10~22行、及び8頁最終段落~9頁第1段落に記載された事項に基づけば、甲2には以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認める。
「ヒト骨髄由来の間葉系幹細胞(MSC)の培養上清を遠心分離して得られたエクソソームを有効成分とする抗線維化剤。」
(3)甲3(Journal of the American Heart Association、2016年、5:e002856)に記載された発明
甲3の概要、2頁左欄第3段落~右欄第2段落、8頁左欄8行~右欄13行、及び図8に記載された事項に基づけば、甲3には以下の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているものと認める。
「ラット骨髄由来の間葉系幹細胞(MSC)の培養上清を超遠心分離して得られたエクソソームを有効成分とする抗線維化剤。」
(4)甲4(International Journal of Nanomedicine、2018年、Vol.13、p.5257-5273)に記載された発明
甲4の概要、5258頁左欄第2段落、5259頁左欄第2段落~右欄第1段落、及び5272頁左欄第2段落に記載された事項に基づけば、甲4には以下の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されているものと認める。
「ヒト臍帯由来の間葉系幹細胞の培養上清を超遠心分離して得られたエクソソームを有効成分とする抗線維化剤。」
(5)甲5(Biomater.Sci.、2019年、Vol.7、p.2920-2933)に記載された発明
甲5の概要、2921頁セクション2.1、2929頁セクション3.5、2931頁セクション3.8、及び2931頁セクション5に記載された事項に基づけば、甲5には以下の発明(以下「引用発明5」という。)が記載されているものと認める。
「ヒト臍帯由来の間葉系幹細胞の培養上清を超遠心分離して得られたエクソソームを有効成分とする抗線維化剤。」
(6)甲6(American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine、2018年、Vol.197、No.1、p.104-116)に記載された発明
甲6の概要、105頁左欄下から18行目~15行目、105頁中央欄下から14行目~8行目、105頁右欄4~18行、108頁右欄最終段落~109頁左欄第1段落、及び111頁右欄最終段落~112頁右欄最終行に記載された事項に基づけば、甲6には以下の発明(以下「引用発明6」という。)が記載されているものと認める。
「ヒト臍帯又は骨髄由来の間葉系幹細胞の培養上清を分画遠心法により得られたエクソソームを有効成分とする抗線維化剤。」
(7)甲7(Stem Cells International、2018年、Vol.2018、Article ID6079642)に記載された発明
甲7の概要、2頁左欄第2段落、2頁セクション2.2、5頁右欄第2段落~6頁左欄第1段落(セクション3.3)、8頁右欄8行~10頁左欄第2段落、及び10頁左欄第4段落に記載された事項に基づけば、甲7には以下の発明(以下「引用発明7」という。)が記載されているものと認める。
「ヒト臍帯由来の間葉系幹細胞の培養上清を超遠心分離して得られたエクソソームを有効成分とする抗線維化剤。」
(8)甲8(Am J Transl Res、2016年、Vol.8、No.10、p.4289-4299)に記載された発明
甲8の概要、4290頁右欄8~27行、及び4295頁左欄4行~右欄12行に記載された事項に基づけば、甲8には以下の発明(以下「引用発明8」という。)が記載されているものと認める。
「ヒト臍帯由来の間葉系幹細胞の培養上清を超遠心分離して得られたエクソソームを有効成分とする抗線維化剤。」
(9)甲9(BioMed Research International、2017年、Vol.2017、Article ID 5356760)に記載された発明
甲9の概要、2頁左欄第2段落、及び2頁左欄セクション2.1に記載された事項に基づけば、甲9には以下の発明(以下「引用発明9」という。)が記載されているものと認める。
「ヒト臍帯由来の間葉系幹細胞の培養上清を超遠心分離して得られたエクソソームを有効成分とする抗線維化剤。」
(10)甲10(Immunity、2019年、Vol.50、p.992-1006)に記載された発明
甲10の概要、図1、及び1000頁右欄27~41行に記載された事項に基づけば、甲10には以下の発明(以下「引用発明10」という。)が記載されているものと認める。
「抗TNFなどの線維化発生を遅らせる抗炎症薬。」
(11)甲11(Journal of Cellular physiology、2018年、Vol.223、p.6832-6840)に記載された発明
甲11の概要、6834頁段落2.1~2.3、6837頁段落3.5及び6838頁右欄最終段落~6839頁左欄第3段落に記載された事項に基づけば、甲11には以下の発明(以下「引用発明11」という。)が記載されているものと認める。
「ヒト臍帯由来の間葉系幹細胞の培養上清を遠心分離して得られたエクソソームを有効成分とするTreg誘導剤。」
(12)甲12(Journal of Hematology & Oncology、2018年、11:135)に記載された発明
甲12の概要に記載された事項に基づけば、甲12には以下の発明(以下「引用発明12」という。)が記載されているものと認める。
「骨髄由来の間葉系幹細胞の培養を超遠心法を用いて調製したエクソソームを有効成分とする抗線維化剤。」
(13)甲13(京都大学プレスリリース、2019年)に記載された事項
甲13の本文5~6行には、以下の記載がある。
「Tregは免疫を抑える機能を持つT細胞です。このTregを人工的に誘導することは、自己免疫疾患や炎症性疾患など免疫系の活性化を原因とする病気の治療に繋がると考えられます。」
(14)甲14(Clinical Study、2013年、Vol.34、No.3、p.5-7)に記載された事項
甲14の5頁左欄6~7行及び図1に記載された事項に基づけば、甲14には、傷害され炎症を起こした組織は、(1)再生、(2)修復、(3)線維化のどれか1つの道を進むこと、及び組織傷害の持続(慢性炎症)が線維化をもとらすことが開示されている。
(15)甲15(BMC Nephrology、2017年、18:225)に記載された事項
甲15の概要、2頁左欄2~8行、及び7頁右欄最終行~8頁左欄4行に記載された事項に基づけば、甲15には、制御性T細胞(Treg)細胞移植が線維症を減少させること、すなわちTregの抗線維化作用が開示されている。
(16)甲16(Theranostics)、2016年、Vol.6、Issue12、p.2052-2067)に記載された事項
甲16の概要、及び2061頁左欄4~7行に記載された事項に基づけば、甲16には、制御性T細胞(Treg)が抗線維化細胞であることが開示されている。
(17)甲17(Journal of Trauma and Acute Care Surgery、2019年、Vol.81、No.1、Suppl.1、p.S74-S82)に記載された事項
甲17には、前記第5の1(11)に摘記した事項が記載されている。
(18)甲18(Cells、2019年、8:258、doi:10.3990/cells8030258)に記載された事項
甲18には、前記第5の1(12)に摘記した事項が記載されている。
(19)甲19(Drug Delivery、2018年、Vol.25、No.1、p.1-11)に記載された事項
甲19の概要、5頁左欄20行~右欄下から10行目、及び6頁右欄8行~7頁右欄9行に記載された事項に基づけば、甲19には、クルクミンを含むホスファチジルセリン修飾ナノ構造脂質キャリアが、クルクミンの滞留時間を延長し、クルクミンのバイオアベイラビリティと肝臓への送達効率を高め、肝線維症の治療においてクルクミンの抗線維化活性を有意に増強することが開示されている。
(20)甲20(Scientific Reports、2016年、6:33935)に記載された発明
甲20の概要、3頁第2~3段落、図6A、7頁最終段落~9頁第3段落及び9頁下から2段落目に記載された事項に基づけば、甲20には以下の発明(以下「引用発明20A」及び「引用発明20B」という。)が記載されているものと認める。
(引用発明20A)
「細胞由来の細胞外小胞からTim4タンパク質を用いる方法により単離された細胞外小胞。」
(引用発明20B)
「細胞由来の細胞外小胞からTim4タンパク質を用いる方法により細胞外小胞を得ることを含む、細胞外小胞の製造方法。」
(21)甲21(国際公開第2016/088689号)に記載された発明
前記第5の1(1)アに示した甲21に記載された事項に基づけば、甲21には、以下の発明(以下「引用発明21A」という。)及び引用発明21B(前記第5の1(1)イに記載したものを再掲する。)が記載されているものと認める。
(引用発明21A)
「T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子4(Tim4)タンパク質、T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子3(Tim3)タンパク質、及びT細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子1(Tim1)タンパク質から選ばれるタンパク質(Timタンパク質)が結合した担体(Tim担体)を用いて得られた細胞外小胞を有効成分とする医薬品。」
(引用発明21B)
「T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子4(Tim4)タンパク質、T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子3(Tim3)タンパク質、及びT細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子1(Tim1)タンパク質から選ばれるタンパク質(Timタンパク質)が結合した担体(Tim担体)を用いて試料中の細胞外膜小胞を取得する方法であって、
以下の工程を含むことを特徴とする方法;
(1)カルシウムイオン存在下、担体に結合したTimタンパク質と試料中の細胞外膜小胞との複合体を形成させる工程(複合体形成工程)
(2)当該複合体と試料とを分離する工程(複合体分離工程)
(3)当該複合体から細胞外膜小胞を分離し、細胞外膜小胞を取得する工程(取得工程)。」
(22)甲22(Biol.Pharm.Bull.、2018年、Vol.41、p.835-842)に記載された発明
甲22の標題、概要、835頁セクション2.1、837頁セクション3.2、838頁表1及び838頁セクション3.5に記載された事項に基づけば、甲22には以下の発明(以下「引用発明22A」及び「引用発明22B」という。)が記載されているものと認める。
(引用発明22A)
「間葉系幹細胞由来のエクソソームであって、ホスファチジルセリンアフィニティー法を用いて分離されたエクソソームを含む製剤。」
(引用発明22B)
「ホスファチジルセリンアフィニテイー法によりエクソソームを分離することを含む、間葉系幹細胞由来のエクソソームを含む製剤の製造方法。」
2 甲1を主引用例とした申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)についての判断
(1)本件発明1について
ア 対比
前記第5の2(1)アの対比を踏まえて、本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「エクソソーム」は、本件発明1における「細胞外小胞」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明1とは、「間葉系幹細胞に由来する細胞外小胞を有効成分とする抗線維化剤」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2>
「細胞外小胞」について、本件発明1では、「PSが細胞外小胞の膜表面に露出しており、Timタンパク質が上記PSに対して特異的に結合することが可能な細胞外小胞」であるのに対し、引用発明1では、「間葉系幹細胞(MSC)の培養上清を超遠心分離して得られたエクソソーム」である点。
イ 新規性の判断
上記相違点2について検討する。
本件発明の技術的意義について、本件特許明細書の発明の詳細な説明を参照すると、「間葉系幹細胞に由来する細胞外小胞から超遠心法により取得された細胞外小胞が、抗線維化作用(抗線維化効果)を有することが報告されている」(【0004】)という背景技術のもと、「本発明者が間葉系幹細胞に由来する細胞外小胞から超遠心法により取得された細胞外小胞の抗線維化作用について検証したところ、当該作用は弱く、産業利用するには不十分であることが判った」(【0007】)ことから、本件発明は「より治療効果が高い細胞外小胞の集団により構成された治療用製剤、特に抗線維化剤を提供すること」を解決しようとする課題として、「鋭意検討した結果、ホスファチジルセリン(PS)に対する親和性を有する物質を利用した方法(PSアフィニティー法)により取得されたPS陽性という特長を有する細胞外小胞の集団」「が、抗線維化剤として高い効果を有することを見出し、本発明を完成させるに至った」(【0008】)ことが説明されている。
そして、本件発明の「細胞外小胞」については、「本発明が提供する抗線維化剤における有効成分である細胞外小胞(・・・)は、本発明に係るMSCに由来する細胞外小胞からホスファチジルセリンに対して親和性を有する物質を用いて単離、取得した細胞外小胞(以下、「PS陽性細胞外小胞」と略記する場合がある)・・・である」(【0018】;下線は合議体が付したものである。以下同様。)、及び「PS陽性細胞外小胞は、EVを含む本発明に係るMSCの細胞培養上清液(・・・)から、ホスファチジルセリンに対して親和性を有する物質を用いて単離すること、又はEVを含む本発明に係るMSCの細胞培養上清液から例えば超遠心法等のこの分野の常法によりEVを取得した後、得られたEVからホスファチジルセリンに対して親和性を有する物質を用いて単離することにより得られる。なかでも、EVを含む本発明に係るMSCの細胞培養上清液からホスファチジルセリンに対して親和性を有する物質を用いて直接単離するのが好ましい。」(【0021】)と説明され、実施例(【0075】~【0097】)においては、PSアフィニティー法によって単離された細胞外小胞は、超遠心法により取得された細胞外小胞(比較例)とは、マーカータンパク質(CD9とCD63)の発現量が異なり(【0082】)、細胞外小胞の由来する間葉系幹細胞の種類によらず、顕著に高い抗線維化作用を有すること(【0097】)が示されている。
さらに、本件発明の「抗線維化剤」については、「本発明が提供する抗線維化剤は、基本的には、MSC由来の細胞外小胞から単離して得られた本発明に係る細胞外小胞を有効成分とするものであり、・・・製剤化されたものである」(【0066】)ことが説明されている。
以上のような、本件特許明細書に開示される本件発明の技術的意義を踏まえれば、本件発明1の「抗線維化剤」において、その「有効成分」となる「PSが細胞外小胞の膜表面に露出しており、Timタンパク質が上記PSに対して特異的に結合することが可能な細胞外小胞」とは、「PSに対して親和性を有する物質を用いて単離」された細胞外小胞の集団であって、従来の「超遠心法により取得された細胞外小胞」とは異なる特性及び構造を有する細胞外小胞の集団を意味するものであることは明らかである。
したがって、上記相違点2は実質的な相違点であり、本件発明1は甲1に記載された発明とはいえず、新規性を有する。
ウ 進歩性の判断
Tim4タンパク質などのPSに対する親和性を用いて、間葉系幹細胞等の細胞外小胞を単離する方法は、甲20~甲22(前記1(20)~(22))に記載されるように本件特許の優先日当時に公知の技術であった。
しかしながら、甲1には、「超遠心分離して得られたエクソソーム」に換えて、「PSに対する親和性を用いて」単離した「PS陽性のエクソソーム」を用いることを示唆する記載はない。
かえって、甲17及び甲18(前記1(17)及び(18))に記載されるように、PS陽性の細胞外小胞には、医薬としての適用を想定した場合には有害事象の原因ともなる「血液凝固活性」及び「血栓形成性」があることも知られていた。
そうすると、積極的な動機付けのない甲1に記載される引用発明1において、有効成分となる「遠心分離して得られたエクソソーム」を、医薬としては有害事象の懸念がある「PSに対する親和性を用いて」単離した「PS陽性のエクソソーム」に敢えて置換することは、当業者が容易に想到し得ないものである。
さらに、本件発明1は上記相違点2に係る構成を採用することにより、超遠心法により取得される引用発明1のエクソソームに比べて、顕著に高い抗線維化作用を発揮するものであり、このような本件発明1の構成により奏される効果は、甲1~甲22のいずれからも予測し得ない顕著な効果である。
エ 申立人の主張について
申立人は、異議申立書(71頁最終行~72頁15行)及び意見書(4頁5行~6頁5行)において、甲17に示されるように、骨髄由来の細胞外小胞は、Timタンパク質を用いて濃縮するまでもなく、PSを表出していることから、本件発明1において、細胞外小胞をPSアフィニティー法により得られたものに限定しない限り、本件発明1には、超遠心法により得られる細胞外小胞を含む抗線維化剤も含まれる旨の主張をしている。
しかしながら、前記1(17)(甲17-7)のグラフから明らかなとおり、全ての間葉系幹細胞由来の細胞外小胞がPS膜表面に表出するものではなく、間葉系幹細胞の種類によって、PS陽性の細胞外小胞の割合も異なるものであるところ、たとえ、同じ間葉系幹細胞に由来する細胞外小胞であっても、PSアフィニティー法により取得された集団と、超遠心法により取得された集団とは、別異の集団であって、甲1には、PS陽性細胞外小胞の割合の高い集団を使用することを動機づける記載乃至示唆はない。
他方、前記イにおいて説示したとおり、「従来の超遠心法により取得された細胞外小胞」は、「抗線維化作用」が「弱く、産業利用するには不十分である」という課題を解決するために、「より治療効果が高い細胞外小胞の集団」として、「PSに対する親和性を有する物質を利用した方法(PSアフィニティー法)により取得されたPS陽性という特長を有する細胞外小胞の集団」を利用するという本件発明の技術的思想、並びに本件発明の「抗線維化剤」において「有効成分」となる「細胞外小胞」としては、PSに対して親和性を有する物質を用いて「単離」されたものを用いることが、本件特許明細書全体において一貫して説明されていることを踏まえれば、本件発明1において、従来技術に相当する「超遠心法により得られる細胞外小胞を含む抗線維化剤も含まれる」と解釈される余地はない。
したがって、申立人の主張を採用することはできない。
オ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、引用発明1並びに甲1~甲22の記載に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の下位概念となる発明であり、少なくとも前記相違点2において引用発明1と相違するものである。
そして、相違点2についての判断は、前記(1)において説示したとおりである。
よって、本件発明2~4は、甲1に記載された発明ではなく、また、引用発明1並びに甲1~甲22の記載に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 甲2~甲12を主引用例とした申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)についての判断
前記2(1)アにおける対比を踏まえて、本件発明1と引用発明2~12を対比すると、本件発明1と引用発明2~12とは、少なくとも前記相違点2において相違するものである。
また、本件発明1の下位概念となる本件発明2~4についても同様である。
そして、相違点2についての判断は、前記2(1)イ~オにおいて説示したとおりである。
したがって、本件発明1~4は、甲2~甲10に記載された発明ではなく、また、引用発明2~9又は10、並びに甲1~甲22の記載に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明1~4は、引用発明11又は12、並びに甲1~甲22の記載に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 甲20を主引用例とした申立理由2(進歩性)についての判断
(1)本件発明1~4について
ア 対比
本件発明1と引用発明20Aとを対比する。
本件発明1における「PSが細胞外小胞の膜表面に露出しており、Timタンパク質が上記PSに対して特異的に結合することが可能な細胞外小胞」とは、本件特許明細書【0020】~【0022】に説明されるように、Tim4タンパク質等を用いて単離することで取得される細胞外小胞であるから、引用発明20Aにおける「細胞由来の細胞外小胞からTim4タンパク質を用いる方法により単離された細胞外小胞」は、本件発明1における上記「細胞外小胞」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明20Aとは、「PSが細胞外小胞の膜表面に露出しており、Timタンパク質が上記PSに対して特異的に結合することが可能な細胞外小胞」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点4A>
「細胞外小胞」について、本件発明1では、その由来が「間葉系幹細胞」に特定され、その用途が「抗線維化剤」に特定されるものであるのに対し、引用発明20Aは、細胞外小胞の由来及び用途が特定されていない点。
イ 判断
上記相違点4Aについて検討すると、遠心分離して得られた間葉系幹細胞由来の細胞外小胞を抗線維化剤とすることは、甲1~甲9(前記1(1)~(9))に記載されるように、本件特許の優先日当時における周知技術であった。
しかしながら、上記2(1)エで説示したとおり、たとえ、同じ間葉系幹細胞に由来する細胞外小胞であっても、PSアフィニティー法により取得された集団と、超遠心法により取得された集団とは、別異の集団であり、甲17及び甲18(前記1(17)及び(18))に記載されるように、PS陽性の細胞外小胞には、医薬としての適用を想定した場合には有害事象の原因ともなる「血液凝固活性」及び「血栓形成性」があることが知られていたことから、引用発明20Aにおいて、上記相違点4Aに係る構成を採用することには阻害要因があり、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本件発明1は、上記相違点4Aに係る構成を採用することで、従来周知の超遠心法により得られた間葉系幹細胞由来の細胞外小胞を有効成分とする抗線維化剤に比べて、抗線維化活性が高まるという、引用発明20A及び甲1~甲22の記載からは予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
本件発明1の下位概念に当たる本件発明2~4についても、少なくとも前記相違点4Aにおいて引用発明20Aと相違するものであり、その判断についても上述のとおりである。
ウ 小括
したがって、本件発明1~4は、引用発明20A、並びに甲1~甲22の記載に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明5及び6について
ア 対比
本件発明5と引用発明20Bとを対比すると、引用発明20Bにおける「Tim4タンパク質」は、本件発明5における「Timタンパク質」に相当する。
そうすると、両発明は、「細胞由来の細胞外小胞からTimタンパク質を用いる方法により細胞外小胞を得ることを含む、製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点4B>
本件発明5では、「細胞外小胞」の由来が「間葉系幹細胞」に特定され、「抗線維化作用を有する細胞外小胞を有効成分とする抗線維化剤」を製造することが特定されているのに対し、引用発明20Bでは、そのような特定がされていない点。
イ 判断
そして、上記相違点4Bは、前記第5の2(1)アで示した相違点1と同一の相違点であるから、その判断についても前記第5の2(1)イで説示したとおりである。
本件発明5の下位概念に当たる本件発明6についても、少なくとも前記相違点4Bにおいて引用発明20Bと相違するものであり、その判断についても上述のとおりである。
ウ 小括
したがって、本件発明5及び6は、引用発明20B及び甲1~甲22の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
5 甲21を主引用例とした本件発明1~4に対する申立理由2(進歩性)についての判断
(1) 対比
本件発明1と引用発明21Aとを対比する。
本件発明1における「PSが細胞外小胞の膜表面に露出しており、Timタンパク質が上記PSに対して特異的に結合することが可能な細胞外小胞」とは、本件特許明細書【0020】~【0022】に説明されるように、Tim4タンパク質等を用いて単離することで取得される細胞外小胞であるから、引用発明21Aにおける「T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子4(Tim4)タンパク質、T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子3(Tim3)タンパク質、及びT細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子1(Tim1)タンパク質から選ばれるタンパク質(Timタンパク質)が結合した担体(Tim担体)を用いて得られた細胞外小胞」は、本件発明1における上記「細胞外小胞」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明21Aとは、「PSが細胞外小胞の膜表面に露出しており、Timタンパク質が上記PSに対して特異的に結合することが可能な細胞外小胞」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点5>
本件発明1では、細胞外小胞の由来が「間葉系幹細胞」に特定され、「抗線維化剤」という医薬用途が特定されているのに対し、引用発明21Aは、細胞外小胞の由来及び医薬用途について特定がない点。
(2)判断
上記相違点5について検討すると、遠心分離して得られた間葉系幹細胞由来の細胞外小胞を抗線維化剤とすることは、甲1~甲9(前記1(1)~(9))に記載されるように、本件特許の優先日当時における周知技術であった。
しかしながら、上記2(1)エで説示したとおり、たとえ、同じ間葉系幹細胞に由来する細胞外小胞であっても、PSアフィニティー法により取得された集団と、超遠心法により取得された集団とは、別異の集団であり、甲17及び甲18(前記1(17)及び(18))に記載されるように、PS陽性の細胞外小胞には、医薬としての適用を想定した場合には有害事象の原因ともなる「血液凝固活性」及び「血栓形成性」があることが知られていたことから、引用発明21Aにおいて、上記相違点5に係る構成を採用することには阻害要因があり、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本件発明1は、上記相違点5に係る構成を採用することで、従来周知の超遠心法により得られた間葉系幹細胞由来の細胞外小胞を有効成分とする抗線維化剤に比べて、抗線維化活性が高まるという、引用発明21A及び甲1~甲22の記載からは予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
本件発明1の下位概念に当たる本件発明2~4についても、少なくとも前記相違点5において引用発明21Aと相違するものであり、その判断についても上述のとおりである。
(3)小括
したがって、本件発明1~4は、引用発明21A、並びに甲1~甲22の記載に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
6 甲22を主引用例とした申立理由2(進歩性)についての判断
(1)本件発明1~4について
ア 対比
前記第5の2(1)アの対比を踏まえて、本件発明1と引用発明22Aとを対比すると、引用発明22Aにおける「間葉系幹細胞由来のエクソソーム」は、本件発明1における「間葉系幹細胞に由来する細胞外小胞」に相当する。
また、前記4(1)の対比を踏まえると、引用発明22Aにおける「PSアフィニティー法を用いて分離されたエクソソーム」は、本件発明1における「PSが細胞外小胞の膜表面に露出しており、Timタンパク質が上記PSに対して特異的に結合することが可能な細胞外小胞」に相当する。
よって、本件発明1と引用発明22Aとは、「間葉系幹細胞に由来する細胞外小胞であって、PSが細胞外小胞の膜表面に露出しており、Timタンパク質が上記PSに対して特異的に結合することが可能な細胞外小胞を有効成分とする製剤」において一致し、以下の点で相違する。
<相違点6A>
本件発明1では、「抗線維化剤」であるのに対し、引用発明22Aでは、「製剤」の用途が特定されていない点。
イ 判断
上記相違点6Aについて検討すると、甲17及び甲18(前記1(17)及び(18))に記載されるように、PS陽性の細胞外小胞には、医薬としては有害事象の原因ともなる「血液凝固活性」及び「血栓形成性」があることが知られていたことから、引用発明22Aにおいて、上記相違点6Aに係る構成を採用することには阻害要因があり、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本件発明1は、「PSが細胞外小胞の膜表面に露出しており、Timタンパク質が上記PSに対して特異的に結合することが可能な細胞外小胞」を「抗線維化剤」として用いた場合に、従来周知の超遠心法により得られた間葉系幹細胞由来の細胞外小胞に比べて抗線維化活性が高まるという、引用発明22A及び甲1~甲22の記載からは予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
本件発明1の下位概念に当たる本件発明2~4についても、少なくとも前記相違点6Aにおいて引用発明22Aと相違するものであり、その判断についても上述のとおりである。
ウ 小括
したがって、本件発明1~4は、引用発明22A、並びに甲1~甲22の記載に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明5及び6について
ア 対比
前記第5の2(1)アの対比を踏まえて、本件発明5と引用発明22Bとを対比すると、引用発明22Bにおける「間葉系幹細胞由来のエクソソーム」は、本件発明5における「間葉系幹細胞に由来する細胞外小胞」に相当する。
また、本件特許明細書【0020】~【0022】には、「Timタンパク質」は「PSに対する親和性を有する物質」としてPSアフィニティー法に使用できることが説明されているから、引用発明22Bにおける「PSアフィニテイー法によりエクソソームを分離すること」と、本件発明5における「Timタンパク質を用いる方法により細胞外小胞を得ること」とは、いずれも「PSアフィニテイー法」で「細胞外小胞を得る」限りにおいて一致する。
そうすると、本件発明5と引用発明22Bとは、「間葉系幹細胞由来の細胞外小胞からPSアフィニテイー法により細胞外小胞を得ることを含む、細胞外小胞を含む製剤の製造方法」で一致し、以下の点で相違する。
<相違点6B>
本件発明5では、「抗線維化作用を有する」「細胞外小胞を有効成分とする抗線維化剤」を製造するのに対し、引用発明22Bではそのように特定されていない点。
<相違点6C>
本件発明5では、PSに対する親和性を有する物質として、「Timタンパク質」を用いることが特定されているのに対し、引用発明22Bではそのように特定されていない点。
イ 判断
上記相違点について検討すると、相違点6Bについては、前記(1)イにおいて相違点6Aについて説示したと同様の理由により、引用発明22Bにおいて、上記相違点6Bに係る構成を採用することには阻害要因があるから、相違点6Cについて検討するまでもなく、本件発明5は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本件発明5の製造方法により製造された「抗線維化剤」は、従来周知の遠心分離して得られた間葉系幹細胞由来の細胞外小胞を有効成分とする抗線維化剤に比べて抗線維化活性が高まるという、引用発明22B及び甲1~甲22の記載からは予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
本件発明5の下位概念に当たる本件発明6についても、少なくとも前記相違点6Bにおいて引用発明22Bと相違するものであり、その判断についても上述のとおりである。
ウ 小括
したがって、本件発明5及び6は、引用発明22B、並びに甲1~甲22の記載に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書で通知された取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によって、本件訂正後の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700716