特許異議申立
2024-700708
包餡麺帯食品及びその製造方法
- 審判番号
- 2024-700708
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-158636
- 登録番号
- 7423940
- 請求日
- 2024年07月26日
- 審決日
- 2024年11月28日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】味の素株式会社
- 【権利者代理人】高島 一
- 【権利者代理人】鎌田 光宜
- 【権利者代理人】中 正道
- 【異議申立人】鈴木 順子
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 天野 宏樹
- 審判官 松本 陶子
- 分類
- P1651.537-Y (A23L) / P1651.536-Y (A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7423940号発明「包餡麺帯食品及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7423940号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7423940号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、令和元年8月30日の出願であって、令和6年1月22日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年同月30日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、同年7月26日に特許異議申立人鈴木順子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~9)がされたものである。
第2 本件発明について
本件特許の請求項1~9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明9」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。
「[請求項1]
遊離又は塩形態のアルギニンを含有する組成物が加熱されて形成される焼き面を有する冷凍包餡麺帯食品であって、
前記組成物における遊離又は塩形態のアルギニンの含有量が、0.03~2.5重量%である、冷凍包餡麺帯食品。
[請求項2]
前記組成物が、水、デンプン類、穀物粉及び油からなる群より選択される少なくとも一つを更に含有する、請求項1記載の冷凍包餡麺帯食品。
[請求項3]
包餡麺帯食品が、餃子である、請求項1又は2記載の冷凍包餡麺帯食品。
[請求項4]
遊離又は塩形態のアルギニンを含有する組成物を表面に付着させて加熱すること及び加熱後に焼き面を有する包餡麺帯食品を凍結することを含む、冷凍包餡麺帯食品の製造方法であって、
前記組成物における遊離又は塩形態のアルギニンの含有量が、0.03~2.5重量%である、製造方法。
[請求項5]
前記組成物が、水、デンプン類、穀物粉及び油からなる群より選択される少なくとも一つを更に含有する、請求項4記載の製造方法。
[請求項6]
包餡麺帯食品が、餃子である、請求項4又は5記載の製造方法。
[請求項7]
遊離又は塩形態のアルギニンを含有する、焼き面形成後に凍結される包餡麺帯食品の焼き面形成用組成物であって、
遊離又は塩形態のアルギニンの含有量が、0.03~2.5重量%である、組成物。
[請求項8]
水、デンプン類、穀物粉及び油からなる群より選択される少なくとも一つを更に含有する、請求項7記載の組成物。
[請求項9]
包餡麺帯食品が、餃子である、請求項7又は8記載の組成物。」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。なお、特許異議申立理由の番号は当審が仮に付与した。
1.理由1(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、本件発明1~9についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)請求項1~3(「組成物が加熱されて形成される焼き面を有する冷凍包餡麺帯食品」)について
請求項1の「組成物が加熱されて形成される焼き面を有する冷凍包餡麺帯食品」の記載にあって、「組成物が加熱されて形成される焼き面を有する」が、「組成物が加熱されて形成された焼き面」を意味するのか、「組成物が加熱されて形成される」ことを予定した焼き「面」であることを意味するのか、など複数の解釈ができ、その内容が特定されない。請求項1は、その記載自体が不明確である。請求項1を引用する請求項2~3についても同様に不明確である。
(2)請求項4~6(「遊離又は塩形態のアルギニンを含有する組成物を表面に付着させて加熱すること」)について
請求項4の「遊離又は塩形態のアルギニンを含有する組成物を表面に付着させて加熱すること」の発明特定事項にあって、(a)アルギニンを含有する組成物をどの部分にどのように付着させるかの特定がなく、またその粘度などの物性の特定もなく、(b)加熱の条件の特定もなされていない。(a)及び(b)の事項は、「包餡麺帯食品の焼き面の外観を向上させる」という本件発明の課題を解決するために必要な事項であり、かつ、食品の焼き面の外観を決める重要な条件であることは技術常識から理解できる。よって、この(a)及び(b)の事項を欠く上記発明特定事項の技術的意味を当業者は理解できず、さらに、出願時の技術常識を考慮すると発明特定事項が不足していることが明らかである。したがって請求項4の記載は不明確である。請求項4を引用する請求項5及び6についても同様に不明確である。
(3)請求項1~6(「前記組成物における遊離又は塩形態のアルギニンの含有量が、0.03~2.5重量%である」)について
物の発明を規定する請求項1、製造方法の発明である請求項4のいずれにあって「前記組成物における遊離又は塩形態のアルギニンの含有量が、0.03~2.5重量%である」と「アルギニンを含有する組成物」におけるアルギニンの濃度を規定しながら、当該組成物の対象食品への付着量を規定していない。
本件特許明細書の段落0007は、「アルギニンを含有する組成物(例、バッター液等)を包餡麺帯食品の表面に付着させて加熱することよって、包餡麺帯食品の焼き面が、キメが細かく、程良い焼き色がついた好ましい外観となり得る」や、「アルギニンを含有する組成物を包餡麺帯食品の表面に付着させて加熱することよって、包餡麺帯食品の焼き面が、クリスピー感を有する好ましい食感となり得る」と説明するが、対象食品へのアルギニンの付着量によって本件特許明細書が説明する「焼き面」及び「食感」が達成されたり、されなかったりすることは容易に想像できるところ、付着量の限定は上記のとおり請求項1及び4には無い。
その結果、請求項1及び4が規定する「焼き面を有する冷凍包餡麺帯食品」における「焼き面」の技術的意味を当業者は理解できず、さらに、出願時の技術常識を考慮すると「アルギニンを含有する組成物」におけるアルギニンの濃度を規定するのみでは発明特定事項が不足していることは明らかである。したがって請求項1及び4の記載は不明確である。これら請求項を引用するその余の請求項の記載も同様に不明確である。
(4)請求項7~9(「焼き面形成後に凍結される包餡麺帯食品の焼き面形成用」)について
本件発明が「包餡麺帯食品の焼き面の外観を向上させる」ことを課題とする(本件特許明細書段落0005~0006)ことからすれば、請求項7の「焼き面形成後に凍結される包餡麺帯食品の焼き面形成用」は、実質的には、請求項4~6に記載の「冷凍包餡麺帯食品の製造方法」の本件発明4~6に用いられることを規定していると理解される。
上記のとおり、請求項4~6は明確性要件を欠き本件発明4~6は不明確であり、その不明確な発明に用いられると規定する請求項7の記載も明確性を欠くことは明らかである。請求項7を引用する請求項8及び9も同様に不明確である。
2.理由2(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明1~9についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)請求項1(アルギニンの付着量)について
本件発明の課題を解決する技術手段は、請求項1にあって「前記組成物における遊離又は塩形態のアルギニンの含有量が、0.03~2.5重量%である」と、「アルギニンを含有する組成物」におけるアルギニンの濃度を特定の値に置くことと規定されている。しかしながら、本件特許明細書が説明する「焼き面」及び「食感」が得られるか否かは、対象食品にアルギニンがいかなる濃度の組成物として付着されるかのみならず、その付着の絶対量により定まるであろうことは容易に想像できる。その結果、対象食品へのアルギニンの付着量の規定を欠く請求項1は、本件発明1の課題を解決するための手段が記載されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えた発明を記載すると言わざるを得ない。
(2)請求項1(「焼き面のクリスピー感」)について
令和5年11月10日付け審判請求書は、審査において引用された引用文献2(特開平06-245740号公報)と対比した本件発明の特徴は、焼き面のクリスピー感において優れるとの効果であると主張する。つまり、この効果の裏返しとして、本件発明は「焼き面のクリスピー感」において優れるものを提供することを課題としていると理解される。
ここで、コントロール並びに実施例1、9、17及び21のバッター液の組成、冷凍餃子製造に際し付着させたバッター液の量、さらに換算されるアルギニンの付着量、そして得られた餃子のクリスピー感の官能評価結果をみると、まず、「コントロール」と「実施例1」との対比から、アルギニンの存在がクリスピー感の向上に寄与していることは理解でき、また「実施例9」を見ると「実施例1」に比較してアルギニンの付着量が少量である(5%程度)であるにも関わらず、クリスピー感が維持されている。
しかし、「実施例17」を見ると、「実施例1」とアルギニンの付着量は同量であるにもかかわらず、クリスピー感がアルギニンを含まない「コントロール」と同じレベルまで低下している。「実施例1」と「実施例17」の相違は、穀物粉(米粉)の量であり、アルギニンが存在するにもかかわらず、穀物粉(米粉)の量を15重量%から5重量%と1/3量とした途端に、クリスピー感の向上という効果が消失している。
これら実施例からすると、本件発明の「焼き面のクリスピー感において優れるものを提供する」との課題は、アルギニン単独では達成されず、他のバッター液の成分、とりわけ「穀物粉(米粉)」との組み合わせが必要になることは明白である。このような課題解決のために必要となるバッター液の成分を欠く請求項1は、本件発明1の課題を解決するための手段が記載されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えた発明を記載すると言わざるを得ない。
なお、上記実施例からは、アルギニンの付着量を「実施例1」と「実施例9」との間の値とした「実施例21」においても、クリスピー感の向上という効果が消失していることが読み取れる。これら関係を本件特許明細書は何ら説明しないが、アルギニンのみで本件発明の課題が解決できないことは、この「実施例21」が示す実験結果からも明らかである。
(3)請求項2(アルギニンの付着量及びバッター液の成分)について
アルギニンの付着量につき何ら限定のない請求項2には、アルギニンの付着量の要件を欠くとの、請求項1における瑕疵が依然存在する。また、「水、デンプン類、穀物粉及び油」の「少なくとも一つを更に含有する」との事項では、課題解決のために必要となるバッター液の成分を欠くとの瑕疵は依然解消していない。よって、本件発明2について、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。
(4)請求項3(アルギニンの付着量及びバッター液の成分)について
アルギニンの付着量及びバッター液の成分につき何ら限定のない請求項3には、アルギニンの付着量の要件を欠く及びバッター液の成分を欠くとの請求項1及び2の瑕疵が依然存在する。よって、本件発明3について、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。
(5)請求項4について
本件発明4にあっても、発明の課題を解決する技術手段として、対象食品にアルギニンがいかなる濃度の組成物として付着されるかのみならず、その付着の絶対量が定まらなければならないことは、本件発明1とまったく同様である。さらに、アルギニンを含有する組成物を表面に付着させる操作において当該組成物の物性、例えば粘度等が影響を及ぼすことも明白であるし、また加熱の温度、加熱方法等の製造条件によっても、包餡麺帯食品の焼き面、クリスピー感が変化することもまた明白である。しかし、請求項4はこのような組成物の物性、さらには製造条件等の限定も何らされていない。その結果、冷凍包餡麺帯食品の製造方法において不可欠な要件を欠く請求項4は、本件発明4の課題を解決するための手段が記載されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えた発明を記載すると言わざるを得ない。
また、本件発明1と同様、実施例からすると、本件発明4の「焼き面のクリスピー感において優れるものを提供する」との課題は、アルギニン単独では達成されず、他のバッター液の成分、とりわけ「穀物粉(米粉)」との組み合わせが必要になることは明白である。その結果、課題解決のために必要となる他のバッター液の成分を欠く請求項4は、本件発明4の課題を解決するための手段が記載されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えた発明を記載する。
よって、本件発明4について、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。
(6)請求項5について
アルギニンを含有する組成物の付着量その他製造方法に不可欠な条件について限定のない請求項5には、請求項4と同様の瑕疵が依然存在する。また、「水、デンプン類、穀物粉及び油」の「少なくとも一つを更に含有する」との事項では、課題解決のために必要となるバッター液の成分を欠くとの瑕疵は依然解消していない
よって、本件発明5について、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。
(7)請求項6について
アルギニンを含有する組成物の付着量その他製造方法に不可欠な条件について何ら限定がなく、他のバッター液の成分の限定もない請求項6には、請求項4及び5の瑕疵が依然存在する。
よって、本件発明6について、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。
(8)請求項7について
本件発明が「包餡麺帯食品の焼き面の外観を向上させる」ことを課題とする(本件特許明細書段落0005~0006)ことからすれば、請求項7の「焼き面形成後に凍結される包餡麺帯食品の焼き面形成用」は、実質的には、請求項4~6に記載の「冷凍包餡麺帯食品の製造方法」の本件発明4~6に用いられることを規定していると理解される。
上記のとおり、本件発明4~6はサポート要件を欠き、そのサポート要件を欠く発明に用いられると規定する請求項7の記載もサポート要件を欠くことは明らかである。
よって、本件発明7について、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たない。
(9)請求項8について
アルギニンを含有する組成物の付着量その他製造方法に不可欠な条件について限定のない請求項8には、請求項7における瑕疵が依然存在する。また、「水、デンプン類、穀物粉及び油」の「少なくとも一つを更に含有する」との事項では、課題解決のために必要となるバッター液の成分を欠くとの瑕疵は依然解消していない
よって、本件発明8について、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。
(10)請求項9について
アルギニンを含有する組成物の付着量その他製造方法に不可欠な条件について何ら限定がなく、他のバッター液の成分の限定もない本件発明9には、請求項7及び8の瑕疵が依然存在する。
よって、本件発明9について、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。
3.理由3(実施可能要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、本件発明1~9についての特許は同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)請求項1(アルギニンの付着量)について
以下に述べるとおり、本件特許明細書から、請求項1に規定される本件発明1に係る「冷凍包餡麺帯食品」を明確に把握できず、また本件特許明細書は当該発明に係る「冷凍包餡麺帯食品」を作れるように記載していない。
既に理由1(明確性要件違反)及び理由2(サポート要件違反)に関連して指摘したとおり、本件特許明細書が説明する「焼き面」及び「食感」が得られるか否かは、対象食品にアルギニンがいかなる濃度の組成物として付着されるかのみならず、その付着の絶対量により定まるところ、請求項1は、対象食品へのアルギニンの付着量の規定を欠く。
本件特許明細書において試験例1~7におけるアルギニンの付着量は「重量17gの生餃子1個あたり1.3g」であり、試験例8では「重量17gの生餃子1個あたり0.5~4g」の付着量が記載されているのみである。アルギニンの付着量がこれら試験例以外の値にあっても同様の発明の効果が得られるかにつき、当業者は直ちには理解できず、試行錯誤、実験的確認の必要があり、その結果、物の発明が明確かつ十分に記載されているとは言い難い。さらに、生餃子の大きさ(重量)が変われば、それに応じてアルギニンの付着量も変化させる必要があることは明白であり、この意味でも、発明の実施のために当業者に過度の試行錯誤を強いる明細書の記載である。
したがって、本件発明1に係る物の発明である「冷凍包餡麺帯食品」は明確に説明されておらず、また当該食品が作れるように記載されていない。よって、本件特許明細書は本件発明1を当業者が実施できる程度の明確かつ十分に記載していないことは明らかである。
さらに、段落0066にあるとおり、生餃子の底面にバッター液を1.3g付着させた後において、餃子には水が噴霧され、さらに蒸し器により蒸されている。餃子はこれら工程で水と接触しているから、付着しているバッター液、つまりアルギニンの量は1.3gから変化していることは容易に想像できる。さらにこのアルギニン量の変化は、蒸し器の大きさや、蒸される対象となる食品(餃子)の数などの条件によって変動するであろうこともまた容易に想像できる。つまり、焼成による焼き面形成の前に、餃子に残るバッター液の付着量は、蒸しの条件次第で変動するはずであり、したがって、この試験例1では付着したアルギニンの絶対量は定まらない。試験例2~8についても同様に、付着したアルギニンの絶対量は定まらない。
この意味でも、本件特許明細書は本件発明1を当業者が実施できる程度の明確かつ十分に記載していない。
よって、本件発明1について、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たしていない。
(2)請求項2(アルギニンの付着量)について
アルギニンの付着量につき何ら限定のない本件発明2には、アルギニンの付着量の要件を欠くとの、請求項1における瑕疵が依然存在する。よって、本件発明2について、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たしていない。
(3)請求項3について
アルギニンの付着量につき何ら限定のない本件発明3には、アルギニンの付着量の要件を欠くとの請求項1及び2の瑕疵が依然存在する。よって、本件発明3について、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たしていない。
(4)請求項4について
本件発明4も、本件発明1と同様、実施例からすると、対象食品へのアルギニンの付着量が定まらない。その結果、本件発明4の製造方法の実施のためには、試行錯誤、実験的確認の必要があり、本件発明4に係る方法の発明が明確に説明されているとは言い難い。本件特許明細書は本件発明4を当業者が実施できる程度の明確かつ十分に記載していないことは明らかである。よって、本件発明4についても、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たしていない。
(5)請求項5について
アルギニンの付着量につき何ら限定のない本件発明5には、アルギニンの付着量の要件を欠くとの、請求項4における瑕疵が依然存在する。よって、本件発明5について、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たしていない。
(6)請求項6について
アルギニンの付着量につき何ら限定のない本件発明6には、アルギニンの付着量の要件を欠くとの請求項1及び2の瑕疵が依然存在する。よって、本件発明6について、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たしていない。
(7)請求項7について
既に理由1(明確性要件違反)及び理由2(サポート要件違反)に関連して指摘したとおり、本件発明7は、実質的には、請求項4~6に記載の「冷凍包餡麺帯食品の製造方法」に用いられる「アルギニンを含有する組成物」であることを規定していると理解される。
上記のとおり、本件発明4~6は実施可能要件を欠き、その発明に用いられると規定する本件発明7も実施可能要件を充足するように発明の詳細な説明に記載されていないことは明らかである。よって、本件発明7について、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たしていない。
(8)請求項8について
アルギニンの付着量につき何ら限定のない本件発明8には、アルギニンの付着量の要件を欠くとの、請求項7における瑕疵が依然存在する。よって、本件発明8について、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たしていない。
(9)請求項9について
アルギニンの付着量につき何ら限定のない本件発明9には、アルギニンの付着量の要件を欠くとの請求項7及び8の瑕疵が依然存在する。よって、本件発明9について、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たしていない。
第4 当審の判断
当審は、申立人が申し立てたいずれの特許異議申立理由によっても、本件発明1~9についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおりである。
1.理由1(明確性要件違反)について
(1)明確性要件の判断手法
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)明確性要件についての判断
本件特許の請求項1~9の記載は上記第2のとおりであり、請求項1~9の記載それ自体は明確である。また、本件明細書における技術用語の定義又は説明によって、請求項の記載が不明確になることもない。
よって、本件発明1~9については、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、本件特許に係る出願の出願当時における当業者の技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(3)申立人の主張について
申立人は、上記第3 1.(1)~(4)のように主張しているが、以下のとおり、いずれの主張も採用することはできない。
ア 請求項1~3(「組成物が加熱されて形成される焼き面を有する冷凍包餡麺帯食品」)について
本件明細書の[0046]には、「本発明の組成物が加熱されて形成される焼き面を有する包餡麺帯食品(加熱済み包餡麺帯食品)は、例えば、本発明の組成物を表面に付着させた生包餡麺帯食品を加熱すること等により製造し得る。また、生包餡麺帯食品を本発明の組成物を表面に付着させずに加熱処理(加熱調理)に供して加熱済み包餡麺帯食品を作製した後、当該加熱済み包餡麺帯食品の表面に、本発明の組成物を付着させて加熱すること等によっても製造し得る。」と記載されているから、当業者は上記発明特定事項により特定されるものが「組成物が加熱されて形成された焼き面」を有する食品であると理解することができる。
よって、上記発明特定事項を含む請求項1の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。請求項1の記載を直接又は間接的に引用して記載される請求項2及び3の記載についても同様である。
イ 請求項4~6(「遊離又は塩形態のアルギニンを含有する組成物を表面に付着させて加熱すること」)、請求項1~6(「前記組成物における遊離又は塩形態のアルギニンの含有量が、0.03~2.5重量%である」)について
上記(2)に記載したとおり、請求項4における「遊離又は塩形態のアルギニンを含有する組成物を表面に付着させて加熱すること」との発明特定事項、及び請求項1における「前記組成物における遊離又は塩形態のアルギニンの含有量が、0.03~2.5重量%である」との発明特定事項は、いずれもその記載自体明確である。また、上記(1)に記載した明確性要件の判断手法に照らすと、請求項4又は1に本件発明の課題を解決するために必要な事項が記載されているか否かは、明確性要件の判断に影響を及ぼさない。
よって、請求項4及び1の記載はいずれも明確である。請求項4又は1の記載を直接又は間接的に引用して記載される請求項5及び6並びに2及び3の記載についても同様である。
ウ 請求項7~9(「焼き面形成後に凍結される包餡麺帯食品の焼き面形成用」)について
上記(2)に記載したとおり、請求項7の記載はそれ自体明確である。また、上記(1)に記載した明確性要件の判断手法に照らすと、請求項7に本件発明の課題を解決するために必要な事項が記載されているか否かは、明確性要件の判断に影響を及ぼさない。さらに、請求項7は請求項4~6に従属していないから、請求項4~6の記載の明確性が請求項7の記載の明確性に直接影響することはなく、また、上記イに記載したとおり、請求項4~6の記載は明確であるから、請求項4~6についての明確性の判断を根拠として請求項7の記載を不明確であるとする申立人の主張は妥当ではない。
よって、請求項7の記載は明確である、請求項7の記載を直接又は間接的に引用して記載される請求項8及び9の記載についても同様である。
(4)理由1(明確性要件違反)についてのまとめ
以上のことから、本件発明1~9は、いずれも特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益をもたらすほど不明確であるとはいえないから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、理由1(明確性要件違反)により本件発明1~9についての特許を取り消すことはできない。
2.理由2(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の課題について
本件明細書の[0006]等の記載からみて、本件発明1~3が解決しようとする課題は「焼き面の外観が向上した包餡麺帯食品を提供すること」にあり、本件発明4~6が解決しようとする課題は「焼き面の外観が向上した包餡麺帯食品の製造方法を提供すること」にあり、本件発明7~9が解決しようとする課題は「焼き面の外観が向上した包餡麺帯食品の焼き面形成用組成物を提供すること」にあるものと認められる。
(3)本件明細書の記載事項
本件明細書の[0007]には、課題を解決するための手段について、「アルギニンを含有する組成物(例、バッター液等)を包餡麺帯食品の表面に付着させて加熱することよって、包餡麺帯食品の焼き面が、キメが細かく、程良い焼き色がついた好ましい外観となり得ることを見出した」ことが記載され、[0017]~[0022]には、アルギニンは食品上許容され得るものであれば特に制限されず、L-体、D-体、DL-体のいずれも使用可能であること、アルギニンは遊離又は塩形態であることが好ましいことが記載され、[0023]には、「本発明の組成物における、遊離又は塩形態のアルギニンの含有量は、包餡麺帯食品の焼き面の外観、食感を効果的に向上し得ることから、本発明の組成物に対して、好ましくは、0.01重量%以上であり、より好ましくは0.02重量%以上であり、更に好ましくは0.06重量%以上であり、特に好ましくは0.08重量%以上である。また当該含有量は、本発明の組成物に対して、通常2.5重量%以下であり、食味の観点から、好ましくは2.2重量%以下であり、より好ましくは1.5重量%以下であり、特に好ましくは1.2重量%以下である。本発明において塩形態のアルギニンの量は、遊離形態に換算して算出される」ことが記載されている。
また、[0024]~[0039]には、組成物に含有させてもよいアルギニン以外の成分及び課題解決の観点から好ましいとされるそれぞれの含有量について記載され、[0040]~[0044]には組成物の調製方法及び提供形態について、例えば液状、スラリー状、ペースト状とされることが記載され、[0043]~[0055]には、包餡麺帯食品及び組成物を用いて焼き面を形成する方法について、組成物の付着量及び加熱温度等も含め、餃子を例として具体的に記載され、具体的には、[0049]には、「本発明の組成物は、焼き面を形成できれば、包餡麺帯食品(例、餃子等)に付着させる方法や付着の態様は特に制限されない」ことが記載され、[0050]には、「本発明の組成物の、包餡麺帯食品(例、餃子等)への付着量は、包餡麺帯食品100重量部に対して、通常2.5~32重量部であ」ることが記載され、冷凍処理及び解凍することができることも記載されている。
さらに、[0056]~[0057]には、焼き面の官能特性(外観、食感等)が、例えば専門パネルによる官能評価等によって評価し得るものであることが記載され、[0059]~[0106]には、具体例として、コントロールのバッター液、アルギニンを0.5重量%含有させた実施例1のバッター液、実施例1のアルギニンをタンパク質、乳化剤、消泡剤、安定剤又は糖類に置き換えた比較例1~5、実施例1のpHを変化させた実施例2、3、実施例1の穀粉をデンプン又は加工デンプンに置き換えた実施例4~7、実施例1の乳化剤を無添加とした実施例8、実施例1のアルギニンの配合割合を0.03~2重量%の範囲で変化させた実施例9~12、実施例1の油の配合割合を変化させた実施例13~16、実施例1の穀物粉(米粉)の配合割合を変化させた実施例17~20のバッター液を調製し、各バッター液が加熱されて形成された焼き面を有する加熱済み餃子を作製した後、当該餃子を凍結したこと、及び各冷凍餃子を電子レンジにて解凍し、専門パネル5名で官能評価を行ったところ、実施例のバッター液はいずれも課題を解決し得るものであったことが記載されている。加えて、[0107]~[0110]には、実施例1のバッター液を用いて、餃子1個当たりの付着量を変化させ、焼き面を有する加熱済み餃子を作製し、凍結させて冷凍餃子とし、電子レンジで解凍し、専門パネル5名で官能評価を行ったところ、いずれも課題解決し得るものであったことが記載されている。
(4)サポート要件についての判断
本件明細書の[0007]には、アルギニンを含有する組成物(例、バッター液等)を包餡麺帯食品の表面に付着させて加熱することによって、包餡麺帯食品の焼き面が、キメが細かく、程良い焼き色がついた好ましい外観となり、クリスピー感を有する好ましい食感となり得ることが記載され、[0023]には、組成物におけるアルギニンの含有量は、焼き面の外観、食感等を効果的に向上し得るという観点では0.01重量%以上であることが記載されている。また、[0010]~[0057]の一般記載には、本件発明の組成物に配合し得る任意成分の種類及び含有量、組成物を適用できる包餡麺帯食品の具体例、並びに冷凍餃子を例として焼き面を形成する方法が具体的に記載されており、[0059]~[0110]には、焼き面を有する餃子を、アルギニンを0.5重量%含有する組成物を用いて調製した実施例1と、任意成分を変更した実施例、アルギニンの含有量を変化させた実施例、バッター液の付着量を変更した実施例、及びアルギニンを含有しない組成物を用いた比較例が記載され、それらの官能評価の結果を参酌すると、当業者は、アルギニンを[0023]に記載された割合で含有し、任意に例示された他の成分を含有する組成物を用いることにより、餃子に代表される包餡麺帯食品において、焼き面の外観を向上させ、上記課題を解決し得ると認識することができる。そうすると、当業者は、「遊離又は塩形態のアルギニンを含有する組成物」が「加熱されて形成される焼き面を有する冷凍包餡麺帯食品」において、遊離又は塩形態のアルギニンを含有し、かつ、「前記組成物における遊離又は塩形態のアルギニンの含有量が、0.03重量%以上である」との特定事項を満たすことにより、本件発明の課題を解決し得るものと認識することができる。
そして、本件発明1は、上記発明の課題を解決し得るものと認識できる特定事項の全てを有し、さらに限定するものであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
請求項1と同様の組成物の特定を有する本件発明4及び7、並びに請求項1、4又は7の記載を直接又は間接的に引用して特定される本件発明2、3、5、6、8及び9も、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(5)申立人の主張について
申立人は、上記第3 2.(1)~(10)のように主張しているが、以下のとおり、いずれの主張も採用することはできない。
ア 請求項1(アルギニンの付着量)について
上記(3)に記載したとおり、本件明細書の[0023]には、「遊離又は塩形態のアルギニンの含有量は、包餡麺帯食品の焼き面の外観、食感を効果的に向上し得ることから、本発明の組成物に対して、好ましくは、0.01重量%以上であり、・・・通常2.5重量%以下であ」ることが記載されているから、発明の課題解決の観点から組成物における好ましいアルギニン含有量が記載されている。
また、[0024]~[0039]には、本件発明の目的を損なわない限り、組成物がアルギニン以外の成分を任意で含有してよいことが記載され、[0049]には、「本発明の組成物は、焼き面を形成できれば、包餡麺帯食品(例、餃子等)に付着させる方法や付着の態様は特に制限されない」ことが記載され、[0050]には、「本発明の組成物の、包餡麺帯食品(例、餃子等)への付着量は、包餡麺帯食品100重量部に対して、通常2.5~32重量部であ」ることが記載されており、さらに、実施例として、[0092]~[0096]には、組成物におけるアルギニンの配合割合を0.03~2重量%の範囲で変化させた試験例5が記載され、[0097]~[0101]には、組成物に対する油の配合割合を変化させた試験例6が記載され、[0102]~[0106]には、組成物に対する穀物粉(米粉)の配合割合を変化させた試験例7が記載され、[0107]~[0110]には、生餃子の底面に付着させるバッター液の量を変化させた試験例8が記載されているから、上記発明の詳細な説明の一般記載及び実施例の記載に接した当業者は、「前記組成物における遊離又は塩形態のアルギニンの含有量が、0.03~2.5重量%である」アルギニンを含有する組成物を用い、実施例等の記載を参考にして包餡麺帯食品に付着させることにより、実施例で裏付けられているような外観向上効果が組成物の付着量に相応して得られ、「焼き面の外観が向上した包餡麺帯食品を提供する」という課題を解決し得ると認識することができる。
よって、請求項1において対象食品へのアルギニンの付着量の規定を欠いていても、発明の課題が解決できないとはいえない。
イ 請求項1(「焼き面のクリスピー感」)について
本件発明1の解決しようとする課題は、[0006]の記載等を参酌すると、「焼き面の外観が向上した包餡麺帯食品を提供すること」にあり、「クリスピー感」は解決しようとする課題に含まれない。本件特許出願の審査において引用文献2が引用されたことによって本件発明の課題が変更されるとはいえないから、令和5年11月10日付け審判請求書における釈明は、サポート要件の判断に影響を及ぼさない。
ウ 請求項2及び3(アルギニンの付着量及びバッター液の成分)について
上記アに記載したとおり、本件発明1はサポート要件を満たすといえるから、請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2及び3も同様の理由によりサポート要件を満たしている。
エ 請求項4~6について
本件発明4の解決しようとする課題は、[0006]の記載等を参酌すると、「焼き面の外観が向上した包餡麺帯食品の製造方法を提供すること」にあり、上記ア及びイと同様の理由により、本件明細書の記載に接した当業者は、本件発明4は上記課題を解決し得ると認識することができる。請求項4を直接又は間接的に引用する本件発明5及び6も同様の理由によりサポート要件を満たしている。
オ 請求項7~9について
本件発明7の解決しようとする課題は、[0006]の記載等を参酌すると、「焼き面の外観が向上した包餡麺帯食品の焼き面形成用組成物を提供すること」にあり、上記ア及びイと同様の理由により、本件明細書の記載に接した当業者は、本件発明7は上記課題を解決し得ると認識することができる。また、請求項7は請求項4~6に従属していないから、本件発明4~6のサポート要件の判断が本件発明7のサポート要件の判断に直接影響することはなく、さらに、上記エに記載したとおり、本件発明4~6はサポート要件を満たしているから、本件発明4~6のサポート要件についての判断を根拠として本件発明7をサポート要件違反とする申立人の主張は妥当ではない。
よって、本件発明7はサポート要件を満たしている。請求項7を直接又は間接的に引用する本件発明8及び9も同様の理由によりサポート要件を満たしている。
(6)理由2(サポート要件違反)についてのまとめ
以上のことから、本件発明1~9は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、理由2(サポート要件違反)により本件発明1~9についての特許を取り消すことはできない。
3.理由3(実施可能要件違反)について
(1)実施可能要件の判断手法
物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。
また、物を生産する方法の発明における実施とは、その物を生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができること及びその方法により生産した物の使用等をすることができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができ、かつその方法により生産した物の使用等をすることができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2)本件明細書の記載事項
本件明細書には、上記2.(3)に記載した事項が記載されている。
(3)実施可能要件についての判断
当業者は、本件明細書における組成物の配合成分及び配合量についての記載、包餡麺帯食品の種類、組成物の付着方法、加熱方法、冷凍方法についての記載並びに実施例及び比較例の記載等に基づいて、遊離又は塩形態のアルギニンの含有量が0.03~2.5重量%である組成物を調製することができ、さらに当該組成物が加熱されて形成される焼き面を有する冷凍包餡麺帯食品を製造することができると理解することができる。また、調製されたアルギニン含有組成物を上記包餡麺帯食品の焼き面を形成するための組成物として使用することができること、及び当該組成物を使用して製造された冷凍包餡麺帯食品を食品として使用することができることを理解することができる。
そうすると、本件明細書には本件発明1及び7の発明特定事項に対応した説明の記載や実施例の記載があり、当業者が本件発明1及び7を生産し、かつ、本件発明1及び7を使用することができる程度に具体的な記載があるといえる。
同様に、当業者は本件明細書の記載に基づいて、アルギニンを0.03~2.5重量%含有する組成物を包餡麺帯食品の表面に付着させ、加熱して焼き面を有する包餡麺帯食品を製造し、さらに凍結する工程を備えた冷凍包餡麺帯食品の製造方法を使用することができると理解することができるから、本件明細書には本件発明4の発明特定事項に対応した説明の記載や実施例の記載があり、当業者が本件発明4の製造方法を使用することができ、かつ、その方法により製造された物を使用することができる程度に具体的な記載があるといえる。
請求項1、4又は7を直接又は間接的に引用する本件発明2、3、5、6、8及び9についても同様の記載があるといえる。
(4)申立人の主張について
申立人は、上記第3 3.(1)~(9)のように主張しているが、以下のとおり、いずれの主張も採用することはできない。
ア 請求項1~3(アルギニンの付着量)について
理由1において検討したとおり、本件特許の請求項1の記載は明確であり、また、上記(3)に記載したとおり、当業者は発明の詳細な説明の記載を参酌することにより、本件発明1の発明特定事項を備えた「冷凍包餡麺帯食品」を製造することができ、かつ、使用することができる。
また、上記2.(5)アにおいて検討した発明の詳細な説明の記載を参酌すると、当業者は、アルギニンの付着量は、「冷凍包餡麺帯食品」の具体的な実施の形態に応じて適宜に調整することができる事項であると理解することができるから、本件発明1が包餡麺帯食品へのアルギニンの付着量の規定を欠いていても、その製造に過度の試行錯誤を要するとはいえない。
請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2及び3も同様の理由により実施可能要件を満たしている。
イ 請求項4~6について
上記アと同様、上記(3)に記載したとおり、当業者は発明の詳細な説明の記載を参酌することにより、本件発明4の発明特定事項を備えた「冷凍包餡麺帯食品の製造方法」を使用することができ、その方法により生産した物を使用することができると理解する。また、上記2.(5)アにおいて検討した発明の詳細な説明の記載を参酌すると、当業者は、アルギニンの付着量は、「冷凍包餡麺帯食品」の具体的な実施の形態に応じて適宜に調整することができる事項であると理解することができるから、本件発明4が包餡麺帯食品へのアルギニンの付着量の規定を欠いていても、その製造方法の実施に過度の試行錯誤を要するとはいえない。
請求項4を直接又は間接的に引用する本件発明5及び6も同様の理由により実施可能要件を満たしている。
ウ 請求項7~9について
上記アと同様、上記(3)に記載したとおり、当業者は発明の詳細な説明の記載を参酌することにより、本件発明7の発明特定事項を備えた「焼き面形成後に凍結される包餡麺帯食品の焼き面形成用」を製造することができ、かつ、使用することができる。また、請求項7は請求項4~6に従属していないから、本件発明4~6の実施可能要件の判断が本件発明7の実施可能要件の判断に直接影響することはなく、さらに、上記イに記載したとおり、本件発明4~6は実施可能要件を満たしているから、本件発明4~6の実施可能要件についての判断を根拠として本件発明7を実施可能要件違反とする申立人の主張は妥当ではない。
よって、本件発明7は実施可能要件を満たしている。請求項7を直接又は間接的に引用する本件発明8及び9も同様の理由により実施可能要件を満たしている。
(5)理由3(実施可能要件違反)についてのまとめ
以上のことから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、理由3(実施可能要件違反)により本件発明1~9についての特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本件発明1~9についての特許は、上記のいずれの特許異議申立理由によっても取り消すことはできない。
また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700708