特許異議申立
2023-700653
窒化ケイ素焼結体
- 審判番号
- 2023-700653
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-071652
- 登録番号
- 7201734
- 請求日
- 2023年06月20日
- 審決日
- 2023年10月18日
- 公報発行日
- 2023年11月24日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社MARUWA
- 【権利者代理人】松原 等
- 【異議申立人】松岡 孝代
- 審判長/審判官
- 審判長 河本 充雄
- 審判官 立木 林
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.113-Y (C04B) / P1651.121-Y (C04B) / P1651.537-Y (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7201734号発明「窒化ケイ素焼結体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7201734号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7201734号の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和3年4月21日に出願され、令和4年12月26日にその特許権の設定登録がされ、令和5年1月10日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年6月20日に特許異議申立人 松岡孝代(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
特許第7201734号の請求項1~4に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項1~4に係る発明を、項番に従って「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
板状の窒化ケイ素焼結体を120℃で1時間以上保持してから25℃の平坦な試料台に載せて1分経過する以前に測定した、窒化ケイ素焼結体の上面の最高点の試料台からの高さと最低点の試料台からの高さとの差の、窒化ケイ素焼結体の最大横断長さに対する割合として算出される反りが0.2%以下である窒化ケイ素焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化ケイ素焼結体を用いた回路基板。
【請求項3】
請求項1に記載の窒化ケイ素焼結体を用いた放熱部材。
【請求項4】
請求項1に記載の窒化ケイ素焼結体を用いた絶縁部材。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証~甲第5号証(以下、項番に従って、それぞれ「甲1」等という。)を提出し、以下の理由により、請求項1~4に係る特許は取り消すべきものである旨を主張している。
1 申立理由1(甲1を主たる証拠とする新規性欠如、進歩性欠如)
本件発明1~4は、甲1に記載された発明であるか、又は甲1に記載された発明及び周知技術に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に違反してされたものである。
2 申立理由2(サポート要件違反)
本件発明1~4は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1~4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 証拠方法
甲1:再公表特許WO2010/002001号
甲2:再公表特許WO2006/118003号
甲3:特開2012-218983号公報
甲4:特開2010-235335号公報
甲5:菊池、外4名,“厚銅貼り窒化珪素回路基板の開発”,日立金属技
法,2007年,Vol.23,p.65-68
第4 甲号証、本件明細書の記載事項
1 甲1の記載事項
甲1は、「窒化珪素基板及びその製造方法並びにそれを使用した窒化珪素回路基板及び半導体モジュール」に関するものであって、以下の事項が記載されている(下線は当審が付与した。以下同様。)。
(1)「【0001】
本発明は、窒化珪素基板及びその製造方法に関する。また、本発明は、上記窒化珪素基板を使用した窒化珪素回路基板及び半導体モジュールに関する。
・・・
【0031】
次に、本実施形態にかかる窒化珪素基板の製造方法について説明する。
【0032】
本発明で用いる原料粉末として窒化珪素粉末は、平均粒子径を1.0μm以下、比表面積を15m2/g以下の範囲とする。また、窒化珪素焼結体の高熱伝導化には、含有酸素量を1.5wt%以下、特にFe成分およびAl成分はそれぞれ1000ppm以下とする。
また、焼結助剤として添加するMgO粉末およびY2O3粉末は、それぞれ、平均粒子径を1.0μm以下、比表面積を30m2/g以下の範囲とする。また、不純物量は窒化珪素粉末と同様にFe成分およびAl成分は、それぞれ1000ppm以下とする。
まず、原料調整・混合工程として、含有酸素量2質量%以下の窒化珪素原料粉に酸化マグネシウム(MgO)が6.7~12.8mol%、少なくとも1種の希土類元素酸化物(RE2O3)が1.1~2.9mol%を合計7.9~15.1mol%、かつ(RE2O3)/(MgO)のモル比が0.09~0.3となるように混合し、溶剤、有機バインダー、可塑剤等とともにボールミル等で混合する。MgO、RE2O3及び合計の添加量と(RE2O3)/(MgO)の添加量のモル比が上記範囲以外の場合、MgO、RE2O3及び合計の含有量と(RE2O3)/(MgO)の含有量のモル比も上記範囲外となり、上述したように曲げ強度と熱伝導率の一方もしくは両方が低下する。従って、MgO、RE2O3、その合計の添加量及び(RE2O3)/(MgO)のモル比は上記範囲が好適である。
【0033】
次に、成形工程として、上記混合した原料スラリーを脱泡・増粘した後、これを公知のドクターブレード法等により所定厚さの板にシート成形する。このときのシート成形体の板厚は、用途に応じて適宜決定できるが、例えば0.2~1.0mm程度とすることができる。また、シート成形体寸法については収縮量を考慮し、かつシート成形体を載せるBNセッターおよび焼成容器の寸法および容量も考慮して適宜選定する。本発明では、シート成形体寸法は170mm×140mmとした。
【0034】
次に、焼結工程として、上記シート成形体を1枚もしくはBN等の剥離剤を介して複数枚重ね、焼結炉内を0.5~1.0MPaの窒素加圧雰囲気とし、1600℃から300℃/h以下の速度で昇温し、1800~2000℃の温度で2~10時間保持した後、100℃/h以上の速度で1500℃まで冷却することで焼結し、窒化珪素基板とする。・・・。」
(2)「【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は、以下に述べる実施例に限定されるものではない。
【0037】
前記製造方法に基づいて窒化珪素基板を製造し、その物性を測定した。製造条件の内、酸化マグネシウム(MgO)添加量、希土類元素酸化物(RE2O3)添加量、MgOとRE2O3の合計添加量、(RE2O3)/(MgO)のモル比、REの種類、焼結工程における焼結温度、昇温速度、冷却時間、焼結時間及び基板の総厚みの各項目は、表1、2に製造条件として示されるものを採用した(実施例1~16)。なお、(RE2O3)として、実施例10~16では、REとしてYに代えてYb、Er,Dy、Gd,Sm,NdまたはLuの酸化物を用いた。焼結は密閉式のBN製の焼成容器中にて行った。
【0038】
測定した物性としては、窒化珪素基板のβ型窒化珪素以外の結晶相の有無及びMgSiN2結晶相の量の他、酸化マグネシウム(MgO)含有量、希土類酸化物(RE2O3)含有量、(RE2O3)/(MgO)のモル比、MgOとRE2O3の合計含有量、曲げ強度、曲げ強度のワイブル係数、熱伝導率及び熱衝撃試験結果がある。これらの項目の内、曲げ強度、曲げ強度のワイブル係数及び熱伝導率について予め設定した範囲内(曲げ強度:820MPa以上、ワイブル係数:15以上、熱伝導率:80W/m・K以上)にあるか否かを判定した。
【0039】
また、比較例として、上記製造条件を変更して製造した窒化珪素基板についても同様に物性を測定し、判定を行った。その結果が表3、4に示される(比較例1~15)。
【0040】
上記物性の内、β型窒化珪素以外の結晶相の有無及びMgSiN2結晶相の量は基板表面のX線回折線測定により、上述した方法で求めた。ここでX線回折評価には、理学電機製のRINT2500を用い、評価条件は、管球:銅、管電圧:50kV、管電流:200mA、サンプリング幅:0.020°、走査速度:2°/min、走査角度2θ:20°~120°の範囲で行った。
・・・
【0042】
曲げ強度は、JIS-R1601に準拠し、3点曲げ試験によって測定した。窒化珪素基板を幅4mmの試験片に加工し、支持ロール間距離7mmの3点曲げ治具にセット後、クロスヘッド速度0.5mm/分で荷重を印加して、破断時に試験片にかかる荷重から算出した。
・・・
【0045】
熱伝導率は、窒化珪素基板から5mm角の測定用試料を切り出し、JIS-R1611に準拠し、レーザーフラッシュ法により測定した。
・・・
【0047】
熱膨張係数は、窒化珪素基板の5mm×20mmLに測定試料を切り出し、JIS-R1618に準拠し、室温から600℃までの長手方向の線膨張係数を評価した。
【0048】
相対密度は、窒化珪素基板をアルキメデス法により密度を測定し、これをSi3N4粉末、MgO粉末およびRE2O3粉末の配合比と個々の密度から算出した理論密度を除して100を乗じた値である。
【0049】
【表1】
[図:0001403687000001.jpg]
【0050】
【表2】
[図:0001403687000002.jpg]
【0051】
【表3】
[図:0001403687000003.jpg]
【0052】
【表4】
[図:0001403687000004.jpg]
」
2 本件明細書の記載事項
本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板、放熱部材等として使用される窒化ケイ素焼結体に関するものである。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1~6のいずれにも、100℃を越えるような高温での反りが小さい窒化ケイ素焼結体は記載されていない。特許文献4には、上記のとおり、反りが2.0μm/mm以下であることが記載されているが、反りの測定温度については記載されておらず、室温と推定される。
【0011】
窒化ケイ素焼結体は、電子機器、半導体デバイス、自動車載品等の各種製品における回路基板、放熱部材等として使用されるが、近年、製品の高電流化による高性能化や、自動車の高温部への搭載により、製品は100℃を越えるような高温環境にさらされることが多くなってきた。このため、窒化ケイ素焼結体の高温環境での反りが大きいと、十分な放熱効果が得られない、基板が破損する等の問題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]板状の窒化ケイ素焼結体を120℃で1時間以上保持してから25℃の平坦な試料台に載せて1分経過する以前に測定した、窒化ケイ素焼結体の上面の最高点の試料台からの高さと最低点の試料台からの高さとの差の、窒化ケイ素焼結体の最大横断長さに対する割合として算出される反りが0.2%以下である窒化ケイ素焼結体。
ここで、窒化ケイ素焼結体の最大横断長さとは、窒化ケイ素焼結体の板面をその縁の1点から別の1点へ横断する線分のうち最大の線分長さをいい、例えば板面が長方形の場合は対角線長さ、板面が円形の場合は直径長さである。
[2]上記1に記載の窒化ケイ素焼結体を用いた回路基板。
[2]上記1に記載の窒化ケイ素焼結体を用いた放熱部材。
[4]上記1に記載の窒化ケイ素焼結体を用いた絶縁部材。
【0013】
[作用]
上記のとおり測定した反りが0.2%以下であることにより、窒化ケイ素焼結体が回路基板、放熱部材等として使用された製品が100℃を越えるような高温環境にさらされても、窒化ケイ素焼結体の反りが小さいので、十分な放熱効果が得られ、破損が生じにくい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、窒化ケイ素焼結体が回路基板、放熱部材等として使用された製品が100℃を越えるような高温環境にさらされても、窒化ケイ素焼結体の反りが小さいので、十分な放熱効果が得られ、破損が生じにくい。」
(2)「【0025】
5.用途
窒化ケイ素焼結体の用途としては、特に限定されないが、次の用途を例示できる。
図5(a)に示すような、半導体モジュール、LEDパッケージ、ペルチェモジュール、プリンタ、複合機、半導体レーザー、光通信、高周波などで使用される回路基板。
図5(b)に示すような汎用の放熱部材。
図5(c)に示すようなパワー半導体モジュール用放熱部材(ヒートシンク)。
図5(d)に示すような絶縁板。
図5(e)に示すような接合ウエハ用の絶縁板。
図5(f)に示すような柔軟性を有する樹脂等に埋設した放熱部材。
図示しないが、ジャイロトロンやクライストロンなどに用いられる高周波窓。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を具体化した実施例について、比較例と比較しつつ、図面を参照して説明する。なお、実施例の各部の材料、数量及び条件は例示であり、発明の要旨から逸脱しない範囲で適宜変更できる。
【0027】
表1及び表2に示す実施例1~21に示す窒化ケイ素焼結体と、表3に示す比較例1~8の窒化ケイ素焼結体を作製した。以下「各例」というときは、実施例1~21及び比較例1~8の各々を指すものとする。
【0028】
【表1】
[図:0001403687000005.jpg]
【0029】
【表2】
[図:0001403687000006.jpg]
」
第5 当審の判断
1 申立理由1(甲1を主たる証拠とする新規性欠如、進歩性欠如)について
(1)甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1に記載された事項(特に上記第4の1(1)の【0032】~【0034】、同(2)の【0049】【表1】)を、実施例1における窒化珪素基板に注目して整理すると、甲1には以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。)。
「含有酸素量2質量%以下の窒化珪素原料粉にMgOを6.7mol%、Y2O3を1.2mol%となるように混合し、溶剤、有機バインダー、可塑剤等とともにボールミル等で混合し、
次に、成形工程として、上記混合した原料スラリーを脱泡・増粘した後、これを公知のドクターブレード法等により所定厚さの板にシート成形し、
次に、焼結工程として、上記シート成形した板を1枚もしくはBN等の剥離剤を介して複数枚重ね、焼結炉内を0.5~1.0MPaの窒素加圧雰囲気とし、1600℃から150℃/h以下の速度で昇温し、1875℃の温度で3時間保持した後、600℃/h以上の速度で1500℃まで冷却することで焼結された窒化珪素基板であって、
粒界結晶相は、結晶相がMgSiN2であって、MgSiN2量が0.0005であり、
相対密度が99.1%、熱膨張係数が2.51ppm/℃、熱伝導率が90W/m・Kである、窒化珪素基板。」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「窒化珪素基板」は本件発明1の「板状の」「窒化ケイ素焼結体」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「板状の」「窒化ケイ素焼結体」の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1が「窒化ケイ素焼結体を120℃で1時間以上保持してから25℃の平坦な試料台に載せて1分経過する以前に測定した、窒化ケイ素焼結体の上面の最高点の試料台からの高さと最低点の試料台からの高さとの差の、窒化ケイ素焼結体の最大横断長さに対する割合として算出される反り」(以下、「本件反り」という。)が0.2%以下であるのに対し、甲1発明における本件反りの程度が不明である点。
イ 相違点1について検討するに、甲1発明に係る窒化珪素基板の製造工程や各特性を考慮しても、甲1発明に係る窒化珪素基板が相違点1に係る本件発明1の構成を有しているとはいえず、相違点1は実質的な相違点である。
そして、甲1~甲5には本件反りについて記載も示唆もないから、甲1発明において相違点1に係る本件発明1の構成を採用することが、当業者にとって容易になし得たことともいえない。
したがって、本件発明1は甲1発明でないし、また、本件発明1は、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものともいえない。
(3)本件発明2~4について
本件発明1に係る請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4についても上記(2)と事情は同じであるから、本件発明2~4は、甲1に記載された発明でなく、また、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得るものであったということはできない。
(4)申立人の主張について
ア 相違点1について、申立人は、特許異議申立書19ページ下から6行~25ページ4行において、概略、以下の主張をしている。
本件明細書の【0018】、【0020】、【0022】によれば、「粒界相をアモルファス構造とすることで、窒化ケイ素焼結体中のボイドが少なくなり(平面投影面積率が1.0%以下)、その結果、窒化ケイ素焼結体の反りが小さくなるものと解される」から、甲1に記載された発明における、製造条件(焼結温度、焼結時間)、粒界結晶相、及び各特性(相対密度、熱伝導率、熱膨張係数)からみて、甲1の実施例1~16、比較例1~18は上記相違点1に係る本件発明1の構成を備える蓋然性が高く、また仮に焼成時における「ダミー窒化ケイ素焼結体」の使用の有無が相違点になり得るとしても、それは甲1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものである。
イ しかしながら、本件明細書の【0018】、【0020】、【0022】をみても、本件反りは、焼結温度や焼結時間といった製造条件のみで決まるとはいえず、粒界結晶相、及び相対密度、熱伝導率、熱膨張係数といった各特性も本件反りを表すものでない。
また、本件発明は「窒化ケイ素焼結体」という物の発明であって、製造方法の発明でないから、「ダミー窒化ケイ素焼結体」の使用の点が相違点になるともいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(5)まとめ
よって、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項に係る申立理由1に理由はない。
2 申立理由2(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断手法について
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。
(2)サポート要件適合性について
ア 上記第4の2(【0010】、【0011】、【0014】)によれば、本件発明の解決しようとする課題は、「100℃を越えるような高温環境にさらされても、窒化ケイ素焼結体の反りが小さい」「窒化ケイ素焼結体」を提供すること、である。
そして、上記第4の2(1)(【0012】)には、課題を解決するための手段として、「板状の窒化ケイ素焼結体を120℃で1時間以上保持してから25℃の平坦な試料台に載せて1分経過する以前に測定した、窒化ケイ素焼結体の上面の最高点の試料台からの高さと最低点の試料台からの高さとの差の、窒化ケイ素焼結体の最大横断長さに対する割合として算出される反りが0.2%以下である窒化ケイ素焼結体」とすることが記載されている。
ここで、上記課題を解決するための手段は、本件反りが「0.2%以下」と所定値以下であることからして、上記課題を解決できるものといえるし、発明の詳細な説明(上記第4の2(2))には、本件反りが0.2%以下の窒化ケイ素焼結体の裏付けとして実施例も具体的に記載されている。
イ 以上によれば、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
ウ 本件発明2~4は、発明の詳細な説明(上記第4の2(1)【0012】、同(2)【0025】)にそれぞれ記載されている。また、本件発明2~4は、いずれも本件発明1の全ての構成を有するものであるから、本件発明1と同様に、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
エ 上記ア~ウの事項を上記(1)の判断手法にあてはめれば、本件特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(3)申立人の主張について
特許異議申立書29ページ3~16行において、申立人は、「本件発明に係る窒化ケイ素焼結体は、粒界相が結晶相を含まないアモルファス構造であり、且つボイドの平面投影面積率が1.0%以下であることで、その反りが小さくなるものと解される。」「また、アモルファス構造の粒界相についても、Mg、稀土類元素(RE)、及びSiを含むものしか記載されていない。」「一方で、本件発明1-4では、窒化ケイ素焼結体の具体的な構造については、何ら特定されていない。」「このため、本件発明1-4は、甲第1号証に記載されたような、粒界相に微小な結晶粒が含まれ、且つ熱膨張係数の小さな窒化珪素基板を包含するものとなっている。」「このため、本件特許発明1-4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。」と主張する。
しかしながら、上記(2)のとおり、本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものであり、窒化ケイ素焼結体の具体的な構造が特定されていなくとも、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲内のものといえるから、申立人の主張は採用できない。
(4)まとめ
よって、特許法第36条第6項第1号に係る申立理由2に理由はない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1~4に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700653