特許異議申立
2024-700550
駆動装置、および、これを用いた電動パワーステアリング装置
- 審判番号
- 2024-700550
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-068080
- 登録番号
- 7400860
- 請求日
- 2024年06月11日
- 審決日
- 2024年11月28日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社デンソー
- 【権利者代理人】弁理士法人服部国際特許事務所
- 【異議申立人】田中 貞嗣
- 【異議申立人】小山 卓志
- 審判長/審判官
- 審判長 須田 勝巳
- 審判官 山崎 慎一
- 審判官 吉田 美彦
- 分類
- P1652.121-Y (H02M) / P1652.537-Y (H02M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7400860号発明「駆動装置、および、これを用いた電動パワーステアリング装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7400680号の請求項1~5、7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7400860号の請求項1~5、7に係る特許についての出願は、平成30年7月25日に出願された特願2018-139309号の一部を、令和4年4月18日に新たな特許出願として出願されたものであり、令和5年12月11日にその特許権の設定登録がされ、同年同月19日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和6年6月11日に特許異議申立人田中貞嗣(外1名)(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、同年9月3日付けで取消理由を通知した。それに対し、特許権者は、同年10月30日付け意見書の提出を行った。
第2 本件特許発明
特許第7400860号の請求項1~5、7に係る特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」~「本件特許発明5」、「本件特許発明7」といい、これらをまとめて「本件特許発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~5、7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(なお、各構成要件の前に付した、「1A」~「7C」の記号は、各構成要件を区別するために当審で付したものであり、それぞれ「構成要件1A」~「構成要件7C」などという。)
「 【請求項1】
1A 複数の巻線組(180、280)が共通のハウジング(830)に設
けられるモータ(80)と、
1B 前記巻線組ごとに設けられる複数の駆動回路部(120、220)が
実装される基板(30、31、32)と、
1C 前記基板に実装され、前記基板のグランドパターンと、前記ハウジン
グとを電気的に接続する機電接続コンデンサ(142~144、242
~244)と、
を備え、
1D 前記基板において、前記ハウジングと電気的に接続されるハウジング
接続パターン(156、157、256、257)は、前記基板の他の
配線パターンとは切り離されており、前記機電接続コンデンサは、前記
ハウジング接続パターンと、前記基板のグランドパターンとを接続し、
1E 前記ハウジング接続パターンは、前記ハウジングと直接的に面接触し
ている駆動装置。
【請求項2】
2A 複数の前記駆動回路部は、前記ハウジングの軸方向の一方の端部に固
定される1枚の前記基板(30)に実装される請求項1に記載の駆動装
置。
【請求項3】
3A 複数の巻線組(180、280)が共通のハウジング(830)に設
けられるモータ(80)と、
3B 前記巻線組ごとに設けられる複数の駆動回路部(120、220)が
実装される基板(30、31、32)と、
3C 前記基板に実装され、前記基板のグランドパターンと、前記ハウジン
グとを電気的に接続する機電接続コンデンサ(142~144、242
~244)と、
を備え、
3D 前記基板において、前記ハウジングと電気的に接続されるハウジング
接続パターン(194、196、294、296)は、前記基板の他の
配線パターンとは切り離されており、前記機電接続コンデンサは、前記
ハウジング接続パターンと、前記基板のグランドパターンとを接続し、
3E 前記ハウジング接続パターンは、前記ハウジングと同電位であるヒー
トシンク(63)と直接的に面接触している駆動装置。
【請求項4】
4A 複数の前記駆動回路部は、前記駆動回路部ごとにモジュール化された
パワーモジュール(160、260)により構成され、前記ヒートシン
クに放熱可能に設けられており、
4B 前記基板(31、32)は、前記パワーモジュールおよび前記ヒート
シンクを挟んで両側に設けられる請求項3に記載の駆動装置。
【請求項5】
5A 前記ハウジング接続パターンは、表面レジスト層から露出しており、
環状部分から前記基板の内側に向いて突出するコンデンサ接続部が設け
られている請求項1~4のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項7】
7A 請求項1~6のいずれか一項に記載の駆動装置(1)と、
7B 前記モータの駆動を伝達する動力伝達部材(89)と、
を備え、
7C 前記モータは、車両(99)の操舵に要するトルクを出力する電動パ
ワーステアリング装置。」
第3 取消理由の概要
当審において、本件特許発明1~5、7に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1 サポート要件違反について
本件特許発明の解決しようとする課題は、2系統でグランドを共用している際、ECU側において、系統間でグランドを分離する場合、モータケースと電源グランドラインとを接続した場合、ノイズが系統間で行き来する虞がある点にあるものと認められるところ、当該課題を解決する手段として、特に、スリットで分離された2つの系統間を、系統間グランド接続コンデンサを用いて電気的に接続することにより、一方の系統で発生したノイズを、当該系統間グランド接続コンデンサを通じて当該系統へ帰還させるといった手段が開示されているものと理解される。
なお、本件特許明細書の段落【0085】には、系統間グランド接続コンデンサおよび機電接続コンデンサの一方を省略してもよい旨の記載はあるものの、一方のうちいずれを省略して、ノイズが系統間で行き来する課題を解決できるかについては、本件特許明細書には記載されておらず、また当該解決手段は、本件特許出願時(本件特許出願の分割元である特願2018-139309号の出願時)における技術常識とはいえない。
一方、本件特許発明1~5、7においては、上記課題解決手段に対応する構成要件は特定されておらず、そうすると、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、本件特許出願時の技術常識に照らしたとしても、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
したがって、本件特許発明1~5及び7は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明とはいえず、本件特許は、特許法36条6項1号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
第4 甲各号証の記載
1 甲第1号証(特開2016-36245号公報)
(1)甲第1号証に記載された事項
甲第1号証(以下、「甲1」といい、甲第2号証~甲第4号証をそれぞれ、「甲2」~「甲4」ということがある。)には、次のア~サに示す事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。)
ア 「【0001】
本発明は、駆動装置、および、これを用いた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される電動モータにおいて、コイルとモータケースとの間がコンデンサとして機能することで、モータケースがノイズ源となることがある。例えば特許文献1では、モータケースおよびヒートシンクと車体フレームとを接続することで、発生するノイズをコモンモード経路にて逃がしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-355602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、モータケースおよびヒートシンクと車体フレームとを接続することでコントローラ側へのノイズは低減され、その分、装置外へ漏れるノイズが増大する。また、モータケースおよびヒートシンクから装置外へ漏れるノイズは、コモンモードノイズであって、どのような経路で車体グランドへ伝播されるかはわからない。そのため、モータケースおよびヒートシンクから装置外へ漏れるノイズがラジオのアンテナ等に伝播し、ラジオノイズの原因となる虞がある。
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、コモンモードノイズを低減可能な駆動装置、および、これを用いた電動パワーステアリング装置を提供することにある。」
イ 「【0015】
次に、電動パワーステアリング装置8の電気的構成を図2に基づいて説明する。なお、図2においては、煩雑になることを避けるため、一部の制御線等を省略している。
モータ10は、三相ブラシレスモータであって、後述するステータ12に巻回される第1巻線組13および第2巻線組14を有する。第1巻線組13は、U相コイル131、V相コイル132、および、W相コイル133から構成される。第2巻線組14は、U相コイル141、V相コイル142、および、W相コイル143から構成される。本実施形態では、第1巻線組13および第2巻線組14が「巻線」に対応する。
【0016】
ECU40は、いずれも後述の基板41に実装される第1インバータ部50、第2インバータ部60、電源リレー71、72、逆接保護リレー73、74、制御部80、回転角センサ85、コンデンサ86、87、コイル部材としてのチョークコイル89等を備える。本実施形態では、ECU40を構成する電子部品は、1枚の基板41に実装される。これにより、複数の基板によりECU40を構成する場合と比較し、部品点数を低減可能であるとともに、小型化が可能である。」
【0017】
第1インバータ部50は、6つのスイッチング素子(以下、「SW素子」という。)51~56がブリッジ接続されており、第1巻線組13への通電を切り替える。第2インバータ部60は、6つのSW素子61~66がブリッジ接続されており、第2巻線組14への通電を切り替える。
本実施形態のSW素子51~56、61~66は、MOSFET(金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)であるが、IGBT等の他の素子を用いてもよい。
本実施形態では、SW素子51~56、61~66が、「駆動素子」に対応する。」
ウ 「【0028】
次に、駆動装置1の構造について図3~図11に基づいて説明する。以下適宜、モータ10の軸方向を単に「軸方向」といい、モータ10の径方向を単に「径方向」という。なお、図3は、図5のIII~III線の断面図である。
図3~図8に示すように、駆動装置1は、モータ10、コントローラ保持部材としてのフレーム部材20、ECU40、および、給電用コネクタ96等を備える。
図3に示すように、モータ10は、ケース部材としてのモータケース11、ステータ12、第1巻線組13、第2巻線組14、ロータ15、および、シャフト16等を有する。」
エ 「【0040】
フレーム部材20には、モータケース11の固定部116に対応する箇所(本実施形態では3箇所)において径方向外側に突出する固定部26が形成される。固定部26には、スルーホール27が形成される。固定部材としてのフレーム固定ねじ38は、スルーホール27に挿通され、ねじ孔117に螺着される。これにより、フレーム部材20がモータケース11に固定される。
【0041】
ここで、固定部116のECU40側の面を第1当接面118とし、固定部26のモータ10側の面を第2当接面268とする。本実施形態では、モータケース11の表面はアルマイト処理されているが、第1当接面118については、例えば切削加工等により、導電可能な状態にする。本実施形態では、第1当接面118および第2当接面268が、「ケース部材とコントローラ保持部材との導通箇所」である。
本実施形態では、フレーム固定ねじ38の締付によって第1当接面118と第2当接面268とを密着させる。これにより、モータケース11とフレーム部材20とは、電気的に接続される。さらに、このフレーム固定ねじ38が導体であれば、フレーム固定ねじ38を介した電気接続も期待ができる。」
オ 「【0054】
基板41の基板固定部32に対応する箇所には、孔部48が形成される。基板固定ねじ49(図7および図8参照)は、導電可能な素材で形成され、孔部48に挿入され、フレーム部材20の基板固定部32に螺着される。基板固定ねじ49の軸力により、基板41は、フレーム部材20に密着固定され電気的にも接続される。フレーム固定ねじ38と同様、基板固定ねじ49が導体であれば、基板固定ねじ49を介した電気接続も期待できる。
【0055】
孔部48は、基板41のグランドパターンが形成される領域に形成される。基板41のグランドパターンは、給電用コネクタ96を経由して、電源グランドライン500と電気的に接続される。
また上述のように、モータケース11とフレーム部材20とは、フレーム固定ねじ38を経由して電気的に接続される。したがって、モータケース11およびフレーム部材20は、基板固定ねじ49、基板41、および、給電用コネクタ96を経由して、電源グランドライン500に電気的に接続される。」
カ 「【0063】
図12に示すように、ロータ15およびシャフト16を便宜上「モータ部」とし、モータケース11およびステータ12を便宜上「ケース」とすると、モータ部とケースとの間のエアギャップには、浮遊容量C11が生じる。また、フレーム部材20と基板41との間には、浮遊容量C12が生じる。
浮遊容量C11、C12が生じると、モータ部の駆動やSW素子51~56、61~66のスイッチング等により生じたノイズが、浮遊容量C11、C12を介してモータケース11に伝播される。モータケース11に伝播されたノイズは、コモンモードノイズとなり、車体グランド等を経由してバッテリ109に伝播される虞がある。また、モータケース11を経由して駆動装置1の外部(例えば車体等)にノイズが伝播されると、図示しない車載ラジオのアンテナに伝播され、ラジオノイズの原因となる虞がある。
【0064】
そこで本実施形態では、モータケース11およびフレーム部材20と、電源グランドライン500とを電気的に接続しているので、浮遊容量C11、C12は、電源グランドライン500と電気的に接続される。
これにより、浮遊容量C11、C12に起因するノイズをノーマルモードノイズとみなすことができるので、ノーマルモードコイルであるチョークコイル89およびコンデンサ87、88(当審注:「コンデンサ86、87」の誤記と認められる。)により形成されるフィルタ回路にて浮遊容量C11、C12に起因するノイズを低減可能である。また、コモンモードノイズを低減するためのコイル等の構成を省略することができる。さらにまた、コモンモードノイズが低減され、モータケース11およびフレーム部材20を介して駆動装置1の外部に漏れるノイズが低減されるので、ラジオノイズを低減することができる。」
キ 「図2
[図:0001417657000001.jpg]
」
ク 「図3
[図:0001417657000002.jpg]
」
ケ 「図7
[図:0001417657000003.jpg]
」
コ 「図8
[図:0001417657000004.jpg]
」
サ 「図12
[図:0001417657000005.jpg]
」
(2)甲1発明
上記(1)の記載(特に下線部)より、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「駆動装置、および、これを用いた電動パワーステアリング装置に関し(【0001】)、従来、車両に搭載される電動モータにおいて、コイルとモータケースとの間がコンデンサとして機能することで、モータケースがノイズ源となることがあるところ(【0002】)、モータケースおよびヒートシンクと車体フレームとを接続することでコントローラ側へのノイズは低減されるが、その分、装置外へ漏れるノイズが増大するため、モータケースおよびヒートシンクから装置外へ漏れるノイズがラジオのアンテナ等に伝播し、ラジオノイズの原因となる虞があることを発明が解決しようとする課題としたものであって(【0004】)、
駆動装置1は、モータ10、コントローラ保持部材としてのフレーム部材20、ECU40、および、給電用コネクタ96等を備え、モータ10は、ケース部材としてのモータケース11、ステータ12、第1巻線組13、第2巻線組14、ロータ15、および、シャフト16等を有し(【0028】、図2~3、7~8)、
ECU40を構成する電子部品は、1枚の基板41に実装され(【0016】)、
第1インバータ部50は、第1巻線組13への通電を切り替え、第2インバータ部60は、第2巻線組14への通電を切り替え(【0017】)、
フレーム部材20には、モータケース11の固定部116に対応する箇所において径方向外側に突出する固定部26が形成され、固定部26には、スルーホール27が形成され、固定部材としてのフレーム固定ねじ38は、スルーホール27に挿通され、ねじ孔117に螺着されることにより、フレーム部材20がモータケース11に固定され(【0040】)、
フレーム固定ねじ38の締付によって第1当接面118と第2当接面268とを密着させることにより、モータケース11とフレーム部材20とは、電気的に接続され、さらに、このフレーム固定ねじ38が導体であれば、フレーム固定ねじ38を介した電気接続も期待でき(【0041】)、
基板41の基板固定部32に対応する箇所には、孔部48が形成され、基板固定ねじ49は、導電可能な素材で形成され、孔部48に挿入され、フレーム部材20の基板固定部32に螺着され、基板固定ねじ49の軸力により、基板41は、フレーム部材20に密着固定され電気的にも接続され、フレーム固定ねじ38と同様、基板固定ねじ49が導体であれば、基板固定ねじ49を介した電気接続も期待でき(【0054】、図7~8)、
孔部48は、基板41のグランドパターンが形成される領域に形成され、モータケース11とフレーム部材20とは、フレーム固定ねじ38を経由して電気的に接続され、したがって、モータケース11およびフレーム部材20は、基板固定ねじ49、基板41、および、給電用コネクタ96を経由して、電源グランドライン500に電気的に接続され(【0055】)、
モータケース11およびフレーム部材20と、電源グランドライン500とを電気的に接続しているので、浮遊容量C11、C12に起因するノイズをチョークコイル89およびコンデンサ86、87により形成されるフィルタ回路にて低減可能であり、モータケース11およびフレーム部材20を介して駆動装置1の外部に漏れるノイズが低減される(【0064】、図12)
駆動装置1。」
2 甲第2号証(特開2010-6088号公報)
(1)甲第2号証に記載された事項
甲2には、次のア~カに示す事項が記載されている。
ア 「【0002】
従来、車両のハンドルに対して補助トルクを出力する電動モータと、この電動モータを駆動制御する制御装置とを備え、この制御装置は、電動モータの電流を切り換えるための複数の半導体スイッチング素子、及びこの半導体スイッチング素子を駆動する駆動信号を生成するマイクロコンピュータを搭載し、電動モータに取り付けられている電動式パワーステアリング装置が知られている。制御装置、電動モータ用ハーネス、電動モータ、電動モータ巻線の経路において、電動モータ駆動のスイッチング制御により発生する高周波漏れ電流が流れる。この漏れ電流は放射性、または伝導性の電磁妨害を発生し、例えばラジオ、オーディオ機器にノイズ障害を与えることがあった。」
イ 「【0010】
電動モータ11において、モータケース17とモータ巻線14間に浮遊容量15が電気的に存在する。パワー基板部5のFETQ1~Q6のスイッチング制御により高周波電流が発生し、この高周波電流はモータ配線16、モータ巻線14、浮遊容量15、電気的接続手段10を経由してパワー基板部のグランド9へ帰還する。このグランド9は制御装置1内のグランド配線を介してコネクタ(図2、18)のグランドピン13を通り、最後はバッテリ2のマイナス端子19へ戻る。
【0011】
従来の装置では電気的接続手段10が存在しないため、モータケース17から、またはギヤ部(図2、33)の機構部を介して車両のボディ20とアース38され、車両ボディ20間に存在する浮遊容量を経由して高周波電流が流れる。パワー基板部のグランドまでの電気的経路が長く大きなループが形成され、さらには車両ボディ20のアース電位が変動することにより電磁妨害を発生する。しかし、電気的接続手段10を備えることで、車両ボディ20への流れ経路を断ち、悪影響を及ぼすことなく、最短距離でパワー基板部グランド9へ帰還するので、放射性・伝導性電磁妨害を抑制することができる。
【0012】
次に図2に基づき構造的に説明する。モータ11、制御装置1、ギヤ部33がモータ出力軸32に沿って配置されている。制御装置1は、モータケース17側とギヤ部33側にそれぞれハウジング21とカバー22との内側に装着され、制御基板部6とパワー基板部5が分離した2層構造となっている。また、図示はないが両基板を接続する電気配線が存在する。モータケース17の一部には制御装置1、またはギヤ部33に装着するための取付け部34が配設されている。モータケース17は、導電部材例えば鉄製であり、取付け部34にはネジ35が挿入され、ネジ35はパワー基板部5との中継部材36に螺合している。この中継部材36も導電部材、例えば銅製となっている。
【0013】
一方、パワー基板部5にはFET(図1、Q1~Q6)が搭載されており、これらFETの放熱性のために金属基板である。FETQ4~Q6のグランド配線は最終的に中継部材36の挿入された穴付近まで伸ばされ、このグランド配線と中継部材36とを電気的・機械的に固定するために銅製ナット37を用いる。また、図示はないが、このグランド配線はコネクタ18のグランドピン(図1、13)に接続されている。コネクタ18のグランドピンとの接続部が第1接続部、パワー基板部の中継部材36と接触しているグランド配線が第2接続部に相当する。またナット37と中継部材36とネジ35により接続部材を構成し、ネジ35が固定部材、中継部材37とナット37が中間部材に相当する。
以上によりグランド9はナット37、中継部材36、ネジ35、モータケース17と電気的に接続されている。
【0014】
さらにパワー基板部5自体を固定するため、及び放熱性のためにハウジング21に当接し、このハウジング21は例えばアルミ製で、モータケース17と当接している。パワー基板部5は結果的にモータケース17に機械的に固定される。そのためFETの発熱は、パワー基板部5、ハウジング21、モータケース17と伝導されるので、放熱性が向上できる。さらに制御基板部6側のカバー22はギヤ部33と装着されるため例えばアルミ製で製造される。この場合カバー22も放熱に寄与することも可能である。
【0015】
以上のようにモータケースの取付け部を利用し、FETの搭載されているパワー基板部までの中間部材を介してグランドを機械的・電気的に、また簡単に接続することができた。パワー基板部5がモータ11により近い側に配置されており、グランド接続経路も直線的でより短縮できる。
なお、制御基板部6とパワー基板部5は1枚の基板で、部分的にパワー部分と制御部分と分離されているものであっても同様な構造を取ることは簡単である。
また、モータケースの取付け部にネジ35を使用したが、ネジに固執するものではなく導電性部材であって、かつモータケース11と中継部材36とを固定する固定部材であればよい。
【0016】
さらにナット37と中継部材36は、別体として説明したが一体であってもよい。この場合ナット(37)部の底面とパワー基板部5との接触でグランドを確保し、中継部材部(36)はパワー基板部5をはさみ込むことなく、モータケース17内側と接触することによりグランドが接続されることになる。この場合、固定部材35はモータケース17と中継部材(36)との固定するための部材であり、導電性はなくてもよい。
さらにまた、グランド配線は第1接続部と第2接続部までを同一の太さで配線するのではなく、FETQ4~Q6のソースから第1接続部までは制御電流が流れるため太く配線し、一方第2接続部までは細い配線とすることが可能であり、基板の面積を有効に使用できる。」
ウ 「【0020】
実施の形態3.
次に実施の形態3について図4に基づき説明する。実施の形態1の図1との差異はコンデンサ28である。制御装置内の電気的接続手段10において、FETQ4~Q6のクランド9とモータケース17との接続の間にカップリングコンデンサ28を介している。これにより高周波電流の内交流成分は流し、直流電流は流さないようにしている。なお、このコンデンサ28は、パワー基板部5のグランド上にモータ側グランドの電気的接続手段10の配置された場所の近傍、つまり第2接続部近傍に配置されている。」
エ 「図1
[図:0001417657000006.jpg]
」
オ 「図2
[図:0001417657000007.jpg]
」
カ 「図4
[図:0001417657000008.jpg]
」
(2)甲2発明
上記(1)の記載(特に下線部)から、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
「従来、制御装置、電動モータ用ハーネス、電動モータ、電動モータ巻線の経路において、電動モータ駆動のスイッチング制御により発生する高周波漏れ電流が流れ、この漏れ電流は放射性、または伝導性の電磁妨害を発生し、例えばラジオ、オーディオ機器にノイズ障害を与えることがあったことを背景とし(【0002】)、
電動モータ11において、モータケース17とモータ巻線14間に浮遊容量15が電気的に存在するところ(【0010】)、従来の装置では電気的接続手段10が存在しないため、モータケース17から、またはギヤ部(図2、33)の機構部を介して車両のボディ20とアース38され、車両ボディ20間に存在する浮遊容量を経由して高周波電流が流れるが、電気的接続手段10を備えることで、車両ボディ20への流れ経路を断ち、悪影響を及ぼすことなく、最短距離でパワー基板部グランド9へ帰還するので、放射性・伝導性電磁妨害を抑制することができ(【0011】)、
パワー基板部5にはFET(図1、Q1~Q6)が搭載され、これらFETの放熱性のために金属基板であり、FETQ4~Q6のグランド配線は最終的に中継部材36の挿入された穴付近まで伸ばされ、このグランド配線と中継部材36とを電気的・機械的に固定するために銅製ナット37を用い、グランド配線はコネクタ18のグランドピン(図1、13)に接続されていて、グランド9はナット37、中継部材36、ネジ35、モータケース17と電気的に接続されており(【0013】、図1)、
パワー基板部5自体を固定するため、及び放熱性のためにハウジング21に当接し、このハウジング21は例えばアルミ製で、モータケース17と当接していて、パワー基板部5は結果的にモータケース17に機械的に固定されるため、FETの発熱は、パワー基板部5、ハウジング21、モータケース17と伝導され(【0014】)、
ナット37と中継部材36は一体であってもよく、この場合ナット(37)部の底面とパワー基板部5との接触でグランドを確保し、モータケース17内側と接触することによりグランドが接続され(【0016】)、
実施の形態3では、図1との差異はコンデンサ28であり、FETQ4~Q6のクランド9とモータケース17との接続の間にカップリングコンデンサ28を介していて、これにより高周波電流の内交流成分は流し、直流電流は流さない(【0020】、図1、4)
駆動装置。」
3 甲第3号証(特開2015-179750号公報)
(1)甲第3号証に記載された事項
甲3には、次のア~エに示す事項が記載されている。
ア 「【0017】
また、基板100の下面には、下側金属ケース212と導通するためのパターンP121と、グラウンドパターンP122とが設けられている。また、パターンP121とグラウンドパターンP122との間には、部品取り付け位置として、間隔の狭い隙間となっている領域A12が設けられている。領域A12では、パターンP121側、グラウンドパターンP122側の各々に部品取り付け用パッドとして、パターンの突出した領域P141、P142が配置されている。
また、図2の例では、領域A12に部品122が設けられている。
【0018】
部品121や部品122として、様々な部品を設置することができる。例えば、グラウンドパターン(P121やP122)と金属ケース210とを導通させたい場合、部品121や部品122としてジャンパ線(良導体)を取り付けることができる。一方、グラウンドパターン(P121やP122)と金属ケース210との間に直流電流を流すべきでない場合、部品121や部品122としてコンデンサを取り付けることができる。あるいは、部品121や部品122として、抵抗、コイル、フェライトビーズを取り付けることができる。また、部品121や部品122として半田ブリッジが設けられていてもよい。」
イ 「【0020】
図3は、基板100における部品取り付けの第1の例を示す説明図である。同図は、基板100のネジ穴部分における断面を横から見た例を示している。同図において、基板100は、上側金属ケース211および下側金属ケース212に挟まれた状態で、ネジ穴111を貫通するネジ311により固定されている。この状態で、パターンP111は、上側金属ケース211に接して導通している。また、パターンP121は、下側金属ケース212に接して導通している。
また、上側金属ケース211と下側金属ケース212とはネジ311にて導通しており、ノイズを吸収するのに充分な容量を確保できている。」
ウ 「図2
[図:0001417657000009.jpg]
」
エ 「図3
[図:0001417657000010.jpg]
」
(2)甲3記載事項
上記(1)の記載(特に下線部)から、甲3には次の事項(以下、「甲3記載事項」という。)が記載されているといえる。
「基板100の下面には、下側金属ケース212と導通するためのパターンP121と、グラウンドパターンP122とが設けられており、図2の例では、領域A12に部品122が設けられ(【0017】、図2)、
部品122として、グラウンドパターン(P121やP122)と金属ケース210との間に直流電流を流すべきでない場合、コンデンサを取り付けることができ(【0018】)、
基板100は、上側金属ケース211および下側金属ケース212に挟まれた状態で、ネジ穴111を貫通するネジ311により固定され、この状態で、パターンP111は、上側金属ケース211に接して導通しており、パターンP121は、下側金属ケース212に接して導通していて、上側金属ケース211と下側金属ケース212とはネジ311にて導通しており、ノイズを吸収するのに充分な容量を確保できる(【0020】)こと。」
4 甲第4号証(特開2015-106972号公報)
(1)甲第4号証に記載された事項
甲4には、次のア~ウに示す事項が記載されている。
ア 「【0026】
ヒートシンク35には、第1半導体モジュール40および第2半導体モジュール45を保持するモジュール保持面36、37が形成される。モジュール保持面36、37は、モータ部10の軸線Sを挟んで両側に略平行に形成される。換言すると、モジュール保持面36、37は、モータ部10の軸方向の端部から立ち上がる方向であって、モータ部10の軸方向の端部に対して略垂直に形成される。
【0027】
第1半導体モジュール40は、図示しない放熱シートを挟んで、ねじ等によりモジュール保持面36に固定される。これにより、第1半導体モジュール40は、モータ部10に対して縦配置される。第1半導体モジュール40は、スイッチング素子401~406(図1参照)、および、電源リレー等が一体にモールドされ、制御基板31およびパワー基板34に接続される。第1半導体モジュール40の反モータ部10側には、第1系統モータ線115と接続される3つのモータ端子41が形成される。
【0028】
第2半導体モジュール45は、図示しない放熱シートを挟んで、ねじ等によりモジュール保持面37に固定される。これにより、第2半導体モジュール45は、ヒートシンク35を挟んで第1半導体モジュール40と反対側であって、モータ部10に対して縦配置される。第2半導体モジュール45は、スイッチング素子451~456(図1参照)、および、電源リレー等が一体にモールドされ、制御基板31およびパワー基板34に接続される。第2半導体モジュール45の反モータ部10側には、第2系統モータ線125と接続される3つのモータ端子46が形成される。
本実施形態では、第1半導体モジュール40と第2半導体モジュール45とは、同一形状に形成される。」
イ 「図1
[図:0001417657000011.jpg]
」
ウ 「図2
[図:0001417657000012.jpg]
」
(2)甲4記載事項
上記(1)の記載(特に下線部)から、甲4には次の事項(以下、「甲4記載事項」という。)が記載されているといえる。
「ヒートシンク35には、第1半導体モジュール40および第2半導体モジュール45を保持するモジュール保持面36、37が形成され(【0026】)、
第1半導体モジュール40は、ねじ等によりモジュール保持面36に固定される(【0027】)とともに、第2半導体モジュール45は、ねじ等によりモジュール保持面37に固定される(【0028】)こと。」
第5 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)特許法36条6項1号(サポート要件)について
当審より、上記第3に示した取消理由を通知したところ、特許権者からは意見書が提出され、当該意見書における釈明を参酌すると、次の事項が明らかとなった。
ア 本件特許発明の解決しようとする課題について
本件特許明細書段落【0047】には、次の事項が記載されている。
「【0047】
本実施形態では、駆動装置1が電動パワーステアリング装置8に適用されており、大電流が通電されるため、スイッチングノイズやリンギングノイズが発生する。このようなノイズNの発生源は、主にECU10の回路内であり、発生したノイズNがコネクタ35およびモータ80を経由して車両側へ伝搬する虞がある。例えば、参考例として、コネクタ35から外部へノイズが伝搬しないようにフィルタを設ける場合、フィルタ定数の変更や、追加素子が必要となり、体格が大型化、コストアップとなる。」
以上の記載によると、電動パワーステアリング装置8に適用される駆動装置1において、大電流が通電されるため、スイッチングノイズやリンギングノイズが発生し、発生したノイズNがコネクタ35およびモータ80を経由して車両側へ伝搬するとの課題(以下、「本件課題」という。)が開示されている。
そして、本件課題を解決することが、本件特許発明における解決しようとする課題のうちの1つであることを認識することができる。
イ 課題解決手段について
本件明細書段落【0060】及び【0062】には、次の事項が記載されている。
「【0060】
駆動装置1は、機電接続コンデンサ142、242は、基板30における系統毎のグランドと、ハウジング接続パターン156、157、256、257とを接続する。ハウジング接続パターン156、157、256、257は、基板30の他の配線パターンとは切り離されており、ハウジング830と電気的に接続される。これにより、モータ80側に伝搬したノイズを、インバータ120、220を含むECU10側に帰還させる低インピーダンスの経路を形成することができる。
…中略…
【0062】
機電接続コンデンサ142、242は、基板30に実装され、基板30のグランドパターンと、ハウジング830とを電気的に接続する。基板30において、ハウジング830と電気的に接続されるハウジング接続パターン156、157、256、257は、基板30の他のパターンとは切り離されており、機電接続コンデンサ142、242は、ハウジング接続パターン156、157、256、257と、基板30のグランドパターンとを接続する。これにより、モータ80側に伝搬したノイズを、インバータ120、220を含むECU10側に帰還させる低インピーダンスの経路を形成することができる。したがって、車両99等、駆動装置1の外部へのノイズの伝搬を低減することができる。」
上記記載によれば、駆動装置1における機電接続コンデンサ142、242が、基板30における系統毎のグランドと、ハウジング接続パターン156、157、256、257とを接続し、ハウジング接続パターン156、157、256、257は、基板30の他の配線パターンとは切り離されており、ハウジング830と電気的に接続され、これにより、モータ80側に伝搬したノイズを、インバータ120、220を含むECU10側に帰還させる低インピーダンスの経路を形成することができ(【0060】)、機電接続コンデンサ142、242は、基板30に実装され、基板30のグランドパターンと、ハウジング830とを電気的に接続し、機電接続コンデンサ142、242は、ハウジング接続パターン156、157、256、257と、基板30のグランドパターンとを接続することにより、モータ80側に伝搬したノイズを、インバータ120、220を含むECU10側に帰還させる低インピーダンスの経路を形成して、車両99等、駆動装置1の外部へのノイズの伝搬を低減することができる(【0062】)ことを読取ることができる。
ウ 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明に記載された事項との対比
上記イに記載された事項は、概ね構成要件1D及び1Eによって、上記アに記載された本件課題が解決されることを示しているといえるから、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、本件特許発明1~5及び7は、特許法36条6項1号の規定に違反するものとはいえない。
2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法29条2項(進歩性)について
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と、上記第4の1(2)に示した甲1発明とを対比する。
a 構成要件1Aについて
甲1発明の「第1巻線組13」及び「第2巻線組14」は、構成要件1Aの「複数の巻線組」に相当する。
甲1発明の「ケース部材としてのモータケース11」は、構成要件1Aの「ハウジング」に相当する。
甲1発明の「モータ10」は、構成要件1Aの「モータ」に相当する。
以上の検討から、甲1発明は、構成要件1Aの「複数の巻線組(180、280)が共通のハウジング(830)に設けられるモータ(80)」に相当する構成を有する。
b 構成要件1Bについて
甲1発明の「第1インバータ部50」及び「第2インバータ部60」は、それぞれ「第1巻線組13への通電」及び「第2巻線組14への通電」を「切り替え」るものであるところ、構成要件1Bの「前記巻線組ごとに設けられる複数の駆動回路部(120、220)」に相当する。
甲1発明の「基板41」は、構成要件1Bの「基板」に相当する。また、甲1発明の「ECU40を構成する電子部品」は、「1枚の基板41に実装され」るものであるから、甲1発明は、構成要件1Bの「前記巻線組ごとに設けられる複数の駆動回路部(120、220)が実装される基板(30、31、32)」に相当する構成を有する。
c 構成要件1Cについて
甲1発明は、構成要件1Cの「前記基板に実装され、前記基板のグランドパターンと、前記ハウジングとを電気的に接続する機電接続コンデンサ(142~144、242~244)」に相当する構成を有さず、そのうち、特に「機電接続コンデンサ(142~144、242~244)」に対応する構成を有しない。(相違点1)
d 構成要件1Dについて
構成要件1Dにおける、「前記基板」及び「前記ハウジング」は、上記a及びbの認定を踏まえると、それぞれ甲1発明の「基板41」及び「モータケース11」に相当するものといえるものの、当該「基板41」には、「基板固定部32に対応する箇所」に「孔部48が形成され」るとともに、「基板固定ねじ49」が「導電可能な素材で形成され」ることにより、「孔部48に挿入され、フレーム部材20の基板固定部32に螺着され、基板固定ねじ49の軸力により、基板41は、フレーム部材20に密着固定され電気的にも接続され」るところ、「基板41」に、構成要件1Dにおける、「ハウジング接続パターン(156、157、256、257)」が設けられることや、「前記ハウジングと電気的に接続されるハウジング接続パターン(156、157、256、257)」が、「前記基板の他の配線パターンとは切り離されて」いることなどは特定されていない。
加えて、上記cで認定したとおり、甲1発明は、本件特許発明1における、「機電接続コンデンサ」に相当する構成を有していないから、甲1発明は、構成要件1Dの、「前記基板において、前記ハウジングと電気的に接続されるハウジング接続パターン(156、157、256、257)は、前記基板の他の配線パターンとは切り離されており、前記機電接続コンデンサは、前記ハウジング接続パターンと、前記基板のグランドパターンとを接続し」との構成を有しない。(相違点2)
e 構成要件1Eについて
上記dで認定したとおり、甲1発明は、本件特許発明1の「ハウジング接続パターン(156、157、256、257)」を有しないことから、甲1発明は、構成要件1Eのうち、「前記ハウジング接続パターンは、前記ハウジングと直接的に面接触している」との構成を有しない。(相違点3)
一方、甲1発明の「駆動装置1」は、構成要件1Eのうち、「駆動装置」に相当するものといえる。
f 以上、a~eの検討から、本件特許発明1と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
1A 複数の巻線組が共通のハウジングに設けられるモータと、
1B 前記巻線組ごとに設けられる複数の駆動回路部が実装される基板と、
を備える、
1E’駆動装置。
〈相違点1〉
本件特許発明1が、「前記基板に実装され、前記基板のグランドパターンと、前記ハウジングとを電気的に接続する機電接続コンデンサ(142~144、242~244)」(構成要件1C)を備えるのに対し、甲1発明は、そのような構成、特に「機電接続コンデンサ」に相当する構成を有しない点。
〈相違点2〉
本件特許発明1が、「前記基板において、前記ハウジングと電気的に接続されるハウジング接続パターン(156、157、256、257)は、前記基板の他の配線パターンとは切り離されており、前記機電接続コンデンサは、前記ハウジング接続パターンと、前記基板のグランドパターンとを接続し」(構成要件1D)との構成を有するのに対し、甲1発明はそのような構成を有しない点。
〈相違点3〉
本件特許発明1が、「前記ハウジング接続パターンは、前記ハウジングと直接的に面接触している」(構成要件1E)との構成を有するのに対し、甲1発明はそのような構成を有しない点。
(イ)相違点に係る当審の判断
相違点1~3は、いずれも「機電接続コンデンサ」に係る構成に関係するものであるから、まとめて検討する。
本件特許の解決しようとする課題は、上記第5の1(1)アに示したとおり、「電動パワーステアリング装置8に適用される駆動装置1において、大電流が通電されるため、スイッチングノイズやリンギングノイズが発生し、発生したノイズNがコネクタ35およびモータ80を経由して車両側へ伝搬する」点にあり、そのための解決手段は、上記第5の1(1)イ及びウに示したとおり、構成要件1D及び1Eによって解決されるものである。
一方で、甲1発明は、「モータケースおよびヒートシンクと車体フレームとを接続することでコントローラ側へのノイズは低減されるが、その分、装置外へ漏れるノイズが増大するため、モータケースおよびヒートシンクから装置外へ漏れるノイズがラジオのアンテナ等に伝播し、ラジオノイズの原因となる虞があることを発明が解決しようとする課題としたもの」であり、甲2発明は、「従来、制御装置、電動モータ用ハーネス、電動モータ、電動モータ巻線の経路において、電動モータ駆動のスイッチング制御により発生する高周波漏れ電流が流れ、この漏れ電流は放射性、または伝導性の電磁妨害を発生し、例えばラジオ、オーディオ機器にノイズ障害を与えることがあったことを背景と」するものであって、共に、「モータケースおよびヒートシンクから装置外へ漏れるノイズがラジオのアンテナ等に伝播し、ラジオノイズの原因とな」ったり、「電動モータ駆動のスイッチング制御により発生する高周波漏れ電流」により「例えばラジオ、オーディオ機器にノイズ障害を与える」といった点で本件課題とも共通する課題を有する発明であるとはいえるものの、具体的な実装態様として、「前記基板のグランドパターンと、前記ハウジングとを電気的に接続する機電接続コンデンサ」を「前記基板の他の配線パターンとは切り離され」た「ハウジングと電気的に接続されるハウジング接続パターン」と、「前記基板のグランドパターンとを接続」するとともに、「前記ハウジング接続パターン」を、「前記ハウジングと直接的に面接触」するよう構成することは、当業者といえども容易になし得たとまではいうことができない。
このことは、甲3記載事項に示されるように、「下側金属ケース212と導通するためのパターンP121と、グラウンドパターンP122と」の間に接続される「部品122として、グラウンドパターン(P121やP122)と金属ケース210との間に直流電流を流すべきでない場合、コンデンサを取り付けることができ」るようなものが、本件特許出願前公知であったとしても、甲1発明において、相違点1~3に係る構成を想起することは、当業者にとって容易とまではいえない。
イ 本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1に対して、さらに「ハウジングと同電位であるヒートシンク(63)と直接的に面接触している」(構成要件3E)ことを特定するものであるところ、上記相違点1~3については、本件特許発明1と同様であり、当業者といえども、甲1~甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとまではいえない。
ウ 本件特許発明2、4~5、7について
本件特許発明2は本件特許発明1を、本件特許発明4~5、7は、本件特許発明1又は3を直接または間接的に引用するものであるから、本件特許発明1及び3と同様、甲1~甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとまではいえない。
(2)特許法36条6項1号(サポート要件)について
上記1(1)に示したとおり、本件特許発明1~5、7は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、申立人が主張する理由によって、本件特許出願が、特許法36条6項1号の規定に違反してなされたものであるとはいえない。
第6 むすび
したがって、請求項1~5、7に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~5、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700550