特許異議申立
2024-700522
周波数選択反射板および通信中継システム
- 審判番号
- 2024-700522
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-200588
- 登録番号
- 7424537
- 請求日
- 2024年06月03日
- 審決日
- 2025年03月28日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】山下 昭彦
- 【権利者代理人】岸本 達人
- 【異議申立人】須田 元也
- 【異議申立人】金澤 毅
- 審判長/審判官
- 審判長 高野 洋
- 審判官 丸山 高政
- 審判官 上田 翔太
- 分類
- P1652.113-YAA(H01Q) / P1652.121-YAA(H01Q)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7424537号発明「周波数選択反射板および通信中継システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7424537号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、5、6について訂正することを認める。
特許第7424537号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7424537号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、2022年(令和4年)8月29日(優先権主張 令和3年8月27日、令和4年5月9日、令和4年6月27日)を国際出願日とする特願2023-544018号の一部を、令和5年10月17日に新たな特許出願とした特願2023-178884号の一部を、令和5年11月28日に新たな特許出願としたものであって、令和6年1月22日にその特許権の設定登録がされ、令和6年1月30日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許に対し、令和6年6月3日に特許異議申立人 須田 元也(以下「申立人A」という。)により請求項1~4を対象として特許異議の申立てがされた。また、令和6年7月8日に申立人 金澤 毅(以下「申立人B」という。)により、請求項1を対象として特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 6年 6月 3日 :特許異議申立書(申立人A)
令和 6年 7月 8日 :特許異議申立書(申立人B)
令和 6年10月30日付け:取消理由通知書
令和 7年 1月 6日 :訂正請求書、意見書(特許権者)
令和 7年 1月28日付け:訂正請求があった旨の通知
令和 7年 2月26日 :意見書(申立人A)
なお、申立人Bから意見書の提出はなかった。
以下、令和6年10月30日付け取消理由通知書のことを、単に「取消理由通知書」といい、令和7年1月6日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、次の訂正事項1~4のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「反射ビームプロファイルを調整する機能を有する、周波数選択反射板。」と記載されているのを、
「反射ビームプロファイルを調整する機能を有し、下記(1)~(4)の構成のいずれかを有する、周波数選択反射板。(1)前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、前記複数の分割領域は、前記周波数選択反射板の中央に位置する分割領域であるメイン領域と、前記メイン領域以外の分割領域である複数のサブ領域とを有し、前記複数のサブ領域は前記メイン領域の周囲に配置されており、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、前記各サブ領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記メイン領域での前記電磁波の反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がるように設定されている。(2)前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、電磁波の主反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がるように設定されている。(3)前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、前記複数の分割領域は、前記周波数選択反射板の中央に位置する分割領域であるメイン領域と、前記メイン領域以外の分割領域である複数のサブ領域とを有し、前記複数のサブ領域は前記メイン領域の周囲に配置されており、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、前記各サブ領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記メイン領域での前記電磁波の反射方向ベクトルを中心として内側に収束するように設定されている。(4)前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、電磁波の主反射方向ベクトルを中心として内側に収束するように設定されている。」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
(訂正事項2-1)
特許請求の範囲の請求項5に「前記周波数選択反射板が、前記電磁波を反射する反射部材と、前記反射部材に対して前記電磁波の入射側に配置され、前記電磁波を透過する誘電体層と、を有し、前記誘電体層では、厚さの異なる複数の誘電体セル領域が繰り返し配列されており、前記セル領域は、前記誘電体セル領域である、請求項1または請求項2に記載の周波数選択反射板。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改める。
(訂正事項2-2)
特許請求の範囲の請求項5に「前記周波数選択反射板が、前記電磁波を反射する反射部材と、前記反射部材に対して前記電磁波の入射側に配置され、前記電磁波を透過する誘電体層と、を有し、前記誘電体層では、厚さの異なる複数の誘電体セル領域が繰り返し配列されており、前記セル領域は、前記誘電体セル領域である、請求項1または請求項2に記載の周波数選択反射板。」とあるうち、請求項1を引用する請求項2を引用するものについて、独立形式に改め、新たに請求項6とする。
(3)一群の請求項について
本件訂正は、本件訂正前の請求項1~5についての訂正であり、本件訂正前の請求項2~5は請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正請求書による訂正請求は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項に対して請求されたものである。
また、訂正後の請求項5及び6については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めるとする、別の訂正単位とする求めがされている。
2 訂正要件について
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「周波数選択反射板」について、「(1)前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、前記複数の分割領域は、前記周波数選択反射板の中央に位置する分割領域であるメイン領域と、前記メイン領域以外の分割領域である複数のサブ領域とを有し、前記複数のサブ領域は前記メイン領域の周囲に配置されており、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、前記各サブ領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記メイン領域での前記電磁波の反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がるように設定されている。(2)前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、電磁波の主反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がるように設定されている。(3)前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、前記複数の分割領域は、前記周波数選択反射板の中央に位置する分割領域であるメイン領域と、前記メイン領域以外の分割領域である複数のサブ領域とを有し、前記複数のサブ領域は前記メイン領域の周囲に配置されており、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、前記各サブ領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記メイン領域での前記電磁波の反射方向ベクトルを中心として内側に収束するように設定されている。(4)前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、電磁波の主反射方向ベクトルを中心として内側に収束するように設定されている。」として、「(1)~(4)の構成のいずれかを有する」ということを特定することにより、「周波数選択反射板」の構成を限定するものといえる。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮(特許法120条の5第2項ただし書き1号)を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
前記アで示したとおり、訂正事項1に係る訂正は「周波数選択反射板」の構成を限定するための訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」ということがある。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1により追加された「(1)前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、前記複数の分割領域は、前記周波数選択反射板の中央に位置する分割領域であるメイン領域と、前記メイン領域以外の分割領域である複数のサブ領域とを有し、前記複数のサブ領域は前記メイン領域の周囲に配置されており、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、前記各サブ領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記メイン領域での前記電磁波の反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がるように設定されている。」との事項は、明細書等の【0036】の「I.第1実施態様 本実施態様の周波数選択反射板は、特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、上記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、上記複数の分割領域は、上記周波数選択反射板の中央に位置する分割領域であるメイン領域と、上記メイン領域以外の分割領域である複数のサブ領域とを有し、上記複数のサブ領域は上記メイン領域の周囲に配置されており、上記各分割領域での上記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、上記各サブ領域での上記電磁波の反射方向ベクトルは、上記メイン領域での上記電磁波の反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がるように設定されている。」との記載に基づくものであると認められる。
また、訂正事項1により追加された「(2)前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、電磁波の主反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がるように設定されている。」との事項は、明細書等の【0229】の「II.第2実施態様 本実施態様の周波数選択反射板は、特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、上記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、上記各分割領域での上記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、上記各分割領域での上記電磁波の反射方向ベクトルは、上記各分割領域での上記電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、電磁波の主反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がるように設定されている。」との記載に基づくものであると認められる。
また、訂正事項1により追加された「(3)前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、前記複数の分割領域は、前記周波数選択反射板の中央に位置する分割領域であるメイン領域と、前記メイン領域以外の分割領域である複数のサブ領域とを有し、前記複数のサブ領域は前記メイン領域の周囲に配置されており、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、前記各サブ領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記メイン領域での前記電磁波の反射方向ベクトルを中心として内側に収束するように設定されている。」との事項は、明細書等の【0265】の「III.第3実施態様 本実施態様の周波数選択反射板は、特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、上記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、上記複数の分割領域は、上記周波数選択反射板の中央に位置する分割領域であるメイン領域と、上記メイン領域以外の分割領域である複数のサブ領域とを有し、上記複数のサブ領域は上記メイン領域の周囲に配置されており、上記各分割領域での上記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、上記各サブ領域での上記電磁波の反射方向ベクトルは、上記メイン領域での上記電磁波の反射方向ベクトルを中心として内側に収束するように設定されている。」との記載に基づくものであると認められる。
また、訂正事項1により追加された「(4)前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、電磁波の主反射方向ベクトルを中心として内側に収束するように設定されている。」との事項は、明細書等の【0275】の「IV.第4実施態様 本実施態様の周波数選択反射板は、特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、上記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、上記各分割領域での上記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、上記各分割領域での上記電磁波の反射方向ベクトルは、上記各分割領域での上記電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、電磁波の主反射方向ベクトルを中心として内側に収束するように設定されている。」との記載に基づくものであると認められる。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
エ 独立特許要件
訂正事項1に係る請求項1~4は、いずれも本件特許異議の申立てがされているので、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の適用はない。
オ 小括
前記ア~エのとおりであるから、訂正事項1に係る訂正は、適法なものと認められる。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
(ア)訂正事項2-1及び2-2に係る訂正は、訂正前の請求項5の記載が訂正前の請求項1または2を引用する記載であったものを、訂正前の請求項1または2のみを引用するものとするとともに、請求項間の引用関係を解消し独立形式請求項に改めるものである。
したがって、訂正事項2-1及び2-2は、共に、特許請求の範囲の減縮(特許法120条の5第2項ただし書1号)及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること(特許法120条の5第2項ただし書き4号)を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
前記アで示したとおり、訂正事項2-1及び2-2に係る訂正は、訂正前の請求項5を、それぞれ請求項1及び2のみを引用するものとするとともに、請求項間の引用関係を解消し独立形式請求項に改めるための訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
前記アで示したとおり、訂正事項2-1及び2-2に係る訂正は、訂正前の請求項5を、請求項1又は2のみを引用するものとするとともに、請求項間の引用関係を解消し独立形式請求項に改めるための訂正であるから、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
エ 独立特許要件
訂正後の請求項5及び6は、「前記周波数選択反射板が、前記電磁波を反射する反射部材と、前記反射部材に対して前記電磁波の入射側に配置され、前記電磁波を透過する誘電体層と、を有し、前記誘電体層では、厚さの異なる複数の誘電体セル領域が繰り返し配列されており、前記セル領域は、前記誘電体セル領域である」との発明特定事項を含む。
そして、該発明特定事項は、申立人により提出されたいずれの証拠にも記載も示唆もされておらず、技術常識であるともいえないから、訂正後の請求項5及び6に係る発明は、新規性及び進歩性が欠如したものではないし、他に特許出願の際に独立して特許を受けることができるものではないとする理由もない。
よって、訂正後の請求項5及び6に係る発明は、独立して特許を受けることができる。
したがって、訂正事項2-1及び2-2に係る訂正は、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の規定に適合する。
オ 小括
前記ア~エのとおりであるから、訂正事項2に係る訂正は、適法なものと認められる。
3 本件訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求書による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き1号及び4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
また、訂正後の請求項5及び6について、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めるとする、別の訂正単位とする求めがされている。
したがって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、5、6について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
訂正後の本件特許の請求項1~6に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
なお、請求項1における符号A~D4Cは、発明特定事項の分説のために当審で付したものであり、以下、分説した発明特定事項を、それぞれ「発明特定事項1A」等のように参照する。
また、請求項1において選択的に記載される発明特定事項である(1)D1A~D1E、(2)D2A~D2C、(3)D3A~D3E、(4)D4A~D4Cを、それぞれ「構成(1)」等のように参照する。
「【請求項1】
A 特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、
B 前記電磁波の反射位相が異なる複数のセル領域が繰り返し配列されており、
C 反射ビームプロファイルを調整する機能を有し、
D 下記(1)~(4)の構成のいずれかを有する、周波数選択反射板。
D1A (1)前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、
D1B 前記複数の分割領域は、前記周波数選択反射板の中央に位置する分割領域であるメイン領域と、前記メイン領域以外の分割領域である複数のサブ領域とを有し、
D1C 前記複数のサブ領域は前記メイン領域の周囲に配置されており、
D1D 前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、
D1E 前記各サブ領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記メイン領域での前記電磁波の反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がるように設定されている。
D2A (2)前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、
D2B 前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、
D2C 前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、電磁波の主反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がるように設定されている。
D3A (3)前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、
D3B 前記複数の分割領域は、前記周波数選択反射板の中央に位置する分割領域であるメイン領域と、前記メイン領域以外の分割領域である複数のサブ領域とを有し、
D3C 前記複数のサブ領域は前記メイン領域の周囲に配置されており、
D3D 前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、
D3E 前記各サブ領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記メイン領域での前記電磁波の反射方向ベクトルを中心として内側に収束するように設定されている。
D4A (4)前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、
D4B 前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、
D4C 前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、電磁波の主反射方向ベクトルを中心として内側に収束するように設定されている。
【請求項2】
前記セル領域の平面視のパターン形状は、ストライプ状である、請求項1に記載の周波数選択反射板。
【請求項3】
前記周波数選択反射板が、前記電磁波を反射する反射部材を有し、
前記反射部材では、サイズの異なる複数の反射素子が繰り返し配列されており、
前記セル領域は、サイズが異なる複数の前記反射素子のうち、1つの前記反射素子が配置されている領域である、請求項1に記載の周波数選択反射板。
【請求項4】
前記周波数選択反射板が、前記電磁波を反射する反射部材を有し、
前記反射部材では、サイズの異なる複数の反射素子が繰り返し配列されており、
前記セル領域は、前記電磁波の反射位相が同じである前記反射素子が複数配置されている領域である、請求項1または請求項2に記載の周波数選択反射板。
【請求項5】
特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、
前記電磁波の反射位相が異なる複数のセル領域が繰り返し配列されており、
反射ビームプロファイルを調整する機能を有し、
前記周波数選択反射板が、前記電磁波を反射する反射部材と、前記反射部材に対して前記電磁波の入射側に配置され、前記電磁波を透過する誘電体層と、を有し、
前記誘電体層では、厚さの異なる複数の誘電体セル領域が繰り返し配列されており、
前記セル領域は、前記誘電体セル領域である、周波数選択反射板。
【請求項6】
特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、
前記電磁波の反射位相が異なる複数のセル領域が繰り返し配列されており、
反射ビームプロファイルを調整する機能を有し、
前記セル領域の平面視のパターン形状は、ストライプ状であり、
前記周波数選択反射板が、前記電磁波を反射する反射部材と、前記反射部材に対して前記電磁波の入射側に配置され、前記電磁波を透過する誘電体層と、を有し、
前記誘電体層では、厚さの異なる複数の誘電体セル領域が繰り返し配列されており、
前記セル領域は、前記誘電体セル領域である、周波数選択反射板。」
第4 異議申立の概要
1 申立人Aによる特許異議申立理由の概要
申立人Aは、以下の証拠方法を提出し(甲第1号証~甲第3号証。以下、申立人Aが提出した甲第1号証~甲第3号証をそれぞれ、「甲A1」~「甲A3」という。)、本件特許の請求項1~4に係る特許は、以下に示す理由により、取り消すべきものである旨主張する。
(1)申立理由
ア 申立理由1
本件発明1は、甲A1~3に記載された発明のいずれか一つの発明と同一であって、特許法29条1項3号に該当するから、当該発明についての特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
イ 申立理由2
本件発明2、4は、甲A1または2に記載された発明のいずれか一つの発明と同一であって、特許法29条1項3号に該当するから、当該発明についての特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
ウ 申立理由3
本件発明3は、甲A3に記載された発明と同一であって、特許法29条1項3号に該当するから、当該発明についての特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
エ 申立理由4
本件発明1、2、4は、甲A1に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
オ 申立理由5
本件発明1、2、4は、甲A2に記載された発明に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
カ 申立理由6
本件発明1、3は、甲A3に記載された発明に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
(2)証拠方法
甲A1:特開2021-48465号公報
甲A2:特開2013-48344号公報
甲A3:特許第5371633号公報
2 申立人Bによる特許異議申立理由の概要
申立人Bは、以下の証拠方法を提出し(甲第1号証。以下、申立人Bが提出した甲第1号証を、「甲B1」という。)、本件特許の請求項1に係る特許は、以下に示す理由により、取り消すべきものである旨主張する。
(1)申立理由
ア 申立理由7
本件発明1は、甲B1に記載された発明と同一であって、特許法29条1項3号に該当するから、当該発明についての特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
イ 申立理由8
本件発明1は、甲B1に記載された発明に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
(2)証拠方法
甲B1:特許第5355000号公報
第5 取消理由の概要
当審において令和6年10月30日付けの取消理由通知書で通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
理由1(新規性) 本件特許の請求項1~4に係る発明は、甲A1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、当該請求項についての特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
理由2(進歩性) 本件特許の請求項1~4に係る発明は、甲A1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項についての特許は特許法29条2項の規定に違反してなされたものである。
甲A1:特開2021-48465号公報
第6 取消理由についての当審の判断
1 甲A1の記載事項及び甲A1発明
(1)甲A1の記載事項
甲A1には、次の事項が記載されている。
ア 「【0002】
現在、 商用分野にも第5世代、いわゆる5Gのモバイル通信規格が導入されている。本規格では高スループット、より多くのチャネル容量、および、低遅延でのパフォーマンスの改善が大いに求められている。
データ速度の面では、本規格では10Gbps以上のスループットが約束されている。この事実に対応するため、ある解決案では5Gモバイル通信は非常に高い周波数を用いて動作することが提案されている。
多くの国々で、26GHzから28GHzの周波数領域のミリ波帯域が導入され実証された。この非常に高い周波数により、モバイル通信システムで非常に高いスループットを達成する、より広い帯域幅で伝送ができる。
それにも関わらず、モバイル通信にはカバーエリアに問題がある。ミリ波周波数を用いることから、電磁波は波の伝搬において高い直進性を持つ。波の伝搬では、障害物を屈折により通過するのが難しい。そのため、通信システムはカバーエリアが小さい。
上述の事由から、電磁波の反射板の考えが用いられてきた。伝搬する波は、反射板により所望の方向に反射することができる。この解決法は非常に単純でコストも低い。しかしながら、通常の金属反射板を使うと、反射板は所望の反射方向の角度まで回される。それゆえ、これを実施sると、反射角度が大きい場合には体積が大きくなる。特に室内環境では、実際には向いていない。
近年、メタサーフェスと名付けられた電磁波の反射器が提案されている。メタサーフェスの反射特性は、反射面上の波長以下の共振器の配列で生まれる、表面のインピーダンスと反射位相に依存する。メタサーフェスは周期的に配列された共振器や非周期的に配列された共振器で構成される。共振器を最適化することにより、メタサーフェスはその平面形状を維持しながら所望の反射角度を実現できるため、現実の環境で実施するのに適している。…(略)…」(当審注:上記の「実施sる」は原文ママ)
イ 「【0009】
以下の実施例では、目的のメタサーフェス100の中心周波数は28GHzである。また、以下の説明では、メタサーフェス100は入射角が0度の入射波を70度の向きに反射するよう設計されている。
なお、本明細書ではメタサーフェス100に垂直に入射した電磁波が反射する方向のうち、最大の強度を示す反射方向を「主反射方向」と呼ぶことがある。同様に、反射波のメインとなるローブの向きとして「主ローブ方向」と呼ぶことがある。また、電磁波の反射板としてのメタサーフェス、つまり、メタサーフェスを備えた反射板を、単にメタサーフェスと呼ぶことがある。
以下に説明されるように、動作周波数、異常波反射における入射角と反射角は、十字型の共振器130の大きさや回折格子の周期の長さを調整することにより設計、変更できる。
ここで、異常波反射とは、例えば非特許文献1に記載のような、入射角が0度の入射波を70度などの向きに反射できるような反射を言う。」
ウ 「【0011】
図1に示されるように、メタサーフェス100のユニットセル(U1、U2、U3、U4)は、金属グラウンド層120、誘電体基板110、および、十字型の共振器130を有する。ユニットセル(U1、U2、U3、U4)の領域は、周期Pの正方形である。
金属グラウンド層120は、メタサーフェス100を通過する波を消すために利用される。また、誘電体基板110の層を支持するのに利用される。」
エ 「【図1】
[図:0001423502000001.jpg]
」
前記ウの記載を踏まえて、前記エを参照すると、メタサーフェス100のユニットセル(U1、U2、U3、U4)は、誘電体基板110と、十字型の共振器130を有することが見てとれる。
オ 「【0013】
(メタサーフェス100の説明)
図2は、本発明の一実施例における、十字型のセルを持つユニットセル(U1、U2、U3、U4)を含む、メタサーフェス100の構成の一部を示す。
図2に示されるように、メタサーフェス100ではアーム長の異なる十字型の共振器130のグループが繰り返し配列されている。以下、繰り返し配列される、アーム長の異なる十字型の共振器130のグループを、スーパーセルS1と呼ぶ。
言い換えると、メタサーフェス100は、誘電体基板110、誘電体基板110の底面に設けられ、全ての向きの偏波に対しメタサーフェス100を透過させない金属グラウンド層120、および、アーム長の異なる2種以上の十字型の金属共振器130を有する複数のスーパーセルS1を備える。スーパーセルS1は、3種以上の十字型の金属共振器130を有することが望ましい。」
カ 「【図2】
[図:0001423502000002.jpg]
」
前記ウ及びオの記載を踏まえて、メタサーフェス100の構成の一部を示す前記カを参照すると、メタサーフェス100は、複数のユニットセルを含み、それぞれのユニットセル(U1、U2、U3、U4)における十字型の共振器130は、それぞれアーム長が異なることが見てとれる。
また、ユニットセル(U1、U2、U3、U4)をx軸方向に並べたグループを、スーパーセルS1と呼び、メタサーフェス100では、スーパーセルS1が、x軸方向及びy軸方向に、繰り返し配列されていることが見てとれる。
キ 「【0020】
さらに、この位相はU1、U2、U3、U4のそれぞれのlvとlhの長さを規定する。本例では、U1、U2、U3、U4はそれぞれ-29度、-100度、+29度、+100度の反射位相が要求される。
【0021】
図1に示されるユニットセル(U1、U2、U3、U4)は、これらの位相に対応するように、垂直偏波と水平偏波の両方を有する平面電磁波の励起により数値計算される。ユニットセル(U1、U2、U3、U4)のx軸方向およびy軸方向に周期境界条件が設定される。次に、完全導体が-z方向に適用される。ユニットセル(U1、U2、U3、U4)構造体に平面電磁波を供給するために、完全一致層(perfect match layer)と導波管ポートが+z方向に適用される。
垂直偏波の反射位相を調べる際には、垂直方向のアーム長lVを変化させることにより要求される反射位相を実現する。次に、水平偏波の反射位相を調べる際には、水平方向のアーム長lHを変化させることにより要求される反射位相を実現する。
【0022】
図4は、図3での初期の反射位相を用いた、メタサーフェスでのバイスタティックレーダー反射断面の結果であり、15λ0mm四方の面積を有するメタサーフェス100での両偏波の、動作周波数における、xz平面でのバイスタティックレーダー反射断面(RCS)の結果を示す。この初期結果は、図3に示されるユニットセル(U1、U2、U3、U4)の個々の反射位相によって得られる。さらに、この結果は、波の反射のメインローブが目的の方向に向けられていることを示す。しかしながら、サイドローブが大きいためメタサーフェス100の反射性能としては低い。
【0023】
図5は、隣接するユニットセル間での結合を調整することで最適化した後のメタサーフェスでのバイスタティックレーダー反射断面の結果であり、lVとlHを最適化した後の、メタサーフェス100での両偏波の、xz平面でのバイスタティックレーダー反射断面(RCS)の結果を示す。隣接するユニットセル(U1、U2、U3、U4)間の結合を調整し適切なものにすることにより、高い反射効率を実現することが、最適化の目的である。
【0024】
以上のように設計されたメタサーフェス100では、金属共振器130を有するスーパーセルS1は、誘電体基板110の上面に形成され、入射波の垂直偏波および水平偏波を反射させ、所定周波数での電磁波を要求される位相で異常波反射させる回折格子の周期で配列されている。
本構成により、異常波反射を利用することで、0度で入射する電磁波を50度、60度、70度など大きな角度で反射させることが可能となる。」
ク 「【0026】
上記の実施例を組み合わせることにより、一実施例においては、スーパーセルS1は回折格子の周期で水平方向または垂直方向に配列することができる。そして、入射波に対する主ローブの反射方向が水平方向および垂直方向から0以外の所定角度だけ傾いた方向とすることができる。
本構成により、所望の方向に電磁波を反射させることができる。
【0027】
図6は、本発明の一実施例におけるメタサーフェスの構成を示す。メタサーフェス100を1種類のみから構成した場合、一方向に強い指向性を示す。これに対して、本実施例では、より広い範囲に電磁波を反射する。本実施例において、メタサーフェス100は複数のサブメタサーフェス(201、202、203)から構成される。本実施例では3つのサブメタサーフェス100から構成される。それぞれのサブメタサーフェス(201、202、203、204、205、206)の構造は、既述のメタサーフェス100と同様であり、本実施例では主ローブ方向が水平面内の所定の向きに調整されている。
複数のサブメタサーフェス(201、202、203)は、水平方向に配列されている。そして、それぞれの主ローブ方向は、水平面内の互いに異なる向きである。
本構成により、メタサーフェス100で反射する電磁波を水平方向に所望の範囲で拡散することができる。」
ケ 「【図6】
[図:0001423502000003.jpg]
」
(2)甲A1発明
前記(1)によれば、甲A1には、次の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、甲A1発明をa~mに分説し、「構成a」などのようにして参照する。
<甲A1発明>
「a 周期的に配列された共振器や非周期的に配列された共振器で構成されるメタサーフェスであって、(【0002】)
b メタサーフェス100は、複数のユニットセルを含み、(【図2】)
c ユニットセル(U1、U2、U3、U4)は、誘電体基板110と、十字型の共振器130を有し、(【図1】)
d それぞれのユニットセル(U1、U2、U3、U4)における十字型の共振器130は、それぞれアーム長が異なり、(【図2】)
e ユニットセル(U1、U2、U3、U4)はそれぞれ-29度、-100度、+29度、+100度の反射位相を有し、(【0020】)
f ユニットセル(U1、U2、U3、U4)をx軸方向に並べたグループを、スーパーセルS1と呼び、(【図2】)
g メタサーフェス100では、スーパーセルS1が、x軸方向及びy軸方向に、繰り返し配列され、(【図2】)
h メタサーフェス100では、金属共振器130を有するスーパーセルS1により所定周波数での電磁波を要求される位相で異常波反射させ、(【0024】)
i 異常波反射とは、入射角が0度の入射波を70度などの向きに反射できるような反射を言い、(【0009】)
j メタサーフェスは、共振器を最適化することにより、所望の反射角度を実現でき、(【0002】)
k メタサーフェス100での反射により、波の反射のメインローブが目的の方向に向けられ、(【0022】)
l メタサーフェス100は複数のサブメタサーフェス(201、202、203)から構成され、複数のサブメタサーフェス(201、202、203)は、水平方向に配列され、それぞれの主ローブ方向は、水平面内の互いに異なる向きであり、メタサーフェス100で反射する電磁波を水平方向に所望の範囲で拡散することができる(【0027】)
m メタサーフェス。」
2 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲A1発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
(ア)発明特定事項Aについて
a 甲A1発明における「メタサーフェス」について、甲A1の【0009】における「また、電磁波の反射板としてのメタサーフェス、つまり、メタサーフェスを備えた反射板を、単にメタサーフェスと呼ぶことがある。」との記載及び文脈を踏まえると、甲A1発明における「メタサーフェス」は、「メタサーフェスを備えた反射板」を意味するものと認められる。
そして、該「メタサーフェス」は、「所定周波数での電磁波を要求される位相で異常波反射させ」るものである(構成h)から、本件発明1の「特定の周波数帯の電磁波を」「反射する周波数選択反射板」に相当する。
ここで、「異常波反射とは、入射角が0度の入射波を70度などの向きに反射できるような反射を言」う(構成i)から、甲A1発明の「メタサーフェス」は、正反射方向とは異なる方向に反射するものであると認められる。
b 前記aより、本件発明1と甲A1発明とは、「特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板」である点で一致する。
(イ)発明特定事項Bについて
a 甲A1発明の「メタサーフェス」は、「それぞれ-29度、-100度、+29度、+100度の反射位相を有」する「複数のユニットセルを含み」(構成b、e)、「ユニットセル(U1、U2、U3、U4)をx軸方向に並べたグループ」である「スーパーセルS1」(構成f)が、「メタサーフェス」において「x軸方向及びy軸方向に、繰り返し配列され」ている(構成g)。
すなわち、甲A1発明では、以下の【図2’】(【図2’】は甲A1の図2を元に、メタサーフェスに現れる全てのユニットセルに、ユニットセル記号(U1、U2、U3、U4)を書き加えたものである。)のように、「メタサーフェス」上において、x軸方向には、U1、U2、U3,U4、U1…と異なる反射位相を有するユニットセルが繰り返し配置され、y軸方向には、U1,U1、U1…等と同じ反射位相を有するユニットセルが直線状に連続して配置されていると認められる。
【図2’】
[図:0001423502000004.jpg]
してみると、当該構成において、同じ反射位相を有するユニットセルがy軸方向に直線状に連続して配置される領域(例えば、【図2’】左端でy軸方向に連続するU1,U1、U1…からなる領域)は、電磁波の相対反射位相が同じである領域であるといえ、該領域を「セル領域」と称することは、本件明細書【0120】、【0303】、【0332】及び【0343】の「セル領域」の定義に照らして整合的である。そして、x軸方向に見ると、それぞれ異なる反射位相を有する該セル領域が、繰り返し配列されていると認められる。
したがって、本件発明1と甲A1発明とは、「電磁波の反射位相が異なる複数のセル領域が繰り返し配列されて」いる点で共通する。
b 前記aより、本件発明1と甲A1発明とは、「電磁波の反射位相が異なる複数のセル領域が繰り返し配列されており」という点で一致する。
(ウ)発明特定事項Cについて
a 本件発明1における「反射ビームプロファイル」は、発明の詳細な説明の記載を参酌すると、「反射ビームプロファイルにおけるメインローブ(メインビーム)の形状をいい、具体的には、メインローブの角度分布および強度分布をいう」(【0021】)ものと解される。
同様に、本件発明1における「反射ビームプロファイルを調整する機能」は、「周波数選択反射板全体で反射ビームを広げる機能」(【0022】)等をいうものと解される。
b 甲A1発明の「メタサーフェス」は、「波の反射のメインローブ」を「目的の方向に向け」(構成k)、「所望の反射角度を実現」する(構成j)ものであり、「反射する電磁波を水平方向に所望の範囲で拡散する」(構成l)ものであるから、前記aより、反射ビームプロファイルを調整する機能を有すると認められる。
c前記a及びbより、本件発明1と甲A1発明とは、「反射ビームプロファイルを調整する機能を有し」という点で一致する。
(エ)発明特定事項D、D1Aについて
a 甲A1発明の「メタサーフェス」は、「複数のサブメタサーフェス(201、202、203)から構成され」ている(構成l)。すなわち、甲A1発明では、「周波数選択反射板」である「メタサーフェス」(前記(ア)a)の全面が、「複数のサブメタサーフェス(201、202、203)から構成され」ていると認められる。
このとき、各「サブメタサーフェス」がそれぞれ領域をなしており、「メタサーフェス」の全面が「複数のサブメタサーフェス(201、202、203)」によって分割されていることは図6から明らかであるから、甲A1発明では、メタサーフェスの全面が、複数の領域であるサブメタサーフェスに分割されているといえる。したがって、甲A1発明における「サブメタサーフェス」は、本件発明1における「分割領域」に相当する。
b 前記aより、本件発明1と甲A1発明とは、「前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており」という構成を有する点で一致する。
c 前記a及びbより、本件発明1と甲A1発明とは、「前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており」という構成を有する「周波数選択反射板」である点で一致する。
(オ)発明特定事項D1Bについて
a 甲A1発明の「メタサーフェス」は「周波数選択反射板」であって(前記(ア)a)、「複数のサブメタサーフェス(201、202、203)から構成され」ている(構成l)。
図6を参照すると、メタサーフェス100の左端にサブメタサーフェス201が配置され、その右隣にサブメタサーフェス202が配置され、その右隣である右端にサブメタサーフェス203が配置されていることから、サブメタサーフェス202は、メタサーフェス100の中央に位置するといえる。
前記(エ)aのとおり、サブメタサーフェス202は、「分割領域」であるから、サブメタサーフェス202は、中央に位置する分割領域である。
また、サブメタサーフェス201及び203は、中央に位置する分割領域以外の複数の分割領域である。
b 前記aより、本件発明1と甲A1発明とは、「前記複数の分割領域は、前記周波数選択反射板の中央に位置する分割領域と、前記中央に位置する分割領域以外の分割領域である複数の領域とを有し」という点で共通するものの、本件発明1では、周波数選択反射板の中央に位置する分割領域を「メイン領域」とし、メイン領域以外の分割領域を「サブ領域」とするのに対し、甲A1発明ではその点について特定されていない点で相違する。
(カ)発明特定事項D1Cについて
a 甲A1発明では、図6から、サブメタサーフェス201及びサブメタサーフェス203が、中央に位置する分割領域であるサブメタサーフェス202(前記(オ)a)の周囲に配置されているとことは明らかである。
b 前記a及び(オ)より、本件発明1と甲A1発明とは、「前記複数の中央に位置する分割領域以外の領域は前記中央に位置する分割領域の周囲に配置されており、」という点で共通するものの、前記(オ)bと同様に、本件発明1では、中央に位置する分割領域を「メイン領域」とし、メイン領域以外の分割領域を「サブ領域」とするのに対し、甲A1発明ではその点について特定されていない点で相違する。
(キ)発明特定事項D1Dについて
a 本件発明1における「反射方向ベクトル」について、発明の詳細な説明には以下の記載がある。
「例えば図6に示すように、周波数選択反射板1を地面(XZ面)に垂直に立てた場合の電磁波反射側から見て、左隅を原点、水平方向をx軸、天地方向をy軸、反射側法線方向をz軸とし、電磁波の反射方向ベクトルdrの極角をθ、方位角をφと定義する。」(【0038】)
「図8(a)~(c)に、図1および図2に示す周波数選択反射板におけるメイン領域および各サブ領域の反射特性の例を示す。図8(a)に示すように、周波数選択反射板1は、特定の周波数帯の電磁波(入射波Wi)を正反射(鏡面反射)方向とは異なる方向に反射するものであり、例えばメイン領域A0では入射波Wiの入射角θiと、反射波Wrの反射角θrとは異なる。また、図2、図7、図8(b)に示すように、電磁波の反射方向ベクトルの方位角φについて、サブ領域A32ではメイン領域A0に対して方位角φが小さく、サブ領域A12ではメイン領域A0に対して方位角φが大きく、サブ領域A32、メイン領域A0、サブ領域A12の順に、電磁波の反射方向ベクトルの方位角φが徐々に増加している。同様に、サブ領域A31、A21、A11の順に、電磁波の反射方向ベクトルの方位角φが徐々に増加し、サブ領域A33、A23、A13の順に、電磁波の反射方向ベクトルの方位角φが徐々に増加している。一方、図2、図7、図8(c)に示すように、電磁波の反射方向ベクトルの極角θについて、サブ領域A21ではメイン領域A0に対して極角θが小さく、サブ領域A23ではメイン領域A0に対して極角θが大きく、サブ領域A21、メイン領域A0、サブ領域A23の順に、電磁波の反射方向ベクトルの極角θが徐々に増加している。同様に、サブ領域A11、A12、A13の順に、電磁波の反射方向ベクトルの極角θが徐々に増加し、サブ領域A31、A32、A33の順に、電磁波の反射方向ベクトルの極角θが徐々に増加している。このように、x軸方向に沿って電磁波の反射方向ベクトルの極角θが徐々に増加し、また、y軸方向に沿って電磁波の反射方向ベクトルの方位角φが徐々に増加するように、メイン領域A0および各サブ領域A11~A33での電磁波の反射方向ベクトルが設定されている。これにより、各サブ領域A11~A33での電磁波の反射方向ベクトルを、メイン領域A0での電磁波の反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がるように設定することができる。」(【0045】)
「
[図:0001423502000005.jpg]
」(【図8】)
「このような場合、所定の入射角θiで入射した電磁波(入射波Wi)を、メイン領域A0および各サブ領域A11~A33の反射特性(極角θ、方位角φ)に応じて反射させることで、メイン領域A0での電磁波の反射方向ベクトルを中心として広がりを持って反射させることができる。」(【0046】)
これらの記載を参酌すると、本件発明1における「反射方向ベクトル」は、各領域における反射特性と同義であり、各領域における反射波の方向を意味するものであると認められる。
b 甲A1発明における「主ローブ方向」について、甲A1には以下のような記載がある。
「以下の実施例では、目的のメタサーフェス100の中心周波数は28GHzである。また、以下の説明では、メタサーフェス100は入射角が0度の入射波を70度の向きに反射するよう設計されている。なお、本明細書ではメタサーフェス100に垂直に入射した電磁波が反射する方向のうち、最大の強度を示す反射方向を「主反射方向」と呼ぶことがある。同様に、反射波のメインとなるローブの向きとして「主ローブ方向」と呼ぶことがある。」(【0009】)
「図4は、図3での初期の反射位相を用いた、メタサーフェスでのバイスタティックレーダー反射断面の結果であり、15λ0mm四方の面積を有するメタサーフェス100での両偏波の、動作周波数における、xz平面でのバイスタティックレーダー反射断面(RCS)の結果を示す。この初期結果は、図3に示されるユニットセル(U1、U2、U3、U4)の個々の反射位相によって得られる。さらに、この結果は、波の反射のメインローブが目的の方向に向けられていることを示す。しかしながら、サイドローブが大きいためメタサーフェス100の反射性能としては低い。」(【0022】)
「【図4】
[図:0001423502000006.jpg]
」
「図6は、本発明の一実施例におけるメタサーフェスの構成を示す。メタサーフェス100を1種類のみから構成した場合、一方向に強い指向性を示す。これに対して、本実施例では、より広い範囲に電磁波を反射する。本実施例において、メタサーフェス100は複数のサブメタサーフェス(201、202、203)から構成される。本実施例では3つのサブメタサーフェス100から構成される。それぞれのサブメタサーフェス(201、202、203、204、205、206)の構造は、既述のメタサーフェス100と同様であり、本実施例では主ローブ方向が水平面内の所定の向きに調整されている。
複数のサブメタサーフェス(201、202、203)は、水平方向に配列されている。そして、それぞれの主ローブ方向は、水平面内の互いに異なる向きである。
本構成により、メタサーフェス100で反射する電磁波を水平方向に所望の範囲で拡散することができる。」(「【0027】)
これらの記載を参酌すると、甲A1発明における「主ローブ方向」は、1つのメタサーフェス(サブメタサーフェス)による反射波の方向を意味するものであると認められる。
c 前記a及びbより、本件発明1における「反射方向ベクトル」と、甲A1発明における「主ローブ方向」は、共に、「周波数選択反射板」(前記(ア)a)の、所定の領域における反射波の方向を意味するものであるから、甲A1発明における「主ローブ方向」は、本件発明1における「反射方向ベクトル」に相当する。
そして、甲A1発明では、「分割領域」である「複数のサブメタサーフェス(201、202、203)」(前記(エ)a)の「それぞれの主ローブ方向は、水平面内の互いに異なる向きであ」る(構成l)から、本件発明1と甲A1発明は、「各分割領域」における反射波の「反射方向ベクトル」が互いに異なる点で一致する。
d 前記a~cより、本件発明1と甲A1発明とは、「前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり」という点で一致する。
(ク)発明特定事項D1Eについて
a 甲A1発明は、「メタサーフェス100で反射する電磁波を水平方向に所望の範囲で拡散する」(構成l)ものであるから、「周波数選択反射板」である「メタサーフェス」(前記(ア)a)全体として、反射する電磁波である反射波を水平方向に広げるものであると認められるが、各サブメタサーフェス201、202及203のそれぞれの反射波の具体的な方向が不明なため、サブメタサーフェス201及びサブメタサーフェス203の反射波が、サブメタサーフェス202の反射波を中心として外側に向かって広がるか否かは不明である。
b 前記a及び(オ)より、本件発明1は、「前記各サブ領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記メイン領域での前記電磁波の反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がるように設定されている」という発明特定事項を有するのに対し、甲A1発明は、その点について特定されていない点で相違する。
(ケ)発明特定事項D2A、D2B、D3A、D3B、D3C、D3D、D4A、D4Bについて
発明特定事項D2A、D3A、D4Aは発明特定事項D1Aと、発明特定事項D2B、D3D、D4Bは発明特定事項D1Dと、発明特定事項D3B、D3Cは発明特定事項D1B、D1Cと、それぞれ同一であるから、前記(エ)~(ク)に示したとおりである。
(コ)発明特定事項D2Cについて
a 甲A1発明は、「メタサーフェス100で反射する電磁波を水平方向に所望の範囲で拡散する」(構成l)ものであるから、「周波数選択反射板」である「メタサーフェス」(前記(ア)a)全体として、反射する電磁波である反射波を水平方向に広げるものであると認められるが、各サブメタサーフェス201、202及203のそれぞれの反射波の具体的な方向が不明なため、各サブメタサーフェスの反射波が、各サブメタサーフェスの反射波の反射方向ベクトルの和から導かれる、前記電磁波の主反射方向ベクトルを中心として外側に広がるか否かは不明である。
b 前記aより、本件発明1は、「前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、前記電磁波の主反射方向ベクトルを中心として外側に広がるように設定されている」という発明特定事項を有するのに対し、甲A1発明は、その点について特定されていない点で相違する。
(サ)発明特定事項D3Eについて
甲A1発明は、「周波数選択反射板」である「メタサーフェス」(前記(ア)a)全体として、反射する電磁波である反射波を水平方向に広げるものである(前記(ク))。
したがって、本件発明1は、「前記各サブ領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記メイン領域での前記電磁波の反射方向ベクトルを中心として内側に収束するように設定されている」という発明特定事項を有するのに対し、甲A1発明は、その点について特定されていない点で相違する。
(シ)発明特定事項D4Cについて
甲A1発明は、「周波数選択反射板」である「メタサーフェス」(前記(ア)a)全体として、反射する電磁波である反射波を水平方向に広げるものである(前記(ク))。
したがって、本件発明1は、「前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、電磁波の主反射方向ベクトルを中心として内側に収束するように設定されている」という発明特定事項を有するのに対し、甲A1発明は、その点について特定されていない点で相違する。
(ス)一致点と相違点について
前記(ア)~(シ)によれば、本件発明1と甲A1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、
前記電磁波の反射位相が異なる複数のセル領域が繰り返し配列されており、
反射ビームプロファイルを調整する機能を有し、
下記(1)~(4)の構成のいずれかを有する、周波数選択反射板。
(1)前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、
前記複数の分割領域は、前記周波数選択反射板の中央に位置する分割領域と、前記中央に位置する分割領域以外の分割領域である複数の領域とを有し、
前記複数の中央に位置する分割領域以外の領域は前記中央に位置する分割領域の周囲に配置されており、
前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なる。
(2)前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、
前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なる。
(3)前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、
前記複数の分割領域は、前記周波数選択反射板の中央に位置する分割領域と、前記中央に位置する分割領域以外の分割領域である複数の領域とを有し、
前記複数の中央に位置する分割領域以外の領域は前記中央に位置する分割領域の周囲に配置されており、
前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なる。
(4)前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、
前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なる。」
[相違点]
(相違点1)構成(1)及び(3)において、本件発明1では、周波数選択反射板の中央に位置する分割領域を「メイン領域」とし、メイン領域以外の分割領域を「サブ領域」とするのに対し、甲A1発明ではその点について特定されていない点。
(相違点2)構成(1)において、本件発明1は、「前記各サブ領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記メイン領域での前記電磁波の反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がるように設定されている」という発明特定事項を有するのに対し、甲A1発明は、その点について特定されていない点。
(相違点3)構成(2)において、本件発明1は、「前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、前記電磁波の主反射方向ベクトルを中心として外側に広がるように設定されている」という発明特定事項を有するのに対し、甲A1発明は、その点について特定されていない点。
(相違点4)構成(3)において、本件発明1は、「前記各サブ領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記メイン領域での前記電磁波の反射方向ベクトルを中心として内側に収束するように設定されている」という発明特定事項を有するのに対し、甲A1発明は、その点について特定されていない点。
(相違点5)構成(4)において、本件発明1は、「前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、電磁波の主反射方向ベクトルを中心として内側に収束するように設定されている」という発明特定事項を有するのに対し、甲A1発明は、その点について特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、前記アで示した相違点2~5について、以下、検討する。
(ア)相違点2について
前記ア(ク)aのとおり、甲A1発明では、「メタサーフェス100で反射する電磁波を水平方向に所望の範囲で拡散する」(構成l)ことが特定されているものの、各サブメタサーフェス201、202及203のそれぞれの反射波の具体的な方向、すなわち「主ローブ方向」をどのように設定するかについて、記載も示唆もない。
そのため、中央に位置する分割領域以外の領域であるサブメタサーフェス201及びサブメタサーフェス203(前記ア(オ)a)での反射波である電磁波の「反射方向ベクトル」が、中央に位置する分割領域であるサブメタサーフェス202(前記ア(オ)a)での電磁波の反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がることについても、記載も示唆されていない。
その他の証拠においても、このように反射方向ベクトルを設定することは、記載も示唆もされていない。
また、このように反射方向ベクトルを設定することは技術常識であるともいえない。
したがって、相違点2は、当業者といえども、甲A1発明から容易に想到し得たものとは認められない。
(イ)相違点3について
前記ア(ク)aのとおり、甲A1発明では、「メタサーフェス100で反射する電磁波を水平方向に所望の範囲で拡散する」(構成l)ことが特定されているものの、各サブメタサーフェスのそれぞれの反射波の具体的な方向である「主ローブ方向」をどのように設定するかについて、記載も示唆もない。
そのため、各「分割領域」である各「サブメタサーフェス」(前記ア(エ)a)での反射波である電磁波の「反射方向ベクトル」が、各分割領域での電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、前記電磁波の主反射方向ベクトルを中心として外側に広がることについても、甲各号証に記載も示唆されておらず、当該構成は技術常識であるともいえない。
したがって、相違点3は、当業者といえども、甲A1発明から容易に想到し得たものとは認められない。
(ウ)相違点4について
前記ア(ク)aのとおり、甲A1発明では、「メタサーフェス100で反射する電磁波を水平方向に所望の範囲で拡散する」(構成l)ことが特定されているものの、各サブメタサーフェス201、202及203のそれぞれの反射波の具体的な方向、すなわち「主ローブ方向」をどのように設定するかについて、記載も示唆もない。
そのため、中央に位置する分割領域以外の領域であるサブメタサーフェス201及びサブメタサーフェス203(前記ア(オ)a)での反射波である電磁波の「反射方向ベクトル」が、中央に位置する分割領域であるサブメタサーフェス202(前記ア(オ)a)での電磁波の反射方向ベクトルを中心として内側に収束することについても、記載も示唆されていない。
その他の証拠においても、このように反射方向ベクトルを設定することは、記載も示唆もされていない。
また、このように反射方向ベクトルを設定することは技術常識であるともいえない。
したがって、相違点4は、当業者といえども、甲A1発明から容易に想到し得たものとは認められない。
(エ)相違点5について
前記ア(ク)aのとおり、甲A1発明では、「メタサーフェス100で反射する電磁波を水平方向に所望の範囲で拡散する」(構成l)ことが特定されているものの、各サブメタサーフェスのそれぞれの反射波の具体的な方向である「主ローブ方向」をどのように設定するかについて、記載も示唆もない。
そのため、各「分割領域」である各「サブメタサーフェス」(前記ア(エ)a)での反射波である電磁波の「反射方向ベクトル」が、各分割領域での電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、前記電磁波の主反射方向ベクトルを中心として内側に収束することについても、甲各号証に記載も示唆されておらず、当該構成は技術常識であるともいえない。
したがって、相違点5は、当業者といえども、甲A1発明から容易に想到し得たものとは認められない。
ウ 申立人Aの主張について
(ア)申立人Aは、令和7年2月26日に提出した意見書において、「(2)進歩性要件違反について」として、構成(1)について、「甲1発明においても同じ重ね合わせの原理で、メタサーフェスで反射する電磁波を所望の範囲で拡散させる(すなわち反射波の最も強い放射の範囲を広げる)ために、重ね合わせの元となる各サブメタサーフェスの主ローブ方向と配置を設計するにあたり、中央と周囲にサブメタサーフェスを配置し、周囲のサブメタサーフェスの反射波の反射方向を、中央のサブメタサーフェスの反射波の反射方向を中心として外側に広がるように設定すればよいことは容易に予測することであり、当業者の設計事項に過ぎない」(4頁11~17行目)旨主張し、構成(2)について、「各サブメタサーフェスでの電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、電磁波の主反射方向ベクトル(すなわちメタサーフェス全体の反射波の主ローブ方向)を中心として外側に向かって広がるように各サブメタサーフェスの反射方向を設定することは当業者の容易に予測し得る設計事項に過ぎない」(5頁4~8行目)旨主張する。
(イ)構成(1)について、甲A1発明において、中央に位置する分割領域以外の領域であるサブメタサーフェス201及びサブメタサーフェス203(前記ア(オ)a)での反射波である電磁波の「反射方向ベクトル」が、中央に位置する分割領域であるサブメタサーフェス202(前記ア(オ)a)での電磁波の反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がる構成とするためには、サブメタサーフェス202における「反射方向ベクトル」を特定の方向ベクトルとして設定した後に、サブメタサーフェス201及びサブメタサーフェス203における「反射方向ベクトル」が、サブメタサーフェス202における反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がるように設定する必要があると認められる。
しかしながら、前記イ(ア)のとおり、そもそも甲A1発明には、いずれの「サブメタサーフェス」についても「反射方向ベクトル」である「主ローブ方向」(前記ア(キ)c)をどのように設定するのか記載も示唆もないことから、上述のように構成することが設計事項であったとは認められない。
(ウ)構成(2)について、甲A1発明において、各「分割領域」である各「サブメタサーフェス」(前記ア(エ)a)での反射波である電磁波の「反射方向ベクトル」が、各分割領域での電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、前記電磁波の主反射方向ベクトルを中心として外側に広がる構成とするためには、各「サブメタサーフェス」における「反射方向ベクトル」を設定し、それらの「反射方向ベクトルの和から導かれる、電磁波の主反射方向ベクトル」を求めた上で、各「サブメタサーフェス」における「反射方向ベクトル」が該「主反射方向ベクトル」を中心として外側に広がるように設定する必要があると認められる。
しかしながら、前記イ(ア)のとおり、そもそも甲A1発明には各「サブメタサーフェス」の「反射方向ベクトル」である「主ローブ方向」(前記ア(キ)c)をどのように設定するかについての記載も示唆もないことから、上述のように構成することが設計事項であったとは認められない。
(エ)前記(イ)及び(ウ)のとおりであるから、前記(ア)に示した申立人Aの主張は採用できない。
(オ)なお、申立人Aは、構成(3)及び(4)に係る相違点4及び5については、意見書において何も主張していない。
エ 小括
以上によれば、本件発明1は、甲A1発明と実質的に相違点2~5で相違し、相違点2~5は、甲A1発明、提出された証拠方法及び技術常識に基いて当業者が容易になし得たものではない。
そうすると、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が容易に想到し得たものではない。
3 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を付加したものである(前記第3)。
したがって、本件発明2~4と甲A1発明とは、少なくとも、前記(1)アに示した相違点1~6で相違し、相違点2~5は実質的な相違点である。
そして、前記(1)イに示したとおり、相違点2~5に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明2~4は、甲A1発明、その他の証拠及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 まとめ
前記1~3のとおり、本件発明1~4は、甲A1発明であるとはいえず、甲A1発明、その他の証拠及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、取消理由通知書によって通知した取消理由によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
第7 取消理由において採用しなかった特許異議の申立ての理由の概要
前記第4に記載した特許異議の申立ての理由のうち、前記第5に示した取消理由において採用しなかった特許異議の申立ての理由は次のとおりである。
1 甲A2を主引用発明とする理由
(1)申立理由1
本件発明1は、甲A2に記載された発明と同一であって、特許法29条1項3号に該当するから、当該発明についての特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
(2)申立理由2
本件発明2、4は、甲A2に記載された発明と同一であって、特許法29条1項3号に該当するから、当該発明についての特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
(3)申立理由5
本件発明1、2、4は、甲A2に記載された発明に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
2 甲A3を主引用発明とする理由
(1)申立理由1
本件発明1は、甲A3に記載された発明と同一であって、特許法29条1項3号に該当するから、当該発明についての特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
(2)申立理由3
本件発明3は、甲A3に記載された発明と同一であって、特許法29条1項3号に該当するから、当該発明についての特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
(3)申立理由6
本件発明3は、甲A3に記載された発明に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
3 甲B1を主引用発明とする理由
(1)申立理由7
本件発明1は、甲B1に記載された発明と同一であって、特許法29条1項3号に該当するから、当該発明についての特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
(2)申立理由8
本件発明1は、甲B1に記載された発明に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
甲A2:特開2013-48344号公報
甲A3:特許第5371633号公報
甲B1:特許第5355000号公報
第8 取消理由において採用しなかった特許異議の申立ての理由についての当審の判断
1 甲A2、甲A3及び甲B1について
(1)甲A2の記載事項
甲A2には、次の事項が記載されている。
「【0005】
本発明の課題は、入射した電波を所望の複数の方向に反射させることが可能なマルチビームリフレクトアレイを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施例によるマルチビームリフレクトアレイは、
所定の方向に沿って整列した複数の素子を含む素子配列が2つ以上含まれているマルチビームリフレクトアレイであって、
前記素子配列の少なくとも1つに含まれている第1の素子群及び第2の素子群各々において、2つの素子各々が反射する電波の位相差は、該2つの素子の間隔と該素子による反射角に対する三角関数の値との積に比例し、
前記第1の素子群における隣接する素子の間隔は、前記第2の素子群における隣接する素子の間隔の有理数倍に等しい、マルチビームリフレクトアレイである。
【発明の効果】
【0007】
一実施例によれば、入射した電波を所望の複数の方向に反射させることが可能なマルチビームリフレクトアレイを提供することができる。」
「【0009】
本実施例によるマルチビームリフレクトアレイは、入射して来た電波を所望の複数の制御角方向(α1,α2,...,αJ)に反射させることができる。これにより、反射波を受けるエリアにおいて、ビーム強度及びビーム幅を適切に確保することができる。この点、単一の方向に強く狭いビーム又は弱く広いビームしか反射させることができなかった従来のリフレクトアレイと大きく異なる。」
「【0013】
図2はリフレクトアレイを説明するための説明図を示す。図示のリフレクトアレイは、y軸方向に並んだ複数の素子M1ないしMNを有し、これらN個の素子と同様な構造が、y軸方向及びx軸方向に反復的に設けられている。図3はリフレクトアレイの平面図を示す。素子の各々は電波を反射する何らかの素子であり、図示の例ではマッシュルーム構造である。この点については後述する。電波は、z軸∞方向から到来し、z軸方向に対して角度αをなして反射する。隣接する素子同士の間隔がΔyであったとすると、これらの素子による反射波の位相差Δφ及び反射角αは次式を満たす。
【0014】
Δφ=k×Δy×sin(α)
α=sin-1[(λΔφ)/(2πΔy)]
ただし、kは波数であり、2π/λに等しい。λは電波の波長である。波長に比べて十分大きなリフレクトアレイを構成する場合、y軸方向に整列するN個の素子M1ないしMNの全体による反射位相差N×Δφが、360度(2πラジアン)になるように、個々の素子の反射位相を設定することが望ましい。例えば、N=4の場合、Δφ=360/4=90度である。したがって、少なくとも理論上は、隣接する素子間の反射位相差が90度であるように素子を設計し、それらを4個並べたものを2次元的に反復的に並べることで、角度αの方向に電波を反射するリフレクトアレイを実現することができる。図4は、隣接する素子同士の位相差が90度である場合の反射波を模式的に示す。90度ずつ反射位相が変化する4つの素子を1つの単位として、周期的な構造を実現することで、所望のリフレクトアレイを実現することができる。図4には、各反射波における等位相面が破線で示されている。」
「【図2】
[図:0001423502000007.jpg]
」
「【図3】
[図:0001423502000008.jpg]
」
「【0027】
<2.マルチビームリフレクトアレイの原理>
図9は、入射する電波を所望の複数の方向に反射させるマルチビームリフレクトアレイを説明するための図を示す。…(略)…」
「【0029】
…(略)…図示の例の場合、12個の素子を含む素子配列は、第1の反射角α1方向に電波を反射させるための第1の素子群と、第2の反射角α2方向に電波を反射させるための第2の素子群とを含んでいる。従って、このような素子配列に電波が入射した場合、一部は反射角α1の方向に反射し、一部は反射角α2の方向に反射する。これにより、入射した電波をα1及びα2の方向にそれぞれ反射させるマルチビームリフレクトアレイを実現することができる。」
「【図9】
[図:0001423502000009.jpg]
」
「【0041】
隣接する素子同士の間隔Δy及びΔxは、2.4mmであるとする。従って、1周期分の構造は、2.4×60=144mmの長さを有する。これら60個の素子各々が実現すべき反射位相は、次のようにして決定される。先ず、特定の反射角を実現するのに必要な反射位相の内、実現可能なものが何であるかが判定される。反射位相差Δφと反射角αとの間には、
Δφ=k×Δy×sin(α)
の関係があるので、反射位相と座標(y軸方向に並ぶ素子の位置)との間には、線形な関係が成立する。
【0042】
図11は、反射角α1=70度及び反射角α2=45度の各々について、そのような線形な関係が成立することを示す。(ここで上記式より、周波数fが8.8GHzのとき、反射角α1とα2はそれぞれ70度と45度となる。)…(略)…」
「【0070】
図25は、複数の素子配列を配置する具体例を示す。図示の例のマルチビームリフレクトアレイでは、第1のグループG1がy軸方向に反復的に設けられている。第1のグループG1は、第1の素子配列MG1を2つ以上含んでいる。第1の素子配列MG1に属する素子の反射位相は、1つ以上の反射角方向に電波を反射させるように設定されている。また、図示のマルチビームリフレクトアレイでは、第1のグループG1に隣接して第2のグループG2も設けられている。第2のグループG2は、第2の素子配列MG2を2つ以上含んでいる。第2の素子配列MG2に属する素子の反射位相は、1つ以上の反射角方向に電波を反射させるように設定されている。ただし、第2の素子配列MG2に属する素子の反射位相の1つ以上は、第1の素子配列MG1に属する素子の反射位相と異なる。図25に示す例では水平制御を行うことが意図されているが、図26-29を参照しながら説明した垂直制御を行うように素子配列が構成されてもよい。
【0071】
例えば、第1の素子配列MG1が、第1の反射角α1で反射波を実現するように反射位相が設定された第1の素子群のみを含み、第2の素子配列MG1が、第2の反射角α2で反射波を実現するように反射位相が設定された第2の素子群のみを含んでいてもよい。この場合、第1のグループG1により第1の反射角α1の反射波が形成され、第2のグループG2により第2の反射角α2の反射波が形成されることになる。マルチビームリフレクトアレイにおいて、第1のグループG1及び第2のグループG2を混在させることで、第1の反射角α1及び第2の反射角α2の2つの方向に電波を反射させることが可能になる。」
「【図25】
[図:0001423502000010.jpg]
」
前記【0013】【0070】の記載を踏まえて、前記【図25】を参照すると、マルチビームリフレクトアレイには、第1の素子配列MG1をx軸方向に反復的に2つ以上含む第1のグループG1が、y軸方向に反復的に設けられており、第2の素子配列MG2をx軸方向に反復的に2つ以上含む第2のグループG2が、x軸方向に第1のグループG1に隣接して設けられていることが見てとれる。
(2)甲A2発明
前記(1)によれば、甲A2には、次の発明(以下「甲A2発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲A2発明>
「入射して来た電波を所望の複数の制御角方向(α1,α2,...,αJ)に反射させることができるマルチビームリフレクトアレイであって(【0009】)、
y軸方向に並んだ複数の素子M1ないしMNを有し、これらN個の素子と同様な構造が、y軸方向及びx軸方向に反復的に設けられており、(【0013】)
90度ずつ反射位相が変化する4つの素子を1つの単位として、周期的な構造を実現し、(【0014】)
第1の素子配列MG1をx軸方向に反復的に2つ以上含む第1のグループG1が、y軸方向に反復的に設けられており、第2の素子配列MG2をx軸方向に反復的に2つ以上含む第2のグループG2が、x軸方向に第1のグループG1に隣接して設けられており、(【図25】)
第1の素子配列MG1が、第1の反射角α1で反射波を実現するように反射位相が設定された第1の素子群のみを含み、第2の素子配列MG1が、第2の反射角α2で反射波を実現するように反射位相が設定された第2の素子群のみを含み、(【0071】)
第1のグループG1により第1の反射角α1の反射波が形成され、第2のグループG2により第2の反射角α2の反射波が形成され、(【0071】)
周波数fが8.8GHzのとき、反射角α1とα2はそれぞれ70度と45度となり、(【0042】)
反射波を受けるエリアにおいて、ビーム強度及びビーム幅を適切に確保することができる(【0009】)
マルチビームリフレクトアレイ。」
(3)甲A3の記載事項
甲A3には、次の事項が記載されている。
「【0007】
非特許文献1に、従来のリフレクトアレイの例が示されている。かかるリフレクトアレイは、図1に示すように、マイクロストリップアンテナの形状をアレイ素子とし、地板を金属平板としている。かかるアレイ素子のサイズa及びbは、図2に示すように位相差によって決められている。
【0008】
しかし、図1及び図2に示すような従来のリフレクトアレイでは、裏面に金属平板が用いられているために、他の周波数の電波が透過することができず、TM波及びTE波の偏波を共用することができず、さらに、任意の方角から到来する電波を所望の方向に放射することができないという欠点があった。」
「【0013】
しかしながら、従来のリフレクトアレイ及び周波数選択板では、
(1)鏡面反射とは異なる方向に放射する機能、
(2)TE波入射及びTM波入射を共に同じ所望方向に放射する機能、
(3)所望の周波数に対してのみ反射させ、他の周波数に対しては透過する機能、
(4)どんな方向からの入射に対しても所望方向にビームを向ける機能、
のいずれか2つ以上を同時に実現することは困難であった。」
「【図1】
[図:0001423502000011.jpg]
」
「【図2】
[図:0001423502000012.jpg]
」
(4)甲A3発明
前記(1)によれば、甲A3には、次の発明(以下「甲A3発明」という。)が記載されていると認められる。
「図1に示すようなマイクロストリップアンテナ形状のアレイ素子と金属平板の地板とを備え、アレイ素子のサイズおよび位相差は図2に示される、リフレクトアレイ。」
(5)甲B1の記載事項
甲B1には、次の事項が記載されている。
「【0019】
本発明の第1の特徴は、反射波の位相を制御する反射板を用いて、送信側装置から一次放射された電波を、反射によって所望エリアに対して二次放射するように構成されている無線通信システムであって、前記反射板は、前記送信側装置から一次放射された電波を、鏡面反射の場合の反射角度と異なる方向に向かう等位相の平面波として反射させるように反射特性が設定されていることを要旨とする。
【0020】
本発明の第1の特徴において、前記反射板は、周波数選択性反射板によって構成されており、前記反射板は、前記送信側装置から一次放射された電波のうち、所定の1又は複数の周波数帯域の電波のみを、鏡面反射の場合の反射角度と異なる方向に向かう等位相の平面波として反射させるように反射特性が設定されていてもよい。
【0021】
本発明の第1の特徴において、前記反射板として、後述する本発明の第2の特徴に係る周期構造反射板を用いてもよい。また、本発明の第1の特徴において、前記送信側装置は、無線基地局或いは移動局であってもよい。
【0022】
本発明の第2の特徴は、周期構造反射板であって、反射波の位相差を制御することによって反射角を制御する構造を周期的に配置する構造を具備することを要旨とする。
【0023】
本発明の第2の特徴において、間隔ΔSkで配列されるn個の反射板構成片rk(1≦k≦n)において、各反射板構成片rkにおける反射波の位相をΦkとし、各反射板構成片rkと隣接する反射板構成片rk+1との位相差(Φk+1-Φk)をΔΦkとし、反射波の波長をλとするとき、所望の反射波の進行方向を示す角αに対して、(式1)を満たすように配列されている該n個の反射板構成片rkによって構成され、
α=sin-1(λ・ΔΦk/2π・ΔSk)) … (式1)
【0024】
[図:0001423502000013.jpg]
によって規定される長さRLであるブロックを、周期T(T≧RL)毎に、複数個設けるように構成されていてもよい。
【0025】
本発明の第2の特徴において、前記周期Tは、T=λ/sinαが成立する値であってもよい。かかる発明によれば、反射板の大きさを波長に対して十分な大きさに確保することができる。
【0026】
本発明の第2の特徴において、各ブロックの周期Tを、前記周期構造反射板を設置する周囲の電波伝搬環境に応じて変化させることにより、前記反射波の伝搬する方向を変化させてもよい。
【0027】
本発明の第3の特徴は、底面を金属地板とする誘電体基板と、該誘電体基板の上面に構成される短冊状のパッチと、該金属地板と該パッチとを短絡するショートピンとによって構成されるマッシュルーム素子によって構成されるマッシュルーム構造体であって、各マッシュルーム素子を、X軸方向に所定間隔ΔXiでn個配置し、Y軸方向に所定間隔ΔYjでm個配置するように構成されており、各マッシュルーム素子のY軸方向の長さLYijをX軸方向に沿って傾斜させて変化させるか、各マッシュルーム素子のX軸方向の長さLXijをY軸方向に沿って傾斜させて変化させるか、或いは、各マッシュルーム素子のY軸方向の長さLYijをX軸方向に沿って傾斜させて変化させると共に各マッシュルーム素子のX軸方向の長さLXijをY軸方向に沿って傾斜させて変化させるように構成されており、各マッシュルーム素子において電波が反射するときの反射係数の位相が、XY平面上で任意に定めた直線に対して平行となるように、各マッシュルーム素子の長さを決めるように構成されていることを要旨とする。」
「【0038】
以上説明したように、本発明によれば、反射波の進む方向を所望方向に制御する機能を持つ反射板のサイズを大きく構成し、簡易に制御し、2次元的にビームを操作することができる無線通信システム、周期構造反射板及びテーパ付きマッシュルーム構造を提供することができる。」
「【0041】
図1は、本実施形態に係るテーパ付きマッシュルーム構造であり、X軸方向(縦方向)に所定間隔ΔXiで11個、Y軸方向(横方向)に所定間隔ΔYjで7個のマッシュルーム素子2をそれぞれ等間隔に配列している。
【0042】
図1に示すように、マッシュルーム素子2は、底面を金属地板とする誘電体基板1と、誘電体基板1の上面に構成される短冊状のパッチ2Aと、金属地板とパッチ2Aとを短絡するショートピン3とによって構成される。
【0043】
図1の例では、各マッシュルーム素子2のY軸方向の長さLYijは、X軸方向に沿って傾斜して変化するように構成されている。すなわち、本実施形態に係るテーパ付きマッシュルーム構造では、縦方向にはテーパ(傾斜)を付けており、その結果、反射波の位相を変化させることができる。」
「【0065】
図4に示すように、かかる結果によれば、電波は、鏡面反射の方向であるθ=0°の方向への放射がなく、45°傾いた方向に曲がっていることが分かる。しかし、この場合は、マッシュルーム素子の数が、11×7個であり、X軸方向の位相は、-π/2からπ/2までしか動かない。この影響により、反射波のメインビームの設計値が、α=70°であるのに対して、実際の反射波のメインビームは、45°の傾きと異なっている。
【0066】
なお、本実施形態に係るテーパ付きマッシュルーム構造では、各マッシュルーム素子において電波が反射するときの反射係数の位相が、XY平面上で任意に定めた直線に対して平行となるように、各マッシュルーム素子の長さを決めるように構成されていてもよい(図43参照)。」
「【0070】
図7(a)は、図5に示すテーパ付きマッシュルーム構造の遠方散乱界を有限要素法で解析した結果を示し、図7(b)は、図7(a)と同じ大きさの金属平板の遠方散乱界を有限要素法で解析した結果を示す。
【0071】
金属平板の場合には、反射波が、鏡面反射の方向だけを向いているのに対して、本実施形態に係るテーパ付きマッシュルーム構造の場合には、設計値より傾きが10°少ない約58°の方向に、鏡面反射の方向0°よりも高いレベルで電波が放射されていることが分かる。」
「【0074】
図9に、本実施形態に係るテーパ付きマッシュルーム構造の遠方散乱界を示す。図7(a)の例では、58°方向のビームとなっていたのに対して、周期を「T=λ/sinα」とすることにより、反射波の所望方向であるα=70°にビームを向けられていること、及び、図7(a)には存在した-70°方向のビームはレベルが抑えられていることが分かる。」
(6)甲B1発明
前記(1)によれば、甲B1には、次の発明(以下「甲B1発明」という。)が記載されていると認められる。
「反射板であって、
前記反射板は、周波数選択性反射板によって構成されており、前記反射板は、前記送信側装置から一次放射された電波のうち、所定の1又は複数の周波数帯域の電波のみを、鏡面反射の場合の反射角度と異なる方向に向かう等位相の平面波として反射させるように反射特性が設定されており、(【0020】)
前記反射板として、周期構造反射板を用いてもよく、(【0021】)
周期構造反射板は、反射波の位相差を制御することによって反射角を制御する構造を周期的に配置する構造を具備し、(【0022】)
底面を金属地板とする誘電体基板と、該誘電体基板の上面に構成される短冊状のパッチと、該金属地板と該パッチとを短絡するショートピンとによって構成されるマッシュルーム素子によって構成されるマッシュルーム構造体であって、各マッシュルーム素子を、X軸方向に所定間隔ΔXiでn個配置し、Y軸方向に所定間隔ΔYjでm個配置するように構成されており、(【0027】)
各マッシュルーム素子において電波が反射するときの反射係数の位相が、XY平面上で任意に定めた直線に対して平行となるように、各マッシュルーム素子の長さを決めるように構成されており、(【0027】)
反射波の進む方向を所望方向に制御する機能を持つ反射板のサイズを大きく構成し、簡易に制御し、2次元的にビームを操作することができる、反射板。(【0038】)」
2 当審の判断
(1)甲A2を主引用発明とする特許異議の申立ての理由について
本件発明1と甲A2発明とを対比すると、少なくとも上記「第6」に示した相違点2~5と同様の点で相違し、相違点2~5については上記説示したとおりである。
よって、本件発明1は、甲A2発明であるとはいえず、甲A2発明、その他の証拠及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、本件発明2、4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を付加したものである(前記第3)から、本件発明2、4と甲A2発明とは、少なくとも相違点2~5と同様の点で相違し、上記説示したとおりである。
よって、本件発明2、4についても、甲A2発明、その他の証拠及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)甲A3を主引用発明とする特許異議の申立ての理由について
本件発明1と甲A3発明とを対比すると、少なくとも上記「第6」に示した相違点2~5と同様の点で相違し、相違点2~5については上記説示したとおりである。
よって、本件発明1は、甲A3発明であるとはいえず、甲A3発明、その他の証拠及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を付加したものである(前記第3)から、本件発明3と甲A3発明とは、少なくとも相違点2~5と同様の点で相違し、上記説示したとおりである。
よって、本件発明3についても、甲A3発明、その他の証拠及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)甲B1を主引用発明とする特許異議の申立ての理由について
本件発明1と甲B1発明とを対比すると、少なくとも上記「第6」に示した相違点2~5と同様の点で相違し、相違点2~5については上記説示したとおりである。
よって、本件発明1は、甲B1発明であるとはいえず、甲B1発明、その他の証拠及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)まとめ
前記(1)~(3)のとおりであるから、申立ての理由によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
第9 申立人A意見書について
申立人Aは、令和7年2月26日に提出した意見書において、「(3)明確性要件違反について」として、「1または複数の単位構造を有する分割領域と、セル領域の繰り返し配列との関係は、分割領域およびセル領域の形状が矩形であって、それらがx軸またはy軸に配列する場合の説明しかなされておらず」、「図9のように分割領域が矩形以外の形状の場合に、如何なる形状のセル領域がどのように繰り返し配列するものかを明確に理解することができない」(6頁2~7行目)旨主張している。
本件発明1は、「周波数選択反射板」に、「電磁波の反射位相が異なる複数のセル領域が繰り返し配列されて」いることを特定しており、本件訂正は、該「周波数選択反射板」が、さらに複数の分割領域に分割されるものであることを特定するものであると認められる。
そして、そのような構成は、明細書等の図14及び16等に、矩形のセル領域が横方向に配列される構成として開示されており、横方向にセル領域の反射位相が増減を反復する配置として、明確である。
申立人Aは、明細書等における図9を例示して不明確である点を主張するが、図9の各図に示された配列は、反射位相の増減の反復の意味での「電磁波の反射位相が異なる複数のセル領域が繰り返し配列」したものではないため、発明特定事項Bが前提とするセル領域の形状及び配列であるとは解されないから、当該主張は採用できない。
第10 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書で通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700522