特許異議申立
2024-700378
周波数選択反射板および通信中継システム
- 審判番号
- 2024-700378
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-544018
- 登録番号
- 7371819
- 請求日
- 2024年04月19日
- 審決日
- 2025年04月01日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】山下 昭彦
- 【権利者代理人】岸本 達人
- 【異議申立人】金澤 毅
- 【異議申立人】須田 元也
- 審判長/審判官
- 審判長 高野 洋
- 審判官 丸山 高政
- 審判官 上田 翔太
- 分類
- P1652.113-YAA(H01Q) / P1652.121-YAA(H01Q)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7371819号発明「周波数選択反射板および通信中継システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7371819号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2~24〕について訂正することを認める。
特許第7371819号の請求項2、3、6~8、10、14、15、17~24に係る特許を維持する。
特許第7371819号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立を却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7371819号(以下「本件特許」という。)の請求項1~24に係る特許についての出願は、2022年(令和4年)8月29日(優先権主張 令和3年8月27日、令和4年5月9日、令和4年6月27日)を国際出願日とする出願であって、令和5年10月23日にその特許権の設定登録がされ、令和5年10月31日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許に対し、令和6年4月19日に特許異議申立人 金澤 毅(以下「申立人A」という。)により請求項1を対象として特許異議の申立てがされた。また、令和6年4月22日に申立人 須田 元也(以下「申立人B」という。)により、請求項1~3、6~8、10、14、15、17~24を対象として特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 6年 4月19日 :特許異議申立書 (申立人A)
令和 6年 4月22日 :特許異議申立書 (申立人B)
令和 6年 5月20日 :手続補正書(方式) (申立人B)
令和 6年 6月28日付け:取消理由通知書
令和 6年 9月 2日 :意見書 (特許権者)
令和 6年10月30日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 7年 1月 6日 :訂正請求書、意見書 (特許権者)
令和 7年 1月29日 :手続補正書(方式) (特許権者)
令和 7年 2月14日付け:訂正拒絶理由通知書
令和 7年 3月21日 :手続補正書、意見書 (特許権者)
令和7年3月21日の手続補正書は、同年1月6日に提出された訂正請求書の全文を補正するものであって、該手続補正書による補正は、前記訂正請求書によって請求された訂正のうち、訂正事項6-2に係るものを削除するものであるから、該補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではなく、特許法120条の5第9項で準用する同法131条の2第1項の規定に適合する。
以下では、令和6年10月30日付け取消理由通知書(決定の予告)のことを、単に「決定の予告」といい、令和7年3月21日の手続補正書によって補正された令和7年1月6日の訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。
また、申立人Bにより令和6年4月22日に提出され、同年5月20日に提出された手続補正書により補正された特許異議申立書を「特許異議申立書B」という。
本件訂正は、実質的に請求項1の削除のみの訂正であって(以下の第2を参照)、特許法120条の5第5項ただし書きに規定された「特別の事情があるとき」に該当するから、申立人に意見書の提出の機会を与えなかった。
第2 本件訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、次の訂正事項1~7のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1を引用していた請求項2を、独立形式に改める。
(請求項2の記載を引用する請求項6、7、9~14、18~24も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1を引用していた請求項3を、独立形式に改める。
(請求項3の記載を引用する請求項6、8~14、18~24も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1を引用していた請求項4を、独立形式に改める。
(請求項4の記載を引用する請求項6、7、10~14、18~24も同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1を引用していた請求項5を、独立形式に改める。
(請求項5の記載を引用する請求項6、8、10~14、18~24も同様に訂正する。)
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項1を引用していた請求項15を、独立形式に改める。
(請求項15の記載を引用する請求項16~24も同様に訂正する。)
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項18に、「請求項1から請求項5までのいずれかの請求項」と記載されているのを、「請求項2から請求項5までのいずれかの請求項」に訂正する。
(請求項18の記載を引用する請求項19~24も同様に訂正する。)
(8)一群の請求項について
本件訂正は、本件訂正前の請求項1~24についての訂正であり、本件訂正前の請求項2~24は請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正請求書による訂正請求は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項に対して請求されたものである。
また、訂正後の請求項2~24については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とする求めがされている。
2 訂正事項について
(1)訂正の目的について
ア 訂正事項1
訂正事項1に係る訂正は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするもの(特許法120条の5第2項ただし書き1号)に該当する。
イ 訂正事項2~6
訂正事項2~6に係る訂正は、本件訂正によって請求項1が削除されることに伴い、請求項1を引用していた請求項2~5、15をそれぞれ独立形式に改めるものであるから、請求項間の引用関係の解消(他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること)を目的とするもの(特許法120条の5第2項ただし書き4号)に該当する。
ウ 訂正事項7
本件訂正前の請求項18は、請求項1~5及び15のいずれかの請求項を引用するものである。
しかしながら、訂正事項1に係る訂正により、請求項1は削除されるので、請求項18の「請求項1から請求項5までのいずれかの請求項または請求項15に記載の周波数選択反射板を1つ以上有する、通信中継システム。」という記載をそのままとした場合には、当該記載は明瞭でない記載となる。
してみると、「請求項1から請求項5までのいずれかの請求項」と記載されているのを、「請求項2から請求項5までのいずれかの請求項」とする訂正は、本件訂正によって請求項1が削除されることに伴い、削除される請求項1を引用しないようにすることを明瞭化するためであると解される。
したがって、訂正事項7に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするもの(特許法120条の5第2項ただし書き3号)に該当する。
(2)新規事項追加の有無について
ア 訂正事項1
訂正事項1に係る訂正は、請求項1を削除する訂正であるから、明らかに新規事項を追加するものではない。
イ 訂正事項2~6
訂正事項2~6に係る訂正は、請求項1が削除されることに伴い、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることのみを目的とする訂正であるから、明らかに新規事項を追加するものではない。
ウ 訂正事項7
訂正事項7に係る訂正は、請求項1が削除されることに伴い、削除される請求項1を引用しないようにすることを明瞭化するためのものであるから、明らかに新規事項を追加するものではない。
(3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことについて
ア 訂正事項1
訂正事項1に係る訂正は、請求項1を削除する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないことは明らかである。
イ 訂正事項2~6
訂正事項2~6に係る訂正は、請求項1が削除されることに伴い、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることのみを目的とする訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないことは明らかである。
ウ 訂正事項7
訂正事項7に係る訂正は、請求項1が削除されることに伴い、削除される請求項1を引用しないようにすることを明瞭化するためのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないことは明らかである。
(4)独立特許要件について
前記(1)のとおり、訂正事項2~7に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものでも、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものでもないから、これらの訂正について、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。
また、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである訂正事項1については、本件訂正前の請求項1に対して特許異議申立がされているので、訂正事項1に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。
3 本件訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き1号、3号及び4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2~24〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正後の本件発明
本件訂正後の本件特許の請求項1~24に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1~24に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(下線は変更部分を示す。)。
なお、請求項2、3、15における符号2A~15Fは、発明特定事項の分説のために当審で付したものであり、以下、分説した発明特定事項を、それぞれ「発明特定事2A」等のように参照する。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
2A 特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、
2B 複数の領域を有し、
2C 反射ビームプロファイルを調整する機能を有し、
2D 前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、
2E 前記複数の分割領域は、前記周波数選択反射板の中央に位置する分割領域であるメイン領域と、前記メイン領域以外の分割領域である複数のサブ領域とを有し、
2F 前記複数のサブ領域は前記メイン領域の周囲に配置されており、
2G 前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、
2H 前記各サブ領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記メイン領域での前記電磁波の反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がるように設定されている、
2I 周波数選択反射板。
【請求項3】
3A 特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、
3B 複数の領域を有し、
3C 反射ビームプロファイルを調整する機能を有し、
3D 前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、
3E 前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、
3F 前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、電磁波の主反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がるように設定されている、
3G 周波数選択反射板。
【請求項4】
特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、
複数の領域を有し、
反射ビームプロファイルを調整する機能を有し、
前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、
前記複数の分割領域は、前記周波数選択反射板の中央に位置する分割領域であるメイン領域と、前記メイン領域以外の分割領域である複数のサブ領域とを有し、
前記複数のサブ領域は前記メイン領域の周囲に配置されており、
前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、
前記各サブ領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記メイン領域での前記電磁波の反射方向ベクトルを中心として内側に収束するように設定されている、周波数選択反射板。
【請求項5】
特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、
複数の領域を有し、
反射ビームプロファイルを調整する機能を有し、
前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、
前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり、
前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、電磁波の主反射方向ベクトルを中心として内側に収束するように設定されている、周波数選択反射板。
【請求項6】
隣接する前記分割領域同士での前記電磁波の反射方向ベクトルのなす角が、15°以内である、請求項2から請求項5までのいずれかの請求項に記載の周波数選択反射板。
【請求項7】
前記メイン領域での前記電磁波の反射方向ベクトルからのずれ角を横軸、前記周波数選択反射板の前記電磁波の反射強度を縦軸とするグラフにおいて、反射ビームプロファイルの半値幅が40°以内である、請求項2または請求項4に記載の周波数選択反射板。
【請求項8】
前記電磁波の主反射方向ベクトルからのずれ角を横軸、前記周波数選択反射板の前記電磁波の反射強度を縦軸とするグラフにおいて、反射ビームプロファイルの半値幅が40°以内である、請求項3または請求項5に記載の周波数選択反射板。
【請求項9】
前記周波数選択反射板の面積S1が、下記式(1)を満たす、請求項2または請求項3に記載の周波数選択反射板。
S1≧S0×Sr1/Sr0 (1)
(式(1)中、S1は前記周波数選択反射板の面積(m2)、Sr1は所望の前記電磁波の受信域を満たす反射ビームの立体角、S0は周波数選択反射板が前記分割領域を有さない場合に、所望の受信域を満たすのに必要な周波数選択反射板の面積(m2)、Sr0は周波数選択反射板が前記分割領域を有さない場合に、面積がS0である周波数選択反射板による反射ビームの立体角を表す。)
【請求項10】
前記電磁波の反射位相が異なる複数のセル領域を有する単位構造が複数配置されており、前記各分割領域が少なくとも1つの前記セル領域を有する、請求項2から請求項5までのいずれかの請求項に記載の周波数選択反射板。
【請求項11】
前記周波数選択反射板が、
前記電磁波を反射する反射部材と、
前記反射部材に対して前記電磁波の入射側に配置され、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する単位構造が複数配置された凹凸構造を有し、前記電磁波を透過する誘電体層と、
を有し、前記誘電体層の前記単位構造は、厚さの異なる複数のセル領域を有し、
前記誘電体層の各単位構造では、前記単位構造の前記所定の方向の長さを横軸とし、前記電磁波が前記誘電体層を透過し前記反射部材で反射され前記誘電体層を再度透過して前記電磁波の入射側に放出される際の相対反射位相を縦軸とし、前記電磁波の相対反射位相の値が-360度超0度以下であるグラフに、各セル領域の前記所定の方向の中心位置および各セル領域での前記電磁波の相対反射位相に対応する点をプロットし、最小厚さを有する最小厚さセル領域に対応する点を通る直線を引いたとき、各点が同一直線上にあり、
前記誘電体層が、前記単位構造として、厚さの異なる3つ以上の前記セル領域を有する第1の単位構造を少なくとも有し、
前記誘電体層の厚さ分布によって前記電磁波の相対反射位相分布を制御することにより、前記電磁波の反射方向を制御する、請求項2から請求項5までのいずれかの請求項に記載の周波数選択反射板。
【請求項12】
前記反射部材が、前記電磁波のみを反射する周波数選択板である、請求項11に記載の周波数選択反射板。
【請求項13】
前記反射部材が、前記電磁波の反射位相を制御する反射位相制御機能を有する、請求項12に記載の周波数選択反射板。
【請求項14】
前記周波数選択反射板が、前記電磁波を反射する反射部材を有し、
前記反射部材が、前記電磁波の反射位相を制御する反射位相制御機能を有する、請求項2から請求項5までのいずれかの請求項に記載の周波数選択反射板。
【請求項15】
15A 特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、
15B 複数の領域を有し、
15C 反射ビームプロファイルを調整する機能を有し、
15D 前記電磁波の反射位相が異なる複数のセル領域が繰り返し配列されており、
15E 前記電磁波の反射位相の遅れが最も大きい前記セル領域での前記電磁波の反射位相を基準として、前記各セル領域での前記電磁波の相対反射位相を、-360度超0度以下としたとき、徐々に小さくなる前記電磁波の相対反射位相が急に大きくなる境界部分が、分岐せず、連続した曲線状である、
15F 周波数選択反射板。
【請求項16】
前記周波数選択反射板が、前記電磁波を反射する反射部材と、前記反射部材に対して前記電磁波の入射側に配置され、前記電磁波を透過する誘電体層と、を有し、
前記誘電体層では、厚さの異なる複数の誘電体セル領域が繰り返し配列されており、
前記境界部分が、前記誘電体層の稜線状部分である、請求項15に記載の周波数選択反射板。
【請求項17】
前記周波数選択反射板が、前記電磁波を反射する反射部材を有し、
前記反射部材では、サイズの異なる複数の反射素子が繰り返し配列されており、
前記境界部分が、徐々に大きくなる前記反射素子のサイズが急に小さくなる部分である、請求項15に記載の周波数選択反射板。
【請求項18】
基地局とユーザー端末との間の通信を中継する通信中継システムであって、
特定の周波数帯の電磁波の進行方向を変化させる方向制御デバイスを複数有し、
複数の前記方向制御デバイスはそれぞれ、前記基地局からの前記電磁波の伝搬経路上に配置されており、
前記方向制御デバイスとして、請求項2から請求項5までのいずれかの請求項または請求項15に記載の周波数選択反射板を1つ以上有する、通信中継システム。
【請求項19】
前記基地局を起点として前記電磁波の伝搬経路が1つになるように、複数の前記方向制御デバイスが配置されている、請求項18に記載の通信中継システム。
【請求項20】
前記基地局を起点として前記電磁波の伝搬経路が分岐するように、複数の前記方向制御デバイスが配置されている、請求項18に記載の通信中継システム。
【請求項21】
最下流側に位置する前記方向制御デバイスが、前記周波数選択反射板である、
請求項18に記載の通信中継システム。
【請求項22】
前記方向制御デバイスとして、前記電磁波を透過する透過方向制御デバイスを有する、請求項18に記載の通信中継システム。
【請求項23】
前記方向制御デバイスとして、前記電磁波を反射する反射方向制御デバイスを1つ以上有する、請求項18に記載の通信中継システム。
【請求項24】
前記反射方向制御デバイスが、金属板、または、導電層を有するシートである、請求項23に記載の通信中継システム。」
第4 異議申立の概要
1 申立人Aによる特許異議申立理由の概要
申立人Aは、以下の証拠方法を提出し(甲第1号証。以下、申立人Aが提出した甲第1号証を、「甲A1」という。)、本件特許の請求項1に係る特許は、以下に示す理由により、取り消すべきものである旨主張する。
(1)申立理由
ア 申立理由1
本件発明1は、甲A1に記載された発明と同一であって、特許法29条1項3号に該当するから、当該発明についての特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
イ 申立理由2
本件発明1は、甲A1に記載された発明に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
(2)証拠方法
甲A1:特許第5355000号公報
2 申立人Bによる特許異議申立理由の概要
申立人Bは、以下の証拠方法を提出し(甲第1号証~甲第3号証。以下、申立人Bが提出した甲第1号証~甲第3号証を、それぞれ「甲B1」~「甲B3」という。)、本件特許の請求項1~3、6~8、10、14、15,17~24に係る特許は、以下に示す理由により、取り消すべきものである旨主張する。
(1)申立理由
ア 申立理由3
本件発明1は、甲B1~3に記載された発明のいずれか一つの発明と同一であって、特許法29条1項3号に該当するから、当該発明についての特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
イ 申立理由4
本件発明15、17は、甲B3に記載された発明と同一であって、特許法29条1項3号に該当するから、当該発明についての特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
ウ 申立理由5
本件発明1~3、6~8、10、14、18~24は、甲B1に記載された発明に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
エ 申立理由6
本件発明1、18~24は、甲B2に記載された発明に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
カ 申立理由7
本件発明1、18~24は、甲B3に記載された発明に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
(2)証拠方法
甲B1:特開2021-48465号公報
甲B2:特開2013-48344号公報
甲B3:特許第5371633号公報
第5 決定の予告の取消理由の概要
決定の予告で通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
1 取消理由1(新規性)
本件特許の請求項1、18、20、21、23に係る発明は、甲B1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、当該請求項についての特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
2 取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項1、18~24に係る発明は、甲B1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項についての特許は特許法29条2項の規定に違反してなされたものである。
甲B1:特開2021-48465号公報
第6 決定の予告の取消理由についての当審の判断
前記第2のとおり、本件訂正により、本件訂正前の請求項1が削除された。
また、本件訂正により、本件訂正前の請求項18について、削除される請求項1を引用しないようにする訂正がされ、本件訂正後の請求項18は、請求項2~5または15のいずれかを引用するものとなった。
そのため、本件訂正により、当審が決定の予告で通知した請求項1及び請求項1を引用する請求項18、20、21、23に係る発明についての特許に対する取消理由1、並びに、請求項1及び請求項1を引用する請求項18~24に係る発明についての特許に対する取消理由2には、理由がない。
第7 決定の予告において採用しなかった特許異議の申立ての理由の概要
前記第4に記載した特許異議の申立ての理由のうち、決定の予告において採用しなかった特許異議の申立ての理由は次のとおりである。
1 甲B1を主引用発明とする理由
(1)申立理由5
本件発明2、3及び本件発明2または3を引用する本件発明6~8、10、14、18~24は、甲B1に記載された発明に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
2 甲B3を主引用発明とする理由
(1)申立理由4
本件発明15、17は、甲B3に記載された発明と同一であって、特許法29条1項3号に該当するから、当該発明についての特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
(2)申立理由7
本件発明15を引用する本件発明18~24は、甲B3に記載された発明に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
3 甲B2または甲B3を主引用発明とする理由
(1)申立理由6
本件発明1を引用する本件発明18~24は、甲B2に記載された発明に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
(2)申立理由7
本件発明1を引用する本件発明18~24は、甲B3に記載された発明に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
第8 決定の予告において採用しなかった特許異議の申立ての理由についての当審の判断
1 甲B1及び甲B3について
(1)甲B1の記載事項
甲B1には、次の事項が記載されている。
ア 「【0002】
現在、 商用分野にも第5世代、いわゆる5Gのモバイル通信規格が導入されている。本規格では高スループット、より多くのチャネル容量、および、低遅延でのパフォーマンスの改善が大いに求められている。
データ速度の面では、本規格では10Gbps以上のスループットが約束されている。この事実に対応するため、ある解決案では5Gモバイル通信は非常に高い周波数を用いて動作することが提案されている。
多くの国々で、26GHzから28GHzの周波数領域のミリ波帯域が導入され実証された。この非常に高い周波数により、モバイル通信システムで非常に高いスループットを達成する、より広い帯域幅で伝送ができる。
それにも関わらず、モバイル通信にはカバーエリアに問題がある。ミリ波周波数を用いることから、電磁波は波の伝搬において高い直進性を持つ。波の伝搬では、障害物を屈折により通過するのが難しい。そのため、通信システムはカバーエリアが小さい。
上述の事由から、電磁波の反射板の考えが用いられてきた。伝搬する波は、反射板により所望の方向に反射することができる。この解決法は非常に単純でコストも低い。しかしながら、通常の金属反射板を使うと、反射板は所望の反射方向の角度まで回される。それゆえ、これを実施sると、反射角度が大きい場合には体積が大きくなる。特に室内環境では、実際には向いていない。
近年、メタサーフェスと名付けられた電磁波の反射器が提案されている。メタサーフェスの反射特性は、反射面上の波長以下の共振器の配列で生まれる、表面のインピーダンスと反射位相に依存する。メタサーフェスは周期的に配列された共振器や非周期的に配列された共振器で構成される。共振器を最適化することにより、メタサーフェスはその平面形状を維持しながら所望の反射角度を実現できるため、現実の環境で実施するのに適している。…(略)…」(当審注:上記の「実施sる」は原文ママ)
イ 「【0009】
以下の実施例では、目的のメタサーフェス100の中心周波数は28GHzである。また、以下の説明では、メタサーフェス100は入射角が0度の入射波を70度の向きに反射するよう設計されている。
なお、本明細書ではメタサーフェス100に垂直に入射した電磁波が反射する方向のうち、最大の強度を示す反射方向を「主反射方向」と呼ぶことがある。同様に、反射波のメインとなるローブの向きとして「主ローブ方向」と呼ぶことがある。また、電磁波の反射板としてのメタサーフェス、つまり、メタサーフェスを備えた反射板を、単にメタサーフェスと呼ぶことがある。
以下に説明されるように、動作周波数、異常波反射における入射角と反射角は、十字型の共振器130の大きさや回折格子の周期の長さを調整することにより設計、変更できる。
ここで、異常波反射とは、例えば非特許文献1に記載のような、入射角が0度の入射波を70度などの向きに反射できるような反射を言う。」
ウ 「【0011】
図1に示されるように、メタサーフェス100のユニットセル(U1、U2、U3、U4)は、金属グラウンド層120、誘電体基板110、および、十字型の共振器130を有する。ユニットセル(U1、U2、U3、U4)の領域は、周期Pの正方形である。
金属グラウンド層120は、メタサーフェス100を通過する波を消すために利用される。また、誘電体基板110の層を支持するのに利用される。」
エ 「【図1】
[図:0001424575000001.jpg]
」
前記ウの記載を踏まえて、前記エを参照すると、メタサーフェス100のユニットセル(U1、U2、U3、U4)は、誘電体基板110と、十字型の共振器130を有することが見てとれる。
オ 「【0013】
(メタサーフェス100の説明)
図2は、本発明の一実施例における、十字型のセルを持つユニットセル(U1、U2、U3、U4)を含む、メタサーフェス100の構成の一部を示す。
図2に示されるように、メタサーフェス100ではアーム長の異なる十字型の共振器130のグループが繰り返し配列されている。以下、繰り返し配列される、アーム長の異なる十字型の共振器130のグループを、スーパーセルS1と呼ぶ。
言い換えると、メタサーフェス100は、誘電体基板110、誘電体基板110の底面に設けられ、全ての向きの偏波に対しメタサーフェス100を透過させない金属グラウンド層120、および、アーム長の異なる2種以上の十字型の金属共振器130を有する複数のスーパーセルS1を備える。スーパーセルS1は、3種以上の十字型の金属共振器130を有することが望ましい。」
カ 「【図2】
[図:0001424575000002.jpg]
」
前記ウ~オの記載を踏まえて、メタサーフェス100の構成の一部を示す前記カを参照すると、メタサーフェス100は、複数のユニットセルを含み、それぞれのユニットセル(U1、U2、U3、U4)における十字型の共振器130は、それぞれアーム長が異なることが見てとれる。
また、ユニットセル(U1、U2、U3、U4)をx軸方向に並べたグループを、スーパーセルS1と呼び、メタサーフェス100では、スーパーセルS1が、x軸方向及びy軸方向に、繰り返し配列されていることが見てとれる。
キ 「【0020】
さらに、この位相はU1、U2、U3、U4のそれぞれのlvとlhの長さを規定する。本例では、U1、U2、U3、U4はそれぞれ-29度、-100度、+29度、+100度の反射位相が要求される。
【0021】
図1に示されるユニットセル(U1、U2、U3、U4)は、これらの位相に対応するように、垂直偏波と水平偏波の両方を有する平面電磁波の励起により数値計算される。ユニットセル(U1、U2、U3、U4)のx軸方向およびy軸方向に周期境界条件が設定される。次に、完全導体が-z方向に適用される。ユニットセル(U1、U2、U3、U4)構造体に平面電磁波を供給するために、完全一致層(perfect match layer)と導波管ポートが+z方向に適用される。
垂直偏波の反射位相を調べる際には、垂直方向のアーム長lVを変化させることにより要求される反射位相を実現する。次に、水平偏波の反射位相を調べる際には、水平方向のアーム長lHを変化させることにより要求される反射位相を実現する。
【0022】
図4は、図3での初期の反射位相を用いた、メタサーフェスでのバイスタティックレーダー反射断面の結果であり、15λ0mm四方の面積を有するメタサーフェス100での両偏波の、動作周波数における、xz平面でのバイスタティックレーダー反射断面(RCS)の結果を示す。この初期結果は、図3に示されるユニットセル(U1、U2、U3、U4)の個々の反射位相によって得られる。さらに、この結果は、波の反射のメインローブが目的の方向に向けられていることを示す。しかしながら、サイドローブが大きいためメタサーフェス100の反射性能としては低い。
【0023】
図5は、隣接するユニットセル間での結合を調整することで最適化した後のメタサーフェスでのバイスタティックレーダー反射断面の結果であり、lVとlHを最適化した後の、メタサーフェス100での両偏波の、xz平面でのバイスタティックレーダー反射断面(RCS)の結果を示す。隣接するユニットセル(U1、U2、U3、U4)間の結合を調整し適切なものにすることにより、高い反射効率を実現することが、最適化の目的である。
【0024】
以上のように設計されたメタサーフェス100では、金属共振器130を有するスーパーセルS1は、誘電体基板110の上面に形成され、入射波の垂直偏波および水平偏波を反射させ、所定周波数での電磁波を要求される位相で異常波反射させる回折格子の周期で配列されている。
本構成により、異常波反射を利用することで、0度で入射する電磁波を50度、60度、70度など大きな角度で反射させることが可能となる。」
ク 「【0026】
上記の実施例を組み合わせることにより、一実施例においては、スーパーセルS1は回折格子の周期で水平方向または垂直方向に配列することができる。そして、入射波に対する主ローブの反射方向が水平方向および垂直方向から0以外の所定角度だけ傾いた方向とすることができる。
本構成により、所望の方向に電磁波を反射させることができる。
【0027】
図6は、本発明の一実施例におけるメタサーフェスの構成を示す。メタサーフェス100を1種類のみから構成した場合、一方向に強い指向性を示す。これに対して、本実施例では、より広い範囲に電磁波を反射する。本実施例において、メタサーフェス100は複数のサブメタサーフェス(201、202、203)から構成される。本実施例では3つのサブメタサーフェス100から構成される。それぞれのサブメタサーフェス(201、202、203、204、205、206)の構造は、既述のメタサーフェス100と同様であり、本実施例では主ローブ方向が水平面内の所定の向きに調整されている。
複数のサブメタサーフェス(201、202、203)は、水平方向に配列されている。そして、それぞれの主ローブ方向は、水平面内の互いに異なる向きである。
本構成により、メタサーフェス100で反射する電磁波を水平方向に所望の範囲で拡散することができる。」
ケ 「【図6】
[図:0001424575000003.jpg]
」
コ 「【0031】
図8は本発明の一実施例におけるメタサーフェス100の利用例を示す。
無線通信を行う携帯電話の基地局200から出た、5G用の3.6GHz以上の無線通信用の電磁波は、メタサーフェス100に入射し反射する際に所定角度曲がり、携帯電話などの移動端末300の利用者301に向かう。
5Gで利用される3.6GHz以上の電磁波は直進性が強いが、本発明におけるメタサーフェス100を用いると、電磁波を所望の方向に向け、さらに所望の範囲で拡散させることが容易となる。」
サ 「【図8】
[図:0001424575000004.jpg]
」
前記コの記載を踏まえて、前記サを参照すると、メタサーフェス100は、無線通信を行う携帯電話の基地局200と、携帯電話などの移動端末300の利用者301との伝搬経路上に複数配置され、基地局200から出た電磁波は、メタサーフェス100に入射し反射する際に所定角度曲がり、移動端末300の利用者301に向かうことが見て取れる。
また、メタサーフェス100は、基地局200と、伝搬経路が異なる複数の移動端末300の利用者301とのそれぞれの伝搬経路上に配置されていることが見て取れる。
(2)甲B1発明
前記(1)によれば、甲B1には、次の発明(以下「甲B1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、甲B1発明をa~oに分説し、「構成a」などのようにして参照する。
「a 周期的に配列された共振器や非周期的に配列された共振器で構成されるメタサーフェスであって、(【0002】)
b メタサーフェス100は、複数のユニットセルを含み、(【図2】)
c ユニットセル(U1、U2、U3、U4)は、誘電体基板110と、十字型の共振器130を有し、(【図1】)
d それぞれのユニットセル(U1、U2、U3、U4)における十字型の共振器130は、それぞれアーム長が異なり、(【図2】)
e ユニットセル(U1、U2、U3、U4)はそれぞれ-29度、-100度、+29度、+100度の反射位相を有し、(【0020】)
f ユニットセル(U1、U2、U3、U4)をx軸方向に並べたグループを、スーパーセルS1と呼び、(【図2】)
g メタサーフェス100では、スーパーセルS1が、x軸方向及びy軸方向に、繰り返し配列され、(【図2】)
h メタサーフェス100では、金属共振器130を有するスーパーセルS1により所定周波数での電磁波を要求される位相で異常波反射させ、(【0024】)
i 異常波反射とは、入射角が0度の入射波を70度などの向きに反射できるような反射を言い、(【0009】)
j メタサーフェスは、共振器を最適化することにより、所望の反射角度を実現でき、(【0002】)
k メタサーフェス100での反射により、波の反射のメインローブが目的の方向に向けられ、(【0022】)
l メタサーフェス100は複数のサブメタサーフェス(201、202、203)から構成され、複数のサブメタサーフェス(201、202、203)は、水平方向に配列され、それぞれの主ローブ方向は、水平面内の互いに異なる向きであり、 メタサーフェス100で反射する電磁波を水平方向に所望の範囲で拡散することができ、(【0027】)
m メタサーフェス100は、無線通信を行う携帯電話の基地局200と、移動端末300の利用者301との伝搬経路上に複数配置され、基地局200から出た電磁波は、メタサーフェス100に入射し反射する際に所定角度曲がり、移動端末300の利用者301に向かい、(【図8】)
n メタサーフェス100は、基地局200と、伝搬経路が異なる複数の移動端末300の利用者301とのそれぞれの伝搬経路上に配置されている(【図8】)
o メタサーフェス。」
(3)甲B3の記載事項
甲B3には、次の事項が記載されている。
「【0007】
非特許文献1に、従来のリフレクトアレイの例が示されている。かかるリフレクトアレイは、図1に示すように、マイクロストリップアンテナの形状をアレイ素子とし、地板を金属平板としている。かかるアレイ素子のサイズa及びbは、図2に示すように位相差によって決められている。
【0008】
しかし、図1及び図2に示すような従来のリフレクトアレイでは、裏面に金属平板が用いられているために、他の周波数の電波が透過することができず、TM波及びTE波の偏波を共用することができず、さらに、任意の方角から到来する電波を所望の方向に放射することができないという欠点があった。」
「【0013】
しかしながら、従来のリフレクトアレイ及び周波数選択板では、
(1)鏡面反射とは異なる方向に放射する機能、
(2)TE波入射及びTM波入射を共に同じ所望方向に放射する機能、
(3)所望の周波数に対してのみ反射させ、他の周波数に対しては透過する機能、
(4)どんな方向からの入射に対しても所望方向にビームを向ける機能、
のいずれか2つ以上を同時に実現することは困難であった。」
「【図1】
[図:0001424575000005.jpg]
」
「【図2】
[図:0001424575000006.jpg]
」
(4)甲B3発明
前記(3)によれば、甲B3には、次の発明(以下「甲B3発明」という。)が記載されていると認められる。
「図1に示すようなマイクロストリップアンテナ形状のアレイ素子と金属平板の地板とを備え、アレイ素子のサイズおよび位相差は図2に示される、リフレクトアレイ。」
2 当審の判断
(1)甲B1を主引用発明とする理由について
ア 本件発明2について
(ア)対比
本件発明2と甲B1発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
a 発明特定事項2A、2Iについて
(a)甲B1発明の「メタサーフェス」は、甲B1の【0009】における「また、電磁波の反射板としてのメタサーフェス、つまり、メタサーフェスを備えた反射板を、単にメタサーフェスと呼ぶことがある。」との記載及び文脈を踏まえると、甲B1発明における「メタサーフェス」は、「メタサーフェスを備えた反射板」を意味するものと認められる。
また、甲B1発明の「メタサーフェス」は、「所定周波数での電磁波を要求される位相で異常波反射させ」るものである(構成h)から、本件発明1の「特定の周波数帯の電磁波を」「反射する周波数選択反射板」に相当する。
ここで、「異常波反射とは、入射角が0度の入射波を70度などの向きに反射できるような反射を言」う(構成i)から、甲B1発明の「メタサーフェス」は、正反射方向とは異なる方向に反射するものであると認められる。
(b)前記(a)より、本件発明2と甲B1発明とは、「特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板」である点で一致する。
b 発明特定事項2Bについて
(a)甲B1発明の「メタサーフェス」は、「複数のサブメタサーフェス(201、202、203)から構成され」ている(構成l)。
このとき、各「サブメタサーフェス」がそれぞれ領域をなしていることは図6から明らかであるため、甲B1発明は、複数の領域を有するといえる。
(b)前記(a)より、本件発明2と甲B1発明とは、「複数の領域を有し」という点で一致する。
c 発明特定事項2Cについて
(a)本件発明2における「反射ビームプロファイル」は、発明の詳細な説明の記載を参酌すると、「反射ビームプロファイルにおけるメインローブ(メインビーム)の形状をいい、具体的には、メインローブの角度分布および強度分布をいう」(【0021】)ものと解される。
同様に、本件発明2における「反射ビームプロファイルを調整する機能」は、「周波数選択反射板全体で反射ビームを広げる機能」(【0022】)等をいうものと解される。
(b)甲B1発明の「メタサーフェス」は、「波の反射のメインローブ」を「目的の方向に向け」(構成k)、「所望の反射角度を実現」する(構成j)ものであり、「反射する電磁波を水平方向に所望の範囲で拡散する」(構成l)ものであるから、前記(a)より、反射ビームプロファイルを調整する機能を有すると認められる。
(c)前記(a)及び(b)より、本件発明2と甲B1発明とは、「反射ビームプロファイルを調整する機能を有し」という点で一致する。
d 発明特定事項2Dについて
(a)甲B1発明の「メタサーフェス」は、「複数のサブメタサーフェス(201、202、203)から構成され」ている(構成l)。すなわち、甲B1発明では、「周波数選択反射板」である「メタサーフェス」(前記a(a))の全面が、「複数のサブメタサーフェス(201、202、203)から構成され」ていると認められる。
このとき、各「サブメタサーフェス」がそれぞれ領域をなしており、「メタサーフェス」の全面が「複数のサブメタサーフェス(201、202、203)」によって分割されていることは図6から明らかであるから、甲B1発明では、メタサーフェスの全面が、複数の領域であるサブメタサーフェスに分割されているといえる。したがって、甲B1発明における「サブメタサーフェス」は、本件発明1における「分割領域」に相当する。
(b)前記(a)より、本件発明2と甲B1発明とは、「前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており」という点で一致する。
e 発明特定事項2Eについて
(a)甲B1発明の「メタサーフェス」は「周波数選択反射板」であって(前記a(a))、「複数のサブメタサーフェス(201、202、203)から構成され」ている(構成l)。
図6を参照すると、メタサーフェス100の左端にサブメタサーフェス201が配置され、その右隣にサブメタサーフェス202が配置され、その右隣である右端にサブメタサーフェス203が配置されていることから、サブメタサーフェス202は、メタサーフェス100の中央に位置するといえる。
前記d(a)のとおり、サブメタサーフェス202は、「分割領域」であるから、サブメタサーフェス202は、中央に位置する分割領域である。
また、サブメタサーフェス201及び203は、中央に位置する分割領域以外の複数の分割領域である。
(b)前記(a)より、本件発明2と甲B1発明とは、「前記複数の分割領域は、前記周波数選択反射板の中央に位置する分割領域と、前記中央に位置する分割領域以外の分割領域である複数の領域とを有し」という点で共通するものの、本件発明2では、周波数選択反射板の中央に位置する分割領域を「メイン領域」とし、メイン領域以外の分割領域を「サブ領域」とするのに対し、甲B1発明ではその点について特定されていない点で相違する。
f 発明特定事項2Fについて
(a)甲B1発明では、図6から、サブメタサーフェス201及びサブメタサーフェス203が、中央に位置する分割領域であるサブメタサーフェス202(前記e(a))の周囲に配置されているとことは明らかである。
(b)前記(a)及びeより、本件発明2と甲B1発明とは、「前記複数の中央に位置する分割領域以外の領域は前記中央に位置する分割領域の周囲に配置されており、」という点で共通するものの、前記e(b)と同様に、本件発明2では、中央に位置する分割領域を「メイン領域」とし、メイン領域以外の分割領域を「サブ領域」とするのに対し、甲B1発明ではその点について特定されていない点で相違する。
g 発明特定事項2Gについて
(a)本件発明2における「反射方向ベクトル」について、発明の詳細な説明には以下の記載がある。
「例えば図6に示すように、周波数選択反射板1を地面(XZ面)に垂直に立てた場合の電磁波反射側から見て、左隅を原点、水平方向をx軸、天地方向をy軸、反射側法線方向をz軸とし、電磁波の反射方向ベクトルdrの極角をθ、方位角をφと定義する。」(【0038】)
「図8(a)~(c)に、図1および図2に示す周波数選択反射板におけるメイン領域および各サブ領域の反射特性の例を示す。図8(a)に示すように、周波数選択反射板1は、特定の周波数帯の電磁波(入射波Wi)を正反射(鏡面反射)方向とは異なる方向に反射するものであり、例えばメイン領域A0では入射波Wiの入射角θiと、反射波Wrの反射角θrとは異なる。また、図2、図7、図8(b)に示すように、電磁波の反射方向ベクトルの方位角φについて、サブ領域A32ではメイン領域A0に対して方位角φが小さく、サブ領域A12ではメイン領域A0に対して方位角φが大きく、サブ領域A32、メイン領域A0、サブ領域A12の順に、電磁波の反射方向ベクトルの方位角φが徐々に増加している。同様に、サブ領域A31、A21、A11の順に、電磁波の反射方向ベクトルの方位角φが徐々に増加し、サブ領域A33、A23、A13の順に、電磁波の反射方向ベクトルの方位角φが徐々に増加している。一方、図2、図7、図8(c)に示すように、電磁波の反射方向ベクトルの極角θについて、サブ領域A21ではメイン領域A0に対して極角θが小さく、サブ領域A23ではメイン領域A0に対して極角θが大きく、サブ領域A21、メイン領域A0、サブ領域A23の順に、電磁波の反射方向ベクトルの極角θが徐々に増加している。同様に、サブ領域A11、A12、A13の順に、電磁波の反射方向ベクトルの極角θが徐々に増加し、サブ領域A31、A32、A33の順に、電磁波の反射方向ベクトルの極角θが徐々に増加している。このように、x軸方向に沿って電磁波の反射方向ベクトルの極角θが徐々に増加し、また、y軸方向に沿って電磁波の反射方向ベクトルの方位角φが徐々に増加するように、メイン領域A0および各サブ領域A11~A33での電磁波の反射方向ベクトルが設定されている。これにより、各サブ領域A11~A33での電磁波の反射方向ベクトルを、メイン領域A0での電磁波の反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がるように設定することができる。」(【0045】)
「
[図:0001424575000007.jpg]
」(【図8】)
「このような場合、所定の入射角θiで入射した電磁波(入射波Wi)を、メイン領域A0および各サブ領域A11~A33の反射特性(極角θ、方位角φ)に応じて反射させることで、メイン領域A0での電磁波の反射方向ベクトルを中心として広がりを持って反射させることができる。」(【0046】)
これらの記載を参酌すると、本件発明1における「反射方向ベクトル」は、各領域における反射特性と同義であり、各領域における反射波の方向を意味するものであると認められる。
(b)甲B1発明における「主ローブ方向」について、甲B1には以下のような記載がある。
「以下の実施例では、目的のメタサーフェス100の中心周波数は28GHzである。また、以下の説明では、メタサーフェス100は入射角が0度の入射波を70度の向きに反射するよう設計されている。なお、本明細書ではメタサーフェス100に垂直に入射した電磁波が反射する方向のうち、最大の強度を示す反射方向を「主反射方向」と呼ぶことがある。同様に、反射波のメインとなるローブの向きとして「主ローブ方向」と呼ぶことがある。」(【0009】)
「図4は、図3での初期の反射位相を用いた、メタサーフェスでのバイスタティックレーダー反射断面の結果であり、15λ0mm四方の面積を有するメタサーフェス100での両偏波の、動作周波数における、xz平面でのバイスタティックレーダー反射断面(RCS)の結果を示す。この初期結果は、図3に示されるユニットセル(U1、U2、U3、U4)の個々の反射位相によって得られる。さらに、この結果は、波の反射のメインローブが目的の方向に向けられていることを示す。しかしながら、サイドローブが大きいためメタサーフェス100の反射性能としては低い。」(【0022】)
「【図4】
[図:0001424575000008.jpg]
」
「図6は、本発明の一実施例におけるメタサーフェスの構成を示す。メタサーフェス100を1種類のみから構成した場合、一方向に強い指向性を示す。これに対して、本実施例では、より広い範囲に電磁波を反射する。本実施例において、メタサーフェス100は複数のサブメタサーフェス(201、202、203)から構成される。本実施例では3つのサブメタサーフェス100から構成される。それぞれのサブメタサーフェス(201、202、203、204、205、206)の構造は、既述のメタサーフェス100と同様であり、本実施例では主ローブ方向が水平面内の所定の向きに調整されている。
複数のサブメタサーフェス(201、202、203)は、水平方向に配列されている。そして、それぞれの主ローブ方向は、水平面内の互いに異なる向きである。
本構成により、メタサーフェス100で反射する電磁波を水平方向に所望の範囲で拡散することができる。」(「【0027】)
これらの記載を参酌すると、甲B1発明における「主ローブ方向」は、1つのメタサーフェス(サブメタサーフェス)による反射波の方向を意味するものであると認められる。
(c)前記(a)及び(b)より、本件発明2における「反射方向ベクトル」と、甲B1発明における「主ローブ方向」は、共に、「周波数選択反射板」(前記a(a))の、所定の領域における反射波の方向を意味するものであるから、甲B1発明における「主ローブ方向」は、本件発明2における「反射方向ベクトル」に相当する。
そして、甲B1発明では、「分割領域」である「複数のサブメタサーフェス(201、202、203)」(前記d(a))の「それぞれの主ローブ方向は、水平面内の互いに異なる向きであ」る(構成l)から、本件発明2と甲B1発明は、「各分割領域」における反射波の「反射方向ベクトル」が互いに異なる点で一致する。
(d)前記(a)~(c)より、本件発明2と甲B1発明とは、「前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なり」という点で一致する。
h 発明特定事項2Hについて
(a)甲B1発明は、「メタサーフェス100で反射する電磁波を水平方向に所望の範囲で拡散する」(構成l)ものであるから、「周波数選択反射板」である「メタサーフェス」(前記a(a))全体として、反射する電磁波である反射波を水平方向に広げるものであると認められるが、各サブメタサーフェス201、202及203のそれぞれの反射波の具体的な方向が不明なため、サブメタサーフェス201及びサブメタサーフェス203の反射波が、サブメタサーフェス202の反射波を中心として外側に向かって広がるか否かは不明である。
(b)前記(a)及びeより、本件発明2は、「前記各サブ領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記メイン領域での前記電磁波の反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がるように設定されている」という発明特定事項を有するのに対し、甲B1発明は、その点について特定されていない点で相違する。
i 一致点と相違点について
前記a~hによれば、本件発明2と甲B1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、
複数の領域を有し、
前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、
前記複数の分割領域は、前記周波数選択反射板の中央に位置する分割領域と、前記中央に位置する分割領域以外の分割領域である複数の領域とを有し、
前記複数の中央に位置する分割領域以外の領域は前記中央に位置する分割領域の周囲に配置されており、
前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なる
周波数選択反射板。」
[相違点]
(相違点1)本件発明2では、周波数選択反射板の中央に位置する分割領域を「メイン領域」とし、メイン領域以外の分割領域を「サブ領域」とするのに対し、甲B1発明ではその点について特定されていない点。
(相違点2)本件発明2は、「前記各サブ領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記メイン領域での前記電磁波の反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がるように設定されている」という発明特定事項を有するのに対し、甲B1発明は、その点について特定されていない点。
(イ)判断
事案に鑑み、前記(ア)で示した相違点2について検討する。
前記(ア)h(a)のとおり、甲B1発明では、「メタサーフェス100で反射する電磁波を水平方向に所望の範囲で拡散する」(構成l)ことが特定されているものの、各サブメタサーフェス201、202及203のそれぞれの反射波の具体的な方向、すなわち「主ローブ方向」をどのように設定するかについて、記載も示唆もない。
そのため、中央に位置する分割領域以外の領域であるサブメタサーフェス201及びサブメタサーフェス203(前記(ア)e(a))での反射波である電磁波の「反射方向ベクトル」が、中央に位置する分割領域であるサブメタサーフェス202(前記(ア)e(a))での電磁波の反射方向ベクトルを中心として外側に向かって広がることについても、記載も示唆されていない。
その他の証拠にも、このように反射方向ベクトルを設定することについては、記載も示唆もない。
また、このように反射方向ベクトルを設定することは技術常識であるともいえない。
したがって、相違点2は、当業者といえども、甲B1発明から容易に想到し得たものとは認められない。
(ウ)申立人Bの主張について
申立人は、特許異議申立書Bにおいて、相違点2に係る構成について、「創作性を要するものでなく当業者にとって任意の設計事項に過ぎない」旨主張している(24頁25行目~26頁1行目)。
しかしながら、前記(イ)のとおり、そもそも甲B1発明には、いずれの「サブメタサーフェス」についても「反射方向ベクトル」である「主ローブ方向」(前記(ア)g(c))をどのように設定するのか記載も示唆もないことから、上述のように構成することが設計事項であったとは認められない。
よって、申立人Bによる当該主張は採用できない。
(エ)小括
以上によれば、本件発明2は、甲B1発明と実質的に相違点2で相違し、相違点2は、甲B1発明、提出された証拠方法及び技術常識に基いて当業者が容易になし得たものではない。
そうすると、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明2は、当業者が容易に想到し得たものではない。
イ 本件発明3について
(ア)対比
本件発明3と甲B1発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
a 発明特定事項3A、3B、3C、3D、3E、3Gについて
発明特定事項3A、3B、3C、3D、3E、3Gは、それぞれ発明特定事項2A、2B、2C、2D、2G、2Iと同一であるから、前記ア(ア)a~d及びgに示したとおりである。
b 発明特定事項3Fについて
(a)甲B1発明は、「周波数選択反射板」である「メタサーフェス」(前記ア(ア)a(a))全体として、反射する電磁波である反射波を水平方向に広げるものであると認められるが(前記ア(ア)h(a))、各サブメタサーフェス201、202及203のそれぞれの反射波の具体的な方向が不明なため、各サブメタサーフェスの反射波が、各サブメタサーフェスの反射波の反射方向ベクトルの和から導かれる、前記電磁波の主反射方向ベクトルを中心として外側に広がるか否かは不明である。
(b)前記(a)より、本件発明3は、「前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、前記電磁波の主反射方向ベクトルを中心として外側に広がるように設定されている」という発明特定事項を有するのに対し、甲B1発明は、その点について特定されていない点で相違する。
c 一致点と相違点について
前記a及びbによれば、本件発明3と甲B1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、
複数の領域を有し、
前記周波数選択反射板の全面が複数の分割領域に分割されており、
前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは互いに異なる
周波数選択反射板。」
[相違点]
(相違点3)本件発明3は、「前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルは、前記各分割領域での前記電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、前記電磁波の主反射方向ベクトルを中心として外側に広がるように設定されている」という発明特定事項を有するのに対し、甲B1発明は、その点について特定されていない点。
(イ)判断
前記(ア)で示した相違点3について検討する。
前記ア(ア)h(a)のとおり、甲B1発明では、「メタサーフェス100で反射する電磁波を水平方向に所望の範囲で拡散する」(構成l)ことが特定されているものの、各サブメタサーフェスのそれぞれの反射波の具体的な方向である「主ローブ方向」をどのように設定するかについて、記載も示唆もない。
そのため、各「分割領域」である各「サブメタサーフェス」(前記ア(ア)d(a))での反射波である電磁波の「反射方向ベクトル」が、各分割領域での電磁波の反射方向ベクトルの和から導かれる、前記電磁波の主反射方向ベクトルを中心として外側に広がることについても、記載も示唆されていない。
その他の証拠にも、このように反射方向ベクトルを設定することについては、記載も示唆もない。
また、このように反射方向ベクトルを設定することは技術常識であるともいえない。
したがって、相違点3は、当業者といえども、甲B1発明から容易に想到し得たものとは認められない。
(ウ)申立人Bの主張について
申立人は、特許異議申立書Bにおいて、相違点3に係る構成について、「創作性を要するものでなく当業者にとって任意の設計事項に過ぎない」旨主張している(26頁2~23行目)。
しかしながら、前記(イ)のとおり、そもそも甲B1発明には各「サブメタサーフェス」の「反射方向ベクトル」である「主ローブ方向」(前記ア(ア)g(c))をどのように設定するかについての記載も示唆もないことから、上述のように構成することが設計事項であったとは認められない。
よって、申立人Bによる当該主張は採用できない。
(エ)小括
以上によれば、本件発明3は、甲B1発明と実質的に相違点3で相違し、相違点3は、甲B1発明、提出された証拠方法及び技術常識に基いて当業者が容易になし得たものではない。
そうすると、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明3は、当業者が容易に想到し得たものではない。
ウ 本件発明2または3を引用する本件発明6~8、10、14、18~24について
本件発明2または3を引用する本件発明6~8、10、14、18~24は、本件発明2または3の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を付加したものである(前記第3)。
したがって、本件発明2または3を引用する本件発明6~8、10、14、18~24と甲B1発明とは、少なくとも、前記ア(ア)i及びイ(ア)cに示した相違点2または3で相違し、前記ア(イ)及びイ(イ)と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)甲B3を主引用発明とする理由について
ア 本件発明15について
(ア)対比
本件発明15と甲B3発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
a 発明特定事項15A、15Fについて
(a)甲B3発明の「リフレクトアレイ」は、甲3の【0013】の記載を参酌すると参照すると、「所望の周波数に対してのみ反射させ」る機能を有していると認められるから、「特定の周波数帯の電磁波を」「反射する」ものであって、本件発明15における「周波数選択反射板」に相当する。
(b)甲B3発明の「リフレクトアレイ」は、【0013】を参酌すると、参照すると、「鏡面反射とは異なる方向に放射する機能」を有すると認められるから、電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射するものであると認められる。
(c)前記(a)及び(b)より、本件発明15と甲B3発明とは、「特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板」である点で一致する。
b 発明特定事項15Bについて
(a)甲B3発明の「リフレクトアレイ」は、【図1】を参照すると、複数のアレイ素子を有しており、それらのアレイ素子がそれぞれ領域をなしていることは【図1】から明らかであるため、甲B3発明は、複数の領域を有するといえる。
(b)前記(a)より、本件発明15と甲B3発明とは、「複数の領域を有し」という点で一致する。
c 発明特定事項15Cについて
(a)本件発明15における「反射ビームプロファイル」は、発明の詳細な説明の記載を参酌すると、「反射ビームプロファイルにおけるメインローブ(メインビーム)の形状をいい、具体的には、メインローブの角度分布および強度分布をいう」(【0021】)ものと解される。
同様に、本件発明15における「反射ビームプロファイルを調整する機能」は、「周波数選択反射板全体で反射ビームを広げる機能、周波数選択反射板全体で反射ビームを狭める機能、周波数選択反射板全体で球面波を平面波に変換する機能」(【0022】)等をいうものと解される。
(b)甲B3発明の「リフレクトアレイ」は、【0013】を参照すると、「(1)鏡面反射とは異なる方向に放射する機能、(2)TE波入射及びTM波入射を共に同じ所望方向に放射する機能、(3)所望の周波数に対してのみ反射させ、他の周波数に対しては透過する機能、(4)どんな方向からの入射に対しても所望方向にビームを向ける機能」のいずれかの機能を有すると認められるが、反射ビームを広げる機能、反射ビームを狭める機能、球面波を平面波に変換する機能を有しているかは不明である。
(c)前記(a)及び(b)より、本件発明15は、「反射ビームプロファイルを調整する機能を有し」という発明特定事項を有するのに対し、甲B3発明ではその点について特定されていない点で相違する。
d 発明特定事項15Dについて
(a)本件発明15における「電磁波の反射位相が異なる複数のセル領域が繰り返し配列され」という構成は、「各セル領域での電磁波の反射位相が増減を繰り返すように、複数のセル領域が配列されているものの、その増減が必ずしも周期的でないことをいう」(【0021】)ものと解される。
(b)甲B3発明の「リフレクトアレイ」は、「図1に示すようなマイクロストリップアンテナ形状のアレイ素子」を有しており、【図2】によると、アレイ素子のサイズや反射位相はそれぞれ異なっていると認められる。
したがって、アレイ素子が配置される領域を「セル領域」と称することは、本件明細書【0330】、【0332】等の「セル領域」の定義に照らして整合的である。
他方、甲B3発明では、【図1】に示されるアレイ素子の配置が示されるのみであって、どのようにアレイ素子が配列されているのかについて特定されておらず、反射位相が増減を繰り返すようにアレイ素子が配列されているのかは不明である。
(c)前記(a)及び(b)より、本件発明15と甲B3発明とは、「電磁波の反射位相が異なる複数のセル領域が配列されており」という点で共通するものの、本件発明15は、複数のセル領域が、反射位相が増減を繰り返すように「繰り返し配列」されるのに対し、甲B3発明ではその点について特定されていない点で相違する。
e 発明特定事項15Eについて
(a)甲B3発明の「リフレクトアレイ」は、「図1に示すようなマイクロストリップアンテナ形状のアレイ素子」を有しており、【図2】によると、アレイ素子のサイズや反射位相はそれぞれ異なっていると認められる。
このとき、【図1】には9個のアレイ素子が図示され、【図2】には15種類のアレイ素子のサイズと位相が示されているものの、どのようにアレイ素子が配列されているのかについて特定されておらず、【図2】に示されるアレイ素子がどのような配列となっているのか不明である。
したがって、甲B3発明においては、基準となるアレイ素子が配置される「セル領域」(前記d(b))を定義できず、各セル領域における相対反射位相も不明である。
(c)前記(a)及び(b)より、本件発明15は、「前記電磁波の反射位相の遅れが最も大きい前記セル領域での前記電磁波の反射位相を基準として、前記各セル領域での前記電磁波の相対反射位相を、-360度超0度以下としたとき、徐々に小さくなる前記電磁波の相対反射位相が急に大きくなる境界部分が、分岐せず、連続した曲線状である」という発明特定事項を有するのに対し、甲B3発明ではその点について特定されていない点で相違する。
f 一致点と相違点について
前記a~eによれば、本件発明15と甲B3発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、
複数の領域を有し、
前記電磁波の反射位相が異なる複数のセル領域が配列されている
周波数選択反射板。」
[相違点]
(相違点4)本件発明15は、「反射ビームプロファイルを調整する機能を有し」という発明特定事項を有するのに対し、甲B3発明ではその点について特定されていない点。
(相違点5)本件発明15は、複数のセル領域が、反射位相が増減を繰り返すように「繰り返し」配列されるのに対し、甲B3発明ではその点について特定されていない点。
(相違点6)本件発明15は、「前記電磁波の反射位相の遅れが最も大きい前記セル領域での前記電磁波の反射位相を基準として、前記各セル領域での前記電磁波の相対反射位相を、-360度超0度以下としたとき、徐々に小さくなる前記電磁波の相対反射位相が急に大きくなる境界部分が、分岐せず、連続した曲線状である」という発明特定事項を有するのに対し、甲B3発明ではその点について特定されていない点。
(イ)判断
事案に鑑み、前記(ア)で示した相違点5及び6について検討する。
前記ア(ア)d及びeのとおり、甲B3発明では、どのようにアレイ素子が配列されているのかについて記載されておらず、相違点5及び6は実質的な相違点である。
したがって、本件発明15と甲B3発明とは同一であるとは認められない。
(ウ)申立人Bの主張について
a 申立人Bは、相違点5に関連し、特許異議申立書Bにおいて、「甲3発明のリフレクトアレイには反射位相が異なる複数のセル領域が繰り返し配列されているものと認められる」(29頁16~17行目)旨主張する。
b 前記ア(ア)d(b)のとおり、甲B3には、甲B3発明におけるアレイ素子が「繰り返し配列」されることについて何ら記載されていない。
この点について、申立人Bは、甲B1を根拠に「甲3発明のようなリフレクトアレイが、アレイ素子を有するセル領域と、反射位相の異なるセル領域が繰り返し配列されて反射方向ベクトルを与える単位構造を備えることは周知である」(23頁17~19行目)とし、「甲3発明のリフレクトアレイには複数のセル領域が存在すると認められる」(23頁23~24行目)と主張する。
しかしながら、当該主張は甲B3に基づくものではない。そして、仮に、甲B1に基づいて上記構成が周知であったとしても、甲B3発明が当該構成を有していることを示す証拠とはならない。
c また、申立人Bは、相違点6に関連し、「甲3発明の図2に示された各アレイサイズの位相差とサイズを番号順に図解すると以下の図Aで表される」(29頁17~18行目)、「図Aにおいて、#1~15のセル領域(アレイ素子)の配列は第1実施形態(図3)、第2実施形態(図15(a))、第3実施形態(図18(a))の配列に準じた。また、#1~15のセル領域(アレイ素子)からなる単位構造が4つ上下左右に並ぶように配置した。ここで各セル領域(アレイ素子)の位相差に注目すると、徐々に小さくなる相対位相が急に大きくなる境界部分が点線で示されることが分かる」(30頁1~6行目)旨主張する。
しかしながら、前記bのとおり、甲B3には【図2】に示されるアレイ素子を「繰り返し配列」することについて何ら記載されておらず、【図2】に示されるアレイ素子が複数存在するのかさえ不明である。
仮に、繰り返し配列することが周知技術であったとしても、前記ア(ア)e(a)のとおり、甲B3には、どのようにアレイ素子が配列されているのかについて記載されていないから、繰り返す単位となる構成が不明であり、繰り返した場合にどのような構成となるかも不明である。
d 前記a~cのとおりであるから、申立人Bによる当該主張は採用できない。
(エ)小括
以上によれば、本件発明15は、甲B3発明と実質的に相違点5及び6で相違する。
そうすると、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明15は甲B3発明と同一ではない。
イ 本件発明15を引用する本件発明17について
本件発明17は、本件発明15の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を付加したものである(前記第3)。
したがって、本件発明17と甲B3発明とは、少なくとも、前記ア(ア)fに示した相違点5及び6で相違する。
そうすると、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明17は甲B3発明と同一ではない。
ウ 本件発明15を引用する本件発明18~24について
本件発明15を引用する本件発明18~24は、本件発明15の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を付加したものである(前記第3)。
したがって、本件発明15を引用する本件発明18~24と甲B3発明とは、少なくとも、前記ア(ア)fに示した相違点5及び6で相違する。
そして、相違点5、6に係る構成については、甲B3、その他の証拠に記載も示唆されておらず、当該構成は技術常識であるともいえない。
したがって、相違点5、6は、当業者といえども、甲B3発明から容易に想到し得たものとは認められない。
そうすると、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明15を引用する本件発明18~24は、当業者が容易に想到し得たものではない。
(3)甲B2または甲B3を主引用発明とする理由
前記第2のとおり、本件訂正により、本件訂正前の請求項1が削除された。
また、本件訂正により、本件訂正前の請求項18について、削除される請求項1を引用しないようにする訂正がされ、本件訂正後の請求項18は、請求項2~5または15のいずれかを引用するものとなった。
そのため、本件訂正により、前記「第7」3(1)及び(2)の申立理由には、理由がない。
(4)まとめ
前記(1)~(3)のとおりであるから、申立ての理由によっては、
本件発明2、3、6~8、10、14、15、17~24に係る特許を取り消すことはできない。
第9 むすび
以上のとおりであるから、決定の予告に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項2、3、6~8、10、14、15、17~24に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項2、3、6~8、10、14、15、17~24に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1は、上記のとおり本件訂正により削除された。これにより、請求項1に係る特許に対する特許異議の申立は、申立の対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700378