特許異議申立
2024-701179
ミリ波反射建装材
- 審判番号
- 2024-701179
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-026916
- 登録番号
- 7497736
- 請求日
- 2024年12月09日
- 審決日
- 2025年04月18日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】TOPPANホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】鈴木 史朗
- 【権利者代理人】清水 雄一郎
- 【権利者代理人】大槻 真紀子
- 【異議申立人】藤江 桂子
- 審判長/審判官
- 審判長 高野 洋
- 審判官 寺谷 大亮
- 審判官 丸山 高政
- 分類
- P1651.536-Y (H01Q) / P1651.537-Y (H01Q) / P1651.113-Y (H01Q) / P1651.121-Y (H01Q)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7497736号発明「ミリ波反射建装材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7497736号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7497736号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、令和4年2月24日の出願であって、令和6年6月3日にその特許権の設定登録がされ、同年6月11日に特許掲載公報が発行された。その後、その全請求項(請求項1~7)に係る特許に対し、特許異議申立人 藤江 桂子(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
特許異議の申立てからの手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 6年12月 9日 特許異議申立書
令和 7年 1月28日付け 取消理由通知書
3月28日 意見書
令和6年12月9日の特許異議申立書を、以下では単に「申立書」という。
第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明7」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。なお、後の参照の便宜のために請求項1にA1~Dの記号を付して分説し、「発明特定事項A1」のようにして参照する。
【請求項1】
A1 面状の誘電体と、
A2 前記誘電体の第一面上に設けられ、形状の異なる複数の金属パターンを有するスーパーセルと、
A3 オレフィン系材料を主成分とし、前記スーパーセルを覆うように配置された保護層と、
A4 前記誘電体と前記保護層との間、および前記スーパーセルと前記保護層との間に位置する接着層と、
A を備え、
B 10GHzにおける前記保護層および前記接着層のトータルの誘電率が2.5以下であり、
C 平面視において、前記保護層により前記スーパーセルが視認できなくなっている、
D ミリ波反射建装材。
【請求項2】
前記誘電体において、前記第一面と反対側の第二面上に設けられた金属層をさらに備える、
請求項1に記載のミリ波反射建装材。
【請求項3】
前記オレフィン系材料の誘電率εrが2.7以下である、
請求項1に記載のミリ波反射建装材。
【請求項4】
前記保護層が多孔質構造を有する、
請求項1に記載のミリ波反射建装材。
【請求項5】
前記保護層の表面ヘイズが90%以上である、
請求項1に記載のミリ波反射建装材。
【請求項6】
前記接着層がオレフィン系材料を主成分とする、
請求項1に記載のミリ波反射建装材。
【請求項7】
1平方メートルあたりの重量が2300g以下である、
請求項1に記載のミリ波反射建装材。
第3 証拠方法及び申立理由
申立人が提出した証拠方法を以下の1に示す。
申立人が主張する申立理由を以下の2に示す。
1 証拠方法
申立人は、申立書に添付して甲第1号証の1~甲第14号証(以下、それぞれ「甲1の1」~「甲14」という。)をいずれも写しとして提出した。
甲1の1 国際公開第2021/156099号
甲1の2 特表2023-512699号公報
甲2 特開2017-151115号公報
甲3 特開平7-183842号公報
甲4 特開2008-41687号公報
甲5 特開2005-184012号公報
甲6 特開2000-174532号公報
甲7 特開2022-25624号公報
甲8 再公表特許WO2020/111159号
甲9 特開平5-2957号公報
甲10 特開2011-147062号公報
甲11 特開2008-205447号公報
甲12 特開平11-251784号公報
甲13 「比誘電率表」(https://www.yei-jp.com/tech-infor/dielectric/dielectric02.html)
甲14 「EVONIK」(https://performance-foams.evonik.com/en/products-and-solutions/rohacell)
2 申立理由
申立理由の概要は、以下のとおりである。
〈申立理由1〉(申立書13~25頁)
本件発明1~3及び7は、当業者が甲1の1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)及び甲2~甲5に示される周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~3及び7に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
本件発明4は、当業者が甲1発明、甲2~甲5に示される周知技術及び甲14に示される事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明4に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
本件発明5は、当業者が甲1発明、甲2~甲5に示される周知技術及び甲7に示される周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明5に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
本件発明6は、当業者が甲1発明、甲2~甲5に示される周知技術及び甲8に示される周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
(同法113条1項2号)
〈申立理由2〉(申立書26~36頁)
本件発明1及び3は、甲4に記載された発明(以下「甲4発明」という。)と同一であるから、本件発明1及び3に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
本件発明1、3及び7は、当業者が甲4発明並びに甲5、甲11及び甲12に示される周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、3及び7に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
本件発明2は、当業者が甲4発明並びに甲1の1、甲3、甲5、甲11及び甲12に示される周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
本件発明4は、当業者が甲4発明、甲1の1、甲5、甲6、甲11及び甲12に示される周知技術並びに甲14に示される事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明4に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
本件発明5は、当業者が甲4発明並びに甲5、甲7、甲11及び甲12に示される周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明5に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
本件発明6は、当業者が甲4発明並びに甲5、甲8、甲11及び甲12に示される周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
(同法113条1項2号)
〈申立理由3〉(申立書37頁)
本件発明は、以下の3-1~3-3の点で明確ではないから、本件発明に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。(同法113条1項4号)
3-1 本件発明の「ミリ波」の定義が不明確である。
3-2 本件発明の「トータル誘電率」の定義及び測定方法が不明確である。
3-3 本件発明5の「表面ヘイズ」の測定方法が不明確である。
〈申立理由4〉(申立書37~38頁)
本件発明は、以下の4-1~4-3の点で、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件発明に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。(同法113条1項4号)
4-1 本件発明は「ミリ波」との発明特定事項を備え、一般的に、「ミリ波」は30~300GHzを意味すると考えられるが、発明の詳細な説明には「28GHz帯のミリ波」と記載され、両者は矛盾している。
4-2 本件発明は保護層の厚みを特定していないが、発明の詳細な説明には、保護層の厚みが100μm及び400μmの場合に良好な反射特性が得られたことしか記載されておらず、本件発明は発明の課題を解決しない態様を包含している。
4-3 本件発明は、保護層の構造を特定していないが、発明の詳細な説明には、保護層の厚みが400μmで多孔質のポリオレフィンフィルム(実施例1)、厚みが100μmでサンドブラスト処理したシクロオレフィンフィルム(実施例2)で良好な反射特性が得られたことしか記載されておらず、多孔質でない又はサンドブラスト処理されていないオレフィン系フィルムで良好な反射特性が得られるか否か不明である。
〈申立理由5〉(申立書38~39頁)
本件の発明の詳細な説明は、以下の5-1及び5-2の点で、本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本件発明に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。(同法113条1項4号)
5-1 本件発明の「トータル誘電率」の測定方法が、発明の詳細な説明において当業者に実施できる程度に記載されていない。
5-2 本件発明の「表面ヘイズ」の測定方法が、発明の詳細な説明において当業者に実施できる程度に記載されていない。
第4 取消理由通知書で通知した取消理由
当審において取消理由通知書で通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
〈理由1〉
本件の発明の詳細な説明は、次の点で、特許法36条4項1号で委任する経済産業省令である特許法施行規則24条の2に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
本件発明において特定されているのは、動作周波数(28GHz帯の「ミリ波」)とは大きく離れた「10GHzにおける前記保護層および前記接着層のトータルの誘電率が2.5以下」であるという事項であり、10GHzにおける誘電率の値と、28GHzにおける誘電率の値とが同じであるとはいえないから、10GHzにおける誘電率を所定以下に限定したとしても、28GHzにおける誘電率が必ずしも所望の数値以下となるとは限らない。そうすると、本件の発明の詳細な説明からは、解決手段を理解することができず、さらに、10GHzにおける誘電率を特定する技術上の意義も理解できない。
〈理由2〉
本件発明1及び3~5は、当業者が甲4発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1及び3~5に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
本件発明2は、当業者が甲4発明並びに甲1の1、甲3及び甲5に示される周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
本件発明6は、当業者が甲4発明及び甲8に示される周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
本件発明7は、当業者が甲4発明及び甲5に示される周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明7に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
第5 理由1についての判断
取消理由通知書で通知した理由1について判断する。
本件の発明の詳細な説明によれば、本件発明が解決しようとする課題は、外観及び反射特性の良好なミリ波反射建装材を提供することにあり(【0008】)、ミリ波には28GHz帯が含まれる(【0027】)と解される。
そして、本件の発明の詳細な説明には、10GHzにおける多孔質フィルムと接着層を合わせたトータルの誘電率(以下「トータル誘電率」という。)が2.3である実施例1(【0030】)及び実施例2(【0031】)が、双方とも保護層によりスーパーセルが視認できなくなっていることから外観評価に合格し(【0037】)、28GHzでの反射特定が良好であること(【0036】、【0039】)が開示されている。
そうすると、本件の発明の詳細な説明は、外観を良好とするための「前記スーパーセルが視認できなくな」るような「保護層」(発明特定事項C)と、「10GHzにおける前記保護層および前記接着層のトータルの誘電率が2.5以下であ」ること(発明特定事項B)とを前記課題の解決手段として開示し、該解決手段により課題が解決されることを実証していると理解される。
その他、本件の発明の詳細な説明において、特許法施行規則24条の2に規定する要件を満たしていない点はない。
よって、理由1には理由がない。
第6 理由2、申立理由2についての判断
本件発明の甲4発明に対する新規性及び進歩性の有無(申立理由2及び取消理由通知書で通知した理由2)について判断する。
1 甲4の記載
甲4には、以下の記載がある。なお、下線は、強調のために、当審で付した(以下同様)。
(1)「【0009】
本発明は、次のような著大な効果を奏する。
本発明に係る電磁波遮蔽材によれば、本発明の電磁波遮蔽材を壁面や天井面等に付設(貼着)すれば、特定周波数の電磁波を遮蔽(シールド)するシールドルームを簡単に作製することができ、安全かつ快適に通信を行うことができる。
即ち、壁や天井、間仕切り(パーティション)等の相手部材に、アンテナ素子を表側にしてスペーサ層を付着することにより、アンテナ素子の周波数選択性が(誘電率の低くない)相手部材の影響を受けて悪化するのを高度に抑止することができ、良好な電磁波遮蔽特性を維持することができる。
言い換えれば、アンテナ素子と相手部材との間にスペーサ層が介在していることにより、アンテナ素子を相手部材の影響をほとんど受けない位置まで遠ざけて配置することができる。また、スペーサ層は低誘電率の部材から形成されているので、アンテナ素子と直接接触してもアンテナ素子の周波数選択性にはほとんど影響を与えない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、実施の形態を示す図面に基づき本発明を詳説する。
図1は本発明に係る電磁波遮蔽材の第1実施形態を示す拡大断面図であり、図2は第1実施形態の平面図である。
図1に示すように、本発明の電磁波遮蔽材は、同一平面状に配設された多数個のアンテナ素子10を有する反射層1と、反射層の一面に重ね合わされた低誘電率のスペーサ層2とを、有する。
【0011】
反射層1は、シート状又はフィルム状の基材3と、基材3の表て面(図の上面)に付着した極薄のアンテナ素子10とから成っている。アンテナ素子10は周波数選択性を有するものであり、言い換えれば、アンテナ素子10は特定周波数の電磁波(電波)を選択的に反射するものである。この場合、アンテナ素子10は、略Y字形に形成され(図2参照)、基材3上に等間隔に配設されている。また、基材3とスペーサ層2とは粘着層4を介して接着されている。
【0012】
スペーサ層2は、誘電率の低い部材から形成され、例えば、炭酸カルシウム(発泡体も含む)、発泡スチロール、タルク、ポリテトラフルオロエチレン、PEキューブ、絹、象牙、紙等が挙げられる。
スペーサ層2の誘電率は1以上2以下に設定され、好ましくは誘電率が1に近い値がよい。スペーサ層2の誘電率が2を越える場合は、アンテナ素子10がスペーサ層2の影響を受けて良好な電磁波遮蔽特性を維持できないからである。
【0013】
また、スペーサ層2の厚さ寸法Tは1mm以上 100mm以下に形成されている。さらに、下限値としては5mmが好ましく、上限値としては30mmが好ましい。この厚さ寸法Tが1mm未満であると、アンテナ素子10がスペーサ層2の裏面(図1に於て下面)に配設される相手部材の影響を受けて良好な電磁波遮蔽特性を維持できなくなり、厚さ寸法Tが 100mmを越えると不必要に厚くなって付設するのに必要なスペースが大きくなるからである。
【0014】
さらに詳しく説明すると、アンテナ素子10は導電材料で形成され、導電材料としては、アルミニウム、銀、銅、金、白金、鉄、カーボン、黒鉛、酸化インジウムスズ(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、これらの混合物又は合金等が挙げられる。
また、基材3の材料として、例えば、樹脂、紙、布等が挙げられる。
【0015】
本発明の電磁波遮蔽材の製造方法は、図3に示すように、まず、粉末状の導電材料を含ませた導電塗料を、基材3の表て面3aに所定パターン(略Y字形)に塗布(スクリーン印刷)し、その後、乾燥させて上記反射層1を作製する。そして、基材3の裏面3b又はスペーサ層2の表て面2aに粘着剤を塗布し、基材3とスペーサ層2とを接着して完成する。また、アンテナ素子10は、上記方法以外に、エッチング法、パターン圧着法、スパッタ法、蒸着法等によって基材3の表面に形成してもよい。
【0016】
図4に於て本発明の第2実施形態を示す。
図4に示すように、アンテナ素子10はスペーサ層2の表面に直接付着し、図1で示した第1実施形態の基材3と粘着層4とが省略されている。即ち、第2実施形態では、反射層1とスペーサ層2とが一体化している。スペーサ層2が炭酸カルシウムボードや発泡スチロールボードである場合は、スペーサ層2の一面を研磨して凹凸をなくしてから、その研磨面に上記導電塗料を塗布しアンテナ素子10を形成するとよい。
なお、図4に於て、図1と同一の符号は図1と同様の構成であるので説明を省略する。
【0017】
また、図5で示すのは本発明の第3実施形態である。
この場合、反射層1の両面に低誘電率のスペーサ層2,2が重ね合わされている。基材3の上面(一面)に多数個のアンテナ素子10が配設され、そのアンテナ素子10と基材3の上面に粘着層4を介してスペーサ層2が接着されている。そして、基材3の下面(他面)にも粘着層4を介してスペーサ層2が接着されている。
なお、図5に於て、図1と同一の符号は図1と同様の構成であるので説明を省略する。」
(2)「【0019】
また、本発明の電磁波遮蔽材は設計変更自由であり、アンテナ素子10の形状や配置の仕方を遮蔽(反射)する電磁波の周波数に応じて変更自由である。例えば、図7に示すように、相似する大小2種類のアンテナ素子10a,10bを交互に配設してもよい。大きい第1アンテナ素子10aと、小さい第2アンテナ素子10bとは、それぞれ相違する周波数選択性を有するものである。つまり、第1アンテナ素子10aと第2アンテナ素子10bとで2種類の周波数の電磁波を選択的に反射し、それ以外の周波数の電磁波を透過させる。
【0020】
無線LANでは、2.45GHzと5.2GHzとの2種類の周波数の電磁波が使用されている。例えば、この無線LAN用の2種類の電磁波を選択的に遮蔽し、それ以外の周波数の電磁波(携帯電話用通信電磁波・テレビ放送用電磁波等)を透過させる通信環境に使用する電磁波遮蔽材として、図7の実施例は好適である。
また、このことは、図6に示す2個ある反射層1,1の各アンテナ素子10,10を、(異なる周波数の電磁波を遮蔽する)相違する形状・配置にしても可能となる。
なお、アンテナ素子10を上述した形状・配置以外の形状・配置にしても自由である。
【0021】
また、図5と図6に於て、アンテナ素子10を直接スペーサ層2に付着してもよい(図4参照)。具体的には、図5と図6に於て、基材3と、基材3の下面の粘着層4とを、省略してアンテナ素子10(と残った粘着層4)が下方のスペーサ層2に付着した状態になる。
【0022】
上述した本発明の電磁波遮蔽材の使用(付設)方法について説明する。
図1に示す第1実施形態の電磁波遮蔽材の使用方法を、図8に於て説明する。
図8に於て、5は室内の壁・天井・間仕切り(パーティション)等の相手部材である。この相手部材5の表面に電磁波遮蔽材のスペーサ層2を重ね合わせる(貼着する)。つまり、アンテナ素子10は相手部材5と離れた表側に配置する。
【0023】
また、図5に示す第3実施形態の電磁波遮蔽材の使用方法を、図9に於て説明する。
この場合、電磁波遮蔽材は、例えば、壁パネル等の第1相手部材5と、他の壁パネル又は壁紙等の第2相手部材6との間に介装される。
つまり、図9に於て、5が第1相手部材、6が第2相手部材であり、相手部材5の表面に、電磁波遮蔽材のどちらか一方のスペーサ層2を重ね合わせる(貼着する)。そして、表側(他方)のスペーサ層2に第2相手部材6を重ね合わせる(貼着する)。
また、第1相手部材5に貼り付けた(図5に示す)電磁波遮蔽材に、第2相手部材6を貼り付けない場合は、表側のスペーサ層2はアンテナ素子10の保護層としての役割を果たす。」
(3)「【0025】
また、同一平面状に配設された多数個のアンテナ素子10を有する反射層1の両面に低誘電率のスペーサ層2.2を重ね合わせたので、本発明の電磁波遮蔽材を壁面や天井面等に付設(貼着)すれば、特定周波数の電磁波を遮蔽(シールド)するシールドルームを簡単に作製することができ、安全かつ快適に通信を行うことができる。また、表裏両面にスペーサ層2,2を有しているので、2枚の壁パネルの間や、壁面と壁紙との間等に本発明の電磁波遮蔽材を内装して良好な電磁波遮蔽特性を発揮することができる。
即ち、図9に示すように、アンテナ素子10と第1相手部材5との間、及び、アンテナ素子10と第2相手部材6との間に、それぞれスペーサ層2が介装されているので、アンテナ素子10の周波数選択性が(誘電率の低くない)第1相手部材5と第2相手部材6との影響を受けて悪化するのを高度に抑止することができ、良好な電磁波遮蔽特性を維持することができる。また、スペーサ層2は低誘電率の部材から形成されているので、アンテナ素子10と直接接触してもアンテナ素子10の周波数選択性にはほとんど影響を与えない。」
(4)図5
[図:0001422462000001.jpg]
2 甲4発明の認定
甲4に開示された、図5に示す第3実施形態の電磁波遮蔽材の使用方法として図9において説明されたもの(【0023】)を、甲4発明として認定する。
甲4に「図5に於て、図1と同一の符号は図1と同様の構成であるので説明を省略する。」(【0019】)と記載されているので、図5に示される第3実施形態の説明として、適宜、図1に示される第1実施形態の説明も参照する。
そうすると、甲4には、以下の甲4発明が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、甲4発明を符号4a~4lを付して分説し、「構成4a」のようにして参照する。
〈甲4発明〉
4a 電磁波遮蔽材の使用方法であって、(【0023】)
4b 電磁波遮蔽材は、無線LANの2.45GHzと5.2GHzとの2種類の周波数の電磁波を選択的に遮蔽し、それ以外の周波数の電磁波を透過させる通信環境に使用し、(【0020】)
4c 電磁波遮蔽材は、同一平面状に配設された多数個のアンテナ素子10を有する反射層1と、低誘電率のスペーサ層2とを、有し、(【0010】)
4d 反射層1は、シート状の基材3と、基材3の表て面(上面)に付着した極薄のアンテナ素子10とから成り、(【0011】)
4e 相似する大小2種類のアンテナ素子10a,10bを交互に配設し、第1アンテナ素子10aと第2アンテナ素子10bとで2種類の周波数の電磁波を選択的に反射し、それ以外の周波数の電磁波を透過させ、(【0019】)
4f アンテナ素子10は導電材料で形成され、導電材料としては、アルミニウム、銀、銅、金、白金、鉄が挙げられ、(【0014】)
4g 基材3の材料として、樹脂、紙、布が挙げられ、(【0014】)
4h アンテナ素子10は特定周波数の電磁波を選択的に反射するものであり、(【0011】)
4i 反射層1の両面に低誘電率のスペーサ層2,2が重ね合わされ、基材3の上面に多数個のアンテナ素子10が配設され、そのアンテナ素子10と基材3の上面に粘着層4を介してスペーサ層2が接着され、(【0017】)
4j スペーサ層2は、PEキューブが挙げられ、スペーサ層2の誘電率は1以上2以下に設定され、好ましくは誘電率が1に近い値がよく、(【0012】)
4k 壁パネル等の第1相手部材5の表面に、電磁波遮蔽材の一方のスペーサ層2を貼着し、表側のスペーサ層2はアンテナ素子10の保護層としての役割を果たす、(【0023】)
4l 電磁波遮蔽材の使用方法。
3 甲12の記載
甲12には以下の記載がある。
(1)「【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来技術における上記した問題点を解決しようとしてなされたものであって、その目的とするところは、透視性や周波数選択性を持たせることも可能であり、十分な電磁波遮蔽特性を安定して得ることができる電磁波遮蔽材及びその製造方法を提供することにある。」
(2)「【0015】本発明の電磁波遮蔽材は、例えば図1に示す様に、電気絶縁性の基材1上に、必要に応じて適宜の接着剤層2を介して、パターン状の金属箔層3が積層されて構成されるものである。そして、好ましくは、パターン状の金属箔層3上に、必要に応じて適宜の接着剤層4を介して、電気絶縁性の保護層5が積層される。なお、前記接着剤層2及び/又は4を使用する場合には、電気絶縁性の接着剤を使用すべきことは言うまでもない。」
(3)「【0019】上記金属箔層3は、所望の電磁波遮蔽性能を達成する為に、所定のパターン状に形成される。そのパターンとしては、例えば格子状、網状等が用いられる場合もあるが、周波数選択性を持たせる場合には、短絡型ダイポールアンテナ…(略)…のパターンが採用される。これは、…(略)…所定周波数帯に対する電波反射面を構成するものである。」
(4)「【0025】本発明の電磁波遮蔽材は、板状の基材1を使用したものは、そのまま窓材や壁材、天井材、床材、造作部材等として使用することができる。一方、シート状やフィルム状の基材1を使用したものは、窓面や壁面等にカーテン状乃至スクリーン状に着脱可能に張設して使用することもできるし、窓材や壁材等の表面又は裏面に接着剤や釘、鋲、螺子、粘着テープ等で貼着固定して使用することもできる。このうち後者の用途に供するものとしては、予め片面に粘着加工を施しておくと、施工現場での接着剤の塗工や釘打ち等の作業が不要となり、簡便且つ容易に施工可能であるので非常に好適である。」
(5)「【0030】本発明の電磁波遮蔽材は、透視性を目的としない場合には、適宜の着色や絵柄等を施すこともできる。また、該着色や絵柄として透明性の色材を使用したり、或いは不透明性の色材であってもドット状やストライプ状等のパターン状に設けたりすることによって、ある程度の透視性を確保しつつ着色や絵柄による意匠性を賦与することもできる。その他、パターン状の着色や絵柄において、表裏面で見当を合わせて異なる色又は絵柄を設けることによって、透視性を有しつつ表裏面に異なる色や絵柄を表示したり、視覚的効果による一方向透視性を得ることもできる。なお、着色や絵柄を施す箇所には特に制限はなく、例えば基材1や接着剤層2及び4、保護層5等が全て透明であれば、基材1の裏面又は表面、金属箔層3上、保護層5の裏面又は表面等から適宜選択される1箇所乃至複数箇所に設けることができる。」
(6)【図1】
[図:0001422462000002.jpg]
4 甲12技術の認定
前記3の記載によれば、甲12には、次の技術(以下「甲12」技術という。)が記載されている。後の参照の便宜のため、甲12発明を符号12a~12gを付して分説し、「構成12a」のようにして参照する。
〈甲12技術〉
12a 透視性を持たせることを目的とした電磁波遮蔽材であって、(【0009】)
12b 電磁波遮蔽材は、基材1上に、接着剤層2を介して、パターン状の金属箔層3が積層されて構成され、パターン状の金属箔層3上に、接着剤層4を介して、保護層5が積層され、(【0015】)
12c 金属箔層3は、短絡型ダイポールアンテナのパターンが採用され、これは、所定周波数帯に対する電波反射面を構成するものであり、(【0019】)
12d 電磁波遮蔽材は、そのまま窓材や壁材、天井材、床材、造作部材等として使用することができ、窓材や壁材等の表面又は裏面に接着剤や釘、鋲、螺子、粘着テープ等で貼着固定して使用することもでき、簡便且つ容易に施工可能であり、(【0025】)
12e 透視性を目的としない場合には、適宜の着色や絵柄等を施すこともでき、不透明性の色材であってもある程度の透視性を確保しつつ着色や絵柄による意匠性を賦与することもでき、(【0030】)
12f 着色や絵柄を施す箇所は、保護層5の表面に設けることができる、(【0030】)
12g 電磁波遮蔽材。
5 本件発明1と甲4発明との対比
本件発明1と、甲4発明、特に甲4発明において使用される「電磁波遮蔽材」(以下「甲4遮蔽材」という。)とを対比する。
(1)発明特定事項Dについて
事案に鑑み、先に発明特定事項Dを対比する。発明特定事項Dは、「ミリ波反射建装材。」というものである。
「建装材」とは、建築物の見た目を整えるための、化粧ボード、壁紙等のことをいうと解される。
甲4遮蔽材は、「壁パネル等の第1相手部材5の表面に」「貼着し、表側のスペーサ層2はアンテナ素子10の保護層としての役割を果たす」もの(構成4k)であるが、単に壁パネル等に貼着されるにとどまり、化粧ボードや壁紙として建築物の見た目を整える機能を発揮するものとは解されないため、これを建装材ということはできない。
他方、甲4遮蔽材は、「2種類の周波数の電磁波を選択的に反射し、それ以外の周波数の電磁波を透過させ」る(構成4e)ことで、「2.45GHzと5.2GHzとの2種類の周波数の電磁波を選択的に遮蔽し、それ以外の周波数の電磁波を透過させる」(構成4b)と解されるから、電磁波反射材であるといえる。
そうすると、本件発明1と甲4遮蔽材とは、「電磁波反射材」である点で共通するものの、本件発明1は「ミリ波反射建装材」であるのに対し、甲4遮蔽材は、建装材ではなく、反射する電磁波は、「2.45GHzと5.2GHzとの2種類の周波数の電磁波」である点で相違する。
(2)発明特定事項A1、Aについて
発明特定事項A1及びAは、「面状の誘電体と、」「を備え、」というものである。
甲4遮蔽材の「基材3」は、「材料として、樹脂、紙、布」を使用しており(構成4g)、これらの材料は誘電体である。
そして、甲4遮蔽材の「基材3」は、「シート状」である(構成4d)から、「面状」のものといえる。
そうすると、甲4遮蔽材の「基材3」は、本件発明1の「面状の誘電体」に相当し、本件発明1と甲4遮蔽材とは、「面状の誘電体」を「備え」る点で一致する。
(3)発明特定事項A2、Aについて
発明特定事項A2及びAは、「前記誘電体の第一面上に設けられ、形状の異なる複数の金属パターンを有するスーパーセルと、」「を備え、」というものである。
ア 本件明細書には、「本実施形態において、スーパーセル10は、大きさの異なる十字型の金属パターン11、12、13の三つの金属パターンを有しており、金属パターン11、12、13が一方向に並べて配置されている。金属パターンの形状や数、配置等は、図2に示した態様に限られず適宜設定でき、」(【0013】)との記載がある。
上記記載によれば、本件発明1の「スーパーセル」には、大きさの異なる複数の金属パターンを配置したものが含まれると解される。
イ 甲4遮蔽材の「同一平面状に配設された多数個のアンテナ素子10」(構成4c)は、「相似する大小2種類のアンテナ素子10a,10bを交互に配設し」たもの(構成4e)であって、導電材料である「アルミニウム、銀、銅、金、白金、鉄」(構成4f)すなわち金属であるから、前記アの解釈に基づけば、甲4遮蔽材の「多数個のアンテナ素子10」は、本件発明1の「スーパーセル10」に相当する。
また、甲4遮蔽材の「アンテナ素子10」すなわち「アンテナ素子10a」及び「アンテナ素子10b」は、本件発明1の「形状の異なる複数の金属パターン」に相当する。
そうすると、甲4遮蔽材の「多数個のアンテナ素子10」は、本件発明1の「形状の異なる複数の金属パターンを有するスーパーセル」に相当する。
ウ 甲4遮蔽材の「アンテナ素子10」は、「基材3の表て面(上面)に付着」するものであり(構成4d)、「表て面(上面)」を「第一面」と呼ぶことは任意であるから、甲4遮蔽材の「アンテナ素子10」は、「基材3」(前記(2)により本件発明1の「誘電体」に相当する。)の第一面上に設けられているといえる。
エ 以上によれば、本件発明1と甲4遮蔽材とは、「前記誘電体の第一面上に設けられ、形状の異なる複数の金属パターンを有するスーパーセル」を「備え」る点で一致する。
(4)発明特定事項A3、Aについて
発明特定事項A3及びAは、「オレフィン系材料を主成分とし、前記スーパーセルを覆うように配置された保護層と、」「を備え、」というものである。
甲4遮蔽材の「表側のスペーサ層2」は、「アンテナ素子10の保護層としての役割を果たす」(構成4k)から、本件発明1の「前記スーパーセルを覆うように配置された保護層」に相当する。
甲4遮蔽材の「スペーサ層2」は、「PEキューブ」(構成4j)すなわちポリエチレンのキューブであるから、本件発明1の「オレフィン系材料を主成分としている」「保護層」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲4遮蔽材とは、「オレフィン系材料を主成分とし、前記スーパーセルを覆うように配置された保護層」を「備え」る点で一致する。
(5)発明特定事項A4、Aについて
発明特定事項A4及びAは、「前記誘電体と前記保護層との間、および前記スーパーセルと前記保護層との間に位置する接着層と、」「を備え、」というものである。
甲4遮蔽材は、「反射層1の両面に低誘電率のスペーサ層2,2が重ね合わされ、基材3の上面に多数個のアンテナ素子10が配設され、そのアンテナ素子10と基材3の上面に粘着層4を介してスペーサ層2が接着され」る(構成4i、図5も参照)から、甲4遮蔽層の「粘着層4」は、「基材3」(本件発明1の「誘電体」に相当)と「表側のスペーサ層2」(本件発明1の「保護層」に相当)との間、及び「アンテナ素子10」(本件発明1の「スーパーセル」に相当)と「表側のスペーサ層2」との間に位置する。
そうすると、甲4遮蔽材の「粘着層4」は、本件発明1の「前記誘電体と前記保護層との間、および前記スーパーセルと前記保護層との間に位置する接着層」に相当し、本件発明1と甲4遮蔽材とは、「前記誘電体と前記保護層との間、および前記スーパーセルと前記保護層との間に位置する接着層」を「備え」る点で一致する。
(6)発明特定事項Bについて
発明特定事項Bは、「10GHzにおける前記保護層および前記接着層のトータルの誘電率が2.5以下であり、」というものである。
甲4遮蔽材において、「スペーサ層2の誘電率は1以上2以下に設定され、好ましくは誘電率が1に近い値がよ」い(構成4j)とされている。甲4遮蔽材の「スペーサ層2」の誘電率の値が、どの周波数における誘電率であるのかは明記がないものの、甲4遮蔽材が「2.45GHzと5.2GHzとの2種類の周波数の電磁波を選択的に遮蔽し、それ以外の周波数の電磁波を透過させる通信環境に使用し」(構成4b)、「2種類の周波数の電磁波を選択的に反射し、それ以外の周波数の電磁波を透過させ」る(構成4e)ことに鑑みると、前記誘電率は、2.45GHz及び5.2GHzにおける誘電率であると解するのが自然である。
ここで、甲4遮蔽材における「粘着層4」の材質及び誘電率は不明であるが、一般に接着のために用いられる粘着層は接着される部材によりもはるかに薄いため、甲4遮蔽材における「粘着層4」の誘電率は、無視できると評価される。
そうすると、本件発明1と甲4遮蔽材とは、「前記保護層および前記接着層のトータルの誘電率が2.5以下であ」る点で共通するものの、本件発明1の誘電率が「10GHzにおける」誘電率であるのに対し、甲4遮蔽材の誘電率が2.45GHz及び5.2GHzにおける誘電率である点で相違する。
(7)発明特定事項Cについて
発明特定事項Cは、「平面視において、前記保護層により前記スーパーセルが視認できなくなっている、」というものである。
甲4遮蔽材の「スペーサ層2」は「PEキューブ」であるが、該「PEキューブ」により「アンテナ素子10」が視認できなくなっているか否かは不明である。
(8)本件発明1と甲4発明との一致点・相違点
本件明細書の「建装材1の平面視においては、接着層40および保護層50がスーパーセル10を覆っていることによりスーパーセル10が視認できなくなっており、外観が良好に保たれている。」(【0019】)との記載によれば、本件発明の「ミリ波反射建装材」が建築物の見た目を整える機能を発揮する建装材として機能するのは、接着層及び保護層がスーパーセルを覆っていることによりスーパーセルが視認できなくなっていることに起因すると解される。
そうすると、「ミリ波反射建装材」であることを特定する発明特定事項Dに係る相違点と、「平面視において、前記保護層により前記スーパーセルが視認できなくなっている」ことを特定する発明特定事項Cに係る相違点とは、一体不可分なものとして判断することを要する。
以上によれば、本件発明1と甲4発明(甲4遮蔽材)との一致点及び相違点は、以下のとおりとなる。
〈一致点〉
「面状の誘電体と、
前記誘電体の第一面上に設けられ、形状の異なる複数の金属パターンを有するスーパーセルと、
オレフィン系材料を主成分とし、前記スーパーセルを覆うように配置された保護層と、
前記誘電体と前記保護層との間、および前記スーパーセルと前記保護層との間に位置する接着層と、
を備え、
前記保護層および前記接着層のトータルの誘電率が2.5以下である、
電磁波反射材。」である点。
〈相違点4-1〉
本件発明1は「平面視において、前記保護層により前記スーパーセルが視認できなくなっている」「ミリ波反射建装材」であるのに対し、甲4遮蔽材は、「スペーサ層2」(「PEキューブ」)により「アンテナ素子10」が視認できなくなっているか否かが不明であり、建装材ではなく、反射する電磁波は、「2.45GHzと5.2GHzとの2種類の周波数の電磁波」である点。(発明特定事項C、D)
〈相違点4-2〉
本件発明1の誘電率が「10GHzにおける」誘電率であるのに対し、甲4遮蔽材の誘電率が2.45GHz及び5.2GHzにおける誘電率である点(発明特定事項B)
(9)申立人の主張について
申立人の、本件発明1と甲4発明との対比に係る主張について、判断する。
ア 発明特定事項Bについて
申立人は、甲4における表側のスペーサ層2及び粘着層4のトータルの誘電率は実質的に1以上2以下であり、甲4の誘電率は2.45GHz及び5.2GHzの周波数の電磁波を用いたものであるが、技術常識からみて、誘電体の誘電率は周波数が増大するにしたがって低くなるから(甲9、甲10)、甲4における表側のスペーサ層2の10GHzにおける誘電率は2.45GHz及び5.2GHzにおけるものより小さい旨(申立書31頁)、主張する。
しかしながら、甲9には、テフロンAF1600及びテフロンAF2400の23℃での周波数と誘電率との関係が開示されているのみである。甲9には、甲4遮蔽材のスペーサ層2の材質であるPEキューブが同様の誘電分散を示すことについては、開示されていない。
また、甲10は、「上記目的を達成するために、…(略)…予め定めた共振条件を満たすように誘電率が変化する誘電体基板…(略)…を備える」(【0008】)ものであり、「一例として負の誘電率及び負の透磁率を有する所謂メタマテリアルで構成されている。」(【0028】)とされるから、甲10に開示された誘電分散が、甲4遮蔽材のスペーサ層2の材質であるPEキューブにも当てはまるとは認められない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
イ 発明特定事項Cについて
申立人は、甲4遮蔽材が建物の壁、天井等に使用される以上、アンテナ素子10が透けて見えることは技術常識からみて考えられないから、表側のスペーサ層2がアンテナ素子10を隠蔽するものであることは自明である上に、甲4【0002】の背景技術(甲12)には、「透明性を目的としない場合には、適宜着色や絵柄を施す」と記載されている旨(申立書32頁)、主張する。
しかしながら、甲4には、アンテナ素子10が視認できることにより、美観が損なわれる等、アンテナ素子10を視認できなくする必要性については何も記載されていないため、壁や天井等に使用する甲4遮蔽材において、アンテナ素子10が透けて見えないようにすることは、開示も示唆もされていない。
加えて、甲12技術は、「透視性を持たせることを目的とした電磁波遮蔽材」(構成12a)であり、「不透明性の色材であってもある程度の透視性を確保」する(構成12e)ものである。その他の甲12の記載を参照しても、保護層5を完全不透明にして金属箔層3が視認できないようにすることについては記載がない。
以上によれば、甲4遮蔽材の表側のスペーサ層2がアンテナ素子10を隠蔽するものであるという申立人の主張は採用できない。
ウ 発明特定事項Dについて
申立人は、甲4によれば、アンテナ素子10が5.2GHz等の特定周波数の電磁波を選択的に反射するものであることが記載されており、ミリ波反射材に相当し、また、甲4遮蔽材は、建物の壁、天井等に貼着して用いられるものであるから、「建装材」に相当する旨(申立書33頁)、主張する。
しかしながら、甲4遮蔽材が反射する2.45GHz及び5.2GHzの電磁波は、明らかにミリ波ではない。
加えて、前記(1)に示したように、甲4遮蔽材は、単に壁パネル等に貼着されるにとどまり、化粧ボードや壁紙として建築物の見た目を整える機能を発揮するものとは解されないため、これを建装材ということはできない。
また、甲4の「2枚の壁パネルの間や、壁面と壁紙との間等に本発明の電磁波遮蔽材を内装して良好な電磁波遮蔽特性を発揮することができる。」(【0025】との記載によれば、甲4遮蔽板によって見た目を整えることは想定されていないと解されるため、甲4遮蔽材が建装材でないことは明らかである。
したがって、申立人の主張は採用できない。
6 相違点4-1についての判断
相違点4-1は、保護層によりスーパーセル(金属パターン)が視認できなくなっているか否か、電磁波反射材が反射するものがミリ波であるか否か、及び、電磁波反射材が建装材であるか否かにおいての相違点であるから、
実質的な相違点と認められる。したがって、本件発明1は、甲4発明に対して新規性を有する。
そこで、相違点4-1に係る構成の容易想到性について、以下、判断する。
(1)以下のア~エに示すとおり、甲各号証には、保護層によりスーパーセル(金属パターン)が視認できない電磁波反射建装材について、開示も示唆もされていない。
ア 甲1の1について
甲1の1の日本語訳として、甲1の2を参照し、引用の際は日本語訳のみを示す。
甲1の1に「リフレクトアレイアンテナ106は、所定の入射角度(又は方向)においてBS102から信号を受け取り、この信号をUE104A~Hについて狙いが定められた1つ又は複数の指向性ビームとして反射している。」([0036])と記載されているように、甲1発明のリフレクトアレイアンテナは、電磁波反射材であると解される。
そして、甲1発明の動作周波数は、「約28GHz」である([0043])から、甲1のリフレクトアレイアンテナは、ミリ波反射材であると解される。
しかしながら、甲1の1には、リフレクトアレイアンテナを建装材として用いることについて、開示も示唆もない。
甲1の1には、「無線カバレージは、構造物(例えば、屋根、壁、柱、窓、など)の表面上においてリフレクトアレイアンテナを設置することにより、LOSゾーンの外側のユーザーについて大幅に改善することができる。図20に描かれているように、リフレクトアレイアンテナ2010及び2012は、スタジアム2030の個別の場所において配置されている。例えば、それぞれのリフレクトアレイアンテナは、ルーフラインのエッジ上において配置することができる。」([0092])との記載があり、当該記載によれば、リフレクトアレイアンテナが屋根、壁、柱、窓、ルーフラインのエッジ上に設置されることが理解できるが、それにより建築物の見た目を整えているとは記載されておらず、FIG.20(下掲)を参照しても、リフレクトアレイアンテナ2010及び2012が建築物の見た目を整えていると認めることはできない。甲1の1のその余の記載を参照しても同様である。
[図:0001422462000003.jpg]
イ 甲5について
甲5には、「本件電磁波吸収体1は、既存の電磁波吸収体よりも薄く、かつ軽くなっているため、その構成上室内建材と組み合わせることができるという効果がある。たとえば表面層の表面層6をビニールクロスや合板材などの木材、既存の壁材、床材、天井材、さらに什器、家具、デスクのボード、パネル、表面材などに置き換えることで、容易に室内壁面材や床材など電磁波吸収可能な機能的な建材を構成でき、かつ複数の周波数に対して選択的な電磁波吸収性を付与できるという効果がある。」(【0169】)との記載があり、電磁波吸収体を室内壁面材としての建装材として構成することが開示されている。
しかしながら、甲5の電磁波吸収体1は、「このように電磁波吸収体1では、パターン層5によって、各導電性パターン19,30,31の共振周波数の電磁波を、効率よく受信することができる。…(略)…言い換えるならば電磁波のエネルギを熱エネルギに変換して吸収することができる。このようにパターン層5を用いることによって電磁波を効率よく受信して吸収することができる。」(【0071】)との記載から明らかなように、電磁波を吸収するものであって、電磁波を反射するものではない。
そうすると、甲5は、電磁波反射材とは全く作用の異なる電磁波吸収体を建装材とすることを開示するにとどまり、電磁波反射材を建装材とすることについては、開示も示唆もしていない。
ウ 甲12について
甲12技術は、「そのまま窓材や壁材、天井材、床材、造作部材等として使用することができ、窓材や壁材等の表面又は裏面に接着剤や釘、鋲、螺子、粘着テープ等で貼着固定して使用することもでき、簡便且つ容易に施工可能であ」る(構成12d)から、建装材として使用することが示唆されていると認められる。
しかしながら、前記5(9)イでも触れたとおり、甲12技術は、「透視性を持たせることを目的とした電磁波遮蔽材」(構成12a)であり、「不透明性の色材であってもある程度の透視性を確保」する(構成12e)ものである。甲12のその余の記載を参照しても、保護層5を完全不透明にして金属箔層3が視認できないようにすることについては記載も示唆もない。
そうすると、甲12は、ある程度の透明性が確保される電磁波反射建装材を開示するにとどまるのであって、本件発明1のような保護層によりスーパーセル(金属パターン)が視認できない電磁波反射建装材については、開示も示唆もしていない。
エ その他の甲号証について
その他の甲号証を参照しても、保護層によりスーパーセル(金属パターン)が視認できなくなっている電磁波反射建装材は、開示されていない。
(2)保護層により前記スーパーセル(金属パターン)が視認できなくなっている電磁波反射建装材は、技術常識であるとも認められないから、前記(1)も合わせると、当業者といえども、甲4遮蔽材を、「アンテナ素子10」が視認できない電磁波反射建装材とすることには想到し得なかったと認められる。
(3)申立人は、以下の根拠A~Cを根拠として、発明特定事項Cに係る構成は、当業者が適宜採用し得る設計的事項に過ぎない旨、主張する。(申立書33~35頁)
根拠A 甲4に、甲4遮蔽材が壁、天井等の建築物に用いられることが記載されていること
根拠B 甲4の背景技術(甲12)に透視性を目的としない場合には、適宜着色や絵柄を施すことが記載されていること
根拠C 甲5には、電磁波吸収体において、表面層に意匠性を付与することにより下部層を視認できなくすることが記載されていること
しかしながら、申立人の主張は、相違点4-1に係る構成のうち、発明特定事項Dに係る相違点を無視して発明特定事項Cについてのみ論じている点で、失当である。
加えて、根拠Aについては、前記5(1)でも触れたとおり、甲4には、甲4遮蔽材は建築物の見た目を整えるものとは解されないし、そのようなことを開示も示唆もしていない。
また、根拠Bについては、前記(1)ウのとおりであり、根拠Cについては、前記(1)イのとおりである。
したがって、申立人の主張は採用できない。
7 本件発明1についての小括
前記6のとおり、甲各号証のいずれにも、保護材によりスーパーセル(金属パターン)が視認できない電磁波反射建装材は開示も示唆もされていないから、当業者は相違点4-1に係る構成に到達し得ない。
これは、甲1発明がミリ波を反射する電磁波反射材であることにより左右されない。
したがって、本件発明1は、甲4発明とは同一ではなく、かつ、当業者が甲4発明に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
8 本件発明2~7について
本件発明2~7は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、さらに別の発明特定事項を有するものであるから、本件発明2~7と甲4発明とを対比すると、少なくとも相違点4-1について相違する。
そうすると、本件発明1と同様に、本件発明2~7は、甲4発明とは同一ではなく、かつ、当業者が甲4発明に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
9 理由2、申立理由2についての小括
前記7及び8よれば、本件発明は、いずれも、甲4発明とは同一ではなく、かつ、当業者が甲4発明に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、理由2及び申立理由2には、理由がない。
第7 申立理由1についての判断
本件発明の甲1発明に対する進歩性の有無(申立理由1)について判断する。
1 前記第6、6(1)アのとおり、甲1の1には、ミリ波反射材であるリフレクトアレイアンテナが開示されるが、該リフレクトアレイアンテナを建装材とすることについて、開示も示唆もない。
2 甲1の1には、リフレクトアレイアンテナの積層構成([0045])としてFIG.5A(甲1の2による翻訳図を下掲)が開示されている。
[図:0001422462000004.jpg]
甲1の1には、「リフレクトアレイアンテナ」の「上層502」(本件発明1の「保護層」に相当)が、「導電層506」(本件発明の「スーパーセル」に相当)を視認できなくすることについては記載がない。
この点について、申立人は、甲1発明の上層502の材料として用いられているROHACELL HF71は発泡体であって白色不透明であることから(甲14)、甲1発明は、上層502により導電層506が視認できない旨(申立書19~20頁)、主張する。
しかしながら、甲14は、ROHACELL HF71が、ポリメタクリルイミド(PMI)をベースとするPMIフォーム(PMI発泡体)であることを示しているにすぎず、その不透明度がどの程度であるのかについては何も示していない。
したがって、甲14を参照しても、甲1発明の上層502を通して導電層506が視認できるか否かは不明であるため、申立人の主張は採用できない。
3 前記1及び2によれば、本件発明は「平面視において、前記保護層により前記スーパーセルが視認できなくなっている」「ミリ波反射建装材」であるのに対し、甲1発明は、「上層502」により「導電層506」が視認できなくなっているか否かが不明であり、かつ、建装材ではない点で、少なくとも相違する。
上記相違点は、前記第6、5(8)に示した相違点4-1と同様であるが、甲1発明がミリ波を反射するミリ波反射材である点は一致点となる。
そして、前記第6、6の相違点4-1の判断は、前記第6、7のとおり、甲1発明がミリ波を反射する電磁波反射材であることにより左右されない。
そうすると、相違点4-1についての判断と同様に、本件発明と甲1発明との相違点も、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。
4 申立人の上記相違点に係る主張ついて、判断する。
(1)申立人は、甲1発明の上層502の材料として用いられるROHACELL HF71は、甲14によれば発泡体であって白色透明であることから、甲1発明では、上層502により導電層506が視認できない旨(申立書19~20頁)、主張する。
しかしながら、前記2に示したように、甲14はROHACELL HF71の不透明度がどの程度であるのかについて何も示していないため、上層502により導電層506が視認できないか否かは不明であり、申立人の主張は採用できない。
(2)申立人は、「建装材」とは、構造物に取り付けられ、スーパーセルを視認できなくすることにより外観を良好にする材料を意味すると解され、甲1発明は、構造物の壁等の表面に設置され、導電層506を視認できなくするものであるから、「建装材」に相当する旨(申立書20頁)、主張する。
しかしながら、前記(1)のとおり、導電層506が視認できないか否かは不明であるから、申立人の主張は採用できない。
5 申立理由1についての小括
以上によれば、本件発明は、いずれも、当業者が甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、申立理由1には、理由がない。
第8 申立理由3についての判断
本件発明の明確性について、申立人は、以下の3-1~3-3(再掲)を主張するところ、これらについての当審の判断を以下の1~3に示し、以下の4において申立理由3について小括する。
3-1 本件発明の「ミリ波」の定義が不明確である。
3-2 本件発明の「トータル誘電率」の定義及び測定方法が不明確である。
3-3 本件発明5の「表面ヘイズ」の測定方法が不明確である。
1 ミリ波について
発明の詳細な説明には「28GHz帯のミリ波」(【0027】)との記載があり、本件発明における「ミリ波」が28GHz帯を含むことは明らかである。
これに関し、国際的な移動通信システムの標準化団体である3GPPにおいて、2018年6月に策定が完了した第5世代移動通信システム(5G)に関する標準仕様であるRelease 15では、28GHz帯であるn258等の周波数帯が規定されており、当該28GHz帯がmmW (millimeter Wave:ミリ波)と呼び習わされていることは、文献を挙げるまでもなく周知の事項である。
よって、本件発明における「ミリ波」は、学術的に定義された30~300GHzだけでなく、28GHz帯をも包含すると解される。
申立人は、一般に、「ミリ波」は30~300GHzを意味すると考えられるが、他方で、10GHzにおける誘電率を特定しており、本件発明における「ミリ波」はどの周波数を意味するのか不明確であり、また、10GHzにおける誘電率とどのような関係にあるのか不明確である旨(申立書37頁)、主張する。
しかしながら、本件発明における「ミリ波」は、「ミリ波反射建装材」として反射する周波数帯として特定されるものであって、当該建装材を構成する材料(保護層及び接着層)の誘電率が10GHzにおける誘電率として特定されることは、反射する周波数帯を10GHzに特定するものではないと解される。
よって、申立人の主張は採用できず、本件発明の「ミリ波」は明確であると認められる。
2 トータル誘電率について
誘電率は、電場を与えたときの誘電分極の度合いと理解され、誘電率の実際の求め方がどのようなものであるかは、前記理解を左右しない。
申立人は、技術常識からみて、複数層からなる誘電体の誘電率は、相互の影響を受ける可能性があるが、本件発明における「トータル誘電率」とは、各層毎の誘電率から計算されたものなのか、複数層の誘電率を測定装置により測定したものなのか不明瞭である旨(申立書37頁)、主張するが、上述のとおり、誘電率の実際の求め方は、誘電率の理解を左右せず、また、誘電率の求め方は、本件発明の発明特定事項ではないので、申立人の主張は採用できず、本件発明の「前記保護層および前記接着層のトータルの誘電率」は明確であると認められる。
3 表面ヘイズについて
「ヘイズ」は、全光線透過率の中の拡散光成分の割合を指すと解されるところ、「表面ヘイズ」は、全光線透過率の中の表面における拡散光成分の割合を指すと理解される。そして、「表面ヘイズ」の実際の測定方法がどのようなものであるかは、前記理解を左右しない。
申立人は、一般的に、ヘイズの測定方法に対応する規格として、例えばJISK7136が用いられるが、「表面ヘイズ」のみを切り分けて測定する手法については定型方法がなく、どのように測定した数値なのか不明確である旨(申立書37頁)、主張する。
しかしながら、例えば、本件発明5の実施例2においては、「接着層および樹脂フィルムの積層を2度行ってから実施例1と同様の加熱および加圧を行った。さらに、最上層の樹脂フィルムの上面に、…(略)…サンドブラストを施し、」(【0031】)との記載によれば、サンドブラスト処理前の試料とサンドブラスト処理後の試料をそれぞれ入手可能であるから、サンドブラスト処理前のヘイズとサンドブラスト処理後のヘイズとから、サンドブラスト処理によって生じた表面ヘイズを得ることは可能と推察される。
また、表面ヘイズの測定方法は、本件発明5の発明特定事項ではない。
したがって、申立人の主張は採用できず、本件発明5の「表面ヘイズ」は明確であると認められる。
4 申立理由3についての小括
前記1~3のとおり、申立人が主張する点は、不明確ではない。
そして、本件発明に、他に不明確な点はない。
よって、申立理由3には、理由がない。
第9 申立理由4についての判断
本件発明のサポート要件について、申立人は、以下の4-1~4-3(再掲)を主張するところ、これらについての当審の判断を以下の1及び2に示し、以下の3において申立理由4について小括する。
4-1 本件発明は「ミリ波」との発明特定事項を備え、一般的に、「ミリ波」は30~300GHzを意味すると考えられるが、発明の詳細な説明には「28GHz帯のミリ波」と記載され、両者は矛盾している。
4-2 本件発明は保護層の厚みを特定していないが、発明の詳細な説明には、保護層の厚みが100μm及び400μmの場合に良好な反射特性が得られたことしか記載されておらず、本件発明は発明の課題を解決しない態様を包含している。
4-3 本件発明は、保護層の構造を特定していないが、発明の詳細な説明には、保護層の厚みが400μmで多孔質のポリオレフィンフィルム(実施例1)、厚みが100μmでサンドブラスト処理したシクロオレフィンフィルム(実施例2)で良好な反射特性が得られたことしか記載されておらず、多孔質でない又はサンドブラスト処理されていないオレフィン系フィルムで良好な反射特性が得られるか否か不明である。
1 4-1について
前記第8、1に示したように、5Gで28GHz帯をミリ波と呼び習わしていることに鑑みれば、本件発明の「ミリ波」が28GHz帯を包含すると解することに矛盾はない。
よって、申立人の4-1の主張は採用できない。
2 4-2、4-3について
電磁波の反射特性は保護層が薄い程良いと予想され、不透明度は保護層が厚い程良いと予想されるところ、本件の発明の詳細な説明は、トータルの誘電率を2.3(2.5以下)とした上で、「ポリオレフィンを主材とする厚さ400μmの多孔質フィルム」(【0028】、実施例1)及び「シクロオレフィンポリマーを主材とする厚さ100μmの樹脂フィルム」を2枚積層し最上層の樹脂フィルムに「サンドブラストを施し」たもの(【0031】、実施例2)において、外観及び反射特性のいずれも良好であることが確認できたこと(【0040】)が示されているのだから、外観及び反射特性が良好である範囲において、フィルム(保護層)の厚さを調整可能なことは、明らかである。また、保護層の材料を変えたところで、保護層の厚さを適宜調整すれば、本件発明が解決しようとする課題を解決できるであろうことは、予測可能である。
よって、申立人の4-2及び4-3の主張は採用できない。
3 申立理由4についての小括
前記1及び2のとおり、申立人が主張する点は、サポート要件に違反するものではない。
そして、本件発明に、他にサポート要件に違反する点はない。
よって、申立理由4には、理由がない。
第10 申立理由5についての判断
本件発明の実施可能要件について、申立人は、以下の5-1及び5-2(再掲)を主張するところ、これらについての当審の判断を以下の1及び2に示し、以下の3において申立理由5について小括する。
5-1 本件発明の「トータル誘電率」の測定方法が、発明の詳細な説明において当業者に実施できる程度に記載されていない。
5-2 本件発明の「表面ヘイズ」の測定方法が、発明の詳細な説明において当業者に実施できる程度に記載されていない。
1 トータル誘電率について
前記5-1について、申立人は、発明の詳細な説明に記載されたスプリットシリンダ共振器(【0028】)は、2枚の板の間に試料を挟んで測定するが、接着層は2枚の板を接着してしまい装置を破損してしまうことから、接着層を測定することはできず、接着層を別のフィルムで挟んで測定する場合、フィルムと接着層の積層構造となり、接着層自体の誘電率を測定することができないので、本件発明の「トータル誘電率」は、その測定方法が当業者に実施できる程度に記載されているとはいえない旨(申立書39頁)、主張する。
しかしながら、以下に示すとおり、申立人の主張は採用できない。
一般に、接着剤は、硬化前には流動性があり、これを接着面に塗布して接着面同士を接触させた後、接着剤が硬化することにより、接着面同士が接着するものである。
本件発明の実施例においても、当然、接着剤を硬化させて接着していると解され、本件発明における「前記保護層および前記接着層のトータルの誘電率」は、接着層が硬化した後の値であると解される。
そうすると、スプリットシリンダ共振器による測定であっても、接着剤の硬化後の試料を挟むことになるから、装置を破損することはない。
よって、申立人の主張は採用できない。
2 表面ヘイズについて
前記5-2について、申立人は、発明の詳細な説明には表面ヘイズの測定方法が記載されておらず、一般的に、ヘイズの測定方法に対応する規格として、例えばJISK7136が用いられているが、表面ヘイズのみを切り分けて測定する手法については記載がなく、どのように測定した数値なのか、当業者が実施できる程度に記載されていると言えない旨(申立書39頁)、主張する。
しかしながら、前記第8、3に示したように、サンドブラスト処理前のヘイズとサンドブラスト処理後のヘイズとから、サンドブラスト処理によって生じた表面ヘイズを得ることは可能と推察されるから、申立人の主張は採用できない。
3 申立理由5についての小括
前記1及び2のとおり、申立人が主張する点は、実施可能要件に違反するものではない。
そして、本件の発明の詳細な説明に、他に実施可能要件に違反する点はない。
よって、申立理由5には、理由がない。
第11 むすび
前記第5~第10によれば、取消理由通知書で通知した取消理由(理由1、2)及び特許異議申立書に記載された申立理由(申立理由1~5)によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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