特許異議申立
2024-700412
保護フィルム付き光透過性フィルムおよび保護フィルム
- 審判番号
- 2024-700412
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-254127外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7375288
- 請求日
- 2024年04月30日
- 審決日
- 2024年12月26日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.113-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第113条、特許法第36条、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7375288号発明「保護フィルム付き光透過性フィルムおよび保護フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7375288号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7375288号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7375288号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願(特願2017-254127号)は、平成29年12月28日の出願であって、令和5年10月30日にその特許権の設定登録がされ、令和5年11月8日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報発行の日から6月以内である令和6年4月30日に特許異議申立人 浅野 幸義(以下「異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和6年 9月 3日付け:取消理由通知書
令和6年11月 5日 :意見書の提出(特許権者)
令和6年11月 5日 :訂正請求書の提出(この訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。)
令和6年12月 4日 :意見書の提出(異議申立人)
第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
(1)訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第7375288号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求める、というものである。
(2)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。
なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。
特許請求の範囲の請求項1に、「少なくとも樹脂基材を備える折り畳み可能な光透過性フィルムと、前記光透過性フィルムの両面に剥離可能に貼り付けられた保護フィルムとを備える保護フィルム付き光透過性フィルムであって、
前記樹脂基材が、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、またはこれらの混合物からなる基材であり、
前記保護フィルムの厚みが、それぞれ30μm以上であり、
前記保護フィルムのヘイズ値が、それぞれ3%以下である、保護フィルム付き光透過性フィルム。」とあるのを、
「少なくとも樹脂基材を備える折り畳み可能な光透過性フィルムと、前記光透過性フィルムの両面に剥離可能に貼り付けられた保護フィルムとを備える保護フィルム付き光透過性フィルムであって、
前記樹脂基材が、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、またはこれらの混合物からなる基材であり、
前記保護フィルムの厚みが、それぞれ30μm以上であり、
前記保護フィルムのヘイズ値が、それぞれ3%以下であり、
前記光透過性フィルムから全ての前記保護フィルムを剥離した状態で、前記光透過性フィルムに対し前記光透過性フィルムの対向する辺部の間隔が30mmとなるように180°折り畳む試験を10万回繰り返し行った場合に前記光透過性フィルムに割れまたは破断が生じない、保護フィルム付き光透過性フィルム。」に訂正する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~5についても、同様に訂正する。
2 訂正の適否
(1)一群の請求項
請求項2~5は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、上記訂正事項によって連動して訂正される関係にあることから、請求項1~5は、特許法施行規則45条の4に規定される一群の請求項を形成するといえる。
したがって、本件訂正に係る訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である請求項1~5に対してされたものである。
(2)訂正の目的の適否
上記訂正事項に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「折り畳み可能な光透過性フィルム」について、「前記光透過性フィルムから全ての前記保護フィルムを剥離した状態で、前記光透過性フィルムに対し前記光透過性フィルムの対向する辺部の間隔が30mmとなるように180°折り畳む試験を10万回繰り返し行った場合に前記光透過性フィルムに割れまたは破断が生じない」と限定するものである。
したがって、上記訂正事項に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
請求項2~5についてみても、同じである。
(3)新規事項の有無
本件特許の願書に添付した明細書の【0022】~【0025】には、「折り畳み可能な光透過性フィルム」について、それぞれ、「光透過性フィルム20に対し次に説明する折り畳み試験(連続折り畳み試験)を10万回繰り返し行った場合であっても、光透過性フィルム20に割れまたは破断が生じないこと」、「光透過性フィルム20の連続折り畳み試験は、保護フィルム30、40を剥離した状態で行うものとする」、「固定部50を互いに近接するように移動させることで、光透過性フィルム20を折り畳むように変形させ、・・・光透過性フィルム20の固定部50で固定された対向する2つの辺部の間隔が30mmとなる位置まで固定部50を移動させた後、固定部50を逆方向に移動させて光透過性フィルム20の変形を解消させる」、及び「光透過性フィルム20においては、光透過性フィルム20の対向する辺部の間隔が30mmとなるように180°折り畳む試験を10万回繰り返し行った場合に割れまたは破断が生じないことが好ましい」と記載されている。また、本件特許の願書に添付した明細書の【0222】にも同様のことが記載されている。
したがって、上記訂正事項に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
請求項2~5についてみても、同じである。
(4)特許請求の範囲の拡張、変更の存否
上記訂正事項は、上記(2)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、これらの訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。
よって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。
請求項2~5についてみても、同じである。
(5)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明(以下、項番に従って「本件特許発明1」などといい、これらの発明を総称して「本件特許発明」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、次のものである。
「【請求項1】
少なくとも樹脂基材を備える折り畳み可能な光透過性フィルムと、前記光透過性フィルムの両面に剥離可能に貼り付けられた保護フィルムとを備える保護フィルム付き光透過性フィルムであって、
前記樹脂基材が、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、またはこれらの混合物からなる基材であり、
前記保護フィルムの厚みが、それぞれ30μm以上であり、
前記保護フィルムのヘイズ値が、それぞれ3%以下であり、
前記光透過性フィルムから全ての前記保護フィルムを剥離した状態で、前記光透過性フィルムに対し前記光透過性フィルムの対向する辺部の間隔が30mmとなるように180°折り畳む試験を10万回繰り返し行った場合に前記光透過性フィルムに割れまたは破断が生じない、保護フィルム付き光透過性フィルム。
【請求項2】
前記樹脂基材の第1の表面が前記光透過性フィルムの第1の表面をなし、一方の前記保護フィルムが、前記樹脂基材の前記第1の表面に剥離可能に貼り付けられている、請求項1に記載の保護フィルム付き光透過性フィルム。
【請求項3】
前記光透過性フィルムが、前記樹脂基材の少なくとも片面に設けられた樹脂層をさらに備える、請求項1または2に記載の保護フィルム付き光透過性フィルム。
【請求項4】
前記保護フィルムが、それぞれ、ポリエステル系樹脂からなる基材フィルムと、前記基材フィルムにおける前記光透過性フィルム側の面に設けられた粘着層とを備えており、前記光透過性フィルムが前記樹脂基材からなる単層構造である、請求項1または2に記載の保護フィルム付き光透過性フィルム。
【請求項5】
前記保護フィルム付き光透過性フィルムが、ロール状に巻回されている、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の保護フィルム付き光透過性フィルム。」
第4 取消しの理由及び特許異議の申立ての理由の概要
1 当合議体が通知した取消しの理由
令和6年9月3日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由は、概略、以下のとおりである。
理由:(進歩性)本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
なお、令和6年9月3日付け取消理由通知書は、本件訂正請求により訂正する前の本件特許の請求項1~5に係る発明に対してなされたものである。
2 当合議体が取消理由通知において採用しなかった申立ての理由
特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由のうち当合議体が採用しなかった理由は、概略、以下のとおりである。
理由1:(新規性)本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない。
理由3:(実施可能要件)本件特許の下記の請求項に係る発明は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由4:(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~5の記載が、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件特許は、特許法113条2号又は4号に該当し、取り消されるべきものである。
なお、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由は、本件訂正請求により訂正する前の本件特許の請求項1~5に係る発明に対してなされたものである。
3 特許異議申立人が提示した証拠方法
甲第1号証:特開2004-94012号(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開2017-110108号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2000-171632号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:特開2005-326598公報(以下「甲4」という。)
甲第5号証:特開2010-72521公報(以下「甲5」という。)
なお、令和6年9月3日付け取消理由通知書において、甲1~2は、主引用例であり、甲3~5は、周知技術を示す文献である。
また、取消理由で通知しなかった申立ての理由1において、甲1は、主引用例である。
第5 当合議体が通知した取消しの理由についての判断
1 甲1を主引用例とした場合
(1)甲1の記載
取消理由で引用された甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体が付した。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材フィルムの表面に粘着層を形成してなる光学フィルム用表面保護フィルムであって、光透過率が85%以上、且つ、ヘイズ値が3.5%以下であることを特徴とする光学フィルム用表面保護フィルム。
・・・省略・・・
【請求項4】
光学フィルムに、請求項1~3のいずれかに記載の表面保護フィルムが貼付されている表面保護フィルム付き光学フィルム。
・・・省略・・・
【請求項5】
画像表示装置に、請求項1~3のいずれかに記載の表面保護フィルムが貼付されている表面保護フィルム付き画像表示装置。」
イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学フィルム用表面保護フィルムに関する。本発明の光学フィルム用表面保護フィルムは、偏光板、位相差板等の各種光学フィルム表面の保護に用いられる。また、光学フィルムを最表面に有する液晶表示パネル表面に貼着することによって液晶表示装置等、その他に有機EL表示装置、PDP等の各種の画像表示装置の保護に用いられる。
・・・省略・・・
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、光学フィルムに貼り合わせた状態においても光学検査が可能な光学フィルム用表面保護フィルムを提供することを目的とする。さらに帯電防止効果にも優れた光学フィルム用表面保護フィルムを提供することを目的とする。また本発明は、前記保護フィルムが貼付されている、保護フィルム付き光学フィルム、保護フィルム付き画像表示装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す光学フィルム用表面保護フィルムを用いることにより前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、透明基材フィルムの表面に粘着層を形成してなる光学フィルム用表面保護フィルムであって、光透過率が85%以上、且つ、ヘイズ値が3.5%以下であることを特徴とする光学フィルム用表面保護フィルム、に関する。
【0008】
上記光透過率が85%以上、且つ、ヘイズ値が3.5%以下である表面保護フィルムは透明性が高く、偏光板等の光学フィルムの表面に該保護フィルムを貼付したまま光学検査を行うことができる。そのため検査時に一旦表面保護フィルム剥離し、検査終了後に再度貼付するという工程を省略することができ、作業の効率化、低コスト化を図ることができる。
・・・省略・・・
【0011】
また本発明は、光学フィルムに、前記表面保護フィルムが貼付されている、表面保護フィルム付き光学フィルム、に関する。さらには本発明は、画像表示装置に、前記表面保護フィルムが貼付されている、表面保護フィルム付き画像表示装置、に関する。」
ウ 「【0012】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の光学フィルム用表面保護フィルム(以下、単に表面保護フィルムともいう)を図面を参照しながら説明する。図1は、透明基材フィルム1の片面に粘着層2を有する表面保護フィルムの断面図である。図2は、前記表面保護フィルムを光学フィルム3に貼り合わせた状態を示す断面図である。図3は、透明基材フィルム1の片面に粘着層2、他の片面に導電層4を有する表面保護フィルムを光学フィルム3に貼り合わせた状態を示す断面図である。なお、本発明の表面保護フィルムは、偏光板(フィルム)、位相差板(フィルム)等の各種光学機能を有する光学フィルム単体の表面保護用途の他、これらを構成材料とする液晶表示装置の各種画像表示装置の表面保護用途にも適用される。
【0013】
本発明の表面保護フィルムの透明基材フィルムとしては、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性、等方性などに優れるものが好ましい。透明基材フィルムの材料としては、例えばポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロースやトリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマーなどがあげられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロ系ないしはノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体の如きポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、または前記ポリマーのブレンド物なども前記透明基材フィルムを形成するポリマーの例としてあげられる。
・・・省略・・・
【0015】
透明基材フィルムの厚さは、特に制限されないが、3~300μm程度が好ましく、特に10~100μm程度とするのが好ましい。
【0016】
透明基材フィルムの表面に形成される粘着層を構成する粘着剤としては、通常用いられる再剥離用粘着剤(アクリル系、ゴム系、合成ゴム系等)を特に制限なく使用できる。なかでも接着性、加工性、耐久性等に優れ、組成により粘着力をコントロールし易いアクリル系粘着剤が好ましい。なお、粘着層は架橋剤により架橋されていることが好ましい。
・・・省略・・・
【0025】
粘着層の厚みは、特に制限されないが、3~100μm程度が好ましく、5~40μm程度がより好ましい。
・・・省略・・・
【0033】
本発明の表面保護フィルムは、光透過率が85%以上で、且つ、ヘイズ値が3.5%以下であることを特徴とする。好ましくは光透過率が88%以上であり、ヘイズ値が2.5%以下である。光透過率が85%より小さい場合、ヘイズ値が3.5%より大きい場合には透明性が不十分になり偏光板等の光学的評価の検査に支障が生じる。
・・・省略・・・
【0035】
本発明の表面保護フィルムを貼付する光学フィルムとしては液晶表示装置等の形成に用いられるものが使用され、その種類は特に制限されない。たとえば、光学フィルムとしては偏光板の他に楕円偏光板、光学補償機能を有する偏光板、視角拡大機能を有する偏光板、輝度向上機能を有する偏光板などが挙げられる。これらは偏光板に位相差フィルム、光学補償フィルム、輝度向上フィルムまたは防眩シート等が積層されている。
【0036】
偏光板を構成する偏光子としては、特に制限されず、各種のものを使用できる。偏光子としては、たとえば、ポリビニルアルコール系フィルムや部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルムの如き親水性高分子フィルムにヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物の如きポリエン系配向フィルム等があげられる。偏光子の厚さも特に制限されないが、5~80μm程度が一般的である。
【0037】
前記偏光子の片面または両面には、透明保護層を耐水性等の目的で、ポリマーによる塗布層として、またはフィルムのラミネート層等として設ることができる。透明保護層を形成する、透明ポリマーまたはフィルム材料としては、適宜な透明材料を用いうるが、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮断性などに優れるものが好ましく用いられる。透明保護層の厚さは特に制限されないが、10~300μm程度が一般的である。
【0038】
前記透明保護層を形成する材料としては、例えばポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、二酢酸セルロースや三酢酸セルロース等のセルロース系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマーなどがあげられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロ系ないしはノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体の如きポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、あるいは前記ポリマーのブレンド物なども前記透明保護層を形成するポリマーの例としてあげられる。また、透明保護層を形成する材料としては、(A)側鎖に置換および/または非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と、(B)側鎖に置換および/または非置換フェニル基およびニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有してなるものを使用する。かかる熱可塑性樹脂(A)、(B)を含有する保護フィルムは、例えば、WO01/37007に記載されている。なお、保護フィルムは、熱可塑性樹脂(A)、(B)を主成分とする場合にも他の樹脂を含有することもできる。
【0039】
位相差フィルムとしては、高分子素材を一軸または二軸延伸処理してなる複屈折性フィルムや液晶ポリマーフィルムなどがあげられる。位相差フィルムの厚さも特に制限されないが、20~150μm程度が一般的である。位相差フィルムは、二層以上の延伸フィルムの重畳体などとして形成して位相差等の光学特性を制御したものとして形成することもでき、着色防止や視角範囲の拡大等を目的に液晶セルの位相差を補償するためなどに偏光板と積層してなる楕円偏光板として用いることもできる。
【0040】
高分子素材としては、たとえば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルビニルエーテル、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリアリルスルホン、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、セルロース系重合体、またはこれらの二元系、三元系各種共重合体、グラフト共重合体、ブレンド物などがあげられる。これら高分子素材は延伸等により配向物(延伸フィルム)となる。
【0041】
液晶性ポリマーとしては、たとえば、液晶配向性を付与する共役性の直線状原子団(メソゲン)がポリマーの主鎖や側鎖に導入された主鎖型や側鎖型の各種のものなどがあげられる。主鎖型の液晶性ポリマーの具体例としては、屈曲性を付与するスペーサ部でメソゲン基を結合した構造の、例えばネマチック配向性のポリエステル系液晶性ポリマー、ディスコティックポリマーやコレステリックポリマーなどがあげられる。側鎖型の液晶性ポリマーの具体例としては、ポリシロキサン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート又はポリマロネートを主鎖骨格とし、側鎖として共役性の原子団からなるスペーサ部を介してネマチック配向付与性のパラ置換環状化合物単位からなるメソゲン部を有するものなどがあげられる。これら液晶性ポリマーは、たとえば、ガラス板上に形成したポリイミドやポリビニルアルコール等の薄膜の表面をラビング処理したもの、酸化珪素を斜方蒸着したものなどの配向処理面上に液晶性ポリマーの溶液を展開して熱処理することにより行われる。」
エ 「【0043】
【実施例】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、光透過率、ヘイズ値、表面抵抗率、及び表面視認性については下記の方法により測定、または評価した。
【0044】
実施例1
透明基材フィルムとして厚さ38μmのポリエステルフィルム(東レ社製、ルミラーT60)上に、酸化錫・酸化アンチモン複合酸化物からなる導電層組成物をバーコーターを用いて塗布し、100℃で1分間乾燥させて、厚さ0.08μmの導電層を形成した。また、前記ポリエステルフィルムの反対側の面にアクリル系粘着剤(日東電工社製)をバーコーターを用いて塗布し、130℃で1分間乾燥させて、厚さ13μmの粘着層を形成し、表面保護フィルムを作製した。
【0045】
実施例2
透明基材フィルムとして厚さ50μmの実施例1と同質のポリエステルフィルム(東レ社製)上に、酸化錫・酸化アンチモン複合酸化物からなる導電層組成物をバーコーターを用いて塗布し、100℃で1分間乾燥させて、厚さ0.08μmの導電層を形成した。また、前記ポリエステルフィルムの反対側の面にアクリル系粘着剤(日東電工社製)をバーコーターを用いて塗布し、130℃で1分間乾燥させて、厚さ25μmの粘着層を形成し、表面保護フィルムを作製した。
・・・省略・・・
【0048】
(光透過率の測定)
ヘイズメーターMHー150((株)村上色彩技術研究所製)を用いて全光線透過率を測定した。
【0049】
(ヘイズ値の測定)
ヘイズメーターMHー150((株)村上色彩技術研究所製)を用いてヘイズ値を測定した。
【0050】
(表面抵抗率の測定)
表面抵抗測定器(三菱化学(株)製、Hiresta MCPーHT450)を用いて表面抵抗率を測定した。
【0051】
(表面視認性の評価)
偏光板(ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を含浸、延伸した後、両側にトリアセチルセルロースフィルムを接着剤を介して接着したもの)の上に作製した表面保護フィルムを貼付し、偏光板表面を目視にて観察する。そして、透明感が高く白濁がない場合を良好とし、白濁のある場合を不良とした。評価結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
[図:0001422429000001.jpg]
表1より本発明(実施例)の表面保護フィルムは透明性が高く、帯電防止効果も十分であり、表面保護フィルムが被覆・貼付された状態においても偏光板等の光学フィルムの表面状態を十分確認することができる。」
オ 図1
[図:0001422429000002.jpg]
カ 図2
[図:0001422429000003.jpg]
キ 図3
[図:0001422429000004.jpg]
(2)甲1発明
甲1には、特許請求の範囲の請求項1の記載を引用する請求項4に係る発明として記載された、次の「表面保護フィルム付き光学フィルム」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「 光学フィルムに、透明基材フィルムの表面に粘着層を形成してなり、光透過率が85%以上、且つ、ヘイズ値が3.5%以下である表面保護フィルムが貼付されている表面保護フィルム付き光学フィルム。」
(3)本件特許発明1
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)光透過性フィルムについて
甲1発明の「表面保護フィルム付き光学フィルム」は、画像表示装置に用いられるものである(甲1の請求項5及び【0001】等参照。)ことから、甲1発明の「光学フィルム」が透明であることは明らかである。
そうしてみると、甲1発明の「光学フィルム」は、本件特許発明1の「光透過性フィルム」に相当する。
(イ)保護フィルムについて
甲1発明の「表面保護フィルム」は、技術的にみて、本件特許発明1の「保護フィルム」に相当する。
また、本件特許発明1の「保護フィルム」と、甲1発明の「表面保護フィルム」は、「光透過性フィルム」の表面に「貼り付けられた保護フィルム」である点で共通する。
(ウ)保護フィルム付き光透過性フィルムについて
上記(ア)及び(イ)により、甲1発明の「表面保護フィルム付き光学フィルム」は、本件特許発明1の「保護フィルム付き光透過性フィルム」に相当する。
また、甲1発明は、本件特許発明1の、「光透過性フィルムと」「保護フィルムとを備える」との要件を満たす。
イ 一致点
上記アによると、本件特許発明1と甲1発明は次の点で一致する。
「 光透過性フィルムと、前記光透過性フィルムの表面に貼り付けられた保護フィルムとを備える保護フィルム付き光透過性フィルム。」
ウ 相違点
本件特許発明1と甲1発明は次の点で相違する。
<相違点1>
「光透過性フィルム」について、本件特許発明1は、「少なくとも樹脂基材を備え」、「前記樹脂基材が、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、またはこれらの混合物からなる基材であ」るのに対して、甲1発明の「光学フィルム」は、この点が明らかでない点。
<相違点2>
「光透過性フィルム」について、本件特許発明1は、「折り畳み可能」であって、「前記光透過性フィルムから全ての前記保護フィルムを剥離した状態で、前記光透過性フィルムに対し前記光透過性フィルムの対向する辺部の間隔が30mmとなるように180°折り畳む試験を10万回繰り返し行った場合に前記光透過性フィルムに割れまたは破断が生じない」ものであるのに対して、甲1発明の「光学フィルム」は、このように特定されていない点。
<相違点3>
「保護フィルム」について、本件特許発明1は、「前記光透過性フィルムの両面に剥離可能に貼り付けられ」、「厚みが、それぞれ30μm以上であり」、「ヘイズ値が、それぞれ3%以下であ」るのに対して、甲1発明の「表面保護フィルム」は、このように特定されていない点。
エ 判断
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
甲1には、「光学フィルム」(「光透過性フィルム」)として、【0035】には光学フィルムの種類、【0036】には偏光子の種類、【0037】には偏光板の透明保護フィルムの透明性、機械的強度、熱安定性及び水分遮断性、【0038】には偏光板の透明保護層の材料、【0039】には位相差フィルムの光学特性、【0040】には位相差フィルムの材料、【0041】には液晶性ポリマーの例示が、それぞれ記載されているものの、「光学フィルム」が折り畳み可能であるかどうかについては記載がなく、甲1には、「光学フィルム」を、上記相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは、記載も示唆もない。また、甲1発明の「光学フィルム」を上記相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは、他の甲2~5のいずれにも記載されておらず、周知技術であるともいえない。
したがって、当業者であっても、甲1発明及び甲2~5に記載された事項に基づいて上記相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることが容易に想到し得たとはいえない。
オ 異議申立人の主張について
異議申立人は、令和6年12月4日に提出された意見書の4頁14行~16行において、「甲1及び甲2の光学フィルムも今回の訂正請求によって本件特許の請求項1に追加された上記の規定(当合議体注:「上記の規定」は、上記相違点2に係る本件特許発明1の構成を示す。)を満たしており、「折り畳み可能」であることは明白である。」と主張している。
しかしながら、なぜ甲1の光学フィルムも上記相違点2に係る本件特許発明1の構成を満たすのかが示されておらず、その証拠も示されていない。その他、異議申立人は甲1に関連して縷々主張するが、いずれも上記判断を左右するものではない。
したがって、異議申立人の上記主張は、採用できない。
カ 本件特許発明1についての小括
以上のことから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても、甲1発明及び甲2~5に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
(4)本件特許発明2~5
本件特許発明2~5は、本件特許発明1の構成を全て備えるものであるから、本件特許発明2~5も、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲1発明及び甲2~5に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
(5)小括
したがって、本件特許発明1~5は、当業者であっても、甲1に記載された発明及び甲2~5に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
2 甲2を主引用例とした場合
甲2には、【0002】の背景技術において「光学フィルム」が記載されていることにとどまり、甲2には「光学フィルム」の具体的な記載はない。
そうしてみると、本件特許発明1と甲2に記載された発明とは、少なくとも上記1(3)ウで示した相違点2と同様の点で相違することから、上記1(3)で述べた理由と同様である。
また、本件特許発明2~5は、本件特許発明1の構成を全て備えるものである。
したがって、本件特許発明1~5は、当業者であっても、甲2に記載された発明並びに甲1及び甲3~5に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
第6 当合議体が取消理由通知において採用しなかった申立ての理由についての判断
1 理由1(新規性)
上記第5「1」で述べたように、本件特許発明1は、少なくとも上記相違点2で相違するから、本件特許発明1は、甲1発明とはいえない。また、本件特許発明2~4は、本件特許発明1の構成を全て備えるものであるから、本件特許発明2~4も、本件特許発明1と同じ理由により、甲1発明とはいえない。
したがって、本件特許発明1~4は、甲1に記載された発明とはいえない。
2 理由3(サポート要件)
(1)異議申立人の主張の概要
異議申立人は、特許異議申立書の40頁最下行~41頁4行において、「本件特許発明1は、光透過性フィルムの樹脂基材の種類、保護フィルムの厚み、及び保護フィルムのヘイズ値以外の本件特許明細書の実施例に開示される光透過性フィルム及び保護フィルムの特徴を規定していないという点で、発明の詳細な説明に記載したものでなく、サポート要件違反であるとともに実施可能要件違反である。」と主張している。
(2)当合議体の判断
本件特許明細書において、【0034】~【0086】には「光透過性フィルム」の「樹脂基材」、【0091】~【0092】には「第1の保護フィルム」の「基材フィルム」、【0093】~【0094】には「第1の保護フィルム」の「粘着層」、【0100】には「第2の保護フィルム」の「基材フィルム」及び「粘着層」はそれぞれ「第1の保護フィルム」の「基材フィルム」及び「粘着層」と同様であることが、それぞれ記載されている。また、【0112】~【0194】には「樹脂層」が記載されている。
これらの記載に接した当業者であれば、本件特許明細書の実施例(特に、【0204】~【0212】)の記載から本件特許発明1の構成にまで拡張ないし一般化することは可能である。
また、本件特許発明2~5についても同様である。
したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。
3 理由4(実施可能要件)
(1)異議申立人の主張の概要
異議申立人の主張は、上記2(1)で示したとおりである。
(2)当合議体の判断
本件特許明細書の記載は、上記2(2)で示したとおりであり、これらの記載に接した当業者であれば、本件特許発明の構成を実施することは可能である。
したがって、発明の詳細な説明は、本件特許発明について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
第7 むすび
本件特許発明1~5は、取消理由通知書に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許発明1~5を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700412