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特許異議申立

2016-700831

詰め物用交絡糸の製造方法

審判番号
2016-700831
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2015-042760
登録番号
特許第5882514号(P5882514)
請求日
2016年09月07日
審決日
2017年03月29日
公報発行日
2017年06月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】倉敷紡績株式会社
  • 【権利者代理人】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
  • 【異議申立人】東レ 株式会社
審判長/審判官
  • 審判長 渡邊 豊英
  • 審判官 久保 克彦
  • 審判官 井上 茂夫
分類
P1652.113-YAA(D02G) / P1652.121-YAA(D02G) / P1652.536-YAA(D02G) / P1652.537-YAA(D02G)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第5882514号発明「詰め物用交絡糸の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第5882514号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第5882514号の請求項1ないし3、5及び6に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第5882514号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成23年5月17日に出願された特願2011-110691号の一部を、平成27年3月4日(優先権主張平成22年8月23日)に新たな特許出願としたものである。当該出願は、平成28年2月12日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人東レ株式会社(以下、「申立人」という。)により、本件特許異議の申立てがされ、平成28年10月20日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年12月21日(受付日)に意見書の提出及び訂正の請求がされた。そして、当該訂正の請求に対して、申立人から、平成29年1月31日(受付日)に意見書が提出された。 第2 訂正の適否についての判断 1. 訂正の内容 上記平成28年12月21日(受付日)の訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。また、本件訂正請求に係る訂正を、単に「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項からなるものである(下線は、当審が付した訂正箇所である)。 (1)訂正事項1 本件特許の特許請求の範囲の請求項1に、「前記詰め物用交絡糸は融着固定されていないことを特徴とする詰め物用交絡糸の製造方法。」とあるのを、 「前記詰め物用交絡糸は融着固定されておらず、 前記花糸と前記芯糸の重量比は、前記花糸と前記芯糸を母数にしたとき、前記花糸の割合は80~98重量%の範囲であることを特徴とする詰め物用交絡糸の製造方法。」と訂正する。 (2)訂正事項2 本件特許明細書の段落【0008】に、「・・・前記芯糸と花糸を交絡させて交絡糸とし、前記花糸は開繊されてループ状繊維を形成しており、前記詰め物用交絡糸は融着固定されていないことを特徴とする。」とあるのを、 「・・・前記芯糸と花糸を交絡させて交絡糸とし、前記花糸は開繊されてループ状繊維を形成しており、前記詰め物用交絡糸は融着固定されておらず、前記花糸と前記芯糸の重量比は、前記花糸と前記芯糸を母数にしたとき、前記花糸の割合は80~98重量%の範囲であることを特徴とする。」と訂正する。 2. 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、本件特許発明の「製造方法」により製造される「詰め物用交絡糸」が、「前記花糸と前記芯糸の重量比は、前記花糸と前記芯糸を母数にしたとき、前記花糸の割合は80~98重量%の範囲である」との事項を付加することで、技術的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、本件特許明細書の段落【0024】には、「ループ状繊維(花糸)と芯糸の重量比は、ループ状繊維(花糸)と芯糸を母数にしたとき、ループ状繊維(花糸)の割合は51~99質量%(wt%)の範囲が好ましい。更に好ましくは80~98wt%の範囲、・・・」との記載があるから、訂正事項1に係る事項は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、特許請求の範囲の拡張及び変更するものではないことは明らかである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正事項1に係る本件特許の特許請求の範囲の記載と、明細書の記載を整合させるためにするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、上記(1)に示したとおり、訂正事項2に係る事項も、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、特許請求の範囲の拡張及び変更するものではないことは明らかである。 (3)一群の請求項についての検討。 本件訂正は、請求項1と請求項1を直接あるいは間接に引用する請求項2ないし6を訂正するものであるから、一群の請求項を対象とするものである。 (4)独立特許要件 本件訂正前の本件特許の請求項4は、本件異議申立ての対象となっていない請求項である。そこで、本件訂正後の請求項4に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か以下に検討する。 本件訂正後の請求項4に係る発明は、以下の、第3、1.に示す訂正後の特許請求項の範囲の請求項4に示すとおりのものであると認められ、訂正後の請求項1の発明特定事項をすべて含むものである。 訂正後の請求項1に係る発明についての特許は、以下の、第3、3.に示すとおり、本件特許異議申立ての取消理由によっては、取り消すことはできないし、また、他に取り消すべき理由を発見しないから、訂正後の請求項1は、いずれも、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 そうすると、本件訂正後の請求項1の発明特定事項をすべて含む本件訂正後の請求項4にかかる発明も、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 3. 申立人の意見 申立人は、本件訂正のうち、訂正事項2について、平成29年1月30日付け意見書において、以下のとおり意見を述べている。 「花糸の割合(重量比)の定義について、本件特許掲載公報には、花糸と芯糸を母数にしたときの花糸の割合が記載されているが、その算出方法(定義)は記載されていない。 計算定義自体が本件特許掲載公報の明細書に記載していないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないし、以下に述べるとおり花糸の割合が計算できないことから、その範囲は明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件も満たしていない。 本件発明の実施例3~6によれば、エアー交絡後のエアー交絡糸は、140~190℃で1~10分間の熱処理によりシリコーン樹脂をキュアリングしている。当然、得られたエアー交絡糸は、芯糸・花糸の原糸特性に応じて熱収縮を起こし糸長が変化する。してみると、結果物として花糸の割合を80~90重量%とする具体的な手段は記載されておらず、またその効果についても示されていない。・・・」(1ページ下から11行ないし2ページ1行) そこで、検討する。花糸の割合(重量比)について、本件訂正後の特許請求の範囲及び特許明細書には、それぞれ以下の記載がある。 「【請求項1】 長繊維で構成される詰め物用交絡糸の製造方法であって、 芯糸と前記芯糸よりも長い花糸を、圧力空気が供給されているエアー交絡装置に供給し、前記芯糸と花糸を交絡させて交絡糸とし、 前記花糸は開繊されてループ状繊維を形成しており、 前記詰め物用交絡糸は融着固定されておらず、 前記花糸と前記芯糸の重量比は、前記花糸と前記芯糸を母数にしたとき、前記花糸の割合は80~98重量%の範囲であることを特徴とする詰め物用交絡糸の製造方法」 「【0024】 ループ状繊維(花糸)と芯糸の重量比は、ループ状繊維(花糸)と芯糸を母数にしたとき、ループ状繊維(花糸)の割合は51~99質量%(wt%)の範囲が好ましい。更に好ましくは80~98wt%の範囲、特に好ましくは85~97wt%の範囲である。前記範囲であれば、芯糸による固定一体化はしっかりしたものとなり、かつ風合いも良好となる。」 上記【請求項1】の記載から、「前記花糸と前記芯糸」の「前記」が指示するものが、「芯糸と前記芯糸よりも長い花糸を、圧力空気が供給されているエアー交絡装置に供給し、」の「芯糸」と「花糸」であることが、文言上、明らかであるといえる。そして、「重量比」を算出するための「芯糸」と「花糸」は、「圧力空気が供給されているエアー交絡装置に供給」する前のものであること、すなわち、本件訂正後の特許発明である「詰め物用交絡糸の製造方法」に投入する「芯糸」と「花糸」の「重量比」であることが理解できる。そして、その状態での「芯糸」と「花糸」であるなら、上記申立人が主張する「熱収縮を起こし糸長が変化する」ことが生じる前であることは技術常識である。さらに、上記段落【0024】には、「ループ状繊維(花糸)と芯糸を母数にしたとき、ループ状繊維(花糸)の割合」により、当該重量比が計算できる旨が記載されているから、本件訂正発明1に特定された「前記花糸と前記芯糸の重量比は、前記花糸と前記芯糸を母数にしたとき、前記花糸の割合は80~98重量%の範囲」とすることが、当業者が実施できる程度に本件特許の発明の詳細な説明の記載されているといえる。 さらに、上記のように解することと矛盾する、訂正後の本件特許明細書や特許請求の範囲の記載はない。 以上のとおりであるから、上記申立人の意見を採用することはできない。 4. 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第7項までの規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1ないし6〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1. 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1ないし3、5及び6に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3、5及び6にそれぞれ記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 長繊維で構成される詰め物用交絡糸の製造方法であって、 芯糸と前記芯糸よりも長い花糸を、圧力空気が供給されているエアー交絡装置に供給し、前記芯糸と花糸を交絡させて交絡糸とし、 前記花糸は開繊されてループ状繊維を形成しており、 前記詰め物用交絡糸は融着固定されておらず、 前記花糸と前記芯糸の重量比は、前記花糸と前記芯糸を母数にしたとき、前記花糸の割合は80~98重量%の範囲であることを特徴とする詰め物用交絡糸の製造方法。 【請求項2】 前記詰め物用交絡糸の単位長さ当たりの重量は0.01~3g/mの範囲である請求項1に記載の詰め物用交絡糸の製造方法。 【請求項3】 前記詰め物用交絡糸の花糸は、芯糸に対して1.1~30倍長い請求項1又は2に記載の詰め物用交絡糸の製造方法。 【請求項5】 前記詰め物用交絡糸には、シリコーン処理剤が熱固定されている請求項1~4のいずれか1項に記載の詰め物用交絡糸の製造方法。 【請求項6】 前記シリコーン処理剤付着量は、花糸と芯糸の合計乾燥重量に対して0.1~10wt%の範囲である請求項5に記載の詰め物用交絡糸の製造方法。」 2. 取消理由の概要 本件訂正前の請求項1ないし3、並びに、5及び6に係る特許に対する、上記平成28年10月20日付け取消理由の要旨は、以下のとおりである(以下、本件訂正前の請求項に係る発明を、「本件特許発明1」等という。)。 (甲第○号証を、以下「甲○」という。甲第○号証に記載された発明及び事項を、以下、それぞれ「甲○発明」及び「甲○事項」という。) 上記取消理由通知によって、本件特許異議申立てのすべての取消理由が通知された。 取消理由1 本件特許発明1及び2は、それぞれ甲1発明又は甲2発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、その特許を取り消すべきである。 取消理由2 本件特許発明1ないし3、並びに、5及び6は、以下の(1)ないし(3)に示したように、その出願前日本国内または外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (1)本件特許発明1及び2は、甲1発明又は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許を取り消すべきである。 (2)本件特許発明3は、甲1発明又は甲2発明、並びに、甲3又は甲4に記載された従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許を取り消すべきである。 (3)本件特許発明5及び6は、甲1発明又は甲2発明、並びに、甲5事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許を取り消すべきである。 取消理由3 本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 本件特許発明1の記載は、「エアー交絡装置」の空気供給方式を特定していないから、「推進ジェット流(タスラン加工)」及び「垂直ジェット流(インターレース加工)」の両方式を包含し得る記載となっている。 しかし、本件特許の発明の詳細な説明には、「垂直ジェット流(インターレース加工)」のみが記載されており、実施例(図2-3)においても、圧力空気を垂直に供給する装置のみが記載されている。 したがって、タスラン加工もインタレース加工も包含する本件特許発明1の範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできないから、本件特許発明1及び本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし3、並びに、5及び6は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 <引 用 文 献 等 一 覧> 1.特開2001-61606号公報(甲第1号証) 2.特開2008-221141号公報(甲第2号証) 3.特公昭62-18650号公報(甲第3号証) 4.特開平7-54233号公報(甲第4号証) 5.特開平11-207058号公報(甲第5号証) 3. 取消理由1 (1) 刊行物の記載及び刊行物記載発明 ア. 甲1 甲1には、段落【請求項1】、【0014】の記載がある。 甲3の、1欄1ないし7行、3欄16ないし27行、4欄13ないし31行、及び、第1図ないし第3図に記載されたBCF嵩高捲縮加工糸の製法についての技術常識を踏まえると、甲1には、以下の甲1発明が記載されていると認める。 「ナイロン長繊維マルチフィラメントから構成されるクッションの中材用BCF嵩高捲縮加工糸の製造方法であって、 ナイロン長繊維マルチフィラメント糸を、圧力空気が供給されている3次元ランダム捲縮するための装置に供給し、前記ナイロン長繊維マルチフィラメントを交絡させて交絡糸とし、 前記ナイロン長繊維マルチフィラメント糸は開繊されてループ状繊維を形成している、 クッションの中材用BCF嵩高捲縮加工糸の製造方法。」 イ. 甲2 甲2には、段落【請求項1】、【請求項4】、【請求項8】、【0017】、【0020】、【0021】、及び、【0022】の記載がある。 甲4の、段落【請求項2】、【請求項5】、【0019】、【0021】、及び、【0023】に記載されたタスラン加工糸の製法についての技術常識を踏まえると、甲2には、以下の甲2発明が記載されていると認める。 「剛性フィラメント繊維で構成される紐状清掃具のための内芯クッション体用糸の製造方法であって、 繊維を、圧力空気が供給されているタスラン加工のための装置に供給し、繊維と繊維を交絡させて交絡糸とし、 前記繊維はループ状繊維を形成している、 内芯クッション体用糸の製造方法。」 (2) 判断 ア. 甲1発明を主とする取消理由1について (ア) 本件訂正発明1について 本件訂正発明1と上記(1)ア.に示した甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点> 本件訂正発明1は、「芯糸と前記芯糸よりも長い花糸を、圧力空気が供給されているエアー交絡装置に供給」するものであって、「前記花糸と前記芯糸の重量比は、前記花糸と前記芯糸を母数にしたとき、前記花糸の割合は80~98重量%の範囲である」詰め物用交絡糸の製造方法であるのに対し、甲1発明は、「3次元ランダム捲縮するための装置」に供給される「ナイロン長繊維マルチフィラメント糸」が、「芯糸」と「芯糸よりも長い花糸」から構成されるものであるか、ひいてはそれらの重量比が、「前記花糸と前記芯糸を母数にしたとき、前記花糸の割合は80~98重量%の範囲である」かが不明である点。 そこで、検討する。本件訂正発明1は、上記<相違点>に係る構成を備えることで、本件訂正発明1は、「花糸を芯糸で一体化した長繊維詰め綿であり、前記花糸は開繊されてループ状繊維を形成している。これにより、嵩高い詰め物が得られる」(本件特許明細書段落【0013】)ものであり、そして、「芯糸による固定一体化はしっかりしたものとなり、かつ風合いも良好となる」(同段落【0024】)との効果を本件訂正発明1は発揮するから、当該相違点は、実質的な相違点である。 したがって、本件訂正発明1は、甲1発明であるということはできない。 (イ) 本件訂正発明2について 本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用する発明であって、本件訂正発明1の特定事項のすべてを包含するものである。 そうすると、上記(ア)に示したように、本件訂正発明1は、甲1発明であるということはできないから、本件訂正発明1の特定事項すべてを包含し、さらに限定された、本件訂正発明2も、甲1発明であるということはできない。 イ. 甲2発明を主とする取消理由2 本件訂正発明1と上記(1)イ.に示した甲2発明とを対比すると、少なくとも上記ア(ア)の<相違点>で相違する。 そうすると、上記で検討したように、当該<相違点>は実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は、甲2発明であるということはできない。 また、本件訂正発明2について検討すると、上記ア.(イ)に示したように、本件訂正発明2も、甲2発明であるということはできない。 (3) 取消理由1についての小括 上記(2)のア.及びイ.に示したように、本件訂正発明1及び2は、いずれも、甲1発明及び甲2発明であるということはできない。 したがって、取消理由1によって、本件訂正発明1及び2に係る特許を取り消することはできない。 4. 取消理由2 (1) 刊行物の記載及び刊行物記載発明 甲1及び甲2には、上記3.(1)ア.及びイ.に示したとおりの甲1発明及び甲2発明がそれぞれ記載されている。 (2) 本件訂正発明1について ア. 甲1発明との対比・判断 本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記3.(2)ア.(ア)に示した<相違点>で相違する。 そこで、当該相違点について検討する。 甲1には、以下の記載がある。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、クッション用複合材に関し、さらに詳しくは、ベッドパッドや布団などの寝装具、座布団や椅子、乗り物の座席などに用いるクッション用複合材に関する。 【0002】 【従来の技術】従来、ベッドパッドや布団などの寝装具、座布団や椅子、乗り物の座席などに用いられるクッション材は、中材として天然繊維または合成繊維の綿を用いるか若しくは発泡性の樹脂類(スポンジ)を用い、これを袋詰めしたり、或いは、シート状に加工・成形した後、該中材を表地で包む等の方法により製造されたものが用いられてきた。 【0003】しかしながら、クッション材には適度な応力分散性と充分な耐久性が必要であり、特に洗濯を行った場合に、従来のクッション材ではへたりが発生し、長期間の使用に耐えられないという問題があった。 【0004】一方、シート状の複合布帛としては、パイル糸を基布にタフティングしたものが数多く知られている。・・・しかし、これらに記載されたものは、屋内外のカーペットとして使用するものであり、具体的には、絨毯や玄関マットなどの用途に使用されるものであるため、パイルをカットしてカットパイルとして使用したり、パイルを形成する糸の撚りが比較的多かったり、また、タフティングした後にバッキング処理を行うので全体として粗剛であり、クッション材として用いることが不可能か、又は、非常に使用し難いものであった。」 「【0006】 【課題を解決するための手段】本発明は、総繊度が3000~30000デニールのポリアミド繊維からなる嵩高捲縮加工糸を、隣接するタフティングラインの間隔が5~35mmとなるようにタフティングすることにより形成されたループパイルを有するパイル布帛を中材とし、該中材を側地により囲繞してなることを特徴とするクッション用複合材にある。」 「【0023】 【発明の作用・効果】このようにして得られるクッション用複合材は、中材としてパイル布帛を使用するためにクッション性及び通気性に優れ、また、長時間の使用も可能な耐久性に優れたものである。すなわち、クッション用複合材の使用に際しては、負荷による変形及び負荷除去による回復が、該中材のループパイルの変形及び回復により行われ、しかもこれらがループパイルを形成する繊維相互の絡み等による影響を排除するように行われるためにループパイルを形成する材料の特性が充分に発揮され、優れたクッション性及び通気性を得ることができるものであり、また、該ループパイルは、タフティング等により基布に固定されて安定なために長時間の使用に対してもそれらの性能が容易には減衰しないものである。」 以上の摘記から、甲1発明は、従来のクッション材として使用される中材が、特に洗濯を行った場合に、へたりが発生し、長期間の使用に耐えられないとの問題を解決しようとして、従来はクッション材の中材として用いることが不可能か、または非常に使用しがたいものであった、パイル糸を基布にタフティングしたものを、「総繊度が3000~30000デニールのポリアミド繊維からなる嵩高捲縮加工糸を、隣接するタフティングラインの間隔が5~35mmとなるようにタフティングすることにより形成されたループパイル」を有するパイル布帛を中材とすることにより、上記問題を解決したものである。 したがって、甲1発明の「中材」は、少なくとも「パイル布を基布にタフティングしたもの」であることが前提であるから、甲1発明において、甲1発明を、基布を用いることのないものとすることは、上記甲1の効果の発揮を妨げるものとなるから、甲1発明が、上記<相違点>に係る構成を備えることには、阻害事由が存在するといわざるを得ない。 したがって、本件訂正発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 イ. 甲2発明との対比・判断 本件訂正発明1と甲2発明とを対比すると、少なくとも上記3.(2)ア.(ア)に示した<相違点>で相違する。 そこで、当該相違点について検討する。 甲2には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 単繊維繊度が0.001dtex~5dtexの合成繊維が筒紐状に製編織されてなる筒状繊維構造物の内部に、内芯クッション体が充填されてなることを特徴とする紐状清掃具。」 「【0004】 ・・・これらの極細繊維糸を単に紐状の繊維構造物に形成した紐状清掃具は、一般に紐としては、細目であってかつ非常に柔軟になるものであり、孔の内周面上を該紐状繊維構造物を往復動させて擦ったとしても、内周面上の全周にわたり清掃作用を及ぼさせしめて所望のとおりに清掃することは難しく、内周面の一方の面に偏った清掃しかできないなどの事態が発生し、全周囲に対して効果的に清掃を行うことは難しく、その結果、清掃に多大な時間を費やしたり、時間をかけたわりには効果的な清掃ができていないなどの不都合を有するものであった。」 「【発明の効果】 【0008】 本発明の紐状清掃具によれば、例えば、複数枚のベアリングがその中心軸を合わせて重ねられているベアリングの軸受孔等の被清掃物の孔内に該紐状清掃具を通し、その両端部を把持して、往復移動あるいは一方向移動などさせて孔内周面を擦ることにより、該内周面上の全周にわたり清掃作用を効果的に行うことなどができる。」 「【0036】 本発明の紐状清掃具は、べアリングの軸受孔の内周壁の清掃などに好適に使用されるものであり、一般には、本発明の紐状清掃具が有する直径の0.6~0.9倍程度の小径である孔の清掃に好ましく使用される。その程度の小径の孔に、本発明の紐状清掃具を通過させることにより、孔内全周にわたりワイピング効果を及ぼすことが可能となるのである。」 「【0039】 本発明の紐状清掃具は、特に限定されるものではないが、その使用用途の点から、好ましくは、直径で数mm~15mm程度、さらに好ましくは2mm~10mm程度の太さを有するものが実際的で好ましいのである。」 そうすると、甲2には、ベアリングの軸受穴の内周壁の清掃などに好適に使用される紐状清掃具が記載されていて、当該紐状清掃具は、単繊維繊度が0.001dtex~5dtexの合成繊維が筒紐状に製編織されてなる筒状繊維構造物の内部に、内芯クッション体が充填されてなるものである。そして、その形状は、使用用途の点から、好ましくは、直径で数mm~15mm程度、さらに好ましくは2mm~10mm程度の太さを有するものが実際的で好ましいものであるとされ、非常に長細いものであることが理解できる。 したがって、かかる特殊な用途に適した形状や寸法である紐状清掃具の詰め物として、上記<相違点>に係る「芯糸と前記芯糸よりも長い花糸」から構成されたものを採用することの動機が、甲2発明に存在するとは、到底いえない。 よって、本件訂正発明1は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (2) 本件訂正発明2、3、5及び6について 本件訂正発明2、3、5及び6は、本件訂正発明1を引用するものであって、本件訂正発明1に特定された事項を全て包含するものである。 そうすると、上記(1)に示したように、本件訂正発明1は、甲1発明あるいは甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、訂正発明1に特定された事項の全てを包含し、さらに限定された本件訂正発明2は、甲1発明あるいは甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 また、本件訂正発明3は、甲1発明又は甲2発明、並びに、甲3又は甲4に記載された従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 さらに、本件訂正発明5及び6は、甲1発明又は甲2発明、並びに、甲5事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3) 小括 上記(1)及び(2)に示したとおり、本件訂正発明1ないし3、5及び6に係る特許は、取消理由2によって、取り消すことはできない。 5. 取消理由3 (1) 本件訂正後の特許明細書の記載 「圧力空気が供給されるエアー交絡装置」の「エアー交絡」あるいは「エアー交絡装置」について、本件訂正後の特許明細書には以下の記載がある。 「【0012】 本発明において交絡とは、複数本からなる長繊維糸(フィラメント糸)束を構成する単繊維が相互に絡まり集束性を与えられた状態をいう。交絡は、エアーノズルから噴射される高速気流の作用により、走行する繊維束のフィラメントをかく乱し、開繊し、繊維相互の配列を乱すことによって形成される。エアー交絡糸の生産性は高いため、製造コストを安くできる。」 そうすると、本件訂正発明1の「圧力空気が供給されるエアー交絡」は、「芯糸と花糸の走行方向に対して垂直方向に圧空を噴射するエアー交絡」に限定されず、上記本件特許明細書」に記載された「交絡は、エアーノズルから噴射される高速気流の作用により、走行する繊維束のフィラメントをかく乱し、開繊し、繊維相互の配列を乱すことによって形成される」作用を奏するものであればよいことは、当業者に明らかである。 (2) 判断 特許権者が提出した以下の乙第1号証には、「タスラン加工」について、「圧搾渦流乱流を利用して糸軸方向にループやたるみを発生させることで,構造的なかさ高性を付与する加工法.・・・ 加工原理は,○1マルチフィラメント束をエアジェット流のかく乱流に暴露することで単フィラメントを分離,○2激しく不規則な振動を与えながらあく乱流域でかく乱,○3ジェット流とともに一気に大気に放出,○4急激に減速することでループやからみを形成・・・」(当審注:原文記載の○囲み数字については、「○1」等と代用表記した)との記載がある。 ここで、「単フィラメントを分離」することは開繊といえ、「ループやからみ」が形成されるならば、交絡が発生し繊維相互の配列が乱れることは、当業者に自明であるから、「タスラン加工」も、本件訂正後の特許明細書記載の上記作用を奏する方法であることが、当業者には従来周知であるといえる。 したがって、本件訂正後の特許明細書には、「芯糸と花糸の走行方向に対して垂直方向に圧空を噴射するエアー交絡」に加えて、例えば、上記「タスラン加工」のような「垂直方向」にエアジェット流を流さないものも記載されていることが、当業者には理解できる。 したがって、本件訂正発明1は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明であるから、取消理由3によって、本件訂正発明1ないし3、5及び6に係る特許を取り消すことはできない。 乙第1号証:本宮達也 外 編、「繊維の百科事典」、丸善株式会社、727及び728ページの「タスラン加工」の欄 (3) 申立人の意見について 申立人は、平成29年1月30日付け意見書において、取消理由3について、大要、以下のとおり意見を述べている。 「上記乙第1号証の記載から、特許権者が本件訂正発明1がタスラン加工も包含する旨の主張をするなら、本件訂正発明1は、2本の糸条(芯糸と花糸)を供給する乙第1号証記載のダブルタスランに該当し、飾り糸、すなわちファンシー効果に富んだ糸(ファンシーヤーン)の製造方法となる。しかし、関連する異議2016-700466号の平成28年10月7日提出の意見書4ページ18ないし24行で、特許権者は、『ファンシーヤーンは、意匠撚糸、飾り糸、飾り撚糸ともいわれる糸であり、特殊な外観や形状、構造を持った装飾用の糸の総称であることは技術常識であり、ファンシーヤーンそものの用途を否定することになり、阻害要件がある』と主張している。したがって、本件の詰め物用交絡糸の製造方法に、タスラン加工が含まれる旨の主張は矛盾を含んでいる。」 しかし、上記(2)に示した「タスラン加工」についての判断は、「タスラン加工」によって生じる作用が、本件訂正発明1の「圧力空気が供給されるエアー交絡装置」が奏するべき作用と同様なものであることを前提とするにとどまり、「タスラン加工」によりファンシー効果に富んだ糸を得ることや、さらにはファンシー効果に富んだ糸を詰め物とすることまでをも前提とするものではないから、上記申立人の意見を採用することはできない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件訂正後の本件請求項1ないし3、5及び6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし3、5及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2016-700831

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