特許異議申立
2024-700277
発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法
- 審判番号
- 2024-700277
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-197872
- 登録番号
- 7351998
- 請求日
- 2024年03月27日
- 審決日
- 2024年08月02日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】アサヒビール株式会社
- 【権利者代理人】西澤 和純
- 【権利者代理人】大槻 真紀子
- 【権利者代理人】伊藤 英輔
- 【異議申立人】田中 眞喜子
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 淺野 美奈
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-Y (C12C) / P1651.121-Y (C12C) / P1651.536-Y (C12C) / P1651.537-Y (C12C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第2条第3項第3号、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7351998号発明「発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7351998号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7351998号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和4年12月12日の出願であって、令和5年9月19日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和6年3月27日に特許異議申立人 田中 眞喜子(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立て(対象となる請求項:全請求項)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、これらの発明を順に「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などという場合があり、また、これらをまとめて「本件特許発明」という場合がある。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
発酵原料と水とを含む混合物を糖化処理し、得られた糖化液を煮沸処理して発酵原料液を調製する仕込工程と、
得られた発酵原料液に酵母を接種して発酵させる発酵工程と、
を有し、
原麦汁エキス濃度が12°P以上、コハク酸濃度が80~180mg/L、アルコール濃度が6.0~8.0容量%の発酵ビールテイスト飲料を製造する方法であって、
前記発酵原料に占める麦芽の使用比率が、50~67質量%であり、
飲料のα-ユーデスモール濃度を1.5ppb以上に調整することを特徴とする、発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項2】
α-ユーデスモール濃度が、2.4ppb以上である発酵ビールテイスト飲料を製造する、請求項1に記載の発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項3】
ホップを原料として用いる、請求項1に記載の発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項4】
原麦汁エキス濃度が12°P以上であり、
コハク酸濃度が80~180mg/Lであり、
麦芽使用比率が50~67質量%であり、
アルコール濃度が6.0~8.0容量%であり、
α-ユーデスモール濃度が1.5ppb以上である、発酵ビールテイスト飲料。」
第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が申し立てた請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由3の具体的理由は次のとおりである。
本件特許発明の実施に当たり、当業者は「コハク酸由来の不快な香味」が抑制されているかという点を確認する必要があるが、本件特許発明で課題とされる「コハク酸由来の不快な香味」が如何なるものであるか不明瞭であることから、当業者であっても本件特許発明の実施をすることができない。
4 申立理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由4の具体的理由は次のとおりである。
本件特許発明の課題は、「コハク酸由来の不快な香味」を抑制することであるが、本件実施例でいう雑味及びえぐ味が「コハク酸由来」であることは何ら示されていない。従って、本件特許発明により「コハク酸由来の不快な香味」の課題を解決できているとは理解できない。
また、仮に、本件実施例でいう雑味及びえぐ味が「コハク酸由来」であったとしても、本件実施例で示されたピンポイントのデータをもって、本件特許発明1~4に記載された広い範囲まで拡張ないし一般化することはできない。
5 証拠方法
・甲第1号証:特開2013-132274号公報
・甲第2号証:「醸造物の成分」、財団法人日本醸造協会、pp.236-237、平成11年12月10日発行
・甲第3号証:特開2022-90025号公報
・甲第4号証:吉田重厚、「第1章 ビールの一般成分」、日本醸造協会雑誌、1976年第71巻第7号、pp.505-510
・甲第5号証:「8.5 エキス関係計算法」、改訂 BCOJビール分析法、2013年、公益財団法人日本醸造協会
・甲第6号証:「エタノール水溶液の容量%と重量%との換算表」、一般社団法人アルコール協会ウェブページ、URL:https://www.alcohol.jp/expert/expert_table/10suiyouekikanzan.pdf 2024年3月25日閲覧
・甲第7号証:特開2010-252636号公報
・甲第8号証:特開2017-212960号公報
・甲第9号証:特開2019-110863号公報
・甲第10号証:特開2019-201633号公報
証拠の表記については、おおむね特許異議申立書における記載にしたがった。
第4 当審の判断
以下のとおり、当審は、いずれの申立理由によっても、本件特許発明1ないし4に係る特許を取り消すことはできないものと判断する。
1 申立理由1及び2(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
(1) 甲第1号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「スパイシーでフルーティーなホップ香気を強調した発酵麦芽飲料」に関し、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ホップ香気を有する発酵麦芽飲料に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、「ドライホッピング」によるスパイシーでフルーティーなホップ香気が強調され、同時に、荒々しさの少ない「ケトルホッピング」の長所を合わせ持つ発酵麦芽飲料を提供することを目的とする。」
「【0009】
本発明によれば、スパイシーでフルーティーなホップ香気が強調され、同時に、荒々しさの少ない発酵麦芽飲料が提供される。この発酵麦芽飲料は、「ドライホッピング」製法および「ケトルホッピング」製法の短所が解消され、それぞれの長所を合わせ持つ発酵麦芽飲料である。後記実施例に示されるように、このような発酵麦芽飲料はこれまでに知られておらず、市販品にも見出されないことから、本発明は需要者から求められる新しいタイプの発酵麦芽飲料を提供できる点で有利である。」
「【0018】
本発明において「発酵麦芽飲料」とは、炭素源、窒素源および水などを原料として酵母により発酵させた飲料であって、原料として少なくとも麦芽を使用した飲料を意味する。このような発酵麦芽飲料としては、ビール、発泡酒、リキュール(例えば、酒税法上、「リキュール(発泡性)(1)」に分類される飲料)などが挙げられる。本発明による発酵麦芽飲料は、好ましくは、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料とされる。」
「【実施例】
【0028】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1:醸造例
本実施例では、予め熱処理を加えたホップを用いて試飲サンプルを製造し、この試飲サンプルについて官能評価および成分分析を行った。
【0030】
(1)各種試飲サンプルの調製
仕込時の麦芽使用比率を67%とし、副原料(米、コーングリッツおよびコーンスターチ)を使用比率33%として調製した仕込麦汁(麦汁糖度12~14度)を調製した。電気ヒーターを用いて一定強度で60分間煮沸を行ったところ、蒸発率は10%であった。その後、麦汁を90℃で60分間静置させた。濾紙により濾過を行った後に、氷水中で麦汁を冷却した。その後、発酵前液にビール酵母を添加して1週間主発酵を行い、その後さらに4日間後発酵を行うことにより、試飲サンプルを得た。
【0031】
ホップとしては、ドイツ産ヘルスブルッカー種(Steiner社より購入)を使用した。ホップは、50倍量の蒸留水中に添加した後、恒温水槽中、65℃で10分間処理し、直ちに氷水中で冷却し、25℃まで低下した後、室温に放置した。ホップの添加時期は、ワールプール静置後の熱負荷の少ない状態で行うべく、酵母添加の直前とした。
【0032】
試飲サンプルとして、ホップの添加量および麦汁糖度の異なる試験区1~7を用意した。各試験区の詳細は、下記の表1に示す。
【表1】
[図:0001413366000001.jpg]
【0033】
(2)各種試飲サンプルの官能評価
得られた各試験区の試飲サンプルおよび市販品を対象として、3名のパネルによる官能評価を行った。官能評価はS、A、BおよびCの4段階評価により行った。
【0034】
官能評価の判定基準は表2の通りとした。
【表2】
[図:0001413366000002.jpg]
【0035】
(3)試飲用サンプルの質量分析計付きガスクロマトグラフィー(GC/MS)によるホップ香気成分の分析による指標成分濃度の算出
サンプル中の香気成分をC18固相カラムで抽出し、ジクロロメタン溶出画分をGC/MSに供した。定量は内部標準法を用いた。内部標準物質にはボルネオール(Borneol)を用い、試料中25ppbになるよう添加した。GC/MSにおけるホップ香気成分の分析条件は以下のとおりである。
【0036】
【表3】
[図:0001413366000003.jpg]
【0037】
定量値は、基本的にppbを単位とする濃度として算出したが、標準物質の無い成分については、その成分の定量イオンのレスポンス値(高さ)を内部標準物質であるボルネオール(Borneol)の定量イオンのレスポンス値(高さ)で除した値(%)を定量値とした。
【0038】
(4)試飲用サンプルの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による苦味成分内標比の算出
HPLC分析のための試料を調製するため、試飲サンプル10mlに1mlの3N塩酸を加えた後、20mlのイソオクタンを加え、振とうした後に静置した。得られた溶液は、水溶層とイソオクタンから成る有機溶媒層の2層に分離し、イソオクタン有機溶媒層から10mlを採取した。採取した有機溶媒層の液体を、窒素ガス噴霧下で完全に乾燥させて固化した。これに、内部標準物質として、βフェニルカルコン12mgを加えたリン酸メタノール溶液(リン酸:メタノール=40ml:400ml)を1ml加え、溶解したものをHPLC分析用試料とした。HPLCの分析条件は、以下の通りである。
【0039】
【表4】
[図:0001413366000004.jpg]
【0040】
HPLC用逆相カラム(Nucleosil 100-5, C18;4.0×250mm;Agilent Technologies社製)を用い、蒸留水27%、メタノール72%、およびリン酸1%からなる移動相Aと、メタノール99.0%およびリン酸1.0%からなる移動相Bを、1ml/分の一定流速で、運転開始から10分までを移動相Aを100%、10分から40分の間に移動相Aから移動相Bに置換し、40分以降を移動相B100%で送液し、270nmの吸光度を測定した。ここで、イソα酸のピークより前に検出されるピークの総和面積を「S-フラクション」とした。イソα酸およびα酸についても、それぞれの同属体成分が異なるピークとして検出されるため(「醸造物の成分」(財団法人日本醸造協会:平成11年12月10日発行)、p.250~259)、各々の総和面積を求めた。S-フラクション、イソα酸およびα酸の定量値は、S-フラクション、イソα酸およびα酸の個々の面積総和を、内部標準物質βフェニルカルコンのピーク面積でそれぞれ除した値として求めた。
【0041】
(5)試飲用サンプルの官能評価、GC/MS分析およびHPLC分析の結果
試飲用サンプルの官能評価、GC/MS分析およびHPLC分析の結果を、下記の表5にまとめた。
【0042】
【表5】
[図:0001413366000005.jpg]
【0043】
官能評価の結果において、試験区1、2、4、5、6および7では「S」判定となり、スパイシーでフルーティーなホップ香気を強調し、同時に荒々しさの少ない、最も好ましい香味バランスを示した。試験区3では「A」判定となり、S判定と同様に好ましいが、やや香気強度が弱かった。これに対し、3種の市販品(市販品1~3)はいずれも「C」判定となり、スパイシーでフルーツ香が感じられなかった。」
イ 甲第1号証に記載された発明
上記アの記載、特に実施例1における試験区番号1~7の記載を中心に整理すると、甲第1号証には次の発明が記載されていると認める。
「仕込時の麦芽使用比率を67%とし、副原料(米、コーングリッツおよびコーンスターチ)を使用比率33%として調製した仕込麦汁(麦汁糖度12~14度)を調製し、電気ヒーターを用いて一定強度で60分間煮沸を行い(煮沸による蒸発率は10%)、その後、麦汁を90℃で60分間静置させ、次いで、濾紙により濾過を行った後に、氷水中で麦汁を冷却し、その後、発酵前液にビール酵母を添加して1週間主発酵を行い、その後さらに4日間後発酵を行うことにより得られた試飲サンプルの製造方法であって、
ホップとしては、ドイツ産ヘルスブルッカー種(Steiner社より購入)を使用し、酵母添加の直前にホップを添加したものであり、
ホップの添加量は1.0g/L~2.0g/L、麦汁糖度は12.0度~14.0度であり、
得られた試飲サンプルにおけるα-Eudesmolが、内部標準物質であるボルネオール(Borneol)の定量イオンのレスポンス値に対して227.8%~366.2%である、
試飲サンプルの製造方法。」(以下、「甲1製法発明」という。)
「甲1製法発明により製造された試飲サンプル。」(以下、「甲1試飲サンプル発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1製法発明とを対比する。
甲1製法発明の「麦芽」及び「副原料(米、コーングリッツおよびコーンスターチ)」は、本件特許発明1の「発酵原料」に相当するから、甲1製法発明の「仕込時の麦芽使用比率を67%とし、副原料(米、コーングリッツおよびコーンスターチ)を使用比率33%として調製した仕込麦汁(麦汁糖度12~14度)を調製し、電気ヒーターを用いて一定強度で60分間煮沸を行い(煮沸による蒸発率は10%)、その後、麦汁を90℃で60分間静置させ、次いで、濾紙により濾過を行った後に、氷水中で麦汁を冷却」する工程は、本件特許発明1の「発酵原料と水とを含む混合物を糖化処理し、得られた糖化液を煮沸処理して発酵原料液を調製する仕込工程」に相当する。
また、甲1製法発明の「発酵前液にビール酵母を添加して1週間主発酵を行い、その後さらに4日間後発酵を行う」工程は、本件特許発明1の「得られた発酵原料液に酵母を接種して発酵させる発酵工程」に相当する。
さらに、甲1製法発明の「試飲サンプル」は、麦芽を含む原料をビール酵母を用いて発酵させ得られるものであるから、本件特許発明1の「発酵ビールテイスト飲料」に相当することも明らかである。
そして、甲1製法発明では麦芽使用比率が67%であるから、本件特許発明1の「前記発酵原料に占める麦芽の使用比率が、50~67質量%であり」との特定事項を満たす。
してみると、本件特許発明1と甲1製法発明との間の一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「発酵原料と水とを含む混合物を糖化処理し、得られた糖化液を煮沸処理して発酵原料液を調製する仕込工程と、
得られた発酵原料液に酵母を接種して発酵させる発酵工程と、
を有し、
前記発酵原料に占める麦芽の使用比率が、50~67質量%である、
発酵ビールテイスト飲料の製造方法。」
(相違点)
・相違点1
原麦汁エキス濃度に関し、本件特許発明1は「12°P以上」と特定するのに対し、甲1製法発明にはそのような特定がない点。
・相違点2
コハク酸濃度に関し、本件特許発明1は「80~180mg/L」と特定するのに対し、甲1製法発明にはそのような特定がない点。
・相違点3
アルコール濃度に関し、本件特許発明1は「6.0~8.0容量%」と特定するのに対し、甲1製法発明にはそのような特定がない点。
・相違点4
α-ユーデスモール濃度に関し、本件特許発明1は「1.5ppb以上に調整すること」と特定するのに対し、甲1製法発明にはそのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲第1号証の記載を見ても、甲1製法発明におけるコハク酸濃度は明らかではない。また、他の全ての証拠の記載を見ても、甲1製法発明におけるコハク酸濃度が「80~180mg/L」であるとすることができない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1製法発明ではない。
また、甲第1号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1製法発明においてコハク酸濃度を「80~180mg/L」に調整する動機付けがないから、甲1製法発明において、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
この点について、特許異議申立人は特許異議申立書において、甲1製法発明は麦汁糖度が12~14度で醸造されているものであるからコハク酸濃度は高めの数値であろうことは容易に推認できるものであるし、甲第2号証p.237の第2表には、ビール中のコハク酸濃度が36~166mg/L程度であることが記載されていることなどをあげ、甲1製法発明においても、コハク酸濃度は相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たす蓋然性が高いか、そうでなくても当業者が容易に調整できたものである旨主張する(特許異議申立書第25ないし26頁)。
しかしながら、甲第2号証の表2を参酌しても、ビールの種類によって、コハク酸を含まないものであったり、コハク酸の含有割合が異なるものであることが示されており(含有量の上限、下限ともに本件特許発明の範囲内にあるものは9種のうちわずかに2種のみである)、コハク酸濃度が「80~180mg/L」がビールにおいて通常含まれる濃度範囲であるということはできない。
また、他に甲1製法発明におけるコハク酸濃度を推認させる証拠もないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
イ 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、本件特許発明1の発明特定事項の全てを含むものである。
そして、上記アのとおり、本件特許発明1は、甲1製法発明ではなく、甲1製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明2及び3もまた、甲1製法発明ではなく、甲1製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件特許発明4について
本件特許発明4と甲1試飲サンプル発明とを対比すると、結局のところ、両者は、相違点1ないし相違点4の点で相違することは明らかであり、上記アと同様に判断される。
したがって、本件特許発明4は、甲1試飲サンプル発明ではなく、甲1試飲サンプル発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3) 申立理由1及び2についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、申立理由1及び2の理由では、本件特許発明1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由3(実施可能要件)について
(1) 実施可能要件の判断基準
本件特許発明1ないし3は、上記第2のとおり、「物を生産する方法」の発明であるところ、物を生産する方法の発明における実施とは、そのものを生産する方法の使用をする行為のほか。その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
また、本件特許発明4は、上記第2のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすと言うことができる。
(2) 実施可能要件についての判断
本件特許発明は、「コハク酸濃度が高いにもかかわらず、コハク酸由来の不快な香味が抑えられた発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法に関する」(【0001】)ものであって、「高原麦汁エキスで醸造したにもかかわらず、コハク酸由来の不快な香味が抑えられた発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法を提供すること」(【0006】)を課題とし、「原麦汁エキス濃度が12°P以上で醸造した場合には、発酵時にコハク酸産生量が多くなり、コハク酸濃度の高い発酵ビールテイスト飲料が製造されるが、α-ユーデスモールの濃度を特定の範囲内に調整することにより、コハク酸由来の不快な香味を抑えられることを見出し」(【0007】)、本件特許発明を完成させたものである。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法は、原麦汁エキス濃度が12°P以上かつコハク酸濃度が80~180mg/Lの発酵ビールテイスト飲料を製造する方法であって、飲料のα-ユーデスモール濃度を1.5ppb以上に調整することを特徴とする」(【0015】)ことの記載、原麦汁エキス濃度及びアルコール濃度に関する記載(【0016】ないし【0018】)、コハク酸の濃度及び調製法に関する記載(【0019】ないし【0021】)、α-ユーデスモールの濃度及び調製法に関する記載(【0022】ないし【0025】)、発酵ビールテイスト飲料の製造方法に関する記載(【0031】ないし【0050】)があり、具体的な実施例の記載もある。
してみると、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし4に関し、その物を生産することができる具体的な記載があるものといえるから、本件特許発明1ないし4に関し、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものである。
(3) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、「雑味やえぐ味」が「コハク酸由来の不快な香味」であるか不明であること、実施例においてコハク酸濃度が120.0mg/Lの例のみであることをあげ、本件特許発明1ないし4は実施可能要件を満足しない旨主張する(特許異議申立書第36頁)。
しかしながら、実施例における「雑味やえぐ味」がコハク酸由来のもの以外のものを含んでいるとしても、「雑味やえぐ味」そのものが低減されていることは明らかであるから、コハク酸由来の不快な香味もまた、低減されているといえる。
また、実施可能要件の判断は、上記(2)のとおり判断されるものであって、上記の特許異議申立人の主張は、その判断に何ら影響するものではない。
(4) 申立理由3についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由3の理由では、本件特許発明1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由4(サポート要件)について
(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2) 特許請求の範囲の記載事項
上記第2のとおりである。
(3) サポート要件についての判断
本件特許の発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「高原麦汁エキスで醸造したにもかかわらず、コハク酸由来の不快な香味が抑えられた発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法を提供すること」(【0006】)である。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、原麦汁エキス濃度が12°P以上で醸造した場合には、発酵時にコハク酸産生量が多くなり、コハク酸濃度の高い発酵ビールテイスト飲料が製造されるが、α-ユーデスモールの濃度を特定の範囲内に調整することにより、コハク酸由来の不快な香味を抑えられることを見出し、本発明を完成させた」(【0007】)との記載、「本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法は、原麦汁エキス濃度が12°P以上かつコハク酸濃度が80~180mg/Lの発酵ビールテイスト飲料を製造する方法であって、飲料のα-ユーデスモール濃度を1.5ppb以上に調整することを特徴とする。原麦汁エキス濃度が12°P以上の高濃度で発酵させた場合には、発酵時に生産されるコハク酸量が増大する傾向にあり、製造された発酵ビールテイスト飲料のコハク酸濃度は高くなる傾向にある。一方で、コハク酸は独特の風味を有しており、高濃度になると、飲料に雑味やえぐ味を付与してしまう。本発明においては、飲料のα-ユーデスモール濃度を1.5ppb以上に調整することによって、コハク酸由来の雑味やえぐ味を低減させることができる」(【0015】)との記載、「本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法において製造される発酵ビールテイスト飲料のコハク酸濃度は、80~180mg/Lの範囲内の濃度であれば特に限定されるものではない」(【0019】)との記載、「本発明に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法において製造される発酵ビールテイスト飲料のα-ユーデスモール濃度は、1.5ppb以上の範囲内の濃度であれば特に限定されるものではない」(【0022】)との記載があり、具体的な実施例等を通じ発明の課題を解決したことを検証したことも記載されている。
これらの記載に接した当業者であれば、「原麦汁エキス濃度が12°P以上」かつ「コハク酸濃度が80~180mg/L」の発酵ビールテイスト飲料を製造する方法、あるいは、「原麦汁エキス濃度が12°P以上」かつ「コハク酸濃度が80~180mg/L」の発酵ビールテイスト飲料において、「α-ユーデスモール濃度を1.5ppb以上」との特定事項を満たすことにより、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし4は、上記の発明の課題を解決できると認識できる特定事項を全て有しさらに限定するものであるから、当然発明の課題を解決できると認識できる。
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第36条第6項第1号のサポート要件に適合するものである。
(4) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許明細書の実施例における「雑味及びえぐ味」が「コハク酸由来の不快な香味」であるか否か明らかではなく、「コハク酸由来の不快な香味」を抑えるものとする発明の課題を解決できていると理解することはできない旨主張する(特許異議申立書第37頁)。
しかしながら、実施例における「雑味やえぐ味」がコハク酸由来のもの以外のものを含んでいるとしても、「雑味やえぐ味」そのものが低減されていることは明らかであって、コハク酸由来の不快な香味もまた、低減されているといえるから、当業者であれば発明の課題を解決できると認識できるものである。
また、特許異議申立人の主張は、発明の課題を解決し得ないとする具体的証拠を挙げるものでもないから、特許異議申立人の主張は採用することができない。
(5) 申立理由4についてのまとめ
上記(3)及び(4)のとおりであるから、申立理由4の理由では、本件特許発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
第5 結語
以上のとおりであるから、特許異議申立人が申し立てた特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700277