特許異議申立
2024-700260
熱伝導シート、熱伝導シートの実装方法、電子機器の製造方法
- 審判番号
- 2024-700260
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-022184
- 登録番号
- 7384560
- 請求日
- 2024年03月21日
- 審決日
- 2025年03月12日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】デクセリアルズ株式会社
- 【権利者代理人】野口 信博
- 【権利者代理人】穂谷野 聡
- 【異議申立人】柏木 里実
- 【異議申立人】豊田 奈津子
- 審判長/審判官
- 審判長 小宮 慎司
- 審判官 大橋 達也
- 審判官 棚田 一也
- 分類
- P1651.121-YAA(H01L) / P1651.537-YAA(H01L) / P1651.536-YAA(H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7384560号発明「熱伝導シート、熱伝導シートの実装方法、電子機器の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7384560号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕、〔7~10〕、11について訂正することを認める。
特許第7384560号の請求項1~4、6~9、11に係る特許を維持する。
特許第7384560号の請求項5、10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7384560号の請求項1~11に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成31年 2月 9日に出願され、令和 5年11月13日にその特許権の設定登録がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 6年 3月21日 :特許異議申立人柏木里実(以下「申立人1」という。)による特許異議の申立て
令和 6年 5月17日 :特許異議申立人豊田奈津子(以下「申立人2」という。)による特許異議の申立て
令和 6年 8月26日付け :取消理由通知書
令和 6年10月21日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 6年11月 1日 :特許権者による手続補正書(方式)の提出
なお、令和 6年11月13日付けで申立人1及び申立人2に対して訂正請求があった旨を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人1及び申立人2から応答はなかった。
第2 訂正の適否
令和6年10月21日に提出された訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)について検討する。
1 本件訂正の趣旨
本件訂正の請求の趣旨は、特許第7384560号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付され、その後、令和6年11月1日提出の手続補正書(方式)により補正された訂正特許請求の範囲(以下、単に「訂正特許請求の範囲」という。)のとおり、訂正後の請求項1~11について訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正事項1~8よりなるものであって、以下のとおりである(下線は当審にて付した)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「シリコーンゲルからなる高分子マトリックス成分と繊維状の熱伝導性充填剤を含む熱伝導性樹脂組成物の硬化物であって、表面に樹脂被覆層が設けられ、タックを有するシート本体」と記載されているのを、「シリコーンゲルからなる高分子マトリックス成分と繊維状の熱伝導性充填剤と磁性粉を含む熱伝導性樹脂組成物の硬化物であって、表面に樹脂被覆層が設けられ、タックを有するシート本体」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~4、6も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に「前記シート本体と前記第1、第2の剥離フィルムを180度剥離した時の剥離強度が0.01~0.1N、又は180度剥離した時の屈曲半径(R)が10mm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導シート。」と記載されているのを、「幅が50mmである前記シート本体と前記第1、第2の剥離フィルムを180度剥離した時の剥離強度が0.01~0.1N、又は180度剥離した時の屈曲半径(R)が10mm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導シート。」に訂正する。
(請求項4の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「前記シート本体は、ショア00硬度が50以下、かつ厚みが0.5mm以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の熱伝導シート。」と記載されているのを、「前記シート本体は、ショア00硬度が50以下、かつ厚みが0.5mm以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導シート。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「シート本体の一方の面に第1の剥離フィルムが貼付され、前記シート本体の前記一方の面と反対側の他方の面に第2の剥離フィルムが貼付された熱伝導シートを用意する工程と、前記シート本体の前記他方の面側から磁力を印加し、前記第1の剥離フィルムを剥離するエ程と、前記シート本体の前記一方の面を電子部品に貼付する工程と、前記第2の剥離フィルムを剥離する工程を有する熱伝導シートの実装方法。」と記載されているのを、「磁性粉を含むシート本体の一方の面に第1の剥離フィルムが貼付され、前記シート本体の前記一方の面と反対側の他方の面に第2の剥離フィルムが貼付された熱伝導シートを用意する工程と、前記シート本体の前記他方の面側から磁力を印加し、前記シート本体が前記第2の剥離フィルム側に引き寄せられることで前記第1の剥離フィルムを剥離する工程と、前記シート本体の前記一方の面を電子部品に貼付する工程と、前記第2の剥離フィルムを剥離する工程を有する熱伝導シートの実装方法。」に訂正する。
(請求項7の記載を引用する請求項8、9も同様に訂正する。)
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項9に「前記シート本体と前記第1、第2の剥離フィルムを180度剥離した時の剥離強度が0.01~0.1N、又は剥離時の屈曲半径(R)が10mm以下であることを特徴とする請求項8に記載の熱伝導シートの実装方法。」とある記載を、「幅が50mmである前記シート本体と前記第1、第2の剥離フィルムを180度剥離した時の剥離強度が0.01~0.1N、又は剥離時の屈曲半径(R)が10mm以下であることを特徴とする請求項8に記載の熱伝導シートの実装方法。」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10を削除する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項11に「熱伝導シートが貼付された電子部品を有する電子機器の製造方法において、シート本体の一方の面に第1の剥離フィルムが貼付され、前記シート本体の前記一方の面と反対側の他方の面に第2の剥離フィルムが貼付された熱伝導シートを用意する工程と、前記シート本体の前記他方の面から磁力を印加し、前記第1の剥離フィルムを剥離するエ程と、前記シート本体の前記一方の面を電子部品に貼付する工程と、前記第2の剥離フィルムを剥離する工程を有する電子機器の製造方法。」と記載されているのを、「熱伝導シートが貼付された電子部品を有する電子機器の製造方法において、磁性粉を含むシート本体の一方の面に第1の剥離フィルムが貼付され、前記シート本体の前記一方の面と反対側の他方の面に第2の剥離フィルムが貼付された熱伝導シートを用意する工程と、前記シート本体の前記他方の面から磁力を印加し、前記シート本体が前記第2の剥離フィルム側に引き寄せられることで前記第1の剥離フィルムを剥離する工程と、前記シート本体の前記一方の面を電子部品に貼付する工程と、前記第2の剥離フィルムを剥離する工程を有する電子機器の製造方法。」に訂正する。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1に記載された「熱伝導性樹脂組成物」について、「磁性粉を含む」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の請求項5に記載されているから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
さらに、訂正事項1は、上記のとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項2に記載された「シート本体」について、「幅が50mmである」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、本件明細書等の段落0086の「シリコーン組成物を、中空四角柱状の金型(50mm×50mm)の内壁に沿うように剥離処理されたフィルムを貼った中に押出成形し、50mm□のシリコーン成形体を成形した」との記載から導き出せる事項であるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
さらに、訂正事項2は、上記のとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項3により訂正前の請求項5が削除されたことに伴い、請求項5を引用していた請求項6について、引用形式を整理したものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項5について
訂正事項5による訂正は、訂正前の請求項7に記載された「シート本体」について、「磁性粉を含む」ことを限定するとともに、訂正前の請求項7に記載された「第1の剥離フィルムを剥離する工程」について、「シート本体が前記第2の剥離フィルム側に引き寄せられること」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項5は、本件明細書等の請求項10、並びに段落0028、段落0056、段落0080及び段落0081に記載されているから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
さらに、訂正事項5は、上記のとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6)訂正事項6について
訂正事項6による訂正は、訂正前の請求項9に記載された「シート本体」について、「幅が50mmである」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項6は、本件明細書等の段落0086の「シリコーン組成物を、中空四角柱状の金型(50mm×50mm)の内壁に沿うように剥離処理されたフィルムを貼った中に押出成形し、50mm□のシリコーン成形体を成形した」との記載から導き出せる事項であるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
さらに、訂正事項6は、上記のとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(7)訂正事項7について
訂正事項7による訂正は、請求項10を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(8)訂正事項8について
訂正事項8による訂正は、訂正前の請求項11に記載された「シート本体」について、「磁性粉を含む」ことを限定するとともに、訂正前の請求項11に記載された「第1の剥離フィルムを剥離する工程」について、「シート本体が前記第2の剥離フィルム側に引き寄せられること」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項8は、本件明細書等の請求項10、並びに段落0028、段落0056、段落0080及び段落0081に記載されているから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
さらに、訂正事項8は、上記のとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(9)独立特許要件について
本件においては、訂正前の請求項1~11について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1~11に係る訂正事項1~8に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 一群の請求項について
訂正前の請求項2~6は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正前の請求項8~10は請求項7を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項5によって記載が訂正される請求項7に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項7~10に対応する訂正後の請求項7~10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
5 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕、〔7~10〕、11について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~11に係る発明(以下、「本件発明1~11」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「 【請求項1】
シリコーンゲルからなる高分子マトリックス成分と繊維状の熱伝導性充填剤と磁性粉を含む熱伝導性樹脂組成物の硬化物であって、表面に樹脂被覆層が設けられ、タックを有するシート本体と、
前記シート本体の一方の面に貼付された第1の剥離フィルム、及び前記シート本体の前記一方の面と反対側の他方の面に貼付された第2の剥離フィルムを有し、
前記第1の剥離フィルムと前記第2の剥離フィルムは、前記シート本体からの剥離強度が異なることを特徴とする熱伝導シート。
【請求項2】
前記第1の剥離フィルムと前記第2の剥離フィルムの、厚み及び/又は材質が異なることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記第1の剥離フィルム及び前記第2の剥離フィルムは、剥離処理又はエンボス加工されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
幅が50mmである前記シート本体と前記第1、第2の剥離フィルムを180度剥離した時の剥離強度が0.01~0.1N、又は180度剥離した時の屈曲半径(R)が10mm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
前記シート本体は、ショアOO硬度が50以下、かつ厚みが0.5mm以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項7】
磁性粉を含むシート本体の一方の面に第1の剥離フィルムが貼付され、前記シート本体の前記一方の面と反対側の他方の面に第2の剥離フィルムが貼付された熱伝導シートを用意する工程と、
前記シート本体の前記他方の面側から磁力を印加し、前記シート本体が前記第2の剥離フィルム側に引き寄せられることで前記第1の剥離フィルムを剥離する工程と、
前記シート本体の前記一方の面を電子部品に貼付する工程と、
前記第2の剥離フィルムを剥離する工程を有する
熱伝導シートの実装方法。
【請求項8】
前記第1の剥離フィルムの前記シート本体からの剥離強度が、前記第2の剥離フィルムの前記シート本体からの剥離強度以上である請求項7に記載の熱伝導シートの実装方法。
【請求項9】
幅が50mmである前記シート本体と前記第1、第2の剥離フィルムを180度剥離した時の剥離強度が0.01~0.1N、又は剥離時の屈曲半径(R)が10mm以下であることを特徴とする請求項8に記載の熱伝導シートの実装方法。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
熱伝導シートが貼付された電子部品を有する電子機器の製造方法において、
磁性粉を含むシート本体の一方の面に第1の剥離フィルムが貼付され、前記シート本体の前記一方の面と反対側の他方の面に第2の剥離フィルムが貼付された熱伝導シートを用意する工程と、
前記シート本体の前記他方の面から磁力を印加し、前記シート本体が前記第2の剥離フィルム側に引き寄せられることで前記第1の剥離フィルムを剥離する工程と、
前記シート本体の前記一方の面を電子部品に貼付する工程と、
前記第2の剥離フィルムを剥離する工程を有する
電子機器の製造方法。」
第4 特許異議の申立ての理由について
1 申立人1が主張する特許異議の申立ての理由
申立人1が主張する特許異議の申立ての理由は、以下の申立理由1-1及び申立理由1-2のとおりのものである。なお、申立人1が提出した甲第1号証~甲第3号証を、以下、「甲1-1」~「甲1-3」という。
(1)申立理由1-1(進歩性)
請求項1~4、6に係る発明は、甲1-1に記載された発明と甲1-2に記載された事項とに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、請求項5、7~11に係る発明は、甲1-1~甲1-3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由1-2(実施可能要件、明確性要件)
ア 請求項4、9には、「前記シート本体と前記第1、第2の剥離フィルムを180度剥離した時の剥離強度」と記載されているが、第1、第2の剥離フィルムの幅が記載されていないため、当業者は剥離強度を測定し、追試することができない。
イ 上記アによれば、本件の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載は、請求項4、9に係る発明と、請求項4、9を引用する請求項5、6、10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、請求項4~6、9、10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ウ また、上記アによれば、請求項4、9に係る発明と、請求項4、9を引用する請求項5、6、10に係る発明は明確ではないから、請求項4~6、9、10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
<申立人1が提出した甲号証>
甲1-1:特開2016-121341号公報
甲1-2:特開2014-001388号公報
甲1-3:特開2017-076656号公報
2 申立人2が主張する特許異議の申立ての理由
申立人2が主張する特許異議の申立ての理由は、以下の申立理由2のとおりのものである。なお、申立人2が提出した甲第1号証は、甲1-1と同一のものである。また、申立人2が提出した甲第2号証及び甲第3号証を、以下、「甲2-2、甲2-3」という。
(1)申立理由2
請求項1~4、6に係る発明は、甲1-1、甲2-2及び甲2-3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4、6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<申立人2が提出した甲号証>
甲1-1:特開2016-121341号公報
甲2-2:特開2012-109312号公報
甲2-3:特開2009-235319号公報
第5 取消理由の概要
当審が令和6年8月26日付けで通知した取消理由の概要は、以下の取消理由1、2のとおりである。
1 取消理由1(進歩性)
請求項1~4、6に係る発明は、甲1-1に記載された発明と甲1-2に記載された事項とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4、6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 取消理由2(明確性要件)
(1)請求項4~6、9、10について
請求項4及び9には、「シート本体」の幅について記載がないため、幅が不明なシート本体を「180度剥離した時の剥離強度が0.01~0.1Nである」ことにより、請求項4及び9に係る発明と、請求項4及び9を引用する請求項5、6及び10に係る発明がどのように特定されるのか不明であり、請求項4~6、9、10に係る発明は明確でないから、請求項4~6、9、10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)請求項7~9、11について
請求項7、11には、「前記シート本体の前記他方の面側から磁力を印加し、前記第1の剥離フィルムを剥離する工程と」との記載があるが、請求項7、11に記載された構成要素が磁性を有する物質からなることは記載されておらず、また、「磁力を印加」することにより、どのような作用が生じるのかも記載されていないため、「磁力を印加」することの技術意味が不明であり、請求項7、11に係る発明と、請求項7を引用する請求項8、9に係る発明は明確でないから、請求項7~9、11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第6 当審の判断
1 取消理由1(進歩性)、申立理由1-1(進歩性)、申立理由2(進歩性)について
(1)甲号証について
ア 甲1-1(特開2016-121341号公報)の記載、甲1-1発明
(ア) 甲1-1には、以下の記載がある。(下線は当審が付与した。以下、同様である。)
「【0003】
半導体素子にヒートシンクを取り付けて冷却する場合、半導体素子の熱を効率よく放出させるために、半導体素子とヒートシンクとの間に熱伝導シートが設けられている。熱伝導シートとしては、シリコーン樹脂に熱伝導性フィラー〔鱗片状粒子(窒化ホウ素(BN)、黒鉛等)、炭素繊維等〕等の充填剤を分散含有させたものが広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。」
「【0016】
<<熱伝導性樹脂組成物>>
前記熱伝導性樹脂組成物は、バインダ樹脂と、熱伝導性フィラーとを少なくとも含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
・・・(中略)・・・
【0017】
-バインダ樹脂-
前記バインダ樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱硬化性ポリマーなどが挙げられる。
【0018】
前記熱硬化性ポリマーとしては、例えば、架橋ゴム、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン、ポリイミドシリコーン、熱硬化型ポリフェニレンエーテル、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテルなどが挙げられる。
・・・(中略)・・・
【0021】
前記シリコーン樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、液状シリコーンゲルの主剤と、硬化剤とを含有することが好ましい。そのようなシリコーン樹脂としては、例えば、付加反応型液状シリコーン樹脂、過酸化物を加硫に用いる熱加硫型ミラブルタイプのシリコーン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、電子機器の放熱部材としては、電子部品の発熱面とヒートシンク面との密着性が要求されるため、付加反応型液状シリコーン樹脂が特に好ましい。
【0022】
前記付加反応型液状シリコーン樹脂としては、ビニル基を有するポリオルガノシロキサンを主剤、Si-H基を有するポリオルガノシロキサンを硬化剤とした、2液性の付加反応型シリコーン樹脂が好ましい。」
「【0034】
なお、前記無機物フィラーは、表面処理が施されていてもよい。前記表面処理としてカップリング剤で前記無機物フィラーを処理すると、前記無機物フィラーの分散性が向上し、熱伝導シートの柔軟性が向上する。」
「【0049】
<プレス工程>
前記プレス工程としては、前記成型体シートをプレスして、前記成型体シートの表面を、突出した前記熱伝導性フィラーによる凸形状を追従するように、前記成型体シートから滲み出した滲出成分により覆う工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
ここで、「滲出成分」とは、前記熱伝導性樹脂組成物に含まれるが、硬化に寄与しなかった成分であって、非硬化性成分、及びバインダ樹脂のうちの硬化しなかった成分などを意味する。」
「【0054】
前記プレス工程においては、前記成型体シートをプレスすることにより、シート本体より滲出成分を滲み出させ、前記滲出成分によって表面を被覆する。得られる熱伝導シートは、表面に、前記滲出成分に由来する微粘着性(タック性)が発現する。したがって、得られる熱伝導シートは、熱源や放熱部材の表面に対する追従性、密着性が向上し、熱抵抗を低減させることができる。また、前記滲出成分による被覆がシート表面の熱伝導性フィラーの形状を反映する程度の厚みであることで、熱抵抗の上昇を回避できる。」
「【0080】
(実施例1)
実施例1では、2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂に、シランカップリング剤でカップリング処理した平均粒径4μmのアルミナ粒子(熱伝導性粒子:電気化学工業株式会社製)と、平均繊維長150μm、平均繊維径9μmのピッチ系炭素繊維(熱伝導性繊維:日本グラファイトファイバー株式会社製)と、シランカップリング剤でカップリング処理した平均粒径1μmの窒化アルミ(熱伝導性粒子:株式会社トクヤマ製)とを、体積比で、2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂:アルミナ粒子:ピッチ系炭素繊維:窒化アルミ=34vol%:20vol%:22vol%:24vol%となるように分散させて、シリコーン樹脂組成物(熱伝導性樹脂組成物)を調製した。2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂は、シリコーンA液(主剤)35質量%、シリコーンB液(硬化剤)65質量%の比率で混合したものである。得られたシリコーン樹脂組成物を、内壁に剥離処理したPETフィルムを貼った直方体状の金型(50mm×50mm)の中に押し出してシリコーン成型体を成型した。得られたシリコーン成型体をオーブンにて100℃で6時間硬化してシリコーン硬化物とした。
【0081】
得られたシリコーン硬化物を、オーブンにて100℃、1時間加熱した後、超音波カッターで切断し、厚み3.05mmの成型体シートを得た。超音波カッターのスライス速度は、毎秒50mmとした。また、超音波カッターに付与する超音波振動は、発振周波数を20.5kHzとし、振幅を60μmとした。
【0082】
得られた成型体シートを剥離処理をしたPETフィルムで挟んだ後、厚み2.98mmのスペーサを入れてプレスすることにより、厚み3.00mmの熱伝導シートサンプルを得た。プレス条件は、50℃、0.5MPa設定で、3minとした。スライス直後の表面に見えるフィラーはバインダで被覆されていないが、プレスによってフィラーがシートに押し付けられ、シート内に没入することでバインダ成分が表面に出てくるのでシート表面のフィラー形状を反映してバインダで被覆されている。プレス後にシートと接触していた剥離PET面にはバインダ成分が確認できる。」
「【0093】
<作業性の評価>
各熱伝導シートサンプルについて、シート状への切り出しや、剥離フィルムから剥離して貼り付けを行う際の作業性について評価をした。評価基準としては、超音波カッターによりシリコーン硬化物から厚み2.00mmの成型体シートを切り出すことができ、かつ熱伝導シートサンプルからPETを剥離する際にシート本体の変形もなく、所定のタック性を発現した状態で貼着可能である場合を良好(〇)、切り出し後のシートの剥離・貼付作業には支障はないが、微粘着性が不足していた場合を可(△)、切り出し作業や剥離・貼着作業に支障が出た場合を不良(×)とした。結果を表1-1及び表1-2に示した。」
「【0100】
実施例1~7に係る熱伝導シートサンプルでは、シートの全表面にわたって表面のフィラーの形状を反映してバインダ樹脂の未硬化成分(滲出成分)が滲み出し、被覆されることにより、適度な微粘着性が発現されている。したがって、実施例1~7に係る熱伝導シートサンプルは、貼り付け対象の表面に対する追従性、密着性が向上し、熱抵抗を低減させることができた。」
(イ) 上記(ア)によれば、以下のことがいえる。
a (a)段落0017には、「バインダ樹脂としては」「熱硬化性ポリマーなどが挙げられる。」との記載があり、段落0018には、「熱硬化性ポリマーとしては」「シリコーン樹脂」「が挙げられる。」との記載があり、バインダ樹脂として、シリコーン樹脂が挙げられている。
(b)段落0021には、「シリコーン樹脂としては」「液状シリコーンゲルの主剤と、硬化剤とを含有することが好ましい。そのようなシリコーン樹脂としては」「付加反応型液状シリコーン樹脂」「が挙げられる。」との記載があり、段落0022には、「付加反応型液状シリコーン樹脂としては」「2液性の付加反応型シリコーン樹脂が好ましい。」との記載があり、液状シリコーンゲルの主剤と、硬化剤とを含有するシリコーン樹脂として、2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂が挙げられている。
(c)上記(a)及び(b)によれば、2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂は、液状シリコーンゲルの主剤と、硬化剤とを含有するシリコーン樹脂であり、バインダ樹脂であるといえる。
b 段落0049には、「プレス工程」について、「プレスして」「滲み出した滲出成分」、「滲出成分」とは」「バインダ樹脂のうちの硬化しなかった成分」「を意味する。」との記載があるから、プレスして滲み出した滲出成分は、バインダ樹脂のうちの硬化しなかった成分、すなわち、バインダ樹脂の未硬化成分であるといえる。
c (a)段落0080には「(実施例1)」と記載され、段落0082には、実施例1について、「プレスによって」「バインダ成分が表面に出てくるので」との記載があるから、実施例1において、プレスによってバインダ成分が表面に出てくるといえる。
(b)さらに、段落0100には、「実施例1」「に係る熱伝導シートサンプルでは、シートの全表面にわたって」「バインダ樹脂の未硬化成分(滲出成分)が滲み出し、被覆されることにより、適度な微粘着性が発現されている。」との記載があるから、実施例1において、熱伝導シートサンプルの全表面にわたってバインダ樹脂の未硬化成分(滲出成分)が滲み出し、被覆することにより、適度な微粘着性が発現されているといえる。
(c)そして、段落0082及び段落0100に記載された「熱伝導シートサンプル」は、熱伝導シートのサンプルであるから、熱伝導シートであるといえる。
(d)上記bを踏まえると、上記(a)のプレスによって表面に出てくる「バインダ成分」は、上記(b)の熱伝導シートサンプルの全表面にわたって滲み出す「バインダ樹脂の未硬化成分(滲出成分)」であるといえるから、上記(a)~(c)によれば、プレスによって熱伝導シートの全表面にわたってバインダ樹脂の未硬化成分(滲出成分)が滲み出し、被覆することにより、適度な微粘着性が発現されているといえる。
d そうすると、上記(ア)並びに上記a~cによれば、甲1-1には「実施例1」として、次の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されている。
<甲1-1発明>
「2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂に、シランカップリング剤でカップリング処理した平均粒径4μmのアルミナ粒子(熱伝導性粒子)と、平均繊維長150μm、平均繊維径9μmのピッチ系炭素繊維(熱伝導性繊維)と、シランカップリング剤でカップリング処理した平均粒径1μmの窒化アルミ(熱伝導性粒子)とを分散させて、シリコーン樹脂組成物(熱伝導性樹脂組成物)を調製し、
シリコーン樹脂組成物を、直方体状の金型(50mm×50mm)の中に押し出してシリコーン成型体を成型し、
シリコーン成型体をオーブンにて100℃で6時間硬化してシリコーン硬化物とし、
シリコーン硬化物を、オーブンにて100℃、1時間加熱した後、超音波カッターで切断し、厚み3.05mmの成型体シートを得て、
成型体シートを剥離処理をしたPETフィルムで挟んだ後、プレスすることにより得た熱伝導シートであって、
2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂は、シリコーンA液(主剤)35質量%、シリコーンB液(硬化剤)65質量%の比率で混合した、液状シリコーンゲルの主剤と、硬化剤とを含有するシリコーン樹脂であり、バインダ樹脂であり、
プレスによって熱伝導シートの全表面にわたってバインダ樹脂の未硬化成分(滲出成分)が滲み出し、被覆することにより、適度な微粘着性が発現されている熱伝導シート。」
イ 甲1-2(特開2014-001388号公報)の記載、甲1-2発明
(ア) 甲1-2には、以下の記載がある。
「【0003】
半導体パッケージのような発熱体とアルミや銅などの放熱体との間に、熱伝導グリース又は熱伝導シートをはさんで密着させることにより熱を放散する放熱装置が一般に簡便に使用されているが、熱伝導グリースよりは熱伝導シートの方が放熱装置を組み立てる際の作業性に優れている。熱放散性をよくするには熱伝導シートに高い熱伝導性が求められるが、従来の熱伝導シートの熱伝導性は、必ずしも充分とは言えなかった。」
「【0019】
また、本発明は、(10)表面と裏面がそれぞれ剥離力の異なる保護フィルムでカバーされている前記(1)~(9)のいずれか一つに記載の熱伝導シートに関する。」
「【0036】
また、本発明は、(27)前記(1)~(12)のいずれか一つに記載の熱伝導シート又は前記(13)~(18)のいずれか一つに記載の製造方法により得られた熱伝導シートを有し、該熱伝導シートが電子部品から生じる発熱を放散させることを特徴とする電子機器に関する。」
「【0059】
また、本発明の熱伝導シートは、70℃におけるアスカーC硬度が60以下、好ましくは40以下である。前記70℃におけるアスカーC硬度が60を超える場合は、発熱体である半導体パッケージやディスプレイ等の電子基材に充分に密着できないため、熱をうまく伝達できなくなったり、熱応力の緩和が不充分になったりする傾向がある。」
「【0066】
また、本発明の熱伝導シートの片面又は両面が粘着性を有している場合は、粘着面を保護するために、使用前の熱伝導シートの粘着面は保護フィルムで覆っておいてもよい。保護フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルナフタレート、メチルペンテンフィルム等の樹脂、コート紙、コート布、アルミ等の金属が使用できる。これらの保護フィルムは2種以上組み合わせて多層フィルムとしてもよく、保護フィルムの表面がシリコーン系、シリカ系等の離型剤などで処理されたものが好ましく用いられる。また、表面と裏面がそれぞれ剥離力の異なる保護フィルムでカバーされていると、最初に剥離力の弱い片面を剥がして被着物に貼ることで、もう一方の面の保護フィルムの脱落を抑制できるので、作業性に優れ、好ましい。」
「【0084】
熱伝導シートの厚さは、用途等により適宜設定されるが、好ましくは0.05~3mm、より好ましくは0.1~1mmである。前記熱伝導シートの厚さが0.05mm未満である場合はシートとしての取り扱いが難しくなる傾向にあり、3mmを超える場合は放熱効果が低くなる傾向にある。前記成形体のスライス幅が熱伝導シートの厚さとなり、スライス面が熱伝導シートにおける発熱体や放熱体との当接面となる。」
「【0087】
本発明の放熱装置としては、例えば本発明の熱伝導シート又は本発明の製造方法により得られた熱伝導シートを用いて、半導体から生じる発熱を放散させることを特徴とする半導体装置、電子部品から生じる発熱を放散させることを特徴とする電子機器、発光素子から生じる発熱を放散させることを特徴とする発光装置等が挙げられる。」
「【0118】
また、熱伝導シート(IV)の片面に帝人デュポンフィルム(株)製PETフィルムA31(膜厚38μm)、もう一方の面に同社製A53(膜厚50μm)を室温下でラミネータ((株)ラミーコーポレーション製 LMP-350EX)を用いて保護フィルムとして貼り付けた。これらのシートは表面の剥離処理が異なり、剥離力はA31<A53であった。このシートをプレスカッター(大島工業(株)製 M型)を用いて3cm角、角部R:1mmの形状にPETフィルムを含めて打ち抜き、使用しやすい形態とした。別途インテル製CPU Core2 Duo E4300のヒートスプレッダ(銅製、トレイ状形状)をカッターで剥がし取った上、裏面に付着していたフェーズチェンジシートをふき取り、更にアセトンで良く洗浄してCPU用ヒートスプレッダを準備した。このヒートスプレッダの裏面(チップにつける側)にまずA31を剥がし、片面にA53がついた熱伝導シート(IV)貼り付け、A53で粘着面が保護された熱伝導シート(IV)がついているCPU用ヒートスプレッダを作成した。保護フィルムの一方を剥がす際に反対面も剥がれることがなく、作業性が良好であった。」
(イ) 上記(ア)によれば、以下のことがいえる。
a 段落0118には、「熱伝導シート」「の片面に」「PETフィルムA31(膜厚38μm)、もう一方の面に」「A53(膜厚50μm)を」「保護フィルムとして貼り付けた。」「剥離力はA31<A53であった。」と記載されている。
よって、熱伝導シートの片面に膜厚38μmのPETフィルムA31、もう一方の面に膜厚50μmのPETフィルムA53を保護フィルムとして貼り付け、剥離力はPETフィルムA31よりもPETフィルムA53が大きいことが記載されている。
b 段落0118には、「このシートをプレスカッター」「を用いて3cm角、角部R:1mmの形状にPETフィルムを含めて打ち抜き、使用しやすい形態とした。」と記載されている。
よって、熱伝導シートをプレスカッターを用いて3cm角、角部R:1mmの形状にPETフィルムを含めて打ち抜き、使用しやすい形態とすることが記載されている。
c 段落0118には、「ヒートスプレッダの裏面(チップにつける側)にまずA31を剥がし、片面にA53がついた熱伝導シート(IV)貼り付け、A53で粘着面が保護された熱伝導シート(IV)がついているCPU用ヒートスプレッダを作成した。」と記載されている。
よって、CPU用ヒートスプレッダのチップにつける側である裏面に、PETフィルムA31を剥がし、片面にPETフィルムA53がついた熱伝導シート(IV)を貼り付け、PETフィルムA53で粘着面が保護された熱伝導シート(IV)がついているCPU用ヒートスプレッダを作成する方法が記載されている。
d 上記a~cによれば、甲1-2には、次の発明(以下、「甲1-2発明」という。)が記載されている。
<甲1-2発明>
「熱伝導シートの片面に膜厚38μmのPETフィルムA31、もう一方の面に膜厚50μmのPETフィルムA53を保護フィルムとして貼り付け、剥離力はPETフィルムA31よりもPETフィルムA53が大きく、
この熱伝導シートをプレスカッターを用いて3cm角、角部R:1mmの形状にPETフィルムを含めて打ち抜き、使用しやすい形態とし、
CPU用ヒートスプレッダのチップにつける側である裏面に、PETフィルムA31を剥がし、片面にPETフィルムA53がついた熱伝導シート(IV)を貼り付け、
PETフィルムA53で粘着面が保護された熱伝導シート(IV)がついているCPU用ヒートスプレッダを作成する方法。」
ウ 甲1-3(特開2017-076656号公報)の記載、技術事項
(ア)甲1-3には、以下の記載がある。
「【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る半導体装置は、半導体基板と、保護層とを具備する。
上記半導体基板は、回路面を構成する第1の面と、上記第1の面とは反対側の第2の面とを有する。
上記保護層は、軟磁性粒子を含有する複合材料の単一層で構成され、上記第2の面に接着される接着面を有する。
【0009】
上記半導体装置において、保護層は、その接着面を半導体基板の裏面に接合することによって半導体基板と一体化される。したがって、半導体基板の裏面を保護する保護層は単一層で構成されることになるため、保護層および半導体装置の薄厚化が図れることになる。さらに、保護層が軟磁性粒子を含有する複合材料で構成されているため、半導体基板の抗折強度が高められるとともに、半導体基板から外部へ放出される電磁ノイズや外部から当該半導体基板へ侵入する電磁ノイズを抑制することが可能となる。
【0010】
上記複合材料は、典型的には、上記軟磁性粒子を分散させた熱硬化性接着樹脂の硬化物で構成される。これにより、半導体基板の裏面保護に必要な強度と電磁ノイズ抑制効果とを有する単一層からなる保護層を容易に構成することができる。」
(イ)上記(ア)によれば、甲1-3には、以下の技術事項1が記載されている。
<技術事項1>
「半導体基板の裏面に接着されて保護する保護層を、軟磁性粒子を分散させた熱硬化性接着樹脂の硬化物で構成される複合材料の単一層とすることにより、保護層および半導体装置の薄厚化が図れ、半導体基板の抗折強度が高められるとともに、半導体基板から外部へ放出される電磁ノイズや外部から半導体基板へ侵入する電磁ノイズを抑制できること。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1-1発明とを対比する。
(ア)a 本件明細書の段落0031には、「シート本体2を構成する高分子マトリックス成分は、熱伝導シート1の基材となる高分子成分のことである。」「高分子マトリックス成分の一つとして、熱硬化性ポリマーが挙げられる。」との記載があり、段落0032には、「前記熱硬化性ポリマーとしては」「シリコーン樹脂」「が挙げられる。」との記載があり、段落0035には、「前記シリコーン樹脂として、液状シリコーンゲルの主剤と、硬化剤とから構成されるシリコーン樹脂であることが好ましい。」との記載がある。
よって、熱伝導シートの基材となり、液状シリコーンゲルの主剤と、硬化剤とから構成されるシリコーン樹脂は、本件発明1の「シリコーンゲルからなる高分子マトリックス成分」である。
b 一方、甲1-1発明の「2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂」は、「シリコーン樹脂組成物」に調整され、「硬化してシリコーン硬化物」となり、「超音波カッターで切断」されて「成型体シート」となり、「成型体シートを剥離処理をしたPETフィルムで挟んだ後、プレスすることにより」「熱伝導シート」となるものであるから、熱伝導シートの基材となるものであり、また、「液状シリコーンゲルの主剤と、硬化剤とを含有するシリコーン樹脂で」あるから、上記aを踏まえると、本件発明1の「シリコーンゲルからなる高分子マトリックス成分」に相当する。
(イ)甲1-1発明の「ピッチ系炭素繊維(熱伝導性繊維)」は、本件発明1の「繊維状の熱伝導性充填材」に相当する。
(ウ)甲1-1発明の「シリコーン樹脂組成物(熱伝導性樹脂組成物)」は、「2液性の付加反応型液状シリコーン樹脂に」「ピッチ系炭素繊維(熱伝導性繊維)」を「分散させて」「調製して得られた」ものであるから、上記(ア)及び(イ)を踏まえると、本件発明1の「熱伝導性樹脂組成物」に相当する。
(エ)甲1-1発明の「成形体シート」は、「シリコーン樹脂組成物を」「金型(50mm×50mm)の中に押し出してシリコーン成型体を成型し、得られたシリコーン成型体を」「硬化してシリコーン硬化物とし、得られたシリコーン硬化物を」「超音波カッターで切断し」て得られたものであり、「剥離処理をしたPETフィルムで挟んだ後」プレスされるものであり、「全表面にわたってバインダ樹脂の未硬化成分(滲出成分)が滲み出し、被覆することにより、適度な微粘着性が発現されてい」るものであるから、シリコーン樹脂組成物をシリコーン硬化物としたものであり、全表面にわたってバインダ樹脂の未硬化成分(滲出成分)が滲み出し、被覆することにより微粘着性が発現されているものであり、上記(ウ)を踏まえると、本件発明1の「熱伝導性樹脂組成物の硬化物であって、表面に樹脂被覆層が設けられ、タックを有するシート本体」に相当する。
(オ)甲1-1発明は「成型体シートを剥離処理をしたPETフィルムで挟」むものであるから、「剥離処理をしたPETフィルム」は、「成形体シート」の一方の面と他方の面にそれぞれ貼付されるものであるといえる。よって、甲1-1発明の「剥離処理をしたPETフィルム」は、本件発明1の「前記シート本体の一方の面に貼付された第1の剥離フィルム、及び前記シート本体の前記一方の面と反対側の他方の面に貼付された第2の剥離フィルム」に相当する。
(カ)甲1-1発明の「熱伝導シート」は、「成型体シートを剥離処理をしたPETフィルムで挟んだ後、プレスすることにより得た」ものであるから、「成形体シート」と「剥離処理をしたPETフィルム」とを有するものであるといえ、上記(エ)及び(オ)を踏まえると、シート本体、第1の剥離フィルム及び第2の剥離フィルムを有する点で、本件発明1の「熱伝導性シート」と一致する。
(キ)上記(ア)~(カ)によれば、本件発明1と甲1-1発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「シリコーンゲルからなる高分子マトリックス成分と繊維状の熱伝導性充填剤とを含む熱伝導性樹脂組成物の硬化物であって、表面に樹脂被覆層が設けられ、タックを有するシート本体と、
前記シート本体の一方の面に貼付された第1の剥離フィルム、及び前記シート本体の前記一方の面と反対側の他方の面に貼付された第2の剥離フィルムを有する、
熱伝導シート。」
<相違点1>
本件発明1は、「熱伝導性樹脂組成物」が「磁性粉を含む」のに対し、甲1-1発明は、「シリコーン樹脂組成物(熱伝導性樹脂組成物)」が磁性粉を含まない点。
<相違点2>
本件発明1は、「前記第1の剥離フィルムと前記第2の剥離フィルムは、前記シート本体からの剥離強度が異なる」ものであるのに対し、甲1-1発明はそのような構成を有さない点で相違する。
イ 相違点についての判断
相違点1について検討する。
甲1-1の段落0003には「半導体素子にヒートシンクを取り付けて冷却する場合、半導体素子の熱を効率よく放出させるために、半導体素子とヒートシンクとの間に熱伝導シートが設けられている。」と記載されており、甲1-1発明の「熱伝導シート」は、半導体素子の熱を効率よく放出させるものである。
一方、上記(1)ウ(イ)の技術事項1における「保護層」は、「半導体基板の裏面に接着されて保護する」ものであり、熱伝導シートではない。
したがって、甲1-1発明の「熱伝導シート」と技術事項1の「保護層」とは、異なる機能を有するものであるから、技術事項1において「保護層」となる「軟磁性粒子を分散させた熱硬化性接着樹脂の硬化物で構成される複合材料の単一層」の構成を、甲1-1発明の「熱伝導シート」に適用する動機はない。
また、甲1-2、甲2-2及び甲2-3のいずれにも、熱伝導シートが磁性粉を含む構成は記載されていない。
よって、当業者といえども、甲1-1発明と、甲1-2、甲1-3、甲2-2及び甲2-3に記載された事項とに基づき、相違点1に係る本件発明1の構成を容易に想到することはできない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-1発明と、甲1-2、甲1-3、甲2-2及び甲2-3に記載された事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~4、6について
請求項2~4、6の記載は、請求項1の記載を引用するものであるところ、本件発明2~4、6は、本件発明1の構成をすべて備えるものであるから、甲1-1発明とは、少なくとも、上記(2)ア(キ)の相違点1と同様の点で、相違するものである。
そして、上記(2)イ及びウにおける検討と同様の理由により、本件発明2~4、6は、甲1-1発明と、甲1-2、甲1-3、甲2-2及び甲2-3に記載された事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明7について
ア 対比
本件発明7と甲1-2発明とを対比する。
(ア)甲1-2発明の「熱伝導シート」は、本件発明7の「シート本体」に相当する。また、甲1-2発明において「剥離力はPETフィルムA31よりもPETフィルムA53が大き」いから、甲1-2発明の「PETフィルムA31」及び「PETフィルムA53」は、所定の剥離力を有する剥離シートであるといえ、それぞれ本件発明7の「第1の剥離フィルム」及び「第2の剥離フィルム」に相当する。
そして、甲1-2発明の「熱伝導シートの片面に膜厚38μmのPETフィルムA31、もう一方の面に膜厚50μmのPETフィルムA53を保護フィルムとして貼り付け」、「この熱伝導シートをプレスカッターを用いて3cm角、角部R:1mmの形状にPETフィルムを含めて打ち抜き、使用しやすい形態と」することは、本件発明7の「シート本体の一方の面に第1の剥離フィルムが貼付され、前記シート本体の前記一方の面と反対側の他方の面に第2の剥離フィルムが貼付された熱伝導シートを用意する工程」に相当する。
(イ)甲1-2発明の「CPU用ヒートスプレッダのチップにつける側である裏面に、PETフィルムA31を剥がし、片面にPETフィルムA53がついた熱伝導シート(IV)を貼り付け」ることは、「熱伝導シート」から「PETフィルムA31を剥が」す工程を含む点で、本件発明7の「前記第1の剥離フィルムを剥離する工程」と共通する。
(ウ)甲1-2発明の「PETフィルムA53で粘着面が保護された熱伝導シート(IV)がついているCPU用ヒートスプレッダを作成する方法」は、「熱伝導シート」を「CPU用ヒートスプレッダ」に実装する方法であるといえる。そして、上記(ア)及び(イ)を踏まえると、甲1-2発明は、「熱伝導シートを用意する工程」及び「第1の剥離フィルムを剥離する工程」を備えた「熱伝導シートの実装方法」である点で、本件発明7と一致する。
(エ)上記(ア)~(ウ)を踏まえると、本件発明7と甲1-2発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「シート本体の一方の面に第1の剥離フィルムが貼付され、前記シート本体の前記一方の面と反対側の他方の面に第2の剥離フィルムが貼付された熱伝導シートを用意する工程と、
前記第1の剥離フィルムを剥離する工程とを有する
熱伝導シートの実装方法。」
<相違点3>
本件発明7は、「シート本体」が「磁性粉を含む」のに対し、甲1-2発明は「熱伝導シート」が磁性粉を含まない点。
<相違点4>
本件発明7は、「前記第1の剥離フィルムを剥離する工程」において、「前記シート本体の前記他方の面側から磁力を印加し、前記シート本体が前記第2の剥離フィルム側に引き寄せられる」のに対し、甲1-2発明は「PETフィルムA31を剥が」す際に、熱伝導シートのPETフィルムA53の面側から磁力を印加しない点。
<相違点5>
本件発明7が「前記シート本体の前記一方の面を電子部品に貼付する工程と、前記第2の剥離フィルムを剥離する工程を有する」のに対し、甲1-2発明は、そのような工程を有さず、「CPU用ヒートスプレッダのチップにつける側である裏面に、PETフィルムA31を剥がし、片面にPETフィルムA53がついた熱伝導シート(IV)を貼り付け」るものである点。
イ 相違点についての判断
相違点3及び相違点4は相互に関連するものであるから、まとめて検討する。
(ア)甲1-1、甲1-3、甲2-2及び甲2-3のいずれにも、相違点3、4に係る本件発明7の構成は記載されていない。
(イ)申立人1は、特許異議申立書の第11頁下から4~2行において、甲1-3の段落0010には「上記複合材料は、典型的には、上記軟磁性粒子を分散させた熱硬化性接着樹脂の硬化物で構成される。」と記載されており、磁力を印加し、前記第1の剥離フィルムを剥離することは容易である旨主張している。
(ウ)上記主張について検討する。甲1-2の段落0003には、「半導体パッケージのような発熱体とアルミや銅などの放熱体との間に」「熱伝導シートをはさんで密着させることにより熱を放散する放熱装置が一般に簡便に使用されている」と記載されており、甲1-2発明の「熱伝導シート」は、発熱体と放熱体との間にはさんで密着させることにより熱を放散するものである。
一方、上記(1)ウ(イ)において検討したとおり、技術事項1の「保護層」は、「半導体基板の裏面に接着されて保護する」ものであり、熱伝導シートではない。
したがって、甲1-2発明の「熱伝導シート」と技術事項1の「保護層」とは、異なる機能を有するものであるから、技術事項1において「保護層」となる「軟磁性粒子を分散させた熱硬化性接着樹脂の硬化物で構成される複合材料の単一層」の構成を、甲1-1発明の「熱伝導シート」に適用する動機はない。
また、技術事項1の「軟磁性粒子を分散させ」ることは、磁力を印加することではなく、他に、甲1-3に、磁力を印加する構成が記載されているともいえない。したがって、甲1-3に、相違点4の「前記シート本体の前記他方の面側から磁力を印加」する構成は記載されていないから、甲1-3を考慮しても、甲1-2発明を、相違点4に係る本件発明7の構成を備えたものとすることはできない。
したがって、上記申立人1の主張を採用することはできない。
(エ)上記(ア)~(ウ)のとおりであるから、当業者といえども、甲1-2発明と、甲1-1、甲1-3、甲2-2及び甲2-3に記載された事項とに基づき、相違点3、4に係る本件発明7の構成を容易に想到することはできない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、相違点5について検討するまでもなく、本件発明7は、甲1-2発明と、甲1-1、甲1-3、甲2-2及び甲2-3に記載された事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明8、9について
請求項8、9の記載は、請求項7の記載を引用するものであるところ、本件発明8、9は、本件発明7の構成をすべて備えるものであるから、甲1-2発明とは、少なくとも、上記(4)ア(エ)の相違点3及び相違点4と同様の点で、相違するものである。
そして、上記(4)イ及びウにおける検討と同様の理由により、本件発明8、9は、甲1-2発明と、甲1-1、甲1-3、甲2-2及び甲2-3に記載された事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)本件発明11について
本件発明11は、本件発明7の構成において「熱伝導シートが貼付された電子部品を有する電子機器の製造方法」であることを特定したものであり、その他の構成は、本件発明7と同様のものである。
そうすると、本件発明11は、少なくとも、上記(4)ア(エ)の相違点3及び相違点4と同様の点で、相違するものである。
そして、上記(4)イ及びウにおける検討と同様の理由により、本件発明11は、甲1-2発明と、甲1-1、甲1-3、甲2-2及び甲2-3に記載された事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(7)取消理由1(進歩性)、申立理由1-1(進歩性)、申立理由2-1(進歩性)についてのまとめ
上記(2)~(6)のとおりであるから、取消理由1、申立理由1-1、申立理由2-1は、理由がない。
2 取消理由2(明確性要件)、申立理由1-2(実施可能要件、明確性要件)について
(1)本件発明4、6について
本件訂正により、本件発明4は、「幅が50mmである前記シート本体と前記第1、第2の剥離フィルムを180度剥離した時の剥離強度が0.01~0.1N」であるものとなり、180度剥離される「シート本体」の幅が50mmであることが特定された。
したがって、当業者は、本件発明4、6において、「シート本体」と「第1、第2の剥離フィルム」の剥離強度を測定し、追試することができ、また、「0.01~0.1N」が、「幅が50mmである前記シート本体と前記第1、第2の剥離フィルムを180度剥離した時の剥離強度」であることは明確である。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明4、6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、かつ、本件発明4、6は明確である。
(2)本件発明7、8、11について
本件訂正により、本件発明7、8、11は、「シート本体」が「磁性粉を含」み、「前記シート本体の前記他方の面側から磁力を印加し、前記シート本体が前記第2の剥離フィルム側に引き寄せられることで前記第1の剥離フィルムを剥離する工程」を有するものとなった。
そして、磁性粉を含む「シート本体」が磁力の印加によって力を受けることは、技術常識から明らかであるから、本件発明7、8、11において、「磁力を印加」することにより「磁性粉を含むシート本体」が「第2の剥離フィルム側に引き寄せられる」ことは明確である。
(3)本件発明9について
上記(1)及び(2)と同様の理由により、本件発明9において、「シート本体」と「第1、第2の剥離フィルム」の剥離強度を測定し、追試することができ、また、「0.01~0.1N」が、「幅が50mmである前記シート本体と前記第1、第2の剥離フィルムを180度剥離した時の剥離強度」であることは明確であり、さらに、「磁力を印加」することにより「磁性粉を含むシート本体」が「第2の剥離フィルム側に引き寄せられる」ことは明確である。
(4)取消理由2、申立理由1-2についてのまとめ
上記(1)及び(3)によれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明4、6、9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、請求項4、6、9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものである。
また、上記(1)~(3)によれば、本件発明4、6~9、11は明確であるから、請求項4、6~9、11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものである。
したがって、取消理由2、申立理由1-2は理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~4、6~9、11に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては取り消すことはできない。
また、請求項5、10は、本件訂正により削除されたため、請求項5、10に係る特許に対する特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700260