特許異議申立
2024-700244
黒色顔料分散体、黒色塗膜形成組成物、および塗工物
- 審判番号
- 2024-700244
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-091270
- 登録番号
- 7363968
- 請求日
- 2024年03月14日
- 審決日
- 2024年09月24日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東洋インキSCホールディングス株式会社
- 【異議申立人】石川 竜郎
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 西岡 貴央
- 審判官 本田 博幸
- 分類
- P1651.113-Y (G02B) / P1651.121-Y (G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7363968号発明「黒色顔料分散体、黒色塗膜形成組成物、および塗工物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7363968号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7363968号の請求項1~8に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2022-91270号)は、令和4年6月6日に特許出願したものであって、令和5年10月10日にその特許権の設定登録がされ、令和5年10月18日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和6年3月14日に、特許異議申立人 石川 竜郎(以下「特許異議申立人」という。)から、請求項1~8に係る特許に対して、特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明8」という。また、それらを総称して「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
【請求項1】
有機顔料(A)、無水マレイン酸またはピロメリット酸無水物由来の構成単位を有する分散剤(X)、および有機溶剤を含有し、
有機顔料(A)は、フタロシアニン系青色顔料、ジケトピロロピロール系顔料、およびイソインドリン系顔料を含み、
ジケトピロロピロール系顔料がC.I.ピグメントレッド264であり、
分散剤(X)は、重量平均分子量1,000~100,000、かつ酸価10~200mgKOH/gであり、
前記有機溶剤100質量%中、イソホロンを70質量%以上含有する黒色顔料分散体と、
バインダー樹脂および重合性化合物の少なくともいずれかとを含む黒色塗膜形成組成物。
【請求項2】
フタロシアニン系青色顔料、ジケトピロロピロール系顔料、およびイソインドリン系顔料以外の、他の有機顔料の含有率は、有機顔料(A)の総量を基準として35質量%以下である、
請求項1記載の黒色塗膜形成組成物。
【請求項3】
前記有機溶剤の含有率は、黒色顔料分散体を基準として、60質量%以上である、請求項1記載の黒色塗膜形成組成物。
【請求項4】
さらに顔料誘導体を含有する、請求項1記載の黒色塗膜形成組成物。
【請求項5】
前記顔料誘導体は、ベンズイミダゾロン系顔料を母体骨格として有する、請求項4記載の黒色塗膜形成組成物。
【請求項6】
有機顔料(A)の平均一次粒子径が50nm以下である、請求項1記載の黒色塗膜形成組成物。
【請求項7】
有機顔料(A)の総量を基準として、ジケトピロロピロール系顔料の含有率が30~35質量%である、請求項1記載の黒色塗膜形成組成物。
【請求項8】
請求項1~7いずれか1項記載の黒色塗膜形成組成物から形成された黒色塗膜を有する、塗工物。
第3 特許異議申立ての概要
1 証拠方法
特許異議申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開2022-81108号公報
甲第2号証:国際公開第2021/172084号
甲第3号証:特開2014-178676号公報
甲第4号証:特開2006-348300号公報
甲第5号証:特開平6-9913号公報
甲第6号証:特開平7-310048号公報
甲第7号証:特表2010-523810号公報
以下、「甲第1号証」~「甲第7号証」をそれぞれ「甲1」~「甲7」という。
2 申立て理由の概要
特許異議申立人が主張する特許異議の申立て理由は、概略、以下のとおりである。
(1) 申立理由1:特許法29条1項3号(同法113条2号)
本件特許発明1~8は、甲1に記載された発明である。
(2) 申立理由2:特許法29条2項(同法113条2号)
本件特許発明1~8は、当業者が甲1~甲7に記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
(申立理由2において、甲1は主引用文献である。また、甲2~甲6は技術常識を示す文献であり、甲7は周知技術を示す文献である。)
第4 甲1の記載事項及び引用発明
1 甲1の記載事項
甲1には、以下の記載事項がある。
なお、下線は当合議体が付与したものであって、引用発明の認定及び判断等において活用した箇所を示す。以下同様である。
(1) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤(A)、アルカリ可溶性樹脂(B)、重合性化合物(C)、及び光重合開始剤(D)を含む、感光性着色組成物であって、
前記重合性化合物(C)が、9,9-ビスアリールフルオレン構造を有する重合性化合物(C-1)を含む、感光性着色組成物。
・・・中略・・・
【請求項9】
前記着色剤(A)として、赤色有機顔料、黄色有機顔料、青色有機顔料、及び紫色有機顔料から選ばれる少なくとも2種以上の有機顔料を含み、黒色を呈する、請求項1~7のいずれか1項に記載の感光性着色組成物。
・・・中略・・・
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の感光性着色組成物の硬化物である、硬化膜。」
(2) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性着色組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶や有機エレクトロルミネッセンス等の画像表示装置に用いられるカラーフィルタには、画素間の光を遮蔽し、コントラストを向上させる等の目的で、ブラックマトリックスと呼ばれる遮光フィルタが備えられている。
また、スマートフォンやタブレット端末等の撮像ユニットに用いられるC-MOS(Complementray Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ等の固体撮像素子には、ノイズの発生防止や画質の向上等を目的として遮光フィルタが備えられている。
【0003】
遮光フィルタを形成するための組成物として、カーボンブラックやチタンブラック等の黒色色材を含む組成物が知られている。例えば、特許文献1には、固体撮像素子の有効画素領域の周縁に配置される塗膜を形成し得る、平均粒子径が40nm以下である黒色着色剤及び樹脂成分を含むことを特徴とする遮光膜形成用組成物が開示されている。また、特許文献2には、光硬化性のエチレン性不飽和二重結合を有するアルカリ可溶性樹脂、光重合開始剤、黒色顔料、および平均1次粒子径が20~100nmの中空微粒子を含む光学素子の隔壁形成用感光性組成物が開示されている。」
(3) 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の組成物から形成した硬化膜は、優れた遮光性を有するが、画像表示装置の入光する光を反射する問題(以下、外光反射という)があった。さらに、光硬化不足によるアルカリ現像後のパターンが欠ける問題、基材からパターンが剥がれる密着性の問題、また、ポストベーク後のパターン表面にシワが発生する問題があった。
【0006】
本発明は、高い遮光性を有し、外光反射を抑制し、現像後に良好なパターン形状、及び密着性を有し、ポストベーク後のシワの発生を抑制できる感光性着色組成物の提供を目的とする。」
(4) 「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、着色剤(A)、アルカリ可溶性樹脂(B)、重合性化合物(C)、及び光重合開始剤(D)を含む、感光性着色組成物であって、
前記重合性化合物(C)が、9,9-ビスアリールフルオレン構造を有する重合性化合物(C-1)を含む感光性着色組成物に関する。」
(5) 「【発明の効果】
【0008】
上記の本発明によれば、高い遮光性を有し、外光反射を抑制し、現像後に良好なパターン形状、及び密着性を有し、ポストベーク後のシワの発生を抑制できる提供できる。また、本発明は、硬化膜、遮光フィルタ、カラーフィルタ、画像表示装置、固体撮像素子、および赤外線センサを提供できる。」
(6) 「【発明を実施するための形態】
・・・中略・・・
【0015】
[着色剤(A)]
本発明の感光性着色組成物は、着色剤(A)を含む。
【0016】
着色剤(A)は、顔料、及び染料のいずれでもよいが、耐光性、耐熱性、耐溶剤性の観点から、顔料が好ましい。
さらに、より優れた本発明の効果を有する感光性着色組成物が得られる点で、黒色を呈する着色剤(A)を含むことが好ましい。また、単独で黒色を呈しない着色剤(A)を複数組み合わせ、全体として黒色となるように調整して使用することも好ましい。
【0017】
(顔料)
顔料は、特に限定されず、公知の無機顔料、有機顔料を用いることができる。
・・・中略・・・
【0024】
〔有機顔料〕
有機顔料は、例えば、カラーインデックスにおいてピグメントに分類されている化合物が挙げることができる。具体的には、C.I.ピグメントレッド1,2,3,・・・,253,254,255,・・・,263,264,・・・296,特開2014-134712号公報に記載された顔料、特許第6368844号公報に記載された顔料等の赤色有機顔料;
・・・中略・・・橙色有機顔料;
・・・中略・・・
黄色有機顔料;
・・・中略・・・
緑色有機顔料;
・・・中略・・・
青色有機顔料;
・・・中略・・・
紫色有機顔料;
・・・中略・・・
等の黒色有機顔料等が挙げられる。これらの中でも、赤色有機顔料、黄色有機顔料、青色有機顔料、及び紫色有機顔料から選ばれる少なくとも2種以上の有機顔料を含むことで黒色を呈する組み合わせが好ましい。
・・・中略・・・
【0025】
前記黒色を呈する組み合わせは、例えば、以下の態様が挙げられる。
・ 黄色有機顔料、及び紫色有機顔料を含有する。
・ 赤色有機顔料、黄色有機顔料、及び紫色有機顔料を含有する。
・ 赤色有機顔料、黄色有機顔料、及び青色有機顔料を含有する。
・ 黄色有機顔料、青色有機顔料、及び紫色有機顔料を含有する。
・ 赤色有機顔料、黄色有機顔料、青色有機顔料、及び紫色有機顔料を含有する。
【0026】
・・・中略・・・
上記(3)の態様の具体例は、赤色有機顔料としてC.I.ピグメントレッド177,254,291,295,296から選ばれる少なくとも1種と、黄色有機顔料としてC.I.ピグメントイエロー138,139,185,231,233から選ばれる少なくとも1種と、青色有機顔料としてC.I.ピグメントブルー15:3,15:4,15:6から選ばれる少なくとも1種とを含有する態様が挙げられる。
・・・中略・・・
【0048】
[分散樹脂(F)]
本発明の感光性着色組成物は、必要に応じて分散樹脂(F)を含有できる。
・・・中略・・・
【0056】
[アルカリ可溶性樹脂(B)]
本発明の感光性着色組成物は、アルカリ可溶性樹脂(B)を含む。
・・・中略・・・
【0074】
[重合性化合物(C)]
(9,9-ビスアリールフルオレン構造を有する重合性化合物(C-1))
本発明の感光性着色組成物は、重合性化合物(C)として、9,9-ビスアリールフルオレン構造を有する重合性化合物(C-1)を含む。
・・・中略・・・
【0189】
[有機溶剤(Q)]
本発明の感光性組成物は、有機溶剤(Q)を含有できる。
有機溶剤(Q)は、例えば、1,2,3-トリクロロプロパン、・・・、イソブチルアルコール、イソホロン、エチレングリコールジエチルエーテル・・・、二塩基酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、顔料の分散性、アルカリ可溶樹脂の溶解性の観点から、乳酸エチル、・・・等のグリコールアセテート類、ベンジルアルコール、・・・等のアルコール類やシクロヘキサノン等のケトン類が好ましい。
・・・中略・・・
【0191】
[感光性着色組成物の製造方法]
本発明の感光性着色組成物は、例えば、着色剤(A)、アルカリ可溶性樹脂(B)、及び必要に応じて色素誘導体(E)、分散樹脂(F)、有機溶剤(Q)等を加えて分散処理を行うことで、分散体を製造する。その後、前記分散体に、重合性化合物(C)、光重合開始剤(D)を配合し混合することで製造できる。なお、各材料を配合するタイミングは、任意である。また、分散工程を複数回行うこともできる。
・・・中略・・・
【0197】
[硬化膜の製造方法]
硬化膜の製造方法は、特に限定されず、例えば、基板上に感光性着色組成物を塗工し組成物の層を形成する工程(1)、前記層に、マスクを介してパターン状に露光する工程(2)、未露光部分をアルカリ現像しパターン状の硬化膜を形成する工程(3)、前記パターンを加熱処理(ポストベーク)する工程(4)を行い作製できる。
・・・中略・・・
【0257】
<分散樹脂(F)の製造>
(分散樹脂(F-1)溶液)
ガス導入管、温度、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、メタクリル酸10部、メチルメタクリレート100部、i-ブチルメタクリレート70部、ベンジルメタクリレート20部、PGMAc50部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を50℃に加熱撹拌し、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール12部を添加した。90℃に昇温し、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.1部をPGMAc90部に加えた溶液を添加しながら7時間反応した。不揮発分測定により95%が反応したことを確認した。ピロメリット酸無水物19部、PGMAc50部、シクロヘキサノン50部、触媒として1,8-ジアザビシクロ-[5.4.0]-7-ウンデセン0.4部を追加し、100℃で7時間反応させた。酸価の測定で98%以上の酸無水物がハーフエステル化していることを確認し反応を終了し、不揮発分が30%となるようPGMAcを加えて希釈し、酸価70mgKOH/g、重量平均分子量8,500の分散樹脂(F-1)溶液を得た。」
2 甲1発明
甲1の上記記載事項1(1)の【請求項1】、【請求項9】に基づけば、甲1には以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲1発明」という。)。
「着色剤(A)、アルカリ可溶性樹脂(B)、重合性化合物(C)、及び光重合開始剤(D)を含む、感光性着色組成物であって、
前記重合性化合物(C)が、9,9-ビスアリールフルオレン構造を有する重合性化合物(C-1)を含み、
前記着色剤(A)として、赤色有機顔料、黄色有機顔料、青色有機顔料、及び紫色有機顔料から選ばれる少なくとも2種以上の有機顔料を含み、黒色を呈する、
感光性着色組成物。」
第5 当審の判断
1 本件特許発明1について
(1) 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
ア 有機顔料(A)
甲1発明における、「着色剤(A)」は、「赤色有機顔料、黄色有機顔料、青色有機顔料、及び紫色有機顔料から選ばれる少なくとも2種以上の有機顔料」を含むものであるから、有機顔料を含む点で、本件特許発明1の「有機顔料(A)」と共通する。
イ バインダー樹脂及び重合性化合物
甲1発明の「アルカリ可溶性樹脂(B)」及び「重合性化合物(C)」は、技術的にみて、本件特許発明1の「バインダー樹脂」及び「重合性化合物」に相当することは明らかである。
ウ 黒色塗膜形成組成物
甲1発明における「着色剤(A)」は、「赤色有機顔料、黄色有機顔料、青色有機顔料、及び紫色有機顔料から選ばれる少なくとも2種以上の有機顔料を含み、黒色を呈する」ものである。
また、甲1の請求項9を引用する請求項11の記載及び甲1の【0197】の「硬化膜の製造方法は、・・・基板上に感光性着色組成物を塗工し組成物の層を形成する工程(1)」との記載から、甲1発明により形成される「膜」は、「塗膜」であると認められる。
そうすると、甲1発明の「感光性樹脂組成物」は、黒色の塗膜を形成する組成物である点で、本件特許発明1の「黒色塗膜形成組成物」と共通する。
また、上記イの検討内容も踏まえると、甲1発明は、本件特許発明1の「バインダー樹脂および重合性化合物の少なくともいずれかとを含む黒色塗膜形成組成物」という要件を満たす。
エ 一致点
本件特許発明1と甲1発明は、以下の点で一致する。
「有機顔料(A)を含有し、
バインダー樹脂及び重合性化合物の少なくともいずれかとを含む黒色塗膜形成組成物。」
オ 相違点
また、本件特許発明1と甲1発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件特許発明1は、「黒色顔料分散体」が、有機顔料(A)は、フタロシアニン系青色顔料、ジケトピロロピロール系顔料、およびイソインドリン系顔料を含み、ジケトピロロピロール系顔料がC.I.ピグメントレッド264であり、
分散剤(X)は、無水マレイン酸またはピロメリット酸無水物由来の構成単位を有し、重量平均分子量1,000~100,000、かつ酸価10~200mgKOH/gであり、
有機溶剤が、有機溶剤100質量%中、イソホロンを70質量%以上含有する、のに対して、
甲1発明は、そのように特定されていない点。
(当合議体注:本件特許発明は、特定の有機顔料(A)、分散剤(X)及び有機溶剤を組み合わせた点に特徴を有する発明であることから、各材料についての相違点をまとめて抽出した。)
(2) 判断
ア 新規性について
上記(1)オより、本件特許発明1と甲1発明には、上記相違点1がある。
そうすると、本件特許発明1は、甲1発明ではない。
したがって、本件特許発明1は、特許法29条1項3号の規定に該当しないものである。
イ 進歩性について
上記相違点1について検討する。
まず、甲1発明を構成する各材料についての甲1の記載を確認する。
甲1には、各材料について、以下の記載がある。なお、下記見出しの括弧内は対応する本件特許発明1の構成を示したものである。
(ア) 着色剤(A)(「有機顔料(A)」)について
甲1の【0024】には、着色剤(A)に用いる有機顔料について、「有機顔料は、例えば、カラーインデックスにおいてピグメントに分類されている化合物が挙げることができる。具体的には、C.I.ピグメントレッド1,・・・,264,・・・等の赤色有機顔料」と記載されている。
また、甲1の【0025】には、黒色を呈する組み合わせとして、「赤色有機顔料、黄色有機顔料、及び青色有機顔料」の組み合わせが例示されており、当該組み合わせの具体例として、【0026】には「赤色有機顔料としてC.I.ピグメントレッド177,254,291,295,296から選ばれる少なくとも1種と、黄色有機顔料としてC.I.ピグメントイエロー138,139,185,231,233から選ばれる少なくとも1種と、青色有機顔料としてC.I.ピグメントブルー15:3,15:4,15:6から選ばれる少なくとも1種とを含有する態様が挙げられる。」と記載されている。
(イ) 分散剤(「分散剤(X)」)について
甲1の【0048】には、甲1発明に対し「必要に応じて分散樹脂(F)を含有できる」ことが記載されている。また、【実施例】の<分散樹脂(F)の製造>(分散樹脂(F-1)溶液>(【0257】)では、ピロメリット酸無水物を構成単位として有し、酸価が70mgKOH/g、重量平均分子量8,500の分散樹脂が記載されており、(分散体2)の作成では、当該分散樹脂(F-1)溶液を用いて、黒色の分散体2を作成することが記載されている(【0264】)。
(ウ) 有機溶剤(Q)(「有機溶剤」)について
上記「第1 1(6)」によれば、甲1の【0189】には、「有機溶剤(Q)」についての記載がある。
上記記載は、「イソホロン」が甲1発明の「感光性着色組成物」に含有できる有機材料(Q)として多数列挙されたうちの一例であることを示唆するものである。
次に、甲1の上記記載を踏まえて、以下、検討する。
甲1には、甲1発明における「着色剤(A)」や、甲1発明が含有できる「分散剤」及び「有機溶剤」について、上記(ア)~(ウ)の記載がある。 しかしながら、上記各記載を考慮しても、甲1には、甲1発明において、当業者が相違点に係る本件特許発明1の構成、すなわち、特定の有機顔料(A)(特に、「ピグメントレッド264」)、特定の分散剤(X)及び特定の有機溶剤(特に、「イソホロン」)の組み合わせを採用する動機づけとなる十分な記載や示唆はない。
より詳細には、上記「ピグメントレッド264」は、用いることができる赤色有機顔料として列挙されている数多くの化合物のうちの一つにすぎず(【0024】)、黒色を呈する有機顔料の組み合わせの複数の態様のうち本件特許発明1の組み合わせに相当する「(3)の態様」における具体例として挙げられているものではない(【0025】、【0026】)。ましてや、「ピグメントレッド264」と、フタロシアニン系青色顔料及びイソインドリン系顔料とを組み合わせることについて、記載も示唆もされていない。
また、分散樹脂(F)について、甲1の実施例における(分散体2)で用いられている分散樹脂(F-1)(【0257】、【0264】)を、甲1から把握され得る発明に対して一般的に適用し得ると推認できるような記載は、甲1にはない。
さらに、有機溶剤についても、イソホロンは、甲1発明が含有できる有機溶剤として列挙されている多くの有機溶剤の一つであり(【0189】)、また、実施例において用いられているものではない(【0264】)。そして、甲1全体の記載をみても、甲1発明に対して、多数列挙されている有機溶剤の候補の中から「イソホロン」を適用することを試みる動機づけとなり得る記載や示唆はない。
以上の検討を踏まえると、甲1には、甲1発明において、上記相違点に係る本件特許発明1の構成を採用する十分な動機づけはないというべきである。
また、十分な動機づけがないという点については、甲2~甲7を検討しても判断は変わらない。
(3) 特許異議申立人の主張
特許異議申立人の主張の概略は、「本件特許におけるI.C.ピグメントレッド264の効果は、本件特許の出願日において公知であるか、または本件特許の出願日の技術常識から当業者が予測し得る程度のものに過ぎず、顕著なものではない。」(特許異議申立書24頁5~9行及び25頁20~23行)、「本件特許におけるイソホロンの効果は、本件特許の出願日において公知であるか、または本件特許の出願日の技術常識から当業者が予測し得る程度のものに過ぎず、顕著なものではない。」(同27頁26~28行)というものである。
ここで、特許異議申立人の上記主張は、甲1発明に基づいて本件特許発明1を容易に想到できたことを前提にして、本件特許発明1が有する効果が予測可能であり、顕著なものではないものと主張するものである。しかしながら、上記(2)で検討したとおり、甲1発明に対して、有機顔料としてピグメントレッド264等の有機顔料、分散剤として、無水マレイン酸またはピロメリット酸無水物由来の構成単位を有し、重量平均分子量、酸価が特定の範囲にある分散剤、有機溶剤としてイソホロンを適用し、本件特許発明1に係る構成にすることは、甲1の記載に基づいて容易に想到できるものではないため、特許異議申立人の主張はその前提を欠くものであり、採用できない。
また、仮に上記相違点に係る構成を採用する一応の動機づけが認められたとしても、甲2及び甲3を検討しても、本件特許発明1の効果(特に、可視光遮蔽性及び赤外光透過性)は、本件特許発明の構成が奏するものとして当業者が予測可能な効果とは認められない。なぜなら、甲2の実施例11と実施例6(比較例4も含む。)は、いずれも「有機溶剤」が本件特許発明1の前提構成(「イソホロン」)を有しておらず、甲3の実施例1及び2と比較例8は、いずれも本件特許発明1の前提構成(「フタロシアニン系青色顔料」)を有していないからである。
さらに、甲4~甲7は、「イソホロンを使用すること」及び「バインダー樹脂を含むこと」による顕著な効果を否定することを立証趣旨とする証拠方法と認められるところ、本件特許発明1は特定の有機顔料(A)、分散剤(X)及び有機溶剤を組み合わせた点に特徴を有する発明であることは明らかであるから、個別の構成の材料のみを取り出して顕著な効果を否定するかのような主張は採用の余地がない。
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、特許異議申立人のその他の主張を検討しても、判断は変わらない。
(4) 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1発明ではない。また、本件特許発明1は、甲1発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 本件特許発明2~8について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~8は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明2~8は、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記1(2)のとおり、本件特許発明1が、甲1発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件特許発明2~8も、甲1発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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