特許異議申立
2024-700173
有機光電子素子用有機アロイ、有機光電子素子および表示装置
- 審判番号
- 2024-700173
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-067665
- 登録番号
- 7336412
- 請求日
- 2024年02月26日
- 審決日
- 2024年05月07日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サムスン エスディアイ カンパニー,リミテッド
- 【権利者代理人】村山 靖彦
- 【権利者代理人】阿部 達彦
- 【異議申立人】田上 浩
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 宮澤 浩
- 審判官 廣田 健介
- 分類
- P1651.121-Y (H05B) / P1651.537-Y (H05B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7336412号発明「有機光電子素子用有機アロイ、有機光電子素子および表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7336412号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7336412号の請求項1~11に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)6月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年10月11日、韓国)を国際出願日とする特願2016-547818号の一部を、令和2年4月3日に新たな特許出願としたものであって、令和5年8月23日にその特許権の設定登録がされ、令和5年8月31日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、令和6年2月26日に、特許異議申立人 田上 浩(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件特許
特許第7336412号の請求項1~11の特許に係る発明(以下「本件特許発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも2種類の有機化合物の有機アロイ(organic alloy)であって、
前記有機アロイは、前記少なくとも2種類の有機化合物を前処理により得られた物質であり、
前記少なくとも2種類の有機化合物は、第1有機化合物と第2有機化合物を含み、
10-3torr以下で第1有機化合物と第2有機化合物の蒸着速度が0.5Å/秒であるときのエバポレーション温度の差は、20℃以下であり、
前記前処理は、前記第1有機化合物と前記第2有機化合物のエバポレーション温度以上の温度で熱処理して液化または気化した後、冷却して固体化する段階から得られ、
前記有機アロイの最大発光波長は、前記第1有機化合物、前記第2有機化合物、および前記第1有機化合物と前記第2有機化合物の単純混合物の最大発光波長と異なり、
前記第1有機化合物および前記第2有機化合物は、発光性金属錯体を含まず、
前記第2有機化合物は、下記化学式2で表される少なくとも1種を含む、有機光電子素子用有機アロイ:
【化1】
[図:0001410269000001.jpg]
(前記化学式2中、
Y1およびY2は、それぞれ独立して、単一結合、置換もしくは非置換のC6~C30アリーレン基、置換もしくは非置換のC2~C30ヘテロアリーレン基またはこれらの組み合わせであり、
Ar1およびAr2は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のC6~C30アリール基、置換もしくは非置換のC2~C30ヘテロアリール基またはこれらの組み合わせであり、
R11~R13、R43およびR44は、それぞれ独立して、水素、重水素、置換もしくは非置換のC1~C20アルキル基、置換もしくは非置換のC6~C50アリール基、置換もしくは非置換のC2~C50ヘテロアリール基またはこれらの組み合わせである。)。
【請求項2】
10-3torr以下で前記第1有機化合物と前記第2化合物の蒸着速度が0.5Å/秒であるときのエバポレーション温度の差は、0℃~10℃である、請求項1に記載の有機光電子素子用有機アロイ。
【請求項3】
前記有機アロイの最大発光波長は、前記第1有機化合物と第2有機化合物の単純混合物の最大発光波長より20nm以上移動する、請求項1に記載の有機光電子素子用有機アロイ。
【請求項4】
前記第1有機化合物と第2有機化合物は、エバポレーション温度で液相または気相をなす、請求項1に記載の有機光電子素子用有機アロイ。
【請求項5】
前記有機アロイは、常温で固体(solide)または粉末(powder)形態である、請求項1に記載の有機光電子素子用有機アロイ。
【請求項6】
前記第1有機化合物は、置換もしくは非置換のトリフェニレンと窒素含有環を含む、請求項1に記載の有機光電子素子用有機アロイ。
【請求項7】
前記第1有機化合物は、前記置換もしくは非置換のトリフェニレンと前記窒素含有環との間に位置する置換もしくは非置換のアリーレン基、置換もしくは非置換のヘテロアリーレン基またはこれらの組み合わせをさらに含み、
前記置換もしくは非置換のアリーレン基または前記置換もしくは非置換のヘテロアリーレン基は、少なくとも一つのねじれ(kink)構造を有する、請求項6に記載の有機光電子素子用有機アロイ。
【請求項8】
前記第1有機化合物と前記第2有機化合物は、1:10~10:1のモル比で含まれる、請求項1に記載の有機光電子素子用有機アロイ。
【請求項9】
前記第1有機化合物と前記第2有機化合物は、1:1のモル比で含まれる、請求項1に記載の有機光電子素子用有機アロイ。
【請求項10】
互いに向き合う陽極および陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に位置する少なくとも1層の有機層と、を含み、
前記有機層は、請求項1~9のいずれか一項に記載の有機アロイを含む有機光電子素子。
【請求項11】
請求項10に記載の有機光電子素子を含む表示装置。」
第3 申立理由の概要
申立人は、甲第1号証~甲第3号証を主引用発明が記載された文献として引用するとともに、甲第4号証~甲第11号証を副引用文献として引用し、本件特許の請求項1~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものと主張している。
また、申立人は、本件特許の請求項1~11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号、同条同項第2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものと主張している。
甲第1号証:特開2006-203172号公報
甲第2号証:特開2002-25770号公報
甲第3号証:特開2003-45650号公報
甲第4号証:特開2010-206191号公報
甲第5号証:特表2013-530515号公報
甲第6号証:特開2013-201153号公報
甲第7号証:国際公開第2011/132683号
甲第8号証:国際公開第2013/062075号
甲第9号証:特開2012-216801号公報
甲第10号証:国際公開第2012/153725号
甲第11号証:特開2012-212879号公報
第4 甲号証
1 甲第1号証
(1)甲第1号証の記載事項
申立人により主引用発明が記載された文献として引用され、本件特許の優先日前に頒布された引用文献である、特開2006-203172号公報(平成18年8月3日出願公開。以下「甲第1号証」という。)には、以下の記載事項がある。なお、引用発明の認定及び判断に用いた箇所に下線を付した。
ア 特許請求の範囲
「【請求項1】
一対の電極間に、少なくとも一層の発光層を含む有機化合物層を有する有機電界発光素子であって、
該発光層は、少なくとも一種の発光性ドーパントと、複数のホスト化合物とを含有し、
且つ、該複数のホスト化合物のみを用いて発光層と同一の製膜条件により製膜した単層膜を測定して得られた発光スペクトルの主ピークが、該複数のホスト化合物の各々が単独で示す発光スペクトルの主ピークのいずれよりも15nm以上長波側であることを特徴とする有機電界発光素子。」
イ 技術分野
「【0001】
本発明は、電気エネルギーを光に変換して発光できる有機電界発光素子(以下、「有機EL素子」、「発光素子」、又は「EL素子」ともいう。)に関する。」
ウ 発明が解決しようとする課題
「【0003】
本発明の目的は、駆動耐久性及び発光効率が良好な有機電界発光素子を提供することにある。」
エ 課題を解決するための手段
「【0004】
本発明者らは、検討の結果、発光層中のホスト化合物間が相互作用によって相互作用体を形成する素子において、高い発光効率が得られることを見出した。
即ち、本発明は下記の手段により達成される。
【0005】
<1> 一対の電極間に、少なくとも一層の発光層を含む有機化合物層を有する有機電界発光素子であって、該発光層は、少なくとも一種の発光性ドーパントと、複数のホスト化合物とを含有し、且つ、該複数のホスト化合物のみを用いて発光層と同一の製膜条件により製膜した単層膜を測定して得られた発光スペクトルの主ピークが、該複数のホスト化合物の各々が単独で示す発光スペクトルの主ピークのいずれよりも15nm以上長波側であることを特徴とする有機電界発光素子。」
オ 発明の効果
「【0022】
本発明によれば、駆動耐久性及び発光効率が良好な有機電界発光素子を提供することができる。」
カ 発明を実施するための最良の形態
「【0023】
[有機電界発光素子]
以下、本発明の有機電界発光素子について詳細に説明する。
本発明の有機電界発光素子は、一対の電極間に、少なくとも一層の発光層を含む有機化合物層を有する有機電界発光素子であって、発光層中に、少なくとも一種の発光性ドーパントと、複数のホスト化合物とを含有し、且つ、該複数のホスト化合物のみを用いて発光層と同一の製膜条件により製膜した単層膜を測定して得られた発光スペクトルの主ピークが、該複数のホスト化合物の各々が単独で示す発光スペクトルの主ピークのいずれよりも15nm以上長波側であることを特徴とする。
本発明の有機電界発光素子は、上記構成としたことにより、優れた駆動耐久性及び発光効率を発揮する。
【0024】
ホスト化合物間の相互作用は、発光層中に含有されるホスト化合物のドナー性及びアクセプター性に大きく依存する。ホスト化合物のアクセプタ性が大きい程、即ち電子親和力が大きい程、他のホスト化合物と相互作用体を形成し易い。…
同様に、ホスト化合物のドナー性が大きい程、即ちイオン化ポテンシャルが小さい程、他の化合物と相互作用体を形成し易い。…
【0028】
本発明においては、複数のホスト化合物のみを総て用いて、発光層と同一の製膜条件により製膜した単層膜を測定して得られた発光スペクトル(蛍光・燐光スペクトル)の主ピークが、該複数のホスト化合物の各々が単独で示す発光スペクトル(蛍光・燐光スペクトル)の主ピークのいずれよりも15nm以上(150nm以下であり、20nm以上120nm以下が好ましく、30nm以上100nm以下がより好ましい。)長波側に観測される場合に、複数のホスト化合物間に相互作用が確実に形成されていると判断できる。…
【0040】
(有機化合物層の形成)
本発明の有機電界発光素子において、有機化合物層を構成する各層は、蒸着法やスパッタ法等の乾式製膜法、転写法、印刷法等いずれによっても好適に形成することができる。
【0041】
(発光層)
発光層は、電界印加時に、陽極、正孔注入層、又は正孔輸送層から正孔を受け取り、陰極、電子注入層、又は電子輸送層から電子を受け取り、正孔と電子の再結合の場を提供して発光させる機能を有する層である。
本発明における発光層は、少なくとも一種の発光性ドーパントと複数のホスト化合物とを含有し、且つ、該複数のホスト化合物間において、前記相互作用が生じるものであれば、特に制限されない。…
【0044】
-ホスト化合物-
上述したごとく、発光層には、少なくとも複数のホスト化合物を用いることが必要である。…
【0046】
さらに、複数のホスト化合物と発光性ドーパントとは、(1)ΔIp(=Ip(D)-Ip(H)min)>0eVで、且つ、ΔEa(=Ea(H)max-Ea(D))>0eVの関係を満たすことが好ましい。(1)の関係で表される範囲の中でも、(2)1.2eV>ΔIp>0.2eV、及び/又は1.2eV>ΔEa>0.2eVの関係を満たすホスト化合物であることがより好ましい。
…
【0048】
複数のホスト化合物としては、正孔輸送性に優れる正孔輸送性ホスト化合物(正孔輸送性ホスト)及び電子輸送性に優れる電子輸送性ホスト化合物(電子輸送性ホスト)の組み合わせが好ましく、イオン化ポテンシャルIpが5.4eV以下の正孔輸送正ホストと、電子親和力Eaが2.8eV以上の電子輸送正ホストの組み合わせが更に好ましい。…
【0049】
=正孔輸送性ホスト=
本発明に用いられる発光層内の正孔輸送性ホストとしては、発光層内に含有される他のホスト化合物と相互作用を形成しうるものであれば特に制限されない。…
【0050】
このような正孔輸送性ホストとしては、具体的には、例えば、以下の材料を挙げることができる。
…
中でも(2)を満たす正孔輸送層ホストとしては、カルバゾール誘導体、芳香族第三級アミン化合物、チオフェン誘導体が好ましく、特に分子内にカルバゾール骨格及び/又は芳香族第三級アミン骨格を複数個有するものが好ましい。
…
【0071】
=電子輸送性ホスト=
本発明に用いられる発光層内の電子輸送性ホストとしては、発光層内に含有される他のホスト化合物と相互作用を形成しうるものであれば特に制限されない。…
【0116】
-発光性ドーパント-
本発明における発光性ドーパントとしては、燐光性発光材料、蛍光性発光材料等いずれも用いることができるが、発光効率の観点からは、燐光発光材料が好ましい。…
【0129】
複数のホスト化合物及び発光性ドーパントを含有する発光層の形成方法は、特に限定されるものではないが、それぞれの化合物を各々単独の供給源から供給して基板上で混合する手法、及び、混合物の状態で供給源から基板上に供給する手法のいずれも使える。
例えば、抵抗加熱蒸着法において、別々の蒸着源から共蒸着する方法および複数の化合物の混合物を蒸着する方法が使用できる。
ただし、ホスト化合物については、同一の組み合わせの複数のホスト化合物を用いた場合であっても、それぞれのホスト化合物を別々の蒸着源から共蒸着した場合には相互作用(長波長化)が発現しないが、混合物にして蒸着すると相互作用(長波長化)が発現することがある。かかる観点から、本発明に係る相互作用(長波長化)を発現させるためには、複数のホスト化合物の混合物を蒸着する方法が好ましい。
発光性ドーパントについては、ホスト化合物との混合物にして蒸着してもよいし、別個別々の蒸着源から共蒸着してもよい。
そのほか、蒸着速度、共蒸着の蒸着速度比、混合比等については適宜選択できる。」
キ 実施例
「【0177】
[実施例1]
0.5mm厚み、2.5cm角のガラス基板にIn2O3含有率が95質量%であるITOタ-ゲットを用いて、DCマグネトロンスパッタ(条件:基材温度100℃、酸素圧1×10-3Pa)により、透明陽極としてのITO薄膜(厚み0.2μm)を形成した。ITO薄膜の表面抵抗は10Ω/□であった。
次に、前記透明陽極を形成した基板を洗浄容器に入れ、IPA洗浄した後、これにUV-オゾン処理を30分間行った。この透明陽極上に、銅フタロシアニンを真空蒸着法にて、0.5nm/秒の速度で10nmの正孔注入層を設けた。
その上に、4,4’,4”-トリス(2-メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)を真空蒸着法にて0.5nm/秒の速度で40nmの正孔輸送層を設けた。
この上に、発光層中の正孔輸送性ホストとして下記正孔輸送ホスト1、及び発光層中の電子輸送材料として下記電子輸送ホスト1をるつぼ中で質量比50:50で混合した混合物と、発光材料(発光性ドーパント)として下記イリジウム錯体1(Ir錯体1)と、
を真空蒸着法にて100/8の割合で共蒸着して、30nmの発光層を得た。
【0178】
発光層の上に、電子輸送層中の電子輸送材料としてBalq2を、真空蒸着法にて0.5nm/秒の速度で10nm蒸着し、その上に、電子輸送材料としてAlq3を真空蒸着法にて0.2nm/秒の速度で蒸着して35nmの電子輸送層を設けた。
さらにこの電子輸送層上にパタ-ニングしたマスク(発光面積が2mm×2mmとなるマスク)を設置し、フッ化リチウムを真空蒸着法にて蒸着して1nmの電子注入層を設けた。
この上にアルミニウムを真空蒸着法にて蒸着し0.15μmの陰極を設けた。
前記陽極及び陰極より、それぞれアルミニウムのリ-ド線を結線し、発光積層体を形成した。
【0179】
得られた発光積層体をアルゴンガスで置換したグロ-ブボックス内に入れ、乾燥剤を設けたステンレス製の封止缶および紫外線硬化型の接着剤(XNR5516HV、長瀬チバ製)を用いて封止し、本発明の発光素子を得た。
銅フタロシアニンの蒸着から封止までの作業は、真空または窒素雰囲気下で行い、大気に暴露することなく素子作製を行った。
【0180】
実施例1で用いた、正孔輸送ホスト1、電子輸送ホスト1、Ir錯体1、Balq2、Alq3の構造を以下に示す。
【0181】
【化27】
[図:0001410269000002.jpg]
【0182】
[評価]
実施例1で形成した正孔輸送層中の正孔輸送材料、発光層中の正孔輸送材料、発光層中の電子輸送材料、電子輸送層中の電子輸送材料について、電子輸送層、正孔輸送層におけるそれぞれのイオン化ポテンシャル(Ip)及び電子親和力(Ea)を、それぞれ単層膜(単独層)として下記の方法で測定した。その結果を、下記表1に示す。単層膜は、石英基板上に抵抗加熱蒸着法(蒸着速度0.1~1nm/秒)により作製した各化合物単独の蒸着膜(厚み50nm)である。
…
【0185】
-ホール輸送性ホスト(HTH)及び電子輸送性ホスト(ETH)の発光スペクトルのλmax-
各ホスト化合物の発光スペクトルのλmaxは、上述した石英板上に蒸着された単層膜を、蛍光光度計RF-5300PC(島津製作所製)で測定した。測定は室温、大気下で行った。測定の際の励起光には、各ホスト化合物が単独で吸収を持つ波長の光を用いた。
【0186】
-混合ホストの発光スペクトルのλmax-
混合ホストの発光スペクトルは、発光層と同じ製膜条件で、発光性ドーパントのみを除いて製膜した蒸着膜を作製し、発光スペクトルを測定した。発光スペクトルの測定については上記と同様に行った。
【0187】
-外部量子効率-
外部量子効率は上記により得られた発光素子を用いて、以下の方法で測定した。
作製した発光素子の発光スペクトルの波形は、トプコン社製の分光輝度計SR-3を用いて測定した。この測定データより発光ピークの波長の値を求めた。更に、この分光放射輝度値と測定時の電流・輝度(200cd/m2)から外部量子効率を計算し、下記の基準に従い評価した。結果は、下記表1に記載した。
【0188】
[評価基準]
◎:10%以上
○:6%以上10%未満
△:3%以上6%未満
×:3%未満
【0189】
-駆動耐久性試験-
KEITHLEY製ソースメジャーユニット2400型を用いて、直流電圧を有機EL素子に印加し発光させた。その輝度をトプコン社製の輝度計BM-8を用いて測定した。続いて、この発光素子を初期輝度2000cd/m2の条件で連続駆動試験を行い、輝度が1000cd/m2になった時間を輝度半減時間T(1/2)とした。該輝度半減時間を下記の評価基準に従い評価した。
【0190】
[評価基準]
◎:500hr以上
○:250hr以上500 hr未満
△:100hr以上250未満
×:100hr未満
【0191】
[比較例1]
実施例1において、正孔輸送ホスト1とIr錯体1とを真空蒸着法にて100/8の割合で共蒸着して、30nmの発光層を得たこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の素子を作製した。
【0192】
[比較例2]
実施例1において、電子輸送ホスト1とIr錯体1とを真空蒸着法にて100/8の割合で共蒸着して、30nmの発光層を得たこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の素子を作製した。
【0193】
[比較例3]
実施例1において、正孔輸送正ホスト1と電子輸送性ホスト1とIr錯体1とを、それぞれ独立の蒸着源からを真空蒸着法にて50/50/8の割合で共蒸着して、30nmの発光層を得たこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3の素子を作製した。
…
【0198】
【表1】
[図:0001410269000003.jpg]
【0199】
表1より明らかな通り、実施例1~3で用いた、複数のホスト化合物(混合ホスト)のみを用いて発光層と同一の製膜条件により製膜した単層膜を測定して得られた発光スペクトルのλmaxは、該複数のホスト化合物の各々が単独で示す発光スペクトルの主ピークのいずれよりも15nm以上長波側であり、ホスト化合物間で相互作用体が形成されているものと確認された。
相互作用体を有するダブルホスト(DH)発光素子である実施例1と、シングルホスト(SH)発光素である比較例1及び2との比較から、発光特性(外部量子効率)、駆動耐久性ともに実施例の発光素子の方が良好であることがわかる。
また、実施例1と比較例3の比較は、同じホスト材料の組み合わせで、蒸着方法の違いによって、実施例1では相互作用が発現し、比較例3では発現しない場合の比較である。まず、正孔輸送正ホストのIpが5.4eVより大きい場合相互作用を発現しにくいが、混合物から蒸着することによって相互作用が発現しやすくなることが分かる。また、同じホスト材料の組み合わせでも、相互作用を発現した方が、より高い外部量子効率が得られることが分かる。…」
ク 産業上の利用可能性
「【0200】
本発明の発光素子は、表示素子、ディスプレイ、バックライト、電子写真、照明光源、記録光源、露光光源、読み取り光源、標識、看板、インテリア、光通信等の分野に好適に使用できる。また、本発明において用いた化合物は、医療用途、蛍光増白剤、写真用材料、UV吸収材料、レーザー色素、記録メディア用材料、インクジェット用顔料、カラーフィルター用染料、色変換フィルター等にも適用可能な化合物である。」
(2)甲第1号証に記載された発明
前記記載事項キに基づけば、甲第1号証には、実施例1における発光層と同じ製膜条件で、発光性ドーパントのみを除いて製膜した混合ホストの蒸着膜として、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「正孔輸送性ホストとして下記正孔輸送ホスト1、及び電子輸送材料として下記電子輸送ホスト1をるつぼ中で質量比50:50で混合した混合物を真空蒸着法にて製膜した混合ホストの蒸着膜であって、
正孔輸送ホスト1の発光スペクトルのλmaxは408nm、電子輸送ホスト1の発光スペクトルのλmaxは380nmであるのに対し、混合ホストの発光スペクトルのλmaxは450nmである、混合ホストの蒸着膜。
[図:0001410269000004.jpg]
」
2 甲第2号証
(1)甲第2号証の記載事項
申立人により主引用発明が記載された文献として引用され、本件特許の優先日前に頒布された引用文献である、特開2002-25770号公報(平成14年1月25日出願公開。以下「甲第2号証」という。)には、図面とともに、以下の記載事項がある。なお、引用発明の認定及び判断に用いた箇所に下線を付した。
ア 発明の属する技術分野
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、一般に有機発光デバイスの製造方法に、より詳細には、予めドープしておいた有機材料を使用する有機発光デバイスの製造方法に関する。」
イ 発明が解決しようとする課題
「【0008】従来技術の有機発光デバイスのドープされた発光層は、別個独立に制御された二つの蒸着源、すなわちホスト材料提供用蒸着源とドーパント材料提供用蒸着源とから共蒸着することにより形成されている。…しかしながら、上述の共蒸着法には少なくとも二つの欠点がある。
(1)蒸着速度(ホスト材料及びドーパント材料の双方)を精密に制御することが困難であり、特にホスト材料のドープされた層に内蔵すべきドーパントの濃度が0.01~0.1モル%という比較的低い濃度レベルである場合にはそうであった。
(2)共蒸着法は、デバイスの従前に形成された有機層の上に層を形成し始めるのに先立ち共蒸着源のそれぞれを活性化して所望の蒸気束になるまで調整しなければならないことから、材料利用の点で比較的無駄が多い。通常、機械式シャッターを使用して、ホスト材料の蒸気束とドーパント材料の蒸気束の調整に要する時間の間、デバイスを保護している。このような材料の浪費は、デバイスのコストを増加させるのみならず、蒸着システムのメンテナンスを一層困難化することにもなる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、予めドープしておいた有機層の製造方法であって、上述の従来技術の欠点を極力なくしたものを提供することにある。」
ウ 課題を解決するための手段
「【0010】
【課題を解決するための手段】本目的は、有機発光デバイスにおける層を形成するために、予めドープしておいた有機発光材料を蒸着する方法であって、(a)少なくとも一種の有機発光ホスト材料と少なくとも一種の発光性有機ドーパント材料とを含む蒸着可能な均質固体混合物を提供し、そして(b)当該均質固体混合物を蒸着して有機発光デバイスにおける層を形成する工程を含む方法において達成される。」
エ 発明の実施の形態
「【0024】混合物の2以上の成分を分留する分野では周知であるように、混合物の各成分の蒸気圧が同等又はそれに近い場合には、当該複数の成分が昇華(蒸発)により分離することは事実上あり得ない。1又は2以上の有機発光ホスト材料と1又は2以上の有機発光性ドーパント材料との均質混合物を使用する本発明は、上述の知見に基づくものである。したがって、1又は2以上の有機発光ホスト材料と1又は2以上の有機発光性ドーパント材料は、蒸発温度が相対的に密接に調和することを基準に均質混合物が形成されるように選ばれる。
…
【0026】発光ホスト材料と発光性ドーパント材料との均質混合物は、各固体材料を計量して混合し、その混合物を、化学的に不活性な環境、例えば、不活性ガスを提供し得る容器の中に入れることによって調製することができる。次いで、当該混合物を当該容器内で溶融することにより均質混合物にする。周囲温度にまで冷却した後、ホスト材料とドーパントとの均質混合物を容器から取り出し、当該均質混合物の一部を蒸発源160に入れ、そこから昇華又は蒸発させることにより有機正孔輸送層22の上に成長する発光層24gを形成する。ホスト材料におけるドーパント材料の好適な濃度は0.05~5.0モル%の範囲内である。
【0027】別法として、少なくとも一種の有機発光ホスト材料と少なくとも一種の発光性有機ドーパント材料との均質混合物を、各材料を計量して共通溶剤又は溶剤混合物に溶解させ、その溶液を、当該溶剤又は溶剤混合物の除去を制御し得る容器の中に入れることによって調製することもできる。その後、均質混合物の一部を容器から取り出し、蒸発源160に入れ、そこから昇華又は蒸発させる。
…
【0029】有機正孔輸送材料及び/又は有機電子輸送材料を予めドープしておくことの主目的は、これらから形成されるドープされた有機層の物理特性を改良することにある。例えば、それぞれ予めドープしておいた材料から単一蒸着源による蒸着法で形成されるドープされた有機正孔輸送層及び/又はドープされた有機電子輸送層は、有機発光デバイスにおいて下記の有利な特徴の1又は2以上を示すことができる。
1)ピンホール欠陥の数が低下する。
2)電荷輸送特性が向上する。
3)デバイス動作時の温度許容度が向上する。
4)デバイス動作時及び保存中の安定性が向上する。
5)当該層のアモルファス特性が向上する。
【0030】予めドープされた有機正孔輸送材料は、特定量の少なくとも一種の有機正孔輸送ホスト材料と特定量の少なくとも一種の有機正孔輸送ドーパント材料との均質固体混合物を形成することによって得られる。量の選定は、ホスト材料中のドーパント材料濃度が1.0~50モル%の好適な範囲内にある均質混合物が得られるように行う。正孔輸送ホスト材料は、1又は2以上のホスト成分であって各々所定の蒸発温度Tを示すものと、1又は2以上の有機ドーパント材料であって各々(T-40)℃~(T+40)℃の範囲内の蒸発温度を示すものとを含む。次いで、予めドープしておいた有機正孔輸送材料の均質固体混合物を蒸着源160(図3)において使用し、そこから昇華又は蒸発させて、ドープされた有機正孔輸送層をアノード上に形成する。」
オ 実施例
「【0032】
【実施例】本発明の理解を深めるため下記の実施例を提供する。簡略化するため、材料とそれから形成される層を以下のように略称する。
Alq:8-ヒドロキシキノリン、アルミニウム塩(アルミニウムトリスオキシンとしても知られている);電子輸送層形成用
ITO:インジウム錫酸化物;透光性アノード形成用
MgAg:体積比10:1のマグネシウム:銀;カソード形成用
NPB:4,4’-ビス[1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]-ビフェニル;正孔輸送層形成用
発光ホスト材料:
ADN:9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン
TBADN:2-t-ブチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン
ドーパント材料:
ルブレン(Rubrene):市販の発光性材料
TBP:2,5,8,11-テトラ-t-ブチルペリレン
【0033】例1:予めドープされた発光材料BEM-1の調製
49.5モル%のADNと49.5モル%のTBADNと1モル%のTBPとを固体材料として混合し、その混合物を化学的に不活性な環境を有する容器の中で溶融させることにより、青色発光性の予めドープされた材料BEM-1を調製した。周囲温度にまで冷却した後、予めドープされた均質な発光材料を容器から取り出した。その予めドープされた材料の一部を使用して、ドープされた発光層の蒸着を行った。
…
【0037】予めドープされた発光材料からの有機発光デバイス(OLED)の製作
下記例の各々において、透光性ITO被覆ガラス板は、市販の洗剤中で超音波処理し、脱イオン水でリンスし、トルエン蒸気中で脱脂処理し、そして強酸化剤で処理したものとした。
例5:有機発光デバイスOLED-1Aの製作
a)ITO上に厚さ150nmのNPB正孔輸送層を熱蒸着法で蒸着した。
b)NPB層の上に、予めドープされた材料BEM-1を蒸着源(図3参照)から熱蒸着させることにより、厚さ20nmの発光層を蒸着した。
c)発光層上に厚さ37.5nmのAlq電子輸送層を熱蒸着法で蒸着した。
d)Alq層上に、二つの蒸着源(MgとAg)から熱共蒸着させることにより、厚さ200nmのMgAgカソードを蒸着した。上述のOLED構造体を、表2中、ITO/NPB(150)/BEM-1(t)/Alq(37.5)/MgAg(200)のように略記する。
…
【0041】製作した各OLEDについて、カソードの電位がアノードよりも負になるように駆動電圧を各デバイスに印加した。駆動電圧は、電流密度が20mA/cm2になるように調整した。発光の強度を測定し、カンデラ/m2(cd/m2)で表示した。発光強度と電流密度から発光効率を算出し、カンデラ/アンペア(cd/A)で表示した。発光の色座標を測定し、CIEx及びCIEyで表示した。発光のピーク波長を測定し、ナノメートル(nm)単位の発光ピーク(EP)で表示した。上記OLEDのテスト結果を表1、表2及び表3に示す。
【0042】
【表1】
[図:0001410269000005.jpg]
【0043】表1に記載のデバイスのテスト結果は、BEM-1層を厚くすると、発光強度が若干低下し、しかもCIEy値が高くなることを示している。」
カ 発明の効果
「【0051】
【発明の効果】本発明は、単一の蒸着源を使用する点で有利である。単一蒸着源を使用することにより、有機発光デバイスにおいて、デバイス間のばらつきがない予めドープされた有機層を形成することができる。その上、単一蒸着源を使用することにより、単一蒸着源に由来する予めドープされた有機材料は、特定のドーパント濃度を有する有機発光層を形成するための有効な方法を提供する。」
(2)甲第2号証に記載された発明
甲第2号証の記載事項オに基づけば、甲第2号証には、実施例1において予め有機発光デバイス(OLED)の製作用いられる、予めドープされた均質な発光材料として、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「49.5モル%の9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセンと49.5モル%の2-t-ブチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセンと1モル%の2,5,8,11-テトラ-t-ブチルペリレンとを固体材料として混合し、その混合物を化学的に不活性な環境を有する容器の中で溶融させることにより、青色発光性の予めドープされた材料BEM-1を調製し、周囲温度にまで冷却した後、容器から取り出すことにより得られた、有機発光デバイス(OLED)の製作に用いられる予めドープされた均質な発光材料。」
3 甲第3号証
(1)甲第3号証の記載事項
申立人により主引用発明が記載された文献として引用され、本件特許の優先日前に頒布された引用文献である、特開2003-45650号公報(平成15年2月14日出願公開。以下「甲第3号証」という。)には、図面とともに、以下の記載事項がある。なお、引用発明の認定及び判断に用いた箇所に下線を付した。
ア 発明の属する技術分野
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、蒸発源を加熱して生じ蒸発させたガス状の有機原料を基板上に付着させる蒸着法によって基板上に有機薄膜を形成する有機EL素子の製造装置であって、特に、高価な有機原料物質の効率良く回収することを可能にする有機EL素子の製造装置に関する。」
イ 発明が解決しようとする課題
「【0009】この発明の目的は、蒸発筒を冷却することで、蒸発筒内で蒸発されその外部に拡散しようとするガス状の有機原料を蒸発筒の内面に付着させて、有機原料を固体状態で回収することを可能にし、高価な有機原料の無駄な使用量を可及的に少なくして、有機EL素子の製造コストを低減することができる有機EL素子の製造装置を提供することである。」
ウ 課題を解決するための手段
「【0010】
【課題を解決するための手段】この発明による有機EL素子の製造装置は、真空チャンバの内部に縦置き状態に配設され且つ上側の開口の上方において成膜すべき基板が配置される蒸発筒、前記蒸発筒の内部に関連して配置されており且つ前記基板に蒸着するための有機原料を蒸発可能に収容する蒸発源、及び前記蒸発筒を冷却する冷却手段から構成されている。
【0011】この有機EL素子の製造装置においては、従来と同様、有機原料を収容した蒸発セルが加熱されて蒸発セル内に収容されている有機原料が蒸発する。蒸発した有機原料は、蒸発筒の内部を上昇して、蒸発筒の上側の開口の上方に配置されている基板の下側面に付着することで蒸着される。基板への蒸着のために蒸発された有機原料ガスは、蒸発源から蒸発させる度に、蒸発筒の開口からも蒸発筒の外部へ拡散しようとするが、この発明によれば、蒸発筒は冷却手段によって冷却されているので、そうした有機原料ガスは冷却されている蒸発筒に触れて温度が低下し蒸発筒に直接昇華して付着する。蒸発筒に付着した有機原料は、製造装置の点検等の適宜の時期に、蒸発筒から掻き取ることにより、回収される。」
エ 発明の効果
「【0027】
【発明の効果】この発明による有機EL素子の製造装置によれば、有機原料を収容した蒸発源を加熱することで蒸発源内に収容されている有機原料が蒸発し、蒸発した有機原料ガスは蒸発筒の上側の開口の上方に配置されている基板に向かって蒸発筒内を安定されて内部を上昇するが、蒸発筒は冷却手段によって冷却されているので、基板への蒸着に使用されなかった有機原料ガスの一部は、冷却されている蒸発筒に触れて温度が低下し蒸発筒に直接昇華して付着する。蒸発筒に付着した有機原料は、製造装置の点検等の適宜の時期に、蒸発筒から掻き取ることにより、固体状態で回収される。従って、従来の製造装置では蒸着されることなく回収が困難であった有機原料ガスを固体の状態で回収することが可能となり、高価な有機原料を回収して有効に再使用することができる。その結果、有機EL素子の製造コストを低減し、有機EL素子を安価に提供することができる。」
(2)甲第3号証に記載された発明
甲第3号証の記載事項エに基づけば、甲第3号証には、有機EL素子の製造装置から回収される有機原料として、次の発明(以下「甲3発明」が記載されていると認められる。
「有機EL素子の製造装置において、基板への蒸着に使用されなかった有機原料ガスの一部が、冷却されている蒸発筒に触れて温度が低下し蒸発筒に直接昇華して付着した有機原料であって、製造装置の点検等の適宜の時期に、蒸発筒から掻き取ることにより、固体状態で回収される有機原料。」
第5 当審の判断
1 甲第1号証を主引用発明とする進歩性
(1)本件特許発明1
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)「構成要件A」少なくとも2種類の有機化合物の有機アロイ
甲1発明の「電子輸送ホスト1」及び「正孔輸送ホスト1」は、それぞれ、本件特許発明1の「第1有機化合物」及び「第2有機化合物」に相当し、本件特許発明1における「少なくとも2種類の有機化合物」であって、「第1有機化合物と第2有機化合物を含み、」とする要件を満たしている。
また、甲1発明の「混合ホストの蒸着膜」は、「正孔輸送ホスト1」及び「電子輸送ホスト1」を「混合」した混合物を「真空蒸着法にて製膜」して得られたものである。そうすると、甲1発明の「混合ホストの蒸着膜」は、本件特許発明1における「少なくとも2種類の有機化合物を前処理により得られた物質」であるとの要件を満たしている。
さらに、甲1発明の当該前処理によって得られた「混合ホストの蒸着膜」の発光スペクトルのλmaxは、「正孔輸送ホスト1」及び「電子輸送ホスト1」の発光スペクトルのλmaxと異なることから、「正孔輸送ホスト1」及び「電子輸送ホスト1」を「真空蒸着法にて製膜」したことにより、「正孔輸送ホスト1」及び「電子輸送ホスト1」の間に化学的相互作用が生じているといえる。したがって、甲1発明の「混合ホストの蒸着膜」は、本件特許発明1における「有機アロイ(organic alloy)」を構成しているといえる。
(イ)「構成要件C」前処理
本件特許の明細書の段落【0030】における「ここでエバポレーション温度とは、第1有機化合物と第2有機化合物が約10-3Torr以下の高真空で基板上に所定の速度で蒸着可能な温度をいい、」との記載に基づけば、本件特許発明1の前処理における「エバポレーション温度以上の温度」は、「約10-3Torr以下の高真空」で「蒸着可能な温度」であれば良いものと理解できる。
甲1発明は、上記のとおり、「正孔輸送ホスト1」及び「電子輸送ホスト1」を「混合」した混合物を「真空蒸着法にて製膜」して得られたものであるところ、その際の温度は、「約10-3Torr以下の高真空」とした場合でも「蒸着可能な温度」であるといえる。そうすると、甲1発明において、「正孔輸送ホスト1」及び「電子輸送ホスト1」の混合物を「真空蒸着法にて製膜」した際に、「正孔輸送ホスト1」及び「電子輸送ホスト1」は、熱処理によって気化した後、冷却されて固体化しているといえる。
したがって、甲1発明の「正孔輸送ホスト1」及び「電子輸送ホスト1」の混合物を「真空蒸着法にて製膜」する前処理は、本件特許発明1の「前記第1有機化合物と前記第2有機化合物のエバポレーション温度以上の温度で熱処理して液化または気化した後、冷却して固体化する段階から得られ」るとする要件を満たしている。
(ウ)「構成要件D」最大発光波長
甲1発明は、「正孔輸送ホスト1」の発光スペクトルのλmaxは「408nm」であり、「電子輸送ホスト1」の発光スペクトルのλmaxは「380nm」であるのに対し、「混合ホスト」の発光スペクトルのλmaxが「450nm」である。そうすると、甲1発明の「混合ホストの蒸着膜」の最大発光波長は、本件特許発明1における「前記第1有機化合物、前記第2有機化合物、および前記第1有機化合物と前記第2有機化合物の単純混合物の最大発光波長と異なり、」とする要件を満たしているといえる。
(エ)「構成要件E」発光性金属錯体
甲1発明の「電子輸送ホスト1」及び「正孔輸送ホスト1」は、その化学構造からみて、発光性金属錯体には該当しない。そうすると、甲1発明の「蒸着膜」は、本件特許発明1の「前記第1有機化合物および前記第2有機化合物は、発光性金属錯体を含まず、」とする要件を満たしている。
(オ)一致点及び相違点
以上より、本件特許発明1と甲1発明とは、
「少なくとも2種類の有機化合物の有機アロイ(organic alloy)であって、
前記有機アロイは、前記少なくとも2種類の有機化合物を前処理により得られた物質であり、
前記少なくとも2種類の有機化合物は、第1有機化合物と第2有機化合物を含み、
前記前処理は、前記第1有機化合物と前記第2有機化合物のエバポレーション温度以上の温度で熱処理して液化または気化した後、冷却して固体化する段階から得られ、
前記有機アロイの最大発光波長は、前記第1有機化合物、前記第2有機化合物、および前記第1有機化合物と前記第2有機化合物の単純混合物の最大発光波長と異なり、
前記第1有機化合物および前記第2有機化合物は、発光性金属錯体を含まない、有機アロイ。」
である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。
[相違点1-1]
本件特許発明1は、「10-3torr以下で第1有機化合物と第2有機化合物の蒸着速度が0.5Å/秒であるときのエバポレーション温度の差は、20℃以下」であるのに対し、甲1発明は、「正孔輸送ホスト1」と「電子輸送ホスト1」の本件特許発明1に規定される条件下における「エバポレーション温度」が明らかでなく、その差が20℃以下であるか不明である点。
[相違点1-2]
本件特許発明1は、第2有機化合物について、「化学式2で表される少なくとも1種を含む」と特定しているのに対し、甲1発明の「正孔輸送ホスト1」は、化学式2で表されるものでない点。
[相違点1-3]
本件特許発明1は、「有機光電子素子用」であるのに対し、甲1発明の混合ホストの蒸着膜は、発光層と同じ製膜条件で、発光性ドーパントのみを除いて製膜したものであって、発光スペクトルの測定に用いられるものである点。
イ 判断
事案に鑑みて[相違点1-2]について検討する。
甲第1号証の段落【0050】には、正孔輸送性ホストについて、「中でも(2)を満たす正孔輸送層ホストとしては、カルバゾール誘導体、芳香族第三級アミン化合物、チオフェン誘導体が好ましく、特に分子内にカルバゾール骨格及び/又は芳香族第三級アミン骨格を複数個有するものが好ましい。」と記載されている。
しかし、甲第1号証は、分子内にカルバゾール骨格を複数個有するものを示唆するにとどまり、本件特許発明1における[化学式2]の要件を満たす化合物を用いることについて記載も示唆もされていない。ここで申立人は、特許異議申立書において、「甲1の段落(0050)において、正孔輸送ホストとして、カルバゾー骨格を複数有するものが好ましいという記載があるから、ビカルバゾール化合物を示唆するといえる。」(第13頁第8~10行)と主張しているが、甲1発明の「正孔輸送ホスト1」も、分子内にカルバゾール骨格を複数個有するものである。そして、段落【0050】の記載が、特に、ビカルバゾール化合物を用いることを動機づけるものとはいえない。そうすると、当業者であったとしても、甲第1号証の記載に基づいて本件特許発明1の上記[相違点1-2]に係る構成とすることが容易になし得たということはできない。
また、甲第1号証の記載事項エに基づけば、甲1発明は、課題を解決するにあたり、「該複数のホスト化合物のみを用いて発光層と同一の製膜条件により製膜した単層膜を測定して得られた発光スペクトルの主ピークが、該複数のホスト化合物の各々が単独で示す発光スペクトルの主ピークのいずれよりも15nm以上長波側である」ことを必須の要件とするものと理解できる。当該要件は、「発光層中のホスト化合物間が相互作用によって相互作用体を形成する」ことによって成立するものであるから、甲1発明の正孔輸送性ホストは、電子輸送ホストとの間で相互作用によって相互作用体を形成することによって成立するものを選択することを要する。ここで申立人は、特許異議申立書において、「OLEDの発光層に2種類のホストを使用すること、その一方のホストとして化学式2のようなビカルバゾール化合物を使用することは多くの文献で知られている。これを裏付けるものとして、後記する甲6~10がある。」(第14頁第17~19行)と主張している。しかし、申立人が提示する甲第6号証~甲第10号証は、本件特許発明1における化学式2で表される化合物を開示するものの、いずれも、化学式2で表される化合物が、電子輸送ホストとの間で相互作用によって相互作用体を形成することを開示していない。そうすると、甲1発明の正孔輸送ホスト1の代わりに、甲第6号証~甲第10号証に開示される化合物を採用する動機付けがあるとはいえない。
したがって、甲第6号証~甲第10号証の記載を参酌したとしても、甲1発明の正孔輸送ホスト1について、当業者が、本件特許発明1の上記[相違点1-2]に係る構成に変更することが容易になし得たということはできない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても容易に発明できたものということはできない。
したがって、本件特許発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
(2)本件特許発明2~11
本件特許発明2~11と甲1発明を対比すると、両者は、少なくとも同じ[相違点1-2]において相違する。そうすると、本件特許発明2~11は、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても容易に発明できたものということはできない。
したがって、本件特許発明2~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
2 甲第2号証を主引用発明とする進歩性
(1)本件特許発明1
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)「構成要件A」少なくとも2種類の有機化合物の有機アロイ
甲2発明の「9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン」、「2-t-ブチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン」及び「2,5,8,11-テトラ-t-ブチルペリレン」は、いずれも、本件特許発明1の「有機化合物」に相当し、これらのいずれかが、本件特許発明1の「第1有機化合物」及び「第2有機化合物」に相当するといえる。
また、甲2発明の「予めドープされた均質な発光材料」は、上記3種類の有機化合物を、「混合」し、その混合物を「溶融」させて「調製」し、「冷却」することにより得られたものである。そうすると、その調整方法からみて、甲2発明の「予めドープされた均質な発光材料」は、前処理を経ることによって有機アロイを形成しているといえる。したがって、甲2発明の「予めドープされた均質な発光材料」は、本件特許発明1の「少なくとも2種類の有機化合物の有機アロイ(organic alloy)」であるとする要件を満たしている。さらに、甲2発明の「予めドープされた均質な発光材料」は、本件特許発明1の「少なくとも2種類の有機化合物を前処理により得られた物質」であるとする要件も満たしている。
(イ)「構成要件C」前処理
甲2発明の「予めドープされた均質な発光材料」は、上記のとおり、3種類の有機化合物を、「混合」し、その混合物を「溶融」させて「調製」し、「冷却」することにより得られたものである。甲2発明は、混合物を溶融させた後に、冷却していることから、熱処理して液化した後、冷却して固体化しているといえる。したがって、甲2発明の「予めドープされた均質な発光材料」は、本件特許発明1の「熱処理して液化または気化した後、冷却して固体化する段階」から得られるとする要件を満たしている。
(ウ)「構成要件E」発光性金属錯体
甲2発明の「9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン」、「2-t-ブチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン」及び「2,5,8,11-テトラ-t-ブチルペリレン」は、いずれも、発光性金属錯体には当たらない。そうすると、甲2発明の「予めドープされた均質な発光材料」は、本件特許発明1の「前記第1有機化合物および前記第2有機化合物は、発光性金属錯体を含まず、」とする要件を満たしている。
(エ)「構成要件A2」用途
甲2発明の「予めドープされた均質な発光材料」は、「有機発光デバイス(OLED)の製作に用いられる」とされている。そうすると、甲2発明の「予めドープされた均質な発光材料」は、本件特許発明1の「有機光電子素子用」とする要件を満たしている。
(オ)一致点及び相違点
以上より、本件特許発明1と甲2発明とは、
「【請求項1】
少なくとも2種類の有機化合物の有機アロイ(organic alloy)であって、
前記有機アロイは、前記少なくとも2種類の有機化合物を前処理により得られた物質であり、
前記少なくとも2種類の有機化合物は、第1有機化合物と第2有機化合物を含み、
前記前処理は、熱処理して液化または気化した後、冷却して固体化する段階から得られ、
前記第1有機化合物および前記第2有機化合物は、発光性金属錯体を含まない、有機光電子素子用有機アロイ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点2-1]
本件特許発明1は、「10-3torr以下で第1有機化合物と第2有機化合物の蒸着速度が0.5Å/秒であるときのエバポレーション温度の差は、20℃以下」であるのに対し、甲2発明は、「9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン」と「2-t-ブチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン」と「2,5,8,11-テトラ-t-ブチルペリレン」の、本件特許発明1に規定される条件下における「エバポレーション温度」が明らかでなく、その差が20℃以下であるか不明である点。
[相違点2-2]
前処理について、本件特許発明1は、「前記第1有機化合物と前記第2有機化合物のエバポレーション温度以上の温度」で熱処理するのに対し、甲2発明は、溶融させる際の温度が明らかでない点。
[相違点2-3]
本件特許発明1は、「前記有機アロイの最大発光波長は、前記第1有機化合物、前記第2有機化合物、および前記第1有機化合物と前記第2有機化合物の単純混合物の最大発光波長と異なり、」と特定されているのに対し、甲2発明は、「予めドープされた均質な発光材料」の最大発光波長と「9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン」、「2-t-ブチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン」、「2,5,8,11-テトラ-t-ブチルペリレン」、及び、これらの単純混合物の最大発光波長が異なるか明らかでない。
[相違点2-4]
本件特許発明1は、第2有機化合物について、「化学式2で表される少なくとも1種を含む」と特定しているのに対し、甲2発明の「9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン」、「2-t-ブチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン」及び「2,5,8,11-テトラ-t-ブチルペリレン」は、いずれも、化学式2で表されるものでない点。
イ 判断
事案に鑑みて[相違点2-3]及び[相違点2-4]について検討する。
甲第2号証の記載事項エには、「有機正孔輸送材料及び/又は有機電子輸送材料を予めドープしておくことの主目的は、これらから形成されるドープされた有機層の物理特性を改良することにある。例えば、それぞれ予めドープしておいた材料から単一蒸着源による蒸着法で形成されるドープされた有機正孔輸送層及び/又はドープされた有機電子輸送層は、有機発光デバイスにおいて下記の有利な特徴の1又は2以上を示すことができる。」(段落【0029】)との記載があるものの、有機正孔輸送材料と有機電子輸送材料とを、有機アロイとした場合と、単体及び単純混合物とで、最大発光波長が異なる組み合わせで用いることについて何ら示唆がない。また、有機正孔輸送材料として、本件特許発明1における[化学式2]の要件を満たす化合物を用いることについて記載も示唆もされていない。
申立人は、特許異議申立書において、「要件F)については、甲2の実施例の化合物は満足しないが、甲2は実施例の物に限定するものではないし、上記のようにビカルバゾール化合物はホストとして広く知られた化合物なので、これを選択することに困難性はない。」(第25頁第5~7行)と主張している。しかし、前記1(1)イにおいて検討したとおり、申立人が提示する甲第6号証~甲第10号証は、本件特許発明1における化学式2で表される化合物を開示するものの、申立人が提示する甲第1号証や、甲第3号証~甲第5号証、甲第11号証を参照しても、本件特許発明1における[化学式2]の要件を満たす化合物と他の化合物との間で、有機アロイとした場合と、単体及び単純混合物とで、最大発光波長が異なること(相互作用が生じること)は示されていない。
そうすると、甲2発明と、甲第6号証~甲第10号証、あるいは、甲第1号証、甲第3号証~甲第5号証、甲第11号証に記載された事項のいずれを組み合わせたとしても、本件特許発明1の上記[相違点2-3]及び[相違点2-4]に係る構成に到ることはできない。
したがって、当業者であったとしても、甲2発明に基づいて、本件特許発明1の上記[相違点2-3]及び[相違点2-4]に係る構成を満たすものに変更することが容易になし得たということはできない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても容易に発明できたものということはできない。
したがって、本件特許発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
(2)本件特許発明2~11
本件特許発明2~11と甲2発明を対比すると、両者は、少なくとも同じ[相違点2-3]及び[相違点2-4]において相違する。そうすると、本件特許発明2~11は、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても容易に発明できたものということはできない。
したがって、本件特許発明2~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
3 甲第3号証を主引用発明とする進歩性
(1)本件特許発明1
ア 対比
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
(ア)「構成要件A」少なくとも2種類の有機化合物の有機アロイ
甲3発明の「有機原料」が有機化合物を含むことは明らかである。そうすると、甲3発明の「有機原料」に含まれる「有機化合物」は、本件特許発明1の「有機化合物」に相当する。
(イ)「構成要件A2」用途
甲3発明の「有機原料」は、「有機EL素子の製造装置」において回収されるものであるから、本件特許発明1における「有機光電子素子用」との要件を満たす。
(ウ)一致点及び相違点
以上より、本件特許発明1と甲3発明とは、
「有機光電子素子用の有機化合物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点3]
本件特許発明1は、有機化合物が、「少なくとも2種類」の有機化合物の「有機アロイ(organic alloy)」であって、「前記有機アロイは、前記少なくとも2種類の有機化合物を前処理により得られた物質」であって「第1有機化合物と第2有機化合物」を含み、「10-3torr以下で第1有機化合物と第2有機化合物の蒸着速度が0.5Å/秒であるときのエバポレーション温度の差は、20℃以下」であり、「前記前処理は、前記第1有機化合物と前記第2有機化合物のエバポレーション温度以上の温度で熱処理して液化または気化した後、冷却して固体化する段階から得られ」、「前記有機アロイの最大発光波長は、前記第1有機化合物、前記第2有機化合物、および前記第1有機化合物と前記第2有機化合物の単純混合物の最大発光波長と異なり」、「前記第1有機化合物および前記第2有機化合物は、発光性金属錯体を含まず」、第2有機化合物は、「化学式2で表される少なくとも1種」を含むとされるのに対し、甲3発明は、少なくとも2種類の有機化合物の有機アロイであること、及び、発光性金属錯体を含まないことが特定されておらず、本件特許発明1における「エバポレーション温度」の差、「最大発光波長」の異同、有機化合物の化学構造が特定されていない点。
イ 判断
甲第3号証の記載事項イには、発明が解決しようとする課題について、「有機原料を固体状態で回収することを可能にし、高価な有機原料の無駄な使用量を可及的に少なくして、有機EL素子の製造コストを低減することができる」と記載されている。発明が解決しようとする課題からみて、甲3発明は、有機原料について、その種類を特定するものではなく、混合物又は有機アロイであることを要するものでもない。また、甲第3号証には、有機原料の種類を示唆する記載がない。このような甲3発明において、特に、「前記有機アロイの最大発光波長は、前記第1有機化合物、前記第2有機化合物、および前記第1有機化合物と前記第2有機化合物の単純混合物の最大発光波長と異なり」かつ「化学式2で表される少なくとも1種」を含むとする動機が存在するとはいえない。
申立人は、特許異議申立書において、「要件B)、D)、E)、F)については、甲3は明記しないが、上記のようにこれらの要件は周知か、当然に満たされるものであるので、これの要件を満足するものとすることに困難性はない。」(第25頁第15~17行)と主張している。しかし、前記1(1)イ等において検討したとおり、申立人が提示する甲第6号証~甲第10号証は、本件特許発明1における化学式2で表される化合物を開示するものの、申立人が提示する甲第1号証や、甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第11号証を参照しても、本件特許発明1における[化学式2]の要件を満たす化合物と他の化合物との間で、有機アロイとした場合と、単体及び単純混合物とで、最大発光波長が異なるという相互作用を生じることは示されていない。
そうすると、甲3発明と、甲第6号証~甲第10号証、あるいは、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第11号証に記載された事項のいずれを組み合わせたとしても、本件特許発明1の上記[相違点3]に係る構成に到ることはできない。
したがって、当業者であったとしても、甲3発明に基づいて、本件特許発明1の上記[相違点3]に係る構成を満たすものに変更することが容易になし得たということはできない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、当業者であっても容易に発明できたものということはできない。
したがって、本件特許発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
(2)本件特許発明2~11
本件特許発明2~11と甲3発明を対比すると、両者は、少なくとも同じ[相違点3]において相違する。そうすると、本件特許発明2~11は、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても容易に発明できたものということはできない。
したがって、本件特許発明2~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
4 サポート要件及び実施可能要件
(1)第1有機化合物と第2有機化合物について
申立人は、特許異議申立書において、実施例に記載された化合物とその組み合わせについて「このようなわずかな実施例だけで、本件特許の請求項1が支持されているとは言えないことは明らかである。」(第29頁第7~8行)と主張している。
しかし、本件特許の発明の詳細な説明には、課題を解決するための手段について、有機アロイの発光波長が、「前記第1有機化合物、前記第2有機化合物、および前記第1有機化合物と前記第2有機化合物の単純混合物の発光波長と異なる」(段落【0011】)ことと記載されている。そして、実施例(段落【0206】~【0208】)には、同じ有機化合物の組み合わせ(実施例3と比較例8、実施例4と比較例10)であっても、「有機アロイ」の形成により、発光効率及び寿命が同等か、または改善されたことが示されている。
そうすると、本件特許の効果は、第1有機化合物と第2有機化合物の組み合わせに依存するものでなく、第1有機化合物と第2有機化合物とが、本件特許における要件を満たす「有機アロイ」を形成しているか否かに依存するものと理解できる。したがって、本件特許発明1~11は、発明が解決しようとする課題を解決できると当業者が理解できるように記載されたものであるから、サポート要件を満たしているといえる。
また、本件特許の明細書には、課題を解決することができる実施例が開示されている。そして、実施例において開示されていない化合物の組合せであっても、段落【0042】~【0101】を参考にし、本件特許における「エバポレーション温度」の差が20℃以下となる組み合わせから、第1有機化合物、第2有機化合物、および第1有機化合物と第2有機化合物の単純混合物の最大発光波長と異なる最大発光波長を示す有機アロイを選択すれば良いのであるから、過大な試行錯誤を要するということもできない。したがって、本件特許の明細書の記載は、当業者が、本件特許発明1~11の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、実施可能要件を満たしているといえる。
(2)要件B)について
申立人は、特許異議申立書において、エバポレーション温度差について「この測定条件は特殊であって、この温度差は非常に特殊なパラメータである。そのため、当業者であっても化合物の融点等の一般的な物性からはかかるパラメータを予測することはできず、実際に多くの化合物を合成し、多くの組み合わせで混合し、しかも上記特殊な条件で測定するという多大な手間がかかる実験や測定を必要とするから、本件特許発明は当業者が容易に実施することができないものとなっている。」(第30頁26行~第31頁第4行)と主張している。
しかし、本件特許における「エバポレーション温度の差」を求める際の条件は「10-3torr以下」で「蒸着速度が0.5Å/秒」であるときと定められている。そうすると、本件特許の明細書の段落【0042】~【0101】を参考にして候補となる化合物を選択し、当該化合物の上記「エバポレーション温度」を求めること、及び、その「差」を計算することは、いずれも単純作業でしかない。そうすると、本件特許における「エバポレーション温度の差」が特殊なパラメータであったとしても、本件特許の明細書の記載に基づいて単純作業により求めることができるものであるから、過度な試行錯誤を要するとはいえない。
したがって、本件特許の明細書の記載は、当業者が、本件特許発明1~11の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、実施可能要件を満たしているといえる。
(3)要件D)について
申立人は、特許異議申立書において、「各化合物、及び単純混合物についての最大発光波長の測定が必要であるが、これらは特殊なパラメータであって、化合物から予測できるものでもなく、一般に知られているものでもないので、要件B)と同様に多大な手間がかかるから、本件特許発明は当業者が容易に実施することができないものとなっている。特に、本件特許の請求項4に記載のような発光波長差を測定することは至難である。」(第31頁第6~11行)と主張している。
しかし、例えば本件特許の段落【0162】に記載されているように、最大発光波長の測定は、市販の蛍光分光光度計を用いて測定することができるものである。そうすると、当業者が容易に実施することができないとする根拠を見いだせない。本件特許発明4についても同様である。
したがって、本件特許の明細書の記載は、当業者が、本件特許発明1~11の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、実施可能要件を満たしているといえる。
(4)要件A2)について
申立人は、特許異議申立書において、「本件特許発明の要件A2)は、有機アロイの用途を特定するが、使用方法については何も特定しない。…このような場合についてまで、そのような効果が発現するか不明であり、当業者が容易に実施することができないものとしているか、明細書の詳細な発明の欄に記載された発明とは言えないものとなっている。」(第31頁第13~24行)と主張している。
しかし、前記(1)において検討したとおり、実施例を参酌すれば、本件特許の効果は、第1有機化合物と第2有機化合物の組み合わせに依存するものでなく、第1有機化合物と第2有機化合物とが、本件特許における要件を満たす「有機アロイ」を形成しているか否かに依存するものと理解でき、この効果が、必ずしも「有機アロイ」の使用方法に依るものとは解されない。
したがって、本件特許発明1~11は、発明が解決しようとする課題を解決できると当業者が理解できるように記載されたものであるから、サポート要件を満たしているといえる。
(5)効果について
申立人は、特許異議申立書において、「本件特許発明の効果として…そのような効果を示す論理的な理由が不明であるから、…本件特許発明は明細書の詳細な発明の欄に記載された発明とは言えないものとなっている。」(第32頁第1~5行)、「有機化合物の多くは加熱すると溶融して液体となって、アロイとしての特性がなくなるはずである。」(第32頁第10~11行)と主張している。
しかし、前記(1)において検討したとおり、実施例を参酌すれば、本件特許の効果は、第1有機化合物と第2有機化合物の組み合わせに依存するものでなく、第1有機化合物と第2有機化合物とが、本件特許における要件を満たす「有機アロイ」を形成しているか否かに依存するものと理解できる。本件特許の発明の詳細な説明に論理的な理由が説明されていないとしても、実施例の記載に基づけば、当業者は、同じ有機化合物の組み合わせであっても、「有機アロイ」の形成により、発光効率及び寿命が同等か、または改善されることを理解するといえる。
また、本件特許発明1~11は、「有機光電子素子用アロイ」又は有機アロイを含む「有機光電子素子」及び「表示装置」に関する発明であって、「溶融して液体となって、アロイとしての特性がなくな」ったような態様はそもそも、本件特許発明1~11の技術的範囲に含まれないものと解するのが相当である。
したがって、本件特許発明1~11は、発明が解決しようとする課題を解決できると当業者が理解できるように記載されたものであるから、サポート要件を満たしているといえる。
(6)小括
以上のとおり、本件特許発明1~11は、サポート要件及び実施可能要件を満たしているから、本件特許発明1~11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号又は第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
5 明確性要件
(1)有機アロイ
申立人は、特許異議申立書において、「有機アロイはOLEDの技術分野で確定又はよく知られた技術用語ではないから、明細書中で厳密に定義する必要があるはずである。しかるに、そのような定義は一切なく、しかも関連する先行技術の開示もないので、当業者であっても、有機アロイを明確に理解することができない。」(第32頁第22~26行)、「実施例に記載されたと同様の条件で前処理した混合物の全てが有機アロイとなるかさえ明らかでないから、明確でない。」(第33頁第9~11行)、「従来技術…が本件特許発明でいう有機アロイといかなる相違があるか、又は相違がないか不明である上、相違があるとしたらどの点にあるかさえ明確でないから、本件特許発明は不明確である。」(第33頁第12~15行)と主張している。
しかし、「アロイ」とは、元来、異なる金属を融合させてできた物である合金を意味する用語である。「ポリマーアロイ」等の用語も慣用されるところ、当業者であれば、「有機アロイ」が異なる有機化合物を融合させてできた物を意味することは、その文言から明らかである。また、本件特許の段落【0029】には、「前記有機アロイ…は、2以上の単一有機化合物の前処理…により得られた結果物であり、前記前処理により単一有機化合物の間に化学的相互作用…を有することができる。」と記載されている。異なる有機化合物を融合させることなく混合して得られた混合物は、異なる有機化合物間に化学的相互作用を有することがないから、「有機アロイ」に含まれないことも明らかである。
さらに、本件特許発明1は、「前記有機アロイの最大発光波長は、前記第1有機化合物、前記第2有機化合物、および前記第1有機化合物と前記第2有機化合物の単純混合物の最大発光波長と異なり、」とする要件も満たす必要がある。本件特許発明1では、「第1有機化合物」と「第2有機化合物」とが、「有機アロイ」、つまり、異なる有機化合物を融合させてできた物であって、単一有機化合物の間に化学的相互作用を有するものであるとともに、最大発光波長が、第1有機化合物、第2有機化合物、および第1有機化合物と第2有機化合物の単純混合物の最大発光波長と異なることを要件とするものであるから、その外縁は明確に特定されているといえる。
したがって、本件特許発明1の記載が明確でないとはいえない。本件特許発明2~11についても同様である。
(2)用途
申立人は、特許異議申立書において、「有機光電子素子用は不明確である。」(第33頁第16~17行)と主張している。
しかし、「有機光電子素子用」の「有機アロイ」とは、「有機アロイ」が「有機光電子素子」の用途に適した形状、構造、組成等の特性を有することを特定しているものと理解できる。
したがって、本件特許発明1の記載が明確でないとはいえない。本件特許発明2~11についても同様である。
(3)最大発光波長の相違
申立人は、最大発光波長の相違について、特許異議申立書において、「定性的な規定に過ぎず、いかなる差が必要であるかなど定量的な数値を示していないので不明確である。」(第33頁第24~26行)と主張している。
本件特許発明1は、「前記有機アロイの最大発光波長は、前記第1有機化合物、前記第2有機化合物、および前記第1有機化合物と前記第2有機化合物の単純混合物の最大発光波長と異なり、」と特定されている。当該特定事項に基づけば、最大発光波長が異なるといえる範囲のものであれば要件を満たすことになると理解できる。
一般に定性分析ではピーク位置が基準物質のピーク位置と異なるか否かを判断して分析が実施されるところ、測定誤差等を考慮して有意差があるか否かを基準として判断することが慣用されている。本件特許の明細書の段落【0162】に示されているように、市販の分析装置である蛍光分光光度計を用いて測定される本件特許発明1の最大発光波長について、定性分析において慣用される手法に基づいて特定されることは、当業者が当然理解することである。
そうすると、本件特許発明1の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに明確でないとはいえない。本件特許発明2~11についても同様である。
(4)小括
以上のとおり、本件特許発明1~11の記載が明確でないとはいえないから、本件特許発明1~11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
第6 むすび
以上より、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700173