特許異議申立
2023-701338
着色感光性樹脂組成物、隔壁、有機電界発光素子、画像表示装置及び照明
- 審判番号
- 2023-701338
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-567141
- 登録番号
- 7294146
- 請求日
- 2023年12月20日
- 審決日
- 2024年09月24日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】田▲崎▼ 聡
- 【権利者代理人】君塚 哲也
- 【権利者代理人】大浪 一徳
- 【権利者代理人】伏見 俊介
- 【異議申立人】田上 浩
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 本田 博幸
- 審判官 廣田 健介
- 分類
- P1651.113-YAA(G03F) / P1651.121-YAA(G03F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第113条、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7294146号発明「着色感光性樹脂組成物、隔壁、有機電界発光素子、画像表示装置及び照明」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7294146号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
特許第7294146号の請求項1ないし3、5ないし10に係る特許を維持する。
特許第7294146号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7294146号の請求項1~10に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2019-567141号)は、平成31年(2019年)1月24日(先の出願に基づく優先権主張 平成30年1月26日)を国際出願日とする出願であって、令和5年6月12日にその特許権の設定登録がされ、令和5年6月20日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和5年12月20日に、特許異議申立人 田上 浩(以下「特許異議申立人」という。)から、全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和6年3月15日付け:取消理由通知書
令和6年5月15日 :訂正請求書の提出(この訂正請求書による訂正の請求を、以下、「本件訂正請求」という。)
令和6年5月15日 :意見書(特許権者)の提出
令和6年8月 7日 :意見書(特許異議申立人)の提出
第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
(1)訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第7294146号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求める、というものである。
(2)訂正の内容
本件訂正請求に係る訂正の内容は、以下のとおりである。
なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「 (A)エチレン性不飽和化合物、(B)光重合開始剤、(C)アルカリ可溶性樹脂、(D)撥液剤、及び(E)着色剤を含有する着色感光性樹脂組成物であって、
前記(E)着色剤の含有割合が、前記着色感光性樹脂組成物の全固形分中に20質量%以下であり、
前記(C)アルカリ可溶性樹脂が、(c1)側鎖にエチレン性不飽和基を有するアクリル共重合樹脂、及び(c2)エポキシ(メタ)アクリレート樹脂を含有し、
前記(C)アルカリ可溶性樹脂の全量に対する前記(c2)エポキシ(メタ)アクリレート樹脂の含有割合が10質量%以上70質量%以下であることを特徴とする着色感光性樹脂組成物。」とあるのを、
「(A)エチレン性不飽和化合物、(B)光重合開始剤、(C)アルカリ可溶性樹脂、(D)撥液剤、及び(E)着色剤を含有する着色感光性樹脂組成物であって、
前記(E)着色剤の含有割合が、前記着色感光性樹脂組成物の全固形分中に20質量%以下であり、
前記(C)アルカリ可溶性樹脂が、(c1)側鎖にエチレン性不飽和基を有するアクリル共重合樹脂、及び(c2)エポキシ(メタ)アクリレート樹脂を含有し、
前記(C)アルカリ可溶性樹脂の全量に対する前記(c2)エポキシ(メタ)アクリレート樹脂の含有割合が10質量%以上70質量%以下であり、
前記(D)撥液剤が架橋基を有することを特徴とする着色感光性樹脂組成物。」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項3、5~10についても同様に訂正する。)
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を、
「 (A)エチレン性不飽和化合物、(B)光重合開始剤、(C)アルカリ可溶性樹脂、(D)撥液剤、及び(E)着色剤を含有する着色感光性樹脂組成物であって、
前記(E)着色剤の含有割合が、前記着色感光性樹脂組成物の全固形分中に20質量%以下であり、
前記(C)アルカリ可溶性樹脂が、(c1)側鎖にエチレン性不飽和基を有するアクリル共重合樹脂、及び(c2)エポキシ(メタ)アクリレート樹脂を含有し、
前記(C)アルカリ可溶性樹脂の全量に対する前記(c2)エポキシ(メタ)アクリレート樹脂の含有割合が10質量%以上70質量%以下であり、
前記(c1)側鎖にエチレン性不飽和基を有するアクリル共重合樹脂が、下記一般式(I)で表される部分構造を有することを特徴とする着色感光性樹脂組成物。」に訂正する。
(請求項2の記載を引用する請求項3、5~10についても同様に訂正する。)
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5を「 さらに連鎖移動剤を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の着色感光性樹脂組成物。」に訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6を「 前記(E)着色剤が有機顔料である、請求項1~3、5のいずれか1項に記載の着色感光性樹脂組成物。」に訂正する。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7を「 請求項1~3、5、6のいずれか1項に記載の着色感光性樹脂組成物で構成される隔壁。」に訂正する。
(3)一群の請求項、別の訂正単位とする求め
本件訂正請求は、訂正前の一群の請求項である請求項1~10に対して請求されたものである。
また、この訂正後の請求項2、3、5~10に係る訂正は、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めるものである。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、請求項1に記載された「(D)撥液剤」が「架橋基を有する」ことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項4及び本件特許の明細書の【0301】の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
そうすると、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
加えて、訂正事項1に係る訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
そうすると、訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。
請求項1の記載を引用する請求項3、5~10についても、同様である。
(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項1の記載を引用する請求項2の記載を独立請求項の形式に記載する訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2に係る訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
請求項2の記載を引用する請求項3、5~10についても、同様である。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3に係る訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
(4)訂正事項4~6について
訂正事項4~6は、訂正前の請求項4が削除されたことに伴い請求項の引用請求項数を削減する訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項4~6による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
請求項5の記載を引用する請求項6~10、請求項6の記載を引用する請求項7~10及び請求項7の記載を引用する請求項8~10についても、同様である。
(5)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
なお、訂正後の請求項3、5~10が、請求項1及び2を直接又は間接的に引用していることから、上記「1(3)」の別の訂正単位とする求めはこれを認めることはできないが、各訂正事項に係る訂正はいずれも適法であるから、別の訂正単位とする求めの成否にかかわらず、本件訂正請求は適法である。
第3 本件特許発明
上記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~10に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明10」という。また、これらの発明を総称して「本件特許発明」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項によって特定される、以下のものである。
「【請求項1】
(A)エチレン性不飽和化合物、(B)光重合開始剤、(C)アルカリ可溶性樹脂、(D)撥液剤、及び(E)着色剤を含有する着色感光性樹脂組成物であって、
前記(E)着色剤の含有割合が、前記着色感光性樹脂組成物の全固形分中に20質量%以下であり、
前記(C)アルカリ可溶性樹脂が、(c1)側鎖にエチレン性不飽和基を有するアクリル共重合樹脂、及び(c2)エポキシ(メタ)アクリレート樹脂を含有し、
前記(C)アルカリ可溶性樹脂の全量に対する前記(c2)エポキシ(メタ)アクリレート樹脂の含有割合が10質量%以上70質量%以下であり、
前記(D)撥液剤が架橋基を有することを特徴とする着色感光性樹脂組成物。
【請求項2】
(A)エチレン性不飽和化合物、(B)光重合開始剤、(C)アルカリ可溶性樹脂、(D)撥液剤、及び(E)着色剤を含有する着色感光性樹脂組成物であって、
前記(E)着色剤の含有割合が、前記着色感光性樹脂組成物の全固形分中に20質量%以下であり、
前記(C)アルカリ可溶性樹脂が、(c1)側鎖にエチレン性不飽和基を有するアクリル共重合樹脂、及び(c2)エポキシ(メタ)アクリレート樹脂を含有し、
前記(C)アルカリ可溶性樹脂の全量に対する前記(c2)エポキシ(メタ)アクリレート樹脂の含有割合が10質量%以上70質量%以下であり、
前記(c1)側鎖にエチレン性不飽和基を有するアクリル共重合樹脂が、下記一般式(I)で表される部分構造を有することを特徴とする着色感光性樹脂組成物。
【化1】
[図:0001417638000001.jpg]
(式(I)中、R1及びR2は各々独立に、水素原子又はメチル基を表す。*は結合手を表す。)
【請求項3】
前記(c2)エポキシ(メタ)アクリレート樹脂が、下記一般式(i)で表される部分構造を有するエポキシ(メタ)アクリレート樹脂、下記一般式(ii)で表される部分構造を有するエポキシ(メタ)アクリレート樹脂、及び下記一般式(iii)で表される部分構造を有するエポキシ(メタ)アクリレート樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の着色感光性樹脂組成物。
【化2】
[図:0001417638000002.jpg]
(式(i)中、Raは水素原子又はメチル基を表し、Rbは置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を表す。式(i)中のベンゼン環は、更に任意の置換基により置換されていてもよい。*は結合手を表す。)
【化3】
[図:0001417638000003.jpg]
(式(ii)中、Rcは各々独立に、水素原子又はメチル基を表す。Rdは、環状炭化水素基を側鎖として有する2価の炭化水素基を表す。*は結合手を表す。)
【化4】
[図:0001417638000004.jpg]
(式(iii)中、Reは水素原子又はメチル基を表し、γは単結合、-CO-、置換基を有していてもよいアルキレン基、又は置換基を有していてもよい2価の環状炭化水素基を表す。式(iii)中のベンゼン環は、更に任意の置換基により置換されていてもよい。*は結合手を表す。)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
さらに連鎖移動剤を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の着色感光性樹脂組成物。
【請求項6】
前記(E)着色剤が有機顔料である、請求項1~3、5のいずれか1項に記載の着色感光性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~3、5、6のいずれか1項に記載の着色感光性樹脂組成物で構成される隔壁。
【請求項8】
請求項7に記載の隔壁を備える有機電界発光素子。
【請求項9】
請求項8に記載の有機電界発光素子を含む画像表示装置。
【請求項10】
請求項8に記載の有機電界発光素子を含む照明。」
第4 取消しの理由の概要及び証拠方法
1 取消しの理由の概要
訂正前の請求項1~10に係る特許に対して、当合議体が令和6年3月15日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
理由1:(新規性)本件特許の請求項1、3、6に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、請求項1、3、6に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
理由2:(進歩性)本件特許の請求項1、3、5~10に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、3、5~10に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 特許異議申立人が提示した証拠方法
甲第1号証:特開2007-171246号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:DIC社ホームページにて界面活性剤・表面改質剤を紹介するもの(https://www.dic-global.com/ja/products/megaface/fluoro/)、及び、そのなかでメガファックRSシリーズを説明するもの(https://www.dic-global.com/ja/products/megaface/f1uoro/lineup/uv_surfacemodifiers.
html)(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2015-172742号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:特許第6536578号公報(以下「甲4」という。)
甲第5号証:特開2012-216524号公報(以下「甲5」という。)
甲第6号証:特開2004-358298号公報(以下「甲6」という。)
甲第7号証:特許第5910629号公報(以下「甲7」という。)
甲第8号証:特許第7131907号公報(以下「甲8」という。)
参考資料1:特開2014-3123号公報
参考資料2:特開2011-73215号公報
参考資料3:特許第5880445号公報
(当合議体注:甲1及び甲8は主引用例であり、甲2~甲7は周知技術を示す文献である。)
第5 当合議体の判断
1 本件特許発明1について
(1)甲1の記載
令和6年3月15日付け取消理由通知書で引用された甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付したものであって、甲1に記載された発明の認定及び判断等で用いた箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、高精細な永久パターン(保護膜、層間絶縁膜、及びソルダーレジストパターンなど)を効率よく形成可能な感光性組成物及びパターン形成材料、並びに、該パターン形成材料を用いたパターン形成装置及びパターン形成方法に関する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、側鎖に(メタ)アクリロイル基及び酸性基を有するビニル共重合体の少なくとも1種を含むバインダーにおいて、前記ビニル共重合体の含有量を規定することにより、タック性の良好な感光層が得られ、かつ、形状及び密着性が良好な永久パターンを形成可能な感光性組成物及びパターン形成材料、並びに前記パターン形成材料を用いたパターン形成装置及びパターン形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> (A)(a1)エポキシアクリレート化合物の少なくとも1種、及び、(a2)側鎖に(メタ)アクリロイル基及び酸性基を有するビニル共重合体の少なくとも1種を含むバインダーと、(B)重合性化合物と、(C)光重合開始剤と、(D)熱架橋剤と、(E)有機溶剤とを含み、
(A)バインダーにおける(a2)側鎖に(メタ)アクリロイル基及び酸性基を有するビニル共重合体の少なくとも1種の含有量が、0質量%超50質量%未満であることを特徴とする感光性組成物である。該<1>に記載の感光性組成物においては、側鎖に(メタ)アクリロイル基及び酸性基を有するビニル共重合体の少なくとも1種の含有量を0超50質量%未満としたことから、タック性の良好な感光層が得られ、かつ、形状及び密着性が良好な永久パターンを形成できる。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、側鎖に(メタ)アクリロイル基及び酸性基を有するビニル共重合体の少なくとも1種を含むバインダーにおいて、前記ビニル共重合体の含有量を規定することにより、タック性の良好な感光層が得られ、かつ、形状及び密着性が良好な永久パターンを形成可能な感光性組成物及びパターン形成材料、並びに前記パターン形成材料を用いたパターン形成装置及びパターン形成方法を提供することができる。」
ウ 「【0031】
-(a2)側鎖に(メタ)アクリロイル基、及び酸性基を有するビニル共重合体-
前記側鎖に(メタ)アクリロイル基、及び酸性基を有するビニル共重合体は、例えば、(1)酸性基を有するビニルモノマー、(2)必要に応じて後述する高分子反応に利用可能な官能基を有するビニルモノマー、及び(3)必要に応じてその他の共重合可能なビニルモノマーのビニル(共)重合で得られた(共)重合体を合成し、更に(4)該(共)重合体中の酸性基、又は高分子反応に利用可能な官能基の少なくとも1種に対して反応性を有する官能基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物とを高分子反応させることによって得られる。
・・・中略・・・
【0033】
前記(2)の高分子反応に利用可能な官能基を有するビニルモノマーにおける、高分子反応に利用可能な官能基としては水酸基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、酸ハライド基、活性ハライド基、などが挙げられる。また前述(1)のカルボシキル基や酸無水物基も利用可能な官能基として挙げられる。
・・・中略・・・
【0050】
前記エポキシ基を有するビニルモノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、下記構造式(13)で表される化合物などが挙げられる。
【0051】
【化13】
[図:0001417638000005.jpg]
但し、前記構造式(13)中、RはH及びMeのいずれかを表す。
・・・中略・・・
【0068】
また、これらのモノマーは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらをビニル(共)重合させることにより酸性基、酸無水物基および必要に応じて水酸基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、酸ハライド基、活性ハライド基などを含有する(共)重合体が得られる。前記ビニル(共)重合体は、それぞれ相当するモノマーを公知の方法により常法に従って共重合させることで調製することができる。例えば、前記モノマーを適当な溶媒中に溶解し、ここにラジカル重合開始剤を添加して溶液中で重合させる方法(溶液重合法)を利用することにより調製することができる。また、水性媒体中に前記モノマーを分散させた状態でいわゆる乳化重合等で重合を利用することにより調製することができる。
このようにして得られた(共)重合体に対して、前記(4)として、これらの共重合体中の酸性基、および必要に応じて水酸基、アミノ基、イソシアネート基、グリシジル基、酸ハライド基の少なくとも1種に対して反応性を有する官能基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物とを高分子反応させることによって得られる。
【0069】
前記該(4)の(共)重合体中の酸性基、又は高分子反応に利用可能な官能基の少なくとも1種に対して反応性を有する官能基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、前述の(2)に示した化合物などが利用できる。
これらの高分子反応を行なう場合の官能基の組合せとしては、例えば、酸性基(カルボキシル基など)を有する共重合体とエポキシ基を有するビニルモノマーの組合せ、アミノ基を有する共重合体とエポキシ基を有するビニルモノマーの組合せ、アミノ基を有する共重合体とイソシアネート基を有するビニルモノマーの組合せ、水酸基を有する共重合体とイソシアネート基を有するビニルモノマーの組合せ、水酸基を有する共重合体と酸ハライド基を有するビニルモノマーの組合せ、アミノ基を有する共重合体と活性ハライド基を有するビニルモノマーの組合わせ、酸無水物基を有する共重合体と水酸基を有するビニルモノマーの組合せ、イソシアネート基を有する共重合体とアミノ基を有するビニルモノマーの組合せ、イソシアネート基を有する共重合体と水酸基を有するビニルモノマーの組合せ、活性ハライド基を有する共重合体とアミノ基を有するビニルモノマーの組合わせ、などが挙げられる。またこれらの組合せは2種以上を併用しても構わない。」
エ 「【0127】
〔(E)有機溶剤〕
後述する本発明のパターン形成材料を製造する際に発生する面状ムラを改善させるために、公知の有機溶剤を添加することができる。
前記有機溶剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素含有界面活性剤などから適宜選択できる。
【0128】
前記有機溶剤の含有量は、感光性組成物固形分中の全成分に対し、0.001~10質量%が好ましい。
前記含有量が、0.001質量%未満になると、面状改良の効果が得られなくことがあり、10質量%を超えると、密着性が低下することがある。
【0129】
前記界面活性剤としては、上述の界面活性剤の他、フッ素系の界面活性剤として、炭素鎖3~20でフッ素原子を40質量%以上含み、かつ、非結合末端から数えて少なくとも3個の炭素原子に結合した水素原子がフッ素置換されているフルオロ脂肪族基を有するアクリレート又はメタクリレートを共重合成分として有する高分子界面活性剤も好適に挙げられる。」
オ 「【0178】
本発明の感光性組成物及びパターン形成材料は、側鎖に(メタ)アクリロイル基及び酸性基を有するビニル共重合体の少なくとも1種を含むバインダーにおいて、前記ビニル共重合体の含有量を規定することにより、タック性の良好な感光層が得られ、かつ、形状及び密着性が良好なパターンを形成可能であるため、保護膜、層間絶縁膜、及びソルダーレジストパターン等の永久パターン、などの各種パターン形成用、カラーフィルタ、柱材、リブ材、スペーサー、隔壁などの液晶構造部材の製造用、ホログラム、マイクロマシン、プルーフなどのパターン形成用などに好適に用いることができ、特に本発明のパターン形成装置及びパターン形成方法に好適に用いることができる。」
カ 「【0314】
本発明の前記パターン形成方法は、本発明の前記パターン形成材料を用いるため、保護膜、層間絶縁膜、及びソルダーレジストパターン等の永久パターン、などの各種パターン形成用、カラーフィルタ、柱材、リブ材、スペーサー、隔壁等の液晶構造部材の製造、ホログラム、マイクロマシン、プルーフなどの製造に好適に使用することができ、特に高精細な永久パターンの形成に好適に使用することができる。」
キ 「【0316】
(実施例1)
-感光性組成物の調製-
下記組成に基づいて、感光性組成物分散液を調製した。なお、前記感光性組成物分散液は、分散溶媒としてメチルエチルケトンを用い、固形分濃度を55質量%として調整した。分散はビーズミルを用いて行い、得られた分散液は、粒ゲージにより凝集がないことを確認した。
〔感光性組成物溶液の組成〕
・硫酸バリウム (堺化学工業社製、B30)・・・28質量部
・エポキシアクリレート化合物:バインダー
(PR-300、濃度67%、昭和高分子(株)製)・・・26質量部
・側鎖に(メタ)アクリロイル基及びカルボキシル基を有するビニル共重合体*:バインダー(メタクリル酸とメタクリル酸メチルとの共重合体に対し、脂環式エポキシを分子内に有する重合性化合物(サイクロマーA200;ダイセル化学工業社製)を付加した共重合体、重量平均分子量19,000、数平均分子量11,000、酸価104mgKOH/g、C=C(エチレン性不飽和結合)当量2.22モル/kg)・・・14質量部
・下記構造式(50)で表されるエポキシ化合物:熱架橋剤・・・15.7質量部
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:重合性化合物・・・16質量部
・IRGACURE819(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)・・・4.1質量部
・ハイドロキノンモノメチルエーテル・・・0.056質量部
・ジシアンジアミド・・・0.4質量部
・2MA-OK(四国化成工業(株)製)・・・0.3質量部
・フタロシアニングリーン・・・0.42質量部
・メチルエチルケトン・・・60.0質量部
・F780F:有機溶剤(大日本インキ(株)製の30質量%濃度品 メチルエチルケトン溶液)・・・0.066質量部
* バインダーの総含有量に対する、側鎖に(メタ)アクリロイル基及びカルボキシル基を有するビニル共重合体の含有量は、35質量%である。
【0317】
【化21】
[図:0001417638000006.jpg]
」
ク 「【産業上の利用可能性】
【0351】
本発明の感光性組成物及びパターン形成材料は、側鎖に(メタ)アクリロイル基及び酸性基を有するビニル共重合体の少なくとも1種を含むバインダーにおいて、前記ビニル共重合体の含有量を規定することにより、タック性の良好な感光層が得られ、かつ、形状及び密着性が良好な永久パターンを形成可能であるため、半導体分野における高精細な永久パターン(層間絶縁膜、保護膜、ソルダーレジストパターンなど)の形成用、カラーフィルタ、柱材、リブ材、スペーサー、隔壁等の液晶構造部材の製造、ホログラム、マイクロマシン、プルーフなどの製造に広く用いることができ、本発明のパターン形成装置及びパターン形成方法に好適に用いることができる。
本発明のパターン形成装置及びパターン形成方法は、本発明の前記パターン形成材料を用いるため、保護膜、層間絶縁膜、及びソルダーレジストパターン等の永久パターン、などの各種パターン形成用、カラーフィルタ、柱材、リブ材、スペーサー、隔壁などの液晶構造部材の製造、ホログラム、マイクロマシン、プルーフの製造などに好適に使用することができる。」
(2)甲1に記載された発明
上記(1)の「実施例1」の記載から、甲1には、以下の「感光性組成物分散液」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「下記組成に基づいて調製した感光性組成物分散液。
・硫酸バリウム (堺化学工業社製、B30)・・・28質量部
・エポキシアクリレート化合物:バインダー
(PR-300、濃度67%、昭和高分子(株)製)・・・26質量部
・側鎖に(メタ)アクリロイル基及びカルボキシル基を有するビニル共重合体*:バインダー(メタクリル酸とメタクリル酸メチルとの共重合体に対し、脂環式エポキシを分子内に有する重合性化合物(サイクロマーA200;ダイセル化学工業社製)を付加した共重合体、重量平均分子量19,000、数平均分子量11,000、酸価104mgKOH/g、C=C(エチレン性不飽和結合)当量2.22モル/kg)・・・14質量部
・下記構造式(50)で表されるエポキシ化合物:熱架橋剤・・・15.7質量部
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:重合性化合物・・・16質量部
・IRGACURE819(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)・・・4.1質量部
・ハイドロキノンモノメチルエーテル・・・0.056質量部
・ジシアンジアミド・・・0.4質量部
・2MA-OK(四国化成工業(株)製)・・・0.3質量部
・フタロシアニングリーン・・・0.42質量部
・メチルエチルケトン・・・60.0質量部
・F780F:有機溶剤(大日本インキ(株)製の30質量%濃度品 メチルエチルケトン溶液)・・・0.066質量部
* バインダーの総含有量に対する、側鎖に(メタ)アクリロイル基及びカルボキシル基を有するビニル共重合体の含有量は、35質量%である。
[図:0001417638000007.jpg]
」
(3)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
ア (A)エチレン性不飽和化合物
甲1発明の「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」は、本件特許発明1の「(A)エチレン性不飽和化合物」に相当する。
イ (B)光重合開始剤
甲1発明の「IRGACURE819(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)」は、本件特許発明1の「(B)光重合開始剤」に相当する。
ウ (C)アルカリ可溶性樹脂
甲1発明の「側鎖に(メタ)アクリロイル基及びカルボキシル基を有するビニル共重合体」は、側鎖にカルボキシル基を有しており、本件特許明細書の【0065】における「本発明の着色感光性樹脂組成物は、(C)アルカリ可溶性樹脂を含有する。本発明において、アルカリ可溶性樹脂としては現像液で現像可能なものであれば特に限定されないが、現像液としてはアルカリ現像液が好ましいため、カルボキシル基または水酸基含有の樹脂を用いることが好ましく、現像性に優れるとの観点からはカルボキシル基含有樹脂が好ましい。」との記載を考慮すると、本件特許発明1の「(C)アルカリ可溶性樹脂」に相当する。
また、甲1発明の「側鎖に(メタ)アクリロイル基及びカルボキシル基を有するビニル共重合体」は、「メタクリル酸とメタクリル酸メチルとの共重合体に対し、脂環式エポキシを分子内に有する重合性化合物(サイクロマーA200;ダイセル化学工業社製)を付加した共重合体」であり、側鎖に有する「(メタ)アクリロイル基」は、「エチレン性不飽和基」に該当するから、本件特許発明1の「(c1)側鎖にエチレン性不飽和基を有するアクリル共重合樹脂」に相当する。
また、甲1発明の「エポキシアクリレート化合物」は、「PR-300、濃度67%、昭和高分子(株)製」であるところ、参考資料2の【0172】~【0173】によると、「昭和高分子社製「PR-300」」の化学構造は下記のとおりであり、分子中の側鎖にカルボキシル基を有しているから、本件特許発明1の「(C)アルカリ可溶性樹脂」である「(c2)エポキシ(メタ)アクリレート樹脂」に相当する。
[図:0001417638000008.jpg]
そして、甲1発明において、本件特許発明1の「(C)アルカリ可溶性樹脂」に相当するのは、「側鎖に(メタ)アクリロイル基及びカルボキシル基を有するビニル共重合体」と「エポキシアクリレート化合物」のみであるところ、「側鎖に(メタ)アクリロイル基及びカルボキシル基を有するビニル共重合体」(14質量部)及び「エポキシアクリレート化合物」(26質量部×0.67(濃度67%)=17.4質量部)の全量に対する「エポキシアクリレート化合物」の含有割合は、17.4/(14+17.4)×100=55.4質量%であるから、甲1発明は、本件特許発明1の「前記(C)アルカリ可溶性樹脂の全量に対する前記(c2)エポキシ(メタ)アクリレート樹脂の含有割合が10質量%以上70質量%以下である」という要件を満たす。
エ 着色感光性樹脂組成物
甲1発明の「感光性組成物分散液」は、上記ウのとおり、本件特許発明1の「(C)アルカリ可溶性樹脂」に相当する「側鎖に(メタ)アクリロイル基及びカルボキシル基を有するビニル共重合体」及び「エポキシアクリレート化合物」を含有し、かつ、「フタロシアニングリーン」を含有しているから、本件特許発明1の「着色感光性樹脂組成物」に相当する。
オ (D)撥液剤
甲1発明の「F780F(大日本インキ(株)製の30質量%濃度品 メチルエチルケトン溶液)(以下「F780F」という。)」は、参考資料1の【0037】によると、非イオン性のフッ素系界面活性剤であると認められる。
カ (E)着色剤
甲1発明の「フタロシアニングリーン」は、本件特許発明1の「(E)着色剤」に相当する。
また、甲1発明において、本件特許発明1の「(E)着色剤」に相当するのは、「フタロシアニングリーン」のみであるところ、「感光性組成物分散液」(本件特許発明1の「着色感光性樹脂組成物」)の全固形分(28+26×0.67+14+15.7+16+4.1+0.056+0.4+0.3+0.42+0.066×0.3=96.4質量部)中における「フタロシアニングリーン」の含有割合は、0.42/96.4×100=0.44質量%であるから、甲1発明は、本件特許発明1の「前記(E)着色剤の含有割合が、前記着色感光性樹脂組成物の全固形分中に20質量%以下であり」という要件を満たす。
(4)一致点及び相違点
ア 一致点
上記(3)の対比からみて、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で一致する。
「 (A)エチレン性不飽和化合物、(B)光重合開始剤、(C)アルカリ可溶性樹脂、及び(E)着色剤を含有する着色感光性樹脂組成物であって、
前記(E)着色剤の含有割合が、前記着色感光性樹脂組成物の全固形分中に20質量%以下であり、
前記(C)アルカリ可溶性樹脂が、(c1)側鎖にエチレン性不飽和基を有するアクリル共重合樹脂、及び(c2)エポキシ(メタ)アクリレート樹脂を含有し、
前記(C)アルカリ可溶性樹脂の全量に対する前記(c2)エポキシ(メタ)アクリレート樹脂の含有割合が10質量%以上70質量%以下である着色感光性樹脂組成物。」
イ 相違点
本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で相違する。
[相違点1]
本件特許発明1は、「(D)撥液剤が架橋基を有する」のに対し、甲1発明は、非イオン性のフッ素系界面活性剤である「F780F」を含有するものの、当該「F780F」が撥液剤であることは明示されておらず、架橋基も有していない点。
(5)判断
ア 新規性について
上記相違点1は実質的な差異であることは明らかであるから、本件特許発明1は甲1発明ではない。
イ 進歩性について
上記相違点1について検討する。
本件特許明細書の【0301】には、「撥液剤としては、シリコーン含有化合物やフッ素系化合物が挙げられ」ることが記載され、【0302】には、「撥液剤としてフッ素系化合物を用いた場合には、該フッ素化合物が隔壁の表面に配向して、インキのにじみや混色を防止する働きをする傾向があ」り、「さらに詳しくは、フッ素原子を有する基が、インキをはじき、インキが隔壁を越えて隣接する領域に進入することによるインキのにじみや混色を防ぐ働きをする傾向がある」ことが、【0303】には、「撥液剤としてのフッ素系化合物の具体例としては、例えば、」「パーフルオロアルキル基と親水基を含むオリゴマー」「などのフッ素含有有機化合物を挙げることができる」ことが記載されているところ、特開2005-338258号公報の【0135】によると、「大日本インキ(株)製メガファックF780F」は、「C6F13CH2CH2OCOCH=CH2、H(O(CH3)CHCH2)7OCOCH=CH2、H(OCHCH2)7OCOCH=CH2の共重合体」であり、当該共重合体は、パーフルオロアルキル基である「-C6F13」及び親水基であるアルキレングリコール鎖を含んでいるから、甲1発明の「F780F」は、結果的に本件特許発明1の「撥液剤」に相当する。
また、上記第5 1(1)オ、カ、クのとおり、甲1には、甲1発明の用途として、保護膜、層間絶縁膜、ソルダーレジストパターン等の永久パターンと共に、「隔壁」などの液晶構造部材の製造用途が記載されている。
しかしながら、上記第5 1(1)エのとおり、甲1発明において、フッ素系界面活性剤である「F780F」は、パターン形成材料を製造する際に発生する面状ムラを改善するための添加剤であって、これが「撥液剤」であることはおろか、撥液性が付与されるべきことすら記載も示唆もされていない。
ここで、甲1には、上記のとおり、甲1発明において撥液性を付与することは記載も示唆もされておらず、「隔壁」に撥液性を必要とするか否かは、「隔壁」間に形成される膜の形成方法(インクジェット法、スピンコート法、蒸着法等)等に応じて決定されるものであって、必ずしも「隔壁」だからといって直ちに撥液性が必要とされるものとは限らない。また、仮に撥液性が求められていたとしても、甲1発明における「F780F」は、面状ムラを改善するために添加されたものであって、撥液性は二の次といえ、撥液性と面状ムラの相関関係を示唆する証拠もない。
したがって、必ずしも撥液性が必要とされていない甲1発明において、面状ムラに対する影響が明らかでない状況で、あえて「F780F」を架橋基を有するものに変更することや、「架橋基を有する撥液剤」を追加する動機付けはない。
したがって、当業者であっても、甲1発明に基づいて上記相違点1に係る本件特許発明1の構成を満たすものとすることは、容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 令和6年8月7日に提出された意見書について
特許異議申立人は、令和6年8月7日に提出された意見書の3頁において、「(4)・・・甲1には、その感光性組成物を隔壁の形成に好適に用いることができることを記載しており、甲2には、隔壁形成の用途にDIC社製メガファックRS-72-Kが好適であることを記載しているから、当業者はこれらを組み合わせる動機付けがあり、また、甲2には、隔壁形成において、その表面特性として撥インク性が付与されることを記載しているから、本件訂正発明1の作用効果が記載されている。
よって、本件訂正発明1は、甲1に記載の発明と甲2に記載の発明との組み合わせにより進歩性を具備しない。
或いは、甲12や甲13からも明らかなように、隔壁を形成する感光性組成物において架橋基を有した撥液剤を用いることは当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。」と主張している(以下「主張1」という。)。
そこで、上記主張1について検討する。
甲1発明は、必ずしも撥液性が必要とされていない発明であるから、「F780F」に換えて、あえて「DIC社製メガファックRS-72-K」等の「架橋基を有する撥液剤」を採用する動機付けがないことは、上記第5 1(5)イで検討したとおりである。
したがって、たとえ、甲2等に示されるように隔壁形成の用途において、架橋基を有する撥液剤が周知であったとしても、甲1に記載の発明と甲2、甲12及び甲13等に記載された(架橋基を有する撥液剤の)発明をあえて組み合わせることに動機付けがあるとはいえない。
よって、上記主張1は採用できない。
エ 小括
以上のことから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。また、本件特許発明1は、当業者であっても、甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
2 本件特許発明2について
(1)一致点及び相違点
ア 一致点
上記第5 1(3)の対比からみて、本件特許発明2と甲1発明とは、以下の点で一致する。
「 (A)エチレン性不飽和化合物、(B)光重合開始剤、(C)アルカリ可溶性樹脂、及び(E)着色剤を含有する着色感光性樹脂組成物であって、
前記(E)着色剤の含有割合が、前記着色感光性樹脂組成物の全固形分中に20質量%以下であり、
前記(C)アルカリ可溶性樹脂が、(c1)側鎖にエチレン性不飽和基を有するアクリル共重合樹脂、及び(c2)エポキシ(メタ)アクリレート樹脂を含有し、
前記(C)アルカリ可溶性樹脂の全量に対する前記(c2)エポキシ(メタ)アクリレート樹脂の含有割合が10質量%以上70質量%以下である着色感光性樹脂組成物。」
イ 相違点
本件特許発明2と甲1発明とは、以下の点で相違する。
[相違点2]
本件特許発明2は、「着色感光性樹脂組成物」が「(D)撥液剤」を含有するのに対し、甲1発明は、非イオン性のフッ素系界面活性剤である「F780F」を含有するものの、当該「F780F」が撥液剤であることは明示されていない点。
[相違点3]
本件特許発明2は、「(c1)側鎖にエチレン性不飽和基を有するアクリル共重合樹脂」が、上記一般式(I)で表される部分構造(「一般式(I)」については、上記第3を参照)を有するのに対し、甲1発明は、「側鎖に(メタ)アクリロイル基及びカルボキシル基を有するビニル共重合体」が、上記一般式(I)で表される部分構造を有しない点。
(2)判断
ア 新規性について
少なくとも上記相違点3が実質的な差異であることは明らかであるから、本件特許発明2は、甲1発明ではない。
イ 進歩性について
事案に鑑みて上記相違点3について検討する。
(ア)本件特許明細書の【0503】に記載された<アルカリ可溶性樹脂-I>の合成方法、及び、【0509】に記載された<アルカリ可溶性樹脂-IV>の合成方法やその化学構造を参酌すると、本件特許発明2における「一般式(I)で表される部分構造」は、「グリシジル(メタ)アクリレート」と「(メタ)アクリル酸」の一方を構成モノマーに含む(共)重合樹脂に、他方を付加反応させることにより合成されるものと認められる。
(イ)ここで、甲1発明の「(a2)側鎖に(メタ)アクリロイル基、及び酸性基を有するビニル共重合体」について、甲1の【0031】には「前記側鎖に(メタ)アクリロイル基、及び酸性基を有するビニル共重合体は、例えば、(1)酸性基を有するビニルモノマー、(2)必要に応じて後述する高分子反応に利用可能な官能基を有するビニルモノマー、及び(3)必要に応じてその他の共重合可能なビニルモノマーのビニル(共)重合で得られた(共)重合体を合成し、更に(4)該(共)重合体中の酸性基、又は高分子反応に利用可能な官能基の少なくとも1種に対して反応性を有する官能基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物とを高分子反応させることによって得られる」と記載され、甲1の【0069】には、これらの高分子反応を行なう場合の官能基の組合せとして、酸性基(カルボキシル基など)を有する共重合体とエポキシ基を有するビニルモノマーの組合せも一応例示されている。
(ウ)しかしながら、上記相違点3に係る「一般式(I)で表される部分構造」は上記(ア)で述べた化合物の組み合わせにより合成されるものであり、甲1の【0031】~【0073】に多数記載されている、「(a2)側鎖に(メタ)アクリロイル基、及び酸性基を有するビニル共重合体」の単なる一例にすぎないことから、甲1発明における「(a2)側鎖に(メタ)アクリロイル基、及び酸性基を有するビニル共重合体」としての「メタクリル酸とメタクリル酸メチルとの共重合体に対し、脂環式エポキシを分子内に有する重合性化合物(サイクロマーA200;ダイセル化学工業社製)を付加した共重合体」に代えて、上記相違点3に係る要件を満たすものを採用する動機付けはない。
したがって、当業者であっても、甲1発明に基づいて上記相違点3に係る本件特許発明1の構成を満たすものとすることは、容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 令和6年8月7日に提出された意見書について
特許異議申立人は、令和6年8月7日に提出された意見書の4~5頁において、「(1)特許権者は、意見書において直接の主張はしていないものの、訂正請求書においては取消理由1、2の対象となっていない訂正前の請求項2を独立請求項にした本件訂正発明2を含めている。
しかしながら、上述したように甲1には、その感光性組成物を隔壁形成に好適に用いることができるとするところ(甲1の明細書段落0178、0314、0351の記載を参照)、甲8の実施例1には、スチレンとグリシジルメタクリレートとトリシクロデカン骨格を有するモノアクリレートとを共重合させて、更にアクリル酸を付加させて、最後にテトラヒドロ無水フタル酸を付加させたアルカリ可溶性樹脂-Iを用いることが記載されている(甲8の明細書段落0413の記載を参照)。この甲8の実施例1で用いるアルカリ可溶性樹脂-Iは、本件特許の明細書における実施例で合成するアルカリ可溶性樹脂-Iと同様のスチレン、グリシジルメタクリレート、アクリレートの共重合樹脂にアクリル酸を付加反応させ、更に無水テトラヒドロフタル酸を付加させたアルカリ可溶性のアクリル共重合樹脂であり、“(c1)側鎖にエチレン性不飽和基を有するアクリル共重合樹脂”であって、しかも、本件訂正発明2に記載された一般式(I)で表される部分構造を有するものである。
(2)ここで、甲8には、アルカリ可溶性樹脂-Iを含んだ顔料分散液1と、アルカリ可溶性樹脂-IIと、光重合性モノマーと、光重合開始剤-Iと、界面活性剤とを含んだ感光性着色組成物が記載されており(例えば甲8の実施例等を参照)、特許異議申立書で述べたように、本件特許と同様に、アルカリ可溶性樹脂として“(c1)側鎖にエチレン性不飽和基を有するアクリル共重合樹脂”と“(c2)エポキシ(メタ)アクリレート樹脂とを用いることが記載されている。そして、甲8には、その感光性着色組成物は、有機EL表示装置の発光部における隔壁の形成に用いられることが記載されているから(甲8の明細書段落0027の記載を参照)、当業者は、甲1に記載の発明において、甲8に記載された上記アルカリ可溶性樹脂-Iを適用することに何ら困難性はない。
よって、本件訂正発明2は、甲1に記載の発明と甲8に記載の発明との組み合わせにより進歩性を具備しない。」と主張している(以下「主張2」という。)。
そこで、上記主張2について検討するに、甲第8号証(特許第7131907号)(以下「甲8」という。)は、その特許公報の発行日(公知日)が令和4年9月6日であり、本件特許出願の先の出願後に公知となった文献であるから、甲8を本件特許の新規性・進歩性を否定するための先行技術を示す証拠として採用することはできない。
仮に、甲8が、特許第7131907号の国際公開であり、国際公開日が先の出願前の平成28年9月15日である国際公開第2016/143878号を意図したものと善解したとしても、甲8に記載された「アルカリ可溶性樹脂-I」は、甲1の【0031】~【0073】に多数記載されている、「(a2)側鎖に(メタ)アクリロイル基、及び酸性基を有するビニル共重合体」の単なる一例にすぎない。
また、甲1と甲8との用途が、「隔壁」という共通のものであったとしても、隔壁形成用組成物のバインダーである「アルカリ可溶性樹脂」は、形成される隔壁が解決しようとする課題に応じて選択されるものと認められるところ、甲1発明の解決しようとする課題は、「タック性の良好な感光層が得られ、かつ、形状及び密着性が良好な永久パターンを形成可能」(【0007】)とすることであり、甲8に記載された発明の解決しようとする課題は、「遮光性が高く、表面平滑性に優れたパターンを形成する」([0010])ことであって、両者が解決しようとする課題は必ずしも一致するとはいえないから、数ある用途のうちの「隔壁」という用途で一致するからといって、甲1発明において、「(a2)側鎖に(メタ)アクリロイル基、及び酸性基を有するビニル共重合体」として、「メタクリル酸とメタクリル酸メチルとの共重合体に対し、脂環式エポキシを分子内に有する重合性化合物(サイクロマーA200;ダイセル化学工業社製)を付加した共重合体」に代えて、甲8に記載された「アルカリ可溶性樹脂-I」をあえて採用する動機付けはない。
したがって、当業者であっても、甲1発明及び甲8の記載事項に基づいて上記相違点3に係る本件特許発明2の構成を満たすものとすることは、容易に想到し得たこととはいえない。
エ 小括
以上のことから、本件特許発明2は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
また、本件特許発明2は、当業者であっても、甲1に記載された発明及び甲8の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
3 本件特許発明3、5~10について
本件特許発明3、5~10は、本件特許発明1又は本件特許発明2の構成を全て備えるものであるから、本件特許発明3、5~10も、本件特許発明1又は本件特許発明2と同じ理由により、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、当業者であっても、甲1に記載された発明に基づいて、又は、甲1に記載された発明及び甲8の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
第6 取消理由通知書により通知しなかった特許異議の申立ての理由の概要
令和6年3月15日付け取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由は、概略、以下のとおりである。
1 新規性(甲1を主引例とした場合)
本件特許の請求項2、5、7に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲1に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、請求項2、5、7に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
2 進歩性(甲1を主引例とした場合)
本件特許の請求項2、4に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲1に記載された発明に基づいて、先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2、4に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
3 新規性(甲8を主引例とした場合)
本件特許の請求項1~3、5~9に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲8に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、請求項1~3、5~9に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
4 進歩性(甲8を主引例とした場合)
本件特許の請求項1~10に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲8に記載された発明に基づいて、先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~10に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
なお、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由は、本件訂正請求により訂正する前の本件特許の請求項1~10に係る発明に対してなされたものである。
第7 取消理由通知書により通知しなかった特許異議の申立ての理由についての合議体の判断
1 新規性・進歩性(甲1を主引例とした場合)
上記第5 2及び第5 3で検討したとおりである。
2 新規性(甲8を主引例とした場合)
上記第5 2(2)ウのとおり、甲8は本件特許出願の先の出願後に公知となった文献であるから、甲8に記載の発明により、本件訂正前の請求項1~3、5~9に係る発明の新規性を否定することはできない。
上記第5 2(2)ウのとおり、仮に、甲8が、国際公開第2016/143878号を意図したものと善解したとしても、甲8の実施例1~3の感光性着色組成物における着色剤の含有割合は、いずれも感光性着色組成物の全固形分中の30質量%以上であるから、甲8の実施例1~3の感光性着色組成物のいずれから主たる引用発明を認定しても、本件特許発明1~3、5~9は、甲8に記載された発明ではない。
3 進歩性(甲8を主引例とした場合)
甲8の[0346]における「本発明の感光性着色組成物において、(a)着色剤の含有量は、感光性着色組成物中の全固形分量に対して通常10質量%以上であり、20質量%以上であることが好ましく、さらに30質量%以上であることが好ましい。」との記載を考慮すれば、実施例1~3において、着色剤の含有量を感光性着色組成物中の全固形分量に対して、さらに好ましいとされている30質量%以上の含有量をあえて20質量%以下の含有量とする動機付けはない。
さらに、甲8に記載された実施例1~3の感光性着色組成物が、「界面活性剤」として含有する「DIC(株)製 メガファック F-559(以下「F-559」という。)」は、甲8の[0325]の記載によると、塗布性向上のためのものであり、「F-559」が撥液剤であること及び甲8に記載された感光性着色組成物に必ずしも撥液性は求められていないから、甲8の実施例1~3の感光性着色組成物において、「F-559」に架橋基を導入することや、「架橋基を有する撥液剤」を追加する動機付けはない。
したがって、甲8の実施例1~3の感光性着色組成物のいずれから主引用発明を認定しても、本件特許発明1~3、5~10は、当該主引用発明から容易に発明をすることができたとはいえない。
第8 むすび
請求項1~3、5~10に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~3、5~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正請求により、請求項4は削除されたから、請求項4に係る特許についての特許異議の申立ての対象は存在しないこととなった。
したがって、請求項4に係る発明についての特許異議の申立ては、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701338