特許異議申立
2024-700166
低温熱伝導率測定装置
- 審判番号
- 2024-700166
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-177327
- 登録番号
- 7332413
- 請求日
- 2024年02月22日
- 審決日
- 2025年02月04日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】明星工業株式会社
- 【権利者代理人】北村 光司
- 【権利者】大陽日酸株式会社
- 【権利者代理人】北村 光司
- 【異議申立人】本間 賢一
- 審判長/審判官
- 審判長 南 宏輔
- 審判官 ▲高▼見 重雄
- 審判官 北島 拓馬
- 分類
- P1651.121-YAA(G01N) / P1651.55 -YAA(G01N) / P1651.537-YAA(G01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第113条第2号、特許法第113条第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7332413号発明「低温熱伝導率測定装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7332413号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
特許第7332413号の請求項1~4に係る特許を維持する。
特許第7332413号の請求項5~7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7332413号の請求項1~7に係る特許についての出願は、令和元年9月27日に出願され、令和5年8月15日にその特許権の設定登録がされ、同年同月23日に特許掲載公報が発行された。その後、全請求項に係る特許について、令和6年2月22日に特許異議申立人 本間賢一(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、同年5月15日付けで取消理由を通知した。その後、特許権者は、同年7月19日に訂正請求書及び意見書を提出し、同年8月5日付け手続補正指令書に対し、特許権者は、同月9日に手続補正書(訂正特許請求の範囲を添付)を提出し、当審は、同年9月17日付けで訂正拒絶理由を通知し、特許権者は、同年10月15日に手続補正書(訂正特許請求の範囲を添付)及び意見書を提出し、同年12月13日に申立人により意見書(以下「申立人意見書」という。)の提出がされた。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1)本件訂正請求書での訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)は、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求めるものであって、本件訂正の内容は次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の、
「前記冷却手段を構成するのに、前記断熱性気密容器の内側空間内で前記GHP法測定装置の前記冷却板を冷却する機械式冷凍機を設け、前記機械式冷凍機の放冷部から熱伝導部材を介して前記冷却板に直接熱接触させてある」を、
「前記冷却手段として熱伝導部材を設け、前記GHP法測定装置の前記冷却板を冷却するGM冷凍機を設け、前記GM冷凍機の放冷部から前記熱伝導部材を介して前記冷却板に直接熱接触させてある」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2の、
「前記機械式冷凍機を前記冷却板の下方に配置すると共に、前記機械式冷凍機の放冷部と前記冷却板とを前記熱伝導部材として第1金属製熱伝導部材を介して直接熱接触可能に構成してある」を、
「前記GM冷凍機を前記冷却板の下方に配置すると共に、前記熱伝導部材として前記冷却板の両外側に面接触する板状の第1金属製熱伝導部材を設け、前記GM冷凍機の放冷部と前記冷却板とを前記第1金属製熱伝導部材を介して直接熱接触可能に構成してある」に訂正する。
(請求項2の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。)
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の、
「前記冷却板の上部と前記放冷部とを直接熱接触させる前記熱伝導部材として第1金属製補助熱伝導部材を設けてある」を、
「前記熱伝導部材としてさらにワイヤーよりなる第1金属製補助熱伝導部材を設け、この第1金属製補助熱伝導部材により前記冷却板の両外側の上部と前記放冷部とを直接熱接触させてある」に訂正する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4の、
「前記機械式冷凍機を前記冷却板の上方に配置して、前記機械式冷凍機の放冷部と前記冷却板の上端部とを熱接触させる前記熱伝導部材として第2金属製熱伝導部材を設けてある」を、
「前記GM冷凍機を前記冷却板の上方に配置して、前記GM冷凍機の放冷部と前記冷却板の上端部とを熱接触させる前記熱伝導部材として第2金属製熱伝導部材を設けてある」に訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(2)訂正の単位について
訂正前の請求項1~7は、請求項2~7が請求項1を直接的又は間接的に引用していることから、一群の請求項である。
そして、訂正事項1~7は、一群の請求項〔1-7〕についてされたものであるから、この訂正は、特許法第120条の5第4項で規定する一群の請求項ごとに請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、(ア)訂正前の請求項1に記載の「前記冷却手段」が「熱伝導部材」を含むこと、及び(イ)訂正前の請求項1に記載の「機械式冷凍機」が「GM冷凍機」であることに限定するものである。
よって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項1の(ア)は、本件特許についての出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許の明細書等」という。)における明細書の「【0023】〔第1実施形態〕前記冷却手段を構成するのに、・・・金属製気密容器6を熱伝導により冷却する冷凍機7を設け、金属製気密容器6と冷却板3とを直接熱接触させる第1金属製熱伝導部材8を設けてある。」との記載に基づいている。また、訂正事項1の(イ)は、「【0024】前記冷凍機7による冷却は、・・・例えば、GM冷凍機(Gifford-McMahonサイクルを使った冷凍機)を使用する。」、「【符号の説明】【0038】・・・7 機械式冷凍機」との記載に基づいている。
したがって、訂正事項1は、本件特許の明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。また、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2は、(ア)訂正前の請求項2に記載の「前記機械式冷凍機」が「前記GM冷凍機」であること、及び(イ)訂正前の請求項2に記載の「第1金属製熱伝導部材」が、「前記冷却板の両外側に面接触する板状」であることを限定するものである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項2の(ア)は、「【0024】前記冷凍機7による冷却は、・・・例えば、GM冷凍機(Gifford-McMahonサイクルを使った冷凍機)を使用する。」、「【符号の説明】【0038】・・・7 機械式冷凍機」との記載に基づいている。また、訂正事項2の(イ)は、「【0025】図1~図4に示すように、前記GHP法測定装置4は、支持フレーム15に加熱板1、一対の冷却板3を夫々板厚方向に移動自在に上から吊り下げ支持し、加熱板1と一対の冷却板3夫々の間に被測定物平板2を挟んで、加熱板1を中心にして一対の被測定物平板2及び一対の冷却板3を、互いに近接移動させて接触させる押し付け装置16を、板厚方向の両外側に一対設けて構成してある。支持フレーム15の接地部15Aは、10ミリ厚の銅製の第1底板17に取り付けてあり(図4(b)、図2)、その第1底板17に対して銅製の3ミリ厚のアンカー板(第1金属製熱伝導部材8)を立設取り付けするように設け(図4(c))、アンカー板には、冷却板3との連結部19(ボルト挿通孔)を上部に設けると共に、下端部8Aに第1底板17と連結可能なボルト挿通用の長孔20が冷却板3の移動方向に沿って設けてあり、その長孔20に対応してボルト挿通孔21が、第1底板17に複数設けてある(図4(a)、(b)、(c))。」との記載、及び図2、4に基づいている。
したがって、訂正事項2は、本件特許の明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。また、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3について
ア 訂正事項3は、訂正前の請求項3に記載の「第1金属製補助熱伝導部材」が、「ワイヤーよりな」り、「この第1金属製補助熱伝導部材により前記冷却板の両外側の上部と前記放冷部とを直接熱接触させてある」ことを限定するものである。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項3は、「【0031】〔第2実施形態〕前記冷却手段として、冷凍機7により冷却板3を冷却するのに、金属製気密容器6の第1底板17と冷却板3とを熱伝導可能に連結する第1金属製熱伝導部材8を設ける以外に、図6に示すように、第1底板17と冷却板3の上部とを直接熱接触させる8本の銅製のワイヤー(例えば、径1ミリの銅線が20本束ねてある)から成る第1金属製補助熱伝導部材29を設けてある。」との記載、及び図6に基づいている。
したがって、訂正事項3は、本件特許の明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。また、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項4について
ア 訂正事項4は、訂正前の請求項4に記載の「前記機械式冷凍機」が「前記GM冷凍機」であることを限定するものである。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項4は、「【0024】前記冷凍機7による冷却は、・・・例えば、GM冷凍機(Gifford-McMahonサイクルを使った冷凍機)を使用する。」、「【符号の説明】【0038】・・・7 機械式冷凍機」との記載に基づいている。
したがって、訂正事項4は、本件特許の明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。また、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(5)訂正事項5~7について
ア 訂正事項5~7は、請求項5~7を削除するというものであるから、訂正事項5~7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 訂正事項5~7は、請求項5~7を削除するというものであるから、訂正事項5~7は、本件特許の明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。また、訂正事項5~7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項5~7は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
なお、特許異議の申立てが全請求項に対してされているので、本件訂正請求においては、いずれの請求項についても、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 訂正の適否についてのまとめ
上記のとおり、訂正事項1~7に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記のとおり本件訂正が認められるから、本件訂正後の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された以下のとおりのものである。ここで、請求項1の各構成単位冒頭の「A」などは、おおむね特許異議申立書における付番に沿って当審で付した分説番号であり、各構成単位については以下、上記分説番号を用い「構成A」などということがある(以下同様)。なお、本件訂正により請求項5~7は削除された。
「【請求項1】
A 加熱板の両面側に一対の被測定物平板を配置し、
B 前記一対の被測定物平板の更に両外側夫々に一対の冷却板を配置し、
C1 前記一対の被測定物平板夫々の表裏両面部の温度を測定して、
C2 与えた熱量と前記表裏両面部の計測温度差に基づいて被測定物平板の熱伝導率を算出するGHP法測定装置を、
C3 断熱性気密容器の内側に収容し、
D 前記冷却板を0℃以下の低温に冷却する冷却手段を前記断熱性気密容器内に設けてある
E 低温熱伝導率測定装置であって、
F1 前記冷却手段として熱伝導部材を設け、前記GHP法測定装置の前記冷却板を冷却するGM冷凍機を設け、
F2 前記GM冷凍機の放冷部から前記熱伝導部材を介して前記冷却板に直接熱接触させてある
G 低温熱伝導率測定装置。
【請求項2】
前記GM冷凍機を前記冷却板の下方に配置すると共に、前記熱伝導部材として前記冷却板の両外側に面接触する板状の第1金属製熱伝導部材を設け、前記GM冷凍機の放冷部と前記冷却板とを前記第1金属製熱伝導部材を介して直接熱接触可能に構成してある請求項1に記載の低温熱伝導率測定装置。
【請求項3】
前記熱伝導部材としてさらにワイヤーよりなる第1金属製補助熱伝導部材を設け、この第1金属製補助熱伝導部材により前記冷却板の両外側の上部と前記放冷部とを直接熱接触させてある請求項2に記載の低温熱伝導率測定装置。
【請求項4】
前記GM冷凍機を前記冷却板の上方に配置して、前記GM冷凍機の放冷部と前記冷却板の上端部とを熱接触させる前記熱伝導部材として第2金属製熱伝導部材を設けてある請求項1に記載の低温熱伝導率測定装置。
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)」
第4 特許異議の申立てについて
1 申立理由の概要
申立人は、証拠として下記2に示す甲第1号証~甲第3号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲3」という。)を提出し、以下の申立理由により、請求項1~7に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。申立人が提出した甲第1~第3号証は、何れも、本件特許の出願日である令和元年(西暦2019年)9月27日より前に公知となったものである。以下、各甲号証について「甲1」などと略称する。
申立理由1:(進歩性)請求項1~7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明、甲2、甲3に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1~7に係る特許は、特許法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
申立理由2:(新規事項)令和5年4月26日付けでした手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、請求項1に係る特許は、第十七条の二第三項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。
したがって、請求項1に係る特許は、特許法第113条第1号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
申立理由3:(サポート要件)請求項1~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、請求項1~7に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
申立理由4:(明確性要件)請求項1~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、請求項1~7に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
2 証拠方法
甲第1号証(甲1):町田清、上園正義,「GHP法による低温域における熱伝導率測定」,建材試験情報,日本,建材試験センター,1989年12月1日,Vol.25,No.12,pp.6-10
甲第2号証(甲2):特開平7-142241号公報
甲第3号証(甲3):特開2004-356573号公報
第5 取消理由通知書に記載した取消理由について
訂正前の請求項1~7に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
取消理由1:(明確性要件)請求項1~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条第4号に該当し、取り消されるべきである。
取消理由2:(サポート要件)請求項1~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条第4号に該当し、取り消されるべきである。
取消理由3:(進歩性)請求項1~4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明、及び周知技術(甲2、甲3)に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきである。
第6 各甲号証の記載等
1 甲1について
(1)甲1の記載
甲1の記載は、以下のとおりである(下線や囲みは当審にて付与した。以下同様。)。
ア 6頁左欄~7頁右欄
下記(ア)~(ウ)は連続した記載事項である。
(ア)6頁左欄
[図:0001422417000001.jpg]
[図:0001422417000002.jpg]
(イ)6頁右欄
[図:0001422417000003.jpg]
(ウ)7頁左欄
[図:0001422417000004.jpg]
[図:0001422417000005.jpg]
イ 図-1
[図:0001422417000006.jpg]
ウ 7頁右欄
[図:0001422417000007.jpg]
エ 8頁左欄
[図:0001422417000008.jpg]
オ 図-4
[図:0001422417000009.jpg]
カ 8頁右欄
[図:0001422417000010.jpg]
キ 10頁左欄
[図:0001422417000011.jpg]
(2)甲1発明
上記(1)の記載によれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。各構成単位末尾の括弧内には主たる認定根拠とした記載箇所を示す。
「a 主熱板Aとその周囲を囲む保護熱板Bとからなる高温板ユニットの両面にそれぞれ厚さdの断熱材や構造材からなる試料Cを配置し、(6頁、図-1)
b 前記各試料Cの更に外側に、それぞれ熱板Dと冷却板Eとからなる低温板ユニットを配置し、(6頁左欄、図-1)
c1 前記両試料Cの表裏両面に熱電対を設けて試料の両面の温度差を測定し、(8頁右欄、図-1)
c2 主熱板Aの発熱量Qと試料C表裏の温度差Δθに基づいて試料Cの熱伝導率λを求める、JIS A 1412(保温材の熱伝導率測定方法)中の「平板直接法」と同じ測定方法を行うGHP法に基づく測定部本体を、(6頁左欄・7頁左欄・8頁左欄、10頁左欄)
c3 低温槽Jと、その内側のステンレス容器Iとからなる二重容器内に収納し、(6頁右欄、8頁左欄、図-1)
c4 測定中、低温槽Jとステンレス容器Iとの間の温度変動は約-97℃を中心に振幅10℃程度に、ステンレス容器I内の温度変動は約-107℃を中心に振幅3℃程度にそれぞれ維持されるものであり、(8頁左欄、図-4)
d 低温板ユニットを-130℃±1~6℃に制御するために、液体窒素を冷却板Eに直接流して冷却板Eを通過させ、ステンレス容器Iと冷却槽Jとの間を循環して外気に排出される冷却機構を設けてある、(6頁左欄~7頁左欄、図-1)
e 低温熱伝導率測定装置であって、(6頁左欄)
f1 前記冷却機構は、冷却槽J外の液体窒素タンクGから電磁バルブHを介し冷却槽J内に供給された液体窒素を冷却板Eに直接流し、ステンレス容器Iと冷却槽Jとの間を循環して外気に排出するものであり、(6頁左欄~7頁左欄、図-1)
f2 試料の両面の温度差による熱伝導率の変化は、測定誤差の範囲内にあり、試料側面部と周囲空気との温度差により、試料側面から熱移動が生じていない一次元熱流が実現している、(8頁右欄)
e 低温熱伝導率測定装置(6頁左欄)。」
2 甲2について
甲2の記載は、以下のとおりである。
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、超電導磁石装置に係り、特に超電導コイルを極低温用冷凍機で直接的に伝導冷却する超電導磁石装置に関する。
・・・
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明に係る超電導磁石装置は、超電導コイルと、良熱伝導部材で形成されて前記超電導コイルの外周面に熱的に接続された吸熱部材と、冷却ステージを備え、この冷却ステージで前記吸熱部材を伝導冷却する冷凍機とを備えている。
・・・
【0011】
【実施例】以下、図面を参照しながら実施例を説明する。図1には本発明の一実施例に係る超電導磁石装置の概略構成が示されている。この超電導磁石装置は、大きく別けて、内部が真空雰囲気となるように排気された真空容器1を備えている。真空容器1は、たとえばステンレス鋼などの非磁性材で形成されている。真空容器1の上壁2および下壁3には、それぞれ孔4a,4bが対向関係に設けてあり、これらの孔4a,4bを連通させるようにステンレス鋼などの非磁性材で形成された筒体5の両端部が上壁2および下壁3の内面に気密に接続されている。したがって、筒体5の内側は大気圧に、外側は真空雰囲気に保持されている。
【0012】筒体5の回りで真空雰囲気中には、筒体5とは非接触に、かつ筒体5と同心的に超電導コイル6が配置されており、この超電導コイル6は吸熱部材7を介して熱伝導部材8に熱的に接続されている。そして、熱伝導部材8は極低温用冷凍機、この例ではギホード・マクマホン型冷凍機(以後、GM冷凍機と略称する。)9の冷却ステージに接続されている。
【0013】GM冷凍機9は、30K程度に冷却される第1段冷却ステージ10と、4K以下程度(超電導線材の超電導転移温度以下)に冷却される第2段冷却ステージ11とを備えており、各冷却ステージが真空容器1内に位置するように真空容器1の上壁2に設けられた図示しない装着孔を使って真空容器1に取り付けられている。そして、第2段冷却ステージ11に熱伝導部材8が熱的および機械的に接続されている。
【0014】超電導コイル6,吸熱部材7および熱伝導部材8は、具体的には、図2および図3に示すように構成されている。・・・。
【0015】吸熱部材7は、銅やアルミニウムなどの良熱伝導金属材で内径が超電導コイル6の外径より所定だけ大きく、かつ軸方向長さが超電導コイル6のそれより若干長い円筒状に形成された筒状部12と、この筒状部12の一端側内面に内側に突出するように筒状部12と一体に形成された環状部13とで構成されている。・・・。
・・・
【0017】一方、熱伝導部材8は、図2に示すように、銅やアルミニウムなどの良熱伝導金属材で外径が筒状部12の外径と同程度に、内径が環状部13の内径より所定だけ大きい環状に形成された部分16と、この部分16から一体に延びる部分17とで構成されている。なお、部分16には、この部分に周方向の渦電流通路が形成されないようにするために、切込み18が形成されている。
【0018】このように形成された熱伝導部材8は、吸熱部材7に設けられた切込み14に切込み18を合せるようにして部分16が環状部13の外面に当てがわれ、この状態で部分16が環状部13に対してねじ止めされている。すなわち、上記ねじ止めによって部分16と環状部13とが熱的および機械的に接続されている。そして、部分17が前述したGM冷凍機9の第2段冷却ステージ11に熱的および機械的に接続されている。
【0019】上記構成から判るように、超電導コイル6は、吸熱部材7および熱伝導部材8を介してGM冷凍機9の第2段冷却ステージ11に熱的に接続され、かつその荷重が吸熱部材7および熱伝導部材8を介してGM冷凍機9によって支持されている。
・・・
【0021】このような構成であると、GM冷凍機9を運転開始させると、このGM冷凍機9の第1段および第2段冷却ステージ10,11が温度低下する。この結果、超電導コイル6,吸熱部材7および熱伝導部材8の顕熱が伝導によって第2段冷却ステージ11に伝わり、この第2段冷却ステージ11を介してGM冷凍機9によって吸収される。したがって、これらが徐々に冷却される。そして、最終的に、これら超電導コイル6,吸熱部材7,熱伝導部材8は、第2段冷却ステージ11の最低到達温度に近い温度、つまり4K以下に冷却される。
・・・
[図:0001422417000012.jpg]
[図:0001422417000013.jpg]
」
3 甲3について
甲3の記載は、以下のとおりである。
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ビーム電流計に関し、さらに詳細には、微弱なビーム電流を非破壊か
つ高精度で測定することのできるビーム電流計に関する。
・・・
【0038】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記したような発明の背景ならびに従来の技術の有する問題点や従来の技術に対する要望に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、超伝導体の冷却機構を簡素化するとともに、コストの大幅な削減を可能としたビーム電流計を提供しようとするものである。
・・・
【0041】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明によるビーム電流計は、ビーム電流センサー、SQUIDおよび磁気シールドを断熱真空容器の真空中に配置するとともに、これらビーム電流センサー、SQUIDおよび磁気シールドの冷却手段として冷凍機を用いるようにして、断熱真空容器の内部に配置された冷凍機のコールドヘッドやコールドフィンガーなどの熱伝導手段からの熱伝導によって、ビーム電流センサー、SQUIDおよび磁気シールドを冷却するようにしたものである。
【0042】
従って、本発明によるビーム電流計によれば、液体ヘリウムや液体窒素などの冷媒を用いる必要がないので冷却機構が簡素化され、また、コストの大幅な削減が可能となる。
【0043】
さらに、測定作業中に液体ヘリウムや液体窒素などの冷媒を補給する必要はないので測定作業が簡素化され、しかもSQUIDを安定して連続的に動作させることができるので測定時間を短縮化することができる。
・・・
【0056】
図7乃至図9において、真空容器5’は断熱真空容器として構成されており、真空容器5’の上面5’a側は、中央に開口部6’aが形成された上フランジ6’により閉塞されている。なお、後述するように、パルス管冷凍機12のコールドヘッド12aに接続されたコールドフィンガー12fは、この開口部6’aから真空容器5’内部に挿通されることになる。
【0057】
即ち、符号12は真空容器5’内に配置されたビーム電流センサー1、SQUID3および磁気シールド2を冷却する冷凍機としてのパルス管冷凍機を示し、符号12aはパルス管冷凍機12の熱伝導手段としてのコールドヘッドを示し、符号12fはパルス管冷凍機12の熱伝導手段としてのコールドフィンガーを示しており、コールドヘッド12aに接続されたコールドフィンガー12fは真空容器5’の開口部6’aから真空容器5’内部に挿通されている。
【0058】
・・・符号12fは上記したようにコールドヘッド12aに接続されたコールドフィンガーを示し、符号13はコールドフィンガー12fに接続されて当該コールドフィンガー12fを介してコールドヘッド12aからの熱伝導によって冷却される熱伝導手段としての冷却板を示し、符号14はビーム電流センサー1および磁気シールド2を支持するためのドーナツ形状に形成された一対の支持板を示し、符号15は冷却板13と支持板14とを連結して熱伝導を確保するために配置された機械的にフレキシブルな編組導体を示し、符号16は一対の支持板14とビーム電流センサー1および磁気シールド2の両端面との間にそれぞれ配置されて熱抵抗を低減する熱伝導シートを示し、・・・符号22はSQUID3近傍の位置として冷却板13に取り付けられた電気ヒーターを示している。
・・・
【0067】
さらに、支持板14は、編組導体15を介して冷却板13に接続されており、コールドフィンガー12fを介してコールドヘッド12aに接続された冷却板13からの熱伝導により支持板14、ビーム電流センサー1、磁気シールド2およびSQUID3が冷却されるように構成されている。
・・・
[図:0001422417000014.jpg]
」
第7 当審の判断
取消理由通知書に記載した取消理由である進歩性、明確性要件・サポート要件について、その後、申立人意見書の主張について順に検討する。
第7-1 進歩性
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 構成aの「主熱板Aとその周囲を囲む保護熱板Bとからなる高温板ユニット」は、構成Aの「加熱板」に相当する。
また、構成c2によれば甲1発明は「JIS A 1412(保温材の熱伝導率測定方法)中の「平板直接法」と同じ測定方法を行うGHP法に基づく測定」を行うものであり、ここでの「平板直接法」とは当該JISにおいて「保護熱板法」とも言い換えられる、平板状の熱絶縁材を被検体とするGHP法の別称である。よって、構成aの「厚さdの断熱材や構造材からなる試料」は、構成Aの「被測定物平板」に相当する。
よって、甲1発明は構成Aに相当する構成を備えている。
イ 構成bの「熱板Dと冷却板Eとからなる低温板ユニット」は、構成Bの「冷却板」に相当する。
よって、甲1発明は構成Bに相当する構成を備えている。
ウ 構成c1の「前記両試料Cの表裏両面に熱電対を設けて試料の両面の温度差を測定」することは、構成C1の「前記一対の被測定物平板夫々の表裏両面部の温度を測定」することに相当する。
よって、甲1発明は構成C1に相当する構成を備えている。
エ 構成c2の「主熱板Aの発熱量Q」、「試料C表裏の温度差Δθ」、「試料Cの熱伝導率λ」は、それぞれ構成C2の「与えた熱量」、「表裏両面部の計測温度差」、「被測定物平板の熱伝導率」に相当する。
よって、構成c2の「JIS A 1412(保温材の熱伝導率測定方法)中の「平板直接法」と同じ測定方法を行うGHP法に基づく測定部本体」は、構成C2の「GHP法測定装置」に相当し、甲1発明は構成C2に相当する構成を備えている。
オ 構成c3の「低温槽Jと、その内側のステンレス容器Iとからなる二重容器」は、該二重容器がない場合に比べて少なくともステンレス容器Iを構成するステンレスや、低温槽Jを構成する素材が有する熱伝導率分の熱伝導に対する断熱性と、熱輻射の透過を阻害する分の熱輻射に対する断熱性とを備えることが自明である。
また、構成c4によれば「測定中、低温槽とステンレス容器との間の温度変動は約-97℃を中心に振幅10℃程度に、ステンレス容器内の温度変動は約-107℃を中心に振幅3℃程度にそれぞれ維持」できるものであり、当然に該二重容器外部は実験室の常温環境にあるから、内外間に大きな温度差を維持することを要する前記二重容器が全体として一定程度の断熱性を備えるように構成されるべきことはエネルギー効率上の要請や技術常識からみて自明であるともいえる。
よって、甲1発明は本件発明1の構成C2~C3の「・・・GHP法測定装置を断熱性」「容器の内側に収容」することと共通する構成を備えるといえる。
カ(ア)構成dの「低温板ユニットを-130℃±1~6℃に制御するために、液体窒素を冷却板Eに直接流して冷却板Eを通過させ、ステンレス容器Iと冷却槽Jとの間を循環して外気に排出される冷却機構」は、構成Dの「前記冷却板を0℃以下の低温に冷却する冷却手段」に相当する。
(イ)構成dの「冷却板E」は、構成c3で「二重容器内に収納」されると特定される構成c2の「測定部本体」の構成要素である旨、構成bで特定されるものであるから、それ自体「二重容器内に収納」されるものである。そうすると、構成dの「液体窒素を冷却板Eに直接流して冷却板Eを通過させ」る「冷却機構」は、配管など少なくともその一部が「冷却板E」と共に前記「二重容器内」に存在するといえる。
(ウ)以上(ア)、(イ)から、甲1発明は構成Dと、「前記冷却板を0℃以下の低温に冷却する冷却手段を前記断熱性」「容器内に設けてある」点で共通する。
キ 構成eの「低温熱伝導率測定装置」は、構成Eの「低温熱伝導率測定装置」に相当する。
ク 上記カ(イ)でも説示したとおり、甲1発明の「冷却機構」は、「容器内に収納」される「冷却板E」に「液体窒素を冷却板Eに直接流して冷却板Eを通過させ」るものであるから、甲1発明は構成F1と、「前記冷却手段」は、「前記GHP法測定装置の前記冷却板を冷却する」点で共通する。
(2)一致点・相違点
上記(1)によれば、本件発明1と甲1発明とは下記アの点で一致し、下記イの各点で相違する。
ア 一致点
A 加熱板の両面側に一対の被測定物平板を配置し、
B 前記一対の被測定物平板の更に両外側夫々に一対の冷却板を配置し、
C1 前記一対の被測定物平板夫々の表裏両面部の温度を測定して、
C2 与えた熱量と前記表裏両面部の計測温度差に基づいて被測定物平板の熱伝導率を算出するGHP法測定装置を、
C3’断熱性容器の内側に収容し、
D’ 前記冷却板を0℃以下の低温に冷却する冷却手段を前記断熱性容器内に設けてある
E 低温熱伝導率測定装置であって、
F1’前記冷却手段は、前記GHP法測定装置の前記冷却板を冷却する、
G 低温熱伝導率測定装置。
イ 相違点
(ア)相違点1(構成C3・D・F1)
GHP法測定装置を収容する断熱性容器が、本件発明1では気密性を備えた「断熱性気密容器」であるのに対し、甲1発明の「低温槽Jと、その内側のステンレス容器Iとからなる二重容器」の気密性の有無について不明である点。
(イ)相違点2(構成F1・F2)
冷却板を冷却する冷却手段について、本件発明1では、「前記冷却手段として熱伝導部材を設け、前記GHP法測定装置の前記冷却板を冷却するGM冷凍機を設け、前記GM冷凍機の放冷部から前記熱伝導部材を介して前記冷却板に直接熱接触させてある」のに対し、甲1発明では、液体窒素タンクから液体窒素を冷却板に直接流すものである点。
(3)相違点の検討
事案に鑑み相違点2について検討する。
ア 相違点2について
(ア)容器内に設置された冷却対象要素を冷却するための機構として、容器を真空断熱容器などの断熱密閉容器とした上で、GM冷凍機等の機械式冷凍機を当該断熱密閉容器に取り付けて用い、該密閉容器内の冷却対象要素と熱的に接続された容器内の冷却対象要素に対し、GM冷凍機等の機械式冷凍機の冷却ステージから、熱伝導部材を介して前記冷却対象要素を熱的に接続することで、前記冷却対象要素を、液体窒素や液体ヘリウムなどの冷熱源流体を大量消費することなく冷却する冷却機構は、上記第6の2、3に摘記した甲2、3の記載によっても裏付けられるとおり周知技術である。
(イ)一方、甲1発明の「低温熱伝導率測定装置」では、構成f1の「液体窒素を冷却板Eに直接流し、ステンレス容器Iと冷却槽Jとの間を循環して外気に排出する」「冷却機構」を採用することで、構成f2の「試料の両面の温度差による熱伝導率の変化は、測定誤差の範囲内にあり、試料側面部と周囲空気との温度差により、試料側面から熱移動が生じていない一次元熱流が実現している」。すなわち、低温熱伝導率測定の前提となる一次元熱流を、液体窒素を活用した上記冷却機構を用いて周囲の環境温度と冷却板Eの温度とをそれぞれ一定の範囲内に制御できたことで、実現したものといえる。
(ウ)そして、上記(ア)で言及した周知技術として例示された甲2、3は、真空断熱容器などの断熱密閉容器と、冷却対象要素として超伝導体の冷却にGM冷凍機等の機械式冷凍機とを用いた文献であって、断熱密閉容器が液体窒素や液体ヘリウムなどを循環させるタイプのものでも、機械式冷凍機が冷却する冷却対象要素が低温熱伝導率測定装置の冷却板でもない。
(エ)してみると、甲1発明では、液体窒素を活用した上記冷却機構が、一次元熱流を実現するために設計した必須構成といえることから、たとえ、液体窒素の消費を防ぐことが周知の課題であったとしても、甲1発明において、当該必須構成(冷却手段)を、液体窒素を活用しない冷却手段(例えば、上記周知技術など)に変更する動機は存在しない。また、甲1発明において、液体窒素の消費を防ぐために、仮に上記(ア)で言及した周知技術(断熱密閉容器と機械式冷凍機)の適用を想定した場合、上記(ウ)で説示したとおり、上記周知技術を裏付ける甲2、甲3の技術的事項から直ちに、構成f2の「試料の両面の温度差による熱伝導率の変化は、測定誤差の範囲内にあり、試料側面部と周囲空気との温度差により、試料側面から熱移動が生じていない一次元熱流が実現」できるか不明であることから、甲1発明には、上記周知技術の適用を阻害する事情があるといえる。
(オ)よって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、上記周知技術を踏まえても当業者が容易になし得たことでない。
(4)小括
したがって、上記相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 本件発明2~4について
本件発明2~4は、いずれも本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記1と同様の理由により、本件発明2~4は、甲1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第7-2 明確性要件・サポート要件
1(1)当審では、(明確性要件:請求項1~7)請求項1(~7)に記載された「機械式冷凍機」について、その技術的範囲が明確でない、との理由(第3.1)を通知した。
(2)この点について、特許請求の範囲に記載された「機械式冷凍機」が、本件訂正により「GM冷凍機」に訂正された結果、当該理由は解消された。
2(1)当審では、(明確性要件:請求項1~7)請求項1(~7)の記載では、「機械式冷凍機」と「冷却手段」との関係、「機械式冷凍機」の設置位置が不明である、との理由(第3.2)を通知した。
(2)この点について、「冷却手段を構成するのに、前記断熱性気密容器の内側空間内で前記GHP法測定装置の前記冷却板を冷却する機械式冷凍機を設け」が、本件訂正により「前記冷却手段として熱伝導部材を設け、前記GHP法測定装置の前記冷却板を冷却するGM冷凍機を設け」に訂正された結果、請求項1の記載から、「冷却手段」は「熱伝導部材」と「GM冷凍機」を含むこと、「熱伝導部材」と「GM冷凍機」を含む「冷却手段」を「断熱性気密容器内に設け」たことが理解されることから、当該理由は解消された。
3(1)当審では、(サポート要件:請求項1~7)請求項1(~7)に記載の「冷却手段」及び「機械式冷凍機」は、発明の詳細な説明に記載されたいずれの具体的手段(要素)に対応するのか不明である、との理由(第3.2)を通知した。
(2)この点について、上記2(2)のとおり、本件訂正後の請求項1(~4)の記載から、「冷却手段」は「熱伝導部材」と「GM冷凍機」を含むことが理解され、この理解は、【0023】、【0024】、【0038】の記載に裏付けられている。よって、請求項1(~4)に記載の「冷却手段」及び「GM冷凍機」は、発明の詳細な説明に記載された具体的手段(要素)との対応関係が明確となったことから、当該理由は解消された。
4(1)当審では、(サポート要件:請求項1~7)請求項1(~7)において、機械式冷凍機が断熱性気密容器内に設けられることを特定するものと解される場合、実施例に関する図1において、GM冷凍機の一部である「1段冷却部23B」が、二重容器からなる断熱性気密容器5の内側容器であるアルミ製外槽気密容器28の外部(または内外部にまたがって)設けられていること、また、この配置からみて機械式冷凍機の本体はさらに外方に存在しているはずであることと整合しない、との理由(第3.2)を通知した。
(2)この点について、上記2(2)のとおり、本件訂正後の請求項1(~4)の記載から、「熱伝導部材」と「GM冷凍機」を含む「冷却手段」は、「断熱性気密容器内に設けてある」ことが理解され、この理解は、【0036】の<5>及び図11の記載に裏付けられていること、また、「冷却手段」として「GM冷凍機の放冷部」や「熱伝導部材」を「断熱性気密容器内に設け」てあれば、冷却板を冷却し得ることは明らかである。よって、請求項1(~4)に記載の「冷却手段を前記断熱性気密容器内に設けてある」ことは、発明の詳細な説明に記載されているといえることから、当該理由は解消された。
5(1)当審では、(明確性要件:請求項2、3、5~7)請求項2(、3)及び5(~7)において、「第1金属製熱伝導部材」なる同名要素が、異なる箇所に用いる部材として特定されており、該両請求項において前記部材が同名称であることが何を意味するのか(取り付け箇所が異なるだけで形状も含め同一構成の部品であるなど)不明である。また、仮に、請求項2(、3)及び5(~7)における前記部材が相互に異なる構成を持つ部材であるなら、特許請求の範囲内で異なる要素に同一名称が用いられていることとなり、明確性を欠く、との理由(第3.3)を通知した。
(2)この点について、請求項5~7は、本件訂正により削除された結果、当該理由は解消された。
6(1)当審では、(明確性要件:請求項3、6)請求項3、6に記載される「第1金属製補助熱伝導部材」についても上記5と同様の不明確性が存在する、との理由(第3.4)を通知した。
(2)この点について、請求項6は、本件訂正により削除された結果、当該理由は解消された。
7(1)当審では、(明確性要件:請求項2、3)請求項3の「第1金属製補助熱伝導部材」は、請求項2の「第1金属製熱伝導部材」に対し、付加的に設ける要素であるのか、置き換えるべき要素であるのか不明確である。また、付加的に設ける要素と解した場合、「第1金属製熱伝導部材」は「冷却板」に対し取り付け位置を特定しないのに対し、「第1金属製補助熱伝導部材」の「冷却板」に対する取り付け位置が特定されており、請求項3における部材(「第1金属製熱伝導部材」と「第1金属製補助熱伝導部材」)の位置関係が不明確である、との理由(第3.5)を通知した。
(2)この点について、請求項3の「第1金属製補助熱伝導部材」は、本件訂正により請求項2の「第1金属製熱伝導部材」に対し、付加的に設ける要素であることが明らかとなった。また、請求項2の「第1金属製熱伝導部材」は、本件訂正により「冷却板」に対し取り付け位置が特定されたことで、請求項3における部材(「第1金属製熱伝導部材」と「第1金属製補助熱伝導部材」)の位置関係が明確となった。よって、当該理由は解消された。
8(1)当審では、(明確性要件:請求項5~7)「冷却手段を構成するのに・・・設ける」要素として、請求項1においては「機械式冷凍機」が特定され、請求項1を引用する請求項5では、他の要素と共に改めて「機械式冷凍機」が特定されていることから、請求項5の特定事項が、「機械式冷凍機」を追加的に設けることを意味するのか否か不明である。また、請求項5を引用する請求項6・7における「前記機械式冷凍機」が請求項1、請求項5のいずれのものを指すのか明確でない。また、(サポート要件)請求項5が「機械式冷凍機」を請求項1の構成に対し付加的に設けることを意味するのであれば、発明の詳細な説明において、機械式冷凍庫を2台設ける態様は記載されていないから、サポート要件を満たさない。請求項6、7についても同様である、との理由(第3.6)を通知した。
(2)この点について、請求項5~7は、本件訂正により削除された結果、当該理由は解消された。
第7-3 申立人意見書について
1 申立人の主張
(1)訂正事項1乃至3が訂正要件に違反していることについて(「3-1」欄)
ア 訂正事項1
特許権者は、令和6年7月19日提出の訂正請求書において、訂正事項1が『「冷却手段」と「機械式冷凍機」との相互関係を明確にすべく、「前記冷却手段として熱伝導部材を設け、前記GHP法測定装置の前記冷却板を冷却するGM冷凍機を設け、」と訂正することにより、「冷却手段」と「機械式冷凍機」とを別個のものとした。これは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。』と説明している。この説明に対して、申立人は、『「冷却手段」と「機械式冷凍機」とを別個のものとした場合、実質上特許請求の範囲を変更していることは明らかである。』と主張している。
イ 訂正事項2
申立人は、『訂正前の請求項2に記載の「直接熱接触可能に構成してある」が「金属製気密容器6」を介する意味を包含していたところ、本件訂正発明2に記載の「直接熱接触可能に構成してある」が「金属製気密容器6」を介さないことを意味することに変更されたことから、実質的に特許請求の範囲を変更していることは明らかである。』と主張している。
ウ 訂正事項3
申立人は、『訂正前の請求項3では、「直接熱接触」が「金属製気密容器6の第1底板17」を介する実施形態を包含すると解釈できる余地があったものの、本件訂正発明3では「直接熱接触」が「金属製気密容器6の第1底板17」を介さないことが明らかになったことから、実質的に特許請求の範囲を変更していることは明らかである。』と主張している。
(2)取消理由1(明確性要件)・取消理由2(サポート要件)について(「3-3-1」欄)
申立人は、『したがって、本件訂正発明1は、『ウ【明】また、冷却板を冷却する手段を構成Dでは「冷却手段」と特定し、構成F1では「機械式冷凍機」と特定している点は、特定事項間に矛盾を生じている。』との取消理由を解消していない。』と主張している。
(3)取消理由3(進歩性)について(「3-3-2」欄)
申立人は、『装置内要素の冷却を要する分野において機械式冷凍機を冷熱源として用いることは周知である。また、装置内要素を冷却する場合、当該要素の周辺を断熱性の高い構造とすることは装置内要素を冷却する目的から自明である。特許権者は意見書において「液体窒素測定部本体に与える影響を小さくすることができません。また、測定部周囲の温度を一定に保つことができません。」と主張している。しかしながら、甲第2号証および甲第3号証には、GM冷凍機等の機械式冷凍機で装置内要素を冷却する際に、周囲に液体窒素を流すことが必須である旨の記載は特にない。つまり、装置内要素の周囲を断熱性の高い構造とすればGM冷凍機等の機械式冷凍機を用いた冷却の目的は達成できると考えられる。仮に、特許権者の主張が正しければ、本件訂正発明1にはGHP法測定装置を 囲饒する金属製気密容器の外側に液体窒素を循環することが特定されていないことから、本件訂正発明1に記載の発明は実施できないことになる。つまり、特許権者は自身の発明と相矛盾する主張をしており、意見書の主張は明らかに失当である。したがって、甲1発明の液体窒素に代え、甲第2号証に記載のGM冷凍機を適用することを阻害する要因はないと言うべきである。』と主張している。
2 当審の反論
1 上記1(1)アに対して
訂正後の請求項1に係る発明では、「前記冷却手段として・・・GM冷凍機を設け」ることを特定しているから、「冷却手段」が「GM冷凍機」を含むものと解せる。この理解を前提にすると、訂正請求書の上記説明中における『「冷却手段」と「機械式冷凍機」とを別個のものとした』とは、「冷却手段」が「GM冷凍機」の上位概念であることを「別個」なる表現を用いて説明したものと解し得る。よって、申立人の上記主張は採用できない。
2 上記1(1)イに対して
訂正後の請求項2に係る発明では、「前記GM冷凍機の放冷部と前記冷却板とを前記第1金属製熱伝導部材を介して直接熱接触可能に構成してある」ことを特定している。そして、当該特定事項は、「前記第1金属製熱伝導部材」と、「前記GM冷凍機の放冷部と前記冷却板と」の物理的な接続関係を特定したものではなく、当該特定事項の『「直接熱接触可能に構成してある」が「金属製気密容器6」を介さないことを意味する』とは解せない。よって、申立人の上記主張は採用できない。
3 上記1(1)ウに対して
訂正後の請求項3係る発明は、「この第1金属製補助熱伝導部材により前記冷却板の両外側の上部と前記放冷部とを直接熱接触させてある」ことを特定している。そして、当該特定事項は、「この第1金属製補助熱伝導部材」と、「前記冷却板の両外側の上部と前記放冷部と」の物理的な接続関係を特定したものではなく、当該特定事項の『「直接熱接触」が「金属製気密容器6の第1底板17」を介さないことが明らかになった』とは解せない。よって、申立人の上記主張は採用できない。
4 上記1(2)に対して
『冷却板を冷却する手段を構成Dでは「冷却手段」と特定し、構成F1では「機械式冷凍機」と特定している点は、特定事項間に矛盾を生じている』といえないことは、第7-2の2(2)で説示したとおりであるよって、申立人の上記主張は採用できない。
5 上記1(3)に対して
『甲1発明の液体窒素に代え、甲第2号証に記載のGM冷凍機を適用することを阻害する要因はない』といえないことは、第7-1の1(3)に説示したとおりである。よって、申立人の上記主張は採用できない。
第8 取消理由通知において採用しなかった申立理由について
1 申立理由1:(進歩性)
進歩性については、上記第7-1で説示したとおりであるから、訂正後の請求項1~4に係る発明は、甲1に記載された発明、甲2、甲3に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。よって、申立理由1は採用できない。
2 申立理由2:(新規事項)
(1)申立人は、「(ア)本件特許発明1について
令和5年4月26日付け手続補正書により、請求項1には『前記機械式冷凍機の放冷部から熱伝導部材を介して前記冷却板に直接熱接触させてある』との発明特定事項が追加された。・・・
「熱伝導部材」を文字通り解釈すれば「熱を伝導する部材」であることから、文言上、「熱伝導部材」には樹脂や無機材料、液体、気体等の金属以外で構成した部材も含まれる。
しかしながら、出願当初明細書において、「冷凍機の放冷部」と「GHP法測定装置の冷却板」とを熱接触可能に構成する部材として例示されているのは、「第1金属製熱伝導部材」、「第1金属製補助熱伝導部材」および「第2金厩製熱伝導部材」のみであり、金属製以外の熱伝導部材は記載されていない。
・・・
したがって、本件特許発明1の「熱伝導部材」との発明特定事項は、出願当初明細書に記載されていない技術的事項を包含するように上位概念化されており新規事項に該当する。」と主張する(26~27頁)。
(2)上記(1)の主張について検討する。本件の願書に最初に添付した明細書には、「液体窒素やヘリウムの消費を抑制してGHP法測定装置の冷却板を冷却できる低温熱伝導率測定装置を提供する」(【0006】)ことを課題とし、「前記冷却手段を構成するのに、前記断熱性気密容器の内側空間内で前記GHP法測定装置の前記冷却板を熱伝導により冷却する冷凍機を設けた」(【0007】)ことを課題解決手段(課題解決のための技術的事項)としている。そして、冷却板を熱伝導により冷却するために、「第1金属製熱伝導部材」(【0008】)、「第1金属製補助熱伝導部材」(【0009】)、「第2金属製熱伝導部材」(【0010】)を用いる態様が記載されている。そして、固体内における熱の移動が熱伝導であり、熱伝導部材として金属以外の材質も存在することは、出願時の技術常識であるところ、本願発明1において、熱伝導部材の材質特定は、課題解決のための技術的事項に何ら影響を与えない。したがって、本件発明1の「熱伝導部材」との発明特定事項は、本件の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項ではない。よって、申立理由2は採用できない。
3 申立理由3:(サポート要件)及び申立理由4:(明確性要件)
サポート要件・明確性要件については、上記第7-2で説示したとおりであるから、訂正後の請求項1~4に係る発明は、特許請求の範囲の記載が不備であるとはいえない。よって、申立理由3は採用できない。
第9 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、特許異議申立書に記載した申立理由及び証拠によっては、本件請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項5~7に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項5~7に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700166