特許異議申立
2023-700920
管状部材
- 審判番号
- 2023-700920
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-110171
- 登録番号
- 7233810
- 請求日
- 2023年09月06日
- 審決日
- 2025年03月13日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】日星電気株式会社
- 【異議申立人】本間 賢一
- 審判長/審判官
- 審判長 間中 耕治
- 審判官 槙原 進
- 審判官 竹下 和志
- 分類
- P1651.536-ZAA(F16L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 行政事件訴訟法46条特許法36条4項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第7項、特許法第36条第6項第2号、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7233810号発明「管状部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7233810号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。
特許第7233810号の請求項1、2に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7233810号(以下、「本件特許」という。)の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成30年6月8日に出願され、令和5年2月27日にその特許権の設定登録がされ、令和5年3月7日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 9月 6日 : 特許異議申立人 本間 賢一(以下、単に「申立人」という。)による請求項1-2に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年11月30日付け: 取消理由通知
令和6年 1月31日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 3月15日 : 特許権者による手続補正書(方式)の提出
同年 4月26日 : 申立人による意見書の提出
同年 5月31日付け: 訂正拒絶理由通知
同年 7月 3日 : 特許権者による意見書の提出
同年 8月 9日 : 取消理由通知(決定の予告)
同年10月11日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年11月12日 : 特許権者による手続補正書(方式)の提出
同年12月27日 : 申立人による意見書の提出
なお、令和6年1月31日に提出の訂正請求書による訂正の請求については、令和6年10月11日に提出の訂正請求書による訂正の請求がされたので、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正請求について
1 本件訂正の内容
令和6年11月12日に提出の手続補正書により補正された令和6年10月11日に提出の訂正請求書による訂正の請求は、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1、2について訂正すること(以下、「本件訂正」という。)を求めるものである。
本件訂正は、特許請求の範囲の請求項1、2を、訂正前に次の(2)のとおりであったものを、訂正後に次の(1)のとおり訂正するとともに、明細書を訂正するものであり、その訂正の内容は、次の(3)の訂正事項のとおりのものである(下線は、訂正箇所を示すために、当審で付したものである。)。
(1)訂正後の請求項1、2
「【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から成る、端部より順に細径部、テーパー部、太径部で構成される管状部材であって、
該細径部の外径は、該太径部の外径より小さく、
且つ該細径部の内径は、該太径部の内径より小さく、
該細径部及び該太径部は内径及び肉厚を所定の値とする略ストレート形状であり、
該テーパー部の肉厚は、太径部から細径部に向かって薄くなり、
該テーパー部の長さは、太径部の外径より長く、
該細径部における引張強度は、該太径部における引張強度より大きいことを特徴とする管状部材。
【請求項2】
少なくとも内層、補強層、外層からなる管状体であって、
該内層は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から成る、端部より順に細径部、テーパー部、太径部で構成される管状部材であって、
該管状部材の細径部の外径は、太径部の外径より小さく、
且つ該管状部材の細径部の内径は、太径部の内径より小さく、
該管状部材の細径部及び太径部は内径及び肉厚を所定の値とする略ストレート形状であり、
該管状部材のテーパー部の肉厚は、太径部から細径部に向かって薄くなり、
該管状部材のテーパー部の長さは、太径部の外径より長く、該管状部材の細径部における引張強度は、太径部における引張強度より大きいことを特徴とする管状体。」
(2)訂正前の請求項1、2
「【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から成る、端部より順に細径部、テーパー部、太径部で構成される管状部材であって、
該細径部の外径は、該太径部の外径より小さく、
且つ該細径部の内径は、該太径部の内径より小さく、
該細径部及び該太径部は略ストレート形状であり、
該テーパー部の肉厚は、太径部から細径部に向かって薄くなり、
該テーパー部の長さは、太径部の外径より長く、
該細径部における引張強度は、該太径部における引張強度より大きいことを特徴とする管状部材。
【請求項2】
少なくとも内層、補強層、外層からなる管状体であって、
該内層は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から成る、端部より順に細径部、テーパー部、太径部で構成される管状部材であって、
該管状部材の細径部の外径は、太径部の外径より小さく、
且つ該管状部材の細径部の内径は、太径部の内径より小さく、
該管状部材の細径部及び太径部は略ストレート形状であり、
該管状部材のテーパー部の肉厚は、太径部から細径部に向かって薄くなり、
該管状部材のテーパー部の長さは、太径部の外径より長く、
該管状部材の細径部における引張強度は、太径部における引張強度より大きいことを特徴とする管状体。」
(3)訂正事項
ア 請求項1に係る訂正(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1に「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から成る、端部より順に細径部、テーパー部、太径部で構成される管状部材であって、該細径部の外径は、該太径部の外径より小さく、且つ該細径部の内径は、該太径部の内径より小さく、該細径部及び該太径部は略ストレート形状であり、該テーパー部の肉厚は、太径部から細径部に向かって薄くなり、該テーパー部の長さは、太径部の外径より長く、該細径部における引張強度は、該太径部における引張強度より大きいことを特徴とする管状部材。」とあるのを、「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から成る、端部より順に細径部、テーパー部、太径部で構成される管状部材であって、該細径部の外径は、該太径部の外径より小さく、且つ該細径部の内径は、該太径部の内径より小さく、該細径部及び該太径部は内径及び肉厚を所定の値とする略ストレート形状であり、該テーパー部の肉厚は、太径部から細径部に向かって薄くなり、該テーパー部の長さは、太径部の外径より長く、該細径部における引張強度は、該太径部における引張強度より大きいことを特徴とする管状部材。」に訂正する。
イ 請求項2に係る訂正(訂正事項2)
特許請求の範囲の請求項2に「少なくとも内層、補強層、外層からなる管状体であって、該内層は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から成る、端部より順に細径部、テーパー部、太径部で構成される管状部材であって、該管状部材の細径部の外径は、太径部の外径より小さく、且つ該管状部材の細径部の内径は、太径部の内径より小さく、該管状部材の細径部及び太径部は略ストレート形状であり、該管状部材のテーパー部の肉厚は、太径部から細径部に向かって薄くなり、該管状部材のテーパー部の長さは、太径部の外径より長く、該管状部材の細径部における引張強度は、太径部における引張強度より大きいことを特徴とする管状体。」とあるのを、「少なくとも内層、補強層、外層からなる管状体であって、該内層は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から成る、端部より順に細径部、テーパー部、太径部で構成される管状部材であって、該管状部材の細径部の外径は、太径部の外径より小さく、且つ該管状部材の細径部の内径は、太径部の内径より小さく、該管状部材の細径部及び太径部は内径及び肉厚を所定の値とする略ストレート形状であり、該管状部材のテーパー部の肉厚は、太径部から細径部に向かって薄くなり、該管状部材のテーパー部の長さは、太径部の外径より長く、該管状部材の細径部における引張強度は、太径部における引張強度より大きいことを特徴とする管状体。」に訂正する。
ウ 明細書の訂正
(ア)訂正事項3
明細書の段落【0009】に「(1)本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から成る、端部より順に細径部、テーパー部、太径部で構成される管状部材であって、細径部の外径は太径部の外径より小さく且つ細径部の内径は太径部の内径より小さく、細径部及び太径部は略ストレート形状であり、テーパー部の肉厚は、太径部から細径部に向かって薄くなり、テーパー部の長さは、太径部の外径より長く、細径部における引張強度は、該太径部における引張強度より大きいことを特徴とする。
(2)少なくとも内層、補強層、外層からなる管状体であって、(1)の管状部材を内層として用いることを特徴とする。」とあるのを、
「(1)本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から成る、端部より順に細径部、テーパー部、太径部で構成される管状部材であって、細径部の外径は太径部の外径より小さく且つ細径部の内径は太径部の内径より小さく、細径部及び太径部は内径及び肉厚を所定の値とする略ストレート形状であり、テーパー部の肉厚は、太径部から細径部に向かって薄くなり、テーパー部の長さは、太径部の外径より長く、細径部における引張強度は、該太径部における引張強度より大きいことを特徴とする。
(2)少なくとも内層、補強層、外層からなる管状体であって、(1)の管状部材を内層として用いることを特徴とする。」に訂正する。
(イ)訂正事項4
明細書の段落【0011】に「(1) テーパー部を介して、太径部と細径部の内外径が変化することで、管状部材内において引張強度が変化する。
細径部における引張強度は、太径部に引張強度より大きいため、特に細径部において伸長が抑制される一方、太径部は柔軟性を維持することが可能となる。
(2) 細径部は引張強度が大きく伸びにくく、かつ、太径部は細径部に比べて柔軟性に優れるため、1つの管状部材内において、伸長性及び柔軟性を所望のとおり調整可能となる。
(3) 先端部が細径であるため狭所へ挿入しやすく、また、細径部(先端部)ほど肉厚も薄く、かつ、引張強度が大きいため、伸びにくく作業性に優れる。
(4) テーパー部の肉厚は、太径部から細径部に向かって薄くなることで、細径部における引張強度は、太径部の引張強度より大きく調整可能となる。
(5) 管状部材の材質がPTFEの場合、耐熱性、耐薬品性、低摩擦性、非粘着性、耐候性、難燃性等に優れ、食品、製薬、化学、医療、分析機器等の様々な分野において有用である。」とあるのを、
「(1) テーパー部を介して、太径部と細径部の間で内外径が変化することで、管状部材内において引張強度が変化する。
細径部における引張強度は、太径部に引張強度より大きいため、特に細径部において伸長が抑制される一方、太径部は柔軟性を維持することが可能となる。
(2) 細径部は引張強度が大きく伸びにくく、かつ、太径部は細径部に比べて柔軟性に優れるため、1つの管状部材内において、伸長性及び柔軟性を所望のとおり調整可能となる。
(3) 先端部が細径であるため狭所へ挿入しやすく、また、細径部(先端部)ほど肉厚も薄く、かつ、引張強度が大きいため、伸びにくく作業性に優れる。
(4) テーパー部の肉厚は、太径部から細径部に向かって薄くなることで、細径部における引張強度は、太径部の引張強度より大きく調整可能となる。
(5) 管状部材の材質がPTFEの場合、耐熱性、耐薬品性、低摩擦性、非粘着性、耐候性、難燃性等に優れ、食品、製薬、化学、医療、分析機器等の様々な分野において有用である。」に訂正する。
(ウ)訂正事項5
明細書の段落【0014】に「図1の管状部材1は、細径部2、テーパー部3、太径部4から構成され、細径部の外径は太径部の外径より小さく且つ細径部の内径は太径部の内径より小さく、細径部2及び太径部4は略ストレート形状である。さらに、テーパー部の肉厚は太径部から細径部に向かって薄くなり、テーパー部の長さは太径部の外径より長いことを特徴とする。また、細径部2における引張強度は、太径部4における引張強度より大きい。そのため、細径部2は伸びにくく、長尺の配管等の狭所へ差し込まれる際の先端部として、好適である。」とあるのを、
「図1の管状部材1は、細径部2、テーパー部3、太径部4から構成され、細径部の外径は太径部の外径より小さく且つ細径部の内径は太径部の内径より小さく、細径部2及び太径部4は内径及び肉厚を所定の値とする略ストレート形状である。さらに、テーパー部の肉厚は太径部から細径部に向かって薄くなり、テーパー部の長さは太径部の外径より長いことを特徴とする。また、細径部2における引張強度は、太径部4における引張強度より大きい。そのため、細径部2は伸びにくく、長尺の配管等の狭所へ差し込まれる際の先端部として、好適である。」に訂正する。
(エ)訂正事項6
明細書の段落【0016】に「(引張強度の測定方法)
引張強度の測定方法は、ASTM D 638-00に基づく。
測定サンプルとして、管状部材1を約50mm準備する。サンプルの両端部を測定機のチャックで挟んで固定する。チャック間距離25mm、引張速度500[mm/min]とし、両方向へ引っ張り、10%延伸時の引張強度[MPa]を測定する。測定機は、一般の引張試験機を用いる。」とあるのを、
「(引張強度の測定方法)
引張強度の測定方法は、ASTM D 638-00に基づく。
測定サンプルとして、管状部材1の一部(細径部又は太径部)をそれぞれ約50mm準備する。サンプルの両端部を測定機のチャックで挟んで固定する。チャック間距離25mm、引張速度500[mm/min]とし、両方向へ引っ張り、10%延伸時の引張強度[MPa]を測定する。測定機は、一般の引張試験機を用いる。」に訂正する。
(オ)訂正事項7
明細書の段落【0020】に「管状部材1の内径及び外径は、特に限定されないが、PTFEの場合、φ0.1mm~φ10mmが好ましい。
太径部及び太径部の外径差について、外径差は大きい程、伸長性及び柔軟性の特性について差をつけることができる。」とあるのを、
「管状部材1の内径及び外径は、特に限定されないが、PTFEの場合、φ0.1mm~φ10mmが好ましい。
細径部及び太径部の外径差について、外径差は大きい程、伸長性及び柔軟性の特性について差をつけることができる。」に訂正する。
2 本件訂正の適否について
(1)請求項1に係る訂正(訂正事項1)について
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「略ストレート形状」を「内径及び肉厚を所定の値とする略ストレート形状」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、令和6年8月9日付け取消理由通知(決定の予告)で説示した理由2に対応する訂正であるといえるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
また、請求項中の「略ストレート形状」という記載に対して、直列的に発明特定事項を付加するものであるから、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないといえる。
また、願書に添付した明細書の段落【0025】-【0035】、【0038】の記載から、実施例1-11における内径及び肉厚は所定の値であることが記載されているといえるから、訂正事項1が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
(2)請求項2に係る訂正(訂正事項2)について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2の記載について、訂正事項1と同様に、「略ストレート形状」を「内径及び肉厚を所定の値とする略ストレート形状」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
また訂正事項1と同様に、請求項中の「略ストレート形状」という記載に対して、直列的に発明特定事項を付加するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないといえ、特許明細書等の【0025】-【0035】、【0038】の記載から、実施例1-11における内径及び肉厚は所定の値であることが記載されているといえるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
(3)明細書の訂正について
ア 段落【0009】及び【0014】に係る訂正(訂正事項3、5)について
訂正事項3、5は、訂正前の明細書の段落【0009】及び【0014】の「略ストレート形状」を「内径及び肉厚を所定の値とする略ストレート形状」に変更し、訂正後の請求項1、2と整合させたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
また、「略ストレート形状」という記載に対して、直列的に「内径及び肉厚を所定の値とする」ことを限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないといえる。
また、訂正事項1、2と同様の理由により、特許明細書等の【0025】-【0035】、【0038】の記載から、実施例1-11における内径及び肉厚は所定の値であることが記載されているといえるから、訂正事項3、5が特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
イ 段落【0011】に係る訂正(訂正事項4)について
訂正事項4は、訂正前の明細書の段落【0011】の「太径部と細径部の内外径が変化すること」に対して、内外径の変化が太径部と細径部との間で起きることを直列的に付加し、内外径がどの箇所で変化するのかを明確にするための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
そして、この訂正は、請求項1、2の「端部より順に細径部、テーパー部、太径部で構成される管状部材」について、「細径部の外径」が「太径部の外径より小さ」いものであることの解釈に影響を与えるものの、内外径の変化が太径部と細径部との間で起きることを直列的に限定するものであって、上位概念へ拡張したり、入れ替えて変更したりするものには該当しないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないといえる。
また、訂正事項4は、段落【0011】の記載を、明細書の段落【0019】の記載に整合させる訂正であるから、訂正事項4が特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
ウ 段落【0016】に係る訂正(訂正事項6)について
訂正事項6は、段落【0016】の記載について、「管状部材1を約50mm準備する。」を「管状部材1の一部(細径部又は太径部)をそれぞれ約50mm準備する。」に変更するものである。
そして、この訂正は、令和6年8月9日付け取消理由通知(決定の予告)で説示した理由1に対応する訂正であるといえるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
また、引張強度の測定方法を疎明するための訂正であって、請求項に記載された「引張強度」の解釈に影響を与えるものの、「引張強度」を上位概念へ拡張したり、入れ替えて変更したりするものには該当しないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、特許明細書等の段落【0025】には、細径部及び太径部の長さについて、「200mm」及び「1500mm」が記載されており、段落【0016】の「測定サンプルとして、管状部材1を約50mm準備する。」と記載されている。そして、段落【0038】の(表1)には、太径部及び細径部のそれぞれについての引張強度(10%延伸時)の計測値が記載されていることから、訂正事項6で追加された、「管状部材1の一部(細径部又は太径部)をそれぞれ約50mm準備する」ことは、細径部の長さが「200mm」、太径部の長さが「1500mm」の実施例から、細径部又は太径部を「50mm」ずつ切り出したものと理解できるものであり、特許明細書等の記載とも整合し、新たな技術事項を導入するものではない。よって、訂正事項6は、新規事項を追加するものでもない。
ウ 段落【0020】に係る訂正(訂正事項7)について
訂正事項7は、段落【0020】の記載について、「太径部及び太径部の外径差について、外径差は大きい程、伸長性及び柔軟性の特性について差をつけることができる。」と記載されているのを、「細径部及び太径部の外径差について、外径差は大きい程、伸長性及び柔軟性の特性について差をつけることができる。」に変更するものである。
ここで、訂正前の段落【0014】の「図1の管状部材1は、細径部2、テーパー部3、太径部4から構成され、細径部の外径は太径部の外径より小さく且つ細径部の内径は太径部の内径より小さく、細径部2及び太径部4は略ストレート形状である。さらに、テーパー部の肉厚は太径部から細径部に向かって薄くなり、テーパー部の長さは太径部の外径より長いことを特徴とする。また、細径部2における引張強度は、太径部4における引張強度より大きい。そのため、細径部2は伸びにくく、長尺の配管等の狭所へ差し込まれる際の先端部として、好適である。」という記載には、細径部の外径が、太径部の外径よりも小さいことが記載されているといえる。また、段落【0038】に記載された表1に示される実施例においても、細径部と太径部との間で外径に差があることが認められる。
そうすると、太径部と太径部との間で外径差があることを示した段落【0020】の「太径部及び太径部の外径差について、外径差は大きい程、伸長性及び柔軟性の特性について差をつけることができる。」という記載には、訂正前の段落【0014】及び段落【0038】の記載から、誤記が存在していたものということができる。
また、訂正前の段落【0011】の「(1)テーパー部を介して、太径部と細径部の内外径が変化することで、管状部材内において引張強度が変化する。細径部における引張強度は、太径部に引張強度より大きいため、特に細径部において伸長が抑制される一方、太径部は柔軟性を維持することが可能となる。」という記載から、テーパー部を介して、太径部と細径部の外径が変化することで、伸長性及び柔軟性の特性について差をつけることができることが記載されているといえる。また、段落【0038】に記載された表1に示される実施例においても、太径部及び細径部の内径及び肉厚を変化させることで、外径を変化させた場合に、引張強度が変化することが認められる。
そうすると、段落【0020】に存在した上記誤記は、段落【0011】及び【0038】の記載から、「細径部及び太径部の外径差について、外径差は大きい程、伸長性及び柔軟性の特性について差をつけることができる。」が正しい記載であることが自明な事項として定まるということができる。
したがって、訂正事項7は、誤記の訂正を目的とするものであるといえる。
また、訂正事項7は、特許明細書等の記載との関係で、誤りであることが明らかであり、かつ、特許明細書等の記載全体から、正しい記載が自明な事項として定まるときにおいて、その誤りを正しい記載にする訂正といえるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
また、訂正事項7は、段落【0011】、【0014】、【0038】の記載から、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえるから、新規事項を追加するものでもない。
(4)小括
以上により、請求項1、2に係る訂正である訂正事項1、2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、明細書の訂正である訂正事項3-6による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、明細書の訂正である訂正事項7による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は、認められたから、本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」-「本件発明2」といい、まとめて「本件発明」という。)は、上記第2の1(1)に示した訂正後の請求項1、2により特定されるものと認められる。
第4 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1、2に係る特許に対して、当審が令和6年8月9日付けの取消理由通知(決定の予告)により特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
取消理由1(実施可能要件)
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、請求項1、2の「該細径部における引張強度は、該太径部における引張強度より大きい」管状部材を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないものであるため、本件特許の請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
取消理由2(明確性)
本件特許の請求項1、2の記載は、特許を受けようとする発明が明確でないから、本件特許の請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第5 当審の判断
1 取消理由1(実施可能要件)
(1)特許法第36条第4項第1号の実施可能要件について
特許法第36条第4項第1号は、特許による技術の独占が発明の詳細な説明をもって当該技術を公開したことへの代償として付与されるという仕組みを踏まえ、発明の詳細な説明の記載につき、実施可能要件を定めるものである。このような同号の趣旨に鑑みると、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、特許を受けようとする発明の実施をすることができる程度の記載があることを要するものと解される。
また、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、特許法第36条第4項第1号の「その実施をすることができる」とは、その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることであり、物の発明については、明細書にその物を生産する方法及び使用する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を作ることができ、かつ、その物を使用できるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。
以下、この規範に沿って検討する。
(2)実施可能要件についての当審の判断
本件特許の請求項1には、「該細径部における引張強度は、該太径部における引張強度より大きい」と記載されている。
本件特許の発明の詳細な説明の段落【0022】には、「本発明の製造方法について特に限定しないが、例えば、テーパー状の芯材上に、PTFE分散液を塗布(ディッピング)し焼結する方法の他、ペースト押出による成型方法、または、原チューブを作製し、これを芯材上に被覆する方法等が挙げられる。管状部材1が芯材上に成型される場合、芯材を後工程で除去することにより、管状部材1が得られるため、管状部材1は芯材を有していてもよい。」と記載されており、PTFEからなる細径部、テーパー部及び太径部で構成される管状部材1を、これらの製造方法により製造することができるものと解される。
しかしながら、分散液を塗布して焼結する方法や、ペースト押出による成型方法や、原チューブを作成し、これを芯材上に被覆する方法についての製造方法に関する技術常識を参酌しても、単純にこれらの製造方法を実施しただけでは、細径部と太径部の原料が同じであって、管状部材の壁の肉厚が細径部と太径部とで同じとなると考えられる。そして、同材料で同肉厚であれば径の大きい方が引張強度は大きくなるといえるから、段落【0022】に記載された製造方法だけでは、「該細径部における引張強度は、該太径部における引張強度より大きい」管状部材1を製造することができないし、段落【0022】に記載された製造方法に加えて、どのような加工を施すことにより「該細径部における引張強度は、該太径部における引張強度より大きい」管状部材1を製造するのか、発明の詳細な説明には、その具体的な方法が一切記載されていない。
仮に、分散液を塗布して焼結する方法や原チューブを作成し、これを芯材上に被覆する方法で製造する場合についてさらに検討する。
管状部材を、細径部の壁の肉厚を、太径部の肉厚よりも薄くなるように異ならせても、これらの製造方法から製造される管状部材は、細径部と太径部の原料が同じであれば、径が大きく肉厚も厚い太径部の方が引張強度は大きくなることが技術常識である。
また、ペースト押出による成型方法を単純に実施しただけでは、管状部材の肉厚は、一定で変化せず、細径部の壁の肉厚が、太径部の肉厚よりも厚くなったり薄くなったりはしないことが技術常識である。そして、発明の詳細な説明には、ペースト押出による成形方法に加えてどのような加工をすることで、細径部の壁の肉厚を、太径部の肉厚よりも薄くするとともに、細径部における引張強度が太径部における引張強度より大きいようにするのか、その具体的な方法が一切記載されていない。
さらに、段落【0022】に記載されている方法であれば、何れの方法であっても「該細径部における引張強度は、該太径部における引張強度より大きい」管状部材を作製できることが、本件特許発明の出願時に技術常識であるとも認められない。
次に、段落【0025】-【0038】には、「該細径部における引張強度は、該太径部における引張強度より大きい」管状部材として、実施例1-11が示されている。前述のとおり、細径部と太径部の原料が同じであれば、径が大きく肉厚も厚い太径部の方が引張強度は大きくなることが技術常識であるから、これらの実施例は、段落【0022】に記載されているいずれの製造方法における技術常識とも矛盾する。したがって、単純に段落【0022】に記載された製造方法を実施しただけでは、これらの実施例に示される管状部材は得られない。
そして、発明の詳細な説明には、これらの実施例1-11の管状部材について、どのようにして「該細径部における引張強度は、該太径部における引張強度より大きい」管状部材を作成したのか、その具体的な方法が一切記載されていない。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、「該細径部における引張強度は、該太径部における引張強度より大きい」管状部材1を生産する方法及び使用する方法についての具体的な記載がなく、また、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者が細径部における引張強度が太径部の引張強度よりも大きい管状部材1を作ることができ、かつ、管状部材1を使用できるものということもできない。
よって、発明の詳細な説明の記載は、請求項1-2の「該細径部における引張強度は、該太径部における引張強度より大きい」管状部材を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
(3)特許権者の主張について
特許権者は、令和6年10月11日に提出された意見書の第4の4のアの(ア-1)において次の主張をする。
「本件特許の発明で用いるPTFEは、汎用プラスチックと異なり、スーパーエンジニアリングプラスチックに分類され、優れた特性を有しています。PTFE分散液の塗布やペースト押出等の成形方法や、成形後の2次加工等によって、PTFEの分子構造が様々に変化するため、それに伴い引張強度も変化します。そのため、当業者の常識として、「単に肉厚が小さいだけでは、必ずしも引張強度は大きくならない」ことは周知の事実であります。
実際に、添付書類(1)特許第4827372号においては、同じPTFE、同じ径であっても、引張強度が変化する記載があります。
よって『細径部と大径部の原料が同じであって、管状部材の壁の肉厚が細径部と大径部とで同じとなる。そして、同材料で同肉厚であれば径の大きい方が引張強度は大きくなる』ということは必ず当てはまるとは言えず、本願発明の明細書に記載の様々な製造方法や公知情報の製造方法など様々な方法で、実施可能であると言えます。」
しかしながら、特許権者が令和6年10月11日に提出した意見書において添付書類として挙げた特許第4827372号では、延伸処理を行うことで引張強度に関する特性を付与することが記載されているが、本件特許の発明の詳細な説明には、段落【0022】に記載されている製造方法の後で延伸処理を行うことについては、一切記載されていない。
仮に、PTFE樹脂チューブに延伸処理を行うことで引張強度が大きくなることが技術常識であったとしても、当該技術常識は、径が変化しない単純なPTFE樹脂チューブに関するものであって、本件特許の発明の詳細な説明には、端部より順に細径部、テーパー部、太径部で構成される管状部材について、延伸処理をどのような加工条件で行うかについて一切記載がないのだから、「該細径部における引張強度は、該太径部における引張強度より大きい」管状部材1を得るために、当業者にとって過度の試行錯誤を課すものといわざるを得ない。
よって、特許権者の主張は、採用できない。
(4)小括
よって、本件特許の請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、本件特許の請求項1、2に係る特許は、取り消されるべきものである。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700920