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特許異議申立

2024-700140

自己消火性樹脂成形体

審判番号
2024-700140
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-550496
登録番号
7329528
請求日
2024年02月16日
審決日
2025年06月20日
公報発行日
2025年09月26日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】ノバセル株式会社
  • 【権利者代理人】古谷 聡
  • 【権利者】ポリプラスチックス株式会社
  • 【権利者代理人】古谷 聡
  • 【異議申立人】伊東 沙織
審判長/審判官
  • 審判長 淺野 美奈
  • 審判官 加藤 友也
  • 審判官 植前 充司
分類
P1651.121-YAA(C08J) / P1651.536-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第2条第3項第1号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7329528号発明「自己消火性樹脂成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7329528号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第7329528号の請求項2ないし8に係る特許を維持する。 特許第7329528号の請求項1に係る特許に対する特許異議申立を却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7329528号(以下、この通知において「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、2019年(令和1年)10月2日(優先権主張 平成30年10月5日)を国際出願日とする出願であって、令和5年8月9日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年同月18日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その特許に対して、令和6年2月16日に特許異議申立人 伊東 沙織(以下、「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年4月3日に特許異議申立人より特許異議申立書に対する手続補正書が提出され、同年6月13日付けで取消理由が通知され、同年8月14日に特許権者 ダイセルミライズ株式会社から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年10月3日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年10月4日に本件特許権の移転登録申請(移転後の特許権者:ノバセル株式会社、ポリプラスチックス株式会社)がなされ、同年同月31日付で手続を続行すること(手続続行通知書)が特許権者及び異議申立人に通知され、同年11月1日に特許異議申立人から意見書が提出され、令和7年1月30日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年3月27日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされたものである。 なお、令和6年8月14日になされた訂正請求については、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものと見なす。 また、本件は、既に特許異議申立人に意見書を提出する機会が与えられている場合であって、訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、事件において提出された全ての証拠や意見等を踏まえてさらに審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると合議体が判断したため、特許法第120条の5第5項ただ但し書きの「特別の事情」に該当し、改めて特許異議申立人に意見書を提出する機会を与えないものとする。 第2 訂正の適否についての判断 1 請求の趣旨 本件訂正請求の趣旨は、「特許第7329528号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める。」というものである。 2 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。) (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2の(D)成分の含有量を「0.7~5質量%」に訂正する。 請求項2の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項3ないし8についても同様に訂正する。 (3) 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項2の(C)成分と(D)成分の合計量中の(D)成分の含有割合を「2.5~13質量%」に訂正する。 請求項2の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項3ないし8についても同様に訂正する。 (4) 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項2に「(ただし、マイクロクリスタリンワックスを含有する態様を除く)。」と記載する。 請求項2の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項3ないし8についても同様に訂正する。 (5) 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2記載」と記載されているのを「請求項2記載」に訂正する。 請求項3の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項4ないし8についても同様に訂正する。 (6) 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか1項記載」と記載されているのを「請求項2または3記載」に訂正する。 請求項4の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項5ないし8についても同様に訂正する。 (7) 訂正事項7 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4のいずれか1項記載」と記載されているのを「請求項2~4のいずれか1項記載」に訂正する。 請求項5の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項6ないし8についても同様に訂正する。 (8) 訂正事項8 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~4のいずれか1項記載」と記載されているのを「請求項2~4のいずれか1項記載」に訂正する。 請求項6の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項7及び8についても同様に訂正する。 (9) 訂正事項9 特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~6のいずれか1項記載」と記載されているのを「請求項2~6のいずれか1項記載」に訂正する。 請求項7の記載を引用して特定する請求項8についても同様に訂正する。 (10) 訂正事項10 特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7のいずれか1項記載」と記載されているのを「請求項2~7のいずれか1項記載」に訂正する。 (11) 一群の請求項について 訂正前の請求項1ないし8について、請求項3ないし8は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるとともに、請求項2を直接又は間接的に引用して特定するものでもあるから、訂正前の請求項1ないし8に対応する訂正後の請求項1ないし8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 訂正事項1 訂正事項1に係る請求項1の訂正は、請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 (2) 訂正事項2ないし4について 訂正事項2ないし4に係る請求項2の訂正は、請求項2において、(D)成分の含有量の範囲の下限を「0.3」から「0.7」とし、(C)成分と(D)成分の合計量中の(D)成分の含有割合の範囲の下限を「2」から「2.5」とし、「マイクロクリスタリンワックスを含有する態様を除く」ものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項2ないし4に係る請求項2の訂正は、明細書の【0074】及び【0077】の記載から見て、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 請求項2の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項3ないし8についても同様である。 (3) 訂正事項3ないし8について 訂正事項3ないし8に係る請求項3ないし8の訂正は、いずれも、訂正事項1に係る請求項1の訂正により請求項1が削除されることに伴い、引用先の請求項から請求項1を除くものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項3ないし8に係る請求項3ないし8の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 請求項3ないし7の記載を直接又は間接的に引用して特定する他の請求項に関しても同様である。 4 訂正についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 また、本件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1ないし8に対して特許異議申立がされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明8」という。)は、令和7年3月27日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「 【請求項1】(削除) 【請求項2】 (A)ポリオレフィン系樹脂、(B)リン系難燃剤、(C)ガラス繊維、および(D)重炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウムおよび酸化ケイ素から選ばれる炭化促進剤を含む樹脂組成物から得られる自己消火性樹脂成形体からなるバッテリー式電動輸送機器におけるバッテリーモジュールの筐体部品またはその周辺部品であって、 前記成形体中、(B)リン系難燃剤を15~30質量%、(C)ガラス繊維を5~50質量%、および(D)炭化促進剤を0.7~5質量%含有しており、(C)成分と(D)成分の合計量中の(D)成分の含有割合が2.5~13質量%である、下記(I)~(III)を満たす、自己消火性樹脂成形体からなるバッテリー式電動輸送機器におけるバッテリーモジュールの筐体部品またはその周辺部品(ただし、マイクロクリスタリンワックスを含有する態様を除く)。 (I)前記自己消火性樹脂成形体の厚みが1.5~8.0mmであること。 (II)前記自己消火性樹脂成形体が、下記燃焼試験E法による燃焼試験終了後2分以内に自己消火すること。 (III)前記自己消火性樹脂成形体が、下記燃焼試験E法による燃焼試験後に開孔がないこと。 燃焼試験E法:前記成形体からなる平板(150×150×2.0mm)を使用する。200mm長さの炎を使用し、前記平板の上方から、前記平板の中心に対して130秒間接炎する。前記平板の接炎位置からバーナーまでの距離は150mm。 【請求項3】 さらに下記(IV)、(V)を満たす、請求項2記載の自己消火性樹脂成形体からなるバッテリー式電動輸送機器におけるバッテリーモジュールの筐体部品またはその周辺部品。 (IV)下記方法のコーンカロリーメータ発熱性試験により測定される総発熱量が、加熱開始から130sec経過後において10MJ/m2以下であること。 (V)下記方法のコーンカロリーメータ発熱性試験による総発熱量測定の際、加熱開始から5min経過後において前記自己消火性樹脂成形体を被覆するアルミニウム箔に開孔がないこと。 コーンカロリーメータ発熱性試験:ISO5660-1に準拠し、大きさ100mm×100mm、厚み2.0mmの平板状成形品の加熱面を除いた面をアルミニウム箔(厚さ12μm)で覆ったものを試料とし、輻射熱強度は50kW/m2にて、5分間加熱を行う。 【請求項4】 さらにカーボンブラックを含有する、請求項2または3記載の自己消火性樹脂成形体からなるバッテリー式電動輸送機器におけるバッテリーモジュールの筐体部品またはその周辺部品。 【請求項5】 (C)成分のガラス繊維が、ガラス繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねたガラス長繊維束に(A)成分のポリオレフィン系樹脂が溶融状態で付着されて一体化されたものが5~50mmの長さに切断された樹脂付着長繊維束の形態のものである、請求項2~4のいずれか1項記載の自己消火性樹脂成形体からなるバッテリー式電動輸送機器におけるバッテリーモジュールの筐体部品またはその周辺部品。 【請求項6】 (C)成分が、長さ1~4mmの範囲にあるガラス短繊維である、請求項2~4のいずれか1項記載の自己消火性樹脂成形体からなるバッテリー式電動輸送機器におけるバッテリーモジュールの筐体部品またはその周辺部品。 【請求項7】 成形体中の(A)成分と(B)成分の合計含有量に対する次式(B)/[(A)+(B)]×100から求められる(B)成分の含有割合が18~45質量%である、請求項2~6のいずれか1項記載の自己消火性樹脂成形体からなるバッテリー式電動輸送機器におけるバッテリーモジュールの筐体部品またはその周辺部品。 【請求項8】 (A)成分が、ポリプロピレン樹脂である、請求項2~7のいずれか1項記載の自己消火性樹脂成形体からなるバッテリー式電動輸送機器におけるバッテリーモジュールの筐体部品またはその周辺部品。」 第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について 特許異議申立人が特許異議申立書において、本件特許の請求項1ないし8に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨(下記1ないし4)は、次のとおりである。 1 申立理由1-1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 申立理由1-2(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 3 申立理由2(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (1) 申立理由2-1(本件請求項1、2に記載の燃焼試験E法による試験結果を充足する自己消火性樹脂組成物についての検討) 本件請求項1、2は、自己消火性樹脂成形体からなる筐体部品等であって、燃焼試験E法による燃焼試験後、終了後2分以内に自己消火すること、および開孔がないことを特定する。 そして、本件特許の審査中に提出した意見書において、特許権者は、燃焼試験E法で特定される燃焼性(難燃性)は、組成が同等である引用文献1(甲第2号証)には記載や示唆がないほど高度であると主張している。 この燃焼性について、本件明細書の発明の詳細な説明には、表1~表5に示された具体的組成を有する成形体が、燃焼試験E法による試験に合格したことが記載されている。一方で、上記組成の他にどのような条件を満たせば本件特許発明がもつ高度な燃焼性を実現できるのかについて、何らの記載もされていない。 そもそも燃焼試験E法は、欧州ECE-R100における自己燃焼性試験を想定して特許権者が定めた独自の試験方法だというものである(本件明細書の段落【0059】)。しかし、どのような条件を満たせば、燃焼試験E法による燃焼試験後、終了後2分以内に自己消火し、かつ開孔がない自己消火性樹脂成形体が得られるのか、発明の詳細な説明の記載からは不明である。 また、燃焼試験E法が、UL-94やECE-R100等の公知の規格と対比してどの程度厳しい試験なのか、あるいはどの程度緩やかな試験なのかも、発明の詳細な説明の記載からは不明である。そのため、どの程度の難燃性を有する樹脂成形体を作製すれば、燃焼試験E法に合格するものとなるのかも、発明の詳細な説明の記載からは不明である。 してみると、燃焼試験E法による試験に合格する成形体を作製するためには、表1~表5に示された具体的組成を有すればよいのか、それとも他に必要な製造上の条件があるのかが不明である。また、他の条件があるとして、具体的にどのようにすれば燃焼試験E法による試験に合格する成形体が得られるのかも不明である。 そのため、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項1、2に記載された燃焼試験E法に関する条件を満たす自己消火性樹脂成形体を作製しようとする当業者に過度の試行錯誤を要求するものである。 してみると、発明の詳細な説明の記載は、本件請求項1、2およびこれらの請求項を引用する請求項3~8に記載された燃焼試験E法の結果を満たす自己消火性樹脂成形体を作れるように記載されているとはいえず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たさない。 (2) 申立理由2-2(本件請求項3に記載のコーンカロリーメータ発熱性試験による試験結果を充足する自己消火性樹脂組成物についての検討) 本件請求項3は、自己消火性樹脂成形体からなる筐体部品等であって、コーンカロリーメータ発熱性試験による測定される総発熱量が、加熱開始から130sec経過後において10MJ/m2以下であり、かつ加熱開始から5min経過後において自己消火性樹脂成形体を被覆するアルミニウム箔に開孔がないことを特定する。 そして、本件明細書の発明の詳細な説明の記載には、表1~表5に示された具体的組成を有する成形体が、上記したコーンカロリーメータ発熱性試験に合格したことが記載されている。 一方で、上記燃焼試験E法について検討したのと同様に、表1~表5に示された具体的組成のほか、どのような条件を満たせば、コーンカロリーメータ発熱性試験について請求項3に記載した条件を満たすものとなるのか、発明の詳細な説明の記載からは不明である。 してみると、発明の詳細な説明の記載は、本件請求項3およびこれを引用する請求項4~8に記載されたコーンカロリーメータ発熱性試験の結果を満たす自己消火性樹脂成形体を作れるように記載されているとはいえず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たさない。 4 申立理由3(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (1) 申立理由3-1(本件請求項1、2に記載の燃焼試験E法による試験結果を充足する自己消火性樹脂組成物についての検討) 本件請求項1、2は、「(I)前記自己消火性樹脂成形体の厚みが1.5~8.0mmであること。」を満たす筐体部品等を特定する。 同時に、本件請求項1、2は、「燃焼試験E法:前記成形体からなる平板(150×150×2.0mm)を使用する。200mm長さの炎を使用し、前記平板の上方から、前記平板の中心に対して130秒間接炎する。前記平板の接炎位置からバーナー口までの距離は150mm。」による所定の試験結果を満たす筐体部品等を特定する。 しかし、自己消火性樹脂成形体の厚みが1.5mm以上2.0mm未満であるとき、厚みが2.0mmの平板を用いる燃焼試験E法をどのように実施するのか、不明である。 また、自己消火性樹脂成形体の大きさが150×150mmよりも小さいとき、150×150mm平板を用いる燃焼試験E法をどのように実施するのか、不明である。 してみると、本件請求項1、2およびこれらの請求項を引用する請求項3~8の記載は不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性)を満たさない。 (2) 申立理由3-2(本件請求項1、2に記載のリン系難燃剤と炭化促進剤との関係についての検討) 本件請求項2は、(B)リン系難燃剤および(D)炭化促進剤(酸化亜鉛等)を含む筐体部品等に関する。そして、この筐体部品等は、成形体中に(B)リン系難燃剤を15~30質量%、(D)炭化促進剤を0.3~5質量%含有することを、要件とする。 ここで、本件明細書の段落【0020】には、(B)リン系難燃剤は、(D)炭化促進剤を含んでもよいと記載されている。そして、段落【0076】には、(B)成分中の炭化促進剤は(D)成分に含まれると記載されている。 これらの記載からは、リン系難燃剤に酸化亜鉛等の炭化促進剤(甲1発明の酸化亜鉛等)が含まれるとき、この炭化促進剤は(B)成分に含まれるものであり、(B)成分の量に含まれるべきなのか(段落【0020】)、それともこの炭化促進剤は(D)成分に含まれるものなので(B)成分には含まれず、(B)成分の量に含まれるべきではないのか(段落【0076】)、不明である。 ところで、本件請求項2は成形体中の(B)リン系難燃剤および(D)炭化促進剤の量を特定する。ここで、成形時には各材料は加熱混練されるから、成形体中から測定された炭化促進剤について、これが製造時に使用したリン系難燃剤に含まれていたものか、あるいはリン系難燃剤とは別に添加したものなのかは判別できない。 そのため、上記の炭化促進剤が(B)成分に含まれるとすると、成形体中(つまり、射出成形等した後)の炭化促進剤が(B)成分に由来するものなのか、それとも(B)成分とは別に添加したものなのはわからないから、リン系難燃剤および炭化促進剤を含む成形体について、成形体中の(B)成分の量(つまり、成形に使用した、炭化促進剤を含むリン系難燃剤の量)を特定することはできない。そしてその結果、本件発明の範囲は不明確となる。 また、上記の炭化促進剤が(B)成分に含まれないとすると、本件明細書の実施例では、炭化促進剤である酸化亜鉛を含むリン系難燃剤である(B-2)「FP-2200S」(甲第1号証の段落【0100】)について、酸化亜鉛を含む量を(B)成分の量として記載しているから、実施例で検討している(B)成分の量と請求項に記載した(B)成分の量との間に不整合が生じる。なお、本件の実施例で使用している他のリン系難燃剤である(B-1)「FP-2500S」および(B-3)「FP-2100JC」についても酸化亜鉛を含むか否かが不明であり、これらのリン系難燃剤を使用した実施例・比較例についても本来の(B)成分および(D)成分の量が不明である。その結果、請求項1、2に記載された(B)リン系難燃剤および(D)炭化促進剤の量について、本件実施例との関係は不明であり、本件はサポート要件(特許法第36条第6項第1号)を満たさないこととなる。 してみると、本件請求項1、2及びこれらの請求項を引用する請求項3~8の記載は不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性)を満たさない。 5 証拠方法 ・甲第1号証:特表2018-503720号公報 ・甲第2号証:特開2011-88970号公報 ・甲第3号証:特開2012-227120号公報 ・甲第4号証:特表2016-537766号公報 ・甲第5号証:特開2017-82028号公報 ・甲第6号証:国際公開第2014/168169号 ・甲第7号証:「ランクセス、電気自動車のバッテリーコンポーネント向け新PBTコンパウンドを開発」と題するランクセス社のウェブページ(2018年4月2日付)を印刷した書面、URL: https://lanxess.co.jp/jp/media-japan/media-japan/press-releases-japan/jp-hpm-new-pbt-compound-for-battery-j/ ・甲第8号証:「ランクセス、電気自動車のバッテリーコンポーネント向け新PBTコンパウンドを開発」と題する日本経済新聞社のウェブページ(2018年4月2日付)を印刷した書面、URL: https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP476163_S8A400C1000000/ ・甲第9号証:「リチウムイオン蓄電池 PR-HUG-400A 危険性評価試験 耐火試験(UN ECE R100-02. Part.II準拠)」と題するウェブページを印刷した書面、URL: https://primestar.co.jp/pdf/burning.pdf ・甲第10号証:「【リチウムイオン電池】 UN ECE R100-02.Part.IIの試験項目」と題するウェブページ(2018年8月25日付)を印刷した書面、URL: https://algorithm.joho.info/denki-denshi/lithium-ion-battery-un-ece-rl00-02/ なお、証拠の表記については、おおむね特許異議申立書における記載に従った。 第5 令和7年1月30日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の要旨 本件特許の請求項1ないし8に係る特許に対して、当審が令和7年1月30日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。なお、取消理由には、申立理由1-2のうち請求項2ないし5、7及び8のを対象とする部分が包含される。 取消理由(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性) 本件特許の請求項2ないし5、7及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 第6 当審の判断 1 令和7年1月30日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)(以下、「決定の予告」という。)についての判断 (1) 甲第2号証の記載事項等 ア 甲第2号証の記載事項 甲第2号証には、「ガラス長繊維含有難燃性樹脂組成物及び成形品」に関し、次の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、ガラス長繊維含有難燃性樹脂組成物及び成形品に関する。」 「【0006】 本発明は、このような状況を鑑み、ポリオレフィン系樹脂に難燃剤としてリン酸塩化合物を添加した樹脂組成物にガラス長繊維を配合し、酸素指数が高く、耐候性に優れたガラス長繊維含有難燃性樹脂組成物及び該組成物からなる成形品を提供することを目的とする。」 「【0007】 本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究の結果、ポリオレフィン系樹脂、リン酸塩およびガラス長繊維を含んでなる樹脂組成物は、酸素指数が高く、耐候性に優れることを見出し、その知見をもとに本発明を完成した。 すなわち、本発明は、下記の(A)、(B)及び(C)を含んでなることを特徴とするガラス長繊維含有難燃性樹脂組成物である。 (A)ポリオレフィン系樹脂100質量部 (B)下記(a)成分及び(b)成分からなるリン酸塩10質量部以上200質量部以下 (a)成分:下記一般式(1)で表されるリン酸塩化合物1質量部以上99質量部以下 (b)成分:下記一般式(3)で表されるリン酸塩化合物1質量部以上99質量部以下 (C)平均長さが2mm以上50mm以下のポリオレフィン樹脂含浸ガラス長繊維ペレット中のガラス長繊維0.5質量部以上200質量部以下 【化1】 [図:0001426800000001.jpg] (式中、nは1~100の数を示し、X1は下記式(2)で表されるトリアジン誘導体である。また、0<p≦n+2を示す。) 【化2】 [図:0001426800000002.jpg] [式中、Z1およびZ2は、同一でも異なっていてもよく、-NR1’R2’基(ここで、R1’およびR2’は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分岐のアルキル基、またはメチロール基である)、水酸基、メルカプト基、炭素原子数1~10の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素原子数1~10の直鎖もしくは分岐のアルコキシ基、フェニル基及びビニル基からなる群より選ばれるいずれかの基である。] 【化3】 [図:0001426800000003.jpg] (式中、rは1~100を示し、Y1は〔R1R2N(CH2)mNR3R4〕、ピペラジンまたはピペラジン環を含むジアミンであり、R1,R2,R3およびR4は、それぞれ、水素原子、炭素原子数1~5の直鎖または分岐のアルキル基であり、R1,R2,R3およびR4は同一の基であっても異なっていてもよい。mは1~10の整数である。また、0<q≦r+2を示す。)」 「【発明の効果】 【0012】 本発明の樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂に、前記一般式(1)として例えばピロリン酸メラミンと、前記一般式(3)として例えばピロリン酸ピペラジンと、さらにガラス長繊維とを含んでなるので、酸素指数がより高く、耐候性に優れ、且つ燃焼時に黒煙、有毒性ガス等の発生が少なく、絶縁性、耐衝撃性、剛性、外観が優れるという難燃性樹脂組成物が得られる。従って、本発明のガラス長繊維含有難燃性樹脂組成物は、電線用被覆材、光ファイバー、電線などのエンクロージャーや端面板、電動工具ハウジング、家電・OA製品ハウジング、自動車用材料、車両用材料、船舶用材料、航空機用材料及び建築用材料等に極めて有用である。」 「【実施例】 【0046】 以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。なお、下記の実施例及び比較例に用いる物質は、下記のとおりである。 【0047】 成分(A) ポリオレフィン SA06A(ホモPP) 日本ポリプロ社製 H-700(ホモPP) プライムポリマー社製 J-784HV(ブロックPP) プライムポリマー社製 B-780(ブロックPP) プライムポリマー社製 成分(B) リン酸塩化合物 FP2100J(ピロリン酸ピベラジン/ピロリン酸メラミン=60/40重量比) ADEKA社製 成分(C) ガラス長繊維(ガラス長繊維ペレットとして) LR-25Z(ホモPP/ガラス長繊維=50/50重量比) 日本ポリプロ社製 ペレット長さ10mm LR-85Z(ブロックPP/ガラス長繊維=50/50重量比) 日本ポリプロ社製 ペレット長さ10mm LR-26Y(ホモPP/ガラス長繊維=42/58重量比) 日本ポリプロ社製 ペレット長さ10mm ガラス短繊維 3J254S[繊維径13μm、繊維長3mmのガラス繊維(チョップドストランド)] 日東紡ガラス繊維社製 その他樹脂 EG8200 (メタロセン系ポリエチレン樹脂) ダウ・ケミカル社製 ユーメックス1010(無水マレイン酸付加量5重量%のホモPP)三洋化成工業社製 その他難燃剤 AP422(非被覆ポリリン酸アンモニウム) クラリアント社製 GREP-EG(膨張黒鉛) 鈴裕化学社製 AP745(非被覆ポリリン酸アンモニウム/トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート/金属酸化物=組成比非公開) クラリアント社製 その他難燃助剤 酸化亜鉛 1種 堺化学工業社製 トクシールNP(酸化ケイ素) トクヤマ社製 添加剤 アデカスタブAO-60(フェノール系酸化防止剤) テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン ADEKA社製 アデカスタブ2112(リン系酸化防止剤) トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト ADEKA社製 リコモントET132(分散剤・滑剤) 飽和脂肪族炭素数30のモンタン酸エステル クラリアント社製 アデカスタブLA502(耐候剤) N-メチル型ヒンダードアミン/安定剤の混合物 ADEKA社製 ダイアナプロセスオイルPW90(プロセス安定剤) 非芳香族系ゴム用鉱物油系軟化剤 出光興産社製 フィラー JA-24RL(タルク) 浅田製粉社製 【0048】 〔1〕製造 成分(A)のポリオレフィン樹脂、成分(B)の(a)成分及び(b)成分からなるリン酸塩及びその他成分を混合し、押出機により溶融混練し、ペレット状の難燃マスターバッチ(以下、マスターバッチをMBと略記することがある)組成物を得る製造法を用いた。以下、各工程を詳細に説明する。 (1)予備混合 表1に示す各成分の組成で配合し、ヘンシェルミキサーで予備混合した。各成分の合計量100質量部に対して、アデカスタブ2112 0.2質量部、アデカスタブAO-60 0.1質量部、リコモントET132 0.3質量部、アデカスタブLA502 0.6質量部及びダイアナプロセスオイルPW90 0.3質量部添加した。 【0049】 (2)溶融混練 特許3964314号記載の製造方法に従って、溶融混練を行った。 得られた予備混合物を、シーティーイー社製HTM型2軸連続混練押出機HTM38[スクリュー系=38mm,L/D=28(2軸部)]で混練を行った。HTM混練押出機は、2軸混練部と単軸混練部とが一体構造であり、スクリューは非噛合い異方向型のものであり、スクリューのネジ構造は2条ネジであり、2軸混練部の第1混練部と第2混練部にミキシングローターがあり、第1混練部と第2混練部の間に開放ベントがあり、2軸混練部の端部には、せき止め構造と、樹脂流量調節するオリフィス調節機能を有している。このせき止め構造とオリフィス調節機能により、難燃性樹脂組成物の吐出量を調節した。オリフィス開度は全開とした。オリフィス調節機能部からダイスまでが単軸混練部であり、その間に真空ベントを有する。 なお、混練機のスクリューサイズは、スクリュー径D=38mm、第1混練部のL1(ミキシングローターの長さmm)/D=12、第2混練部のL2(ミキシングローターの長さmm)/D=3で行った。また、吐出量、シリンダー設定温度、スクリュー回転数などの運転条件は、吐出量50~80kg/h、シリンダー設定温度200~210℃、スクリュー回転数500rpmの運転条件で混練を行った。 表1に、難燃MBの配合を示す。 【0050】 【表1】 [図:0001426800000004.jpg] 【0051】 〔2〕成形 溶融混練で得られた難燃MBペレット、ガラス長繊維ペレット及び必要に応じて樹脂ペレットを、各表に示す所定の配合に計量し、ドライブレンドして十分に均一に混合する。 これを射出成形機のホッパーに投入し、シリンダー温度190~210℃、金型温度50℃で射出成形して試験片及びエンクロージャー部材1を作製した。図3に作製したエンクロージャー部材1を示す。エンクロージャー部材1は半円筒型であり、内径の直径190mm(高さ95mm)、長さ670mmである。使用の際は、エンクロージャー部材1を2つ対向配置させ円筒型にして用いる。」 「【0052】 〔3〕評価 前記の試験片及びエンクロージャー部材1について、その特性を下記の評価方法で評価した。評価結果を各表に示す。 (1)難燃性評価(酸素指数) JIS K-7201に準拠して測定した。 試験機:(株)東洋精機製作所 キャンドル法燃焼試験機D-2型 試験片:ASTM D790 曲げ試験片から、120×6×3.2mmの試験片を作製した。 試験法:試験片を各種酸素濃度の雰囲気下に置き、その上端に点火器を近づけ、着火後に燃焼時間180秒以下かつ燃焼距離50mm以下を満足する時の酸素濃度を求めた。」 「【0053】 〔実施例1~24、比較例1~6〕 表1で得られた難燃MBペレットに、ガラス長繊維ペレット及び必要に応じてポリプロピレンペレットを、表2及び表3に示す配合組成でドライブレンドし、続いて射出成形して成形品組成物を得た。その難燃性(酸素指数)、物性及び耐候性の評価の結果も表2及び表3に示す。 【0054】 【表2】 [図:0001426800000005.jpg] 」 「【0059】 〔実施例25~30、比較例7~12〕 実施例25~30の成形組成物は、表4に記載の組成を用い、前述の実施例1~24に記載の方法と同様にして得た。 比較例8~12は、マスターバッチを使用せず、全配合物(表4の組成内訳)を溶融混練し、その作製したペレットを射出成形して、成形品組成物を得た。評価結果を表4に示す。 【0060】 【表4】 [図:0001426800000006.jpg] 」 「【0063】 〔実施例31~32、比較例14~18〕 実施例31~32および比較例14~18は、表5に記載の組成を用い、前述の実施例1~24に記載の方法と同様にして得た。評価結果を表5に示す。 【0064】 【表5】 [図:0001426800000007.jpg] 」 「【0067】 〔実施例33~34、比較例19~20〕 表6の実施例33~34及び比較例19~20は、それぞれ、実施例33が表5の実施例31、実施例34が表5の実施例32、比較例19が表5の比較例15、比較例20が表5の比較例18と同組成物である。各組成物の燃焼ガスのpH、燃焼時の最大煙濃度及びエンクロージャー成形品での評価結果を表6に示す。 【0068】 【表6】 [図:0001426800000008.jpg] 」 イ 甲第2号証に記載された発明 上記アの記載を、実施例30について整理すると、甲第2号証には次の発明が記載されていると認める。 「ポリプロピレン100質量部、リン酸塩化合物66.7質量部、ガラス長繊維56質量部、酸化亜鉛1質量部を含む樹脂組成物から得られる成形品組成物であって、 下記(I)’、(II)’を満たす、成形品組成物。 (I)’:前記成形品組成物の厚みが3.2mmである。 (II)’:JIS K-7201に準拠して測定した酸素指数が40%である。」(以下、「甲2発明」という。 (2) 対比・判断 ア 本件特許発明2について 本件特許発明2と甲2発明とを対比する。 甲2発明の「ポリプロピレン」、「リン酸塩化合物」、「ガラス長繊維」、「酸化亜鉛」及び「成形品組成物」は、それぞれ、本件特許発明1の「ポリオレフィン系樹脂」、「リン系難燃剤」、「ガラス繊維」、「重炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウムおよび酸化ケイ素から選ばれる炭化促進剤」及び「樹脂成形体」に相当する。 次に、甲2発明の成形品組成物は厚みが3.2mmであるから、本件特許発明1の「(I)前記自己消火性樹脂成形体の厚みが1.5~8.0mmであること。」のうち、「樹脂成形体の厚みが1.5~8.0mmであること。」の限りにおいて満たす。 また、甲2発明の成形品組成物は、その原料から見て、「マイクロクリスタリンワックス」を含むものでないことも明らかである。 してみると、両者は、 「(A)ポリオレフィン系樹脂、(B)リン系難燃剤、(C)ガラス繊維、および(D)重炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウムおよび酸化ケイ素から選ばれる炭化促進剤を含む樹脂組成物であって、 下記(I)~(III)を満たす、樹脂成形体(ただし、マイクロクリスタリンワックスを含有する態様を除く)。 (I)前記樹脂成形体の厚みが1.5~8.0mmであること。」 との点で一致し、次の点で相違する。 (相違点2-1) 本件特許発明1の樹脂成形体は「バッテリー式電動輸送機器におけるバッテリーモジュールの筐体部品またはその周辺部品」と特定されるのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。 (相違点2-2) 本件特許発明1の樹脂成形体は「成形体中、(B)リン系難燃剤を15~30質量%、(C)ガラス繊維を5~50質量%、および(D)炭化促進剤を0.7~5質量%含有しており、(C)成分と(D)成分の合計量中の(D)成分の含有割合が2.5~13質量%である、」と特定されるのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。 (相違点2-3) 本件特許発明1の樹脂成形体は「自己消火性」であって、「(II)前記自己消火性樹脂成形体が、下記燃焼試験E法による燃焼試験終了後2分以内に自己消火すること」及び「(III)前記自己消火性樹脂成形体が、下記燃焼試験E法による燃焼試験後に開孔がないこと」と特定されるのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。 事案に鑑み、相違点2-2について検討する。 甲2発明の樹脂組成物は、「ポリプロピレン100質量部、リン酸塩化合物66.7質量部、ガラス長繊維56質量部、酸化亜鉛1質量部」を含むものであるから、樹脂組成物に対する各成分の割合は、リン酸塩化合物が30質量%、ガラス長繊維が25質量%、酸化亜鉛が0.4質量%と計算され、また、ガラス長繊維と酸化亜鉛の合計における酸化亜鉛の割合は1.8質量%と計算されるから、本件特許発明2における「(C)成分と(D)成分の合計量中の(D)成分の含有割合が2.5~13質量%である」との発明特定事項と明らかに異なる。 そして、甲第2号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲2発明において「ガラス長繊維と酸化亜鉛の合計における酸化亜鉛の割合」、即ち、「(C)成分と(D)成分の合計量中の(D)成分の含有割合」に着目し、その割合を増加させる動機付けはない。 してみると、甲2発明において、相違点2-2に係る本件特許発明2の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件特許発明3ないし5、7及び8について 本件特許発明3ないし5、7及び8はいずれも、本件特許発明2の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである。 そして、上記アのとおり、本件特許発明2は甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明3ないし5、7及び8も甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3) 決定の予告についてのまとめ 上記(2)のとおりであるから、決定の予告の理由では、本件特許発明2ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 2 決定の予告で採用しなかった特許異議申立理由についての判断 (1) 申立理由1-1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)について ア 甲第1号証の記載事項等 (ア) 甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、「難燃性ガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物」に関し、次の記載がある。 「【請求項1】 ガラス繊維および難燃剤を含有する芯と、難燃剤組成物を含み、該芯を取り囲むポリプロピレン化合物の被覆とを有する難燃性ガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物のペレットであって、前記難燃剤組成物が、有機リン酸塩化合物、有機リン酸化合物および酸化亜鉛の混合物を含むものである、ペレット。 【請求項2】 前記難燃性ガラス繊維強化ポリプロピレン組成物が、該難燃性ガラス繊維強化ポリプロピレン組成物の質量に基づく質量百分率で、 ・25~80質量%のポリプロピレン化合物、 ・10~40質量%のガラス繊維、および ・10~35質量%の難燃剤組成物、 を含む、請求項1記載のペレット。 【請求項3】 前記含浸剤の量が、前記ガラス繊維の質量に基づいて、5から15質量%である、請求項1または2記載のペレット。 【請求項4】 ISO 1133(2.16kg、230℃)にしたがって測定した、前記ポリプロピレン化合物のメルトフローレートが、10~100g/10分、好ましくは10~80g/10分、より好ましくは10~50g/10分である、請求項1または2記載のペレット。 【請求項5】 成形組成物において、 ・ガラス繊維および含浸剤を含有する芯と、該芯を取り囲む第1のポリプロピレン化合物の被覆とを有するガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物のペレットであって、前記ガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物が、該ガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物の質量に基づいて、10~70質量%のガラス繊維および90~30質量%のポリプロピレン化合物を含み、該ガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物が難燃剤組成物を含有しないものである、ペレット、および ・有機リン酸塩化合物、有機リン酸化合物および酸化亜鉛の混合物を含む難燃剤組成物を含有する第2のポリプロピレン化合物を含む難燃性ポリプロピレン希釈組成物、 を含む成形組成物。 【請求項6】 前記難燃性ポリプロピレン希釈組成物が、請求項1から3いずれか1項記載のペレットからなる、請求項5記載の成形組成物。 【請求項7】 難燃剤組成物を含有しない前記ペレットの芯が、前記ガラス繊維の質量に基づいて、5から15質量%の量で前記含浸剤を含む、請求項5または6記載の成形組成物。 【請求項8】 ISO 1133(2.16kg、230℃)にしたがって測定した、前記第1のポリプロピレン化合物のメルトフローレートが、10~100g/10分、好ましくは10~80g/10分、より好ましくは10~50g/10分である、請求項5または6記載の成形組成物。 【請求項9】 成形組成物において、 ・請求項1から3いずれか1項記載のペレット、および ・有機リン酸塩化合物、有機リン酸化合物および酸化亜鉛の混合物を含む難燃剤組成物を含有する希釈ポリプロピレン組成物のペレット、 を含む成形組成物。 【請求項10】 前記成形組成物が、該成形組成物の質量に基づく質量百分率で、 ・35~80質量%のポリプロピレン化合物、 ・10~40質量%のガラス繊維、および ・10~35質量%の難燃剤組成物、 を含む、請求項9記載の成形組成物。 【請求項11】 3.2mmでUL94-V0等級、好ましくは2.5mmでUL94-V0等級、より好ましくは2.0mmでUL94-V0等級、さらにより好ましくは1.6mmでUL94-V0等級を有する、請求項1から4いずれか1項記載の難燃性ガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物、または請求項5から8いずれか1項記載の成形組成物、または請求項9または10記載の成形組成物。 【請求項12】 1.6mmでUL94-V0等級を有し、前記難燃剤組成物の量が、以下の式Iにしたがって選択される: FR≧0.5×GF+5 I 式中、GF=質量%で表されたガラス繊維の量、 FR=質量%で表された難燃剤組成物の量、 但し、前記ガラス繊維の量が、少なくとも15質量%、好ましくは20~40質量%の範囲にある、請求項1から4いずれか1項記載の難燃性ガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物、または請求項5から8いずれか1項記載の成形組成物、または請求項9または10記載の成形組成物。 【請求項13】 請求項1から4いずれか1項記載のペレット、または請求項5から8いずれか1項記載の成形組成物、または請求項9または10記載の成形組成物の、成形物品の製造のための使用であって、前記物品が、自動車内装または外装物品である、または建物一体型太陽電池パネルまたは建物一体型光起電性パネルの筐体に含まれている、使用。 【請求項14】 請求項1から4いずれか1項記載のペレット、または請求項5から8いずれか1項記載の成形組成物、または請求項9または10記載の成形組成物を成形することにより得られる物品。 【請求項15】 1.6mmでUL94-V0等級を有する、請求項14記載の物品。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、難燃性ガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物に関する。本発明はさらに、成形組成物、および前記難燃性組成物または成形組成物の、成形または押出しなどによる物品の製造のための使用に関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0021】 したがって、従来技術を考慮して、本発明の課題は、良好な機械的性質だけでなく、良好な難燃性を有するガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物を提供することにある。 【0022】 本発明のさらなる課題は、費用効果的な様式で製造できる、良好な機械的性質および良好な難燃性を有するガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物を提供することにある。」 「【課題を解決するための手段】 【0023】 第1の態様 したがって、第1の態様において、本発明は、ガラス繊維を含有する芯と、難燃剤組成物を含み、その芯を取り囲むポリプロピレン化合物の被覆とを有する難燃性ガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物のペレットであって、その難燃剤組成物が、有機リン酸塩化合物、有機リン酸化合物および酸化亜鉛の混合物を含むものである、ペレットに関する。 【0024】 本出願の発明者等は、有機リン酸塩化合物、有機リン酸化合物および酸化亜鉛の混合物を含む難燃剤組成物を、特許文献1のワイヤ被覆法に効果的に使用でき、良好な機械的性質並びに優れた難燃性等級を有する組成物が得られることに気付いた。また、その他の点では同一であるが、その難燃剤組成物を含有しないペレットと比べて、白点または遊離ガラスの観点から、有意差は見られなかった。 【0025】 したがって、上述した目的の少なくとも1つが満たされる。」 「【0034】 難燃剤組成物 前記ポリプロピレン化合物は、有機リン酸塩化合物、有機リン酸化合物および酸化亜鉛の混合物を含む難燃剤組成物をさらに含む。誤解を避けるために、その難燃剤組成物は、ハロゲン不含有難燃剤組成物である。 【0035】 そのような混合物において、有機リン酸塩化合物対リン酸化合物の質量比は、典型的に、1:0.01から1:2である。その質量比が1:1から1:2であることが好ましい。 【0036】 前記混合物中の有機リン酸塩化合物としては、ピロリン酸ピペラジン、ポリリン酸ピペラジンおよびその組合せが挙げられる。 【0037】 前記混合物中のリン酸化合物としては、リン酸、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、リン酸メラミン、およびそれらの組合せが挙げられる。そのリン酸化合物がリン酸メラミンであることが好ましい。 【0038】 前記酸化亜鉛は、その難燃剤組成物の質量に基づいて、2~10質量%、より好ましくf3~6質量%で使用される。 【0039】 市販の難燃剤組成物の一例に、Adeka Palmaroleから入手できる、ADK STAB FP-2200がある。 【0040】 前記難燃剤組成物の量は、その強化ポリプロピレン組成物の質量に基づいて、10~35質量%である。UL-94 5V等級に準拠する必要のある用途には、20~35質量%などの多量が必要であろう。ULS-94 V0等級のためには、より少量で十分であろう。」 「【0054】 より好ましい実施の形態において、その含浸剤は、含浸剤の質量に基づいて、少なくとも70質量%のマイクロクリスタリンワックスを含有する。その点に関して、マイクロクリスタリンワックスは、ただ1つのマイクロクリスタリンワックスまたはいくつかのマイクロクリスタリンワックスのブレンドであってよいことが理解されよう。一般に、マイクロクリスタリンワックスは、固体の飽和脂肪族炭化水素の精製混合物であり、石油精製プロセスからの特定の留分を脱油することにより製造される。マイクロクリスタリンワックスは、分子構造がより分岐しており、炭化水素鎖がより長い(より高い分子量)という点で精製パラフィン蝋とは異なる。その結果、マイクロクリスタリンワックスの結晶構造は、パラフィン蝋よりもずっと微細であり、これは、そのような材料の機械的性質の多くに直接影響する。マイクロクリスタリンワックスは、パラフィン蝋と比べて、より強靱であり、より柔軟性であり、一般に、融点がより高い。微細な結晶構造により、マイクロクリスタリンワックスは、溶媒または油に結合することができ、それゆえ、組成物からの滲出が防がれる。マイクロクリスタリンワックスは、パラフィン蝋の結晶特性を変更するために使用されることがある。マイクロクリスタリンワックスは、いわゆるイソポリマー(iso-polymer)とも非常に異なる。まず始めに、マイクロクリスタリンワックスは石油系であるのに対し、イソポリマーはポリ-アルファ-オレフィンである。第二に、イソポリマーは、95%を超える非常に高度の分岐を有する一方で、マイクロクリスタリンワックスの分岐の量は、一般に、40~80質量%の範囲にある。最後に、イソポリマーの融点は、一般に、マイクロクリスタリンワックスの溶融温度と比べて、比較的低い。全般的に、マイクロクリスタリンワックスは、パラフィン蝋またはイソポリマーのいずれとも混同されるべきではない異なる部類の材料を形成する。含浸剤の残りの多くとも30質量%は、天然または合成ワックスもしくはイソポリマーを含むことがある。典型的な天然蝋に、蜜蝋、ラノリンおよび獣脂などの動物系蝋、カルナウバ、カンデリラ、大豆などの植物蝋、パラフィン蝋、セレシン蝋およびモンタン蝋などの鉱蝋がある。典型的な合成ワックスとしては、ポリエチレンワックスまたはポリオールエーテルエステルワックス、塩素化ナフタレンおよびフィッシャー・トロプシュ由来ワックスなどのエチレン系高分子が挙げられる。イソポリマーまたは超分岐高分子の典型的な例に、上述したVybar 260がある。実施の形態において、含浸剤の残りの部分は、ポリエチレンワックス、パラフィンなどの1種類以上の高度分岐ポリ-アルファ-オレフィンを含有する、またはそれらからなる。さらに好ましい実施の形態において、含浸剤は、少なくとも80質量%の、より好ましくは少なくとも90質量%の、またさらには少なくとも95質量%の、または少なくとも99質量%のマイクロクリスタリンワックスを含む。含浸剤が実質上マイクロクリスタリンワックスからなることが最も好ましい。実施の形態において、含浸剤はパラフィンを含有しない。「実質上からなる」という用語は、含浸剤が、含浸剤の質量に基づいて、少なくとも99.9質量%のマイクロクリスタリンワックスを含むように解釈されるべきである。 【0055】 マイクロクリスタリンワックスが以下の性質: -ASTM D127にしたがって決定した、60から90℃の降下融点、 -ASTM D938にしたがって決定した、55から90℃の凝固点、 -ASTM D1321にしたがって決定した、0.7から4mmの25℃でのニードルペン貫通力、 -ASTM D445にしたがって決定した、10から25mPa・sの100℃での粘度、 -ASTM D721にしたがって決定した、マイクロクリスタリンワックスの質量に基づく0から5質量%、好ましくは0から2質量%の油含有量、 の1つ以上を有することが好ましい。 【0056】 さらにより好ましい実施の形態において、そのマイクロクリスタリンワックスは、これらの性質の組合せを全て有する。」 「【0068】 用途 本発明による難燃性ガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物は、公知の後続加工技術による物品または構造部品の製造に使用してもよい。そのような技術に、射出成形、押出成形、加圧成形などがある。 【0069】 本発明の組成物の一般的な用途は、高剛性を要する構造部品である。 【0070】 例えば、本発明の組成物は、バンパー、計器パネル支持体、ドアモジュール、テールゲート、前部モジュール、アクセルペダルモジュール、エアバッグ筐体、空気路、サンルーフ構造、蓄電池外箱などの自動車部品の製造に使用できる。」 「【実施例】 【0091】 ここで、本発明を以下の非限定的実施例によってさらに説明する。 【0092】 難燃性測定 前記UL 94難燃性等級は、本明細書に引用される、2006年6月2日に改訂された、UL 94:「機器の部品用プラスチック材料の難燃性試験」、第5版、1996年10月29日にしがって決定した。このUL 94標準規格は、プラスチック材料の難燃性を評価し、比較するための標準化され、公認された(米国規格協会(ANSI)により2010年7月28日に承認)試験方法および評価尺度を提供する。このUL 94標準規格には、6つの試験がある:水平燃焼試験(HB);20mm炎垂直燃焼試験(V-0、V-1、V-2);125mm炎垂直燃焼試験(5VA、5VB);火炎伝搬試験;フイルム材料垂直燃焼試験(VTM-0、VTM-1、VTN-2);および発泡材料垂直燃焼試験(HBF、HF-1、HF-2)。本明細書に記載された実施の形態を、20mm炎垂直燃焼試験(V-0、V-1、V-2)、および棒材についての125mm炎垂直燃焼試験(5V)を使用して決定した難燃性等級によって特徴付ける。 【0093】 UL 94仕様にしたがって決定されたUL 94難燃性等級が、試験片の厚さと共に報告されている。概して、より薄い試験片は、減少した難燃性と相間する。したがって、所定の材料の比較的より薄い試験片で、UL 94 5V-A難燃性等級を達成することはより難しい。 【0094】 ここで、以下の実施例に基づいて本発明を説明する。これらの実施例は、本発明を限定するものと決して考えるべきではない。 【0095】 いくつかの難燃剤組成物を調製した。それらが表1および2に示されている。ガラス繊維(ガラス)、難燃剤組成物(FR)およびポリプロピレン(PP)並びに他の成分(他)の量は全て、組成物の総質量に基づく質量%で示されている。その組成物の他の成分(他)は、全ての実施例E1~E17および比較例CE1~CE3について同一であり、添加剤、安定剤、およびカーボンブラックからなった。全ての実施例および比較例が、2.65%の含浸剤を含有し、これは、本出願の提示の目的のために、PPの量に含まれた。その含浸剤は、国際公開第2015/062825号に開示されたようなマイクロクリスタリンワックス100%からなった。 【0096】 比較例CE1、CE2、CE3において、難燃剤組成物は存在しなかった。 【0097】 実施例E1、E6、E11、E12、およびE17において、ガラス繊維充填ポリプロピレン組成物の被覆中に難燃剤組成物が含まれた。他の実施例において、難燃性ガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物は、難燃剤を含有しない、同じタイプ(すなわち、芯-被覆構造を有する)のガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物で希釈した。この希釈材料は、SABICから市販されているStamax 30YK270であった。 【0098】 ポリプロピレンは、SABICから市販されている異相プロピレン共重合体である、約70g/10分のメルトフローレートを有するPP 513MNK10であった。 【0099】 ガラス多芯ストランド(ロービング)は、3B Fibre Glass companyから入手できるSE4230である。その多芯ストランド内のガラス繊維は、約19マイクロメートルの直径を有し、約3000texの密度(多芯ストランド当たり約4000繊維に相当すると計算できる)を有する。 【0100】 全ての実施例における難燃剤組成物は、Adeka Palmaroleから入手できるADK STAB FP-2200Sであった。この材料は、ピロリン酸ピペラジン、リン酸化合物、および酸化亜鉛を含む混合物である。 【0101】 それらの組成物を、直径30mmの標準3区域一軸スクリューを有するEngel 90Tで射出成形した。温度は、それらの温度区域に亘り190℃から210℃に設定した。本出願の発明者等は、難燃性にとって有害であろうから220℃より高い溶融温度は避ける必要があることに気付いた。 【0102】 各実施例および比較例について、難燃性等級が与えられている。 【0103】 【表1-1】 [図:0001426800000009.jpg] 【0104】 【表1-2】 [図:0001426800000010.jpg] 【0105】 難燃剤組成物を添加した場合、ガラス長繊維強化ポリプロピレン組成物の機械的性質が維持されるかまたはさらに改善されることを示す別の実験を行った。 【0106】 引張特性は、23℃で射出成形板について、ISO 527にしたがって決定した。 【0107】 衝撃特性は、異なる温度でISO 179/1eAおよびISO 179/1eUにしたがって決定した。 【0108】 等方性機械的性質は、等方性板、すなわち、繊維が実質的に配向されていない板について、ISO 527にしたがって決定した。この等方性特性は、それぞれの特性の後に「等方性」の付加により示されている。 【0109】 下記の表2はいくつかの組成物を示している。材料は上述したものと同じである。 【0110】 【表2】 [図:0001426800000011.jpg] 」 (イ) 甲第1号証に記載された発明 上記(ア)の記載を、特に実施例におけるE12に着目して整理すると、甲第1号証には次の発明が記載されていると認める。 「難燃剤組成物(FR)を25質量%、ガラス繊維を20質量%、ポリプロピレン(PP)を52質量%、他の成分(他)を3質量%含む組成物から得られる成形体であって、 難燃剤組成物(FR)は、ピロリン酸ピペラジン、リン酸化合物、および酸化亜鉛を含む混合物であり、 他の成分(他)は、添加剤、安定剤、およびカーボンブラックからなり、 前記成形体は2.65%の含浸剤を含有し、含浸剤の量はPPの量に含まれ、含浸剤は、マイクロクリスタリンワックス100%であり、 成形体の厚さ2.0mmにおけるUL 94標準規格による20mm炎垂直燃焼試験の等級がV0であり、125mm炎垂直燃焼試験(5V)に合格するものである、成形体。」(以下、「甲1-E12発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件特許発明2について 本件特許発明2と甲1-E12発明とを対比する。 甲1-E12発明の「ポリプロピレン(PP)」は、本件特許発明2の「ポリオレフィン系樹脂」に相当する。 また、甲1-E12発明の「難燃剤組成物(FR)」は「ピロリン酸ピペラジン、リン酸化合物、および酸化亜鉛を含む混合物」であるから、本件特許発明2の「リン系難燃剤」に相当するとともに、本件特許発明2の「D)重炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウムおよび酸化ケイ素から選ばれる炭化促進剤を含む樹脂組成物」に相当する。 そして、甲1-E12発明の成形体は、その厚さが2.0mmであるから、本件特許発明1の「(I)前記自己消火性樹脂成形体の厚みが1.5~8.0mmであること」との特定事項のうち、「樹脂成形体の厚みが1.5~8.0mmであること」との限りにおいて満たす。 してみると、両者は、 「(A)ポリオレフィン系樹脂、(B)リン系難燃剤、(C)ガラス繊維、および(D)重炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウムおよび酸化ケイ素から選ばれる炭化促進剤を含む樹脂組成物から得られる樹脂成形体であって、 (I)を満たす、樹脂成形体。 (I)前記樹脂成形体の厚みが1.5~8.0mmであること。」 の点で一致し、次の点で相違する。 (相違点1-1) 本件特許発明2の樹脂成形体は「成形体中、(B)リン系難燃剤を15~30質量%、(C)ガラス繊維を5~50質量%、および(D)炭化促進剤を0.7~5質量%含有しており、(C)成分と(D)成分の合計量中の(D)成分の含有割合が2.5~13質量%である、」と特定されるのに対し、甲1-E12発明にはそのような特定がない点。 (相違点1-2) 本件特許発明2の樹脂成形体は「バッテリー式電動輸送機器におけるバッテリーモジュールの筐体部品またはその周辺部品」と特定されるのに対し、甲1-E12発明にはそのような特定がない点。 (相違点1-3) 本件特許発明2の樹脂成形体は「自己消火性」であって、「(II)前記自己消火性樹脂成形体が、下記燃焼試験E法による燃焼試験終了後2分以内に自己消火すること」及び「(III)前記自己消火性樹脂成形体が、下記燃焼試験E法による燃焼試験後に開孔がないこと」と特定されるのに対し、甲1-E12発明にはそのような特定がない点。 (相違点1-4) 本件特許発明2は「マイクロクリスタリンワックスを含有する態様を除く」と特定されるのに対し、甲1-E12発明は含浸剤としてマイクロクリスタリンワックスを含むものである点。 事案に鑑み、相違点1-4について検討する。 甲第1号証には「全ての実施例および比較例が、2.65%の含浸剤を含有し、これは、本出願の提示の目的のために、PPの量に含まれた。その含浸剤は、国際公開第2015/062825号に開示されたようなマイクロクリスタリンワックス100%からなった。」(【0095】)と、全ての実施例及び比較例において「マイクロクリスタリンワックス」を含むことが記載されており、さらに甲第1号証の明細書の発明の詳細な説明における【0054】ないし【0056】には、含浸剤としてマイクロクリスタリンワックスを含有するものをより好ましい形態とする旨記載されていることも考慮すると、甲第1号証の他の記載及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1-E12発明において「マイクロクリスタリンワックス」を含まないものとする動機付けはない。 したがって、甲1-E12発明において、相違点1-4に係る本件特許発明2の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲1-E12発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 なお、特許異議申立人は、令和6年11月1日に提出した意見書(以下、「意見書」という。)において、「マイクロクリスタリンワックスは甲1発明に必須の構成ではないし、甲1にマイクロクリスタリンワックスが必要不可欠な成分であると記載もされていないのだから、甲1発明を変更してマイクロクリスタリンワックスを含まない態様とすることは当業者には容易である」(意見書第5頁)旨主張する。 しかしながら、甲1-E12発明において、マイクロクリスタリンワックスを含まないものとする動機がない(むしろ、マイクロクリスタリンワックスを含むものとすることが好ましい態様である)ことは、既に検討したとおりである。また、仮に、甲1発明においてマイクロクリスタリンワックスを含まないものとするということは、甲1発明の組成を変更するということであり、燃焼試験結果も異なるものとなる。すると、燃焼試験結果がどのようになるのか推認することができない、すなわち、上記相違点1-3の点が明らかではないものとなるから、結局のところ、本件特許発明2は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないこととなる。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 甲第1号証における、実施例E20に着目した場合(以下、「甲1-E20発明」という。)においても、上記甲1-E12発明と同様のことがいえる。 以下、「甲1-E12発明」と「甲1-E20発明」を総称し、「甲1発明」という。 (イ) 本件特許発明3ないし8について 本件特許発明3ないし8はいずれも、本件特許発明2の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである。 そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明2は甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明3ないし8も甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 申立理由1-1についてのまとめ 上記イのとおりであるから、申立理由1-1では、本件特許発明2ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 (2) 申立理由1-2(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性)のうち請求項6を対照とする部分について 本件特許発明6は、本件特許発明2の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである。 そして、上記1(2)アのとおり、本件特許発明2は甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明6も甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3) 申立理由2(実施可能要件)について ア 実施可能要件の判断基準 本件特許発明2ないし8は、上記第3のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすと言うことができる。 イ 特許請求の範囲の記載 上記第3のとおりである。 ウ 実施可能要件についての判断 本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明は、その1つの実施態様によれば、電気自動車や電動二輪などのバッテリー式電動輸送機器のバッテリーモジュール筐体部品または周辺部品に使用できる自己消火性樹脂成形体に関する」(【0001】)との記載があり、樹脂組成物を構成する材料に関し、「(A)ポリオレフィン系樹脂」に関する記載(【0011】ないし【0013】)、「(B)リン系難燃剤」に関する記載(【0014】ないし【0020】)、「(C)ガラス繊維」に関する記載(【0031】ないし【0042】)、「(D)炭化促進剤」に関する記載(【0043】ないし【0046】)、「自己消火性樹脂成形体」の厚み及び燃焼試験に関する記載(【0049】ないし【0059】)があり、具体的な実施例(試験方法も開示)の記載(【0081】ないし【0105】)もある。 これらの記載からみると、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明2ないし8において特定される「自己消火性樹脂成形体」を生産することができる具体的な記載があるといえるから、本件特許発明2ないし8に関し、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たすといえる。 エ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は特許異議申立書において、燃焼性試験やコーンカロリーメータ発熱性試験による試験結果を充足する自己消火性樹脂組成物を作製するための具体的組成や製造条件が明らかではないため、当業者に過度の試行錯誤を要求するものである旨主張(特許異議申立書第61頁ないし第62頁)する。 しかしながら、本件特許発明2ないし8に係る自己消火性樹脂組成物に関し、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、上記ウのとおり、用いうる材料、割合、試験方法の記載があるとともに、具体的な実施例も記載されているのであるから、当業者に過度の試行錯誤を要するものであるとまではいえない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用しない。 オ 申立理由2についてのまとめ 上記ウ及びエのとおりであるから、申立理由2では、本件特許発明2ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 (4) 申立理由3(明確性要件)について ア 明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 イ 特許請求の範囲の記載 上記第3のとおりである。 ウ 明確性要件についての判断 本件特許発明2ないし8に係る特許請求の範囲の記載はそれ自体明確であり、本件特許の明細書の発明の詳細な説明における記載とも整合している。 よって、本件特許発明2ないし8に係る特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 エ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は意見書において、本件特許の明細書の【0020】の記載を取り上げつつ、(B)成分と(D)成分との関係が明確でない旨主張する。 しかしながら、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「(B)成分のリン系難燃剤は、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて従来公知の難燃助剤、発泡剤、他の非ハロゲン系難燃剤などを含んでいてもよい。また場合によっては、(B)成分のリン系難燃剤は、後述する(D)成分に該当する炭化促進剤を含んでいてもよい。」(【0020】)と記載されるとともに、「上述のように(B)成分のリン系難燃剤が(D)成分に該当する炭化促進剤を含む場合、(B)成分中の炭化促進剤は(D)成分に含まれる。」(【0076】)と記載されている。 これらの記載を総合すると、「(B)成分中の炭化促進剤」は「(D)成分」として扱うものであることは明らかであるといえるから、この点において本件特許発明2ないし8が明確ではないとはいえない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用しない。 オ 申立理由3についてのまとめ 上記ウ及びエのとおりであるから、申立理由3では、本件特許発明2ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 第7 結語 以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項2ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項2ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 請求項1は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項1に係る特許に対する申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700140

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  • 2023-700669異議申立 / 2026-03-25 / 維持艶消物品
    共通の審決分類: 121・C08J、536・C08J、537・C08J

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