特許異議申立
2023-701290
酵素を用いた澱粉含有食品の製造方法
- 審判番号
- 2023-701290
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-227634
- 登録番号
- 7286959
- 請求日
- 2023年12月06日
- 審決日
- 2024年09月17日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】味の素株式会社
- 【権利者代理人】高島 一
- 【権利者代理人】鎌田 光宜
- 【権利者代理人】亀井 恵二郎
- 【異議申立人】山口 さゆり
- 審判長/審判官
- 審判長 淺野 美奈
- 審判官 柴田 昌弘
- 審判官 松本 陶子
- 分類
- P1651.121-YAA(A21D) / P1651.536-YAA(A21D) / P1651.537-YAA(A21D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第126条第6項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7286959号発明「酵素を用いた澱粉含有食品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7286959号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕、〔4-6〕、〔7-9〕、〔10-12〕について訂正することを認める。
特許第7286959号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7286959号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)12月4日(優先権主張 平成29年12月5日)を出願日とする出願であって、令和5年5月29日にその特許権の設定登録(請求項の数12)がされ、同年6月6日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月6日に特許異議申立人 山口 さゆり(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、令和6年2月2日付けで取消理由が通知され、同年4月8日に特許権者 味の素株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求がされるとともに意見書の提出がされ、同年5月10日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年6月12日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和6年4月8日にされた訂正請求項における訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、マルトテトラオース生成酵素、ヘミセルラーゼ、リパーゼの、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たりの配合量について特定されていないのを、それぞれ「1U~10U」、「0.1U~5U」、「1U~5U」とし、グルコースオキシダーゼのベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たりの配合量を「0.001U~1U」から「0.01U~0.08U」に訂正する。
併せて、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4において、マルトテトラオース生成酵素、ヘミセルラーゼ、リパーゼの、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たりの配合量について特定されていないのを、それぞれ「1U~10U」、「0.1U~5U」、「1U~5U」とし、グルコースオキシダーゼのベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たりの配合量を「0.001U~1U」から「0.01U~0.08U」に訂正する。
併せて、請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5、6も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7において、マルトテトラオース生成酵素、ヘミセルラーゼ、リパーゼの、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たりの配合量について特定されていないのを、それぞれ「1U~10U」、「0.1U~5U」、「1U~5U」とし、グルコースオキシダーゼのベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たりの配合量を「0.001U~1U」から「0.01U~0.08U」に訂正する。
併せて、請求項7の記載を直接又は間接的に引用する請求項8、9も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項10において、マルトテトラオース生成酵素、ヘミセルラーゼ、リパーゼの、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たりの配合量について特定されていないのを、それぞれ「1U~10U」、「0.1U~5U」、「1U~5U」とし、グルコースオキシダーゼのベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たりの配合量を「0.001U~1U」から「0.01U~0.08U」に訂正する。
併せて、請求項10の記載を直接又は間接的に引用する請求項11、12も同様に訂正する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1~3についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1に係る発明におけるマルトテトラオース生成酵素、ヘミセルラーゼ、リパーゼの、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たりの配合量が不特定であったのを、それぞれ「1U~10U」、「0.1U~5U」、「1U~5U」と特定し、また、訂正前の請求項1に係る発明におけるグルコースオキシダーゼのベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たりの配合量を「0.001U~1U」から「0.01U~0.08U」に減縮することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項1の訂正は、本件特許明細書の【0014】、【0017】、【0020】、【0028】及び【0047】の【表2】の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、3についての訂正も同様である。
(2)請求項4~6についての訂正について
訂正事項2による請求項4についての訂正は、訂正前の請求項4に係る発明におけるマルトテトラオース生成酵素、ヘミセルラーゼ、リパーゼの、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たりの配合量が不特定であったのを、それぞれ「1U~10U」、「0.1U~5U」、「1U~5U」と特定し、また、訂正前の請求項4に係る発明におけるグルコースオキシダーゼのベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たりの配合量を「0.001U~1U」から「0.01U~0.08U」に減縮することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであり、訂正事項1による請求項1についての訂正と同旨である。
したがって、訂正事項2による請求項4についての訂正は、上記(1)と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
請求項4を直接又は間接的に引用する請求項5、6についての訂正も同様である。
(3)請求項7~9についての訂正について
訂正事項3による請求項7についての訂正は、訂正前の請求項7に係る発明におけるマルトテトラオース生成酵素、ヘミセルラーゼ、リパーゼの、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たりの配合量が不特定であったのを、それぞれ「1U~10U」、「0.1U~5U」、「1U~5U」と特定し、また、訂正前の請求項7に係る発明におけるグルコースオキシダーゼのベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たりの配合量を「0.001U~1U」から「0.01U~0.08U」に減縮することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであり、訂正事項1による請求項1についての訂正と同旨である。
したがって、訂正事項3による請求項7についての訂正は、上記(1)と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
請求項7を直接又は間接的に引用する請求項8、9についての訂正も同様である。
(4)請求項10~12についての訂正について
訂正事項4による請求項10についての訂正は、訂正前の請求項10に係る発明におけるマルトテトラオース生成酵素、ヘミセルラーゼ、リパーゼの、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たりの配合量が不特定であったのを、それぞれ「1U~10U」、「0.1U~5U」、「1U~5U」と特定し、また、訂正前の請求項10に係る発明におけるグルコースオキシダーゼのベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たりの配合量を「0.001U~1U」から「0.01U~0.08U」に減縮することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであり、訂正事項1による請求項1についての訂正と同旨である。
したがって、訂正事項4による請求項10についての訂正は、上記(1)と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
請求項10を直接又は間接的に引用する請求項11、12についての訂正も同様である。
3 訂正についてのまとめ
以上のとおり、訂正事項1~4による請求項1~12についての訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1~3について、請求項2、3は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~3に対応する訂正後の請求項1~3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正前の請求項4~6について、請求項5、6は、請求項4を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項2によって記載が訂正される請求項4に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項4~6に対応する訂正後の請求項4~6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
さらに、訂正前の請求項7~9について、請求項8、9は、請求項7を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項3によって記載が訂正される請求項7に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項7~9に対応する訂正後の請求項7~9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
そして、訂正前の請求項10~12について、請求項11、12は、請求項10を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項4によって記載が訂正される請求項10に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項10~12に対応する訂正後の請求項10~12は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、訂正事項1~4による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求されたものである。
以上のことから、本件訂正は適法なものであるので、上記結論のとおり、本件特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕、〔4-6〕、〔7-9〕、〔10-12〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕、〔4-6〕、〔7-9〕、〔10-12〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1~12に係る発明(以下、「本件特許発明1」等という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
(1)マルトテトラオース生成酵素、(2)ヘミセルラーゼおよびリパーゼからなる群から選択される少なくとも1種、および(3)グルコースオキシダーゼを配合することを含む、ベーカリー製品の製造方法であって、
ここで、
マルトテトラオース生成酵素が、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり1U~10U配合され、
ヘミセルラーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり0.1U~5U配合され、
リパーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり1U~5U配合され、
グルコースオキシダーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり0.01U~0.08U配合されることを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
トランスグルタミナーゼをさらに配合することを含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
グルテン、およびセルロースからなる群から選択される少なくとも1つをさらに配合することを含む、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
(1)マルトテトラオース生成酵素、(2)ヘミセルラーゼおよびリパーゼからなる群から選択される少なくとも1種、および(3)グルコースオキシダーゼを配合することを含む、ベーカリー製品の改質方法であって、
ここで、
マルトテトラオース生成酵素が、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり1U~10U配合され、
ヘミセルラーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり0.1U~5U配合され、
リパーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり1U~5U配合され、
グルコースオキシダーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり0.01U~0.08U配合されることを特徴とする、方法。
【請求項5】
トランスグルタミナーゼをさらに配合することを含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
グルテン、およびセルロースからなる群から選択される少なくとも1つをさらに配合することを含む、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
(1)マルトテトラオース生成酵素、(2)ヘミセルラーゼおよびリパーゼからなる群から選択される少なくとも1種、および(3)グルコースオキシダーゼを配合することを含んでなる、ベーカリー製品改質用剤であって、
ここで、
マルトテトラオース生成酵素が、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり1U~10U配合され、
ヘミセルラーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり0.1U~5U配合され、
リパーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり1U~5U配合され、
グルコースオキシダーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり0.01U~0.08U配合されるように、該剤が原料に添加されることを特徴とする、剤。
【請求項8】
トランスグルタミナーゼをさらに含む、請求項7記載のベーカリー製品改質用剤。
【請求項9】
グルテン、およびセルロースからなる群から選択される少なくとも1つをさらに含む、請求項7または8記載のベーカリー製品改質用剤。
【請求項10】
(1)マルトテトラオース生成酵素、(2)ヘミセルラーゼおよびリパーゼからなる群から選択される少なくとも1種、および(3)グルコースオキシダーゼを含んでなる、ベーカリー製品の中間加工物であって、
ここで、
マルトテトラオース生成酵素が、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり1U~10U配合され、
ヘミセルラーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり0.1U~5U配合され、
リパーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり1U~5U配合され、
グルコースオキシダーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり0.01U~0.08U配合されることを特徴とする、中間加工物。
【請求項11】
トランスグルタミナーゼをさらに含む、請求項10記載のベーカリー製品の中間加工物。
【請求項12】
グルテン、およびセルロースからなる群から選択される少なくとも1つをさらに含む、請求項10または11記載のベーカリー製品の中間加工物。」
第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要
令和5年12月6日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・請求項1、2、4、5、7、8、10及び11に記載された酵素の組み合わせについて実施例にそれぞれ1つのみ存在し、その添加量も1つの値のみである。請求項3、6、9及び12にも同様の理由あり。また、請求項2、3、5、6、8、9、11及び12に記載されたうち、グルコースオキシターゼ及びトランスグルタミナーゼを含有する組み合せや、グルコースオキシターゼ及びグルテンもしくはセルロースを含有する組み合わせは、実施例に全く記載されていない。
したがって、これらの請求項に記載された発明については、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対して特許されたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・請求項1、2、4、5、7、8、10及び11に記載された酵素の組み合わせについて実施例にそれぞれ1つのみ存在し、その添加量も1つの値のみである。請求項3、6、9及び12にも同様の理由あり。また、請求項2、3、5、6、8、9、11及び12に記載されたうち、グルコースオキシターゼ及びトランスグルタミナーゼを含有する組み合せや、グルコースオキシターゼ及びグルテンもしくはセルロースを含有する組み合わせは、実施例に全く記載されていない。
したがって、これらの請求項に記載された発明については、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
4 申立理由4(明確性)
本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対して特許されたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・請求項1、2、4、5、7、8、10及び11に記載された酵素の組み合わせについて実施例にそれぞれ1つのみ存在し、その添加量も1つの値のみである。請求項3、6、9及び12にも同様の理由あり。また、請求項2、3、5、6、8、9、11及び12に記載されたうち、グルコースオキシターゼ及びトランスグルタミナーゼを含有する組み合せや、グルコースオキシターゼ及びグルテンもしくはセルロースを含有する組み合わせは、実施例に全く記載されていない。
したがって、これらの請求項に記載された発明については、発明の範囲が明確ではない。
5 証拠方法
甲第1号証:米国特許第6667065号明細書
甲第1号証の2:特許第5385228号公報(甲第1号証の訳文)
甲第2号証:Enzymes in Bakery: Angelo Samir Melim Miguel、Tathiana Souza Martins-Meyer、Erika Verissimo da Costa Figueiredo、Bianca Waruar Paulo Lobo and Gisela Maria Dellamora-Ortiz、2013年1月16日掲載、DOI:10.5772/53168、URL:http://www.intechopen.com/chapters/41661
甲第2号証の2:甲第2号証の訳文
甲第3号証:特開平11-266773号公報
甲第4号証:プレスリリース資料、新製品発売のお知らせ、「製パン用酵素『デナベイクOR(合議体注:「○R」は○の中にRが表記される記号である。)EXTRA』を長瀬産業から10月に発売、パンに「ボリュームアップ」と「柔らかさ」を付与」、URL:https://www.hayashibara.co.jp/data/965/press_tp/
甲第5号証:特開2017-127270号公報
甲第6号証:特開2001-211814号公報
甲第7号証:特開平7-322811号公報
甲第8号証:特開2010-142189号公報
なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。
第5 令和6年2月2日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由(取消理由(甲第1号証の2に基づく進歩性))についての判断
令和6年2月2日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由は、証拠として、甲第1号証ではなく甲第1号証の2を用いているものの、甲第1号証の2は甲第1号証の訳文であるから、申立理由1と同旨である。
以下、判断を行う。
1 甲第1号証の2に記載された事項等
(1)甲第1号証の2に記載された事項
甲第1号証の2には、「非マルトース生成エキソアミラーゼ類及び澱粉の劣化を遅延することへのそれらの使用」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項12】
57500±500 Da(質量分光計による)の分子量、並びにpH6.5及び45℃で活性の最適性を有する、シュードモナス・サッカロフィラ(Pseudomonas sacharophila)から得られる非マルトース生成エキソアミラーゼ、及び少なくとも1つ追加のドウ成分又はドウ添加剤を含んで成る、ドウのための改良性組成物。」
・「【発明の概要】
【0022】
発明の要約
本発明は、有害な劣化特性が遅延する澱粉生成物の製造方法を提供する。
本発明はまた、本発明の方法において有用である酵素も提供する。
本発明の酵素はアミラーゼ酵素である。より具体的には、本発明の酵素は非マルトース生成エキソアミラーゼ酵素である。
非マルトース生成エキソアミラーゼが、ベーキングされた生成物における老化を遅延するためにはもちろんのこと、澱粉生成物の有害な劣化を遅延するためにこれまで使用されたことはないことが注目されるべきである。
【0023】
従って、本発明の第1の観点によれば、アミロペクチンの側鎖の非還元末端から4~8個のD-グルコピラノシル単位から主として成る1又は複数の線状マルトオリゴ糖を切り取ることによって澱粉を加水分解することができる非マルトース生成エキソアミラーゼを澱粉基材に添加することを含んで成る澱粉生成物の製造方法が提供される。
澱粉基材への非マルトース生成エキソアミラーゼの添加は、澱粉生成物の加熱の間、及び/又はその後に行うことができる。
従って、本発明の第2の観点によれば、本発明の方法により得られる、ベーキングされた生成物が提供される。
【0024】
従って、本発明の第3の観点によれば、ドウのための改良された組成物が提供され;ここで前記組成物は非マルトース生成エキソアミラーゼ、及び少なくとも1つの追加のドウ成分又はドウ添加材を含んで成る。
従って、本発明の第4の観点によれば、澱粉生成物の有害な劣化を遅延するために澱粉生成物への非マルトース生成エキソアミラーゼの使用が提供される。
従って、本発明の第5の観点によれば、新規非マルトース生成エキソアミラーゼが提供される。
本発明のそれらの及び他の観点は、請求の範囲に提供される。さらに、本発明のそれらの及び他の観点、並びにそれらの好ましい観点が下記に提供され、そして論じられる。」
・「【0033】
用語“アミラーゼ”は、その通常の意味においては、中でも、澱粉の分解を触媒することが酵素を意味する。特に、それらは澱粉においてα-D-(1→4)O-グリコシド結合を分解できるヒドロラーゼである。
用語“非マルトース生成エキソアミラーゼ酵素”とは、最初、澱粉を実質的な量のマルトースに分解しない酵素を意味する。非常に好ましい観点においては、その用語はまた、最初、澱粉を実質的な量のマルトース及びグルコースに分解しない酵素を意味する。
【0034】
本発明の前、非マルトース生成エキソアミラーゼ酵素は、澱粉基材、特に澱粉ゲルの有害な劣化を遅延することについて提案されたことはない。
本発明に従ってアミラーゼ活性を決定するための適切なアッセイは、後で提供される。便利には、このアッセイは“アミラーゼアッセイプロトコール”と呼ばれる。
従って、好ましくは、用語“非マルトース生成エキソアミラーゼ酵素”とは、本明細書に提供される“アミラーゼ活性プロトコール”に記載のような生成物測定方法に従って分析される場合、前記酵素が最初、澱粉を実質的な量のマルトースに分解しないことを意味する。」
・「【0045】
一般的な解説
本発明は、非マルトース生成エキソアミアーゼが澱粉生成物、たとえばベーキングされた生成物において有害な劣化、たとえば老化(staling)を遅延し又は低めることにおいて非常に効果的である驚くべき発見に基づかれている。
本発明者は、本発明の非マルトース生成エキソアミラーゼが、グルース生成及びマルトース生成エキソアミラーゼよりも、パンにおける有害な劣化、たとえば老化を遅延することにおいてより効果的であり得ることを見出した。
有害な劣化の低下は、当業界において知られている標準の技法により測定され得る。例によれば、いくつかの技法が、セクション標題“劣化の測定のためのアッセイ”において、後で示される。
【0046】
本発明の研究において、本発明者は、十分な熱安定性を有する、十分な量の活性の非マルトース生成エキソアミラーゼ、たとえばエキソ-マルトテトラヒドロラーゼ(EC 3. 2. 1. 60)をドウ中に導入することによって、たとえば貯蔵条件下で対照のパンの有害な劣化に比較して、低められた、多くの場合、十分に低められた有害な劣化を有するベーキングされた生成物が提供されることを見出した。対照的に、非マルトース生成エキソアミラーゼの熱安定性に匹敵する熱安定性を有するマルトース生成エキソアミラーゼの同じ量の活性を組み込むことによる有害な劣化を低める効果は、有意に劣っている。
【0047】
従って、非マルトース生成エキソアミラーゼの抗劣化効果は、マルトース生成エキソアミラーゼのその効果よりもより効果的である。本発明者は、この差異が一部、アミロペクチン側鎖が短くされる程度によるかも知れないと信じている。本発明はまた、抗劣化効果が、マルトヘプタオース及び/又はマルトオクタオース及び/又はマルトへキソースを開放する本発明の非マルトース生成エキソアミラーゼを用いる場合、さらにより著しいことも信じている。
【0048】
本発明の研究において、本発明者はまた、マルトヘキサオースを生成する高いpHで活性な生成物-特異的アミラーゼを精製し、そして特徴づけた。このアミラーゼは、バチルス・クラウジBT-21のアルカリ耐性株から単離された。
さらに、本発明者は、本発明の非マルトース生成エキソアミラーゼを用いることによって得ることができる有害な劣化の遅延が非常に広範囲にわたって、用量応答性であることを見出した。これは、かなり制限され、そして強く低下する用量応答を有するマルトース生成エキソアミラーゼからの効果と対照的である。
【0049】
アミラーゼ
1つの観点において、本発明は、澱粉生成物、たとえば製パン製品を調製するためへの一定のアミラーゼの使用を提供する。この観点においては、非マルトース生成エキソアミラーゼであるアミラーゼは、澱粉生成物、特にベーキングされた澱粉質パン生成物の老化を遅延し、又は低める(すなわち、老化の速度を低める)。
好ましくは、アミラーゼは、単離された形で及び/又は実質的に純粋な形で存在する。ここで、用語“単離された”とは、酵素がその天然の環境下で存在しないことを意味する。
【0050】
上記に示されるように、本発明の非マルトース生成エキソアミラーゼ酵素は、最初に、澱粉を実質的な量のマルトースに分解しない。
本発明によれば、非マルトース生成エキソアミラーゼは、アミロペクチンの側鎖の非還元末端から、4~8個のD-グルコピラノシル単位から主に成る線状マルトオリゴ糖を切り離すことができる。この特徴を有し、そして本発明への使用のために適切である非マルトース生成エキソアミラーゼは、アミラーゼアッセイプロトコール(前記)に示されるモデル系におけるゲル化されたモチ状トウモロコシを加水分解するそれらの能力により同定される。
【0051】
アミラーゼアッセイプロトコールにおける記載される条件下で15分間インキュベートされる場合、本発明への使用のために適切である非マルトース生成エキソアミラーゼは、2~10個のD-グルコピラノシル単位及び任意にはグルコースの1又は複数の線状マルト-オリゴ糖から成る加水分解生成物を生成し、その結果、その加水分解生成物の生成物パターンは、少なくとも60重量%、特に少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも80重量%及び最も好ましくは少なくとも90重量%が、マルトース及びグルコース以外の澱粉加水分解生成物から成る。」
・「【0065】
本発明への使用のために適切な非マルトース生成エキソアミラーゼのもう1つの例は、好アルカリ性バチルス株、GM8901からのエキソアミラーゼである[28]。これは、澱粉からマルトテトラオース、マルトペンタオース及びマルトヘキサオースを生成する非マルトース生成エキソアミラーゼである。」
・「【0075】
改良性組成物
示されるように、本発明の1つの観点は、澱粉生成物、特にドウ及び/又はドウから製造されるベーキングされた澱粉質パン生成物のための改良性組成物に関する。
改良性組成物は、本発明の非マルトース生成エキソアミラーゼ及び少なくとも1つの追加のドウ成分又はドウ添加剤を含んでなる。
本発明によれば、追加のドウ成分又はドウ添加剤は、上記に記載されるドウ成分又はドウ添加剤のいずれかであり得る。
【0076】
好都合には、その改良性組成物は、少なくとも1つの追加の成分又は添加剤と共に混合される本発明の非マルトース生成エキソアミラーゼを含んで成る乾燥微紛組成物である。しかしながら、改良性組成物はまた、本発明の非マルトース生成エキソアミラーゼ、及び水又は他の液体に溶解されているか又は分散されている少なくとも1つの追加の成分又は添加剤を含んでなる溶液調製物であり得る。改良性組成物中の酵素活性の量は、改良性組成物の一部を形成する追加の成分及び添加剤の量及びタイプに依存するであろう。
【0077】
任意には、改良性組成物は、特定のベーキングされた生成物を製造するための乾燥成分及び添加剤のすべてを含む、完全混合物、いわゆるプレ-混合物の形で存在することができる。」
・「【0084】
追加のドウ添加剤として使用され得る適切な乳化剤は次のものを包含する:レシチン、ポリオキシエチレンステアレート、食用脂肪酸のモノ-及びジグリセリド、食用脂肪酸のモノ-及びジグリセリドの酢酸エステル、食用脂肪酸のモノ-及びジグリセリドの乳酸エステル、食用脂肪酸のモノ-及びジグリセリドのクエン酸エステル、食用脂肪酸のモノ-及びジグリセリドのジアセチル酒石酸エステル、食用脂肪酸のスクロースエステル、ナトリウムステアロイル-2-ラクチレート、及びカルシウムステアロイル-2-ラクチレート。
【0085】
追加のドウ添加剤として有用である他の酵素は、例として、次のものを包含する:オキシドレダクターゼ、たとえばグルコースオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、及びアスコルベートオキシダーゼ、たとえばリパーゼ及びエステラーゼ、並びにグリコシダーゼ様α-アミラーゼ、プルラナーゼ及びキシラナーゼ。オキシドレダクターゼ、たとえばグルコースオキシダーゼ及びヘキソースオキシダーゼは、ドウ補強剤及びベーキングされた生成物の体積の調節のために使用され、そしてキシラナーゼ及び他のヘミセルラーゼは、ドウ取り扱い性質、パン中味軟化及びパン体積を改良するために添加され得る。リパーゼはドウ補強剤及びパン中身軟化剤として有用であり、そしてα-アミラーゼ及び他の澱粉分解酵素はパンの体積を調節し、そしてさらに、パン中味の堅さを低めるためにドウ中に導入され得る。
【0086】
添加される本発明の非マルトース生成エキソアミラーゼの量は通常、kg穀物当たり50~100,000単位、好ましくはkg 穀物当たり100~50,000単位の量で最終ドウに存在する。本発明の有用な態様においては、その量はkg穀物当たり200~20,000単位の範囲である。
本明細書においては、1単位の非マルトース生成エキソアミラーゼは、この後に記載されるように、50mMのMES、2mMの塩化カルシウム溶液(pH6.0)中、10mg/mlのモチ状トウモロコシ澱粉4mlを有する試験管において50℃でインキュベートされる場合、1分当たり1μモルの還元糖に等しい加水分解生成物を開放する量の酵素として定義される。
【0087】
アミラーゼにより調製される食品
本発明は、食品の製造への使用のための適切なアミラーゼを提供する。動物飼料を包含する典型的な食品は、酪農製品、食肉製品、家禽製品、魚製品及び製パン製品を包含する。
好ましくは、食品は製パン生成物、たとえば上記に記載される製パン生成物である。本発明の範囲内に組み込まれる典型的な製パン(ベーキングされた)生成物は、パン、たとえば一塊のパン、ロールパン、バン、ビザ生地、等、プレッツェル、トルティヤ、ケーキ、クッキー、ビスケット、クラッカー、等を包含する。」
(2)甲第1号証の2に記載された発明
甲第1号証の2に記載された事項を、特に請求項12、【0046】、【0075】及び【0085】に関して整理すると、甲第1号証の2には次の発明(以下、順に「甲1製法発明」「甲1方法発明」「甲1物発明1」「甲1物発明2」という。)が記載されていると認める。
<甲1製法発明>
「非マルトース生成エキソアミラーゼとしてのエキソ-マルトテトラヒドロラーゼ及び追加のドウ添加剤を含んでなる改良性組成物を用いたベーキングされたドウの製造方法であって、追加のドウ添加剤として、ドウ補強剤及びベーキングされた生成物の体積の調節のために使用されるグルコースオキシダーゼ及びヘキソースオキシダーゼ、ドウ取り扱い性質、パン中味軟化及びパン体積を改良するために添加され得るヘミセルラーゼ並びにドウ補強剤及びパン中身軟化剤として有用であるリパーゼから選択された酵素を含む、ベーキングされたドウの製造方法。」
<甲1方法発明>
「非マルトース生成エキソアミラーゼとしてのエキソ-マルトテトラヒドロラーゼ及び追加のドウ添加剤を含んでなる改良性組成物を用いたベーキングされたドウの改良方法であって、追加のドウ添加剤として、ドウ補強剤及びベーキングされた生成物の体積の調節のために使用されるグルコースオキシダーゼ及びヘキソースオキシダーゼ、ドウ取り扱い性質、パン中味軟化及びパン体積を改良するために添加され得るヘミセルラーゼ並びにドウ補強剤及びパン中身軟化剤として有用であるリパーゼから選択された酵素を含む、ベーキングされたドウの改良方法。」
<甲1物発明1>
「非マルトース生成エキソアミラーゼとしてのエキソ-マルトテトラヒドロラーゼ及び追加のドウ添加剤を含んでなるドウのための改良性組成物であって、追加のドウ添加剤として、ドウ補強剤及びベーキングされた生成物の体積の調節のために使用されるグルコースオキシダーゼ及びヘキソースオキシダーゼ、ドウ取り扱い性質、パン中味軟化及びパン体積を改良するために添加され得るヘミセルラーゼ並びにドウ補強剤及びパン中身軟化剤として有用であるリパーゼから選択された酵素を含む、ドウのための改良性組成物。」
<甲1物発明2>
「非マルトース生成エキソアミラーゼとしてのエキソ-マルトテトラヒドロラーゼ及び追加のドウ添加剤を含んでなる改良性組成物を用いたドウであって、追加のドウ添加剤として、ドウ補強剤及びベーキングされた生成物の体積の調節のために使用されるグルコースオキシダーゼ及びヘキソースオキシダーゼ、ドウ取り扱い性質、パン中味軟化及びパン体積を改良するために添加され得るヘミセルラーゼ並びにドウ補強剤及びパン中身軟化剤として有用であるリパーゼから選択された酵素を含む、ドウ。」
2 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1製法発明を対比する。
甲1製法発明における「エキソ-マルトテトラヒドロラーゼ」、「ベーキングされたドウ」は、それぞれ、本件特許発明1における「マルトテトラオース生成酵素」、「ベーカリー製品」に相当する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(1)マルトテトラオース生成酵素を含む、ベーカリー製品の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1における「ベーカリー製品」は、「(2)ヘミセルラーゼおよびリパーゼからなる群から選択される少なくとも1種、および(3)グルコースオキシダーゼを配合することを含む」ものであって、「マルトテトラオース生成酵素が、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり1U~10U配合され、ヘミセルラーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり0.1U~5U配合され、リパーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり1U~5U配合され、グルコースオキシダーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり0.01U~0.08U配合される」ものであるのに対して、甲1製法発明における「ベーキングされたドウ」は、そのようには特定されていない点。
上記相違点1について検討する。
甲1製法発明には、マルトテトラオース生成酵素、ヘミセルラーゼ、リパーゼ、グルコースオキシダーゼを組み合わせて使用した際の、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たりの各配合量については特定されていない。
また、甲第1号証の2及び他の証拠の記載を見ても、甲1製法発明において、マルトテトラオース生成酵素、ヘミセルラーゼ、リパーゼ、グルコースオキシダーゼの、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たりの配合量を、それぞれ、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けがない。
この点について、特許異議申立人は、令和6年6月12日提出の意見書(以下、「意見書」という。)において、マルトテトラオース生成酵素、ヘミセルラーゼ、リパーゼの配合量はいずれも製パン分野における通常の使用量範囲に過ぎず、本件特許発明の配合量範囲に特別な技術的意義があるとは思えないため、当業者が添加剤によって意図される結果を考慮して適宜選択できるものであると主張している。(意見書第1頁~第2頁)
しかしながら、甲第1号証の2の全ての記載を見ても、マルトテトラオース生成酵素、ヘミセルラーゼ、リパーゼ、グルコースオキシダーゼの配合量に着目する記載は無いし、甲第1号証の2において複数の添加剤の一例として例示されているに過ぎないヘミセルラーゼ、リパーゼ、グルコースオキシダーゼの各配合量について、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとする記載や動機付けはない。
また、本件特許発明は、本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることで、「「軟らかさ」、「しっとり感」、「口どけの良さ」、「弾力」といった食感を顕著に高めた澱粉含有食品(例、ベーカリー食品等)を製造することができ」、「本発明により製造されたベーカリー食品は、パン生地の焼成後2日以上が経過しても極めて良好な食感を維持し得る」(【0008】)という甲第1号証の2や他の証拠には記載されていない効果を得るものである。
してみると、甲1製法発明において、マルトテトラオース生成酵素、ヘミセルラーゼ、リパーゼ、グルコースオキシダーゼの、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たりの配合量を、それぞれ、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けがあるとは言えないから、上記特許異議申立人の主張は採用できない。
したがって、本件特許発明1は、甲1製法発明並びに甲第1号証の2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 本件特許発明2、3について
本件特許発明2、3は請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものである。
そして、上記2のとおり、本件特許発明1は、甲1製法発明並びに甲第1号証の2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2、3は、甲1製法発明並びに甲第1号証の2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 本件特許発明4~6について
本件特許発明4と甲1方法発明を対比すると、上記2と同様の相当関係がとれることから、両者は次の点で相違する。
<相違点4>
本件特許発明4における「ベーカリー製品」は、「(2)ヘミセルラーゼおよびリパーゼからなる群から選択される少なくとも1種、および(3)グルコースオキシダーゼを配合することを含む」ものであって、「マルトテトラオース生成酵素が、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり1U~10U配合され、ヘミセルラーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり0.1U~5U配合され、リパーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり1U~5U配合され、グルコースオキシダーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり0.01U~0.08U配合される」ものであるのに対して、甲1方法発明における「ベーキングされたドウ」は、そのようには特定されていない点。
上記相違点4について検討すると、相違点4は相違点1と同旨であり、上記2と同様に判断される。
したがって、本件特許発明4は、甲1方法発明並びに甲第1号証の2及び他の証拠の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件特許発明5、6は請求項4の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明4の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、本件特許発明5、6についても、甲1方法発明並びに甲第1号証の2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
5 本件特許発明7~9について
本件特許発明7と甲1物発明1を対比すると、上記2と同様の相当関係がとれることから、両者は次の点で相違する。
<相違点7>
本件特許発明7における「ベーカリー製品」は、「(2)ヘミセルラーゼおよびリパーゼからなる群から選択される少なくとも1種、および(3)グルコースオキシダーゼを配合することを含んでなる」ものであって、「マルトテトラオース生成酵素が、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり1U~10U配合され、ヘミセルラーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり0.1U~5U配合され、リパーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり1U~5U配合され、グルコースオキシダーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり0.01U~0.08U配合される」ものであるのに対して、甲1物発明1における「ドウ」は、そのようには特定されていない点。
上記相違点7について検討すると、相違点7は相違点1と同旨であり、上記2と同様に判断される。
したがって、本件特許発明7は、甲1物発明1並びに甲第1号証の2及び他の証拠の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件特許発明8、9は請求項7の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明7の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、本件特許発明8、9についても、甲1物発明1並びに甲第1号証の2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
6 本件特許発明10~12について
本件特許発明10と甲1物発明2を対比すると、上記2と同様の相当関係がとれることから、両者は次の点で相違する。
<相違点10>
本件特許発明10における「ベーカリー製品」は、「(2)ヘミセルラーゼおよびリパーゼからなる群から選択される少なくとも1種、および(3)グルコースオキシダーゼを含んでなる」ものであって、「マルトテトラオース生成酵素が、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり1U~10U配合され、ヘミセルラーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり0.1U~5U配合され、リパーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり1U~5U配合され、グルコースオキシダーゼが、ベーカリー製品の原料となる小麦粉1g当たり0.01U~0.08U配合される」ものであるのに対して、甲1物発明2における「ドウ」は、そのようには特定されていない点。
上記相違点10について検討すると、相違点10は相違点1と同旨であり、上記2と同様に判断される。
したがって、本件特許発明10は、甲1物発明2並びに甲第1号証の2及び他の証拠の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件特許発明11、12は請求項10の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明10の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、本件特許発明11、12についても、甲1物発明2並びに甲第1号証の2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
7 取消理由についてのむすび
以上のことから、本件特許発明1~12は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~12に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1~12に係る特許は、令和6年2月2日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由によって取り消すことはできない。
第6 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載された申立理由について
1 申立理由2(実施可能要件)についての判断
(1)実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件特許発明1~3は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法を使用し、その物を生産する方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
本件特許発明4~6は方法の発明であるところ、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用することができる程度の記載があることを要する。
本件特許発明7~12は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
発明の詳細な説明の【0010】~【0042】には、本件特許発明1~12の各発明特定事項について、具体的に記載されており、また、発明の詳細な説明の【0044】~【0061】には、実施例が記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1~12を製造及び使用し、また、本件特許発明1~12により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえ、本件特許発明1~12に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第4 2の主張について検討する。
発明の詳細な説明の実施例1における【表2】及び【表3】の試験区1~2、4~5の評価結果において、トランスグルタミナーゼを添加することで、パンの食感が改善し得ることが示されており、また、実施例2における【表5】及び【表6】の対照区2及び試験区8~12の試験結果においても、グルテンおよびセルロースのいずれか、または両方を添加することで、パンの食感が改善し得ることが示されている。
また、実施例に示された酵素の組み合わせ以外では、本件特許発明1~12を実施することができないといった当業者の技術常識はないし、そのことを示す具体的な証拠がある訳でもない。
したがって、本件特許発明1~12における酵素の組み合わせとして、実施例に記載されている以外の酵素の組み合わせが含まれているとしても、実施することができない態様が含まれているとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記第4 2の主張は採用できない。
(4)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1~12に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
2 申立理由3(サポート要件)についての判断
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
(3)サポート要件の判断
発明の詳細な説明の【0005】によると、本件特許発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「高い品質を備えた澱粉含有食品を製造するための新規方法を開発、提供すること」であり、発明の詳細な説明の【0006】、【0008】によると、「本発明によれば、「軟らかさ」、「しっとり感」、「口どけの良さ」、「弾力」といった食感を顕著に高めた澱粉含有食品(例、ベーカリー食品等)を製造することができ」、また、「本発明により製造されたベーカリー食品は、パン生地の焼成後2日以上が経過しても極めて良好な食感を維持し得る」という効果を得るものである。
ここで、発明の詳細な説明の【0007】には、本件特許発明1~12に対応する記載がある。
また、発明の詳細な説明の【0010】~【0011】、【0033】には、澱粉含有食品の製造方法について、発明の詳細な説明の【0012】~【0014】には、マルトテトラオース生成酵素及びその配合量について、発明の詳細な説明の【0015】~【0017】には、ヘミセルラーゼ及びその配合量について、発明の詳細な説明の【0018】~【0020】には、リパーゼ及びその配合量について、発明の詳細な説明の【0021】~【0024】には、トランスグルタミナーゼ及びその配合量について、発明の詳細な説明の【0025】~【0032】には、オキシダーゼ、グルテン、および/またはセルロース及びその配合量について、記載されている。
また、発明の詳細な説明の【0034】~【0035】には、澱粉含有食品の改質方法について、発明の詳細な説明の【0036】~【0039】には、澱粉含有食品改質剤について、発明の詳細な説明の【0040】~【0042】には、澱粉含有食品の中間加工物について、記載されている。
さらに、発明の詳細な説明の【0043】~【0061】には、これらのことを裏付ける具体的な実施例の記載もある。
そして、本件特許発明1~3は、上記発明の課題を解決できると認識できる「製造方法」をさらに限定したものであり、本件特許発明4~6は、上記発明の課題を解決できると認識できる「改質方法」をさらに限定したものであり、本件特許発明7~9は、上記発明の課題を解決できると認識できる「改質用剤」をさらに限定したものであり、本件特許発明10~12は、上記発明の課題を解決できると認識できる「中間加工物」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1~12は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1~12に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第4 3の主張について検討する。
上記1のとおり、本件特許発明1~12に実施可能でない態様が含まれている訳ではなく、また、本件特許発明1~12における酵素の組み合わせとして、実施例に示された以外の組み合わせを採用した場合に、発明の課題を解決できないといった当業者の技術常識はなく、また、そのことを示す具体的な証拠がある訳でもない。
したがって、特許異議申立人の上記第4 3の主張は採用できない。
(5)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1~12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。
3 申立理由4(明確性要件)についての判断
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)明確性要件の判断
本件特許の請求項1~12の記載は、上記第3のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。
したがって、本件特許発明1~12に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第4 4の主張について検討する。
本件特許発明1~12に関して、特定されている材料及び配合量について、技術的範囲が不明確となる点はなく、また、そのことを示す具体的な証拠がある訳でもない。
したがって、特許異議申立人の上記第4 4の主張は採用できない。
(4)申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1~12に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由4によっては取り消すことはできない。
第7 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件特許の請求項1~12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701290