特許異議申立
2023-701333
非発酵ベーカリー食品用ミックス及びバッター
- 審判番号
- 2023-701333
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-529796
- 登録番号
- 7293113
- 請求日
- 2023年12月19日
- 審決日
- 2024年02月19日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社日清製粉ウェルナ
- 【権利者代理人】弁理士法人翔和国際特許事務所
- 【異議申立人】志方 志乃
- 審判長/審判官
- 審判長 磯貝 香苗
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 天野 宏樹
- 分類
- P1651.121-Y (A21D) / P1651.537-Y (A21D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7293113号発明「非発酵ベーカリー食品用ミックス及びバッター」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7293113号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7293113号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)7月13日(優先権主張 平成29年7月13日)を国際出願日とする出願であって、令和5年6月9日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年同月19日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月19日に特許異議申立人 志方 志乃(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし6)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
不溶性食物繊維25~55質量%と、非難消化性澱粉(ただし、小麦澱粉を除く)8~20質量%とを含有する非発酵ベーカリー食品用ミックス。
【請求項2】
さらに蛋白質素材を5~50質量%含有する請求項1に記載の非発酵ベーカリー食品用ミックス。
【請求項3】
さらに穀粉を含有する請求項1又は2に記載の非発酵ベーカリー食品用ミックス。
【請求項4】
さらに増粘剤を含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の非発酵ベーカリー食品用ミックス。
【請求項5】
前記非発酵ベーカリー食品が、ワッフル、パンケーキ、ホットケーキ、バターケーキ、お好み焼、たこ焼き、大判焼、小判焼又はたい焼きである請求項1~4のいずれか1項に記載の非発酵ベーカリー食品用ミックス。
【請求項6】
ベーカリー食品用ミックス100質量部と、60質量部を超える液体との混合物を含み、
前記ベーカリー食品用ミックスが、不溶性食物繊維25~55質量%と、非難消化性澱粉(ただし、小麦澱粉を除く)8~20質量%とを含有する、バッター。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要等
令和5年12月19日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし6は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
非発酵食品には様々な食品が含まれ、それぞれの食品によって好まれる食感が異なるところ、本件特許明細書の実施例には、ホットケーキミックスに適用した実施例しかなく、他の全ての非発酵食品について、同様な効果が奏されるかは当業者であっても予測できない。
また、不溶性食物繊維に関しても、本件明細書の段落0012に示されるように、例えば、セルロース、ヘミセルロース、キチン、キトサン、難消化性澱粉、大豆食物繊維、ビートファイバー、小麦ふすま、エンドウファイバー、リンゴ食物繊維、シトラスファイバー、小麦ファイバー、オート麦ファイバー、サトウキビファイバー、ポテトファイバーなどの様々な種類ものがあり、それぞれの食物繊維含有量は異なり、性状も著しく異なっている。この点、本件明細書の段落0014にも「前記食物繊維高含有難消化性澱粉における食物繊維の含有量は、ベーカリー食品の低糖質化、低カロリー化をより確実なものとする観点から、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。」と記載されており、食物繊維含有量が大きく異なる不溶性食物繊維を包含していることが示されている。
更に、本件明細書の段落0017には、「非難消化性澱粉としては、ベーカリー食品に通常用いられる難消化性澱粉以外のいわゆる通常の澱粉を特に制限なく用いることができ、未加工澱粉でもよく、あるいは末加工澱粉にエステル化、エーテル化、酸化、架橋化、α化等の処理を1つ以上施して得られる、加工澱粉でもよく、これら通常の澱粉の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。」と記載されている。しかしながら、未加工澱粉や、加工澱粉は、澱粉の原料や加工方法の違いによって、それぞれの特性が大きく異なることは当業者の常識である。
してみると、本件特許明細書の実施例に記載された、ホットケーキミックスの配合において、不溶性食物繊維として、セルロース、タピオカ難消化性澱粉を用い、非難消化性澱粉として、ワキシーコーンスターチ、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉を用いただけの実験データから、他の全ての非発酵ベーカリー食品に対して、他の全ての不溶性食物繊維と非難消化性澱粉との組合せにおいて、本件明細書の実施例に記載されたのと同様な食感改善効果が得られるとは、当業者であっても予測することができない。
したがって、請求項1~6には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための具体的手段が反映されておらず、請求項1~6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。よって、請求項1~6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
3 証拠方法
甲第1号証:特開2017-55662号公報
甲第2号証:特開2011-41487号公報
甲第3号証:特開2014-140363号公報
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「食品用組成物」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の証拠についても同様。
・「【請求項1】
バッター生地を調製し、該バッター生地を焼成、油ちょう又は蒸すことにより、食品を製造するための食品用組成物において、低糖質食品原料と、麹とを含有することを特徴とする食品用組成物。
【請求項2】
乾燥物換算にて、前記低糖質食品原料を20質量%以上含有する請求項1記載の食品用組成物。
【請求項3】
乾燥物換算にて、前記低糖質食品原料を20質量%以上、前記麹を0.01~10質量%含有する請求項1又は2記載の食品用組成物。
【請求項4】
前記低糖質食品原料が、難消化性澱粉、難消化性デキストリン、大豆粉、豆乳粉末、おから、フスマ、セルロース、ポリデキストロース、小麦食物繊維、大豆食物繊維、難消化性グルカン、寒天、こんにゃく粉、アーモンドプードル、ナッツ粉末、小麦蛋白、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白、卵蛋白から選ばれた少なくとも1種である請求項1~3のいずれか1つに記載の食品用組成物。
【請求項5】
前記低糖質食品原料が、難消化性澱粉、難消化性デキストリン、フスマ、セルロース、ポリデキストロース、小麦食物繊維、大豆食物繊維、難消化性グルカンから選ばれた少なくとも1種の難消化性素材と、大豆粉、豆乳粉末、おから、小麦蛋白、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白から選ばれた少なくとも1種の植物蛋白素材とを含有する請求項4記載の食品用組成物。
【請求項6】
前記麹が、麦麹、米麹、黒米麹、玄米麹、蕎麦麹、酒麹、豆麹、蘇鉄麹から選ばれた少なくとも1種である請求項1~5のいずれか1つに記載の食品用組成物。
【請求項7】
乾燥物換算にて、更に、小麦粉を5~50質量%含有する請求項1~6のいずれか1つに記載の食品用組成物。
【請求項8】
たこ焼き、お好み焼き、鯛焼き、ホットケーキ、ドーナツ、マフィン、カップケーキ、パウンドケーキ、スポンジケーキ、シュー、蒸しパンから選ばれた1種からなる食品を製造するために用いられる請求項1~7のいずれか1つに記載の食品用組成物。」
・「【0011】
したがって、本発明の目的は、低糖質食品原料を使用した食品の食感や風味をより効果的に改善できるようにした食品用組成物を提供することにある。」
・「【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、低糖質食品原料と麹とを含有することにより、低糖質の食品を得ることができると共に、麹によって、口溶け感の向上、繊維感のマスキング効果が得られるので、低糖質でありながら、食感、食味に優れた食品が得られる。」
・「【0036】
本発明の食品用組成物中の低糖質食品原料の含有量は、乾燥物換算にて、20質量%以上であることが好ましく、40~90質量%であることがより好ましい。低糖質食品原料が、20質量%未満では、充分な糖質制限効果が得られず、90質量%を超えると、外観、食味食感ともに当該食品としての特徴を伴わなくなる傾向がある。」
・「【0046】
本発明の食品用組成物は、上記の他に、澱粉類、乳化剤、小麦グルテン、卵粉末、脱脂粉乳、グアガムやキサンタンガム等の増粘多糖類、大豆油、菜種油、オリーブ油、パーム油などの植物油脂ならびにヘット、ラードなどの動物油脂およびこれらの油脂を使用したショートニング、粉末油脂などの加工油脂等の油脂類や、糖類、山芋粉、食物繊維、膨脹剤、調味料、塩、砂糖、調味料、着色料、ビタミン類、ミネラル類を適宜添加してもよい。」
・「【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
<試験例1(たこ焼きにおける難消化性澱粉の影響)>
下記表1に示すように、低糖質原料(難消化性澱粉及び豆乳粉末)の含有量の異なる試料1,2,3,4の配合からなるたこ焼き用ミックス粉を調製した。難消化性澱粉としては、松谷化学工業株式会社製の「ファイバージムRW」(商品名)を用いた。
【0054】
上記各ミックス粉100gに対して、水300ml、全卵50gを加えて混ぜ、生地を作成した。この生地を200℃のたこ焼き焼成機で適宜反転しながら約10分間焼成して、それぞれのミックス粉からなるたこ焼きを製造した。
【0055】
【表1】
[図:0001407891000001.jpg]
」
・「【0060】
<試験例2(たこ焼きにおける麹の添加効果)>
下記表3に示すように、難消化性澱粉及び豆乳粉末(試験例1と同じ)を含有し、麦麹粉末の含有量の異なる比較例1,実施例1,実施例2,実施例3の配合からなるたこ焼き用ミックス粉を調製した。麦麹粉末としては、日東富士製粉株式会社製の麦麹原末を用いた。上記各ミックス粉を用いて、試験例1と同様にして、たこ焼きを製造した。
【0061】
【表3】
[図:0001407891000002.jpg]
」
・「【0066】
<試験例3(お好み焼き)>
下記表5に示す配合で、難消化性デキストリンを使用し、お好み焼き用のミックス粉を調整した。麦麹原末、難消化性澱粉は試験例1、2と同様のものを用い、難消化性デキストリンは松谷化学工業株式会社製の「ファイバーソル2」(商品名)を用いた。
【0067】
上記ミックス粉100gに対して、水140mlを加えて混ぜ、お好み焼きの生地を作成した。この生地にキャベツ280g、全卵50gを加えて混ぜた。200℃の鉄板で適宜反転しながら約10分間焼成して、お好み焼きを製造した。
【0068】
【表5】
[図:0001407891000003.jpg]
」
・「【0073】
<試験例4(鯛焼き)>
下記表7に示す配合で、鯛焼き用のミックス粉を調製した。麦麹粉末、難消化性澱粉としては、試験例1、2と同様なものを用いた。
【0074】
上記ミックス粉100gに対して、水115ml、全卵50gを加えて混ぜ、鯛焼きの生地を作成した。この生地を180℃の鯛焼き焼成機に流し込み、餡を挟んで適宜反転しながら約10分間焼成して、鯛焼きを製造した。
【0075】
【表7】
[図:0001407891000004.jpg]
」
・「【0080】
<試験例5(ホットケーキ)>
下記表9に示す配合で、ホットケーキ用のミックス粉を調製した。ふすま粉末としては日東富士製粉株式会社製の「パウダーブラン」(商品名)を用い、麦麹粉末としては、試験例1、2と同様なものを用いた。
【0081】
上記ミックス粉100gに対して、牛乳100ml、全卵50gを加えて混ぜ、ホットケーキの生地を作成した。この生地を160℃の鉄板で適宜反転しながら約6分半焼成して、ホットケーキを製造した。
【0082】
【表9】
[図:0001407891000005.jpg]
」
・「【0087】
<試験例6(ドーナツ)>
下記表11に示す配合で、ドーナツ用のミックス粉を調製した。麦麹粉末、難消化性澱粉としては、試験例1、2と同様なものを用いた。
【0088】
上記ミックス粉100gに対して、牛乳15ml、全卵50gを加えて混ぜ、ドーナツの生地を作成した。この生地を7~10mm程度の厚さに伸ばし、ドーナツ形状に型抜きをした。得られた成形物を175℃の油で約3分間油ちょうして、ドーナツを製造した。
【0089】
【表11】
[図:0001407891000006.jpg]
」
・「【0094】
<試験例7(蒸しパン)>
下記表13に示す配合で、蒸しパン用のミックス粉を調製した。麦麹粉末、難消化性澱粉としては、試験例1、2と同様なものを用いた。
【0095】
上記ミックス粉100gに対して、水100mlを加えて混ぜ、蒸しパンの生地を作成した。この生地60gをアルミカップに入れ、蒸し器で約12分間蒸して、蒸しパンを製造した。
【0096】
【表13】
[図:0001407891000007.jpg]
」
・「【0101】
<試験例8(各種麹原料を用いた試験)>
下記表15に示す配合で、麹粉末の種類を変えた各種のたこ焼き用ミックス粉を調製した。これらのミックス粉を用いて、試験例1と同様にして、たこ焼きを製造した。
【0102】
【表15】
[図:0001407891000008.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に【表1】、【表3】、【表5】、【表7】、【表9】、【表11】、【表13】及び【表15】に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1発明1」及び「甲1発明2」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明1>
「【表1】の試料4、【表3】の比較例1及び実施例1ないし3、【表5】の比較例2及び実施例4、【表7】の比較例3及び実施例5、【表9】の比較例4及び実施例6、【表11】の比較例5及び実施例7、【表13】の比較例6及び実施例8並びに【表15】の実施例9ないし15のいずれかに示す配合で調製されたミックス粉。」(当審注:【表1】、【表3】、【表5】、【表7】、【表9】、【表11】、【表13】及び【表15】については、上記ア参照。以下、同様。)
<甲1発明2>
「【表1】の試料4、【表3】の比較例1及び実施例1ないし3、【表5】の比較例2及び実施例4、【表7】の比較例3及び実施例5、【表9】の比較例4及び実施例6、【表11】の比較例5及び実施例7、【表13】の比較例6及び実施例8並びに【表15】の実施例9ないし15のいずれかに示す配合で調製されたミックス粉に、用途(たこ焼き、お好み焼き、鯛焼き、ホットケーキ、ドーナツ又は蒸しパン)に応じて水及び全卵、牛乳及び全卵又は水を加えて混ぜて作成したバッター生地。」
(2)甲2に記載された事項
甲2には、「食物繊維含有食品及びその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
食物繊維(アルギン酸ナトリウム及びカードランを除く)を35~65質量%、澱粉を20~53質量%、アルギン酸ナトリウム及びカードランから選ばれる少なくとも一種の増粘多糖類を2~20質量%、並びに水を3~15質量%含有することを特徴とする食物繊維含有食品。
【請求項2】
前記食物繊維は、オーツ麦繊維、小麦フスマ、大麦ファイバ、コーンファイバ、アップルファイバ、馬鈴薯ファイバ、及びサトウキビファイバから選ばれる少なくとも一種として配合されることを特徴とする請求項1に記載の食物繊維含有食品。」
・「【0020】
天然由来の食物繊維として、上述した食物繊維を含有する公知の素材から適宜選択することができる。天然由来の不溶性食物繊維として、例えばオーツ麦繊維(ファイバ)、小麦フスマ、大麦ファイバ、コーンファイバ、アップルファイバ、馬鈴薯ファイバ、及びサトウキビファイバ等が挙げられる。これらの食物繊維の中で、食物繊維含有食品を玄米色にすることができるオーツ麦繊維及び小麦フスマを使用することが好ましい。
【0021】
前記食物繊維含有食品中における食物繊維の含有量は、35~65質量%、好ましくは38~55質量%、より好ましくは40~50質量%である。食物繊維の含有量が35質量%未満の場合、食品の低カロリ化に寄与することができず、また、生理的な有用な機能の向上効果が低下する。一方、食物繊維の含有量が65質量%を超えて配合されると、食感及び味の低下を招く。」
・「【0023】
澱粉は、食物繊維含有食品の食感と味を付与するために配合される。澱粉としては、例えば穀類澱粉、イモ類澱粉、豆類澱粉、野草類澱粉、幹茎澱粉、及びこれらの改質澱粉(加工澱粉)が挙げられる。より具体的には、コーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、及びこれらの改質澱粉が挙げられる。改質澱粉とは、澱粉に対して、エーテル化、エステル化、グラフト化等の誘導体化処理、焙焼、酵素変性、酸化、酸処理等の分解処理、α化、造粒処理、多孔質化等の加工を施すことにより、澱粉本来の物性を人為的に変化させたものをいう。
【0024】
前記食物繊維含有食品中における澱粉の含有量は、20~53質量%、好ましくは30~50質量%、より好ましくは35~45質量%である。澱粉の含有量が20質量%未満の場合、食物繊維含有食品の食感及び味が低下する。一方、澱粉の含有量が53質量%を超えると食物繊維含有食品中における食物繊維含有量が低下し、食品の低カロリ化及び生理的な機能付与という目的達成を妨げることになり、本発明の効果を奏することができない。」
・「【0033】
乾燥処理方法は、公知の乾燥装置により実施することができる。乾燥装置としては、例えば流動層乾燥機、棚乾燥機、及びベルト乾燥機が挙げられる。乾燥処理することにより、最終的に得られる食物繊維含有食品中の水分含有量を3~15質量%に調整する。」
・「【0050】
(実施例5)
澱粉23質量%、不溶性食物繊維としてオーツ麦ファイバ61質量%、水溶性食物繊維として難消化性デキストリン(ニュートリオース、ロケットジャパン社製)5質量%、グルコマンナン及び寒天を各1質量%、並びに増粘多糖類としてカードラン10質量%を混合して、固体原料を調製した。次に、該固体原料100質量部に対し、水を110質量部添加混合し、予め60℃で膨潤させ、押出造粒機にて成形して、顆粒(長さ5mm×直径1.2mm)を得た。それを棚乾燥機にて乾燥し顆粒することにより、実施例5の食物繊維含有食品を得た。実施例5の食物繊維含有食品は、食物繊維が58.9質量%、澱粉20.9質量%、カードラン9.5質量%、及び水分5質量%であった。」
・「【0052】
(製造例6)
実施例5の食物繊維含有食品10gを熱い紅茶に入れて膨潤させる。一方、バターと砂糖各10gをよく混ぜ、卵1/2個と牛乳1杯を加えて混ぜる。これに、膨潤させ水切りした食物繊維含有食品とホットケーキミックス30gを加えて混ぜる。バターを塗った型に流しこんで180℃のオーブンで15分程度焼いて、カップケーキを調製した。食物繊維が1個当たり、約5.9g含むカップケーキが調製された。」
(3)甲3に記載された事項
甲3には、「焼き菓子」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
不溶性食物繊維を5.0~20.0質量%、澱粉を20~45質量%含有し、グリアジンの含有量が1.1質量%以下である焼き菓子であって、前記不溶性食物繊維が麦類のふすま由来の不溶性食物繊維を含む、焼き菓子。」
・「【請求項7】
前記澱粉が、小麦澱粉、大麦澱粉、ライ麦澱粉、エンバク澱粉、トウモロコシ澱粉、米澱粉、豆類澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、ヒシ澱粉、クリ澱粉、サゴ澱粉、ナガイモ澱粉、レンコン澱粉、クワイ澱粉、ワラビ澱粉、ユリネ澱粉、及びアミロメイズ澱粉からなる群から選ばれる1種又は2種以上からなる、請求項1~6のいずれか1項に記載の焼き菓子。」
・「【0033】
本発明の製造方法では、生地に配合する麦類のふすまを含む不溶性食物繊維含有粉及び澱粉の総量100質量部中、当該麦類のふすまを含む不溶性食物繊維含有粉は21~60質量部であり、澱粉は麦類のふすまを含む不溶性食物繊維含有粉との合計が100質量部となる質量部(すなわち40~79質量部)である。さらに、生地に配合する麦類のふすまを含む不溶性食物繊維含有粉及び澱粉の総量100質量部中、当該麦類のふすまを含む不溶性食物繊維含有粉が25~50質量部であり、澱粉が麦類のふすまを含む不溶性食物繊維含有粉との合計が100質量部となる質量部(すなわち50~75質量部)であることが好ましい。このような混合比とすることにより、不溶性食物繊維と澱粉とを十分量配合することができ、不溶性食物繊維が有する生理作用を発揮させながらも澱粉生地本来のおいしさを発現させることができる。」
2 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明1を対比する。
甲1発明1における「ミックス粉」は本件特許発明1における「非発酵ベーカリー食品用ミックス」に相当する。
甲1発明1における「難消化性澱粉」又は「ふすま粉末」は本件特許発明1における「不溶性食物繊維」に相当する。
甲1発明1における「難消化性澱粉」又は「ふすま粉末」の配合量は、本件特許発明1における「不溶性食物繊維」の配合量の「25~55質量%」という条件を満足する。
甲1発明1における「ミックス粉」は「小麦粉」を含んでおり、当該小麦粉は小麦澱粉を含む。そして、小麦澱粉は非難消化性澱粉であることは明らかであるから、甲1発明1は本件特許発明1における「非難消化性澱粉」「を含有する」という発明特定事項を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「不溶性食物繊維25~55質量%と、非難消化性澱粉を含有する非発酵ベーカリー食品用ミックス。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-1>
「非難消化性澱粉」に関して、本件特許発明1においては、「(ただし、小麦澱粉を除く)」と特定されているのに対し、甲1発明1においては、「ミックス粉」に含まれる「小麦澱粉」である点。
<相違点1-2>
「非難消化性澱粉」に関して、本件特許発明1においては、その含有量が「8~20質量%」と特定されているのに対し、甲1発明1においては、その含有量は特定されていない点。
イ 判断
相違点1-1について検討する。
甲1には、甲1発明1において、「ミックス粉」に含まれる「小麦澱粉」に代えて、他の「非難消化性澱粉」を用いることの動機付けとなる記載はない。
また、甲2及び3の記載は上記1(2)及び(3)のとおりである。すなわち、甲2には、オーツ麦繊維、小麦フスマ、大麦ファイバ、コーンファイバ、アップルファイバ、馬鈴薯ファイバ、及びサトウキビファイバから選ばれる少なくとも一種である食物繊維を35~65質量%、コーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、及びこれらの改質澱粉である澱粉を20~53質量%含有する食物繊維含有食品が記載され、甲3には、麦類のふすま由来の不溶性食物繊維を5.0~20.0質量%、小麦澱粉、大麦澱粉、ライ麦澱粉、エンバク澱粉、トウモロコシ澱粉、米澱粉、豆類澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、ヒシ澱粉、クリ澱粉、サゴ澱粉、ナガイモ澱粉、レンコン澱粉、クワイ澱粉、ワラビ澱粉、ユリネ澱粉、及びアミロメイズ澱粉からなる群から選ばれる1種又は2種以上からなる澱粉を20~45質量%含有する焼き菓子が記載されているが、それに止まり、いずれの証拠にも、甲1発明1において、「ミックス粉」に含まれる「小麦澱粉」に代えて、他の「非難消化性澱粉」を用いる動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1発明1において、甲1ないし3に記載された事項を考慮しても、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書において、おおむね次の主張をする。
「本件特許の「不溶性食物繊維25~55質量%と、非難消化性澱粉(ただし、小麦澱粉を除く)8~20質量%とを含有する」という限定要件が、全ての非発酵ベーカリー食品において、全ての不溶性食物繊維及び非難消化性澱粉の組合せにおいて、臨界的意義を有するものとは予測できない。
一方、甲第2号証には、前述したように、不溶性食物繊維と、澱粉とを、本件特許発明と同じような割合で含有する食物繊維含有食品であって、それ自体がベーカリー食品とも言えるものであり、かつ ベーカリー食品の原料ともなる組成物が記載されている。そして澱粉は、食物繊維含有食品の食感及び味を良好にする役割をなすことも記載されている。
また、甲第3号証には、前述したように、ミックス粉中の不溶性食物繊維含有粉や、澱粉の含有董が、本件特許で規定するような含有量になる可能性がある焼菓子が記載されている。そして、「このような混合比とすることにより、不溶性物繊維と澱粉とを十分量配合することができ、不溶性食物繊維が有する生理作用を発揮させながらも澱粉生地本来のおいしさを発現させることができる」ことが記載されている。
したがって、甲第1号証の食品用組成物において、甲第2号証、甲第3号証を参考にして、非難消化性澱粉を添加することは当業者が容易に想到し得たことであり、食感等が良好になるようにそれぞれの添加量を調整することは、当業者が通常行う設計的事項にすぎない。」(特許異議申立書第11及び12ページ)
(イ)検討
そこで、検討する。
甲2及び3に記載されている事項は、上記1(2)及び(3)のとおりであり、特許異議申立人の主張するような事項は記載されているとはいえないし、仮に、特許異議申立人の主張するような事項が記載されているといえるとしても、それらの事項を甲1発明1に適用する動機付けがあるとはいえない。
したがって、本件特許発明1における「不溶性食物繊維25~55質量%と、非難消化性澱粉(ただし、小麦澱粉を除く)8~20質量%とを含有する」という発明特定事項が、全ての非発酵ベーカリー食品において、全ての不溶性食物繊維及び非難消化性澱粉の組合せにおいて、臨界的意義を有するかどうかにかかわらず、甲1発明1において、甲2及び3に記載された事項を参考にして、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
エ まとめ
したがって、相違点1-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明1及び甲1ないし3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明1及び甲1ないし3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明6について
ア 対比
本件特許発明6と甲1発明2を対比する。
両者の間には、本件特許発明1と甲1発明1との間と同様の相当関係が成り立つ。
甲1発明2における「ミックス粉」は本件特許発明6における「発酵ベーカリー食品用ミックス」に相当する。
甲1発明2における「水及び全卵、牛乳及び全卵又は水」は本件特許発明6における「液体」に相当する。
甲1発明2における「水及び全卵、牛乳及び全卵又は水」の含有量は、甲1に記載された事項からみて、「ミックス粉」100質量部に対して、60質量部を超えていることは明らかであるから、甲1発明2は本件特許発明6における「ベーカリー食品用ミックス100質量部と、60質量部を超える液体との混合物」という条件を満足する。
甲1発明2における「バッター生地」は本件特許発明6における「バッター」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ベーカリー食品用ミックス100質量部と、60質量部を超える液体との混合物を含み、
前記ベーカリー食品用ミックスが、不溶性食物繊維25~55質量%と、非難消化性澱粉を含有する、バッター。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2-1>
「非難消化性澱粉」に関して、本件特許発明6においては、「(ただし、小麦澱粉を除く)」を含有することが特定されているのに対し、甲1発明2においては、「ミックス粉」に含まれる「小麦澱粉」である点。
<相違点2-2>
「非難消化性澱粉」に関して、本件特許発明6においては、その含有量が「8~20質量%」と特定されているのに対し、甲1発明2においては、その含有量は特定されていない点。
イ 判断
相違点2-1について検討する。
相違点2-1は相違点1-1と実質的に同じであるから、その判断も同じである。すなわち、甲1発明2において、甲1ないし3に記載された事項を考慮しても、相違点2-1に係る本件特許発明6の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ まとめ
したがって、相違点2-2について検討するまでもなく、本件特許発明6は甲1発明2及び甲1ないし3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし6は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1によっては取り消すことはできない。
3 申立理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)には、おおむね次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き菓子、パン類などのベーカリー食品の製造に用いられるベーカリー食品用ミックスに関し、詳細には、食物繊維を含有し、低糖質、低カロリーのベーカリー食品の製造に好適なベーカリー食品用ミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
ベーカリー食品は、小麦粉等の穀粉、澱粉などの粉体原料に水や牛乳などの液体を添加して得られた生地を、必要に応じ発酵させた後、焼成、蒸し、フライ等の加熱処理に供して得られる食品であり、パンのような発酵生地を使用した香気に優れたものや、クッキーのようなザクザクとした歯脆い食感のものや、ホットケーキのようなさっくり、ふんわりとした食感のものなど、種々の食感を有するベーカリー食品が知られている。ベーカリー食品は、加熱処理に供する前に生地を発酵させる発酵ベーカリー食品と、発酵させない非発酵ベーカリー食品とに大別される。また、ベーカリー食品の食感は、生地を製造する際の粉体原料への液体添加量に少なからず影響を受ける。この液体添加量が比較的少ない生地はドウ、比較的多い生地はバッターと呼ばれ、バッターは通常、水分含量が比較的多く液状である。
【0003】
また、ベーカリー食品は通常、穀粉、澱粉、糖類を主原料とすることから、ベーカリー食品の喫食機会が増えると、必然的に糖質の摂取量も増えることになる。糖質は、脂質、蛋白質と並ぶ3大栄養素の1つであるが、糖質を過剰摂取すると血糖値が上昇し、インスリンホルモンの分泌が促されるなど、健康上の問題が懸念されることから、食生活においてやむなくベーカリー食品の喫食を制限せざるを得ない場合がある。また近年は、健康志向の高まりを背景に食生活に糖質制限を積極的に採り入れる動きが活発化し、糖質を制限する療法やダイエット法などが数多く提唱されており、そうした中で、低糖質で糖質制限に適したベーカリー食品に対するニーズが高まっている。
【0004】
低糖質を謳うベーカリー食品として、通常のベーカリー食品における糖質を、ヒトの消化酵素で消化され難い食物繊維に置き換えたものが知られており、この食物繊維として、難消化性澱粉、難消化性デキストリン、イヌリンなどが用いられている。しかしながら、ベーカリー食品に食物繊維を含有させると、ベーカリー食品の低糖質化が図られる一方で、ベーカリー食品本来の食感、食味、風味などが低下し、食品としての美味しさが損なわれるという問題がある。この問題を解決するべく種々の提案がなされている。
【0005】
・・・(略)・・・
【発明の概要】
【0009】
本発明の課題は、食物繊維を含有し低糖質且つ低カロリーでありながらも、食感に優れたベーカリー食品を製造可能なベーカリー食品用ミックスを提供することである。」
・「【0010】
本発明は、不溶性食物繊維10~70質量%と、非難消化性澱粉3~20質量%とを含有するベーカリー食品用ミックスである。
また本発明は、前記の本発明のベーカリー食品用ミックス100質量部と、60質量部を超える液体との混合物を含むバッターである。」
・「【0012】
本発明で用いる不溶性食物繊維は、水に不溶な食物繊維であり、例えば、セルロース、ヘミセルロース、キチン、キトサン、難消化性澱粉、大豆食物繊維、ビートファイバー、小麦ふすま、エンドウファイバー、リンゴ食物繊維、シトラスファイバー、小麦ファイバー、オート麦ファイバー、サトウキビファイバー、ポテトファイバーなどが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの不溶性食物繊維の中でも、特に難消化性澱粉は、ベーカリー食品用ミックスを用いて得られる生地ないしベーカリー食品の粉っぽさの低減効果が高いため、本発明で好ましく用いられる。」
・「【0016】
本発明のベーカリー食品用ミックスにおける不溶性食物繊維の含有量は、該ミックスの全質量に対して、10~70質量%であり、好ましくは20~60質量%、さらに好ましくは25~55質量%である。ベーカリー食品用ミックスにおける不溶性食物繊維の含有量が10質量%未満では、食物繊維量の不足によりベーカリー食品の低糖質化、低カロリー化が不十分となり、食物繊維含有食品に期待される保健機能が得られないおそれがある。また、ベーカリー食品用ミックスにおける不溶性食物繊維の含有量が70質量%を超えると、ベーカリー食品が粉っぽくぼそぼそした食感になる。」
・「【0017】
本発明で用いる非難消化性澱粉は、前述した不溶性食物繊維の一種である難消化性澱粉(健常人の消化管で消化吸収されない澱粉)以外の澱粉であり、健常人の消化管で消化吸収され得る澱粉である。非難消化性澱粉としては、ベーカリー食品に通常用いられる難消化性澱粉以外のいわゆる通常の澱粉を特に制限なく用いることができ、未加工澱粉でもよく、あるいは未加工澱粉にエステル化、エーテル化、酸化、架橋化、α化等の処理を1つ以上施して得られる、加工澱粉でもよく、これら通常の澱粉の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。未加工澱粉(あるいは加工澱粉の原料)としては、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉等の地上系澱粉(種子に澱粉を蓄積する植物由来の澱粉);馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉等の地下系澱粉(地下茎や根に澱粉を蓄積する植物由来の澱粉)が挙げられる。これらの非難消化性澱粉の中でも、ワキシーコーンスターチ又は地下系澱粉は、ベーカリー食品の柔らかな食感が高まるため、本発明で好ましく用いられる。
【0018】
本発明のベーカリー食品用ミックスにおける非難消化性澱粉の含有量は、該ミックスの全質量に対して、3~20質量%であり、好ましくは8~16質量%である。ベーカリー食品用ミックスにおける非難消化性澱粉の含有量が3質量%未満では、該ミックスを用いて得られるベーカリー食品の食感がぼろぼろと崩れやすくざらざらしたものとなるおそれがある。また、ベーカリー食品用ミックスにおける非難消化性澱粉の含有量が20質量%を超えると、ベーカリー食品の口溶けが悪くなる。」
・「【0024】
本発明のベーカリー食品用ミックスは、ベーカリー食品の製造に用いることができる。本発明でいうベーカリー食品は、穀粉類(穀粉及び澱粉)を主原料とし、これに必要に応じてイーストや膨張剤(ベーキングパウダー等)、水、食塩、砂糖などの副原料を加えて得られた発酵又は非発酵生地を、焼成、蒸し、フライ等の加熱処理に供して得られる食品をいう。本発明が適用可能なベーカリー食品の例としては、パン類;ピザ類;ケーキ類;ワッフル、シュー、ビスケット、どら焼き、焼き饅頭等の和洋焼き菓子;ドーナツ等の揚げ菓子等が挙げられる。パン類としては、食パン(例えばロールパン、白パン、黒パン、フランスパン、乾パン、コッペパン、クロワッサン等)、調理パン、菓子パン、蒸しパン等が挙げられる。ケーキ類としては、スポンジケーキ、バターケーキ、ロールケーキ、ホットケーキ、ブッセ、バームクーヘン、パウンドケーキ、チーズケーキ、スナックケーキ、マフィン、バー、クッキー、パンケーキ等が挙げられる。
【0025】
本発明のベーカリー食品用ミックスは、非発酵ベーカリー食品の製造に特に好適である。非発酵ベーカリー食品は、ベーカリー食品用ミックス(粉体原料)に液体を添加・混捏して得られた生地を、発酵させずに焼成等の加熱処理に供して製造される、即ち生地の発酵を伴わずに製造されるベーカリー食品である。非発酵ベーカリー食品には例えば、パンケーキ、ホットケーキ、バターケーキ、クレープ、お好み焼き、たこ焼き、クッキー、ビスケット、ピザ、スポンジケーキ、シュー、ロールケーキ、チーズケーキ、スナックケーキ、マフィン、バームクーヘン、パウンドケーキ、蒸しパン、ドーナツなどがある。一方、生地の発酵を伴って製造される発酵ベーカリー食品には例えば、食パン、菓子パン、調理パン、ピザなどがある。一般に、非発酵ベーカリー食品は、発酵ベーカリー食品に比べて、舌触りが滑らかで柔らかく表面も柔らかいという特徴を有しているところ、本発明のベーカリー食品用ミックスによれば、斯かる非発酵ベーカリー食品に固有の特徴を際立たせ、非発酵ベーカリー食品らしさをより一層発現させることが可能である。」
・「【0028】
本発明のベーカリー食品用ミックスは、ドウでもバッターでも適用可能であるが、特にバッター用ミックスとして有用であり、バッターを用いて製造されるバッタータイプのベーカリー食品の製造に好適である。一般に、バッタータイプのベーカリー食品は、ドウを用いて製造されるドウタイプのベーカリー食品に比して、食物繊維が含有されている場合に、喫食時に口中に繊維感が残りやすいところ、本発明のベーカリー食品用ミックスであれば、そのようなバッタータイプのベーカリー食品の製造に用いた場合でも、繊維感が無く食感に優れた、低糖質且つ低カロリーのベーカリー食品を製造することができる。」
・「【0029】
本発明には、前述した本発明のベーカリー食品用ミックス100質量部と、60質量部を超える液体との混合物を含むバッター(液状生地)が包含される。この本発明のバッターにおいて、混合物を構成する液体の量は、本発明のベーカリー食品用ミックス100質量部に対して、好ましくは60~450質量部、さらに好ましくは90~400質量部、より好ましくは100~350質量部である。本発明のバッターには、所望に応じて、果実、木の実、野菜、肉類、魚介類などの各種具材、例えばパンケーキ用のナッツやお好み焼き用の野菜などを加えてもよい。」
・「【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例12、13、17~19は参考例である。
【0032】
〔実施例1~23及び比較例1~9〕
下記表1に示す原材料を適宜混合・攪拌して、ベーカリー食品用ミックスとしてのホットケーキミックスを製造した。使用した原料の詳細は下記の通り。
・不溶性食物繊維:セルロース(商品名「アビセルFD-101」、旭化成製)、タピオカ難消化性澱粉(商品名「パインスターチRT」、松谷化学工業製)
・蛋白質素材:グルテン(小麦蛋白質)
【0033】
〔試験例〕
各実施例及び比較例のホットケーキミックスを用いてホットケーキを製造した。具体的には、ホットケーキミックス180質量部に対して、卵50質量部、牛乳170質量部を加えてよく攪拌し、液状生地たるバッターを得た。得られたバッターを、170℃に熱したホットプレート上に垂らして広げ、3分間焼成した後、そのバッターの焼成物を上下反転させて未焼成の面側を1分30秒間焼成し、ホットケーキを製造した。製造したホットケーキを10名のパネラーに食してもらい、その際の食感(滑らかさ、柔らかさ)を下記評価基準で評価してもらった。結果を10名の評価点の平均値として下記表1~4に示す。
【0034】
<滑らかさの評価基準>
5点:滑らかで舌触りが非常によく、極めて良好。
4点:滑らかで舌触りがよく、良好。
3点:普通に滑らかさを感じる。
2点:ぼそぼそした粉っぽさがあり、不良。
1点 ぼそぼそした粉っぽさが強く、極めて不良。
<柔らかさの評価基準>
5点:非常に柔らかく生地が溶け、極めて良好。
4点:柔らかく生地が溶け、良好。
3点:普通に柔らかさを感じる。
2点:口溶けが悪いか、ざらざらした感触があり、不良。
1点:口溶けが非常に悪いか、ざらざらした感触が強く、極めて不良。
【0035】
【表1】
[図:0001407891000009.jpg]
【0036】
表1に示す通り、各実施例のホットケーキミックスは、食物繊維を含有し低糖質且つ低カロリーでありながらも、ホットケーキの滑らかさ、柔らかさの双方に優れていた。即ち、薄力粉及び砂糖からなるミックス(比較例5)に低糖質、低カロリーを図る目的で食物繊維を含有させる場合に、比較例1~3のように、単に不溶性食物繊維を含有させただけでは、滑らかさ及び柔らかさのいずれも低下してしまうが、各実施例のように、さらに非難消化性澱粉を含有させることで双方がいずれも向上し、ベーカリー食品の食感に優れたものとなる。
また、実施例1と実施例2あるいは実施例3と実施例4との対比から、不溶性食物繊維としては、セルロースよりも難消化性澱粉の方がより効果的であることがわかる。
【0037】
【表2】
[図:0001407891000010.jpg]
【0038】
表2における実施例2、6及び7どうしの対比から、非難消化性澱粉に関し、地下系が特に食感の向上効果に優れ、また、地上系についてはコーンスターチよりもワキシーコーンスターチの方が食感の向上効果に優れることがわかる。
また表2において、蛋白質素材及び/又は増粘剤を含む実施例8~11がこれらを含まない他の実施例よりも食感に優れていたことから、ミックス中にこれらを含有させること、特に実施例11のように蛋白質素材及び増粘剤の双方を含有させることで、バッタータイプのベーカリー食品の食感が大幅に向上し得ることがわかる。
【0039】
【表3】
[図:0001407891000011.jpg]
【0040】
表3における実施例と比較例との対比から、ミックス中の不溶性食物繊維の含有量10~70質量%の臨界意義が明白である。
また、表3では特に実施例13~17、とりわけ実施例14~16が食感に優れていたことから、ミックスにおける不溶性食物繊維の含有量としては、20~60質量%程度が好ましく、25~55質量%程度がさらに好ましいことがわかる。
【0041】
【表4】
[図:0001407891000012.jpg]
【0042】
表4における実施例と比較例との対比から、ミックス中の非難消化性澱粉の含有量3~20質量%の臨界意義が明白である。
また、表4では実施例20~22が特に食感に優れていたことから、ミックスにおける非難消化性澱粉の含有量としては、8~16質量%程度が好ましいことがわかる。」
(4)サポート要件の判断
発明の詳細な説明の【0001】ないし【0009】によると、本件特許発明1ないし5の解決しようとする課題は「食物繊維を含有し低糖質且つ低カロリーでありながらも、食感に優れた非発酵ベーカリー食品を製造可能な非発酵ベーカリー食品用ミックスを提供すること」であり、本件特許発明6の解決しようとする課題は「食物繊維を含有し低糖質且つ低カロリーでありながらも、食感に優れたベーカリー食品を製造可能なベーカリー食品用ミックスを使用したバッターを提供すること」である(以下、総称して「発明の課題」という。)。
他方、発明の詳細な説明の【0010】、【0012】、【0016】ないし【0018】、【0024】、【0025】、【0028】及び【0029】には、本件特許発明1ないし6に対応する記載があり、特に【0012】、【0016】ないし【0018】には「不溶性食物繊維」及び「非難消化性澱粉」の具体例並びにそれらの含有量の技術的意義が記載されている。
また、発明の詳細な説明の【0031】ないし【0042】において、「セルロース」又は「タピオカ難消化性澱粉」である「不溶性食物繊維」を「10~70質量%」の範囲内で含有し、「ワキシーコーンスターチ」、「コーンスターチ」又は「馬鈴薯澱粉」である「非難消化性澱粉」を「3~20質量%」の範囲内で含有する実施例及び参考例が、そうでない比較例と比べて、ホットケーキの食感に優れていることを確認している。
そうすると、発明の詳細な説明の上記記載から、当業者は「不溶性食物繊維10~70質量%と、非難消化性澱粉3~20質量%とを含有する非発酵ベーカリー食品用ミックス」及び「ベーカリー食品用ミックス100質量部と、60質量部を超える液体との混合物を含み、前記ベーカリー食品用ミックスが、不溶性食物繊維10~70質量%と、非難消化性澱粉3~20質量%とを含有する、バッター」は、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし5は、発明の課題を解決できると認識できる上記「非発酵ベーカリー食品用ミックス」をさらに限定したものであり、本件特許発明6は、発明の課題を解決できると認識できる上記「バッター」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし6は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし6に関して、特許請求の範囲はサポート要件に適合する。
(5)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 2における主張について、検討する。
「ホットケーキ」は「ベーカリー食品」又は「非発酵ベーカリー食品」として、特殊なものではないから、「ホットケーキ」において奏される効果は、程度の差はあれ、他の「ベーカリー食品」又は「非発酵ベーカリー食品」においても奏されると当業者は理解するし、そうでないとする具体的な証拠が示されている訳でもない。
「セルロース」及び「タピオカ難消化性澱粉」は、「不溶性食物繊維」として、特殊なものではないから、これらを用いることで奏される効果は、程度の差はあれ、他の「不溶性食物繊維」を用いることでも奏されると当業者は理解するし、そうでないとする具体的な証拠が示されている訳でもない。
「ワキシーコーンスターチ」、「コーンスターチ」及び「馬鈴薯澱粉」は、「非難消化性澱粉」として、特殊なものではないから、これらを用いることで奏される効果は、程度の差はあれ、他の「非難消化性澱粉」を用いることでも奏されると当業者は理解するし、そうでないとする具体的な証拠が示されている訳でもない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載から当業者が発明の課題を解決できると認識できる「非発酵ベーカリー食品用ミックス」及び「バッター」は、上記(4)のとおりであるといえる。
したがって、本件特許発明1ないし6は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(6)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
第5 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-701333