特許異議申立
2024-700068
圧力容器
- 審判番号
- 2024-700068
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-053094
- 登録番号
- 7318578
- 請求日
- 2024年01月30日
- 審決日
- 2024年03月13日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】田▲崎▼ 聡
- 【権利者代理人】伏見 俊介
- 【権利者代理人】大浪 一徳
- 【異議申立人】東レ 株式会社
- 【異議申立人代理人】伴 俊光
- 【異議申立人代理人】細田 浩一
- 審判長/審判官
- 審判長 小川 恭司
- 審判官 内田 博之
- 審判官 吉田 昌弘
- 分類
- P1651.121-Y (F16J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7318578号発明「圧力容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7318578号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7318578号の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和2年3月24日(優先権主張 平成31年3月25日(以下、「優先日」という。))の出願であって、令和5年7月24日にその特許権の設定登録がされ、同年8月1日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和6年1月30日に特許異議申立人東レ株式会社(以下、「異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件特許発明
特許第7318578号の請求項1~5に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
筒状の直胴部と、前記直胴部の両端に設けられ、前記直胴部から離れるにつれて窄む形状のドーム部とを備え、
前記直胴部及び前記ドーム部が、樹脂製又は金属製の容器本体と、前記容器本体を補強する外殻とで形成され、
前記外殻は、長尺の炭素繊維束及び硬化性樹脂を含む長尺の炭素繊維複合材の硬化物で形成された複合体部からなり、
前記直胴部において撮影されたX線CT画像の前記複合体部の断面における以下の特定方法Iによる空隙の数NBが0.25~3.70個/cm2である、圧力容器。
(特定方法I)軸方向の中心の軸方向に対して垂直な面の断面積20cm2あたりの空隙を数え、単位面積(1cm2)あたりの個数をNBとする。
【請求項2】
前記X線CT画像の前記複合体部の断面における以下の特定方法IIによる前記空隙の合計長さLBが1.0~9.0mm/cm2である、請求項1に記載の圧力容器。
(特定方法II)軸方向の中心の軸方向に対して垂直な面の断面積20cm2あたりの厚み方向に対して垂直な方向の空隙の長さを測定し、単位面積(1cm2)あたりの合計長さをLBとする。
【請求項3】
前記圧力容器の内容量をV(L)、前記圧力容器の最高使用圧力をPmax(bar)、前記圧力容器の質量をW(kg)、前記圧力容器の最低破裂係数をKとしたとき、下記式(1)で表される性能値Qが2500以上である、請求項1又は2に記載の圧力容器。
【数1】
[図:0001409202000001.jpg]
【請求項4】
最低破裂係数Kが2.0~3.0である、請求項3に記載の圧力容器。【請求項5】
前記圧力容器の内容量Vが450L以上である、請求項3又は4に記載の圧力容器。」
第3 申立理由の概要
1 申立理由(進歩性)
異議申立人は、証拠として、下記の甲第1~8号証を提出し、甲8記載事項を踏まえると、本件発明1及び2は、甲1発明(又は甲2発明)及び甲3記載事項(又は甲4記載事項)に基づいて、本件発明3は、甲1発明(又は甲2発明)、甲3記載事項(又は甲4記載事項)及び甲6記載事項に基づいて、本件発明4は、甲1発明(又は甲2発明)、甲3記載事項(又は甲4記載事項)、甲6記載事項及び甲5記載事項(又は甲7記載事項)に基づいて、本件発明5は、甲1発明(又は甲2発明)、甲3記載事項(又は甲4記載事項)、甲6記載事項及び甲7記載事項に基づいて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1~5に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきである旨主張する(特許異議申立書21頁21行~23頁14行)。
2 証拠
甲第1号証:特開2017-145959号公報
甲第2号証:特開2012-45826号公報
甲第3号証:Erwin Hack他、“Flaw and damage assessment in torsionally loaded CFRP cylinders using experimental and numerical methods”、 Composite Structures 132 (2015)、Elsevier、p109-121、2015年5月14日
甲第4号証:Johann KASTNER他、“Defect and Porosity Determination of Fibre Reinforced Polymers by X-ray Computed Tomography”、NDT in Aerospace 2010 - We.1.A.2、2010年
甲第5号証:高圧ガス保安協会、「70MPa圧縮水素自動車燃料装置用容器の技術基準 KHK S 0128 (2010)」、p402-403、平成22年7月23日
甲第6号証:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「NEDO燃料電池・水素技術開発ロードマップ2010(ロードマップ詳細版(水素))」、p13-26、2010年
甲第7号証:INTERNATIONAL STANDARD、「Gas cylinders-Refillable composite reinforced tubes of water capacity between 450L and 3000L」、ISO 11515:2013(E)、p16-19、2013年7月15日
甲第8号証:永松大介、「実験成績証明書」、東レ株式会社 名古屋事業場 アドバンスドコンポジットセンター、2024年1月24日
第4 甲号証の記載等
1 甲第1号証に記載された事項及び甲1発明
(1)甲第1号証に記載された事項等
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。以下同様。
ア「【請求項1】
流体を密封するための内部空間を形成するライナと、前記ライナに取り付けられた口金とを備える高圧タンクであって、
前記口金は、外部に向けて開口する開口部を有する円筒部と、前記円筒部に接続され、前記円筒部の径方向に張り出すフランジとを備え、
前記フランジの外周面は、前記径方向の外側の端を互いの境界とする上面と底面とを含み、
前記底面は、少なくとも一部が前記内部空間に露出する内面部、前記開口部側に窪む環状溝、前記内面部および前記環状溝を接続する傾斜面、並びに、前記傾斜面および前記環状溝の間に形成された角部を含み、
前記傾斜面は、前記径方向の内側の端から外側の端に向かって、前記開口部側に傾斜しており、
前記環状溝は、前記円筒部の軸線方向について最も窪んだ部位よりも、前記径方向の外側に位置する外側面を含み、
前記角部と前記ライナとの面圧は、前記外側面と前記ライナとの面圧よりも高い
高圧タンク。」
イ「【請求項13】
前記保持の前に、前記ライナを覆う補強層を形成する工程を含む
請求項12に記載の製造方法。」
ウ「【0029】
実施形態1を説明する。図1は、高圧タンク10を示す。図1は、軸線Oの左半分に外観、右半分に断面を示す。本実施形態において説明する断面は、何れも軸線Oを含む断面である。
【0030】
高圧タンク10は、圧縮水素を貯蔵し、燃料電池車に搭載される。高圧タンク10は、ライナ20と、補強層30と、口金100と、ボス200とを備える。ライナ20、補強層30、口金100及びボス200のそれぞれは、概ね、軸線Oを中心とする回転対称に形成されている。以下、軸線Oに直交する方向を径方向と呼ぶ。
【0031】
ライナ20は、ナイロン(ポリアミド系合成繊維)等の樹脂製であり、流体を密封するための内部空間を、口金100及びボス200と共に形成する。ライナ20と口金100とボス200とによって、水素を充填するために形成された空間を、以下「タンク内部」と呼ぶ。また、図1に示すように、軸線Oに沿う方向について、ボス200から口金100への向きを開口側、逆向きをエンド側と呼ぶ。
【0032】
ライナ20は、開口側分割ライナ21と、エンド側分割ライナ22との接合によって形成されている。補強層30は、ライナ20を補強するために、ライナ20の外周を覆う。」
エ「【0060】
なお、上記の押し付けが発生していることは、例えは、X線CTを用いて、ライナ20内部の状態を非破壊で検査することで特定してもよい。或いは、実際にライナ20を切断し、ベクトロン等の形状測定機器を用いて口金100とライナ20との寸法を別々に測定し、隙間を測定してもよい。隙間が発生している部位に基づき、インサート成形時における樹脂材料24の収縮方向が推定できる。」
オ「【0064】
次に、補強層30を、FW法によって巻き付ける(S360)。補強層30の材料は、熱硬化樹脂を含むCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)である。本実施形態においては、熱硬化樹脂としてエポキシ樹脂を用いる。
【0065】
FW法の準備として、第1の回転軸(図示しない)を、貫通孔111を介してタンク内部に挿入することで、内側孔219に挿入する。さらに、第2の回転軸(図示しない)を、外側孔211に挿入する。第1及び第2の回転軸によって、FW法におけるタンク本体の回転が実現される。
【0066】
次に、補強層30を硬化させる(S370)。具体的には、補強層30を加熱することによって、補強層30を熱硬化させる。」
カ 【図1】
[図:0001409202000002.jpg]
キ 図1から、ライナ20及び補強層30には、中央の筒状の部分と、前記筒状の部分の開口側の端部及びエンド側の端部に設けられた外面が球面状の部分であって、前記筒状の部分から離れるにつれて外形がすぼむ形状の外面が球面状の部分とが、備わっている構成が看取される。
ク 段落【0064】の「補強層30を、FW法によって巻き付ける(S360)。補強層30の材料は、熱硬化樹脂を含むCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)である。」との記載及び段落【0065】の「FW法の準備として、第1の回転軸(図示しない)を、貫通孔111を介してタンク内部に挿入することで、内側孔219に挿入する。さらに、第2の回転軸(図示しない)を、外側孔211に挿入する。第1及び第2の回転軸によって、FW法におけるタンク本体の回転が実現される。」との記載から、段落【0064】等に記載された「FW法」は、フィラメントワインディング法と理解される。フィラメントワインディング法において、炭素繊維が長尺の炭素繊維の束の形態をとることは技術常識であるから、上記CFRPの炭素繊維は長尺であると認められる。
(2)甲1発明
上記(1)の記載事項、看取事項及び認定事項から、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲1発明]
「ライナ20及び補強層30における中央の筒状の部分と、前記筒状の部分の開口側の端部及びエンド側の端部に設けられ、前記筒状の部分から離れるにつれて外形がすぼむ形状のライナ20及び補強層30における外面が球面状の部分とを備え、
前記筒状の部分及び前記外面が球面状の部分が、樹脂製のライナ20と、ライナ20の外周を覆う補強層30とで形成され、
前記補強層30は、長尺の炭素繊維の束及び熱硬化樹脂を含む長尺のCFRPの硬化物で形成されたものからなる、高圧タンク10。」
2 甲第2号証に記載された事項及び甲2発明
(1)甲第2号証に記載された事項
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
ア「【請求項1】
円筒状の直胴部と、前記直胴部の両端に接続され、その頂部に口金部を有するドーム部と、を備えるライナの外周上に、樹脂液を含浸させた繊維束を、該口金部間の距離を調整しながら巻き付ける工程を含むことを特徴とする圧力容器の製造方法。」
イ「【0002】
一般に、天然ガスや水素ガスなどの常温常圧では気体の物質を高圧で圧縮し、充填した高圧タンクなどの圧力容器が知られている。天然ガス自動車や燃料電池自動車などの車両には、燃料となる天然ガスや水素ガスなどに圧力を付加して充填し、貯留した圧力容器が搭載される。車両に搭載する圧力容器には、一般に、燃費の向上などのために軽量化が望まれており、このため、例えば炭素繊維強化プラスティック(CFRP)やガラス繊維強化プラスティック(GFRP)などの繊維強化プラスティック(FRP)製の圧力容器が好適に採用されている。
【0003】
図5は、一般的なFRP製圧力容器の構成の概略を説明するための図である。図5に例示する圧力容器30は、中空形状のライナ32と、ライナ32の外周部分を被覆する繊維強化樹脂層(FRP層)34とを備え、構成されている。圧力容器30の端部にはまた、少なくとも一つの口金部36を有する。口金部36は、図示しないバルブを接続可能に構成されており、このバルブの開閉動作により圧力容器30の内外への流体の流通を制御することができる。ライナ32には、例えば、6-ナイロン、6,6-ナイロンなどのナイロン樹脂やポリプロピレン樹脂などの高いガスバリア性を有する熱可塑性樹脂に、必要に応じてエラストマーを添加して構成される。
【0004】
繊維強化樹脂層34は一般に、例えばガラス繊維、炭素繊維、ケブラ繊維などからなる、長く連続した糸状の繊維を複数束ねた繊維束(フィラメント)に、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂を含む樹脂液を含浸させながら、あるいは該樹脂液を乾燥および/または半硬化させたいわゆるプリプレグ繊維を予め作製した後に、ライナ32の外周上に、繊維束またはプリプレグ繊維を巻きつける工程(フィラメントワインディング(FW)工程)、次いで、該樹脂液を硬化させる工程(硬化工程)を経て形成することができる。このとき、ライナ32の材質および/または厚みの他、例えば、繊維強化樹脂層34を構成する繊維または繊維束の太さやプリプレグ繊維の巻き数等を調整し、繊維強化樹脂層34の厚みを調整することにより、圧力容器30の耐圧性および耐衝撃性、その他の設計強度を所望のものとすることができる。また、必要に応じて、ライナ32と繊維強化樹脂層34との間、および/または口金部36と繊維強化樹脂層34との間に図示しない連通層または連通孔を設け、圧力容器内部に残留する残留ガスを排出させる構成とすることもできる。」
ウ「【0006】
図7は、図6に示すフィラメントワインディング装置を適用し得るライナおよび該ライナを支持するための従来のライナ支持装置の構成について例示した図である。図7において、ライナ32は一般に、断面径がほぼ均一な円筒状の直胴部38と、直胴部38の両端に接続され、その頂部に口金部36,37を有するドーム部40,41と、を有する。ライナ支持装置200には、ライナ32の両端部を軸支するための支持部42,43が設けられている。支持部42,43は、ライナ32の両端部に設けられた口金部36,37に対して着脱可能に構成されており、ライナ32の軸70を中心に回転可能に、ライナ32を支持することができる。支持部42,43の少なくとも一方には、モータ(図示せず)が接続されており、このモータの回転により、ライナ32を、軸70を中心に回転させることができる。」
エ「【0008】
一般に、ライナ32の表面に繊維束またはプリプレグ繊維を複数回巻き付けて積層構造を形成した場合、ライナ32に近い内側部分に巻き付けられた繊維束またはプリプレグ繊維が撓み、その張力がライナ32から遠い外側部分と比較して低下する傾向にある。このため、例えば、繊維束またはプリプレグ繊維の巻き付け回数に応じて内圧や巻き付け時に付与する張力を段階的に調整する等により、巻き付けた繊維束またはプリプレグ繊維がFRP層34(図5参照)の全体にわたり適切な張力分布となるように制御されている。
【0009】
ライナ32の直胴部38では、主として、軸70に対して垂直な方向に繊維束またはプリプレグ繊維を巻き付けるフープ巻きにより巻き付けられる。このため、ライナ32の直胴部38では、巻き付けられた繊維束またはプリプレグ繊維によりライナ32の径方向に圧縮する力が加えられる。一方、ライナ32のドーム部40(および41)では、主として、軸70に対して傾斜させた方向に繊維束またはプリプレグ繊維を巻き付けるヘリカル巻きにより巻き付けられる。このため、ライナ32のドーム部40(および41)では、巻き付けられた繊維束またはプリプレグ繊維によりライナ32の径方向よりはむしろ軸方向に圧縮する力が働く。」
オ「【0011】
本発明は、所望の耐圧性能を有する圧力容器を精度よく作製することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、円筒状の直胴部と、前記直胴部の両端に接続され、その頂部に口金を有するドーム部と、を備えるライナの外周上に、樹脂液を含浸させた繊維束を、該口金間の距離を調整しながら巻き付ける工程を含む、圧力容器の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
所望の耐圧性能を有する圧力容器を精度よく作製することができる。」
カ「【0016】
図1は、本発明の実施の形態における圧力容器の製造方法のうち、特にFW工程において好適に利用され得るライナ支持装置の構成の概略を説明するための図である。図1に示すライナ支持装置100は、ここでは図示しない口金部可動機構を備えることを除き、図7に示すライナ支持装置と同様の構成を有している。」
キ 【図1】
[図:0001409202000003.jpg]
ク 図1から、直胴部38は筒状であり、ドーム部40及び41は前記直胴部38の両端にあって、直胴部38から離れるにつれて窄む形状であることが看取できる。
ケ 圧力容器30が段落【0002】に記載された「CFRP」製である場合、補強繊維は炭素繊維であると認められる。
コ 段落【0016】の記載から、甲第2号証の発明の実施の形態に係る圧力容器は、口金間の距離を調整しながら巻き付ける装置を使って製造されたことを除けば、一般的なFRP製圧力容器の構成と同様の構成を備えると認められる。
(2)甲2発明
上記(1)の記載事項、看取事項及び認定事項から、甲第2号証には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲2発明]
「円筒状の直胴部38と、前記直胴部38の両端に設けられ、頂部に口金部36及び37を有して前記直胴部38から離れるにつれて窄む形状のドーム部40及び41とを備え、
前記直胴部38並びに前記ドーム部40及び41が、熱可塑性樹脂のライナ32と、前記ライナ32の外周部分を被覆する繊維強化樹脂層34とで形成され、
前記繊維強化樹脂層34は、硬化性樹脂の樹脂液を含浸させた、長く連続した糸状の炭素繊維を複数束ねた繊維束の複合材を、口金部36及び37間の距離を調整しながら巻き付けたものを硬化したもので形成されたCFRPからなる、圧力容器30。」
3 甲第3号証に記載された事項
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
(1)「Flaw and damage assessment in torsionally loaded CFRP cylinders using experimental and numerical methods」(表題)
(異議申立人訳 :捻れ荷重CFRPシリンダーにおける欠陥と損傷の実験的および数的評価)
(2)「2.2. Manufacturing
The cylinders were fabricated using 150g/m2 UTS50 F24 24K 1600tex D fibres from Toho Tenax and 90g/m2 resin Huntsman XB 3515/Aradur 5021 BD, 37.5 wt%. The ply thickness is 0.16 mm, the fibre volume content is 52.1% and the density of the prepreg is 1490 kg/m3. The cylinders had a length of 500 mm,an inner diameter of 55 mm, and a total wall thickness of 3.6 mm. Two types of cylinders with the same lay-up but different finishing were studied, see Fig. 2. Two samples were manufactured with a smooth finish (specimens B0 and B1) while other samples (B2-B6) were tightly wrapped with peel ply tape before cure,resulting in a rough surface finish when the peel ply was removed.Steel inserts with square ends to fit the test machine were bonded into the cylinder ends using 3M Scotch-Weld 9323 B/A.」(110頁右欄)
(異議申立人訳 :2.2 製造
シリンダーは、150g/m2の東邦テナックス製UTS50 F24 24K 1600tex D繊維と90g/m2のハンツマン製XB 3515/Aradur 5021 BD,37.5重量%を使って製作された。層の厚さは0.16mmであり、繊維体積含有率は52.1%であり、プリプレグの密度は1490kg/m3であった。シリンダー寸法は、長さ500mm、内径55mmで総壁厚3.6mmであった。図2に示すように、2種類の異なる表面処理をした同タイプのシリンダーについて試験を行った。2つのサンプル(試料B0とB1)は平滑な表面処理で製造し、他のサンプル(B2-B6)は硬化前に剥離層テープできつく包装してから剥離層を除去することで粗く表面処理した。四角い端部のある鋼製インサートを嵌合した試験機を、3M Scotch-Weld 9323 B/Aを用いてシリンダー端部に結合させた。)
(3)「
[図:0001409202000004.jpg]
Fig. 23. X-ray CT scan of specimen B3 after failure (left) and detail view of the delamination (right).
」(120頁 Fig.23)
4 甲第4号証に記載された事項
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
(1)「Defect and Porosity Determination of Fibre Reinforced Polymers by X-ray Computed Tomography」(表題)
(当審訳:X線コンピュータ断層撮影による繊維強化ポリマーの欠陥および多孔率測定)
(2)「This paper deals with the application of X-ray computed tomography for the characterization of carbon fibre-reinforced composites,in particular for the quantitative determination of porosity with a reasonable degree of accuracy.」(要約中の12~15行)
(当審訳:この論文では、炭素繊維強化複合材料の特性評価、特に妥当な精度で気孔率を定量的に測定するためのX線コンピュータ断層撮影の応用を扱っています。)
(3)「2.1. Samples
The samples were prepared by 20 layers of PREPREG C 970/PWC T300 3K UT (TY),which consists of carbon fibers and 40 % epoxy resin. The prepreg ply thickness was 0.21mm and the curing temperature 177°C. In this way plates with about 170 x 200 mm and thicknesses between 4 and 5 mm were fabricated. The exact thickness strongly depends on
the amount of porosity within the samples. By varying the vacuum pressure during the heating stage, porosity levels in the range between 0 and around 10 % were obtained. All in all, 8 different plates were manufactured. Out of these plates 9 different samples with a size of 17 x 20 x 4.5 mm3 were investigated.」(3頁14~22行)
(異議申立人訳 :2.1. サンプル
炭素繊維と40%エポキシ樹脂からなる20層のプリプレグC 970/PWC T300 3K UT (TY)を用いてサンプルを調製した。プリプレグ層の厚さは0.21mmで硬化温度は177℃であった。この方法により約170×200mmの寸法と4~5mmの厚みを有するプレートを作製した。厚み精度はサンプル内多孔性に強く依存する。加熱段階で真空圧を変更することにより、0~10%の多孔性レベルが得られた。全体で8種類のプレートが製造され、サイズ17×20×4.5mm3のサンプル9枚を試験に用いた。)
(4)「
[図:0001409202000005.jpg]
[図:0001409202000006.jpg]
Fig 2. CT-cross-sectional images of typical carbon reinforced composite samples (a:~0 vol-%, b:~0,15%, c:~0.35 %, d:~0.9 %, e:~4.50 %, f:~10 %). The CT-measurements were performed with 60 kV, 160μA and voxel size (10 μm)3.」(5頁下)
(当審訳:図2.典型的な炭素強化複合材サンプルのCT断面画像(a:~0 vol-%、b:~0,15%、c:~0.35 %、d:~0.9 %、e:~4.50 %、f:~10 %)。CT測定は、60 kV、160 μA、ボクセルサイズ(10 μm)3で行いました。)
5 甲第5号証に記載された事項
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
(1)「70MPa圧縮水素自動車燃料装置用容器の技術基準」(表題)
(2)「3 用語の定義
この基準において使用する用語は、規則において使川する用語の例によるほか、次のa)からg)までに定めるところによる。
a) 組試験 容器検査において行う試験のうち、一定数量によって構成される組又は個々の容器ごとに行うもの
b) 設計確認試験 容器検査において行う試験のうち、組試験に先立ち同一の型式ごとに1回限り行うもの
c) 応力比 繊維が破断する応力を最高充てん圧力における繊維の応力で除した値
d) 最小破裂圧力 2種類以上の繊維を使用し設計上荷重を分担しない種類の繊維がある場合にあっては1) 及び2) とし、それ以外にあっては1)及び3)を満足する圧力
1) 最高充てん圧力の2.25倍以上の圧力」(402頁21~31行)
6 甲第6号証に記載された事項
甲第6号証の13頁の「【車載容器(高圧容器、液体水素容器)】」の表の、分類:「車載水素貯蔵」の、要素:「高圧容器」の「金属ライナー容器(Type3)」の欄の、「課題」「2020」の図用内には、以下の事項が記載されている。
「・最適設計によるライナー、FRPの薄肉化
・量産化による低コスト化
1 質量貯蔵密度(システム):7wt%
2 水素量/容積/容器重量:7kg/165L/100kg」
7 甲第7号証に記載された事項
甲第7号証には、以下の事項が記載されている。
(1)「Gas cylinders-Refillable composite reinforced tubes of water capacity between 450 L and 3000 L - Design, construction and testing」(題名)
(異議申立人訳 :ガスシリンダー-水容量450L~3000Lの再充填可能な複合強化チューブ-設計、構造と試験)
(2)「8.5.4.2.2 Type 3 and Type 4 tubes
The burst pressure,Pb,for tubes with carbon fibre reinforcement shall be equal to or greater than the minimum design burst pressure and shall be not less than the test pressure, Ph×2, of the composite tube design.」(17頁11~14行)
(異議申立人訳 :8.5.4.2.2 タイプ3とタイプ4チューブ
炭素繊維強化されたチューブの破裂圧力Pbは、最小設計破裂圧力以上とすべきであり、かつ複合チューブ設計の試験圧力Ph×2以上とすべきである。)
8 甲第8号証に記載された事項
甲第8号証には、以下の事項が記載されている。
(1)「5.3.1 甲第4号証の空隙の評価方法
画像解析ソフト(ImageJ)を用いて、図表1(甲第4号証のFig2)のCFRP断面画像の切り取りを行った(図表3)。画像の尺度設定には、図表1の画像に記載されているスケールを使用した。画像解析ソフト(ImageJ)を用いて、画像を二値化し、それぞれの空隙を楕円近似し、長軸の長さ寸法を測定した(図表4)。
空隙の数NBを求めるにあたっては、測定した長軸の長さが0.5mm以上の空隙の個数を求め、評価した画像の面積で割ることでNB【個/cm2】を求めた。
空隙の合計長さLBを求めるにあたっては、長軸の長さが0.5mm以上の空隙の長軸長さを足し合わせて、評価した画像の面積で割ることでLB【mm/cm2】を求めた。」(5頁3~末行)
(2)「5.3.2 甲第3号証の空隙の評価方法
画像解析ソフト(ImageJ)を用いて、図表2(甲第3号証のFig23)のCFRP断面画像を切り取った。図表2は、実験により生じた損傷および層間剥離部位をX線CTで撮影したものであり、断面全部の評価は空隙の評価に不適であり、正常部である上側半分のみの空隙の評価対象とした(図表5)。空隙の評価は、評価場所による空隙の変動を確認するため、評価対象全体と評価対象から3か所(a)~(c)を切り取った合計4か所の画像について空隙の評価を行った(図表6)。画像の尺度設定には、図表.2のCFRP厚みが甲第3号証に記載されているCFRP厚み3.6mmとなるよう設定した。画像解析ソフト(ImageJ)を用いて画像の二値化を行い、空隙を楕円近似し、長軸の長さ寸法を測定した。
空隙の数NBを求めるにあたっては、長軸の長さが0.5mm以上の空隙の個数を求め、評価した画像の面積で割ることでNB【個/cm2】を求めた。
空隙の合計長さLBを求めるにあたっては、長軸の長さが0.5mm以上の空隙の長軸長さを足し合わせて、評価した画像の面積で割ることでLB【mm/cm2】を求めた。」
(3)「5.4.1 甲第4号証の空隙評価
甲第4号証の画像に対する評価結果を図表7に示す。
甲第4号証のc)の画像には、特許第7318578号『圧力容器』で記載されている空隙は存在しない結果となった。また、d)の画像では、特許第7318578号『圧力容器』で記載されている長軸長さ0.5mm以上とある空隙は1個存在し、空隙の数NBは5.39個/cm2となり請求項1に記載の0.25~3.70個/cm2の範囲外であった。空隙長さLBは4.0mm/cm2となり、請求項2に記載の1.0~9.0mm/cm2に含まれる結果となった。よって、甲第4号証の断面画像は、5.2.1.1(甲第4号証の材料仕様)に記載したとおり成形条件(この場合は加熱段階の真空圧)を任意に変えることで得られた成形品であり、成形条件を変更することで、本発明の、請求項1のNBおよび請求項2のLBの範囲内となる成形品は製作可能である。(6頁5~末行)
(4)「図表7.甲第4号証の測定結果
[図:0001409202000007.jpg]
」
(5)「図表8.甲第3号証の空隙評価結果
[図:0001409202000008.jpg]
」
第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)甲1発明を主引例とする場合の判断について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ライナ20及び補強層30における中央の筒状の部分」は、本件発明1の「筒状の直胴部」に相当し、以下同様に、
「前記筒状の部分の開口側の端部及びエンド側の端部」は「直胴部の両端」に、
「前記筒状の部分から離れるにつれて外形がすぼむ」ことは「直胴部から離れるにつれて窄む」ことに、
「ライナ20及び補強層30における外面が球面状の部分」は「ドーム部」に、
「樹脂製のライナ20」は「樹脂製又は金属製の容器本体」に、
「ライナ20の外周を覆う補強層30」は「容器本体を補強する外殻」に、
「炭素繊維の束」は「炭素繊維束」に、
「熱硬化樹脂」は「硬化性樹脂」に、
「高圧タンク10」は「圧力容器」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「長尺のCFRP」は、本件発明1の「長尺の炭素繊維複合材」に相当するから、
甲1発明の「長尺のCFRPの硬化物で形成されたもの」である「補強層30」は、本件発明1の「長尺の炭素繊維複合材の硬化物で形成された複合体部」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点1で一致し、相違点1で相違する。
[一致点1]
「筒状の直胴部と、前記直胴部の両端に設けられ、前記直胴部から離れるにつれて窄む形状のドーム部とを備え、
前記直胴部及び前記ドーム部が、樹脂製又は金属製の容器本体と、前記容器本体を補強する外殻とで形成され、
前記外殻は、長尺の炭素繊維束及び硬化性樹脂を含む長尺の炭素繊維複合材の硬化物で形成された複合体部からなる、圧力容器。」
[相違点1]
本件発明1は、「前記直胴部において撮影されたX線CT画像の前記複合体部の断面における以下の特定方法Iによる空隙の数NBが0.25~3.70個/cm2である」、「(特定方法I)軸方向の中心の軸方向に対して垂直な面の断面積20cm2あたりの空隙を数え、単位面積(1cm2)あたりの個数をNBとする。」との構成を有するのに対して、甲1発明は、このような構成を有しない点。
イ 判断
上記相違点1について判断する。
(ア)甲第3号証及び甲第4号証に記載された事項について
甲第3号証及び甲第4号証には、相違点1に係る「前記直胴部において撮影されたX線CT画像の前記複合体部の断面における以下の特定方法Iによる空隙の数NBが0.25~3.70個/cm2である」ことの明示的な記載はない。
甲第8号証には、甲第3号証のFig.23及び甲第4号証のFig.2を、画像解析ソフトを用いて、画像を二値化し、空隙を楕円近似し、長軸の長さが0.5mm以上の空隙の個数を求めたところ、甲第3号証のFig.23の空隙の個数は、正常部である上側半分のみを評価対象とすると、評価対象全体で4.02個/cm2、評価対象から切り取った3か所ではそれぞれ2.72個/cm2、0.00個/cm2、4.89個/cm2であり、甲第4号証のFig.2の空隙の個数は、c)の画像で0個/cm2、d)の画像で5.39個/cm2であると記載されている。したがって、甲第8号証を踏まえても、甲第4号証には相違点1に係る数値範囲の構成は記載されていない。
そしてまた、甲第3号証のFig.23や甲第4号証のFig.2は、「軸方向の中心」の断面のものか不明であるし、甲第4号証のFig.2は「軸方向に対して垂直な面」の断面のものか不明である。さらに、甲第3号証及び甲第4号証の空隙の個数は、断面積20cm2あたりの空隙を数えて得た数値というわけでもない。したがって、甲第8号証の評価方法は、単位面積あたりの個数を求めているものの、相違点1の(特定方法I)において特定されている、直胴部における「軸方向の中心の」軸方向に対して垂直な面の「断面積20cm2あたりの空隙を数え、」単位面積(1cm2)あたりの個数としたものとはいえないから、甲第8号証を踏まえても、甲第3号証及び甲第4号証に相違点1に係る構成が記載されているとはいえない。
(イ)進歩性について
上記(ア)で検討したとおり、甲第3号証及び甲第4号証に、相違点1に係る本件発明1の構成が記載されているとはいえないから、甲1発明に甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項を単純に適用しても、本件発明1の構成とはならない。
また、甲1発明は、「ライナと口金との剥離を抑制し、シール性を高めること」(甲第1号証の段落【0007】参照。)を解決すべき課題としており、補強層30の強度や軸方向の中心における空隙の数を調節することについて着目した発明ではない。そのため、甲1発明の補強層30において熱硬化樹脂の空隙の数を調節しようとする動機付けがあったとはいえない。したがって、甲第3号証に、断面の単位面積あたりの空隙の個数が2.72(個/cm2)の部分を有するCFRPが示され、甲第4号証に、断面の単位面積あたりの空隙の個数が0と5.39(個/cm2)のCFRPが示されていたとしても、甲1発明の補強層30において熱硬化樹脂の空隙の数を、相違点1における特定方法Iによる空隙の数NBが0.25~3.70個/cm2となるように調整することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
さらに、甲1発明は圧力容器であるのに対して、甲第3号証に記載された事項は、圧力容器が通常受けることのない荷重である「捻れ荷重」を受けるCFRPシリンダーに関するものであり、甲第4号証に記載された事項は、CFRPの気孔率を定量的に決定するための「X線コンピュータ断層撮影」に関するものであるから、甲1発明の技術分野と、甲第3号証及び甲第4号証の技術分野は、それぞれ異なるものであって、この技術分野の違いの点からも、甲1発明のCFRPを、甲第3号証に記載されたCFRPや、甲第4号証に記載されたCFRPとするとともに、相違点1における特定方法Iによる空隙の数NBが0.25~3.70個/cm2となるように空隙の数を調整することが当業者にとって容易であったとはいえない。
そして、本件発明1は、「軽量で、かつ破裂圧力が高い圧力容器を提供する」(段落【0007】参照)ために「圧力容器において、ボイド等の空隙を抑制又は除去することよりも、炭素繊維の蛇行や屈曲を抑制し、炭素繊維の発現強度を最大化させることを重視」(段落【0008】)して、「複合体部においてある程度の空隙を許容するように製造した圧力容器においては、複合体部における炭素繊維の緩みが小さく、炭素繊維の蛇行や屈曲が抑制される。」(段落【0047】)から、「炭素繊維の性能が充分に発揮されるため、破裂圧力が高くなる」(段落【0047】)という効果は、上記相違点1に係る本件発明1の構成による効果と認められる。
したがって、本件発明1は、甲第8号証の記載を踏まえても、甲1発明並びに甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)甲2発明を主引例とする場合の判断について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「円筒状の直胴部38」は、本件発明1の「筒状の直胴部」に相当し、以下同様に、
「直胴部38から離れるにつれて窄む形状のドーム部40及び41」は「前記直胴部から離れるにつれて窄む形状のドーム部」に、
「熱可塑性樹脂」であることは、「樹脂製又は金属製」であることに、
「ライナ32」は「容器本体」に、
「前記ライナ32の外周部分を被覆する」ことは「容器本体を補強する」ことに、
「繊維強化樹脂層34」は「外殻」に、
「圧力容器30」は「圧力容器」に、それぞれ相当する。
また、甲2発明の「長く連続した糸状の炭素繊維を複数束ねた繊維束」は本件発明1の「長尺の炭素繊維束」に相当し、甲2発明の「硬化性樹脂の樹脂液を含浸させ」る構成は、本件発明1の「硬化性樹脂を含む」構成に相当するから、甲2発明の「長く連続した糸状の炭素繊維を複数束ねた繊維束に硬化性樹脂の樹脂液を含浸させた複合材」は、本件発明1の「長尺の炭素繊維束及び硬化性樹脂を含む長尺の炭素繊維複合材」に相当すると言え、甲2発明の「長く連続した糸状の炭素繊維を複数束ねた繊維束に硬化性樹脂の樹脂液を含浸させた複合材」を「硬化したもの」である「繊維強化樹脂層34」は、本件発明1の「長尺の炭素繊維束及び硬化性樹脂を含む長尺の炭素繊維複合材の硬化物で形成された複合体部」に相当する。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、次の一致点2で一致し、相違点2で相違する。
[一致点2]
「筒状の直胴部と、前記直胴部の両端に設けられ、前記直胴部から離れるにつれて窄む形状のドーム部とを備え、
前記直胴部及び前記ドーム部が、樹脂製又は金属製の容器本体と、前記容器本体を補強する外殻とで形成され、
前記外殻は、長尺の炭素繊維束及び硬化性樹脂を含む長尺の炭素繊維複合材の硬化物で形成された複合体部からなる、圧力容器。」
[相違点2]
本件発明1は、「前記直胴部において撮影されたX線CT画像の前記複合体部の断面における以下の特定方法Iによる空隙の数NBが0.25~3.70個/cm2である」、「(特定方法I)軸方向の中心の軸方向に対して垂直な面の断面積20cm2あたりの空隙を数え、単位面積(1cm2)あたりの個数をNBとする。」との構成を有するのに対して、甲2発明は、このような構成を有しない点。
イ 判断
上記相違点2について判断する。
(ア)甲第3号証及び甲第4号証に記載された事項について
相違点2に係る本件発明1の構成は、上記(1)アの相違点1に係る本件発明1の構成と同様であるから、甲第3号証及び甲第4号証については、上記(1)イ(ア)で検討したとおりである。
(イ)進歩性について
上記(1)イ(ア)で検討したとおり、甲第3号証及び甲第4号証に、相違点2に係る本件発明1の構成が記載されているとはいえないから、甲2発明に甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項を単純に適用しても、本件発明1の構成とはならない。
また、甲2発明は、「所望の耐圧性能を有する圧力容器を精度よく作成すること」(甲第2号証の段落【0011】参照。)を解決すべき課題とし、「樹脂液を含浸させた繊維束を、該口金間の距離を調整しながら巻き付け」(段落【0012】)た発明であって、ライナ32の軸方向の中心における空隙の数を調節することについて着目した発明ではない。そのため、甲2発明のライナ32において硬化性樹脂の空隙の数を調節しようとする動機付けがあったとはいえない。したがって、甲第3号証に、断面の単位面積あたりの空隙の個数が2.72(個/cm2)の部分を有するCFRPが示され、甲第4号証に、断面の単位面積あたりの空隙の個数が0と5.39(個/cm2)のCFRPが示されていたとしても、甲2発明のライナ32において硬化性樹脂の空隙の数を、相違点2における特定方法Iによる空隙の数NBが0.25~3.70個/cm2となるように調整することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
さらに、甲2発明は圧力容器であるのに対して、甲第3号証に記載された事項は、圧力容器が通常受けることのない荷重である「捻れ荷重」を受けるCFRPシリンダーに関するものであり、甲第4号証に記載された事項は、CFRPの気孔率を定量的に決定するための「X線コンピュータ断層撮影」に関するものであるから、甲2発明の技術分野と、甲第3号証及び甲第4号証の技術分野は、それぞれ異なるものであって、この技術分野の違いの点からも、甲2発明のCFRPを、甲第3号証に記載されたCFRPや、甲第4号証に記載されたCFRPとするとともに、相違点2における特定方法Iによる空隙の数NBが0.25~3.70個/cm2となるように空隙の数を調整することが当業者にとって容易であったとはいえない。
そして、本件発明1は、「軽量で、かつ破裂圧力が高い圧力容器を提供する」(段落【0007】参照)ために「圧力容器において、ボイド等の空隙を抑制又は除去することよりも、炭素繊維の蛇行や屈曲を抑制し、炭素繊維の発現強度を最大化させることを重視」(段落【0008】)して、「複合体部においてある程度の空隙を許容するように製造した圧力容器においては、複合体部における炭素繊維の緩みが小さく、炭素繊維の蛇行や屈曲が抑制される。」(段落【0047】)から、「炭素繊維の性能が充分に発揮されるため、破裂圧力が高くなる」(段落【0047】)という効果は、上記相違点2に係る本件発明1の構成による効果と認められる。
したがって、本件発明1は、甲第8号証の記載を踏まえても、甲2発明並びに甲第3号証又は甲第4号証に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)異議申立人の主張
異議申立人は、特許異議申立書において、概ね、以下のa及びbのとおり主張している。
a 甲1発明及び甲2発明は、空隙の数NBを上記相違点1又は2に係る本件発明1の数値範囲に調整しさえすれば、本件発明1の構成要件の全てを充足すること。
b 甲第3号証及び甲第4号証の容器は、いずれも炭素繊維強化樹脂で形成された複合材料からなるものである点で、甲1発明や甲2発明と共通するから、甲1発明又は甲2発明において真空圧を変更するなどして、空隙の数NBを甲第3号証及び甲第4号証の容器と同程度の範囲内に調整し、上記相違点1又は2に係る本件発明1の数値範囲を充足させることは、当業者であれば容易に想到し得る事項であること。
また、申立人は、甲第8号証において、「成形条件(この場合は加熱段階の真空圧)~を変更することで、本発明の、請求項1のNB~の範囲内となる成形品は製作可能である。」(6頁下から3~1行)と主張している。
しかしながら、上記(1)イ及び上記(2)イで検討したとおりであるから、異議申立人の主張は、いずれも採用できない。
2 本件発明2~5について
本件特許発明2~5は、上記1で検討した本件発明1に係る請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであって、本件発明1の構成をさらに限定するものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~5は、当業者であっても、甲1発明又は甲2発明並びに甲第3号証~甲第8号証に記載された事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。
3 まとめ
以上のとおり、本件特許発明1~5は、甲1発明又は甲2発明並びに甲第3~8号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
したがって、請求項1~5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700068